(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】車両用クッションパッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47C 27/15 20060101AFI20240216BHJP
A47C 7/18 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A47C27/15 A
A47C7/18
(21)【出願番号】P 2023001942
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2019054100の分割
【原出願日】2019-03-22
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】松本 真人
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-175597(JP,A)
【文献】特開2018-175107(JP,A)
【文献】特開2018-175504(JP,A)
【文献】特表2000-517209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/18,27/14-27/15
B29C 44/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面を露出させ
た発泡体上に座部層を
有するクッション体が発泡成形されている車両用クッションパッドにおいて、
前記
発泡体は
、その裏面周縁に沿って立壁部が起立するように設けられ、
前記立壁部
は、圧縮変形に対し復元力を有している
とともに、前記発泡体の裏面に設けられる表皮の係止用溝の溝脇に設けられ、且つ該係止用溝よりも該発泡体の裏面周縁側に配されており、
前記発泡体の裏面のうち、前記立壁部が設けられた位置と前記係止用溝が設けられた位置との間には、段差が設けられていない、車両用クッションパッド。
【請求項2】
表面側にクッション体が発泡形成されて車両用クッションパッドを形成する発泡体であって、
裏面周縁に沿って立壁部が起立するように設けられ、
前記立壁部は、圧縮変形に対し復元力を有しているとともに、前記発泡体の裏面に設けられる表皮の係止用溝の溝脇に設けられ、且つ該係止用溝よりも該発泡体の裏面周縁側に配されており、
前記発泡体の裏面のうち、前記立壁部が設けられた位置と前記係止用溝が設けられた位置との間には、段差が設けられていない、発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席シートを構成する車両用クッションパッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用座席シートで、座部を形成するクッションパッドは軟質ポリウレタン発泡成形体で造られてきたが、軽量化対策で、下層側をビーズ発泡体の別部材に置き換える動きが進んでいる。斯かるクッションパッドは、車両設置の状態と上下を逆にした発泡成形型を用いて、その上型に予め成形されたビーズ発泡体(本発明の「第一発泡体」)をセットした後、軟質ポリウレタン発泡成形体(本発明の「第二発泡体」)を発泡成形している。 ここで、上型への第一発泡体のセットをおろそかにすると、第二発泡体の発泡成形過程で、上型と第一発泡体との隙間に発泡原料が侵入する。侵入した発泡原料は成形後、
図12のごとく膜状硬化物kとなって第一発泡体裏面2bに付着し、脱型後に取り除くのに苦労している。さらに、第一発泡体裏面2bには表皮の係止具用溝22が設けられている。 該溝22に発泡原料が入り込むと、クッションパッドに被せる表皮の係止具が止められない。発泡原料の硬化物kを取除くのが大変な作業になる。 こうしたことから、第二発泡体の発泡成形過程で、前記隙間への発泡原料の侵入を防ぐ発明がいくつか提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、請求項2に記載のごとく「…前記当接予定領域と前記陥凹部としての溝部との間に凸部が形成されているシートコア材(本発明でいう「第一発泡体」)」にして、請求項7に記載のごとく「上型に…突条部が設けられ、…前記シートコア材を該上型にセットした際に前記突条部は、該シートコア材に形成した当接予定領域に当接する」ようになっている。 しかるに、ビーズ発泡体の第一発泡体は、その発泡成形で予測がつかない成形収縮や捻りが発生し、また個々の寸法がばらつくことから、場合によっては突条部と前記凸部とが干渉し、上型への第一発泡体のセットが困難になる。 また、特許文献1の
図1には、第一発泡体の裏面外周縁から裏面中央へ向けて、当接予定領域24、凸部26、陥凹部30、ウレタン侵入不可領域32が順に配されている。前述した表皮の係止具用溝が
図1に図示されていないが、ウレタン侵入不可領域32に設けられる。該係止具用溝は、表皮を不必要に大きくさせないだけでなく、クッションパッドに表皮を被せるのに時間がかからぬよう、第一発泡体の裏面外周縁から近い所に設けねばならない。いきおい、当接予定領域24、凸部26、陥凹部30との距離が縮まり、前記突条部と前記凸部とが干渉し易くなる。上型へセット適合できる第一発泡体の部品の数は減ってしまい、歩留まりが低下する。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、第二発泡体の発泡成形で、成形収縮等で寸法がばらつく第一発泡体にあって、上型へセットできる許容範囲を広げて、該第一発泡体と上型の隙間への発泡原料の侵入を防止する車両用クッションパッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、第1の発明の要旨は、裏面を露出させて下層になる第一発泡体上に、着座乗員が当接する側の当たり面部分の在る座部層を積層した第二発泡体が発泡成形されている車両用クッションパッドにおいて、前記第一発泡体は、前記第二発泡体よりも単位重量小で発泡成形されていると共に、その裏面に堤状の立壁部が隆起形成され、且つ該第一発泡体の裏面周縁に沿って該立壁部が起立するように設けられ、前記立壁部が圧縮変形に対し復元力を有していることを特徴とする車両用クッションパッドにある。第2の発明たる車両用クッションパッドは、第1の発明で、立壁部が、側面視で、その突端から基端へ向かう溝を形成して二つに枝分かれした一対の板片状部になっていることを特徴とする。第3の発明たる車両用クッションパッドは、第2の発明で、溝の溝底が、立壁部に係る基端周りの前記第一発泡体の裏面を越えて、該第一発泡体の主部にまで入り込んでいることを特徴とする。第4の発明たる車両用クッションパッドは、第1~3の発明で、立壁部は、前記第一発泡体の裏面に設けられる表皮の係止用溝の溝長を越える長さにしてその溝脇に設けられ、且つ該係止用溝よりも該第一発泡体の裏面周縁側に配されていることを特徴とする。 第5の発明の要旨は、裏面を露出させて下層になる第一発泡体上に、着座乗員が当接する側の当たり面部分を有した座部層が積層された第二発泡体を発泡成形する車両用クッションパッドの製造方法において、前記第一発泡体は、前記第二発泡体よりも単位重量小で発泡成形されていると共に、その裏面の周縁に沿って圧縮変形に対し復元力を有する堤状の立壁部を隆起形成する一方、該立壁部に対応する上型キャビティ面の部位に凹穴を形成して、該第一発泡体の裏面側を上向きにし、前記凹穴へ前記立壁部を挿入して上型に該第一発泡体をセットした後、下型キャビティ面上に第二発泡体用発泡原料を注入すると共に型閉じし、その後、第二発泡体を発泡成形したことを特徴とする車両用クッションパッドの製造方法にある。第6の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、第5の発明で、立壁部が、側面視で、その突端から基端へ向かう溝を形成して二つに枝分かれした一対の板片状部になっていることを特徴とする。第7の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、第6の発明で、溝の溝底を立壁部に係る基端周りの前記第一発泡体の裏面を越えて、該第一発泡体の主部にまで入り込ませていることを特徴とする。第8の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、第5~7の発明で、凹穴の長手方向に走る穴底側内壁間の穴幅よりも穴口側内壁間の穴幅の方を大きくし、且つ該穴口側内壁間の穴幅をこれに対応する前記立壁部に係る基端側部分の壁幅よりも大きくして、前記凹穴への前記立壁部の挿入で、該立壁部の基端側部分を遊嵌状態とすることを特徴とする。第9の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、第8の発明で、凹穴は、その穴底から穴口側へ向かう途中に段差面を設けて、該段差面を介して、該凹穴の長手方向に走る穴底側内壁から穴口側内壁へと穴幅を階段状に広げていることを特徴とする。第10の発明たる車両用クッションパッドの製造方法は、第5~9の発明で、第一発泡体の裏面に設けられる前記立壁部は、表皮の係止用溝の溝長を越える長さにしてその溝脇に設けられ、且つ該係止用溝よりも該第一発泡体の裏面周縁側に該立壁部を配したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両用クッションパッド及びその製造方法は、成形収縮等で寸法がばらつく第一発泡体であっても、ばらつく許容範囲を広げて、これをインサート品にして第二発泡体の発泡成形を良好に実施でき、歩留まり向上,生産性向上等に優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の車両用クッションパッド及びその製造方法の一形態で、クッションパッドを裏面側から見た斜視図である。
【
図5】
図1のクッションパッドを表面側から見た斜視図である。
【
図6】
図2,
図3の立壁部を有する第一発泡体が上型にセットされる説明断面図である。
【
図7】上型にセットを終えた第一発泡体で、
図6の左側に配された立壁部周りの拡大図である。
【
図8】上型にセットを終えた第一発泡体で、
図6の右側に配された立壁部周りの拡大図である。
【
図9】上型への第一発泡体のセット後、発泡原料を注入する断面図である。
【
図11】第二発泡成形を発泡成形した説明断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両用クッションパッド(以下、単に「クッションパッド」ともいう。)及びその製造方法について詳述する。
図1~
図11は本発明のクッションパッド及びその製造方法の一形態で、
図1はクッションパッドの裏面側斜視図、
図2は
図1のII-II線断面図、
図3,
図4は
図2に代わる他態様図、
図5はクッションパッドの表面側斜視図、
図6は
図2,
図3の立壁部を有する第一発泡体が上型にセットされる断面図、
図7は上型にセットした第一発泡体で、
図6の左側に配された立壁部周りの拡大図、
図8は
図6の右側に配された立壁部周りの拡大図、
図9は発泡原料を注入する断面図、
図10は型閉じの断面図、
図11は第二発泡成形を発泡成形した断面図である。各図は図面を判り易くするため発明要部を強調図示し、また本発明と直接関係しない部分を簡略化又は省略する。
【0010】
(1)車両用クッションパッド 車両用クッションパッド1は、着座した乗員の下半身を受け支えるクッションパッドである。車両後部座席のクッションパッドに適用する(
図1,
図5)。クッションパッド1に表皮を被せてシートクッションの形にすれば、公知のバックパッドに表皮を被せたシートバックとで、車幅方向に補助席部3Cが在る後部座席になる。
図5は車両設置の姿態にしたクッションパッド1で、紙面左右方向が車幅方向、紙面上方が車両上方を示し、本発明でいう「車幅方向」,「上方」も同様とする。 クッションパッド1は、第一発泡体2と第二発泡体3とを具備する。
【0011】
第一発泡体2は、クッションパッド1の下層を占める嵩上げ用発泡成形体である(
図1,
図2)。第二発泡体3よりも単位重量小で見掛け密度が小さいが、硬度は大とする。所定範囲内であれば、外力を受けたことによる圧縮変形に対して復元力を有して発泡成形されており、例えば、いわゆるビーズ発泡法によって得られた発泡成形体で構成される。原料ビーズを予備発泡成形させた後、型内発泡成形によって成形されているブロック状ビーズ発泡体である。ビーズ発泡体は、発泡スチロール、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン、又はこれらのうち一つを少なくとも含む成形体であるのが好ましい。気泡が内部に密閉されたビーズ発泡体は、体積の大部分が気体で軽量にして第二発泡体3よりも硬く、クッションパッド1用嵩上げ部材としての硬度と保形性がある。
【0012】
第一発泡体2には、その裏面2bに堤状の立壁部24が隆起形成される。該立壁部24は第一発泡体2の裏面周縁21に沿って起立するように、第一発泡体2の主部23から盛り上がって形成される。後述する第二発泡体3の発泡成形で(
図10)、上型9とこれにセットした第一発泡体2との隙間から発泡原料gが侵入し易い箇所、例えば第一発泡体裏面2bで
図12の左下の箇所から侵入し発泡原料gの硬化物kができ易くなっている場合は、
図1のような立壁部24を有する第一発泡体2とする。立壁部24は、図示ごとくの長手方向が等断面形状の矩形にして、第一発泡体2の裏面2bに隆起形成される。立壁部24は、ビーズ発泡成形体のもつ圧縮変形に対し復元力を有する。特に、立壁部24を壁状,板状に形成することによって、圧縮変形に対する復元力の機能を高めるようになる。
図12においては表皮の係止用溝22にも発泡原料gの硬化物kが及んでいる。よって、
図1は、防堤状に小高くした立壁部24が、係止用溝22よりも第一発泡体2の裏面周縁21側に配して、且つ第一発泡体2の裏面2bに設けられる表皮の該係止用溝22の溝長を越える長さにしてその溝脇に設けている。係止用溝22に沿った立壁部24であり、その両端は、発泡原料gの侵入を防ごうとする係止用溝22の溝端を越える地点まで延在する。
【0013】
図1の立壁部24は、
図2に示す横断面形状を矩形又は台形としたが、例えば
図3,
図4のような立壁部24にすることもできる。
図3の立壁部24は、側面視で、
図2の矩形の横断面形状にV字状の溝25を切欠く。 立壁部24が、突端242の頂面から基端243へ向かうV字状溝25を形成して、基端側部分244
で第一発泡体主部23につながるものの、突端側242が二つに枝分かれした一対の板片状部24A,24Bになっている。V字状溝25は、
図3の紙面垂直方向に走り、立壁部24が在る部分全てをV字状に切欠く。第一発泡体主部23から基端側部分244を経由して一対の板片状部24A,24Bが起立,延在する。
図3の立壁部24はV字状溝25があることによって、外力を加えれば、
図1の立壁部24に比べて壁幅が約半分になった板厚の板片状部24は、より撓み易くなる。
【0014】
さらに、
図3のV字状溝25では、その溝底251が、立壁部24に係る基端243周りの第一発泡体2の裏面2bを越えて、該第一発泡体2の主部域231にまで入り込む。 溝底251が第一発泡体2の主部域231にまでV字状カットされることによって、板片状部24の立壁面241に外力を加えた時に、一層撓み易くなる。溝底251が
図3の紙面垂直方向に走っており、両側に板片状部24A,24Bが在る箇所は、少なくとも溝底251が、その周りの第一発泡体裏面2bのレベルを越えて第一発泡体主部23にまで入り込んでいる。各板片状部24A,24Bが、受ける外力に呼応してより弾性変形し易くなる。また立壁部24は基端部分244の厚みの方が厚くなっており、板片状部24A,24Bが撓んで折れて破断するのを防止できる効果がある。
【0015】
図4は立壁部24の立壁面241が図示のごとく上方に向けて角度αで傾く。立壁部24は、側面視で突端242が上底になる台形の横断面形状にして、U字状の溝25を切欠いている。立壁部24の両立壁面241が突端側で互いに近づくよう傾斜しているので、V字状ではなくU字状の溝25としても、結果的に立壁部24の基端部分244の方の厚みが増す。板片状部24A,24Bが撓んで折れて破断するのを防止できる効果がある。 U字状溝25を形成して、立壁部24が二分割され、二つに枝分かれした一対の板片状部24A,24Bになる。立壁部24に設ける溝25は、V字状、U字状の他、コ字状であってもよいし、これらに限定されない。溝の他の構成は
図4と同様で、説明を省く。 符号2A,2B,2Cはメイン部下層,サイド部下層,補助席下層を示す。符号28は第一発泡体裏面2bで、裏面ベース部27の一部を盛り上げた隆起部、符号281は隆起壁を示す。
【0016】
第二発泡体3は、着座乗員が当接する側の当たり面部分311の在る座部層31を有して、軟質ポリウレタン発泡成形体で形成したクッション体である。裏面2bを露出させて嵩上げ用下層になる前記第一発泡体2上に、座部層31を積層させて第二発泡体3が発泡成形されている。着座乗員はクッションパッド1に被せる図示しない表皮を介して当たり面部分311に当接する。
【0017】
図5で、第二発泡体3は座部層31が芯パッド天面2aを覆い、側周層32が第一発泡体2の側面2dを覆う。第二発泡体3に係る座部層31の上面は着座乗員が当接する当たり面部分311側の意匠面3aとなり、側周層32の外面が第二発泡体3の側面側意匠面3dになる。第二発泡体3が、クッションパッド裏面1bにもなる第一発泡体2の裏面2bを除いて、第一発泡体2に覆い被さって一体化し、クッションパッド1に仕上がっている。 図示を省略するが、第一発泡体2に天面2aから裏面2bへ貫通する、特開2017-206077に開示のガス抜き用透孔を設け、さらに裏面側に該透孔の孔径よりも大きな窪みを設けている。後述する第二発泡体3の発泡成形で、該透孔や窪みを第二発泡体3が埋めることによって、第二発泡体3は第一発泡体2との一体強化が図られる。符号3Aは乗員座席のメイン部、符号3Bはサイド部、符号3Dは斜面、符号3Eはバックレストとの合わせ部、符号39は吊溝を示す。
【0018】
(2)車両用クッションパッドの製造方法 前記クッションパッド1は、例えば
図6ごとくの第一発泡体2を採用して、次のように造られる(
図6~
図11)。発泡成形型7を用い、乗員が当接する側の当たり面部分311を軟質ポリウレタン発泡成形体で形成した第二発泡体3を発泡成形し、その発泡成形で、インサート品の第一発泡体2と一体化する車両用クッションパッド1を製造する。
【0019】
クッションパッド1の製造に先立ち、第一発泡体2,発泡成形型7を準備する。第一発泡体2は、(1)クッションパッドで述べたものと同じで、詳細説明を省く。ここでは、裏面2bの一側に横断面矩形の立壁部24が設けられ、他側に一対の板片状部24A,24Bからなる立壁部24が設けられた
図6に示す第一発泡体2を用いる。両立壁部24が、表皮の係止用溝22の溝長を越える長さにしてその溝脇に設けられ、且つ該係止用溝22よりも裏面周縁21側に配されている。 発泡成形型7は
図9ごとくの分割型で、下型8と上型9が開閉可能に接続されている。 型閉じすると、全体が椀状に凹んで当たり面部分311の意匠面を形成する下型キャビティ面81と、第一発泡体2の裏面2bに合わせた全体が略平坦な上型キャビティ面91とで、クッションパッド1用キャビティCができる(
図10)。上型9への第一発泡体2のセットで、立壁部24に対応する上型キャビティ面91の部位には凹穴92が形成される。 立壁部24の長手方向の形状に合わせ、凹穴92も長手方向に等断面形状とし、該凹穴92が立壁部24より若干大きめに造られる。
【0020】
さらに、凹穴92の長手方向に走る穴底側内壁922間の穴幅よりも穴口側内壁924間の穴幅の方を大きくし、且つ穴口側内壁924間の穴幅をこれに対応する立壁部24に係る基端側部分244の壁幅よりも大きくしている(
図8)。そして、凹穴92への立壁部24の挿入で、該立壁部24の基端側部分244を遊嵌状態とする。凹穴92は穴口920に向けてラッパ状に次第に大きくしたものでも良いが、本凹穴92は、その穴底921から穴口920側へ向かう途中に段差面923を設けて、該段差面923を介して、穴底側内壁922から穴口側内壁924へと穴幅が階段状に広がるものとする。 尚、発泡成形型7は
図5のクッションパッド1を上下が逆になった形で成形する。
【0021】
クッションパッドの製法は、まず、前記発泡成形型7と前記第一発泡体2を用い、第一発泡体2の裏面2b側を上にして、二つの立壁部24をそれぞれの凹穴92に嵌め込んで、第一発泡体2を上型9にセットする。 上型キャビティ面91で立壁部24の対応位置に凹穴92が設けられている。第一発泡体2の成形収縮等による寸法誤差(立壁部24の位置ズレ)が小さければ、
図2に示す横断面矩形の立壁部24にして、凹穴92もこれが収まる長手方向が等断面のコ字状溝で十分対応できる。また成形収縮によって立壁部24の全体が小さくなり、コ字状溝の凹穴92との間に隙ができたとしても、特に問題にならない。第二発泡体3の発泡成形時の発泡原料gが横断面コ字状に曲がる狭い隙を通過するには抵抗大で且つ通過に時間がかかる。通過する過程で発泡原料gが硬化し、食い止めることができる。
【0022】
本実施形態は、既述のごとく穴口側内壁924間の穴幅を立壁部24に係る基端側部分244の壁幅よりも大きくしている。 凹穴92の横断面視の
図7で説明すると、穴底921と両穴底側内壁922とで冂形にすると共に、両穴底側内壁922の下端から双方が水平外方に広がって段差面923を形成する。さらに、両段差面923の外端から鉛直方向に穴口側内壁924が延在して、穴口側内壁924間の穴幅を大きくする。両穴口側内壁924間の穴空間を、これに対応する立壁部24に係る基端側部分244の壁幅より大きくして、該穴空間を備える凹穴92へ立壁部24を挿入,セットする。
【0023】
具体的には、以下のごとくである。
図6の左側の凹穴92への立壁部24の挿入,セットを説明すると、第一発泡体2の寸法誤差が小さく、立壁部24が略正規位置に配されておれば、凹穴92へ該立壁部24を難なく挿入して
図7(イ)のセットになる。 一方、成形収縮等によって、例えば立壁部24が左方へ大きくずれた
図7(ロ)のような第一発泡体2でも、本発明によれば該第一発泡体2を上型9にセットできる。
【0024】
図7(ロ)で、凹穴92への立壁部24の挿入における右側の板片状部24Bは、ズレSDに起因して、右側の穴底側内壁922との間に隙間εをつくって、凹穴92に収まる。 また、左側の板片状部24Aは、起立状態から撓んで右方へ角度θで傾倒し、この場合も突端242側がうまく凹穴92の穴底921側の穴空間に収まる。溝25があることで、左側板片状部24Aがより撓み易くなって傾倒する。寸法誤差によるズレSDの大きさに応じて、溝25の溝空間が追従縮小し、板片状部24の圧縮変形を容易にしている。左側板片状部24AのズレSDが大きい場合でも、作業者が少し力を加えれば、該左側板片状部24Aの傾倒が大きくなって、突端242側が穴底側内壁922間に入り込む。 ただ、左側板片状部24Aの基端243側については、根元が第一発泡体主部23につながっており、穴底側内壁922間の穴幅だけで形成された通常の凹穴92ならば、該凹穴92に入り込まない。しかるに、本凹穴92は、長手方向に走る穴底側内壁922間の穴幅よりも穴口側内壁924間の穴幅の方を大きくしている。板片状部24の基端側部分244を遊嵌状態にさせる穴底側内壁922を形成しているので、按配よく立壁部24の全体が凹穴92に収まる。
【0025】
成形収縮で寸法バラツキがある第一発泡体2の立壁部24を撓ませ、位置をずらして凹穴92に挿入するといっても、立壁部24は突端242側に比べて基端243側を凹穴92へ嵌め入れるのは難しい。立壁部24を曲げても、第一発泡体2の主部23に直結している基端243側の根元は、殆ど変位せず困難になる。そこで、穴口側内壁924間の穴幅を大きくとり、基端側部分244を遊嵌状態にさせることで、成形収縮等によって、従来は寸法が許容範囲外になってしまう第一発泡体2も救済し、上型9へのセットを可能にしている。
【0026】
さらに、本実施形態の凹穴92は、その穴底921から穴口920側へ向かう途中に段差面923を設け、該段差面923を介して、該凹穴92の長手方向に走る穴底側内壁922から穴口側内壁924へと穴幅を階段状に広げている。
図7(ロ)の左側板片状部24Aは、凹穴92への挿入で圧縮変形して傾倒し、その突端242側が凹穴92の穴底921側の穴空間に収まり、また段差面923と穴底側内壁922との角部CTに、圧縮変形に伴う反力で立壁面241が圧接しシールする。このシールが、第二発泡体3の発泡成形過程で発泡原料gの侵入をうまく阻止する(詳細後述)。
【0027】
凹穴92に対し、寸法誤差で左方へずれている
図7(ロ)の一対の板片状部24A,24Bが、
図2の横断面矩形の立壁部24に置き換わった場合でも、
図8(イ),(ロ)のごとく立壁部24を凹穴92にセットできる。溝25の溝空間がない分だけ、立壁部24の撓み,傾倒が制限されるので、凹穴92に挿入,セットできる立壁部24の許容範囲が狭められるものの、従来は成形収縮等で寸法規格外になっていた第一発泡体2でも適用可能として、採用できるものが増える。 尚、成形収縮等によって、立壁部24が左方へずれた場合について説明したが、右方へずれた場合も配置が逆になるだけであり、その説明を省く。 かくして、凹穴92へ立壁部24を確実に挿入して、上型9に第一発泡体2がセットされる。
【0028】
その後、下型キャビティ面81上に、注入ノズルNL等を使用して第二発泡体3用発泡原料gを注入する(
図9)。 続いて、上型9を作動させ型閉じする(
図10)。上型9と下型8との型閉じで、第一発泡体2がインサートセットされたクッションパッド1用キャビティCができる。本実施形態は発泡原料gの注入後に型閉じしたが、型閉じ後に発泡原料gを注入することもできる。
【0029】
型閉じ後、第二発泡体3の発泡成形に移る。意匠面側に当たり面部分311を有し、且つその反対側の内面3bを第一発泡体2の天面2aに当接させて座部層31を形成した第二発泡体3を発泡成形する。
図10の型閉じ状態を所定時間維持し、軟質ポリウレタン発泡成形体の第
二発泡体3を発泡成形する。下型キャビティ面81で当たり面部分311を形成すると共に、該当たり面部分311とは反対側の内面3bを第一発泡体2の天面2aに当接させた第二発泡体3を発泡成形する(
図11)。 第二発泡体3の発泡成形を完了させ脱型すれば、第一発泡体2の組み込みによる軽量化を実現した所望のクッションパッド1が得られる。 符号88は吊溝用突部、符号89,99は下型8側,上型9側の型合せ面を示す。
【0030】
(3)効果 このように構成した車両用クッションパッド及びその製造方法によれば、第一発泡体2の成形収縮等によって立壁部24に位置ズレSDが生じていても、第二発泡体3の発泡成形で、上型9に第一発泡体2をセットできる。第1の発明,第5の発明のごとく、第一発泡体裏面2bに堤状の立壁部24が隆起形成され、該立壁部24が圧縮変形に対し復元力を有していると、第一発泡体2に多少の寸法ばらつきがあっても柔軟に向きあえるので、該立壁部24に対応する上型キャビティ面91の部位に凹穴92を形成することによって、立壁部24を凹穴92に挿入して上型9に第一発泡体をセットできる。 そして、凹穴92よりも外側の上型キャビティ面91と第一発泡体裏面2bとの間に隙間が発生し、発泡成形過程で、裏面周縁21から該隙間を通って第一発泡体裏面2bの中央へ発泡原料gが侵入しようとしても、凹穴92とこれにセットした立壁部24によって侵入阻止できる。凹穴92の横断面コ字状に曲がった内壁と立壁部24の立壁面241とが当接又は近接しており、たとえ両者間に隙間ができても、凹穴92と立壁部24間の曲がりくねった狭い通路を発泡原料gが進入する間に硬化する。第二発泡体3の発泡成形時に、上型9と第二発泡体3の隙間へ侵入する発泡原料gを効果的に抑える。第二発泡体3の発泡成形で、立壁部24を越えて、第一発泡体裏面2bへの発泡原料gの侵入はなくなる。
【0031】
第2の発明,第6の発明のごとく、立壁部24がずれてそのままでは上型9の凹穴92に収まらない場合でも、立壁部24が、側面視で、その突端242から基端243へ向かう溝25を形成して一対の板片状部24A,24Bになっていると、溝25の溝空間を縮小させて立壁部24が撓んで、凹穴92に該立壁部24を収めることができる。 第3の発明,第7の発明のごとく、溝25の溝底251が、立壁部24に係る基端243周りの第一発泡体2の裏面2bを越えて、該第一発泡体2の主部域231にまで入り込んでいると、立壁部24がより傾倒し易くなる。第一発泡体2の寸法誤差が大きくなって立壁部24にズレSDが発生していても、上型9にセット可能なものが増え、歩留まり向上につながる。
【0032】
第8の発明のごとく、凹穴92の長手方向に走る穴底側内壁922間の穴幅よりも穴口側内壁924間の穴幅の方を大きくし、凹穴92への立壁部24の挿入で、立壁部24の基端側部分244を遊嵌状態とすると、立壁部24のずれ幅がさらに大きくなっても、凹穴92に立壁部24を円滑挿入できる。立壁部24の根元の基端243側は、突端242側と違って、撓んでも移動させてかわすことができないので、寸法のずれ幅が大きくなると、従来の穴口920から穴底921まで同径の凹穴92では収めるのが難しい。しかるに、穴口920側を立壁部24の基端側部分244が遊嵌される大きさにしているので、立壁部24のズレSDがたとえ大きくなっても、該立壁部24を凹穴92へ楽に収めることができる。そして、圧縮変形させて挿入された立壁部24は、穴底921に向かう箇所に当たり、圧縮変形に伴う弾性復元力によって、第二発泡体3の成形時における発泡原料gの侵入を阻止できる。
【0033】
第9の発明のごとく、凹穴92が、段差面923を介して、凹穴92の穴底側内壁922から穴口側内壁924へと穴幅を階段状に広げていると、凹穴92への立壁部24の挿入で、立壁部24による発泡原料gの侵入を効果的に食い止めることができる。
図7(ロ)のごとく立壁部24が撓み,傾倒による圧縮変形に伴う反力が、段差面923から屈折して穴底側内壁922へ向かう角部CTに、立壁面241が集中して圧接しシールする。第二発泡体3の発泡成形で、上型9にセットした第一発泡体2の裏面周縁21から裏面2bの中央へ向かう発泡原料gの侵入が起こったとしても、該シールによって角部CTの箇所で確実に食い止めることができる。脱型後に、従来のような硬化物kの除去作業がなくなり、作業性向上,品質向上につながる。
【0034】
第4の発明,第10の発明のごとく、立壁部24が、表皮の係止用溝22の溝長を越える長さにしてその溝脇に設けられ、且つ該係止用溝22よりも裏面周縁21側に配されていると、係止用溝22をその手前に在る立壁部24がガードする。第二発泡体3の成形時における発泡原料gが係止用溝22へ侵入するのを効果的に止めることができる。第一発泡体2に立壁部24を設けるだけで構成要素が少なく、特許文献1のような複雑構成によって、突条部と凸部とが干渉するような事態に陥らない。クッションパッド1の生産性向上に貢献する。 かくのごとく、本車両用クッションパッド及びその製造方法は、上型9にセットできる第一発泡体2に係る寸法の許容誤差範囲が大で、成形収縮等が起こり易い第一発泡体2の歩留りを向上させ、さらに第二発泡体3の発泡成形で、第一発泡体裏面2b側への発泡原料gの侵入を確実に阻止するなど極めて有益である。
【0035】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。クッションパッド1,第一発泡体2,立壁部24,第二発泡体3,発泡成形型7,凹穴92等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0036】
1 クッションパッド 2 第一発泡体 2b 裏面 21 裏面周縁 22 表皮の係止用溝 24 立壁部 25 V字状溝(U字状溝) 3 第二発泡体 31 座部層 311 当たり面部分 81 下型キャビティ面 91 上型キャビティ面 92 凹穴 922 穴底側内壁 923 段差面 924 穴口側内壁 g 発泡原料