(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】発酵菊芋及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/10 20160101AFI20240216BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240216BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20240216BHJP
【FI】
A23L19/10
A23L19/00 A
A23L33/00
(21)【出願番号】P 2023139399
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2021110660の分割
【原出願日】2021-07-02
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596113432
【氏名又は名称】江藤 陽子
(73)【特許権者】
【識別番号】500310133
【氏名又は名称】江藤 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】江藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】江藤 大介
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-007666(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103039915(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103039929(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0011420(KR,A)
【文献】合同会社テンコーファーム [オンライン], 2021.05.11 [検索日 2023.06.26], インターネット:<URL:https://tenkofarm.com/黒のキクイモの紹介です/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/10
A23L 19/00
A23L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
菊芋を1週間以上発酵させ、菊芋内部を含む菊芋全体が黒色からなる発酵菊芋とする工程と、
前記発酵菊芋を170~210℃の温度で、かつ少なくとも2回以上焙煎処理する工程と、
前記焙煎処理した発酵菊芋を粉末パウダー状にする工程と、
からなることを特徴とする菊芋加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記焙煎処理は、1回につき、1分間~11分間焙煎することを特徴とする請求項1に記載の菊芋加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記発酵菊芋を焙煎処理する工程において、4回以上11回以下焙煎することを特徴とする請求項1または2に記載の菊芋加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菊芋を発酵させて機能性成分を増加させた発酵菊芋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
菊芋(学名:Helianthus tuberosus)は、キク科ヒマワリ属の多年草で、主に肥大した根の部分が食される。北アメリカが原産とされ、日本には江戸時代末期に家畜の飼料用として導入された作物である。菊芋塊茎は、難消化性多糖類イヌリンを豊富に含んでおり、糖尿病等の病気の治療への応用が期待されている成分でもあることから近年脚光を浴びている。
【0003】
菊芋塊茎に含まれるイヌリン以外の機能性成分としては、カフェオイルキナ酸類、クマリン、レクチン及びセスキテルペン類などがあることが報告されている。また、ポリフェノールについての報告もあり、菊芋を所定の焙煎回数かつ所定の温度で焙煎することにより総ポリフェノール含有量が増加することについて報告がある(非特許文献1)。
【0004】
非特許文献1の菊芋加工方法は、菊芋を190℃で30分間焙煎することにより、総ポリフェノール含量を最大限に増加させたと報告している。また、総ポリフェノール含量が増加する170℃(30分焙煎)を超えるとカフェ酸誘導体類は減少し、新たな成分が増加したこと及びイヌリンの含量については170℃(30分間焙煎)までは有意な変化は認められず、190℃以降は、温度が高く時間が長くなるにつれ減少したことについて報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】石黒浩二、横田聡「焙煎によるキクイモ中のポリフェノールおよびイヌリンへの影響」日本食品科学工学会誌、第65巻、第1号、2018年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1のポリフェノール総量は、最大値であっても然程高くなく、また、長時間の焙煎により強い苦みを呈し、そのまま食したり食品に添加して摂取したりするには適さないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、機能性成分であるポリフェノール含有量を最大限に高め、かつそのまま食しても苦みを呈しない菊芋加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の発酵菊芋は、
菊芋を加工した菊芋加工食品であって、
前記菊芋を1週間以上発酵させ、菊芋内部を含めた菊芋全体を黒色としたことを特徴としている。
この特徴によれば、1週間以上発酵させ、菊芋表面だけでなく菊芋内部まで黒色となるよう菊芋全体を十分に発酵させることにより、菊芋が甘みのあるまろやかな味を呈するとともに、機能性成分が多く含まれる菊芋加工食品とすることができる。また、発酵させた菊芋粉末を代用コーヒーとして用いる際に、黒色の粉末であることから、見た目もコーヒーに近いものとすることができる。
【0009】
前記発酵菊芋を焙煎処理したことを特徴としている。
この特徴によれば、菊芋加工食品の粘土が低下して取り扱いが容易となり、菊芋加工食品としての用途が増える。
【0010】
前記焙煎処理を2回以上繰り返すことを特徴としている。
この特徴によれば、機能性成分であるポリフェノール含有量を増加させた菊芋加工食品とすることができる。
【0011】
前記焙煎処理は、170~210℃の温度で、かつ1分間~11分間焙煎することを特徴としている。
この特徴によれば、機能性成分を増加させるとともに、焦げによる苦みや風味を呈することなく甘みを有する菊芋加工食品とすることができるため、そのまま食したり食品に添加したりして利用することができる。
【0012】
本発明の発酵菊芋の製造方法は、
菊芋を加工した菊芋加工食品の製造方法であって、
前記菊芋を1週間以上発酵させ、菊芋内部を含めた菊芋全体を黒色とする工程を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、1週間以上発酵させ、菊芋表面だけでなく菊芋内部まで黒色となるよう菊芋全体を十分に発酵させることにより、菊芋が甘みのあるまろやかな味を呈するとともに、機能性成分が多く含まれるようになる。また、発酵させた菊芋粉末を代用コーヒーとして用いる際に、黒色の粉末であることから、見た目もコーヒーに近いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】発酵菊芋の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】菊芋及び黒菊芋の焙煎前後の状態を示す写真である。
【
図3】菊芋の発酵及び焙煎処理によるポリフェノール含有量の違いを示すグラフである。
【
図4】黒菊芋の焙煎回数(1回~8回)とポリフェノール含有量との関係を示すグラフである。
【
図5】黒菊芋の焙煎回数(0回~12回)とポリフェノール含有量との関係を示すグラフである。
【
図6】黒菊芋の発酵期間とポリフェノール含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る発酵菊芋の製造方法について
図1のフローチャートを参照して説明する。ST1は、収穫・選別工程である。菊芋を収穫し、菊芋塊茎(以下、単に「菊芋」という。)とそれ以外を分離し、傷みの生じている菊芋を除外する。
【0015】
ST2は、洗浄・水切り工程である。菊芋を高圧洗浄機に投入し、水切りする。土が落ちやすいよう菊芋に付着した土が乾燥する前に高圧洗浄機にて洗浄し、菊芋が傷まないよう適度な圧力となるよう調整する。
【0016】
ST3は、風乾工程である。菊芋を台車などに均一に広げ、直射日光を避けて3日~4日間乾燥させる。風乾により甘みが増し、長期保存が可能となる。なお、以後の工程を効率よく行うため、菊芋を同厚にスライスしてもよい。
【0017】
ST4は、発酵工程である。台車に載せた菊芋を発酵室に移動して発酵させる。発酵室は、温度が55~80℃、湿度が65~90%の状態に保たれており、該発酵室にて1週間以上発酵させる。1週間未満の発酵では菊芋の表面が黒くなっているものの、菊芋内部は発酵されておらず、甘みも感じることができない。また、1週間以上発酵すると、菊芋の中心部分を含めた菊芋全体が熟され黒くなり(以下、全体が黒くなった菊芋を「黒菊芋」という。)、そのまま食したときに栗もしくは焼き芋のようなまろやかな甘みと僅かな酸味が得られるようになる。2週間程発酵させると、プルーンのような強い甘みと酸味が感じられるようになる。発酵期間が長いほど甘みや酸味が強くなるが、3月以上発酵させると腐敗するため注意が必要である。発酵温度は、好ましくは60~75℃、より好ましくは60~70℃とすることで効率よく発酵できる。
【0018】
菊芋自体は甘みがないため味を付与するか、もしくはサプリメントのようにカプセル化したり錠剤化したりする処理が必要であるが、本発明による黒菊芋は、甘みのあるまろやかな味を呈し、そのままでも美味しく食することができる。このように、本発明は、菊芋を未加工状態で十分発酵させ、甘みを感じるようにしたことが特徴であり、発酵処理のために特に発酵促進物などを用いる必要は無い。
【0019】
ST5は、温風乾燥工程である。黒菊芋に60~80℃の温風を24時間当てて全体を乾燥させる。
【0020】
ST6は、焙煎工程である。温度を170~210℃とし、3分間~10分間オーブンにて焙煎する処理を2回以上繰り返す。温度を170~210℃とすることで焙煎後の菊芋を粉砕して代用コーヒーとして利用する際に、よりコーヒーに近い風味とすることが可能となり、より好ましくは180~200℃とする。
【0021】
また、黒菊芋を焙煎処理することにより粘土が低下し、後述する粗挽加工(ST7)や粉末加工(ST8)工程において取り扱いが容易となる。焙煎時間は1分間~11分間とし、11分を超えて焙煎すると焦げ臭い風味と強い苦みが生じ、そのまま食すると甘みは全く感じることができない。また、詳細は後述するが、焙煎工程を2回以上繰り返すことでポリフェノール含有量を増加させることができる。また、2回以上焙煎することで次の粗挽加工(ST7)の作業が容易になり、その次の粉末加工(ST8)においても、さらさらとした粉末状の黒菊芋とすることができる。
【0022】
なお、焙煎時間を3分~11分の間で2分おきに味を確認したところ、7分でやや苦みを呈し、9分以上となるとはっきりとした苦みを呈するようになり、11分では強い苦みと焦げ臭さが生じるため、そのまま食するには抵抗があることが分かった。また、2分程度でも焙煎は可能であるが、焙煎後一旦冷やし、次いで焙煎を行うように繰り返し焙煎作業を行う場合は焙煎作業をできるだけ少なくする必要があり、効率よく焙煎する観点から1回の焙煎で3分以上焙煎することが好ましく、作業効率を考慮した上で甘みを呈する菊芋加工食品とするには、焙煎時間を5分間~7分間とする。例えば、1回の焙煎時間を5分間とすることにより、12回焙煎を繰り返したとしても焦げによる苦みや風味を呈することなく甘みを有する黒菊芋とすることができる。
【0023】
ST7は、粗挽加工工程である。焙煎後の黒菊芋をクラッシャーに投入し粗挽きする。
【0024】
ST8は、粉末加工工程である。粗挽きした黒菊芋を更に粉砕し、粉末パウダーとする。本工程後のサンプルは、後述する実験例1で示す
図2の焙煎黒菊芋粉末(写真の右から2番目)であるが、焙煎処理を行う前は、同図の黒菊芋粉末(写真の一番右)にように塊が生じ、取り扱い難くなる。
【0025】
このように、ST1~ST8のフローにて黒菊芋の加工食品を製造することで、発明者らは、菊芋そのものを加工食品として利用するだけでなく、菊芋を発酵させて新たな食品である黒菊芋とし、見た目だけでなく全く異なる酸味のあるフルーツのような強い甘みを呈する食品とする方法を見いだした。また、この方法によれば、発酵させた菊芋粉末を代用コーヒーとして用いる際に、黒色の粉末であることから、見た目もコーヒーに近いものとすることができる。
【実施例】
【0026】
次に、黒菊芋を、酸味と強い甘みを呈する食品としての利用だけでなく、ポリフェノール含有量を増加させる加工食品として利用する方法について追求し、各種実験を行った結果について
図2から
図6を参照して説明する。
【0027】
(実験例1)
まず、
図2に示すように、左から菊芋の乾燥粉末(以下、「菊芋粉末」という。)、焙煎処理した菊芋の乾燥粉末(以下、「焙煎菊芋粉末」という。)、黒菊芋を焙煎処理した乾燥粉末(以下、「焙煎黒菊芋粉末」という。)、黒菊芋の乾燥粉末(以下、「黒菊芋粉末」という。)をそれぞれ100g準備した。焙煎菊芋粉末と焙煎黒菊芋粉末の焙煎方法は、いずれも焙煎工程(ST6)で、温度190℃で5分間焙煎し、その後5分間自然冷却したものを1回とし、これを6回繰り返したものであり、焙煎処理は2021年2月15日に行った。また、焙煎黒菊芋粉末と黒菊芋粉末の発酵期間は2週間とし、これら各種サンプルのポリフェノール含有量について分析した結果を
図3に示す。分析は、一般社団法人日本食品分析センターに委託した。また、非特許文献の焙煎菊芋粉末(最大値)を同図右側に示している。
【0028】
この結果により、黒菊芋粉末は、菊芋粉末よりもポリフェノール含有量が3倍以上増加しており、発酵させて黒菊芋とすることで甘みを呈する加工食品となるだけでなく、機能性成分を有効に増加させることができることが明らかになった。また、焙煎黒菊芋粉末は黒菊芋粉末よりもポリフェノール含有量が2.5倍以上増加しており、焙煎処理を行うことにより、更に機能性成分を有効に増加させることができる。また、焙煎黒菊芋粉末と非特許文献における菊芋焙煎粉末のポリフェノール含有量の最大値とを比較しても、菊芋を発酵させて黒菊芋とし、これを焙煎処理することで、ポリフェノール含有量が約2倍多く含まれる食品とすることができることが明らかになった。
【0029】
(実験例2)
次に、発酵期間を3週間とした黒菊芋を使用し、焙煎処理を1回~8回行ったときのポリフェノール含有量の変化について確認し、その分析結果を
図4に示す。グラフより、焙煎回数1回~3回は、回数を増やすにつれてポリフェノール含有量が増加したが、4回で減少し、焙煎回数4回~8回は、回数を増やすにつれてポリフェノール含有量が増加した。この結果について考察すると、何れのサンプルも発酵期間3週間の黒菊芋に温風乾燥処理(ST5)をしたものであるが、焙煎回数1回~3回のサンプルは2021年3月29日に焙煎処理を行い、焙煎回数4回~8回のサンプルは2021年4月19日に焙煎処理を行ったため、加工日の違いや加工までの黒菊芋の保管状態などによるデータの相違の可能性があることから、より正確なデータを得るため、次の更なる実験(実験例3)を行った。なお、本実験例2における焙煎方法は、いずれも焙煎工程(ST6)において、温度190℃で5分間焙煎し自然冷却する作業を所定回数繰り返したものをサンプルとしており、発酵期間を除くその他の条件は、実験例1のサンプルと同じである。
【0030】
(実験例3)
次に、4週間発酵させて温風乾燥処理(ST5)した後の黒菊芋を使用し、2021年5月20日の同日に、焙煎処理を0回~12回行って粗挽及び処理しサンプルを作製した。そのときのポリフェノール含有量の分析結果を
図5に示す。なお、発酵期間を除くその他の条件は、実験例1や2のサンプルと同じである。
【0031】
図5より、焙煎回数を増やすにつれてポリフェノール含有量が増加し、焙煎回数は8回目でピークとなり、それ以降は減少していくことが証明された。最大値となった焙煎回数8回目においては、ポリフェノール含有量が59.9mg/gとなり、甘みを呈する焙煎後の黒菊芋粉末でありながら、従来の菊芋粉末や焙煎菊芋粉末と比較してもポリフェノール含有量を著しく増加させることが可能であることが明らかとなった。
【0032】
なお、実験例1~実験例3においては、加工日がそれぞれ異なるものの、発酵期間を2週間、3週間、4週間とした黒菊芋を6回焙煎した場合のポリフェノール含有量の比較としても参考になるため、そのグラフを
図6に示す。
【0033】
以上、本発明の実施例について、実験例1~実験例3により説明してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0034】
例えば、前記実施例では、黒菊芋を焙煎したものを粗挽加工や粉末加工を行った例を示したが、これに限られず、例えば、黒菊芋を温風乾燥のみさせたものや、温風乾燥した黒菊芋を焙煎せずに粉末化させた加工品としてもよい。また、前記実施例では、粉末化したサンプルの例について説明したが、形状はペースト状やジェル状でもよいし、これらをカプセル化したものでもよい。また、これらの食品に他の機能性のある物質を付与した加工食品としてもよい。