(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】橋梁の更新方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20240216BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D22/00 B
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2023175945
(22)【出願日】2023-10-11
【審査請求日】2023-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112886
【氏名又は名称】フリー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】田井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】富田 満
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-56595(JP,A)
【文献】特開2011-63993(JP,A)
【文献】特開2013-237989(JP,A)
【文献】登録実用新案第3213990(JP,U)
【文献】特開2019-73937(JP,A)
【文献】特開2016-196799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床板下部の地盤に基礎コンクリートを構築する、基礎工程と、
前記基礎コンクリート上に鋼枠体を配置する、配置工程と、
前記鋼枠体の枠間に壁面材を付設して壁部を構築し、前記床板の下部に前記壁部で遮蔽した充填空間を画設する、遮蔽工程と、
前記充填空間内に固化材を充填する、充填工程と、を備え、
前記橋梁の平面視において、前記鋼枠体全体を前記床板の幅方向内側に配置したことを特徴とする、
橋梁の更新方法。
【請求項2】
前記鋼枠体が、
複数の形鋼を枠状に組んでなる、上部鋼枠体と、
複数の形鋼を枠状に組んでなる、下部鋼枠体と、を備え、
前記配置工程において、前記基礎コンクリート上に前記下部鋼枠体を配置し、前記下部鋼枠体上に前記上部鋼枠体を積載することを特徴とする、
請求項1に記載の橋梁の更新方法。
【請求項3】
前記上部鋼枠体が、水平方向の形鋼に垂直方向の形鋼をピン接合してなるヒンジ構造を備えることを特徴とする、
請求項2に記載の橋梁の更新方法。
【請求項4】
前記配置工程において、前記複数の形鋼同士を複数の支保工で連結して補強することを特徴とする、
請求項2又は3に記載の橋梁の更新方法。
【請求項5】
前記基礎工程において、前記基礎コンクリート内にアンカーボルトを埋設し、
前記配置工程において、前記鋼枠体の下部を前記アンカーボルトの上部と連結することを特徴とする、
請求項1に記載の橋梁の更新方法。
【請求項6】
前記遮蔽工程において、前記壁面材の前記充填空間側に、前記固化材と定着するための補強材を付設することを特徴とする、
請求項1に記載の橋梁の更新方法。
【請求項7】
前記固化材が、セメント系の充填材と、発泡材と、を含み、
前記充填工程において、前記基礎コンクリート上に前記充填材を充填し、前記充填材と前記床板の間に前記発泡材を充填することを特徴とする、
請求項1に記載の橋梁の更新方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁の更新方法に関し、特に、既設橋梁の床板下の空間を壁部で閉鎖し内部に固化材を充填することで新たに盛土構造物を構築する橋梁の更新方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本全国に存在する約73万橋の橋梁の内、今から10年後には建設後50年を経過する橋梁の数が総数の約57%に急増するとされている(令和4年8月「日本の橋梁の現状~建設から管理の時代への移行~」国土交通省中部地方整備局)。
橋梁の高齢化が進むことで、繰り返し過重による床板の亀裂や支承の破損、塩害による鋼製部材の腐食、中性化によるコンクリートのひび割れ等の損傷が生じ、橋梁本来の機能が損なわれるおそれがある他、コンクリートの剥落や部材の落下の発生も懸念されている。
老朽化した橋を更新する方法として、特許文献1には、橋梁の下部にポリスチレン系樹脂発泡体ブロックを積層し、橋梁の側面に沿った所定の間隔で複数の鋼材を立設し、鋼材の間に矩形のパネルを設け、ポリスチレン系樹脂発泡体ブロックの上部に発泡ウレタンを充填することで、橋梁と一体化した補強構造体を構築する工法が開示されている。
類似の工法として、橋梁の側面に沿った所定の間隔で複数のH鋼を立設し、H鋼の前面に矩形の壁面パネルを設置し、橋脚と壁面パネルで仕切った空間内にエアモルタルを充填することで、橋梁の下部空間を埋めて盛土構造物を構築する工法が実施されている(
図10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術には、以下のような欠点がある。
<1>H鋼の支柱を地盤へ鉛直方向に貫入するため、床板が支障となり支柱を床板の直下に建て込むことができない。このため、壁面パネルを橋梁から幅方向にセットバックした位置に配列せざるを得ず、用地を広く占用することで、用地の取得コストが嵩む。
<2>壁面パネルのセットバックによって、エアモルタルの充填空間が橋梁の幅方向両側に広がるため、エアモルタルの充填量が過大となり、材料コストが嵩む。
<3>H鋼を貫入するために大型の重機が必要であり、施工コストが嵩むとともに、重機を設置するための用地の確保が必要となる。
<4>H鋼の根入れが十分でない場合、エアモルタルの充填によって壁面パネルの背面に側圧がかかり、壁面パネルが前面側に孕み出すおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決するための橋梁の更新方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の橋梁の更新方法は、橋梁の床板下部の地盤に基礎コンクリートを構築する、基礎工程と、基礎コンクリート上に鋼枠体を配置する、配置工程と、鋼枠体の枠間に壁面材を付設して壁部を構築し、床板の下部に壁部で遮蔽した充填空間を画設する、遮蔽工程と、充填空間内に固化材を充填する、充填工程と、を備え、橋梁の平面視において、鋼枠体全体を床板の幅方向内側に配置したことを特徴とする。
【0007】
本発明の橋梁の更新方法は、鋼枠体が、複数の形鋼を枠状に組んでなる、上部鋼枠体と、複数の形鋼を枠状に組んでなる、下部鋼枠体と、を備え、配置工程において、基礎コンクリート上に下部鋼枠体を配置し、下部鋼枠体上に上部鋼枠体を積載してもよい。
【0008】
本発明の橋梁の更新方法は、上部鋼枠体が、水平方向の形鋼に垂直方向の形鋼をピン接合してなるヒンジ構造を備えていてもよい。
【0009】
本発明の橋梁の更新方法は、配置工程において、複数の形鋼同士を複数の支保工で連結して補強してもよい。
【0010】
本発明の橋梁の更新方法は、基礎工程において、基礎コンクリート内にアンカーボルトを埋設し、配置工程において、鋼枠体の下部をアンカーボルトの上部と連結してもよい。
【0011】
本発明の橋梁の更新方法は、遮蔽工程において、壁面材の充填空間側に、固化材と定着するための補強材を付設してもよい。
【0012】
本発明の橋梁の更新方法は、固化材が、セメント系の充填材と、発泡材と、を含み、充填工程において、基礎コンクリート上に充填材を充填し、充填材と床板の間に発泡材を充填してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の橋梁の更新方法は、以下の効果の内少なくとも1つを備える。
<1>支柱を用いず、壁面材を基礎コンクリート上に配置した鋼枠体で支持する構造であるため、壁面材を床板の直下に配列することができる。このため、セットバック用の用地取得が不要である。
<2>固化材の充填空間を床板下に収められるため、固化材の充填量を適正量に抑えることができる。
<3>支柱貫入用の大型重機が不要であるため、施工コストが比較的安価で、狭隘な山間や住宅部でも容易に施工することができる。
<4>橋梁両側面の壁面材を鋼枠体で連結する構造であるため、固化材の充填による側圧を相殺して孕み出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の橋梁の更新方法について詳細に説明する。
なお、本発明において「橋梁の更新」とは、既設橋梁の床板下の空間を壁部で閉鎖し、内部に固化材を充填することで、新たに盛土構造物を構築する作業を意味する。
【実施例1】
【0016】
[橋梁の更新方法]
<1>全体の構成(
図1)
橋梁の更新方法は、既設の橋梁10を更新して盛土構造物1を構築する方法である。
橋梁の更新方法は、基礎工程S1と、配置工程S2と、遮蔽工程S3と、充填工程S4と、を少なくとも備える。
本例では、橋梁10の床板12下部において、隣り合う2つの橋脚11の間の1スパンを施工する例について説明する。橋梁10の端部では橋台と橋脚11の間を施工する。同様の作業を橋梁10の全長にわたって施工することで、橋梁10全体を盛土構造物1に構築することができる。
なお、橋梁10の下方に通路や水路を残す場合には、通路や水路以外の部分のみを施工することで、盛土構造物1を構築できる。
橋梁の更新方法は、予め枠状に組んだ鋼枠体31を橋梁10の床板12下に配置し(配置工程S2)、鋼枠体31に壁面材32を付設することで橋梁10の下部に充填空間Aを画設する(遮蔽工程S3)構成に1つの特徴を有する。
【0017】
<1.1>橋梁
橋梁10は、既設の土木構造物である。
橋梁10は、橋脚11と、床板12と、を少なくとも備える。
本例では、橋梁10が複数のI桁からなる桁橋構造の道路橋である例について説明する。ただしこれに限らず、橋梁10の用途は、鉄道橋又は人道橋等であってもよい。また橋梁10の構造は、ラーメン橋、トラス橋又はアーチ橋等であってもよく、桁の構造は、T桁又は箱桁等であってもよい。
【0018】
<2>基礎工程(
図2)
基礎工程S1は、床板12下部の地盤に基礎コンクリート21を構築する工程である。
床板12直下の地盤を所定深さに掘削し、砕石の敷設、転圧、捨てコンクリートの打設、型枠の設置、鉄筋の配筋、等の作業を経て、掘削部内に基礎コンクリート21を打設する。
本例では基礎コンクリート21内に複数のアンカーボルト22を埋設し、アンカーボルト22の頭部を基礎コンクリート21から上方に突出させる。
【0019】
<3>壁部(
図3)
壁部30は、橋梁10の幅方向両側を遮蔽して、床板12下に充填空間Aを画設する構造体である。
壁部30は、鋼枠体31と、鋼枠体31の前面又は鋼枠体31の枠内に付設した複数の壁面材32と、を備える。
【0020】
<3.1>鋼枠体(
図3)
鋼枠体31は、壁面材32を支持する枠体である。
本例では鋼枠体31が、上部鋼枠体31a下部鋼枠体31bの組合せからなる。
上部鋼枠体31a及び下部鋼枠体31bは、複数の形鋼Bを水平方向及び垂直方向に組んでなる。すなわち、形鋼Bからなる複数の梁材B1と、形鋼Bからなる複数の桁材B2と、形鋼Bからなる複数の支柱B3を枠状に連結して構成する。
上部鋼枠体31aは、水平方向の形鋼B(梁材B1又は桁材B2)に垂直方向の形鋼B(支柱B3)をピン接合してなる、ヒンジ構造Cを備える。
【0021】
<3.2>壁面材(
図3)
壁面材32は、鋼枠体31の側面を遮蔽する面材である。
本例では壁面材32として、コンクリート製の壁面パネルを採用する。
本例では、壁面材32の背面に、鋼枠体31と連結するためのインサートを埋設する。
また、壁面材32の背面には、固化材40内に定着するための補強材(不図示)を付設することができる。補強材は、例えば異形鉄筋の一端にボルト留めしたプレートであり、異形鉄筋の他端を壁面材32背面のインサートに螺着することで、壁面材32に固定することができる。
【0022】
<4>配置工程
配置工程S2は、基礎コンクリート21上に鋼枠体31を配置する工程である。
鋼枠体31は、橋梁10下部の内側に収容する。すなわち橋梁10の平面視において、鋼枠体31全体を床板12の幅方向内側に配置する。
本例では、配置工程S2を、下部鋼枠体31bの設置と上部鋼枠体31aの積載の2段階で実施する。
【0023】
<4.1>下部鋼枠体の配置(
図4)
基礎コンクリート21上に下部鋼枠体31bを設置する。詳細には、クレーンで下部鋼枠体31bを床板12下に吊り込んで、基礎コンクリート21上に設置する。または、下部鋼枠体31bをレール上で横引きする方法によって配置してもよい。
設置後、下部鋼枠体31b下部の桁材B2を、基礎部20のアンカーボルト22にボルト連結し、梁材B1又は桁材B2と支柱B3を支保工33で連結して補強する。
【0024】
<4.2>上部鋼枠体の配置(
図5)
続いて、下部鋼枠体31b上に上部鋼枠体31aを積載する。詳細には、クレーンで上部鋼枠体31aを床板12下に吊り込んで、下部鋼枠体31b上に設置する。
本例では、上部鋼枠体31a吊り込みの際、支柱B3をヒンジ構造Cによって水平方向に展開した状態で、下部鋼枠体31b上に設置する。これによって、床板12下の狭隘な空間に、上部鋼枠体31aを容易に吊り込むことができる。
設置後、支柱B3を垂直方向に起こし、支柱B3を支保工33で梁材B1又は桁材B2に連結して固定する。併せて、上部鋼枠体31a下部の桁材B2を、下部鋼枠体31b上部の桁材B2にボルト連結する。
【0025】
<5>遮蔽工程(
図6)
遮蔽工程S3は、床板12の幅方向両側を壁部30で遮蔽して、内部に充填空間Aを画設する工程である。
鋼枠体31(上部鋼枠体31a及び下部鋼枠体31b)の隣り合う支柱B3間を遮蔽するように、支柱B3に壁面材32を付設する。詳細には、例えば壁面材32背面のインサートに金具を固定し、壁面材32背面の金具を支柱B3のフランジに係止して固定する。
なお、本例では橋脚11の側方に隙間があるため、鋼枠体31における橋脚11側の側面も一部壁面材32で遮蔽している。
鋼枠体31の全ての枠内を壁面材32で遮蔽することで、床板12の下部に、壁部30による充填空間Aを画設する。ただし、充填空間Aは完全な密封空間に限らず、例えば固化材40の充填のために壁部30の上方に開口を設けてもよい。
【0026】
<6>充填工程(
図7)
充填工程S4は、充填空間A内に固化材40を充填する工程である。
本例では、固化材40として、セメント系の充填材41と発泡材42を組み合わせて使用する。ただしこれに限らず、例えば固化材40を発泡材42のみによって構成してもよい。
本例では充填材41としてエアモルタルを、発泡材42として発泡ウレタンを、それぞれ採用する。この他、EPSブロックなどを併用してもよい。
床板12又は壁部30の上方に設けた開口から充填空間A内に圧送管を挿入し、基礎コンクリート21上に充填材41を充填する。
所定高さまで充填材41を充填後、充填材41の上部と床板12の間に発泡材42を吹付ける。発泡材42は、吹付けと同時に膨張して床板12の下部に密着する。
本例では、エアモルタルと発泡ウレタンが極めて軽量であるため、充填空間A下部の支持力を高めるための地盤改良が必要なく、地盤改良コストを節減することができる。また、エアモルタルと発泡ウレタンが軽量であるため、充填による壁面材32の外側への孕み出しを抑止することができる。
【0027】
<7>盛土構造物(
図8)
充填空間A内の充填材41と発泡材42が固化することで、橋梁10と、鋼枠体31と、壁面材32と、が固化材40により一体化した、盛土構造物1が構築される。
盛土構造物1は、橋梁10の全体の荷重を、橋脚11や橋台ではなく固結材40によって支持する構造である。従って、橋脚11や橋台の健全性を問わず、床版11の自重、通行車両の活荷重、降雪の死荷重、及び地震時の水平荷重を、固結材40のみによって負担することができる。
また、固化材40が、橋脚11の表面や床板12の底面に密着することで、外部からの化学的影響を遮断して、床板12や橋脚11の劣化の進行を抑制することができる。
【実施例2】
【0028】
[片桟道橋形式の実施例]
本発明の橋梁の更新方法は、橋梁10の幅方向片側が、傾斜面Dに塞がれている「片桟道橋」にも適用することができる(
図9)。
本例の場合、遮蔽工程S3において、床板12下部の開放側を壁面材32で遮蔽し、反対側は傾斜面Dで遮蔽することで、充填空間Aを画設する。
その他の工程は実施例1と同様なのでここでは詳述しない。
【符号の説明】
【0029】
1 盛土構造物
10 橋梁
11 橋脚
12 床板
20 基礎部
21 基礎コンクリート
22 アンカーボルト
30 壁部
31 鋼枠体
31a 上部鋼枠体
31b 下部鋼枠体
32 壁面材
33 支保工
40 固化材
41 充填材
42 発泡材
A 充填空間
B 形鋼
B1 梁材
B2 桁材
B3 支柱
C ヒンジ構造
D 傾斜面
S1 基礎工程
S2 配置工程
S3 遮蔽工程
S4 充填工程
【要約】
【課題】既設橋梁の床板下の空間を壁部で閉鎖し内部に固化材を充填することで新たに盛土構造物を構築する橋梁の更新方法を提供すること。
【解決手段】本発明の橋梁の更新方法1は、橋梁10の床板12下部の地盤に基礎コンクリート21を構築する、基礎工程S1と、基礎コンクリート21上に鋼枠体31を配置する、配置工程S2と、鋼枠体31の枠間に壁面材32を付設して壁部30を構築し、床板12の下部に壁部30で遮蔽した充填空間Aを画設する、遮蔽工程S3と、充填空間A内に固化材40を充填する、充填工程S4と、を備え、橋梁10の平面視において、鋼枠体31全体を床板12の幅方向内側に配置したことを特徴とする。
【選択図】
図6