(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】眼鏡レンズのための製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/00 20060101AFI20240216BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20240216BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240216BHJP
G02B 5/23 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G02C7/00
G02C7/06
G02B1/14
G02B5/23
(21)【出願番号】P 2023524738
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 EP2021079534
(87)【国際公開番号】W WO2022084558
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-05-09
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ケストナー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル-レネ クリストマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ロベラ アダン
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/078964(WO,A1)
【文献】特表2003-527231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0316558(US,A1)
【文献】国際公開第2020/018127(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/135390(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/078693(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/00
G02C 7/06
G02B 1/14
G02B 5/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない、又はプレコーティングされた前面と、コーティングされていない、又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基材を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記前面及び前記後面の少なくとも一方の表面を少なくとも1つのコーティング組成物で部分的又は全体的に覆うステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物を乾燥及び/又はプレキュアリングするステップと、
を含み、
さらに、少なくとも、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物の前記表面を少なくとも1つの機械的手段と接触させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物を硬化及び/又は固化させるステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズであって、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状が前記少なくとも1つの機械的手段により改質され、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面形状の前記改質によって少なくとも1つのマイクロレンズが得られる眼鏡レンズを得るステップと、
を含み、
前記提供するステップ、前記覆うステップ、前記乾燥及び/又はプレキュアリングするステップ、前記接触させるステップ、前記硬化及び/又は固化させるステップ、前記得るステップは、この順番で実行され、
前記少なくとも1つのコーティング組成物が、少なくとも1つの下塗りコーティング組成物であること
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの機械的手段が、少なくとも1つのコンタクトヘッド、コンタクトヘッドのアレイ、少なくとも1つのコンタクトヘッドを含む装置、少なくとも1つの針、針のアレイ、及び/又は少なくとも1つの針を含む装置からなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップが、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段で触れることによって、又は前記少なくとも1つの機械的手段を前記少なくとも1つのコーティングの中に浸漬させることによって行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップの後に、前記1つの機械的手段が前記表面から取り除かれるか、前記少なくとも1つのコーティングから引き抜かれることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも、前記少なくとも1つのコーティングの粘性、前記少なくとも1つの機械的手段の寸法、前記少なくとも1つの機械的手段の前記取り除きの速度、前記少なくとも1つの機械的手段の前記取り除きの方向、前記少なくとも1つの機械的手段の前記引き抜きの速度、及び/又は前記少なくとも1つの機械的手段の前記引き抜きの方向が、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面形状に影響を与えることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコーティング組成物の前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップが一時的であることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのコーティング組成物を硬化及び/又は固化させる前記ステップが、直接加熱により行われることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのコーティング組成物を硬化及び/又は固化させる前記ステップが、少なくとも1つの単電磁パルスの印加により行われることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群より選択される少なくとも1つの電磁源から印加されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
硬化及び/又は固化させるために必要な総時間は、
(A)100μs~7分の範囲、
(B)300μs~5分の範囲、
(C)500μs~4分の範囲、及び
(D)1ms~3分の範囲
から選択される少なくとも1つの範囲内にあることを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない、又はプレコーティングされた前面と、コーティングされていない、又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基材を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記前面及び前記後面の少なくとも一方の表面を少なくとも1つのコーティング組成物で部分的又は全体的に覆うステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物を乾燥及び/又はプレキュアリングするステップと、
を含み、
さらに、少なくとも、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物の前記表面を少なくとも1つの機械的手段と接触させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティング組成物を、a)直接加熱によって、又は、b)前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方への(i)少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、又は(ii)複数の単電磁パルスの印加によって硬化及び/又は固化させるステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材と前記少なくとも1つのコーティングとを含むステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズであって、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状が前記少なくとも1つの機械的手段により改質されている眼鏡レンズを得るステップと、
を含み、
前記提供するステップ、前記覆うステップ、前記乾燥及び/又はプレキュアリングするステップ、前記接触させるステップ、前記硬化及び/又は固化させるステップ、前記得るステップは、この順番で実行され、
前記少なくとも1つのコーティング組成物が、少なくとも1つの下塗りコーティング組成物であること
を特徴とする方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面形状の前記改質によって少なくとも1つのマイクロレンズが得られることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのコーティング組成物の前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップが一時的である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップが、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段で触れることによって、又は前記少なくとも1つの機械的手段を前記少なくとも1つのコーティングの中に浸漬させることによって行われることを特徴とする、請求項11~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの機械的手段と接触させる前記ステップの後に、前記少なくとも1つの機械的手段が前記表面から取り除かれるか、又は前記少なくとも1つのコーティングから引き抜かれることを特徴とする、請求項11~14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの機械的手段が、少なくとも1つのコンタクトヘッド、コンタクトヘッドのアレイ、少なくとも1つのコンタクトヘッドを含む装置、少なくとも1つの針、針のアレイ、及び/又は少なくとも1つの針を含む装置からなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項11~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのコーティングを、b)(i)少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、又はb)(ii)複数の単電磁パルスの印加によって硬化させるために必要なプロセス総時間は、100μs~7分の範囲内であることを特徴とする、請求項11~16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの単電磁パルス又は各単電磁パルスの包絡線は50μs~200msの範囲内であることを特徴とする、請求項11~17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの単電磁パルス又は各単電磁パルスが、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群より選択される少なくとも1つの電磁源により送達される光を含むことを特徴とする、請求項11~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの単電磁パルス又は各単電磁パルスの波長は100nm~1800nmの範囲内であることを特徴とする、請求項11~19の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズのための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Brien A.HoldenらのGlobal Vision Impairment Due to Uncorrected Presbyopia,Arch Ophthalmol 2008,126(12):1731-1739によれば、距離に関する屈折異常を矯正しないことが視覚障害の最も一般的な原因とされている。Universal eye health:a global action plan 2014-2019,World Health Organization 2013において、WHOは2010年の視覚障害患者を2億8500万人と推定している。C.S.Y.LamらのDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)spectacle lenses slow myopia progression:a 2-year randomised clinical trial,Br J Ophthalmol 2019:0:1-6は、小児を対象としてDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)眼鏡レンズの試験を行っており、このレンズは例えば米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書、米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書、又は米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書においても開示されており、近視焦点ぼけを生じさせるものである。DIMS眼鏡レンズは、近視の小児において近視の進行及び眼軸長の伸長を遅らせることがわかっている。
【0003】
米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書は、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、眼の網膜以外の位置に結像させる機能を有する第二の屈折領域を含む、眼の屈折異常の進行を抑制するための眼鏡レンズを開示している。第二の屈折領域は、複数の個別の島様形状の領域として形成される。
【0004】
米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書は、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書で開示されているように第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズを開示している。米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書による第二の屈折領域は、相互に別々の複数の領域としてばらばらに配置されており、これらの第二の屈折領域の各々は第一の屈折領域により取り囲まれている。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書は、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第一の眼鏡レンズを開示している。第二の屈折力の各々は、眼鏡レンズの対物側表面から延びる凸形状に形成される。第二の屈折領域の各々は、第一の屈折領域の対物側表面より大きい曲率を有する。第二の屈折領域は、相互に異なる複数の屈折力を有する複数の屈折領域を含む。米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書はさらに、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第二の眼鏡レンズも開示している。第二の眼鏡レンズの第二の屈折領域は、複数の島様形状領域として非同心円状に形成され、第二の屈折領域の屈折力は第一の屈折領域の第一の屈折力より2.00D~5.00Dだけ大きい。米国特許出願第2020/0159044A1号明細書はさらに、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第三の眼鏡レンズを開示している。第三の眼鏡レンズの第二の屈折領域は所定の半径の円に内接する六角形を形成するように配置された複数の島様形状領域として非同心円状に形成される。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書は、焦点ぼけと眼の度数を制御するために、レンズを眼の中央視区域に対応するレンズ領域と、眼の赤道視区域に対応する凸レンズ領域に分割する多要素レンズを開示している。多要素レンズは、大きい焦点ぼけを発生させる大型ユニット凸レンズを含み、大型ユニット凸レンズ上での組合せを通じて小さい焦点ぼけ又は合焦状態を発生させる小型ユニット凹レンズ又は小さい焦点ぼけを発生させる小型単レンズが大型ユニット凸レンズ上の別に提供される。大型ユニット凹レンズと小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズとの間の接合部は漸進的ズーム構造又は段階的ズーム構造である。米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書はまた、大型ユニット凸レンズ上に、サブユニット凹レンズ又は中型単レンズも開示しており、各組合せが大型ユニット凸レンズのレンズとの組合せを通じて中程度の焦点ぼけを発生させる。サブユニット凹レンズ又は中型単レンズは小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズの外側リング上に配置され、リング状である。
【0007】
国際公開第2018/026697A1号パンフレットは、近視治療のための眼科レンズを開示している。レンズは、各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは1mm以下の距離だけ離間されたドットの列を含み、各ドットの最大寸法は0.3mm以下である。ドットは正方形のグリッド、六角形のグリッド、その他のグリッド上に、又はセミランダム若しくはランダムパターンに配置され得る。ドットは規則的間隔で離間されてもよく、又はドット間隔はドットのレンズの中心からの距離に応じて変化し得る。ドットパターンは1mmより大きい最大寸法の、ドットのない透明開口を含むことができ、透明開口は眼鏡の装用者の視軸と整合する。透明開口は実質的に円形又は同様の形状とすることができる。ドットは、対応するレンズの表面上の突出部でも凹部でもよい。突出部は透明材料から形成できる。突出部を製造するために、個別の材料部分を、例えばインクジェットプリンタを使って、レンズ表面上にドットパターンに対応するように堆積させる。個別の部分は、例えば光の照射を使って硬化させると突出部となる。ドットパターンは、ドットパターンを通じて見た物体の像コントラストを、透明開口を通じて見た物体の像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができる。国際公開第2018/026697A1号パンフレットによれば、この眼鏡は装用者に合わせてカスタマイズされ、とりわけ、それによってレンズは装用者の軸上視力を20/20以上に矯正する度数を有し、レンズは各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは装用者の周辺視野の少なくとも一部について、レンズが装用者の視力を20/25以上に矯正し、像コントラストを軸上像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができるように配置されたドットのアレイを含む。
【0008】
国際公開第2006/034652A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常の進行を治療する方法、特に近視の焦点ぼけを増強することによって近視の進行に対抗する方法及び遠視焦点ぼけを増強することによって遠視の進行に対抗する方法を開示する。方法は、人の眼の網膜に上に第一の像を生成するステップと、焦点ぼけを発生させるために第二の像を生成するステップを含む。焦点ぼけを変化させるために、眼の平衡状態が軸方向の眼の成長に影響を与えて正眼視に向かわせるべきである。この人工的なシフトは、好ましくは正常視を保持できるように従来の矯正と共に眼鏡レンズに組み込まれ得る。この眼鏡レンズは、フレネルレンズ又は、2つ以上の屈折力の同心円状の光学ゾーンを含む中心-周辺多焦点レンズであり得る。
【0009】
国際公開第2010/075319A2号パンフレットは、眼軸長に関係する障害を予防し、改善し、又は逆転させる治療処置方法を開示している。そのために、患者の視野の人工的なぼやけを導入することによって、眼の網膜に入る像の平均空間周波数を、眼軸のそれ以上の伸長を抑止する閾値空間周波数より低くする。人工的なぼやけを導入するために、ぼやけ誘導ガラスが使用される。ぼやけ誘導ガラスは、レンズの片方又は両方の表面上の小さい隆起又は凹み、レンズ内へのレンズ材料とは異なる材料の包含、レンズへの高レベルの収差の組み込み、周辺視により大きく影響を与える、より高レベルの収差の組み込み、レンズの上からレンズの下までの、片方又は両方のレンズへの累進的なマイナスの補正の提供、レンズの片方又は両方の表面に堆積されるコーティング又はフィルムによってぼやけを誘導する。例えばレンズの中央区域内の隆起又は凹みの密度を下げることにより、光景の、眼軸と軸方向に整合する部分について比較的正常な像の取得が容易になり、他方で、光景の、光軸と整合しない部分のぼやけは大きくなる。人工的ぼやけの量は、例えば隆起又は凹みの密度又は寸法を変化させることによって制御できる。
【0010】
国際公開第2019/166653A1号パンフレットは、人の眼の処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの不連続の光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子は非球面光学機能を有するレンズ要素を開示している。不連続の光学素子のうちの少なくとも1つは、例えば複屈折材料で製作される多焦点屈折マイクロレンズ、回折レンズであり得るか、又は人の眼の網膜の正面にコースティックを生じさせるよう構成された形状を有する。
【0011】
国際公開第2019/16654A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力及び第一の屈折力とは異なる第二の屈折力を有する屈折領域と、少なくとも3つの光学素子と、を含み、少なくとも1つの光学素子は、眼の網膜上に結像させない光学機能を有して、眼の屈折異常の進行を遅らせるレンズ素子を開示している。第一の屈折力と第二の屈折力との差は0.5D以上であり得る。
【0012】
国際公開第2019/166655A1号パンフレットは、人の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価球面屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成される。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価乱視屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成され得る。
【0013】
国際公開第2019/166657A1号パンフレットは、標準的装用状態で、中心視のために、装用者にその装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の屈折力を提供するように構成された処方部分と、複数の、少なくとも3つの光学素子であって、少なくとも1つの光学素子は、標準的装用条件で、周辺視のために、眼の網膜に結像しないようにして、眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有する光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子の少なくとも1つは、標準的装用条件で、周辺視のために、網膜以外の位置に結像させる光学的機能を有し得る。
【0014】
国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、装用者の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも2つの連続的光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子が、装用者の眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有するレンズ素子を開示している。国際公開第2019/166659A1号パンフレットによる連続的光学素子を有することによって、レンズ素子の審美性が改善され、レンズ素子表面の不連続性が限定される。少なくとも2つの連続光学素子は独立していてよい。
【0015】
国際公開第2019/206569A1号パンフレットは、装用者に、標準的装用条件で、その装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の光学機能を提供するように構成された処方部分と、複数の連続的光学素子を含むレンズ素子を開示している。各光学素子は、標準的装用条件での第二の光学機能と前記標準的装用条件で眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる第三の光学機能を同時に提供する同時の二焦点光学機能を有する。第二及び第三の光学機能を同時に提供する複数の連続的光学素子を有することにより、国際公開第2019/206569A1号パンフレットによれば、光の一部を装用者の網膜上に合焦させ、光の一部を装用者の網膜の前又は後ろの何れかに合焦させることによって近視又は遠視などの眼の屈折異常の進行を遅らせる、構成が容易なレンズ素子を有することが可能となる。さらに、このレンズ素子により、光のうち網膜上に合焦させる部分と、光のうち眼の網膜上に合焦させない部分を選択できることになる。国際公開第2019/026569A1号パンフレットはまた、レンズ素子を提供する方法も開示しており、これは、装用者に、標準的装用条件で、装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一屈折力を提供するように構成されたレンズ部材を提供するステップと、複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップと、レンズ部材の前又は後面の一方に光学パッチをセットすることによってレンズ素子を形成するステップと、を含む。代替的に、この方法は、レンズ素子を成形するステップと、成形中に複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップを含む。
【0016】
欧州特許第3531195A1号明細書は、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを含む眼鏡レンズを開示している。ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを得るために、第一のステップで、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも一方の表面がナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層で被覆され、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面がマスキングされる。第二のステップで、少なくとも1つのコーティングがナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層の上に堆積される。それによって、少なくとも1つのコーティングはナノ粒子及び/又はマイクロ粒子のほか、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面のナノ粒子及び/又はマイクロ粒子間の中間空間を被覆する。第三のステップで、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子が除去されて、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングがレンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に残る。
【0017】
欧州特許第2682807A1号明細書は、コーティングの所望の位置に追加の透明コーティングを堆積させることによって、所望の位置に開口を有するマスキング層を含め、マスキング層と開口の両方が眼鏡レンズのコーティングのみによりオーバコーティングされるようにすることによって、又はレンズ基材の所望の位置に色付けすることによって、眼鏡レンズの表面上にマークを形成する方法を開示している。追加の透明コーティングを堆積させる場合、第一のステップで、開口を有するマスキング層がマーキングされるレンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積される。第二のステップで、透明コーティングがマスキング層のほか、それぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面にマスキング層の開口を介して堆積される。第三のステップで、マスキング層とマスキング層の上の透明コーティングが除去され、それによって透明コーティングはそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面の上に残る。その後、透明コーティングが眼鏡レンズのコーティングで、例えば多層反射防止コーティング、多層反射コーティングの部分、及び撥水層でオーバコーティングされ、それによって目に見えるマークが得られる。マークは、光反射の違いによって見ることのできる装飾パターン、ロゴ、文字を構成し得て、それによって装用者の快適な視野が確保される。
【0018】
欧州特許第3339940A1号明細書は、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面上に、マスキング層を介してコーティングを堆積させる方法を開示しており、それによって、マスキング層を使用して、及び使用せずに堆積されたコーティングの屈折率の違いによって例えばロゴが確実に見えることになる。
【0019】
国際公開第2007/066006A2号パンフレットは、光学製品の表面にマイクロスケールのパターンを転写する方法を開示している。そのため、転写可能な材料の層がスタンプの表面上に堆積され、これはスタンプを光学製品の基材の表面上に堆積されたラテックスの未乾燥の層と接触させることによって転写されるパターンに対応するマイクロリリーフを構成する凹部と突出部を有する。スタンプに加えられる圧力に応じて、突出部に塗布された透明材料の層だけ、又は凹部と突出部に堆積された転写可能材料の層がラテックスの層に転写される。転写後、スタンプは除去される。
【0020】
米国特許出願公開第2002/0158354A1号明細書は、活性化光を使ってレンズ形成組成物を硬化させることにより、フォトクロミック、紫外線/可視光吸収カラープラスチックレンズの製造方法を開示している。活性化光源として、紫外光源、化学光源、可視光源、及び/又は赤外光源が使用され得る。レンズ形成材料としては、何れの適当な液体モノマー及び何れの適当な感光開始剤も含み得る。レンズ硬化ユニットは、とりわけレンズ形成材料を硬化させるのに必要なパルス式硬化照射における光の初期照射量を特定し、特定された量と十分に等しい強度及び持続時間の活性化光を当て、パルス式硬化照射において活性化光を次に当てるために必要な照射量を計算するコントローラを含む。パルス式活性光硬化シーケンスの代わりに、連続的活性化光シーケンスも使用され得る。後者の場合、光パルスを生成するための機器は不要であり、それゆえレンズ硬化装置のコストが削減される。
【0021】
国際公開第97/39880A2号パンフレットは、液体の重合可能レンズ形成組成物を型穴に入れ、複数の高強度光パルスをレンズ形成組成物に照射し、レンズ形成組成物を硬化させて、実質的に透明な眼鏡レンズを30分未満の時間で形成することによる眼鏡レンズの形成を開示している。好ましくはフラッシュライトなどの閃光の光源、例えばキセノン光源から発せられるパルスは、型穴内でパルスに露光される実質的に全てのレンズ形成組成物の中で反応が始まるのに十分な光強度を有する。国際公開第97/39880A2号パンフレットによれば、フラッシュライトを介したパルス光の照射の1つの利点は、より高強度の光が照射されても、パルス時間が非常に短いため、レンズ形成組成物を硬化させるために加えられる光エネルギーの総量が少なくてよいことである。国際公開第97/39880A2号パンフレットによれば、別の重要な利点は、比較的高質量のセミフィニッシュトレンズブランク及び高パワーのcast-to-finishレンズが、型穴から早期に外れることなく、また亀裂を生じることなく生産され得ることである。サイクル中の適正な時間に活性化光を中断又は減少させることによって発熱と離型の速度を制御でき、早期離型の発生率を減らすことができる。国際公開第97/39980A2号パンフレットによれば、300~400nmの範囲の波長の紫外光を吸収する光開始剤を含むレンズ形成組成物の硬化のほか、各々がUV光への露光により硬化可能で、各々が実質的に透明な複合コートを形成する光開始剤を含むコーティング組成物の硬化が可能である。
【0022】
国際公開第00/18569A2号パンフレットは、型/ガスケットアセンブリの中に入れられた重合可能レンズ形成組成物の硬化と、前記組成物をパルス式活性化光に連続的に露光させることを開示している。フラッシュランプ、例えばキセノン光源は、活性化光パルスを発出するために使用され得る。カラーレンズ、フォトクロミックレンズ、紫外線/光吸収無色レンズ、及び透明レンズが形成され得て、後者は無色の非フォトクロミック紫外線/可視光吸収組成物をレンズ形成組成物に添加することによる。紫外線/可視光吸収剤をレンズ形成組成物に添加することにより、フォトクロミックレンズ組成物の硬化に使用される、より高強度の露光要件下での透明レンズ組成物の硬化が可能となる。さらに、形成された透明レンズは、このような化合物を使用せずに形成された透明レンズより紫外線/可視光線に対するよりよい保護を提供し得る。さらに、国際公開第00/18569A2号パンフレットは、レンズ上に傷防止コーティング又はティントコーティングを形成するための型内方式を開示している。代替的に、レンズを脱型させてから、レンズに染色し得るか、又はレンズに傷防止コーティングを堆積させ得る。その後、傷防止コーティングは、活性化光線をレンズのこの面に当てることにより硬化される。レンズ形成組成物とコーティングは感光開始剤を含み得る。
【0023】
国際公開第2006/135390A2号パンフレットは、各々が活性化光のパルスを使用する、眼鏡レンズのコーティング組成物の、及びコーティングされていない眼鏡の硬化を開示している。ハードコートコーティング、反射防止コーティング、又はフォトクロミックコーティングなどのコーティングは、型内又は型外プロセスで硬化され得る。例えば、型内プロセスで製造されたハードコートコーティングと反射防止コーティングを含む眼鏡レンズが記載されており、型がコーティングと共にストロボランプからのフラッシュライトにさらされる。
【0024】
国際公開第01/94104A2号パンフレットは、可視光透過眼鏡レンズ上に反射防止コーティングを形成するための紫外光硬化可能液体組成物の使用を開示している。反射防止コーティングは、型内又は型外プロセスで形成され得る。ハードコート組成物は、反射防止コーティングの堆積前に堆積させられ得る。紫外光はフラッシュランプにより生成され得る。光パルスは、コーティング組成物の硬化に影響を与えるために使用され得る。
【0025】
国際公開第03/078145A2号パンフレットは、コーティング付き眼鏡レンズを製造するための型内プロセスを開示している。したがって、前側型部材の鋳造面を1つ又は複数のハードコート層で被覆してから、レンズ形成組成物を型穴に入れる。2つのハードコート層が使用される場合、第一のハードコート層内のピンホールなどの欠陥は全て、第二のハードコート層により覆われる。眼鏡レンズは、型内プロセス又は型外プロセスの何れかにより、反射防止コーティングでさらに被覆され得る。紫外光、化学線、可視光、又は赤外光を含む活性化光がコーティング組成物に照射されて、コーティング組成物の硬化が開始され得る。活性化光源として、殺菌ランプ、水銀蒸気ランプ、ハライドランプ、及び/又はストロボランプが使用され得る。ストロボランプを活性化光源として使用することにより、プロセスラン間での発熱が減少し、活性化光照射量は、照射される光の強度、活性化光のフラッシュ周波数、フラッシュされる活性化光の持続時間、及び/又は活性化光のフラッシュ数を制御することによって制御され得る。レンズ形成材料は、活性化光と相互作用する光開始剤を含み得る。
【0026】
国際公開第00/56527A1号パンフレットは、フォトクロミックの、紫外線/可視光を吸収する無色の、及び色付きのプラスチックレンズを型内プロセスでレンズ形成組成物を活性化光のパルスを用いて硬化させることによって製造するためのレンズ形成組成物を開示している。化学的変化に影響を与える、例えば重合化を起こさせることのできる活性化光としては、紫外光、化学線、可視光、又は赤外光が含まれ得る。フラッシュランプは、レンズ形成材料を硬化させるため、又はレンズコーティングを硬化させるための活性化光パルスの発出に使用され得る。液体コーティングを型内に入れ、続いてそれを硬化させることにより、表面上にハードコートを有するレンズが得られ得る。フラッシュランプはキセノン光源であり得る。キセノンフラッシュランプの比較的高い強度と短いパルス持続時間により、組成物に大きな放射熱を加えることなく、レンズ形成組成物を高速で硬化させることができ得る。キセノンフラッシュランプは、複数の活性化光パルスをレンズ形成組成物に照射して、30分未満でそれを眼鏡レンズへと硬化させるために使用され得る。キセノンフラッシュランプで実現可能な比較的高い強度により、レンズ形成組成物へのより深い浸透及び/又は飽和が可能となり得、それによって従来の放射により開始される硬化より厚いレンズを均一に硬化させることができる。
【0027】
国際公開第99/06887A1号パンフレットは、複数の活性化光パルスをレンズ形成組成物に照射することによって眼鏡レンズを形成するための型内プロセスを開示する。パルスは、キセノン光源などのフラッシュライトから発し得る。フラッシュランプはまた、レンズコーティングを硬化させるためにも使用され得る。国際公開第99/06887A1号パンフレットはさらに、傷防止コーティングを形成するための型内プロセスを開示しており、これは、第一のコーティング組成物を型部材の中に入れ、第一のコーティング組成物を型部材の鋳造面全体に分散させ、活性化光を型部材に当てて、第一のコーティング組成物の少なくとも一部を硬化させ、第二のコーティング組成物を型内に入れ、第一及び第二のコーティング組成物は各々光開始剤を含み、第二のコーティング組成物を第一のコーティング組成物上の全体に分散させ、活性化光を型部材に当てて、第二のコーティング組成物の少なくとも一部を硬化させ、実質的に透明な複合コートを形成し、型部材と第二の型部材を組み立て、光開始剤を含むレンズ形成組成物を穴内に入れ、活性化光を型に当てて、レンズ形成材料の少なくとも一部を硬化させてコーティング付きの眼鏡レンズを形成することによる。代替的に、眼鏡レンズは脱型され、その後染色され得るか、傷防止コーティングがレンズに堆積され得る。レンズ形成組成物は、フォトクロミック染料など、活性化光吸収化合物を含み得て、活性化光吸収化合物は、紫外光がその眼鏡レンズを装用する使用者の眼へと透過するのを防止する。
米国特許出願公開第2008/316558A1号明細書は、スタンプにより転写可能な材料を転写することによって、パターンを光学製品の表面に転写する方法を開示している。
【0028】
欧州特許出願第20182515.5号明細書は、少なくとも1つの単電磁パルスを当てることにより、少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させる方法を開示している。少なくとも1つのコーティング前躯体材料は、ハードコーティング中のハードコーティング前駆体材料を含み得る。少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させるのに必要な全体的なプロセス時間は、例えばオーブン内で熱を直接加える従来の熱硬化プロセスと比較して、短縮される。さらに、光学特性及び/又は機械的特性は、少なくとも1つの単電磁パルスのプロセスパラメータを変化させることにより調整可能である。
【0029】
網膜の前又は後に周辺視焦点を生じさせることで眼が成長するための眼網膜への刺激を軽減又は停止するという理論に基づいて、上述のように眼鏡レンズのための幾つかのデザインが提案されている。刺激は周辺視のための近視又は遠視の焦点ぼけ、すなわち焦点が網膜の背後又は網膜の前方に位置することから生じるものである。例えば近視眼の屈折を、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の
図1による第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正する場合、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく屈折力を有する六角形の第一の屈折領域を通じた中心視において、無限遠からの光束は第一の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、網膜の真上に、正確には眼の網膜中心窩の真上にある焦点に集束する。無限遠の物点は、眼鏡レンズ装用者にとって完璧な像を形成する。したがって、中心視では、眼は本来通りの成長ができなくなるような解剖学的状態がないかぎり、本来通りに成長すると仮定される。米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の
図1に示される第二の屈折領域のうちの1つを通した周辺視では、無限遠からの光束は、第二の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、眼の網膜の前方にある焦点に集束する。したがって、焦点が眼の網膜の前方に位置する周辺視では、眼は眼軸長伸長の速度を低下させるか、又はさらにはそれを完全に停止させると仮定される。しかしながら、眼の網膜の湾曲はそれほど均一ではないため、無限遠から入射して、第二の屈折領域のうちの何れか1つ、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折した光束は、必ずしも眼の網膜の前方にある焦点に集束するとはかぎらない。さらに、眼の網膜及び眼自体の解剖学的構造は個別の形状又は湾曲を有し、それゆえ人によって異なる。同じ人物の左眼の網膜と右眼の網膜でさえ同じ形状又は湾曲ではない。近視又は遠視の進行は、各眼鏡レンズ装用者の屈折を、例えば米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の
図1のように同じ所定の第一の屈折領域と同じ所定の第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正しても抑制できない。米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書には、第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズの製造方法について一切記載されていない。例えば国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、及び国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、それらの中に記載された眼鏡レンズの製造に関して、直接表面加工、成形、鋳造、若しくは射出成形、エンボス加工、成膜、又はフォトリソグラフィなどの異なる技術を提案している。例えばそれを製造するために成形プロセスを使用した場合、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書、国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、又は国際公開第2019/166659A1号パンフレットに記載の眼鏡レンズは、各々、それぞれの眼鏡レンズを得ることができるようにするために極めて高い堅牢性と高い品質の種型を必要とする。ガラス製の型は、上述の要求事項を満たすが、加工が難しく、コストが高い。成形プロセスの使用には、それによって実現すべき各光学表面のために異なる種型が必要であり、これは例えば効率及びコスト面の理由から、高スループットの製造プロセスには適していないか、少なくとも第一の選択肢ではない。
【0030】
型を必要とせずにあらゆる所望の光学表面を製造する、非常に信頼できる方法が、欧州特許第3812142A1号明細書として公開された欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている。欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法によれば、従来の研削及び研磨プロセスでは実現不能な最終的光学表面の製造も可能である。本願で開示されている方法は、レンズ基材のために使用される光学材料を問わない。この方法では、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材を完全に、又は少なくとも部分的に覆う少なくとも1つのコーティングがあればよく、この少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と接触し、又はそれと接触させられた時に改質可能である。少なくとも1つのコーティングの改質は好ましい点として、不可逆的であり、長期的に安定である。例えば欧州特許第3531195A1号明細書とは異なり、あらゆる所望の最終的光学表面を改質する、又は適応させる、及び/又は製作するための追加のコーティングは不要である。しかしながら、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されているように、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングの接触時間の長さは、好ましくは25分~30時間、さらに好ましくは30分~20時間、より好ましくは35分~15時間、最も好ましくは40分~10時間の範囲内にある。少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と室温で、すなわち22℃±2℃の温度で、又は好ましくは25℃~80℃、さらに好ましくは27℃~55℃、より好ましくは30℃~50℃、及び最も好ましくは35℃~45℃の温度範囲を含む、より高い温度で接触させられ得る。少なくとも1つのコーティングは、好ましくは280nm~1200nmの波長範囲のキセノンを照射しながら少なくとも1つの媒質と接触させられ得る。欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示された上述のプロセス条件はいかなる所望の方法でも組み合わせてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
欧州特許出願第19204745.4号明細書とは別に本発明の課題は、眼鏡レンズの表面改質のための代替的な方法を提供し、それによってそれと同時に眼鏡レンズを取得する時間を加速させることである。さらに、レンズ基材の光学材料は限定されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0032】
この課題は、特許請求項1及び請求項12に記載の眼鏡レンズの製造方法により解決されている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
レンズ基材は、光学材料に基づくことが好ましく、この光学材料は、光学部品に製造できる透明材料としてDIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1に従って定義される。眼鏡レンズ基材は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1に従ってミネラルガラス、及び/又はDIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.3に従って熱硬化性硬質樹脂などの有機硬質樹脂、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.4に従って熱可塑性硬質樹脂、又はDIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.5に従ってフォトクロミック材料からなることができる。
【0034】
好ましくは、眼鏡レンズ基材は、以下の表に挙げられた光学材料のうちの少なくとも1つに基づいており、特に好ましくは、有機硬質樹脂のうちの少なくとも1つに基づいている。
【0035】
【0036】
欧州特許出願第19204745.4号明細書において、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触した時に改質可能な少なくとも1つのコーティングの表面改質は、少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であることが好ましい。これまでに、表面改質、特に少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質には、少なくとも1つの媒質、好ましくは欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている少なくとも1つの酸により誘導される膨潤プロセスである必要はなく、表面改質は少なくとも1つの単純な機械的手段を使用しても可能であることがわかっている。欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されているように、少なくとも1つのコーティング自体は、追加のコーティングを堆積させずに改質される。少なくとも1つの機械的手段は、例えば欧州特許第3531195A1号明細書で、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子間の空間内にある追加のコーティングに基づく構造を提供するためにその上にすでに追加のコーティングが堆積されているコーティングをマスクするために使用されるナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層と混同されてはならない。さらに、少なくとも1つの機械的手段は、例えば国際公開第2007/066006A2号パンフレットにおいて開示されているようなスタンプを介した転写可能パターンと混同されてはならない。
【0037】
少なくとも1つのコーティングを少なくとも1つの機械的手段と接触させることによって改質させるために、少なくとも1つのコーティングがレンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積される。従来のコーティングプロセスとは異なり、堆積された少なくとも1つのコーティングは硬化及び/又は固化されず、乾燥及び/又はプレキュアリングのみ行われることが好ましい。乾燥及び/又はプレキュアリングにより、好ましい点として、少なくとも1つのコーティングが、それが堆積されたレンズ表面のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面から流れ落ちないことが確実となる。さらに、乾燥及び/又はプレキュアリングにより、好ましい点として、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの機械的手段と接触してもなお改質可能であることが確実となる。乾燥及び/又はフレキュアリングにより、好ましい点として、少なくとも1つのコーティングを硬化及び/又は固化させずに、少なくとも1つのコーティングの粘性が高くなる。少なくとも1つの機械的手段は、少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面と接触させられることが好ましい。接触は、少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面に少なくとも1つの機械的手段で触れることによって、又は少なくとも1つの機械的手段を少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの中に浸漬させることによって実現されることが好ましい。少なくとも1つの機械的手段が少なくとも1つのコーティングから取り除かれ、又は引き抜かれた後に、コーティング厚さの少なくとも1つの局所的な変化が観察される。コーティング厚さの少なくとも1つの局所的変化は、少なくとも1つのマイクロレンズとして観察されることが好ましい。
【0038】
少なくとも1つの機械的手段は、少なくとも1つのプレキュアリング又は乾燥されたコーティングと一時的にのみ接触させられることが好ましい。
【0039】
少なくとも1つの機械的手段としては、少なくとも1つのコンタクトヘッド、コンタクトヘッドのアレイ、少なくとも1つのコンタクトヘッドを含む装置、少なくとも1つの針、針のアレイ、及び/又は少なくとも1つの針を含む装置が使用され得る。好ましくは、コンタクトヘッドのアレイにおいて、又は少なくとも2つのコンタクトヘッドを含む装置において、各コンタクトヘッドは制御可能であるか、別々に指定できる。好ましくは、針のアレイにおいて、又は少なくとも2つの針を含む装置において、各針は制御可能であるか、別々に指定できる。コンタクトヘッドのアレイにおいて、又は少なくとも2つのコンタクトヘッドを含む装置において、各コンタクトヘッドは同じ形態及び同じ寸法を有していてもよく、又はコンタクトヘッドの少なくとも1つは異なる形態及び/又は異なる寸法を有していてもよい。針のアレイにおいて、又は少なくとも2つの針を含む装置において、針の各々は同じ形態及び同じ寸法を有していてよく、又は針の少なくとも1つは異なる形態及び/又は異なる寸法を有していてもよい。1つの個別のコンタクトヘッド又は1つの個別の針を少なくとも1つのコーティングの表面改質に使用すべきである、すなわちアレイや少なくとも2つのコンタクトヘッド又は少なくとも2つの針を含む装置は使用されない場合、この場合には、例えば同じ形態及び寸法の、又は異なる形態又は寸法の少なくとも2つの個別のコンタクトヘッド又は少なくとも2つの個別の針が使用可能である。
【0040】
少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの調整された粘性に応じて、少なくとも1つの機械的手段を取り除く、又は引き抜く速度、少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面を少なくとも1つの機械的手段と接触させる方向、少なくとも1つの機械的手段を少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングに浸漬させる方向、及び/又は少なくとも1つのコーティングの表面改質に使用される少なくとも1つの機械的手段により、少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面形状を変更するための多くの多岐にわたる選択肢が提供される。
【0041】
少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質により、調整可能な寸法及び形状の少なくとも1つのマイクロレンズが得られ得る。少なくとも1つのマイクロレンズは、3Dガウス形状、上部が平坦な3Dガウス形状、クレータを有する火山型、若しくは複雑な形状、又はそれらのあらゆる混合形状を示し得る。少なくとも1つのマイクロレンズの形状は、対称でも非対称でもよい。少なくとも1つのマイクロレンズは好ましくは、好ましくは1nm~10μm、さらに好ましくは2nm~9μm、さらに好ましくは3nm~8μmの範囲、より好ましくは4nm~7μmの範囲、最も好ましくは5nm~6μmの範囲の高さを有する。複雑な形状を得る表面改質の場合は、上述の範囲はその最大高さに適用されることが好ましい。横方向の範囲に関して、好ましくは5μm~20mm、さらに好ましくは10μm~10mm、さらに好ましくは20μm~5mm、より好ましくは50μm~4mm、最も好ましくは70μm~3mmの範囲の幅が、少なくとも1つの機械的手段との接触による少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質によって実現され得る。寸法は、白色光干渉法に基づく光学プロファイラにより特定されることが好ましい。
【0042】
マイクロレンズ又はレンズレットをもたらすことになる局所的改質の実現可能な面屈折力に関して、前述の様々な改質の可能性によって広い範囲で調整可能であり、面屈折力は0.2ディオプトリ~50ディオプトリの範囲であってよく、好ましくは0.25ディオプトリ~40ディオプトリの範囲、さらに好ましくは0.3ディオプトリ~30ディオプトリの範囲、より好ましくは0.4ディオプトリ~20ディオプトリの範囲、最も好ましくは0.5ディオプトリ~10ディオプトリの範囲である。面屈折力は、欧州特許出願第19204745.4号明細書の中で説明されているように計算され得る。
【0043】
少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面が少なくとも1つの機械的手段によって改質された後、少なくとも1つのコーティングは、それぞれの少なくとも1つのコーティングに通常使用される従来の硬化プロセスによって、例えばオーブン内での直接加熱によって硬化及び/若しくは固化されるか、又は少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの電磁パルスを、例えばフラッシュライトアニール処理又はフォトニック硬化方式を使って加えることによって硬化及び/又は固化される。使用される硬化及び/又は固化方法に関係なく、少なくとも1つのコーティングの改質表面を得るためのプロセス総時間は、欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示される方法と比較して、大幅に短縮される。
【0044】
それでも、少なくとも1つのマイクロレンズを含む同じ、又は少なくとも類似の表面改質は、少なくとも1つのコーティングのプレキュアリングされた表面を少なくとも1つの機械的手段と接触させることによって実現可能である。
【0045】
少なくとも1つの単独の電磁パルスを少なくとも1つの改質表面に加えることによるフォトニック硬化方式を使用することには、例えばそれぞれの少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの粘性が低すぎることによる、不要な、又は制御不能なその後のさらなる改質のリスクを最小化するという利点がある。この方法は、温度感応性レンズ基材にも適用可能であり、すなわち、温度感応性レンズ基材は、ごく短時間だけ高温に到達しても劣化しない。少なくとも1つの単独の電磁パルスを加えて少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングを硬化及び/又は固化することにはさらに、硬化及び/又は固化のための全体的プロセス時間が、例えば熱硬化プロセスと、又は欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示された方法と比較したとき、大幅に短縮されるという利点がある。
【0046】
少なくとも1つの単電磁パルスは、好ましくは少なくとも1つのキセノンフラッシュランプからの少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群より選択される少なくとも1つの電磁源から印加できる。少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプから印加されることが好ましい。少なくとも1つのフラッシュランプは、キセノン、クリプトン、及び/又はアルゴンから選択されるガス、好ましくはキセノンが充填されたフラッシュランプであることが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスは好ましくは、100nm~1800nmの範囲、より好ましくは150nm~1300nmの範囲、最も好ましくは200nm~1000nmの範囲の波長を有する。少なくとも1つの単電磁パルスは好ましくは、350nm~1000nmの範囲、より好ましくは400nm~800nmの範囲、最も好ましくは420nm~700nmの範囲の波長を有する。上述の電磁源のうちの少なくとも1つから印加される少なくとも1つの単電磁パルスの波長は、好ましくはこれらの波長範囲内である。少なくとも1つの単電磁パルスは眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも1つ、すなわち(i)眼鏡レンズの前面に、(ii)眼鏡レンズの後面に、又は(iii)眼鏡レンズの前面と後面に印加される。少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面と後面に印加される(iii)の場合、前述の電磁源のうちの1つの位置は、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加されるか、後面に直接印加されるように交代され得る。代替的に、上述のケース(iii)では、前述の電磁源の少なくとも2つが、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加され、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの後面に直接印加されることが同時に又は交互に行われるように位置付けられる。少なくとも2つの電磁源が使用される何れの場合も、これらの少なくとも2つの電磁源は同じ種類でも異なる種類でもよい。
【0047】
「単電磁パルス」とは、前述の電磁源のうちの少なくとも1つにより送達され、改質されるべき少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加される光を意味する。少なくとも1つの単電磁パルスは、上で定めた波長範囲のうちの1つで印加され得る。少なくとも1つの単電磁パルスは、所定の持続時間、すなわち所定の包絡線を有することが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線とは、少なくとも1つの単電磁パルスが、改質されるべき少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加される期間として定義される。包絡線は、50μs~200msの範囲、好ましくは100μs~150mnsの範囲であり得る。各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスの各々は、各単電磁パルスの包絡線内の所定の持続時間を有する。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスの持続時間は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内のマイクロパルス全部の持続時間のパーセンテージは、単電磁パルスのデューティサイクルとして定義される。さらに、少なくとも1つの単電磁パルス又は少なくとも1つのマイクロパルスは所定のピーク強度を有する。ピーク強度とは、1つの単電磁パルス又は単電磁パルス内の1つのマイクロパルスによって光エネルギーが単位時間当たりに少なくとも1つのコーティングの単位面積に印加される速度として定義され、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質により完全に又は少なくとも部分的に被覆される。ピーク強度は好ましくは、0.01W/cm2~200W/cm2の範囲、さらに好ましくは0.1W/cm2~150W/cm2、より好ましくは0.5W/cm2~100W/cm2、最も好ましくは1W/cm2~60W/cm2の範囲内である。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は相互に同じであることが好ましい。単電磁パルスの包絡線内の2つの連続するマイクロパルス間のピーク強度は、ゼロである必要はなく、一定である必要はなく、等しい必要はない。必要に応じて、各単電磁パルスが繰り返されて電磁パルストレインが提供され得る。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2回、最大1000回繰り返され得て、各単電磁パルスは2~100回繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、同じ単電磁パルスが繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は同じであることが好ましい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスは、それらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスはそれらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じであることが好ましい。少なくとも2つの単電磁パルスを含む電磁パルストレイン内で、少なくとも2つの単電磁パルスは0.1Hz~5Hz、好ましくは0.2Hz~4Hz、さらに好ましくは0.3Hz~3.5Hz、最も好ましくは0.4~2Hzの範囲の繰り返し率で繰り返され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線内の少なくとも1つの単電磁パルスのピーク強度は、包絡線内で、及び/又は少なくとも1つの単電磁パルス内の各マイクロパルスと共に漸減し得る。例えば、この減少は少なくとも1つの単電磁パルスを発生させるために使用される電磁源の充電コンデンサの限界による可能性がある。少なくとも1つの単電磁パルスによって少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズに付与される照射量は、各単電磁パルスと共に包絡線の持続時間全体にわたり送達される平均強度であり、この少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質で完全に、又は少なくとも部分的に覆われ、各単電磁パルスは各々が個別の量の強度を送達する少なくとも2つのマイクロパルスを含んでいてもいなくてもよい。少なくとも1つの単電磁パルスにより付与される照射量は好ましくは、0.001J/cm2~50J/cm2、さらに好ましくは0.1J/cm2~30J/cm2、より好ましく間は1J/cm2~20J/cm2、最も好ましくは2.0J/cm2~15J/cm2の範囲内であり得る。特に好ましくは、付与される照射量は3J/cm2~8J/cm2の範囲内である。
【0048】
少なくとも1つの単電磁パルスの印加は正確に1つの単電磁パルスの印加を含み、正確に1つの単電磁パルスは前述のように少なくとも2つのマイクロパルスに細分され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの印加はまた、幾つかの単電磁パルス、好ましくは少なくとも2つの単電磁パルス、さらに好ましくは複数の単電磁パルスの印加も含み、各々が同じく前述のように少なくとも2つのマイクロパルスに細分され得る。単電磁パルスの正確な数に関係なく、少なくとも1つの単電磁パルスに関する前述の説明が当てはまる。
【0049】
眼鏡レンズは、前面、すなわちISO 13666:2019(E)のセクション3.2.13によればレンズのうち眼と反対側に位置付けられることが意図される表面及び/又は後面、すなわちISO 13666:2019(E)のセクション3.2.14によればレンズのうち、より眼の近くに位置付けられることが意図される表面で少なくとも1つの機械的手段と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み得る。上述の定義による前面という用語と後面という用語は、レンズ基材にも当てはまる。眼鏡レンズは、その前面に少なくとも1つの機械的手段と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含むことが好ましい。改質表面の硬化及び/又は固化のためにフォトニック硬化方式が使用される場合、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの改質可能コーティングを含む眼鏡レンズの前面及び/又は後面に印加され得る。好ましくは、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に印加される場合、前面は少なくとも1つのコーティングを含むことが好ましい。しかしながら、眼鏡レンズが少なくとも1つの改質可能コーティングをその前面及び後面に含む場合、少なくとも1つの単電磁パルスはそれでも1つの表面のみに、例えば前面のみに印加され得る。この場合、反対の表面、ここでは眼鏡レンズの後面の少なくとも1つのコーティングは、改質されていてもいなくても、一方の表面のみ、ここでは前面に印加される少なくとも1つの単電磁パルスによって、同時に、好ましくは同じ時間内に硬化及び/又は固化され得る。この同時の改質は、レンズ基材と少なくとも1つの改質可能コーティングの透明性のわずかな違いによる、少なくとも1つの単電磁パルスからレンズ基材の前面と後面の両方へのエネルギーの伝送に基づくと仮定される。透明性は好ましくは、ある波長での透過率であり、透過率は好ましくは、UV VIS分光計、例えばPerkin Elmer社のPerkin Elmer 950SのUV VIS分光計を使って特定される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、少なくとも1つの改質可能コーティング及び/又はレンズ基材によって吸収されないか、ほとんどわずかしか吸収されない部分は、あらゆるあり得る界面、例えばレンズ基材と隣接するコーティングとの間の界面及び/又はその上に眼鏡レンズが乗せられるステージと隣接するコーティングとの間の界面で反射される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、例えばレンズ基材により吸収される部分は、レンズ基材の短い瞬間的加熱をもたらしながら、レンズ基材を劣化させないようにすると仮定される。それに加えて、レンズ基材の短時間の瞬間的加熱により、温度は少なくとも1つの改質可能コーティングの温度より高いため、反対の表面上の少なくとも1つのコーティングの硬化及び/又は固化は印加される少なくとも1つの単電磁パルスにより引き起こされる間接的な影響に基づくと仮定される。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスの、その上に眼鏡レンズが乗せられるステージからの後方反射もまた、少なくとも1つの単電磁パルスが直接的には印加されない反対の表面の上の少なくとも1つのコーティングの硬化及び/又は固化に寄与すると仮定される。少なくとも1つの単電磁パルスからの直接的なエネルギー伝達、加熱されたレンズ基材からの間接的なエネルギー伝達、及びステージからの間接的なエネルギー伝達の組合せは、少なくとも1つの単電磁パルスを表面のうちの1つのみに印加することによって眼鏡レンズの前面及び後面上での少なくとも1つの媒質による少なくとも1つのコーティングが同時に硬化又は固化される筋の通った説明であると仮定される。プロセス全体の持続時間は、少なくとも1つの単電磁パルスを1つの表面に印加することによって延長されることはなく、又は少なくとも大幅に延長されることはなく、両方の表面上の少なくとも1つのコーティングを同時に硬化及び/又は固化することが好ましい。
【0050】
プロセス全体の持続時間、すなわちコーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも1つの表面上に堆積された少なくとも1つの改質コーティングを前述のように少なくとも1つの単電磁パルスによって硬化及び/又は固化するのに必要な総時間は、100μs~7分、さらに好ましくは300μs~5分、より好ましくは500μs~4分、最も好ましくは1ms~3分の範囲内である。コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも1つの表面上に堆積された少なくとも1つの改質コーティングを従来の熱硬化プロセス、すなわちオーブンでの直接加熱によって硬化及び/又は固化させるプロセス全体の持続時間は、最大3時間であり得る。硬化及び/又は固化のための何れの選択肢でも、少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面改質を、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法より短時間で行うことができる。
【0051】
少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの、少なくとも1つの機械的手段との接触による改質によって得られる標的光学表面は、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法により実現可能な標的光学表面と同じであり得るが、前述のように、プロセス全体の持続時間は、少なくとも1つのコーティングのプレキュアリング、少なくとも1つの機械的手段との接触による表面改質、及び追加の硬化及び/又は固化は実行されるべき3つのステップであるものの、欧州特許出願第19204745.4号明細書で必要な接触時間よりはるかに短い。
【0052】
少なくとも1つのコーティングの硬化及び/又は固化は、バッチプロセス又は連続プロセスで行われ得る。バッチプロセスは、例えば移動させずに行われ得る。連続プロセスは、例えば移動させて行われ得る。連続プロセスの例は、コンベヤベルトを使用することによる。
【0053】
少なくとも1つのプレキュアリングされたコーティングの表面改質は、硬化及び/又は固化の後は不可逆的である。
【0054】
好ましくは乾燥及び/又はプレキュアリング後に、少なくとも1つの機械的手段と接触させられると改質可能であり得る少なくとも1つのコーティングは好ましくは、少なくとも1つの下塗りコーティング、少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つのフォトクロミックコーティング、及びフォトクロミックコーティングとして使用可能であるが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングからなる群のうちの少なくとも1つから選択される。
【0055】
少なくとも1つのハードコーティングは、米国特許出願公開第2005/0171231A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0189303A1号、又は米国特許出願公開第2002/0111390A1号明細書において開示されているハードコーティング組成物のうちの少なくとも1つに基づき得る。代替的に、少なくとも1つのハードコーティングは、国際公開第2007/070976A1号パンフレットにおいて開示されている耐摩耗コーティング組成物に基づき得る。
【0056】
少なくとも1つのハードコーティングは、好ましくは、欧州特許出願公開第2578649A1号明細書、特に欧州特許出願公開第2578649A1号明細書の請求項1に開示されている少なくとも1つのハードコーティング組成物に基づく。少なくとも1つのハードコーティングを生成するように構成された少なくとも1つのハードコーティング組成物は、好ましくは、
A)a)式(I)Si(OR1)(OR2)(OR3)(OR4)の少なくとも1つのシラン誘導体(式中、R1、R2、R3及びR4は、同一であり得又は異なり得、アルキル、アシル、アルキレンアシル、シクロアルキル、アリール、又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができる)、及び/又は
b)式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、
及び/又は
c)式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は
d)これらの成分a)からc)の任意の混合物、
B)a)式(II)R6R7
3-nSi(OR5)nの少なくとも1つのシラン誘導体(式中、R5は、アルキル、アシル、アルキレンアシル、シクロアルキル、アリール又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができ、R6は、少なくとも1つのエポキシド基を含む有機基であり、R7は、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができ、nは、2又は3である)、及び/又は
b)式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は
c)式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は、これらの成分a)~c)の任意の混合物、
C)少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、
D)少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシド化合物、並びに
E)少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス酸-塩基付加物とを含む少なくとも1つの触媒系
を含む。
【0057】
式(I)又は(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の「少なくとも1つの加水分解生成物」という用語は、それぞれ、式(I)又は式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体それぞれが、すでに少なくとも部分的に加水分解されていてシラノール基を形成していることを表す。
【0058】
式(I)又は式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の「少なくとも1つの縮合生成物」という用語は、それぞれまた、シラノール基の縮合反応によってある程度の架橋がすでに起こっているということを表す。
【0059】
式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン又はこれらの混合物から選択されることができる。
【0060】
式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体は、3-グリシドキシメチル-トリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリヒドロキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルヒドロキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン又はこれらの混合物から選択されることができる。
【0061】
少なくとも1つのコロイド状無機酸化物は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化スズ、酸化アンチモン、酸化アルミニウム、酸化銀、酸化銅又はこれらの混合物から選択されることができる。
【0062】
少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、フッ化物又はオキシフッ化物の平均粒径は、好ましくは、少なくとも1つのハードコーティングの透明性が影響を受けないように選択される。好ましくは、少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物は、2nm~150nm、さらにより好ましくは2nm~70nmの範囲の平均粒径を有する。平均粒径は、好ましくは動的光散乱によって決定される。少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物、又はオキシフッ化物は、既存のネットワークへの組み込みを通じて耐引掻性の向上に寄与する。さらに、少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物又はオキシフッ化物を選択することにより、少なくとも1つのハードコーティングの屈折率を、コーティングされていない眼鏡レンズ基材の屈折率又は眼鏡レンズ基材のプレコーティングに適合させることができる。
【0063】
少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシド化合物は、好ましくはポリグリシジルエーテル化合物、より好ましくはジグリシジルエーテル又はトリグリシジルエーテル化合物である。例えば、少なくとも2つのエポキシド化合物を含む少なくとも1つのエポキシド化合物として、ジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリコールグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルグリセリン及び/又はトリメチルオレタントリグリシジルエーテルをコーティング組成物に使用することができる。好ましくは、少なくともエポキシド化合物は、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル及び/又は1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを含む。
【0064】
少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス酸-塩基付加物とを含む少なくとも1つの触媒系は、非常に均一な架橋を可能にし、したがって、少なくとも1つのハードコーティングの全層厚にわたる常に高い強度も可能にする。「ルイス酸」という用語は、求電子電子対受容体化合物に関し、「ルイス塩基」という用語は、電子対供与体化合物を意味すると理解される。少なくとも1つのルイス酸は、好ましくは、比較的低温、例えば室温でも触媒活性を有するものである。少なくとも1つのルイス酸は、アンモニウム塩、金属塩、特に、元素の周期表の第1族(即ちアルカリ金属塩)、第2族(即ちアルカリ土類金属塩)又は第13族(好ましくはAl又はB)のうちの1つの金属、元素の周期表の第13族の元素のハロゲン化物(特にAIX3又はBX3、この場合、Xは塩素又はフッ素である)、その有機スルホン酸及びアミン塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、例えば、カルボン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、フッ化物塩、有機スズ化合物、又はこれらの混合物から選択され得る。元素の周期表の第1、2及び13族のうちの1つからの金属の好ましい金属塩は、例えば、過塩素酸塩又はカルボン酸塩である。好ましいルイス酸は、例えば、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸及びその塩などのそのスルホン酸及びその塩である。
【0065】
少なくとも1つのルイス酸-塩基付加物は、問題の化学反応に関して比較的高い温度でのみ触媒活性を有するが、室温では本質的に依然として触媒的に不活性である化合物を意味すると理解される。十分な熱エネルギーの供給によってのみ、熱潜在性触媒化合物が触媒活性状態に変換される。
【0066】
式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体及び/又は式(I)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は式(I)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物は、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは5重量%~50重量%、より好ましくは6重量%~20重量%の量で、少なくとも1つのハードコーティング組成物に存在する。先に示した量は、式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体に関して、式(I)の少なくとも1つの加水分解生成物に関して、式(I)の少なくとも1つの縮合生成物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。先に示した量は、式(I)のシラン誘導体の混合物に関して、式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の加水分解生成物の混合物に関して、式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の縮合生成物の混合物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。
【0067】
式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体及び/又は式(II)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は式(II)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物は、好ましくは、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、5重量%~50重量%、より好ましくは6重量%~20重量%の量で存在する。先に示した量は、式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体に関して、式(II)の少なくとも1つの加水分解生成物に関して、式(II)の少なくとも1つの縮合生成物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。先に示した量は、式(II)のシラン誘導体の混合物に関して、式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の加水分解生成物の混合物に関して、式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の縮合生成物の混合物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。
【0068】
式(II)のシラン誘導体の少なくとも1つのシラン誘導体、式(II)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は式(II)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物に対する、式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体、式(I)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は式(I)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物の重量比は、好ましくは95/5~5/95の範囲、より好ましくは70/30~30/70の範囲、最も好ましくは、60/40~40/60の範囲である。
【0069】
少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは5重量%~50重量%、より好ましくは6重量%~25重量%の量で存在する。前述の量は、1種類のコロイド状酸化物、1種類の水酸化物、1種類のフッ化物、1種類のオキシフッ化物、これらの混合物、異なるコロイド状酸化物の混合物、異なるコロイド状水酸化物の混合物、異なるコロイド状フッ化物の混合物、異なるコロイド状オキシフッ化物の混合物、又はこれらの任意の混合物に適用される。異なるコロイド状の酸化物、水酸化物、フッ化物又はオキシフッ化物の混合物は、例えば、異なる粒径のそれぞれの1つの種類、或いは同じ又は異なる粒径のそれぞれの異なる種類を含み得る。
【0070】
少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシド化合物は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.1重量%~10重量%、より好ましくは0.5重量%~10重量%の量で存在する。先に示した量は、エポキシド化合物の1つの種類又はエポキシド化合物の異なる種類の混合物に関して適用される。
【0071】
少なくとも1つの触媒系は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.01重量%~5重量%の範囲、より好ましくは0.1重量%~3重量%の範囲の量で存在する。
【0072】
少なくとも1つのルイス酸と少なくとも1つの熱潜在性ルイス酸-塩基付加物との重量比は、好ましくは20/1~1/2、より好ましくは5/1~2/1の範囲である。
【0073】
ハードコーティング組成物は、少なくとも1つのアルコール、少なくとも1つのエーテル、少なくとも1つのエステル又は水を含む少なくとも1つの溶媒をさらに含む。少なくとも1つの溶媒が2つの異なる溶媒を含む場合、第1の溶媒S1の沸点及び第2の溶媒S2の沸点は、S1/S2≧1.2又はS1/S2≦0.8の何れかである。さらに、少なくとも1つの溶媒が2つの異なる溶媒を含む場合、第1の溶媒の第2の溶媒に対する重量比は、好ましくは5~0.01の範囲、より好ましくは2~0.2の範囲である。
【0074】
好ましくは、水は、ハードコーティング組成物の総重量に基づいて、2重量%~15重量%の量で存在する。
【0075】
成分(A)~(E)、すなわち式(I)の少なくとも1つの第一のシラン誘導体、その少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は少なくとも1つの縮合生成物、式(II)の少なくとも1つの第二のシラン誘導体、その少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は少なくとも1つの縮合生成物、少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、少なくとも1つのエポキシド化合物、並びに少なくとも1つの触媒系を含む上述のコーティング組成物の使用により、高い硬さの非常に良好な接着強度を有する少なくとも1つのハードコーティングの製造が可能となり、これは、好ましくは少なくとも1つの機械的手段との接触により行われている表面形状の改質にかかわらず、傷防止性が高く、低い亀裂形成傾向を示す。少なくとも1つのハードコーティング組成物は、前述のように、直接加熱によって、又は少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって硬化及び/又は固化されることが好ましい。
【0076】
前述の、少なくとも1つのハードコーティングを得る少なくとも1つのハードコーティング組成物の代わりに、又はそれに加えて、縁ずり加工済みレンズの縁表面、任意選択的に、コーティングされていない又はプレコーティングされた眼鏡レンズ基材の前面、及び任意選択的に、コーティングされていない又はプレコーティングされた眼鏡レンズ基材の後面は各々:
A)a)式(III)R1R2
3-nSi(OR3)nの少なくとも1つのシラン誘導体(式中、R1は、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基又はヘテロアリール基を含み、これらのそれぞれは置換されることができ、R2は、エポキシド基を含む有機残基であり、R3は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を含み、これらのそれぞれは置換されることができ、n=2又は3である)、及び/又は
b)式(III)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は
c)式(III)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は
d)成分a)~c)の任意の混合物、
B)少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、
C)少なくとも2つのエポキシ基を含む少なくとも1つのエポキシ成分、並びに
D)少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス塩基付加物を含む少なくとも1つの触媒系
を含む少なくとも1つのハードコーティング組成物に基づくことが好ましい少なくとも1つのハードコーティングを含む。
【0077】
式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体の「少なくとも1つの加水分解生成物」という用語は、式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体がすでに少なくとも部分的に加水分解されていてシラノール基を形成しているということを表す。
【0078】
式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体の「少なくとも1つの縮合生成物」という用語は、また、シラノール基の縮合反応によってある程度の架橋がすでに起こっているということを表す。
【0079】
式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体、及び/又は式(III)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又はこれらの任意の混合物は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは9重量%~81重量%、さらに好ましくは13重量%~76重量%、より好ましくは19重量%、最も好ましくは23重量%~66重量%で存在する。先に示した量は、式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体に関して、式(III)の少なくとも1つの加水分解生成物に関して、式(III)の少なくとも1つの縮合生成物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。先に示した量は、同様に、式(III)のシラン誘導体の混合物に関して、式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体の加水分解生成物の混合物に関して、式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体の縮合生成物の混合物に関して、又はこれらの任意の混合物に関して適用される。
【0080】
少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは3重量%~60重量%、さらに好ましくは6重量%~58重量%、より好ましくは9重量%~57重量%、最も好ましくは13重量%~55重量%の範囲の総量で存在する。先に示した量は、1種類のコロイド状無機酸化物、1種類のコロイド状無機水酸化物、1種類のコロイド状無機酸化物水和物、1種類のコロイド状無機フッ化物、1種類のコロイド状無機オキシフッ化物及びこれらの任意の混合物に関して適用される。先に示した量は、同様に、異なるコロイド状無機酸化物の混合物、異なるコロイド状無機水酸化物の混合物、異なるコロイド状無機酸化物水和物の混合物、異なるコロイド状無機フッ化物の混合物、異なるコロイド状無機オキシフッ化物の混合物又はこれらの任意の混合物に関して適用される。言及された混合物は、それぞれ異なる粒径又は異なる種類のコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物を含み得る。
【0081】
少なくとも2つのエポキシド基を含む少なくとも1つのエポキシド化合物は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.01重量%~14重量%、さらに好ましくは0.07重量%~11重量%、より好ましくは0.1重量%~6重量%、最も好ましくは0.2重量%~13重量%の範囲の量で存在する。先に示した量は、1種類のエポキシド化合物に関して、同様に異なるエポキシド化合物の混合物に関して適用される。
【0082】
少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス塩基付加物とを含む少なくとも1つの触媒系は、少なくとも1つのハードコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは0.04重量%~4重量%、さらに好ましくは0.1重量%~3重量%、より好ましくは0.2重量%~2重量%、最も好ましくは0.3重量%~1重量%の範囲の量で存在する。少なくとも1つのルイス酸の少なくとも1つの熱潜在性ルイス塩基付加物との重量比は、好ましくは20:1~2:1、さらに好ましくは18:1~1:2、より好ましくは13:1~1:1、最も好ましくは6:1~1:1の範囲である。
【0083】
少なくとも1つのハードコーティング組成物は、少なくとも1つの有機溶媒及び/又は水を含み得る。少なくとも1つのハードコーティングをもたらす少なくとも1つのハードコーティング組成物の成分が使用されて、少なくとも1つのハードコーティング組成物の総重量に基づいて100重量%になるように添加される。
【0084】
式(III)の少なくとも1つのシラン誘導体として、例えば、3-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリハイドロキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルハイドロキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン及び/又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが、少なくとも1つのハードコーティング組成物に使用され得る。好ましくは、式(III)のシラン誘導体として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び/又は3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが使用される。
【0085】
少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物及び/又は酸化物水和物は、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物であり得、この場合、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物の金属イオンは、チタンの金属、好ましくはTiO2、ケイ素の金属、好ましくはSiO2、ジルコニウムの金属、好ましくはZrO2、スズの金属、好ましくはSnO2、アンチモンの金属、好ましくはSb2O3、アルミニウムの金属、好ましくはAl2O3又はAlO(OH)、銀の金属、好ましくはAg2O、銅の金属、好ましくはCuO若しくはCu2O及び/又は混合酸化物及び/又はこれらの混合物を含む又はこれらである。好ましくは、コロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物は、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物であり、この場合、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物の金属イオンは、チタン、ケイ素、ジルコニウム又はこれらの混合物の金属、さらに好ましくはケイ素の金属を含む、又はこれらである。さらに好ましくは、少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物及び/又は酸化物水和物は、コア-シェル粒子を形成する。このようなコア-シェル粒子において、コアは、好ましくは金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物を含み、この場合、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物の金属イオンは、チタンの金属、好ましくはTiO2、及び/又はジルコニウムの金属、好ましくはZrO2を含み、シェルは、好ましくは金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物を含み、この場合、金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属酸化物水和物の金属イオンは、ケイ素、好ましくはSiO2を含む、又はこれらである。コロイド状無機フッ化物としては、フッ化マグネシウムが使用され得る。少なくとも1つのコロイド状酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物は、好ましくは3nm~70nm、さらに好ましくは6nm~64nm、より好ましくは8nm~56nm、最も好ましくは9nm~52nmの範囲の平均粒径を有する。
【0086】
少なくとも2つのエポキシド化合物を含む少なくとも1つのエポキシド化合物として、例えば、ジグリシジルエーテル、エチルエングリコルジグリシジルエーテル、プロピルエングリコルジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリグリシジルグリセリン及び/又はトリメチロールタントリグリシジルエーテルが、少なくとも1つのハードコーティング組成物に使用され得る。好ましくは、少なくともエポキシド化合物は、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル及び/又は1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを含む。
【0087】
少なくとも1つのルイス酸として、例えば、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸及び/又はその塩などのスルホン酸及び/又はスルホン酸の塩が、少なくとも1つの触媒系に使用され得る。
【0088】
少なくとも1つのルイス塩基付加物として、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、鉄アセチルアセトネート及び/又は亜鉛アセチルアセトネートなどの金属錯体化合物が、少なくとも1つの触媒系に使用され得る。
【0089】
成分(A)~(D)、すなわち式(III)の少なくとも1つの第一のシラン誘導体、その少なくとも1つの加水分解生成物及び/又は少なくとも1つの縮合生成物、少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、少なくとも1つのエポキシド化合物、並びに少なくとも1つの触媒系を含む少なくとも1つのハードコーティング組成物の使用により、高い硬さの少なくとも1つのハードコーティング製造が可能となり、これは傷防止性が高く、低い亀裂形成傾向を示し、少なくとも1つの機械的手段との接触により行われている表面形状の改質にかかわらず、好ましい。
【0090】
少なくとも1つのハードコーティングをもたらすことになる少なくとも1つのハードコーティング組成物は、縁ずり加工済みレンズのコーティングされていない又はプレコーティングされた縁表面にブラシ及び/又はドクターブレードにより塗布されることが好ましい。少なくとも1つのハードコーティングをもたらすことになる少なくとも1つのハードコーティング組成物は、縁ずりレンズの眼鏡レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた前面及び/又はコーティングされていない又はプレコーティングされた後面にディップコーティング又はスピンコーティングにより塗布されることが好ましい。少なくとも1つのハードコーティングをもたらすことになる少なくとも1つのハードコーティング組成物がコーティングされていない又はプレコーティングされた縁表面、コーティングされていない又はプレコーティングされた前面、及びコーティングされていない又はプレコーティングされた後面に同時に塗布される場合、少なくとも1つのハードコーティング組成物はディップコーティングで塗布されることが好ましい。
【0091】
少なくとも1つのハードコーティング組成物は、直接的加熱によって、又は少なくとも1つの電磁パルスの印加によって硬化及び/又は固化されることが好ましい。
【0092】
少なくとも1つの下塗りコーティングは、好ましくは、
i)少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレタン分散液、少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレア分散液、少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレタン-ポリウレア分散液、及び/又は少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリエステル分散液、好ましくは少なくとも1つの水性脂肪族ポリウレタン分散液又は少なくとも1つの水性脂肪族ポリエステル分散液、より好ましくは少なくとも1つの水性脂肪族ポリウレタン分散液、
ii)少なくとも1つの溶媒、
iii)任意に少なくとも1つの添加剤
を含む少なくとも1つの下塗りコーティング組成物に基づく。
【0093】
少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレタン分散液、少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレア分散液、少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリウレタン-ポリウレア分散液、及び/又は少なくとも1つの水性脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族又はヘテロ芳香族ポリエステル分散液が、少なくとも1つの下塗りコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つの下塗りコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは2重量%~38重量%、さらに好ましくは4重量%~34重量%、さらに好ましくは5重量%~28重量%、より好ましくは6重量%~25重量%、最も好ましくは7重量%~21重量%の範囲から選択される総量で存在する。総量は、前述の分散液のうちの1つのみの量又はこれらの混合物を含む。
【0094】
少なくとも1つの下塗りコーティング組成物は、好ましくは少なくとも1つの水性ポリウレタン分散液を含み、この場合、ポリウレタンは、スペーサーとしてポリエステル単位を含み、又はポリウレタン分散液は、ポリウレタン-ポリウレアの高分子鎖にウレタン基及び尿素基の両方が存在することを特徴とする、ポリウレタン-ポリウレア分散液である。このようなポリウレタン分散液は、例えば、国際公開第94/17116A1号パンフレット、特に国際公開第94/17116A1号パンフレットのページ7、11~33行に記載されている。水性ポリウレタン分散液は、国際公開第94/17116A1号パンフレット、特に国際公開第94/17116A1号パンフレットの7ページ、33~35行に記載されているように、アニオン安定化アクリルエマルションとブレンドされることができる。
【0095】
少なくとも1つの溶媒は、少なくとも1つの下塗りコーティング組成物に、それぞれ少なくとも1つの下塗りコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは68重量%~99重量%、さらに好ましくは69重量%~98重量%、より好ましくは81重量%~97重量%、最も好ましくは89重量%~93重量%の範囲から選択される量で存在する。前述の量は、1種類の溶媒に関して、同様に異なる溶媒の混合物に関して適用される。
【0096】
少なくとも1つの溶媒として好ましくは、常圧下で100℃未満の低沸点の少なくとも1つの有機溶媒と、常圧下で100℃~150℃の中沸点の少なくとも1つの有機溶媒が使用され得る。低沸点の少なくとも1つの有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、アクトン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,2-ジクロレタン、塩化メチレン、シクロヘキサン、酢酸エチル、n-ヘキサン、n-ヘプタン及び/又はメチルエチルケトンが使用され得る。好ましくは、低沸点の少なくとも1つの溶媒として、メタノール、エタノール、1-プロパノール及び/又は2-プロパノールが使用される。中沸点の少なくとも1つの有機溶媒として、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、1-ブタノール、ジブチルエーテル、1,4-ジオキサン、3-メチル-1-ブタノール、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、メチルイソブチルケトン及び/又はトルオールが使用され得る。好ましくは、中沸点の少なくとも1つの溶媒として、1-メトキシ-2-プロパノール及び/又は4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンが使用される。
【0097】
低沸点の少なくとも1つの溶媒の中沸点と少なくとも1つの溶媒との重量比は、好ましくは1:1、さらに好ましくは1:1.4、より好ましくは1:1.5、最も好ましくは1:1.7である。
【0098】
少なくとも1つの溶媒として、低沸点の少なくとも1つの有機溶媒、中沸点の少なくとも1つの溶媒、及び水が使用され得る。低沸点の少なくとも1つの溶媒と中沸点の少なくとも1つの溶媒と水の重量比は、好ましくは2:7:1、さらに好ましくは2.5:6.5:1、さらに好ましくは3:6:1、さらに好ましくは3:5:1、最も好ましくは3:6:1である。
【0099】
少なくとも1つの下塗りコーティング組成物は、任意に少なくとも1つの添加剤を含み得る。少なくとも1つの添加剤は、少なくとも1つの分散剤、少なくとも1つの沈降防止剤、少なくとも1つの湿潤剤、少なくとも1つの殺生物剤、少なくとも1つの紫外線吸収剤又はこれらの混合物を含み得る。
【0100】
成分i)~iii)、すなわち少なくとも1つの分散液、少なくとも1つの溶媒、及び任意選択的に少なくとも1つの添加剤を含む少なくとも1つの下塗りコーティング組成物は、塗布、乾燥、及び硬化の後に、少なくとも1つの下塗りコーティングとなる。少なくとも1つの下塗りコーティング組成物の硬化及び/又は固化は、直接加熱を通じて、又は少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって行われる。
【0101】
少なくとも1つのフォトクロミックコーティングは例えば、欧州特許第1433814A1号明細書、欧州特許第1602479A1号明細書、又は欧州特許第1561571A1号明細書に記載されているフォトクロミック組成物に基づき得る。通常フォトクロミック組成物をもたらすことになるコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングは、欧州特許第1433814A1号明細書、欧州特許第1602479A1号明細書、又は欧州特許第1561571A1号明細書に記載されている組成物を含み得るが、フォトクロミック染料は一切含まない。
【0102】
欧州特許出願公開第1433814A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の請求項1は、(1)ラジカル重合性モノマー100重量部と、(2)アミン化合物0.01~20重量部と、(3)フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示しており、ラジカル重合性モノマーは、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及び/又はイソシアナート基を有するラジカル重合性モノマーを含む。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書による、それに記載されたフォトクロミック組成物から得られるフォトクロミックコーティングと眼鏡レンズ基材との間の接着性を高めるために、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、或いはイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーが使用される。使用可能なモノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の3ページ、段落[0025]から、7ページ、段落[0046]に記載されている。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、他のラジカル重合性モノマーを含み得る。他の重合性モノマーとしては、得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのそのフォトクロミック特性を向上させるために、少なくとも60のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「高硬度モノマー」)と40以下のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「低硬度モノマー」)を組み合わせて用いることが好ましい。高硬度モノマー及び低硬度モノマーに関する例及び説明は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の7ページ、段落[0052]から、13ページ、段落[0096]に記載されている。得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのフォトクロミック特性のバランスを向上させるために、低硬度モノマーの量は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及びイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーを除く、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、5~70重量%であることが好ましく、高硬度モノマーの量は、5~95重量%であることが好ましい。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、高硬度モノマーとして、少なくとも3つのラジカル重合性基を有するモノマーを、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて少なくとも5重量%の量で含むことが、特に好まれる。さらに好ましくは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、ラジカル重合性モノマーは、硬度によって分類された前述のモノマーに加えて、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーを含む。少なくとも1つのエポキシ基を有するラジカル重合性モノマーを使用することにより、フォトクロミック化合物の耐久性及びフォトクロミックコーティングの接着性を向上させることができる。分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の13ページ、段落[0101]から14ページ、段落[0105]に開示されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーの量は、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、好ましくは0.01~30重量%、特に好ましくは0.1~20重量%である。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に記載のフォトクロミック組成物は、上記のラジカル重合性モノマーに加えて全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて0.01~20重量部の量の少なくとも1つのアミン化合物を含む。少なくとも1つのアミン化合物についての例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の14ページ、段落[0108]から15ページ、段落[0112]に記載されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に開示されたフォトクロミック組成物は、全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて、0.01~20重量部、好ましくは0.05~15重量部、より好ましくは0.1~10重量部の量の少なくとも1つのフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物に関する例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の15ページ、段落[0114]から20ページ、段落[0122]に記載されている。
【0103】
欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項9は、ラジカル重合性モノマー100重量部と、シリコーン系又はフッ素系界面活性剤0.001~5重量部と、フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示している。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと、アミン化合物と、フォトクロミック化合物とを含む。シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の総重量に基づいて、適切には0.5~20重量%、特に1~10重量%である。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書による、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと共に使用できる他のラジカル重合性モノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシジフェニル)プロパン、グリシジルメタクリレート、平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン又は平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレートなどである。他のラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には20~90重量%、特に40~80重量%である。アミン化合物、例えば、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート又はN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの使用量は、例えば、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.01~15重量%、特には0.1~10重量%である。ナフトピラン誘導体、クロメン誘導体、スピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体又はフルギミド誘導体などのフォトクロミック化合物の使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.1~30重量%、特には1~10重量%である。
【0104】
眼鏡レンズが少なくとも1つのフォトクロミックコーティング、好ましくは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングを含む眼鏡レンズの前表面を含む場合、眼鏡レンズは、任意に少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングを含み得る。好ましくは、眼鏡レンズの、好ましくは矯正用レンズの前表面は、少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングと、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングとを含み、フォトクロミックコーティングは、その最外層コーティングである。少なくとも1つのフォトクロミック下塗りは、欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項1に開示されたポリウレタン樹脂層、又は国際公開第03/058300A1号パンフレット、特に国際公開第03/058300A1号パンフレットの22ページ、3行から23ページ、13行に開示された下塗り層を含み得る。
【0105】
好ましくは、少なくとも1つのハードコーティング及び/又は少なくとも1つの下塗りコーティングの表面は、好ましくはプレキュアリング後に、少なくとも1つの機械的手段との接触によって改質される。
【0106】
少なくとも1つのフォトクロミックコーティング又は、通常少なくとも1つのフォトクロミックコーティングをもたらすことになるが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングの表面は、好ましくはプレキュアリングの後に、少なくとも1つの機械的手段との接触によるか、又は欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている、少なくとも1つの媒質との接触による方法により改質され得る。欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法を用いた表面改質の場合、少なくとも1つのフォトクロミックコーティング又は、通常少なくとも1つのフォトクロミックコーティングをもたらすが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングは硬化及び/又は固化されることが好ましく、すなわち、追加の硬化及び/又は固化ステップは不要である。
【0107】
欧州特許出願第19204745.4号明細書による少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つのフォトクロミックコーティング又は、通常少なくとも1つのフォトクロミックコーティングをもたらすことになるが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づくものの表面を改質することができるものであるが、少なくとも1つの有機酸を含む。少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和、任意選択的に置換されたモノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも2~22個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子を含む少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和モノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも1つの媒質としては、例えば酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘプタン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、オレイン酸、リシノール酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペインタン酸、ドコサペンタン酸、及び/又はドコサヘキサエン酸が使用され得る。好ましくは、少なくとも1つの媒質は、酢酸、乳酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、inoleic酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。より好ましくは、少なくとも1つの媒質は、乳酸、カプリン酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。代替的又は追加的に、少なくとも1つの媒質は、例えばクエン酸などのトリカルボキシル酸又は例えば塩酸などの無機酸を含み得る。少なくとも1つの媒質として、前述のものの1つ又はそれらの何れかの組合せが使用され得る。少なくとも1つの媒質は、市販の等級又は市販の品質で使用され得るか、又は少なくとも1つの媒質は希釈して使用され得る。少なくとも1つの媒質がインクジェット印刷で塗布される場合、少なくとも1つの媒質の粘性は印刷可能となるように調整されなければならないことがあり得る。さらに、少なくとも1つの媒質がインクジェット印刷で塗布される場合、少なくとも1つの媒質が印加される少なくとも1つの具体的な位置及び/若しくは少なくとも1つの具体的な領域、及び/又は印加される少なくとも1つの単電磁パルスのパラメータのバリエーション、及び/又はプロセス全体の持続時間のバリエーションに加えて、少なくとも1つの媒質を含むインクは、例えば少なくとも1つの媒質の濃度に関しても様々とし得る。そのため、前述のバリエーションの全ての可能性を考慮して、多種多様な実現可能な変更が可能である。
【0108】
プレキュアリングステップの代わりに、又はそれに加えて、少なくとも1つのコーティングの組成物は、例えば少なくとも1つのコーティングの粘性を高めるように調整され得る。
【0109】
少なくとも1つのコーティングは、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面にスピンコーティング法又はディップコーティング法により堆積されることが好ましい。
【0110】
本発明の一実施形態において、眼鏡レンズは、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法により少なくとも1つの媒質と接触すると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む。それぞれの表面改質は、少なくとも1つのマイクロレンズの創出又は最終的な光学表面の創出の何れかを含み得る。第一のシナリオである少なくとも1つのマイクロレンズの創出では、少なくとも1つのマイクロレンズは、周辺視のみに影響を与え、中心視は損なわないことが好ましい。装用者の中心視は、従来の金型成形、研削、及び/又は研磨プロセスにより実現される最終的な光学表面により補正又は補償され得る。第二のシナリオでは、装用者の中心視を補正/補償するために必要な処方された屈折力に基づく最終的な光学表面は、少なくとも1つのコーティングの表面を、少なくとも1つのコーティングの表面を改質できる少なくとも1つの媒質と接触させることによって、すなわち欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法で創出される。欧州特許出願第19204745.4号明細書による方法ではさらに、前述のシナリオの両方を組み合わせることができる。眼鏡レンズが、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法により少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングと、その表面が少なくとも1つの機械的手段と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み、何れの方法も、眼鏡レンズの改質された最終的な光学表面を創出することに適用され、それゆえ改質のための様々な可能性が提供される。
【0111】
要約すると、以下の実施形態は本発明の範囲内で特に好ましい。
【0112】
実施形態1:レンズ基材と少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基材を提供するステップと、
- レンズ基材の表面の少なくとも一方を少なくとも1つのコーティング組成物で覆うステップと、
- 少なくとも1つのコーティング組成物を乾燥及び/又はプレキュアリングして、それにより覆われる少なくとも1つの表面から流れ落ちないようにするステップであって、少なくとも1つのコーティング組成物は好ましくは、その下の隣接表面の表面形状を調整するステップと、
- 乾燥及び/又はプレキュアリングされたコーティング組成物の少なくとも1つの表面を少なくとも1つの機械的手段と接触させるステップと、
- 少なくとも1つの機械的手段を取り外すステップと、
- 少なくとも1つのコーティングを硬化及び/又は固化するステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面形状は改質されるステップと、
を所与の順序で含む方法。
【0113】
実施形態2:少なくとも1つのコーティング組成物は、少なくとも1つの下塗りコーティング組成物、少なくとも1つのハードコーティング組成物、少なくとも1つのフォトクロミック組成物、及び少なくとも1つのフォトクロミック組成物に似ているが少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まない少なくとも1つの組成物からなる群の少なくとも1つから選択される、実施形態1に記載の方法。
【0114】
実施形態3:少なくとも1つの機械的手段は、少なくとも1つのコンタクトヘッド、コンタクトヘッドのアレイ、少なくとも1つのコンタクトヘッドを含む装置、少なくとも1つの針、針のアレイ、及び/又は少なくとも1つの針を含む装置からなる群の少なくとも1つから選択される、実施形態1又は2の何れか1つに記載の方法。
【実施例】
【0115】
実施例1
ポリアリルジグリコールカーボネートに基づくコーティングされていないレンズ基材(0dpt、直径75mm)の両表面を、米国特許第5,316,791号明細書の実施例1による下塗り前駆体材料で、その後、欧州特許第2578649A1号明細書の実施例2によるハードコーティング組成物で被覆した。コーティングされたレンズ基材はまず、IRランプにより、周辺空気中、5分間、70℃で乾燥させた。その後、レンズ基材の前面上のハードコーティング組成物の表面を、すでに手作業でハードコーティング組成物に浸漬させ、手作業でハードコーティング組成物から引き抜いたコンタクトヘッドと接触させた。その後、前面を、60の電磁パルスからなる電磁パルストレインに周辺空気中で42秒のプロセス総時間内でさらした。各単電磁パルスの波長は、200nm~1000nmであった。60の電磁パルスの各々は、5.8J/cm2の照射量を送達した。60の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル14%で12のマイクロパルスに分割した。60の電磁パルスの各々の包絡線は126msであった。両方のハードコーティング組成物を硬化させ、それによって前面上のハードコーティングは、ハードコーティング組成物とコンタクトヘッドとの各接触点においてマイクロレンズを含む。マイクロレンズの1つの球面度数は+60ディオプトリであり、もう一方の球面度数は39ディオプトリであった。マイクロレンズの寸法は、Zygo CorporationのNewView 7100の光学粗面計を使って特定した。