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  • 特許-眼鏡レンズの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-15
(45)【発行日】2024-02-26
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20240216BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20240216BHJP
   G02C 11/00 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/10
G02C11/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023524759
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 EP2021079530
(87)【国際公開番号】W WO2022084557
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】20203727.1
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル-レネ クリストマン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイツ カリム
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ロベラ アダン
(72)【発明者】
【氏名】リュー ユジン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン リシャー
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ケストナー
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/078964(WO,A1)
【文献】特開2012-194547(JP,A)
【文献】国際公開第2006/135390(WO,A1)
【文献】特表2010-513953(JP,A)
【文献】特開2012-128173(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0353925(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02
G02C 7/10
G02C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの製造方法であって、前記眼鏡レンズは、レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含み、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを有するレンズ基材を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の少なくとも一方の表面を、少なくとも1つのコーティングで覆うステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を全面的又は部分的に少なくとも1つの媒質と接触させるステップと、
を含み、さらに、少なくとも、
- 少なくとも1つの単電磁パルスを、前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含む前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に印加するステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を取り除くステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を持つ少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は前記少なくとも1つの媒質と接触しているか又は接触していたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を前記少なくとも1つの媒質と全面的又は部分的に接触させる前記ステップは、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面上に前記少なくとも1つの媒質を印刷することによって行われることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含む前記眼鏡レンズの一方の表面に印加されることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングであることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのコーティングは、前記少なくとも1つの媒質と前記接触させるステップの前に活性化されるか又は活性化されないことを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの、任意選択により置換された、飽和又は不飽和有機脂肪族モノカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記全面的改質により、前記眼鏡レンズの最終光学表面が得られることを特徴とする、請求項1~8の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記部分的改質により、少なくとも1つのマイクロレンズが得られることを特徴とする、請求項1~9の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項11】
少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つの反射防止コーティング、及び少なくとも1つの透明コーティングからなる群の少なくとも1つから選択される少なくとも1つの別のコーティングが、前記少なくとも1つのコーティングの前記改質された表面に堆積されることを特徴とする、請求項1~10の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は少なくとも、印加される前記少なくとも1つの単電磁パルスによって調整又は調節可能であることを特徴とする、請求項1~11の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのコーティングの改質のために必要なプロセス総時間は100μs~7分の範囲内であることを特徴とする、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線は50μs~200msの範囲内であることを特徴とする、請求項1~13の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導ヒータ、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群より選択される少なくとも1つの電磁源により送達される光を含むことを特徴とする、請求項1~14の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの単電磁パルスの波長は100nm~1800nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1~15の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの媒質は、(i)少なくとも1つの単電磁パルスを前記印加するステップによって、又は(ii)少なくとも1つの単電磁パルスを前記印加するステップの後に、取り除かれることを特徴とする、請求項1~16の何れか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Brien A.HoldenらのGlobal Vision Impairment Due to Uncorrected Presbyopia,Arch Ophthalmol 2008,126(12):1731-1739によれば、距離に関する屈折異常を矯正しないことが視覚障害の最も一般的な原因とされている。Universal eye health:a global action plan 2014-2019,World Health Organization 2013において、WHOは2010年の視覚障害患者を2億8500万人と推定している。C.S.Y.LamらのDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)spectacle lenses slow myopia progression:a 2-year randomised clinical trial,Br J Ophthalmol 2019:0:1-6は、小児を対象としてDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)眼鏡レンズの試験を行っており、このレンズは例えば米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書、米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書、又は米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書においても開示されており、近視焦点ぼけを生じさせるものである。DIMS眼鏡レンズは、近視の小児において近視の進行及び眼軸長の伸長を遅らせることがわかっている。
【0003】
米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書は、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、眼の網膜以外の位置に結像させる機能を有する第二の屈折領域を含む、眼の屈折異常の進行を抑制するための眼鏡レンズを開示している。第二の屈折領域は、複数の個別の島様形状の領域として形成される。
【0004】
米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書は、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書で開示されているように第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズを開示している。米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書による第二の屈折領域は、相互に別々の複数の領域としてばらばらに配置されており、これらの第二の屈折領域の各々は第一の屈折領域により取り囲まれている。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書は、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第一の眼鏡レンズを開示している。第二の屈折力の各々は、眼鏡レンズの対物側表面から延びる凸形状に形成される。第二の屈折領域の各々は、第一の屈折領域の対物側表面より大きい曲率を有する。第二の屈折領域は、相互に異なる複数の屈折力を有する複数の屈折領域を含む。米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書はさらに、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第二の眼鏡レンズも開示している。第二の眼鏡レンズの第二の屈折領域は、複数の島様形状領域として非同心円状に形成され、第二の屈折領域の屈折力は第一の屈折領域の第一の屈折力より2.00D~5.00Dだけ大きい。米国特許出願第2020/0159044A1号明細書はさらに、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第三の眼鏡レンズを開示している。第三の眼鏡レンズの第二の屈折領域は所定の半径の円に内接する六角形を形成するように配置された複数の島様形状領域として非同心円状に形成される。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書は、焦点ぼけと眼の度数を制御するために、レンズを眼の中央視区域に対応するレンズ領域と、眼の赤道視区域に対応する凸レンズ領域に分割する多要素レンズを開示している。多要素レンズは、大きい焦点ぼけを発生させる大型ユニット凸レンズを含み、大型ユニット凸レンズ上での組合せを通じて小さい焦点ぼけ又は合焦状態を発生させる小型ユニット凹レンズ又は小さい焦点ぼけを発生させる小型単レンズが大型ユニット凸レンズ上の別に提供される。大型ユニット凹レンズと小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズとの間の接合部は漸進的ズーム構造又は段階的ズーム構造である。米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書はまた、大型ユニット凸レンズ上に、サブユニット凹レンズ又は中型単レンズも開示しており、各組合せが大型ユニット凸レンズのレンズとの組合せを通じて中程度の焦点ぼけを発生させる。サブユニット凹レンズ又は中型単レンズは小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズの外側リング上に配置され、リング状である。
【0007】
国際公開第2018/026697A1号パンフレットは、近視治療のための眼科レンズを開示している。レンズは、各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは1mm以下の距離だけ離間されたドットの列を含み、各ドットの最大寸法は0.3mm以下である。ドットは正方形のグリッド、六角形のグリッド、その他のグリッド上に、又はセミランダム若しくはランダムパターンに配置され得る。ドットは規則的間隔で離間されてもよく、又はドット間隔はドットのレンズの中心からの距離に応じて変化し得る。ドットパターンは1mmより大きい最大寸法の、ドットのない透明開口を含むことができ、透明開口は眼鏡の装用者の視軸と整合する。透明開口は実質的に円形又は同様の形状とすることができる。ドットは、対応するレンズの表面上の突出部でも凹部でもよい。突出部は透明材料から形成できる。突出部を製造するために、個別の材料部分を、例えばインクジェットプリンタを使って、レンズ表面上にドットパターンに対応するように堆積させる。個別の部分は、例えば光の照射を使って硬化させると突出部となる。ドットパターンは、ドットパターンを通じて見た物体の像コントラストを、透明開口を通じて見た物体の像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができる。国際公開第2018/026697A1号パンフレットによれば、この眼鏡は装用者に合わせてカスタマイズされ、とりわけ、それによってレンズは装用者の軸上視力を20/20以上に矯正する度数を有し、レンズは各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは装用者の周辺視野の少なくとも一部について、レンズが装用者の視力を20/25以上に矯正し、像コントラストを軸上像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができるように配置されたドットのアレイを含む。
【0008】
国際公開第2006/034652A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常の進行を治療する方法、特に近視の焦点ぼけを増強することによって近視の進行に対抗する方法及び遠視焦点ぼけを増強することによって遠視の進行に対抗する方法を開示する。方法は、人の眼の網膜に上に第一の像を生成するステップと、焦点ぼけを発生させるために第二の像を生成するステップを含む。焦点ぼけを変化させるために、眼の平衡状態が軸方向の眼の成長に影響を与えて正眼視に向かわせるべきである。この人工的なシフトは、好ましくは正常視を保持できるように従来の矯正と共に眼鏡レンズに組み込まれ得る。この眼鏡レンズは、フレネルレンズ又は、2つ以上の屈折力の同心円状の光学ゾーンを含む中心-周辺多焦点レンズであり得る。
【0009】
国際公開第2010/075319A2号パンフレットは、眼軸長に関係する障害を予防し、改善し、又は逆転させる治療処置方法を開示している。そのために、患者の視野の人工的なぼやけを導入することによって、眼の網膜に入る像の平均空間周波数を、眼軸のそれ以上の伸長を抑止する閾値空間周波数より低くする。人工的なぼやけを導入するために、ぼやけ誘導ガラスが使用される。ぼやけ誘導ガラスは、レンズの片方又は両方の表面上の小さい隆起又は凹み、レンズ内へのレンズ材料とは異なる材料の包含、レンズへの高レベルの収差の組み込み、周辺視により大きく影響を与える、より高レベルの収差の組み込み、レンズの上からレンズの下までの、片方又は両方のレンズへの累進的なマイナスの補正の提供、レンズの片方又は両方の表面に堆積されるコーティング又はフィルムによってぼやけを誘導する。例えばレンズの中央区域内の隆起又は凹みの密度を下げることにより、光景の、眼軸と軸方向に整合する部分について比較的正常な像の取得が容易になり、他方で、光景の、光軸と整合しない部分のぼやけは大きくなる。人工的ぼやけの量は、例えば隆起又は凹みの密度又は寸法を変化させることによって制御できる。
【0010】
国際公開第2019/166653A1号パンフレットは、人の眼の処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの不連続の光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子は非球面光学機能を有するレンズ要素を開示している。不連続の光学素子のうちの少なくとも1つは、例えば複屈折材料で製作される多焦点屈折マイクロレンズ、回折レンズであり得るか、又は人の眼の網膜の正面にコースティックを生じさせるよう構成された形状を有する。
【0011】
国際公開第2019/16654A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力及び第一の屈折力とは異なる第二の屈折力を有する屈折領域と、少なくとも3つの光学素子と、を含み、少なくとも1つの光学素子は、眼の網膜上に結像させない光学機能を有して、眼の屈折異常の進行を遅らせるレンズ素子を開示している。第一の屈折力と第二の屈折力との差は0.5D以上であり得る。
【0012】
国際公開第2019/166655A1号パンフレットは、人の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価球面屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成される。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価乱視屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成され得る。
【0013】
国際公開第2019/166657A1号パンフレットは、標準的装用状態で、中心視のために、装用者にその装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の屈折力を提供するように構成された処方部分と、複数の、少なくとも3つの光学素子であって、少なくとも1つの光学素子は、標準的装用条件で、周辺視のために、眼の網膜に結像しないようにして、眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有する光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子の少なくとも1つは、標準的装用条件で、周辺視のために、網膜以外の位置に結像させる光学的機能を有し得る。
【0014】
国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、装用者の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも2つの連続的光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子が、装用者の眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有するレンズ素子を開示している。国際公開第2019/166659A1号パンフレットによる連続的光学素子を有することによって、レンズ素子の審美性が改善され、レンズ素子表面の不連続性が限定される。少なくとも2つの連続光学素子は独立していてよい。
【0015】
国際公開第2019/206569A1号パンフレットは、装用者に、標準的装用条件で、その装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の光学機能を提供するように構成された処方部分と、複数の連続的光学素子を含むレンズ素子を開示している。各光学素子は、標準的装用条件での第二の光学機能と前記標準的装用条件で眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる第三の光学機能を同時に提供する同時の二焦点光学機能を有する。第二及び第三の光学機能を同時に提供する複数の連続的光学素子を有することにより、国際公開第2019/206569A1号パンフレットによれば、光の一部を装用者の網膜上に合焦させ、光の一部を装用者の網膜の前又は後ろの何れかに合焦させることによって近視又は遠視などの眼の屈折異常の進行を遅らせる、構成が容易なレンズ素子を有することが可能となる。さらに、このレンズ素子により、光のうち網膜上に合焦させる部分と、光のうち眼の網膜上に合焦させない部分を選択できることになる。国際公開第2019/026569A1号パンフレットはまた、レンズ素子を提供する方法も開示しており、これは、装用者に、標準的装用条件で、装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一屈折力を提供するように構成されたレンズ部材を提供するステップと、複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップと、レンズ部材の前又は後面の一方に光学パッチをセットすることによってレンズ素子を形成するステップと、を含む。代替的に、この方法は、レンズ素子を成形するステップと、成形中に複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップを含む。
【0016】
欧州特許第3531195A1号明細書は、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを含む眼鏡レンズを開示している。ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを得るために、第一のステップで、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも一方の表面がナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層で被覆され、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面がマスキングされる。第二のステップで、少なくとも1つのコーティングがナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層の上に堆積される。それによって、少なくとも1つのコーティングはナノ粒子及び/又はマイクロ粒子のほか、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面のナノ粒子及び/又はマイクロ粒子間の中間空間を被覆する。第三のステップで、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子が除去されて、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングがレンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に残る。
【0017】
欧州特許第2682807A1号明細書は、コーティングの所望の位置に追加の透明コーティングを堆積させることによって、所望の位置に開口を有するマスキング層を含め、マスキング層と開口の両方が眼鏡レンズのコーティングのみによりオーバコーティングされるようにすることによって、又はレンズ基材の所望の位置に色付けすることによって、眼鏡レンズの表面上にマークを形成する方法を開示している。追加の透明コーティングを堆積させる場合、第一のステップで、開口を有するマスキング層がマーキングされるレンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積される。第二のステップで、透明コーティングがマスキング層のほか、それぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面にマスキング層の開口を介して堆積される。第三のステップで、マスキング層とマスキング層の上の透明コーティングが除去され、それによって透明コーティングはそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面の上に残る。その後、透明コーティングが眼鏡レンズのコーティングで、例えば多層反射防止コーティング、多層反射コーティングの部分、及び撥水層でオーバコーティングされ、それによって目に見えるマークが得られる。マークは、光反射の違いによって見ることのできる装飾パターン、ロゴ、文字を構成し得て、それによって装用者の快適な視野が確保される。
【0018】
欧州特許第3339940A1号明細書は、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面上に、マスキング層を介してコーティングを堆積させる方法を開示しており、それによって、マスキング層を使用して、及び使用せずに堆積されたコーティングの屈折率の違いによって例えばロゴが確実に見えることになる。
【0019】
国際公開第2007/066006A2号パンフレットは、光学製品の表面にマイクロスケールのパターンを転写する方法を開示している。そのため、転写可能な材料の層がスタンプの表面上に堆積され、これはスタンプを光学製品の基材の表面上に堆積されたラテックスの未乾燥の層と接触させることによって転写されるパターンに対応するマイクロリリーフを構成する凹部と突出部を有する。スタンプに加えられる圧力に応じて、突出部に塗布された透明材料の層だけ、又は凹部と突出部に堆積された転写可能材料の層がラテックスの層に転写される。転写後、スタンプは除去される。
【0020】
米国特許出願公開第2002/0158354A1号明細書は、活性化光を使ってレンズ形成組成物を硬化させることにより、フォトクロミック、紫外線/可視光吸収カラープラスチックレンズの製造方法を開示している。活性化光源として、紫外光源、化学光源、可視光源、及び/又は赤外光源が使用され得る。レンズ形成材料としては、何れの適当な液体モノマー及び何れの適当な感光開始剤も含み得る。レンズ硬化ユニットは、とりわけレンズ形成材料を硬化させるのに必要なパルス式硬化照射における光の初期照射量を特定し、特定された量と十分に等しい強度及び持続時間の活性化光を当て、パルス式硬化照射において活性化光を次に当てるために必要な照射量を計算するコントローラを含む。パルス式活性光硬化シーケンスの代わりに、連続的活性化光シーケンスも使用され得る。後者の場合、光パルスを生成するための機器は不要であり、それゆえレンズ硬化装置のコストが削減される。
【0021】
国際公開第97/39880A2号パンフレットは、液体の重合可能レンズ形成組成物を型穴に入れ、複数の高強度光パルスをレンズ形成組成物に照射し、レンズ形成組成物を硬化させて、実質的に透明な眼鏡レンズを30分未満の時間で形成することによる眼鏡レンズの形成を開示している。好ましくはフラッシュライトなどの閃光の光源、例えばキセノン光源から発せられるパルスは、型穴内でパルスに露光される実質的に全てのレンズ形成組成物の中で反応が始まるのに十分な光強度を有する。国際公開第97/39880A2号パンフレットによれば、フラッシュライトを介したパルス光の照射の1つの利点は、より高強度の光が照射されても、パルス時間が非常に短いため、レンズ形成組成物を硬化させるために加えられる光エネルギーの総量が少なくてよいことである。国際公開第97/39880A2号パンフレットによれば、別の重要な利点は、比較的高質量のセミフィニッシュトレンズブランク及び高パワーのcast-to-finishレンズが、型穴から早期に外れることなく、また亀裂を生じることなく生産され得ることである。サイクル中の適正な時間に活性化光を中断又は減少させることによって発熱と離型の速度を制御でき、早期離型の発生率を減らすことができる。国際公開第97/39980A2号パンフレットによれば、300~400nmの範囲の波長の紫外光を吸収する光開始剤を含むレンズ形成組成物の硬化のほか、各々がUV光への露光により硬化可能で、各々が実質的に透明な複合コートを形成する光開始剤を含むコーティング組成物の硬化が可能である。
【0022】
国際公開第00/18569A2号パンフレットは、型/ガスケットアセンブリの中に入れられた重合可能レンズ形成組成物の硬化と、前記組成物をパルス式活性化光に連続的に露光させることを開示している。フラッシュランプ、例えばキセノン光源は、活性化光パルスを発出するために使用され得る。カラーレンズ、フォトクロミックレンズ、紫外線/光吸収無色レンズ、及び透明レンズが形成され得て、後者は無色の非フォトクロミック紫外線/可視光吸収組成物をレンズ形成組成物に添加することによる。紫外線/可視光吸収剤をレンズ形成組成物に添加することにより、フォトクロミックレンズ組成物の硬化に使用される、より高強度の露光要件下での透明レンズ組成物の硬化が可能となる。さらに、形成された透明レンズは、このような化合物を使用せずに形成された透明レンズより紫外線/可視光線に対するよりよい保護を提供し得る。さらに、国際公開第00/18569A2号パンフレットは、レンズ上に傷防止コーティング又はティントコーティングを形成するための型内方式を開示している。代替的に、レンズを脱型させてから、レンズに染色し得るか、又はレンズに傷防止コーティングを堆積させ得る。その後、傷防止コーティングは、活性化光線をレンズのこの面に当てることにより硬化される。レンズ形成組成物とコーティングは感光開始剤を含み得る。
【0023】
国際公開第2006/135390A2号パンフレットは、各々が活性化光のパルスを使用する、眼鏡レンズのコーティング組成物の、及びコーティングされていない眼鏡の硬化を開示している。ハードコートコーティング、反射防止コーティング、又はフォトクロミックコーティングなどのコーティングは、型内又は型外プロセスで硬化され得る。例えば、型内プロセスで製造されたハードコートコーティングと反射防止コーティングを含む眼鏡レンズが記載されており、型がコーティングと共にストロボランプからのフラッシュライトにさらされる。
【0024】
国際公開第01/94104A2号パンフレットは、可視光透過眼鏡レンズ上に反射防止コーティングを形成するための紫外光硬化可能液体組成物の使用を開示している。反射防止コーティングは、型内又は型外プロセスで形成され得る。ハードコート組成物は、反射防止コーティングの堆積前に堆積させられ得る。紫外光はフラッシュランプにより生成され得る。光パルスは、コーティング組成物の硬化に影響を与えるために使用され得る。
【0025】
国際公開第03/078145A2号パンフレットは、コーティング付き眼鏡レンズを製造するための型内プロセスを開示している。したがって、前側型部材の鋳造面を1つ又は複数のハードコート層で被覆してから、レンズ形成組成物を型穴に入れる。2つのハードコート層が使用される場合、第一のハードコート層内のピンホールなどの欠陥は全て、第二のハードコート層により覆われる。眼鏡レンズは、型内プロセス又は型外プロセスの何れかにより、反射防止コーティングでさらに被覆され得る。紫外光、化学線、可視光、又は赤外光を含む活性化光がコーティング組成物に照射されて、コーティング組成物の硬化が開始され得る。活性化光源として、殺菌ランプ、水銀蒸気ランプ、ハライドランプ、及び/又はストロボランプが使用され得る。ストロボランプを活性化光源として使用することにより、プロセスラン間での発熱が減少し、活性化光照射量は、照射される光の強度、活性化光のフラッシュ周波数、フラッシュされる活性化光の持続時間、及び/又は活性化光のフラッシュ数を制御することによって制御され得る。レンズ形成材料は、活性化光と相互作用する光開始剤を含み得る。
【0026】
国際公開第00/56527A1号パンフレットは、フォトクロミックの、紫外線/可視光を吸収する無色の、及び色付きのプラスチックレンズを型内プロセスでレンズ形成組成物を活性化光のパルスを用いて硬化させることによって製造するためのレンズ形成組成物を開示している。化学的変化に影響を与える、例えば重合化を起こさせることのできる活性化光としては、紫外光、化学線、可視光、又は赤外光が含まれ得る。フラッシュランプは、レンズ形成材料を硬化させるため、又はレンズコーティングを硬化させるための活性化光パルスの発出に使用され得る。液体コーティングを型内に入れ、続いてそれを硬化させることにより、表面上にハードコートを有するレンズが得られ得る。フラッシュランプはキセノン光源であり得る。キセノンフラッシュランプの比較的高い強度と短いパルス持続時間により、組成物に大きな放射熱を加えることなく、レンズ形成組成物を高速で硬化させることができ得る。キセノンフラッシュランプは、複数の活性化光パルスをレンズ形成組成物に照射して、30分未満でそれを眼鏡レンズへと硬化させるために使用され得る。キセノンフラッシュランプで実現可能な比較的高い強度により、レンズ形成組成物へのより深い浸透及び/又は飽和が可能となり得、それによって従来の放射により開始される硬化より厚いレンズを均一に硬化させることができる。
【0027】
国際公開第99/06887A1号パンフレットは、複数の活性化光パルスをレンズ形成組成物に照射することによって眼鏡レンズを形成するための型内プロセスを開示する。パルスは、キセノン光源などのフラッシュライトから発し得る。フラッシュランプはまた、レンズコーティングを硬化させるためにも使用され得る。国際公開第99/06887A1号パンフレットはさらに、傷防止コーティングを形成するための型内プロセスを開示しており、これは、第一のコーティング組成物を型部材の中に入れ、第一のコーティング組成物を型部材の鋳造面全体に分散させ、活性化光を型部材に当てて、第一のコーティング組成物の少なくとも一部を硬化させ、第二のコーティング組成物を型内に入れ、第一及び第二のコーティング組成物は各々光開始剤を含み、第二のコーティング組成物を第一のコーティング組成物上の全体に分散させ、活性化光を型部材に当てて、第二のコーティング組成物の少なくとも一部を硬化させ、実質的に透明な複合コートを形成し、型部材と第二の型部材を組み立て、光開始剤を含むレンズ形成組成物を穴内に入れ、活性化光を型に当てて、レンズ形成材料の少なくとも一部を硬化させてコーティング付きの眼鏡レンズを形成することによる。代替的に、眼鏡レンズは脱型され、その後染色され得るか、傷防止コーティングがレンズに堆積され得る。レンズ形成組成物は、フォトクロミック染料など、活性化光吸収化合物を含み得て、活性化光吸収化合物は、紫外光がその眼鏡レンズを装用する使用者の眼へと透過するのを防止する。
【0028】
欧州特許出願第20182515.5号明細書は、少なくとも1つの単電磁パルスを当てることにより、少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させる方法を開示している。少なくとも1つのコーティング前躯体材料は、ハードコーティングを得られるハードコーティング前駆体材料を含み得る。少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させるのに必要な全体的なプロセス時間は、例えばオーブン内で熱を直接加える従来の熱硬化プロセスと比較して、短縮される。さらに、光学特性及び/又は機械的特性は、少なくとも1つの単電磁パルスのプロセスパラメータを変化させることにより調整可能である。
【0029】
眼の網膜の前又は後に周辺視焦点を生じさせることで眼が成長するための眼網膜への刺激を軽減又は停止するという理論に基づいて、上述のように眼鏡レンズのための幾つかのデザインが提案されている。刺激は周辺視のための近視又は遠視の焦点ぼけ、すなわち焦点が網膜の背後又は網膜の前方に位置することから生じるものである。例えば近視眼の屈折を、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1による第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正する場合、眼の屈折異常を矯正するための処方された屈折力に基づく屈折力を有する六角形の第一の屈折領域を通じた中心視において、無限遠からの光束は第一の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、網膜の真上に、正確には眼の網膜中心窩の真上にある焦点に集束する。無限遠の物点は、眼鏡レンズ装用者にとって完璧な像を形成する。したがって、中心視では、眼は本来通りの成長ができなくなるような解剖学的状態がないかぎり、本来通りに成長すると仮定される。米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1に示される第二の屈折領域のうちの1つを通した周辺視では、無限遠からの光束は、第二の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、眼の網膜の前方にある焦点に集束する。したがって、焦点が眼の網膜の前方に位置する周辺視では、眼は眼軸長伸長の速度を低下させるか、又はさらにはそれを完全に停止させると仮定される。しかしながら、眼の網膜の湾曲はそれほど均一ではないため、無限遠から入射して、第二の屈折領域のうちの何れか1つ、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折した光束は、必ずしも眼の網膜の前方にある焦点に集束するとはかぎらない。さらに、眼の網膜及び眼自体の解剖学的構造は個別の形状又は湾曲を有し、それゆえ人によって異なる。同じ人物の左眼の網膜と右眼の網膜でさえ同じ形状又は湾曲ではない。近視又は遠視の進行は、各眼鏡レンズ装用者の屈折を、例えば米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1のように同じ所定の第一の屈折領域と同じ所定の第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正しても抑制できない。米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書には、第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズの製造方法について一切記載されていない。例えば国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、及び国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、それらの中に記載された眼鏡レンズの製造に関して、直接表面加工、成形、鋳造、若しくは射出成形、エンボス加工、成膜、又はフォトリソグラフィなどの異なる技術を提案している。例えばそれを製造するために成形プロセスを使用した場合、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書、国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、又は国際公開第2019/166659A1号パンフレットに記載の眼鏡レンズは、各々、それぞれの眼鏡レンズを得ることができるようにするために極めて高い堅牢性と高い品質の種型を必要とする。ガラス製の型は、上述の要求事項を満たすが、加工が難しく、コストが高い。成形プロセスの使用には、それによって実現すべき各光学表面のために異なる種型が必要であり、これは例えば効率及びコスト面の理由から、超高スループットの製造プロセスには適していない。
【0030】
前述の方法に加えて、特に(射出)成形及びリソグラフィに加えて、国際公開第2020/078964A1号パンフレットは、光学製品であって、ベースとなるレンズ基材、傷防止コーティング、及び耐摩耗コーティングの前面から、又は後面から突出する少なくとも1つの光学素子を含む光学製品の製造方法として、耐摩耗コーティングの前面から突出する少なくとも1つの光学素子のアディティブマニュファクチャリングを提案している。
【0031】
型を必要とせずにあらゆる所望の光学表面を製造する、非常に信頼できる方法が、欧州特許第3812142A1号明細書として公開された欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている。欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法によれば、従来の研削及び研磨プロセスでは実現不能な最終的光学表面の製造も可能である。本願で開示されている方法は、レンズ基材のために使用される光学材料を問わない。この方法では、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材を完全に、又は少なくとも部分的に覆う少なくとも1つのコーティングがあればよく、この少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と接触し、又はそれと接触させられた時に改質可能である。少なくとも1つのコーティングの改質は好ましい点として、不可逆的であり、長期的に安定である。例えば欧州特許第3531195A1号明細書又は国際公開第2020/078964A1号パンフレットとは異なり、あらゆる所望の最終的光学表面を改質する、又は適応させる、及び/又は製作するための追加のコーティングは不要である。しかしながら、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されているように、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングの接触時間の長さは、好ましくは25分~30時間、さらに好ましくは30分~20時間、より好ましくは35分~15時間、最も好ましくは40分~10時間の範囲内にある。少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と室温で、すなわち22℃±2℃の温度で、又は好ましくは25℃~80℃、さらに好ましくは27℃~55℃、より好ましくは30℃~50℃、及び最も好ましくは35℃~45℃の温度範囲を含む、より高い温度で接触させられ得る。少なくとも1つのコーティングは、好ましくは280nm~1200nmの波長範囲のキセノン光を照射しながら少なくとも1つの媒質と接触させられ得る。欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示された上述のプロセス条件は、いかなる所望の方法でも組み合わせてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
欧州特許出願第19204745.4号明細書とは別に、本発明の課題は、その中で開示されている製造方法を加速させることである。あらゆる所望の光学表面を得るための時間を大幅に短縮させるべきであり、その一方で、製造方法、すなわち少なくとも1つのコーティングを少なくとも1つのコーティング自体を改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させることは保持されるべきである。さらに、レンズ基材の光学材料は制限されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この課題は、特許請求項1及び17に記載の眼鏡レンズの製造方法によって、及び請求項31に記載の眼鏡レンズの表面の改質方法によって解決されている。
【0034】
特定の光学表面を有する眼鏡レンズの前述の製造方法と異なり、欧州特許出願第19204745.4号にすでに記載されているように、前述の光学表面の何れか1つを含む、又は他の何れかの目標の最終光学表面を含む眼鏡レンズの製造方法は、レンズ基材と、少なくとも1つのコーティングであって、この少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズに基づく。しかしながら、欧州特許出願第19204745.4号明細書とは異なり、何れかの目標の最終光学表面を得るためには、少なくとも1つのコーティングの表面と少なくとも1つの媒質との接触時間は、欧州特許出願第19204745.4号明細書に開示されている全ての変形型を組み合わせることによって、すなわち温度を上げることによって、及びキセノンランプを照射することによって、及び脱塩水を散布することによってではなく、少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズに印加することによって大きく短縮されることがわかっており、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質と接触しているか、すでに接触させられている。さらに、何れかの目標の最終光学表面を有する眼鏡レンズを取得するためのプロセス総時間は、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている前記変形型の全てを組み合わせることによってではなく、少なくとも1つの単電磁パルスを眼鏡レンズの表面の少なくとも一方に印加することによって大きく短縮され、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ基材は、
(i)前面に、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み、
(ii)後面に、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み、
(iii)前面に、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングと、後面に、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み、
前記少なくとも1つのコーティングの各々は、前記少なくとも1つのコーティングの各々を改質することができる少なくとも1つの媒質と接触しているか、すでに接触させられている。眼鏡レンズが眼鏡レンズの一方の表面のみに、すなわちその前面又は後面の何れかに、前記少なくとも1つのコーティングを改質することができる前記少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な前記少なくとも1つのコーティングを含む場合、眼鏡レンズの目標の最終光学表面を得るために少なくとも1つの単電磁パルスが前記前面に印加されるか、前記後面に印加されるかを問わないことが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスを、いわゆるフラッシュライトアニーリング又はフォトニック硬化法を使って印加することはこれまで、それほど自明ではなく、なぜならこの方法にはレンズ基材、少なくとも1つの改質可能コーティング、及び少なくとも1つの媒質を高強度の超短光パルスに暴露させることを含むからである。このフォトニック硬化方法の主な利点は、例えば1000℃より高い温度を短時間で得られ、温度感受性のある光学材料に基づき得て、そのような高温に耐えられないようなレンズ基材に影響を与えないことである。各単電磁パルスのきわめて短い時間尺度から、温度感受性のある光学材料に基づくレンズ基材を劣化させずに、少なくとも1つのコーティングを選択的処理が可能となる。少なくとも1つの単電磁パルスは、好ましくは少なくとも1つのキセノンフラッシュランプからの少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群より選択される少なくとも1つの電磁源から印加できる。少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプから印加されることが好ましい。少なくとも1つのフラッシュランプは、キセノン、クリプトン、及び/又はアルゴンから選択されるガス、好ましくはキセノンが充填されたフラッシュランプであることが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスは好ましくは、100nm~1800nmの範囲、より好ましくは150nm~1300nmの範囲、最も好ましくは200nm~1000nmの範囲の波長を有する。少なくとも1つの単電磁パルスは好ましくは、350nm~1000nmの範囲、より好ましくは400nm~800nmの範囲、最も好ましくは420nm~700nmの範囲の波長を有する。上述の電磁源のうちの少なくとも1つから印加される少なくとも1つの単電磁パルスの波長は、好ましくはこれらの波長範囲内である。少なくとも1つの単電磁パルスは眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも1つ、すなわち(i)眼鏡レンズの前面に、(ii)眼鏡レンズの後面に、又は(iii)眼鏡レンズの前面と後面に印加される。少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面と後面に印加される(iii)の場合、前述の電磁源のうちの1つの位置は、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加されるか、後面に直接印加されるように交代され得る。代替的に、上述のケース(iii)では、前述の電磁源の少なくとも2つが、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加され、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの後面に直接印加されることが同時に又は交互に行われるように位置付けられる。少なくとも2つの電磁源が使用される何れの場合も、これらの少なくとも2つの電磁源は同じ種類でも異なる種類でもよい。
【0035】
眼鏡レンズの表面の一方のみが、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む場合、少なくとも1つの単電磁パルスは、眼鏡レンズのうち前記少なくとも1つのコーティングを含む表面に印加され得るか、又は少なくとも1つの電磁パルスは眼鏡レンズのうち、少なくとも1つのコーティングを含まない表面に印加され得る。再び、以下の説明を参照されたい。眼鏡レンズの前面と後面の両方が各々、少なくとも1つのコーティングを含み、各々が少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能である場合、少なくとも1つの単電磁パルスは、(i)眼鏡レンズの前面、(ii)眼鏡レンズの後面、又は(iii)眼鏡レンズの前面と後面に印加され得る。前記ケース(iii)の場合、電磁源に関する前述の可能性が当てはまる。
【0036】
欧州特許出願第19204745.4号明細書がすでに、好ましくは280nm~1200nmの波長を有するキセノン光の照射を提案していることを考慮すると、例えば、好ましくはキセノンガスが充填された少なくとも1つのフラッシュランプから発せられた少なくとも1つの単電磁パルスを印加すること、すなわちフォトニック硬化方式によるものが、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングの最終光学表面を得るためのプロセス総時間が大幅に短縮させることは、はるかに大きな驚きであった。さらに、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法と比較してプロセス総時間を短縮するために、少なくとも1つの単電磁パルスの印加以外に、追加の作業は不要である。換言すれば、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを接触させることにより、少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後、すなわちフォトニック硬化方式の使用により、少なくとも1つのコーティングのあらゆる所望の、又は目標の最終光学表面が、欧州特許出願第19204745.4号に記載されている方法と比較して大幅に短縮されたプロセス総時間で得られる。
【0037】
「単電磁パルス」とは、前述の電磁源のうちの少なくとも1つにより送達され、少なくとも1つの改質可能コーティングを含む眼鏡レンズのうち少なくとも一方の表面に印加される光を意味し、少なくとも1つの改質可能コーティングはそれによって、(i)少なくとも1つの媒質と全面的に若しくは少なくとも部分的に接触するか、(ii)少なくとも1つの媒質により全面的に若しくは少なくとも部分的に覆われる。少なくとも1つの単電磁パルスは、上で定めた波長範囲のうちの1つで印加され得る。少なくとも1つの単電磁パルスは、所定の持続時間、すなわち所定の包絡線を有することが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線とは、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加される期間として定義され、その少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質により全面的に又は少なくとも部分的に覆われている。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線はさらに、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質と接触させられた、又は少なくとも1つの媒質により覆われたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの少なくとも一方の表面に印加される期間として定義され、少なくとも1つの媒質は少なくとも1つのコーティングを改質することができる。包絡線は、50μs~200msの範囲、好ましくは100μs~150mnsの範囲であり得る。各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスの各々は、各単電磁パルスの包絡線内の所定の持続時間を有する。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスの持続時間は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内のマイクロパルス全部の持続時間のパーセンテージは、単電磁パルスのデューティサイクルとして定義される。さらに、少なくとも1つの単電磁パルス又は少なくとも1つのマイクロパルスは所定のピーク強度を有する。ピーク強度とは、1つの単電磁パルス又は単電磁パルス内の1つのマイクロパルスによって光エネルギーが単位時間当たりに少なくとも1つのコーティングの単位面積に印加される速度として定義され、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質により完全に又は少なくとも部分的に被覆される。ピーク強度は好ましくは、0.01W/cm~200W/cmの範囲、さらに好ましくは0.1W/cm~150W/cm、より好ましくは0.5W/cm~100W/cm、最も好ましくは1W/cm~60W/cmの範囲内である。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は相互に同じであることが好ましい。単電磁パルスの包絡線内の2つの連続するマイクロパルス間のピーク強度は、ゼロである必要はなく、一定である必要はなく、等しい必要はない。必要に応じて、各単電磁パルスが繰り返されて電磁パルストレインが提供され得る。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2回、最大1000回繰り返され得て、各単電磁パルスは2~100回繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、同じ単電磁パルスが繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は同じであることが好ましい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスは、それらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスはそれらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じであることが好ましい。少なくとも2つの単電磁パルスを含む電磁パルストレイン内で、少なくとも2つの単電磁パルスは0.1Hz~5Hz、好ましくは0.2Hz~4Hz、さらに好ましくは0.3Hz~3.5Hz、最も好ましくは0.4~2Hzの範囲の繰り返し率で繰り返され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線内の少なくとも1つの単電磁パルスのピーク強度は、包絡線内で、及び/又は少なくとも1つの単電磁パルス内の各マイクロパルスと共に漸減し得る。例えば、この減少は少なくとも1つの単電磁パルスを発生させるために使用される電磁源の充電コンデンサの限界による可能性がある。少なくとも1つの単電磁パルスによって少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズに付与される照射量は、各単電磁パルスと共に包絡線の持続時間全体にわたり送達される平均強度であり、この少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質で完全に、又は少なくとも部分的に覆われ、各単電磁パルスは各々が個別の量の強度を送達する少なくとも2つのマイクロパルスを含んでいてもいなくてもよい。少なくとも1つの単電磁パルスにより付与される照射量は好ましくは、0.001J/cm~50J/cm、さらに好ましくは0.1J/cm~30J/cm、より好ましく間は1J/cm~20J/cm、最も好ましくは2.0J/cm~15J/cmの範囲内であり得る。特に好ましくは、付与される照射量は3J/cm~8J/cmの範囲内である。
【0038】
少なくとも1つの単電磁パルスの前述のプロセスパラメータの何れの1つの何れの変更も、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質で改質可能な少なくとも1つのコーティングに印加されたときに得られる光学表面に影響を与え得る。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスの前述のプロセスパラメータの何れの1つの何れの変更も、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの表面に印加されたときに得られる光学表面に影響を与え得る。例えば少なくとも、例えば少なくとも1つのマイクロレンズである表面改質の幅と高さに関する寸法が、適当な少なくとも1つの単電磁パルスを印加することによって調整可能であるだけでなく、表面改質の形状も、印加される少なくとも1つの単電磁パルスによって調整可能である。それゆえ、少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒体で部分的又は全面的に被覆される少なくとも1つのコーティングに印加することにより、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている接触時間と比較してプロセス総時間が大幅に短縮されるだけでなく、それと同時に、少なくとも1つのコーティングの取得可能な表面改質の可能性が広がる。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの表面に印加することにより、すなわち少なくとも1つの単電磁パルスを少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの表面と反対の眼鏡レンズの表面に印加することにより、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている接触時間と比較してプロセス総時間を大幅に短縮するだけでなく、それと同時に、少なくとも1つのコーティングの取得可能な表面改質の可能性を広げる。
【0039】
少なくとも1つの単電磁パルスの印加は正確に1つの単電磁パルスの印加を含み、正確に1つの単電磁パルスは前述のように少なくとも2つのマイクロパルスに細分され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの印加はまた、幾つかの単電磁パルス、好ましくは少なくとも2つの単電磁パルス、さらに好ましくは複数の単電磁パルスの印加も含み、各々が同じく前述のように少なくとも2つのマイクロパルスに細分され得る。単電磁パルスの正確な数に関係なく、少なくとも1つの単電磁パルスに関する前述の説明が当てはまる。
【0040】
眼鏡レンズは、前面、すなわちISO 13666:2019(E)のセクション3.2.13によればレンズのうち眼と反対側に位置付けられることが意図される表面及び/又は後面、すなわちISO 13666:2019(E)のセクション3.2.14によればレンズのうち、より眼の近くに位置付けられることが意図される表面に、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含み得る。上述の定義による前面という用語と後面という用語は、レンズ基材にも当てはまる。好ましくは、眼鏡レンズは、その前面に、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む。少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つの改質可能コーティングを含む眼鏡レンズの前面及び/又は後面に印加され得る。好ましくは、少なくとも1つの単電磁パルスは眼鏡レンズの前面に印加され、前面は好ましくは、少なくとも1つのコーティングと少なくとも1つの媒質を含む。さらに好ましくは、眼鏡レンズ又は眼鏡レンズ基材の前面の少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つのコーティングの表面形状を変更できる少なくとも1つの媒質で全面的又は部分的に覆われるか、少なくとも1つのコーティングの表面形状を変更できる少なくとも1つの媒質と全面的又は部分的に接触する。
【0041】
しかしながら、眼鏡レンズが少なくとも1つの改質可能コーティングとその少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質をその前面及び後面において含む場合、少なくとも1つの単電磁パルスはそれでも一方の表面のみ、例えば前面に印加され得る。この場合、眼鏡の反対の面、ここでは後面の少なくとも1つのコーティング、すなわち少なくとも1つの少なくとも1つの媒質によって全面的に又は少なくとも部分的に覆われている少なくとも1つのコーティングは、一方の表面のみ、ここでは前面に印加された少なくとも1つの単電磁パルスによって同時に、及び好ましくは同じ時間内に改質され得る。この同時の改質は、レンズ基材及び少なくとも1つの改質可能コーティングの透明性のわずかな違いによる少なくとも1つの単電磁パルスからレンズ基材の前面及び後面の両方へのエネルギーの伝送に基づくと仮定される。透明性は好ましくは、ある波長での透過率であり、透過率は好ましくは、UV VIS分光計、例えばPerkin Elmer社のPerkin Elmer 950SのUV VIS分光計を使って特定される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、少なくとも1つの改質可能コーティング及び/又は少なくとも1つの媒質及び/又はレンズ基材によって吸収されないか、ほとんどわずかしか吸収されない部分は、あらゆるあり得る界面、例えばレンズ基材と隣接するコーティングとの間の界面及び/又はその上に眼鏡レンズが乗せられるステージと隣接するコーティングとの間の界面及び/又はその上に眼鏡レンズが乗せられるステージと隣接する少なくとも1つの媒質との間の界面で反射される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、例えばレンズ基材により吸収される部分は、レンズ基材の短い瞬間的加熱をもたらしながら、レンズ基材を劣化させないようにすると仮定される。それに加えて、レンズ基材の短時間の瞬間的加熱により、温度は少なくとも1つの改質可能コーティングの温度より高いため、反対の表面上の少なくとも1つのコーティングの改質は印加される少なくとも1つの単電磁パルスにより引き起こされる間接的な影響に基づくと仮定される。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスの、その上に眼鏡レンズが乗せられるステージからの後方反射もまた、少なくとも1つの単電磁パルスが直接的には印加されない反対の表面の上の少なくとも1つのコーティングの改質に寄与すると仮定される。少なくとも1つの単電磁パルスからの直接的なエネルギー伝達、加熱されたレンズ基材からの間接的なエネルギー伝達、及びステージからの間接的なエネルギー伝達の組合せは、少なくとも1つの単電磁パルスを表面のうちの1つのみに印加することによって眼鏡レンズの前面及び後面上での少なくとも1つの媒質による少なくとも1つのコーティングが同時に改質される筋の通った説明であると仮定される。プロセス全体の持続時間は、少なくとも1つの単電磁パルスを1つの表面に印加することによって延長されることはなく、又は少なくとも大幅に延長されることはなく、両方の表面上の少なくとも1つのコーティングを同時に改質することが好ましい。
【0042】
前述の説明は、眼鏡レンズの表面の一方のみ、例えば前面が、少なくとも1つの媒質により変質可能な少なくとも1つのコーティングを含み、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの反対の表面、例えば後面のみに印加される場合に有効であると仮定される。少なくとも1つの媒質により全面的若しくは部分的に覆われると改質可能又は少なくとも1つの媒質と全面的若しくは部分的に接触しているか若しくは接触させられていたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングの表面改質は(この少なくとも1つの媒質は少なくとも1つのコーティングを改質する、特に少なくとも1つのコーティングを表面改質することができる)、少なくとも1つの単電磁パルスからレンズ基材の表面へのエネルギー伝送によるものと仮定される。このエネルギー伝送自体は、レンズ基材と少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングの透明性のわずかな違いによると仮定されている。透明性は好ましくは、ある波長での透過率であり、透過率は好ましくは、UV VIS分光計、例えばPerkin Elmer社のPerkin Elmer 950SのUV VIS分光計を使って特定される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、レンズ基材によって吸収されないか、ほとんどわずかしか吸収されない部分は、あらゆるあり得る界面、例えばレンズ基材とあらゆる隣接するコーティングとの間の界面及び/又はその上に眼鏡レンズが乗せられるステージとあらゆる隣接するコーティングとの間の界面で反射される。少なくとも1つの単電磁パルスの光のうち、例えばレンズ基材により吸収される部分は、レンズ基材を短時間だけ瞬間的に加熱させ、それでもレンズ基材を劣化させないようにする役割を担うと仮定される。それに加えて、レンズ基材の短い瞬間的な加熱によって、温度は少なくとも1つの改質可能コーティングの温度より高くなるため、眼鏡レンズの、単電磁パルスが直接印加されない反対の表面上の少なくとも1つのコーティング、特に少なくとも1つのコーティングの表面の改質は、印加された少なくとも1つの単電磁パルスによって引き起こされた間接的な影響に基づくと仮定される。さらに、眼鏡レンズがその上に載せられるステージからの少なくとも1つの単電磁パルスの後方反射もまた、少なくとも1つの単電磁パルスが直接印加されない反対の表面上の少なくとも1つのコーティングの改質に寄与すると仮定される。加熱されたレンズ基材からの間接的なエネルギー伝送及びステージからの間接的なエネルギー伝送は、少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズのその表面に印加することによる、少なくとも1つのコーティング、特に少なくとも1つのコーティングの表面の改質の合理的説明であると仮定される。好ましくは、プロセス総時間は、少なくとも1つの単電磁パルスが一方の表面にしか印加されないが反対表面の少なくとも1つのコーティングも改質されることにより、長くならないか、少なくとも大きくは長くならない。
【0043】
少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加している間に、少なくとも1つの単電磁パルスの照射量が、少なくとも1つのコーティングを全面的に若しくは少なくとも部分的に覆う少なくとも1つの媒質を完全に蒸発させる、若しくは少なくとも1つの媒質をランダムに変位させるほど高すぎないように、又は少なくとも1つの媒質をランダムに変位させないように特に注意を払うことが好ましく、ランダムな変位は例えばライデンフロスト効果によると仮定される。少なくとも1つの媒質が完全に蒸発すると、その結果、目標の光学表面は取得可能でなくなるか、完全には取得可能でなくなる。少なくとも1つの媒質の制御されないランダムな変位により、目標光学表面が取得可能ではなくなる。代替的に、少なくとも1つの媒質の、例えばライデンフロスト効果を利用して制御される変位は、少なくとも1つの単電磁パルスが印加される前に少なくとも1つの媒質と接触していなかった、又はそれによって覆われていなかった位置における少なくとも1つのコーティングを改質するために使用され得る。近視の制御等の幾つかの用途において、これらの手法の1つはぼやけを誘導する。これに関して、少なくとも1つの単電磁パルスの印加中の少なくとも1つの媒質の制御された、又はさらには制御されない変位は、少なくとも1つの媒質の変位量又は少なくとも1つの媒質の変位距離などの変位パラメータを調整又は変更するために使用され得る。
【0044】
少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加することによって、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法で実現可能な目標光学表面と同じ目標光学表面が得られるが、プロセス総時間は欧州特許出願第19204745.4号明細書で必要な接触時間又はプロセス総時間よりはるかに短い。プロセス総時間、すなわち前述のように少なくとも1つの単電磁パルスを使用することによってコーティングされた又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも1つの表面に堆積された少なくとも1つのコーティングを改質するのに必要な総時間は、好ましくは100μs~7分、さらに好ましくは300μs~5分、より好ましくは500μs~4分、最も好ましくは1ms~3分の範囲内にある。例えば、少なくとも1つのコーティングを、少なくとも1つの媒質と接触させることによって改質し、高さ800nm、幅500nmの3Dガウスプロファイルを有する少なくとも1つのマイクロレンズを得るために、少なくとも1つの単電磁パルスが印加されるプロセス総時間は70秒未満であるが、欧州特許出願第19204745.4号に記載されている条件を使用することによって同じ少なくとも1つのマイクロレンズを創出するためには、約20時間の接触時間又はプロセス総時間が必要である。
【0045】
少なくとも1つの単電磁パルスを使用して少なくとも1つの媒質と共に少なくとも1つのコーティングを改質することは、バッチプロセス又は連続プロセスで行われ得る。バッチプロセスは、例えば少なくとも1つの単電磁パルスの印加中に変位させずに行われ得る。連続プロセスは、例えば少なくとも1つの単電磁パルスの印加中に変位させながら行われ得る。連続プロセスの例は、コンベヤベルトを使用するプロセスである。バッチプロセスでも連続プロセスでも、少なくとも1つのコーティング又は少なくとも2つのこのような眼鏡レンズを改質することができる少なくとも1つの媒質で全面的に又は少なくとも部分的に覆われた少なくとも1つの改質可能なコーティングを含む1つの眼鏡レンズ又は2つのこのような眼鏡レンズは、少なくとも1つの単電磁パルスが印加されるときにステージ上にあり得る。少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つの改質可能なコーティングを含み、少なくとも1つの改質可能なコーティングと直接接触していて、少なくとも1つの媒質は少なくとも1つの媒質を改質することができる眼鏡レンズに印加する1つの主な利点は、少なくとも1つの単電磁パルスの印加による眼鏡レンズの局所的暴露が可能である点である。それゆえ、少なくとも1つの単電磁パルスの照射量は、眼鏡レンズの異なる領域に合わせて調整又は変更し得る。少なくとも1つの単電磁パルスの印加の結果、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの改質が得られ得て、少なくとも1つの改質はあらゆる任意の形態又は形状の少なくとも1つのマイクロレンズである。少なくとも1つの単電磁パルスの照射量の調整又は変化は、例えばマイクロレンズの度数の勾配を可能にし得て、又はそれを得るために使用され得る。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの改質が得られ得て、この少なくとも1つの改質によって最終光学表面が得られるか、又は眼鏡レンズの最終光学表面が得られる。好ましくは、連続プロセスは、眼鏡レンズの異なる領域によって、印加される少なくとも1つの単電磁パルスの照射量を調整し、又は変化させるために使用される。前述のように、少なくとも1つの単電磁パルスを眼鏡レンズの少なくとも前面に、及び眼鏡レンズの後面に、直接又は間接的に、バッチプロセスで印加するか、連続プロセスで印加するかを問わず、少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングの選択的な表面改質が可能となる。選択的表面改質は、少なくとも、眼鏡レンズの少なくとも1つの表面のうち少なくとも1つの単電磁パルスが印加される少なくとも1つの位置を具体的に選択できることを含むことが好ましい。眼鏡レンズの少なくとも1つの表面の少なくとも1つの具体的に選択された位置は、少なくとも1つの単電磁パルスが直接印加される表面とすることができ、又は少なくとも1つの単電磁パルスが直接印加されない表面とすることもできる。さらに好ましくは、選択的表面改質は、少なくとも1つの単電磁パルスが、前述のように、眼鏡レンズの表面の少なくとも一方に指定された照射量で印加されることを含む。さらに好ましくは、選択的表面改質は、少なくとも1つの単電磁パルスが印加される少なくとも1つの位置が具体的に選択されること、及び少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの表面の少なくとも一方に印加される際の照射量も具体的に選択されることを含む。少なくとも1つの単電磁パルスが印加されることになる具体的に選択された位置及び/又は少なくとも1つの単電磁パルスの具体的に選択された照射量を含む選択的表面改質は、いかなる追加の手段も必要とせずに実現できる。この点に関する追加の手段は例えば、眼鏡レンズの表面の改質しない部分をシールドすることであり得る。キセノンライトの照射が可能である欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法では、少なくとも1つの単電磁パルスが印加される本明細書に記載の方法とは異なり、追加の手段を用いずに眼鏡レンズの表面上の特定の位置を照射することができる。
【0046】
少なくとも1つの改質可能なコーティングが少なくとも1つの媒質で全面的に覆われているが、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの特定の位置及び/又は少なくとも1つの特定の領域だけが改質されるべきである場合、並びに改質が、少なくとも1つの媒質が塗布されたときに直ちに始まらない場合、適当な連続プロセスが、任意選択により、改質しないコーティングのシールドと組み合わせられて、使用され得る。
【0047】
改質すべき少なくとも1つのコーティングは、好ましくはそれ自体が不可逆的に改質可能な、好ましくは不可逆的改質を生じさせることのできる少なくとも1つの媒質と接触している、又は接触させられると不可逆的に改質可能な少なくとも1つのコーティングである。不可逆的改質は、少なくとも1つのコーティング自体の不可逆的改質であり、すなわち、例えば欧州特許第3531195A1号明細書に記載されている方法と異なり、少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質のために追加又はその後のコーティングを堆積させる必要がない。さらに、少なくとも1つのコーティングと接触させるために使用される少なくとも1つの媒質は、例えば欧州特許第3531195A1号に記載されているコーティングすべき表面をマスキングするための方法で使用されるナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層と混同してはならない。少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質は、少なくとも1つのコーティングを、改質すべき各特定の位置及び/又は各特定の領域において、不可逆的改質を生じさせることのできる少なくとも1つの媒質と接触させることによって起こされることが好ましい。少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質は少なくとも1つのコーティングの不可逆的膨潤であることが好ましく、これは少なくとも1つのコーティングの表面を、不可逆的膨潤を引き起こすことのできる少なくとも1つの媒質と接触させることによって引き起こされる。少なくとも1つのコーティングの不可逆的膨潤は、突出部として、又は凹部として認められ得る。不可逆的膨潤が突出部として認められる場合、表面のほとんどが改質又は膨潤していないことが好ましい。不可逆的膨潤が凹部として認められる場合、表面のほとんどが改質又は膨潤していることが好ましい。
【0048】
少なくとも1つのコーティングを特定の位置及び/又は特定の領域において改質さするために、少なくとも1つのコーティングは、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積させて、その下の隣接する表面を全面的に覆うか、又はその下の隣接する表面を部分的に覆い得る。コーティングされていない又はプレコーティングされた表面は、コーティングされていない又はプレコーティングされた表面の一部のみが改質されるべき少なくとも1つのコーティングで覆われ、コーティングされていない又はプレコーティングされた表面のそれ以外の部分はそれによって覆われないように、少なくとも1つのコーティングで部分的に覆われ得る。
【0049】
少なくとも1つの媒質は少なくとも1つのコーティングに、好ましくは印刷方式によって、さらに好ましくはインクジェット印刷によって塗布される。少なくとも1つの媒質のインクジェット印刷による塗布には、少なくとも1つのコーティングの、改質されるべき少なくとも1つの特定の位置及び/又は少なくとも1つの特定の領域だけが少なくとも1つの媒質と接触する。印刷方式による選択的な塗布の代わりに、又はそれに加えて、改質されない領域にはマスキングし得る。
【0050】
少なくとも1つのコーティングの改質は、局所的でも広範囲でもよい。改質は、何れの任意の形態又は形状でもよい。改質は、最密充填構造を画定しても、最密充填構造を画定しなくてもよい。各改質のアスペクト比、すなわち高さ又は奥行き対最小横方向範囲の比は調整可能又は調節可能であり得る。改質は、マイクロレンズとして動作し得る少なくとも1つの構造を含み得るか、又は光学的に集合的に機能する少なくとも2つの構造を含み得る。個別的改質の形状は3Dガウス形状、円錐形状、少なくとも1つのクレータを有する火山形状、上部が平らな円錐形状であってもよく、又は複雑な形状であってもよい。改質は特定の位置において個別に調整可能な度数をもたらし得る。
【0051】
改質は膨潤として認められ、それ自体は拡散制御膨潤と仮定される。拡散制御膨潤は、少なくとも1つの媒質が少なくとも1つのコーティングと接触する時間及び少なくとも1つの媒質と少なくとも1つのコーティングとの間の接触表面に依存するか、又は少なくともそれらによって制限されると仮定される。拡散制御膨潤に関して、好ましくはフィックの法則、好ましくは拡散のフィックの第一及び第二の法則が考慮されるものとする。
【0052】
少なくとも1つの媒質と接触している、又は接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングは、フォトクロミックコーティング又は、フォトクロミックコーティングのために使用されるが、何れのフォトクロミック染料も含まないコーティング組成物に基づくコーティングであることが好ましい。少なくとも1つの媒質と接触している、又は接触したときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを少なくとも1つの媒質と接触させることによって、前記少なくとも1つのコーティング自体が改質される。前記少なくとも1つのコーティング自体の改質は、前記少なくとも1つのコーティングの表面の改質であることが好ましい。前記少なくとも1つのコーティングの改質は、前述のように、好ましくは前記少なくとも1つのコーティングの膨潤であり、さらに好ましくは、前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤である。そのため、換言すれば、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状を変更するために追加のコーティングは不要である。
【0053】
眼鏡レンズ、好ましくは、屈折補正用レンズは、前面及び後面に少なくとも1つの改質可能コーティングを含み得る。少なくとも1つの改質可能コーティングがフォトクロミックコーティングである場合、又は、フォトクロミックコーティングに使用可能なコーティング組成物に基づくコーティングであるが、コーティング組成物がフォトクロミック染料を含まない場合、眼鏡レンズ、好ましくは屈折補正用レンズの前面だけが、それぞれの少なくとも1つのコーティングを含む。最終光学表面の改質は、周辺視を考慮し、中心視を損なわない最終光学表面の改質又は調整であることが好ましい。周辺視を考慮し、中心視を損なわない最終光学表面改質又は調整は、最終光学表面のその後の変化であることが好ましい。ここで、最終光学表面は中心視に関して最終的である。周辺視を考慮する最終光学表面の改質又は調整は、最終光学表面の、少なくとも1つのマイクロレンズを得るその後の改質であることが好ましい。少なくとも1つのマイクロレンズは、装用者の眼の周辺屈折力を考慮して個別に調整された何れの任意の形状又は形態を有していてもよい。最終光学表面のその後の改質によって任意の形状又は形態の少なくとも2つのマイクロレンズが得られた場合、その少なくとも2つのマイクロレンズは、個別の周辺屈折力を考慮して表面上に分散される。少なくとも2つのマイクロレンズの任意の形状又は形態は、相互に同じでも異なっていてもよく、各々が個別の周辺屈折力を考慮する。少なくとも1つのマイクロレンズ又は少なくとも2つのマイクロレンズは、中心視を損なわないことが好ましい。
【0054】
少なくとも1つのフォトクロミックコーティングは例えば、欧州特許第1433814A1号明細書、欧州特許第1602479A1号明細書、又は欧州特許第1561571A1号明細書に記載されているフォトクロミック組成物に基づき得る。通常フォトクロミック組成物をもたらすことになるコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングは、欧州特許第1433814A1号明細書、欧州特許第1602479A1号明細書、又は欧州特許第1561571A1号明細書に記載されている組成物を含み得るが、フォトクロミック染料は一切含まない。
【0055】
欧州特許出願公開第1433814A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の請求項1は、(1)ラジカル重合性モノマー100重量部と、(2)アミン化合物0.01~20重量部と、(3)フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示しており、ラジカル重合性モノマーは、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及び/又はイソシアナート基を有するラジカル重合性モノマーを含む。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書による、それに記載されたフォトクロミック組成物から得られるフォトクロミックコーティングと眼鏡レンズ基材との間の接着性を高めるために、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、或いはイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーが使用される。使用可能なモノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の3ページ、段落[0025]から、7ページ、段落[0046]に記載されている。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、他のラジカル重合性モノマーを含み得る。他の重合性モノマーとしては、得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのそのフォトクロミック特性を向上させるために、少なくとも60のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「高硬度モノマー」)と40以下のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「低硬度モノマー」)を組み合わせて用いることが好ましい。高硬度モノマー及び低硬度モノマーに関する例及び説明は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の7ページ、段落[0052]から、13ページ、段落[0096]に記載されている。得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのフォトクロミック特性のバランスを向上させるために、低硬度モノマーの量は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及びイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーを除く、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、5~70重量%であることが好ましく、高硬度モノマーの量は、5~95重量%であることが好ましい。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、高硬度モノマーとして、少なくとも3つのラジカル重合性基を有するモノマーを、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて少なくとも5重量%の量で含むことが、特に好まれる。さらに好ましくは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、ラジカル重合性モノマーは、硬度によって分類された前述のモノマーに加えて、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーを含む。少なくとも1つのエポキシ基を有するラジカル重合性モノマーを使用することにより、フォトクロミック化合物の耐久性及びフォトクロミックコーティングの接着性を向上させることができる。分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の13ページ、段落[0101]から14ページ、段落[0105]に開示されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーの量は、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、好ましくは0.01~30重量%、特に好ましくは0.1~20重量%である。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に記載のフォトクロミック組成物は、上記のラジカル重合性モノマーに加えて全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて0.01~20重量部の量の少なくとも1つのアミン化合物を含む。少なくとも1つのアミン化合物についての例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の14ページ、段落[0108]から15ページ、段落[0112]に記載されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に開示されたフォトクロミック組成物は、全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて、0.01~20重量部、好ましくは0.05~15重量部、より好ましくは0.1~10重量部の量の少なくとも1つのフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物に関する例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の15ページ、段落[0114]から20ページ、段落[0122]に記載されている。
【0056】
欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項9は、ラジカル重合性モノマー100重量部と、シリコーン系又はフッ素系界面活性剤0.001~5重量部と、フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示している。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと、アミン化合物と、フォトクロミック化合物とを含む。シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の総重量に基づいて、適切には0.5~20重量%、特に1~10重量%である。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書による、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと共に使用できる他のラジカル重合性モノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシジフェニル)プロパン、グリシジルメタクリレート、平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン又は平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレートなどである。他のラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には20~90重量%、特に40~80重量%である。アミン化合物、例えば、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート又はN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの使用量は、例えば、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.01~15重量%、特には0.1~10重量%である。ナフトピラン誘導体、クロメン誘導体、スピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体又はフルギミド誘導体などのフォトクロミック化合物の使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.1~30重量%、特には1~10重量%である。
【0057】
眼鏡レンズが少なくとも1つのフォトクロミックコーティング、好ましくは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングを含む眼鏡レンズの、好ましくは矯正用レンズの前表面を含む場合、眼鏡レンズ、好ましくは矯正用レンズは、任意に少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングを含み得る。好ましくは、眼鏡レンズの、好ましくは矯正用レンズの前表面は、少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングと、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングとを含み、フォトクロミックコーティングは、その最外層コーティングである。少なくとも1つのフォトクロミック下塗りは、欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項1に開示されたポリウレタン樹脂層、又は国際公開第03/058300A1号パンフレット、特に国際公開第03/058300A1号パンフレットの22ページ、3行から23ページ、13行に開示された下塗り層を含み得る。
【0058】
少なくとも1つのコーティングを改質することのできる少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機酸であることが好ましい。少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの、任意選択により置換された、飽和又は不飽和有機脂肪族モノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも2~22個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子を含む少なくとも1つの飽和又は不飽和有機脂肪族モノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも1つの媒質としては、例えば酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘプタン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、オレイン酸、リシノール酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペインタン酸、ドコサペンタン酸、及び/又はドコサヘキサエン酸が使用され得る。好ましくは、少なくとも1つの媒質は、酢酸、乳酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、リノレン酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。より好ましくは、少なくとも1つの媒質は、乳酸、カプリン酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。代替的又は追加的に、少なくとも1つの媒質は、例えばクエン酸などのトリカルボキシル酸又は例えば塩酸などの無機酸を含み得る。少なくとも1つの媒質として、前述のものの1つ又はそれらの何れかの組合せが使用され得る。少なくとも1つの媒質は、市販の等級若しくは市販の品質で使用され得るか、又は少なくとも1つの媒質は希釈して使用され得るか、又は少なくとも1つの媒質は異なる濃度で使用され得る。少なくとも1つの媒質がインクジェット印刷で塗布される場合、少なくとも1つの媒質の粘性は印刷可能となるように調整されなければならない可能性がある。さらに、少なくとも1つの媒質がインクジェット印刷で塗布される場合、例えば少なくとも1つの媒質が塗布される予定の少なくとも1つの特定の位置、及び/又は少なくとも1つの特定の領域、及び/又は印加される少なくとも1つの単電磁パルスのパラメータの変化、及び/又はプロセス総時間の変化に加えて、少なくとも1つの媒質を含むインクもまた、例えば少なくとも1つの媒質の濃度に関して、及び/又は少なくとも1つの添加剤の添加によって様々とし得る。そのため、前述のバリエーションの全ての可能性を考慮して、多種多様な実現可能な変更が可能である。実現可能な表面改質の多様性をさらにまた広げるために、少なくとも1つの媒質により改質される少なくとも1つのコーティングは、例えばアルカリ溶液によって活性化され得る。このような活性化は、インクジェット印刷用インクの少なくとも寸法、形状、及び/又は接触角に、好ましくはそれらが少なくとも1つのコーティングの表面上で液滴として合体した後に、影響を与え得る。それゆえ、今度は、少なくとも1つの単電磁パルスの印加後に、結果として得られる表面改質の少なくとも寸法及び/又は形状に影響を与える。
【0059】
少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質は、一時的にのみ少なくとも1つのコーティングと接触することが好ましい。少なくとも1つの媒質は、(i)少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、若しくは複数の単電磁パルスの印加によって除去されるか、又は(ii)少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後若しくは複数の単電磁パルスの印加の後に、例えば単純に拭き取るか、すすぎ落とすことによって除去される。したがって、少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つのコーティング上の追加の材料又はコーティングとして残らない。
【0060】
少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触させられるか又は接触させられていたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングの表面改質、好ましくは少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって加速される拡散制御膨潤は、何れかの任意の形態又は形状の少なくとも1つのマイクロレンズ又はレンズレットをもたらす少なくとも1つの改質のほか、所望の最終光学表面をもたらす少なくとも1つのコーティングの表面全体の改質を含む。眼鏡レンズの最終光学表面の少なくとも1つを取得するための少なくとも1つのコーティングの表面全体の改質は、研削及び研磨プロセス等の従来の方法の代わりとなり得る。これ自体は、眼鏡レンズの製造におけるパラダイムシフトを意味する。
【0061】
少なくとも1つのコーティングの局所的表面改質の場合、結果として得られるマイクロレンズ又はレンズレットは、好ましくは1nm~10μm、さらに好ましくは2nm~9μm、さらに好ましくは3nm~8μmの範囲、より好ましくは4nm~7μmの範囲、最も好ましくは5nm~6μmの範囲の高さを有し得る。複雑な形状を含む局所的な表面改質の場合、上述の範囲は最大高さに適用されることが好ましい。横方向の範囲、すなわち幅に関して、好ましくは5μm~20mm、さらに好ましくは10μm~10mm、さらに好ましくは20μm~5mm、より好ましくは50μm~4mm、最も好ましくは70μm~3mmの範囲が付与され得る。寸法は、白色光干渉計システムにより特定されることが好ましい。
【0062】
マイクロレンズ又はレンズレットをもたらす局所的表面改質の実現可能な表面度数に関して、前述の改質の可能性の多様性により、広い範囲で調整可能である。表面度数は、0.2ディオプトリ~50ディオプトリの範囲であり得、好ましくは0.25ディオプトリ~40ディオプトリの範囲、さらに好ましくは0.3ディオプトリ~30ディオプトリの範囲、より好ましくは0.4ディオプトリ~20ディオプトリの範囲、最も好ましくは0.5ディオプトリ~10ディオプトリの範囲である。表面度数は、欧州特許出願第19204745.4号明細書で説明されているように計算され得る。
【0063】
少なくとも1つの媒質で改質可能な少なくとも1つのコーティング、すなわち少なくとも1つの単電磁パルスの印加により大幅に加速できる少なくとも1つの媒質により引き起こされる表面改質は、硬化及び/又は固化され、単に乾燥又はプレキュアリングされるだけではない少なくとも1つのコーティングであることが好ましい。
【0064】
少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズは、少なくとも1つの別のコーティングをさらに含み得て、少なくとも1つのコーティングはその最も外側のコーティングである。好ましくは、少なくとも1つの別のコーティングは、表面改質が行われた後で堆積される。少なくとも1つの別のコーティングは、少なくとも1つのコーティングの表面改質を破壊又は損傷しないことが好ましい。少なくとも1つの別のコーティングは、好ましくは欧州特許出願第20182515.5号明細書において開示されているように、少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって乾燥並びに硬化及び/又は固化されることができるコーティング組成物に基づく少なくとも1つの下塗りコーティング及び/又は少なくとも1つのハードコーティングであることが好ましい。少なくとも1つのハードコーティングは、米国特許出願公開第2005/0171231A1号明細書、米国特許出願公開第2009/0189303A1号明細書、又は米国特許出願公開第2002/0111390A1号明細書において開示されているハードコーティング組成物のうちの少なくとも1つに基づき得る。代替的に、少なくとも1つのハードコーティングは、国際公開第2007/070976A1号パンフレットにおいて開示されている耐摩耗コーティング組成物に基づき得る。少なくとも1つのハードコーティングは、欧州特許第2578649A1号明細書、特に欧州特許第2578649A1号の請求項1において開始場されている少なくとも1つのハードコーティング組成物に基づくことが好ましい。少なくとも1つのハードコーティングを生成するように構成された少なくとも1つのハードコーティング組成物は、
A)a)式(I)Si(OR)(OR)(OR)(OR)の少なくとも1つのシラン誘導体(式中、R、R、R及びRは、同一であり得又は異なり得、アルキル、アシル、アルキレンアシル、シクロアルキル、アリール、又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができる)、及び/又は
b)式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は
c)式(I)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は
d)これらの成分a)からc)の任意の混合物、
B)a)式(II)R 3-nSi(ORの少なくとも1つのシラン誘導体(式中、Rは、アルキル、アシル、アルキレンアシル、シクロアルキル、アリール又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができ、Rは、少なくとも1つのエポキシド基を含む有機基であり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール又はアルキレンアリール基から選択され、これらのそれぞれは、任意に置換されることができ、nは、2又は3である)、及び/又は
b)式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は
c)式(II)の少なくとも1つのシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は、これらの成分a)~c)の任意の混合物、
C)少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、
D)少なくとも2つのエポキシド基を有する少なくとも1つのエポキシド化合物、並びに
E)少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス酸-塩基付加物とを含む少なくとも1つの触媒系
を含むことが好ましい。
【0065】
少なくとも1つのハードコーティングをもたらす前述の少なくとも1つのハードコーティング組成物の代わりに、又はそれに加えて、少なくとも1つのハードコーティングは、
A)a)式(III)R 3-nSi(ORの少なくとも1つのシラン誘導体(式中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アリール基又はヘテロアリール基を含み、これらのそれぞれは、置換されることができ、Rは、エポキシド基を含む有機残基であり、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を含み、これらのそれぞれは、置換されることができ、n=2又は3である)、及び/又は
b)式(III)のシラン誘導体の少なくとも1つの加水分解生成物、及び/又は
c)式(III)のシラン誘導体の少なくとも1つの縮合生成物、及び/又は
d)成分a)~c)の任意の混合物、
B)少なくとも1つのコロイド状無機酸化物、水酸化物、酸化物水和物、フッ化物及び/又はオキシフッ化物、
C)少なくとも2つのエポキシ基を含む少なくとも1つのエポキシ成分、並びに
D)少なくとも1つのルイス酸と、少なくとも1つの熱潜在性ルイス塩基付加物を含む少なくとも1つの触媒系
を含む少なくとも1つのハードコーティング組成物に基づくことが好ましい。
【0066】
i)眼鏡レンズは少なくとも1つの媒質と接触させられている若しくは少なくとも1つの媒質と接触させられていたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングに直接隣接する前述の少なくとも1つの別のコーティングを含み得るか、又はii)少なくとも1つの媒質と接触させられている若しくは少なくとも1つの媒質と接触させられていたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの表面は、前記少なくとも1つの別のコーティングを含むかの何れかである。少なくとも1つの媒質と接触させられている又は少なくとも1つの媒質と接触させられていたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの表面は、縁ずりレンズの縁表面、コーティングされていない若しくはプレコーティングされたレンズ基材の前面若又はコーティングされていない若しくはプレコーティングされたレンズ基材の後面であり得る。
【0067】
レンズ基材は光学材料に基づくことが好ましく、光学材料は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1により、光学コンポーネントへと製造されることが可能な透明材料と定義されている。眼鏡レンズ基材は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1による鉱物ガラス及び/又は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.3による熱硬化性硬質樹脂、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.4による熱可塑性硬質樹脂、又はDIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.5によるフォトクロミック材料などの有機硬質樹脂で製作され得る。
【0068】
好ましくは、眼鏡レンズ基材は、下表に示される光学材料の少なくとも1つに基づき、特に好ましくは有機硬質樹脂の少なくとも1つに基づく。
【0069】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】実施例8、9及び10のレンズレットの形状と表面プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
要約すると、以下の実施形態は本発明の範囲内で特に好ましい。
【0072】
実施形態1:レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基材を提供するステップと、
- レンズ基材の少なくとも一方の表面を、少なくとも1つのコーティングを改質することができる少なくとも1つの媒質と接触することによって改質可能な少なくとも1つのコーティングで覆うステップと、
- 少なくとも1つのコーティングの最も外側の表面、すなわち少なくとも1つのコーティングの、レンズ基材の表面の一方に隣接していない表面を、少なくとも1つの媒質と全面的に又は部分的に接触させるステップと、
- 少なくとも1つの単電磁パルスを、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの少なくとも一方の表面に印加するステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面は全面的に、又は部分的に改質されているステップと、
を所与の順序で含む。
【0073】
実施形態2:少なくとも1つのコーティングの表面形状は全面的又は部分的に改質されている、実施形態1に記載の方法。
【0074】
実施形態3:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの隆起部である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0075】
実施形態4:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は、少なくとも1つのコーティングの拡散制御プロセス、好ましくは少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤プロセスである、実施形態1~3の何れか1つに記載の方法。
【0076】
実施形態5:少なくとも1つのコーティングが硬化及び/又は硬化された後に、少なくとも1つのコーティングが少なくとも1つの媒質と接触させられ、少なくとも1つの電磁パルスが、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つのコーティングと接触する少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも1つに印加される、実施形態1~4の何れか1つに記載の方法。
【0077】
実施形態6:少なくとも1つのコーティングの表面形状の全面的な改質は、眼鏡レンズの最終光学表面として調整可能である、実施形態1~5の何れか1つに記載の方法。
【0078】
実施形態7:少なくとも1つのコーティングの表面形状の全面的な改質は、好ましくは中心視のために装用者の処方された屈折力を補正又は補償する、実施形態1~6の何れか1つに記載の方法。
【0079】
実施形態8:少なくとも1つのコーティングの表面形状の部分的改質により、好ましくは中心視を損なわない、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの局所的膨潤が得られる、請求項1~7の何れか1つに記載の方法。
【0080】
実施形態9:少なくとも1つのコーティングの表面形状の全面的な改質の後に、少なくとも1つのコーティングの表面形状の少なくとも部分的な改質が行われ、好ましくは、
- 少なくとも1つのコーティングの改質された表面を、好ましくは少なくとも1つの特定位置及び/又は少なくとも1つの特定領域において、少なくとも1つの媒質で部分的に覆う、又はそれと部分的に接触させるステップと、
- 少なくとも1つの単電磁パルスを、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも一方に印加するステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面形状は部分的に改質され、好ましくは少なくとも1つのマイクロレンズを含むステップと、
を含む、実施形態1~8の何れか1つに記載の方法。
【0081】
実施形態10:眼鏡レンズは、少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つの反射防止コーティング、及び少なくとも1つの透明コーティングからなる群のうち少なくとも1つから選択される少なくとも1つのコーティングでさらに被覆される、実施形態1~9の何れか1つに記載の方法。
【0082】
実施形態11:少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後に、少なくとも1つの媒質の残留物が少なくとも1つのコーティングの改質された表面から拭き取られる、実施形態1~10の何れか1つに記載の方法。
【0083】
実施形態12:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は少なくとも、印加される少なくとも1つの単電磁パルスに応じて調整可能又は調節可能である、実施形態1~11の何れか1つに記載の方法。
【0084】
実施形態13:
i)眼鏡レンズ、又は
ii)眼鏡レンズ及び眼鏡レンズの使用説明書、又は
iii)眼鏡レンズの仮想表現であって、非一時的データ媒体に記憶される、及び/又はデータ信号である仮想表現、又は、
iv)眼鏡レンズの仮想表現と眼鏡レンズの仮想使用説明書であって、非一時的データ媒体上に記憶された表現及び使用説明書、又は
v)眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により仮想レンズの仮想使用説明書を有する非一時的データ媒体、又は
vi)眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により眼鏡レンズの仮想使用説明書を有するデータ信号
を含む製品であって、
眼鏡レンズはレンズ基材を含み、レンズ基材はコーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含み、
レンズ基材の少なくとも一方の表面は、少なくとも1つのコーティングで被覆され、少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能であり、それによって、何れの目標最終光学表面も得られる製品。
【実施例
【0085】
以下において、本発明を実施例によってより詳しく説明するが、この実施例に限定されない:
I.実施例及び比較例によるマイクロレンズ又はレンズレットを含む眼鏡レンズの製造
実施例1:
チオウレタン(MR8、Mitsui Resin、直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)においてフォトクロミックコーティング(Photofusion、それ以外のコーティングはなく、フォトクロミック染料を含まない、Carl Zeiss Vision)で被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.2wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って印刷した。前面の印刷は254dpiで行い、50回(50滴)繰り返した。その後、インク液滴が定着した前面を160の電磁パルスからなる電磁パルストレインに、周囲空気中、107秒間のプロセス総時間で暴露させた。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。160の電磁パルスの各々は5.35J/cmの照射量を送達した。160の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル30%の8つのマイクロパルスに分割された。160の電磁パルスの各々の包絡線は225msであった。暴露により、下のフォトクロミックコーティングの膨潤が誘導されてレンズレットが形成され、印刷されたインクの残りをレンズ表面から拭き取った後、さらにレンズ表面をイソプロパノール溶剤ですすいだ。
【0086】
実施例2:
MR8に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。前面に254dpiで印刷し、30回(30滴)繰り返した。
【0087】
実施例3:
MR8(直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものをイソプロパノール溶剤で手のみによりクリーニングし、測定された界面自由エネルギーは46.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.2wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って印刷した。前面の印刷は254dpiで行い、30回(30滴)繰り返した。
【0088】
実施例4-7:
MR8(直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。その後、これらのレンズの前面に、オレイン酸に基づくが、表3に示されるような異なる表面活性剤で改質されたインクで印刷した。インクはレンズ表面に、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って堆積させた。実施例4~7の前面の印刷は254dpiで行い、30回(30滴)繰り返した。
【0089】
実施例8~10:
MR8(直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.5wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量80pLの富士フィルムSpectra Sクラスプリントヘッドを備えるSuessmicrotec Pixdroインクジェットプリンタを使って印刷した。実施例8~10の前面の印刷は972dpiで行った。その後、インク滴が定着した前面を異なる電磁パルスに暴露させた。実施例8のレンズは、周囲空気中、160の電磁パルスからなる電磁パルストレインに、2Hzの繰り返し率で、プロセス総時間80秒以内で暴露させた。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。160の電磁パルスの各々は、5.35J/cmの照射量を送達した。160の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル30%の8つのマイクロパルスに分割された。160の電磁パルスの各々の包絡線は225msであった。実施例9のレンズは、周囲空気中、160の電磁パルスからなる電磁パルストレインに、1.5Hzの繰り返し率で、プロセス総時間107秒以内で暴露させた。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。160の電磁パルスの各々は、5.35J/cmの照射量を送達した。160の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル30%の8つのマイクロパルスに分割された。160の電磁パルスの各々の包絡線は225msであった。実施例10のレンズは、周囲空気中、100の電磁パルスからなる電磁パルストレインに、プロセス総時間320秒以内で暴露させた。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。160の電磁パルスの各々は、5.35J/cmの照射量を送達した。160の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル30%の8つのマイクロパルスに分割された。160の電磁パルスの各々の包絡線は225msであった。実施例8~10において、暴露により、その下のフォトクロミックコーティングの膨潤が誘導されてレンズレットが形成され、印刷されたインクの残りをレンズ表面から拭き取った後、さらにレンズ表面をイソプロパノール溶剤ですすいだ。
【0090】
実施例11:
MR8(直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.2wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って印刷した。前面の印刷は254dpiで行い、50回(50滴)繰り返した。その後、インク液滴が定着した前面を上から下へと異なる電磁パルストレインに暴露させた。上部では、80の電磁パルスからなる電磁パルストレインに周囲空気中、53秒間のプロセス総時間内で。中央部では、60の電磁パルスからなる電磁パルストレインに周囲空気中、40秒間のプロセス総時間内で。下部では、40の電磁パルスからなる電磁パルストレインに周囲空気中、27秒間のプロセス総時間内で。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。これらの電磁パルスの各々は5.35J/cmの照射量を送達した。これらの電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル30%の8つのマイクロパルスに分割された。160の電磁パルスの各々の包絡線は225msであった。暴露により、下のフォトクロミックコーティングの膨潤が誘導されてレンズレットが形成され、印刷されたインクの残りをレンズ表面から拭き取った後、さらにレンズ表面をイソプロパノール溶剤ですすいだ。
【0091】
実施例12:
MR8(直径75mm)に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)においてフォトクロミックコーティング(Photofusion Grey、それ以外のコーティングなし、Carl Zeiss Vision)で被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.2wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って印刷した。前面の印刷は254dpiで行い、50回(50滴)繰り返した。その後、インク滴が定着した前面を120の電磁パルスからなる電磁パルストレインに、周囲空気中、90秒間のプロセス総時間で暴露させた。各単電磁パルスの波長は200nm~1000nmであった。120の電磁パルスの各々は8.45J/cmの照射量を送達した。120の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル14%の12つのマイクロパルスに分割された。120の電磁パルスの各々の包絡線は125msであった。暴露により、下のフォトクロミックコーティングの膨潤が誘導されてレンズレットが形成され、印刷されたインクの残りをレンズ表面から拭き取った後、さらにレンズ表面をイソプロパノール溶剤ですすいだ。
【0092】
実施例13:
実施例1のコーティングされたレンズの両面を、米国特許第5,316,791号明細書による下塗り組成物で、その後、欧州特許第2578649A1号明細書の実施例2によるハードコーティング組成物でさらに被覆した。このようにして得られたコーティング付きレンズをまず、周囲空気中、5分間、70℃でIRランプにより乾燥させた。その後、前面を、60の電磁パルスからなる電磁パルストレインに周辺空気中で42秒のプロセス総時間内でさらした。各単電磁パルスの波長は、200nm~1000nmであった。60の電磁パルスの各々は、5.8J/cm2の照射量を送達した。60の電磁パルスの各々は、平均デューティサイクル14%で12のマイクロパルスに分割した。60の電磁パルスの各々の包絡線は126msであった。
【0093】
比較例1:
MR8に基づくコーティングされていない光学レンズ基材を、一方の表面(前面)において実施例1と同じフォトクロミックコーティングで被覆し、硬化したものを、まず、アルカリ溶液浴(10% NaOHを含む)中で活性化させ、脱イオン水浴中で繰り返しすすいだ。乾燥後、基材の界面自由エネルギーを測定したところ55.4mN/mであった。その後、前面にオレイン酸と表面活性剤としての0.2wt% SF 1188Aを含むインクで、滴量10pLのDMCプリントヘッドを備える富士フィルムDimatrix 2850インクジェットプリンタを使って印刷した。前面の印刷は254dpiで行い、50回(50滴)繰り返した。その後、レンズを、765mW/cmのエネルギー密度のキセノンランプを備えたサンテスタSuntest XLS+(Atlas Material Testing Technology GmbH)内に20時間保管し、これによって膨潤を誘導して必要な寸法のレンズレットを形成した。
【0094】
II 実施例及び比較例によるマイクロレンズ又はレンズレットを含む眼鏡レンズの特性評価及び結果
・IIa:印刷されたインクとレンズレットの形状及び寸法の特定
印刷されたインク及びレンズレットの形状と寸法を、Zypo社の3D Optical Surface Profiler NewView 7100と呼ばれける白色光干渉計システムにより特定した。
・IIb:プロセス総時間の短縮
実施例1で形成されたレンズレットの形状及び寸法を、特に幅及び高さについて、比較例1で形成されたレンズレットと比較したところ、3Dガウスプロファイルを有する同様のレンズレットは、電磁パルストレインにより膨潤させた場合は106秒ですでに得ることができたのに対し、キセノンランプを備えるサンテスタを使って膨潤させた場合(比較例1、表1)は20時間であった。これは膨潤のためのプロセス総時間の99.85%の短縮である。
【0095】
【表2】
【0096】
・IIc:基材の界面自由エネルギーの変化がオレイン酸の印刷インク滴の濡れ挙動に与える影響
実施例2及び3は、膨潤後の最終的なレンズレットのより大きな3Dガウスプロファイルを実現できるドロップレットを取得する、基材の活性化の効果を実証している(表2)。レンズのこの活性化方法は、フォトクロミックコーティングの界面自由エネルギーに影響を与え、それによって寸法及び印刷インク滴の寸法及び濡れ挙動を調整できる。これは、膨潤後に形成されるレンズレットの寸法を左右する。
【0097】
【表3】
【0098】
・IId:インク調合がレンズレットの印刷に与える影響(4~7の実施例)
実施例4、5、6、7は、フォトクロミック染料を含まないフォトクロミックコーティングで被覆されたMR8の活性化済みレンズ基材上の小滴広がり挙動の調整におけるインク調合中の表面活性剤の効果を実証している。明らかに、純粋なオレイン酸と比較して、特定の量の界面活性剤は、印刷されたインク滴のより大きい直径を実現する上で有益であり得、これは膨潤後のレンズレットをさらに大きくすることになる。
【0099】
【表4】
【0100】
・IIe:電磁パルスがレンズレットの形状に与える影響
実施例8~10は、電磁パルストレインがレンズレットの形状の結果に与える影響を実証している。実施例8、9、及び10のレンズが受け取った全体としての総エネルギーと電磁パルストレイン中の個々の電磁パルスの構成は同じである。電磁パルストレイン中の個々の電磁パルスの繰り返し率には変化があった。これは、各レンズに送達されるエネルギーを増やさずに暴露の総持続時間に影響を与える。したがって、実施例8~10において得られた高さと幅は相互に近いが、結果として得られるレンズレットの形状は大きく異なる。実施例8では、火山型レンズレット(上部は平らでクレータを有する)が総暴露時間80秒で得られ、実施例9では必要な3Dガウス形状のレンズレットが総暴露時間107秒で得られ、実施例10では上部が丸みのある平らな形状のレンズレットが総暴露時間320秒で得られる。実施例8の2Hzというより高い繰り返し率はより速い暴露に対応し、繰り返し率1.5Hzの実施例9及び繰り返し率0.5Hzの実施例10と比較して、同じ数の個々の電磁パルスを送達する。最適な暴露条件は、3Dガウス形状のレンズレットを実現する実施例9において得られる。
【0101】
【表5】
【0102】
それぞれのレンズレットの形状と表面プロファイルは図1に示されている。
・IIe:電磁パルスがレンズレットの高さに与える影響
実施例11は、電磁パルストレインがレンズレットの高さの結果に与える影響を実証している。これはまた、同じレンズ上で様々な高さを実現できることも実証している。レンズのうち最大の総エネルギーを受け取る上部のレンズレットの高さは200nm、中間の総エネルギーを受け取る中央部では130nm、受け取る総エネルギーが最も小さい下部では80nmである。同じレンズの異なる領域での異なる照射量の電磁パルスによる膨潤により、一定の幅で膨潤の高さが勾配を有し、それゆえ光学パワーも勾配を有することになる。
・IIf:電磁パルスがレンズレットの位置に与える影響
実施例12のレンズレットは、印刷されたインクの制御不能なランダム変位が高エネルギーの電磁パルストレインの印加によって得られることを示している。
・IIg:ハードコーティングによるレンズレットのオーバコーティング
実施例13のレンズレットでは、ハードコーティング及び電磁パルストレインを用いたハードコーティング及びポストキュアリング後に損傷や崩壊が生じなかった。
図1