(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 6/40 20071001AFI20240219BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20240219BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240219BHJP
B60K 15/01 20060101ALI20240219BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20240219BHJP
F02M 63/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B60K6/40
B60K1/00
B60K6/46 ZHV
B60K15/01 A
F02M37/00 321Z
F02M63/00 C
(21)【出願番号】P 2019152035
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】下河内 次生
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和起
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠輔
(72)【発明者】
【氏名】平松 俊治
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-111982(JP,A)
【文献】特開2005-088819(JP,A)
【文献】特開2015-014255(JP,A)
【文献】特開2019-131003(JP,A)
【文献】特開2004-161260(JP,A)
【文献】特開2018-114899(JP,A)
【文献】特開2012-096557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/40
B60K 1/00
B60K 15/01
F02M 63/00
F02M 37/00
B60K 6/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に配置されたモータルーム内の車両前部構造であって、
車幅方向に延びると共に前記モータルームの後方側から前方に張り出して形成されるカウルメンバと、
前記カウルメンバの下方部に連結され、前記カウルメンバの前端よりも後方に立設されるダッシュパネルと、
前記モータルーム内で右側サイドフレーム又は左側サイドフレームに固定されると共に下方部分が車両本体に固定され、電力により前記車両を駆動させるパワーユニットと、
前記モータルーム内の内燃機関と前記車両の後方側に配置された燃料タンクとを連結する燃料管と、を有し、
前記パワーユニットの上面に保護ブラケットが設けられ、
この保護ブラケットは、前記車両が前方衝突して前記パワーユニットが後側下方へ移動した場合に前記カウルメンバに当接することができる上下方向長さを
有すると共に、上方に向けて突出した凸部を有し、この凸部の上面が最上端部から車幅方向の両端部に向かって緩やかに下方へ傾斜し、
前記車両が前方衝突して前記パワーユニットが後側下方へ移動した場合、前記カウルメンバと前記保護ブラケットとの間に前記燃料管が挟まれないように前記保護ブラケットが前記カウルメンバに当接
し、この保護ブラケットとカウルメンバとの当接によって、前記保護ブラケットの凸部の側方に前記燃料管が配設される空間が形成されると共に、前記ダッシュパネルと前記保護ブラケット及び前記パワーユニットとの間に前記燃料管を収容する空間
が形成されることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記保護ブラケットの凸部は、正面視で、前記保護ブラケットの車幅方向中央に形成されている、請求項
1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記保護ブラケットは、側面視で、後端に円弧状に屈曲する屈曲部を有している、請求項
1又は2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
更に、前記パワーユニットと前記車両の中央に配置されたバッテリとを連結する高電圧ハーネスを有し、
前記保護ブラケットは、正面視で、車幅方向の長さが前記高電圧ハーネスのコネクタの長さより長くなるように形成され、前記高電圧ハーネスのコネクタに隣接して配置されている、請求項1乃至
3の何れか一項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造、特に車両の前部に配置されたモータルーム内の車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-114899号公報(特許文献1)には、走行用のモータとエンジンの両方を備えるハイブリット車が記載されている。このハイブリット車においては、カウルメンバが前方に向かってエンジンルーム内に張り出して設置されている。エンジンルーム内には、エンジン、モータ、電力制御装置、バッテリ等が配置されており、電力制御装置がエンジンルーム内における部品の中で最も高くなるように配置されている。また、電力制御装置の上面にはバッテリと接続するコネクタが取り付けられている。この車両において、前方の障害物と衝突した場合、電力制御装置が車両本体に対して後方へ移動すると、電力供給用のコネクタがカウルメンバの前端に接触する可能性がある。そのため、特許文献1の車両は、電力制御装置の上面にコネクタより上方に突出する突起部が設けられ、突起部がコネクタよりも先にカウルメンバと接触するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、衝突時の衝撃によって電力制御装置が移動する方向は、電力制御装置を固定する構造、電力制御装置の大きさや重量、周辺部品のレイアウト等によって異なるため、特許文献1の構造では衝突時に突起部がカウルメンバに接触しない可能性がある。具体的に、電力制御装置の固定構造として、例えば、電力制御装置の側方部分がサイドフレームに固定されると共に、下方部分が車体本体に固定されている場合がある。この場合、車両が前方衝突するとサイドフレームが折れ曲がり、電力制御装置が車両本体に対して後方へ移動するが、その際に装置の下方部分が車両本体に固定されていることにより電力制御装置が下方にも移動する。これにより、電力制御装置の高さが衝突前の高さ位置より低くなるので突起部がカウルメンバに接触しない場合がある。
【0005】
このように電力制御装置の高さが低くなり、カウルメンバと突起部との間に隙間が生じると、衝突時にエンジンルーム内に配設されている燃料管や電線等が隙間に入る可能性がある。一方、燃料管や電線等を保護するために、燃料管の周辺に保護カバー等を別途設けると、車両の重量やレイアウトスペースが増大してしまう可能性がある。
【0006】
従って、本発明は、車両の前部に配置されたモータルーム内の車両前部構造であって、車両の重量やレイアウトスペースが増大することなく、車両が前方衝突した場合、燃料管がパワーユニットとカウルメンバとの間に挟まれることを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両の前部に配置されたモータルーム内の車両前部構造であって、車幅方向に延びると共にモータルームの後方側から前方に張り出して形成されるカウルメンバと、カウルメンバの下方部に連結され、カウルメンバの前端よりも後方に立設されるダッシュパネルと、モータルーム内で右側サイドフレーム又は左側サイドフレームに固定されると共に下方部分が車両本体に固定され、電力により車両を駆動させるパワーユニットと、モータルーム内の内燃機関と車両の後方側に配置された燃料タンクとを連結する燃料管と、を有し、パワーユニットの上面に保護ブラケットが設けられ、この保護ブラケットは、車両が前方衝突してパワーユニットが後側下方へ移動した場合にカウルメンバに当接することができる上下方向長さを有すると共に、上方に向けて突出した凸部を有し、この凸部の上面が最上端部から車幅方向の両端部に向かって緩やかに下方へ傾斜し、車両が前方衝突してパワーユニットが後側下方へ移動した場合、カウルメンバと保護ブラケットとの間に燃料管が挟まれないように保護ブラケットがカウルメンバに当接し、この保護ブラケットとカウルメンバとの当接によって、保護ブラケットの凸部の側方に燃料管が配設される空間が形成されると共に、ダッシュパネルと保護ブラケット及びパワーユニットとの間に燃料管を収容する空間が形成されることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、車両が前方衝突した場合、パワーユニットが後側下方へ移動したときに保護ブラケットがカウルメンバに当接するように構成されているので、カウルメンバと保護ブラケットとの間に隙間が生じることがなく、カウルメンバと保護ブラケットとの間に燃料管が挟まれることを防止することができる。これにより、車両の重量やレイアウトスペースが増大することなく、燃料管がパワーユニットとカウルメンバとの間に挟まれることを防止することができる。
また、保護ブラケットの凸部の車幅方向側方に燃料管を配設する空間を形成することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、保護ブラケットの凸部は、正面視で、保護ブラケットの車幅方向中央に形成されている。このように構成された本発明によれば、カウルメンバを上方に押し上げるときに保護ブラケットに作用する力を車幅方向に分散させることができる。これにより、カウルメンバを確実に上方に押し上げて空間を形成することができ、燃料管が挟まれることを防止することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、保護ブラケットは、側面視で、後端に円弧状に屈曲する屈曲部を有している。このように構成された本発明によれば、円弧状に屈曲する屈曲部に沿ってカウルメンバを押し上げることができる。これにより、カウルメンバを確実に上方に押し上げて空間を形成することができ、燃料管が挟まれることを防止することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、更に、パワーユニットと車両の中央に配置されたバッテリとを連結する高電圧ハーネスを備え、保護ブラケットは、正面視で、車幅方向の長さが高電圧ハーネスのコネクタの長さより長くなるように形成され、高電圧ハーネスのコネクタに隣接して配置されている。このように構成された本発明によれば、高電圧ハーネスのコネクタが保護ブラケットにより保護されているので、高電圧ハーネスのコネクタの破損を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両前部構造によれば、車両の重量やレイアウトスペースが増大することなく、車両が前方衝突した場合、燃料管がパワーユニットとカウルメンバとの間に挟まれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による車両前部構造を示す上面図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両前部構造を示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両前部構造の保護ブラケットの斜視図である。
【
図4A】本発明の実施形態による前方衝突前の車両前部構造の正面図である。
【
図4B】本発明の実施形態による前方衝突前の車両前部構造の側方断面図である。
【
図5A】本発明の実施形態による前方衝突後の車両前部構造の正面図である。
【
図5B】本発明の実施形態による前方衝突後の車両前部構造の側方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両前部構造を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両前部構造を示す上面図である。
図2は、本発明の実施形態による車両前部構造を示す正面図である。
【0016】
本明細書においては、運転席に座った運転者から見た場合の前後、左右及び上下の方向を、それぞれ前後方向、車幅方向及び上下方向と定義して説明する。
【0017】
まず、
図1を参照して、本実施形態による車両2の中央部又は後部構造の概略を説明する。
図1に示すように、本実施形態による車両2は、車両2の下部中央に、上面視(平面視)において長方形状で形成されているリチウムイオンバッテリであるバッテリ4を搭載している。バッテリ4は、車両2の前部座席の下方から後部座席の下方付近まで延びて、車幅方向中央に配置されている。バッテリ4は、車両2の下部に取り付けられている。また、車両2の下部の車幅方向中央に、前後方向に延びるようにトンネル部6が設けられている。トンネル部6は、断面形状が下向き凹状で形成され、車両2の前部から前部座席の間を通って後部座席付近まで延びるように形成されている。
【0018】
次に、
図1及び
図2を参照して本実施形態における車両前部構造20の概略を説明する。前部座席やフロントガラス(図示せず)より前方側である車両2の前部には、カウルメンバ10、右側サイドフレーム12、フロントメンバ14及び左側サイドフレーム16によって囲まれたモータルーム18が形成されている。モータルーム18内の右側サイドフレーム12と左側サイドフレーム16との間には、パワーユニット22、減速機構24、内燃機関26及び発電機28が右側からこの順序で車幅方向に配置されて一体的に連結されている。また、パワーユニット22の前方側にはDC/DCコンバータ23が配置され、パワーユニット22の後方側にはコンプレッサ25が配置されている。内燃機関26の後方には、コンバータ27が配置されている。車両2の使用時には、モータルーム18は、ボンネット(図示せず)により覆われて外部から目視できないようになっている。
【0019】
モータルーム18内のパワーユニット22と、パワーユニット22より後方側の車両2の下部中央のバッテリ4とは、前後方向に延びる高電圧ハーネス19により連結されている。高電圧ハーネス19は、トンネル部6内を前後方向に延びてトンネル部6の下面形状に沿って配置されている。高電圧ハーネス19は、モータルーム18とトンネル部6との間において、ブラケット60を介してダッシュパネル11又はトンネル部6に取り付けられている。また、高電圧ハーネス19は、カウルメンバ10の車幅方向中央付近からモータルーム18内に進入するように配置されている。モータルーム18に進入した高電圧ハーネス19は、モータルーム18の車幅方向中央の中央軸より左側を経由してから、中央軸より右側へ延びるように配置されている。高電圧ハーネス19の先端であるコネクタ19aは、車幅方向中央の中央軸より右側に配置されているパワーユニット22の左側側面に連結するようになっている。
【0020】
モータルーム18内の内燃機関26と車両2の後方側に配置される燃料タンク(図示せず)とは、前後方向に延びる燃料管21により連結されている。燃料管21は、トンネル部6内を前後方向に延びてトンネル部6の下面形状に沿って配置されている。燃料管2は、カウルメンバ10の車幅方向中央付近からモータルーム18内に進入するように配置されている。また、燃料管21は、モータルーム18の車幅方向中央の中央軸より左側に配置されている内燃機関26に連結するように配置されている。なお、燃料管21と高電圧ハーネス19とは、モータルーム18内で交差するように前後方向に延びて配置されている。
【0021】
次に、
図1及び
図2を参照して、本実施形態による車両前部構造20における各構成の詳細について説明する。
カウルメンバ10は、前部座席及びフロントガラス(図示せず)の前方、且つモータルーム18の後方に配置され、右側サイドフレーム12と左側サイドフレーム16との間を車幅方向に延びている。カウルメンバ10の両端は、車両本体30に固定されて車両本体30の剛性を向上させるようになっている。また、カウルメンバ10は、モータルーム18の後方端から前方へ向かって所定距離だけ張り出すように形成されており、カウルメンバ10の前端10aがモータルーム18内に位置するように形成されている。このカウルメンバ10の張り出した部分によって、雨天時に、雨水がフロントガラスとボンネットとの隙間からモータルーム18内へ侵入するのを防止するようになっている。
【0022】
カウルメンバ10の下方部にはダッシュパネル11が連結され、このダッシュパネル11は、モータルーム18の後壁を構成し、モータルーム18と車内空間とを隔てる隔壁を構成している(
図2参照)。ダッシュパネル11は、カウルメンバ10の前端10aから所定距離だけ後方側の位置に立設されており、この所定距離だけ離間されていることによってダッシュパネル11の前方に所定の空間が形成されるようになっている。ダッシュパネル11の下方端は、車両本体30の下部に形成されたトンネル部6に連続的に接続されている。
【0023】
右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16は、強度を高くするために、金属製の閉断面で形成されている。右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16は、モータルーム18内を前後方向に水平に延びている。右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16は、車両本体30に固定されて車両本体30の剛性を向上させるようになっている。右側サイドフレーム12には、パワーユニット22のモータ44が右側エンジンマウント13を介して固定され、左側サイドフレーム16には発電機28が左側エンジンマウント15を介して固定されている。
【0024】
フロントメンバ14は、モータルーム18の前端に配置され、右側サイドフレーム12と左側サイドフレーム16との間を車幅方向に延びている。フロントメンバ14は、車両本体30に固定されており、モータルーム18の前方側の壁を構成するようになっている。
【0025】
図2に示すように、パワーユニット22は、ジャンクションボックス40、インバータ42、モータ44から構成され、電力を変換、供給するためのユニットである。ジャンクションボックス40、インバータ42及びモータ44は、上からこの順序で配置され一体的に連結している。ジャンクションボックス40、インバータ42及びモータ44は、上面視において、これらが重なるように配置されている。DC/DCコンバータ23は、パワーユニット22の前方側に配置されてジャンクションボックス40と連結している。コンプレッサ25は、パワーユニット22の後方側に配置されてモータ44と連結している。
【0026】
パワーユニット22は、モータ44の上面が右側エンジンマウント13を介して右側サイドフレーム12にボルトにより連結されることにより固定されている。更に、パワーユニット22は、車幅方向中央付近のモータ44の下面がエンジンマウントブラケット17を介して車両本体30のサスクロス(図示せず)にボルトにより連結されることにより固定されている。エンジンマウントブラケット17は、右側エンジンマウント13より強い強度の材料により形成されている。車両が右側前方で衝突した時には、右側サイドフレーム12が折れ曲がり、パワーユニット22が車両本体30に対して後方へ移動するようになっている。同時に、パワーユニット22の底面がエンジンマウントブラケット17と連結しているため、パワーユニット22が下方へ引っ張られて後側下方へ移動するようになっている。
【0027】
パワーユニット22は、上下方向に、ジャンクションボックス40、インバータ42、モータ44が積載されて構成されているため、モータルーム18内において高さが最も高くなっている。即ち、パワーユニット22のジャンクションボックス40の上面の高さ位置は、モータルーム18内に設置されている減速機構24、内燃機関26、コンバータ27、発電機28の上面の高さ位置より高くなるように設定されている。また、ジャンクションボックス40の上面の高さ位置は、カウルメンバ10の前端10aの高さ位置より低くなるように設定されている。
【0028】
ジャンクションボックス40は、電線同士を結合、分岐、中継する際に用いる端子や端末を保護するための接続箱である。また、ジャンクションボックス40は、リレーを含む電気回路が収納されている。ジャンクションボックス40の上面には、高電圧ハーネス19と接続するための接続口が設けられており、高電圧ハーネス19のコネクタ19aが接続口に接続されるようになっている。高電圧ハーネスは、保護ブラケット50に隣接してジャンクションボックス40の上面に固定されるようになっている。
【0029】
インバータ42は、バッテリ4から高電圧ハーネス19を介して供給された直流の電力を交流電力に変換するように構成されている。インバータ42によって交流に変換された電力は、モータ44に供給されて、モータ44を駆動するために使用される。
【0030】
モータ44は、モータケースに収容されたロータ、ステータ及び出力軸を備えている(図示せず)。ロータは水平方向に向けられた出力軸と結合され、モータケースに対して水平な軸線を中心に回転可能に支持されている。ステータはモータケースに固定され、ステータを構成するコイルに交流電流を流すことにより、ロータを回転駆動するように構成されている。モータ44は、バッテリ4からインバータ42を介して流れてきた交流電力によって車両2のドライブシャフトを駆動するようになっている。なお、車両2のドライブシャフトは、モータ44の駆動力によって駆動され、内燃機関26の生成した動力により直接駆動されることはない。
【0031】
DC/DCコンバータ23は、直流電圧を昇圧及び/又は降圧するように構成されていて、バッテリ4の電圧を適切なレベルに変換するようになっている。
【0032】
コンプレッサ25は、回転式コンプレッサであり、車両2のエアコンに利用される圧縮機である。コンプレッサ25は、円柱状の形状をした本体部25aと、この本体部の左側面から所定長さだけ外側(左側)車幅方向へ水平に突出したコネクタ部25bを備えている。コンプレッサ25は、高電圧部品であり、コネクタ部25bとジャンクションボックス40とが電力供給線(図示せず)を介して接続されている。コンプレッサ25は、モータ44と略同じ高さに配置され、モータ44の後側に配置されている。また、コンプレッサ25は、高電圧ハーネス19を固定しているブラケット60の前方に配置されており、コンプレッサ25のコネクタ部25bがブラケット60と前後方向に対向するように配置されている。
【0033】
減速機構24は、車幅方向で、モータ44と内燃機関26との間に配置されており、モータ44の動力を車両2の車輪(図示せず)に伝達する伝達経路の途中に設けられている。モータ44の出力軸の回転は減速ギア(図示せず)によって減速され、ドライブシャフトを介して車輪(図示せず)に伝達される。
【0034】
内燃機関26は、車両の後方側に配置された燃料タンクと燃料管21を介して連結しており、燃料タンクからの燃料を燃焼させることにより動力を生成するように構成されている。内燃機関26の出力軸(図示せず)と発電機の28の入力軸(図示せず)とが連結されているため、内燃機関26が生成した動力によって発電機28の入力軸が駆動し電力を生成するようになっている。内燃機関26の前端部は、上面視で、モータ44の前端部よりも車両2の前方側に位置している。このため、車両の前方衝突時に内燃機関26によってモータ44を保護することができるようになっている。なお、本実施形態においては、内燃機関26としてロータリピストンエンジンが採用されている。このため、モータ44と発電機28との間に内燃機関26を配置した場合でも、モータルーム18内においてモータ44、内燃機関26、発電機28をコンパクトに車軸方向に配置することができるようになっている。
【0035】
コンバータ27は、発電機28によって生成された交流電力、及びモータ44によって回生された交流電力を、バッテリ4に蓄積するために直流電力に変換するように構成されている。コンバータ27は、上面視において、内燃機関26の上面にオーバーラップするように配置されている。このため、車両の前方衝突時に、右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16などが変形してコンバータ27と干渉することを抑制できる。具体的に、車両の衝突時に、変形した右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16などをコンバータ27よりも先に内燃機関26に当てることができ、内燃機関26によってコンバータ27を保護することができる。
【0036】
発電機28は、内燃機関26が生成した動力により交流電力を生成するように構成されており、その入力軸が内燃機関26の出力軸によって回転駆動されるように構成されている。発電機28によって生成された交流電力は、コンバータ27によって直流に変換され、バッテリ4に蓄積される。発電機28は、発電機28の上面が左側エンジンマウント15を介して左側サイドフレーム16にボルトにより連結されることにより固定されている。
【0037】
次に、
図2及び
図3を参照して、本実施形態における車両前部構造の保護ブラケット50の構成について説明する。
図3は、本実施形態における車両前部構造の保護ブラケットの斜視図である。
【0038】
図3に示すように、保護ブラケット50は、本体部50a、凸部50b、凸部の上面50c、屈曲部50dを備えている。保護ブラケット50の本体部50aは、長方形状で形成され、所定厚さの金属製の板を加工することによって形成されている。
【0039】
保護ブラケット50は、保護ブラケット50がジャンクションボックス40に取り付けられた状態において(
図2参照)、正面視で、本体部50aの車幅方向中央に、上方に向けて突出して湾曲した山型の凸部50bが形成されている。これにより、凸部の両側方に第1の空間S1を形成することができるようになっている。保護ブラケット50の下端から上端までの上下方向の最大長さは、車両が衝突してパワーユニット22が下方へ移動した場合にカウルメンバ10と当接することができる十分な長さに設定されて形成されている。
【0040】
保護ブラケット50の凸部50bの上面50cは、急激に屈曲することなく緩やかに上方に向けて湾曲している。これにより、燃料管等が接触した場合、燃料管等の表面を傷つけることがないようになっている。
【0041】
保護ブラケット50の上面50cの後端には、側面視で、後側下方へ緩やかに湾曲した、円弧状に屈曲する屈曲部50dが形成されている(
図4B参照)。屈曲部50dは、側面視で、保護ブラケット50の上面50cの前端の前側下方への屈曲部と比較して、より緩やかに大きな曲率半径で屈曲している。これにより、カウルメンバ10が屈曲部50dに当接した場合、カウルメンバ10を上方へ押し上げるようになっている。
【0042】
保護ブラケット50をジャンクションボックス40に固定するために、保護ブラケット50はビスを貫通させるための3つの取付孔50eを備えている。保護ブラケット50は、ジャンクションボックス40に対して取付孔50eを介してビスによって取り付けられる。保護ブラケット50は、高電圧ハーネス19のコネクタ19aに隣接してジャンクションボックス40の上面に固定されるようになっている。これにより、保護ブラケット50は、車両の走行時に発生する高電圧ハーネス19の振動を抑制することができるようになっている。
【0043】
図2に示すように、保護ブラケット50の車幅方向の長さは、正面視で、高電圧ハーネス19のコネクタ19aの車幅方向の長さより長くなるように形成されている。また、保護ブラケット50の上下方向の長さは、正面視で、高電圧ハーネス19のコネクタ19aの上下方向の長さより長くなるように形成されている。保護ブラケット50は、正面視で、保護ブラケット50の外郭線内に高電圧ハーネス19のコネクタ19aを含むように配置されている。これにより、保護ブラケット50により高電圧ハーネス19のコネクタ19aを保護するようになっている。
【0044】
次に、
図4及び
図5を参照して、本実施形態における車両前部構造の保護ブラケット50の作用について説明する。
図4Aは、車両が前方衝突する前の車両前部構造を示す正面図、
図4Bは、車両が前方衝突する前の車両前部構造を示す側方断面図、
図5Aは、車両が前方衝突した後の車両前部構造を示す正面図、
図5Bは、車両が前方衝突した後の車両前部構造を示す側方断面図である。
【0045】
図4A及び
図4Bは、車両が前方衝突する前の車両前部構造を示している。パワーユニット22は、下から順に、モータ44、インバータ42、ジャンクションボックス40が積載されており、モータルーム18内に垂直に立設している。パワーユニット22のジャンクションボックス40の上面には、保護ブラケット50及び高電圧ハーネス19のコネクタ19aが取り付けられており、保護ブラケット50が高電圧ハーネス19の上方に延びている。保護ブラケット50の上端は、カウルメンバ10の前端10aの下端より上方に位置しており、カウルメンバの車幅方向中央付近に位置するように配置されている。燃料管21は、内燃機関26(図示せず)と連結しており、カウルメンバ10の下方を経由して車両2の下部のトンネル部6に向かって延びている。
【0046】
図5A及び
図5Bは、車両の右側前方で衝突した後の車両前部構造を示している。前方衝突した際の衝撃を受けると右側サイドフレーム12及び左側サイドフレーム16が変形すると共に、パワーユニット22がパワーユニット22の底面と連結しているエンジンマウントブラケット17によって下方へ引っ張られるので、
図4の衝突前の位置と比べて後側下方に移動している。
【0047】
図5A及び
図5Bに示す通り、衝突後にパワーユニット22が後側下方に移動しているが、保護ブラケット50の上端がカウルメンバ10を押し上げて、カウルメンバ10の下面10bと当接している。カウルメンバ10を押し上げる際に、保護ブラケット50の円弧形状の屈曲部50dによってカウルメンバ10が滑らかに押し上げられている。
【0048】
衝突後に、保護ブラケット50の上端とカウルメンバ10の下面10bとが当接しているが、保護ブラケット50の凸部50bの側方には第1の空間S1が形成されている(
図5A参照)。また、保護ブラケット50がカウルメンバ10と当接することにより、保護ブラケットがカウルメンバ10の前後方向の前方付近で止まっている。このため、保護ブラケット50及びパワーユニット22の前後方向後側、カウルメンバ10の下面10b、ダッシュパネル11の前後方向前側に囲まれた空間である第2の空間S2が形成されている。
【0049】
燃料管21は、パワーユニット22と連結されていないために、衝突の衝撃によりパワーユニット22と独立して自由に移動するが、保護ブラケット50とカウルメンバ10とが当接しているので、保護ブラケット50とカウルメンバ10との間に挟まれることはない。また、保護ブラケット50の凸部50bの側方に第1の空間S1が形成されているので、燃料管21は、第1の空間S1に収容されるようになっている。また、保護ブラケット50の後側には、第2の空間S2が形成されているので、燃料管21及び高電圧ハーネス19は、第2の空間S2に収容されるようになっている。
【0050】
次いで、本実施形態の(作用)効果について説明する。
このように構成された本実施形態の車両前部構造20は、車幅方向に延びると共にモータルーム18の後方側から前方に張り出して形成されるカウルメンバ10と、モータルーム18内で右側サイドフレーム12又は左側サイドフレーム16に右側エンジンマウント13又は左側エンジンマウント15を介して固定されると共に下方部分がエンジンマウントブラケット17を介して車両本体に固定され、電力により車両を駆動させるパワーユニット22と、モータルーム18内の内燃機関26と車両の後方側に配置された燃料タンクとを連結する燃料管21とを備えている。また、本実施形態の車両前部構造20は、パワーユニットの上面に保護ブラケット50が設けられ、この保護ブラケット50の上端は、車両2が右側前方から衝突してパワーユニット22が後側下方へ移動した場合に、カウルメンバ10の下面10bに当接するように構成されている。
【0051】
このように構成された本実施形態によれば、車両2が前方衝突した場合、パワーユニット22が後側下方へ移動したときに保護ブラケット50がカウルメンバ10に当接するように構成されているので、カウルメンバ10と保護ブラケット50との間に隙間が生じることがなく、カウルメンバ10と保護ブラケット50との間に燃料管21が挟まれることを防止することができる。これにより、燃料管21がパワーユニット22とカウルメンバ10との間に挟まれることを防止することができる。
また、保護ブラケット50は、カウルメンバ10を上方に押し上げて止まるので、保護ブラケット50の後側に第2の空間S2を形成することができる。これにより、燃料管21及び高電圧ハーネス19を収容できる第2の空間S2を形成することができ、燃料管21及び高電圧ハーネス19が挟まれることを防止することができる。
【0052】
また、このように構成された本実施形態によれば、保護ブラケット50は、正面視で、上方に向けて突出した凸部50bを備えているので、保護ブラケット50の凸部50bの車幅方向側方に燃料管21を配設させる第1の空間S1を形成することができる。また、凸部50bは、上方に湾曲して山型で突出しているので、局所的に上方へ突出させた場合と比較して、凸部50bの強度を向上させることができる。
【0053】
このように構成された本実施形態によれば、保護ブラケット50の凸部50bは、正面視で、保護ブラケット50の車幅方向中央に形成されているので、カウルメンバ10を上方に押し上げるときに保護ブラケット50に作用する力を車幅方向に分散させることができる。これにより、カウルメンバ10を確実に上方に押し上げて第1の空間S1、第2の空間S2を形成することができ、燃料管21が挟まれることを防止することができる。
【0054】
また、このように構成された本実施形態によれば、保護ブラケット50は、側面視で、後端に円弧状に屈曲する屈曲部50dを備えているので、円弧状に屈曲した形状に沿ってカウルメンバ10を押し上げることができる。これにより、カウルメンバ10を確実に上方に押し上げて第1の空間S1、第2の空間S2を形成することができ、燃料管21が挟まれることを防止することができる。
【0055】
このように構成された本実施形態によれば、パワーユニット22と車両2の中央に配置されたバッテリ4とを連結する高電圧ハーネス19を備え、保護ブラケット50は、正面視で、車幅方向の長さが高電圧ハーネス19のコネクタ19aの長さより長くなるように形成され、高電圧ハーネス19のコネクタ19aに隣接して配置されている。これにより、高電圧ハーネス19のコネクタ19aが保護ブラケット50により保護されているので、高電圧ハーネス19のコネクタ19aの破損を防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
2 :車両
4 :バッテリ
10 :カウルメンバ
10a :カウルメンバの前端
10b :カウルメンバの下面
11 :ダッシュパネル
12 :右側サイドフレーム
13 :右側エンジンマウント
15 :左側エンジンマウント
16 :左側サイドフレーム
17 :エンジンマウントブラケット
18 :モータルーム
19 :高電圧ハーネス
19a :高電圧ハーネスのコネクタ
20 :車両前部構造
21 :燃料管
22 :パワーユニット
26 :内燃機関
30 :車両本体
40 :ジャンクションボックス
42 :インバータ
44 :モータ
50 :保護ブラケット
50a :保護ブラケットの本体部
50b :保護ブラケットの凸部
50c :保護ブラケットの上面
50d :保護ブラケットの屈曲部
50e :保護ブラケットの取付孔
S1 :第1の空間
S2 :第2の空間