(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】活性汚泥の処理水CODの取得方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20240219BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C02F3/12 P
C02F3/12 B
G01N33/18 104
(21)【出願番号】P 2023198777
(22)【出願日】2023-11-24
【審査請求日】2023-11-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591067185
【氏名又は名称】株式会社 小川環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107490
【氏名又は名称】杉原 鉄郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 尊夫
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-160397(JP,A)
【文献】特開2017-006894(JP,A)
【文献】特開2006-84240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-3/34
G01N33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊性の好気性微生物を処理主体とする曝気槽を有する生物処理装置における処理水CODの取得方法であって、
曝気槽での処理が終了した活性汚泥混合液をサンプリングして、一定温度条件下で一定の総括物質移動係数(KLa)で曝気し、曝気開始から所定の曝気時間までの溶存酸素濃度(以下、DO)の変化データを測定する過程で得られる、処理水の易分解性BOD値と、遅分解性BOD値と、サンプリング地点における仮想原水BODts濃度計算値(以下、仮想原水BODts)と、を用いて、(1)式により処理水CODを求める、ことを特徴とする処理水COD取得方法。
処理水COD=k1×処理水の易分解性BOD+k2×処理水の遅分解性BOD
+k3×仮想原水BODts ・・・(1)式
但し、k1、k2、k3は各BOD値からCOD値に変換する係数であって、それぞれ処理水中の易分解性BOD、遅分解性BOD、水溶性汚濁物の基質構成に対応して定まり、
(1)式において、処理水の易分解性BODとは、曝気中のDO値変化を表す(2)式によるC1_hf(t)値変化曲線(曲線2)と、実測のDO値変化曲線(曲線1)と、により囲まれる面積にKLaを乗じた値をいい、
C1_hf(t)=DOhf1-(DOhf1-C0)exp(-KLa・t)・・・(2)式
処理水の遅分解性BODとは、(3)式によるC2_hf(t)値変化曲線(曲線3)と、実測のDO値変化曲線(曲線1)と、により囲まれる面積にKLaを乗じた値から処理水の易分解性BODを減じた値をいい、
C2_hf(t)=DOhf2-(DOhf2-C0)exp(-KLa・t)・・・(3)式
仮想原水BODtsとは、サンプリング時以前に曝気槽に流入した原水の、サンプリング地点におけるBODts値であって、原水及び返送汚泥が曝気槽に流入する地点からサンプリング地点に到達するまでの、滞留時間分布に基づいて計算した推定値である。
ここに、原水についてBODts値とは、サンプリングした活性汚泥混合液が、温度一定かつ曝気強度一定の条件下において、DO値がDOhfに到達したのち、活性汚泥混合液に原水を添加して、DO値がDOhfに戻るまでの間に消費された酸素消費量を、原水の添加量と測定機の活性汚泥混合液量に基づき原水の酸素消費量に換算した値をいう。
(2)、(3)式において、C0は、曝気の初期DO値、
DOhf1、DOhf2、DOhfは、サンプリングした活性汚泥混合液中に、それぞれ易分解性BOD、遅分解性BOD、又はBODが残留していないときの、酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とがバランスするDO値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気性微生物を利用する活性汚泥などの廃水処理における処理水CODの取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好気性微生物を利用した活性汚泥法などの処理法は、有機性汚濁物を含む排水の最も汎用的な処理法である。活性汚泥法において処理水のBOD管理は運転管理上きわめて重要であるが、公定法によるBODの測定には長時間を要するため、実質的に活性汚泥の運転操作には不適である。このため、測定に要する時間が短いCODに着目し、処理水CODを測定して、処理水BODおよび活性汚泥の処理状態を推定するのが一般的である。
【0003】
しかしながら、活性汚泥に流入する排水(以下、原水)に易分解性の汚濁物だけでなく、遅分解性や難分解性の成分が含まれていると、活性汚泥で該原水を処理した場合、易分解性汚濁物及び遅分解性汚濁物の一部は活性汚泥で処理されて、処理水のBODは小さくなるが、水溶性の難分解性汚濁物は処理できず、処理水中にそのまま残留する。このため原水に負荷変動があった場合、原水ベースでは原水CODと原水BOD間に一定の相関関係があったとしても、処理水ベースでは、処理水BODが良好に処理され小さな値になると、処理水BODに対応するCODもこれに比例して小さくなるが、水溶性の難分解性汚濁物によるCODはそのまま処理水に残り、しかも原水変動に伴い変動するため、処理水CODと処理水BODの相関関係は著しく低下する。
【0004】
処理水CODの値は、法規制上の観点からも必要であり、一般に、活性汚泥の原水や処理水のCOD測定は、独立した自動COD測定機や公定法に基づくマニュアルによるCOD測定によっている。有機性汚濁排水のCODは、活性汚泥で処理するのが一般的であるが、処理水CODと処理水BODの間の相関関係が低下すると、処理水CODの測定値から処理水BODの値を推定することが困難になり、活性汚泥の浄化作用が正常に行われているか否かの判断が難しくなり、活性汚泥の運転管理に支障が生じる結果となる。
【0005】
CODとBODとでは測定原理が異なり、活性汚泥での除去作用も異なるため、処理水のCODとBODを関連付ける計算法は既存の特許公開情報には見当たらない。例えば、特許文献1には、UV計から得られるCOD値をBOD値に変換する記述があるが、これは原水ベースでのCODとBODであり、処理水ベースのCODとBODの変換ではない。
【0006】
本出願人による特許文献2には、曝気槽での処理が終了した活性汚泥混合液をサンプリングして、一定温度条件下で一定の総括物質移動係数KLaで曝気し、曝気開始から所定の曝気時間までの溶存酸素濃度の変化データから、活性汚泥混合液中の易分解性BODと遅分解性BOD値を計算する方法が開示されているが、これらの値と処理水CODとの関係には言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-107796
【文献】特願2022-70753
【文献】特開2001-235462
【文献】特開2006-84240
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、本出願人が文献2に開示しているBOD測定方法を一部利用して、処理水CODを取得する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は以下の内容を要旨とする。すなわち、
浮遊性の好気性微生物を処理主体とする曝気槽を有する生物処理装置における処理水CODの取得方法であって、
曝気槽での処理が終了した活性汚泥混合液をサンプリングして、一定温度条件下で一定の総括物質移動係数(KLa)で曝気し、曝気開始から所定の曝気時間(以下、測定時間という)までの溶存酸素濃度(以下、DO)の変化データを測定する過程で得られる、処理水の易分解性BOD値と、遅分解性BOD値と、サンプリング地点における仮想原水BODts濃度計算値(以下、仮想原水BODts)と、を用いて、(1)式により処理水CODを求める、ことを特徴とする処理水COD取得方法。
処理水COD=k1×処理水の易分解性BOD+k2×処理水の遅分解性BOD
+k3×仮想原水BODts ・・・(1)式
但し、k1、k2、k3は各BOD値からCOD値に変換する係数であって、それぞれ処理水中の易分解性BOD、遅分解性BOD、水溶性汚濁物の基質構成に対応して定まり、
(1)式において、処理水の易分解性BODとは、曝気中のDO値変化を表す(2)式によるC1_hf(t)値変化曲線(曲線2)と、実測のDO値変化曲線(曲線1)と、により囲まれる面積にKLaを乗じた値をいい、
C1_hf(t)=DOhf1-(DOhf1-C0)exp(-KLa・t)・・・(2)式
処理水の遅分解性BODとは、(3)式によるC2_hf(t)値変化曲線(曲線3)と、実測のDO値変化曲線(曲線1)と、により囲まれる面積にKLaを乗じた値から処理水の易分解性BODを減じた値をいい、
C2_hf(t)=DOhf2-(DOhf2-C0)exp(-KLa・t)・・・(3)式
仮想原水BODtsとは、サンプリング時以前に曝気槽に流入した原水の、サンプリング地点におけるBODts値であって、原水及び返送汚泥が曝気槽に流入する地点からサンプリング地点に到達するまでの、滞留時間分布に基づいて計算した推定値である。
ここに、原水についてBODts値とは、サンプリングした活性汚泥混合液が、温度一定かつ曝気強度一定の条件下において、DO値がDOhfに到達したのち、活性汚泥混合液に原水を添加して、DO値がDOhfに戻るまでの間に消費された酸素消費量を、原水の添加量と測定機の活性汚泥混合液量に基づき原水の酸素消費量に換算した値をいう。
(2)、(3)式において、C0は、曝気の初期DO値、
DOhf1、DOhf2、DOhfは、サンプリングした活性汚泥混合液中に、それぞれ易分解性BOD、遅分解性BOD、又はBODが残留していないときの、酸素消費速度と曝気による酸素供給速度とがバランスするDO値である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、活性汚泥の処理水CODと処理水BODとの関連付けが可能となった。これにより、活性汚泥の運転管理状況に基づいて処理水CODを計算出力でき、また逆に処理水のCOD実測値に基づいて、活性汚泥の処理状況を推定できるようになった。
さらに、工場排水に関するCOD法規制への対応を適切に行えるようになり、もって活性汚泥の運転管理技術の向上に資するものである。
また、AIによる活性汚泥運転管理支援システム構築に際し、AIの有効な学習データとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】曝気継続時間に伴うDO変化と易分解性BOD、遅分解性BODとの関係を表す図である。
【
図2】実施形態記載測定方法による、測定時間経過に伴う処理水中の易分解性BOD及び遅分解性BOD値の変化を示す図である。
【
図3】同上の原水BODts値変化を示す図である。
【
図4】各測定時間(横軸)における、原水のBODtsと原水流量と返送汚泥量の測定値のグラフである。
【
図5】
図3、
図4の測定データを用いて計算した仮想原水BODtsを示す図である。
【
図6】(1)式により計算した処理水CODを示す図である。
【
図7】処理水CODについて実測値と計算値とを比較した図である。
【
図8】KLa測定操作及び原水BODts測定操作を、易分解性BOD測定後であって遅分解性BOD測定途中に行った場合における、遅分解性BODの計算方法を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
活性汚泥における有機性汚濁物排水の除去作用は、有機性汚濁物排水の汚濁物成分を、活性汚泥を構成する好気性微生物が摂取・分解していくメカニズムであり、有機性汚濁物を易分解性成分、遅分解性成分、難分解性成分に分類して考察するのが実用的である。
【0013】
活性汚泥の除去作用の観点からみた各成分の特徴は、以下の通りである。 易分解性成分は、速やかに微生物に摂取され微生物体内に栄養物として蓄えられ、微生物はその栄養物を使って、生物活動を行い、増殖していく。微生物で摂取できなかった部分は、処理水BODとして流出し、処理水CODとしても検出される。
遅分解性成分のうち不溶性成分は、一旦フロックにトラップされ、一部は加水分解されて、易分解性成分と同様に微生物に摂取される。フロックにトラップされた段階で、排水からは除去される形になり、加水分解された分だけBOD化され、残りは不活性物として余剰汚泥として系外に排出される。遅分解性成分のうち水溶性の成分は、ゆっくりした反応速度で生物に摂取分解されていくが、分解できない部分は処理水として流出する。流出した成分は、一部は公定法のBOD及びCODとして測定され、残りはBODとしては測定されず、CODとして測定される。
難分解性成分のうち不溶性の成分は、フロックにトラップされ、そのまま余剰汚泥として排出され、排水からは除去される。
水溶性の成分は、微生物分解できないのでそのまま排水として流出するが、この成分は公定法のBODでは測定されないため、全量処理水CODとして測定される。
以上のことから、処理水CODに影響する因子は、処理水中の未処理の易分解性成分によるCOD、未処理の遅分解性汚濁成分によるCOD及び水溶性の難分解性成分によるCODであると結論付けられる。
【0014】
概念としては上記の通りであるが、実際の活性汚泥の処理では各成分の間に明確な区切りがある訳でなく、中間的な挙動を示す汚濁成分も多々ある。以下、実用的に有効な区分化の具体的方法を示す。
【0015】
図1を参照して、曝気槽での処理が終わった活性汚泥混合液を測定装置の曝気容器にサンプリングし、該活性汚泥混合液を、曝気槽内の液温度に一定に保ちつつ、活性汚泥混合液の内生呼吸状態の酸素消費速度より大きい一定の総括物質移動係数KLaで曝気していくと、DO変化値であるCは、経過時間をtとして(a)式で表される変化となる。
dC/dt=KLa(Cs-C)-Rr・・・(a)式
ここに、Csは飽和溶存酸素濃度、Rrは汚泥による酸素消費速度である。
【0016】
曝気を継続し、活性汚泥混合液の未処理のBOD成分がなくなると、Rrは汚泥の内生呼吸による酸素消費速度になるので、Rrは一定値として扱える。曝気開始時の初期DO値(以下C0)とすると、DO変化値であるC_hf(t)は、最終的に汚泥の酸素消費速度と曝気による酸素消費速度がバランスするDO値をDOhfとすると、(b)式で表される変化となる。
C_hf(t)=DOhf-(DOhf-C0)exp(-KLa・t)・・・(b)式
【0017】
サンプリングした時点で活性汚泥混合液に未処理の易分解性BOD成分が残留していると、その残留BOD成分を活性汚泥混合液が摂取し微生物体内に栄養物として取り込むために酸素を余計に消費するため、Rrはtで変化する値となる。この場合(a)式は積分できず、実測のDO変化曲線は、Rrの酸素消費速度による変化となり、残留BOD成分の摂取分解が終了する時点でDOhfの値で終了する(このDO変化曲線を曲線1(
図1)とする)。
【0018】
サンプリングした時点で活性汚泥混合液に未処理の易分解性BOD成分の残留がない状態の場合には、Rrはほぼ汚泥の内生呼吸のみの酸素消費速度になるのでほぼ一定として扱える。この場合のDO変化曲線(曲線2)はC0を起点とする(2)式で表され、最終的に汚泥の酸素消費速度と曝気による酸素消費速度がバランスするDOhf1で一定になる。
C1(t)=DOhf1-(DOhf1-C0)exp(-KLa・t)・・・(2)式
【0019】
曲線1と曲線2で囲まれた面積S1に曝気の強度を表す総括物質移動係数KLaをかけた値は、残留BOD成分を活性汚泥の微生物が摂取し、微生物体内に栄養物として取り込む際に消費する酸素量となり、この値が(1)式の易分解性BODに相当する。
【0020】
曲線1において、易分解性BOD成分中の同じ基質を分解している間は、ほぼ一定の酸素消費速度で反応するため、曝気による酸素供給速度とバランスするDO値(DOhfn)でほぼ一定になり、DOの上昇速度は小さくなる。分解が終わって次の基質の分解に移行するときには、次の基質の分解は、より小さな酸素消費速度になるので、DOhfnより少し高いDO値でほぼ一定になる階段状の変化となる。その遷移時点で一時的にDOの上昇速度は大きくなるのが特徴であることから、その様なDOの上昇速度変化がなくなった時点が、易分解性BOD成分分解終了時点であり、その時のDO値は
図1のDOhf1となる。
【0021】
未処理の易分解性BOD成分がなくなった状態の活性汚泥混合液をさらに曝気していくと、DOhfはさらにゆっくりと少しずつ上昇していく。その上昇速度は、具体的にはMLSSや汚泥の栄養状態で異なるので一概に言えないが、概ね0.001~0.01mg/l/min程度である。
この段階は、水溶性の遅分解性汚濁物が徐々に分解していく過程と、活性汚泥混合液に取り込まれた遅分解性汚濁物が、加水分解を経て汚泥に摂取される過程におけるDO変化として示される。
【0022】
サンプリングした時点で、活性汚泥混合液に未処理の易分解性BOD成分や遅分解性BOD成分の残留がない場合には、C0を起点とし、汚泥の内生呼吸による酸素消費速度と曝気による酸素供給速度がバランスするDO値(DOhf2)でほぼ一定となる、(3)式で表されるDO変化となる(このDO変化曲線を曲線3とする)。
C2(t)=DOhf2-(DOhf2-C0)exp(-KLa・t)・・・(3)式
【0023】
サンプリングした時点で易分解性BOD成分の残留や遅分解性BOD成分の残留がある場合、実測のDO変化は、曲線3より少し低いDO値で推移する。易分解性BOD成分の残留がなくなった時点でDOhf1となり、遅分解性BOD成分の残留がなくなった時点で、曲線3と同じDO値(DOhf2)で終了する。この実測DO変化曲線と曲線3で囲まれた(面積1+面積2)に曝気強度である総括物質移動係数KLaをかけた値は、全体のBODを表す。
全体のBODから易分解性BODを減じた値は、DOhf1以前の曲線2とDOhf1以降の実測曲線1と曲線3に囲まれた面積S2にKLaをかけた値に相当し、遅分解性BOD成分を活性汚泥の微生物が摂取し、微生物体内に栄養物として取り込む際に消費する酸素量となり、(1)式における遅分解性BODに相当する。
【0024】
遅分解性BOD成分の摂取分解による酸素消費速度と、汚泥の内生呼吸による酸素消費速度は小さいため、反応の終点を酸素消費速度に基づき決めると誤差が大きくなる。従って、計算により求めた遅分解性BODと実測の処理水BODに基づきDOhf2を定め、DO変化がDOhf2になった時点を測定の終点とするのが実際的である。
【0025】
処理水CODのうち、難分解性成分によるCODは活性汚泥では除去できないので、全量、原水に含まれる難分解性成分由来ということになる。原水に含まれる難分解性成分の量は、原水の汚濁物負荷量に比例するのが一般的なので、本発明においてもこの関係を用いて計算する。
原水の水溶性汚濁物量の評価については、原水のCOD、BOD、TOC、UV吸収値などの指標を用いることもできるが、別途それぞれの測定機を用意する必要があるため、本発明では、原水中の易分解性BODを微生物が体内の栄養物として取り込む際の酸素消費量(以下、原水BODts)を用いて行う。原水BODtsは原水BODと強い相関関係を持つ値なので、原水の水溶性汚濁物量の評価のための指標として用いることができ、後述のように易分解性BODや遅分解性BODの取得操作と一連の操作で取得できるので、別の測定機は必要ない。
【0026】
原水BODtsを測定する方法は、本出願人による文献3、文献4に記載されている。以下はその要旨である。
サンプリングした活性汚泥混合液が、温度一定で曝気強度一定の条件下で、BODが残留していない活性汚泥混合液の酸素消費速度と、曝気による酸素供給速度でバランスするDO値(DOhf)に到達したのち、活性汚泥混合液に原水を添加し、DOの値がDOhfに戻るまでの間に消費された酸素消費量を、原水の添加量と測定機の活性汚泥混合液量から、原水の酸素消費量に換算することで原水のBODts値が求められる。
原水のBODts測定操作は、DOhf到達までは本発明方法と同じであり、一連の操作として、遅分解性BOD測定後に引き続き行うことができる。
【0027】
原水が曝気槽の先頭に流入後、処理が終了するサンプリング位置に到達するまでには、原水及び返送汚泥の曝気槽内流動による滞留時間分布の時間遅れが生じる。したがって、処理水をサンプリングした時点以前の原水BODtsと原水流量及び返送汚泥量に基づいて、処理水をサンプリングした時点のサンプリング位置における仮想の原水BODtsを計算する必要がある。
【0028】
曝気槽内の滞留時間分布を正確に計算することは極めて難しい。このためトレーサーを用いて、いくつかの原水流量時のケースについて実験的に滞留時間分布を求め、その他の原水流量時は上記データを内挿又は外挿することにより求める方法がある。しかしながら、運転条件が広範にわたる場合、種々のケースをトレーサー実験で求めるのは、作業量が膨大になり現実的でない。従って、以下に示す曝気槽における流動状態をモデル化した数値計算から求めるのが一般的である。
モデル化の方法はいくつかあるが、一例として、活性汚泥で通常適用される曝気槽の形状に基づき曝気槽を完全混合槽の槽列モデル化して滞留時間分布を求める方法が適用できる。この方法により、処理水をサンプリングした地点における仮想の原水BODtsを計算する方法を以下に示す。
【0029】
処理終了の活性汚泥混合液をサンプリングした時点から曝気槽での平均滞留時間の3倍程度以前の時刻まで、時間ごとに原水流入量と返送汚泥量(以下、流量)をm個に細分化して、細分化した流量のデルタ応答式(4)式を計算する。
【数1】
N:槽列モデルの槽数
F:流量
V:槽列モデルの各槽の容量
τ=θ/(NV/F):θ(経過時間)をNV/F(平均滞留時間)で割った無次元時間
細分化した時点の原水流量をFi、BODts濃度を原水BODtsi、返送汚泥流量をF_RSi、返送汚泥の仮想BODts濃度をRS_BODtsiとして、サンプリング地点における仮想原水BODtsを(5)式で求める。
【0030】
【数2】
Ei(τ):細分化した流量に対するE(τ)
【0031】
なお、返送汚泥のRS_BODtsiの値は、細分化した時刻の処理水の仮想原水BODtsと同じであるから、細分化した時刻よりさらに以前の原水流量Fi、BODtsi、返送汚泥の流量FRSiおよびRS_BODtsiを使って(5)式で求めることができ、その値を記憶しておくことで、細分化した時刻でのRS_BODtsiとして使用できる。
(5)式の仮想原水BODtsの計算を開始する時点では、RS_BODtsiの値は不明なので、初期値として仮にRS_BODtsi=0で計算開始し、曝気槽での平均滞留時間の3倍程度の時刻まで繰り返し計算していけば、ほぼ初期値の影響はなくなり、3倍程度の時刻以降は正確な細分化したRS_BODtsiとなる。
ここで得られる結果は、後述の実施例に示す通り精度的に十分実用に耐えるものである。
【0032】
これらの測定値を使用して、処理水CODを(1)式のように計算する。
処理水COD=k1×処理水の易分解性BOD+k2×処理水の遅分解性BOD
+k3×仮想原水BODts (1)式
ここに、k1、k2、k3は各BOD値からCOD値に変換する係数である。
【0033】
k1は、易分解性BODがCODとして測定される比例係数であり、易分解性BODの基質により異なる値である。処理水中の易分解性BODは、原水中の易分解性BODの基質構成に由来し、同じ活性汚泥処理の結果であるので、一定値として扱っても誤差は小さい。
【0034】
k2は、遅分解性BODがCODとして測定される比例係数であり、遅分解性BODの基質により異なる値である。処理水中の遅分解性BODは、原水中の遅分解性BODの基質構成に由来し、同じ活性汚泥処理の結果であるので、一定値として扱っても誤差は小さい。
易分解性BODを示す基質と遅分解性BODを示す基質は異なり、易分解性BODに対応するCODへの変換係数k1と、遅分解性BODに対応するCODへの変換係数k2は異なり、k1<k2となるのが一般的である。この意味において、易分解性BODと遅分解性BODを分ける意義がある。
【0035】
k3は、水溶性の難分解性汚濁物をCODに変換する係数であり、処理水中の水溶性の難分解性汚濁物を仮想原水BODtsで評価し、k3は仮想原水BODtsをCODに変換する係数として表す。原水中の水溶性の難分解性汚濁物の含有率は、負荷変動があっても変わらないものとして扱えるので、k3を一定値として扱っても誤差は小さい。
【0036】
なお、曝気の強さを表す総括物質移動係数KLaは、(6)式を用いて以下により求めることができる。サンプリングした活性汚泥混合液を、温度一定で曝気強度一定の条件下でBODが残留しない状態まで曝気し、DO変化がほぼ一定になった時点で、曝気を停止して一旦DOを、(6)式でDOhfとの差がKLaを十分な精度で計算できる値になるC1(
図8)まで下げたのち、曝気を再開すると、DOが上昇する変化(DO(t))は(6)式で計算される値になる。KLaを変化させて、C_hf(t)の値がDO(t)と一致する値をKLaとする。なお、この操作は、易分解性BODや遅分解性BODを求める操作と一連の操作として、遅分解性BOD測定後に引き続き行うことができる。
C_hf(t)=DOhf-(DOhf-C1)exp(-KLa・t)・・・(6)式
【0037】
さらに、原水BODts測定操作およびKLa測定操作を、易分解性BOD測定後の遅分解性BOD測定途中に行うことも可能である。
図8はその一例を示すものであり、同図において、破線部(A)はKLa、破線部(B)はBODtsの測定操作過程を示す。この場合、易分解性BOD測定後にあってはDO変化は既に十分小さくなっているので、遅分解性BODの計算については、KLa測定操作及び原水BODts測定操作を行わなかったものとして計算しても、誤差は実用上問題ない程度であり無視できる。具体的には同図において、KLa測定時のDO変化については測定開始時点及び終了時点のDO値(SP1、EP1)を結ぶ直線L1で置き換え、また、原水BODts測定時のDO変化については測定開始時点及び終了時点のDO値(SP2、EP2)を結ぶ直線L2で置き換えて計算を行うものである。
【実施例】
【0038】
以下、処理水BOD測定結果を用いて本発明によりCODを取得した例を示す。
標準活性汚泥装置の曝気槽(容量1000m3)での処理が終了した活性汚泥混合液を測定装置の曝気容器にサンプリングし、曝気容器のなかで、一定温度で一定のKLaで曝気して、そのDO変化に基づき上述の方法で、処理水の易分解性BOD、遅分解性BOD、原水のBODtsの測定を約4時間ごとに行った。測定には、自動的に繰り返し測定できる測定解析装置(商品名:「TSアナライザー」株式会社小川環境研究所製)用いた。
【0039】
図2、
図3、
図4に、各測定時間(横軸)における処理水の易分解性BODと遅分解性BOD(
図2)、原水のBODts(
図3)及び、原水流量と返送汚泥量(
図4)のそれぞれ測定値(縦軸)の値変化を示す。
図5は、
図3と
図4の測定データをもとに、各点の測定値を案分して、30分ごとに細分化したデータを作成し、上述の槽列モデル化により滞留時間分布を求める方法で計算した仮想原水BODtsを示すグラフである。なお、完全混合槽槽列モデルのNは3とした。
【0040】
さらに
図6は、上述(1)式において、k1=0.5、k2=1.0、k3=0.15として計算した各時間ごとの処理水COD値を示している。
なお、k3は実験室レベルの活性汚泥テスト機において、原水負荷一定の条件で運転し、その時の原水BODtsを測定し、処理水BODが殆ど0mg/lの時の処理水CODの測定値から、k3=処理水COD/原水BODtsで計算される値を採用した。
k1とk2の値は、原水の基質ごとのCOD値とBOD値から概略値を想定できるが、処理水ベースでは残留する基質は原水とは異なるので、(1)式による計算値と数点の実測のCOD値ができるだけ一致するように、概略値を参考に試行錯誤をおこなって決定した。
図7は、計算した処理水CODのトレンドグラフと、実測した処理水CODの値とを比較した図である。計算値と実測値は実用範囲で良く一致し、本発明の計算法により処理水CODが取得可能であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は活性汚泥に限らず、浮遊性の好気性微生物を部分的に利用するものであれば同様の方法で測定可能であり、生物脱窒装置、浮遊汚泥併用の担体活性汚泥や固定床装置などにも適用可能である。またBODとは測定原理の異なる、TOD(全酸素消費量)やTOC(全有機体炭素量)の取得にも適用できる。
【要約】
【課題】
活性汚泥の運転状況に基づく原水や処理水などの測定データから処理水のCODを計算する方法を提供する。
【解決手段】
曝気槽での処理が終了した活性汚泥混合液をサンプリングして、一定温度条件下で一定の総括物質移動係数(KLa)で曝気し、曝気開始から所定の曝気時間までの溶存酸素濃度(DO)の変化データを測定する過程で得られる、処理水の易分解性BOD値と、遅分解性BOD値と、サンプリング地点における仮想原水BODts濃度計算値(仮想原水BODts)と、を用いて、(1)式により処理水CODを計算する。
処理水COD=k1×処理水の易分解性BOD+k2×処理水の遅分解性BOD
+k3×仮想原水BODts ・・・(1)式
【選択図】
図1