(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】木製の螺旋階段
(51)【国際特許分類】
E04F 11/032 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
E04F11/032
(21)【出願番号】P 2021078520
(22)【出願日】2021-05-06
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521193522
【氏名又は名称】EnLiCo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166132
【氏名又は名称】木船 英雄
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雅幸
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-159533(JP,U)
【文献】米国特許第04655017(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 11/00 - 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材からなる支柱を軸としてその周囲に木材からなる螺旋状の階段部を備えた木製の螺旋階段であって、
前記階段部は、一端がそれぞれ前記支柱に嵌め込まれる複数の踏板と、一端がそれぞれ前記支柱に嵌め込まれて前記各踏板を支持する複数の蹴込板とからなり、
前記各蹴込板は、蹴込板本体の一端部に蹴込板ホゾを備えると共に、当該蹴込板ホゾが前記支柱に形成した蹴込板用ホゾ穴に嵌め込まれ、
前記各蹴込板ホゾと蹴込板用ホゾ穴に、これらを連通するダボ穴を少なくとも一対形成し、各ダボ穴に木製のダボを挿入して前記蹴込板を前記支柱に固定することを特徴とする木製の螺旋階段。
【請求項2】
請求項
1に記載の木製の螺旋階段において、
前記蹴込板ホゾの各ダボ穴を同一木目線上にならないようにずらして形成したことを特徴とする木製の螺旋階段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の螺旋階段に係り、特に螺旋状の踏板をすべて片持ち構造とした螺旋階段に関する。
【背景技術】
【0002】
螺旋階段は、普通の階段に比べてコンパクトとなるため、床面積の小さい狭小住宅に適している上に、採光性やインテリア性に優れるなどの多くのメリットを有している。そして、従来の螺旋階段の多くは鋼やアルミのような金属製であるが、木材の持つ美しさや手触り感、温もりなどから木製(木造)の螺旋階段の潜在的なニーズは非常に高い。
【0003】
しかし、木製(木造)の螺旋階段は、金属製のものに比べて強度が低いため、踏板を片持ち構造とすることが難しいなどのデザイン上の制約が多い。木製の螺旋階段としては例えば以下の特許文献1には、木製の中心柱の周囲に木製の螺旋状力板を設け、この中心柱と螺旋状力板との間に、中心から外側に向かって拡大する扇状の木製踏板を螺旋状に階段的に取り付けた片持ち構造のものが提案されている。
【0004】
また、以下の特許文献2に示すように本発明者は、かつて複数の柱と複数の踏板と複数の蹴込板とを備え、複数の踏板と複数の蹴込板の各々の一端側が複数の柱のうちの少なくとも1つに埋め込まれるように構成した片持ち構造の木造階段を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-325622号公報
【文献】特許第5926343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に示すような木製の螺旋階段は、一見すると各踏み板が片持ち構造になっているように見えるが、その踏み板は中心柱とその周囲の螺旋状力板間に架け渡すような構造となっているため、片持ち構造ではない。一方、前記特許文献2に示すような木造階段は、複数の柱からなっているため、その分材料費や建築費が高くなると共に、広い設置スペースが必要となってくる。
【0007】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、省スペースかつ省コストで十分な強度を発揮できる新規な木製の螺旋階段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために第1の発明は、木材からなる支柱を軸としてその周囲に木材からなる螺旋状の階段部を備えた木製の螺旋階段であって、前記階段部は、一端がそれぞれ前記支柱に嵌め込まれる複数の踏板と、一端がそれぞれ前記支柱に嵌め込まれて前記各踏板を支持する複数の蹴込板とからなることを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、各踏板にかかる荷重を各蹴込板で支えるように作用するため、木製であっても人が昇降するための階段として十分な強度を発揮できる。また、支柱が1本であるため、設置スペースが小さくできると共に、材料費も少なくて済むため、コストも安価となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記各踏板は、略扇状に広がる踏板本体の扇頂部に踏板ホゾを備えると共に、当該踏板ホゾが前記支柱に形成した踏板用ホゾ穴に嵌め込まれることを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、各踏板が円状に連なるように支柱に取り付けられるため、どの位置から昇降しても利用者が踏板を踏み外すようなことがない。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記各蹴込板は、蹴込板本体の一端部に蹴込板ホゾを備えると共に、当該蹴込板ホゾが前記支柱に形成した蹴込板用ホゾ穴に嵌め込まれることを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、各蹴込板を支柱に確実に取り付けるころができると共に、各踏板にかかる荷重を各蹴込板を介して支柱でしっかりと支えることができる。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、前記各蹴込板ホゾと蹴込板用ホゾ穴に、これらを連通するダボ穴を少なくとも一対形成し、各ダボ穴に木製のダボを挿入して前記蹴込板を前記支柱に固定することを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、蹴込板に引張力が加わっても抜けたりずれたりしないため、簡単且つ確実に蹴込板を支柱に固定することができる。
【0012】
第5の発明は、第4の発明において、前記蹴込板ホゾの各ダボ穴を同一木目線上にならないようにずらして形成したことを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、同一木目線上に応力が集中するのを回避できるため、ダボ穴からの亀裂などを未然に防止できる。
【0013】
第6の発明は、第3の発明において、前記蹴込板ホゾが嵌め込まれる蹴込板用ホゾ穴を前記支柱を貫通して形成し、前記蹴込板用ホゾ穴に嵌め込んだ前記蹴込板ホゾの端部にくさびを打ち込んで前記蹴込板を前記支柱に固定することを特徴とする木製の螺旋階段である。このような構成によれば、蹴込板の抜けやずれをより簡単に防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の木製の螺旋階段によれば、各踏板にかかる荷重を各蹴込板で支えるように作用するため、木製であっても人が昇降するための階段として十分な強度を発揮できる。また、支柱が1本であるため、設置スペースが小さくできると共に、材料費も少なくて済むため、コストも安価となるなどといった優れた作用・効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る木製の螺旋階段100の実施の一形態を示す全体斜視図である。
【
図2】本発明に係る木製の螺旋階段100の実施の一形態を示す平面図である。
【
図3】本発明に係る木製の螺旋階段100の実施の一形態を示す正面図である。
【
図4】本発明に係る木製の螺旋階段100の部分拡大斜視図である。
【
図5】支柱10に対して踏板21および蹴込板22を組み付ける状態を説明する側面図である。
【
図6】支柱10に形成した踏板用ホゾ穴11と蹴込板用ホゾ穴12と蹴込板ダボ穴23a、23aおよびこれに挿入する木製のダボ40、40などを示す側面図である。
【
図7】支柱10に対して踏板21および蹴込板22を組み付ける状態を説明する平面図である。
【
図8】支柱10に対して踏板21および蹴込板22を組み付ける例を示す説明図である。
【
図9】蹴込板22をくさび50,50で固定する例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図4は本発明に係る木製の螺旋階段100の実施の一形態を示したものであり、
図1はその全体斜視図、
図2はその平面図、
図3はその正面図、
図4はその部分拡大斜視図である。図示するようにこの螺旋階段100は、木材からなる支柱10を軸としてその周囲に同じく木材からなる螺旋状の階段部20を備えた構成となっている。
【0017】
支柱10は、木材であれば特に限定されるものでなく、従来から建材として使用されているスギやヒノキ、アカマツなどの無垢材の他、ホワイトウッドなどの集成材を用いることができる。また、図では角柱となっているが円柱や多角柱であってもよい。また、太さ(径)としては例えば180~220mm、長さとしては例えば3~4m程度のものが多用される。各々の板厚も約3cm前後のものが適している。なお、図の支柱10の場合は、その4つの角部がそれぞれ面取り加工がされているが、必須の形態ではない。
【0018】
支柱10は、
図3に示すようにその下端が下階(1階)の床1FLを貫通して床下まで延びており、床下のコンクリートCL上に図示しない基礎パッキンを挟んで複数の固定金具30によって固定されている。なお、この固定金具30による固定方式に代えて支柱10の下端にホゾ(図示せず)を形成し、このホゾを床1FLに穿孔したホゾ穴(図示せず)に嵌め込んで固定するような構成であってもよい。一方、この支柱10の上端は、上階の床2FL(下階の天井)に形成された吹抜け通路Tを突き抜けて上階まで延びている。
【0019】
階段部20は、水平方向に延びる複数の踏板21と、垂直方向に延びる蹴込板22とを交互に階段状に組み合わせて構成されている。この踏板21は、
図4および
図5、
図7に示すように、略扇状をした踏板本体21aの扇頂部21bに踏板ホゾ21cを備えた構造となっている。そして、この踏板ホゾ21cが支柱10に形成された踏板用ホゾ穴11に嵌め込まれるようになっている。なお、この踏板21の下面側部にはその長手方向に沿って溝21dが形成されており、その下部に位置する蹴込板22の上縁部22dが嵌め込まれるようになっている。
【0020】
一方、蹴込板22は、
図5(A)に示すように略矩形状をした蹴込板本体22aの一端部22bに蹴込板ホゾ22cを備えた構造となっており、同図(B)に示すようにこの蹴込板ホゾ22cが支柱10に形成された縦長の蹴込板用ホゾ穴12に嵌め込まれるようになっている。また、同図に示すようにこの蹴込板22の側面にはその長手方向に沿って溝22eが形成されており、その下段側の踏板21の縁部21e(
図7(A))が嵌め込まれるようになっている。
【0021】
さらに、
図5に示すようにこの蹴込板ホゾ22cには、一対の蹴込板ダボ穴23a、23aが穿孔されており、これを支柱10側の蹴込板用ホゾ穴12に嵌め込んだ際に、同じくこの蹴込板用ホゾ穴12に形成された一対の支柱ダボ穴12a、12aと一致するようになっている。そして、
図6および
図7(B)に示すように、蹴込板ホゾ22cを蹴込板用ホゾ穴12に嵌め込んだ後、これら支柱ダボ穴12a、12aにそれぞれ木製のダボ40、40を圧入して蹴込板22を支柱10に固定するようになっている。
【0022】
図4に示すようにこの支柱10には、予めこの踏板用ホゾ穴11と蹴込板用ホゾ穴12および一対の支柱ダボ穴12a、12aが1組となって、その軸周りに一定の角度(例えば30°)づつ上下方向に螺旋状に複数設けられている。また、
図4および
図6に示すようにこれら各蹴込板用ホゾ穴12の下方にはこれと連続するように蹴込板用溝12bが形成されており、蹴込板22を支柱10に組み込んだ際に、
図5に示すように蹴込板22の蹴込板ホゾ22c下部の端面22fが嵌め込まれて支柱10に当接するようになっている。また、
図5に示すように蹴込板ホゾ22cの蹴込板ダボ穴23a、23aは、同一木目線上にならないように上下にずらして形成されている。
【0023】
このような構成をした階段部20の支柱10への組み付け方法としては、特に限定されるものではないが、例えば下階の床1FLに支柱10を立てた後、
図8(A)に示すように最下段の踏板21と蹴込板22を支柱10に取り付ける。次に、同図(B)に示すようにその上に2段目となる踏板21と蹴込板22を一定の角度(図の例では30°)ずらして支柱に取り付け、さらに同図(C)に示すようにその上に3段目となる踏板21と蹴込板22をさらに一定の角度(図の例では30°)ずらして支柱に取り付ける。
【0024】
この作業を順に繰り返すことで
図1および
図3に示すような螺旋状の階段部20が支柱10に組み付けられて下階と上階とが繋がって人の昇降移動が可能となる。図の例では階段部20がそれぞれ15枚の踏板21と蹴込板22が用いられて15段の螺旋階段となっている。なお、最上段の踏板21は上階の床2FLと同じ高さか、それよりも1段低い位置に設けられる。
【0025】
このような構成をした本発明にかかる木製の螺旋階段100にあっては、各踏板21が1本の支柱10に対して片持ち構造となっているが、各踏板21にかかる荷重を垂直に位置する各蹴込板22で支えるように作用するため、木製であっても人が昇降するための階段として十分な強度を発揮できる。すなわち、踏板21にかかる荷重はその両縁に位置する下段側の蹴込板22と上段側の蹴込板22にかかるため、支柱10と連結される踏板21の踏板ホゾ21cに集中することはない。
【0026】
そして、蹴込板22にかかった荷重は、その端部の端面22fから支柱10表面への圧接力となって支柱10側にかかるため、蹴込板ホゾ22cやその蹴込板用ホゾ穴12にも荷重が集中することがなく、木製であっても十分な強度を発揮できる。また、支柱10が1つだけであるため、設置スペースが小さくできると共に、材料費も少なくなり、コストも安価となる。さらに、基本的に目視できる部分には金具やプラスチックなどの異質の材料が用いられていないため、木製階段特有の質感や美観を損ねることもない。
【0027】
また、各踏板21を略扇状に形成したことから、
図2に示すように各踏板21が隙間無く円状に連なるように支柱10に取り付けられるため、どの位置から昇降しても利用者が踏板21を踏み外すようなこともない。さらに、蹴込板22を木製のダボ40、40を用いて支柱10に固定するようにしたため、蹴込板22に引張力が加わっても抜けたりずれたりせず、簡単且つ確実に蹴込板22を支柱10に固定することができる。また、
図5に示すように蹴込板ホゾ22cの蹴込板ダボ穴23a、23aを同一木目線上にならないようにずらして形成すれば、同一木目線上に応力が集中するのを回避できるため、蹴込板ダボ穴23aからの亀裂などを未然に防止できる。
【0028】
なお、本実施の形態では、前記のように木製のダボ40、40を用いて蹴込板22を支柱10に固定するようになっているが、
図9に示すように蹴込板用ホゾ穴12を支柱10を貫通して形成し、その蹴込板用ホゾ穴12を貫通した蹴込板ホゾ22cの端部にくさび50、50を打ち込んでその端部を上下に広げることで蹴込板22を支柱10に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
100…螺旋階段
10…支柱
11…踏板用ホゾ穴
12…蹴込板用ホゾ穴
12a…支柱ダボ穴
12b…蹴込板用溝
20…階段部
21…踏板
21a…踏板本体
21b…扇頂部
21c…踏板ホゾ
21d…溝
21e…縁部
22…蹴込板
22a…蹴込板本体
22b…一端部
22c…蹴込板ホゾ
22d…上縁部
22e…溝
22f…端面
23a…蹴込板ダボ穴
30…固定金具
40…ダボ
50…くさび
1FL…下階床
2FL…上階床
T…吹抜け通路
CL…コンクリート