(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】即時殺菌性能を有する抗菌複合素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/20 20060101AFI20240219BHJP
A01N 59/06 20060101ALI20240219BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N59/06 Z
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2023511628
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 KR2021007561
(87)【国際公開番号】W WO2022039361
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】10-2020-0104171
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0006880
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517421747
【氏名又は名称】オサンジャイエル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OSANGJAIEL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】リー クグレ
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】パク ウィス
(72)【発明者】
【氏名】リー ミョンジェ
(72)【発明者】
【氏名】パク サンギル
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表平8-505858(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1725799(KR,B1)
【文献】特開平1-258792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/20
A01N 59/06
A01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島(island)状に結合
し、
前記水酸化アルミニウムは、ガンマ相(γ-phase)の第1ベーマイト;及び水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て得られる第2ベーマイト;を含む高結晶性ベーマイト複合粒子であり、
前記第1ベーマイトと第2ベーマイトとは水素結合で結合し、
水酸化アルミニウム組成物と銅化合物が1:0.7~1.2の重量比で混合されることを特徴とする、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材。
【請求項2】
水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とを混合して原料混合物を製造する混合段階と、
前記原料混合物を噴霧乾燥させて抗菌複合素材を形成する噴霧乾燥段階と、
前記抗菌複合素材を冷却する冷却段階と、を含み、
前記抗菌複合素材は、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島状に結合
し、
前記水酸化アルミニウムは、ガンマ相(γ-phase)の第1ベーマイト;及び水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て得られる第2ベーマイト;を含む高結晶性ベーマイト複合粒子であり、
前記第1ベーマイトと第2ベーマイトとは水素結合で結合し、
水酸化アルミニウム組成物と銅化合物が1:0.7~1.2の重量比で混合されることを特徴とする、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化アルミニウム組成物は、超純水に水酸化アルミニウムが5~15重量%の濃度範囲で混合された後、ミリング過程を経て得られたものである、請求項
2に記載の即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法。
【請求項4】
前記銅化合物の粒子の平均粒度は6~20μmであり、
前記水酸化アルミニウムの平均粒度は10~500nmであることを特徴とする、請求項
2に記載の即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法。
【請求項5】
前記噴霧乾燥段階は、原料混合物を180~220℃の温度範囲で噴霧乾燥させることを特徴とする、請求項
2に記載の即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法。
【請求項6】
前記冷却段階は、噴霧乾燥段階を介して得られた抗菌複合素材粒子を90~120℃の温度に冷却することを特徴とする、請求項
2に記載の即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法。
【請求項7】
請求項
2から6の何れかに記載の方法によって製造された、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材及びその製造方法に係り、より詳細には、銅化合物と水酸化アルミニウムとの複合体である抗菌複合素材に関する。本発明の抗菌複合素材は、菌又はウイルスに対して即時殺菌性能を示すだけでなく、このような殺菌性能が長時間維持され、抗菌を必要とする様々な領域に活用されて効果的な抗菌及び抗ウイルス機能を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤又は抗ウイルス剤は、菌又はウイルスの繁殖を抑制、防止する抗菌機能を有し、最終的に死滅に至るようにする殺菌機能を有する物質である。
【0003】
このような抗菌剤又は抗ウイルス剤は、既に完成した製品の表面にコーティングされて使用されるか、或いは製品を作る過程で材料と混合されて使用されることにより、製品に抗菌、抗ウイルス及び殺菌効果を付与する。
【0004】
抗菌剤は、有機抗菌剤と無機抗菌剤に大別される。
【0005】
有機抗菌剤は、抗菌機能を有する有機性化合物及び有機金属を含み、殺菌よりは抗菌に近い作用をしながら抗菌機能をする表面が露出されると、即刻的な細菌又はウイルスの繁殖を防止することができるだけでなく、価格が安いため、広く使われている。
【0006】
しかし、有機抗菌剤は、耐久性が弱く、高温環境での使用には適さず、人体又は環境に対する有害性を有するなどの問題がある。
【0007】
無機抗菌剤の場合には、人体及び環境に対する安全性が高く、耐性菌の発生がなく、有機抗菌剤に比べて抗菌持続期間が長いため、その使用範囲が徐々に拡大している傾向にある。
【0008】
最近、このような無機抗菌剤として銅が脚光を浴びているが、銅は、展性と延性を有し、熱と電気伝導性に優れた金属であって、電気電子分野のみならず、建築材、厨房器具及び装身具などを作るのに広く用いられている金属である。また、タンパク質と結合して電子を伝達したり、酸化、還元作用などに重要な役割を果たしたりするから、人を含む様々な生命体に不可欠な元素である。
【0009】
このような銅は、抗菌作用を持つ特徴があるため、既に古くから創傷消毒や飲料水貯蔵容器に使用されるなど、実生活に広く活用されてきた。最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に長期流行するにつれて、抗菌作用を有する銅の活用度が高まっている。
【0010】
銅は、純粋に銅のみ存在する場合に最も優れる殺菌能力を示すが、約55~70%の銅を含む合金の場合にも効果的である。特に、銅は、一般的な菌類やバクテリアに対する殺菌能力に優れるだけでなく、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのスーパーバクテリアに対する抗バクテリア性能に優れるため、これらの結果を基に、2008年、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、約300個の銅合金を公衆衛生に有用な抗微生物物質として登録した。
【0011】
このような銅の抗菌作用は、微量の金属イオンが微生物の代謝作用を撹乱して殺すことにより現れるが、これを「微量銅作用」という。微量銅作用は、銅を始めとして、金、銀、白金、アルミニウム、水銀、ニッケル、鉛、コバルト、亜鉛などにおいても現れるが、これらの中で特に、殺菌効果が比較的速い方である、人体に無害な銅と銀が実生活に広く用いられている。
【0012】
既存の銅、銀などを活用した抗菌素材は、その性能が99.9%発揮されるとき(すなわち、菌又はウイルスが99.9%死滅する時点)までに少なくとも24時間が必要である。よって、真菌又はウイルスが殆ど死滅するまで生存する間に増殖し続けるだけでなく、数多くの接触を介して菌又はウイルスが他所に絶え間なく伝播する可能性が高いという問題点が存在し、実際に知られている菌又はウイルスの残留期間は、物質又は製品の種類によって数時間から数日まで多様に分布する。
【0013】
例えば、エアロゾル状態では最大2時間まで残留し、ラテックス手袋、アルミ缶などの表面では約2~8時間程度残留し、金属ノブ、ガラス窓、ガラスカップ及びセラミック鍋などでは最大5日まで残留することができる。
【0014】
菌及びウイルスの伝播速度が速いので、それらを遮断するためにはできるだけ早く死滅させることが重要であるが、既存の抗菌素材は少なくとも24時間後に抗菌機能を発揮するので、即時殺菌性能を有する抗菌素材についての開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明では、菌又はウイルスに対して即時殺菌性能を示すだけでなく、このような殺菌性能が長時間維持され、抗菌を必要とする様々な領域に活用されて効果的な抗菌及び抗ウイルス機能を提供することができる抗菌複合素材を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するための本発明の一実施例は、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島(island)状に結合した形態を有する、殺菌性能を有する抗菌複合素材に関する。
【0017】
前記水酸化アルミニウムは、ガンマ相(γ-phase)の第1ベーマイト;及び水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て得られる第2ベーマイト;を含む高結晶性ベーマイト複合粒子であり、前記第1ベーマイトと第2ベーマイトとは水素結合で結合することができる。
【0018】
本発明の他の実施例は、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とを混合して原料混合物を製造する混合段階と、前記原料混合物を噴霧乾燥させて抗菌複合素材を形成する噴霧乾燥段階と、前記抗菌複合素材を冷却する冷却段階と、を含む、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法に関する。
【0019】
前記抗菌複合素材は、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島状に結合した形態を有することができる。
【0020】
前記原料混合物は、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物が1:0.7~1.2の重量比で混合されることができる。
【0021】
前記水酸化アルミニウム組成物は、超純水に水酸化アルミニウムが5~15重量%の濃度範囲で混合された後、ミリング過程を経て得られる。
【0022】
前記銅化合物の粒子の平均粒度は6~20μmであり、前記水酸化アルミニウムの平均粒度は10~500nmであってもよい。
【0023】
前記水酸化アルミニウムは、ガンマ相(γ-phase)の第1ベーマイト;及び水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て得られる第2ベーマイト;を含む高結晶性ベーマイト複合粒子であり、前記第1ベーマイトと第2ベーマイトとは水素結合で結合することができる。
【0024】
前記噴霧乾燥段階は、原料混合物を180~220℃の温度範囲で噴霧乾燥させる段階であってもよい。
【0025】
前記冷却段階は、噴霧乾燥段階を介して得られた抗菌複合素材の粒子を90~120℃の温度に冷却する段階であってもよい。
【0026】
本発明の別の実施例は、上記の方法によって製造された即時殺菌性能を有する抗菌複合素材に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の抗菌複合素材は、菌又はウイルスに対して即時殺菌性能を示すだけでなく、このような殺菌性能が長時間維持され、抗菌を必要とする様々な領域に活用されて効果的な抗菌及び抗ウイルス機能を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例によって製造された抗菌複合素材のSEM写真である。
【
図2】本発明の一実施例によって製造された抗菌複合素材のXRD結果である。
【
図3】(A)及び(B)は本発明の一実施例によって製造された抗菌複合素材がコーティングされた綿繊維のSEM写真である。
【
図4】(A)及び(B)は実験例2に使用されたサンプルのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施例によって詳細に説明する前に、本明細書及び請求の範囲に使用された用語又は単語は、通常的又は辞典的な意味に限定されて解釈されてはならず、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されるべきであることを明らかにする。
【0030】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0031】
本明細書全体において、特定の物質の濃度を示すために使用される「%」は、特に記載がない場合、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、及び液体/液体は(体積/体積)%を意味する。
【0032】
各段階において、識別符号は、説明の便宜のために使用されるものであり、識別符号は、各段階の順序を説明するものではなく、各段階は、文脈上明確に特定の順序を記載しない限り、明示された順序と異なって実施されてもよい。すなわち、各段階は、明記された順序と同一に実施されてもよく、実質的に同時に実施されてもよく、逆の順序で実施されてもよい。
【0033】
本明細書内において、抗菌とは、菌又はウイルスの繁殖を抑制、防止する機能を意味し、殺菌とは、抗菌機能を含むとともに、菌又はウイルスを死滅させる機能を意味する。
【0034】
以下では、本発明の実施例について説明する。しかし、本発明の範疇が以下の好適な実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の権利範囲内で、本明細書に記載された内容の様々な変形形態を実施することができる。
【0035】
本発明は、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材及びその製造方法に関するものであり、本発明による抗菌複合素材は、抗菌複合素材と接触した菌又はウイルスを数分内に、例えば5~10分程度の短時間で死滅させることができるため、即時かつ効果的な抗菌及び殺菌効果を示すことができる。
【0036】
また、既存の抗菌剤に比べてこのような殺菌効果がより長時間維持されるという効果がある。
【0037】
本発明の一実施例による即時殺菌性能を有する抗菌複合素材は、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島(island)状に結合した形状を有する。具体的には、平均粒度6~20μmの銅化合物粒子の表面に、銅化合物よりも小さい粒度を有する水酸化アルミニウム粒子が島状に結合した形状を有する。銅化合物の表面には複数の水酸化アルミニウム粒子が結合することができ、水酸化アルミニウム粒子の平均粒度は10~500nmであってもよい。
【0038】
前記水酸化アルミニウムは、ガンマ相(γ-phase)の第1ベーマイト(Boehmite);及び水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て得られる第2ベーマイト;を含む高結晶性ベーマイト複合粒子であり、前記第1ベーマイトと第2ベーマイトとは、水素結合で結合したものであってもよい。
【0039】
本発明の他の実施例は、即時殺菌性能を有する抗菌複合素材の製造方法に関し、本実施例によって製造された抗菌複合素材は、本発明の一実施例による即時殺菌性能を有する抗菌複合素材であってもよい。
【0040】
本実施例による製造方法は、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とを混合して原料混合物を製造する混合段階と、前記原料混合物を噴霧乾燥させて抗菌複合素材を形成する噴霧乾燥段階と、前記抗菌複合素材を冷却する冷却段階と、を含む。
【0041】
前記抗菌複合素材は、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島(island)状に結合した形態を有する。
【0042】
まず、前記混合段階は、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とを混合して原料混合物を製造する段階である。
【0043】
この段階で、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とは1:0.7~1.2重量部で混合できる。ここで、水酸化アルミニウム組成物は、水酸化アルミニウムが超純水に5~15重量%で含まれた水溶液であり、水酸化アルミニウム粒子が溶媒としての超純水の内部にコロイド状に分散しているゾル(sol)形態を有する。
【0044】
本発明による抗菌複合素材の即時殺菌効果及び長時間維持される殺菌効果は、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物が上述の重量範囲で含まれて現れる効果であり、前記原料混合物に水酸化アルミニウム組成物と銅化合物が上述の重量範囲を超える含量で含まれる場合には、数時間後に殺菌効果が発現される一般的な殺菌効果のみが現れるだけであり、数分内に行われる即時殺菌効果が現れないだけでなく、殺菌効果が延長される効果が得られないので、上述した重量範囲で混合されることが好ましい。
【0045】
前記水酸化アルミニウム組成物は、超純水85~95重量%及び水酸化アルミニウム5~15重量%を含むことができる。
【0046】
水酸化アルミニウム組成物内に含まれる水酸化アルミニウムは、ナノサイズを有する粉末状の水酸化アルミニウム粒子であり、水酸化アルミニウム粒子のナノ化のために、前記水酸化アルミニウム組成物は、前記重量比率で超純水と水酸化アルミニウムとを混合した後、ミリング工程を経て得られることができる。
【0047】
前記ミリング工程は、超純水と水酸化アルミニウムとを混合し、1~5mmのビーズミルを充填率50~70体積%で粉砕チャンバに投入して行われることができ、回転速度2000~4000RPM及び流量80~140L/hrの条件でミリング工程が行われることができる。
【0048】
このような条件でミリング工程が行われる場合、水酸化アルミニウム粒子は、マイクロサイズから均一な大きさのナノサイズに粉砕されて銅化合物との結着力が向上するので、抗菌複合素材の殺菌効果が長期間安定的に維持される効果を得ることができる。
【0049】
この段階で、前記水酸化アルミニウム組成物と銅化合物は、前記重量比率で混合された後、均一に撹拌されることができる。攪拌は、前記原料混合物を100~500RPMの速度で5~10時間行われることができる。攪拌速度が過度に遅い或いは攪拌時間が足りない場合には、均一な分散が行われず、攪拌速度が過度に速い場合には、気泡が発生するため、後続段階である噴霧乾燥段階で銅化合物と水酸化アルミニウムとの複合体である抗菌複合素材の収得率が低下するという問題があるので、上述した工程条件で攪拌が行われることが好ましい。
【0050】
本発明の抗菌複合素材は、前述したように銅化合物粒子の表面に水酸化アルミニウム粒子が島状に結合した形態を有する。具体的には、平均粒度6~20μmの銅化合物粒子の表面に銅化合物よりも小さい粒度を有する水酸化アルミニウム粒子が結合した形態を有し、銅化合物の表面に複数の水酸化アルミニウム粒子が結合することができる。水酸化アルミニウム粒子の平均粒度は10~500nmであってもよい。
【0051】
このように銅化合物粒子の表面に銅化合物の粒子サイズよりも著しく小さいサイズの水酸化アルミニウム粒子が複数個結合した形態で形成されることにより、即時殺菌効果が現れることができる。
【0052】
銅化合物粒子の平均粒度が上記の範囲未満で形成される場合には、複数個の水酸化アルミニウム粒子との結合が困難になって即時殺菌効果を有する複合粒子の形成が困難であり、上記の範囲を超える場合には、銅化合物の比表面積が減少して殺菌効果が低下する、或いは抗菌複合素材が適用される製品の種類によって適用が不可能な場合も発生する可能性がある。
【0053】
また、水酸化アルミニウム粒子の平均粒度が上記の範囲未満である場合には、水酸化アルミニウム粒子の影響力が低下して抗菌複合素材の即時殺菌効果が低下し、上記の範囲を超える場合には、銅化合物との結合が困難になって複合粒子を形成せず、噴霧乾燥を介して水酸化アルミニウムを単独で含む粒子の形成率が増加して抗菌複合素材の収得率が低下する。
【0054】
したがって、上述した平均粒度範囲を有する銅化合物及び水酸化アルミニウムを使用することが好ましい。
【0055】
前記銅化合物は、水酸化銅、硫酸銅、塩化銅及びこれらの水和物のうちの少なくとも1つが使用できるが、特に水酸化銅(Cu(OH)2)が使用されることが好ましいが、水酸化銅を用いる場合、人体及び環境安全性に優れるうえ、水酸化基(-OH)を介した水酸化アルミニウムとの水素結合がより容易に行われるためである。
【0056】
前記水酸化アルミニウム粒子は、一般的に使用される水酸化アルミニウム粒子であってもよいが、好ましくはベーマイト粒子が使用できる。
【0057】
ベーマイト粒子が使用される場合には、γ-ベーマイト、α-ベーマイト、擬ベーマイト(Pseudo-Boehmite)などの通常のベーマイト粒子が使用できる。このとき、より好ましくは、ガンマ(γ)相を有する第1ベーマイトと、水酸化アルミニウムが脱水化反応を経て反応器内で成長した第2ベーマイトとを含む高結晶性ベーマイト複合粒子が使用できる。
【0058】
前記高結晶性ベーマイト複合粒子の第1ベーマイトと第2ベーマイトは、物理的或いは化学的に結合した構造を有し、好ましくは、表面の水酸化基(-OH)による水素結合の形態で結合した構造を有することができる。このような第2ベーマイトとの結合を介して、第1ベーマイトの表面及び内部に形成された微細孔(micro pore)の構造或いは形態が変化する。
【0059】
前記高結晶性ベーマイト複合粒子として、種子(seed)結晶である第1ベーマイトの表面の周囲に第2ベーマイト粒子が水素結合を介して結合したものが使用されてもよく、これを粉砕して粒度が調節されたものが使用されてもよい。このような高結晶性ベーマイト複合粒子は、低い比表面積を有するので、粒子の内部に含まれる水分や不純物などの含有量が少ないため、品質及び安定性に優れる。
【0060】
前記高結晶性ベーマイト複合粒子は、次の方法で製造できる。
【0061】
まず、種子(seed)粒子として使用されるγ-ベーマイトと水酸化アルミニウムをそれぞれ別々に粉砕して原料を準備する。このとき、水酸化アルミニウムとしてギブサイト(gibbsite)或いはバイヤライト(bayerite)が使用できる。
【0062】
このとき、粉砕は、通常のミリング工程(ボールミル、ダイノーミルなど)によって行われることができ、第1ベーマイトとして使用される前記γ-ベーマイトの場合には、乾式粉砕だけでなく、水に分散した状態で粉砕と分散が同時に行われる過程を経ることも可能である。
【0063】
このように前処理過程で粉砕されたそれぞれの原料物質は、反応器に投入される前に、水に混合されてスラリー状態で反応器に供給されることが好ましい。このとき、スラリー状の原料物質は、加圧噴射方式を介して反応器に供給でき、このような加圧噴射方式を介してギブサイト或いはバイヤライトの脱水化反応が誘導され、種子(seed)粒子であるγ-ベーマイトの表面の水酸化基(-OH)との水素結合が速やかに行われることにより、結晶化にかかる時間が著しく短縮できる。
【0064】
前記加圧噴射工程は、50~100気圧の圧力と6~200ml/secの流速からなることが好ましく、加圧噴射される混合物中の第1ベーマイトの添加量は1~50重量%の範囲であることがさらに好ましい。このような原料の組成比は、最終生成物である高結晶性ベーマイト複合粒子の物性に影響を与えるため、正確に制御されることが好ましい。
【0065】
前記高結晶性ベーマイト複合粒子は、必要に応じて、上述した方法とは異なる方法で製造されることもできる。
【0066】
具体的には、第1ベーマイトであるγ-ベーマイトを水と混合したスラリー状(約10~35重量%)に製造し、これを粉砕された水酸化アルミニウムと混合した後、製造された混合物を反応器に加圧噴射方式を介して供給する方法で製造できる。
【0067】
水酸化アルミニウムと共にスラリー状態に存在する混合物に含まれるγ-ベーマイトの含有量は、1~50重量%の範囲であってもよく、必要に応じて、γ-ベーマイトと水酸化アルミニウムが互いに均一に混合できるように追加の分散工程がさらに行われてもよい。
【0068】
このように準備された原料混合物は、高温、高圧(10~100bar)に維持されている反応器(例えば、オートクレーブ(autoclave))内へ50~100気圧の圧力で噴射され、この時、噴射流速は6~200ml/secの範囲が好ましい。全ての原料が反応器内に投入された後、結晶化のために一定時間反応器をエージング(aging)させる。
【0069】
このような結晶化反応時間は、原料の供給組成に応じて5分から2時間まで様々に変化することができ、1時間以内で行われることが最も好ましい。
【0070】
結晶化反応の間、スラリー状態で供給された水酸化アルミニウムは、反応器内の高温高圧条件によって脱水化反応を経るとともに、種子(seed)粒子であるγ-ベーマイト(第1ベーマイト)と水酸化アルミニウムの脱水化反応を介して形成された擬(Pseudo)ベーマイトの表面に存在するOH-基によって物理化学的に結合する。
【0071】
主に第1ベーマイトの表面の周囲に前記形成された擬(Pseudo)ベーマイトが結合し、このとき、反応器の内部圧力は10bar~100barの範囲に維持することが好ましい。
【0072】
このように製造された高結晶性ベーマイト複合粒子は、反応器の外部へ排出された後、約90~150℃の温度で乾燥工程を経ることが好ましく、必要に応じて、反応器からの排出後に水洗工程を経た後、乾燥段階を行うことも可能である。
【0073】
このような水洗過程を経ることは、反応生成物である高結晶性ベーマイト複合粒子に含まれている不純物を除去することができるだけでなく、反応器内から排出された反応物を含んでいるスラリーが塩基性を有するので、水洗過程を介してpHの範囲を中性領域に変化させるためのものである。
【0074】
その後、高結晶性ベーマイト複合粒子の粒径を調節するためのミリング段階がさらに行われることができるが、先立って加圧噴射工程の工程条件に応じて粒径の調整が可能であるので、本段階は、追加の粒径調整が必要な場合にのみさらに行われることが好ましい。
【0075】
このような高結晶性ベーマイト複合粒子は、通常のベーマイト粒子よりも銅化合物との強い結合力を形成することができ、熱伝導率、吸油量に優れるうえ、皮膚鎮静効果があるから、繊維又は人体に直接触れる製品に適用される場合には皮膚刺激の発生を減らすという効果がある。
【0076】
一方、前記噴霧乾燥段階は、混合段階を経て製造された原料混合物を噴霧乾燥させる段階である。このとき、噴霧乾燥温度は180~220℃であってもよい。
【0077】
前記冷却段階は、噴霧乾燥段階によって製造された抗菌複合素材を冷却する段階であって、この段階での冷却温度は90~120℃であってもよい。
【0078】
前記噴霧乾燥段階と冷却段階における温度条件は、水酸化アルミニウムと銅化合物との結合効率を向上させて、水酸化アルミニウムと銅化合物との複合体である抗菌複合素材の収得率を最大化するための温度条件であると同時に、均一なサイズの抗菌複合素材を得るためのものであるので、これらの段階における温度は、上述した範囲に調整されることが好ましい。
【0079】
前記冷却段階を介して最終的に製造された抗菌複合素材の平均粒度は、5~15μmであってもよく、上述した方法によって製造された抗菌複合素材は、様々な分野に適用できる。
【0080】
例えば、高分子フィルム、不織布、繊維、デコシート、塗料、ゴム製品、ABS製品、化粧品及び陶器、便器、タイル、洗面台などのセラミック製品などに適用されることで、製品に抗菌性能を付与することができる。
【0081】
本発明の抗菌複合素材は、粒子状態のまま製品に適用されてもよく、水又は有機溶媒に混合されて適用されてもよく、高分子又はゴム製品の製造時に原料コンパウンドに混合されて使用されてもよく、既に完成した製品の表面にバインダー混合された混合物の形態でコーティングされて使用されてもよく、製品に適用される形態はこれに限定されない。
【0082】
本発明の別の実施例は、上述した方法によって製造された抗菌複合素材を用いた抗菌繊維製造方法に関する。
【0083】
前記抗菌繊維製造方法は、繊維を浸漬液に所定時間浸漬させる膨潤段階と、前記浸漬液に本発明の抗菌複合素材を投入する抗菌剤投入段階と、抗菌複合素材が投入された浸漬液を加熱して抗菌繊維を製造する加熱段階と、加熱段階を経た抗菌繊維を洗濯する洗濯段階と、を含む。
【0084】
前記膨潤段階は、抗菌複合素材が繊維に容易に付着するように繊維を膨潤させて繊維間の空間を形成する段階である。
【0085】
この段階で、浸漬液としては、水又はエタノール水溶液が使用できる。より効果的な膨潤効果を付与し、抗菌複合素材の繊維に対する浸透力及び付着力を高めるために、好ましくはエタノール水溶液が使用できる。
【0086】
このとき、繊維を浸漬液に浸漬した後、30~80℃の温度範囲で1~3時間加熱することがさらに好ましい。これは、常温或いは低温の浸漬液に浸漬する場合、繊維の膨潤が十分に行われず、十分な膨潤に要する時間が長くなって作業時間が過度に増加するという問題があるためであるが、前記温度よりも高い温度で行われるか或いはより長い時間行われる場合には、繊維損傷が発生するので、上述した温度及び時間の範囲で膨潤段階が行われることが好ましい。
【0087】
前記抗菌剤投入段階は、繊維が浸漬された浸漬液に、本発明の一実施例によって製造された即時殺菌性能を有する抗菌複合素材を投入して攪拌する段階である。
【0088】
この段階で、抗菌複合素材は、浸漬液100重量部に対して1~10重量部で含まれてもよく、1重量部未満で含まれる場合には、抗菌効果が微々たるものであり、10重量部を超えて含まれる場合には、追加される含有量に比べて、繊維に浸透する抗菌複合素材の含有量が微々たるものであって経済的に好ましくないので、上述した重量範囲内で含まれることが好ましい。
【0089】
抗菌剤投入段階で、抗菌複合素材が投入されてから1~5時間撹拌することが好ましい。
【0090】
次に、前記加熱段階は、繊維浸透した抗菌複合素材を繊維に結合させる段階であり、浸漬液が30~80℃の温度範囲を持つように加熱して3~10時間維持できる。
【0091】
前記温度範囲未満或いは最小時間未満で加熱段階が行われる場合には、十分な結合が行われないため、投入された抗菌複合素材量対比の結合効率が劣り、前記温度を超えるか或いは前記時間を超えるように加熱段階が行われる場合には、繊維損傷が発生する可能性があるので、上述した温度及び時間条件を満たすように加熱段階が行われることが好ましい。
【0092】
前記洗濯段階は、加熱段階を経た抗菌繊維を洗濯して、抗菌繊維に付着せずに残っている抗菌複合素材を除去し、各種異物を除去するために行われる段階であって、清浄な水又は洗剤が含まれている水を用いて1回或いは複数回の洗濯が可能である。
【0093】
以下、本発明の一実施例によって本発明の具体的な作用と効果を説明する。ただし、これは本発明の好適な例示として提示されたものであり、実施例によって本発明の権利範囲が限定されるのではない。
【0094】
〔製造例〕
【0095】
水酸化アルミニウム組成物の製造
【0096】
種子(seed)結晶として使用される第1ベーマイトとしてガンマ相(γ-phase)のベーマイト(AOH、オサンジャイエル(株))を水に分散させてスラリー状に製造した。脱水化反応を経て第2ベーマイトに転換される水酸化アルミニウムとしては、ギブサイトを用いた。ミリング工程を用いて0.8~11.5μmサイズの範囲に二次粒子を粉砕した。前記スラリー状のガンマベーマイトと粉砕された二次粒子とを混合し、高温、高圧下の圧力容器であるオートクレーブ(autoclave)内に70気圧の圧力、100ml/secの流速で加圧噴射した。その後、結晶化のために50分間静置(エージング(aging))する結晶化段階を行うことにより、高結晶性ベーマイト複合粒子を製造した。
【0097】
次に、前記高結晶性ベーマイト複合粒子10重量%と超純水90重量%とを混合し、ビーズミル装置(Wab dynomil ecm-ap2)を用いて、平均粒度80~200nmの高結晶性ベーマイト複合粒子を含むナノゾル溶液を製造した。この時、粒径3mmのビーズミルを65体積%で充填して使用し、回転速度は2380RPM、流速は108L/hrに設定した。
【0098】
抗菌複合素材の製造
【0099】
先立って製造された水酸化アルミニウム組成物と平均粒度6~15μmのCu(OH)2粉末を1:1の重量比で混合し、200RPMの速度で7時間撹拌して均一なコロイド溶液を製造した後、アトマイザーを用いて圧力3bar、入口温度180~220℃及び出口温度90~120℃の工程条件で噴霧乾燥させることにより、抗菌複合素材粉末を得た。
【0100】
得られた抗菌複合素材は、6~7のpH、100~200μsのEC、3.24μmの粒度D10、7.80μmのD50、16.27μmのD95を有することが確認された。
【0101】
こうして得られた抗菌複合素材のSEM写真(5,000倍、3,000倍、1,000倍及び500倍の倍率)を撮影して
図1に示し、XRDを撮影して
図2に示した。
【0102】
〔実験例1〕
【0103】
まず、綿繊維をエタノール20%水溶液に浸漬し、50℃で2時間加熱して綿繊維を膨潤させた。次に、加温を停止し、前記溶液に溶液100重量部に対して8重量部の抗菌複合素材を投入した後、3時間撹拌した。その後、65℃で6時間加熱して綿繊維に抗菌複合素材をコーティングした後、2回洗濯して、抗菌複合素材がコーティングされた綿繊維(実施例1)を製造した。このとき、製造された実施例1の繊維のSEM写真を撮影して
図3の(A)及び
図3の(B)に示した。
図3の(A)及び
図3の(B)のそれぞれの左側は抗菌複合素材コーティング前の綿繊維であり、右側は抗菌複合素材コーティング後の綿繊維である。
【0104】
また、上記と同様の方法を用いるが、抗菌複合素材の代わりに水酸化銅(Cu(OH)2)を単独で用いて、水酸化銅がコーティングされた綿繊維(比較例1)を製造した。
【0105】
その後、実施例1と比較例1の抗菌性実験(AATCC-TM2019)を行い、その結果を表1に示した。対照群としては、いかなる抗菌処理もしていない綿繊維を用いた。
【0106】
具体的には、繊維サンプルを4.8±0.1cmの直径及び1.0±0.1gの重量を有するように切断し、オートクレーブ内で121±2℃の温度で15分間滅菌処理した後、5wt% Nutrient Brothと0.05wt% Trition X-100とを混合した溶液で希釈し、Dey Engley Brothを用いて中和させた後、それぞれブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538)と肺炎菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 4352)を1.8×105cells/mLの濃度で接種した後、培養して時間による細菌数を測定することにより、抗菌性を測定した。
【0107】
このとき、接種後5分経過時点で綿棒を用いてスワップし、固体培地に塗抹して二次培養した後、細菌数を測定して5分経過時点での抗菌性を測定した。また、接種後24時間経過した後、1次培養した培地の細菌数を測定することにより、24時間経過時点での抗菌性を測定した。
【0108】
【0109】
上記表1の結果を見ると、比較例1の場合は、接種24時間経過後には抗菌効果が現れたが、接種直後である5分経過後には抗菌性能が全く現れないことが確認された。これに対し、実施例1の場合は、菌株接種直後に抗菌効果が現れており、特に肺炎菌に対して非常に優れた抗菌効果を有することが確認された。
【0110】
したがって、本実験結果より、水酸化アルミニウムと銅化合物との複合体である本発明の抗菌複合素材を繊維に適用する場合、抗菌繊維に菌株が接触する即時殺菌効果が現れることを確認することができた。
【0111】
〔実験例2〕
【0112】
前記実験例1で製造された実施例1の繊維サンプルのEDS及びICP分析を行った。
【0113】
EDS分析は、実施例1の繊維の互いに異なる2つの領域をサンプルにしてそれぞれに対して分析し、使用されたサンプル2種のSEM写真を
図4の(A)及び
図4の(B)に示した。水酸化アルミニウムが繊維の表面に島状に存在することが分かり、各サンプルについての分析結果を表2に示した。
【0114】
ICP分析は、実施例1の繊維の互いに異なる3つの領域をサンプルにして5100ICP-OES(Agilent Technologies)を用いて行った。その結果を表3に示した。
【0115】
【0116】
【0117】
前記表2及び表3の結果に示すように、実施例1の抗菌繊維から銅とアルミニウムが検出されることからみて、実施例1の抗菌繊維に本発明の抗菌複合素材がよく結合したことを確認することができた。
【0118】
〔実験例3〕
【0119】
ポリプロピレン材質の不織布を準備し、前記抗菌複合素材が含まれている水溶液に所定の時間浸漬した後、乾燥させ、抗菌複合素材がそれぞれ1.0g/m2、1.5g/m2及び3.0g/m2の濃度でコーティングされた実施例2、実施例3及び実施例4の不織布をそれぞれ製造した。このとき、抗菌複合素材の濃度は、不織布面積当たりのg数を意味する。
【0120】
その後、各不織布サンプルに対して実験例1と同様の方法でブドウ球菌と肺炎菌に対する抗菌実験を行い、その結果を表4に示した。この時、接種前菌株は、1.5×105cells/mLの濃度で接種された。接種24時間経過後、細胞濃度を測定し、その結果から抗菌性を判断した。
【0121】
また、実験法AATCC30:2017、TESTIIIに基づく防黴度試験を行い、その結果を表4に示した。防黴度試験では、菌株としてコウジカビ(Aspergillus niger ATCC 6275)を用い、2週間培養後の菌株の成長を観察した。増殖が観察されない場合にはX、50倍率の顕微鏡で観察される場合には△、肉眼で観察される場合にはOと表示した。
【0122】
【0123】
前記表4の結果を見ると、本発明の抗菌複合素材がコーティングされた不織布は、ブドウ球菌と肺炎菌に対する抗菌性及びコウジカビに対する抗カビ性を有することが確認された。特に、抗菌性の場合には1.0g/m2の低濃度で適用されても現れることが確認され、抗カビ性の場合には1.5g/m2以上の高濃度で適用される場合に効果的に現れることが確認された。
【0124】
〔実験例4〕
【0125】
製造例で製造された抗菌複合素材をエタノールと混合した後、均一に撹拌することにより、抗菌複合素材の濃度が10重量%である抗菌組成物を製造した。
【0126】
次に、市中の透明なハードコーティング用塗料(DO-444、ヘドン高分子産業(株))を準備し、前記抗菌組成物の濃度が5重量%となるようにハードコーティング用塗料と混合した後、PC(ポリカーボネート)フィルム及びPETフィルムにコーティングし、乾燥させることにより、コーティングされたPCフィルム及びPETフィルム(実施例5)を製造した。
【0127】
その後、前記PETフィルムを5×5cmのサイズに切断し、大腸菌(Escherichia coli ATCC 8739)及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P)に対する抗菌性実験(KCL-FIR-1003:2018)を行い、その結果を表5に示した。
【0128】
大腸菌は1.6×105CFU/mLの濃度で接種し、黄色ブドウ球菌は3.6×105CFU/mLの濃度で接種し、24時間後に細胞濃度を測定して表5に示した。
【0129】
対照群としては、滅菌ストマッカーフィルムを使用した。
【0130】
【0131】
まず、コーティングされたPCフィルムとPETフィルムを肉眼で観察した結果、フィルムの透明性が維持されることが確認された。また、表5の結果より、本発明の抗菌複合素材が塗料に適用される場合、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する優れた抗菌力を有することを確認することができた。
【0132】
〔実験例5〕
【0133】
まず、抗菌複合素材1~4重量%、スチレンアクリル共重合体(Fine chem tech)2重量%、ノニオン界面活性剤であるプロピレングリコール(SK Chemical製)0.5重量%、アニオン界面活性剤であるジオクチルソジウムスルホサクシネート(Hannong chemial製)0.2重量%、シリコーン系消泡剤AFE-3150(Dow chemical製)0.05重量%、及び残量の純水を混合して抗菌コーティング液を製造した。
【0134】
次に、前記抗菌コーティング液にポリプロピレン材質の不織布を浸漬した後、50℃のオーブンに2時間乾燥させることにより、抗菌コーティングされた不織布を製造した。
【0135】
その後、
実験例3の黄色ブドウ球菌に対する抗菌性実験と同様の抗菌性実験を行った後、その結果を
図5に示した。
図5において、希釈濃度とは、液体培養液を固体培地に塗抹するときの希釈濃度を意味する。
【0136】
図5を参照すると、抗菌複合素材が1重量%以上で含まれる場合、黄色ブドウ球菌に対する抗菌力を有することを確認することができた。
【0137】
〔実験例6〕
【0138】
製造例と同様の方法を用いて抗菌複合素材を製造するが、水酸化アルミニウム組成物とCu(OH)2粉末の含有量を下記表6のとおりに調節してサンプル2~サンプル6の抗菌複合素材を製造した。
【0139】
先立って製造された各サンプルを用いて、実験例1と同様の方法でサンプル1~サンプル7の抗菌繊維を製造した。ここで、サンプル1とサンプル7は、本発明の抗菌複合素材を使用せず、サンプル1は、抗菌剤として、製造例で製造された水酸化アルミニウム組成物を単独で使用し、サンプル7は、Cu(OH)2粉末を単独で使用した。
【0140】
【0141】
その後、実験例1と同様の方法で抗菌性実験を行い、その結果を表7に示した。この時、ブドウ球菌は2.1×105cells/mLの濃度で、肺炎菌は1.3×105cells/mLの濃度でそれぞれ接種された。
【0142】
【0143】
前記表7の結果より、サンプル1~サンプル7はいずれも、24時間後の抗菌効果が優れていることが分かる。特に、サンプル3及びサンプル5の場合には、菌株接種直後である5分後に2種の菌種に対する即時殺菌効果が現れることが確認された。特に、肺炎菌に対する即時殺菌効果が非常に優れていることが確認された。
【0144】
また、サンプル2の場合には、肺炎菌に対する即時殺菌効果を示すことが確認された。
【0145】
このような結果より、水酸化アルミニウム粒子を含む水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とが結合した複合体は、即時殺菌効果を有することを確認することができた。
【0146】
特に、本発明の抗菌複合素材を用いた即時殺菌効果を実現するために、抗菌複合素材の製造時に水酸化アルミニウム組成物1重量部に対する銅化合物の重量比率は1.2未満であることが好ましいことが確認でき、さらに好ましくは、水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とが1:0.7~1.2の重量比で含まれることが好ましいことが確認できた。
【0147】
〔実験例7〕
【0148】
前記実験例7で製造された各抗菌繊維サンプルを温度20~25℃、相対湿度45~55%の室内空間に放置した後、1ヶ月、3ヶ月及び5ヶ月の経過後にブドウ球菌に対する抗菌性実験を行い、その結果を表8に示した。抗菌性実験は、実験例7と同様の方法で行った。このとき、ブドウ球菌は2.0×105cells/mLの濃度で接種された。
【0149】
【0150】
前記表8の結果より、各サンプルとも抗菌繊維が空気中に露出してから3ヶ月まで優れた抗菌性を有することが確認できた。ところが、5ヶ月経過後、サンプル1の場合には抗菌性が消えたことが確認され、サンプル2、サンプル6及びサンプル7の場合には極めて微弱な抗菌性が残っていることが確認された。
【0151】
これに対し、サンプル3~サンプル5の場合には、5ヶ月経過後にも優れた抗菌性が維持されることが確認された。
【0152】
従って、本実験結果より、本発明の抗菌複合素材に水酸化アルミニウム組成物と銅化合物とが1:0.7~1.2の重量比で含まれることが好ましいことが確認できた。
【0153】
本発明は、上述した特定の実施例及び説明に限定されるものではなく、請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、誰でも様々な変形実施が可能であり、それらの変形も本発明の保護範囲内にある。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明では、菌又はウイルスに対して即時殺菌性能を示すだけでなく、このような殺菌性能が長時間維持され、抗菌を必要とする様々な領域に活用されて効果的な抗菌及び抗ウイルス機能を提供することができる抗菌複合素材を提供するためのものであり、銅化合物の表面に水酸化アルミニウムが島状に結合して即時殺菌性能を示すだけでなく、このような殺菌性能が長時間維持され、抗菌を必要とする様々な領域に活用されて効果的な抗菌及び抗ウイルス機能を提供することができるので、産業上の利用可能性がある。