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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240219BHJP
   G03B 21/62 20140101ALI20240219BHJP
【FI】
G02F1/13 102
G02F1/13 505
G03B21/62
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019146721
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021026184
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】太田 最実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文紀
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 康朗
(72)【発明者】
【氏名】栗原 清二
(72)【発明者】
【氏名】深港 豪
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185511(JP,A)
【文献】特開2016-194627(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0018681(US,A1)
【文献】S. KURIHARA et al.,Photochemical Switching between a Compensated Nematic Phase and a Photoisomerization of Chiral Azobenzene Molecules,CHEMISTRY OF MATERIALS,American Chemical Society,1999年12月22日,Vol. 12, No. 1,pp. 9-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G03B 21/56-21/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体と、紫外線投光部と、少なくとも1つの可視光投光部とを有し、
前記表示機能層は、液晶分子とアゾベンゼン化合物とが混合された組成物を有し、
前記アゾベンゼン化合物は、下記式1:
【化1】


(式1中、Rは、2価のエステル基であり、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基であり、*は、結合部位を表す)
で表される構造を有
前記Rがアゾ基に対しメタ位に結合する、表示装置。
【請求項2】
前記アゾベンゼン化合物が、軸不斉化合物である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記アゾベンゼン化合物が、ビナフチル、ビアントラセンまたはナフチルフェニルに由来する基と前記式1で表される構造とが結合した化合物である、請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体と、紫外線投光部と、少なくとも1つの可視光投光部とを有し、
前記表示機能層は、液晶分子とアゾベンゼン化合物とが混合された組成物を有し、
前記アゾベンゼン化合物は、下記式1:
【化2】


(式1中、Rは、2価のエステル基であり、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基であり、*は、結合部位を表す)
で表される構造を有
前記アゾベンゼン化合物は、軸不斉化合物である、またはイソマンニドもしくはイソソルビドに由来する基と前記式1で表される構造とが結合した化合物である、表示装置。
【請求項5】
前記Rがアゾ基に対しメタ位またはパラ位に結合する、請求項4に記載の表示装置。
【請求項6】
前記Rがアゾ基に対しメタ位に結合する、請求項4または5に記載の表示装置。
【請求項7】
前記Rがアルキル基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の表示装置。
【請求項8】
前記Rが炭素を介してベンゼン環と結合している、請求項1~7のいずれか1項に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のフロントガラスや建物の窓ガラス等の透明ガラス上に画像を表示する技術が開発されている。
【0003】
これに関連して、電圧の印加により透過状態と散乱状態との間で光学状態が変化するスクリーンと、スクリーンに映像光を投影して映像を表示するプロジェクタを有する表示装置が知られている。このような表示装置では、通常は透明状態のスクリーンを一時的に非透明化して、スクリーン上に映像を表示できる。
【0004】
しかし、このような表示装置では、電圧を印加するための制御電極がスクリーン内部に配置される。そのため、制御電極における表面反射、吸収があり、スクリーンの透明状態における透明度が低いという問題がある。
【0005】
これに対して、特許文献1には、スクリーンの透明状態における透明度を向上させるため、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、第1可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体を備え、紫外光を受光することによって表示機能層の光散乱性が増加した画像表示体に第2可視光を投光して、画像表示体上に画像を表示する表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-185511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の表示装置では、確かに透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化する画像表示体の透明状態における透明度を向上できる。特許文献1において、画像表示体を構成する表示機能層において、光学状態の変化の制御には、アゾベンゼンが使用されている。しかし、非透明状態の画像表示体上に画像を表示する場合、アゾベンゼンは、その分子構造上青色光を吸収するため、青色光の吸収を低減して青色の再現性を改善することが望まれている。
【0008】
したがって、本発明は、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化する画像表示体において、非透明状態における可視光領域の反射率を向上し、画像の色再現性を向上しうる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、画像表示体を構成する表示機能層において、特定の構造を有するアゾベンゼン化合物を使用することにより、非透明状態における可視光領域の反射率を向上し、画像の色再現性を向上しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る表示装置は、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体と、紫外線投光部と、少なくとも1つの可視光投光部とを有する。ここで、前記表示機能層は、液晶分子および下記式1で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を含むことを特徴とする。
【0011】
【化1】
【0012】
式1中、Rは、2価のエステル基であり、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基であり、*は、結合部位を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一形態に係る表示装置によれば、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化する画像表示体において、可視光全域を反射することができ、色再現性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る表示装置の概略構成を示す斜視図である。
図2A図2Aは、画像表示体の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
図2B図2Bは、画像表示体の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
図3図3は、画像表示時の表示装置の動作を説明するための図である。
図4図4は、画像非表示時の表示装置の動作を説明するための図である。
図5A図5Aは、透明状態の表示機能層の概略構成を示す断面図である。
図5B図5Bは、非透明状態の表示機能層の概略構成を示す断面図である。
図6図6は、実施例および比較例で合成したアゾベンゼン化合物におけるモル吸光係数を示すグラフである。
図7図7は、実施例で合成したアゾベンゼン化合物を含むフィルムにおける反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一形態は、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体と、紫外線投光部と、少なくとも1つの可視光投光部とを有し、
前記表示機能層は、液晶分子および下記式1:
【0016】
【化2】
【0017】
(式1中、Rは、2価のエステル基であり、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基であり、*は、結合部位を表す)
で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を含む、表示装置である。
【0018】
本形態の表示装置によれば、画像表示体を構成する表示機能層において、上記式1で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を使用することにより、可視光全域を反射することができ、色再現性を向上させることができる。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
以下では、本発明の好ましい実施形態の表示装置の一例として、画像表示体と、紫外線投光部と、2つの可視光投光部(第1可視光投光部および第2可視光投光部)とを有する表示装置について説明するが、以下の実施形態に限定されない。
【0021】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0022】
<表示装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る表示装置10の概略構成を示す斜視図である。本実施形態の表示装置10は、画像表示体100、第1プロジェクタ200、第2プロジェクタ300、第3プロジェクタ400、および制御部500を備えている。
【0023】
画像表示体100は、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化する薄板状の部材であり、第1~第3プロジェクタ200~400に対向する前面100aと、前面100aと反対側の背面100bを有する。画像表示体100は、紫外光を受光することにより透明状態から非透明状態に変化し、第1可視光を受光することにより非透明状態から透明状態に変化する。画像表示体100は、たとえば、自動車のフロントガラスに取り付けられる。画像表示体100についての詳細な説明は後述する。
【0024】
第1プロジェクタ200は、紫外光を放出するプロジェクタであり、画像表示体100の前面100aに対向して配置される。第1プロジェクタ200は、紫外光投光部として、例えば、波長365nmの紫外光を放出する。第1プロジェクタ200は、画像表示体100の前面100aに紫外光を投光して、画像表示体100上の紫外光の投光領域100cを透明状態から非透明状態に変化させる。
【0025】
第2プロジェクタ300は、特定波長の可視光を放出するプロジェクタであり、画像表示体100の前面100aに対向して配置される。第2プロジェクタ300は、第1可視光投光部として、たとえば、波長440nm前後の第1可視光を放出する。第2プロジェクタ300は、非透明状態にある画像表示体100に第1可視光を投光して、画像表示体100上の紫外光の投光領域100cを非透明状態から透明状態に変化させる。
【0026】
第3プロジェクタ400は、カラープロジェクタであり、画像表示体100の前面100aに対向して配置される。第3プロジェクタ400は、第2可視光投光部として、青色(波長450nm)、緑色(波長532nm)、および赤色(波長640nm)の3色のいずれか1色の光、または、2色以上の光を組み合わせた光である第2可視光を放出する。第3プロジェクタ400は、非透明状態の画像表示体100に第2可視光を投光して、画像表示体100上に画像600を表示する。
【0027】
制御部500は、第1~第3プロジェクタ200~400の動作を制御する。制御部500は、上位の制御装置(不図示)と通信しつつ、第1および第2プロジェクタ200、300の投光/非投光の切り替えを行う。また、制御部500は、上位の制御装置と通信しつつ、第3プロジェクタ400に画像情報を送出する。
【0028】
なお、第2可視光によって画像表示体100上に表示される画像600が、画像表示体100上の紫外光の投光領域100cの内側に含まれるように、第1および第3プロジェクタ200、400は、紫外光および第2可視光をそれぞれ投光する。また、紫外光の投光領域100cが、画像表示体100上の第1可視光の投光領域に含まれるように、第2プロジェクタ300は、第1可視光を投光する。
【0029】
次に、図2Aを参照して、表示装置10の画像表示体100の一実施形態について詳細に説明する。
【0030】
図2Aは、画像表示体100の概略構成を示す断面図である。本実施形態の画像表示体100は、表示機能層110、調光層120、および紫外光遮蔽層130を備えている。表示機能層110は、画像表示体100の前面100a側に配置され、紫外光遮蔽層130は、画像表示体100の背面100b側に配置されている。調光層120は、表示機能層110と紫外光遮蔽層130との間に配置されている。
【0031】
表示機能層110は、透明状態と非透明状態との間で光学状態が変化するフィルム部材である。表示機能層110は、紫外光を受光することにより光散乱性が増加して白濁し、第1可視光を受光することにより光散乱性が低下して透明状態に戻る光学特性を有する。
【0032】
調光層120は、紫外光を受光することによって光吸収性が増加する透明フィルム部材である。調光層120は、フォトクロミック材料からなり、紫外光を受光することにより光吸収性が増加して無色から灰色(または黒色)に変色する光学特性を有する。調光層120は、紫外光を受光しない、もしくは、青色または黄色の可視光を受光することにより光吸収性が低下して灰色から無色に戻る光学特性を有する。
【0033】
紫外光遮蔽層130は、紫外光を遮蔽する透明フィルム部材である。紫外光遮蔽層130は、紫外光反射剤または紫外光吸収剤を含む透明樹脂からなり、紫外光近傍の波長領域の光を反射または吸収して遮蔽する。紫外光遮蔽層130は、画像表示体100の背面100b側に配置され、画像表示体100の背面100bから表示機能層110に紫外光が入射することを防止する。
【0034】
表示装置10の画像表示体100は、図2Bに示すように、表示機能層110および紫外光遮蔽層130を備えていてもよい。この際、表示機能層110は、調光層の役割を兼ねる。
【0035】
本発明に係る画像表示体は、透明導電層を備えていてもよい(図示せず)。かかる画像表示体では、透明導電層が表示機能層を挟むように配置される。透明導電層の一つは、画像表示体の前面側に配置され、透明導電層のもう一つは、画像表示体の背面側に配置される。また、画像表示体は、表示機能層と背面側の透明導電層との間に調光層を備えていてもよい。
【0036】
透明導電層は、ガラスや透明樹脂などの透明基材に、可視光領域で透明であり、かつ導電性を備えた透明導電膜を積層したものである。透明導電膜には、たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの酸化物半導体を用いる。
【0037】
画像表示体が透明導電層を備えることにより、液晶分子の配向制御を光および電圧の両方で制御することができる。
【0038】
次に、図3および図4を参照して、画像表示体100上に画像を表示する表示装置10の動作について説明する。
【0039】
図3は、画像表示時の表示装置10の動作を説明するための図であり、図4は、画像非表示時の表示装置10の動作を説明するための図である。
【0040】
図3に示すとおり、画像表示体100に画像を表示する場合、まず、第1プロジェクタ200が、画像表示体100の前面100aに紫外光を投光する。紫外光を投光すれば、表示機能層110が白濁するとともに調光層120が灰色に変化して、画像表示体100上の紫外光の投光領域100cが透明状態から非透明状態に変化する。そして、第3プロジェクタ400が、非透明状態にある画像表示体100上の投光領域100cに第2可視光を投光して、画像表示体100上に画像600を表示する。
【0041】
なお、画像表示体100上に画像600を表示している間、第2可視光を受光することによって画像表示体100が非透明状態から透明状態に戻ることを防止するために、第1プロジェクタ200は、画像表示体100に紫外光を投光し続ける。具体的には、第1プロジェクタ200は、たとえば、紫外光によってアゾベンゼン化合物が異性化する割合(例えば、トランス体からシス体へと異性化する割合)が、第2可視光によって異性化する割合(例えば、シス体からトランス体へと異性化する割合)よりも大きくなるような出力で紫外光を投光し続ける。
【0042】
一方、図4に示すとおり、画像表示体100上に画像を表示しない場合(画像を消去する場合)、まず、第1および第3プロジェクタ200、400が、紫外光および第2可視光の投光をそれぞれ停止する。そして、第2プロジェクタ300が、画像表示体100の前面100aに第1可視光を投光して、画像表示体100上の紫外光の投光領域100cを非透明状態から透明状態に戻す。
【0043】
以上のとおり、本実施形態の表示装置10によれば、紫外光と第1可視光の投光/非投光を切り替えることにより、画像表示体100の透明状態/非透明状態を切り替える。そして、非透明状態の画像表示体100に第2可視光を投光して、非透明状態の画像表示体100上に画像600を表示する。このような構成によれば、通常は透明状態の画像表示体100を一時的に非透明化して、画像表示体100上に画像600を表示できる。
【0044】
(表示機能層)
本発明に係る表示装置は、紫外光を受光することによって光散乱性が増加し、可視光を受光することによって光散乱性が低下する表示機能層を有する画像表示体を有する。ここで、表示機能層は、液晶分子および下記式1:
【0045】
【化3】
【0046】
(式1中、Rは、2価のエステル基であり、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基であり、*は、結合部位を表す)
で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を含む。
【0047】
本明細書中、上記式1で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を単に「アゾベンゼン化合物」とも称する。
【0048】
以下、図5Aおよび図5Bを参照して、本発明に係る表示機能層の一例について説明する。
【0049】
図5Aは、透明状態の表示機能層110の概略構成を示す断面図であり、液晶分子111がホメオトロピック配向を示す。図5Bは、非透明状態の表示機能層110の概略構成を示す断面図である。本発明に係る表示機能層は、液晶分子111およびアゾベンゼン化合物112を含む。アゾベンゼン化合物112は、紫外光を受光するとトランス体からシス体に構造が変化し、可視光を受光するとシス体からトランス体に構造が変化する。アゾベンゼン化合物112がシス体に変化すると、屈曲し液晶分子111の配列を乱す。したがって、液晶分子111が表示機能層の厚み方向に対して略垂直に配列したホメオトロピック配向状態(図5A参照)にあって液晶相がネマティック相である状態の表示機能層110に紫外光を投光すれば、液晶分子111がフォーカルコニック状態に変化する。それと共に液晶分子111の配列が乱されて散乱状態(図5B参照)に変化して光散乱性が増加する。一方、液晶分子111が散乱状態(図5B参照)にあって液晶分子111がフォーカルコニック状態である表示機能層110に可視光を投光すれば、液晶分子111がホメオトロピック配向状態(図5A参照)に変化して液晶相がネマティック相に変化し、光散乱性が低下する。
【0050】
図5Aに示すとおり、液晶分子111がホメオトロピック配向状態にある表示機能層110は、光散乱性が低下している。このため、表示機能層110に可視光VLを投光すれば、可視光VLは、表示機能層110を透過する。一方、図5Bに示すとおり、液晶分子111が散乱状態にある表示機能層110は、光散乱性が増加し非透明状態になる。このため、表示機能層110に可視光VLを投光すれば、可視光VLは、表示機能層110上で乱反射する。したがって、液晶分子111が散乱状態にある表示機能層110に可視光VLを投光すれば、表示機能層110上に画像を表示できる。
【0051】
〔液晶分子〕
本発明に係る表示機能層は、液晶分子を含む。
【0052】
液晶分子としては、特に制限されず、公知のネマティック液晶分子を用いることができる。
【0053】
液晶分子は、ベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ピリミジン環、ジオキサン環、ピリジン環などの環状化合物が2~4個、単結合、エステル結合、アセチレン結合、エタン結合、エチレン結合、アゾ結合などで結合されており、その末端にシアノ基、フルオロ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を有する化合物である。これらの化合物は、シアノ基、フルオロ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基などで置換されていてもよい。すなわち、液晶分子としては、ビフェニル系、ビフェニルシクロヘキサン系、ターフェニル系、フェニルシクロヘキサン系、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、シクロヘキシカルボン酸エステル系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキセン系、フッ素系などの液晶分子を使用することができる。
【0054】
液晶分子の例としては、4-シアノ-4’-エチルビフェニル、4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-プロピルビフェニル、4-シアノ-4’’-p-テルフェニル、4-シアノ-4’-プロポキシ-1,1’-ビフェニル、4-シアノ-4’-(4-ペンチルシクロヘキシル)ビフェニル、4-ヘキシル-4’-シアノフェニルピリジン、4-ヘキシル-4’-プロピルフェニルシクロヘキサン、4-メチル-4’-プロピルジシクロヘキサン、4-ヘキシル-4’-メトキシジシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0055】
液晶分子は、1種単独で、または2種以上の混合物として使用できる。
【0056】
液晶分子は、合成品でも市販品でも使用できる。市販品としては、E44(メルク社製)などが使用できる。
【0057】
〔アゾベンゼン化合物〕
本発明に係る表示機能層は、下記式1で表される構造を有するアゾベンゼン化合物を含む。
【0058】
【化4】
【0059】
式1において、Rは、2価のエステル基である。2価のエステル基は、例えば-O-(C=O)-または-(C=O)-O-で表される。Rは、可視光領域の反射率をより向上させるとの観点から、炭素を介してベンゼン環と結合していることが好ましい。
【0060】
は、アゾ基に対しオルト位、メタ位またはパラ位に結合できる。Rは、青色光の吸収をより抑制できるとの観点から、好ましくはアゾ基に対してメタ位に結合する、またはアゾ基に対してパラ位に結合する。
【0061】
式1において、Rは、アルキル基、アルコキシ基または-COORであり、Rは、アルキル基である。
【0062】
は、アゾ基に対しオルト位、メタ位またはパラ位に結合でき、本発明の効果をより発揮できるとの観点から、好ましくはアゾ基に対してパラ位に結合する。
【0063】
アルキル基は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、好ましくは炭素数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数3~10のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3~8のアルキル基である。
【0064】
アルキル基は、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよい。アルキル基は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、好ましくは直鎖状である。
【0065】
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0066】
アルコキシ基は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、好ましくは炭素数1~10のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数3~10のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数3~8のアルコキシ基である。
【0067】
アルコキシ基は、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよい。アルコキシ基は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、好ましくは直鎖状である。
【0068】
アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基などが挙げられる。
【0069】
一実施形態において、Rは、可視光領域の吸収をより抑制できるとの観点から、好ましくはアルキル基であり、より好ましくは直鎖状のアルキル基であり、さらに好ましくは直鎖状の炭素数1~10のアルキル基であり、よりさらに好ましくは直鎖状の炭素数3~10のアルキル基であり、特に好ましくは直鎖状の炭素数3~8のアルキル基である。
【0070】
式1において、*は、結合部位を表す。
【0071】
本発明に係るアゾベンゼン化合物は、本発明の効果をより発揮するとの観点から、450nmにおけるモル吸光係数が1.0×10L/(mol・μm)以下であることが好ましい。
【0072】
一実施形態において、本発明に係るアゾベンゼン化合物は、ビナフチル、ビアントラセン、ナフチルフェニル、イソマンニドおよびイソソルビドからなる群から選択される化合物に由来する基と前記式1で表される構造とが結合した化合物である。ビナフチル、ビアントラセン、ナフチルフェニル、イソマンニドおよびイソソルビドからなる群から選択される化合物に由来する基としては、例えば以下の式2-1~2-6で表される基が挙げられる。
【0073】
【化5】
【0074】
式2-1~2-6において、*は、式1で表される構造との結合部位を表す。
【0075】
本発明に係るアゾベンゼン化合物が式2-1~2-6で表される基と式1で表される構造とが結合した化合物である場合、当該アゾベンゼン化合物は、例えば式3-1~式3-6で表される。
【0076】
【化6】
【0077】
式3-1~式3-6において、RおよびRは、上記で定義した通りである。また、RおよびRは、それぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0078】
本発明に係るアゾベンゼン化合物が式3-1~3-4で表される場合、Rは、可視光領域の反射率をより向上できるとの観点から、好ましくはアゾ基に対してパラ位に結合する。
【0079】
本発明に係るアゾベンゼン化合物が式3-5~3-6で表される場合、Rは、青色光の吸収をさらに抑制できるとの観点から、好ましくはアゾ基に対してメタ位に結合する。
【0080】
本発明に係るアゾベンゼン化合物の例としては、下記式4-1~4-7で表される化合物が挙げられる。
【0081】
【化7-1】
【0082】
【化7-2】
【0083】
本発明に係るアゾベンゼン化合物は、可視光領域の反射率をより向上させるとの観点から、好ましくは軸不斉化合物である。軸不斉化合物は、分子が不斉中心を持たないが、キラリティ-軸(置換基の組がその鏡像と重ねあわせることができない空間的配置に固定されている軸)を有する。本発明に係るアゾベンゼン化合物が軸不斉化合物であることにより、らせん誘起力(Helical Twisting Power(HTP):液晶の配列を乱す力の指標)を大きくすることができる。そのため、より大きなHTPを有するアゾベンゼン化合物を用いることで、散乱状態の画像表示体の反射率を増加させることができ、色再現性をより向上させることができる。
【0084】
本発明に係るアゾベンゼン化合物は、可視光領域の反射率をより向上させるとの観点から、好ましくはビナフチル、ビアントラセンまたはナフチルフェニルに由来する基と前記式1で表される構造とが結合した化合物であり、より好ましくは上記式2-1~2-4から選択される基と前記式1で表される構造とが結合した化合物であり、さらに好ましくは上記式3-1~3-4で表される化合物であり、よりさらに好ましくは上記式4-1~4-4で表される化合物であり、特に好ましくは上記式4-1または4-3で表される化合物である。
【0085】
よって、本発明の一形態は、液晶分子とビナフチル、ビアントラセンまたはナフチルフェニルに由来する基と前記式1で表される構造とが結合したアゾベンゼン化合物とを含む表示機能層を有する画像表示体である。かかる構成により、画像表示体において、非透明状態における可視光領域の反射率を向上し、画像の色再現性を向上することができる。本形態に係るアゾベンゼン化合物は、可視光領域の反射率をより向上させるとの観点から、より好ましくは上記式2-1~2-4から選択される基と前記式1で表される構造とが結合した化合物であり、さらに好ましくは上記式3-1~3-4で表される化合物であり、特に好ましくは上記式4-1~4-4で表される化合物である。
【0086】
らせん誘起力は、カノ・ウェッジ法(Cano wedge method)により求めることができる。
【0087】
本発明に係るアゾベンゼン化合物の合成方法は、特に制限されず、従来公知の合成方法を適用することができる。本発明に係るアゾベンゼン化合物は、例えば、Md.Z.Alam,T.Yoshioka,T.Ogata,T.Nonaka,S.Kurihara,“Influence of Helical Twisting Power on Photoswitching Behavior of Chiral Azobenzene Compounds: Their Applications to High-Performance Switching Devices”,Chem.Eur.J.,13,2641-2647(2007)に記載の方法に従って合成することができる。
【0088】
本発明に係る表示機能層の製造方法は、特に制限されず、従来公知の手法を用いることができる。
【0089】
上述のとおり、一実施形態では、本発明に係る表示機能層はフィルムである。以下、フィルムである表示機能層の製造方法の一例について説明する。
【0090】
本実施形態において、フィルムの製造方法は、(1)液晶分子、アゾベンゼン化合物、光重合性モノマーおよび光重合開始剤を含む組成物を基材に塗布する工程と、(2)前記基材に塗布した組成物に含まれる液晶分子を配向させる工程と、(3)前記組成物に、前記アゾベンゼン化合物の異性化を促進する波長とは異なる波長の光を照射して、前記組成物を硬化して硬化物を得る工程とを有する。
【0091】
工程(1)では、液晶分子、アゾベンゼン化合物、光重合性モノマーおよび光重合開始剤を含む組成物を基材に塗布する。
【0092】
液晶分子およびアゾベンゼン化合物は、上述のとおりである。
【0093】
光重合性モノマーとしては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基などの一般的な光重合性基を分子内に1個以上有するモノマーが挙げられる。
【0094】
光重合性モノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、2-シアノエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、グリシジルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、モルホリンアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレートなどの単官能アクリレート化合物;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ブチルエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、2-シアノエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、モルホリンメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレートなどの単官能メタクリレート化合物;4,4’-ビス[6-(アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]ビフェニル、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、グリセロールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートなどの多官能アクリレート化合物;4,4’-ビス[6-(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]ビフェニル、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ジシクロペンチルジメタクリレートグリセロールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレートなどの多官能メタクリレート化合物が挙げられる。
【0095】
光重合性モノマーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
光重合開始剤は、上記アゾベンゼン化合物の異性化を促進する波長とは異なる波長の光を露光することにより、上記光重合性モノマーの重合を開始しうるラジカルを発生できるものであれば、特に制限されない。
【0097】
光重合開始剤は、硬化性の観点から、可視光の波長で吸光度を有することが好ましく、400~500nmの範囲に含まれる波長で吸光度を有することがより好ましい。また、光重合開始剤は、硬化性の観点から、濃度0.1質量%、光路長1cmおよび波長400nmでの吸光度が好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1.0以上である。吸光度の上限は、特に制限されず、例えば3.0以下である。
【0098】
本明細書中、光重合開始剤の吸光度は、JIS K0115:2004に基づき、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2550)を用いて測定することができる。測定試料は、光重合開始剤を400~500nmの波長に吸収を持たない溶剤(例えばアセトニトリル、1-メチル-2-ピロリドン)に0.1質量%の濃度で溶解させたものを用いる。
【0099】
光重合開始剤の例としては、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4-シクロペンタジエニル)ビス[2,6-ジフルオロ-3-(1-ピリル)フェニル]チタン(IV)、(ベンゼン)トリカルボニルクロム、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2-クロロチオキサンテン-9-オン、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、フェナントレンキノン、チオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0100】
光重合開始剤は、市販品、合成品のいずれを使用してもよい。市販品としては、IRGACURE(登録商標)819、784(IGM Resins B.V.社製)、DAROCUR(登録商標) TPO(BASF社製)などが挙げられる。
【0101】
光重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
本実施形態に係る組成物は、透明状態の表示機能層の透明度をより向上させるとの観点から、好ましくは非光応答性キラル化合物をさらに含む。
【0103】
非光応答性キラル化合物としては、使用するアゾベンゼン化合物とは異なる旋光性を有する化合物を使用できる。アゾベンゼン化合物と非光応答性キラル化合物とを併用することで、アゾベンゼン化合物と非光応答性キラル化合物とのらせん誘起力が互いにキャンセルする補償状態とすることができる。すなわち、トランス体のアゾベンゼン化合物のねじり力に起因する液晶分子の配列の乱れをより抑制することができる。よって、透明状態である表示機能層の透明度をより高くすることができる。
【0104】
非光応答性キラル化合物の例としては、4-[4-(ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]安息香酸(R)-2-オクチル、4-[4-(ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]安息香酸(S)-2-オクチル、4’-[(S)-2-メチルブチル]-1,1’-ビフェニル-4-カルボニトリル、ビス[4-(trans-4-ペンチルシクロヘキシル)安息香酸](R)-1-フェニル-1,2-エタンジイル、ビス[4-(trans-4-ペンチルシクロヘキシル)安息香酸](S)-1-フェニル-1,2-エタンジイルなどが挙げられる。非光応答性キラル化合物は、4-[4-(ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]安息香酸(R)-2-オクチル、4’-[(S)-2-メチルブチル]-1,1’-ビフェニル-4-カルボニトリルおよびビス[4-(trans-4-ペンチルシクロヘキシル)安息香酸](R)-1-フェニル-1,2-エタンジイルから選択される化合物を含むことが好ましく、4-[4-(ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]安息香酸(R)-2-オクチルを含むことがより好ましい。
【0105】
非光応答性キラル化合物は、市販品、合成品のいずれを使用してもよい。市販品としては、R-811、S-811、CB15、C15、S-1011、R-1011(メルク社製)などが挙げられる。
【0106】
本実施形態に係る組成物において、液晶分子、アゾベンゼン化合物(非光応答性キラル化合物を含む場合、アゾベンゼン化合物および非光応答性キラル化合物の合計質量)および光重合性モノマーの質量比は、例えば5~9:1~4:1であり、好ましくは6~8:1~3:1である。
【0107】
本実施形態に係る組成物において、光重合開始剤の含有量は、組成物の総質量に対して、好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~7質量%である。
【0108】
本実施形態に係る組成物は、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては、光異性化材料(アゾベンゼン化合物を除く)、二色性色素、光重合開始助剤、色素増感剤、溶媒などが挙げられる。
【0109】
光異性化材料(アゾベンゼン化合物を除く)は、光を吸収してシス-トランス異性化を起こす化合物を意味する。光異性化材料(アゾベンゼン化合物を除く)の例としては、カルコン誘導体、スルホキシド化合物、フルギド化合物、けい皮酸化合物などが挙げられる。
【0110】
二色性色素の例としては、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アントラキノン色素などが挙げられる。
【0111】
光重合開始助剤の例としては、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸などが挙げられる。
【0112】
色素増感剤としては、光照射により励起され、エネルギーを光重合開始剤に移動可能な色素であれば、特に制限されない。
【0113】
色素増感剤の例としては、クマリン系色素、ローダミン系色素、オキサジン系色素、カルボシアニン系色素、スチリル系色素、キサンテン系色素、メロシアニン系色素、ローダシアニン系色素、ポルフィリン系色素、アクリジン系色素などが挙げられる。
【0114】
溶媒は、組成物の粘度を調整するために添加することができる。溶媒は、液晶分子、アゾベンゼン化合物、光重合性モノマーおよび光重合開始剤と相溶性の良いものであれば、特に制限されない。溶媒の例としては、トルエン、アセトン、酢酸エチルなどが挙げられる。
【0115】
組成物の調製方法は、特に制限されず、液晶分子、アゾベンゼン化合物、光重合性モノマー、光重合開始剤および必要に応じてその他の成分を混合する方法が挙げられる。
【0116】
非光応答性キラル化合物を使用する場合、あらかじめトランス体のアゾベンゼン化合物と非光応答性キラル化合物とのらせん誘起力が互いにキャンセルする補償状態となる質量比で混合した後、他の成分と混合することが好ましい。これにより、後述の液晶分子を配向させる工程において、トランス体のアゾベンゼン化合物のねじり力に起因する液晶分子の配列の乱れを抑制することができる。
【0117】
組成物の混合条件は、特に制限されないが、各成分の混合は、使用する重合開始剤が吸収を持つ波長を遮断した環境下で行うことが好ましい。例えば、組成物の混合を橙色(波長595~610nm)の明かりの下、または褐色瓶の中などで行うことが挙げられる。
【0118】
本工程で使用される基材としては、ガラス、樹脂などの透明基材が挙げられる。
【0119】
ガラスの例としては、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、石英ガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。
【0120】
樹脂の例としては、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、エポキシ樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリメルカプトエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン、塩化ビニル樹脂などが挙げられる。
【0121】
基材の形状は、シート状またはフィルム状でもよく、上記ガラスまたは樹脂を用いたセル(基板)であってもよい。
【0122】
上記組成物を基材へ塗布する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。基材がシート状またはフィルム状である場合、ディップ法、バーコート法、スピンコート法、印刷法などを用いることができる。基材がセルである場合、真空注入法、滴下注入法などを用いることができる。
【0123】
工程(2)では、上記工程において基材に塗布した組成物に含まれる液晶分子を配向させる。
【0124】
液晶分子の配向は、ホモジニアス配向(水平配向)でもホメオトロピック配向(垂直配向)でもよい。
【0125】
液晶分子を配向させる方法としては、従来公知の手法を用いることができる。例えば、基材に配向膜処理を施す方法、基材に透明導電膜を付して電圧を印加する方法などが挙げられる。配向膜処理としては、ラビング等による物理的処理、機械的な表面処理などが挙げられる。
【0126】
工程(2)は、透明状態の表示機能層の透明度をより向上させるとの観点から、紫外光および使用する重合開始剤が吸収を持つ波長を遮断した環境下で行うことが好ましい。例えば、本工程を橙色(波長595~610nm)の明かりの下などで行うことが挙げられる。
【0127】
工程(3)では、基材に塗布して、含有する液晶分子を配向させた組成物に対して、アゾベンゼン化合物の異性化を促進する波長とは異なる波長の光を照射する。これにより、重合時にトランス体のアゾベンゼン化合物がシス体へと異性化することを抑制でき、またアゾベンゼン化合物の異性化に伴う液晶分子の配向の乱れを抑制できる。よって、透明状態において、より高い透明度を有する硬化物を得ることができる。加えて、透明状態と非透明状態とを繰り返し変化させても、透明状態における表示機能層の透明度の低下を抑制することができる。すなわち、経時劣化を抑制することができる。
【0128】
工程(3)において照射する光の波長は、使用するアゾベンゼン化合物および光重合開始剤に応じて適宜選択することができる。
【0129】
一実施形態では、液晶分子の配向の乱れをより抑制できるとの観点から、工程(3)において、可視光を照射することが好ましく、400~500nmの範囲に含まれる波長を有する光を照射する、および/または発光ピーク波長が430~460nmの範囲にある光を照射することがより好ましい。
【0130】
工程(3)において、光を照射する場合、必要に応じて特定の波長領域のみを通過させるフィルターを用いてもよい。
【0131】
照射する光量は、例えば1000~50000mJ/cmである。
【0132】
光照射時の温度条件は、例えば10~40℃である。
【0133】
得られた硬化物中の液晶分子の配向状態は、偏光顕微鏡、偏光解析装置などを用いて確認することができる。
【0134】
本発明に係る表示機能層は、組成物の硬化物(成膜体)の形態でもよく、上記基材と硬化物とを含む形態でもよい。
【0135】
表示機能層の厚さは、例えば50~500μmである。
【0136】
<用途>
本発明に係る表示装置の用途は、特に制限されないが、自動車ガラス、建物の窓ガラスなどに適用することが好ましい。本発明に係る画像表示体は、透明状態における透明度が高く、また経時劣化を抑制することができる。このため、本発明に係る表示装置は、自動車のフロントガラスに用いた場合、特に有利である。
【実施例
【0137】
以下、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。
【0138】
[実施例1]
(式4-1で表されるアゾベンゼン化合物の合成)
水240mlにオキソン(KHSO)15.2gを溶かした溶液に、ジクロロメタン60mlに4-ブチルアニリンを3.7g溶かした溶液を滴下し、12時間撹拌させジクロロメタンで抽出後、有機相を水洗した。その後、ロータリーエバポレーターで濃縮し酢酸100mlに4-アミノ安息香酸3.4g溶かした溶液に滴下し、60℃で終夜撹拌し、多量の水に加えることで再沈殿させた。析出物をろ過後、乾燥することで中間生成物を得た。
【0139】
得られた中間生成物0.54gと(R)-(+)-2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル0.27g、および4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.012gをジクロロメタン20mlに加え、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)0.39gを加えて、40℃で48時間撹拌した。反応液のろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=6:1)により精製して、式4-1で表されるアゾベンゼン化合物を得た。
【0140】
(フィルムの作製)
らせん誘起力が互いにキャンセルする補償状態となるように、上記で合成した式4-1で表されるアゾベンゼン化合物と4-[4-(ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ]安息香酸(R)-2-オクチル(R-811、メルク社製)とを10.2:9.8(質量比)で混合して、光学活性材料を調製した。
【0141】
液晶分子としてE44(メルク社製)、上記調製した光学活性材料、光重合性モノマーとして4,4’-bis[6-(アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ]ビフェニルおよび光重合開始剤としてIRGACURE(登録商標) 819(IGM Resins B.V.社製)を7:2:1:0.1の質量比で混合して、組成物を調製した。
【0142】
配向膜処理を施したガラス基板を配向方向が水平になり、硬化物の厚さが10μmとなるように、スペーサーを介して重ねあわせて固定して、セル(基板)を作製した。上記調製した組成物をセルへと注入した。
【0143】
上記工程は、波長500nm以下の光を遮断した環境下で行った。
【0144】
その後、光源としてLED光源(M450LKP1、THORLABS社製)を用いて、波長440nmの光を照射(10mW/cm、30min)し、組成物を硬化させて、フィルムを作製した。
【0145】
[実施例2]
(式4-5で表されるアゾベンゼン化合物の合成)
水240mlにオキソン(KHSO)15.2gを溶かした溶液に、ジクロロメタン60mlに4-ブチルアニリンを3.7g溶かした溶液を滴下し、12時間撹拌させジクロロメタンで抽出後、有機相を水洗した。その後、ロータリーエバポレーターで濃縮し酢酸100mlに3-アミノ安息香酸3.4g溶かした溶液に滴下し、60℃で終夜撹拌し、多量の水に加えることで再沈殿させた。析出物をろ過後、乾燥することで中間生成物を得た。
【0146】
得られた中間生成物2.4gとイソマンニド0.63g、およびDMAP0.16gをジクロロメタン100mlに加え、DCC1.8gを加えて、36時間撹拌した。反応液のろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製して、式4-5で表されるアゾベンゼン化合物を得た。
【0147】
(フィルムの作製)
式4-1で表されるアゾベンゼン化合物に代えて、上記で合成した式4-5で表されるアゾベンゼン化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。
【0148】
[実施例3]
(式4-6で表されるアゾベンゼン化合物の合成)
水240mlにオキソン(KHSO)15.2gを溶かした溶液に、ジクロロメタン60mlに4-ブチルアニリンを3.7g溶かした溶液を滴下し、12時間撹拌させジクロロメタンで抽出後、有機相を水洗した。その後、ロータリーエバポレーターで濃縮し酢酸100mlに4-アミノ安息香酸3.4g溶かした溶液に滴下し、60℃で終夜撹拌し、多量の水に加えることで再沈殿させた。析出物をろ過後、乾燥することで中間生成物を得た。
【0149】
得られた中間生成物2.4gとイソマンニド0.63g、およびDMAP0.16gをジクロロメタン100mlに加え、DCC1.8gを加えて、36時間撹拌した。反応液のろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製して、式4-6で表されるアゾベンゼン化合物を得た。
【0150】
(フィルムの作製)
式4-1で表されるアゾベンゼン化合物に代えて、上記で合成した式4-6で表されるアゾベンゼン化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。
【0151】
[実施例4]
(式4-7で表されるアゾベンゼン化合物の合成)
3-アミノ安息香酸12.5gを濃硫酸と水との1:1混合溶液100mlに溶解し、氷冷しながら亜硝酸ナトリウム6.8gを水70mlに溶解した溶液をゆっくり滴下した。この溶液にフェノール9.5gを4N水酸化ナトリウム水溶液に溶解した溶液をゆっくり注ぎカップリング反応を行った。溶液が微アルカリ性になるまで4N水酸化ナトリウム水溶液を加えて1時間撹拌した。沈殿物を吸引ろ過し、ろ液が中性になるまで水で洗浄した。残留物をエタノールと水との1:1混合溶液に加えて、濃塩酸で酸性にした。沈殿物を吸引濾過し、乾燥させた。乾燥後、エタノールによる再結晶で精製し、中間体Iを得た。この中間体I 14.8g、および水酸化カリウム3.0gをエタノール100mlに溶解し、1-クロロヘキサン10gを加えて80℃で21時間還流した後、溶液をロータリーエバポレーターにより濃縮した。多量の水に加え、酸性になるまで塩酸を加えて濾過した。エタノールによる再結晶で精製し、中間体IIを得た。
【0152】
得られた中間体II 1.0g、イソマンニド0.2g、およびDMAP0.06gをジクロロメタン30mlに加え、DCC0.7gを加えて、72時間撹拌した。反応液のろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)により精製して、式4-7で表されるアゾベンゼン化合物を得た。
【0153】
(フィルムの作製)
式4-1で表されるアゾベンゼン化合物に代えて、上記で合成した式4-7で表されるアゾベンゼン化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。
【0154】
[比較例1]
(式5-1で表される化合物の合成)
【0155】
【化8】
【0156】
【化9】
【0157】
(S)-2,2’-ジアミノ-1,1’-ビナフチル0.5gを水8.75ml、アセトン8.75ml、濃塩酸1.075mlに溶解させ、2℃まで冷却させた。次に、亜硝酸ナトリウム0.24gを水10mlに溶解させた水溶液を30分以上かけて温度が上がらないように加え、撹拌させた。その溶液を、フェノール0.35g、および水酸化ナトリウム0.45gを冷却水10mlに溶解させた水溶液にゆっくり加え、1時間撹拌を行った。その後、希塩酸でわずかに酸性にさせた後、吸引ろ過を行った。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=98:2)で精製して、中間生成物を得た。
【0158】
得られた中間生成物0.05g、炭酸カリウム0.083g、および1-ヨウ化プロパン0.13gをジメチルフォルムアミド5mlに溶解させ、3時間70℃で撹拌させた。水を加えた後、エーテルで抽出を行った。無水硫酸ナトリウムで脱水を行いろ過した後、エバポレーターで濃縮を行った。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=3;7)で精製して、式5-1で表される化合物を得た。
【0159】
(フィルムの作製)
式4-1で表されるアゾベンゼン化合物に代えて、上記で合成した式5-1で表される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。
【0160】
[比較例2]
(式5-2で表される化合物の合成)
【0161】
【化10】
【0162】
(R)-2,2’-ビス(ブロモメチル)-1,1’-ビナフチル0.50g、2,2’-ジヒドロキシアゾベンゼン0.24gおよび炭酸カリウム1.6gをジメチルフォルムアミド50mlに溶解し、24時間、80℃で撹拌させた。その後、室温まで戻し、多量の水に注ぎ再沈殿させて、吸引ろ過を行った。生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム:酢酸エチル=10:3:1)で精製して、式5-2で表される化合物を得た。
【0163】
(フィルムの作製)
式4-1で表されるアゾベンゼン化合物に代えて、上記で合成した式5-2で表される化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを作製した。
【0164】
[モル吸光係数の測定]
実施例1~4で作製したフィルムのアゾベンゼン化合物および比較例1~2で作製したフィルムの化合物について、分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2550)を用いて、モル吸光係数を測定した。結果を図6に示す。
【0165】
図6に示すように、実施例では、比較例と比べて、可視光領域(特に紫(380~430nm)から青(430nm~490nm)の領域)の波長の光の吸収が低減していることが分かる。
【0166】
[反射率の測定]
実施例1および2で作製したフィルムの反射率について、分光光度計U-4000型(株式会社日立製作所製)を用いて、積分球によって可視光領域の反射スペクトルを測定した。結果を図7に示す。
【0167】
図7に示すように、アゾベンゼン化合物が軸不斉化合物であることにより、可視光の反射率がより増加することがわかる。
【符号の説明】
【0168】
10 表示装置、
100 画像表示体、
100a 前面、
100b 背面、
100c 投光領域、
110 表示機能層、
111 液晶分子、
112 アゾベンゼン化合物、
120 調光層、
130 紫外光遮蔽層、
200 第1プロジェクタ(紫外光投光部)、
300 第2プロジェクタ(第1可視光投光部)、
400 第3プロジェクタ(第2可視光投光部)、
500 制御部、
600 画像。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7