(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】発光装置、発光方法及び有機発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/18 20230101AFI20240219BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20240219BHJP
H10K 71/00 20230101ALI20240219BHJP
H10K 85/00 20230101ALI20240219BHJP
【FI】
H10K50/18
H10K50/11
H10K71/00
H10K85/00
(21)【出願番号】P 2020097798
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019142844
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 一
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】原 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 徹
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-510025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0035993(US,A1)
【文献】米国特許第06210814(US,B1)
【文献】特表2005-502086(JP,A)
【文献】特開2004-054269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光素子と、
前記有機発光素子を制御する制御部と、を備え、
前記有機発光素子は、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層と、を有し、
前記制御部は、前記有機発光層に前記励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、前記電荷の再結合が起こるように前記第1電極と前記第2電極との間の電位差を変化させる、発光装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1期間及び前記遅延期間において、前記第1電極と前記第2電極との間の前記電位差を0とし、
前記第2期間において、前記電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が前記有機発光層に生じるように前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記第1期間及び前記遅延期間において、前記電荷の再結合を起こさせる順方向の電界とは逆方向の電界が前記有機発光層に生じるように前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加し、
前記第2期間において、前記順方向の電界が前記有機発光層に生じるように前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記遅延期間の長さを調整可能である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記励起光を出射する光源を更に備え、
前記制御部は、前記第1期間において、前記有機発光層に前記励起光が入射するように前記光源を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記有機発光層に含まれる有機発光体のダイポールモーメントは、0Dよりも大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記有機発光体のダイポールモーメントは、3D以上である、請求項6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記有機発光体のダイポールモーメントは、10D以上である、請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層と、を有する有機発光素子を用いた発光方法であって、
第1期間において、前記有機発光層に前記励起光が入射するステップと、
前記第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、前記電荷の再結合が起こるように前記第1電極と前記第2電極との間の電位差を変化させるステップと、を備える、発光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、発光方法及び有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、有機色素薄膜と、有機色素薄膜に電圧を印加するように配置された一対の電極と、有機色素薄膜を励起して蛍光を発生させる光源と、を備える蛍光装置が記載されている。特許文献1に記載の蛍光装置は、一対の電極に印加する電圧を変化させることで有機色素薄膜内の電荷量を変化させ、それにより蛍光の効率を増減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、有機発光層には、様々な可能性が期待されている。そこで、本発明者らは、未知の発光形態を鋭意検討し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
本発明は、新たな発光形態を実現することができる発光装置、発光方法及び有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光装置は、有機発光素子と、有機発光素子を制御する制御部と、を備え、有機発光素子は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置され、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層と、を有し、制御部は、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極と第2電極との間の電位差を変化させる。
【0007】
この発光装置では、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層が用いられ、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極と第2電極との間の電位差が変化させられる。これにより、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、有機発光層から発光を得ることができる。このように、この発光装置によれば、新たな発光形態を実現することができる。
【0008】
本発明の発光装置では、制御部は、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加してもよい。これにより、簡易な電圧の印加の仕方で、第2期間において有機発光層から発光を得ることができる。
【0009】
本発明の発光装置では、制御部は、第1期間及び遅延期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界とは逆方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、第2期間において、順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加してもよい。これにより、簡易な電圧の印加の仕方で、第2期間において有機発光層から発光を得ることができる。
【0010】
本発明の発光装置では、制御部は、遅延期間の長さを調整可能であってもよい。これにより、有機発光層から外部に光が出射するタイミングを調整することができる。
【0011】
本発明の発光装置は、励起光を出射する光源を更に備え、制御部は、第1期間において、有機発光層に励起光が入射するように光源を制御してもよい。これにより、外部から有機発光層に励起光が入射するタイミングを調整することができる。
【0012】
本発明の発光装置では、有機発光層に含まれる有機発光体のダイポールモーメントは、0Dよりも大きくてもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から十分な発光を得ることができる。
【0013】
本発明の発光装置では、有機発光体のダイポールモーメントは、3D以上であってもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から、より十分な発光を得ることができる。
【0014】
本発明の発光装置では、有機発光体のダイポールモーメントは、10D以上であってもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から、より十分な発光を得ることができる。
【0015】
本発明の発光方法は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置され、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層と、を有する有機発光素子を用いた発光方法であって、第1期間において、有機発光層に励起光が入射するステップと、第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極と第2電極との間の電位差を変化させるステップと、を備える。
【0016】
この発光方法では、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層が用いられ、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極と第2電極との間の電位差が変化させられる。これにより、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、有機発光層から発光を得ることができる。このように、この発光方法によれば、新たな発光形態を実現することができる。
【0017】
本発明の有機発光素子は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置され、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層と、第1電極と有機発光層との間、及び第2電極と有機発光層との間の少なくとも一方に配置された電荷流入阻止層と、を備える。
【0018】
この有機発光素子では、励起光の入射によって有機発光層において電荷の分離が起こると、分離した電荷が、第1電極及び第2電極の少なくとも一方から有機発光層への電荷の流入に起因して減少することが、電荷流入阻止層によって抑制される。したがって、有機発光層に励起光が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極と第2電極との間の電位差を変化させることで、第2期間において有機発光層から発光を得ることができる。このように、この有機発光素子によれば、新たな発光形態を実現することができる。
【0019】
本発明の有機発光素子では、第2電極の仕事関数は、第1電極の仕事関数よりも小さく、電荷流入阻止層は、少なくとも第2電極と有機発光層との間に配置されていてもよい。これにより、第2期間において有機発光層から発光を確実に得ることができる。
【0020】
本発明の有機発光素子では、電荷流入阻止層は、第1電極と有機発光層との間、及び第2電極と有機発光層との間の両方に配置されていてもよい。これにより、第2期間において有機発光層から発光をより確実に得ることができる。
【0021】
本発明の有機発光素子では、第1電極、及び第1電極と有機発光層との間に配置された電荷流入阻止層は、有機発光層に入射する励起光、及び有機発光層から出射する光に対して光透過性を有してもよい。これにより、有機発光層に励起光を確実に入射させることができると共に、有機発光層から光を確実に出射させることができる。
【0022】
本発明の有機発光素子では、第2電極の仕事関数は、第1電極の仕事関数よりも小さく、電荷流入阻止層は、第1電極と有機発光層との間、及び第2電極と有機発光層との間の両方に配置されており、第1電極と有機発光層との間に配置された電荷流入阻止層は、有機発光層に含まれる有機発光体のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有し、第2電極と有機発光層との間に配置された電荷流入阻止層は、有機発光体のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有してもよい。これにより、第1期間及び遅延期間において、有機発光層から第1電極への正孔の流出を防ぐと共に、有機発光層から第2電極への電子の流出を防ぐことができるため、第2期間において有機発光層から発光をより確実に得ることができる。
【0023】
本発明の有機発光素子では、第2電極の仕事関数は、第1電極の仕事関数よりも小さく、第1電極と有機発光層との間、及び第2電極と有機発光層との間の少なくとも一方に配置された電荷流入阻止層は、有機発光層に含まれる有機発光体のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有してもよい。これにより、第1期間及び遅延期間において、有機発光層から外部への正孔の流出を防ぐことができるため、第2期間において有機発光層から発光をより確実に得ることができる。
【0024】
本発明の有機発光素子では、第2電極の仕事関数は、第1電極の仕事関数よりも小さく、第1電極と有機発光層との間、及び第2電極と有機発光層との間の少なくとも一方に配置された電荷流入阻止層は、有機発光層に含まれる有機発光体のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有してもよい。これにより、第1期間及び遅延期間において、有機発光層から外部への電子の流出を防ぐことができるため、第2期間において有機発光層から発光をより確実に得ることができる。
【0025】
本発明の有機発光素子では、有機発光層に含まれる有機発光体のダイポールモーメントは、0Dよりも大きくてもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から十分な発光を得ることができる。
【0026】
本発明の有機発光素子では、有機発光体のダイポールモーメントは、3D以上であってもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から、より十分な発光を得ることができる。
【0027】
本発明の有機発光素子では、有機発光体のダイポールモーメントは、10D以上であってもよい。これにより、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極と第2電極との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層に生じるように第1電極と第2電極との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層から、より十分な発光を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、新たな発光形態を実現することができる発光装置、発光方法及び有機発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】
図1に示される有機発光素子の模式図である。
【
図3】
図1に示される有機発光素子のエネルギー図である。
【
図4】
図1に示される有機発光素子のエネルギー図である。
【
図5】実施例1の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図6】実施例2の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図7】実施例3の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図8】実施例4の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図9】実施例5の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図10】実施例6の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図11】実施例7の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図12】実施例1の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図13】実施例8の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図15】実施例1の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図16】実施例2の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【
図17】実施例9の有機発光素子についての実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[発光装置の構成]
【0031】
図1に示されるように、発光装置1は、有機発光素子2と、制御部3と、を備えている。有機発光素子2は、光透過基板20と、第1電極21と、第2電極22と、第1電荷流入阻止層(電荷流入阻止層)23と、第2電荷流入阻止層(電荷流入阻止層)24と、有機発光層25と、を有している。有機発光素子2では、第1電極21、第1電荷流入阻止層23、有機発光層25、第2電荷流入阻止層24及び第2電極22が、この順序で光透過基板20上に積層されている。つまり、有機発光素子2では、第2電極22が第1電極21と対向するように配置されており、有機発光層25が第1電極21と第2電極22との間に配置されている。更に、有機発光素子2では、第1電荷流入阻止層23が第1電極21と有機発光層25との間に配置されており、第2電荷流入阻止層24が第2電極22と有機発光層25との間に配置されている。
【0032】
光透過基板20は、光透過性を有する材料(例えば、ガラス等)からなる基板である。第1電極21は、導電性及び光透過性を有する材料(例えば、ITO等)からなる層である。光透過基板20及び第1電極21は、外部から有機発光層25に入射する励起光、及び有機発光層25から外部に出射する光(詳細については、後述する)に対して光透過性を有している。第2電極22は、導電性を有する材料(例えば、アルミニウム等)からなる層である。本実施形態では、第2電極22の仕事関数(真空準位からの深さ(絶対値))は、第1電極21の仕事関数よりも小さい。例えば、第1電極21がITOからなり、第2電極22がアルミニウムからなる場合には、第1電極21の仕事関数は4.8eV程度であり、第2電極22の仕事関数は4.2eVである。
【0033】
第1電荷流入阻止層23は、第1電極21から有機発光層25への電荷の流入を阻止する層である。第1電荷流入阻止層23は、光透過基板20及び第1電極21と同様に、外部から有機発光層25に入射する励起光、及び有機発光層25から外部に出射する光(詳細については、後述する)に対して光透過性を有している。第2電荷流入阻止層24は、第2電極22から有機発光層25への電荷の流入を阻止する層である。一例として、第1電荷流入阻止層23がいわゆる電子輸送材料(例えば、T2T、BCP、TPBi、Bphen等)からなる場合には、第1電荷流入阻止層23によって、第1電極21から有機発光層25への正孔の流入が阻止される。また、第2電荷流入阻止層24がいわゆる正孔輸送材料(例えば、CBP、TAPC、Tris-PCz、NPD等)からなる場合には、第2電荷流入阻止層24によって、第2電極22から有機発光層25への電子の流入が阻止される。
【0034】
有機発光層25は、励起光の入射によって電荷の分離が起こる層である。本実施形態では、有機発光層25は、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光体を含むホスト材料によって、構成されている。有機発光層25では、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光体として、例えば、TPA-DCPP、4CzIPN、Alq3、TBRb、4CzTPN-Ph等が用いられている。有機発光層25では、ホスト材料として、例えば、CBP、mCBP,T2T,mCP,PPT,DPEPO等が用いられている。ホスト材料は、有機発光体よりも大きい励起三重項エネルギーを有するものであることが好ましい。
【0035】
制御部3は、有機発光素子2を制御する。具体的には、制御部3は、第1電極21と第2電極22との間に印加する電圧の値、第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加するタイミング等を制御する。制御部3は、後述する遅延期間の長さを調整可能である。一例として、制御部3は、ファンクションジェネレーター(任意波形出力装置)、FPGA等の集積回路等によって、構成されている。
[発光装置において実施される発光方法]
【0036】
発光装置1において実施される発光方法(すなわち、有機発光素子2を用いた発光方法)について、
図2、
図3及び
図4を参照して説明する。なお、
図2では、有機発光素子2において、光透過基板20の図示が省略されている。また、
図3及び
図4には、一例として、第1電極21がITOからなり、第2電極22がアルミニウムからなり、第1電荷流入阻止層23がT2Tからなり、第2電荷流入阻止層24がCBPからなり、有機発光層25がTPA-DCPP(有機発光体)及びCBP(ホスト材料)からなる場合のエネルギー図が示されている。
【0037】
まず、定常状態では、
図3に示されるように、有機発光層25において電荷の分離が起こっておらず、電荷の分離によって生成された正孔及び電子が有機発光層25内に存在していない。この状態で、
図2の(a)に示されるように、第1期間において、外部から光透過基板20(
図1参照)、第1電極21及び第1電荷流入阻止層23を介して有機発光層25に励起光L1が入射すると(励起光が入射するステップ)、有機発光層25において電荷の分離が起こり、正孔及び電子が生成される。
【0038】
より具体的には、励起光L1の入射によって、有機発光層25中のTPA-DCPPの分子が励起状態となり、励起状態となった分子のうち、一部の分子は発光して基底状態に戻るが、残りの分子は発光せずに電荷の分離を起こす。
図2の(b)及び
図4の(a)に示されるように、電荷の分離によって生成された正孔は、有機発光層25と第1電荷流入阻止層23との界面に移動する。電荷の分離によって生成された電子は、有機発光層25中のTPA-DCPP中にトラップされる。
【0039】
続いて、制御部3が、第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極21と第2電極22との間の電位差を変化させる(電位差を変化させるステップ)。これにより、
図2の(c)及び
図4の(b)に示されるように、有機発光層25において正孔と電子とが再結合することで、有機発光層25から第1電荷流入阻止層23、第1電極21及び光透過基板20(
図1参照)を介して外部に光L2が出射する。ここで、遅延期間は、第1期間の終了時から第2期間の開始時までの期間である。
【0040】
なお、制御部3は、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界(以下、単に「順方向の電界」という)が有機発光層25に生じるように(
図3に示される一例では、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が正となるように)第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。或いは、制御部3は、第1期間及び遅延期間において、順方向の電界とは逆方向の電界(以下、単に「逆方向の電界」という)が有機発光層25に生じるように(
図3に示される一例では、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が負となるように)第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加し、第2期間において、順方向の電界が有機発光層25に生じるように(
図3に示される一例では、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が正となるように)第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。
[作用及び効果]
【0041】
発光装置1では、励起光L1の入射によって電荷の分離が起こる有機発光層25が用いられ、有機発光層25に励起光L1が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極21と第2電極22との間の電位差が変化させられる。これにより、有機発光層25に励起光L1が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、有機発光層25から発光(光L2の出射)を得ることができる。このように、発光装置1(及び有機発光素子2を用いた発光方法)によれば、新たな発光形態を実現することができる。発光装置1(及び有機発光素子2を用いた発光方法)による発光形態は、光照射履歴を記憶する光記憶装置等への応用が期待される。
【0042】
また、発光装置1では、制御部3が、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0とし、第2期間において、順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。或いは、発光装置1では、制御部3が、第1期間及び遅延期間において、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加し、第2期間において、順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する。いずれの場合にも、簡易な電圧の印加の仕方で、第2期間において有機発光層25から発光を得ることができる。
【0043】
また、発光装置1では、制御部3が遅延期間の長さを調整可能である。これにより、有機発光層25から外部に光L2が出射するタイミングを調整することができる。
【0044】
また、有機発光素子2では、励起光L1の入射によって有機発光層25において電荷の分離が起こると、分離した電荷が、第1電極21及び第2電極22のそれぞれから有機発光層25への電荷の流入に起因して減少することが、第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24によって抑制される。したがって、有機発光層25に励起光L1が入射した第1期間から遅延期間が経過した後の第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極21と第2電極22との間の電位差を変化させることで、第2期間において有機発光層25から発光を得ることができる。このように、有機発光素子2によれば、新たな発光形態を実現することができる。有機発光素子2による発光形態は、光照射履歴を記憶する光記憶装置等への応用が期待される。
【0045】
また、有機発光素子2では、第1電極21及び第1電荷流入阻止層23が、有機発光層25に入射する励起光L1、及び有機発光層25から出射する光L2に対して光透過性を有している。これにより、有機発光層25に励起光L1を確実に入射させることができると共に、有機発光層25から光L2を確実に出射させることができる。
[電荷流入阻止層についての考察]
【0046】
順方向の電界を有機発光層25に生じさせるために、第2期間において、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が正となるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合は、第1電極21を陽極として機能させ、第2電極22を陰極として機能させる場合に相当する。したがって、そのような場合には、第2電極22の仕事関数が第1電極21の仕事関数よりも小さくなるように、第1電極21の材料及び第2電極22の材料を選択することが一般的である。
【0047】
ここで、第1期間及び遅延期間において、第1電極21から有機発光層25への電荷の流入を防ぐためには、基本的には、第1電荷流入阻止層23の材料として、第1電極21の仕事関数に対して注入障壁が大きくなる材料を選択する必要がある。同様に、第2電極22から有機発光層25への電荷の流入を防ぐためには、基本的には、第2電荷流入阻止層24の材料として、第2電極22の仕事関数に対して注入障壁が大きくなる材料を選択する必要がある。
【0048】
図3に示される一例では、ITOからなる第1電極21の仕事関数が4.8eV程度であるから、第1電荷流入阻止層23の材料として、正孔の注入障壁が高い(すなわち、HOMO準位が深い)T2T(HOMO準位:6.5eV)が選択されている。しかも、T2Tは、電子移動度の高い電子輸送材料であるため、流入する正孔に対して高抵抗を保つことができる。なお、逆方向の電界を有機発光層25に生じさせるために、第1期間及び遅延期間において、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が負となるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合には、第1電極21から電子が流入しようとする。しかし、第2期間において陽極として機能する第1電極21の仕事関数が大きい上に、電子が注入され難いという特性を有機発光体が本質的に有しているため、その場合を考慮して第1電荷流入阻止層23の材料の条件を限定する必要はない。
【0049】
また、
図3に示される一例では、アルミニウムからなる第2電極22の仕事関数が4.2eVであるから、第2電荷流入阻止層24の材料として、電子の注入障壁が高い(すなわち、LUMO準位が浅い)CBP(LUMO準位:2.4eV)が選択されている。なお、逆方向の電界を有機発光層25に生じさせるために、第1期間及び遅延期間において、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が負となるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合には、第2電極22から正孔が流入する可能性がある。そのため、その場合を考慮して、第2電荷流入阻止層24の材料として、正孔の注入障壁が高い(すなわち、HOMO準位が深い)材料を選択してもよい。
【0050】
また、第1電荷流入阻止層23の材料及び第2電荷流入阻止層24の材料を選択する場合に、電流密度-電圧(J-V)特性に着目してもよい。第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が+10Vとなるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した場合、及び、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が-10Vとなるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した場合の両方の場合において、有機発光層25における電流密度が0.1mA/cm2未満となるように、第1電荷流入阻止層23の材料及び第2電荷流入阻止層24の材料を選択してもよい。なお、この場合の電流密度としては、暗状態で+10V及び-10Vを印加した際の電流密度をケースレー製のソースメーター2400シリーズによって測定した値(アベレージング回数2以上)を用いることができる。
【0051】
更に、第1期間及び遅延期間において、有機発光層25から第1電極21への正孔の流出を防ぐためには、第1電荷流入阻止層23の材料として、有機発光層25の有機発光体のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有する材料を選択してもよい。また、第1期間及び遅延期間において、有機発光層25から第2電極22への電子の流出を防ぐためには、第2電荷流入阻止層24の材料として、有機発光層25の有機発光体のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有する材料を選択してもよい。これらにより、第2期間において有機発光層25から発光をより確実に得ることができる。なお、第1電荷流入阻止層23の材料及び第2電荷流入阻止層24の少なくとも一方が、有機発光層25の有機発光体のHOMO準位よりも深いHOMO準位を有していれば、第1期間及び遅延期間において、有機発光層25から外部への正孔の流出を防ぐことができる。或いは、第1電荷流入阻止層23の材料及び第2電荷流入阻止層24の少なくとも一方が、有機発光層25の有機発光体のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有していれば、第1期間及び遅延期間において、有機発光層25から外部への電子の流出を防ぐことができる。これらの場合にも、第2期間において有機発光層25から発光をより確実に得ることができる。
【0052】
本明細書中、有機発光体及び電荷流入阻止層のHOMO準位及びLUMO準位は、以下に示す方法で測定することができる。
【0053】
表面ミラー仕上げ、抵抗率0.0030-0.0060Ω・cm、結晶方位<100>のAsドープn型ベアSiウェハ上に有機発光体又は電荷流入阻止層をそれぞれ単独で成膜し、大気下光電子分光測定装置AC-3E(RIKEN KEIKI社製)によってHOMO準位を測定する。膜厚は100nmとすることが好ましいが、スピンコート法で成膜する場合、厚膜化困難であるため約30nmで測定を行う。
【0054】
石英基板上に有機発光体又は電荷流入阻止層をそれぞれ単独で成膜し、UV-VIS-NIR分光光度計LAMBDA950(PerkinElmer社製)によって吸収スペクトルを測定する。この際、最も長波長側の吸収ピークが光学濃度(OD)0.1~1.0となるように膜厚を調整する。また、発光体に関しては、最も長波長側にある吸収極大値をPAbsとする。LUMO準位に関しては、それぞれ得られた吸収スペクトルの最も長波長側のピークの、長波長側の立ち下がりに対して引いた接線と横軸(波長軸)との交点の波長λedge[nm]とし、上述の方法で得られるHOMO[eV]の値を用いて、LUMO[eV]=HOMO+(1240/λedge)によって算出する。なお、立ち下がりの接線は以下のようにして引く。吸収ピークの長波長側から極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、スペクトル曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、吸収スペクトルの長波長側の立ち下がりに対する接線とする。
[有機発光層についての考察]
【0055】
有機発光層25には、励起光の入射によって電荷の分離が起こる有機発光体として、ダイポールモーメント(μ)が0Dよりも大きい有機発光体を用いることができる。ダイポールモーメントは、量子化学計算によって算出可能な値であり、一般的には、ハートリーフォック(HF)法又は密度汎関数(DFT)法と称される計算手法によって算出される値である。その中でも最もよく使用されている条件(汎関数と基底関数との組み合わせ)は、B3LYP/6-31(d)というものである。一例として、TPA-DCPPのダイポールモーメントは13.05Dであり、4CzIPNのダイポールモーメントは3.85Dであり、Alq3のダイポールモーメントは4.40Dであり、TBRbのダイポールモーメントは0.16Dであり、4CzTPN-Phのダイポールモーメントは0Dである。なお、TBRb又は4CzTPN-Phのように、ダイポールモーメントが3D未満の有機発光体であっても、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した状態とすれば、励起光の入射によって電荷の分離が起こる。
【0056】
ただし、有機発光層25に含まれる有機発光体のダイポールモーメントが0Dよりも大きいと、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0(又は0に近い値)とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層25から十分な発光を得ることができる。好ましくは、有機発光体のダイポールモーメントが3D以上であると(より好ましくは、有機発光体のダイポールモーメントが10D以上であると)、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0(又は0に近い値)とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層25から、より十分な発光を得ることができる。
【0057】
上述したように、有機発光層25に含まれる有機発光体のダイポールモーメントが3D未満であっても、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した状態とすれば、励起光の入射によって電荷の分離が起こる。しかし、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した状態を維持する遅延期間を長くすると、当該遅延期間経過後の第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加しても、有機発光層25から十分な発光を得ることができない。これは、遅延期間において、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加した状態が維持されると、微小なリーク電流が系に流れ続けることになり、励起光の入射によって分離した電荷が消滅してしまうため、と考えられる。
【0058】
なお、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0とすることには、次のようなメリットもある。すなわち、逆方向の電界が有機発光層25に生じることが繰り返されないため、有機発光層25の長寿命化を図ることができる。また、逆方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加するための専用の電源が不要となるため、発光装置1の構造の簡易化を図ることができる。
【0059】
以上により、遅延期間の長短によらず安定した発光を得るためには、有機発光体のダイポールモーメントが0Dよりも大きければよいが、有機発光体のダイポールモーメントが3D以上であることが好ましく、有機発光体のダイポールモーメントが10D以上であることがより好ましい。ただし、有機発光体のダイポールモーメントが30Dよりも大きくなると、十分な遷移双極子モーメントが得られず、発光量子収率が上がり難い(つまり、大きな発光強度が得られない)ため、有機発光体のダイポールモーメントが30Dよりも小さいことが好ましい。
[実験結果]
【0060】
以下、実験結果について、時間と発光強度との関係を示す
図5~
図13を参照して説明する。以下の説明では、第1電極21と第2電極22との間の電位差を単に「電位差」という。また、有機発光層25に順方向の電界を生じさせるために、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が例えば+5Vとなるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加することを、「+5Vの順方向電圧を印加する」と表現する。また、有機発光層25に逆方向の電界を生じさせるために、第2電極22の電位を基準として第1電極21の電位が例えば-10Vとなるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加することを、「-10Vの逆方向電圧を印加する」と表現する。
【0061】
実施例1の有機発光素子2を次のように製造した。まず、厚さ100nmのITOからなる第1電極21が形成されたガラス基板を準備し、真空蒸着法によって、T2Tからなる第1電荷流入阻止層23を第1電極21上に形成した。続いて、異なる蒸着源からの共蒸着法によって、CBP(ホスト材料)及びTPA-DCPP(有機発光体)からなる有機発光層25を第1電荷流入阻止層23上に形成した。このとき、CBPとTPA-DCPPとの質量比を50:50とした。続いて、真空蒸着法によって、CBPからなる第2電荷流入阻止層24を有機発光層25上に形成した。第1電荷流入阻止層23、有機発光層25及び第2電荷流入阻止層24の全体の厚さは160nmであった。続いて、真空蒸着法によって、厚さ100nmのアルミニウムからなる第2電極22を第2電荷流入阻止層24上に形成した。
【0062】
以上のように製造された実施例1の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。
図5の(a)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光(発光スパイク)が観測された。なお、0~1.0m秒の遅延期間において発光強度が得られているのは、分離した電荷の一部が自然に再結合しているためと考えられる。また、
図5の(b)に示されるように、-0.002~0秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.00005秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。1秒というように遅延期間を長くしても、分離した電荷が有機発光層25内に残存し続け、電荷の再結合による発光に繋がることが分かった。また、
図5の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が
図5の(a)の場合に比べて強く観測された。なお、
図5の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0063】
次に、実施例2の有機発光素子2を用意した。実施例2の有機発光素子2は、有機発光体が4CzIPNである点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例2の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。まず、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、その後、電位差を0に維持したままにすると、発光強度は、
図6の(a)に示されるとおりとなった。これに対し、
図6の(b)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。また、
図6の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が
図6の(b)の場合に比べて強く観測された。なお、
図6の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0064】
次に、実施例3の有機発光素子2を用意した。実施例3の有機発光素子2は、有機発光体がAlq3である点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例3の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。まず、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、その後、電位差を0に維持したままにすると、発光強度は、
図7の(a)に示されるとおりとなった。これに対し、
図7の(b)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。また、
図7の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が
図7の(b)の場合に比べて強く観測された。なお、
図7の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0065】
次に、実施例4の有機発光素子2を用意した。実施例4の有機発光素子2は、有機発光体がTBRbである点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例4の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。まず、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、その後、電位差を0に維持したままにすると、発光強度は、
図8の(a)に示されるとおりとなった。これに対し、
図8の(b)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加しても、第2期間において、有機発光層25からの発光が顕著には観測されなかった。また、
図8の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。なお、
図8の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0066】
以上の実施例1~実施例4の有機発光素子についての結果から、励起光L1の入射によって電荷の分離が起こる有機発光体を用い、少なくとも第1期間及び遅延期間において逆方向電圧を印加すれば、第2期間において有機発光層25からの発光が観測されると考えられる。
【0067】
次に、実施例5の有機発光素子2を用意した。実施例5の有機発光素子2は、第2電荷流入阻止層24を有しない点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例5の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。
図9の(a)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。また、
図9の(b)に示されるように、-0.002~0秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.00005秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が顕著には観測されなかった。また、
図9の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。なお、
図9の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0068】
次に、実施例6の有機発光素子2を用意した。実施例6の有機発光素子2は、第1電荷流入阻止層23を有しない点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例6の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。
図10の(a)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。また、
図10の(b)に示されるように、-0.002~0秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.00005秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が顕著には観測されなかった。また、
図10の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。なお、
図10の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0069】
次に、実施例7の有機発光素子2を用意した。実施例7の有機発光素子2は、第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24を有しない点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例7の有機発光素子2についての実験結果は、次のとおりである。
図11の(a)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。また、
図11の(b)に示されるように、-0.002~0秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.00005秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が顕著には観測されなかった。また、
図11の(c)に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。なお、
図11の(a)、(b)及び(c)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。
【0070】
以上の実施例1及び実施例5~実施例7の結果から、有機発光素子2が第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24を有する場合(実施例1の場合)には、有機発光素子2が第1電荷流入阻止層23のみを有する場合(実施例5の場合)、有機発光素子2が第2電荷流入阻止層24のみを有する場合(実施例6の場合)、並びに、第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24を有しない場合(実施例7の場合)に比べて、遅延期間を長くしても、有機発光層25からの発光が得られることが分かった。また、遅延期間が短ければ、有機発光素子2が第1電荷流入阻止層23のみを有する場合(実施例5の場合)及び有機発光素子2が第2電荷流入阻止層24のみを有する場合(実施例6の場合)にも、有機発光層25からの発光が得られることが分かった。
【0071】
なお、遅延期間が短ければ、有機発光素子2が第2電荷流入阻止層24のみを有する場合(実施例6の場合)には、有機発光素子2が第1電荷流入阻止層23のみを有する場合(実施例5の場合)に比べて有機発光層25からの発光が強く得られることが分かった。このことから、第1電極21の仕事関数よりも小さい仕事関数を有する第2電極22と有機発光層25との間に第2電荷流入阻止層24が配置された構成は、第2電極22の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する第1電極21と有機発光層25との間に第1電荷流入阻止層23が配置された構成に比べて、有機発光層25からの発光を得る上で有利であると考えられる。
【0072】
また、有機発光素子2が第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24を有する場合(実施例1の場合)には、
図12の(a)、(b)及び(c)に示されるように、遅延期間を30秒間、1分間、1時間としても、有機発光層25からの発光が観測された。
図12の(a)、(b)及び(c)に示される実験結果は、2.0m秒間の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、上述した各遅延期間において電位差を0に維持し、上述した各遅延期間が経過した後の0.05m秒間の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加した場合の実験結果であり、いずれの場合も、励起光L1の強度は同一である。なお、
図12の(a)、(b)及び(c)に示される発光スパイクは、第2期間における発光スパイクであり、
図12の(a)、(b)及び(c)には第1期間は図示されていない。
【0073】
次に、実施例8の有機発光素子2を用意した。実施例8の有機発光素子2は、有機発光層25がTPA-DCPPのみからなる点(すなわち、有機発光層25がホスト材料を含まない点)で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例6についての実験結果は、次のとおりである。
図13に示されるように、-0.5~0m秒の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、0~1.0m秒の遅延期間において電位差を0に維持し、1.0~1.05m秒の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。このことから、有機発光層25がホスト材料を含まなくても、有機発光層25からの発光が得られることが分かった。
【0074】
次に、実施例1の有機発光素子2を再び用意した。実施例1の有機発光素子2では、ダイポールモーメントが13.05DであるTPA-DCPPが有機発光体として用いられている。
図15の(a)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図15の(a)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図15の(a)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図15の(a)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。この場合、
図15の(a)の右側のグラフに示される場合の発光強度は、
図15の(a)の左側のグラフに示される場合の発光強度に比べ、1桁も減衰しなかった。
【0075】
同様に、実施例1の有機発光素子2を再び用意した。
図15の(b)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図15の(b)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図15の(b)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図15の(b)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。この場合、
図15の(b)の右側のグラフに示される場合の発光強度は、
図15の(b)の左側のグラフに示される場合の発光強度に比べ、1桁以上減衰した。
【0076】
次に、実施例2の有機発光素子2を再び用意した。実施例2の有機発光素子2では、ダイポールモーメントが3.85Dである4CzIPNが有機発光体として用いられている。
図16の(a)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図16の(a)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図16の(a)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図16の(a)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。この場合、
図16の(a)の右側のグラフに示される場合の発光強度は、
図16の(a)の左側のグラフに示される場合の発光強度に比べ、1桁も減衰しなかった。
【0077】
同様に、実施例2の有機発光素子2を再び用意した。
図16の(b)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図16の(b)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図16の(b)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図16の(b)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。この場合、
図16の(b)の右側のグラフに示される場合の発光強度は、
図16の(b)の左側のグラフに示される場合の発光強度に比べ、1桁以上減衰した。
【0078】
次に、実施例9の有機発光素子2を用意した。実施例9の有機発光素子2は、有機発光体が4CzTPN-Phである点で、実施例1の有機発光素子2と異なっている。実施例9の有機発光素子2では、ダイポールモーメントが0Dである4CzTPN-Phが有機発光体として用いられている。
図17の(a)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測されなかった。
図17の(a)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において電位差を0として有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において電位差を0に維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測されなかった。
図17の(a)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図17の(a)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。
【0079】
同様に、実施例9の有機発光素子2を再び用意した。
図17の(b)の左側のグラフでは、0.5m秒間(-0.5~0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1.0m秒間(0~1.0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05m秒間(1.0~1.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図17の(b)の右側のグラフでは、0.5m秒間(-1000.5~-1000.0m秒)の第1期間において-10Vの逆方向電圧を印加して有機発光層25に励起光L1を入射させ、1秒間(-1000.0~0m秒)の遅延期間において-10Vの逆方向電圧の印加を維持し、0.05秒間(0~0.05m秒)の第2期間において+5Vの順方向電圧を印加すると、第2期間において、有機発光層25からの発光が観測された。
図17の(b)の右側のグラフに示される場合の遅延期間は、
図17の(b)の左側のグラフに示される場合の遅延期間の1000倍に相当する。この場合、
図17の(b)の右側のグラフに示される場合の発光強度は、
図17の(b)の左側のグラフに示される場合の発光強度に比べ、1桁以上減衰した。
【0080】
以上の
図15の(a)及び(b)、
図16の(a)及び(b)、並びに、
図17の(a)及び(b)に示されるグラフから、有機発光層25に含まれる有機発光体のダイポールモーメントが0Dよりも大きいと、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層25から十分な発光を得ることができることが分かった。また、好ましくは、有機発光体のダイポールモーメントが3D以上であると(より好ましくは、有機発光体のダイポールモーメントが10D以上であると)、例えば、第1期間及び遅延期間において、第1電極21と第2電極22との間の電位差を0とし、第2期間において、電荷の再結合を起こさせる順方向の電界が有機発光層25に生じるように第1電極21と第2電極22との間に電圧を印加する場合に、遅延期間を長くしても、有機発光層25から、より十分な発光を得ることができることが分かった。なお、
図15の(a)及び(b)、
図16の(a)及び(b)、並びに、
図17の(a)及び(b)のいずれの場合も、励起光L1の強度は同一であった。
[変形例]
【0081】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、
図14に示されるように、発光装置1は、励起光L1を出射する光源4を更に備えていてもよく、制御部3は、第1期間において、有機発光層25に励起光L1が入射するように光源4を制御してもよい。これにより、外部から有機発光層25に励起光L1が入射するタイミングを調整することができる。
【0082】
また、上記実施形態では、有機発光素子2において、第1電極21と有機発光層25との間に第1電荷流入阻止層23が配置されており、第2電極22と有機発光層25との間に第2電荷流入阻止層24が配置されていたが、第1電極21と有機発光層25との間に第1電荷流入阻止層23が配置されていなくてもよいし、或いは、第2電極22と有機発光層25との間に第2電荷流入阻止層24が配置されていなくてもよい。ただし、第1電極21と有機発光層25との間に第1電荷流入阻止層23が配置され且つ第2電極22と有機発光層25との間に第2電荷流入阻止層24が配置された構成によれば、第2期間において有機発光層25から発光をより確実に得ることができる。また、上述したように、第1電極21の仕事関数よりも小さい仕事関数を有する第2電極22と有機発光層25との間に第2電荷流入阻止層24が配置された構成は、第2電極22の仕事関数よりも大きい仕事関数を有する第1電極21と有機発光層25との間に第1電荷流入阻止層23が配置された構成に比べて、有機発光層25からの発光を得る上で有利であると考えられる。
【0083】
また、有機発光素子2において、第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24のそれぞれは、電気絶縁性材料によって形成されていてもよい。また、例えば、1枚の光透過基板20上に複数の有機発光素子2が2次元に配置されていてもよい。また、制御部3は、例えば、第1期間及び遅延期間において逆方向電圧を印加し、第2期間において電位差を0としてもよい。つまり、第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極21と第2電極22との間の電位差を変化させることができれば、第2期間において有機発光層25からの発光を得ることができる。
【0084】
また、有機発光素子2は、第1期間(すなわち、有機発光層25に励起光L1が入射するステップ)において、電気的フローティング状態(換言すれば、第1電極21及び第2電極22の電位が独立した状態)とされてもよい。例えば、発光装置1において、有機発光素子2を制御部3から物理的に切り離すことで、第1期間において有機発光素子2を電気的フローティング状態としてもよい。これにより、励起光L1の入射によって有機発光層25において分離した電荷が、第1電極21及び第2電極22から有機発光層25への電荷の流入に起因して減少するのを抑制することができる。その結果、第2期間において、電荷の再結合が起こるように第1電極21と第2電極22との間の電位差を変化させることで、第2期間において有機発光層25から確実に発光を得ることができる。また、例えば、発光装置1において、第1電極21及び第2電極22のそれぞれに接続された配線に設けられたスイッチを制御部3がONからOFFに切り替えることで、第1期間において有機発光素子2を電気的フローティング状態としてもよい。なお、有機発光素子2における第1電荷流入阻止層23及び第2電荷流入阻止層24の少なくとも一方の存在は、第1電極21と第2電極22との間の電位差を変化させるための配線を第1電極21及び第2電極22の少なくとも一方に接続しただけで有機発光層25に電荷が流入するのを抑制する上で、有効である。
【符号の説明】
【0085】
1…発光装置、2…有機発光素子、3…制御部、4…光源、21…第1電極、22…第2電極、23…第1電荷流入阻止層(電荷流入阻止層)、24…第2電荷流入阻止層(電荷流入阻止層)、25…有機発光層、L1…励起光。