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特許7438514光誘起カチオン重合による純植物油ポリマー、およびその調製方法ならびに用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】光誘起カチオン重合による純植物油ポリマー、およびその調製方法ならびに用途
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20240219BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 63/10 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/68
C08L63/00 C
C08L63/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022559560
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2020106773
(87)【国際公開番号】W WO2022027220
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】503342694
【氏名又は名称】華南農業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】522383458
【氏名又は名称】広東藍洋科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】袁 騰
(72)【発明者】
【氏名】黄 錦清
(72)【発明者】
【氏名】楊 卓鴻
(72)【発明者】
【氏名】肖 亜亮
(72)【発明者】
【氏名】李 小平
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-204709(JP,A)
【文献】特開2010-181843(JP,A)
【文献】国際公開第2009/114935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾性油、エポキシ化植物油、開始剤を均一に混合し、光を照射した後、常温下で継続的に熱硬化反応させ、光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーを得るステップを含み、
前記の乾性油は、桐油、亜麻仁油、とうごま油の少なくとも1つである、ことを特徴とする光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【請求項2】
前記のエポキシ化植物油は、エポキシひまし油、エポキシ大豆油、エポキシ亜麻仁油、エポキシ菜種油、エポキシ桐油の少なくとも1つである、ことを特徴とする請求項1に記載の光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【請求項3】
前記の開始剤は光熱二重開始剤であり、具体的には、2,4,6-トリフェニルピラニウムテトラフルオロボレート、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、アルキルスルホニウム塩の少なくとも1つである、ことを特徴とする請求項1に記載の光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【請求項4】
前記光照射時間は1~5分であり、使用する光源は365nm波長のUV-LED点光源である、ことを特徴とする請求項1に記載の光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【請求項5】
前記の光照射後の熱硬化反応の反応時間は10~30分である、ことを特徴とする請求項1に記載の光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【請求項6】
前記調製方法において、各原料の質量比は、乾性油15~80%、エポキシ化植物油15~80%、開始剤1~5%である、ことを特徴とする請求項1に記載の光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベースポリマー材料の技術分野に属し、具体のに光誘起カチオン重合による純植物油ポリマー、およびその調製方法ならびに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能な資源である植物油は、化学工業製品と新エネルギー製品を大規模に合成と調製するための理想のな代替資源である。植物油分子構造には1~3個の不飽和二重結合があり、二重結合を直接に重合したりエポキシ基に変換して重合したりすることができるため、植物油はポリマー材料体系を構築するための構造基盤を持っている。植物油体系の直接重合や植物油の合成ポリマーの原料化は、高分子材料の石油化学資源への依存度を大きく低下させ、植物油の適用分野を拡大し、その付加価値を大幅に向上させることができる。化学者らは再生可能な資源の適用研究を強化しているが、現在、通常重合によって得られた再生可能な資源は石油化学製品に匹敵する特性を得ることができず、主流ポリマー材料として石油化学製品を代替するには至っていない。したがって、植物油体系の新しい重合反応方法を研究し、その硬化挙動や重合メカニズムを解明し、グリーン、低炭素、環境に優しく、優れた性能と高い付加価値を有する新しい植物油ポリマー材料の開発は、理論的にも実用的にも非常に重要である。純植物油系高分子材料分野での植物油の適用を実現するために、新しい効率的な植物油重合反応方法を探すことは重要な課題になっている。省エネ、環境保護および材料性能などの要求から、高速かる省エネの新しい反応モードで新しい材料を調製することは話題になっている。その中で、高分子材料の調製において、フロント重合と光開始重合などの重合反応方法は、省エネ、環境保護、短い反応時間などの利点があるためますます注目されている。両者を組み合わせた光誘起熱フロント重合は、フロント重合と光開始重合の両方の長所を併せ持つため、より広い適用展望がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来技術の欠点と不足を克服するために、本発明の第1目的は、光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法を提供することである。
【0004】
本発明の別の目的は、上記方法で調製された光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーを提供することである。
【0005】
本発明のさらに別の目的は、塗料、インク、接着剤、プラスチック、繊維、3D印刷および複合材料分野における上記光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの用途を提供することである。
【0006】
本発明の目的は以下技術的解決手段によって達成される。
【0007】
光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーの調製方法は、乾性油、エポキシ化植物油、開始剤を均一に混合し、光を照射した後、室温に置いて反応を継続し、光誘起カチオン重合による純植物油ポリマーを得るステップを含む。
【0008】
前記の乾性油は、桐油、亜麻仁油、とうごま油の少なくとも1つである。
【0009】
前記のエポキシ化植物油は、エポキシ化ひまし油、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化菜種油、エポキシ化桐油の少なくとも1つである。
【0010】
前記の開始剤は、光熱二重開始剤であり、具体的に2,4,6-トリフェニルピラニウムテトラフルオロボレート(TPP)、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、アルキルスルホニウム塩の少なくとも1つである。
【0011】
前記の光照射時間は1~5分であり、使用する光源は波長365nmのUV-LED点光源である。
【0012】
前記の光照射後の熱硬化反応の反応時間は10~30分である。
【0013】
前記調製方法において、各原料の質量比は、乾性油15~80%、エポキシ化植物油15~80%、開始剤1~5%である。
【0014】
フロント重合反応は、現場自己増殖技術を用いて、モノマー中を移動する局所的な反応によりモノマーをポリマーに変換する方法である。反応初期に短時間のエネルギー供給により、モノマー同士の反応を一気に開始し、自身の熱により隣接領域の成分同士の反応を開始させ、領域全体の反応が終了した後、最終的なモノマー重合を完了する。フロント重合は、主に発熱反応に適用され、反応初期に短時間加熱した後加熱を停止したり全く加熱せず、外部開始の発熱反応の熱による自己触媒作用を利用してモノマーの重合反応を完了させ、反応全体中、攪拌が必要せず連続的で制御しやすい。現在、外部開始フロント重合は主に光開始フロント重合、プラズマ開始フロント重合、レーザ開始フロント重合などがある。
【0015】
光開始重合は、迅速にポリマーを合成する最も有効な方法の1つであり、その重合反応は数秒で完了する。光重合は主に光開始フリーラジカル重合と光開始カチオン重合があり、そのうち、光開始フリーラジカル重合は現在幅広く適用されているが、酸素遮断性、体積収縮が激しく、硬化厚みに制限があり、光透過に制限があるなどの問題に起因して、多くの分野での適用が制限される。現在使用されている紫外線硬化樹脂のほとんどは、フリーラジカル重合に基づいているが、ビニルエーテル基またはエポキシ基などの多官能モノマーを含むオリゴマーにカチオン重合を使用すると、多くの独自の利点を得ることができる。
【0016】
乾性油の光熱二重硬化過程は熱を吸収するため、光照射と加熱が必要である。エポキシ化植物油の光誘起熱フロント重合反応は発熱性であり、光照射が必要であるが、加熱が不要である。乾性油とエポキシ化植物油を組み合わせて、二官能性光重合体系を構築すると、理論的にエポキシ化植物油の光重合発熱により桐油の熱硬化過程を開始することができる。カチオン光開始剤で乾性油とエポキシ化植物油体系の光熱二重硬化を開始し、そのうち、乾性油とエポキシ化植物油は最初に光誘起カチオン重合反応が起こり、カチオン重合後、乾性油重合体系は酸素の存在で過酸化物を生成してエポキシ化植物油体系の熱重合の共開始剤として使用し、エポキシ化植物油体系は光誘起カチオン重合により発熱し、乾性油の熱重合後の硬化過程を開始することができる。乾性油/エポキシ化植物油体系は光誘起カチオン重合反応は発生し、この反応は光誘起熱フロント重合であるため、追加の加熱や共開始剤である過酸化水素が不要であり(加熱と共開始剤なしの体系)、この体系では、植物油体系中の二重結合とエポキシ基のカチオン重合反応が相乗的に促進され、互いの熱重合反応後硬化挙動を開始することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は従来技術と比較すると、以下のような利点および有益な効果を有する。
【0018】
(1)本発明は、安価で、入手しやすく、再生が容易な植物油資源を採用し、化石由来のモノマーを完全に代替して純植物油ポリマーを調製することで、植物油の効率的な利用を実現する。(2)本発明は、非典型の光誘起熱フロント重合反応技術を採用して純植物油ポリマーを調製することで、非加熱条件下での植物油体系の光熱二重硬化を実現し、本発明の調製方法は簡単で、条件が厳しくなく、環境に優しく、省エネ、製品品質が安定で、大規模生産に適している。(3)本発明の植物油体系は硬化過程中酸素と過酸化物を生成するため、過酸化水素とイソブチルビニルエーテルを共開始剤として添加しなくても、熱硬化反応速度を高め、熱硬化反応時間を30分以下に短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されない。以下の実施例中の材料はいずれも市販されている。
【0020】
実施例1
桐油80g、エポキシ大豆油19gおよびTPP1gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に1分間照射し、最後に室温下で10分間継続的に反応して、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が120℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0021】
実施例2
亜麻仁油20g、エポキシ亜麻仁油78gおよびジアリールヨードニウム塩2gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に5分間照射し、最後に室温下で20分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が119℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0022】
実施例3
とうごま油60g、エポキシ菜種油37gおよびトリアリールスルホニウム塩3gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で30分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が124℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0023】
実施例4
桐油16g、エポキシ桐油80gおよびアルキルスルホニウム塩4gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で15分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が118℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0024】
実施例5
亜麻仁油15g、エポキシひまし油80gおよびTPP5gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で20分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が120℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0025】
実施例6
とうごま油80g、エポキシ大豆油15gおよびジアリールヨードニウム塩5gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で30分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が119℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0026】
実施例7
桐油40g、エポキシひまし油57gおよびトリアリールスルホニウム塩3gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で10分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が121℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0027】
実施例8
亜麻仁油50g、エポキシ亜麻仁油48gおよびアルキルスルホニウム塩2gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で20分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が122℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0028】
実施例9
とうごま油29g、エポキシ菜種油70gおよびTPP1gを透明ガラス製反応器に加え、均一に攪拌した後、波長365nmのUV-LED点光源下に3分間照射し、最後に室温下で30分間継続的に反応させ、純植物油ポリマーを得る。反応過程中、温度計により反応体系の温度変化を監視し、温度計の測定結果から分かるように、光照射後体系の反応温度が118℃に達し、後段の熱硬化反応を効果的に開始することができ、開始剤はこの体系の光誘起熱フロント重合反応を開始させることに成功したことが示された。
【0029】
各実施例で調製された純植物油ポリマーの性能測定実施例
架橋度はゲル化率で特徴付けられ、ゲル化率が高いほど架橋度が高くなる。アセトン法により硬化塗膜のゲル含有量を測定する。各硬化塗膜を室温でアセトンを含む20mLのガラスバイアルに48時間浸漬した後、60℃で一定重量になるまで乾燥させる。ゲル化率=W/W×100%、ここでWとWはそれぞれ浸漬前と浸漬乾燥後の質量を表す。
【0030】
硬度は、《カラーペイントおよびワニスの塗膜硬度測定用鉛筆法(GB/T 6739-2006)》によって測定される。
【0031】
熱安定性分析(TGA分析)は、ドイツNetzsch会社のSTA 449C型熱重量分析器を用いて上記硬化膜を測定し、昇温速度:10℃/分;雰囲気:窒素;温度範囲:35~660℃、各実施例における質量損失が5%に達したときの初期分解温度を表1に記録する。
【0032】
動的熱機械分析(DMA)は、ドイツNetzsch会社のDMA 242C動的力学分析器により上記硬化膜を測定し、サンプルホルダー:引張ホルダー;振動周波数:1Hz;サンプルサイズ:20mm×6mm×0.5mm;昇温速度:3℃/分;温度範囲:-80~180℃。測定された硬化膜のガラス転移温度(T)を表1に記録する。
【0033】
機械性能分析は、日本Shimadzu会社のAGS-X 1 kN型万能試験機を用いて上記硬化膜を測定し、クロスヘッド速度:10mm/分;サンプルサイズ:40mm×10mm×0.5mmである。
【0034】
【表1】
【0035】
上記実施例は本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態は上記実施例に限定されなく、本発明の実質的な精神および原理から逸脱することなく加えられた変更、修正、代替、組合せ、簡略化は等価置換であり、すべて本発明の保護範囲内に含まれる。