IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-難燃性編地 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】難燃性編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/16 20060101AFI20240219BHJP
   D04B 1/00 20060101ALI20240219BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20240219BHJP
   D06M 13/415 20060101ALI20240219BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240219BHJP
   A41D 31/08 20190101ALI20240219BHJP
   A41D 31/12 20190101ALI20240219BHJP
【FI】
D04B1/16
D04B1/00 B
D06M15/277
D06M13/415
A41D31/00 502C
A41D31/00 503E
A41D31/08
A41D31/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019173010
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021050430
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北阪 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 耕二
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-220844(JP,A)
【文献】特開昭50-014865(JP,A)
【文献】特開昭51-053060(JP,A)
【文献】特表2010-514783(JP,A)
【文献】特開2013-083008(JP,A)
【文献】特開2014-145134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
D06M13/00-15/715、
A41D31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性合成繊維とセルロース繊維とを含有する紡績糸を80質量%以上含む難燃性編地であって、
裏面に配された前記紡績糸のみが撥水加工されており、かつ裏面全体に撥水加工が施されておらず、
JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上であり、
JIS L 1096に従って測定される蒸発性自由水分量が3g/202.5cm以上であり、且つ
編地の裏面における、JIS L1091 バイレック法に従って測定される吸水性が、表面の吸水性よりも小さいものである、難燃性編地。
【請求項2】
編地の前記表面と前記裏面とにおける、JIS L1091 バイレック法に従って測定される吸水性の差が10mm/10分以上である、請求項1に記載の難燃性編地。
【請求項3】
前記表面の組織が天竺組織であり、且つ前記裏面の組織がメッシュ組織であるダブル丸編地である、請求項1または2に記載の難燃性編地。
【請求項4】
前記難燃性合成繊維が難燃性を付与したビニロン繊維である、請求項1~の何れか1項に記載の難燃性編地。
【請求項5】
防虫加工が施されてなる、請求項1~の何れか1項に記載の難燃性編地。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の難燃性編地を含む、衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れるうえに、衣服として着用した場合に肌へのベタツキが軽減され、快適性に優れる難燃性編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から難燃性又は防炎性を有する布帛として、所定の限界酸素指数(LOI値)を充足する布帛が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の防炎性布帛は、耐熱性繊維と炭化性難燃繊維とを含むために、難燃性又は防炎性に優れるのみならず、さらに通気性と軽量性とを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-101294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の布帛においては、吸水拡散性が十分ではないために、衣服として着用した場合に肌面へのベタツキが軽減されておらず、快適性に問題がある。
【0005】
本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、難燃性に優れるとともに、衣服として着用した場合に肌へのベタツキが軽減され、快適性に優れた難燃性編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、難燃性合成繊維とセルロース繊維とを含有する紡績糸を含み、蒸発性自由水分量を特定範囲としたうえで、表面と裏面との吸水性に差を設けると、吸水拡散性に優れ、衣服として着用した場合に肌へのベタツキが軽減され、快適性に優れる編地となることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~()を要旨とする。
(1)難燃性合成繊維とセルロース繊維とを含有する紡績糸を80質量%以上含む難燃性編地であって、裏面に配された前記紡績糸のみが撥水加工されており、かつ裏面全体に撥水加工が施されておらず、JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上であり、JIS L 1096に従って測定される蒸発性自由水分量が3g/202.5cm以上であり、且つ 編地の裏面における、JIS L1091 バイレック法に従って測定される吸水性が、表面の吸水性よりも小さいものである、難燃性編地。
(2)編地の前記表面と前記裏面とにおける、JIS L1091 バイレック法に従って測定される吸水性の差が10mm/10分以上である、(1)の難燃性編地。
(3)前記表面の組織が天竺組織であり、且つ前記裏面の組織がメッシュ組織であるダブル丸編地である、(1)または(2)の難燃性編地。
(4)前記難燃性合成繊維が難燃性を付与したビニロン繊維である、(1)~(3)の何れかの難燃性編地。
(5)防虫加工が施されてなる、(1)~(4)の何れかの難燃性編地。
(6)(1)~(5)の何れかの難燃性編地を含む、衣服。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性編地は、吸水拡散性に優れ、各種の衣服として用いられた場合に肌へのベタツキが軽減され、快適性に優れるものである。そのため、例えば、陸上競技、野球、サッカーなどに用いる屋外スポーツ用ユニフォームや、腕カバー、パーカー、帽子、ブラウス、ワイシャツ、ズボン、スカート、Tシャツ、ポロシャツ、ワーキングウエア、トレーニングウエアなどの衣服用途全般に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】蒸発性自由水分量を測定する試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の難燃性編地は、難燃性合成繊維とセルロース繊維とを含有する紡績糸を含むものである。
難燃性合成繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば難燃性を付与したビニロン繊維、難燃性を付与したレーヨン、難燃性を付与したアクリル繊維、難燃性を付与したポリエステル繊維、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、炭素繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、モダアクリル繊維、メラミン繊維、フッ素繊維などが挙げられる。中でも難燃性、摩耗強力に顕著に優れるとともに吸水性に優れ、さらに燃焼ガスの安全性またはコストの観点から、難燃性を付与したビニロン繊維(本発明においては、難燃性ビニロン繊維という場合がある)が好ましい。
【0011】
難燃性合成繊維としては、難燃性の指標である、JIS L1091 E法によって測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上である繊維であることが好ましく、更に26以上であることがより好ましい。
【0012】
難燃性合成繊維の単糸繊度としては、特に限定されるものではないが、紡績性、強度等の観点から、0.5~3dtexが好ましい。0.5dtex未満であると強度に劣る場合があり、3dtexを超えると、紡績に使用できるワタの本数が減少し、紡績性に不具合が生じる場合がある。また難燃性合成繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、紡績性の観点から20~100mmであることが好ましい。20mm未満であると、絡み合う糸条の長さが不十分となるために紡績性が不十分となる場合があり、100mmを超えると、延伸等を施し難くなり、却って紡績性が不十分になる場合がある。
【0013】
本発明の難燃性編地は、難燃性合成繊維とともに、セルロース繊維を含有する紡績糸を含むことで、吸水性、保水性に優れるものとすることができる。
【0014】
セルロース繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば、綿、麻などの天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などの再生セルロース繊維を用いることができるが、難燃性合成繊維として難燃性ビニロン繊維を用いる場合は、難燃性の相性がよいことから、綿が好ましい。
セルロース繊維の単糸繊度としては、特に限定されるものではないが、紡績性、強度等の観点から、0.5~3.0dtexが好ましい。0.5dtex未満であると強度に劣る場合があり、3dtexを超えると、紡績に使用できるワタの本数が減少し、紡績性に不具合が生じる場合がある。またセルロース繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、紡績性の観点から20~100mmであることが好ましい。20mm未満であると、絡み合う糸条の長さが不十分となるために紡績性が不十分となる場合があり、100mmを超えると、延伸等を施し難くなり、却って紡績性が不十分になる場合がある。
また、セルロース繊維として綿を使用する場合、綿としては米綿、オーストラリア綿、ブラジル綿、インド綿、エジプト綿、中国綿、ギリシャ綿などが挙げられる。こうした綿は1種類以上混合されて用いられてもよい。
【0015】
難燃性合成繊維とセルロース繊維とを含む紡績糸において、難燃性合成繊維とセルロース繊維との質量比率は、(難燃性合成繊維):(セルロース繊維)=9:1~6:4であることが好ましく、8:2~7:3であることがより好ましい。上記範囲とすることで、難燃性と吸水性とのバランスに優れるとともに、よりいっそう強度を向上させることができる。
【0016】
こうした紡績糸の番手は、例えば10~80番手であることが好ましく、紡績性の観点から15~50番手の双糸がより好ましく、20~40番の双糸がさらに好ましい。10番手未満であると編地とした際に分厚くなり過ぎ、衣服に用いられた場合に風合いが損なわれて品位に劣る場合があり、80番手を超えると編地とした際に薄くなり過ぎ、十分な難燃性または保水性が確保できない場合がある。
【0017】
本発明の難燃性編地において、上記の紡績糸の混用率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の難燃性編地における、難燃性合成繊維の混用率は、難燃性、強力を損なわないために50~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましい。50質量%未満であると、十分な難燃性が発揮されない場合、または十分な強力が保持できない場合がある。一方、95質量%を超えると、吸水性または吸湿性が低下してしまい、快適性が低下する場合がある。
【0019】
本発明の難燃性編地における、セルロース繊維の混用率は、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。5質量%未満であると、吸水性、吸湿性が低下し快適性が低下する場合があり、一方50質量%を超えると十分な難燃性が発揮されない場合がある。
【0020】
本発明の難燃性編地には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の紡績糸以外の糸条が含まれていてもよい。こうした糸条としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維からなるマルチフィラメント、セルロース繊維以外の天然繊維からなる紡績糸などが挙げられる。紡績糸以外の糸条の混用率としては、例えば20質量%以下であり、0~10質量%であることが好ましく、0質量%であることがより好ましい。
【0021】
本発明の難燃性編地の厚みは、0.3~1.0mmであることが好ましく、0.4~0.8mmであることが好ましい。厚みが0.3mm未満であると十分な難燃性または保水性が確保できず、後述の蒸発性自由水分量を特定範囲とできない場合がある。一方、1.0mmを超えると、衣服に用いられた場合に風合いが損なわれて品位に劣る場合がある。
【0022】
本発明の難燃性編地は、難燃性に顕著に優れるために、JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上であり、26以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明の難燃性編地は、保水性に顕著に優れるために、JIS L 1096に従って測定される蒸発性自由水分量が3g/202.5cm以上であることが必要であり、5g/202.5cm以上であることが好ましく、5~20g/202.5cmであることがより好ましい。本発明においては、蒸発性自由水分量をこうした範囲とするために、例えば編地の裏面に撥水加工が施された紡績糸を配することで、編地の裏面と表面とにおいて吸水性に差を設けることができる。または蒸発性自由水分量をこうした範囲とするために、編地の厚みを上記範囲とすることが好ましい。蒸発性自由水分量の測定方法は、実施例にて説明する。
【0024】
本発明の難燃性編地は、編地の裏面における、JIS L1091 バイレック法に従って測定される吸水性が、表面の吸水性よりも小さいものであることが必要である。なお、本発明における裏面とは、衣服等として着用された場合に肌側に配される面をいう。裏面との吸水性が表面よりも小さいものであると、裏面が表面よりも低吸水性となり、身体の肌側に配される裏面から吸収した水分を、速やかに表面およびその近傍へ移動させることができ、水分の拡散性に優れるものとなる。その結果、衣服に用いられた場合に、肌へのベタツキが低減されて快適性に優れた難燃性編地を得ることができる。
【0025】
本発明の難燃性編地における、JIS L1091 バイレック法に従って測定される表面と裏面との吸水性の差は、10mm/10分以上であることが好ましく、12mm/10分以上であることがより好ましく、15mm/10分以上であることがさらに好ましい。
蒸発性自由水分量を上記範囲としたうえで、編地の裏面における吸水性を表面の吸水性よりも小さいものとすることで、汗などの水分の吸水性および拡散性にいっそう優れるものとなり、肌へのベタツキがより抑制され、快適性に優れた難燃性編地とすることができる。表面と裏面との吸水性の差の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば100mm/10分である。
【0026】
本発明の難燃性編地においては、裏面のみに撥水加工された紡績糸(以下、撥水加工紡績糸という場合がある)が配されることが好ましい。これにより、JIS L1091 バイレック法に従って測定される表面と裏面との吸水性の差を10mm/分以上とすることができる。
【0027】
裏面に撥水性を付与する手法として、編地の裏面全体に後加工としての撥水加工を施す手法も考えられる。しかしながら本発明においては、撥水加工紡績糸を裏面に配するとともに、撥水加工が施されていない紡績糸を表面に配することで、撥水加工が施されていない紡績糸(つまり、吸水性を有するものである紡績糸)が、ニットループとして裏面にも部分的に露出することとなる。そのため裏面全体に後加工としての撥水加工を施す手法と比較すると、裏面においてある程度の吸水性を発現させることで汗などの水分を吸収させて、肌面におけるベタツキを抑制できるという効果が奏される。
【0028】
本発明の難燃性編地において、撥水加工紡績糸が裏面のみ配される場合、撥水加工紡績糸の含有量としては、編地全体を100質量%として、20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましい。20質量%未満であると、表裏の吸水性の差が出ずベタツキを抑制する効果が薄れるという問題があり、80質量%を超えると生地全体の吸水性が低下し、快適性が損なわれるという問題がある。
【0029】
紡績糸に対して撥水加工を施す方法としては、特に限定されるものではないが、撥水剤を公知の手法で紡績糸の表面に付与する方法が挙げられる。撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤などが挙げられる。中でも撥水性の観点からは、フッ素系撥水剤が好ましい。フッ素系撥水剤としては、例えば、炭素数が6以下のフルオロアルキルアクリレート基を有するフッ素系撥水剤が挙げられ、フッ素原子と炭素原子4~6個が結びついたC4~6有機フッ素化合物(C4~C6)を主成分とするフッ素系撥水剤が好ましく挙げられ、パーフルオロヘキサン酸(C6)系撥水剤が好ましく挙げられる。さらに、フッ素系撥水剤は、環境面の観点から、PFOA(パーフルオロオクタン酸)を実質的に含有しないことが好ましい。PFOA(パーフルオロオクタン酸)を実質的に含有しないフッ素系撥水剤としては、例えば、アサヒガードEシリーズ(旭硝子社製)、NKガードSシリーズ(日華化学社製)、ユニダインマルチシリーズ(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0030】
撥水剤を紡績糸の表面に付与する手法としては、例えば撥水剤を含む水溶液に紡績糸を含浸し、熱処理する手法が挙げられる。また、撥水剤を含む水溶液には、速乾性の洗濯耐久性をより一層優れたものとする観点から、架橋剤を含有させることが好ましい。また、撥水剤を含む水溶液には界面活性剤、柔軟剤、抗菌剤等の各種添加剤を含有させることもできる。撥水剤を含む水溶液に対して紡績糸を含浸させる方法としては、通常のパッドドライ法などを用いればよい。
【0031】
裏面に配される撥水加工紡績糸において、撥水剤の付着量は、紡績糸100質量%に対し、例えば、50~150質量%が挙げられる。50質量%未満であると、撥水性が発揮し難い場合があり、150質量%を超えると、紡績糸に樹脂等の汚れが付着し易くなる場合がある。
【0032】
本発明の難燃性編地は、速乾性に優れる観点から、拡散乾燥速度が55分以下であり、中でも52分以下であることが好ましく、50分以下であることがより好ましい。
拡散乾燥速度は速乾性の指標となるものであり、以下のような手法で測定される。
すなわち10cm×10cmの試験片の質量(W)を測定する。試験片の裏側に0.6mlの水を滴下し、重さ50gの荷重を付与する。この荷重を外し、質量(W0)を測定する。次いで、水を滴下した後の試験片に対し、標準状態(20℃、65%RH)において質量(Wt)を測定する。そして試験片を秤に載せたままで、質量(Wt)が、以下の算出式により求められる残留水分率(%)が10%に到達するまでの時間を計測し、この時間を拡散乾燥速度とする。
残留水分率(%)={(Wt-W)/(W0-W)}×100
【0033】
本発明の難燃性編地の組織としては、天竺組織、メッシュ組織、鹿の子組織等の組織を採用することができ、多層構造を有する編地であってもよい。特に本発明においては、表面の組織が天竺組織であり、且つ裏面の組織がメッシュ組織であるダブル丸編地であることが好ましい。表面の組織が天竺組織であることで、生地全体の強度を保持することができ、裏面の組織をメッシュ組織とすることで肌面への接触が点接触となる。これにより、通気性に優れるのはもちろんのこと、毛細管現象により水分の拡散性にいっそう優れるものとなり、ベタツキがいっそう抑制されるという効果が奏される。
【0034】
本発明の難燃性編地の編密度としては、特に限定されるものではないが、通気性または難燃性に優れる観点から、30~80コース/インチ、30~80ウェール/インチであることが好ましい。
【0035】
本発明の難燃性編地は、防虫加工が施されていることが好ましい。防虫加工を施す方法としては、公知の防虫剤を、公知の手法で難燃性編地に付与する手法などが挙げられる。
【0036】
防虫剤としては、例えば、N,N-ジエチル-3-メチルベンズアミド(DEET)などが挙げられる。防虫剤を編地に付与する手法としては、例えば、防虫剤をバインダー樹脂(例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂など)を用いて付着させる方法が挙げられる。
【0037】
本発明の難燃性編地は、上記したように、難燃性に優れるとともに保水性、水分拡散性に優れるために、衣服に用いられた場合に、肌へのベタツキまたは纏わりつきが抑制され、快適性に優れるものである。
【0038】
本発明の難燃性編地の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、陸上競技、野球、サッカーなどに用いる屋外スポーツ用ユニフォームや、腕カバー、パーカー、帽子、ブラウス、ワイシャツ、ズボン、スカート、Tシャツ、ポロシャツ、ワーキングウエア、トレーニングウエアなどの一般衣服などに好適である。
【実施例
【0039】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
なお、それぞれの物性の測定方法又は評価方法は以下の通りである。
【0040】
<混用率>
JIS L1030-1およびJIS L1030-2に従って測定した。
【0041】
<番手・密度>
JIS L1096 A法に従って測定した。
【0042】
<目付>
JIS L 1096 8.3に従って算出した。
<厚み>
JIS L1096 8.4 厚さ A法に従って測定した。
【0043】
<限界酸素指数>
JIS L1091 E法に従って測定した。
【0044】
<通気度(通気性)>
JIS L1096 A法 フラジール法に従って測定した。
【0045】
<拡散乾燥速度>
上記のような方法で測定した。
【0046】
<吸水性>
JIS L1091 バイレック法に従って測定した。
【0047】
<蒸発性自由水分量>
JIS L 1096の箇条6によって調整した試料から、図1に示すような試験片(202.5cm)を3枚採取し、質量(g)を量った。次に、20℃の水中に試験片を浸せきし、3時間以上吸水させた後、水中から引き揚げて10分後の質量(g)を量った。
【0048】
次いで、下記式により蒸発性自由水分量を求めた。なお、3枚の試験片の平均値を採用した。
蒸発性自由水分量(g/202.5cm)=W-W1
W:水中から引き上げて10分後の質量
W1:吸水前の質量
【0049】
<ベタツキ性(官能評価)>
編地を10cm角の正方形に裁断し、その重心の表面側のみに縫い針を用いて、糸[ポリエステルミシン糸(クラレ社製、クラレエステル「クラフテル20/4000m(商品名)」]を通した。すなわち、吸水性布帛の重心の裏面側には、ポリエステルミシン糸が通っていない状態とした。その後、縫い針からポリエステルミシン糸を外し、ポリエステルミシン糸の両端を結んで全長約10cmの輪を作った。この編地を前腕部の内側に載せ、3mlの水を編地中央部に付与した後、そのままの状態で1分間放置した。
その後、編地中央部におけるポリエステルミシン糸の輪を持ち、垂直方向に引き上げた。引き上げる際の貼り付き感を確認し、以下の基準でベタツキ性を評価した。
2:貼り付き感がない
1:少し貼り付き感がある
0:吸い付くような強い貼り付き感がある
なお、10人のパネラーの平均値を採用した。
【0050】
<実施例1>
難燃性ビニロン繊維(単糸繊度1.7dtex、繊維長38mm、ユニチカトレーディング社製、商品名「ミューロン」、LOI値32)と綿(単糸繊度1.5dtex、繊維長38mm)とを準備し、難燃性ビニロンを75質量%、綿を25質量%の割合で用い、公知の手法により紡績し、40番手の紡績糸Aを得た。
【0051】
次いで、紡績糸Aに下記条件で撥水加工を施し、撥水加工紡績糸Bを得た。
紡績糸Aを糸加工用のボビンに巻き、フッ素系撥水剤として日華化学社製、商品名「NKガードS-090」を50質量%、ウレタン系架橋剤として日華化学社製、商品名「NKアシストNY-50」を15質量%、浸透剤として明成化学工業社製、商品名「マイネックスSO」2質量%使用し、撥水液を作製した。この薬液に、紡績糸Aを糸加工用のボビンに巻いたものを含浸させ、乾燥させることで撥水加工紡績糸Bを得た。
【0052】
次に、上記紡績糸Aおよび撥水加工紡績糸Bを用いて、22Gの丸編機(福原精機社製、「LPJ-H型両面丸編機」)にて、表面に紡績糸Aを用いて天竺組織とし、裏面に撥水加工紡績糸Bを用いてメッシュ組織として、ダブル丸編地を得た。次に、上記のダブル丸編地を常法による精錬漂白シルケットを施した後、スレン染料を用いた染色を実施した。次いで、仕上げ剤としての日華化学社製 商品名「サンソフター GAconc. NEW 2%sol」を用いて浸漬し、ウェットピックアップ50%で絞り、熱処理、およびサンフォライズ処理を行って、仕上げ処理を行い、実施例1の難燃性編地(41コース/インチ、36ウェール/インチ)を得た。
【0053】
<実施例2>
実施例1において、表面および裏面の編組織を何れも天竺組織とし、41コース/インチ、36ウェール/インチのダブル丸編地とした以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2の難燃性編地を得た。
【0054】
<比較例1>
裏面および表面の何れにおいても紡績糸Aのみを用い、撥水加工紡績糸Bを用いなかった以外は実施例1と同様の方法にて比較例1の編地を得た。
【0055】
<比較例2>
裏面および表面の何れにおいても撥水加工紡績糸Bのみを用い、紡績糸Aを用いなかった以外は、実施例1と同様の方法にて比較例2の編地を得た。
【0056】
<比較例3>
表面および裏面の何れにおいても、綿の単繊維のみからなる40番手の紡績糸を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて比較例3の編地を得た。
【0057】
実施例および比較例の評価結果を、表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(考察)
実施例1および2で得られた本発明の難燃性編地は、難燃性、速乾性、吸水拡散性に優れ、肌面へのベタツキが軽減された、快適な編地であった。特に実施例1においては、表面を天竺組織とし、裏面をメッシュ組織としたために、両面が天竺組織からなる実施例2と比較すると、通気性にいっそう優れ、ベタツキもより軽減された難燃性編地が得られた。
【0060】
比較例1にて得られた編地においては、裏面において撥水加工された紡績糸を用いていないために、表面と裏面とにおける吸水性の差が発現しなかった。そのため、ベタツキを軽減することができなかった。
【0061】
比較例2にて得られた編地においては、表面および裏面の何れにおいても、撥水加工された紡績糸を用いたために、表面と裏面とにおける吸水性の差が発現しなかった。そのため、ベタツキを軽減することができなかった。
【0062】
比較例3にて得られた編地においては、難燃性合成繊維を用いなかったために、難燃性に劣るものであった。
図1