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特許7438520含ハロゲン重合体及びそれを含む繊維用難燃剤及び防炎繊維製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】含ハロゲン重合体及びそれを含む繊維用難燃剤及び防炎繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/263 20060101AFI20240219BHJP
   C08F 20/22 20060101ALI20240219BHJP
   C08F 20/38 20060101ALI20240219BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20240219BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
D06M15/263
C08F20/22
C08F20/38
C08F290/04
C08L33/16
C09K21/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019215894
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2020094201
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018226043
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】井口 鎮人
(72)【発明者】
【氏名】石川 章
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-100657(JP,A)
【文献】特開平04-085545(JP,A)
【文献】特開2013-177494(JP,A)
【文献】特開2007-191507(JP,A)
【文献】特開2014-193941(JP,A)
【文献】特開2008-189826(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0038044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C09K
C08L
D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化24】
〔式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Lは下記一般式(II)
【化25】
で示される基であり、
Yは下記一般式(V)
【化27】
(但し、式(V)中、Zはエーテル基(-O-)、カルボニル基(-COO-)又はイミノ基(-NH-)であり、Rはメチレン基又はエチレン基であり、Sは硫黄原子を表す。)で示される基であり、
hal は、n個(但し、nは2≦n≦20を満たす。)のハロゲン含有モノマー(Mhal)ユニットからなるハロゲン含有オリゴマーを示す。〕
で示されるハロゲン含有マクロモノマーをユニットとする繰り返し構造(A)を含むことを特徴とする含ハロゲン重合体を含む繊維用難燃剤
【請求項2】
ハロゲン含有モノマー(Mhal)が、一般式(VI)
【化28】
〔式(VI)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していても良い炭化水素基であり、(R-X)はRがr個のハロゲン原子Xで置換された基を示し、ハロゲン原子Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。mは0≦m≦20、rは1≦r≦10を満たす。〕で示される、請求項1に記載の繊維用難燃剤
【請求項3】
一般式(I)で示されるハロゲン含有マクロモノマーをモノマーユニットとする繰り返し構造(A)として含み、重合可能な不飽和二重結合を有し、かつ、ハロゲンを含まないモノマーをモノマーユニットとする繰り返し構造(B)として含む共重合体である、請求項1に記載の繊維用難燃剤
【請求項4】
ハロゲン含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(A)とハロゲン非含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(B)の合計100重量%中において、ハロゲン含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(A)の含有量が10~90重量%である、請求項3に記載の繊維用難燃剤
【請求項5】
重量平均分子量が1,000~1,000,000である、請求項1に記載の繊維用難燃剤
【請求項6】
水性媒体をさらに含み、性状が液状である、請求項1に記載の繊維用難燃剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の繊維用難燃剤で繊維類がコーティングされてなる防炎繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含ハロゲン重合体及びそれを含む難燃剤及防炎繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、繊維製品は、その一部のガラス繊維等の難燃性繊維を除き、自己消火性に乏しく、容易に燃焼するという特性を有することから、難燃化することが求められている。
【0003】
繊維製品の難燃化の方法としては、例えば原糸の製造段階又は繊維の後加工段階において防炎加工剤と接触させる方法が知られている。防炎加工剤としては、有機系材料ではハロゲン又はリンを含む化合物、無機系材料では水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリリン酸アンモニウム、三酸化アンチモン等の難燃剤ないしは難燃助剤を主成分として、水又は有機溶媒を含む水性媒体に溶解、分散又はエマルション化したものが使用される。
【0004】
防炎繊維製品には、難燃化の要求のほか、当該製品を繰り返し洗濯した後でも所望の防炎効果を維持できるという特性(洗濯耐久性)も要求される。上記の一般的なハロゲン又はリンを含む化合物のうち、低分子化合物については、繊維表面に単純に付着させたのみであった場合には、洗濯により完全に繊維表面から脱落してしまう。このため、付着後に熱を印加することにより繊維内部に浸透させる方法もあるが、洗濯耐久性の向上が見込めるほど定着させることができるものはあまりない。
【0005】
そこで、難燃剤を定着させるために、難燃剤の繊維への付着と同時に糊剤等の合成樹脂によるコーティングによって脱落を防止することも行われているものの、外観の変化、風合いの硬化等のように繊維製品が本来有している特徴が著しく阻害されてしまう。
【0006】
他にも、臭素化ポリスチレン、臭素エポキシオリゴマー・ポリマー、臭素化ポリカーボネート等の高分子系難燃剤を、繊維製品に付着させ、その後加熱融着させる方法もある。しかし、上記の高分子系難燃剤は高分子化することにより耐熱性が付与されているものが多く、それゆえに難燃剤を溶融定着させる温度が高すぎるため、熱に弱い繊維製品等が熱劣化してしまうという不具合もある。
【0007】
繊維製品に対して後加工によって防炎加工する際、難燃剤成分が繊維表面に均質に付着し、かつ、その難燃剤自身が繊維に対して密着性を有しており、比較的低い温度で溶融軟化して繊維に対して浸透定着されることにより、洗濯耐久性が得られるという難燃性高分子材料が求められており、さらにその防炎加工液が、比較的安定的に分散又は乳化による調製可能なものであるという設計がなされているものはない。
【0008】
一方、紙、木質材料、金属、ガラス、石材、樹脂等の基材を問わず、繊維製品に対する塗料、機能性コーティング剤、接着剤、及び粘着剤等の様々な分野で利用されているような、機能性高分子の設計を可能とする材料として、マクロモノマー系共重合体がある。
【0009】
マクロモノマーとは、重合可能な官能基を末端に持つ高分子量モノマーとして定義されている[Glossary of Basic Terms in Polymer Science (Recommendations 1995)”, Pure Appl. Chem., 68, 2287-2311 (1996). http://www.iupac.org/reports/1996/6812jenkins/index.html 日本語訳 “ 高分子科学の基本的術語の用語集”, 畑田耕一, 高分子, 47, 696-714(1998)]。マクロモノマーと他のモノマーと共重合することによって、物性の異なる重合体同士を分子構造中に容易に組み込むことができるため、特定の機能を有する高分子を調製することができる。
【0010】
難燃性樹脂組成物の分野においても、数多くのマクロモノマーを利用した難燃性高分子材料が提案されている。
【0011】
例えば、1)ポリスチレン系樹脂とポリ塩化ビニル系樹脂に相溶化剤として配合された、スチレン-メチルメタクリレート系マクロモノマーより重合されたグラフトポリマーを含む、加工性及び難燃性が改良されたポリスチレン系樹脂組成物(特許文献1)、2)縮合型マクロモノマーから共重合された、耐アルカリ性が改良されている変性ポリエステルを含んでなる難燃性ポリエステル組成物(特許文献2)、3)塩化ビニル及び芳香族系マクロモノマーと脂肪族ビニルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルから共重合された、難燃性、耐候性、耐溶剤溶解性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物(特許文献3)、ポリフェニレンエーテル系樹脂をポリスチレン系マクロモノマーで共重合した、加工性及び難燃性が改良されたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物(特許文献4)等が知られている。
【0012】
これらの難燃性樹脂組成物においては、樹脂基材自身の持つ不利な物理特性を補うため、改良された性能を有する高分子体、すなわちマクロモノマーから重合された共重合体をユニットとして組み込んだ樹脂組成物に改質することを目的としている。
【0013】
例えば、難燃性及び耐候性の高い塩化ビニル系樹脂に耐溶剤溶解性を付加するには、塩化ビニルモノマー(難燃性・耐候性)及びスチレン系マクロモノマー(耐溶剤溶解性)から共重合体を合成することにより塩化ビニル系樹脂を改質すれば良く、ポリフェニレンエーテル系樹脂(難燃性・耐熱性)に高度な加工性を付与するためには、ポリフェニレンエーテルオリゴマーに対してスチレン系マクロモノマー(加工性)で変性することにより、加工性が改良された変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を得ることが可能となる。
【0014】
しかしながら、いずれも樹脂基材を重合時に変性させて難燃性を有する改質された樹脂組成物を得る方法である。すなわち、非防炎繊維製品に対して高度な難燃性を有するマクロモノマーから誘導された重合体から調製された難燃剤組成物を後加工により防炎処理することによって洗濯耐久性に優れた防炎繊維製品を得るような方法については未だ提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開昭60-92344号公報
【文献】特開昭64-48822号公報
【文献】特開平2-263810号公報
【文献】特開2010-126578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明は、洗濯によって引き起こされる難燃性能の低下を効果的に抑制ないし防止できる繊維用難燃剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、重合性不飽和基を末端に有するハロゲン含有マクロモノマーを繰り返し単位とする重合体、又は該マクロモノマーと重合性不飽和基を有する非ハロゲン系モノマー等との共重合体である含ハロゲン重合体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、下記の含ハロゲン重合体及びそれを含む繊維用難燃剤及び防炎繊維製品に係る。
1. 下記一般式(I)
【化1】
〔式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Lは下記一般式(II)又は一般式(III)
【化2】
(但し、式(III)中、Rは下記一般式(IV)で示される基である。
【化3】
(但し、式(IV)中、pは0≦p≦20、qは1≦q≦20を満たす。))で示される基であり、
Yは下記一般式(V)
【化4】
(但し、式(V)中、Zはエーテル基(-O-)、カルボニル基(-COO-)又はイミノ基(-NH-)であり、Rはメチレン基又はエチレン基であり、Sは硫黄原子を表す。)で示される基であり、
hal は、n個(但し、nは2≦n≦20を満たす。)のハロゲン含有モノマー(Mhal)ユニットからなるハロゲン含有オリゴマーを示す。〕
で示されるハロゲン含有マクロモノマーをユニットとする繰り返し構造(A)を含むことを特徴とする含ハロゲン重合体。
2. ハロゲン含有モノマー(Mhal)が、一般式(VI)
【化5】
〔式(VI)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していても良い炭化水素基であり、(R-X)はRがr個のハロゲン原子Xで置換された基を示し、ハロゲン原子Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。mは0≦m≦20、rは1≦r≦10を満たす。〕で示される、前記項1に記載の含ハロゲン重合体。
3. 一般式(I)で示されるハロゲン含有マクロモノマーをモノマーユニットとする繰り返し構造(A)として含み、重合可能な不飽和二重結合を有し、かつ、ハロゲンを含まないモノマーをモノマーユニットとする繰り返し構造(B)として含む共重合体である、前記項1に記載の含ハロゲン重合体。
4. ハロゲン含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(A)とハロゲン非含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(B)の合計100重量%中において、ハロゲン含有モノマーユニットからなる繰り返し構造(A)の含有量が10~100重量%である、請求項3に記載の含ハロゲン共重合体。
5. 重量平均分子量が1,000~1,000,000である、前記項1に記載の含ハロゲン重合体。
6. 前記項1~5のいずれかに記載の含ハロゲン重合体を含む繊維用難燃剤。
7. 水性媒体をさらに含み、性状が液状である、前記項6に記載の繊維用難燃剤。
8. 前記項6又は7に記載の繊維用難燃剤で繊維類がコーティングされてなる防炎繊維製品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、洗濯によって引き起こされる難燃性能の低下を効果的に抑制ないし防止できる繊維用難燃剤を提供することができる。特に、本発明の繊維用難燃剤では、繊維製品に対して高度な難燃性が得られると同時に、優れた洗濯耐久性(特に水洗濯耐久性)を得ることもできる。その結果、比較的長期にわたって良好な難燃性を維持することができる。
【0020】
本発明の難燃剤によって、非防炎繊維製品に対して後加工によって比較的容易に防炎処理することが可能となる。従来の技術では、低分子の難燃剤を繊維製品に後加工することにより一時的に難燃性を付与できても、洗濯後は難燃剤の脱落によって防炎性能が低下してしまう。これに対し、本発明の繊維用難燃剤では、繊維製品に対して高度な難燃性を容易に付与させることが可能となり、重合体自体が難燃性、密着性及び柔軟性を具備しているゆえに、高度な難燃性と洗濯耐久性とを両立させた防炎繊維製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.含ハロゲン重合体
本発明の含ハロゲン重合体は、下記一般式(I)
【化6】
〔式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Lは下記一般式(II)又は一般式(III)
【化7】
(但し、式(III)中、Rは下記一般式(IV)で示される基である。
【化8】
(但し、式(IV)中、pは0≦p≦20、qは1≦q≦20を満たす。))で示される基であり、
Yは下記一般式(V)
【化9】
(但し、式(V)中、Zはエーテル基(-O-)、カルボニル基(-COO-)又はイミノ基(-NH-)であり、Rはメチレン基又はエチレン基であり、Sは硫黄原子を表す。)で示される基であり、
hal は、n個(但し、nは2≦n≦20を満たす。)のハロゲン含有モノマー(Mhal)ユニットからなるハロゲン含有オリゴマーを示す。〕
で示されるハロゲン含有マクロモノマーをモノマーユニットとする繰り返し構造(A)を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明では、一般式(I)のハロゲン含有マクロモノマーを(a-2)と表記し、ハロゲン含有モノマーMhalを(a-1)と表記する。
【0023】
また、本明細書中において、特にことわりのない限り、アクリレートとメタクリレートとを「(メタ)アクリレート」と総称する。アクリル酸とメタクリル酸とを「(メタ)アクリル酸」と総称する。アクリロイル基とメタクリロイル基とを「(メタ)アクリロイル基」と総称する。
【0024】
本発明の含ハロゲン重合体(本発明重合体)は、ハロゲン含有モノマー(a-1)を繰り返し単位とするハロゲン含有オリゴマーより合成されたハロゲン含有マクロモノマー(a-2)を中間体として、これより誘導された繰り返し構造(A)を必須の成分として含有する重合体である。
【0025】
本発明重合体は、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)からなるホモポリマーであっても良いし、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)と重合可能な不飽和二重結合を有し、かつ、ハロゲンを含まないモノマー(b)とハロゲン含有マクロモノマー(a-2)とのコポリマーであっても良い。
【0026】
本発明重合体は、一般式(I)で示されるハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の繰り返し構造(A)を必須成分として構成されているが、このハロゲン含有マクロモノマー(a-2)はハロゲン含有モノマー(a-1)からなるオリゴマーより構成されている。
【0027】
本発明重合体は、前記繰り返し構造(A)を必須成分としてとして構成された重合体であり、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)単体から誘導された単重合体(A)(ホモポリマー)のほか、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)からなる繰り返し構造(A)と、重合可能な不飽和二重結合を有し、かつ、ハロゲンを含まないモノマー(b)からなる繰り返し構造(B)とを含む共重合体であっても良い。
【0028】
この場合の重合可能な不飽和二重結合を有するハロゲンを含まないモノマー(b)とは、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の重合を阻害しないものであれば良く、含ハロゲン重合体はブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であっても良い。含ハロゲン重合体への親水性又は柔軟性の付与、有機溶媒溶解性又は基材への密着性を向上させることを目的として、様々なモノマーを選択することが可能である。使用できるモノマー(b)は1種でも良く、また2種以上を混合して使用しても良い。
【0029】
上記モノマー(b)の具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー、エチレンオキサイドを繰り返し単位として有するポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明における含ハロゲン重合体中の、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)から誘導された繰り返し構造(A)と重合可能な不飽和二重結合を有するハロゲンを含まないモノマー(b)から誘導された繰り返し構造(B)の割合は、特に限定されないが、例えば[マクロモノマー(a-2)から誘導された繰り返し構造(A)]/([マクロモノマー(a-2)から誘導された繰り返し構造(A)]+[モノマー(b)から誘導された繰り返し構造(B)])(重量比)=10/100~100/100であり、好ましくは20/100~90/100の範囲内で適宜設定することができる。含ハロゲン重合体中のハロゲン含有マクロモノマー(a-2)ユニット量が少なすぎる場合には、難燃性が低下するおそれがある。
【0031】
また、含ハロゲン重合体の重量平均分子量は、通常は1,000~1,000,000程度とすれば良く、特に3,000~500,000とすることが望ましい。この場合の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたスチレン換算分子量を示す。重量平均分子量が1000未満である場合には、ほとんど低分子化合物と同じ状態であると考えられることから十分な洗濯耐久性は得られない。また、重量平均分子量が1,000,000を超えると有機溶媒溶解性が極端に低下したり、重合体溶液の粘度が高すぎて取扱いが困難になるおそれがある。
【0032】
ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)は、例えばハロゲン含有モノマー(a-1)Mhalとともに活性水素含有メルカプタン等の連鎖移動剤(c)を共存させて、ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合させて活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーを得た後、これに続いて活性水素と反応する官能基を有する(メタ)アクロイルモノマー(d)を反応させることによって合成することが可能である。
【0033】
(1)ハロゲン含有モノマー(a-1)
ハロゲン含有モノマー(Mhal)は、重合性の不飽和基を有するものであれば限定されないが、特に下記一般式(VI)
【化10】
〔式(VI)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していても良い炭化水素基であり、(R-X)はRがr個のハロゲン原子Xで置換された基を示し、ハロゲン原子Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を示す。mは0≦m≦20、rは1≦r≦10を満たす。〕で示されるものを好適に用いることができる。
【0034】
上記式(VI)におけるRは、置換基を有していて良い炭化水素基を示し、鎖状(直鎖及び分岐鎖のいずれでも良い。)及び環状(単環、縮合多環、架橋環及びスピロ環のいずれでも良い。)のいずれであっても良い。従って、例えば、側鎖を有する環状炭化水素基も採用することができる。また、炭化水素基は、飽和又は不飽和のいずれでも良い。
【0035】
炭化水素基としては、特に限定されないが、例えばアルキル基、アリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、水酸基等の置換基を有していても良い。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基又は水酸基を有していても良い。アルキルアリール基としては、アルキルアリール基中のアリール基は前記アリール基と同様、アルキルアリール基中のアルキル基も前記アルキル基と同様である。炭化水素基としては特に限定されないが、例えばフェニル基又は炭素数1~10の直鎖状アルキル基が好ましい。
【0036】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、へキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であっても良いし、あるいは分岐状であっても良い。本発明では、アルキル基の炭素数としては、限定的ではないが、通常1~20程度が好ましく、特に2~6がより好ましい。
【0037】
上記アリール基としては、置換基を有していても良い環状(単環、縮合多環、架橋環及びスピロ環)基のいずれであっても良い。例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基等の単環式、二環式又は三環式のアリール基、及びプロピルジフェニル基等のアルキルアリール基が挙げられる。本発明のRとしては、炭素数6~18のアリール基が好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0038】
上記アルキルアリール基としては、置換基を有していても良いアリール基に直鎖状又は分岐状の炭素数1~4のアルキル基が置換されたものが好適であり、例えばベンジル基が挙げられる。
【0039】
上記の炭化水素基Rの置換基としては、ハロゲン原子が挙げられるが、それ以外の置換基も有していても良い。例えば、アミノ基、アミド基、ニトロ基等の窒素系置換基、スルホン酸基等の硫黄系置換基、カルボキシル基、アルコキシ基等の炭素系置換基等が挙げられる。また、上記Rの好ましい炭素数は1~20であるが、前記炭素数は置換基を有する場合は置換基も含めた炭素数である。
【0040】
上記式(VI)におけるXは、ハロゲン原子を示し、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であるが、特に塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
【0041】
上記の炭化水素基Rに置換するハロゲン原子の数は、Rの炭素数にもよるが、通常は1~10個程度とすれば良い。また、複数のハロゲン原子で置換されている場合、互いに同種のハロゲン原子から構成されていても良いし、互いに異種のハロゲン原子から構成されていても良い。
【0042】
一般式(VI)で示されるハロゲン含有モノマー(Mhal)は、単独で使用しても良く、また異なる2種以上を混合して使用しても良い。ハロゲン含有モノマー(Mhal)の具体例としては、下記の化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化11】
【0043】
(2)ハロゲン含有オリゴマー(Mhal
ハロゲン含有オリゴマー(Mhal )は、1種のハロゲン含有モノマーが重合したものでも良いし、2種以上のハロゲン含有モノマーが重合したものでも良い。2種以上のハロゲン含有モノマーモノマーから誘導される繰り返し構造として、ブロック重合体であっても良いし、ランダム重合体であって良く、必ずしも繰り返し構造が後記の化合物のように配置していなくても良い。
【0044】
ハロゲン含有オリゴマーMhal の重合度n(ハロゲン含有モノマー(a-1)の繰り返し構造)は、ダイマー又はそれよりも大きければ特に限定されないが、通常はn=2~20(より好ましくはn=2~10)程度とすれば良い。nが20を超える場合、ハロゲンの置換数にもよるが、汎用有機溶媒に溶解しなくなることから、以降に続くハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の合成に支障を来す場合がある。
【0045】
ハロゲン含有モノマー(a-1)から誘導されるハロゲン含有オリゴマー(Mhal )の具体例は、例えば上記化合物(1)及び化合物(13)の場合、それぞれ下記化合物(18)及び化合物(19)のようになる。
【化12】
(但し、化合物(18)中、nは2~20の数を示す。)
【化13】
(但し、化合物(19)中、nは2~20の数を示す。)
【0046】
(3)ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)
ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)は、一般式(I)で示されるモノマーである。以下においては、一般式(I)の内容について説明する。
【0047】
式(I)中におけるRは、水素原子又はメチル基である。
【0048】
また、上記Lは、下記一般式(II)又は一般式(III)
【化14】
(但し、式(III)中、Rは、下記一般式(IV)
【化15】
(但し、式(IV)中、pは0≦p≦20、qは1≦q≦20を満たす。))で示される基である。
【0049】
上記pは、0≦p≦10であることが好ましい。また、上記qは、1≦q≦6であることが好ましい。
【0050】
上記Yは、下記一般式(V)
【化16】
(但し、式(V)中、Zはエーテル基(-O-)、カルボニル基(-COO-)又はイミノ基(-NH-)であり、Rはメチレン基又はエチレン基であり、Sは硫黄原子を表す。)で示される基である。上記ZとRとの組合せは、特に限定されないが、例えばZがエーテル基又はカルボニル基であり、Rがメチレン基又はエチレン基である組合せを好適に採用することができる。
【0051】
hal は、前記「(2)ハロゲン含有オリゴマー(Mhal )」で示したハロゲン含有オリゴマーを示す。
【0052】
ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の具体例として、例えば次の化合物を挙げることができる。
【化17】
(但し、化合物(31)は、ハロゲン含有モノマー(a-1)として化合物(1)を、連鎖移動剤(c)として化合物(20)を、活性水素反応性(メタ)アクリロイルモノマー(d)として化合物(28)を原料として用いて合成されるものであり、nは2~20の数を示す。)
【化18】
(但し、化合物(32)は、ハロゲン含有モノマー(a-1)として化合物(13)を、連鎖移動剤(c)として化合物(23)を、活性水素反応性(メタ)アクリロイルモノマー(d)として化合物(29)を原料として用いて合成されるものであり、nは2~20の数を示す。)
【0053】
上記の化合物(31)及び化合物(32)の場合、一般式(I)から一般式(VI)に当てはめた場合には、次の表1のように示すことができる。
【0054】
【表1】
【0055】
2.本発明重合体の製造
本発明重合体は、例えば(1)ハロゲン含有モノマー(a-1)を含む出発材料からハロゲン含有マクロモノマー(a-2)を得る工程(A工程)、(2)得られたハロゲン含有マクロモノマーを含む出発材料から含ハロゲン重合体を得る工程(B工程)を含む製造方法によって得ることができる。すなわち、かかる製造方法によって、本発明難燃剤の有効成分(難燃成分)を好適に調製することができる。
【0056】
(1)A工程(ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の製造)
ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)は、例えば(A1)ハロゲン含有モノマー(a-1)及び活性水素を含有する連鎖移動剤(c)をラジカル重合さることにより活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーを得る工程(A1工程)、(B)前記オリゴマーと、活性水素と反応する官能基を有する(メタ)アクリロイルモノマー(d)とを反応させる工程(A2工程)を含む方法によって得ることができる。
【0057】
A1工程
A1工程では、ハロゲン含有モノマー(a-1)及び活性水素含有連鎖移動剤(c)より、活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーの得るため、塊状重合、溶液重合、乳化重合等の各種の重合法を用いることができる。この中でも、重合後のマクロモノマー化させる反応を考慮した場合、有機溶媒を用いた溶液重合法が最も好ましい。
【0058】
溶液重合法によって、下記のような公知の方法を用いて活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーをより確実に合成することが可能である。例えば、ハロゲン含有モノマー(a-1)及び活性水素含有連鎖移動剤(c)を有機溶媒に投入し、重合開始剤の共存下で窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換しつつ、加熱しながら溶液を攪拌することによって反応性ハロゲン含有オリゴマーを得ることができる。
【0059】
反応条件は、例えば使用する反応溶媒等にもよるが、通常は40~120℃程度の温度下で1~10時間程度攪拌を続けることにより、活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーを得ることができる。
【0060】
活性水素含有連鎖移動剤(c)は、公知又は市販のアルキレンチオール系連鎖移動剤又はアリールチオール系連鎖移動剤を用いることができるが、特に活性水素含有メルカプタンを好ましく使用できる。
【0061】
活性水素含有メルカプタンにおける活性水素を含有する反応性官能基の例として、水酸基、カルボン酸基、アミノ基等が挙げられる。より具体的には、下記にも示すとおり、例えば2-メルカプトエタノール(20)、2-メルカプトブタノール(21)、2-メルカプト酢酸(22)、3-メルカプトプロピオン酸(23)、4-メルカプトフェノール(24)、4-メルカプト安息香酸(25)、4-アミノチオフェノール(26)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化19】
【0062】
重合時の活性水素含有連鎖移動剤の投入量は、特に制限されないが、ハロゲン含有モノマー(a-1)1当量に対して0.01~0.5当量程度とすることが好ましく、特に0.1~0.3当量とすることがより好ましい。
【0063】
有機溶媒としては、活性水素を有していない有機溶媒であれば、一般的な有機溶媒を用いることができる。例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶媒、n-ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系有機溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒等、ハロゲン含有モノマーを溶解させうる多くの有機溶媒のうち1つ以上の溶媒を組み合わせて反応に使用することができる。
【0064】
有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、通常はハロゲン含有モノマー100重量部に対して100~5000重量部の範囲で用いることができる。
【0065】
重合開始剤としては、公知又は市販のラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等を使用することができる。
【0066】
重合開始剤の使用量は、限定的ではないが、通常はハロゲン含有モノマー100重量部に対して0.01~5重量部の範囲で好適に用いることができる。
【0067】
A2工程
A2工程では、活性水素を有する反応性ハロゲン含有オリゴマーと、活性水素と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリロイルモノマー(d)とを反応させることによって、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)を得ることができる。
【0068】
上記の(メタ)アクロイルモノマー(d)としては、下記の示すように、グリシジル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が好適に用いられるが、これに限定されるものではない。
【化20】
【0069】
反応方法としては、前記の反応性ハロゲン含有オリゴマーの合成条件と同様、例えば反応性ハロゲン含有オリゴマーに対してほぼ同当量(例えば0.8~1.2倍当量)の(メタ)アクリロイルモノマー(d)を有機溶媒に投入し、必要なら反応触媒共存下で加熱しながら溶液を攪拌することによってハロゲン含有マクロモノマーが得られる。この時の反応触媒としては、公知のものが使用することができ、例えばアルキルアミン類等の有機アミン系触媒、4級アンモニウム塩等が好適である。
【0070】
上記反応においては、マクロモノマーの合成中に起こりうる予期しない重合を抑制するため、重合禁止剤の共存下で反応を行うことが好ましい。重合禁止剤としては、公知又は市販のものを使用すれば良い。例えば、ハイドロキノン、1,4-ベンソキノン、4-メトキシフェノール、t-ブチルハイドロキノン、6-t-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-クレゾール、4-t-ブチルピロカテコール、フェノチアジン等が挙げられ、必要に応じてエアレーション(空気/酸素バブリング)下で反応を行っても良い。
【0071】
反応条件は、使用する反応溶媒等にもよるが、通常は室温(例えば15℃)~120℃程度の温度下で1~10時間程度攪拌を続けることによりハロゲン含有マクロモノマー(a-2)を効果的に得ることができる。
【0072】
(2)B工程(含ハロゲン重合体の製造)
本発明重合体の製造方法は、特に限定されることはないが、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合等の公知の重合方法を採用することができる。この中でも、含ハロゲン重合体もハロゲン含有オリゴマーの重合方法と同様に、溶液重合が好適に用いられる。
【0073】
具体的な重合方法については、ハロゲン含有オリゴマーと同様に、ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)と、必要に応じて重合可能な不飽和二重結合を有するハロゲンを含まないモノマー(b)を有機溶媒に投入し、重合開始剤の共存下で窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換しつつ、加熱しながら溶液を攪拌することによって含ハロゲン重合体が得られる。
【0074】
使用される有機溶媒、重合開始剤等については、前記「(1)A工程(ハロゲン含有マクロモノマー(a-2)の製造)」で示したものと同様のものを使用できる。従って、例えばエステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、炭化水素系有機溶媒等の汎用有機溶媒中で、重合開始剤として例えばアゾ化合物、過酸化物等を使用して重合することができる。
【0075】
有機溶媒としては、特に限定されず、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶媒、n-ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系有機溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒等、ハロゲン含有モノマー溶解させうる多くの有機溶媒のうち1種又は2種以上の溶媒を組み合わせて反応に使用することができる。
【0076】
有機溶媒の使用量は、用いる出発材料の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常はハロゲン含有マクロモノマー(a-2)及びモノマー(b)の合計量100重量部に対して100~5000重量部程度の範囲で使用すれば良い。
【0077】
重合開始剤としては、公知又は市販のラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等を使用することができる。
【0078】
重合開始剤の使用量は、限定的ではないが、一般的にはハロゲン含有マクロモノマー(a-2)及びモノマー(b)の合計量100重量部に対して0.01~5重量部程度の範囲で好適に用いることができる。
【0079】
また、含ハロゲン重合体の分子量を制御するために、前記の活性水素含有連鎖移動剤(c)を使用することもできる。活性水素含有連鎖移動剤としては、公知又は市販のアルキレンチオール系連鎖移動剤又はアリールチオール系連鎖移動剤を用いることができる。具体例としては、2-メルカプトエタノール、2-メルカプトブタノール、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプトフェノール、4-メルカプト安息香酸、4-アミノチオフェノール等が挙げられる。
【0080】
重合時の活性水素含有連鎖移動剤の投入量は、特に制限されないが、通常はハロゲン含有マクロモノマー(a-2)及びモノマー(b)の合計量100重量部に対して0.01~3重量部程度の範囲で好適に用いることができる。
【0081】
反応条件は、使用する反応溶媒等にもよるが、反応容器内を窒素又はアルゴンガス等の不活性ガスで十分置換した後、通常40~120℃の温度下で1~10時間程度攪拌を続けることにより、含ハロゲン重合体をより確実に得ることができる。
【0082】
3.繊維用難燃剤
本発明は、本発明重合体を含む繊維用難燃剤(本発明難燃剤)を包含する。本発明難燃剤は、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて副成分が含まれていても良い。
【0083】
例えば、本発明重合体以外の難燃剤又は難燃助剤(以下、両者を包括して「難燃助剤」と称する。)を副成分として好適に用いることができる。このような難燃助剤としては、含ハロゲン重合体以外のハロゲン含有化合物、リン含有化合物、窒素含有化合物、硫黄含有化合物、ケイ素含有化合物、無機金属系化合物等を本発明の含ハロゲン重合体の持つ難燃機能を妨げない範囲内で適宜配合することができる。本発明では、これらの難燃助剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
前記ハロゲン含有化合物としては、例えばテトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのビスジブロモプロピルエーテル、テトラブロモビスフェノールA・エポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールA・カーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールS・ビスジブロモプロピルエーテル等のビスフェノール類の4臭素置換体の誘導体化合物、デカブロモジフェニルエタン等の芳香族多臭素置換体化合物、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、デカブロモジフェニルエタン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0085】
上記リン含有化合物としては、例えば赤リン、リン酸、亜リン酸等の非縮合又は縮合リン酸とアミン塩、又は金属塩、リン酸ホウ素のような無機リン含有化合物、リン酸オルトリン酸エステル又はその縮合物、リン酸エステルアミド、上記以外のホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステルのようなリン含有エステル化合物、トリアジン又はトリアゾール系化合物、又はその塩[金属塩、(ポリ)リン酸塩、硫酸塩]、尿素化合物、(ポリ)リン酸アミド、ヒンダードアミン(HALS,特にNOR型HALS等)含有化合物のような窒素含有化合物、有機スルホン酸[アルカンスルホン酸、パーフルオロアルカンスルホン酸、アレーンスルホン酸]又はその金属塩、スルホン化ポリマー、有機スルホン酸アミド又はその塩[アンモニウム塩、金属塩]のような硫黄含有化合物、(ポリ)オルガノシロキサンを含む樹脂・エラストマー・オイル等のシリコーン系化合物、ゼオライト等のようなシリコン含有化合物、アンチモン酸塩類、ホウ酸塩等の無機酸の金属塩、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のような金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等のような金属水酸化物、金属硫化物等のような無機金属系化合物が挙げられる。
【0086】
難燃助剤の含有量は、特に限定されないが、例えば本発明重合体/難燃助剤(重量比)=1/100~100/1程度とし、好ましくは10/100~100/10の範囲内で適宜設定することができる。
【0087】
本発明難燃剤の性状は、特に限定されず、使用形態・目的、用途、使用対象等に応じて適宜変更することができる。また、公知又は市販の防炎加工剤と同様の形態を採用することもできる。従って、例えば溶液、分散液、エマルション、エアゾール等の形態を好適に採用することができる。すなわち、含ハロゲン重合体は、例えば繊維製品の種類、形状等に応じて、水、有機溶媒等に溶解ないし分散させることができる。溶解又は分散する際の含ハロゲン重合体の濃度(固形分)は、限定的ではないが、通常は1~50重量%の範囲で好適に調製されるが、これに限定されない。
【0088】
本発明難燃剤(特に本発明重合体)が有機溶媒に溶解した溶液の場合には、単に含ハロゲン重合体を有機溶媒中で攪拌溶解すれば良いが、水性媒体による分散液又はエマルションの場合には、必要に応じて分散剤、乳化剤等を添加することにより、分散・乳化性を高めることが望ましい。分散剤又は乳化剤としては、分散・乳化性を高めることができるものであれば特に限定されず、種々の分散剤又は乳化剤を使用できる。
【0089】
この場合の水性媒体は、1)水単独又は2)水と有機溶媒とを含む混合溶媒を使用することができる。
【0090】
有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の水に極めて良く溶解する極性有機溶媒のほか、トルエン、キシレン、ミネラルターペン等の水と乳化可能な石油系溶媒等も挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。
【0091】
混合溶媒を用いる場合、有機溶媒の含有量は、特に限定されず、その有機溶媒の種類、分散又は乳化の程度等を考慮して適宜設定できるが、通常1~50重量%とし、好ましくは3~30重量%の範囲で好適に用いられる。
【0092】
また、上記の分散剤又は乳化剤としては、限定的ではなく、公知又は市販の界面活性剤等を用いることができる。特に、本発明では、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤の少なくとも1種が好適である。
【0093】
アニオン界面活性剤としては、例えば高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン天然油脂アルキルエーテル、ポリオキシアルキレン高級アルコールアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、多価アルコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0094】
界面活性剤の添加量は、特に限定されず、例えば界面活性剤の種類、分散又は乳化の程度等を考慮して適宜設定できるが、分散媒(乳化媒)が水性媒体の場合には、通常0.1~30重量%程度とし、好ましくは0.3~20重量%程度とすれば良い。
【0095】
また、必要に応じて分散安定化剤又は乳化安定化剤も使用できる。分散安定化剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、デンプン糊等が挙げられる。乳化安定化剤としては、例えばひまし油、菜種油等のトリグリセライド;リン酸エステル、フタル酸エステル等のエステル類;高級アルコール等が挙げられる。
【0096】
これらの安定化剤の添加量は、特に限定されず、例えば安定化剤の種類、分散又は乳化の程度等を考慮して適宜設定できるが、分散媒(乳化媒)が水性媒体の場合には、通常は0.1~10重量%程度とし、好ましくは0.3~3重量%程度である。
【0097】
その他の添加剤としては、公知又は市販の防炎加工剤に使用されている添加剤が使用できる。例えば、糊剤、着色剤、柔軟剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、浸透剤、保湿剤、消臭加工剤、帯電防止剤、防汚剤等が挙げられる。これらの添加量は、防炎加工の種類等に応じて適宜設定できる。
【0098】
本発明難燃剤は、上記した界面活性剤(アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤の少なくとも1種)と分散又は乳化安定化剤との両方を含むことが好ましい。例えば、防炎加工剤の好適な組成としては、分散媒(乳化媒)が水性媒体の場合に、含ハロゲン重合体1~50重量%程度とし、好ましくは5~50重量%程度とし;界面活性剤0.1~30重量%程度とし、好ましくは0.3~20重量%程度とし;分散又は乳化安定化剤0.1~10重量%程度とし、好ましくは0.3~3重量%程度とする組成が挙げられる。
【0099】
また、本発明難燃剤は、例えば所定の各成分を混合した後、例えばホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等の乳化装置、ボールミル、ビーズミル等の分散装置等を用いて微粒化することにより調製できる。
【0100】
微粒化条件は、特に限定的ではないが、得られる分散液又はエマルションにおいて、分散微粒子(含ハロゲン重合体等を含む微粒子)の平均粒子径が10μm以下となるようにすれば良く、特に0.1~5μmとなるように設定することが好ましい。
【0101】
4.防炎繊維製品
本発明は、繊維用難燃剤(以下「防炎加工剤」ともいう。)で繊維類がコーティングされてなる防炎繊維製品を包含する。すなわち、本発明の防炎加工剤は、防炎繊維製品の製造に好適に適用できる。とりわけ、後加工により繊維類に防炎性又は難燃性を付与するための難燃剤として有効である。
【0102】
繊維類は、特に限定されず、天然繊維、合成繊維及びこれらの複合繊維のいずれにも適用することができる。具体的には、天然繊維としては、例えば綿、麻、絹、羊毛等が挙げられる。合成繊維としては、例えばレーヨン、アセテート、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリプロピレン、セルロース等が挙げられる。無機繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。また、これら繊維の混合繊維も適用することができる。
【0103】
さらに、繊維類は、単繊維(短繊維又は長繊維)のほか、織物又は不織布の形態であっても良い。従って、既製の織物又は不織布あるいはこれらを用いた繊維製品(衣服、家具、自動車部品、日用品等)にも本発明の防炎加工剤を適用することができる。
【0104】
防炎加工は、繊維類に含ハロゲン重合体を定着させる方法により実施することができる。そのため、本発明の防炎繊維製品の製造方法は、繊維類に防炎加工剤を接触させる工程を含む。
【0105】
本発明の防炎繊維製品の製造方法(特に定着方法)は、繊維類に防炎加工剤を接触させることができる限り(特に繊維類を構成する繊維表面に本発明難燃剤をコーティングできる限り)いずれの方法でも良い。従って、例えば浸漬法、コーティング法、スプレー法、刷毛塗法を用いて、少なくとも生地の片面表面全体に生地の単位面積当たりの平均重量の固形分で約1~50重量%に相当する防炎加工剤を付着させ、さらに必要に応じて加熱処理により内部に浸透させるためにキュアリング処理を行うこともできる。
【0106】
具体的には、繊維類に防炎加工剤を接触させた後、繊維類を120℃以下の範囲内で乾燥させた後、繊維類を140~180℃程度で熱処理する。繊維類に防炎加工剤を接触させる方法は特に限定されず、上記のように、繊維類を防炎加工剤に浸漬する方法、繊維類に防炎加工剤を噴霧又は塗布する方法等が挙げられる。接触させる時間は、特に限定されず、用いる繊維類の種類、難燃性の程度等に応じて適宜設定できる。
【0107】
乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥又は加熱乾燥が採用できる。加熱乾燥の場合の乾燥温度は、特に60~120℃程度とすることが好ましい。また、乾燥時間は、特に10秒~30分程度とすることが好ましい。
【0108】
また、必要に応じて、乾燥後に繊維類を通常140~180℃(好ましくは140~160℃)程度で熱キュアリング処理しても良い。この処理により、含ハロゲン重合体を繊維類の内部及び表面により確実に定着させることができる。処理方法としては、特に限定されず、例えば繊維類(生地)を運ぶロールを上記温度に加熱する方法、上記温度に設定された雰囲気炉を通過させる方法等により実施することができる。処理時間は、例えば熱処理温度、防炎加工剤の定着程度等に応じて適宜設定できるが、通常は30秒~5分程度とし、好ましくは1分~2分程度とすれば良い。
【0109】
防炎加工剤に含まれる含ハロゲン重合体(含ハロゲン重合体微粒子又は同時に添加している難燃剤又は難燃助剤の微粒子)は、その平均粒子径が0.1~10μmと十分小さい場合には、熱キュアリング処理により含ハロゲン重合体は繊維類表面の組織全体に拡散・定着しやすく、高品質な防炎繊維製品繊維を製造することができる。このため、上記の微粒子は、平均粒子径を上記範囲内とすることが好ましく、特に0.1~5μmとすることがより好ましい。
【0110】
本発明の防炎繊維製品は、特に一般式(I)で表される含ハロゲン系マクロモノマーをユニットとした含ハロゲン重合体を難燃成分として含む難燃剤を定着させることを特徴としたものであり、それ自体が非常に燃え難い性質を有しているために、繊維の延焼を防止することができる。また、上記含ハロゲン重合体は、低分子化合物のように洗濯により脱落することがないために洗濯耐久性が高く、例えば水洗、ドライクリーニング等の洗濯に起因する難燃性の低下が効果的に抑制されている。とりわけ、水、エタノール等の極性溶媒を用いる洗濯に対して優れた効果を発揮することができる。
【0111】
さらに、難燃性繊維から作られた布帛又は織編物から限定的に製造された防炎繊維製品とは異なり、防炎加工されていない汎用繊維製品に対して、後加工による防炎処理にて難燃性が付与できることから、繊維製品が本来有する性能を大きく損ねることがないとともに、防炎繊維製品の大量生産にも適している。
【実施例
【0112】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
<1.化合物の合成>
下記の合成例により、ハロゲン含有モノマーよりハロゲン含有マクロモノマーを調製し、さらにこれを重合し含ハロゲン重合体を調製した。なお、合成したハロゲン含有マクロモノマーと含ハロゲン重合体は、次の方法により分子量測定を行った。
(1)反応進行の追跡:GC
水素炎イオン化検出器(FID)付ガスクロマトグラフィー(GC-2010:(株)島津製作所製)にて反応の進行状況をモニターした。
(2)分子量の測定:GPC
重量平均分子量の測定を、示差屈折率(RID)検出器付ゲル浸透クロマトグラフィー(GPCアライアンスシステム:ウォーターズ社製)にて、ポリスチレン換算値より求めた。なお、上記GPCにおいては、カラムとして製品名「Styragel(登録商標)HR1(カラム長:4.6×300mm)」WATERS製を用いた。
(3)化学構造の同定:H-NMR, 13C-NMR
300MHz核磁気共鳴分析装置(JNM-AL300:日本電子(株)製)による水素核磁気共鳴(H-NMR)、炭素核磁気共鳴(13C-NMR)にて、各々の生成化合物の構造同定を行った。
(4)ハロゲン含有オリゴマーの同定:(MALDI-TOFMS)マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI‐TOFMS AXIMA Confidence:(株)島津製作所製)にて、ハロゲン含有オリゴマーの同定及び絶対平均分子量測定を行った。
【0114】
<1-1.ハロゲン含有マクロモノマーの合成>
合成例1
温度計、窒素導入管、及び塩化カルシウム管を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、2-ブロモエタノール[東京化成工業(株)]20.0g(160mmol)、トリエチルアミン[キシダ化学(株)]19.43g(192mmol)、及びトルエン150gを加えたのち窒素を導入しながら撹拌を開始し、冷却を行った。液温が10℃以下になり、十分に窒素置換が済んだところで、アクリロイルクロリド[東京化成工業(株)]17.38g(192mmol)を10℃未満に保ちながら1時間かけてゆっくり滴下した。室温で1時間撹拌しながら反応熟成した後、水、1%リン酸水溶液、及び1%炭酸水素ナトリウムで十分に洗浄し、さらに飽和食塩水洗浄及び少量の無水硫酸マグネシウムで乾燥した。反応液をろ紙(東洋濾紙(株)NO.2)でろ過後、減圧化でエバポレーションすることで濃縮し、淡黄色液体22.9g(収率80%)の化合物を得た。
H-NMR及び13C-NMRを測定したところ、得られた化合物は下記の化合物(9)の2-ジブロモエチルアクリレートであることがわかった。
【化21】
【0115】
H-NMR(300MHz,CDCl ;内部標準 TMSδppm
6.47(dd,J=17.4,1.5Hz,1H),6.15(dd,J=17.4,10.2Hz,1H),5.89(dd,J=10.2Hz,1H),4.47(t,J=6.3Hz,2H)3.55(t,J=6.3Hz,2H)
13 C-NMR(300MHz,CDCl ;内部標準 TMSδppm
165.5, 131.6, 127.8, 63.8, 28.5ppm
【0116】
合成例2
温度計、窒素導入管、及びジムロート冷却管を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、先に得られた2-ブロモエチルアクリレート[化合物(9)]10.0g(52mmol)、3-メルカプトプロピオン酸[東京化成工業(株)、化合物(23)]1.06g(10mmol)、及び酢酸エチル200gを加えてから窒素を導入しながら撹拌を開始し、十分に窒素置換が済んだところで2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)[和光純薬工業(株)]0.1gを投入した後、80℃で8時間加熱還流を行った。GCにて2-ブロモエチルアクリレート及び3-メルカプトプロピオン酸の消失を確認した後、反応液を室温まで冷却した。こうして得られた反応液より生成物を取り出し、MALDI-TOFMSにてハロゲン含有オリゴマーの同定を行ったところ、800~1,600の分子量分布をもつ2-ブロモエチルアクリレートオリゴマー(ピークトップ:1023)の生成を確認した。
MALDI-TOFMS:m/z[M+Na];844,1023,1200,1379,1558
反応液に4-メトキシフェノール[精工化学(株)]0.02g及びテトラメチルアンモニウムクロリド[東京化成工業(株)]0.1gを投入し、脱水された空気をバブリングしながら空気置換を行いつつ、60℃になるまで撹拌しながら穏やかに加熱した。反応液に60℃になったところで、グリシジルメタクリレート[共栄社化学(株)「ライトエステルG」]1.42g(10mmol)を徐々に加えて、6時間反応を続けた。GCにてグリシジルメタクリレートの消失が確認されたら反応液を室温まで冷却し、水及び飽和食塩水にて十分洗浄した後、少量の無水硫酸マグネシウムで乾燥した。反応液をろ紙(東洋濾紙(株)NO.2)で濾過後、減圧下でエバポレーションすることにより反応液を濃縮し、さらに真空乾燥することによって、無色粘稠状化合物(33)10.2gを得た。
得られた化合物のGPCを測定したところ、下記の化合物(33)の重量平均分子量は約1,200(ポリスチレン換算値)であったことから、このマクロモノマーの平均重合度はおよそ5.3であった。また、MALDI-TOFMSにてマクロモノマーの同定を行ったところ、2-ブロモエチルアクリレートオリゴマーのピークが消失し、800~1,200の分子量分布をもつ2-ブロモエチルアクリレートマクロマー(ピークトップ:965)の生成を確認した。
MALDI-TOFMS:m/z[M+H];786,965,1144
【化22】
【0117】
合成例3
2-ブロモエチルアクリレートを2,4,6-トリブロモフェニルアクリレート[東京化成工業(株)、化合物(14)]20.0g(52mmol)に、有機溶媒を酢酸エチルからメチルイソブチルケトンに変更した以外は、合成例1と同様に反応を行い、白色粉体状の化合物(34)20.8gを得た。
得られた化合物のGPCを測定したところ、下記の化合物(34)の重量平均分子量は約2,000(ポリスチレン換算値)であったことから、このマクロモノマーの平均重合度はおよそ5.1であった。
【化23】
【0118】
<1-2.含ハロゲン重合体の合成>
合成例4
温度計、窒素導入管、及びジムロート冷却管を備えた撹拌装置付4ツ口フラスコに、合成例1で得られた化合物(33)5.0g、2-エチルヘキシルメタクリレート[共栄社化学(株)「ライトエステルEH」]3.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート[共栄社化学(株)「ライトエステルHO-250」]2.0g及びメチルイソブチルケトン50gを加えた後、窒素でバブリングしながら撹拌を1時間行うことにより、反応系内を完全に窒素で置換した。
反応液を80℃まで穏やかに昇温した後、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)[和光純薬工業(株)]0.1gを投入し、10時間重合を続けた。反応終了後室温まで冷却し、減圧下でエバポレーションすることにより反応液を濃縮し、さらに真空乾燥することによって、無色粘稠状の化合物(35)10.5gを得た。この含ハロゲン重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量は11,000(ポリスチレン換算値)であった。
【0119】
合成例5
化合物(33)を化合物(34)に、メチルイソブチルケトンをクロロホルムに変更した以外は合成例3と同様に65℃で反応を行い、無色粘稠状の化合物(36)10.8gを得た。この含ハロゲン重合体の分子量をGPCで測定したところ、重量平均分子量は9,000(ポリスチレン換算値)であった。
【0120】
<2.防炎加工液の調製>
前記の各合成例で得られた含ハロゲン重合体を用いて下記のように防炎加工液を調製した。
【0121】
実施例1
水45重量部入れた撹拌機付きの容器に、アニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩4重量部、ノニオン界面活性剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル1重量部及びポリエチレングリコール(PEG-400)2重量部を投入した後、十分に撹拌を行った。有機溶媒としてメチルイソブチルケトン30重量部に予め溶解させた合成例4で得られた含ハロゲン重合体20重量部の溶液を、水溶液の中に徐々に加えながら乳化分散させて、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0122】
実施例2
合成例4で得られた含ハロゲン重合体の代わりに、合成例5で得られた含ハロゲン重合体を用いて、実施例1と同様に乳化分散させ、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0123】
実施例3
実施例1で得られた防炎加工液100重量部に、さらに60%三酸化アンチモン微粒分散物(ノンネン KN-W;丸菱油化工業(株))を5重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0124】
実施例4
実施例2で得られた防炎加工液100重量部に、さらに60%三酸化アンチモン微粒分散物(ノンネン KN-W;丸菱油化工業(株))を5重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0125】
実施例5
実施例1で得られた防炎加工液100重量部に、さらに50%五酸化アンチモン微粒分散物(ノンネンSM-4;丸菱油化工業(株))を6重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0126】
実施例6
実施例2で得られた防炎加工液100重量部に、さらに50%五酸化アンチモン微粒分散物(ノンネンSM-4;丸菱油化工業(株))を6重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0127】
比較例1
合成例4で得られた含ハロゲン重合体の代わりに、低分子臭素系難燃剤(37)デカブロモジフェニルエタンの70%水分散物[丸菱油化工業(株)「ノンネン R1511-2」]を用いて、実施例1と同様に乳化分散させ、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0128】
比較例2
合成例4で得られた含ハロゲン重合体の代わりに、塩素系難燃剤オリゴマー(38)ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート[大八化学工業(株)「CR-504L」]を用いて、実施例1と同様に乳化分散させ、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0129】
比較例3
比較例1で得られた防炎加工液100重量部に、さらに60%三酸化アンチモン微粒分散物(ノンネン KN-W;丸菱油化工業(株))を5重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0130】
比較例4
比較例2で得られた防炎加工液100重量部に、さらに60%三酸化アンチモン微粒分散物(ノンネン KN-W;丸菱油化工業(株))を5重量部添加し、均一な白色分散液状の防炎加工液を得た。
【0131】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた防炎加工液(防炎加工剤)で繊維類を防炎加工処理したサンプルについて燃焼試験を実施した。
【0132】
(1)繊維製品への防炎加工
実施例1~6及び比較例1~4で調製した各防炎加工液を用いて、ポリエステル繊維に対して防炎加工を行った。使用したポリエステル布帛は、目付量120g/mであるレギュラーポリステル布帛を用いた。
各実施例1~6及び比較例1~4で調製した各防炎加工液中に該ポリエステル布を浸漬後、パディング処理(絞り率100%)を行い、80℃で5分間乾燥した。次に、パディング処理布を150℃、1分間でキュアリング処理を行うことにより、それぞれ防炎加工布を調製した。これらの防炎加工布について、さらに水洗濯を行うことにより、初期状態の防炎加工布と水洗濯後の防炎加工布に分けて、それぞれ燃焼試験を行った。
【0133】
(2)防炎加工された繊維製品の防炎性能の評価
上記により得られた防炎加工布について、JIS L-1091 A-1(ミクロバーナー法)とJIS L-1091 D法(コイル法)による燃焼試験を行った。また、燃焼試験は、平成16年5月31日消防庁告示第19号「防炎性能に係る耐洗たく性能の基準」に準じて水洗濯を5回行ったものに対しても行った。評価にあたっては、JIS L-1091に規定される残炎時間及び接炎回数についてそれぞれ3回測定した。各々の防炎加工液で処理された防炎加工布試料の防炎性能試験結果を表2に示す。なお、防炎加工処理に供したポリエステル繊維の防炎未加工布帛についても、同様に試験を行った。
【0134】
【表2】
【0135】
表2の結果から明らかなように、未防炎加工布では全く難燃性を有しないポリエステル繊維に対して、ハロゲン系難燃剤を防炎加工することにより、実施例1~6及び比較例1~4の全てにおいて、初期状態で難燃性を付与されており、防炎繊維製品としては問題ない難燃性を有していることがわかる。
【0136】
また、実施例1に対して実施例3及び実施例5を、実施例2に対して実施例4及び実施例5を比較した場合、本発明の含ハロゲン重合体[化合物(35)及び化合物(36)]に難燃助剤である酸化アンチモン類を併用した難燃組成物からなる防炎加工剤でポリエステル繊維を防炎処理した場合、含ハロゲン重合体単独の場合よりも、難燃性が向上していることがわかる。
【0137】
さらに、本発明の含ハロゲン重合体からなる防炎加工剤で処理された防炎加工繊維の場合、水洗濯を行っても難燃性能の目立った低下は見られず、防炎繊維製品としての防炎性は保持されていることがわかる(実施例1~6)。
【0138】
一方、比較例の低分子臭素系難燃剤[化合物(37)]又は塩素系難燃剤オリゴマー[化合物(38)]の場合には、水洗濯により難燃成分の脱落が起こった結果として、難燃性の著しい低下がみられることがわかる(比較例1~4)。