(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】上部にテーパ形状を持つ、深堀構造を有するシリコン基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
(21)【出願番号】P 2020037939
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 聡充
(72)【発明者】
【氏名】野中 知行
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137266(JP,A)
【文献】特開2007-103876(JP,A)
【文献】特開2012-084871(JP,A)
【文献】特表2011-508619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0170313(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103456620(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を、SF
6ガスとCF系ガスの混合ガスを用いて等方性エッチングすることにより表面側が大口径であるテーパ形状を形成する第1工程と、
前記第1工程後にSF
6ガスとO
2ガスとSiF
4ガスの混合ガスを用いて深さ方向に強いエッチングを行う異方性エッチングにより前記テーパ形状の下に深堀構造を形成する第2工程
を備えることを特徴とする、上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板の製造方法。
【請求項2】
前記CF系ガスがC
4F
8ガス又はCF
4ガスである請求項1に記載の上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板の製造方法。
【請求項3】
前記上部のテーパ形状の斜面のテーパ角を85゜以下とする請求項1又は2に記載の上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板の製造方法。
【請求項4】
前記深堀構造の前記シリコン基板表面からの深さが、前記テーパ形状の表面の開口部の径よりも大きくなるようにする請求項1~3のいずれかに記載の上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板の製造方法。
【請求項5】
被処理シリコン基板を保持する基板保持部を有するプラズマ処理室と、
前記プラズマ処理室にSF
6ガス、CF系ガス、O
2ガス及びSiF
4ガスをそれぞれ制御された流量で導入するためのガス導入部と、
前記プラズマ処理室内のガスをプラズマ化するための高周波電力を投入する電力部と、
前記ガス導入部及び前記電力部を制御することにより、前記基板保持部に保持されたシリコン基板を、SF
6ガスとCF系ガスの混合ガスを用いて等方性エッチングすることにより表面側が大口径であるテーパ形状を形成する第1工程と、前記第1工程後にSF
6ガスとO
2ガスとSiF
4ガスの混合ガスを用いて深さ方向に強いエッチングを行う異方性エッチングにより前記テーパ形状の下に深堀構造を形成する第2工程を行う制御部と
を備えることを特徴とする、上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板を製造するためのプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記ガス導入部におけるCF系ガスがC
4F
8ガス又は CF
4ガスである請求項5に記載の上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板を製造するためのプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部にテーパ形状を持つ、深堀構造を有するシリコン基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板に深い溝(トレンチ)や穴(ホール)(以下、これらを総称して深堀構造と言う。)を形成する場合、その上部に、表面側を広くしたテーパ形状を設けることがある。深堀構造の内部の側壁表面に成膜をする場合に成膜原料を入り込み易くするため、あるいは、深堀構造を雌型として成形体(又は雄型)を成形する場合に成形体を抜き易くするためにそのようなテーパ形状が必要とされる。
【0003】
このようなテーパ形状を形成するエッチング方法として、従来、側壁を酸化膜によって保護しつつエッチングを行うという方法がとられていた。しかしこの方法では、基板のマスク直下において幅方向にエッチングが進行しにくく、側壁上部が円弧状にえぐれた形状(ボーイング形状)となるという問題があった。
【0004】
このようなボーイング形状の形成を防止し、上部の広いテーパ形状を持った深堀構造を形成する方法として、特許文献1では次のような方法を採用している。まず、フッ素系ガス及び窒素ガスを用い、これらのガスを同時にプラズマ化するとともに、プラズマ化した窒素ガスによってシリコン基板に耐エッチング層を形成しつつ、プラズマ化したフッ素系ガスによって該シリコン基板をエッチングする第1工程を実施する。この第1工程により、テーパ形状が形成される。その後、フッ素系ガス及び酸素系ガスを用い、これらのガスを同時にプラズマ化するとともに、プラズマ化した酸素系ガスによって前記シリコン基板に耐エッチング層を形成しつつ、プラズマ化したフッ素系ガスによって該シリコン基板をエッチングする第2工程を実施する。これにより前記テーパ形状の下に深い垂直孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、形状的には上部にテーパ形状を有する深堀構造を得ることができるものの、第2工程では深堀構造エッチングによって新たに形成される側壁が、酸素系ガスのプラズマ化により形成される耐エッチング層(例えば、SiO2からなる酸化膜)によって保護されつつエッチングが進行するというプロセスで形成される。そのため、その表面が荒れることが避けられない。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、上部においてボーイング形状の形成を防止してテーパ形状を形成しつつ、側壁表面がスムーズな深堀構造を得ることができるシリコン基板のエッチング方法(シリコン基板製造方法)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る、上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板製造方法は、
シリコン基板を、SF6ガスとCF系ガスの混合ガスを用いて等方性エッチングすることにより表面側が大口径であるテーパ形状を形成する第1工程と、
前記第1工程後にSF6ガスとO2ガスとSiF4ガスの混合ガスを用いて深さ方向に強いエッチングを行う異方性エッチングにより前記テーパ形状の下に深堀構造を形成する第2工程
を備えることを特徴とする。
【0009】
前記CF系ガスは、C4F8ガス又はCF4ガスとするとよい。
【0010】
本発明に係る上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板製造方法において、上部のテーパ形状の斜面のシリコン基板表面からの角度(テーパ角)は85゜以下とすることが望ましい。
【0011】
また、深堀構造のシリコン基板表面からの深さは、前記テーパ形状の表面の開口部径よりも大きくすることが望ましい。
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る、上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板を製造するためのプラズマ処理装置は、
被処理シリコン基板を保持する基板保持部を有するプラズマ処理室と、
前記プラズマ処理室にSF6ガス、CF系ガス、O2ガス及びSiF4ガスをそれぞれ制御された流量で導入するためのガス導入部と、
前記プラズマ処理室内のガスをプラズマ化するための高周波電力を投入する電力部と、
前記ガス導入部及び前記電力部を制御することにより、前記基板保持部に保持されたシリコン基板を、SF6ガスとCF系ガスの混合ガスを用いて等方性エッチングすることにより表面側が大口径であるテーパ形状を形成する第1工程と、前記第1工程後にSF6ガスとO2ガスとSiF4ガスの混合ガスを用いて深さ方向に強いエッチングを行う異方性エッチングにより前記テーパ形状の下に深堀構造を形成する第2工程を行う制御部と
を備えることを特徴とする。
【0013】
前記ガス導入部におけるCF系ガスは、C4F8ガス又はCF4ガスとするとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上部にテーパ形状を持つ深堀構造を有するシリコン基板製造方法及び同方法を実施するためのプラズマ処理装置により、上部にテーパ形状を持つ深堀構造をシリコン基板に形成する際、その上部がボーイング形状となることを防止することができる。また、深堀構造の側壁表面がスムーズとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る方法を実施するためのプラズマ処理装置の概略構成図。
【
図2】本発明に係る方法を実施してシリコン基板に上部にテーパ形状を持つ深堀構造を形成する際のフローチャート。
【
図3】前記プラズマ処理装置を用いて本発明の方法によりシリコン基板に上部にテーパ形状を持つ深堀構造を形成する際の第1のエッチング処理条件を示す表。
【
図4】前記第1のエッチング処理条件でエッチング処理を行った後のシリコン基板の深堀構造を示す断面写真(a)及び諸元(b)。
【
図5】前記プラズマ処理装置を用いて本発明の方法によりシリコン基板に上部にテーパ形状を持つ深堀構造を形成する際の第2のエッチング処理条件を示す表。
【
図6】前記第2のエッチング処理条件でエッチング処理を行った後のシリコン基板の深堀構造を示す断面写真(a)及び諸元(b)。
【
図7】前記プラズマ処理装置を用いて従来の方法によりシリコン基板に上部にテーパ形状を持つ深堀構造を形成する際の第3のエッチング処理条件を示す表。
【
図8】前記第3のエッチング処理条件でエッチング処理を行った後のシリコン基板の深堀構造を示す断面写真(a)及び諸元(b)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る方法及び従来の方法を用いてシリコン基板を製造する方法、具体的には、シリコン基板に深堀構造を形成する方法の例を記述する。ここで形成する深堀構造はいずれも、一辺50μm、深さ約120μmの正方形の孔(ホール)であり、その上部約1/2にテーパ形状を持つ。
【0017】
図1は、本方法で使用する誘導結合型反応性イオンエッチング装置(ICP-RIE、製品名:RIE-800iPBC。サムコ株式会社製。以下「プラズマエッチング装置」とする)の要部構成図である。
【0018】
図1のプラズマエッチング装置1は、プラズマエッチングを行う反応室10を有し、その底部に、処理対象物であるシリコン基板(以下、これをワークと言う)11を載置する平板状の下部電極12が設けられている。この下部電極12には、ブロッキングコンデンサ16及び第1整合器17を介して第1高周波電源18が接続されている。下部電極12にはまた、プラズマ処理中にワーク11を固定するための静電吸着機構(図示せず)、及び、ワーク11を所定の温度に保つための冷却ガス(Heガス)を流通させる冷却ガス流路(図示せず)が設けられている。
【0019】
反応室10の側壁には、後述の処理ガス(エッチングガス又は保護膜形成用の成膜ガス)を導入するガス導入口14と、反応室10内を排気する、真空ポンプ26に接続されたガス排気口15が設けられている。
【0020】
ガス導入口14には第1マスフローコントローラ(MFC1)22a、第2マスフローコントローラ(MFC2)22b、第3マスフローコントローラ(MFC3)22c及び第4マスフローコントローラ(MFC4)22dが並列に接続されており、これら第1MFC22a~第4MFC22dにはそれぞれ第1ガス供給源23a、第2ガス供給源23b、第3ガス供給源23c及び第4ガス供給源23dが接続される。本実施形態では、第1ガス供給源23aには六フッ化硫黄ガス(SF6)、第2ガス供給源23bにはパーフルオロシクロブタン(C4F8)、第3ガス供給源23cには酸素ガス(O2)、そして第4ガス供給源23dには四フッ化ケイ素ガス(SiF4)のガス源(ボンベ)が使用される。反応室10内に送給される処理ガスの設定は、これら第1マスフローコントローラ22a~第4マスフローコントローラ22dの流量及び開閉を制御することにより行われる。
【0021】
反応室10上部には、円筒状の誘電体13、及び該誘電体13の外周に巻回された誘導結合コイル19が設けられている。誘導結合コイル19の一端は第2整合器20を介して第2高周波電源21に接続されており、他端は接地されている。
【0022】
本プラズマエッチング装置1にはコンピュータにより構成される制御部29が設けられており、操作者は、本プラズマエッチング装置1による各種処理を制御部29を通じて行う。制御部29は、操作者により指定された条件及び予め設定された条件等に基づいて、第1高周波電源18、第2高周波電源21、真空ポンプ26、及び第1MFC22a~第4MFC22dを動作させる。
【0023】
以下、上記プラズマエッチング装置1を用いたシリコン基板のホール形成方法の第1の例について
図2及び
図3を参照しつつ説明する。
【0024】
まず、処理対象であるワーク11を準備する。ワーク11は厚さ280μm~725μm(直径は2インチ~8インチ)のシリコン基板であり、その表面に厚さ10μmのレジスト膜を形成し(ステップS11)、そこに一辺が50μmの正方形の孔を形成しておく(S12)。
【0025】
このように準備したワーク11を下部電極12上に載置し、静電吸着機構によりワーク11を下部電極12に確実に保持する。次に、ワーク11へのホール形成のための処理条件を制御部29に入力し(或いは、予め作成され、記憶装置等に記憶された処理条件を読み出し)、ホール形成を制御部29に指示する。ホール形成は、第1工程である等方性エッチングによる上部テーパ形成(S13)と、それに引き続く第2工程である異方性エッチングによる下部ホール形成(S14)の2段階の工程で行われる(
図2)。
【0026】
以下、第1の実施例によるホール形成の処理及び結果を説明する(
図3、
図4)。
まず、第1工程として、SF
6とCF
4の混合ガスによる等方性エッチングを行う。このときのエッチング条件は
図3の上段に示すとおりである。この処理により、シリコン基板の上部にテーパ部が形成される。
【0027】
次に第2工程として、SF6、O2及びSiF4の混合ガスによる、垂直方向を強くエッチングする異方性エッチングを行う。SiF4ガスにより、第1工程で形成されたテーパ部とこの第2工程で形成されるホール部の側壁の表面には十分な保護膜が形成され、深堀構造全体にスムーズな表面が形成される。
【0028】
こうして形成された深堀構造の断面写真を
図4(a)に示す。その諸元は
図4(b)に示すとおりである。上部のテーパ部は湾曲(ボーイング)の無いきれいな斜面となっており、下部のホール部もほぼストレートな形状となっている。
【0029】
次に、第2の実施例によるホール形成の処理及び結果を説明する(
図5、
図6)。
本実施例では、
図5の上段に示すとおり、第1工程の等方性エッチングにおいてSF
6とCF
4の混合ガスを用いることは第1実施例と同じであるものの、CF
4ガスの混合比を高めている。そして第2工程では同じくSF
6、O
2及びSiF
4の混合ガスを使用しつつ、混合ガス中のO
2の比率を下げている。
こうして形成された深堀構造は
図6(a)(b)に示すとおり、上部テーパー部の角度がより大きくなっている。
【0030】
比較のために、従来の方法により同様のホール形成を行った例を説明する(
図7、
図8)。この比較例では、
図7に示すとおり、第1工程は本発明と同様であるものの、第2工程の異方性エッチングにおいてSiF
4ガスを使用せず、SF
6ガスとO
2ガスのみでエッチングを行っている。このため、第2工程において上部テーパ部の側壁がエッチングされ、ボーイングが生じている。
【符号の説明】
【0031】
1…プラズマエッチング装置
10…反応室
11…ワーク
12…下部電極
13…誘電体
14…ガス導入口
15…ガス排気口
16…ブロッキングコンデンサ
17…第1整合器
18…第1高周波電源
19…コイル
20…第2整合器
21…第2高周波電源
22a、22b、22c、22d…第1MFC、第2MFC、第3MFC、第4MFC
23a、23b、23c、23d…第1ガス供給源、第2ガス供給源、第3ガス供給源、第4ガス供給源
26…真空ポンプ
29…制御部