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特許7438533高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/02 20060101AFI20240219BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240219BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20240219BHJP
   H01R 4/68 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
H01R43/02 A
H01B13/00 561E
H01F6/06 140
H01F6/06 150
H01R4/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020088019
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021182528
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「超電導線材接合と超低抵抗接合の基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】伴野 信哉
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-283253(JP,A)
【文献】特表2016-535431(JP,A)
【文献】特表2005-516363(JP,A)
【文献】特開2004-327593(JP,A)
【文献】特開2008-024586(JP,A)
【文献】特開昭50-092698(JP,A)
【文献】特開平04-301388(JP,A)
【文献】特開2001-283660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/58- 4/72
H01R43/00-43/02
H01B13/00
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温酸化物超伝導テープ線材の表面を表面コーティングはんだによってコーティングし、
酸化物超伝導層の経験する最大ひずみを-1.5%から0.2%の範囲に抑えながら、前記高温酸化物超伝導テープ線材を巻いて金属ケースに収容し、
溶融した超伝導はんだを前記金属ケースに流し込み、
前記超伝導はんだ及び前記表面コーティングはんだの融点以上で一定時間保持して、前記高温酸化物超伝導テープ線材の間に超伝導はんだを相互拡散させ、
金属系超伝導線材の端部のフィラメントが超伝導はんだでコーティングされた前記金属系超伝導線材を、前記金属ケースの中で溶融状態にある超伝導はんだに浸漬し、
前記超伝導はんだを冷却して固体化し、前記超伝導はんだを介して前記高温酸化物超伝導テープ線材と前記金属系超伝導線材とが一体となった高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項2】
前記高温酸化物超伝導テープ線材はレアアース系の酸化物超伝導テープ線材であり、
前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材を前記金属ケースの内側に巻き入れる際に、前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の酸化物超伝導層が前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の機械的中立面から見て圧縮側に位置するような向きで巻き入れることを特徴とする請求項1に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項3】
前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の酸化物超伝導層の圧縮ひずみの範囲は、-1.5%以上で0%以下であることを特徴とする請求項2に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項4】
前記高温酸化物超伝導テープ線材はビスマス系超伝導線材であり、
前記ビスマス系超伝導線材を前記金属ケースの内側に巻き入れる際に、前記ビスマス系超伝導線材の酸化物超伝導層が経験する最大ひずみを0.2%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項5】
前記表面コーティングはんだは、Sn、Pb-Sn、Pb-Sn-Bi、Sn-Ag、Pb-Bi合金の何れか一種類である請求項1乃至4の何れか1項に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項6】
前記超伝導はんだは、Pb-Bi、In-Sn-Bi合金の何れか一種類である請求項1乃至4の何れか1項に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項7】
前記金属ケースは、前記高温酸化物超伝導テープ線材を少なくとも一回湾曲させて収容すると共に、前記高温酸化物超伝導テープ線材の一端が引き出される形状であり、
前記金属系超伝導線材が、前記金属ケースに収容された前記超伝導はんだと一体的に接続される請求項1乃至6の何れか1項に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レアアース(RE)系酸化物超伝導線材は、超伝導臨界温度、臨界磁場が高く、強磁場NMR(nuclear magnetic resonator:核磁気共鳴)装置や、磁気共鳴映像法(MRI)、超伝導磁気エネルギー貯蔵(SMES)、送電ケーブルなど、様々な応用が期待されている。特に、1GHz超級強磁場NMR装置では、発生磁場が23.5Tを超えるため、RE系超伝導線材などの高温超伝導線材が不可欠となる。
【0003】
こうした超強磁場NMR装置では、サイズ・コスト面の制約から、RE系超伝導コイルだけでなく、外層をNbTiやNbSnなどの金属系超伝導コイルで構成する必要がある。従って、こうした超強磁場NMR装置を永久電流運転するためには、RE系超伝導線材同士の接続だけでなく、RE系超伝導線材と金属系低温超伝導線材間の超伝導接続が不可欠である。
【0004】
しかしながら、全く性質・製法の異なる両材料の層間組織制御の困難さから、RE系酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超伝導接続はこれまで実現できていない。そこで、両線材間の擬似超伝導接続を実現するために、接合長さ・面積を増大させて、両線材間の接続抵抗を低減させることが必要になるが、接続抵抗を永久電流運転実現可能な抵抗値以下にするためには、5m以上の接続長が必要となる。接続部をマグネットシステムに配置することを考えると、そうしたスペースを確保することは極めて現実的ではない。そこでそうしたスペースの課題を解決するために、特許文献1に記載されているように、共巻きによる接続構造が提案された。この提案では、高温超伝導テープ線材と金属系低温超伝導テープ線材とが、長手方向にわたって面接触し、その間にはんだを介在させてゼンマイのように巻き上げ一体化することによって、比較的コンパクトな低抵抗接続が実現される。
【0005】
上記方法では、まず第1の問題点として、接続に金属系低温超伝導テープ線が必要とされる。通常、マグネットに使用される金属系超伝導線材は丸線もしくは矩形線材であり、テープ線を使用してマグネットを構成することはまれである。従って、上記の接続方法を利用するためには、接続用に金属系超伝導テープ線を別途用意し、例えば非特許文献1や特許文献2に示される方法で、このテープ線材をあらかじめ丸線もしくは矩形線材とで超伝導接続を構成しておく必要がある。
【0006】
その他の問題点として、機械的に脆い高温超伝導テープ線材と金属系低温超伝導テープ線材との間にはんだを介在させる、同時にゼンマイのように巻き上げる、さらにそれらを一体化させるなど、作業がデリケートで煩雑であるという問題がある。ここで、金属系超伝導テープ線材を巻き上げる必要があることから、金属系超伝導テープ線材には可とう性が不可欠で、NbSnのような脆い化合物系超伝導線材との接続には利用できない。
従って、レアアース系超伝導線材とNbSn化合物超伝導線材とを接続する場合には、いったん、例えば非特許文献1や特許文献2に示される方法でNbSn線材を可とう性のあるNbTi線材に接続しておき、さらに上記方法で、レアアース系超伝導線材と可とう性のあるNbTiテープ線材と接続するという、2段階の接続工程が必要である。
こうした状況は、金属系超伝導線材との超伝導接続が確立されていないBi系酸化物超伝導線材にも同様に当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2016-535431号公報
【文献】USP No.4907338号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】IEEE TAS, DOI: 10.1109/77.783267
【文献】SUST paper, doi:10.1088/0953-2048/23/8/085013 fig.3
【文献】希土類系高温超電導線材のご紹介 株式会社フジクラp.5 https://www.fujikura.co.jp/products/newbusiness/superconductors/01/superconductor.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、省スペースでかつ簡便な手法で汎用的で、永久電流運転可能な1GHz超級の超強磁場NMRを実現できる高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材とを超低抵抗接続構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、NbTiテープ線材を用いることなく、丸型もしくは矩形の金属系超伝導線材と酸化物系超伝導線材との直接的な低抵抗接続技術が開発されれば、作業の劇的な簡素化、さらなる省スペース化を実現できると考え、具体的には10-9Ω以下の接続抵抗を実現することを目標として、本発明を完成させた。
【0011】
〔1〕本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法は、例えば図5に示すように、高温酸化物超伝導テープ線材の表面を表面コーティングはんだによってコーティングし(S100)、酸化物超伝導層の経験する最大ひずみを-1.5%から0.2%の範囲に抑えながら、前記高温酸化物超伝導テープ線材をコンパクトに巻いて金属ケースに収容し(S102)、溶融した超伝導はんだを前記金属ケースに流し込み(S104)、前記超伝導はんだ及び前記表面コーティングはんだの融点以上で一定時間保持して、前記高温酸化物超伝導テープ線材の間に超伝導はんだを相互拡散させ(S106)、金属系超伝導線材の端部のフィラメントが超伝導はんだでコーティングされた前記金属系超伝導線材を、前記金属ケースの中で溶融状態にある超伝導はんだに浸漬し(S108)、前記超伝導はんだを冷却して固体化し、前記超伝導はんだを介して前記高温酸化物超伝導テープ線材と前記金属系超伝導線材とが一体化する(S110)ものである。
【0012】
〔2〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕において、前記高温酸化物超伝導テープ線材はレアアース系の酸化物超伝導テープ線材であり、前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材を前記金属ケースの内側に巻き入れる際に、前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の酸化物超伝導層が前記レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の機械的中立面から見て圧縮側に位置するような向きで巻き入れるとよい。
〔3〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔2〕において、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材の酸化物超伝導層の圧縮ひずみの範囲は、-1.5%以上で0%以下であるとよい。
〔4〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕において、前記高温酸化物超伝導テープ線材はビスマス系超伝導線材であり、前記ビスマス系超伝導線材を前記金属ケースの内側に巻き入れる際に、前記ビスマス系超伝導線材の酸化物超伝導層が経験する最大ひずみを0.2%以下とするとよい。
【0013】
〔5〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕~〔4〕において、前記表面コーティングはんだは、Sn、Pb-Sn、Pb-Sn-Bi、Sn-Ag、Pb-Bi合金の何れか一種類であるとよい。
〔6〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕~〔4〕において、前記超伝導はんだは、Pb-Bi、In-Sn-Bi合金の何れか一種類であるとよい。
〔7〕好ましくは、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕~〔6〕において、前記金属ケースは、前記高温酸化物超伝導テープ線材を少なくとも一回湾曲させて収容すると共に、前記高温酸化物超伝導テープ線材の一端が引き出される形状であり、前記金属系超伝導線材が、前記金属ケースに収容された前記超伝導はんだと一体的に接続されるとよい。
【0014】
〔8〕本発明は、例えば図4に示すように、酸化物超伝導テープ線材20と、金属系超伝導線材30と、超伝導はんだ40と、金属ケース10とを備える高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体であって、酸化物超伝導テープ線材20が、巻かれた状態で金属ケース10に収容されていると共に、酸化物超伝導テープ線材20の酸化物超伝導層の経験する最大ひずみを-1.5%から0.2%の範囲に抑えられており、酸化物超伝導テープ線材20の間に超伝導はんだ40が相互拡散させられており、酸化物超伝導テープ線材20の一端が金属ケース10から引き出された状態にあり、金属系超伝導線材30と超伝導はんだ40は超伝導状態を維持して接合され、酸化物超伝導テープ線材20と超伝導はんだ40の間で10-8Ω以下の抵抗を得るのに必要な接触面積が確保される、構造である。
【0015】
〔9〕本発明は、〔8〕に記載の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体を用いたNMR、MRI、又は超伝導輸送機器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法によれば、コンパクトで設置面積も極めて小さい両線材間の超低抵抗接続を実現でき、より汎用的な永久電流運転可能な1GHz超級の超強磁場NMRを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示すレアアース系の酸化物超伝導テープ線材の金属ケース内への収容状態を説明する構成図で、(A)は平面図、(B)は図1(A)に示すB-B線の断面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す、接続部用金属ケースの外観を説明する構成斜視図である。
図3】本発明の一実施形態を示す超伝導フィラメントが超伝導はんだコーティングされた金属系超伝導線材の構成図である。
図4】本発明の一実施形態を示す、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材が超伝導はんだを介して一体化した接続部の概念図である。
図5】本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法の一実施形態を示す、フローチャートである。
図6】本発明の一実施形態を示す、レアアース系超伝導線材の断面写真である。
図7】本発明の一実施形態を示す、ケース内長さ15cmのときのレアアース系の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材の接続部抵抗を示す図である。
図8】本発明の一実施形態を示す、ケース内長さ50cmのときのレアアース系の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材の接続部抵抗を示す図である。
図9】本発明の一実施形態を示す、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材のケース内長さを変数とした、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材間の接続部抵抗の近似曲線である。
図10】本発明の一実施形態を示す、ビスマス系超伝導線材の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示すレアアース系の酸化物超伝導テープ線材の金属ケース内への収容状態を説明する構成図で、(A)は平面図、(B)は図1(A)に示すB-B線の断面図である。図2は、本発明の一実施形態を示す、接続部用金属ケースの外観を説明する構成斜視図である。
図において、金属ケース10は小判形状の輪郭を有する皿状の容器で、例えばステンレス鋼を用いて製造される。ステンレス鋼の鋼種は、例えばSUS316、SUS304のような構造用耐食鋼として一般に用いられているものでよい。金属ケース10は、スリット12と湾曲部14を有している。スリット12は、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20の端部を引き出すための開口部である。湾曲部14は、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20を屈曲させるのに必要な曲率を有する部位である。金属ケース10の形状は先端が丸いボート型ケースとし、例えばケース内側の長さは5cm、幅は1cm、ケース両側の曲率半径は5mmとするが、これに限定されるものではない。
【0019】
レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20は、金属基板22、酸化物超伝導層24、Ag保護層26、Cu被覆層28を積層して構成しているもので、超伝導臨界温度が液体窒素温度を超える、いわゆる高温超伝導線材といわれている線材である。レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20は、例えば非特許文献3に記載した株式フジクラ製の型式名FYSC-SCH04を用いるとよいが、これに限定されるものではない。レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20は、金属ケース10の内側で金属系超伝導線材30や超伝導はんだ40と一体化される巻き入れ部20aと、スリット12から引き出された引き出し線部20bで構成される。
【0020】
金属基板22は、例えばハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、モネル(登録商標)のようなニッケル基合金やコバルト基合金であって、熱膨張係数が酸化物超伝導層24と同じ程度の材料が用いられ、板厚は例えば75μmである。
酸化物超伝導層24は、配向テープ基板としての金属基板22上にRE系酸化物超伝導相(例えば、YBaCuO、GdBaCuO等)をエピタキシャル成長させたもので、膜厚は例えば2~5μmである。
Ag保護層26は、脆い酸化物超伝導層24を保護するもので、膜厚は例えば2μmである。
Cu被覆層28は、Ag保護層26の周りをCu等の良導電金属を被覆して線材化したもので、線材での膜厚は例えば20μmである。Cu被覆層28は、例えばメッキを用いてAg保護層26の周りに形成される。
【0021】
表面コーティングはんだ層(図示せず)は、酸化物超伝導テープ線材20の端部の表面をコーティングするもので、コーティング長さは超伝導接続に適したものとし、例えば端部から15cmから50cmの範囲に定める。表面コーティングはんだ層の膜厚は、例えば15~25μmが好ましい。表面コーティングはんだ層29の材料には、例えばSn、Pb-Sn、Pb-Sn-Bi、Sn-Ag、などのSn系合金、Pb-BiなどのPb系合金が挙げられる。
【0022】
レアアース系の酸化物超伝導テープ線材20は、金属ケース10の内側にテープ線材20を巻き入れる際に、酸化物超伝導層24が機械的中立面25から見て圧縮側に位置するような向きで巻き入れる(図1(B))。
これはレアアースの酸化物超伝導テープ線材における臨界電流のひずみ劣化が、40K以下の低温において、圧縮側では抑制されるためである(非特許文献2参照)。この時のひずみの範囲は、-1.5%以上で0%以下が望ましい。それ以下となると、酸化物超伝導層が機械的に劣化する恐れがある。さらに望ましくは、-1.0%以上が望ましい。
【0023】
なお、酸化物超伝導テープ線材がビスマス系超伝導線材の場合には、酸化物超伝導層は機械的中立面の両側に存在するため、金属ケースに巻き入れる際の向きについては特に注意する必要はない。ただし巻き入れる際、酸化物超伝導層が経験する最大ひずみを0.2%以下にすることが望ましい。0.2%を超えると、酸化物超伝導層が機械的に劣化する恐れがある。
【0024】
テープ線材を巻きいれる長さは、できる限り長い方が望ましく、レアアース系の酸化物超伝導線材の場合には、10-8Ω以下の抵抗を実現するためには、最低でも20cm以上が望ましく、さらに10-9Ω以下の抵抗を実現するためには、2m以上の長さが望ましい。ビスマス系超伝導線材の場合には、10-9Ω以下の抵抗を実現するためには、最低でも5cm以上が望ましく、さらに10-9Ω以下の抵抗を実現するためには、50cm以上の長さが望ましい。
【0025】
ここで、ビスマス系超伝導線材の方が、レアアース系超伝導線材よりも、同じ低抵抗値を得るのに短い巻き入れ長さで十分な理由は、一つには線材の断面構成が大きく異なるためである。レアアース系線材は、基板上にエピタキシャル成長した一層の酸化物超伝導層があるのに対して、ビスマス系線材では、酸化物超伝導フィラメントが多数埋め込まれた極細多芯構造を有している。したがって、ビスマス系超伝導線材では、酸化物超伝導層とマトリクスとの間の接触面積が、レアアース系超伝導線材における酸化物超伝導層とシース界面の面積に比べて、著しく大きい。そのため、ビスマス系線材では、接続抵抗に対する酸化物超伝導層とマトリクスとの界面抵抗の寄与を極めて小さくすることができ、これが、同じ巻き入れる長さでも、ビスマス系超伝導線材の方が低い抵抗値を得られる理由となる。
【0026】
超伝導はんだ及び表面コーティングはんだの融点以上で保持する条件の目安としては、例えば超伝導はんだをPb-56wt%Bi、表面コーティングはんだをPb-60wt%Snとした場合には、200℃~300℃、1分以上1時間以内とすればよい。200℃以下では、超伝導はんだが線材間を十分拡散しきれず、300℃以上では、酸化物超伝導層を劣化させる可能性がある。また1分以内だと、超伝導はんだが線材間を十分拡散しきれず、1時間以上だと酸化物超伝導層を劣化させる可能性がある。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態を示す超伝導フィラメントが超伝導はんだコーティングされた金属系超伝導線材の構成図である。
金属系超伝導線材30は、金属系超伝導フィラメント32、Cuシース34で構成されると共に、超伝導はんだ40を有している。金属系超伝導フィラメント32は、NbTiやNbSnなどの金属系超伝導材料よりなるもので、例えば線径が0.6~1.5mmの線条が3本~49本程度で構成されている。
Cuシース34は、金属系超伝導フィラメント32を束ねる筒状の覆いであり、金属系超伝導フィラメント32を機械的に保護する。Cuシース34の端部では、金属系超伝導フィラメント32が数cm程度露出している。
超伝導はんだ40には、Pb-Bi、In-Sn-BiなどのPb系、Sn系合金が挙げられる。超伝導はんだ40は、金属系超伝導フィラメント32のCuシース34の端部から露出した領域を被覆している。
【0028】
金属系超伝導フィラメントへの超伝導はんだコーティングの長さ、およびケースの超伝導はんだに浸漬する長さは、2cm以上が望ましい。それ以下では、金属系超伝導線材に大電流を流した際に、金属系超伝導フィラメントと超伝導はんだとの界面を通過する電流密度が超伝導はんだの臨界電流密度を超えてしまい、大きな常電導抵抗を生じてしまう。
【0029】
金属系超伝導フィラメントへの超伝導はんだコーティングの製造工程としては、例えば非特許文献1や特許文献2に開示されたような工程による。
まず金属系超伝導線材30の先端を、溶融したSn(250~260℃)に90分浸漬して、金属系超伝導フィラメント32を囲むCuマトリクスをSnで置換する。
次に溶融したPbBi(250~260℃)に5分浸漬して、SnをPbBiで置換する。このようにして、金属系超伝導フィラメント32がPbBi等の超伝導はんだ40でコーティングされる。
【0030】
図4は、本発明の一実施形態を示す、レアアース系の酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線材が超伝導はんだを介して一体化した接続部の概念図である。
高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体は、金属ケース10、酸化物超伝導テープ線材20、金属系超伝導線材30、超伝導はんだ40で構成されている。
酸化物超伝導テープ線材20は、レアアース系超伝導線材又はビスマス系超伝導線材である。
【0031】
図4に示すような高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体の製造工程は、図5に示すフローチャートのようになる。図5は、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続方法の一実施形態を示す、フローチャートである。
まず、酸化物超伝導テープ線材20の表面を表面コーティングはんだによってコーティングする(S100)。次に、酸化物超伝導層24の経験する最大ひずみを-1.5%から0.2%の範囲に抑えながら、酸化物超伝導テープ線材20をコンパクトに巻いて金属ケース10に収容する(S102)。続いて、溶融した超伝導はんだ40を金属ケース10に流し込み(S104)、超伝導はんだ40及び表面コーティングはんだの融点以上で一定時間保持して、酸化物超伝導テープ線材20の間に超伝導はんだ40を相互拡散させる(S106)。
次に、金属系超伝導線材30の端部の金属系超伝導フィラメント32が超伝導はんだ40でコーティングされた金属系超伝導線材30を、金属ケース10の中で溶融状態にある超伝導はんだ40に浸漬し(S108)、超伝導はんだ40を冷却して固体化し、超伝導はんだ40を介して酸化物超伝導テープ線材20と金属系超伝導線材30とが一体化する(S110)
このようにして、超伝導はんだ40が冷却されて固体化し、酸化物超伝導テープ線材20と金属系超伝導線材30とに一体化される。金属ケース10は、溶融状態にある超伝導はんだ40を保持する保持体として作用する。
【0032】
このような構成にすることにより、金属系超伝導線材30と超伝導はんだ40は超伝導状態を維持して接合され、酸化物超伝導テープ線材20と超伝導はんだ40の間で十分大きな接触面積が確保され、極めて小さな抵抗を得ることができ、高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材間の超低抵抗接続を実現することができる。
【実施例1】
【0033】
レアアース系の酸化物超伝導テープ線材として、フジクラ製GdBCOテープ線材(4mm幅、0.13mm厚さ)を用意した。断面写真を図6に示す。この線材20cmを用い、片端から15cmにわたって、市販のPb-60Snはんだを用いて両面にはんだコーティングした。この時、はんだ層の厚さは約20μmであった。
【0034】
次に、図2に示すように、長さ5.2cm、幅1.2cm、高さ8mmのステンレスの板材を加工して、このテープ線材を巻き入れるためのボート型形状をした金属ケース10を準備した。金属ケース内側の長さは5cm、幅は1cm、ケース両側の曲率半径は5mmである。金属ケース端部には、テープ線材を通すためのスリット12が設けられている。金属ケースに、はんだコーティング済の高温酸化物超伝導テープ線材を、図1(B)に示すように、酸化物超伝導層に圧縮ひずみが印加されるように巻き入れた。はんだコーティング済の高温酸化物超伝導テープ線材の金属ケース内長さは、15cmである。このとき超伝導テープ線材内の酸化物超伝導層は、機械的中立面から38μmの距離に位置し、酸化物超伝導層が経験する最大ひずみは-0.76%と見積もられる。
【0035】
次に、はんだコーティングされた超伝導テープ線材が巻き入れられた金属ケースを200℃に保持し、Pb-56wt%Biの超伝導はんだを挿入した。このときPb-56wt%Biは完全に溶け、金属ケース内に充満された。
Pb-Bi超伝導はんだが超伝導テープ線間に相互拡散するよう、この状態で30分保持した。
【0036】
次に、非特許文献1や特許文献2に示される方法で、図3に示すような、端部の超伝導フィラメントがPb-Bi超伝導はんだでコーティングされたNbTi金属系超伝導線材を、Pb-Biが溶融状態にある上記金属ケースに挿入した。これを冷却し、図4に示すような形状の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の接続部を作製した。
【0037】
次に、高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材に電極を取り付け、液体ヘリウムに浸漬して、マグネットを用いて、磁場中で4端子法による抵抗測定を実施した。通電電流は100Aとした。その結果を図7に示す。例えば0.2Tでは、接続抵抗は1.1×10-8Ωとなった。1.2T以上で、抵抗値が急激に増大しているのは、Pb-Bi超伝導はんだが臨界磁場に達し常伝導転移したためである。
【実施例2】
【0038】
上記実施例1において、接続抵抗が1.1×10-8Ωであったことから、さらなる低抵抗化に、金属ケース内に巻き入れる超伝導テープ線の長さを50cmに増大させた。
実施例1と同様の方法で、図4に示すような形状の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の接続部を作製した。このとき、テープ線は4ターン巻き入れられることになり、テープ線の中立面の最小曲率半径は4.44mmとなることから、酸化物超伝導層が経験する最大ひずみは-0.85%と見積もられる。
【0039】
実施例1と同様に、高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材に電極を取り付け、液体ヘリウムに浸漬して、マグネットを用いて、磁場中で4端子法による抵抗測定を実施した。その結果を図8に示す。例えば0.2Tでは、接続抵抗は2.6×10-9Ωとなり、金属ケースに巻き入れる長さにほぼ比例した接続抵抗の減少が確認された。
【0040】
金属系超伝導線材と超伝導はんだの接続は超伝導状態であることから、全体的な接続抵抗値は高温超伝導線材と超伝導はんだとの界面抵抗で決まり、その抵抗値は金属ケースに巻き入れる長さに単純に反比例すると仮定できる。そこで、50cmの抵抗値を基準として、接続抵抗値の近似曲線(y=1.3×10-9-1(Ω))を算出し、図9に示した。これによれば、接続抵抗値は金属ケースに巻き入れる長さを2mとすれば0.65nΩ、20mとすれば6.5×10-11Ωになると見積もられる。ただしこの時、2m、20mの長さの酸化物超伝導テープ線材を金属ケースの中に収めるために、金属ケースの大きさを、酸化物超伝導層の経験する最大ひずみが-1.5%以上になるよう設計しなければならないことは言うまでもない。
【0041】
仮に、同様の方法で、酸化物超伝導層の経験する最大ひずみを-1%に抑えながら5mのテープ線材を巻き入れようとする場合には、内側サイズが長さ7cm、幅2cm、高さ7mm、両端曲率半径が5mmの容器を用意すればよい。このとき、はんだコーティングしたテープ線の厚さが0.17mmであるとすると、テープ線は金属ケース内に約30ターン巻かれることになり、最小曲率半径は5mmとなる。その時の酸化物超伝導層の経験する最大ひずみは-0.76%となる。さらに、内側金属ケースの長さ、幅をそれぞれ10mm増やせば、プラス5m、さらにそれぞれ10mm増やせば、プラス5mの巻き入れが可能である。
【実施例3】
【0042】
ビスマス系超伝導テープ線材として、住友電工製DI-BSCCO-Hテープ線材(4.5mm幅、0.23mm厚さ)を用意した。図10は、本発明の一実施形態を示す、ビスマス系超伝導線材の断面写真である。この線材55cmを用い、片端から50cmにわたって、市販のPb-60Snはんだを用いて両面にはんだコーティングした。この時、はんだ層の厚さは約20μmであった。
【0043】
次に、厚さ8mmのステンレスの板材を加工して、このテープ線材を巻き入れるための直径15cm、深さ6mmの円型金属ケースを準備した。金属ケース外周の1か所に、外周の接線方向に平行に、テープ線材を通すためのスリットが設けられている。この金属ケースに、上記はんだコーティング済の高温酸化物超伝導テープ線材を50cm巻き入れた。この時の酸化物超伝導層の経験する最大ひずみは、0.153%である。
【0044】
次に、実施例1と同様の方法で、図4に示すような形状の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の接続部を作製した。
実施例1と同様に、高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材に電極を取り付け、液体ヘリウムに浸漬して、マグネットを用いて、磁場中で4端子法による抵抗測定を実施した。その結果、0.2Tでの5×10-10Ωの接続抵抗値が得られた。
【0045】
なお、本発明の実施例として、実施例1~実施例3を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の実施態様が、当業者に自明な範囲で考えられるため、このような自明な範囲も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、金属系超伝導線材の代わりに、第2の高温超伝導線材を図4に示すような同様な手順で金属ケースに組み込めば、コンパクトで簡便な、超低抵抗の高温酸化物超伝導テープ線材間接続を得ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳細に説明したように、本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体によれば、これまでに、コンパクトで簡便な、超低抵抗の高温酸化物超伝導テープ線材と金属系超伝導線を接続する技術はなく、強磁場NMR装置など、永久電流運転を必要とする強磁場マグネットシステムの発展・普及に多大な貢献が期待される。
本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系超伝導線材の超低抵抗接続体を用いた強磁場NMR装置によれば、汎用的で、永久電流運転可能な1GHz超級の超強磁場NMRを実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 金属シース
12 スリット
14 湾曲部
20、20a、20b レアアース系の酸化物超伝導テープ線材
22 配向テープ基板
23 ビスマス系超伝導線材(BSCCO)
24 RE系酸化物超伝導相
25 機械的中立面
26 Ag保護層
28 Cu良導電金属層
30 金属系超伝導線材
32 金属系超伝導フィラメント
34 Cuシース
40 超伝導はんだ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10