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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】磁性壁材シート
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/30 20060101AFI20240219BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20240219BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240219BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240219BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240219BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240219BHJP
   C09D 7/42 20180101ALI20240219BHJP
【FI】
E04F13/30
E04F13/07 C
E04F13/07 E
E04F13/08 A
E04F13/08 G
E04B1/94 L
B32B7/027
C09D201/00
C09D7/42
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020095331
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021188384
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】長澤 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 修
【審査官】小林 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083328(JP,A)
【文献】特開2005-290707(JP,A)
【文献】特開2016-190466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00 ー 13/30
E04B 1/94
B32B 7/027
C09D 201/00
C09D 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多極着磁型の弾力性を有するマグネットシートと、片面にインキ層を有する壁材フィルムと、硬質化機能およびマット化機能を備える透明なコートフィルムとを、壁材フィルムのインキ層をコートフィルムに対面させて、下からこの順でそれぞれ接着剤を介して積層させた積層体からなり、防耐火性能に関する下記試験の評価基準を満たすとともに、壁面となるコートフィルムの表面が4H以上の鉛筆硬度である磁性壁材シートであって、
マグネットシートの厚さが80μ~400μとされ、
壁材フィルムの厚さが50μ~90μとされ、
マグネットシートと壁材フィルムとコートフィルムとの積層体の総厚が155μ~540μとされ、
コートフィルム単体におけるマグネットシートと非対向面側になる表面の鉛筆硬度が上記積層体でのコートフィルムの表面の鉛筆硬度未満とされ、
コートフィルム単体におけるマグネットシートと非対向面側になる表面の鉛筆硬度が、壁面となるコートフィルムの表面の鉛筆硬度未満でありながら、最下層にマグネットシートが配置される積層構造とすることにより、弾力性を有するマグネットシートがコートフィルムのクッションになることで、壁面となるコートフィルムの表面の鉛筆硬度が4H以上になることを特徴とする磁性壁材シート。
〔発熱性試験〕
ISO5660-1に準拠し、建築基準法第2条第9号及び建築基準法施工令第108条の2に基づく防耐火試験方法と性能評価規格に従うコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、
〔1〕加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、
〔2〕加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えず、
〔3〕加熱開始後20分間、防火上有害な亀裂及び穴がない条件を満たす不燃性を有すること。
〔ガス有害性試験〕
昭和51年8月25日建設省告示第1231号によるガス有害試験方法に準じたガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間値が6.8分以上であること。
【請求項2】
コートフィルムは、透光性を有したベースフィルムと、透光性を有したハードマット層との積層体とされ、ハードマット層は、透明樹脂材に光散乱用の多数の微粒子を含有させた構成とされる請求項1に記載の磁性壁材シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性壁材シートに関する。より詳しくは、防耐火性に加えて、耐擦傷性、消去性および低光沢性を同時に兼ね備え、建造物の室内壁への適用に好適な磁性壁材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品を磁力によって壁面上に吸着保持できる室内磁性壁が人気をよんでいる。このような磁性壁は、室内壁であることから、火災発生時に被害を拡大させない防耐火性に優れることが求められる。下記特許文献1の図2、6には、表装材を積層した防火磁性壁面材が開示されている。
【0003】
【文献】特開2005-290707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、室内用の磁性壁は、防耐火性に加え、壁面にいくつかの条件が求められる。例えば傷のつきにくい耐擦傷性、汚れを容易に消去できる消去性、部屋に開放感や落ち着きを与える低光沢性などであるが、これらの要件を同時に満たすことは難しかった。
【0005】
例えば、耐擦傷性を良くするために表面硬度を高めると、反射率が増大して低光沢性が損なわれる。すなわち、光の照り返しによる不快感や、ぎらつき等による意匠性低下が生じる。そこで光の反射を抑制するために、壁表面にエンボス加工を施すことが考えられるが、エンボス加工を施した場合、表面の微細凹部に汚れが残存しやすく、消去性に劣るといった問題がでてくる。
【0006】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、防耐火性に加え、耐擦傷性、消去性および低光沢性の要件を同時に兼ね備えた磁性壁材シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために次のような手段をとる。
なお、本欄(「課題を解決するための手段」の欄)において各構成手段に付した括弧書きの符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すための参考用のものであり、本発明の構成手段をこれに限定するものではない。
【0008】
本発明の一の態様は、多極着磁型のマグネットシート(20)と、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な表面コート層(40)と、マグネットシート(20)と表面コート層(40)との間に設けられた装飾層(32)とを備える積層体からなる磁性壁材シート(10)であって、防耐火性能に関する下記試験の評価基準を満たすとともに、壁面(11)となる表面コート層(40)の表面が4H以上の鉛筆硬度とされたことを特徴とする。
〔発熱性試験〕
ISO5660-1に準拠し、建築基準法第2条第9号及び建築基準法施工令第108条の2に基づく防耐火試験方法と性能評価規格に従うコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、
〔1〕加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、
〔2〕加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超え
ず、
〔3〕加熱開始後20分間、防火上有害な亀裂及び穴がない条件を満たす不燃性を有すること。
〔ガス有害性試験〕
昭和51年8月25日建設省告示第1231号によるガス有害試験方法に準じたガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間値が6.8分以上であること。
【0009】
本態様によると、磁性壁材シート(10)は、多極着磁型のマグネットシート(20)と、硬質化機能およびマット化機能を備える透明な表面コート層(40)と、マグネットシート(20)と表面コート層(40)との間に設けられた装飾層(32)とを備える積層体であり、室内壁に望ましい防耐火性に関する上記試験の評価基準を満たす。このため、建造物の室内壁への適用に好適である。
また、表面コート層(40)は硬質化機能を備え、壁面(11)となる表面コート層(40)の表面が4H以上の鉛筆硬度とされるため、耐擦傷性および消去性を向上できる。さらに表面コート層(40)は、透明であり且つマット化機能を備えるため、その透明な層を通して見える装飾層(32)の低光沢性が確保され、艶消し調の落ち着きのある壁面とすることができる。
【0010】
本発明の他の態様では、片面に装飾層(32)を有する壁材層(30)を備え、壁材層(30)はマグネットシート(20)と表面コート層(40)との間に、装飾層(32)を表面コート層(40)に対面させて設けられる。
【0011】
本態様によると、片面に装飾層(32)を有する既存の壁材層(30)を採用することができるため、製作コストが抑えられる。
【0012】
本発明の他の態様では、表面コート層(40)は、透光性を有したベースフィルム(41)と、透光性を有したハードマット層(42)との積層体とされ、ハードマット層(42)は、透明樹脂材(421)に光散乱用の多数の微粒子(422)を含有させた構成とされる。
【0013】
本態様によると、光散乱用の多数の微粒子(422)がその表面で乱反射を起こし、艶消し機能(マット化機能)を生じさせるものであるため、壁面(11)における平坦度を高めることができ、消去性能を向上できる。
【0014】
本発明の他の態様では、表面コート層(40)単体におけるマグネットシート(20)と非対向面側になる表面の鉛筆硬度が4H未満とされる。
【0015】
本態様によると、単体での鉛筆硬度の低い表面コート層(40)であっても、マグネットシート(20)に積層することで、最上層である壁面(11)の硬度を高めることができ、壁面(11)の耐擦傷性が確保される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、防耐火性に加え、耐擦傷性、消去性および低光沢性の要件を同時に兼ね備えた磁性壁材シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る磁性壁材シートの断面図である。
図2】本発明に係る磁性壁材シートの一部分解断面図である。
図3】コートフィルムをより詳しく示す断面図である。
図4】ドライラミネータによる磁性壁材シートの製作手順の流れ図である。
図5】磁性壁材シートの製作手順のうち第1ステップでのラミネート処理を示す図である。
図6】磁性壁材シートの製作手順のうち第2ステップでのラミネート処理を示す図である。
図7】ドライラミネータによる磁性壁材シートの具体的製作手順を示す図である。
図8】本発明に係る磁性壁材シートを備えた磁性壁の斜視図である。
図9】磁性壁の一部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明に係る磁性壁材シート10の断面図、図2は本発明に係る磁性壁材シート10の一部分解断面図、図3はコートフィルム40をより詳しく示す断面図である。図1,2および後述の各図において、磁性壁材シート10の各構成要素は、図示の便宜上のため横方向に短い形で示されているが、実際は長尺のものである。
【0019】
磁性壁材シート10は、スチール箔等の軟磁性層を備えた軟磁性ボード70(後述の図8,9参照)に対して、磁力により着脱自在とされた壁面シートであり、図1,2に示すように、マグネットシート20と壁材フィルム30とコートフィルム40とをこの順でそれぞれウレタン系の透明な接着剤Gを介して積層した構成とされる。
【0020】
マグネットシート20は、厚さ80μ~400μとされる可撓性シート状の磁石体であり、その表裏各面は、N極とS極とが交互に縞状に着磁され、一定ピッチの着磁ラインを有する両面多極着磁型となっている。厚さを上記範囲としたのは、防耐火性と磁気保持力を確保するためである。すなわち400μを超えると防耐火性の確保が難しくなり、80μ未満とすると十分な磁気保持力が期待できない。また、両面多極着磁型としたのは、表裏両面とも相応な磁気吸着力を要するからである。すなわちマグネットシート20の一方の面は、室内空間側に面して、強磁性体(磁石としての性質を有するものと有さないもののいずれでもよい)を装着した表示片或いは棚等の物品などを磁力によって吸着保持するための磁着面として機能し、他方の面は、後述の軟磁性ボード70における軟磁性層72への磁着面として機能するからである。
【0021】
このような可撓性シート状の磁石体は、硬磁性材料(例えばバリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等のフェライト系磁石材料又はサマリウム・コバルト系磁石、ネオジウム・鉄・ホウ素系磁石等、希土類磁石材料)の微粉末と、粘結材となる少量の有機高分子エラストマー(例えば塩素化ポリエチレン、クロロスルフォン化ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニール共重合体、エチレン・プロピレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム)との混合体を、圧延または押出しなどの成形方式によりシート状に成形し、両面に着磁を施して製作される。なお、マグネットシート20の着磁ピッチは1.0mm以上7.0mm以下であることが好ましい。
【0022】
壁材フィルム30は、厚さ50μ~90μとされたフィルム状の装飾壁面材であり、ベースフィルム31の上面に絵柄や模様が印刷されたインキ層32を備える。ベースフィルム31としては、表面にインキ受理層を形成したポリ塩化ビニール系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、または薄いコート紙などを使用することができる。このインキ受理層に用途に応じた印刷によりインクを定着させる。印刷方式には、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを挙げることができる。このような構成の壁材フィルム30は既に生産もされている。厚さ90μ以下としたのは、磁性壁材シート10の総厚を、防耐火性の確保を期待できる最上限の540μ以下に収めるためである。また、必要以上に厚いと、シート磁石からの磁力線の透過率が小さくなり、磁性壁としての磁気吸着能力が劣ってしまうためである。また厚さ50μ以上としたのは適当な引張強度を確保するためである。
【0023】
コートフィルム40は、被積層対象となる壁材フィルム30の表面に硬質化機能とマット化機能を同時に付与するものであり、フィルム状のハードマットコート材である。その構成は、透光性を有したベースフィルム41の上に、同じく透光性を有したハードマット層42を積層したものとされる。
ベースフィルム41としては、表面に易接着処理を施したポリエチレン系樹脂等の透明な熱可塑性樹脂を主材料とすることができる。
ハードマット層42は、図3に示すように、アクリル系樹脂材421と、そこに内包された多数のアクリル系の微粒子422とからなる。
【0024】
コートフィルム40は、単体ではそのハードマット層42の表面硬度が鉛筆硬度にして2Hとなっている。
【0025】
ここでいう鉛筆硬度とは、例えばJIS K5600-5-4:1999で規定される鉛筆硬度試験(引っ掻き試験)で測定したときの硬度のことである。この試験は、鉛筆に一定荷重を加えるとともに、その芯の移動速度を1mm/秒とした状態で行うものとする。鉛筆硬度は、鉛筆硬度試験において被試験体の表面に傷が付かなかった最も高い硬度とする。なお、鉛筆硬度の測定の際には、硬度が異なる鉛筆を複数本用いて行うが、鉛筆1本につき5回試験を行い、5回のうち4回以上被試験体の表面にスクラッチなどの外見異常が目視されない場合に、その試験時に使用した鉛筆の硬度を鉛筆硬度とする。例えば、3Hの鉛筆を使用して5回の試験操作を行い、4回以上外見異常が生じなかった場合、当該被試験体の鉛筆硬度は少なくとも3Hである。
【0026】
このようなマグネットシート20と壁材フィルム30と表面コート層40の積層体である磁性壁材シート10は、総厚が155μ~540μであることが好ましい。その理由は次のとおりである。すなわち、現行技術のマグネットシート20では、前述したように、その厚みが400μ以上になると、燃焼試験の評価基準を満足することが難しく、80μ以下になると、十分な磁気吸着力の確保が難しくなる。この観点から、総厚を上記範囲としたのである。
【0027】
次に、磁性壁材シート10の製作方法について説明する。図4はドライラミネータ60による磁性壁材シート10の製作手順の流れ図、図5は磁性壁材シート10の製作手順のうち第1ステップS1でのラミネート処理を示す図、図6は磁性壁材シート10の製作手順のうち第2ステップS2でのラミネート処理を示す図、図7はドライラミネータ60による磁性壁材シート10の具体的製作手順を示す図である。なお、図7において、(a)は第1ステップS1のラミネート動作を示し、(b)は第2ステップS2のラミネート動作を示す。
【0028】
磁性壁材シート10の製作は、図4~7に示すように、第1ステップS1と、これに続く第2ステップS2とにより行われる。このような2段階のラミネートは、例えば図7に示すドライラミネータ60を用いて行われる。
【0029】
第1ステップS1では、図4,5,7(a)に示すように、壁材フィルム30にコートフィルム40をラミネートしてコート壁材シート50を製作する。第2ステップS2では、図4,6,7(b)に示すように、マグネットシート20に、第1ステップS1で製作したコート壁材シート50をラミネートして磁性壁材シート10とする。
【0030】
次に、ドライラミネータ60による磁性壁材シート10の製作手順の詳細について説明する。図7に示すように、ドライララミネータ60は、巻出機61,62、グラビアコータ63、乾燥炉64、加熱ニップロール65、冷却ロール66および巻取機67などを備える。以下の説明では、上記したマグネットシート20、壁材フィルム30およびコートフィルム40は、それぞれロール体として準備されているものとする。
【0031】
第1ステップS1では、図7(a)のように、巻出機61に壁材フィルム30のロール体がセットされ、巻出機62にはコートフィルム40のロール体がセットされる(図4のステップS11)。巻出機61から繰り出された壁材フィルム30は、グラビアコータ63でインキ層32側の面に接着剤Gが塗布され(ステップS12)、その後、乾燥炉64にて乾燥が行われ、接着剤希釈用の有機溶剤が除去される(ステップS13)。有機溶剤が除去された壁材フィルム30は、加熱ニップロール65にて、巻出機62から繰り出されたコートフィルム40と熱圧着により貼り合わされ(ステップS14)、冷却ロール66で冷却されて(ステップS15)、巻取機67でコート壁材シート50として巻き取られる(ステップS16)。巻き取られたコート壁材シート50は所定時間の養生がなされる(ステップS17)。
【0032】
次の第2ステップS2では、巻出機61,62にセットされるロール体の付け替えが行われる。すなわち、図7(b)のように、巻出機61にコート壁材シート50のロール体がセットされ、巻出機62にマグネットシート20のロール体がセットされる(ステップS21)。巻出機61から繰り出されたコート壁材シート50は、グラビアコータ63でベースフィルム31側の面に接着剤Gが塗布され(ステップS22)、その後、乾燥炉64にて乾燥が行われ、接着剤希釈用の有機溶剤が除去される(ステップS23)。有機溶剤が除去されたコート壁材シート50は、加熱ニップロール65にて、巻出機62から繰り出されたマグネットシート20と熱圧着により貼り合わされ(ステップS24)、冷却ロール66で冷却後(ステップS25)、巻取機67で磁性壁材シート10として巻き取られる(ステップS26)。巻き取られた磁性壁材シート10は所定時間の養生がなされる(ステップS27)。
【0033】
以上のようにして製作された磁性壁材シート10は、総厚が540μ以下とされ、ISO5660-1に準拠し、建築基準法第2条第9号及び建築基準法施工令第108条の2に基づく防耐火試験方法と性能評価規格に従うコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験において、〔1〕加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、〔2〕加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えず、〔3〕加熱開始後20分間、防火上有害な亀裂及び穴がない条件を満たす不燃性を有する。
【0034】
更に、昭和51年8月25日建設省告示第1231号によるガス有害試験方法に準じたガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間値が6.8分以上であるという評価基準を満たしている。すなわち、被試験体を加熱炉内で電気ヒータからの輻射熱と接炎により加熱し、発生するガスを吸入した8匹のマウスが行動停止に至るまでの時間(行動停止時間)の平均値X及び標準偏差σを求め、次式によりマウスの行動停止時間Xsを求める。
Xs=X-σ
Xsの値が6.8分(標準的な木材におけるマウスの行動停止時間)よりも大きい場合を合格とする評価基準を満たしている。ここで、行動停止時間の平均値からその標準偏差を引いた値を合否の判断基準としているのは、材料及び試験結果のバラツキを含めて、評価しようとする考え方によるものである。
また、JISK5600-5-4(1999)に規定する鉛筆硬度試験に準ずる試験を行った結果、壁面11となるハードマット層42の表面は、鉛筆硬度が6Hとなっていた。
【0035】
以上のような磁性壁材シート10は、室内用の磁性壁の壁材シートとして使用され、その具体例を、図8,9を参照して説明する。
図8は本発明に係る磁性壁材シート10を備えた磁性壁100の斜視図、図9は磁性壁100の一部分解斜視図である。
図8,9に示すように、磁性壁100は、壁下地80と軟磁性ボード70と磁性壁材シート10を備える。
【0036】
軟磁性ボード70は、石膏ボード71と、石膏ボード71の片面に積層された軟磁性層72とを備える。なお、上記した軟磁性層付きの石膏ボード71に代えて、鋼板、あるいは鋼板に表装シートや機能性シートをラミネートしたボードを用いてもよい。軟磁性ボード70は、その軟磁性層72を表側、すなわち室内空間に向けた状態で、合板、コンクリート、または軽金属などを基材とした壁下地80に対し、釘、ビス、接着剤、ステープルなどで留付け固定される。このような軟磁性ボード70の具体例として、吉野石膏株式会社製のタイガーFeボード(登録商標)を挙げることができる。
【0037】
磁性壁材シート10は、壁面積に応じた適当なサイズに複数枚切断される。そして、磁性壁材シート10におけるマグネットシート20の磁着面を、軟磁性ボード70の軟磁性層72の表面に磁気吸着させることで固定する。これによって、磁性壁材シート10の壁面11は、磁気吸着できる磁性壁として機能する。すなわち、表面に意匠が施されるとともに、強磁性体を装着した表示片或いは棚等の物品などを磁力により吸着保持できる。
【0038】
次に、この磁性壁100における磁性壁材シート10の備える優利点について説明する。
【0039】
磁性壁材シート10によると、防耐火性に関する上記試験の評価基準を満たすため、建造物の室内壁として好適である。
【0040】
また、磁性壁材シート10は、トップ層として、アクリル系樹脂材421にアクリル系の微粒子422を内包したコートフィルム40を設けたことにより、入射光がアクリル系の微粒子422の表面で乱反射拡散を起こすようにしている。これにより、すぐ下層に存在する壁材フィルム30における絵柄や模様の下地、つまりインキ層32が艶消し状態となって見えるようになり、壁面11では、光の照り返しによる不快感や、ぎらつき等による意匠性の低下が防止される。また、壁面11をプロジェクタの映写面として使用した場合、映写光が局所的に明るくなるホットスポットの発生を抑制することができ、視線角度によらない見やすい像を映し出すことができるようになる。
【0041】
上述した微粒子422の表面で乱反射拡散を起こさせるという本方式は、壁面にエンボス加工を施すものとは異なり、壁面11における平坦度を高めることができ消去性にも優れる。
【0042】
ところで、このハードマット層42は単体では鉛筆硬度が2Hであるが、最下層にマグネットシート20が配置される積層構造とすることで、6Hという、出願人の予想を遙かに超えた大幅な鉛筆硬度の向上を達成した。その物理的理由については現段階では明確になっていないが、下層に配置された弾力性のあるマグネットシート20がクッションになることにより、壁面11での鉛筆の滑りが悪くなり、硬さが増すのではないかということが考えられる。この硬度により、壁面11の耐擦傷性および消去性がより一層確保される。なお、鉛筆硬度が4H以上であれば、耐擦傷性および消去性の観点からかなり有効である。
【0043】
消去性が良いことから、壁面11には、ホワイトボード用マーカー等の筆記具での書込み消去が自在となる。このため、プロジェクタの映写面として使用した場合、映像とともに書込み可能な壁面とすることができる。また、子供部屋に設置した場合に効を奏する。例えば、磁性壁100の壁面11上に落書き用のホワイトボードを磁着させたときに、子供の習性としてボード面からはみ出して壁面にまで描いてしまうことが多いが、このようにボード面からはみ出して描いてしまった場合でも、壁面11上のインクを容易に消去することができる。
【0044】
このように、磁性壁材シート10は、防耐火性に加え、壁面11に傷のつきにくい耐擦傷性、汚れを容易に消去できる消去性、および、低光沢性の要件を同時に兼ね備えている。
【0045】
その他の優利点としては、次のようなものが挙げられる。
すなわち、磁性壁材シート10は、軟磁性ボード70に接着剤なしで磁力により着脱自在に一体化できることから、壁材シートの張り替えにあたり、熟練した技術や特別な専用工具を要さない。つまり、DIY感覚で誰でも容易かつ短時間で壁材シートのリフォーム作業ができる。
【0046】
また、磁性壁100では、マグネットシート20の背面に軟磁性ボード70を配置することでバックヨーク効果を生じさせて磁力を高める構成とした。
つまり、防耐火性を確保するためマグネットシート20を薄くしたことに起因する磁力の低下を、軟磁性ボード70のバックヨーク効果によってカバーし、十分な磁力、即ち高い表面磁束密度を確保できる。
【0047】
また、着磁ラインが水平方向に平行となるようにマグネットシート20を軟磁性ボード70に磁着させ、壁面11に磁着させる物品として、マグネットシート20と同じ着磁ピッチのマグネットシートを装着したものを用意した場合、物品と壁面11とは、それぞれのマグネットシートにおける縞状の磁極の異極同士が水平状態で磁着しあうようにできる。このとき物品は、着磁ラインに平行な水平方向には、容易にスライドさせることができるが、着磁ラインに直交する鉛直方向には、容易にスライドさせることができない。それ故、物品を容易に水平に固定することが可能になる。
【0048】
また、マグネットシートは勿論、極めて薄い鋼板、具体的には出願人製のスチールペーパー(登録商標)等に印刷した表示物やディスプレイ物を磁力で保持するための壁面として有効である。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上に開示した実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこの実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【0050】
例えば、上述の実施の形態では、マグネットシート20の片側の面だけに壁材フィルム30とコートフィルム40とをこの順で積層した構成としたが、マグネットシート20の両面に上下対象となるように壁材フィルム30とコートフィルム40とを積層することも可能である。なお、この場合、防耐火性の確保できる総厚とする必要がある。この構成によると、例えば両面で互いに異なる意匠を施した場合、つまり異なる絵柄や模様のインキ層32を施した場合に、1枚の磁性壁材シートであっても、壁面11上で裏返すことにより、2種類の壁模様を選択可能な磁性壁材シートとすることができる。
【0051】
また、壁材フィルム30のベースフィルム31は、アルミウム箔等の金属箔としてもよい。この場合、ベースフィルム自体が燃えないため、磁性壁材シート10全体としての防耐火性の効果をより一層高めることができる。
【0052】
また、マグネットシート20の下面、つまり軟磁性ボード70への磁着面と、マグネットシート20の上面および壁材フィルム30の下面の間との少なくとも一方に、厚さが例えば10μ~80μのアルミウム箔等の金属箔を設けてもよい。この場合、マグネットシート20および壁材フィルム30の少なくとも一方が金属箔により面を被覆される形となるので、磁性壁材シート10の全体としての防耐火性の効果をより一層高めることができる。ここで上記範囲の厚さとしたのは、10μ以下では防耐火性向上の効果が期待できず、80μ以上では壁面11での磁気吸着力および軟磁性ボード70との磁気吸着力が弱まる可能性が大きいためである。また、この金属箔を耐腐食性の強いものとすることで、壁材としての耐久年数を向上させることもできる。なお、以上の構成とした場合、磁性壁材シートの総厚は、上記実施形態の総厚よりも、金属箔の分だけ厚くなる。
【0053】
また、上述の実施の形態では、マグネットシート20の表面にフィルム状の各基材をラミネートしたが、塗布液を順次塗布硬化させる形態としてもよい。
【0054】
また、上述の実施の形態では、マグネットシート20とコートフィルム40との間に、インキ層32が予め形成された壁材フィルム30を設けたが、例えば、コートフィルム40におけるベースフィルム41の裏側面、すなわちハードマット層42の非積層側の面にインキ層32を直接形成し、このコートフィルム40をマグネットシート20に接着剤を介して直接に貼着させることも可能である。この構成では、壁在フィルム30を有さずにインキ層32を表示でき、総厚を薄くできるとともに接着剤層が一層分不要となり、その分だけ防耐火性の度合いを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
建造物の室内壁への適用に好適な磁性壁材シートとして幅広く活用できる。
【符号の説明】
【0056】
10 磁性壁材シート
11 壁面
20 マグネットシート
30 壁材フィルム(壁材層)
32 インキ層(装飾層)
40 コートフィルム(表面コート層)
42 ハードマット層
421 アクリル系樹脂材(透明樹脂材)
422 微粒子

図1
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図9