(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】消火剤放出ヘッド用密封カバー体
(51)【国際特許分類】
A62C 31/28 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
A62C31/28
(21)【出願番号】P 2020115789
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-07-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 市原市消防局内での消防局担当者との打ち合わせにおいて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】391026531
【氏名又は名称】轟産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【氏名又は名称】戸川 委久子
(72)【発明者】
【氏名】糴川 直樹
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-275260(JP,A)
【文献】特開2018-65005(JP,A)
【文献】特開平10-99466(JP,A)
【文献】特表2014-525277(JP,A)
【文献】米国特許第6484809(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内を気密状態にするための消火剤放出ヘッド用密封カバー体であって、
天井又は壁面と前記消火剤放出ヘッドによって挟持されて固定される台座部材と、
前記台座部材に係止される、少なくともその一部が透明又は半透明であるカバー部材と、
前記台座部材と前記カバー部材との間に嵌入されるパッキン部材から構成される一方、
前記台座部材は、天井又は壁面に取着される側の一端に底面部を有する有底の筒状の形状をなし、前記底面部には、消火剤放出ヘッドの軸部の直径に対応した孔部が貫設され、底面部の天井又は壁面と接する面には、非通気性素材からなるシーリング部材が配設されており、
前記カバー部材には、その側壁部内面に前記パッキン部材が嵌め込み可能なカバー部材側溝部が設けられる一方、台座部材には、その側壁部外面の前記カバー部材側溝部に対向する位置に台座部材側溝部が設けられることにより、台座部材側溝部とカバー部材側溝部との間にパッキン部材が嵌合し、
カバー部材は、パッキン部材を介して台座部材に係止可能とすることを特徴とする消火剤放出ヘッド用密封カバー体。
【請求項2】
前記カバー部材側溝部の開口側の出隅部、又は前記台座部材側溝部の開口側の出隅部の少なくとも一方に面取りまたは角Rが形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の消火剤放出ヘッド用密封カバー体。
【請求項3】
前記パッキン部材は断面円形のOリングであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の消火剤放出ヘッド用密封カバー体。
【請求項4】
消火剤放出ヘッドから放出される消火剤圧力が0.1MPaを超えたときにカバー部材が台座部材から離脱することを特徴とする、請求項1乃至3
のいずれか一項に記載の消火剤放出ヘッド用密封カバー体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内を気密状態とするために消火剤放出ヘッドを密封するための消火剤放出ヘッド用密封カバー体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の火災等の異常を検知して消火剤を放出するスプリンクラー等の消火設備が知られている。特に、油や化学薬品による火災が想定される建物には、水ではなく泡消火薬剤を消火剤とした消火設備が用いられる。
【0003】
化学薬品を取り扱う研究施設等においては、研究環境内の空気と外気とを遮断した所謂クリーンルームであることも少なくないが、このような環境であっても泡消火設備の設置は必須である。泡消火設備の多くは、複数の消火剤放出ヘッドを天井や壁面に取り付けられ、天井裏や壁面内部に通した空配管によって外部の泡消火薬貯蔵槽と接続される。
【0004】
ここで、消火設備の構築に際しては、所定の面積を一つの区画として構築することが法定されている。しかし、クリーンルームの面積はそれほど大きいものではないのが一般的であるため、泡消火薬貯蔵槽からの空配管を分岐して、クリーンルームのみならず隣接する部屋の消火剤放出ヘッドとも接続して、所定の面積以上の区画とする必要がある。この場合、クリーンルームと隣接する部屋の各消火剤放出ヘッドは共通の空配管を介して接続されることとなる。
【0005】
ところで、クリーンルームは室内の空気と外気とを遮断して塵等を内部に侵入させないよう陽圧(クリーンルーム内の気圧が高い状態)に設定される。そのため、消火剤放出ヘッドを取り付けると、空配管を介して隣接する部屋へ空気が流出してしまい、クリーンルームの気圧を維持することが困難になるという問題点がある。
【0006】
この点、従来において、消火剤放出ヘッドを密封カバーで覆うことで平常時には気密を保ち、火災時には消火剤の放出圧力で密封カバーを離脱させて消火設備として機能することができる技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、この技術では消火剤放出ヘッドの目詰まりや破損を発見するための法定外観検査を行う際、カバー部材が不透明の素材であったため、検査の度に一つ一つカバー部材を取り外して検査する必要があった。特に天井高の高い建物においては足場を組む必要があり、実質的に外観検査を全数行うことが不可能となるという問題があった。
【0008】
また、特許文献1記載の技術において、Oリングとカバー内周面との摩擦力によってカバーを保持する場合には、振動等によってカバーがずれて落下する恐れがある一方、押さえピンによる係合力を併用してカバーを保持する場合には、構造が複雑となりコストが高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
消火設備は、平常時には作動することがないものであるため、例えば地震や環境振動によって気密用のカバー体が外れて落下すると人に当たって怪我をする危険性がある。一方、火災等の異常時には確実にカバー体が離脱しなければ、消火設備としての機能を果たすことができない。また、消火剤放出ヘッドの外観検査を確実に行うことができないと、同様に消火設備としての機能を果たすことができない。加えて、ひとつの建物に対する消火剤放出ヘッドの設置数量が多いため、カバー体としての製造コストが安価であることも求められる。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、消火剤放出ヘッドを介した空気の移動を防止すると共に、異常時にはカバー体が離脱して消火剤の放出を妨げず、消火剤放出ヘッド等の外観検査も容易に行う事ができ、製造コストも安価な消火剤放出ヘッド用密封カバー体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を説明すれば次のとおりである。
【0013】
即ち、本発明の消火剤放出ヘッド用密封カバー体は、台座部材と、前記台座部材に係止されるカバー部材と、前記カバー部材と台座部材との間に嵌入されるパッキン部材とから構成される。
【0014】
ここで、前記台座部材は、天井又は壁面(以下、「天井等」)に取着される側の一端に底面部を有する有底の筒状とした。また、台座部材を、天井等と消火剤放出ヘッドによって挟持して天井等に固定するため、前記台座部材の底面部には消火剤放出ヘッドの軸部の直径に対応した大きさの孔部を貫設し、前記底面部の天井等と接する面には非通気性素材からなるシーリング部材を配設した。
【0015】
さらに、前記カバー部材は、少なくとも一部が内部を視認可能な透明乃至半透明に構成される。また、カバー部材の側壁部を台座部材の側壁部と嵌合させるにより、台座部材を被覆することができる。ここで、台座部材の側壁部外面と、カバー部材の側壁部内面とに、それぞれ対向する位置に台座部材側溝部とカバー部材側溝部とを設けるとともに、台座部材側溝部とカバー部材側溝部との間にパッキン部材を嵌め込む。
【0016】
そして、これらカバー部材側溝部と台座部材側溝部との間にパッキン部材を嵌合させたことによって、カバー部材がパッキン部材を介して台座部材に係止可能とすることに特徴がある。
【0017】
また、本発明においては、前記カバー部材側溝部の開口側の出隅部、又は前記台座部材側溝部の開口側の出隅部の少なくとも一方に面取りまたは角Rを形成することもできる。
【0018】
さらに、前記パッキン部材を断面円形のOリングとすることもできる。
【0019】
一方、消火剤放出ヘッドから放出される消火剤圧力が0.1MPaを超えたときに、カバー部材を台座部材から離脱するものとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、カバー部材と台座部材との間にパッキン部材を配設したことによって、カバー部材内外の空気を遮断し、カバー部材内部に配置された消火剤放出ヘッドを介した室内空気の外部への移動を防止することができるという効果がある。
【0021】
また、台座部材の底面部に貫設した孔部に消火剤放出ヘッドの軸部を挿通して、天井等の裏側で当該軸部を固定することにより、台座部材が天井等と消火剤放出ヘッドとに挟持された状態で固定される。このとき、底面部の天井等と接する面にシーリング部材を配設したことにより、シーリング部材が潰されて台座部材と天井等との隙間が埋まることとなり、台座部材と天井等との隙間からの空気の移動を防止することができるという効果がある。
【0022】
一方、カバー部材を台座部材に取り付ける際には、カバー部材の少なくとも一部を透明乃至半透明としたことにより、カバー部材と台座部材との間のパッキン部材が捩じれたりはみ出したりしたとしても、外部から容易に確認することができる。そのため、パッキン部材を取り付け直すことができ、カバー部材の取着後に室内空気が漏洩する可能性を低減することできる。
【0023】
また、台座部材の側壁部の外面に設けた台座部材側溝部と、カバー部材の側壁部の内面に設けたカバー部材側溝部との間にパッキン部材を嵌合させることで、カバー部材がパッキン部材を介して台座部材に係止される。これにより、係止用の追加部品や複雑な構造を必要とすることなく、カバー部材内外の気密を保つと同時にカバー部材を保持することが低コストで可能となる。
【0024】
他方、消火設備設置後の法定外観検査においては、カバー部材の少なくとも一部を透明乃至半透明としたことにより、カバー部材内部の消火剤放出ヘッドの目詰まり等の不具合の有無を、カバー部材を取り外すことなく、透明のカバー部材を透かして目視により確認して発見することが可能となる。
【0025】
詳述すると、カバー部材の少なくとも一部を透明乃至半透明としたことにより、その透明乃至半透明部分を透かして、消火剤放出ヘッドの状態を外観目視して確認できる。これにより、消火剤放出ヘッドに目詰まりや消火剤漏れ等の異常がないかどうかを遠目で容易に視認できるため、消火剤放出ヘッド等消火設備の全数検査が迅速適切に実施できることになる。
【0026】
また、カバー体を透かしての外観目視による点検確認が可能なので、天井が高い場所での検査においても、わざわざ足場を設置する必要もなく、消火設備検査にかかる時間やコストを大幅に削減できる。
【0027】
詳述すると、パッキン部材は、対向配置されるカバー部材側溝部と台座部材側溝部とによって形成される空間内に、両溝部の底面同士によって押し潰された状態で配置されることとなる。そのため、潰されたパッキン部材によってカバー部材内外の空気を気密に保つと同時に、振動等によってカバー部材が台座部材から離脱する方向に力が掛かったとしても、カバー部材側溝部の開口側の壁部がパッキン部材に係止され、パッキン部材は台座部材側溝部の開口側の壁部に係止される。これによって抜け止めの効果が生じることになり、カバー部材が容易に離脱することなく保持することができる。なお、逆にカバー部材を天井等側に押し付ける方向の力が掛かった場合であっても、カバー部材側溝部の開口側と逆側の壁部がパッキン部材に係止され、パッキン部材は台座部材側溝部の底面部側の壁部に係止されるため、カバー部材が押し込まれすぎてパッキン部材がずれてしまうことなく、正しい位置に保持することができる。
【0028】
このように、カバー部材及び台座部材において、溝部を形成する切削加工によって密閉機構とカバー部材の係止機構を同時に構成することができるため、切削や貼り合わせ等の単純な加工方法のみでカバー部材及び台座部材を製造することができる。そのため、係止用の追加部品を必要としないばかりか、係止爪等の複雑な形状を形成する場合に必要となる射出成形用金型等の初期投資もほとんど必要が無く、製造コストを安価に抑えることができる。
【0029】
一方、火災等の異常時には、消火剤の放出圧力によってカバー部材が台座部材から離脱する方向に強い力が掛かることとなる。そのため、カバー部材の側壁とパッキン部材が互いに弾性的に変形してカバー部材側溝部からパッキン部材が乗り上げる結果、カバー部材が台座部材から離脱して落下し、消火剤を火元に向かって放出することができる。
【0030】
また、カバー部材側溝部及び台座部材側溝部の深さはパッキン部材の適切な潰し量とするためには所定の深さを要する反面、深くなるほどカバー部材側溝部及び台座部材側溝部の壁部とパッキン部材との係り代が大きくなり、消火剤の放出圧力でカバー部材が離脱できない場合がある。そのため、カバー部材側溝部の開口側の出隅部、又は台座部材側溝部の開口側の出隅部の少なくとも一方に面取りまたは角Rを形成することによって、パッキン部材の適正な潰し量を確保すると同時に、実質的なカバー部材側溝部及び台座部材側溝部の壁部とパッキン部材との係り代を減らすことができ、火災等の異常時には確実にカバー部材を離脱させることが可能となる。
【0031】
さらに、パッキン部材を断面円形のOリングとすることによって、カバー部材が離脱するときに、角の無い円形のOリングの表面に沿って摺動するようにしてカバー部材側溝部からOリングが乗り上げて外れるため、Oリングを強く潰して確実な密閉を確保したとしても、消火剤の放出圧力で確実にカバー部材を離脱させることができる。
【0032】
加えて、消火剤放出ヘッドから放出される消火剤圧力が0.1MPaを超えたときにカバー部材を台座部材から離脱するようにすることで、消火剤の放出圧力に多少のばらつきがあったとしても確実にカバー部材を離脱させることができる一方、平常時における地震や環境振動によってカバー部材が落下してしまうことを防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明における実施例の消火剤放出ヘッド用密封カバー体を表す正面図及び平面図である。
【
図2】本発明における実施例の台座部材を表す正面図及び断面図である。
【
図3】本発明における実施例のカバー部材を表す正面図及び断面図である。
【
図4】本発明における実施例のパッキン部材を表す正面図及び断面図である。
【
図5】本発明における実施例のカバー部材の離脱の様子を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施例について、
図1~
図5に基づいて説明する。なお、本発明はこれらの図面に示す態様に限定されるものではない。
【0035】
本実施例における消火剤放出ヘッド用密封カバー体1は、
図1に示すように、台座部材2と、台座部材2に取着されるカバー部材3と、カバー部材3と台座部材2との間に配設されるパッキン部材4とから構成されている。
【0036】
この消火剤放出ヘッド用密封カバー体1は、公知の泡消火設備用の消火剤放出ヘッド5(所謂フォームヘッド)を天井6に取り付ける際、台座部材2を消火剤放出ヘッド5と天井6とで挟持するように取着し、カバー部材3を台座部材2に係止することによって、消火剤放出ヘッド5が台座部材2とカバー部材3とによって被覆された状態となる(
図5(a)参照)。詳細は後述する。
【0037】
また、本実施例における消火剤放出ヘッド用密封カバー体1は、全体が軸対称の円筒形状をしており、方向性を持たないため天井等への設置に際して向きを気にすることなく取り付けることが可能である。したがって設置に際して向きを揃える手間が不要となり、設置工数を低減することができる。
【0038】
消火剤放出ヘッド用密封カバー体1は、例えばクリーンルームの天井等に消火剤放出ヘッド5を取り付ける際に用いられ、クリーンルームの室内空気が消火剤放出ヘッド5を介して漏洩するのを防ぐと共に、火災等の異常時には消火剤52の放出圧力でカバー部材3を離脱させて、消火剤が火元へ放出されるのを妨げないようにすることができるものである。
【0039】
本実施例における台座部材2は、
図2に示すように、一端に底面部21を有する有底の円筒形状であり、本実施例では加工がしやすく安価なポリ塩化ビニールを素材として用いている。素材は加工性が良く安価であればその他の樹脂や金属等種々の素材を用いることもできるが、不燃性の素材であればより好ましい。
【0040】
台座部材2の大きさは、円筒内に消火剤放出ヘッド5を内包させることができる大きさとする必要があるが、大きすぎると消火設備用カバー体1としての重量が重たくなるうえ、外観上も目立ってしまうため、消火剤放出ヘッド5よりも一回り程度大きいものとするのが好ましい。本実施例では、外径を約φ85mm、高さを約40mmとしている。
【0041】
また、底面部21の中央には所定の大きさの孔部22が貫設されている。この孔部22は消火剤放出ヘッド5の軸部51を挿通させることを目的としているため、孔部22の直径は軸部51の直径に対応した大きさとする必要がある。本実施例では約φ27 mmとしている。
【0042】
さらに、底面部21の天井6と接する側の面には、シーリング部材23が配設されている。このシーリング部材23は、台座部材2を天井6に取り付ける際に底面部21と天井6との間に挟持されて隙間を埋め、室内空気が天井裏へ漏洩するのを防ぐ役割がある。したがって、シーリング部材23は非通気性素材でなければならず、本実施例ではゴムを用いているが、独立気泡の発泡ウレタン等を使用することもできる。
【0043】
また、シーリング部材23は天井6に開けた孔を囲むように配設する必要があるため、本実施例では、ゴムの板材を中空円盤形に打ち抜いたものを、孔部22と同芯となるように底面部21に両面テープで貼設している。
【0044】
一方、台座部材2の側壁部24の外周側には、周方向に亘り台座部材側溝部25が設けられている。この台座部材側溝部25はパッキン部材4を取着させるための溝であり、溝の深さは要求されるカバー部材3の離脱力によって適宜調整可能である。本実施例において、台座部材側溝部25は台座部材2の側壁部24の開口側寄りの位置に形成されているが、底面部21寄りの位置に形成されていてもよい。
【0045】
本実施例における台座部材側溝部25の断面形状は、台座部材側溝部25の壁部が底面部に対して垂直であるコの字型を採用しているが、壁部が底面部に対して鋭角(開口部の幅が底面部の幅よりも狭い)や、壁部が底面部に対して鈍角(開口部の幅が底面部の幅よりも広い)であってもよい。
【0046】
本実施例におけるカバー部材3は、
図3に示すように、台座部材2同様有底の円筒形状であり、内部を視認可能な透明乃至半透明の構成としている。本実施例では、素材として透明性を有し安価であるポリメタクリル酸メチル樹脂を用いているが、内部が視認出来る色調であればその他の素材でもよいが、消火剤52の放出圧力で台座部材2から離脱させるために、適度に弾性を有する素材である必要がある。なお、素材の色に関しては一部のみ(例えば底面部のみ)が透明乃至半透明であってもよい。
【0047】
このように、カバー部材3の少なくとも一部を、内部を視認可能な透明乃至半透明としたことにより、消火設備設置後の法定外観検査において、カバー部材3内部の消火剤放出ヘッド5の目詰まりや、カバー部材3内に消火剤52が漏れ出る等の不具合の有無を、カバー部材3を外すことなく発見することが可能となる。また、カバー部材3を取り付ける際に、パッキン部材4が捩じれたりはみ出したりしたとしても、外部から容易に確認することができるため、直ちにパッキン部材4を取り付け直す等して、空気漏れの発生を防止することができる。
【0048】
カバー部材3は、カバー部材3の側壁部31の内周側が、台座部材2の側壁部24の外周側と嵌合することになるため、カバー部材3の側壁部31の直径は、台座部材2の側壁部24の直径よりも若干大きくする必要があり、本実施例では、内径を約φ88mm、高さを約80mmとしている。
【0049】
また、カバー部材3の側壁部31の内周側には、周方向に亘りカバー部材側溝部32が設けられている。このカバー部材側溝部32は台座側溝部25に取着されたパッキン部材4を嵌合させるための溝であり、溝の深さは台座側溝部25同様、要求されるカバー部材3の離脱力によって適宜調整可能である。
【0050】
このカバー部材側溝部32は、カバー部材3を台座部材2に被覆させた状態において、台座部材側溝部25と対向する位置となるように形成される必要がある。したがって、パッキン部材4は、対向配置されるカバー部材側溝部32と台座部材側溝部25とによって形成される空間内に配置されることとなる。
【0051】
また、本実施例におけるカバー部材側溝部32の断面形状は、カバー部材側溝部32の壁部が底面部に対して垂直であるコの字型を採用しているが、台座部材側溝部25同様、壁部が底面部に対して鋭角(開口部の幅が底面部の幅よりも狭い)や、壁部が底面部に対して鈍角(開口部の幅が底面部の幅よりも広い)であってもよい。
【0052】
さらに、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33には、所定の大きさの面取りが形成されている。カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の深さは、浅すぎるとパッキン部材4の潰し量が大きくなりすぎてしまい、摩擦が強くなって消火剤52の放出圧力ではカバー部材3が離脱できなくなる。逆に深すぎると摩擦は弱くなる一方、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の壁部とパッキン部材4との係り代が大きくなり、同様に消火剤52の放出圧力ではカバー部材3が離脱できなくなる。
【0053】
そこで、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の深さをある程度深くして、密閉に必要な最小限度のパッキン部材4の潰し量にすると同時に、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33に面取りを形成することにより、実質的なカバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の壁部とパッキン部材4との係り代を減らすことができ、火災等の異常時には確実にカバー部材3を離脱させることが可能となる。なお、出隅部33の面取りは、角Rであってもよい。
【0054】
本実施例におけるパッキン部材4は、
図4に示すように、断面円形のOリングを用いている。本実施例では天然ゴム製のOリングを用いているが、そのほかにもEPDMやシリコーンなど種々の素材のOリングを用いることができる。
【0055】
ここで、パッキン部材4は種々の断面形状のものを採用することができるが、本実施例では断面円形のOリングを用いている。これによって、カバー部材3が離脱するときに、角の無い円形のOリング表面を滑るようにしてカバー側溝部32からOリングが乗り上げて外れるため、Oリングを潰して確実な密閉を確保したとしても、消火剤52の放出圧力で確実にカバー部材3を離脱させることができる。本実施例では、断面直径約φ3.1mm、内径約φ119.4mmのOリングを用いている。
【0056】
次に、本実施例におけるカバー部材3の離脱のメカニズムについて、
図5(a)(b)に基づいて説明する。
図5(a)は、消火剤放出ヘッド用密封カバー体1を消火剤放出ヘッド5に被覆した状態で天井6に取付けられた様子を表している。なお、本図は軸対称であるため半分を省略して表示した断面図である。
【0057】
消火剤放出ヘッド5の天井6への取付けに際しては、まず、予め台座部材2にパッキン部材4及びシーリング部材23を取着し、台座部材2の孔部22に消火剤放出ヘッド5の軸部51を台座部材2の円筒部側から挿通する。そして、天井6に貫設した孔に軸部51を挿通し、天井裏で軸部51を継手7によって固定し、空配管(図示せず)と接続する。これにより、台座部材2が消火剤放出ヘッド5と天井6とで挟持された状態となって固定される。
【0058】
次にカバー部材3を開口部側から台座部材2に被覆させる。ここで、カバー部材3を押し込む際に、パッキン部材4が台座部材側溝部25から乗り上げて外れてしまうのを防ぐために、カバー部材3を回転させながら台座部材2に被覆させるのが好ましい。なお、必要に応じてOリングにグリス等の潤滑剤を塗布してもよいが、カバー部材3の離脱力が所定の範囲を逸脱しないように留意する必要がある。
【0059】
ここで、カバー部材3は全体が透明性のあるポリメタクリル酸メチル樹脂を用いているため、カバー部材3を取着した際にパッキン部材4が捩じれたり、台座部材側溝部25から乗り上げて外れてしまったりしても、外部から視認することができ、パッキン部材4を取り付け直すことができるため、カバー部材3の取着後に室内空気が漏洩する可能性を低減することできる。
【0060】
このようにして取着された消火設備用カバー体1は、
図5(a)に示すように、台座部材2と天井6との隙間はシーリング部材23によって、またカバー部材3と台座部材2との隙間はパッキン部材4によって、室内空気と外気とが遮断された状態とすることができる。
【0061】
消火剤放出ヘッド用密封カバー体1を取着した状態においては、平常時には消火液放出ヘッド5から消火剤52が放出されることはないが、カバー部材3の自重若しくは環境振動等によってカバー部材3が床面側にずれようとすることがある。この場合であっても、パッキン部材4が、対向配置されるカバー部材側溝部32と台座部材側溝部25とによって形成される空間内に配置されているため、パッキン部材4と両溝部間に摩擦力が掛かると共に、カバー部材側溝部32の開口側の壁部がパッキン部材4に係止され、パッキン部材4は台座部材側溝部25の開口側の壁部に係止される。したがって、他の追加部品等を要することなく、パッキン部材4が密閉と抜け止めの作用を同時に果たすことによりカバー部材3が容易に離脱することなく保持することが可能となる。
【0062】
一方、火災等の異常時には、
図5(b)に示すように、消火液放出ヘッド5から消火剤52が放出される。このとき消火剤放出ヘッド5はカバー部材3で被覆されているため、放出された消火剤52は一時的にカバー部材3の内部に貯留することになる。しかし、同時に消火剤52の放出圧力によって、カバー部材3には、床面側にずれようとする大きな力が掛かることとなる。
【0063】
このとき、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33がパッキン部材4の表面に沿って摺動することによって、カバー部材3の側壁部31が若干開くように弾性的に変形すると同時にパッキン部材4が大きく潰れるように弾性的に変形する。これによって、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33がさらにパッキン部材4の表面に沿って摺動しやすくなるため、最終的にパッキン部材4がカバー側溝部32から乗り上げて外れ、カバー部材3が土台部材2から離脱して落下し、消火剤52が火元に向かって放出されることとなる。
【0064】
本実施例では、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33に面取りを形成しているが、面取りが無い場合には、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の深さを深くすると、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の壁部とパッキン部材4との係り代が大きくなりすぎてしまい、所定の放出圧力(本実施例では0.1MPa)を超えたときに離脱させることができなくなってしまう。ところが、係り代を小さくするためにカバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の深さを浅くすると、パッキン部材4の潰し量が大きくなりすぎてしまい、パッキン部材4と両溝部間の摩擦力が大きくなり、同様に所定の放出圧力を超えたときに離脱させることができなくなってしまう可能性がある。
【0065】
したがって、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の壁部とパッキン部材4との適切な係り代と、パッキン部材4の適切な潰し量を両立させるため、カバー部材側溝部32及び台座部材側溝部25の所定の深さを確保すると共に、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33に面取りを設けている。なお、台座部材側溝部25の開口側の出隅部26にも面取りを形成してもよいが、カバー部材側溝部32の開口側の出隅部33、又は台座部材側溝部25の開口側の出隅部26の少なくとも一方に面取りが形成されていることが好ましい。
【0066】
台座部材側溝部25の開口側の出隅部26に面取りが形成されている場合には、台座部材側溝部25の開口側の出隅部26がパッキン部材4の表面に沿って摺動することによって、カバー部材3の側壁部31が若干開くように弾性的に変形すると同時にパッキン部材4が大きく潰れるように弾性的に変形する。これによって、台座部材側溝部25の開口側の出隅部26がさらにパッキン部材4の表面に沿って摺動しやすくなるため、最終的にパッキン部材4が台座部材側溝部25から乗り上げて外れ、パッキン部材4が取着したままの状態のカバー部材3が土台部材2から離脱して落下し、消火剤52が火元に向かって放出されることとなる。
【0067】
一方、別の形態として、カバー部材側溝部32を境に開口側の側壁部31の内径を、底面側の側壁部31の内径よりも大きく形成することもできる(図示せず)。
【0068】
このように、カバー部材側溝部32の深さを充分に深くして、密閉に必要な最低限のパッキン部材4の潰し量を確保すると同時に、開口側の側壁部31の内径を大きくすることにより、実質的なカバー部材側溝部32の壁部とパッキン部材4との係り代を減らすことができる。これにより、火災等の異常時に所定の放出圧で確実にカバー部材3を離脱させることが可能となる。
【0069】
また、カバー部材3を開口部側から台座部材2に被覆させる際にも、開口側の側壁部31の内径が大きいことにより、パッキン部材4の潰し量が少なくて済むため、軽い力で被覆させることができる。
【0070】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施の形態に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、パッキン部材は断面楕円形や断面異形のものであってもよい。
【0071】
また、台座部材やカバー部材は円筒形でなく、矩形や楕円の筒形状であってもよく、いずれも本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0072】
1 消火剤放出ヘッド用密封カバー体
2 台座部材
21 底面部
22 孔部
23 シーリング部材
24 台座部材の側壁部
25 台座部材側溝部
26 台座部材側溝部の開口側の出隅部
3 カバー部材
31 カバー部材の側壁部
32 カバー部材側溝部
33 カバー部材側溝部の開口側の出隅部
4 パッキン部材
5 消火剤放出ヘッド
51 軸部
52 消火剤
6 天井
7 継手