(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】インクジェット印刷プロセス
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20240219BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20240219BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240219BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240219BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D1/36 Z
B05D7/24 301M
B05D7/24 303E
H01L21/30 502D
C23C28/00 E
(21)【出願番号】P 2021523052
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2019079049
(87)【国際公開番号】W WO2020084066
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-19
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】516296566
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー・(エルアイエスティ)
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ゴダール,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】セート,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】グリンセック,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ディファイ,エマニュエル
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/202576(WO,A1)
【文献】特開2014-175308(JP,A)
【文献】特開2017-157835(JP,A)
【文献】Nicolas Godard, et al.,Self-assebled monolayer-assisted inkjet printing of PZT films on Platinized silicon,COST TO-BE Spring Meeting,2017年04月05日,p.1, 20-21,https://easychair.org/smart-program/COSTTO-BESpringMeeting2017/2017-04-05.html
【文献】町田治、外2名,薄膜ピエゾのIJP塗布工法技術,Ricoh Technical Report,2012年12月,No.38,p.88-93
【文献】奥山雅則,機能性材料と電子デバイス応用の現状と展望,Panasonic Technical Journal,2009年07月,Vol.55,No.2,p.33-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 5/00-21/00
B05C 5/00-21/00
B41J 2/01-2/215
C09D 1/00-201/00
C23C 28/00
H01L 21/027
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のインクジェット印刷プロセスであって、
(a)自己組織化単分子膜(SAM)を
SAMインクを用いて前記基板上に堆積する工程と、
(b)前記SAMの境界内に材料を印刷する工程と、
を含み、
前記材料は、
Fe、K、Nb、Ta、および/またはNdが添加されたPZT、
BiFeO
3または(Bi,Re)FeO
3であって、Reは、La、Nd、Sm、E
uの希土類金属である、BiFeO
3または(Bi,Re)FeO
3
(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3または(Bi
0.5K
0.5)TiO
3、及び、これらの固溶体、これらのBaTiO
3との固溶体、
(K,Na)NbO
3、(K,Na,Li)(Sb,Ta,Nb)O
3、及び、これらの(Bi
0.5Na
0.5)TiO
3およびBaTiO
3との固溶体、
Al
2O
3、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、ZnO、または、Alが添加されたZnOのいずれか、
HfO
2-ZrO
2、CrO
2、VO
2、CuO、Fe
2O
3、Fe
3O
4、IrO
2、BaO、SrO、MgO、Y
2O
3、CeO
2、CS
2O、WO
3、MoO
3、または、RuO
2のいずれの固溶体、
Y、Si、Sr、La、Gd、および/または、Alが、添加されたHfO
2、
In
2O
3またはSnO
2、または、In
2O
3及びSnO
2の固溶体、
LaNiO
3またはSrRuO
3、
のうち、少なくともいずれか一つを含む組成物であり、
工程(a)および工程(b)はともにインクジェット印刷によって実行される、ことを特徴とする、印刷プロセス。
【請求項2】
SAMインクは、アルコール類およびエーテル
類の溶媒混合液内のチオー
ルである組成物であり、
前記基板は、少なくと
もPt、Au、Cu、Ir、Pd、Ruからなる群の
貴金属を含む、高い表面エネルギーを有する材料からなる、ことを特徴とする、請求項1に記載の印刷プロセス。
【請求項3】
前記SAMインクの前記溶媒混合液は、60vol%~90vol
%の2-メトキシエタノールと
、残りのvol%のグリセリンとからなる、ことを特徴とする、請求
項2に記載の印刷プロセス。
【請求項4】
前記チオールは、溶媒
混合液中、0.1M~0.00001
Mの1-ドデカンチオールである、ことを特徴とする、請求項2または3に記載の印刷プロセス。
【請求項5】
前記材料は、0.2Mのエチレングリコールおよびグリセリンで希釈
することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の印刷プロセス。
【請求項6】
前記印刷プロセスは、
(c)乾燥と、
(d)熱分解と、
(e)結晶化と
、
の工程を更に含み
、
前記工程(b)の後に、記載の順番で行われる、ことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の印刷プロセス。
【請求項7】
前記工程(a)乃至前記工程(d)は、記載の順番で、一回以上、繰り返して実施(1サイクル)され、
前記工程(e)は、nサイクルごとに、前記工程(d)の後に実施され、
nは、1以上であり、
これにより、複数の機能材料膜が前記基板上に印刷される、ことを特徴とする、請求項6に記載の印刷プロセス。
【請求項8】
前記SAMおよび/または前記材料は、
1mPa.s~15mPa.sの範囲である粘度と、
20mN/m~40mN/mの範囲である表面張力と
を流動学的特性として有する、ことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の印刷プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上機能材料のインクジェット印刷の分野に関する。本発明は、好ましくは、マイクロシステム、例えば、少なくともその一部が、白金めっき加工の施されたシリコンからなる基板に印刷を施すことを目的とする。
【背景技術】
【0002】
高い表面エネルギーを有する材料上に、機能材料、特に、機能酸化物の印刷をする際、付着した地点にインク滴がとどまらず、インクが材料表面から広がってしまうという問題があった。
【0003】
インクの広がりへの対応策策として、まず、バリア性蒸着によって印刷面を形成し、その後、印刷材料を塗布することで、インクが広がることなく、バリア境界内にとどまるようにした。
【0004】
第1の工程であるバリア性蒸着は、基板上にテンプレートを形成することから、一般的に、「テンプレート」と称される。
【0005】
関連文献では、インクの広がりを制限する方法として、主に二つの手法、つまりハードテンプレートおよびソフトテンプレートが提案されている。ハードテンプレートは、リソグラフィでパターン化された型のような、物理的バリアであり、ソフトテンプレートは、自己組織化単分子膜(SAM)等の化学バリアである。本発明では、後者に焦点を当てる。
【0006】
ソフトテンプレートの堆積は、特許文献1で記載されているようなフォトリソグラフィによってなされることが知られている。表面全体がSAMによって覆われ、フォトリソグラフィ過程において、印刷領域からSAMが取り除かれる。代替技術として、マイクロコンタクト印刷(非特許文献1参照)が挙げられる。これは、フッ化チオール溶液に浸したポリジメチルシロキサン製スタンプを基板に押し当てるものである。
【0007】
アルカンチオール自己組織化単分子膜(SAM)は、金、白金、銅、パラジウム、イリジウム、ルテニウム等の貴金属に接着可能である。表面露出炭化水素鎖により、表面エネルギーが低減し、表面が「疎水性」あるいは「疎インク性」(撥インク性)を発揮する。
【0008】
SAM堆積工程の後、所望の機能材料での印刷工程を実施する。これは、インクジェット印刷である場合が多い。
【0009】
つまり、既知の技術では、二種類の技術、つまり、第1の工程(SAM堆積)を実施する第1の技術、および第2の工程(インク堆積)を実施する第2の技術(つまり、インクジェット印刷)が採用されている。
【0010】
この二種類の技術を採用するにあたり、欠点も多い。例えば、第1の工程と完全に合致するよう、第2の工程で基板の位置合わせを正確に行わなければならず、困難を極める。さらに、実用性に欠け、時間と費用がかかり、前駆体を消費する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】H.Leeほか「マイクロシステム技術研究所(Microsystems Technology Laboratories、MTL)年次研究報告集」マテリアル(materials、MS)15頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題点を克服しながら、高い表面エネルギーを有する基板上に、機能材料を印刷する既知のプロセスを改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、インクジェット印刷のみを基本としたプロセスによって、解決に導くことができる。換言すれば、基板テンプレートおよび材料印刷は、ともに同じ技術によってなされる。これは、インクジェットプロセスでの印刷に適したSAM前駆体インクが開発されたことによって可能になったもので、機能材料印刷の分野における既知のSAMでは、こうした特性は持ち合わせていなかった。
【0015】
こうしたSAM前駆体インクの開発により、コスト面、時間面で効率化がすすみ、テンプレート工程後に基板を再配置する必要がなくなった。その結果、印刷の正確さが大幅に改善された。
【0016】
上述の課題は、さらに、2-メトキシエタノールおよびグリセリンの溶媒混合液中の1-ドデカンチオールである、SAM前駆体インクの組成物によっても解決に導かれる。一般的に、アルカンチオールは、基板への付着に特に適したものであるが、グリセリンとの混合により、SAM前駆体インクは、インクジェットによる印刷に適したものとなる。特に、この溶媒混合液は、SAM前駆体インクの粘度を左右するもので、粘度は、インクジェットカートリッジ内にSAM前駆体インクが収容され、適切な大きさの液滴が形成され、基板に付着するよう、調整される。グリセリンの粘性は既知の特性であるが、特に、液滴噴射による印刷との関連が深い。インクジェットプロセスにおいて、SAM前駆体インクはまた、溶媒蒸気圧が高くなるような温度とする。沸点の低すぎる溶媒の場合、本来の役割を果たさないまま蒸発してしまう。沸点の高い溶媒とともに構成されている点が、本発明のSAM前駆体インク組成物の特筆すべき事項であり、これにより、SAM前駆体インクが、インクジェット印刷に適したものとなっている。
【0017】
上述した課題は、上記組成物を収容した、印刷機用カートリッジによっても、解決に導かれる。
【0018】
本発明はまた、本発明に係る印刷方法に含まれる工程を実施する際に、このカートリッジを単体で、あるいは、機能材料を収容するカートリッジと組み合わせたキットとして使用することに関する。
【0019】
本発明はまた、本発明のプロセスにより得られる製品に関する。後述のように、インクジェット印刷のみを基本としたプロセスを使用することで、本発明の印刷プロセスによって少なくとも一部が作製されたマイクロシステム等の最終製品が得られる。
【0020】
印刷プロセス
本発明によれば、印刷プロセスは、請求項1に記載される。
【0021】
好ましい実施形態において、このプロセスは、以下に記載の工程のうち少なくとも一つをさらに含む。
(c)乾燥
(d)熱分解
(e)結晶化
また、好ましくは、これらすべての工程が、工程(b)の後に、記載の順番で行われる。
これらの工程により、SAM材料を除去し、印刷機能材料を合成する。3つの工程全てが実施されると、アニール工程にうつる。
【0022】
乾燥・熱分解・結晶化の工程としては、130゜Cで3分間の乾燥、350゜Cで8分間の熱分解、そして700゜Cで5分間の結晶化が実施される。乾燥の第2の工程として、約250゜Cで約3分間の乾燥を任意で実施してもよい。各工程の温度および時間は、機能材料の性質および層の厚み(つまり、印刷液滴の密度)に依存する。同様の効果を得るにあたり、これらの値をどの程度変化させるかについて、当業者であれば知り得る範囲であろう。また、所定の機能材料において、同様の効果を得るにあたり、(逆比例的に)温度および時間を変更してもよい。例えば、周囲温度での乾燥も可能だが、その場合、3分間よりも大幅に長い時間がかかってしまう。
【0023】
好ましくは、機能材料層の厚みは、5nm~500nm、好ましくは、30nm~150nm、より好ましくは、50nm~90nm、最も好ましくは、約70nmである。層の厚みは、工程(b)で印刷される液滴の密度に左右される。機能材料の液滴は、基板上で断続的に広がるため、5nmより薄い層の場合、広がらない。500nmよりも厚い層の場合は、乾燥工程でひび割れが起こる可能性がある。
【0024】
好ましい実施形態では、工程(a)乃至(d)は一回以上、繰り返して実施(1サイクル)される。工程(e)は、nサイクルごとに、工程(d)の後に実施される。ここで、nは、1以上、好ましくは、n=3またはn=4である。いうまでもなく、結晶化工程は、各サイクル後の実施が必須ではない。このマルチサイクル、あるいはマルチレイヤープロセスにより、より厚みのある機能材料膜が形成される。
【0025】
アニールプロセスにより、SAMは分解、あるいは除去される。したがって、新たに堆積する際は、事前にSAMを再度形成する必要がある。
【0026】
液滴の体積は、1pL~20pL、好ましくは、10pL~12pLである。
【0027】
機能材料堆積密度は、100滴/mm2~7,000滴/mm2、好ましくは、数百滴、より好ましくは、700±50滴/mm2である。
【0028】
SAM堆積密度は、基板に堆積した際、二つの連続した液滴間の距離が、液滴直径の40%未満であるよう調整される。これにより、隣接する液滴同士が重なることによって、縁がのこぎり歯形状のようなってしまうことが防げる。言うまでもなく、二つの連続した液滴間の距離が気次回ほど、連続した縁が形成される。
【0029】
液滴は、1秒あたり数千滴、つまり、1秒あたり1,000~200,000滴、好ましくは、1秒あたり1,000~20,000滴、最も好ましくは、1秒あたり1,000滴の速度で堆積される。
【0030】
SAMの堆積によって画定されるテンプレートパターンは、所望の形状、フォルム、サイズを有し得る。本適用例では、好ましい実施形態として、正方形の格子状パターンが説明されているが、円形やランダムな輪郭線を有する任意の形状であってもよい。テンプレートの単位としては、10μmから数センチメートルであってもよい。本発明に係る方法は、この点に関して特に柔軟である。
【0031】
特に好ましい実施形態に係る印刷方法において、乾燥・熱分解・結晶化の工程の少なくとも一つは、印刷機内で実行される。したがって、二つの連続した層の印刷間に基板をハンドリングする必要がない。これを実現するために、装置は、IR-加熱手段、レーザ、フォトニックアニール、または任意の既知の加熱手段等の加熱手段を備える。装置は、加熱時の温度に耐えうるように構成される。基板を隔離する熱シールドや取外し可能なオーブンが設けられていてもよい。工程を実行中は、インクを含むプリンタヘッドは、加熱される基板から離れた箇所に位置していることが好ましく、これにより、インクの質低下リスクが抑えられる。
【0032】
他の実施形態において、印刷方法はカートリッジを活用しない。印刷機は、複数の槽を備え、各槽には、アルカンチオール、グリコールエーテル、エチレングリコール、グリセリン、機能材料の原液組成物のうちの一つが収容される。原液組成物は、所望の比率で二つの混合室に供給され、一方の混合室ではSAM前駆体インクの組成物が、他方の混合室では機能材料インクの組成物が得られる。これらの二つの(最終)組成物は、その後、プリンタヘッドに供給される。これにより、頻繁にカートリッジを交換する必要がなくなるため、装置へのリフィルが容易になる。また、この配置を採用することで、空のカートリッジを交換するために装置を停止させる必要がなく、印刷を続けることができる。
【0033】
SAM前駆体インクの組成物
SAM前駆体インクとして使用される組成物は、アルコール類およびエーテル類、好ましくは、グリコール類、グリコールエーテル類、ポリオール類、ポリオールエーテル類、より好ましくは、2-メトキシエタノールおよびグリセリンの溶媒混合液内のチオール、好ましくは、アルカンチオール、より好ましくは、1-ドデカンチオールである。そして、基板は、少なくとも貴金属、好ましくは、Pt、Au、Cu、Ir、Pd、Ruからなる群の金属を含む、高い表面エネルギーを有する材料からなる。
【0034】
好ましい実施形態では、組成物は、2-メトキシエタノールおよびグリセリンの溶媒混合液内のアルカンチオールからなる。
【0035】
粘度が1mPa.s~15mPa.sの範囲であること、および表面張力が20mN/m~40mN/mの範囲であることは、溶媒をインクジェット可能とするうえで、重要な流動学的特性である。一般的な溶媒混合液は、2-メトキシエタノールおよびグリセリンを含む。有利なものとしては、混合物の比率は、2-メトキシエタノールが60vol%~90vol%、好ましくは、70vol%~80vol%、より好ましくは、約75vol%であり、その残りがグリセリンである。この比率であれば、インクジェット印刷の適性という観点で、非常に優れた成果を生み出すことができる。
【0036】
好ましい実施形態では、アルカンチオールは、溶媒中、0.1M~0.00001M、好ましくは、0.01M~0.0001M、より好ましくは、0.001Mの1-ドデカンチオールCH3(CH2)11SHである。1-ドデカンチオールは、高い表面エネルギーを有する金属の付着という点で、特に適した特性を有する。
【0037】
その他同様の溶媒またはアルカンチオール類(一般式RSH(ここで、Rは、CnH2n+1)として表す)も使用可能である。
【0038】
機能材料の組成物
基板上に堆積する材料について、本発明の好ましい実施形態は、PZTインク(Pb(Zr,Ti)O3)、またはFe、K、Nb、Ta、および/またはNdが添加されたPZTを想定する。PZTインクは、溶媒で変性した、標準的な化学溶液堆積(CSDまたはゾルゲル)材料からなる。
【0039】
特定の実施形態によれば、PZTインクは、略組成相境界(MPB)組成物を有するPZTインクであってもよい。乾燥酢酸塩(II)、ジルコニウム(IV)ブトキシド、チタニウム(IV)イソプロポキシドを、さらに鉛を10%有する2-メトキシエタノールと混合したものを、還流させながら2時間加熱し、配位子交換により、アルコキシド種を確実に均質化・安定化させる。得られたPZT溶液を、その後、0.2Mのエチレングリコールおよびグリセリンで希釈し、Dimatix(商標登録)等の市販のカートリッジを使用した際に液滴を効率的に噴出するよう、インク粘度および表面張力を調整する。
【0040】
粘度が1mPa.s~15mPa.sの範囲であること、および表面張力が20mN/m~40mN/mの範囲であることは、インクが有するべき、好ましい流動学的特性である。好ましい実施形態では、PZTインクは、65(±5)vol%の2-メトキシエタノール、25(±5)vol%のグリセリン、そして10(±5)vol%のエチレングリコール中に希釈される。
【0041】
あるいは、機能材料は、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3)、PbTiO3、PbZrO3、Pb(Mg,Nb,Ti)O3、BaTiO3,(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3、またはそれに準ずるものであってもよい。
【0042】
あるいは、機能材料は、BiFeO3または(Bi,Re)FeO3(ここで、Reは、La、Nd、Sm、Eu等の希土類金属)であってもよい。
【0043】
機能材料はまた、(Bi0.5Na0.5)TiO3または(Bi0.5K0.5)TiO3、または、これらの固溶体や、これらのBaTiO3との固溶体であってもよい。
【0044】
機能材料は、(K,Na)NbO3、(K,Na,Li)(Sb,Ta,Nb)O3、またはこれらの(Bi0.5Na0.5)TiO3およびBaTiO3との固溶体であってもよい。
【0045】
機能材料は、(K,Na)NbO3、(K,Na,Li)(Sb,Ta,Nb)O3、および(Bi0.5Na0.5)TiO3およびBaTiO3との固溶体からなる群より選択されるものであってもよい。
【0046】
機能材料は、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、ZnO、または、Alが添加されたZnOのいずれかであってもよい。
【0047】
機能材料は、HfO2-ZrO2、CrO2、VO2、CuO、Fe2O3、Fe3O4、IrO2、BaO、SrO、MgO、Y2O3、CeO2、CS2O、WO3、MoO3、または、RuO2のいずれの固溶体であってもよい。
【0048】
機能材料は、Y、Si、Sr、La、Gd、および/または、Alが、添加されたHfO2であってもよい。
【0049】
機能材料は、In2O3またはSnO2、または、In2O3及びSnO2の固溶体であってもよい。
【0050】
最後に、機能材料は、LaNiO3またはSrRuO3であってもよい。
【0051】
これら種々の実施形態に係る材料は、インクジェット印刷の適性という観点で有利な流動学的特性を共通して有する。
【0052】
基板
本発明は、高い表面エネルギーを有するいかなる材料に対しても印刷可能であることを目的としているため、基板の材料としては、Pt、Au、Cu、Ir、Pd、Ru等を含む材料、または類似の特性を有する任意の材料といった、少なくとも金属を含み、SAM形成可能な材料が使用される。こうした材料は、シリコン、ガラス、鋼、あるいはポリマー上に堆積可能である。本発明に開示の技術により印刷される基板において、最も好ましい材料は、白金でめっき加工が施されたシリコンである。
【0053】
白金は、非常に高い表面エネルギー(~1Jm-2)を有する。極めて高いぬれ性のため、有機溶媒系インクによるインクジェット印刷で、機能材料を直接堆積させるだけでは不十分である。その他の貴金属にも、同様の特性を有する者がある。
【0054】
カートリッジ
本発明はまた、テンプレートインク、つまり、SAM前駆体インクとして使用されることを意図した組成物を収容する印刷カートリッジに関する。
【0055】
本発明はまた、上述のようなカートリッジを少なくとも一つ、そして機能材料を収容するカートリッジを少なくとも一つ組み合わせたキットに関する。
【0056】
カートリッジは、3mLの容積を有していてもよく、ノズルの大きさは、21μmであってもよい。使用する装置、または目的とするパターンや印刷大きさ・形状によって、他のカートリッジを使用してもよい。
【0057】
テンプレートインク用のカートリッジと、機能材料インク用カートリッジは、同一のものであってもよいが、異なるものであってもよい。言うまでもなく、例えば、二つのカートリッジの交換頻度が同じになるよう、機能材料用のカートリッジとして、より大容量ものを使用してもよい。
【0058】
本発明の好ましい実施形態に係る印刷方法では、三つ以上のカートリッジを利用することもできる。例えば、消費量に合わせて、特定の材料に対し、二つ以上のカートリッジを使用してもよい。これにより、大量に材料を堆積した場合にも、保守の必要がない。
【0059】
あるいは、または、補助的に、三種以上の材料を使用してもよい。
例えば、複数層を堆積させる場合、二つの連続した機能材料層または二つの連続したSAM層を異なる材料から形成してもよい。したがって、三つの異なる組成物を収容する少なくとも三つのカートリッジを設けてもよい。本発明のキットは、これら少なくとも三つのカートリッジを備えていてもよい。
【0060】
こうした技術により、上位層の電極を印刷することができる。これらのプリント上部電極は、Ag、Cu、Pt、またはITO(酸化インジウム錫)からなっていてもよい。これらは全て、印刷可能な材料として知られる。
【0061】
製品
限定はされないが、本発明に係る印刷プロセスは、特に、マイクロシステム、受動コンデンサ、シリコンウェハ、集積圧電デバイス等に応用可能である。例えば、本発明に係る方法は、50ミクロン間隔に連続して配置された圧電アクチュエータを印刷するのにも利用できる。
【0062】
本発明はまた、印刷プロセスによって得られた最終製品に関する。最終製品は、既知の方法によって得られたマイクロシステムと同様の電気特性を有し得ることが、分析から明らかになった。しかし、本発明に係る方法によって直接得られた製品では、機能材料膜内に微量の硫黄があることが、二次イオン質量(SIMS)分析から明らかになった。結晶化されたPZT膜の厚さ方向全体にわたって、硫黄が検知された。さらに、印刷PZTパターンの縁部においては、高濃度の硫黄が確認された。これは、印刷後、液状で両方のインクが共在するため、機能材料膜内のチオール類が拡散していることによるものと思われる。テンプレートラインは、比較的大量の残存溶媒と、液状の機能材料膜内に拡散され得る未グラフトのチオール類とを含む。基板テンプレートに使用されるチオール類は、全体のプロセスにおいて、唯一使用される硫黄含有材であるため、ここで考えられる唯一の硫黄源である。
【0063】
その結果、製品をSIMS分析にかければ、ある製品が、本発明に係る印刷方法によって作製されたものかどうかを見分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図2】
図2は、機能材料の準備を模式化した図である。
【
図3】
図3は、印刷方法の好ましい実施形態を示す。
【
図4】
図4は、薄膜の印刷パターンの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、本発明に係る印刷プロセスで使用され得る基板の断面図(縮尺は考慮しない)を示す。好ましくは、基板は、白金でコーティングされたシリコン基材を含む。
【0066】
図2は、機能材料を得る際に採用されるプロセスの詳細を表す。本例では、還流と希釈によってPZTインクを得る。
【0067】
乾燥酢酸塩(II)、ジルコニウム(IV)ブトキシド、チタニウム(IV)イソプロポキシドを、さらに鉛を10%有する2-メトキシエタノールと混合したものを、還流させながら2時間加熱し、配位子交換により、アルコキシド種を確実に均質化・安定化させる。得られたPZT溶液を、その後、0.2Mのエチレングリコールおよびグリセリンで希釈し、液滴を効率的に噴出するよう、インク粘度および表面張力を調整する。例えば、PZTは、65vol%の2-メトキシエタノール、25vol%のグリセリン、そして10vol%のエチレングリコール中に希釈される。
【0068】
上述した種々のインク組成物を得るにあたり、その他同様のプロセスを利用してもよい。
【0069】
図3は、パターン/テンプレートの例と、本発明の実施形態に係る特定の印刷プロセスを示す。格子状のパターンが、SAMでプリントされる(印刷プロセスの工程(a))。実際には、第1の平行線がプリントされ、その後、第2の平行線が、第1の平行線と直交するようにプリントされる。そして、機能材料が格子状パターンの境界内に印刷される(印刷プロセスの工程(b))。
【0070】
一例として、
図3の右側に示すように、乾燥・熱分解・結晶化の工程を実行して、基板上の最終(乾燥)薄膜を得る。
【0071】
本発明によって得た製品の一例として、二つの工程を実施するフルインクジェット印刷プロセスを利用して、500×500μm2の正方形のPZT列を形成する。得られた厚さ80nmの構造体が、ペロブスカイト相で結晶化される。
【0072】
図4は、マルチレイヤー印刷プロセスを実施して得られる膜を光学顕微鏡で観察した際に撮影された写真を示す。
図3の印刷工程が繰り返されることで、基板の同一エリアで、一層ずつ形成される。つまり、新しい層を形成するたびに、基板に対してプリンタヘッドが再度正確に位置合わせされる。
【0073】
図5は、一つの正方形の厚さ方向の側面を表す。連続した層を一枚ずつ結晶化した後、次層のプリントの前に、厚さを計測した。ここでは、正方形の横断面における通常の厚みが見て取れる。また、本発明に係る方法により、互いに重なる層が正確に位置合わせされていることも見て取れる。もちろん、層ごとに液滴密度を異ならせたり、機能材料を異ならせたりすることで、異質性を有する製品を幅広くプリントすることができる。
【0074】
図6は、本発明の印刷方法によって形成された膜のSIMS分析(撮像モード)の結果を示している。印刷された正方形のPZTの縁において、チタニウム、酸素、硫黄の要素ごとに色付けがなされている。正方形のPZTの縁において、硫黄が最も検知された。
【0075】
機能材料およびSAM前駆体インクはいずれも液体であり、印刷プロセス中、互いに接触状態にあった。両方とも液体であるため、機能材料層で検知された硫黄は、機能材料前駆体インクに拡散されたチオール類からのみ由来する。こうした拡散硫黄は、SAMがその他のいかなる方法によって堆積された場合であっても検知されない。これは、従来の既知の方法では、SAMが形成された時にのみ液体機能材料インクが印刷され、基板に液体が残存しないためである。
【0076】
印刷プロセス、SAM組成物、機能材料組成物、基板材料、およびカートリッジを、それぞれ段落に分けて詳述したが、各実施形態におけるこれらの要素は、互いに組み合わせてもよいことは理解されるべきである。