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特許7438559距離情報提供装置、距離算出装置、気泡噴出装置、距離情報提供方法、および、距離算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】距離情報提供装置、距離算出装置、気泡噴出装置、距離情報提供方法、および、距離算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/14 20060101AFI20240219BHJP
   A61B 17/22 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G01B7/14
A61B17/22
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021524776
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020671
(87)【国際公開番号】W WO2020246307
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2019103416
(32)【優先日】2019-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業・先端計測分析技術・機器開発プログラム「針なし気泡注射器を用いた低侵襲網膜血栓除去新技術の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】502251061
【氏名又は名称】株式会社ベックス
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】森泉 康裕
(72)【発明者】
【氏名】渡部 廣道
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 壮
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129657(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/078229(WO,A1)
【文献】住本芽衣、松村大輔、三輪佳子、王英泰、森泉康裕、山西陽子,電界誘起気泡の物理的刺激による微細血管閉塞の再灌流,ロボティクス・メカトロニクス2018講演会論文集,一般社団法人日本機械学会,2018年11月30日,2A1-M07(1)-2A1-M07(2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/14
A61B 17/22
A61B 17/3203
C12M 1/00
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供装置であって、
距離情報提供装置は、
気泡噴出デバイスと、
電気特性測定部と、
を少なくとも具備し、
気泡噴出デバイスは、
導電材料で形成された電極と、
電極の少なくとも先端部分を覆う絶縁材料と、
を含み、
絶縁材料の少なくとも一部は気泡噴出口を形成し、
電極の先端と気泡噴出口との間には、絶縁材料で覆われた空隙が形成され、
電気特性測定部は、
気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間の電気特性を測定することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する、
距離情報提供装置。
【請求項2】
電気特性測定部が、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間のインピーダンスを測定する、
請求項1に記載の距離情報提供装置。
【請求項3】
電気特性測定部が、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間のキャパシタンスを測定する、
請求項1に記載の距離情報提供装置。
【請求項4】
対向電極を更に含み、対向電極は、
気泡噴出デバイスとは別体として含まれる、または、
気泡噴出デバイスに組み込まれる、
請求項1~3の何れか一項に記載の距離情報提供装置。
【請求項5】
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出装置であって、距離算出装置は、
請求項1~4の何れか一項に記載の距離情報提供装置と、
記憶部と、
演算部と、
を含み、
記憶部は、
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離と電気特性の関係を予め求めた演算用情報を記憶し、
演算部は、
電気特性測定部で測定した測定値を演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する、
距離算出装置。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の距離情報提供装置と、
気泡噴出デバイスから気泡を噴出させるための電源装置と、
を含む、気泡噴出装置。
【請求項7】
請求項5に記載の距離算出装置と、
気泡噴出デバイスから気泡を噴出させるための電源装置と、
を含む、気泡噴出装置。
【請求項8】
血栓治療の用途に用いられる、請求項6または7に記載の気泡噴出装置。
【請求項9】
気泡噴出デバイス駆動部と、
制御部と、
を含み、
気泡噴出デバイス駆動部は、
気泡噴出デバイスを保持し、保持した気泡噴出デバイスを駆動し、
制御部は、
演算部で算出する気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離が、所望の距離となるように気泡噴出デバイス駆動部を制御する、
請求項7または8に記載の気泡噴出装置。
【請求項10】
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供方法であって、
気泡噴出デバイスは、
導電材料で形成された電極と、
電極の少なくとも先端部分を覆う絶縁材料と、
を含み、
絶縁材料の少なくとも一部は気泡噴出口を形成し、
電極の先端と気泡噴出口との間には、絶縁材料で覆われた空隙が形成され、
距離情報提供方法は、
気泡噴出デバイスの先端部分と、対向電極と、気泡噴出対象物と、を導電性液体に接触させることで、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間で回路を形成する回路形成工程と、
気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間の電気特性を測定する電気特性測定工程と、
を少なくとも含む、距離情報提供方法。
【請求項11】
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出方法であって、
距離算出方法は、
請求項10に記載の距離情報提供方法で得られた電気特性測定値を、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離と電気特性の関係を予め求めた演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出工程、
を少なくとも含む、距離算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供装置、距離情報提供装置を含む距離算出装置および気泡噴出装置に関する。また、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための距離情報提供方法、および、距離情報提供方法を含む距離算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜静脈閉塞症という疾患が知られている。網膜静脈閉塞症とは、網膜静脈内において血液が凝固することで血管内腔が狭窄または閉塞する疾患である。血管内に血栓が形成されると静脈血の還流障害により眼底出血を起こし、網膜の神経要素が出血と浮腫のために変性してしばしば重篤な視力障害を生じる。近年、網膜静脈閉塞症は発症頻度が著しく増加しており、眼科臨床における重要な疾患の一つとなっている。
【0003】
網膜静脈閉塞症の現在の治療法としては、抗VEGF剤の硝子体内注射を行う薬物療法や、浮腫の発生部をレーザー光で凝固させる網膜光凝固、硝子体を切除し人工の液体に置き換える硝子体手術が知られている。しかしながら、これらはいずれも血管閉塞に起因する浮腫の改善を図る対処療法であり、血管閉塞自体をターゲットとした原因治療の方法は現在のところ確立されていない。
【0004】
血管閉塞自体をターゲットとした研究は、マイクロジェットの衝撃圧により血管外部から局所的に物理的刺激を与える方法の研究が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】山西陽子等、“電界誘起気泡を用いた網膜静脈閉塞症の新治療法確立のための研究”、日本機械学会第9回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集(2018.10.30-11.1,札幌)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載のとおり、マイクロジェットの衝撃圧により外部から局所的に血管に物理的刺激を与える研究は既に知られている。そして、非特許文献1には、直径約120μmの網膜静脈と同程度の径を有する鶏胚の静脈血管を網膜静脈のモデルとして使用した実験方法が記載されている。
【0007】
非特許文献1に記載の実験では、容器に入れた鶏胚に気泡噴出デバイスの先端を近付けることから、顕微鏡等の視野の下で操作を行うことで、血管と気泡噴出デバイスの先端との間隔を調整できる。しかしながら、気泡噴出デバイスを実際に眼球内に挿入する場合には、眼球内において、血管と気泡噴出デバイスの先端との間隔を調整する必要がある。
【0008】
物体と物体の距離は、赤外線等を用いた距離センサで測定できることは知られている。しかしながら、外科手術は可能な限り、低侵襲性とすることが望ましい。したがって、眼球内に挿入するデバイス類は可能な限り小さくし、且つ、挿入するデバイス類の数を少なくすることが望ましい。そのため、距離センサ等の新たな装置類を用いることなく、気泡噴出デバイスと気泡噴出対象物との距離を算出できることが望ましいが、現在のところ、そのような装置及び方法は知られていない。
【0009】
本出願の開示は、上記問題点を解決するためになされたものである。そして、鋭意検討を行ったところ、(1)気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間の電気特性を測定することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供できること、(2)気泡噴出デバイスが有する構成を利用して前記(1)の情報を提供できることから、気泡噴出デバイスに新たな構成を付加する必要がないこと、を新たに見出した。
【0010】
すなわち、本出願の開示の目的は、気泡噴出デバイスが有する構成を利用した、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供装置、距離情報提供装置を含む距離算出装置および気泡噴出装置を提供することである。また、本出願の開示のその他の目的は、気泡噴出デバイスが有する構成を利用した、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための距離情報提供方法、および、距離情報提供方法を含む距離算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願における開示は、以下に示す、距離情報提供装置、距離算出装置、気泡噴出装置、距離情報提供方法、および、距離算出方法に関する。
【0012】
(1)気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供装置であって、
距離情報提供装置は、
気泡噴出デバイスと、
電気特性測定部と、
を少なくとも具備し、
気泡噴出デバイスは、
導電材料で形成された電極と、
電極の少なくとも先端部分を覆う絶縁材料と、
を含み、
絶縁材料の少なくとも一部は気泡噴出口を形成し、
電極の先端と気泡噴出口との間には、絶縁材料で覆われた空隙が形成され、
電気特性測定部は、
気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間の電気特性を測定することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する、
距離情報提供装置。
(2)電気特性測定部が、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間のインピーダンスを測定する、
上記(1)に記載の距離情報提供装置。
(3)電気特性測定部が、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間のキャパシタンスを測定する、
上記(1)に記載の距離情報提供装置。
(4)対向電極を更に含み、対向電極は、
気泡噴出デバイスとは別体として含まれる、または、
気泡噴出デバイスに組み込まれる、
上記(1)~(3)の何れか一つに記載の距離情報提供装置。
(5)気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出装置であって、距離算出装置は、
上記(1)~(4)の何れか一つに記載の距離情報提供装置と、
記憶部と、
演算部と、
を含み、
記憶部は、
気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離と電気特性の関係を予め求めた演算用情報を記憶し、
演算部は、
電気特性測定部で測定した測定値を演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する、
距離算出装置。
(6)上記(1)~(4)の何れか一つに記載の距離情報提供装置と、
気泡噴出デバイスから気泡を噴出させるための電源装置と、
を含む、気泡噴出装置。
(7)上記(5)に記載の距離算出装置と、
気泡噴出デバイスから気泡を噴出させるための電源装置と、
を含む、気泡噴出装置。
(8)血栓治療の用途に用いられる、上記(6)または(7)に記載の気泡噴出装置。
(9)気泡噴出デバイス駆動部と、
制御部と、
を含み、
気泡噴出デバイス駆動部は、
気泡噴出デバイスを保持し、保持した気泡噴出デバイスを駆動し、
制御部は、
演算部で算出する気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離が、所望の距離となるように気泡噴出デバイス駆動部を制御する、
上記(7)または(8)に記載の気泡噴出装置。
(10)気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供する距離情報提供方法であって、
気泡噴出デバイスは、
導電材料で形成された電極と、
電極の少なくとも先端部分を覆う絶縁材料と、
を含み、
絶縁材料の少なくとも一部は気泡噴出口を形成し、
電極の先端と気泡噴出口との間には、絶縁材料で覆われた空隙が形成され、
距離情報提供方法は、
気泡噴出デバイスの先端部分と、対向電極と、気泡噴出対象物と、を導電性液体に接触させることで、気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間で回路を形成する回路形成工程と、
気泡噴出デバイスの電極と対向電極との間の電気特性を測定する電気特性測定工程と、
を少なくとも含む、距離情報提供方法。
(11)気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出方法であって、
距離算出方法は、
上記(10)に記載の距離情報提供方法で得られた電気特性測定値を、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離と電気特性の関係を予め求めた演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出する距離算出工程、
を少なくとも含む、距離算出方法。
【発明の効果】
【0013】
本出願で開示する距離情報提供装置および距離情報提供方法を用いると、気泡噴出デバイスが有する構成を利用して、気泡噴出デバイスの先端と気泡噴出対象物との間の距離を算出するための情報を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1Aは、距離情報提供装置1Aの概略を説明するための図で、図1Bは気泡噴出デバイス2の概略を説明するための図である。
図2図2は、距離情報提供装置1Aを用いて、距離情報Eを提供できる理由を説明するための図である。
図3図3は、距離情報提供方法の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、距離算出装置1Bの概略を説明するための図である。
図5図5は、距離算出方法の手順を示すフローチャートである。
図6図6は、第1の実施形態に係る気泡噴出装置1Cの概略を説明するための図である。
図7図7は、第2の実施形態に係る気泡噴出装置1Dの概略を説明するための図である。
図8図8A~Dは図面代用写真で、実施例1で作製した各種気泡噴出デバイスの先端部分の写真である。
図9図9は図面代用写真で、図9Aは気泡噴出デバイス2の先端221が気泡噴出対象物Sに接触した状態の写真で、図9Bは気泡噴出デバイス2の先端221が気泡噴出対象物Sから約100μm離した写真である。
図10図10は、導電性液体Lとして生理食塩水を用い、電気特性としてインピーダンスを測定した際のグラフである。
図11図11は、導電性液体Lとして20mM KClを用い、電気特性としてインピーダンスを測定した際のグラフである。
図12図12は、導電性液体Lとして生理食塩水を用い、電気特性としてキャパシタンスを測定した際のグラフである。
図13図13は、導電性液体Lとして20mM KClを用い、電気特性としてキャパシタンスを測定した際のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、距離情報提供装置、距離算出装置、気泡噴出装置、距離情報提供方法、および、距離算出方法の実施形態について、詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0016】
(距離情報提供装置の実施形態)
図1を参照して、距離情報提供装置の実施形態について説明する。図1Aは、距離情報提供装置1Aの概略を説明するための図で、図1Bは気泡噴出デバイス2の概略を説明するための図である。距離情報提供装置1Aは、気泡噴出デバイス2と、電気特性測定部3と、を少なくとも具備する。
【0017】
気泡噴出デバイス2は、導電材料で形成された電極21と、電極21の少なくとも先端211を覆う絶縁材料22と、を含んでいる。また、絶縁材料の少なくとも一部、図1Bに示す例では、絶縁材料22の先端221には気泡噴出口23が形成されている。そして、電極21の先端211と気泡噴出口23との間には、絶縁材料で覆われた空隙24が形成されている。図1Bの符号Dは、電極21の先端211と気泡噴出口23との距離(空隙24のギャップ)を表す。
【0018】
電極21を形成する導電材料としては、電気を通し電極として使用できるものであれば特に制限はない。例えば、金、銀、銅、アルミニウム等の金属が挙げられる。また、前記金属にスズ、マグネシウム、クロム、ニッケル、ジルコニウム、鉄、ケイ素などを少量加えた合金等が挙げられる。
【0019】
絶縁材料22としては、電気を絶縁するものであれば特に限定はない。例えば、ガラス、マイカ、石英、窒化ケイ素、酸化ケイ素、セラミック、アルミナ、等の無機系絶縁材料、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等ゴム材料、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、シラン変性オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン系樹脂、弗素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系樹脂、UV硬化樹脂等の絶縁性樹脂が挙げられる。
【0020】
気泡噴出デバイス2は、筒状の絶縁材料22に電極21を挿入することで作製できる。この方法で作製する場合は、電極21と絶縁材料22の内面との間に隙間が発生しないように、電極21のサイズと絶縁材料22の内面のサイズは、ほぼ同じサイズとすることが望ましい。
【0021】
また、気泡噴出デバイス2は、筒状の絶縁材料22に電極21を挿入し、加熱して引き切ることで作製することもできる。この方法では、(1)絶縁材料22と電極21の粘弾性の差により、電極21の先端から絶縁材料22が更に延伸して空隙24を形成し、(2)絶縁材料22が電極21の先端211の外周に密着するように形成した、気泡噴出デバイス2を作製できる。より具体的には、国際公開第2013/129657号を参照することができる。国際公開第2013/129657号に記載された事項は、本明細書に含まれる。
【0022】
電気特性測定部3は、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間の電気特性を測定する。後述する実施例で示す通り、気泡噴出デバイス2の先端と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eを変化させると、電気特性測定部3で測定する測定値が変化する。したがって、電気特性測定部3で測定した測定値は、気泡噴出デバイス2の先端と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eを算出するための情報(以下、距離Eを算出するための情報を「距離情報E」と記載することがある。)として用いることができる。なお、本明細書において「気泡噴出デバイスの先端」とは、絶縁材料22の先端221を意味する。また、「気泡噴出デバイスの先端部分」と記載した場合は、少なくとも電極21の先端211を含む気泡噴出デバイス2の先端側の部分を意味する。
【0023】
電気特性測定部3は、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間の電気特性を測定できれば特に制限はない。電気特性としては、例えば、インピーダンス、キャパシタンス等が挙げられる。電気特性測定部3は、前記例示の電気特性を測定できれば特に制限はない。インピーダンスを測定する場合は、公知のインピーダンス測定装置、キャパシタンスを測定する場合は、公知のキャパシタンス測定装置を用いればよい。電気特性として、インピーダンス、キャパシタンス以外を測定する場合は、当該電気特性を測定できる装置を用いればよい。
【0024】
実施形態に係る距離情報提供装置1Aは、電気特性測定部3から距離情報Eを提供する。提供された距離情報Eと、予め測定した距離Eと電気特性の関係情報とを、人が対比しながら気泡噴出デバイス2を操作することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eを、所望の距離となるように調整できる。
【0025】
図2を参照して、距離情報提供装置1Aを用いて、距離情報Eを提供できる理由を説明する。図2Aに示すように、気泡噴出デバイス2の先端221および対向電極4を導電性液体Lに浸漬すると、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間で回路を形成する。その際、図2Aに示すように、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの距離Eが長いと、気泡噴出対象物Sは、電極21と対向電極4との間の電子e1の流れを阻害しない。一方、図2Bに示すように、距離Eが短い場合、例えば、先端221が気泡噴出対象物Sに当接している場合、気泡噴出対象物Sが、電極21と対向電極4との間の電子e2の流れを阻害する。換言すると、距離Eが短くなるほど、電極21と対向電極4との間で電子は流れ難くなる。そのため、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間の電気特性を測定することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出するための情報を提供できる。
【0026】
気泡噴出デバイス2は、空隙24で気泡が発生し、気泡噴出口23から気泡が噴出される。そのため、電極21の先端211より絶縁材料22が延伸している必要がある。したがって、気泡噴出デバイス2を気泡噴出対象物Sに近付けた場合、電極21は、絶縁材料22と気泡噴出対象物Sで必然的に覆われていき、電極21と対向電極4との導通がし難くなる。以上のとおり、本出願で開示する距離情報提供装置1Aは、気泡噴出デバイス2自体が有する構成を利用して距離情報Eを提供できる。
【0027】
距離情報Eは、距離センサ等を用いることなく、気泡噴出デバイス2自体が有する構成と、気泡噴出対象物Sとの距離に応じて提供される。したがって、距離情報提供装置は、気泡噴出デバイス2の先端221との距離が確認し難い場所の気泡噴出対象物S、例えば、眼球内の網膜静脈等に特に有用であるが、気泡噴出対象物Sは網膜静脈に限定されない。気泡噴出デバイス2の先端221との距離を所定の範囲で調整したい気泡噴出対象物Sであれば、距離情報Eは有用である。網膜静脈以外の気泡噴出対象物Sとしては、例えば、生体内の血管;ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞、卵細胞等などや、植物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母、カビなどの細胞類;植物;動物;樹脂類;シリコン等の基板類;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。気泡を噴出することでアブレーション(切削)、または、インジェクション(導入)できるもの、或いは、気泡の刺激により状態が変化できるものであれば、気泡噴出対象物Sとして用いることができる。
【0028】
また、導電性液体Lは、電気が流れれば特に制限はなく、生体液、生理食塩水、培地等、イオンを含む溶液が挙げられる。
【0029】
図1および図2に示す例では、対向電極4が記載されている。しかしながら、対向電極4は、距離情報提供装置1Aを使用する際に用いればよく、距離情報提供装置1Aの必須の構成として備えられる必要はない。対向電極4は、電気を通すものであれば特に制限はなく、電極21を形成する材料として例示した導電材料を用いればよい。なお、対向電極4を距離情報提供装置1Aの構成部品として具備する場合は、図1および図2に示すように、気泡噴出デバイス2と別体として具備すればよい。或いは、対向電極4は電極21と回路を形成できればよいので、図2Cに示すとおり、気泡噴出デバイス2の絶縁材料22の外側(導電性液体Lに接触する面)に形成することで、気泡噴出デバイス2の構成の一つとしてもよい。なお、気泡噴出デバイス2の絶縁材料22の外側に対向電極4を形成する場合は、気泡噴出デバイス2の幅が大きくなることを避けるため、通電材料を蒸着等により薄膜状に形成することが望ましい。
【0030】
(距離情報提供方法の実施形態)
図1乃至図3を参照して、距離情報提供方法の実施形態について説明する。図3は、距離情報提供方法の手順を示すフローチャートである。距離情報提供方法は、距離情報提供装置の実施形態で説明した気泡噴出デバイス2と、電気特性測定部3と、対向電極4と、を用いて実施される。距離情報提供方法は、回路形成工程(S100)と、電気特性測定工程(S110)と、を含む。
【0031】
回路形成工程(S100)では、気泡噴出デバイス2の電極21の先端211を含む先端部分と、対向電極4と、気泡噴出対象物Sと、を導電性液体に接触させることで、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間で回路を形成する。電気特性測定工程(S110)では、気泡噴出デバイス2の電極21と対向電極4との間の電気特性を測定する。そして、電気特性測定工程(S110)で測定した測定値を距離情報Eとして提供することで、距離情報提供装置の実施形態において説明のとおり、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eを、所望の距離となるように調整できる。
【0032】
(距離算出装置の実施形態)
図4を参照して、距離算出装置の実施形態について説明する。図4は、距離算出装置1Bの概略を説明するための図である。距離算出装置1Bは、距離情報提供装置1Aと、記憶部5と、演算部6と、を含んでいる。距離情報提供装置1Aは、距離情報提供装置の実施形態で説明済みのため詳細な説明は省略する。
【0033】
記憶部5は、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eと電気特性の関係を予め求めた演算用情報を記憶している。記憶部5は、演算用情報を記憶できれば特に制限はなく、公知の記憶装置を用いればよい。
【0034】
演算部6、電気特性測定部3で測定した測定値(距離情報E)を、記憶部5に記憶した演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出する。演算部6は、公知の演算装置を用いればよい。なお、図示は省略するが、距離算出装置1Bは、演算部6で算出した距離を気泡噴出デバイス2の操作者に伝える装置を具備してもよい。例えば、演算した距離を表示する表示部、及び/又は、距離を音声として発する発声部が挙げられる。
【0035】
距離情報提供装置1Aは、距離情報Eの提供に留まる。一方、距離算出装置1Bを用いると、電気特性測定部3で測定した測定値を演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出できるという効果を奏する。
【0036】
(距離算出方法の実施形態)
図4および図5を参照して、距離算出方法の実施形態について説明する。図5は、距離算出方法の手順を示すフローチャートである。距離算出方法は、距離情報提供方法を実施後、つまり、回路形成工程(S100)と、電気特性測定工程(S110)と、を実施後に、距離算出工程(S120)を実施する。回路形成工程(S100)および電気特性測定工程(S110)は、距離情報提供方法の実施形態で説明済みのため詳細な説明は省略する。
【0037】
距離算出工程(S120)では、距離情報提供方法で得られた電気特性測定値(距離情報E)を、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離Eと電気特性の関係を予め求めた演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出する。なお、図示は省略するが、距離算出方法は、算出した距離を気泡噴出デバイス2の操作者に伝える距離伝達工程を具備してもよい。距離伝達工程としては、演算した距離を表示する表示工程、及び/又は、距離を音声として発する発声工程が挙げられる。
【0038】
距離情報提供方法は、距離情報Eの提供に留まる。一方、距離算出方法を用いると、電気特性測定部3で測定した測定値を演算用情報と対比することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出できるという効果を奏する。
【0039】
(気泡噴出装置の第1の実施形態)
図1図4、および、図6を参照して、気泡噴出装置の第1の実施形態について説明する。図6は、第1の実施形態に係る気泡噴出装置1Cの概略を説明するための図である。図6に示す例では、気泡噴出装置1Cは、距離算出装置1Bと、電源装置7、とを含んでいる。距離算出装置1Bは、距離算出装置の実施形態で説明済みのため詳細な説明は省略する。
【0040】
電源装置7は、気泡噴出デバイス2と対向電極4とに電気を印加することで、気泡噴出デバイス2の気泡噴出口23から気泡を噴出できれば特に制限はないが、気泡噴出対象物Sの種類に応じて、噴出する気泡の強さを調整できることが好ましい。そのため、電源装置7は、印加する電流値、電圧値、パルス幅を適宜調整できることが好ましい。印加する電流値、電圧値、パルス幅を調整できる電源装置7としては、例えば、汎用電気メス用電源Hyfrecator2000(ConMed(株))、CFB16-HB(株式会社ベックス社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、図示は省略するが、必要に応じて、無誘導抵抗、電圧増幅回路、入出力ポート(DIO;Digital Input Output)、電源装置7を制御するPC等の制御装置等を設けてもよい。
【0041】
なお、図6に示す例では、気泡噴出装置1Cとして、距離算出装置1Bを含んだ例が示されているが、距離算出装置1Bに代え、距離情報提供装置1Aを含んでもよい。また、気泡噴出装置1Cは、非特許文献1に記載のとおり、気泡を噴出することで血管閉塞の治療に用いることができる。したがって、本出願で開示する気泡噴出装置1Cは、血栓治療装置として用いることもできる。
【0042】
従来の気泡噴出装置は、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの距離Eを測定する機構を具備していない。一方、本出願で開示する気泡噴出装置1Cは、気泡噴出デバイス2自体が有する構成を利用して、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離Eを調整できる。
【0043】
(気泡噴出装置の第2の実施形態)
図6および図7を参照して、気泡噴出装置の第2の実施形態について説明する。図7は、第2の実施形態に係る気泡噴出装置1Dの概略を説明するための図である。図7に示す例では、気泡噴出装置1Dは、図6に示す気泡噴出装置1Cに加え、気泡噴出デバイス駆動部8と、制御部9と、を含んでいる。図6に示す気泡噴出装置1Cは説明済みのため詳細な説明は省略する。
【0044】
気泡噴出デバイス駆動部8は、気泡噴出デバイス2を保持し、保持した気泡噴出デバイス2を駆動できる装置であれば特に制限はない。例えば、手術支援ロボットのアーム機構等、公知の機構を用いることができる。制御部9は、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離が所望の距離となるように、気泡噴出デバイス駆動部8を制御する。制御部9に所望の距離を設定しておき、演算部6で算出した距離を制御部9にフィードバックして気泡噴出デバイス駆動部8の制御を繰り返すことで、気泡噴出対象物Sに対して、気泡噴出デバイス2の先端221を所望の位置に配置できる。
【0045】
気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221が近すぎると、気泡噴出対象物Sに噴出する気泡の力が大き過ぎたり、気泡噴出デバイス2の先端221で気泡噴出対象物Sを傷付ける恐れがある。一方、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221が離れすぎると、気泡噴出対象物Sに与える気泡の影響が弱くなる。そのため、距離Eは、μmオーダーで調整することが望ましいが、人が操作した場合には、μmオーダーで位置を調整することは熟練した技術が必要である。第2の実施形態に係る気泡噴出装置1Dは、気泡噴出デバイス2の駆動を自動化できるので、気泡噴出デバイス2の操作性が向上するという効果を奏する。
【0046】
以下に実施例を掲げ、各実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単にその具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は、発明の範囲を限定したり、あるいは制限するものではない。
【実施例
【0047】
<実施例1>
以下の手順により、距離情報提供装置を作製した。
【0048】
[気泡噴出デバイスの作製]
絶縁材料22には、直径約300μm、内径約100μmのフッ素樹脂チューブ(PFA)((株)ハギテック製)を用いた。電極21には、直径約100μmのタングステン((株)ニラコ製)を用いた。次に、フッ素樹脂チューブの中にタングステン電極を挿入することで、気泡噴出デバイス2を作製した。なお、気泡噴出デバイス2は、ギャップD(電極21の先端211と気泡噴出口23との距離)が異なる複数種類作製した。図8は、作製した気泡噴出デバイス2の先端部分の写真である。図8Aに示す気泡噴出デバイス2のギャップDは、0μmであった。図8Bに示す気泡噴出デバイス2のギャップDは、10μmであった。図8Cに示す気泡噴出デバイス2のギャップDは、30μmであった。図8Dに示す気泡噴出デバイス2のギャップDは、100μmであった。なお、同じギャップの気泡噴出デバイス2を、ギャップ毎に3個作製した。
【0049】
[距離情報提供装置の作製]
対向電極4には、コネクタ(日本モレックス社製、5289-2A)を加工して1ピンとした。電気特性測定部3として、インピーダンスを測定する場合は、LCRメータ(日置電機(株)、IM3536)を用い、キャパシタンスを測定する場合は、LCRメータ(日置電機(株)、IM3536)を用いた。電気特性測定部3に、電線を用いて気泡噴出デバイス2の電極21および対向電極4を接続することで、距離情報提供装置を作製した。
【0050】
<実施例2>
以下の手順により、作製した距離情報提供装置を用いて距離情報提供方法を実施した。
[実験材料]
・導電性液体Lには、生理食塩水(大塚製薬社製)、20mM KCl(富士フイルム和光純薬社製特級試薬 KCl 0.298gを純水に溶解し200mLとした)を用いた。
・気泡噴出対象物Sには、アクリル板(10mm×15mm、厚さ2mm)を用いた。
【0051】
[実験手順]
(1)シャーレに導電性液体Lを入れ、シャーレの壁面に対向電極4を配置し、対向電極4から約10mm離れた位置に気泡噴出対象物Sを配置した。気泡噴出デバイス2は、気泡噴出対象物Sを介して対向電極4とは反対側から気泡噴出対象物Sに近付けるように配置した。なお、気泡噴出対象物Sは、気泡噴出デバイス2を近付けた際に、気泡噴出デバイス2の先端221の面と略平行となるように配置した(回路形成工程)。
(2)気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離は、マイクロマニュピュレーターを使用して測定した。先端221が気泡噴出対象物Sに接触した状態を0μmとした。図9Aは、先端221と気泡噴出対象物Sが接触した状態を示す写真で、写真中の矢印で示す部分が接触面である。そして、マイクロマニュピュレーターのメモリを操作することで、先端221を気泡噴出対象物Sから離した。図9Bは、先端221を約100μm離した時の写真で、図9B中の左側の矢印は気泡噴出対象物Sを表し、右側の矢印は気泡噴出デバイス2の先端221を表す。先端221と気泡噴出対象物Sとを所定の距離に設定し、電気特性測定部3でインピーダンス、キャパシタンスを測定した。
【0052】
図10は、導電性液体Lとして生理食塩水を用い、電気特性としてインピーダンスを測定した際のグラフである。横軸は、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離を表し、縦軸は、インピーダンスの測定値を表す。図11は、導電性液体Lとして生理食塩水に代え、20mM KClを用いた以外は、図10と同様である。
【0053】
図12は、導電性液体Lとして生理食塩水を用い、電気特性としてキャパシタンスを測定した際のグラフである。横軸は、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離を表し、縦軸は、キャパシタンスの測定値を表す。図13は、導電性液体Lとして生理食塩水に代え、20mM KClを用いた以外は、図12と同様である。
【0054】
図10図13から明らかなように、電気特性としてインピーダンス、キャパシタンスの何れを測定して場合にも、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離に応じて測定値が変化することを確認した。なお、電気特性、導電性液体、および、ギャップのサイズにもよるが、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離が、0μm~約200μm程度の間では、電気特性の変化が大きかった。気泡噴出対象物Sの種類にもよるが、気泡噴出対象物Sと気泡噴出デバイス2の先端221との距離は、約200μm程度までが好ましい。したがって、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離と電気特性の関係を予め求めた演算用情報を準備し、電気特性の測定値と演算用情報を対比することで、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出することが可能となる。
【0055】
以上の結果から、本出願で開示する距離情報提供装置および距離情報提供方法により、気泡噴出デバイス2が有する構成を利用して、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間の距離を算出するための情報を提供できることを確認した。
【0056】
また、実施例2の結果から、電気特性の測定値は、導電性液体の種類、ギャップのサイズにより異なることも明らかとなった。したがって、複数種類のギャップサイズを有する気泡噴出デバイス2を使用する場合や、使用する環境が異なる(導電性液体Lの種類が異なる)場合は、ギャップサイズや使用する環境に応じた演算用情報を予め準備することが望ましいことも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本出願で開示する距離情報提供装置および距離情報提供方法により提供される距離情報Eにより、気泡噴出デバイス2の先端221と気泡噴出対象物Sとの間を、所望の距離となるように配置することが可能となる。したがって医療産業、微細な加工が必要な加工産業、農林水産分野等に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1A…距離情報提供装置、1B…距離算出装置、1C、1D…気泡噴出装置、2…気泡噴出デバイス、3…電気特性測定部、4…対向電極、5…記憶部、6…演算部、7…電源装置、8…気泡噴出デバイス駆動部、9…制御部、21…電極、22…絶縁材料、23…気泡噴出口、24…空隙、211…電極の先端、221…絶縁材料の先端、D…空隙のギャップ、E…距離、L…距導電性液体、S…気泡噴出対象物、e1、e2…電子、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13