(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ヘルメット
(51)【国際特許分類】
A42B 3/12 20060101AFI20240219BHJP
A42B 3/04 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A42B3/12
A42B3/04
(21)【出願番号】P 2021565175
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049222
(87)【国際公開番号】W WO2021124412
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】592244789
【氏名又は名称】株式会社オージーケーカブト
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中島 義人
(72)【発明者】
【氏名】村上 猛
(72)【発明者】
【氏名】福田 徹
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/121787(WO,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0418539(KR,Y1)
【文献】登録実用新案第3221426(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0007950(US,A1)
【文献】特開2012-026056(JP,A)
【文献】特開2013-019067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に向かって開口する装入開口部を有すると共に使用者の頭部を保護する帽体シェルと、前記帽体シェルの内周側に配備されて使用者の頭部に対する衝撃を緩和する衝撃吸収体と、前記衝撃吸収体の内周側に配備されて衝撃吸収体と頭部との間隙を埋めるクッションパッドと、を有するヘルメットであって、
前記クッションパッドは、前記装入開口部の開口縁に沿う位置に緊急脱出用パッドを有しており、
前記緊急脱出用パッドは、内部が空洞とされたパッド袋と、前記パッド袋の内部に収納されるパッド本体と、前記装入開口部の開口縁に装着された状態のパッド袋内からパッド本体を取り出し可能とするパッド取出部と、を有しており、
前記緊急脱出用パッドは、前記パッド袋とパッド本体との間に、前記パッド本体をパッド袋に連結する
紐状の連結部材を有して
おり、
前記連結部材は、一端が前記パッド本体に連結され、他端が前記パッド袋に連結されていることを特徴とす
るヘルメット。
【請求項2】
前記パッド取出部は、前記パッド袋に形成された開口に対して、当該開口の一方側の開口縁に配備された第1エレメントと、前記開口の他方側の開口縁に配備されると共に第1エレメントに咬合可能な第2エレメントと、前記第1エレメントと第2エレメントとを係脱自在に咬合させるスライダーと、を有しており、
前記連結部材
は、前記他端が前記パッド取出部のスライダーに連結されていることを特徴とする請求項
1に記載のヘルメット。
【請求項3】
前記パッド本体は、
前記パッド袋の上側に収容される上部パッドと、
前記パッド袋における上部パッドより下側に収容されると共に、前記上部パッドに対して分離可能とされた下部パッドと、を有しており、
前記緊急脱出用パッドは、前記上部パッドをパッド袋の内部に留めたまま、前記下部パッドのみがパッド取出部より取り出し可能とされていることを特徴とする請求項
2に記載のヘルメット。
【請求項4】
前記緊急脱出用パッドは、前記パッド本体に対して内外方向に厚みを付加可能な厚み付加パッドと、前記厚み付加パッドをパッド本体に取り付ける付加パッド取付部と、を有していることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のヘルメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートバイなどに乗車する際に、使用者の頭部を保護するために用いられるヘルメット、特に緊急時に使用者以外の第三者でも容易に使用者頭部から取り外しができるヘルメットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、オートバイに乗車する際には、使用者の頭部を保護する目的で、ヘルメットの装着が義務付けられている。また、モータスポーツなどでも、クラッシュや転倒などの際にレーシングドライバの頭部を保護するために、ヘルメットなどが用いられるのが一般的となっている。このようなヘルメットには、用途に合わせてさまざまな形状のものがあるが、高い安全性が要求される場合には、頭部を全面に亘って覆えるフルフェイス型が使用されることが多い。
【0003】
ところで、一般的なフルフェイス型のヘルメットは、頭部の保護が十分な反面、取り付けや取り外しが難しいという問題が以前より指摘されている。というのも、ヘルメットは帽体シェルの内側には発泡スチロールなどで形成された衝撃吸収体が設けられ、衝撃吸収体の内側にはクッションパッドが配備されている。このクッションパッドは、使用者のかぶり心地を向上させるためスポンジなどの部材で形成されているが、フルフェイス型では衝撃吸収体との間隔が広くなる首周り(顎下)の厚みが特に厚くなっている。そのため、顎紐を外しただけでは首周りの厚いクッションパッドが取り外しの邪魔になり、使用者自らが外す場合でも取り外しに手間取ることが多い。
【0004】
これに加えて、上述したフルフェイス型のヘルメットにおいては、例えば交通事故やレーシング中のアクシデントなどで、使用者以外の第三者がヘルメットを取り外すケースも起こりうる。このような場合、使用者自身でさえ取り外しにくいフルフェイス型のヘルメットに対して、第三者が迅速な取り外しを行うことが求められる。
このようなフルフェイス型のヘルメットに対する取り外し性の問題に関して、以前からさまざまな技術が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ブロック状内装パッド38bをキャップ状頭部保護体側に取り付けるための凹凸嵌合機構を有するヘルメットであって、この凹凸嵌合機構を利用してブロック状内装パッド38bの取り外しが簡単に行えるものが開示されている。つまり、特許文献1の凹凸嵌合機構は、内装パッド38b側の雄型ホック56と、上記頭部保護体側の雌型ホックとから成っている。そして、特許文献1のヘルメットは、引っ張り手段83を有するパッド取り出し部材81を有しており、パッド取り出し部材81に設けられる割り込み部87が雄型ホック56a、56cと雌型ホックとの間に割り込んで凹凸嵌合を解除することで、ブロック状内装パッド38bの取り外しを簡単に行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のヘルメットは、ブロック状内装パッド38bを取り外すために、複雑な形状の割り込み部87を設けなくてはならず、また雄雌型ホック間に割り込ませるために引っ張り手段83などで割り込み部87を雄雌型ホック間に対して精確にガイドする必要もあって、パッドを取り外す機構自体が複雑な構造となっている。そのため、この特許文献1のヘルメットは、複雑な構造を採用するがゆえに、部品や組み立てなどの製造コストが高騰しやすいという問題を備えている。
【0008】
また、特許文献1のヘルメットは、割り込み部87が雄雌型ホック間に確実にガイドされなければパッドの取り外しが困難となる。仮に、割り込み部87の位置が少しでもずれれば、雄雌型ホックの凹凸嵌合を解除することができなくなるため、ヘルメットの確実な取り外しという点では十分な性能を備えているとは言い難い。
なお、上述した問題は、一般にフルフェイス型とされないヘルメット、例えば、頭部の被覆面積が大きいオープンフェイスヘルメットやジェットヘルメットでも生じ得る。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造を採用しながらも、第三者が確実かつ迅速に使用者の頭部から取り外すことができるヘルメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のヘルメットは以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のヘルメットは、下方に向かって開口する装入開口部を有すると共に使用者の頭部を保護する帽体シェルと、前記帽体シェルの内周側に配備されて使用者の頭部に対する衝撃を緩和する衝撃吸収体と、前記衝撃吸収体の内周側に配備されて衝撃吸収体と頭部との間隙を埋めるクッションパッドと、を有するヘルメットであって、前記クッションパッドは、前記装入開口部の開口縁に沿う位置に緊急脱出用パッドを有しており、前記
緊急脱出用パッドは、内部が空洞とされたパッド袋と、前記パッド袋の内部に収納されるパッド本体と、前記装入開口部の開口縁に装着された状態のパッド袋内からパッド本体を取り出し可能とするパッド取出部と、を有しており、前記緊急脱出用パッドは、前記パッド袋とパッド本体との間に、前記パッド本体をパッド袋に連結する紐状の連結部材を有しており、前記連結部材は、一端が前記パッド本体に連結され、他端が前記パッド袋に連結されていることを特徴とする。
【0011】
前記パッド取出部は、前記パッド袋に形成された開口に対して、当該開口の一方側の開口縁に配備された第1エレメントと、前記開口の他方側の開口縁に配備されると共に第1エレメントに咬合可能な第2エレメントと、前記第1エレメントと第2エレメントとを係脱自在に咬合させるスライダーと、を有しており、前記連結部材は、前記他端が前記パッド取出部のスライダーに連結されてもよい。
【0012】
好ましくは、前記パッド本体は、前記パッド袋の上側に収容される上部パッドと、前記パッド袋における上部パッドより下側に収容されると共に、前記上部パッドに対して分離可能とされた下部パッドと、を有しており、前記緊急脱出用パッドは、前記上部パッドをパッド袋の内部に留めたまま、前記下部パッドのみがパッド取出部より取り出し可能とされているとよい。
【0013】
好ましくは、前記緊急脱出用パッドは、前記パッド本体に対して内外方向に厚みを付加可能な厚み付加パッドと、前記厚み付加パッドをパッド本体に取り付ける付加パッド取付部と、を有しているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヘルメットによれば、簡単な構造を採用しながらも、第三者が確実かつ迅速に使用者の頭部から取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のヘルメットの外周側を分解した分解図である。
【
図2】本実施形態のヘルメットの内周側を分解した分解図である。を右下から仰見した図である。
【
図3】本実施形態のヘルメットの右側に設けられる緊急脱出用パッドの側面図である。
【
図7】パッド本体(左側)に対する厚み付加パッドの着脱状態を示す図である。
【
図8】本実施形態のヘルメットを使用者から取り外す際の手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るヘルメット1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1に示すように、本実施形態のヘルメット1は、使用者Uの頭部をほぼ全域(首周りと両目の前方を除く使用者Uの頭部全域)に亘って被覆・保護するフルフェイスタイプとなっている。上述したヘルメット1は下方に向かって開口する装入開口部2を下側に有しており、装入開口部2(下方)より使用者Uの頭部を差し込み可能となっている。また、ヘルメット1は、最も外殻に配備された帽体シェル3と、帽体シェル3の内周側に配備されて使用者Uの頭部に対する衝撃を緩和(吸収)する衝撃吸収体4と、衝撃吸収体4の内周側に配備されて衝撃吸収体4と頭部との間隙を埋めるクッションパッド5と、を有している。つまり、本実施形態のヘルメット1は、原則として外側から内側にかけて帽体シェル3、衝撃吸収体4、及びクッションパッド5の3層で構成されている。
【0017】
以降では、まず本実施形態のヘルメット1を構成する帽体シェル3、衝撃吸収体4、及びクッションパッド5について説明する。
以降の説明では、ヘルメット1を着用した使用者Uから見た前後方向、左右方向、上下方向を、ヘルメット1を説明する際の前後方向、左右方向、上下方向という。また、使用者Uの頭部が入るヘルメット1の内側を、ヘルメット1を説明する際の内周側といい、ヘルメット1の外側を、ヘルメット1を説明する際の外周側という。これらの方向については、適宜図中に示している。
【0018】
図1及び
図2に示すように、上述した帽体シェル3は、上方に向かって膨出した半球状に形成されており、首周りと両目の前方を除く使用者Uの頭部を全域に亘って被覆できるようになっている。帽体シェル3は、ABSなどの硬質樹脂、あるいは硬質樹脂に炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を組み合わせた複合材料などで形成されている。
具体的には、帽体シェル3は、頭頂部の周囲を被覆する頭頂覆い部3T、後頭部からうなじまでを被覆する後頭覆い部3B、頭部左側において側頭部から頬部に至る部分を被覆する左頬覆い部3L、及び頭部右側において側頭部から頬部に至る部分を被覆する右頬覆い部3Rを有している。また、帽体シェル3の前側には、使用者Uが外側を視認するための前方開口窓6が、帽体シェル3の左前側から正面を通って右前側に至る範囲に形成されている。そして、この前方開口窓6は、帽体シェル3の外側に取り付けられたシールド7(バイザー)で適宜被覆できるようになっている。さらに、前方開口窓6の下側には、使用者Uの顎を被覆する顎覆い部3Fが、左頬覆い部3Lと右頬覆い部3Rとに跨るように、且つ前方開口窓6の下側開口縁に沿うように配備されている。
【0019】
帽体シェル3の下側には、下方に向かって開口する装入開口部2が形成されている。この装入開口部2は使用者Uの頭部を装入可能なように、前後方向に長い略楕円形に開口しており、また頭部のサイズに対応した開口寸法(例えば、頭周が53cm~64cmの範囲で、XS、S、M、L、XL、XXLの6段階の規格サイズ)に形成されている。また、装入開口部2の開口縁には、尖った帽体シェル3の端縁に使用者Uが直接接触することを防止する軟質PVC樹脂などのエッジガード部材8が設けられている。
【0020】
上述した帽体シェル3には、外気を帽体シェル3の内側に取り込むベンチレーション部9が形成されている。本実施形態の場合、ベンチレーション部9は、前方開口窓6の開口縁の下側と、頭頂覆い部3Tの前方とのそれぞれに開口している。これらのベンチレーション部9は、シャッターなどにより任意に開口が開閉自在とされていて、開口から伸びる帽体シェル3内側の流路を通じてクッションパッド5の内側に外気を導入することで蒸れやシールド7の曇りを防止可能となっている。
【0021】
また、上述した帽体シェル3の左右両側の内周面には、それぞれ顎紐10が取り付けられている。これらの顎紐10は、ポリエステル、ナイロンなどの樹脂を用いて長尺な帯状に形成されており、緊急時に過大な力が加わっても外れないようにリベットなどを用いて強固に帽体シェル3の内周面に固定されている。
衝撃吸収体4は、上述した帽体シェル3の内側に配備されて、帽体シェル3の外部から加わった衝撃が使用者Uに頭部に伝達することを抑制可能となっている。この衝撃吸収体4には衝撃吸収性に優れる発泡スチロール(EPS)、発泡ポリプロピレン(EPP)などが用いられており、衝撃を効果的に吸収可能な特性を有している。この衝撃吸収体4は、上述した帽体シェル3の内周面の曲率に合わせて湾曲した板状または塊状の部材であり、上述した帽体シェル3の各部(上述した頭頂覆い部3T、後頭覆い部3B、左頬覆い部3L、右頬覆い部3R、及び顎覆い部3F)に対応して、帽体シェル3の内側に配備されている。
【0022】
本実施形態の場合、衝撃吸収体4には、帽体シェル3の各部のうち、頭頂覆い部3T及び後頭覆い部3Bの内周側に配備される上部吸収体4Uと、左頬覆い部3L、右頬覆い部3R、及び顎覆い部3Fの内周側に配備される下部吸収体4Dと、が用いられている。上述した衝撃吸収体4のうち、下部吸収体4Dの左右両端側には、帽体シェル3の左右両側に取り付けられた顎紐10を衝撃吸収体4の内側に案内する顎紐案内孔31がそれぞれ形成されている。
【0023】
また、下部吸収体4Dの左右両端側には、顎紐案内孔31の前方、後方、上方にやや距離をおいた位置に、後述するパッド袋15(緊急脱出用パッド12)を係止するための係止具32が合計で3個取り付けられている。なお、本実施形態のヘルメット1では、この係止具32はホックボタンとされているが、ホックボタンに代えて布ジッパなどを用いても良い。
【0024】
上述した衝撃吸収体4の内周側には、使用者Uの頭部と上述した衝撃吸収体4との間隙を埋めるクッションパッド5が設けられている。このクッションパッド5は、使用者Uの頭部に対する衝撃緩和とソフトな被り心地を実現できるように、また汗などが良好に排出できるように、頭部に面する側(内周側)に吸水性、通気性に優れる合成繊維布を貼り合わせたスポンジ素材などで形成されている。さらに、このクッションパッド5は、上述した頭部と衝撃吸収体4との間隙が頭部の各部位によってさまざまに変化するため、頭部の部位によってスポンジ素材の厚みや配置が変化する。
【0025】
具体的には、本実施形態のヘルメット1に設けられるクッションパッド5には、上部吸収体4Uの内周側に配備された頭頂パッド5Tと、下部吸収体4Dの内周側に配備された左頬パッド5L及び右頬パッド5Rと、がある。なお、本実施形態の場合、左頬パッド5Lと右頬パッド5Rとは左右方向に距離をあけて配備されており、使用者Uの口の前方にはクッションパッド5は設けられていない。これは、使用者Uの円滑な呼吸を可能とするためであるが、本発明のヘルメット1に口の前方にクッションパッド5を設けたものを採用してもよい。
【0026】
上述したクッションパッド5のうち、頭頂パッド5Tは、上述した頭部と衝撃吸収体4との間隙が狭く、頭髪による補助的な保護が期待できる部位であることから、左頬パッド5L及び右頬パッド5Rに比べて薄手のスポンジ素材などを用いて薄肉に形成されている。これに対して、左頬パッド5L及び右頬パッド5Rは、頭部と衝撃吸収体4との間隙が広く、耳などを収容するスペースの確保や顎紐10の取り付け構造を設ける必要もあるため、頭頂パッド5Tより厚手のスポンジ素材などを用いて肉厚に形成されている。つまり、緊急時に第三者が使用者Uの頭部からヘルメット1を取り外す際には、このような肉厚の左頬パッド5L及び右頬パッド5Rが取り外しの邪魔になる。
【0027】
そこで、本実施形態のクッションパッド5では、上述した左頬パッド5L及び右頬パッド5Rに、内部に収容されたパッド本体14を引き出すことでパッドの嵩を小さく(厚みを薄く)でき、緊急時に第三者によるヘルメット1の迅速な取り外しを可能とする緊急脱出用パッド12をそれぞれ採用している。つまり、これらの緊急脱出用パッド12を設けていることが本発明のヘルメット1の特徴となっている。
【0028】
次に、本発明のヘルメット1の特徴である緊急脱出用パッド12について説明する。
上述した左右の緊急脱出用パッド12は、帽体シェル3の左右いずれに配備されるかによって形状や配置が左右反転しているという違いはあるものの、構成や形状は原則同じである。そこで、以降の説明では、右頬パッド5Rに設けられた緊急脱出用パッド12を例に挙げて、本発明の緊急脱出用パッド12を説明する。
【0029】
図3は緊急脱出用パッド12を右下側から見た図である。この
図3に示すように、上述した緊急脱出用パッド12(右頬パッド5R)は、内部が空洞とされたパッド袋15と、パッド袋15の内部に収納されるパッド本体14と、を有している。また、パッド袋15には開口15aが形成されており、この開口15aには帽体シェル3の内周側に装着されたパッド袋15内からパッド本体14を取り出し可能とするパッド取出部16が設けられている。なお、上述したパッド袋15の開口は、本実施形態の場合、パッド袋15の底面(下面)に形成されている。さらに、パッド本体14とパッド袋15との間には、パッド袋15に対してパッド本体14を連結する連結部材17が設けられている。
【0030】
次に、上述した緊急脱出用パッド12を構成するパッド袋15、パッド本体14、パッド取出部16、及び連結部材17について、詳しく説明する。
図4~
図6に示すように、上述したパッド袋15は、パッド本体14を収容できるように内部が空洞とされた部材であり、布製の素材を用いて袋状に形成されている。本実施形態の場合、パッド袋15は、右側面視の外形形状が略「コ」の字状とされており、中央側前寄りの部分が内外に貫通した状態に形成されたものとなっている。パッド袋15を上述した形状に形成すれば、パッド袋15の中央(の貫通部分)を通って顎紐10をクッションパッド5の内周側に案内可能となる。
【0031】
パッド袋15は、内周側が、通気性に優れる合成繊維布とされており、使用者Uに蒸れがなく心地よい肌触りを提供できるようになっている。パッド袋15の底側(下面)の一部には合成皮革が用いられており、合成皮革と合成繊維布との境界に後述するパッド取出部16を設けるための開口15a(底面の開口)が形成されている。パッド袋15は、外周側が、硬質の合成樹脂のプレート(外周プレート18)などで形成されている。
【0032】
具体的には、パッド袋15の外周面には、ABSなどの合成樹脂で形成された外周プレート18が配備されている。この外周プレート18は、細長い帯板状の板部材を、上述したパッド袋15の外形形状に合わせて、略「コ」の字状に屈曲した形状に形成されている。
上述した外周プレート18を構成する帯板状の板部材の幅方向中央には、外周プレート18を分断する切り込みスリット19が形成されている。この切り込みスリット19は、外周プレート18と同様に略「コ」の字状に屈曲した軌跡に沿うように形成されており、切り込みスリット19の内側に配備された内側プレート18Iと、切り込みスリット19の外側に配備された外側プレート18Oとに外周プレート18を分割可能としている。
【0033】
そして、上述した内側プレート18Iまたは外側プレート18Oのいずれか一方には係止端20が形成されており、内側プレート18Iまたは外側プレート18Oの他方には係止端20を差し込んで固定する被係止部21が形成されている(本実施形態の場合であれば、内側プレート18Iに係止端20が設けられ、外側プレート18Oに被係止端20が設けられている)。それゆえ、一方のプレートの係止端20を他方のプレートの被係止部21に差し入れて係止すれば、内側プレート18Iと外側プレート18Oとが咬合状態で固定され、切り込みスリット19の開口を閉鎖可能となる。このようにパッド袋15の外周プレート18を互いに係脱自在な内側プレート18I及び外側プレート18Oで構成すれば、切り込みスリット19を通じてパッド袋15の内部に収容されたパッド本体14を容易に出し入れすることができ、パッド本体14の部品交換や清掃などが手間なく行え、ヘルメット1の利便性をさらに向上させることが可能となる。
【0034】
上述した外周プレート18の表面には、上述した係止具32と係止可能な被係止具13が取り付けられている。つまり、上述した係止具32は衝撃吸収体4の下部吸収体4Dの内周面に取り付けられており、被係止具13は外周プレート18の外周面における係止具32に対応した位置に取り付けられている。そのため、係止具32を被係止具13に係止させることで、パッド袋15を下部吸収体4D(衝撃吸収体4)の内周側に固定可能となっている。
【0035】
また、パッド袋15の右側面下側には、パッド袋15の下端が帽体シェル3の下端と面一となる位置に、パッド袋15を取り付けるための差し込みガイド板22が形成されている。この差し込みガイド板22は、薄い合成樹脂の板材で形成されており、帽体シェル3の右頬覆い部3Rと、衝撃吸収体4の下部吸収体4Dとの間に形成された狭隘な間隙に差し込み可能となっている。また、差し込みガイド板22は、ある程度の弾性変形を許容するPEやPPなどの合成樹脂を用いて形成されており、帽体シェル3の内周面の湾曲に合わせて湾曲可能なように形成されている。それゆえ、差し込みガイド板22を上述した間隙に下方より差し込めば、差し込みガイド板22を間隙に挟み込んで固定することができる。その結果、下端が帽体シェル3の下端と面一となる位置に配備されるようにパッド袋15を下部吸収体4D(衝撃吸収体4)に固定できる。つまり、この差し込みガイド板22は、パッド袋15の取り付け位置を帽体シェル3の下端と面一となる位置に位置決めする位置決め手段を構成している。
【0036】
図7に示すように、パッド本体14は、上述したパッド袋15に収容可能な部材であり、頭部に対する衝撃を緩和可能なように発泡ウレタンなどの弾性部材で角状に形成されている。
具体的には、上述したパッド本体14は、パッド袋15の上側に収容される上部パッド14Uと、パッド袋15の下側に収容される下部パッド14Dと、を有している。これらの上部パッド14U及び下部パッド14Dは、互いに分離可能とされており、上下に組み合わせた状態でパッド袋15に収容されている。このようにパッド本体14を互いに分離可能な上部パッド14U及び下部パッド14Dで構成すれば、上部パッド14Uをパッド袋15の内部に留めたまま、下部パッド14Dのみがパッド取出部16より取り出し可能となり、パッド袋15の内部からパッド本体14を取り出しやすくなる。
【0037】
特に、本実施形態のように使用者Uの耳や顎紐10の取り付けを考慮してパッド袋15の形状を上述した略「コ」の字状とした場合、パッド本体14も略「コ」の字状に形成してしまうと、パッド本体14がパッド袋15に物理的に干渉して取り出しが難しくなる。しかし、パッド本体14を上下分離可能な構成とした上で、下部パッド14Dのみを取り出せるようにすれば、複雑な形状にパッド袋15やパッド本体14を形成しても、物理的に干渉することがなくパッド本体14の取り出しを簡単に行うことが可能となる。
【0038】
なお、本実施形態のパッド本体14は、上下方向だけでなく、内外方向にも分離可能とされている。具体的には、このパッド本体14は、パッド本体14に対して内外方向に厚みを付加可能な厚み付加パッド23と、厚み付加パッド23をパッド本体14に取り付ける付加パッド取付部24と、を有するものとなっている。
上述した厚み付加パッド23は、パッド本体14と同じ弾性部材で、パッド本体14の厚みの1/6~1/3程度に形成されている。厚み付加パッド23の表面には5ヶ所に亘って取付穴25が穿孔形成されており、この取付穴25を利用して厚み付加パッド23はパッド本体14における外周側の表面に取付可能となっている。つまり、上述した取付穴25には、付加パッド取付部24が差し込み可能となっている。この付加パッド取付部24は、パッド本体14における外周側の表面に形成された突起である。この付加パッド取付部24は、取付穴25の内径よりもやや大きな外径を有する柱状に形成されており、上述した付加パッド取付部24を挿通すると取付穴25は開口が広がる方向(開口径が大きくなる方向)に弾性変形する。つまり、挿通後には広がった取付穴25を縮める方向に復元力が自然に発生し、この復元力により付加パッド取付部24が取付穴25に抜け止め固定される。そのため、付加パッド取付部24を取付穴25に挿通すれば、パッド本体14の外周側に厚み付加パッド23を外れないように取付可能となる。
【0039】
上述した厚み付加パッド23をパッド本体14に取付可能とすれば、適宜厚み付加パッド23を取り外したり取り付けたりすることで、パッド本体14の厚みを微調整することができ、被り心地や脱ぎやすさといったヘルメット1の使い勝手をさらに良好なものとすることができる。
パッド取出部16は、上述したパッド袋15の底面に形成されており、パッド袋15の内部からパッド本体14を取り出し可能となっている。
【0040】
具体的には、上述したパッド袋15の底面には、前後方向に沿って直線状に伸びる開口15aが形成されており、パッド袋15の底面を上下に貫通している。このパッド袋15の開口15aは上述したパッド本体14よりも短尺な開口幅に形成されており、このパッド袋15の底面の開口15aに上述したパッド取出部16が設けられている。
上述したパッド取出部16は、一般に「ファスナー」と呼ばれる部材であり、上述した底面の開口15aの開口縁に設けられた第1エレメント26及び第2エレメント27と、両エレメント26、27を係脱自在に咬合するスライダー28と、を有している。本実施形態の場合、底面の開口15aにおいて、外周側の開口縁に第1エレメント26が設けられ、内周側の開口縁に第2エレメント27が設けられている。これらの第1エレメント26及び第2エレメント27は、それぞれの務歯が咬み合い可能に形成されている。また、上述したスライダー28は、開口15aに沿って前方に移動した場合に、上述した務歯同士を咬み合わせ状態とし、後方に移動した場合に務歯同士を非咬み合わせ状態とする構成となっている。
【0041】
上述したスライダー28には、このスライダー28を摘みやすいように、タグ部材29が取り付けられている。また、底面の開口15aの前端には、スライダー28ごとタグ部材29を収容するタグポケット30が設けられている。このタグポケット30は、上述したタグ部材29の前端側半分を収容できるようになっており、一部をポケットに挟み込んだ状態とすることで誤ってスライダー28が移動することがないようになっている。また、後端側のみを露出した状態でスライダー28をタグポケット30に隠すことができれば、緊急時にはスライダー28を簡単に掴み出すことができ、通常時と緊急時との双方で使い勝手が良くなるようになっている。このようなタグ部材29をスライダー28に設ければ、緊急時にミスなくスライダー28を引くことができ、ヘルメット1の取り外しを確実に行えるようになる。また、タグポケット30を設けてタグ部材29を収容できるようにすれば、通常使用で誤ってタグ部材29を引っ掛けてしまうといった誤操作を防止することも可能となる。さらに、タグ部材29の前端側をタグポケット30に収容して、後端側のみを露出させるように構成すれば、露出したタグ部材29の後端側に「緊急脱出用パッド12」の存在を知らせる表示などを設けることもでき、ヘルメット1の利便性をさらに高めることができる。
【0042】
連結部材17は、パッド袋15とパッド本体14との間に設けられた紐状の部材であり、パッド本体14をパッド袋15に連結している。具体的には、連結部材17の一端は輪状に纏められており、上述した輪の中にパッド本体14(下部パッド14D)を通すようにして、連結部材17の一端は下部パッド14Dに連結されており、また連結部材17の他端は、上述したスライダー28のタグ部材29に取り付けられている。上述した連結部材17を設ければ、パッド本体14の引き出しを簡単に行うことができ、パッド袋15から引き出されたパッド本体14の紛失を防止することが可能となる
図8に示すように、上述した緊急脱出用パッド12を備えたヘルメット1では、事故などの緊急事態が生じた場合に、第三者でも簡単かつ迅速に使用者Uの頭部からヘルメット1を取り外すことができる。
【0043】
例えば、緊急事態が生じて、ヘルメット1を着用した使用者Uが意識を失っている場合を考える。この場合、速やかにヘルメット1を使用者Uの頭部から取り外して、救護措置を行うのが好ましい。しかし、ヘルメット1がフルフェイス型である場合、従来のヘルメットであれば首周りのクッションパッドが邪魔となり、ヘルメットを取り外すのに非常に手間がかかる。
【0044】
ところが、上述した緊急脱出用パッド12を備えた本実施形態のヘルメット1では、緊急脱出用パッド12からパッド本体14を取り出すだけで、首周りのクッションパッド5の嵩が小さくなり、簡単にヘルメット1を使用者Uの頭部から取り外すことが可能となる。また、パッド袋15からパッド本体14(下部パッド14D)を取り出す作業がスムーズにできる為、使用者Uの首への負担も少なくなる。さらに、パッド本体14(下部パッド14D)を取り出した後のパッド袋15がヘルメット1内に残るため、ヘルメット1を取り外す際に使用者Uの頭部を保護するため、この点でも使用者Uの身体に優しい配慮が可能となる。
【0045】
具体的には、本実施形態のヘルメット1の装入開口部2には、パッド袋15が帽体シェル3の下端縁と面一になるように配備されており、このパッド袋15の底面(下面)には開口15aが前後方向に沿うように形成されている。通常に使用している状態では、上述した底面の開口15aの前端にスライダー28が配備されており、パッド取出部16の第1エレメント26及び第2エレメント27は咬み合った状態となっていて、底面の開口15aは閉じている。
【0046】
ヘルメット1を使用者Uの頭部から取り外す場合には、まず底面の開口15aの前端に位置するスライダー28を後方にスライドさせる。このとき、スライダー28にはタグ部材29が設けられており、タグ部材29の前端側はタグポケット30に隠された状態となっているが、タグ部材29の後端側はタグポケット30の外側に出た状態となっているため、タグ部材29を摘んで簡単にスライダー28をスライドさせることができる。
【0047】
このようにしてスライダー28を後方に移動させると、第1エレメント26と第2エレメント27との咬み合いを外しながらスライダー28が後方に移動するため、スライダー28の後方移動に合わせて底面の開口15aが閉鎖状態から開口状態となる。
やがて、底面の開口15aの後端までスライダー28が移動したら、底面の開口15aが完全に開口したものとなる。このとき、紐状の連結部材17は、スライダー28により引っ張られて、底面の開口の近傍(開口のやや上方)に引き出される。つまり、上述したスライダー28は、底面の開口15aを開放する機能だけでなく、紐状の連結部材17を開口の近くに引き出す機能も有している。そのため、開口15aから少し指先を入れるだけで連結部材17を容易に掴むことができ、パッド本体14を簡単に取り出すことが可能となる。
【0048】
なお、上述した底面の開口15aはパッド本体14よりやや短尺な開口幅に形成されているため、物理的にはこの開口15aから長尺なパッド本体14を引き出すことはできない。しかし、上述したようにパッド本体14は弾性部材で形成されているため、短尺な開口に合わせて折り曲げたり撓ませたりすることができる。そのため、連結部材17を掴んで下方に引き下げれば、パッド袋15を衝撃吸収体4に取り付けたままパッド本体14のみを開口より下方に引き出すことが可能となる。
【0049】
このようにパッド本体14が取り出された緊急脱出用パッド12では、内部からパッド本体14が引き抜かれているため、嵩を失ったパッド袋15を自由に押し縮めることが可能となる。そのため、首周りのクッションパッド5が邪魔になることがなくなり、ヘルメット1を使用者Uの頭部から容易に取り外すことが可能となる。
つまり、上述したヘルメット1では、パッド取出部16のタグ部材29を掴んでスライドさせ、続いて紐状の連結部材17を掴んでパッド本体14を引き出すだけで、通常であれば取り外しが困難なフルフェイス型のヘルメット1(あるいは頭部の被覆面積が大きいオープンフェイス式やジェット式のヘルメット)であっても、迅速かつ簡単に使用者Uの頭部から取り外すことが可能となる。それゆえ、事故などの緊急事態においても、事故現場に居合わせた人や警察、消防関係者などの第三者によるヘルメット1の取り外しが迅速かつ容易に行えるようになるため、より安全で使い勝手の良いヘルメット1を提供することが可能となる。
【0050】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0051】
なお、上述した実施形態では、フルフェイス型を例に挙げて本発明のヘルメット1を説明した。しかし、本発明のヘルメット1は、頭部の被覆面積が大きいオープンフェイス式やジェット式であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 ヘルメット
2 装入開口部
3 帽体シェル
3T 頭頂覆い部
3B 後頭覆い部
3L 左頬覆い部
3R 右頬覆い部
3F 顎覆い部
4 衝撃吸収体
4U 上部吸収体
4D 下部吸収体
5 クッションパッド
5T 頭頂パッド
5L 左頬パッド
5R 右頬パッド
6 前方開口窓
7 シールド(バイザー)
8 エッジガード部材
9 ベンチレーション部
10 顎紐
12 緊急脱出用パッド
13 被係止具
14 パッド本体
14U 上部パッド
14D 下部パッド
15 パッド袋
15a パッド袋の開口(底面の開口)
16 パッド取出部
17 連結部材
18 外周プレート
18I 内側プレート
18O 外側プレート
19 切り込みスリット
20 係止端
21 被係止部
22 差し込みガイド板
23 厚み付加パッド
24 付加パッド取付部
25 取付穴
26 第1エレメント
27 第2エレメント
28 スライダー
29 タグ部材
30 タグポケット
31 顎紐案内孔
32 係止具
U 使用者