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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/196 20060101AFI20240219BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K47/12
A61K47/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022038562
(22)【出願日】2022-03-11
(62)【分割の表示】P 2017182290の分割
【原出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2022078273
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】猪尾 勝幸
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-008927(JP,A)
【文献】特開2013-095749(JP,A)
【文献】特開平07-089853(JP,A)
【文献】特開2011-068610(JP,A)
【文献】特開2008-061862(JP,A)
【文献】特開平11-035458(JP,A)
【文献】特開2002-226366(JP,A)
【文献】国際公開第2004/082672(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/196
A61K 47/12
A61K 47/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロフェナク塩を、固体の酸を含まず液体の酸のみからなる有機酸および金属酸化物と混合することを含む、ジクロフェナク塩から1-(2,6-ジクロロフェニル)-2-インドリノンが生成することを抑制する方法であって、
液体の酸のみからなる有機酸がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびイソステアリン酸から選択される1種または2種以上であり、
金属酸化物が酸化亜鉛、酸化アルミニウム、および酸化チタンから選択される1種または2種以上である、
方法。
【請求項2】
ジクロフェナク塩がジクロフェナクナトリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体の酸のみからなる有機酸がオレイン酸およびイソステアリン酸から選択される1種または2種である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
液体の酸のみからなる有機酸がイソステアリン酸である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
金属酸化物が酸化亜鉛である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を含有した貼付剤に関し、さらに詳しくはジクロフェナク塩と、主薬溶解剤としての有機酸と、ジクロフェナク塩の安定化剤としての金属酸化物を配合してなる貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクロフェナクまたはその塩は優れた消炎鎮痛作用を有することから、経口剤または坐薬として臨床の場で広く用いられている。また、経皮吸収製剤化され、慢性リウマチ、変形性脊椎症、および腰痛症等の各種炎症疾患の治療または予防に広く使用されている。
【0003】
ジクロフェナクまたはその塩を油性貼付剤(プラスター剤)等に配合した場合には、保存中にジクロフェナクの分解生成物が油性基剤中に生成してくることはよく知られている。特に、貼付剤を熱溶融法(ホットメルト法)で製造する場合、薬物を含有した粘着剤組成物を高温で溶融させた状態で塗工工程を行うため、高温条件による薬物の熱分解や、添加物との熱反応により不純物が生成する。ジクロフェナクの代表的な分解生成物としてはインドリノン体(1-(2,6-ジクロロフェニル)-2-インドリノン)が挙げられ、また、L-メントールを含有した貼付剤の場合には、L-メントールエステル体が挙げられる。特にL-メントールを含有した貼付剤に関して、L-メントールエステル体の生成抑制については、従来から、様々な試みがなされている(特許文献1~3)。一方、インドリノン体の生成抑制については特許文献4において、貼付剤を封入する包装袋内部の相対湿度を一定の範囲に保つことで脱水反応物(インドリノン体)を抑制できるとされている。しかしながら、インドリノン体の生成抑制について、製剤組成面から検討された文献は見当たらない。
【0004】
インドリノン体の生成を抑えるには、ジクロフェナクまたはその塩の貼付剤基剤中での溶解性を抑え、薬物分散型の貼付剤とすることにより、ある程度は分解物の生成を抑制できる。しかしながら、このような薬物分散型の貼付剤は薬物放出性が悪いため、十分な治療または予防効果が得られない。このため、薬物放出性を落とさずに、インドリノン体をはじめとするジクロフェナク分解物の生成が抑制された貼付剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-226366号公報
【文献】国際公開第96/08245号公報
【文献】特開2010-90098号公報
【文献】特開2008-061862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するもので、ジクロフェナク塩を含有した貼付剤において、薬物の放出性を低下させずに、長期保存中や高温条件下での製造中においても薬物の分解物の生成を抑制できる安定性の高い貼付剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ジクロフェナク塩と有機酸を配合した貼付剤中に、金属酸化物を配合することによって、薬物の放出性を低下させることなく、インドリノン体等の分解物の生成を抑えることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.貼付剤およびその製造方法
[1]
膏体中にジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を含む貼付剤。
[2]
ジクロフェナク塩がジクロフェナクナトリウムであり;
有機酸がオレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、カプリン酸、カプリル酸、および乳酸から選択される1種または2種以上であり;かつ、
金属酸化物が酸化亜鉛、酸化アルミニウム、および酸化チタンから選択される1種または2種以上である、[1]に記載の貼付剤。
[3]
有機酸がイソステアリン酸であり、かつ、金属酸化物が酸化亜鉛である、[1]または[2]に記載の貼付剤。
[4]
膏体重量に対してジクロフェナク塩の含有量が0.1重量%~10重量%であり、有機酸の含有量が0.1重量%~10重量%であり、かつ、金属酸化物の含有量が0.01重量%~5重量%である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の貼付剤。
[5]
膏体中にベースポリマー、粘着付与樹脂、および軟化剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の貼付剤。
[6]
ベースポリマーが天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、またはスチレン-イソプレンゴムであり;
粘着付与樹脂がロジン系樹脂、石油系樹脂、およびテルペン系樹脂から選択される1種または2種以上であり;かつ、
軟化剤がポリイソブチレン、液状ポリイソプレン、ポリブテン、ラノリン、ひまし油、アーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ラッカセイ油、プロセスオイル、エキステンダーオイル、および流動パラフィンから選択される1種または2種以上である、[5]に記載の貼付剤。
[7]
ベースポリマーがスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体であり、粘着付与樹脂が脂環族飽和炭化水素樹脂であり、かつ、軟化剤がポリブテンおよび流動パラフィンである、[5]に記載の貼付剤。
[8]
膏体重量に対してベースポリマーの含有量が5重量%~30重量%であり、粘着付与樹脂の含有量が10重量%~60重量%であり、かつ、軟化剤の含有量が10重量%~75重量%である、[5]~[7]のいずれか1つに記載の貼付剤。
[9]
膏体中に清涼化剤をさらに含む、[5]~[8]のいずれか1つに記載の貼付剤。
[10]
清涼化剤がL-メントールである、[9]に記載の貼付剤。
[11]
加熱下でジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を含む組成物を支持体または剥離ライナー上に塗工する工程を含む、[1]~[10]のいずれか1つに記載の貼付剤の製造方法。
[12]
ベースポリマー、粘着付与樹脂、および軟化剤を含む混合物を加熱攪拌して粘着剤溶液を得、次いでジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を粘着剤溶液に添加して組成物を得る工程をさらに含む、[11]に記載の製造方法。
【0009】
また、本発明は以下に関する。
2.貼付剤の用途
[13]
変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、または外傷後の腫脹もしくは疼痛を治療または予防するための、[1]~[10]のいずれか1つに記載の貼付剤。
[14]
変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、または外傷後の腫脹もしくは疼痛を治療または予防するための医薬の製造における、[1]~[10]のいずれか1つに記載の貼付剤の使用。
[15]
[1]~[10]のいずれか1つに記載の貼付剤を投与する工程を含む、変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎、筋肉痛、または外傷後の腫脹もしくは疼痛を治療または予防する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、薬物の放出性が低下することなく、保存や製造工程の間に製剤中に生じるジクロフェナクの分解物の生成が抑制された貼付剤を提供することが可能となったものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「含有する」または「含む」は、「配合する」と互換的に用いられてもよい。また、本明細書において、「含有量」は「配合量」と互換的に用いられてもよい。
【0012】
本発明の貼付剤は、膏体中にジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を含む。膏体は通常、粘着剤を主成分とする粘着基剤と薬物を含有するペースト状の組成物であり、粘着剤組成物と称してもよい。
【0013】
本発明の貼付剤に配合されるジクロフェナク塩としては、例えばジクロフェナクナトリウム、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクジエチルアンモニウム、およびジクロフェナクヒドロキシエチルピロリジン等が挙げられる。好ましいジクロフェナク塩は、ジクロフェナクナトリウムである。
【0014】
本発明の貼付剤中のジクロフェナク塩の含有量は、製剤化が可能である限り特に限定されないが、通常は膏体重量に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~6重量%、より好ましくは1重量%~4重量%の範囲である。製剤中のジクロフェナク塩の含有量が0.1重量%未満であると経皮吸収性が不十分であり、10重量%を超えると貼付剤の物性を損なうばかりか、経済的にも不利であり好ましくない。
【0015】
本発明の貼付剤に配合される有機酸は、ジクロフェナク塩の溶解剤として機能する。使用できる有機酸としては例えば、プロピオン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、クエン酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、乳酸、マレイン酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、および酒石酸等の脂肪族カルボン酸;ならびにフタル酸、サリチル酸、安息香酸、およびアセチルサリチル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。脂肪族カルボン酸が好ましく、オレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、カプリン酸、カプリル酸、および乳酸から選択される1種または2種以上がより好ましく、オレイン酸およびイソステアリン酸から選択される1種または2種がさらに好ましく、イソステアリン酸がとりわけ好ましい。
【0016】
有機酸の含有量は通常、膏体重量に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~8重量%、より好ましくは0.7重量%~7重量%の範囲である。有機酸の含有量が0.1重量%未満であると膏体中にジクロフェナク塩を十分に溶解させることが困難となり、薬物の経皮吸収性の低下、あるいは保存中の製剤における主薬の結晶析出等が起こり、逆に有機酸の含有量が10重量%を超える場合には、皮膚刺激性の問題、あるいは製剤の物性が低下する等の問題が生じる。
【0017】
本発明の貼付剤に配合される金属酸化物は、ジクロフェナクの薬物放出性を低下させることなく、ジクロフェナクの分解物の生成を抑制させる機能を有する。使用できる金属酸化物としては、例えば酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、および酸化チタン等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。酸化亜鉛、酸化アルミニウム、および酸化チタンから選択される1種または2種以上が好ましく、酸化亜鉛および酸化チタンから選択される1種または2種がより好ましく、酸化亜鉛がとりわけ好ましい。
【0018】
本発明の貼付剤に配合される金属酸化物の含有量は通常、膏体重量に対して0.01重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~3重量%、より好ましくは0.3重量%~1.5重量%の範囲である。0.01重量%未満であると分解物の生成抑制効果が不十分であり、逆に5重量%を超えて配合しても、それ以上の効果は見られず、逆に製剤の物性が悪化する。
【0019】
1つの実施態様では、本発明の貼付剤の膏体中には、ベースポリマー、粘着付与樹脂、および軟化剤がさらに配合され、さらにその他の成分を適宜配合することができる。
【0020】
本発明の貼付剤に使用されるベースポリマーには、例えばアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、およびシリコン系粘着剤等が使用できるが、ゴム系粘着剤を使用するのが好ましい。ゴム系粘着剤としては、例えば天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、およびスチレン-イソプレンゴム等が挙げられるが、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(以下SISとも称す)を使用するのが好ましい。ベースポリマーの含有量は、他の成分の含有量を考慮に入れて決定されるが、通常は膏体重量に対して5重量%~30重量%、好ましくは10重量%~25重量%、より好ましくは10重量%~20重量%の範囲である。上記含有量が5重量%未満であると基剤の凝集力や保型性が低下する。他方、上記の含有量が30重量%を超えると粘着力の低下、膏体の不均一化、および製造工程における作業性の低下を招く。
【0021】
粘着付与樹脂としては、貼付剤に一般的に配合されているものであれば特に限定されず、例えばロジンエステルおよび水添ロジングリセリンエステル等のロジン系樹脂;脂環族飽和炭化水素樹脂等の石油系樹脂;ならびにテルペン系樹脂等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。脂環族飽和炭化水素樹脂が好ましい。粘着付与樹脂の含有量は、製剤化が可能である限り特に限定されないが、通常は膏体重量に対して10重量%~60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは25重量%~40重量%の範囲である。製剤中の粘着付与樹脂の含有量が10重量%未満であると製剤の物性が悪化し、糊残り等の好ましくない影響が出る。また60重量%を超えて配合した場合、皮膚刺激の原因となり好ましくない。
【0022】
本発明の貼付剤に使用される軟化剤とは、他の基剤成分と相溶性がよく、基剤に柔軟性を与えるものであれば特に限定されない。使用できる軟化剤としては、例えばポリイソブチレン、液状ポリイソプレン、ポリブテン、ラノリン、ひまし油、アーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ラッカセイ油、プロセスオイル、エキステンダーオイル、および流動パラフィン等が挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくはポリブテンおよび流動パラフィンから選択される1種または2種である。軟化剤の含有量は、製剤に配合されるその他の液状成分の含有量も考慮して決定され、通常は膏体重量に対して10重量%~75重量%、好ましくは20重量%~50重量%、より好ましくは30重量%~45重量%の範囲である。
【0023】
本発明の貼付剤においては、必要に応じて、有機酸および金属酸化物以外の溶解剤または吸収促進剤を配合することも可能である。これらの溶解剤または吸収促進剤としては、例えばミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、およびパルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、およびグリセリン等の多価アルコール;N-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、およびN-オクチル-2-ピロリドン等のピロリドン化合物;クロタミトン;ならびに界面活性剤等が例示できる。
【0024】
また本発明の貼付剤には、他に影響を与えなければ、通常の貼付剤に用いられる各種の基剤成分が使用できる。かかる基剤成分としては特に限定されないが、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸等の水溶性高分子;エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体;ハッカ油およびL-メントール等の清涼化剤;無水ケイ酸および軽質無水ケイ酸等のケイ素化合物;ジブチルヒドロキシトルエン(BHTとも称する)、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸等の酸化防止剤;ならびにシリカ類およびステアリン酸亜鉛等の無機充填剤等が挙げられる。本発明の貼付剤には、更に必要に応じて、防腐剤、殺菌剤、着香剤、および着色剤等を添加することができる。
【0025】
1つの実施態様では、本発明の貼付剤にはハッカ油およびL-メントールから選択される1種または2種の清涼化剤が配合される。清涼化剤としてはL-メントールが好ましい。清涼化剤の含有量は、膏体重量に対して0.5重量%~10重量%、好ましくは1重量%~8重量%、より好ましくは2重量%~6重量%の範囲である。
【0026】
別の実施態様では、発明の貼付剤にはジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸から選択される1種または2種以上の酸化防止剤が配合される。酸化防止剤としてはジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。酸化防止剤の含有量は、膏体重量に対して0.1重量%~5重量%、好ましくは0.3重量%~3重量%、より好ましくは0.5重量%~2重量%である。
【0027】
1つの実施態様では、本発明の貼付剤は膏体中にジクロフェナク塩、有機酸、金属酸化物、ベースポリマー、粘着付与樹脂、および軟化剤を含む。
別の実施態様では、本発明の貼付剤は膏体中にジクロフェナク塩、有機酸、金属酸化物、ベースポリマー、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、および清涼化剤を含む。
別の実施態様では、本発明の貼付剤は膏体中にジクロフェナク塩、有機酸、金属酸化物、ベースポリマー、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、および清涼化剤を含み、さらに任意に、有機酸および金属酸化物以外の溶解剤または吸収促進剤、水溶性高分子、セルロース誘導体、ケイ素化合物、無機充填剤、防腐剤、殺菌剤、着香剤、および着色剤から選択される1種または2種以上の成分を含む。
別の実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、ジクロフェナク塩、有機酸、金属酸化物、ベースポリマー、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、および清涼化剤、ならびに任意成分としての有機酸および金属酸化物以外の溶解剤または吸収促進剤、水溶性高分子、セルロース誘導体、ケイ素化合物、無機充填剤、防腐剤、殺菌剤、着香剤、および着色剤から選択される1種または2種以上の成分からなる。
別の実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、ジクロフェナク塩、有機酸、金属酸化物、ベースポリマー、粘着付与樹脂、軟化剤、酸化防止剤、および清涼化剤からなる。
【0028】
別の実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、
ジクロフェナクナトリウム;
オレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、カプリン酸、カプリル酸、および乳酸から選択される1種または2種以上の有機酸;
酸化亜鉛、酸化アルミニウム、および酸化チタンから選択される1種または2種以上の金属酸化物;
天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、およびスチレン-イソプレンゴムから選択されるベースポリマー;
ロジン系樹脂、石油系樹脂、およびテルペン系樹脂から選択される1種または2種以上の粘着付与樹脂;
ポリイソブチレン、液状ポリイソプレン、ポリブテン、ラノリン、ひまし油、アーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ラッカセイ油、プロセスオイル、エキステンダーオイル、および流動パラフィンから選択される1種または2種以上の軟化剤;
ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、酢酸トコフェロール、およびアスコルビン酸から選択される1種または2種以上の酸化防止剤;ならびに
ハッカ油およびL-メントールから選択される1種または2種の清涼化剤
からなる。
【0029】
別の実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、
ジクロフェナクナトリウム;
オレイン酸およびイソステアリン酸から選択される1種または2種の有機酸;
酸化亜鉛および酸化チタンから選択される1種または2種の金属酸化物;
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体;
脂環族飽和炭化水素樹脂;
ポリブテンおよび流動パラフィンから選択される1種または2種の軟化剤;
ジブチルヒドロキシトルエン;ならびに
L-メントール
からなる。
【0030】
別の実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、ジクロフェナクナトリウム;イソステアリン酸;酸化亜鉛;スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体;脂環族飽和炭化水素樹脂;ポリブテンおよび流動パラフィン;ジブチルヒドロキシトルエン;ならびにL-メントールからなる。
【0031】
1つの実施態様では、本発明の貼付剤の膏体は、膏体重量に対して、
0.1重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~6重量%、より好ましくは1重量%~4重量%のジクロフェナク塩;
0.1重量%~10重量%、好ましくは0.5重量%~8重量%、より好ましくは0.7重量%~7重量%の有機酸;
0.01重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~3重量%、より好ましくは0.3重量%~1.5重量%の金属酸化物;
5重量%~30重量%、好ましくは10重量%~25重量%、より好ましくは10重量%~20重量%のベースポリマー;
10重量%~60重量%、好ましくは15重量%~50重量%、より好ましくは25重量%~40重量%の粘着付与樹脂;
10重量%~75重量%、好ましくは20重量%~50重量%、より好ましくは30重量%~45重量%の軟化剤;
0.1重量%~5重量%、好ましくは0.3重量%~3重量%、より好ましくは0.5重量%~2重量%の酸化防止剤;および
0.5重量%~10重量%、好ましくは1重量%~8重量%、より好ましくは2重量%~6重量%の清涼化剤を含む。
【0032】
貼付剤の支持体としては、例えばフィルム、不織布、織布、編布、および不織布とフィルムのラミネート複合体等が挙げられる。これらの支持体の材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、およびポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0033】
貼付剤に使用される剥離ライナーは、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、または紙等を用いることができ、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。剥離ライナーは剥離力を至適にするため必要に応じてシリコン処理してもよい。
【0034】
本発明の貼付剤の製造方法としては、限定されるものではないが、例えば粘着剤組成物をトルエンやヘキサン等の有機溶剤に溶解させ、塗工および乾燥工程により有機溶剤を除去することを特徴とする溶媒法;および粘着剤組成物を100℃以上の高温で溶融させた状態で塗工工程を実施することを特徴とする熱溶融法(ホットメルト法)を挙げることができる。1つの実施態様では、本発明の貼付剤は熱溶融法で製造される。
【0035】
1つの実施態様では、本発明の貼付剤は、加熱下(例えば100~200℃、好ましくは100~150℃)でジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を含む組成物を支持体または剥離ライナー上に塗工する工程を含む製造方法で製造される。別の実施態様では、該組成物は、ベースポリマー、粘着付与樹脂、および軟化剤を含む混合物を加熱攪拌して粘着剤溶液を得、次いでジクロフェナク塩、有機酸、および金属酸化物を該粘着剤溶液に添加して得られる。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕
SIS(SIS5002;JSR株式会社製)、脂環族飽和炭化水素樹脂(アルコンP-100;荒川化学工業株式会社製)、ポリブテン(HV-300F;JXTGエネルギー株式会社製)、流動パラフィン(ハイコールM-352;カネダ株式会社製)、およびBHTの各成分を窒素雰囲気下、加熱攪拌して溶解し、粘着剤溶液を得た。次いで、主薬であるジクロフェナクナトリウム、L-メントール、イソステアリン酸、および酸化亜鉛を前記粘着剤溶液中に添加し、さらに撹拌混合し、粘着剤組成物を調製した。
【0038】
調製された粘着剤組成物を、シリコン処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工し、厚さ約100μmの粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層を支持体としてのポリエステル製織布にラミネートし、本発明の貼付剤を得た。各成分の含有量は表1に示した。
【0039】
〔実施例2~7〕
表1または表2に示す組成により、実施例1の製法に従い、実施例2~7の各貼付剤を得た。
【0040】
〔比較例1~5〕
表3に示す組成により、実施例1の製法に従い、比較例1~5の各貼付剤を得た。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
[試験例]
〔試験例1〕in vitro皮膚透過性試験
実施例1~7および比較例1~5の各貼付剤について、in vitroヘアレスラット皮膚透過性試験を行った。雄性ヘアレスラット(HWY系、7週齢)の腹部皮膚を摘出してフランツ型拡散セルにセットし、真皮側をレセプター側とし、その内側にはリン酸緩衝生理食塩水を満たし、ウォータージャケットには37℃の温水を還流した。各貼付剤を円形(1.54cm)に打ち抜き、摘出皮膚に貼付して試験開始後24時間時のレセプター液をサンプリングし、高速液体クロマトグラフ法により、薬物の皮膚透過量を測定した。
試験結果は、上記の表1、表2、および表3に示す。実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、および実施例3と比較例3との比較で判明するように、酸化亜鉛の配合により、主薬放出性が低下せず、酸化亜鉛を配合しない製剤と同等以上の薬物放出性を示すことが認められる。
【0045】
〔試験例2〕分解物定量試験
60℃の保存条件下で1ヶ月間保存した実施例1~7および比較例1~5の各貼付剤を35cmに打ち抜き、50mL容の遠心沈殿管に入れ、これにテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)を加えて超音波抽出、および振とう機による抽出を行った。得られた抽出液を50mL容のメスフラスコに採取して、THFにて50mLとした。
【0046】
この抽出液を1mL取り、40%アセトニトリル水溶液を用いて10mLとした後、メンブランフィルター(0.45μm)を用いてろ過を行い、HPLC法により、下記の測定条件でインドリノン体生成量およびメントールエステル体生成量を測定した。
【0047】
試験結果は、上記の表1、表2、および表3に示す。なお、インドリノン体生成量およびメントールエステル体生成量の各量は、主薬成分(ジクロフェナクナトリウム)のピーク面積に対する、各分解物のピーク面積の比(%)として示している。
〔HPLCの測定条件〕
・カラム:ACQUITY C8(2.1×100mm)
・移動相
A アセトニトリル:水:リン酸=100:900:1
B アセトニトリル:水:リン酸=900:100:1
・流速:0.4mL/分
・濃度勾配制御
【表4】
・測定波長:282nm
・注入量:7μL
【0048】
表1、表2、および表3に示した結果から明らかなように、各比較例の分解物の生成量と比較して、(1)メントールを配合していない本発明の実施例6および7ではインドリノン体の生成が大きく抑制されており、(2)メントールの配合されている本発明の実施例1~5においては、インドリノン体およびメントールエステル体の生成が双方とも大きく抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、保存や製造工程の間に製剤中に生じるジクロフェナクの分解物の生成が抑制され、かつ、高い薬物放出性を示す貼付剤を提供することができる。本発明の貼付剤は、例えば変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、または外傷後の腫脹・疼痛等の治療または予防に有用である。