(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20240219BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2022093075
(22)【出願日】2022-06-08
【審査請求日】2023-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100148688
【氏名又は名称】中村 裕行
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 憲宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正己
(72)【発明者】
【氏名】飯田 有人
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-052257(JP,A)
【文献】特開2010-042549(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102020107547(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/16,45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金型に成形基材を装着し、該成形基材が装着された前記第一金型を第二金型に前記成形基材を覆うように突き当て、該第二金型の内面と前記成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、該コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して前記成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、
互いに突き当てられる前記第一金型の突き当て面と前記第二金型の突き当て面との間に弾性体を介在させ、前記第一金型の突き当て面と前記第二金型の突き当て面とを突き当てたときに前記弾性体が圧縮することで、前記コーティングギャップ内に注入された前記液状コーティング剤が前記突き当て面同士の間から漏出しないようにシールする、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項2】
前記弾性体に環状に形成された弾性シートを用い、
該弾性シートを前記成形基材が装着される前記第一金型の突き当て面に装着し、
前記弾性シートおよび前記成形基材が装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てて、前記第二金型の内面と前記成形基材の外面との間に前記コーティングギャップを形成すると共に前記弾性シートを圧縮させ、
圧縮された前記弾性シートによって前記第一金型の突き当て面と前記第二金型の突き当て面との間をシールすることで、前記コーティングギャップ内に注入された前記液状コーティング剤が前記突き当て面同士の間から漏出することを防止した、ことを特徴とする請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項3】
前記弾性体に前記成形基材が装着される形状の弾性ブロックを用い、
該弾性ブロックが前記第一金型の突き当て面に装着された状態で前記弾性ブロックに前記成形基材を装着し、
前記成形基材が前記弾性ブロックに装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てて、前記第二金型の内面と前記成形基材の外面との間に前記コーティングギャップを形成すると共に前記弾性ブロックを圧縮させ、
圧縮された前記弾性ブロックによって前記第一金型の突き当て面と前記第二金型の突き当て面との間をシールすることで、前記コーティングギャップ内に注入された前記液状コーティング剤が前記突き当て面同士の間から漏出することを防止した、ことを特徴とする請求項1に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項4】
前記弾性ブロックは、前記第一金型の突き当て面に沿って凸状に形成されたブロック凸部を有し、前記第二金型は、前記ブロック凸部と係合する金型凹部を有し、前記成形基材は、前記ブロック凸部と係合する成形基材凹部を有し、
前記弾性ブロックが前記第一金型の突き当て面に装着された状態で前記弾性ブロックに前記成形基材を装着し、前記成形基材が前記弾性ブロックに装着された前記第一金型を前記第二金型に前記成形基材を覆うように突き当てて、前記第二金型の内面と前記成形基材の外面との間に前記コーティングギャップを形成すると共に前記弾性ブロックを圧縮させるとき、
前記第二金型の前記金型凹部が前記弾性ブロックの前記ブロック凸部を押圧し、前記ブロック凸部が圧縮されることで前記ブロック凸部と前記金型凹部との間をシールし、前記コーティングギャップ内に注入された前記液状コーティング剤が前記ブロック凸部と前記金型凹部との間から漏出することを防止した、ことを特徴とする請求項3に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項5】
前記液状コーティング剤に熱硬化塗料を用い、該熱硬化塗料を前記第二金型の内面と前記成形基材の外面との間に形成されたコーティングギャップに注入した後、前記第二金型を熱源とした熱反応によって前記熱硬化塗料が硬化して前記成形基材の外面に付着する、ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の金型内コーティング成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、
前記第一金型の突き当て面に塗装コアが凸設され、
前記第一金型の突き当て面を前記第二金型の突き当て面に近接させたとき、前記塗装コアが差し込まれる塗装キャビティが前記第二金型の突き当て面に凹設され、
前記第一金型の突き当て面に前記塗装コアを囲繞するように環状に形成された弾性シートを装着すると共に該弾性シートに載るように前記成形基材を前記塗装コアに装着した状態で、前記第一金型の突き当て面を前記第二金型の突き当て面に近接させたとき、前記弾性シートと接触するシート収容凹部が前記塗装キャビティの外周と全周に亘って繋がるように前記第二金型の突き当て面に凹設され、
前記シート収容凹部の深さが前記弾性シートの厚さより浅く設定されている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型。
【請求項7】
請求項3に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、
前記第一金型の突き当て面に装着された弾性ブロックが、前記第一金型の突き当て面に形成された凹部に嵌まるベースブロック部と、前記成形基材が装着されるメインブロック部と、前記第一金型の突き当て面から僅かに突出した部分とを有し、
前記第一金型の突き当て面を前記第二金型の突き当て面に近接させたとき、前記弾性ブロックのメインブロック部が差し込まれる塗装キャビティが前記第二金型の突き当て面に凹設され
ている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型。
【請求項8】
請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、
前記第一金型の突き当て面に装着された弾性ブロックが、前記第一金型の突き当て面に形成された凹部に嵌まるベースブロック部と、前記成形基材が装着されるメインブロック部と、前記第一金型の突き当て面に沿って凸状に形成されたブロック凸部と、前記第一金型の突き当て面から僅かに突出した部分とを有し、
前記第一金型の突き当て面を前記第二金型の突き当て面に近接させたとき、前記弾性ブロックのメインブロック部が差し込まれる塗装キャビティが前記第二金型の突き当て面に凹設されると共に、前記ブロック凸部と係合する金型凹部が前記塗装キャビティに接続して形成され
ている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に係り、特に、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が一対の金型同士の突き当て面から漏出することを防止した金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題への関心が高まる中、有機溶剤を使用せず且つCO2排出削減効果の高い塗装代替技術として、金型内コーティング方法(インモールドコーティング:IMC)が注目されている。IMCとは、成形に用いられた金型を利用して、成形基材の外面と金型の内面との隙間に機能性液状コーティング剤(例えば塗料)を注入し、加熱により成形基材の外面に被膜(例えば塗膜)を形成する技術である(特許文献1参照)。
【0003】
IMCの特徴としては、(1)一般的なスプレー塗装で用いられる有機溶剤を使用しないので環境及び人体に優しい、(2)塗装工程を行うための設備(スプレー吹付、オーブン熱処理)が不要、(3)塗料を有機溶剤で希釈しないので塗布前の材料(塗料)が成形基材の外面に塗膜として形成される割合(塗着効率)が非常に高く無駄が極めて少ない、等が挙げられる。
【0004】
ところで、IMCは、熱硬化樹脂を成形基材とする一部の製品を除き、熱可塑性樹脂の成形品では広く実用化に至っていない。その大きな理由のひとつは、成形基材と金型との隙間に注入する液状コーティング剤(塗料)の漏出である。液状コーティング剤の主材料は多くが熱硬化性樹脂であり、注入時の粘性は極めて低く微小な隙間でも浸透するため、金型同士の突き当て面から漏れ出てしまい、製造における品質低下の原因となっている。
【0005】
塗料の漏れ対策として、特許文献2には、一対の金型の間に成形基材を射出成形した後に金型同士を僅かに離間させて成形基材と金型との間にコーティングギャップを形成し、そのコーティングギャップに塗料を注入する所謂コアバック式IMCにおいて、金型同士の突き当て面(パーティング面)に成形基材を囲むように補助キャビティを設け、コーティングギャップから漏れ出た塗料を補助キャビティに導いて硬化させることで、金型外への漏出を防止した方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、同じくコアバック式IMCにおいて、金型に、成形基材を成形する主キャビティ(金型キャビティ)を囲むように副キャビティを設けたものが開示されている。このコアバック式IMCによれば、主キャビティにて成形基材を射出成形する際に副キャビティにて成形基材の外周にリブを形成し、その後、金型同士を僅かに離間させて成形基材と金型との間に形成されたコーティングギャップに塗料を注入した際、塗料がリブに堰き止められて金型同士のパーティング面から漏出することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3617807号公報
【文献】特許第3820332号公報
【文献】特開2001-38737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2、3に開示されたものは、補助キャビティや副キャビティによって本来製品として必要のない形状を封止材(パッキン)として形成しているため、製品を取り出し後に必要のない封止材の部分を除去するトリミング工程が必要となり、製造コストのアップが避けられない。また、金型同士を僅かに離間(コアバック)させて成形基材と金型との間にコーティングギャップを形成する際、補助キャビティや副キャビティにて成形された形成部が脱落し、コンタミ不良を引き起こしてしまう可能性がある。
【0009】
このように、熱可塑性樹脂の成形事業においては、成形サイクルを数秒単位で短縮し、成形後の後加工を極力排除して、製造コストを低減しなければならないところ、上述した塗料の漏れ問題がIMCを利用した量産化への足かせとなっている。
【0010】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型において、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が一対の金型同士の突き当て面から漏出することを適切に防止できる金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく創案された本発明によれば、第一金型に成形基材を装着し、成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当て、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させた金型内コーティング成形品の製造方法であって、互いに突き当てられる第一金型の突き当て面と第二金型の突き当て面との間に弾性体を介在させ、第一金型の突き当て面と第二金型の突き当て面とを突き当てたときに弾性体が圧縮することで、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面同士の間から漏出しないようにシールする、ことを特徴とする金型内コーティング成形品の製造方法が提供される(請求項1)。
【0012】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法においては、弾性体に環状に形成された弾性シートを用い、弾性シートを成形基材が装着される第一金型の突き当て面に装着し、弾性シートおよび成形基材が装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てて、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成すると共に弾性シートを圧縮させ、圧縮された弾性シートによって第一金型の突き当て面と第二金型の突き当て面との間をシールすることで、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面同士の間から漏出することを防止してもよい(請求項2)。
【0013】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法においては、弾性体に成形基材が装着される形状の弾性ブロックを用い、弾性ブロックが第一金型の突き当て面に装着された状態で弾性ブロックに成形基材を装着し、成形基材が弾性ブロックに装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てて、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成すると共に弾性ブロックを圧縮させ、圧縮された弾性ブロックによって第一金型の突き当て面と第二金型の突き当て面との間をシールすることで、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面同士の間から漏出することを防止してもよい(請求項3)。
【0014】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法においては、弾性ブロックは、第一金型の突き当て面に沿って凸状に形成されたブロック凸部を有し、第二金型は、ブロック凸部と係合する金型凹部を有し、成形基材は、ブロック凸部と係合する成形基材凹部を有し、弾性ブロックが第一金型の突き当て面に装着された状態で弾性ブロックに成形基材を装着し、成形基材が弾性ブロックに装着された第一金型を第二金型に成形基材を覆うように突き当てて、第二金型の内面と成形基材の外面との間にコーティングギャップを形成すると共に弾性ブロックを圧縮させるとき、第二金型の金型凹部が弾性ブロックのブロック凸部を押圧し、ブロック凸部が圧縮されることでブロック凸部と金型凹部との間をシールし、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤がブロック凸部と金型凹部との間から漏出することを防止してもよい(請求項4)。
【0015】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法においては、液状コーティング剤に熱硬化塗料を用い、熱硬化塗料を第二金型の内面と成形基材の外面との間に形成されたコーティングギャップに注入した後、第二金型を熱源とした熱反応によって熱硬化塗料が硬化して成形基材の外面に付着してもよい(請求項5)。
【0016】
また、本発明によれば、請求項2に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、第一金型の突き当て面に塗装コアが凸設され、第一金型の突き当て面を第二金型の突き当て面に近接させたとき、塗装コアが差し込まれる塗装キャビティが第二金型の突き当て面に凹設され、第一金型の突き当て面に塗装コアを囲繞するように環状に形成された弾性シートを装着すると共に弾性シートに載るように成形基材を塗装コアに装着した状態で、第一金型の突き当て面を第二金型の突き当て面に近接させたとき、弾性シートと接触するシート収容凹部が塗装キャビティの外周と全周に亘って繋がるように第二金型の突き当て面に凹設され、シート収容凹部の深さが弾性シートの厚さより浅く設定されている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型が提供される(請求項6)。
【0017】
また、請求項3に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、第一金型の突き当て面に装着された弾性ブロックが、第一金型の突き当て面に形成された凹部に嵌まるベースブロック部と、成形基材が装着されるメインブロック部と、第一金型の突き当て面から僅かに突出した部分とを有し、第一金型の突き当て面を第二金型の突き当て面に近接させたとき、弾性ブロックのメインブロック部が差し込まれる塗装キャビティが第二金型の突き当て面に凹設されている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型が提供される(請求項7)。
【0018】
また、請求項4に記載の金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型であって、第一金型の突き当て面に装着された弾性ブロックが、第一金型の突き当て面に形成された凹部に嵌まるベースブロック部と、成形基材が装着されるメインブロック部と、第一金型の突き当て面に沿って凸状に形成されたブロック凸部と、第一金型の突き当て面から僅かに突出した部分とを有し、第一金型の突き当て面を第二金型の突き当て面に近接させたとき、弾性ブロックのメインブロック部が差し込まれる塗装キャビティが第二金型の突き当て面に凹設されると共に、ブロック凸部と係合する金型凹部が塗装キャビティに接続して形成されている、ことを特徴とする金型内コーティング成形品用金型が提供される(請求項8)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤を注入して成形基材の外面に付着させる金型内コーティング成形品の製造方法において、対となる第一金型と第二金型との突き当て面に弾性体を介在させ、第一金型と第二金型とを突き当てたときに弾性体が圧縮されることで突き当て面がシールされるので、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面から漏出することを適切に防止できる。
(2)このように、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面から漏出することを防止できるので、突き当て面から漏出した液状コーティング剤が第一金型および第二金型の何れかの部分に付着して硬化する事態を回避でき、それを除去するための金型清掃が不要となり、サイクルタイムを短縮できる。
(3)コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が突き当て面から漏出しないので、液状コーティング剤が漏出することによるコーティングギャップ内の圧力低下を防止でき、液状コーティング材の成形基材への付着性が高まり、コーティング強度が向上する。
(4)特許文献2、3に開示されたもののように補助キャビティや副キャビティを用いて本来製品として必要のない形状を封止材(パッキン)として形成していないため、成形後の後加工を極力排除でき、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型を構成する第一金型および第二金型の説明図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb-b線断面図である。
【
図2】
図1(b)の第一金型を第二金型から離間させて、成形基材、スプルーおよびランナーを取り出し、弾性シートを装着する様子を示す断面図である。
【
図3】第一実施形態に用いる成形基材の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図4】第一実施形態に用いる弾性シートの斜視図である。
【
図5】
図2に続く工程を示す説明図であり、(a)は弾性シートが装着された第一金型に成形基材を装着する様子を示す断面図、(b)は成形基材が第一金型に装着された様子を示す断面図である。
【
図6】
図5(b)に続く工程を示す説明図であり、(c)は第一金型を第二金型に近付けて弾性シートが第二金型に接触したときを示す断面図、(d)は第一金型を第二金型に更に近付けて弾性シートが圧縮された状態を示す断面図、(e)は液状コーティング剤として熱硬化性の塗料を成形基材と第二金型との間に形成されたコーティングギャップに注入した様子を示す断面図である。
【
図7】(c1)は
図6(c)の部分拡大図、(d1)は
図6(d)の部分拡大図である。
【
図8】本実施例においては塗料が弾性シートによってシールされ、弾性シートが省略された比較例では塗料が漏れる様子を示す説明図であり、(X)は本実施例である
図6(e)の部分拡大図、(Y)は比較例として弾性シートを省略したものの同部分拡大図である。
【
図9】
図6(e)に続く工程を示す説明図であり、(f)は第一金型を第二金型から離間させた断面図、(g)はコーティングされた成形基材および弾性シートを第一金型から取り出した様子を示す断面図、(h)はコーティングされた成形基材から弾性シートを取り外した様子を示す断面図である。
【
図10】コーティングされた成形基材すなわち金型内コーティング成形品の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【
図11】第一実施形態において、成形キャビティと塗装キャビティとの深さを対比すると共に成形コアと塗装コアとの高さを対比する説明図であり、センターラインCの左側に成形金型部を右側に塗装金型部を示し、これらを模式的に付き合わせて表示した断面図である。
【
図12】本発明の第二実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型を構成する第一金型、弾性ブロック(ブロック凸部を有する)、成形基材(成形基材凹部を有する)および第二金型(金型凹部を有する)を示す斜視図である。
【
図13】
図12の成形基材を弾性ブロックに装着した様子を示す斜視図である。
【
図14】第二実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の工程を示す説明図であって、
図13のXIV-XIV線断面図に相当し、(a)は成形基材を弾性ブロックに装着する様子を示す断面図、(b)は第一金型を第二金型に近付ける様子を示す断面図、(c)は弾性ブロックが第二金型に接触したときを示す断面図、(d)は第一金型を第二金型に更に近付けて弾性ブロックが圧縮された状態を示す断面図である。
【
図15】
図14(d)に続く工程を示す説明図であり、(e)は液状コーティング剤として熱硬化性の塗料を成形基材と第二金型との間に形成されたコーティングギャップに注入した様子を示す断面図、(f)は第一金型を第二金型から離間させた断面図、(g)はコーティングされた成形基材すなわち金型内コーティング成形品を第一金型から取り出した様子を示す断面図である。
【
図16】コーティングされた成形基材(成形基材凹部を有する)である金型内コーティング成形品の説明図であり(a)は斜視図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。係る実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(金型内コーティング成形品の製造方法の概要)
本発明に係る金型内コーティング成形品の製造方法は、
図5(a)、
図5(b)に示すように第一金型1に成形基材2を装着し、
図6(c)に示すように成形基材2を覆うように第一金型1に第二金型3を突き当て、
図6(d)に示すように第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成し、
図6(e)に示すようにコーティングギャップ4に液状コーティング剤5(例えば塗料)を注入して成形基材2の外面に付着させる金型内コーティング成形品の製造方法が前提となる。本発明の金型内コーティング成形品の製造方法の特徴は、
図6(c)に示すように第一金型1の突き当て面6と第二金型3との突き当て面7の間に弾性体8を介在させ、
図6(d)に示すように第一金型1と第二金型3とを突き当てて型締めしたときに弾性体8が圧縮されることで、
図6(e)に示すようにコーティングギャップ4内に注入された液状コーティング剤5が突き当て面6、7の間から漏出しないようにシールする点にある。以下に、弾性体8に弾性シート8aを用いた本発明の第一実施形態について説明する。
【0023】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態は、
図4に示すようにシールとして機能する弾性体8に、環状に形成された弾性シート8aを用い、
図5(a)、
図5(b)に示すように、弾性シート8aを成形基材2が装着される第一金型1の突き当て面6に装着し、
図6(c)、
図6(d)に示すように第一金型1に成形基材2を覆うように第二金型3を突き当てて第二金型3の内面と成形基材2の外面との間にコーティングギャップ4を形成すると共に弾性シート8aを圧縮させ、
図6(e)に示すように圧縮された弾性シート8aによって第一金型1の突き当て面6と第二金型3の突き当て面7との間をシールすることで、
図8(X)に示すようにコーティングギャップ4内に注入された液状コーティング剤5が突き当て面6と突き当て面7との間から漏出することを防止するものである。なお、
図8(Y)に示すように、シールとして機能する弾性シート8aが存在しない場合、コーティングギャップ4内に注入された液状コーティング剤が突き当て面6と突き当て面7との間から漏出してしまう。
【0024】
(金型内コーティング成形品用金型)
図1(a)、
図1(b)、
図2に、本発明の第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法に用いる金型内コーティング成形品用金型の一例を示す。この金型は、凸状の成形コア9および塗装コア10が形成された下側の第一金型1と、凹状の成形キャビティ11および塗装キャビティ12が形成された上側の第二金型3とから構成されており、成形コア9および成形キャビティ11からなる成形金型部13と、塗装コア10および塗装キャビティ12からなる塗装金型部14とを備えている。なお、第一金型1と第二金型3とは、上下配置(竪型)に限られず、左右配置(横型)でもよく、第一金型1を第二金型3に突き当てて型締めし、離間させて成形品を取り出すアクチュエータには、油圧や電動など様々な機構が用いられる。
【0025】
図2の状態から第一金型1を第二金型3に近付け、
図1(b)に示すように第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、成形コア9が成形キャビティ11に差し込まれてこれらの間に成形基材2を成形するための成形ギャップ15が形成され、これと同時に塗装コア10が塗装キャビティ12に差し込まれ、後述するように塗装コア10に装着された成形基材2と塗装キャビティ12との間にコーティングギャップ4(
図6(d)、
図7(d1)参照)が形成される。ここで、成形コア9および成形キャビティ11が成形金型部13を構成し、塗装コア10および塗装キャビティ12が塗装金型部14を構成することになる。
【0026】
図2に示すように、第二金型3の内部には、成形キャビティ11と塗装キャビティ12との中間に位置してスプルー通路16が上下方向に形成されており、第二金型3の上面には、スプルー通路16に成形基材を成形するための樹脂を注入する樹脂注入口17が形成されている。第二金型3の突き当て面7には、一端がスプルー通路16に接続され他端がゲート18を介して成形キャビティ11に接続されたランナー溝部19が形成されており、
図1(b)に示すように、第二金型3の突き当て面7に第一金型1の突き当て面6が突き当てられたとき、ランナー溝部19が第一金型1の突き当て面6で覆われてランナー通路20となる。また、第二金型3の内部には、一端がゲート21を介して塗装キャビティ12に接続された塗料通路22が形成されており、第二金型3の側面には、塗料通路22の他端に塗料5(液状コーティング剤)を注入するための塗料注入口23が形成されている。
【0027】
(成形基材2を成形する樹脂)
図1(b)に示すように、成形金型部13において成形基材2を成形するために樹脂注入口17に注入される樹脂には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の何れも使用できる。但し、熱可塑性樹脂の方が本発明のメリットが大きい。この点を説明すると、熱可塑性樹脂の冷却硬化時間(例えば30秒程度)の方が熱硬化性樹脂の反応硬化時間(例えば3分適度)よりも遙かに短い。このため、本発明を用いることなく、特許文献2、3に開示された方法のように補助キャビティや副キャビティによって成形基材に本来製品として必要のない形状を封止材(パッキン)として形成した場合、製品を取り出し後に必要のない封止材の部分を除去するトリミング処理(後処理)をするための時間(例えば十数秒)が必要となるところ、後処理を含めた全体時間に対する後処理時間の割合が熱可塑性樹脂の方が熱硬化性樹脂よりも遙かに大きくなる。よって、トリミング処理を行うことによるサイクルタイムの悪化(長期化)は、熱可塑性樹脂の方が熱硬化性樹脂より顕著となる。本発明によれば、上述のトリミング処理が不要となるため、熱可塑性樹脂の方が熱硬化性樹脂よりサイクルタイムを短縮化する割合が大きい。
【0028】
樹脂注入口17に注入される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニルポリマーといったポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール等の結晶性汎用樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール等の結晶性エンジニアリングプラスチック、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、PMMA樹脂等の非晶性汎用樹脂、ポリカーボネート、変性PPO、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド等の非晶性エンジニアリングプラスチック、その他、ポリスチレン樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは混合して用いることも可能である。また、熱可塑性を維持する範囲で上述した各種の熱可塑性樹脂に他の成分、例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を混合したものを用いることもできる。更に、これらの各種材料にカーボン繊維やガラス繊維等の各種繊維を添加した複合材料を用いることも可能である。
【0029】
加えて、樹脂注入口17には、熱可塑性樹脂ではなく、熱硬化性樹脂を注入してもよい。注入される熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等をマトリックスとするバルクモールディング コンポウンド(BMC)、タフモールディング コンポウンド(TMC)と呼ばれる成形用コンポウンドが挙げられる。
【0030】
(液状コーティング剤5としての塗料)
図6(e)、
図8(X)に示すように、塗装金型部14において成形基材2に液状コーティング剤5として塗料をコーティングするために塗料注入口23に注入される塗料5には、例えば、熱硬化塗料が用いられる。熱硬化塗料は、塗料注入口23から第二金型3の塗装キャビティ12の内面と成形基材2の外面との間に形成されたコーティングギャップ4に注入された後、第二金型3を熱源とした熱反応によって硬化し、成形基材2の外面に付着される。コーティングギャップ4内の熱硬化塗料を加熱硬化させるため、第二金型3にはヒーターが内蔵されている。ヒーターとしては、例えば、ニクロム線等の電気抵抗線を第二金型3の塗装キャビティ12の近傍に配設したものが考えられる。また、加熱方法として、温度制御性が求められ、設定温度が120℃以下の場合は水温調、120℃を越える場合は油温調等が用いられる。
【0031】
塗料注入口23に注入される塗料5としては、アルキド樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、ビニル樹脂系等の熱硬化型塗料の他、エポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、これら各種オリゴマーとエチレン性不飽和モノマーからなるラジカル重合型塗料、アルキド樹脂系、エポキシ樹脂エステル系、脂肪酸変性ウレタン樹脂系等の酸化重合型塗料、エポキシ樹脂系、ポリウレタン系、不飽和ポリエステル系等の多液反応型塗料、或いはこれらの塗料に金属粉や顔料、紫外線吸収剤等を添加した機能性塗料、フッ素樹脂系ラッカー、シリコン樹脂系ラッカー、シラン系ハードコート剤等を用いることができる。
【0032】
(弾性シート8a)
図2に示すように、第一金型1の突き当て面6には、塗装コア10を挿通するように環状に形成された弾性シート8a(
図4参照)が装着される。なお、本明細書において環状(リング状)の概念には、円形リングの他、
図4に示す矩形リングやその他の形状も含まれる。すなわち、弾性シート8aは、塗装コア10の形状に応じたリング状に成形されている。弾性シート8aは、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、
図6(c)、
図7(c1)および
図6(d)、
図7(d1)に示すように弾性変形して潰れ、
図6(e)、
図8(X)に示すように、塗装コア10に装着された成形基材2と塗装キャビティ12との間に形成されたコーティングギャップ4に塗料を注入した際、その塗料が第一金型1の突き当て面6と第二金型3の突き当て面7との間から漏出することを防止するシール(パッキン)として機能する。
【0033】
弾性シート8aは、本実施形態においては、
図2に示すように、成形基材2を成形コア9から取り出した後、その成形基材2を塗装コア10に取り付ける前に、第一金型1の突き当て面6に塗装コア10を囲繞するように装着される。但し、これに限らず、
図1(b)に示すように、樹脂注入口17に樹脂を注入して成形コア9と成形キャビティ11との間の成形ギャップ15において成形基材2を射出成形するに先立って、予め弾性シート8aを第一金型1の突き当て面6に成形コア9を囲繞するように装着しておき、その状態で第一金型1を第二金型3に突き合わせて成形基材2を射出成形し、溶融樹脂の冷却硬化により成形基材2の下面に弾性シート8aが仮装着されている状態でもよい。
【0034】
図1(a)、
図1(b)、
図2に示すように、第二金型3の突き当て面7の塗装キャビティ12の周囲には、弾性シート8aの形状に合わせて形成されたシート収容凹部24が、塗装用キャビティ12の外周と全周に亘って繋がるように形成されている。
図5(b)に示すように、シート収容凹部24の突き当て面7からの深さDは、弾性シート8aの厚さtより僅かに浅く設定されている。従って、
図5(b)の状態から第一金型1を上昇させ、
図6(c)に示すように弾性シート8aをシート収容凹部24に差し入れ、弾性シート8aの上面がシート収容凹部24の天井面に当接したとき、弾性シート8aの下部8cが突き当て面7から下方に突出し、突き当て面7と突き当て面6との間には圧縮ギャップGが形成された状態となる(
図6(c)の部分拡大図である
図7(c1)参照)。
【0035】
その後、
図6(d)に示すように、第一金型1を更に上昇させて第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てて圧縮ギャップGを無くすと(零にすると)、シート収容凹部24から突出した弾性シート8aの下部8cが圧縮され、圧縮ギャップG相当の圧縮代によってシール機能が発揮される(
図6(d)の部分拡大図である
図7(d1)参照))。すなわち、
図7(d1)に示すように、圧縮ギャップGを零とした型締め時に、シート収容部24と塗装用キャビティ12との接続部に塗装用キャビティ12の開口を囲繞するように枠状に形成された金型エッジ部24xが、弾性変形した弾性シート8aの上面に食い込み、弾性シート8aの復元力によって弾性シート8aの上面と第二金型3のシート収容部24との間が封止(シール)される。この結果、コーティングギャップ4に注入された塗料5が突き当て面6、7の間から漏出(漏洩)することを防止できる。
【0036】
弾性シート8aの材質は、
図6(c)、
図6(d)に示すように、第一金型1と第二金型3との間に挟まれたとき弾性的に圧縮されてシール(パッキン)機能を発揮する材質であって、
図8(X)に示すように、塗料注入口23からコーティングギャップ4に注入された100~120℃程度の塗料が弾性シート8aに接したときシール(パッキン)機能を損なわない耐熱性を有する材質、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、ABS (アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン) 等が用いられる。本実施形態においては、弾性シート8aの材質にPETを用いている。
【0037】
また、弾性シート8aの厚さは、それを挟む成形基材2の枠状底面と第一金型1の突き当て面6の塗装コア10の外周部分との形状に追従させるためには極力薄くすることが好ましく、例えば厚さ0.02mm~0.2mmが望ましい。弾性シート8aの厚さを薄くすることで、弾性シート8aを挟む成形基材2の枠状底面と第一金型1の突き当て面6の塗装コア10の外周部分とに多少のスロープや隆起があっても、それらの形状に弾性シート8aがしなやかに追従するように変形し、適切にシールできる。本実施例においては、弾性シートには、厚さ0.02mm~0.2mm(例えば0.1mm)のPETフィルムを用いている。
【0038】
(各工程について)
以下、第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法の工程を説明する。
【0039】
先ず、
図1(a)、
図1(b)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てた状態で、樹脂注入口17から樹脂(本実施例では熱可塑性樹脂)を注入する。樹脂は、スプルー通路16、ランナー通路20およびゲート18を通り、成形コア9と成形キャビティ11との間に形成された成形ギャップ15に注入され、成形ギャップ15内において硬化して成形基材2となる。
【0040】
図2に示すように、第一金型1を第二金型3から離間させ、成形コア9に装着された状態となっている成形基材2を図示しない突き出し機構(イジェクト機構)で離型させ、同様にスプルー25およびランナー26を図示しない突き出し機構(イジェクト機構)で離型させる。
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)に示すように、成形基材2は、本実施形態においては底面が開放された直方体となっているが、この形状に限られず、底面が開放された円柱体等でもよく、底面が開口されていなくてもよい。なお、ランナー26と成形基材2とはゲート18の部分にて切り離される。
【0041】
図2に示すように、第一金型1の突き当て面6に、塗装コア10を挿通するようにリング状に形成された弾性シート8aを装着する。
図4に示すように、弾性シート8aの形状は、本実施形態においては成形基材の形状に合わせて矩形リング状であるが、例えば成形基材の形状が円柱体であれば、それに合わせて円形リング状となる。その後、成形コア9から離型された成形基材2を塗装コア10に装着する。この成形基材2の付け替えは、図示しないロボットアーム等によって行われる。
【0042】
図5(a)は、弾性シート8aが第一金型1の突き当て面6に、塗装コア10を挿通するように装着された様子を示す断面図であり、
図5(b)は、成形基材2が弾性シート8aに載るように塗装コア10に
装着された様子を示す断面図である。
図2に示すように、塗装コア10の突き当て面6からの高さH1は、成形コア9の突き当て面6からの高さH2よりも、弾性シート8aの厚さtを考慮して厚さt分だけ高く設定されている。このため、
図5(b)に示すように、成形基材2が弾性シート8aに載るように塗装コア10に装着されたとき、成形基材2の天井面2zが塗装コア10の頂面10zに接した状態となる。なお、成形基材2を、塗装コア10内に設けられた図示しない吸引機能によって、塗装コア10に吸着してもよい。
【0043】
図6(c)、
図7(c1)に示すように、第一金型1を上昇させて第二金型3に近付ける。第一金型1の弾性シート8aの上面が第二金型3のシート収容凹部24の天井面に当接したとき、シート収容凹部24の深さDが弾性シート8aの厚さtよりも僅かに小さいため、弾性シート8aの下部8cが第二金型3の突き当て面7から下方に突出し、第一金型1の突き当て面6と第二金型3の突き当て面7との間には僅かな隙間(圧縮ギャップG)が形成された状態となる。その後、第一金型1を更に上昇させ、
図6(d)、
図7(d1)に示すように、第一金型1の突き当て面6が第二金型3の突き当て面7に突き当たって圧縮ギャップGが零になると、シート収容凹部24から下方に突出している弾性シート8aの下部8cが圧縮され、その圧縮代によってシール機能が発揮される。同時に、塗装コア10に装着された成形基材2と塗装キャビティ12との間に所定のコーティングギャップ4が形成される。
【0044】
すなわち、
図2、
図11に示すように、塗装キャビティ12は、成形キャビティ11よりも僅かに大きく形成されており、成形キャビティ11と成形コア9との間で成形された成形基材2を塗装コア10に装着し、塗装コア10に装着された成形基材2に塗装キャビティ12を被せて突き当て面6、7を突き当てたとき、
図6(d)、
図7(d1)に示すように、成形基材2の外面と塗装キャビティ12の内面との間には、所定のコーティングギャップ4が形成される。
図11は、成形キャビティ11と塗装キャビティ12との深さを対比すると共に成形コア9と塗装コア10との高さを対比する説明図であり、センターラインCの左側に成形金型部13を右側に塗装金型部14を示し、これらを模式的に付き合わせて表示した断面図である。
図11のセンターラインCの右側の仮想線Kは、成形キャビティ11の形状を表す。
【0045】
なお、
図6(c)、
図7(c1)に示すように、第一金型1の弾性シート8aの上面が第二金型3のシート収容凹部24の天井面に当接した段階においては、成形基材2の頂面2yと塗装キャビティ12の天井面12yとの間には、上述のコーティングギャップ4よりも僅かに広い隙間(コーティングギャップ4よりも圧縮ギャップG分だけ広い隙間)が形成され、
図6(d)、
図7(d1)に示すように、第一金型1の突き当て面6が第二金型3の突き当て面7に突き当たったとき、成形基材2の外面と塗装キャビティ12の内面との間に所定のコーティングギャップ4が形成される。
【0046】
図6(e)に示すように、塗料注入口23から塗料5(例えば熱硬化塗料)を注入する。塗料5は、塗料通路22およびゲート21を通ってコーティングギャップ4に注入され、コーティングギャップ4内において硬化して成形基材2の外面に付着(コーティング)される。このとき、
図8(X)に示すように、圧縮された弾性シート8aによって第一金型1の突き当て面6と第二金型3との突き当て面7との間がシールされるため、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が突き当て面6、7の間から漏出することが防止される。仮に、
図8(Y)に示すように、シールとして機能する弾性シート8aが存在しない場合、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が、金属同士が突き当てられたに過ぎない第一金型1の突き当て面6と第二金型3の突き当て面7との間から漏出してしまう。
【0047】
コーティングギャップ4内の塗料5が硬化した後、
図9(f)に示すように、第一金型1を下降させ第二金型3から離間させる。このとき、成形基材2の外面に塗膜27が形成された金型内コーティング成形品28(製品)が、塗装コア10に嵌まり込んだ状態となっている。
図9(g)に示すように、金型内コーティング成形品28を、図示しない突き出し機構(イジェクト機構)によって塗装コア10から離型させる。弾性シート8aは金型内コーティング成形品28と一体となってイジェクトされる。
【0048】
最後に、
図9(h)に示すように、弾性シート8aを金型内コーティング成形品28から取り外す。ここで、塗料5(熱硬化塗料)を硬化させるために、第二金型3の塗装キャビティ12の近傍に加えられる熱によって成形基材2および弾性シート8aが昇温されるところ、成形基材2(例えばポリエチレン等の熱可塑性樹脂)および弾性シート8a(例えばPET)はそれらのガラス転移温度(Tg)より低い状態が保たれるため、弾性シート8aがコーティング済みの成形基材2に溶着することはなく、容易に剥離できる。よって、後工程のコストアップの要因とはならない。
【0049】
図10に、成形基材2の外面に塗膜27がコーティングされた金型内コーティング成形品28(製品)を示す。図示するように、底面が開放された直方体からなる成形基材2の外面には、コーティング剤として塗膜27が形成されている。塗膜27の厚さは、
図8(X)に示すコーティングギャップ4の間隔に応じた厚さとなる。
【0050】
(作用・効果)
第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型によれば、次のような効果を発揮できる。
【0051】
図8(X)に示すように、対となる第一金型1と第二金型3との突き当て面6、7の間に弾性シート8aを介在させ、第一金型1と第二金型3とを突き当てたときに弾性シート8aが圧縮されることで突き当て面6、7の間がシールされるので、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が突き当て面6、7の間から漏出することを適切に防止できる。弾性シート8aは、成形基材2の底面の開口に沿って環状(リング状)に形成されているので、コーティングギャップ4内の塗料5の漏れを周方向の全周に亘って防止できる。
【0052】
図8(X)に示すように、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が突き当て面6、7の間から漏出することをリング状の弾性シート8aによって防止できるので、
図8(Y)に示す比較例のように、突き当て面6、7の間から漏出した塗料5が第一金型1および第二金型3の何れかの部分に付着して硬化する事態を回避でき、それを除去するための金型清掃が不要となり、サイクルタイムを短縮できる。なお、
図8(X)において、万一、塗料5がコーティングギャップ4の下端から漏れたとしても、漏れた塗料5は、弾性シート8a(例えばPETフィルム)の上面に付着するため、
図9(g)に示すイジェクトによって弾性シート8aと共に離型され、金型清掃が不要となる。
【0053】
図8(X)に示すように、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が突き当て面6、7の間から漏出しないので、塗料5が漏出することによるコーティングギャップ4内の圧力低下を防止でき、塗料5の成形基材2への付着性が高まり、塗膜27のコーティング強度が向上する。
【0054】
図2に示すように、塗装コア10の突き当て面6からの高さH1が、成形コア9の突き当て面6からの高さH2よりも弾性シート8aの厚さt分だけ高く設定されているため、
図5(b)に示すように、成形基材2を弾性シート8aに載るように塗装コア10に装着したとき、成形基材2の天井面2zが塗装コア10の頂面10zに丁度接した状態となる。よって、型締め後、
図8(X)に示すように、コーティングギャップ4内に塗料5を注入したとき、コーティングギャップ4内に注入された塗料5の圧力によって成形基材2の天井面2zが下方に凹むことはなく、成形基材2の天井面2zが下方に凹むことによるコーティングギャップ4内の圧力低下を防止でき、塗料5の成形基材2への付着性が高まる。
【0055】
本実施形態によれば、特許文献2、3に開示されたもののように補助キャビティや副キャビティを用いて本来製品として必要のない形状を封止材(パッキン)として形成していないため、成形後の後加工(製品として必要のない封止材を除去する加工)を極力排除でき、製造コストを低減できる。
【0056】
また、
図2に示すように、成形コア9から取り出した成形基材2を塗装コア10に取り付けた後、
図6(d)、
図7(d1)に示すように、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てて、塗装コア10に取り付けられた成形基材2と塗装キャビティ12との間にコーティングギャップ4を形成したとき、
図1(b)に示すように、成形コア9が成形キャビティ11に差し入れられてそれらの間に成形ギャップ15が形成される。よって、
図6(e)に示すように、塗料5をコーティングギャップ4に注入する工程と、
図1(b)に示すように、樹脂を成形ギャップ15に注入する工程とを並行して行うことで、成形基材2の成形と成形基材2へのコーティングとを同時に行うことができ、製造効率が向上する。
【0057】
すなわち、
図1(b)の右側の塗装金型部14にて塗装された成形基材2をイジェクトし、左側の成形金型部13にて成形された成形基材2を右側の塗装コア10に付け替えた後、第一金型1と第二金型3とを突き合わせ、右側の塗装金型部14にて成形基材2に塗膜27をコーティングすると共に左側の成形金型部13にて次の成形基材2を成形するという工程を繰り返すことで、成形基材2の成形と成形基材2へのコーティングとを一つの金型(対となる第一金型1および第二金型3)で同時に行うことができ、製造効率が向上する。
【0058】
上述した第一実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型によれば、
図7(c1)に示すように、第一金型1と第二金型3との間に弾性シート8aを介在させ、
図7(d1)に示すように、型締め時に弾性変形した弾性シート8aの復元力と金型エッジ部24xで発揮される封止機能によって、多くの金型内成形品28(製品)の塗料漏れ問題を改善できる。しかしながら、
図12の中程に示す成形基材2bのように、形状に部分的な切り欠き(成形基材凹部2x)があるなど、第一金型1と第二金型3の突き当て面6、7(パーティングライン面)が水平な平面とはならない場合、突き当て面に弾性シート8aを介在させる方法では塗料漏れ防止が困難となる。この場合、以下に説明する第二実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型が用いられる。
【0059】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態は、
図12および
図13に示す第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき圧縮されてシール機能を発揮する弾性体8に、第一実施形態の弾性シート8aではなく、弾性ブロック8bを用いたものである。
図12および
図13は、
図1(a)、
図1(b)および
図2に示す第一金型1および第二金型3の塗装金型部14を示す。第二実施形態は、弾性体8に第一実施形態の弾性シート8aではなく弾性ブロック8bを用いた点を除き、成形樹脂やコーティング塗料等を含めて基本的には第一実施形態と同様である。よって、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、相違点について説明する。
【0060】
本発明の第二実施形態は、
図12、
図13に示すように弾性体8に成形基材2bが装着される形状の弾性ブロック8bを用い、
図14(a)、
図14(b)に示すように弾性ブロック8bが第一金型1の突き当て面6に装着された状態で弾性ブロック8bに成形基材2bを装着し、
図14(c)、
図14(d)に示すように第一金型1に成形基材2bを覆うように第二金型3を突き当てて第二金型3の内面と成形基材2bの外面との間にコーティングギャップ4を形成すると共に弾性ブロック8bを圧縮させ、
図15(e)に示すように圧縮された弾性ブロック8bによって第一金型1の突き当て面6と第二金型3の突き当て面7との間をシールすることで、コーティングギャップ4内に注入された液状コーティング剤5(熱硬化塗料)が突き当て面6、7の間から漏出することを防止するものである。
【0061】
図12に示すように、弾性ブロック8bは、突き当て面6に沿って凸状に形成されたブロック凸部8xを有し、第二金型3は、ブロック凸部8xと係合する金型凹部12xを有し、成形基材2bは、ブロック凸部8bと係合する成形基材凹部2xを有する。金型凹部12xは塗装キャビティ12と繋がっている。成形基材凹部2xを有する成形基材2bは、
図1(a)、
図1(b)および
図2に示す第一金型1および第二金型3の成形金型部13によって、射出成形される。すなわち、第二実施形態においては、第一金型1および第二金型3の成形金型部13の形状が成形基材凹部2xを成形する形状となっており、これによって射出成形された成形基材凹部2xを有する成形基材2bを、第一金型1および第二金型3の塗装金型部14の塗装コア10を構成する弾性ブロック8bに装着する。
【0062】
図12に示すように、弾性ブロック8bは、第一金型1の突き当て面6に形成された凹部30に嵌まるベースブロック部8yと、ベースブロック部8yの上面に設けられ成形基材2bが装着されるメインブロック部8zと、メインブロック部8zの側部に設けられ成形基材2bの成形基材凹部2xが嵌まるブロック凸部8xとを有する。ベースブロック部8yは、第一金型1を第二金型3に対して当接離間させる移動中に弾性ブロック8bが第一金型1から外れないように固定するための固定部として機能する。ベースブロック部8yは、第一金型1の突き当て面6から僅かに(0.02~0.04mm程度)突出しており、この突出した部分8wが後述するように圧縮代pとなりシール性を発揮する。なお、弾性ブロック8bのシール性および耐久性を考慮すると、圧縮代pはベースブロック部8yの厚さdの8~30%が好ましい。また、弾性ブロック8bの弾性率(圧縮弾性率)は、0.1~5GPa、特に1~3GPaが好ましい。
【0063】
図14(a)、
図14(b)に示すように、弾性ブロック8bのメインブロック部8zに成形基材2bを装着する。メインブロック部8zは、成形基材2bを装着するための塗装コアとして機能する。なお、成形基材2bを、弾性ブロック8b内に設けられた図示しない吸引機能によって、弾性ブロック8bに吸着してもよい。
図14(c)、
図14(d)に示すように、第一金型1を上昇させて第二金型3に突き当て、第二金型3の内面と成形基材2bの外面との間にコーティングギャップ4を形成すると共に、弾性ブロック8bを圧縮させる。
【0064】
詳しくは、
図14(c)に示すように、上昇する第一金型1に装着された弾性ブロック8bのベースブロック部8yの頂面が第二金型3の突き当て面7に当接した段階においては、第二金型3の突き当て面7と第一金型1の突き当て面6との間には、僅かな隙間(圧縮代p相当の隙間)が形成され、成形基材2bの頂面と塗装キャビティ12の天井面との間には、上述のコーティングギャップ4よりも僅かに広い隙間(コーティングギャップ4よりも圧縮代p分だけ広い隙間)が形成された状態となる。その後、第一金型1が更に上昇されて、
図14(d)に示すように、第一金型1の突き当て面6が第二金型3の突き当て面7に突き当たり、ベースブロック部8yの第一金型1の突き当て面6から突出した部分8wが潰れて圧縮代pが零になったとき、成形基材2bの外面と塗装キャビティ12の内面との間に所定のコーティングギャップ4が形成される。
【0065】
図14(d)に示すように、第一金型1の突き当て面6が第二金型3の突き当て面7に突き当たったとき、第一金型1に装着された弾性ブロック8bのベースブロック部8yが第二金型3の突き当て面7に押し付けられ、ベースブロック部8yの第一金型1の突き当て面6から突出した部分8wが潰れ、パッキンとして機能する。よって、
図15(e)に示すように、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が第一金型1のベースブロック部8yと第二金型3の突き当て面7との間から漏出することが防止される。
【0066】
これと同時に、
図13に示す第二金型3の金型凹部12xが弾性ブロック8bのブロック凸部8xを押圧し、
図14(d)に示すように、ブロック凸部8xが圧縮されることでブロック凸部8xと金型凹部12xとの間をシールする。よって、
図15(e)に示すように、コーティングギャップ4内に注入された液状コーティング剤5(例えば熱硬化塗料)がブロック凸部8xと金型凹部12xとの間から漏出することが防止される。
【0067】
コーティングギャップ4内の塗料が硬化した後、
図15(f)に示すように、第一金型1を下降させ第二金型3から離間させる。このとき、外面が塗膜27でコーティングされた成形基材2b(金型内コーティング成形品28b)が、弾性ブロック8bのメインブロック部8zに嵌まり込んだ状態となっている。最後に、
図15(g)に示すように、成形基材2bの外面が塗膜27でコーティングされた金型内コーティング成形品28b(製品)を、図示しない突き出し機構(イジェクト機構)によって弾性ブロック8bから離型させる。
【0068】
図16に、成形基材2bの外面が塗膜27でコーティングされた金型内コーティング成形品28bを示す。図示するように、底面が開放され側面に成形基材凹部2xを有する略直方体からなる成形基材2bの外面には、コーティング剤として塗膜27が形成されている。塗膜27の厚さは、
図15(e)に示すコーティングギャップ4の間隔に応じた厚さとなる。
【0069】
(弾性ブロック8b)
第二実施形態の弾性ブロック8bは、その材質がパッキンとしての機能をもつ弾性体で構成される。その材質を選定する条件は塗料5である熱硬化樹脂に侵されないこと、硬化のための温度に耐えられる耐熱性をもつこと、塗料5の漏れを封止させるための弾性力を持つことが条件となる。一例としては4フッ化エチレン(テフロン(登録商標))が好適である。
【0070】
通常、金型(第一金型1、第二金型3)は鋼材を使用するのが一般的であるが、塗料5は粘性が低く、小さなスキマにも侵入してしまう特性があり、その注入圧力は10~20kgf/cm2と低いので、樹脂製の金型でも充分耐えることが可能である。但し、金型全体の剛性は必要であるから、鋼材からなる第一金型1の一部をポケット加工し、
図13、
図14に示すように、第一金型1の突き当て面6に凹設したポケット(凹部30)に弾性ブロック8bのベースブロック部8yを嵌め込んだ入れ子構造とすることが望ましい。
【0071】
塗料5を注入した時の漏れを防止するために、弾性ブロック8bのベースブロック部8yは、第一金型1の突き当て面6より0.02~0.04mm程度突出することが重要である。第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てる型閉じ時に、ベースブロック部8yの第一金型1の突き当て面6から突出した部分8wが潰し代(圧縮代p)となってパッキン効果を発揮し、塗料の漏れが防止される。
【0072】
(作用・効果)
第二実施形態に係る金型内コーティング成形品の製造方法によれば、第一金型1と第二金型3との型締め時に圧縮されてパッキンとして機能する弾性体8に、
図12に示すような弾性ブロック8bを用いているので、弾性ブロック8bにブロック凸部8xを形成し、それに合わせて第二金型3に金型凹部12xを形成し、成形基材2bに成形基材凹部2xを形成することで、成形基材2bの形状に部分的な切り欠きがあるなど、第一金型1および第二金型3の突き当て面6、7(パーティングライン面)が水平な平面とはならない場合であっても、塗料漏れを適切に防止できる。
【0073】
すなわち、
図15(e)に示すように、コーティングギャップ4に注入された液状コーティング剤5(例えば塗料)は、型締め時に、弾性ブロック8bのベースブロック部8yが潰れることで成形基材2bの下端から漏出することが防止され、弾性ブロック8bのブロック凸部8xが潰れることでブロック凸部8xと基材凹部2xとの間から漏出することが防止される。よって、第一実施形態と同様に、漏出した塗料5によって第一金型1、第二金型3が汚れることはなく金型清掃が不要となり、塗料5が漏出することによるコーティングギャップ4内の圧力低下を防止でき、塗料5の成形基材2bへの付着性が高まり、塗膜27のコーティング強度が向上する等の作用・効果を発揮できる。その他、第二実施形態の基本的な作用・効果は第一実施形態と同様である。
【0074】
(その他)
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0075】
例えば、
図12以降に示す第二実施形態において、ブロック凸部8x、金型凹部12x、成形基材凹部2xを省略し、第一実施形態と同様に、シンプルな形状の弾性ブロック8b、塗装キャビティ12、成形基材2bとしてもよい。この場合、弾性ブロック8bは、第一金型1の突き当て面6に形成された凹部30に嵌まるベースブロック部8yと、ベースブロック部8yの上面に設けられ成形基材2bが装着されるメインブロック部8zとから構成され、塗装キャビティ12および成形基材2bは、第一実施形態の塗装キャビティ12および成形基材2と同様の形状となる。
【0076】
この場合であっても、第一金型1の突き当て面6を第二金型3の突き当て面7に突き当てたとき、弾性ブロック8bのベースブロック部8yが第二金型3の突き当て面7に押し付けられ、ベースブロック部8yの第一金型1の突き当て面6から突出した部分8wが潰れることで、コーティングギャップ4内に注入された塗料5が第一金型1のベースブロック部8yと第二金型3の突き当て面7との間から漏出することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、一対の金型に挟まれた成形基材の外面と金型の内面との間にコーティングギャップを形成し、コーティングギャップに液状コーティング剤(塗料)を注入して成形基材の外面に付着させるようにした金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型において、コーティングギャップ内に注入された液状コーティング剤が一対の金型同士の突き当て面から漏出することを防止できる金型内コーティング成形品の製造方法及びそれに用いる金型内コーティング成形品用金型に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 第一金型
2 成形基材
2x 成形基材凹部
3 第二金型
4 コーティングギャップ
5 液状コーティング剤(例えば塗料)
6 第一金型の突き当て面
7 第二金型の突き当て面
8 弾性体
8a 弾性シート
8b 弾性ブロック
8x ブロック凸部
8y ベースブロック部
8z メインブロック部
8w 突き当て面6から突出した部分
9 成形コア
10 塗装コア
11 成形キャビティ
12 塗装キャビティ
12x 金型凹部
24 シート収容凹部
28 金型内コーティング成形品(第一実施形態)
28b 金型内コーティング成形品(第二実施形態)
30 凹部
D シート収容凹部24の深さ
t 弾性シート8aの厚さ