(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】電機用摺動ブラシ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
H02K13/00 N
(21)【出願番号】P 2020218506
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政広
(72)【発明者】
【氏名】蛯谷 玄太
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-211428(JP,A)
【文献】特開平09-205760(JP,A)
【文献】特開昭62-222592(JP,A)
【文献】特開2002-165417(JP,A)
【文献】特開平07-298561(JP,A)
【文献】特開2007-325401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 13/00-13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子を含む粉末材料を所定形状に圧縮成形し、焼成することにより製造される電機用摺動ブラシであって、
摺動ブラシの摺動方向と直交する少なくとも一面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面において、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向さ
れ、
前記範囲内の摺動面における抵抗率が、前記範囲外の摺動面における抵抗率よりも高いことを特徴とする電機用摺動ブラシ。
【請求項2】
摺動ブラシの摺動方向と直交する第1の面と第2の面を有し、
第1の面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面と、第2の面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面において、
少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向していることを特徴とする請求項1記載の電機用摺動ブラシ。
【請求項3】
前記範囲が、摺動ブラシの摺動方向と直交する面から深さ100μm、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ100μmの範囲であることを特徴とする請求項1また請求項2記載の電機用摺動ブラシ。
【請求項4】
金属粒子もしくは/及び炭素粒子の少なくとも50%が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電機用摺動ブラシ。
【請求項5】
金属粒子及び炭素粒子の粉末材料を充填する開口部を有し、前記開口部の壁面によって摺動ブラシの摺動面を形成する金型と、摺動ブラシ摺動面形成面側の下端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部を有する上型とを備えた成形装置を用いて、
直方体形状の摺動ブラシを製造する、電機用摺動ブラシの製造方法において、
金型の開口部の底面にロアパンチが位置した状態で、粉末材料を金型に充填する工程と、
前記溝部を有する上型を降下させ、前記開口部の上面を閉塞し、粉末材料を圧縮成形し、
直方体形状の摺動ブラシを成形する工程と、
前記上型を元の位置まで上昇させ、その後ロアパンチを上昇させて、成形された摺動ブラシを払い出す工程と、を含
み、
前記摺動ブラシを成形する工程において、前記粉末材料が前記溝部に侵入し、圧縮成形されることよって、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向されることを特徴とする電機用摺動ブラシの製造方法。
【請求項6】
前記ロアパンチが、
摺動ブラシ摺動面形成面側の上端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部を有するロアパンチである、
ことを特徴とする請求項5記載の電機用摺動ブラシの製造方法。
【請求項7】
前記溝部の幅が少なくとも
0.5mm、深さが少なくとも1mmであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電機用摺動ブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、発電機等の電機機械に用いられる、電機用摺動ブラシ及びこの電機用摺動ブラシの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動機や発電機等の電機機械には、整流用の摺動ブラシが使用されている。
これら摺動ブラシの多くは、金属質、黒鉛質、金属・黒鉛質の粉末焼結材からなり、例えば、成形金型内に充填された黒鉛や銅の材料粉末を圧縮成形し、これを焼成することにより製造される。
【0003】
この摺動ブラシと整流子とが接触摺動することによって、電動機等が回転するが、その際、前記摺動ブラシと前記整流子との間に過度な電流集中がおこることにより、火花が発生し摩耗が促進されたり、前記接触摺動によるノイズが生じたりする。
【0004】
従来、これらの課題について、特許文献1にはブラシ摺動面の表層部の硬化によって、ノイズが生じることが示されている。また、この特許文献1には、成形されたブラシを金型から払い出す際、ブラシ摺動面が金型壁面と接触しないように、金型を離間させ、ブラシ摺動面と金型壁面との擦れを抑制し、ブラシ摺動面の表層部の硬化を抑制することが示されている。そして、このようにして製造されたブラシ摺動面の表層部は、その内部とほぼ同様の固さを有し、電動機に装着した場合、初期ノイズを低減できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載された電機用摺動ブラシは、初期ノイズの低減を達成できるものの、火花の発生による摩耗の増大を抑制する効果が十分ではないという技術的課題があった。
【0007】
本発明者らは、この火花の発生による摩耗の増大を抑制する方法について鋭意研究した。その結果、
図12に示すように整流子21が図中の矢印方向に回転することにより、摺動ブラシ20が整流子21を跨ぎ、摺動ブラシ20の端部20Aが整流子21から離れる。
その際、摺動ブラシ端部20Aと整流子21の間に過度な電流集中が起こる(過大な電流22が流れる)ことにより、火花が生じ、しかも、この火花はブラシの接触面に損傷を与え、この火花によって、ブラシの接触面の摩耗が次第に大きくなることを知見した。
本発明者らは、上記知見に基づいて、摺動ブラシ端部20Aの抵抗率を高くし、摺動ブラシ20と整流子21の間に過度な電流集中を抑制することにより、火花の発生を抑制し、ブラシの接触面の摩耗が低減することを想到し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、火花を低減することによって、ブラシの接触面の摩耗を低減した電機用摺動ブラシ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた電機用摺動ブラシは、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子を含む粉末材料を所定形状に圧縮成形し、焼成することにより製造される電機用摺動ブラシであって、摺動ブラシの摺動方向と直交する少なくとも一面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面において、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向され、前記範囲内の摺動面における抵抗率が、前記範囲外の摺動面における抵抗率よりも高いことを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる電機用摺動ブラシにあっては、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している。そのため、金属粒子、炭素粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、垂直に配向している場合と比べて、摺動ブラシの摺動面の抵抗率が高くなる。
その結果、摺動ブラシが整流子を跨ぎ、摺動ブラシの端部が整流子から離れる際、摺動ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中を抑制でき(過大な電流が流れるのを抑制でき)、火花を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0011】
ここで、摺動ブラシの摺動方向と直交する第1の面と第2の面を有し、第1の面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面と、第2の面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面において、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向していることが望ましい。
【0012】
このように、第1面と摺動ブラシの摺動面によって画定される所定の範囲内において、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している。また、第2面と摺動ブラシの摺動面によって画定される所定の範囲内において、金属粒子もしくは炭素粒子が摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している。
そのため、摺動ブラシが整流子を跨ぎ、摺動ブラシの端部が整流子から離れる際、摺動ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中を抑制でき(過大な電流が流れるのを抑制でき)、火花を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0013】
また、前記範囲が、摺動ブラシの摺動方向と直交する面から深さ100μm、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ100μmの範囲であっても良い。
このように、金属粒子もしくは炭素粒子が摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向していることが観察される範囲が、摺動ブラシの摺動方向と直交する面から深さ100μm、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ100μmの範囲と狭い範囲であっても、ブラシの摺動面の摩耗を抑制する効果が得られる。
【0014】
また、金属粒子もしくは/及び炭素粒子の少なくとも50%が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向していることが望ましい。
このように、金属粒子もしくは/及び炭素粒子の少なくとも50%が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している場合には、摺動面の摩耗の抑制効果を十分に得ることができる。
【0015】
また、上記目的を達成するためになされた電機用摺動ブラシの製造方法は、金属粒子及び炭素粒子の粉末材料を充填する開口部を有し、前記開口部の壁面によって摺動ブラシの摺動面を形成する金型と、摺動ブラシ摺動面形成面側の下端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部を有する上型とを備えた成形装置を用いて、直方体形状の摺動ブラシを製造する、電機用摺動ブラシの製造方法において、金型の開口部の底面にロアパンチが位置した状態で、粉末材料を金型に充填する工程と、前記溝部を有する上型を降下させ、前記開口部の上面を閉塞し、粉末材料を圧縮成形し、直方体形状の摺動ブラシを成形する工程と、前記上型を元の位置まで上昇させ、その後ロアパンチを上昇させて、成形された摺動ブラシを払い出す工程と、を含み、前記摺動ブラシを成形する工程において、前記粉末材料が前記溝部に侵入し、圧縮成形されることよって、少なくとも金属粒子もしくは炭素粒子のいずれかの粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向されることを特徴とする。
【0016】
このように、摺動ブラシ摺動面形成面側の下端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部を有する上型を用いて、摺動ブラシが成形される。
これにより、所定範囲内において金属粒子もしくは炭素粒子が摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した、摺動面の抵抗率が高い、摺動ブラシを得ることができる。
その結果、摺動ブラシが整流子を跨ぎ、摺動ブラシの端部が整流子から離れる際、ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中による火花の発生を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0017】
ここで、前記ロアパンチが、摺動ブラシ摺動面形成面側の上端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部を有するロアパンチであることが望ましい。
このようにロアパンチにも溝部が形成されている場合には、摺動ブラシの摺動面における抵抗率が高く、また抵抗率がより均一な摺動ブラシを得ることができる。
その結果、摺動ブラシが整流子を跨いだ状態から、摺動ブラシの端部が整流子から離れる際、摺動ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中を抑制でき(過大な電流が流れるのを抑制でき)、火花の発生を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0018】
前記上型、前記ロアパンチに形成された溝部の幅が少なくとも0.5mm、深さが少なくとも1mmであることが望ましい。
このような溝部を有する前記上型、あるいは前記ロアパンチによって成形した場合には、より好ましい、金属粒子もしくは炭素粒子が摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した、摺動面の抵抗率が高い摺動ブラシを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明にかかる電機用摺動ブラシは、火花の発生を低減することによって、ブラシの摺動面の摩耗を低減した電機用摺動ブラシ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る電機用摺動ブラシを示す図であって、(a)は電機用摺動ブラシを示す斜視図、(b)は電機用摺動ブラシを示す側面図である。
【
図2】
図2は、金属粒子、炭素粒子が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している状態を模式的に示した図である。
【
図3】
図2は、溝部を有する上型及び溝部を有するロアパンチを用いて、製造された電機用摺動ブラシを示す側面図である。
【
図4】
図4は、電機用摺動ブラシ成形装置を示した図であって、(a)は該装置の一部を破断して示した正面図、(b)は同様に一部を破断して示した側面図、(c)は(b)に示したA-A線を矢印方向に見た断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示した電機用摺動ブラシ成形装置に用いられる上型を示す図であって、(a)は正面、(b)は底面図である。
【
図6】
図6は、電機用摺動ブラシ成形工程を模式的に表した図である。
【
図7】
図7は、
図4に示した電機用摺動ブラシ成形装置に用いられるロアパンチを示す図であって、(a)は正面、(b)は平面図である。
【
図8】
図8は、実験1において焼結体No.1~No.5から配向角度を変えて切り出す方法を説明するため模式図である。
【
図9】
図9は、実験1において抵抗率を測定するための装置を模式的に表した図である。
【
図10】
図10は、実施例1の特定範囲内の断面の組織を写した写真である。
【
図11】
図11は、比較例1の特定範囲内の断面の組織を写した写真である。
【
図12】
図12は、電機用摺動ブラシの火花発生原因を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明にかかる電機用摺動ブラシ及びその製造方法の実施形態を
図1乃至
図7に基づいて説明する。尚、ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合がある。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
(電機用摺動ブラシ)
まず、電機用摺動ブラシの実施形態について、
図1乃至
図3に基づいて説明する。
図1に示すように、電機用摺動ブラシ1は、整流子(図示せず)と接触、摺動する摺動面1aと、摺動ブラシの摺動方向Rと直交する面1b、1cと、摺動ブラシの摺動方向Rと平行な面1d、1eと、摺動面1aと対向する面1fを有する、直方体形状に形成されている。
図1では、電機用摺動ブラシ1の摺動面1aを平坦面として示しているが、摺動面1aは整流子の円筒状の外形に沿った凹曲面とするのが好ましい。このように電機用摺動ブラシ1の摺動面1aを凹曲面とした場合には、摺動面1a全体が整流子と接触することとなり、均一に消耗するため好ましい。
【0023】
また、摺動ブラシの摺動方向Rと直交する面1bには、端子2が設けられている。この端子2は、摺動ブラシ1の成形時に、その先端が摺動ブラシ1に埋設されることにより、取り付けられる。
【0024】
この電機用摺動ブラシ1は、金型内に成形材料(粉末材料)を充填し、圧縮成形し、その後焼成することによって製造される。
この成形材料としては、電動機、発電機等の圧縮成形摺動ブラシに通常用いられる製造用原料であれば良く、特に限定されるものではない。
例えば、銅や銀等の金属質粉末、黒鉛質粉末、銅・黒鉛等の金属・黒鉛質混合粉末、銀・黒鉛等の金属・黒鉛質混合粉末等の原料を用いることができる。特に、好ましくは、銅・黒鉛の金属・黒鉛質混合粉末、銀・黒鉛等の金属・黒鉛質混合粉末等の原料である。また、添加物として、MoS2やWS2などの金属硫化物、WCやMo2Cなどの金属炭化物、BN、SiO2、Agが配合されていても良い。即ち、少なくとも銅や銀等の金属粒子もしくは炭素粒子を含む粉末材料であれば良い。
【0025】
また、
図1(b)に示すように、摺動ブラシ1の摺動方向と直交する面1bから深さt1が1mm以下、かつ摺動ブラシ1の摺動面1aから深さt2が1mm以下の範囲S内の断面において、金属粒子、炭素粒子の粉末材料P(
図2参照)が摺動ブラシ1の摺動面1bに対して、斜めに配向している。この金属粒子としては、上記したように銅粒子、銀粒子を好適に用いられる。
本発明にかかる製造方法において、金属粒子、炭素粒子の粉末材料Pを斜めに配向した状態になるのは、後に述べるように、直交する面1bから深さt1が1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面1aから深さt2が1mm以下の範囲であり、また摺動ブラシが整流子を跨ぎ、整流子に接触する摺動ブラシの端部に相当する範囲である。
そして、この範囲が整流子を跨ぐ際、整流子の間で過度な電流集中が起きるところであり、この範囲の抵抗率が高くすることにより、過度な電流集中を抑制でき、その結果、火花の発生を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0026】
金属粒子、炭素粒子の粉末材料Pの配向について、
図2に基づいて説明する。
摺動ブラシ1の従来の製造方法を用いて、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pを金型内に充填し、圧縮成形した場合には、
図2(a)に示すように、粉末材料Pは圧縮により偏平状になり、その左右端を結ぶ線分と摺動ブラシ1の摺動面1aとなす角度(配向角度)θは、90度となる。この場合、配向角度θは90度であり、摺動ブラシ1に流れる電流の方向Dと平行となるため、低抵抗になる。
【0027】
これに対して、本発明にかかる摺動ブラシ1の製造方法による場合には、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pを圧縮成形した際、
図2(b)に示すように、粉末材料Pは圧縮により偏平状になり、しかもその左右端を結ぶ線分は傾く。即ち、その左右端を結ぶ線分と摺動ブラシ1の摺動面1aとなす角度(配向角度)θは、90度よりも小さい、例えば75度となる。あるいはまた、
図2(c)に示すように、圧縮成形された、粉末材料Pの左右端を結ぶ線分が摺動ブラシ1の摺動面1aとなす角度(配向角度)θは、90度よりも大きい、例えば135度となる。
【0028】
この
図2(b)、
図2(c)に示すような、粉末材料Pの左右端を結ぶ線分が摺動ブラシ1の摺動面1aに対して斜めになる場合には、摺動ブラシ1に流れる電流の方向Dと斜めになり、抵抗率が高くなる。
ここで、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向しているとは、粉末材料Pの左右端を結ぶ線分と摺動ブラシ1の摺動面1aとのなす角度(配向角度)θが、0度以上90度未満、あるいは90度を超えて180未満を意味している。
即ち、この配向角度θが、0度以上90度未満、あるいは90度を超えて180未満の場合には、配向角度θが90度の場合と比べて、高抵抗になる。
特に、配向角度θが0度以上60度以下、また120度以上180度以下である場合には、配向角度θが90度の場合と比べて、明らかに高抵抗になるため、より好ましい。
【0029】
尚、前記範囲は、摺動ブラシの摺動方向と直交する面から深さ100μm、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ100μmの範囲であっても良い。
このように、銅粒子、炭素粒子の粉末材料Pが、斜めに配向していることが観察される範囲が狭い場合であっても、火花の発生を抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を低減できる。
【0030】
また、前記範囲内において、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pが少なくとも50%、斜めに配向していれば良い。金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pの少なくとも50%が、摺動ブラシの摺動面に対して、斜めに配向している場合には、火花の発生を十分に抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を十分に低減できる。
【0031】
上記実施形態では、摺動ブラシ1の摺動方向と直交する面1bから深さtが1mm以下、かつ摺動ブラシ1の摺動面1aから深さt2が1mm以下の範囲S内の断面において、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向していることを説明した。
しかしながら、
図3に示すように、摺動ブラシ1の摺動方向と直交する面1cから深さt1が1mm以下、かつ摺動ブラシ1の摺動面1aから深さt2が1mm以下の範囲S内の断面において、金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向していても良い。
この範囲Sにおいて、金属粒子、炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向していている場合には、整流子から離れる際、整流子の間で起こる過度な電流集中が抑制され、火花の発生を十分に抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を十分低減できる
【0032】
(電機用摺動ブラシの製造方法)
金属粒子、炭素粒子の粉末材料Pを圧縮成形する摺動ブラシの成形装置としては、例えば、
図4に示すような装置(具体的には、自動車ワイパー用モータに用いられる摺動ブラシ用成形装置を図示)が用いられる。
尚、
図4において、(a)は該装置の一部を破断して示した正面図、(b)は同様に一部を破断して示した側面図、(c)は(b)に示したA-A線を矢印方向に見た断面図である。
【0033】
この成形装置10は、基台11と、前記基台11に載置され、その中央部に開口部12aを有する摺動ブラシ成形用の金型12と、前記金型12の上方に配設され、前記開口部12aの上面から粉末材料Pを圧縮成形する上型13と、前記基台11(金型12)の上面をスライドして前記開口部12a内に材料粉末Pを送り込むフィーダ14と、このフィーダ14に材料粉末Pを供給するホッパ15と、前記開口部12aの底面を構成し、かつ、圧縮成形後の摺動ブラシ1の半製品を前記金型12の内側壁面に沿って上方に押し出すロアパンチ16とを備えている。
また、前記上型13内には、摺動ブラシ1に取り付けられる導線17の一端部が挿通されている。さらに、前記基台10の上面の前記フィーダ14と対向する位置には、前記摺動ブラシ1に一端が埋設された前記導線17を所定長さに切断するための切断器18が配設されている。この導線17は切断器18により切断され、摺動ブラシ1の端子2とされる。
【0034】
また、
図5に示すように、上型13の摺動ブラシ摺動面形成面13a側の下端部には、移動方向Mと直交する方向に延設された溝部13aを有している。
前記溝部13aの幅t3が少なくとも0,5mm、深さt4が少なくとも1mmである。前記溝部の幅t3が0,5mm未満の場合には、材料粉末Pを摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向した状態にすることができない。
また深さt4が1mm未満の場合には、材料粉末Pを摺動ブラシ1の摺動面1aに対して十分斜めに配向した状態にすることができないため、好ましくない。
【0035】
上記装置を用いた摺動ブラシ1の製造方法について、
図4、
図6に基づいて説明する。
まず、金型12の開口部12aの底面にロアパンチ16が位置した状態で、ホッパ15内の粉末材料Pをフィーダ14より開口部12aに充填する(
図6(a)参照)。
その後、上型13を降下させ、前記開口部12aの上面を閉塞し、上型13、ロアパンチ16により粉末材料Pを圧縮成形する(
図6(b)(c)参照)。
【0036】
このとき、導線17の一端は上型3の下端面から延出されているため、圧縮成形された摺動ブラシ1内に、その先端部分が埋設される。
また、粉末材料Pが上型13の溝部13aに侵入することにより、前記溝部13a及び溝部近傍の圧縮力は低下し、粉末材料Pが摺動ブラシの摺動面に対して(溝部13aの方向に向かって)、斜めに配向して圧縮成形される。
【0037】
続いて、上型13を元の位置まで上昇させる、すなわち初期状態に復帰させる。このとき、摺動ブラシ1は開口部12aの壁面(金型12の壁面)に圧接されているため、導線17は所定長さ繰り出される。
そして、前記導線17は、切断器18により所定長さに切断され、端子2が形成される。その後、ロアパンチ16を上昇させることにより、摺動ブラシ1は、
図6の(d)に示すように、開口部12aから上方に押出される。
【0038】
なお、上記のようにして成形された摺動ブラシ1は、一般に、金型12の内側壁面に接する部分の一部が摺動面、すなわち、電動機等の整流子と接触する面となる。そして更に、図示しないが、成形された摺動ブラシ1を焼成することにより、完成品としての摺動ブラシ1が得られる。
【0039】
このように、摺動ブラシ摺動面形成面側の下端部に、移動方向と直交する方向に延設された溝部13aを有する上型13を用いて、摺動ブラシ1を成形する。
これにより、所定範囲内の金属粒子もしくは(及び)炭素粒子の粉末材料Pが、摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した、摺動面の抵抗率が高い摺動ブラシを得ることができる。
その結果、摺動ブラシが整流子を跨ぎ、ブラシの端部が整流子から離れる際、ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中を抑制でき、その結果、火花の発生を十分に抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を十分低減できる。
【0040】
なお、上記実施形態では、上型13下端部の摺動ブラシ摺動面形成面側に、移動方向と直交する方向に延設された溝部13cを有している場合について説明した。
本発明では、
図7に示すように、ロアパンチ16上端部の摺動ブラシ摺動面形成面側に、上型13と同様に、移動方向と直交する方向に延設された溝部16aを有していても良い。
【0041】
この溝部16aは、前記溝部13aと同様に、前記溝部16aの幅t5が少なくとも0,5mm、深さt6が少なくとも1mmである。
前記溝部16aの幅t5が0,5mm未満の場合には、材料粉末Pを摺動ブラシ1の摺動面1aに対して、斜めに配向した状態にすることができないため、好ましくない。
また深さt6が1mm未満の場合には、摺動ブラシ1の摺動面に対して十分斜めに配向した状態にすることができないため、好ましくない。
【0042】
このようにロアパンチ16にも溝部16aが形成されている場合には、摺動ブラシ1の摺動面1aにおける抵抗率がより高く、より均一な摺動ブラシを得ることができる。
その結果、摺動ブラシ1が整流子を跨ぎ、摺動ブラシの端部が整流子から離れる際、摺動ブラシ端部と整流子の間に過度な電流集中を抑制でき、その結果、火花の発生を十分に抑制でき、ブラシの摺動面の摩耗を十分低減できる。
【実施例】
【0043】
[実験1]
銅30重量%、黒鉛70重量%の混合粉末を材料粉末として用いて、成形圧力を3トン/cm
2とし、5mm(幅)、4mm(厚さ)、8mm(長さ)の成形体を得た。その後、焼成し、焼結体No.1~No.5を得た。
そして、得られた焼結体No.1~No.5の銅または黒鉛の粒子の配向角度を変えて切り出し、試験片を作成した後、抵抗率を測定した。
切り出し方は、
図8に示すように、成形体を焼成した焼結体(
図8(a))を45度傾けて切断した(配向角度45度の試験片(
図8(b)))、また、成形体を焼成した焼結体(
図8(a))を90度傾けて切断した(配向角度90度の試験片(
図8(c)))。尚、
図8において、試験片内部の斜線は、摺動面1aに相当する面に対する配向角度を模式的に示している。
【0044】
図9に示す装置を用いて試験片に電圧計を接続し、電圧降下を求め、次の式から抵抗率を求めた。
ρ=(V×A/I×L)×10
3
ここで、ρ;抵抗率(μΩ・cm)
V:電圧端子間の電圧降下(mV)
A:試験片の断面積
I:試験片に流す電流(A)
L:電圧端子間の距離(cm)
【0045】
また、銅70重量%、黒鉛30重量%の混合粉末を材料粉末とした場合についても同様に焼結体No.1~No.5を作製し、試料片を作成し、抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1から明らかなように、配向角度が増すにつれて、高抵抗率を示すことが分かった。
【0048】
[実施例]
(実施例1)
図4の電機用摺動ブラシ成型装置において、
図5に示した、幅t3が0.5mm、深さt4が1mmの溝部13aが形成された上型13、また
図7に示した、幅t5が0.5mm、深さt6が1mmの溝部16aが形成されたロアパンチ16を用いた。
そして、銅30重量%、黒鉛70重量%の混合粉末を材料粉末として用いて、成形圧力を3トン/cm
2とし、5mm(幅)、4mm(厚さ)、8mm(長さ)の成形体を得た。
そして、離型時には、全体金型から、ブラシ摺動面を形成する金型の一部を移動して(離して)、成形された摺動ブラシをロアパンチにより、押し出した。
その後、焼成し、得られた摺動ブラシについて、上面及ぶ下面から深さ1mm以下、かつ摺動ブラシの摺動面から深さ1mm以下の範囲内の断面の組織を観察した。その結果を
図10に示す。
【0049】
(比較例1)
図5に示したような溝部13aが形成されていない上型13、また
図7に示したような溝部16aが形成されていないロアパンチ16を用いたこと以外は、実施例1と同一の条件で行った。その後、焼成し、得られた摺動ブラシについて、実施例1と同様に、組織を観察した。その結果を
図11に示す。
【0050】
また、実施例1および比較例1で作製した摺動ブラシについて、パワーシート用モータを用いて耐久試験をおこなった。これらの摺動ブラシをモータに装着して、電圧14.5Vを21秒印加し、その後69秒OFF(正逆)を1サイクルとし、ブラシライフを比較した。結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
実施例1では、
図10中に矢印で示すように、銅粒子,炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した状態が観察された。一方、比較例1では、銅粒子,炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した状態は観察されなかった。また、耐久試験では摩耗が低減され、ブラシライフが伸びることが認められた。
【0053】
以上のように、本発明にかかる摺動ブラシによれば、銅粒子,炭素粒子の粉末材料Pが摺動ブラシの摺動面に対して斜めに配向した状態となり、高い抵抗率を示し、また火花による摩耗が低減されたことが認められた。
【符号の説明】
【0054】
1 電機用摺動ブラシ
1a 摺動面
1b 摺動ブラシの摺動方向と直交する面(第1の面)
1c 摺動ブラシの摺動方向と直交する面(第2の面)
1d 摺動ブラシの摺動方向と平行な面
1e 摺動ブラシの摺動方向と平行な面
1f 摺動面と対抗する面
2 端子
10 摺動ブラシ成形装置
13 上型
13a 溝部
16 ロアパンチ
16a 溝部
t1 摺動ブラシの摺動方向と直交する面からの深さ
t2 摺動ブラシの摺動面からの深さ
t3 上型の溝部の幅
t4 上型の溝部の深さ
t5 ロアパンチの溝部の幅
t6 ロアパンチの溝部の深さ
D 摺動ブラシに流れる電流の方向
P 粉末材料
R 摺動ブラシの摺動方向
M 上型の移動方向