(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】除去アンカーの耐荷体、除去アンカーの使用方法及び耐荷体の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/80 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
E02D5/80 A
(21)【出願番号】P 2020119629
(22)【出願日】2020-07-13
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】510037215
【氏名又は名称】KJSエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅史
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-133118(JP,A)
【文献】特開2005-023549(JP,A)
【文献】特開2002-088929(JP,A)
【文献】特開2002-235323(JP,A)
【文献】特開2017-014848(JP,A)
【文献】特開平09-031976(JP,A)
【文献】実開平06-008438(JP,U)
【文献】特開2006-328682(JP,A)
【文献】特開2003-090038(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0301509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22-5/80
B27K 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ製の耐荷体本体及び鋳鉄製のトップを有し、
耐荷体本体を構成する
ヒノキ材は、トップから伝達された引張力を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に
、乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率が低下していることを特徴とする除去アンカーの耐荷体。
【請求項2】
耐荷体のトップに張力支持材を巻き掛けた状態で、固化前のグラウトが充填されたアンカー孔内に挿入して地中に固定し、
前記耐荷体は
ヒノキ製の耐荷体本体及び鋳鉄製のトップを有し、耐荷体本体を構成する
ヒノキ材は、トップから伝達された引張力を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に
、乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率を低下しており、
アンカー供用期間が経過した後、張力支持材を耐荷体のトップに巻き掛けた状態から地上側に引き抜き、
アンカー供用期間が経過した後、新たに耐荷体本体が固定した個所を掘削する際に、
ヒノキ製の耐荷体本体が切削機械により破砕されることを特徴とする除去アンカーの使用方法。
【請求項3】
供用後に地中から張力支持材を除去する除去アンカーの耐荷体製造方法において、
耐荷体は
ヒノキ製の耐荷体本体及び鋳鉄製のトップを有し、耐荷体本体を構成する
ヒノキ材は、トップから伝達された引張力を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に樹脂含浸が施さ
れており、
耐荷体本体の材料である
ヒノキ材を乾燥する工程と、
乾燥した
ヒノキ材を、張力支持材を巻き掛けられる耐荷体の耐荷体本体としての形状に加工する
ヒノキ材加工工程と、
乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率を低下している状態にする工程と、
張力支持材を巻き掛け可能な形
状の耐荷体トップを鋳鉄により製造する工程、を含むことを特徴とする除去アンカーの耐荷体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば都市建設の地下掘削時の仮設山留の様な仮説アンカー工法で用いられ、アンカーの供用後に地中から張力支持材(PC鋼線)を除去する除去アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
除去アンカーは、例えば都市建設の地下掘削時の仮設山留として利用されているグラウンドアンカーであって、アンカーの供用後に、主たる地中障害物と成り得るPC鋼線(張力支持材:テンドン)を除去する仮設アンカー工法である。除去アンカーにおいては、アンカーの供用後であってPC鋼線を除去した後に、施工現場をシールドマシン等で掘削する際に、PC鋼線が障害となることを防止して、掘削用機器の故障を防止するために用いられている(例えば特許文献1参照)。
除去アンカーにおける耐荷体はPC鋼線除去後も地中に残留するが、近年、その様な耐荷体の材質が、問題視されるケースが存在する。そして現状では、複雑化する都市の地下利用に伴う要求により、耐荷体の材質変更が求められている。
【0003】
除去アンカーは昭和後期から施工されており、例えば開削型の地下掘削工事における仮設山留工法で用いられていた。
除去アンカーにおいては、1~2本のPC鋼線を耐荷体にUターン状に巻き掛けることにより反力を得て、PC鋼線を巻き掛けた耐荷体を必要数(最大5個から6個)だけ縦列に配置してアンカーテンドンを構成し、均等に引張荷重を付加するものが普及している。
除去アンカーの供用期間が経過した後に地盤中にPC鋼線を残存させると、PC鋼線は主たる地中障害物となってしまうため、除去アンカーを施工した地盤を新たに掘削する場合(シールド工法を施工する場合を含む)に(残存したPC鋼線は)障害となる。そのため、供用後、PC鋼線を除去している。
【0004】
しかし、近年の地下の有効利用の結果として、耐荷体までもが地中残留物として検討の対象とされるケースが散見されるようになった。
アンカー供用後に地中に残存される耐荷体として、通常、鋳物製の耐荷体が用いられているが、耐荷体を供用後に除去するために、樹脂コンクリート(高強度樹脂、強化繊維をコンクリートと混合したもの)製の耐荷体や、生分解性(4年程度地中残地するとバクテリアによって強度低下を起こす樹脂やコンクリート:バイオマスコンクリートを含む)素材を用いた樹脂コンクリート耐荷体が、提案されている。
【0005】
ここで、除去アンカーは、その供用期間は数週間~2年であって範囲が広く、従って、除去アンカー施工から施工領域がシールド機械により掘削されるまでの期間も、施工から何週間という短い期間である場合から、施工から2年以上経過した後という長い期間である場合まで幅広く存在する。鋳鉄製の耐荷体は、上述した様に、シールド機械で破砕することが出来ないため、除去アンカーの耐荷体の素材としては嫌われている。
また、バイオマスコンクリートは、地中のバクテリア環境、含水率状況も施工地盤毎に異なるため、必ずしも想定しているタイミングで生分解機能が発揮されない場合が多い。そして、生分解機能が発揮されるタイミングが施工から短期間であれば、供用期間中に生分解機能が発揮されてしまうため、必要な供用期間の全期間に亘って、耐荷体は必要な張力を支持することが構造上困難である。一方、生分解機能が発揮されるタイミングが施工から長期間経過後であれば、供用後に施工領域を新たに切削する必要が生じた際に生分解機能が未だに発揮されず、バイオマスコンクリートにおける「生分解機能」は可能性のレベルに留まっているのが実情である。
さらに、コンクリート系素材は、素材の性質上、複雑な形状には加工することに不適合であり、曲げ、引張強度が弱く、組み立て後に工事現場に搬入するまでに折損、割れ、欠けが生じるといった問題ばかりが露呈している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、地中に架設された後、供用期間中は必要な張力を確実に支持することが出来て、供用期間が経過して張力支持材(PC鋼線)を除去した後に新たに掘削する際に地中障害物とはなり難い除去アンカーの耐荷体、除去アンカーの使用方法及び耐荷体の製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は種々研究の結果、
木材は一般構造用鋼板と比べ、対重量強度比が4倍(同一重量であれば4倍の強度)であること、
木材(特に檜)は入手が簡単であり、強度も高いこと、
に着目した。
そして、通常の木材の強度は金属の強度にはおよばないが、樹脂含浸する事で、耐荷体として十分な強度を得られ、場合によってはコンクリートに勝ることを見出した。
本発明は係る知見に基づいて創作されたものである。
本発明の除去アンカーの耐荷体(10)は、ヒノキ製の耐荷体本体(1)及び鋳鉄製のトップ(2)を有し、
耐荷体本体(1)を構成するヒノキ材は、トップ(2)から伝達された引張力(アンカー軸力)を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に、乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率が低下していることを特徴としている。
本発明の除去アンカーの耐荷体(10)において、木製の耐荷体本体(1)の形状は如何様にも切削可能な上に、(珪砂によって)表面全体に微細な凹凸も形成できて、以て、耐荷体として必要な周面摩擦係数が確保されているのが好ましい。
また、本発明の除去アンカーの耐荷体(10)において、鋳鉄製のトップ(2)は張力支持材(PC鋼線)を巻き掛けるのに必要最低限に小型化されているのが好ましい。
本発明において、耐荷体本体(1)を構成する木材は、仮道管(木材が水を吸うためのパイプ状の管)を構成している針葉樹、仮道管がハニカム材状に集合しているため、木材の中でも許容圧縮力が大きいヒノキ材を用いることが好ましい。
【0009】
また本発明の除去アンカーの使用方法では、
耐荷体(10)のトップ(2)に張力支持材(PC鋼線)を巻き掛けた状態で、固化前のグラウトが充填されたアンカー孔内に挿入して地中に固定し、
前記耐荷体(10)はヒノキ製の耐荷体本体(1)及び鋳鉄製のトップ(2)を有し、耐荷体本体(1)を構成するヒノキ材は、トップ(2)から伝達された引張力(アンカー軸力)を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に、乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率を低下しており、
アンカー供用期間が経過した後、張力支持材(PC鋼線)を耐荷体(10)のトップ(2)に巻き掛けた状態から地上側に引き抜き(引き抜いて地中から除去し)、
アンカー供用期間が経過した後、新たに耐荷体本体(1)が固定した個所を掘削する際に、ヒノキ製の耐荷体本体(1)が切削機械(シールド機械を含む)により破砕されることを特徴としている。
【0010】
さらに本発明の除去アンカーの耐荷体製造方法では、供用後に地中から張力支持材(PC鋼線)を除去する除去アンカーの耐荷体製造方法において、
耐荷体(10)はヒノキ製の耐荷体本体(1)及び鋳鉄製のトップ(2)を有し、耐荷体本体(1)を構成するヒノキ材は、トップ(2)から伝達された引張力(アンカー軸力)を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する様に樹脂含浸が施されており、
耐荷体本体(1)の材料であるヒノキ材を乾燥する工程と、
乾燥したヒノキ材を、張力支持材(PC鋼線)を巻き掛けられる耐荷体(10)の耐荷体本体(1)としての形状に加工するヒノキ材加工工程と、
乾燥したヒノキ材を真空引きしてから1~1.5MPaまで加圧してヒノキ材内に水性フェノール樹脂を含浸させ以てヒノキ材の含水率を低下している状態にする工程と、
張力支持材(PC鋼線)を巻き掛け可能な形状の耐荷体トップ(2)を鋳鉄により製造する工程、を含むことを特徴としている。
本発明の製造方法の実施に際して、木材を乾燥する工程は、特段の処置を施すことなく、いわゆる「天日」により一定期間行うことが好ましい。
また、前記木材加工工程は旋盤を用いて実行され、当該旋盤ではバイトに代えて木工用ルーターが固定されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上述の構成を具備する本発明によれば、樹脂を含浸した木材で耐荷体本体(1)を構成しているので、鋳鉄により、耐荷体全体を構成する必要が無くなる。すなわち、供用期間経過後に地中障害物となってしまうため耐荷体の素材としては嫌われている鋳鉄により耐荷体全体を構成する必要が無い。
ここで、天然素材である木材を地中に埋設(グラウト内)した場合、バクテリアによる生分解で強度低下が始まるが、本発明では、耐荷体本体(1)を構成する木材の表面に、水溶性の安価な塗料(ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等々)を塗布(トップコート)しているので、除去アンカーの最長供用期間(2年)程度の期間であれば、耐荷体(10)としての強度劣化は防止できる。従って、供用期間中の強度を満足することができる。そして、除去アンカーの供用期間の経過後にシールド機械の様な切削機械により掘削する際に、木製である本発明の耐荷体本体(1)は容易に破砕され、当該切削機械を破壊してしまうことはない。
さらに本発明によれば、樹脂を含浸した木材で耐荷体本体(1)を構成しているので、コンクリート系素材とは異なり、複雑な形状には加工することに好適である。そして樹脂含浸した木製の耐荷体自体が十分な強度を有し、曲げ、引張強度が強いため、組み立て後に工事現場に搬入するまでに折損、割れ、欠けが生じるといった問題が生じない。
【0012】
換言すれば、本発明では、耐荷体本体(1)を構成する木材のセルロースにおける仮道管に適度に希釈した例えば水性のフェノール樹脂を含浸して、乾燥硬化させることで、耐荷体本体(1)に繊維強化樹脂(FRP)と同等の強度を与えることが出来る。ここで、自然分解をしないFRP自体は、除去アンカーの供用期間経過後においても分解することなく地中で存在するので耐荷体本体の素材としては不向きではある。本発明に係る耐荷体本体(1)は天然素材である木材で構成されているので、除去アンカーの供用期間経過後にシールド機械の様な切削機械により掘削する際に容易に破砕され、切削機械の刃を破損してしまうことが防止される。そして、掘削されない場合でも、地中微生物の生分解作用により、耐火材本体の材料である木材が自然分解される。
すなわち本発明によれば、地中障害物に成り得ない天然素材である木材で繊維強化樹脂のような強度特性を持つ耐荷体本体(1)を構成する事により、天然素材を用いて環境や生態系に良好な効果(ECOの観点からの効果)を発揮しつつ、上述した各種問題を解決している。そして、樹脂を含浸して乾燥硬化させることで、張力支持材(PC鋼線)破断強度までの十分な耐力を有し、木材の高い加工性により最適な形状の耐荷体(10)を構築できる。
上述した様に、針葉樹木材の場合、ハニカム状の仮道管構造が多く、ヒノキ材では仮道管は密集集合状態且つ、直線的構造を有し正にハニカム構造で、木材断面の90%程度を仮道管が占めている。そして、(大部分は防腐加工であるが)樹脂等を木材に含浸する技術も確立している。そのため、本発明によれば、高い経済性も実現することが出来る。
【0013】
本発明では、樹脂含浸を施した木製の耐荷体本体(1)を、鋼線を巻きかける鋳鉄製トップ(2)と組み合わせて使用するが、鋳鉄製トップ(2)は小さく設計したものが用いられるため、地中障害物となり難い。
そのため、従来の鋳鉄製の耐荷体の様に、シールド機械の様な切削機械による切削を妨げることはない。また、トップ(2)を構成する鋳鉄は、供用期間経過後、長期間が経過すれば、緩やかに酸化して(所謂「錆びる」ことにより)分解される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る耐荷体の側面図である。
【
図5】耐荷体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図6】耐荷体製造の際に用いられる含浸設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号10で示す除去アンカーの耐荷体は、木製の耐荷体本体1と鋳鉄製のトップ2を有している。耐荷体本体1は、
図3に示す径寸法が(部分1Aに比較して)相対的に小さい断面を有する部分1B(凹部1B」)と、
図2に示す径寸法が大きい断面を有する部分1Aが、長手方向(
図1で左右方向)に交互に連続して配置されている。そして耐荷体本体1は一体に構成されている。
図1において、図示しないPC鋼線(張力支持材)は、耐荷体トップ2でUターン状に巻き掛けられる。
【0016】
径寸法が大きい断面を有する部分1Aでは、
図2における左右領域には、図示しないPC鋼線を収容する収容部1Hが設けられている。収容部1Hの各々には、例えば、2列2段で計4本のPC鋼線が収容される。また、
図2における上下領域(上下2箇所)に設けられた収容部1Iには、例えばそれぞれ1本のPC鋼線が収容される。
凹部1B(径寸法が小さい断面)を示す
図3において、左右領域には、図示しないPC鋼線を収容する収容部1Jが設けられている。収容部1Jの各々には、例えば、2列2段で計4本のPC鋼線が収容される。また、
図3における上下領域(上下2箇所)に設けられた収容部1Kの各々には、例えば1本のPC鋼線が収容される。
【0017】
明確には図示しないが、耐荷体トップ2の横断面において、左右領域(左右2箇所)の各々では、例えば2列2段で計4本のPC鋼線が収容される。そして、耐荷体トップ2の横断面の上下領域(上下2箇所)の各々では、例えば1本のPC鋼線が収容される。
耐荷体本体1とトップ2は、従来公知の態様で接続されている。
【0018】
図1において、耐荷体1において、トップ2と隣接する凹部1Bである部分1Bαは、図示しないバンド状の結束材により、PC鋼線(図示せず)が耐荷体本体1に取り付けられる。部分1Bαは、径寸法が大きい部分1Aとトップ2に挟まれているので、図示しない結束材によりPC鋼線を安定して固定することが出来る。
アンカー供用の際には、凹部1B、1Bαには図示しないグラウト材が侵入して固化すると、耐荷体本体1の径寸法が大きい部分1Aと凹部1Bの段差及びトップ2と凹部1Bαの段差により、耐荷体10はPC鋼線に作用する引張力を支持することが出来る。
【0019】
耐荷体本体1を構成する木材は、耐荷体トップ2から伝達された引張力(アンカー軸力)を支持するのに必要な許容圧縮応力を有する必要がある。そのため当該木材には樹脂含浸が施されている。
図示の実施形態において、耐荷体本体1を構成する木材は、セルロースが多数の仮道管(木材が水を吸うためのパイプ状の管)を有する針葉樹であり、セルロースの仮道管がハニカム材状に集合しているため許容圧縮力が大きいヒノキ材が選定される。ヒノキ材に含浸させる樹脂としては、例えば、水性のフェノール樹脂が使用される。
ヒノキ材を樹脂含浸すれば、耐荷体本体1として必要な許容圧縮応力を充足することが、発明者の実験により確認されている。さらに、ヒノキ材は施工現場或いは耐荷体製造現場で容易に調達可能であり、好都合である。
ヒノキ材で耐荷体本体1を構成すれば、コンクリート系素材とは異なり、複雑な形状には加工することに好適である。また、ヒノキ材にフェノール樹脂を含浸させて構成されている耐荷体本体1自体は十分な強度を有し、曲げ、引張強度が強いため、組み立て後に工事現場に搬入するまでに折損、割れ、欠けが生じるといった問題が生じない。
【0020】
耐荷体本体1の材料として天然素材である木材を地中(グラウト内)に埋設した場合、バクテリアによる生分解で強度低下が生じる。係る強度低下により耐荷体本体1として必要な許容圧縮応力を有しないという事態を防止するため、図示の実施形態においては、耐荷体本体1を構成する木材(ヒノキ材)の表面には、水溶性塗料が塗布(トップコート)されている。水溶性塗料としては、ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等の安価な汎用品が利用できる。
耐荷体本体1を構成する木材の表面に、前記水溶性の塗料(ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等)を塗布(トップコート)した場合、除去アンカーの最長供用期間(2年)程度の期間であれば、耐荷体10の強度劣化を防止することが出来て、供用期間中は必要な許容圧縮応力を満足することができる。
また、図示の実施形態における耐荷体10において、木製(ヒノキ材)の耐荷体本体1の形状は、
図1等に示す様に単純化されているが、(珪砂によって)表面全体に微細な凹凸が形成されている。これにより、耐荷体として必要な周面摩擦係数が確保されている。
【0021】
図1において、耐荷体10のトップ2は鋳鉄製であり、PC鋼線(張力支持材)をUターン状に巻き掛けることが出来る構造を有している。トップ2のPC鋼線の収容部により、トップ先端側(
図1で右側)で、それぞれのPC鋼線はUターン状に巻き掛けられている。
PC鋼線をUターン状に巻き掛ける部分に作用する外力(引張力)は大きいため、トップ2の材料として、耐荷体本体1と同様の材料、すなわち樹脂(フェノール樹脂)を含浸させた木材(ヒノキ材)は使用することは出来ず。鋳鉄で構成されている。
ここで、トップ2は、張力支持材により負荷される外力に耐えるのに必要な最小限の強度(許容圧縮応力)を有するものを用いており、トップ2の寸法が最小になる様に設計される。
トップ2の寸法を必要最小限の寸法にしているため、除去アンカーの供用期間が経過してPC鋼線(張力支持材)を除去した後に、トップ2が地盤中に残存しても、上述した地中障害物とはなり難い。
【0022】
図示の実施形態に係る耐荷体10を用いる除去アンカーは、上述した点以外では、既存の除去アンカーと同様に施工することが出来、供用時の態様も従来のアンカーと同様である。すなわち、耐荷体10のトップ2に張力支持材(PC鋼線:図示せず)を巻き掛けた状態で、固化前のグラウトが充填されたアンカー孔内に挿入して地盤中に固定し、グラウトの固化後に張力支持材に所定の張力を付加して定着させ、地盤や構造物等の安定化を図る。
図示の実施形態に係る耐荷体10では、耐荷体本体1はヒノキ材を水性フェノール樹脂含浸した上、表面に水溶性の塗料(ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等)を塗布(トップコート)しているので、耐荷体本体1として必要な許容圧縮応力を充足する。それと共に、打設後の耐用年数(トップコートの耐用年数にて決まる)は、打設後5年程度を確保することが出来る。その間、耐荷体本体1の強度は変化しない。通常のアンカーの供用期間が最長でも2年程度であることを考慮すれば、「5年」という期間は十分条件を満たしている。
【0023】
図1で示す耐荷体本体1は、長手方向(
図1では左右方向)右端のトップ2に隣接する部分は径寸法が小さい部分1Bβ(径寸法が相対的に小さい断面を有する部分1B:
図3参照)が配置されており、長手方向左端には径寸法が大きい部分1Aが配置されている。
トップ2における耐荷体本体1-1側の部分(
図4では左方の部分)の径寸法は凹部1-1Bβよりも大きいため、トップ2と凹部1-1Bβとの境界部分には段差が存在する。
図示しないグラウト材は、トップ2と凹部1-1Bβの境界部分の段差が存在する箇所に侵入し、侵入したグラウト材が固化すると、当該段差によりPC鋼線に付加される引張力を支持する。
【0024】
図示の実施形態の変形例を
図4で示す。
図4において、耐荷体10-1では、耐荷体本体1-1におけるトップ2に隣接する部分(
図4では耐荷体本体1-1の右端)は、
図1で示すのとは異なり、径寸法が大きい部分1-1Aが配置されている。
図4の変形例に係る耐荷体本体1-1も一体に構成されており、径寸法が大きい断面を有する部分1-1Aと凹部1-1B(径寸法が相対的に小さい断面を有する部分)が、
図1の耐荷体本体1と同様、長手方向(
図4で左右方向)に交互に連続して配置されている。
図4において、最もトップ2に近い位置に或る凹部1-1Bは、符号「1-1Bα」で示されている。
【0025】
図示の実施形態に係る除去アンカーにおいて、施工時、供用時の態様は、従来の除去アンカーと同様である。供用期間経過後、PC鋼線を除去する際も、従来の除去アンカーと同様な態様で、PC鋼線が地盤中から取り除かれる。
アンカー供用期間が経過した後、PC鋼線を地盤中から取り除くに際しては、従来公知の態様により、例えば、Uターン状に巻き掛けられたPC鋼線の一端側を地上側で把持した状態で他端側を切断し、把持されたPC鋼線を地上側に引き上げる。
アンカー供用期間が経過した後、当該耐荷体本体1が固定された個所を新たに掘削する際には、木製の耐荷体本体1は切削機械(シールドマシンを含む)により破砕されるので、新たな施工の障害とはならない。上述した様に、トップ2は鋳鉄製であるが、寸法が最小に設計されており、障害物とはならない。
【0026】
図5を参照して、図示の実施形態に係る耐荷体10の製造手順を説明する。
ステップS1では、耐荷体本体1の材料である木材(ヒノキ材)を乾燥する。
図示の実施形態に係る製造方法では、複数段階で乾燥が行なわれる。ステップS1の乾燥工程では、ステップS2の切削加工に先立ち、耐荷体本体1の材料のヒノキ材を含水率20%(ある程度)まで乾燥させている。ここで、含水率を20%程度に乾燥させた木材を「乾燥した木材」と表現する場合がある。含水率を20%程度に乾燥することで、木材の仮道管内部を空洞にして、当該空洞となった仮道管内に樹脂が確実に含浸する。
なお、ステップS1の乾燥工程は、例えば、いわゆる「天日」に一定時間置くことにより行う。含水率20%程度まで乾燥したならば、ステップS2に進む。
【0027】
ステップS2では、木材(ヒノキ材)の形状を
図1(或いは
図4)、
図2、
図3に示す形状(耐荷体本体1の形状)に切削加工する。
また、ステップS2における切削加工では、出願人が独自に開発した旋盤を用いて行うことが効率的である。当該旋盤は、バイトの代わりに木工ルーター複数台を固定して構成されている。
通常直径120mm程度の木材を加工するのであれば、例えば、いわゆる「間伐材」を材料とすることが出来る。ただし、汎用に加工された100mm程度の角材や丸材を材料としてステップS2の切削加工を施しても、図示の実施形態に係る木製の耐荷体本体1を製造することが可能である。
ここで、ヒノキ材の断面の90%は仮道管がハニカム状に密集、集合し、基礎的な強度も高い。またヒノキ材に限らず、樹脂含浸が容易で密に集合した仮道管構造で且つ、基礎的な強度に優れた木材であれば、使用可能である。また間伐材を使うことにより、森林資源の有効活用を図ることが出来るので、環境負荷を減少して、経済性を向上するのに有効である。ここで、もれなく木材の芯を含む事が出来るため、加工された耐荷体本体1の強度も向上する。切削加工が完了したならば、ステップS3に進む。
【0028】
ステップS3では、耐荷体本体1として必要な形状に加工された木材(ヒノキ材)に樹脂(水性フェノール)を含浸させる以前の段階として、更に木材を乾燥する。ステップS3の乾燥工程では、60~150℃の温度範囲で乾燥する。
発明者の実験では、最低60℃、最大150℃の温度範囲内の乾燥した空間によりヒノキ材その他の木材を乾燥させることにより、木材のセルロースの仮道管内の水分を蒸発させて、水性フェノールの含浸が効率的に行われることが確認された。
ここで、150℃よりも高い高温下では、木材に「割れ」が出る。一方、60℃よりも低い温度下では木材の乾燥が不十分となり、仮導管内の水分が十分に蒸発せず、仮導管を空洞にすることが出来なかった。
また、後述するステップS4~S7に関して、ヒノキその他の木材に含浸させる樹脂として、発明者は水性フェノールを希釈して使用した。水性フェノールをどの程度まで希釈するかについては、各種条件下でケース・バイ・ケースであった。
【0029】
ステップS3の感想の後、ステップS4に進む。
ここで、
図6を参照して、耐荷体本体1の製造に用いられる含浸設備11について説明する。
図6において、木材(ヒノキ材)に水性フェノールを含浸する設備11は、水性フェノールが充填されている含浸槽12と、真空引きポンプ13と、真空引きの様子を確認するための確認用窓14と、含浸設備11内の雰囲気を1MPa以上に加圧する加圧装置15と、大気圧に戻した状態で含浸槽12内に水性フェノールを継ぎ足しするための樹脂投入管16が設けられている。
真空引きポンプ13と加圧装置15は、それぞれエア配管17、18により、含浸設備11に接続されている。エア配管17、18には、それぞれ開閉バルブ19、20が介装されている。樹脂投入管16には開閉バルブ21が介装されている。
【0030】
図5の製造工程におけるステップ4~ステップS6は耐荷体本体1に水性フェノール樹脂を含浸する工程であり、上述した
図6の含浸設備11を使用して実行される。
ステップS4では、含浸設備11の含浸槽12内に耐荷体本体1となるヒノキ材を浸漬させる。ここで、含浸槽12には、適度に希釈した水性フェノールが充填されている。
そしてステップS5において、真空引きポンプ13により含浸設備11内の雰囲気を1時間程度の時間を掛けて真空引きして、含浸設備11内の雰囲気を十分に脱気する。その際に、真空引きポンプ13側の開閉バルブ19を開き、加圧装置15側の開閉バルブ20は閉鎖する。
【0031】
次のステップS6では、真空引きポンプ13側の開閉バルブ19を閉鎖し、加圧装置15側の開閉バルブ20を開いて、加圧装置を作動して、含浸設備11内の雰囲気を概略1~1.5MPaだけ加圧する。真空引きポンプ13による脱気と共に、含浸設備11内を加圧することにより、ヒノキ材内に水性フェノール樹脂が含浸するのが促進される。
なお、ヒノキ材にどれだけの樹脂(水性フェノール)が含浸したのかは、含浸前の木材と含浸後の木材の重量差により決定出来る。
ステップS6までの工程で、ヒノキ材には水性フェノール樹脂が必要充分に含浸する。そしてステップS7に進む。
【0032】
ステップS6で樹脂含浸が完了した後、ステップS7では、含浸設備11内からヒノキ材(木材、耐荷体本体1)を取り出して、含浸設備11とは別の乾燥設備(乾燥室)で乾燥する。当該乾燥によりヒノキ材(木材、耐荷体本体1)に含浸された樹脂(水性フェノール樹脂)を硬化させる。そしてステップS8に進む。
水性フェノールは1液水性であり、1液水性の水性フェノールは使用設備の保守が簡易であり且つ熱硬化性である。樹脂として水性フェノールを選択した場合には、(耐荷体本体へ水性フェノールの)含浸を行った後、含浸槽12から水性フェノールを回収し、一定期間保存して、当該水性フェノールを次回の含浸作業で再び使用することが出来る。
フェノール樹脂の精製にはホルムアルデヒドが用いられるが、フェノール樹脂プラスチックは最古のプラスチックであり、過去の電話機(いわゆる「黒電話」)の受話器や食器類に数多く、半世紀以上の長きに亘って使用され続けたことから、固体化したフェノール樹脂が無害であることが認められている。
なお、水性フェノールに代えて、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等も(木材に含浸させる樹脂として)使用可能である。耐荷体本体を構成するのに相応の圧縮強度に木材を補強することが出来て、木材の仮道管内に含浸容易な粘度の樹脂であれば、それ以外の樹脂も選択可能である。ただし、水性の樹脂が好ましい。
【0033】
ここで、フェノール樹脂はアルカリ性溶液に溶解してしまう。除去アンカーの耐荷体10をセメントグラウトに浸漬し、最長2年間の供用期間中に、セメントグラウトにより(耐荷体本体1に含浸した)水性フェノールが溶解して耐荷体本体1の圧縮強度が低下しないようにするため、耐荷体本体1(木材)の表面には塗料が塗布されている(トップコートが施されている)。
トップコートとして選択される塗料は安価な水性塗料で十分であり、供用期間を考慮して、ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等から選択される。
塗布は、手作業で行うことも出来るし、或いは、既存の塗料塗布設備を用いて行うことも出来る。
【0034】
再び
図5において、ステップS8では、樹脂(水性のフェノール樹脂)を含浸して乾燥硬化させたヒノキ材に、上述した水溶性塗料(ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等)を塗布(トップコート)する。
次のステップS9では、ステップ8で水溶性塗料が塗布された木材(耐荷体本体1となるヒノキ材)を乾燥させ、耐荷体本体1を完成させる。
ステップS10では、ステップS1~S9で製造した耐荷体本体1と、
図5のフローチャートでは図示しない別工程で製造した鋳鉄製の耐荷体トップ2とを、従来公知の方法により接続して、耐荷体10を完成させる。
耐荷体トップ2は、
図1を参照して上述した様に、PC鋼線(張力支持材)を巻き掛け可能な形状であり、且つ、PC鋼線(張力支持材)により付加される外力(引張力)による圧縮に耐えることが出来る最小寸法に設計、製造されている。
なお、トップ2の製造は、工場で行うことも出来るが、除去アンカーの施工現場で行うことも出来る。
また、含侵設備、乾燥設備等との間で耐荷体本体1の形状に加工された木材を移動するには、作業員の手作業で行っても良いし、或いは、コンベア等の搬送装置、その他の公知の移動機構を用いても良い。
【0035】
図示の実施形態によれば、樹脂(水性フェノール樹脂)を含浸した木材(ヒノキ材)で耐荷体本体1を構成しているので、供用期間経過後に地中障害物となってしまう鋳鉄で耐荷体10全体を構成する必要が無くなる。
また、図示の実施形態では、耐荷体本体1を構成する木材(例えばヒノキ材)の表面に、水溶性の安価な塗料(ニス、ラッカー、ウレタン、アクリル等々)を塗布(トップコート)しているので、除去アンカーの最長供用期間(2年)程度の期間であれば、生物的分解反応による木材の腐食が防止され、耐荷体(10)としての強度劣化を防止することができて、供用期間中の強度を満足することができる。
そして、除去アンカーの供用期間の経過後にシールド機械の様な切削機械により掘削する際に、木製である耐荷体本体1は容易に破砕され、当該切削機械を破壊してしまうことはない。
さらに図示の実施形態によれば、樹脂(水性フェノール樹脂)を含浸した木材で構成した耐荷体本体1は、コンクリート系素材とは異なり、複雑な形状であっても容易に加工することが出来る。
それに加えて、樹脂(水性フェノール樹脂)含浸した木製(例えばヒノキ材)の耐荷体本体1自体が十分な強度を有し、曲げ、引張強度が強いため、組み立て後に工事現場に搬入するまでに折損、割れ、欠けが生じるといった問題が生じない。
【0036】
換言すると、図示の実施形態によれば、耐荷体本体1を構成する木材(例えばヒノキ材)のセルロースにおける仮道管に適度に希釈した水性のフェノール樹脂を含浸して、乾燥硬化させることにより、耐荷体本体1に繊維強化樹脂(FRP)と同程度の圧縮強度を与えることが出来る。ここで、図示の実施形態に係る耐荷体本体1は天然素材である木材(ヒノキ材)で構成されているので、除去アンカーの供用期間経過後にシールド機械の様な切削機械により掘削する際に容易に破砕される。
図示の実施形態によれば、地中障害物に成り得ない天然素材である木材(例えばヒノキ材)で繊維強化樹脂と同等の強度を持つ耐荷体本体1を構成する事により、環境や生態系に良好な効果を発揮しつつ、付加される引張力に対して十分な耐力を有する耐荷体10を程起用することができる。
特に、針葉樹木材の場合、ハニカム状の仮道管構造が多く、ヒノキ材では仮道管は密集集合状態且つ、直線的構造を有し正にハニカム構造で、木材断面の90%程度を仮道管が占めている。そして、樹脂等を木材に含浸する技術も確立しているので、高い経済性も実現することが出来る。
【0037】
図示の実施形態では、樹脂(水性フェノール樹脂)含浸を施した木製(ヒノキ材)の耐荷体本体1を、鋼線を巻きかける鋳鉄製トップ2と組み合わせて使用するが、鋳鉄製トップ2は小さく設計したものが用いられるため、アンカーの供用期間経過後、施工箇所を掘削する場合でも、トップ2は地中障害物とはなり難い。
そのため、従来の鋳鉄製の耐荷体の様に、シールド機械等の切削機械による切削を妨げることはなく、切削機械を破損させてしまうことはない。
【0038】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
【符号の説明】
【0039】
1・・・耐荷体本体
2・・・トップ(耐荷体トップ)
10・・・耐荷体