(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20240219BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240219BHJP
F01M 11/10 20060101ALI20240219BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240219BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240219BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20240219BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240219BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240219BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B60W20/50
F02D45/00 362
F02D45/00 360Z
F01M11/10 Z
F02D45/00 345
F01M11/10 F
F02D29/02 K
F02D29/06 D
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/30 900
(21)【出願番号】P 2021162876
(22)【出願日】2021-10-01
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】瓦田 遥
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-051329(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320496(US,A1)
【文献】特開2013-108392(JP,A)
【文献】特開2013-231365(JP,A)
【文献】特開2012-087729(JP,A)
【文献】特開2021-054209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
F02D 29/00 - 29/06
F02D 43/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、及び内燃機関と機械的に接続するモータジェネレータを搭載した車両を制御するものであり、
内燃機関の気筒にて燃料を燃焼させるファイアリング中のエンジン回転数の上限値について、内燃機関の各所に供給する潤滑油の油圧が
閾値未満で異常であることを検知している場合
の上限値を、潤滑油の油圧が前記閾値以上である場合の上限値よりも低く設定し、
並びに、ファイアリングせず内燃機関をモータジェネレータにより回転駆動するモータリング中
のエンジン回転数の上限値を、潤滑油の油圧が前記閾値以上である場合のファイアリング中の上限値よりも高く設定する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関及びこれに機械的に接続されるモータジェネレータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、内燃機関及び回転電機の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献1を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0004】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング(クランキング)、つまり内燃機関の回転軸であるクランクシャフトを回転駆動する役割を兼ねる。そのときには、蓄電装置から電力の供給を受ける。
【0005】
蓄電装置に蓄えている電荷の量が減少したときや、走行用モータジェネレータに対する要求出力が大きいときには、内燃機関を始動し、その気筒に燃料を供給して燃焼させて内燃機関を運転するファイアリングを行う。内燃機関の出力する回転駆動力により発電用モータジェネレータを駆動し、発電を実行して蓄電装置を充電、または走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。
【0006】
周知の如く、内燃機関のクランクケース内のオイルパンには、内燃機関の各部を潤滑するための潤滑油(エンジンオイル)が蓄えられている。機械式の潤滑油ポンプは、内燃機関のクランクシャフトに従動し、クランクシャフトから回転駆動力の供与を受けて回転し、オイルパンに貯留された潤滑油を吸引、吐出してシリンダブロック内のメインギャラリに向けて圧送する。
【0007】
潤滑油ポンプの下流に設置されている油圧スイッチ(圧力スイッチ)は、ポンプが吐出する潤滑油の圧力が閾値未満であるときにON信号を出力する。その出力信号に基づき、潤滑油圧が異常であると判断される場合には、車両のコックピットに設けられた油圧警告灯を点灯または点滅させたり、警告音を発報したりして、車両の運転者に潤滑油圧が異常である旨を報知する。加えて、エンジン回転数の上昇を抑えて内燃機関の焼き付きを防止するべく、随時燃料カット、即ちインジェクタからの燃料噴射を休止するようなフェイルセーフ制御を実施する(例えば、下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-156134号公報
【文献】特開2021-119301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、潤滑油圧の異常を検知している場合には、内燃機関の焼き付きを防止するべく、その回転数に上限値を設定し、当該上限値を超えないようにエンジン回転数を抑制する。
【0010】
ハイブリッド車両では、走行中に内燃機関がファイアリングしているとは限らず、寧ろファイアリングを行っていないことも多い。尤も、フットブレーキによる制動時に要する操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するブレーキブースタに負圧を補充する目的で、モータジェネレータによる内燃機関のモータリングを行うことは間々ある。内燃機関を回転させることで、吸気通路におけるスロットルバルブの下流に吸気負圧が発生し、その吸気負圧をブレーキブースタに供給できるからである。
【0011】
その上で、従前の内燃機関の制御では、潤滑油圧の異常時、ファイアリング中であるかモータリング中であるかによらず一律にエンジン回転数の上限値を設定していた。
【0012】
しかしながら、モータリング中は燃料を燃焼させないので、ファイアリング中と比較すれば焼き付きが起こる危険は小さいと言える。のみならず、ブレーキブースタへは、吸気負圧を必要なときに速やかに補給できることが望ましい。にもかかわらず、エンジン回転数の上限値をファイアリング中と同等としていることから、ブレーキブースタの負圧の確保の機会が不当に制限されることになっていた。
【0013】
以上の問題に着目してなされた本発明は、潤滑油圧の異常時に、内燃機関の焼き付きを予防し、かつ必要に応じたモータリングを適切に実行してブレーキブースタの負圧を確保し、車両のドライバビリティを高く保とうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、内燃機関、及び内燃機関と機械的に接続するモータジェネレータを搭載した車両を制御するものであり、内燃機関の気筒にて燃料を燃焼させるファイアリング中のエンジン回転数の上限値について、内燃機関の各所に供給する潤滑油の油圧が閾値未満で異常であることを検知している場合の上限値を、潤滑油の油圧が前記閾値以上である場合の上限値よりも低く設定し、並びに、ファイアリングせず内燃機関をモータジェネレータにより回転駆動するモータリング中のエンジン回転数の上限値を、潤滑油の油圧が前記閾値以上である場合のファイアリング中の上限値よりも高く設定する制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、潤滑油圧の異常時に、内燃機関の焼き付きを予防し、かつ必要に応じたモータリングを適切に実行してブレーキブースタの負圧を確保し、車両のドライバビリティを高く保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
【
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
【
図3】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される走行用モータジェネレータの要求出力の区分を示す図。
【
図4】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図5】同実施形態の制御装置が実施するフェイルセーフ制御におけるエンジン回転数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両の主要システムの概略構成を示す。本実施形態の車両は、二種類の動力源を搭載したハイブリッド車両である。内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う回転電機である発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する回転電機である走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0018】
本ハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。従って、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0019】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構を介してまたは軸を直結して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのクランキングを実行する。
【0020】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0021】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0022】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0023】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0024】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0025】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、例えば火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。
図2には、そのうち一つを図示する)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0026】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の、空気を取り入れる吸気口に所在する。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0027】
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。
【0028】
EGR装置12は、排気通路14と吸気通路13とを連通する外部EGR通路121と、EGR通路121上に設けたEGRクーラ122と、EGR通路121を開閉し当該EGR通路121を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ123とを要素とする。EGR通路121の入口は、排気通路14における触媒141の下流の箇所に接続している。EGR通路121の出口は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の箇所(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)に接続している。
【0029】
内燃機関1には、車両の制動時に必要となる操作力、即ちブレーキペダルの踏力を軽減するためのブレーキブースタ15が付帯している。ブレーキブースタ15は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流側の部位(または、サージタンク133)から吸気負圧を導き入れ、その負圧を用いてブレーキペダルの踏力を倍力する、この分野では広く知られているものである。ブレーキブースタ15は、負圧を蓄える定圧室(負圧室)と、大気圧が加わる変圧室(大気圧室)とを有し、定圧室が負圧管路151を介して吸気通路13に接続している。負圧管路151は、スロットルバルブ132の下流側の吸気負圧を定圧室へと導く。負圧管路151上には、負圧を定圧室内に留め、定圧室に正圧が加わることを防止するためのチェックバルブ152を設けてある。
【0030】
運転者によりブレーキペダルが操作されていないとき、定圧室と変圧室とが連通し、かつ変圧室が大気圧から隔絶される。ブレーキペダルが操作されると、定圧室と変圧室との間が遮断され、かつ変圧室に大気が導入される。結果、定圧室と変圧室との圧力差が、ブレーキペダルの踏力を倍力する制御圧力となる。ブレーキブースタ15により増幅されたブレーキ踏力は、マスタシリンダ16において液圧力に変換される。マスタシリンダ16が出力するマスタシリンダ圧(マスタシリンダ16が吐出するブレーキ液の圧力)は、液圧回路を介してブレーキキャリパやホイールシリンダ等といったブレーキ装置に伝達され、当該ブレーキ装置による車両の制動に用いられる。
【0031】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4等の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03等、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0032】
ECU0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関1の気筒11に連なる吸気通路13(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、内燃機関1の各所に供給される潤滑油圧を検出する圧力スイッチまたは圧力センサ17から出力される信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
【0033】
潤滑油圧スイッチまたはセンサ17は、例えば、内燃機関1のクランクケース内のオイルパンに蓄えられた潤滑油を吸引して吐出する機械式の潤滑油ポンプ(図示せず)と、気筒1を内包するシリンダブロック内の潤滑油流路であるメインギャラリとの間の箇所に設置される。潤滑油圧スイッチ17は、潤滑油ポンプが吐出する潤滑油圧が閾値未満であるか否かを二値判定し、潤滑油圧が閾値未満であるときにON信号fを出力する。対して、潤滑油圧センサ17は、潤滑油ポンプが吐出する潤滑油圧の値を示唆する信号fを出力する。
【0034】
そして、ECU0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさ等を増減制御する。
【0035】
原則として、蓄電装置3が現在十分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が下限値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力により発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0036】
図3に、車両の運転者が要求する出力と、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の運転の要否との関係を示している。走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力は、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量及び車速によって決まる。駆動輪62に与えるべき駆動力は、アクセル開度が大きいほど大きくなる。その要求出力は、駆動輪62に与えるべき駆動力が大きいほど大きくなり、車速が高くなるほど大きくなる。
図3上、右上方に向かうほど要求出力が大きいということになる。
【0037】
ECU0は、駆動輪62に与えるべき駆動力が比較的小さく、車速も比較的低い低出力領域Iでは、内燃機関1に燃料を供給せずにそのファイアリング運転を停止し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させない。低出力領域Iでは、走行用モータジェネレータ4が、蓄電装置3のみから電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。低出力領域Iは、典型的には、アクセル開度が0または所定値以下に小さいとき、あるいは車両の減速走行中である。
【0038】
ECU0は、駆動輪62に与えるべき駆動力がある程度以上大きい、または車速がある程度以上高い中高出力領域II、IIIでは、内燃機関1に燃料を供給してこれをファイアリング運転し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させる。要求出力が顕著に大きくない中出力領域IIでは、走行用モータジェネレータ4が、主として発電用モータジェネレータ2から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。このとき、蓄電装置3からは、少量の電力供給を受けるか、または全く電力供給を受けない。要求出力が顕著に大きい高出力領域IIIでは、走行用モータジェネレータ4が、発電用モータジェネレータ2及び蓄電装置3の双方から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。
【0039】
ファイアリング運転中の内燃機関1に対して要求される出力も、基本的には、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいほど大きくなる。但し、現在蓄電装置3が蓄えている電荷量にもよる。蓄電装置3の電荷量が欠乏したときには、可及的速やかにこれを充電する必要があり、たとえ走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が小さくとも、発電のために内燃機関1に対する要求出力が大きくなることがある。
【0040】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了したならば、内燃機関1の各気筒11の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転速度即ちエンジン回転数は、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(MG ECU02において)検出することができ、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することもできる。
【0041】
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能となり、発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0042】
しかる後、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
【0043】
ECU0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報b、d、e、fを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、lを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123等に対して出力する。
【0044】
車両が停車しまたは停車に近い低車速の状況から、運転者がアクセルペダルを踏み込み車両を発進させようとするときには、走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が低出力領域Iから中高出力領域II、IIIに遷移することから、それまで停止していた内燃機関1を始動する。または、蓄電装置3に蓄えている電荷量(SOC)が所定値以下に減少したときにも、内燃機関1を始動することになる。
【0045】
ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧が所定値以下に減少したときには、発電用モータジェネレータ2により内燃機関1を回転駆動するモータリングを行うか、内燃機関1を始動してファイアリングを行い、内燃機関1を回転させて吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流に吸気負圧を発生させ、その吸気負圧をブレーキブースタ15の定圧室に供給する。モータリングを行うかファイアリングを行うかの選択は、そのときの走行用モータジェネレータ4に対する要求出力や、蓄電装置3に蓄えている電荷量に応じる。
【0046】
EV ECU00は、MG ECU02に対して、発電機として作動するモータジェネレータ2の発電電力、電圧または電流の目標値を指令し、または、電動機として作動するモータジェネレータ2が内燃機関1をモータリングする際の回転数の目標値を指令する。同時に、EV ECU00は、EFI ECU01に対して、内燃機関1のファイアリング中のエンジン回転数及びエンジントルク(若しくは、エンジン負荷率、スロットルバルブ132の開度、吸気圧、吸入空気量、燃料噴射量等)の目標値を指令し、または、内燃機関1のモータリング中のエンジン回転数の目標値を指令する。
【0047】
ところで、現在のエンジン回転数を示す信号bや、内燃機関1の潤滑油圧を示す信号fは、EFI ECU01に入力される。EFI ECU01は、これら信号bを参照して現在のエンジン回転数や潤滑油圧を知得する。EV ECU00は、エンジン回転数や潤滑油圧を直接には知得しない。
【0048】
従来の車載の内燃機関1の制御システムでは、EFI ECU01が、潤滑油圧の異常を検知した場合、自らエンジン回転数に上限値を設定するとともに、エンジン回転数がその上限値を超越しそうなときに、インジェクタ111からの燃料噴射を一時休止する燃料カットを実行し、あるいはスロットルバルブ132の開度を縮小しつつインジェクタ111からの燃料噴射量を削減するといった、フェイルセーフ制御を実施していた。エンジン回転数を上限値以下に抑制するのは、言うまでもなく、内燃機関1の焼き付きを防止する意図である。
【0049】
しかし、EFI ECU01よりも上位のHV ECU00が車両の全体を統御するシステムにあっては、下位のECU01が上位のECU00に断りなく独自にフェイルセーフ制御を実施することは決して好ましくない。上位のECU00によるエンジン回転数やエンジントルクの目標値の指令を、下位のECU01が無視することになり、その帰結として内燃機関1及びモータジェネレータ2の制御に支障を来す可能性が生じるからである。
【0050】
そこで、本実施形態では、潤滑油圧スイッチまたはセンサ17の出力信号fを参照するEFI ECU01が、潤滑油圧が閾値を下回っている異常を検知したとしても、EFI ECU01の独断でフェイルセーフ制御を実施せず、その旨を示す信号をEV ECU0に送信して通知することとする。
【0051】
図4に示すように、EFI ECU01から潤滑油圧が異常である旨の信号を受信した(ステップS1)HV ECU00は、以後、内燃機関1(または、これと機械的に接続するモータジェネレータ2)の回転数の上限値を、潤滑油圧が正常である場合と比べて低位の値に設定し(ステップS2)、その上限値を超えない回転数を目標値としてEFI ECU01やMG ECU02に指令する(ステップS3)。これにより、内燃機関1の回転数の過度の上昇を抑制し、内燃機関1の焼き付きを防止する。
【0052】
図5に、設定するべき内燃機関1の回転数の上限値を示す。
図5中、ハッチングを付して表している領域Sは、内燃機関1をファイアリング運転しても焼き付きが起こり難い安全な領域である。並びに、網点を付して表している領域Cは、内燃機関1をファイアリング運転することで焼き付きが起こる可能性のある危険な領域である。
【0053】
図5(A)に描画している線L1、L2、L3は、内燃機関1に潤滑油圧スイッチ17を設置している態様におけるエンジン回転数の上限値である。既に述べた通り、油圧スイッチは、現在の潤滑油圧が閾値以上であるか閾値を下回っているかのみをEFI ECU01に伝達する。つまり、現在の潤滑油圧の大きさがどれくらいの値であるのかは把握できない。それ故、エンジン回転数の上限値L1、L2、L3は、潤滑油圧の大きさによらない一定値となる。
【0054】
上限値L1は、潤滑油圧が閾値以上に高く正常である場合の、内燃機関1のファイアリング中の回転数の上限値である。これに対し、上限値L2は、潤滑油圧が閾値未満に低く異常である場合の、内燃機関1のファイアリング中の回転数の上限値である。上限値L2は、上限値L1よりも低い。潤滑油圧が異常である、即ち内燃機関1の各所に必要十分な量の潤滑油が行き渡っていない場合には、焼き付きを起こす危険が大きく高まるからである。
【0055】
上限値L3は、内燃機関1のモータリング中の回転数の上限値である。モータリング中の回転数の上限値L3は、ファイアリング中の回転数の上限値L1、L2よりも高い。これは、モータリング中は気筒11において燃料を燃焼させておらず、ファイアリング中と比較して焼き付きを起こす危険が低下することによる。また、上限値L3は、潤滑油圧が正常であるか異常であるかによっては変化しない。
【0056】
図5(B)に描画している線L1、L2、L3は、内燃機関1に潤滑油圧センサ17を設置している態様におけるエンジン回転数の上限値である。油圧スイッチと異なり、油圧センサは、現在の潤滑油圧の大きさがどれくらいであるかを実測し、その値をEFI ECU01に伝達する。その油圧値は、EFI ECU01からEV ECU00にも通知される。それ故、エンジン回転数の上限値L1、L2、L3を、現在の潤滑油圧の大きさに応じて増減させることができる。基本的には、潤滑油圧が低いほど、上限値L1、L2、L3を引き下げる。
【0057】
上限値L1は、潤滑油圧が閾値以上に高く正常である場合の、内燃機関1のファイアリング中の回転数の上限値である。これに対し、上限値L2は、潤滑油圧が閾値未満に低く異常である場合の、内燃機関1のファイアリング中の回転数の上限値である。上限値L2は、上限値L1よりも低い。
【0058】
上限値L3は、内燃機関1のモータリング中の回転数の上限値である。モータリング中の回転数の上限値L3は、ファイアリング中の回転数の上限値L1、L2よりも高い。また、上限値L3は、潤滑油圧が正常であるか異常であるかによっては変化しない。
【0059】
HV ECU00のメモリには予め、上述した回転数の上限値L1、L2、L3を格納している。HV ECU00は、現在の潤滑油圧が正常であるか異常であるか、及び/または、現在の潤滑油圧の値に応じて、内燃機関1のファイアリング中またはモータリング中の回転数の目標値を決定する。その回転数の目標値は、上限値L1、L2、L3以下とする。そして、その決定した回転数の目標値を指令する信号を、EFI ECU01またはMG ECU02に送信する。EFI ECU01またはMG ECU02は、ファイアリング中またはモータリング中、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の回転数を、その指令された目標値に追従させるように制御する。
【0060】
EFI ECU01またはMG ECU02に指令する回転数が変動する際には、内燃機関1が出力するエンジントルクを徐変させ、または電動機として作動する発電用モータジェネレータ2が出力するモータトルクを徐変させることが好ましい。
【0061】
本実施形態では、内燃機関1、及び内燃機関1と機械的に接続するモータジェネレータ2を搭載した車両を制御するものであり、内燃機関1の各所に供給する潤滑油の油圧が異常であることを検知している場合において、エンジン回転数を上限値L2、L3以下に制限することとし、内燃機関1の気筒11にて燃料を燃焼させるファイアリング中と、ファイアリングせず内燃機関1をモータジェネレータ2により回転駆動するモータリング中とで、内燃機関の回転数の上限値L2、L3を異ならせる制御装置0を構成した。
【0062】
本実施形態によれば、潤滑油圧の異常時に、内燃機関1の焼き付きを予防し、かつ必要に応じたモータリングを適切に実行してブレーキブースタ15の負圧を確保し、車両のドライバビリティを高く保つことができる。
【0063】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、本発明の適用対象は、シリーズ方式のハイブリッド車両には限定されない。
【0064】
その他、各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0065】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
11…気筒
15…ブレーキブースタ
13…吸気通路
132…スロットルバルブ
17…潤滑油圧スイッチまたはセンサ
2…モータジェネレータ
b…クランク角信号
f…潤滑油圧信号