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特許7438651チューブ容器及びチューブ容器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】チューブ容器及びチューブ容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 35/02 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
B65D35/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017132392
(22)【出願日】2017-07-06
(65)【公開番号】P2019014509
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-07-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000156824
【氏名又は名称】関西チューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117145
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 純
(72)【発明者】
【氏名】大野 二三一
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】西本 浩司
【審判官】稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】特許第3596875(JP,B2)
【文献】特開2008-189364(JP,A)
【文献】特開2011-202039(JP,A)
【文献】特開2005-2251(JP,A)
【文献】特開2017-109358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 35/00 - 35/42
B65D 35/56 - 37/00
B65D 65/40
B65D 65/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状胴部と肩部を有する押出しチューブ容器であって、当該押出しチューブ容器の筒状胴部が2層以上の異なった材料を積層することによって形成されており、前記筒状胴部の肩部側の周面に凹状の溝が設けられており、前記筒状胴部における最内層であって少なくとも前記凹状の溝が設けられる部分が高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂によって形成され、当該熱硬化性樹脂の主成分であるエポキシ樹脂の分子量が、40,000~50,000の高分子化合物であり、当該主成分である高分子分子量のエポキシ樹脂に加えてアミノ樹脂及びフェノール樹脂からなるアミノ変性エポキシフェノールによって形成されていることを特徴とするチューブ容器。
【請求項2】
押出しチューブ容器が金属を主体とする材料で形成されたものであることを特徴とする請求項1記載のチューブ容器。
【請求項3】
筒状胴部、抽出口のある肩部及びキャップからなる押出しチューブ容器を製造する方法であって、押出しチューブ容器における筒状胴部を形成し、焼鈍し、前記筒状胴部における最内層の内面に分子量40,000~50,000の高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂を塗布した後に、エンボス加工を施すことにより筒状胴部の肩部側の周面に凹状の溝を設けることを特徴とするチューブ容器の製造方法。
【請求項4】
押出しチューブ容器が金属を主体とする材料で形成されたものであることを特徴とする請求項記載の金属製チューブ容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物(バルク)の使い切り性を向上し、バルク残量を低減させることを目的とする特殊な胴部構造を有するチューブ容器、更には金属を主体とするチューブ容器であって、内面に亀裂が発生し難いエンボスチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ペースト状、ゲル状等の医薬品、医薬部外品、調味料、化粧品及び化学材料等を内容物とするチューブ容器には種々の形態のものが知られている。この種のチューブ容器は、キャップと、キャップが螺着される抽出口を有する円錐状の肩部及び筒状の胴部とから構成されている。
筒状胴部の材料としては、アルミ、鉛、すず等の金属製のもの、ポリエチレン等の素材を使用したプラスチック製のもの、アルミ、紙、ポリエチレン等の素材を多層ラミネートしたもの等が挙げられる。
【0003】
これらのチューブ容器において内容物を取り出すためには、胴部を手指で押すことが必要である。手指で押されたバルクは、胴部の軸方向端部を塞ぐように成型されている円錐状の肩部の内側に押圧され、胴部に比し小径の抽出口を通って外部へ押出される。このようなチューブ容器の構造上、チューブ本体を押し潰しても、肩部の内側の周辺部を含む格子部分のバルクを完全に使い切ることができなかった。また肩部自体は一般に剛性が高いことから押し潰すことは困難である。
【0004】
内容物を押し出す際、肩部は外側から押圧され、更に抽出口のある中央部分は内側から押圧される。そのため肩部は、変形し易い状態にある。更に一度変形した肩部を元の形態に戻すのは容易ではなく、変形したままの状態ではキャップを円滑に取り付けることができず、気密性も劣化するという問題が生じる。特に内容物の高価な医薬品等は、一回に押し出す量が比較的少ない場合が多い。例えば、胴部の直径が19.05mm、内容量20gの虫刺され用薬の場合は、一回の使用量が平均0.04~0.05gであり、胴部の直径が12.7mm、内容量5gの軟膏の場合は、一回の使用量が平均0.03~0.04g程度である。このような内容物が充填されたチューブ容器の場合には、キャップの取り付けと押し出しを数回にわたって繰り返しながら内容物を使い切るのが一般的である。
【0005】
バルクの残留量を減らすための手法としては、チューブ本体の肩部を斜めに曲げて形成する考案や(例えば、特許文献1参照。)、肩部をつぶす構造を有する容器(例えば、特許文献2参照。)が知られていた。
しかし、これらのチューブ容器であって、肩部内側に残るバルク残量を減少させることには、一定の限界があった。チューブ容器の内容物は、胴部を手指で押圧することにより内容物が抽出口より押し出されるが、通常、内容物は底部封止縁から封止縁に平行に順次抽出口に向かって押し出されるものであり、この場合、バルク残量が少なくなるにつれて、肩部及び胴部には収縮応力及び引張応力が発生する。
図8に示す如く、即ちチューブの直径をDとすれば、封止縁の幅Wはπ*D/2であり、肩部下端面から残存するバルク残量の下端までの距離をxとすると、肩部周縁からチューブの押し出し済み部分となる両端までの距離L1は、三平方の定理により、
1={X2+[(π/4-1/2)*D]2(1/2)
また、その幅の中点までの距離L2は、同じく、
2=[X2+(D/2)2(1/2)となる。
【0006】
上式よりL1< L2であるため、押し出しによる押圧力が加わると、L1とL2の差を吸収するために、L1に対応する部分には収縮応力が発生し、他方、L2に対応する部分には引張応力が発生することとなる。そして、Xが小さくなると、即ちバルク残量が少なくなるに従い、L1とL2の差の割合は順次大きくなるため、これらの応力はさらに大きくなっていくこととなる。
この収縮応力は胴部に不規則な皺や窪み等の変形を発生させる原因となり、この皺や窪みは胴部の肩部内側への押し込みの障害となり、押し出しに過大な力が必要となる。また引張応力は押圧力に抵抗するように働くため押し出しに大きな力を必要とするとともに、肩部を下方に引っ張るため肩部に変形をきたし、キャップの螺合の不具合や気密性の低下の原因となるものであった。
このような問題点を検討することによって、いわゆるエンボスチューブというチューブ容器が開発された(特許文献3参照。)。
かかるエンボスチューブは、筒状胴部の周囲に凹状の溝を設けることによって、チューブの不規則変形を可及的に防止するとともに、過大な力を要することなく内容物を押し出すことを可能とし、結果としてバルク残量を低減させるという優れた効果を発揮する。
【0007】
一般に、チューブ筒状胴部は、内容物を保護する金属層と、金属を内容物から保護するために、ポリエチレン等で形成された保護層を有する。
しかしながら、かかるエンボスチューブは、凹状の溝を形成する際、前記保護層に亀裂が発生するという問題点が見受けられた。そのため、内容物の種類にもよるが、かかる問題点によって、内容物から金属層を保護する機能が低下することが危惧される。
特にチューブ容器の胴部は、内容物を保護するために金属で形成された中間層が存在する。又、金属層を保護し内容物の変質を抑制するために、内面にポリエチレン樹脂等によって形成された保護層で被覆されるのが一般的である。しかし、上述の如く内面に亀裂が発生した場合、内容物が滲出し、金属層を侵蝕し、内容物に変質を発生させることが危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭62-19945号公報
【文献】実開平7-37949号公報
【文献】特許第3596875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、筒状胴部の周囲に凹状の溝を設けることによって、チューブの不規則変形を可及的に防止するとともに、過大な力を要することなく内容物を押し出すことを可能とし、結果としてバルク残量を低減させることにある。そして本発明は、筒状胴部の周囲に形成された凹状の溝が設けられる部分の内面において、エンボス加工時の亀裂の発生を抑止し、金属層を保護し、内容物の変質を防止することを目的とする。
また本発明は、チューブ容器の内容物を押し出す際に、凹状の溝を折り畳んでも、筒状胴部の内面に亀裂が発生しないチューブ容器を提供することを目的とする。
【0010】
またエンボスチューブの製造コストを抑えつつ、簡便な工程によりバルク残量の少ないチューブ容器であって、かつ、筒状胴部の内面に亀裂が発生しないチューブ容器の製造を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
(1)筒状胴部と肩部を有する押出しチューブ容器であって、当該押出しチューブ容器の筒状胴部が2層以上の異なった材料を積層することによって形成されており、前記筒状胴部の肩部側の周面に凹状の溝が設けられており、前記筒状胴部における最内層であって少なくとも前記凹状の溝が設けられる部分が高分子量のエポキシ樹脂を主成分として熱硬化性樹脂によって形成されていることを特徴とするチューブ容器である。
【0012】
(2)前記筒状胴部の最内層を形成する熱硬化性樹脂の主成分であるエポキシ樹脂の分子量が、40,000~50,000の高分子化合物であることを特徴とする上記(1)記載のチューブ容器である。
本発明に係るエポキシ樹脂は、分子量が40,000~50,000の高分子化合物であることが特徴である。分子量が40,000未満であるエポキシ樹脂を使用すると、エンボス加工時又は押出し時に発生する筒状胴部内面の亀裂の問題が解決できないからである。
又、二次化加工性(エンボス加工性)と硬化性は、トレードオフの関係になっており、二次加工性は向上するが、分子量が50,000を超えると、硬化性が低下することが危惧される。仮に硬化性が低下すると、落下等の衝撃に非常に弱くなる傾向にあり、その結果、金属層と内容物とが接触し、漏れ等の重大な問題が発生する危険性がある。
【0013】
(3)前記筒状胴部の最内層を形成する熱硬化性樹脂が、主成分である高分子量のエポキシ樹脂に加えてアミノ樹脂及びフェノール樹脂からなるアミノ変性エポキシフェノールによって形成されていることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のチューブ容器である。
(4)押出しチューブ容器が金属を主体とする材料で形成されたものであることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載された金属製チューブ容器である。
本発明における金属製容器の材料としては、アルミニウム、鉛、すず等が挙げられるが、加工性、経済性等の観点から特にアルミニウムが好ましい。
このような金属製材料は、プラスチック等に比較して復元力が弱いため、押出しによりチューブの形状が変形すると、次に押出す時までチューブ内のバルクはそのままの形状で保持される。かかる保持された状態から更にバルクを押出すことができるので、プラスチック製等のチューブに比較し、本発明の効果がより顕著に現われる。
【0014】
また外部からの影響により変性し易い医薬品等においては、バリヤー性の高い金属製チューブ容器が好ましい。
なお、本発明の溝の形状及び寸法はチューブに使われる材質などにより設計的に決められるものであるが、チューブ直径に対して溝の形状寸法が大きくなるに従って、応力による変形を吸収する作用は顕著に現れるものである。引張応力に応じて伸びた後においても、凹部を形成している程度のものであることが好ましい。なぜならバルク残量を使い切る最後の押し出しにおいて、この凹状の溝が折り畳まれて肩部内面に圧接する作用を確保するためである。
又、アルミニウム等の金属材料の最内層に保護層を形成するチューブ容器においては、アミノ変性エポキシ樹脂を内面液として使用する効果がより高くなる。すなわち、アミノ変性エポキシ樹脂は、アミノ変性処理が施されているため、アルミニウム等の金属材料との密着性が良好である特徴を有するためである。
【0015】
(5)筒状胴部、抽出口のある肩部及びキャップからなる押出しチューブ容器を製造する方法であって、押出しチューブ容器における筒状胴部を形成し、焼鈍し、前記筒状胴部における最内層の内面に分子量40,000~50,000の高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂を塗布した後に、エンボス加工を施すことにより筒状胴部の肩部側の周面に凹状の溝を設けることを特徴とするチューブ容器の製造方法である。
(6)押出しチューブ容器が金属を主体とする材料で形成されたものであることを特徴とする上記(5)記載の金属製チューブ容器の製造方法である。
【0016】
本発明におけるエンボス加工としては、ロール転写法、パンチング法、マッチメタル法、真空・圧空成型、高周波成型等種々の加工法を採用することができる。チューブ容器の成形方法としては、プレス加工やブロー成型法等が挙げられる。プレス加工は製品を仕上げるまでに多くの工程を伴うのが一般的である。
本発明は、チューブ容器の製造工程に、エンボス加工という工程を加えることによって、簡易・迅速かつ低廉にバルク残量の低減化を達成する容器を製造することができる。 又、分子量40,000~50,000の高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂を塗布した後にエンボス加工を施す工程順を採用する理由は、エンボス加工後に内面塗装を行うことによって、亀裂の発生を抑止できると考えられるが、エンボス加工後の塗装は、保護層に塗りムラが発生することが考えらえるためである。
【0017】
チューブ容器は多くの工程を経て製造される。一般にネジ部にキャップを螺着するキャッピング工程は、チューブ容器のコーティング処理等を終えた後になされる。エンボス加工を製造工程初期に行うと、例えば容器の筒状胴部をプレス成形する工程等において行うと、後の工程であるチューブの内部や外部の塗装において保護層の厚みを均一にすることができない等の不具合を生じる。
【0018】
従って本発明は、比較的最終工程に近いキャッピング工程において、同時にエンボス加工を行うか、またはキャッピング工程の前後においてエンボス加工を行うことを特徴とする。本発明におけるエンボス加工としては、上記と同様にロール転写法、パンチング法、マッチメタル法、真空・圧空成型、高周波成型等種々の加工法を採用することができる。プレス加工との適合性から特にロール転写法若しくはパンチング法が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のチューブ容器によって、エンボス加工時の内面における亀裂の発生を抑止し、金属層を保護し、内容物の変質、漏れを防止する効果を奏することができる。
また本発明のチューブ容器によって、チューブ容器の内容物を押し出す際に、凹状の溝を折り畳んでも、筒状胴部の内面に亀裂が発生しないチューブ容器を提供することが可能となる。
また本発明に係るチューブ容器の製造方法によって、エンボスチューブの製造コストを抑えつつ、簡便な工程によりバルク残量の少ないチューブ容器を提供し、かつ、筒状胴部の内面に亀裂が発生しないチューブ容器の製造を可能とする優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態1に係るチューブ容器を示す図である。(a)は実施形態1に係るチューブ容器の平面図である。(b)は実施形態1に係るチューブ容器の側面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る図1に示すチューブ容器のII-II矢視断面である。(a)は図1(a)におけるII-II矢視断面図である。(b)は図1(b)におけるII-II矢視断面図である。(c)及び(d)は従来のチューブ容器における断面図である。
図3】本発明の実施形態1に係るチューブ容器における筒状胴部における積層構造を示す概念図である。
図4】本発明の実施形態1に係るチューブ容器におけるエンボス加工部の一の機能を説明する概念図である。
図5】エンボス加工の工程を示す図である。
図6】エンボス加工部における凹部の溝の拡大図である。
図7】本実施形態に係るチューブ容器の製造方法における内面塗装工程を説明するための概念図である。
図8】チューブ容器における内容物の押し出しに伴う不規則変形を説明するための図である。(a)は正面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、チューブ容器及びチューブ容器の製造方法に係る実施形態の一例を説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の例示であるため、以下に記載されていない実施形態であっても本発明の範囲に属する場合がある。
実施形態1
本発明は、筒状胴部と肩部を有する押出しチューブ容器であって、当該押出しチューブ容器の筒状胴部が2層以上の異なった材料を積層することによって形成されており、前記筒状胴部の肩部側の周面に凹状の溝が設けられており、前記筒状胴部における最内層であって少なくとも前記凹状の溝が設けられる部分が高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂によって形成されていることを特徴とする。
例えば、図1に示す如く筒状胴部7と肩部6を有する押出しチューブ容器であって、筒状胴部7の肩部6側の周面に大きな丸形状の凹状の溝4を設けたチューブ容器である。
【0022】
本発明に係るチューブ容器の筒状胴部の肩部側の周面には、図1に示す如く凹状の溝4が設けられている。かかる凹状の溝4は、チューブ容器の筒状胴部7であって、チューブ容器における抽出口8及び肩部6の近傍に設けられている。収縮応力に対してはその溝が折りたたまれるように変形し、また引張応力に対してはその溝が延びるように変形して、これら応力を吸収するように機能する。
凹状の溝4の底部におけるチューブの内周径は、肩部及び胴部におけるチューブの外周径よりも小さい径であれば良い。従って、凹状の溝4の軸方向の断面形状は、図1に示す如くU字形のみならずV字形でも良いし、複数の凹部を有する蛇腹状のW形状等であってもよい。
溝は周面に沿って連続であっても不連続であっても良い。少なくとも収縮応力及び引張応力によって生ずる変形を吸収し得るものであれば、どのような形状であっても良い。更に凹状の溝1を隣接して軸方向に複数設けても良い。
【0023】
図2(a)は、図1(a)におけるチューブ容器の胴部7を略直角に折り曲げた場合を示す、図1におけるII-II矢視断面図である。又、図2(b)は図1(b)におけるチューブ容器のII-II矢視断面図である。又、図2(c)は凹状の溝4が存在しない汎用のチューブ容器の胴部を抽出口に対して略直角に折り曲げた場合を示す、上記図2(a)に対応した断面図である。更に、図2(d)は凹状の溝4が存在しない汎用のチューブ容器の胴部を抽出口に対して略直角に折り曲げた場合を示す、上記図2(b)に対応した断面図である。
【0024】
図2は肩部6,32の内側と胴部7,34の境目に残るバルクを使い切る態様を比較して示した断面図である。図2(a),(b)は本発明に係る凹状の溝4が形成されているチューブ容器の例示であり、図2(c),(d)は従来品の構造を示すものである。
図2(c),(d)において、胴部34の折り曲げ部分を抽出口方向へ押出した場合、胴部34は、抽出口方向へ押し付けられるのに反して肩部32は手指で保持されているため胴部方向へ押圧が加わる。これによって肩部32と胴部34の境目には胴部34を抽出口へ押し付けることによる引張り力がかかり、それに伴って肩部32に曲げ応力が加わる。
【0025】
肩部32は一般に剛性の高い材質であるが、一定以上の曲げ応力によって変形する。特に金属製チューブは樹脂製チューブに比較して塑性力を保持する性質を有するため肩部から抽出口にかけて塑性ひずみが生じ易い。そして一旦変形した肩部32を元の状態に戻すことは困難であり、キャップの螺着に不具合が生じたり、気密性が劣化する。しかし、図2(a),(b)の本発明品においては、胴部7を抽出口へ押し付けることによる引張応力は、折り畳まれている凹部4に吸収される。これによって肩部6と胴部7の境目には引張応力が発生せず、肩部6の曲げ応力も従来品に比較して少ない。その結果、本発明品において肩部6に変形はほとんど生じないこととなる。
【0026】
しかし、このような凹状の溝4については、凹状の溝4が設けられる部分の内面において、エンボス加工時に亀裂が発生する場合があることが知られていた。このような亀裂は、金属層の保護を不十分とし、内容物の変質を防止することができなくなるため問題となる。又、チューブ容器の内容物を押し出す際に、凹状の溝4が折り畳まれることによって、筒状胴部の内面に亀裂が発生する危険性もある。
図3は、本発明の実施形態に係るチューブ容器における筒状胴部の積層構造を示す断面図である。
図3に示す如く、本実施形態1に係るチューブ容器の筒状胴部は、印刷層11と、金属層12及び筒状胴部における最内層には高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂によって形成された層14から構成されている。
本発明のチューブ容器においては、筒状胴部における最内層であって少なくとも前記凹状の溝4が設けられる部分に、高分子量のエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂が形成されていることから、上記亀裂の問題を解決することができる。
【0027】
また本発明の押出しチューブ容器は、凹部4を肩部6に押圧する際に、クリック感が生じる。図4に示すように内容物5を押出す前の凹部4の底部におけるチューブの内径はC1の間隔を有している。次に胴部7を肩部6側に押圧することにより凹部4の底部は抽出口8側へ移動し、凹部4の底部の内径はC2と狭くなる。この時、凹部4の肩側の内面は、軸方向に略垂直の状態となる。また凹部4の底部が形成する開口C2には、その円周方向に圧縮力が働いている。かかる圧縮力は内径C2の間隔が最少になった時が最大であり、内容物5の押出しに最も強い力を必要とする。そこで内径C2の状態より更に内容物5を押出すために胴部7を押すと、凹部4の底部における開口C2に生じていた圧縮力は開放され、凹部4は肩部6の裏側に押し付けられる。この圧縮力の開放がクリック感となってチューブ容器より内容物5を押し出している者に伝わることになる。
【0028】
次に本発明品の製造方法の一例を、図5及び図7を引用して説明する。本発明品は金属製のチューブ容器である。
最初にスラグを冷間鍛造の複合押し出しによってプレス成形する。次に抽出口の上端及び充填口となる抽出口と反対側の筒状胴部の裾端面をカットする。その際に抽出口にキャップを螺着するためのネジ転造を施す。次に焼鈍炉によって加熱し、塑性加工による加工硬化を除去する。
次の工程では、内容物を保護するためにチューブ容器の内部を塗装し、保護膜を形成する。
ここでチューブ容器の内部における保護膜の形成方法としては、スプレー塗装等が挙げられる。例えば、スプレー塗装は、図7に示す方法で行うのが効率的である。
スプレーガンは長軸ノズル型であり、基本的な動作としてはスプレーガンを金属チューブ容器の後端開口部よりチューブの先端方向へ挿入し、塗料を噴射しながら後退させることにより塗布を行う。インパクトプレス工程後、作成された金属チューブ容器は、レース工程、焼鈍工程を経た後、図7(a)に示すロージングスター48により内面塗装テーブルへ搬送される。
【0029】
テーブルAにおける金属チューブ容器の内面塗装は、図7(d)に示すようにスプレーガン53を挿入し、肩部内面と胴部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブ容器は回転するのが好ましい。ここでチューブ容器の胴部と肩部の切り替え部の円周内面にアールが形成されているので、精度良く均一に切り替え部の円周内面に塗料を塗布することができる。
ここで塗料としては、例えば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ディスパージョン型塗料又は低温硬化型塗料等のうち、1種類又は2種類以上を混合したものを使用することができる。具体的にはエポキシ系塗料のエポキシフェノール等が挙げられる。
【0030】
テーブルBにおける内面塗装は、図7(d)のスプレーガン53を挿入し、肩部内面と胴部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブは回転している。
テーブルCにおける内面塗装は、図7(b)のスプレーガン51を挿入し、吐出部内面と肩部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブは回転している。
テーブルDにおける内面塗装は、図7(c)のスプレーガン52を挿入し、胴部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブは回転している。
テーブルEにおける内面塗装は、図7(c)のスプレーガン52を挿入し、胴部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブは回転している。
テーブルFにおける内面塗装は、図7(b)のスプレーガン51を挿入し、吐出部内面と肩部内面に塗料を噴射して塗布する。この際、金属チューブは回転している。
このような工程により、金属チューブの内容物に対する耐性の高い塗膜を精度良く均一に厚塗りすることができる。工程Cと工程Dとの間に中間乾燥工程を介するのが好ましい。またスプレーガンの組み合わせは上記の工程に限定されない。
【0031】
続いてチューブ外観に地塗塗装液によってコーティングを施す。更にチューブ容器の表面に商品名等の印刷を施す。
次の工程では、チューブ容器の抽出口に設けられているネジ部にキャッピングマシーンによってキャップを螺着する。その時にターンテーブル内側よりエンボス加工を施した。
かかるエンボス加工は、図5(a)に示すようにエンボス型24をエアシリンダによって筒状胴部の肩部22側に押し付けることによって行う。図5におけるエンボス型24の断面形状は円形であるが、所望のエンボス形状に合わせて三角等の断面形状を持つエンボス型でも良い。
【0032】
容器自体は矢印方向へ回転しているため、図5(b)に示す如く押し付けられたエンボス型24によって筒状胴部25の円周に溝ができる。
かかるエンボス加工は、必ずしもキャッピングと同時に行われる必要はなく、キャッピングの直前若しくは直後であっても良い。
【0033】
このような工程を経て図1に示すようなチューブ容器が完成する。筒状胴部7の肩部6側にエンボス加工による凹状の溝4が形成されている。
エンボス加工終了後、内容物の漏れを防止するためのシーリング剤がチューブ容器裾部内側に塗布される。
この後に内容物を充填後、シーリングが行われ内容物の充填された製品が完成する。
本実施形態に係る金属チューブ容器の製造方法を用いれば、外径Φ11.1mm~57.0mmの金属チューブ容器を幅広く製造することができる。また金属チューブ容器の吐出部の形状等も限定されることはなく、開放式、閉鎖式、尖頭開放式等といった種々の金属チューブ容器を製造することができる。
【0034】
実施例1
図1に示す金属製の押出しチューブ容器を製造した。本実施例に係る押出しチューブ容器(表1において「本発明品」と記載する。)は、筒状胴部、肩部及び凹状の溝を有する金属製の押出しチューブ容器である。実施例1で使用したチューブ容器は、φ28.5×180mmであった。
図6は、本実施例に係るチューブ容器の凹状の溝部分における拡大図である。凹状の溝は、中央底部分の角度がほぼ90 °であり、上面から中央底部分の溝深さ0.75mm、軸方向の溝幅は3.0mmである。溝の底部の曲率は、半径R1.5mmである。
【0035】
かかるチューブ容器はプレス成形によって製造されるが、凹状の溝1はエンボス加工によって形成された。前記筒状胴部7の最内層を形成する材料は、分子量40,000~50,000のエポキシ樹脂を主成分とするアミノ変性エポキシフェノールである。実施例として、このようなチューブ容器を製造した。
又、比較例として、図1に示すチューブ容器を製造し、更に比較のために同スケールのチューブ容器を製造し、分子量5,000のエポキシ樹脂を主成分とするアミノ変性エポキシフェノールによって最内層を形成した。比較例として、このようなチューブ容器を製造した(表1において「従来品」と記載する。)。
そして、上記2種類のエンボス加工を施したチューブ容器の、内面に発生する亀裂状態を確認するために、通電試験を行った。
ここで通電試験とは、チューブ内を5%硫酸銅水溶液で満たしたのち、30秒間7Vの電圧をかけ、その際流れる最大電流値を測定する試験である。
表1は、本実施例1におけるチューブ容器及び比較例として従来品の内容をまとめ、各6本の通電値を測定した平均値を示したものである。
【0036】
【表1】
【0037】
下記表2は、実施例1における通電試験の結果を棒グラフで示した図である。
【表2】
【0038】
表2を参照すれば明らかなように、本発明に係る分子量が40,000~50,000に相当する内面液が塗布されたチューブ容器における通電値は、分子量5,000に相当する内面液が塗布された従来品のチューブ容器の通電値と比較し、低い値であった。 以上より、本発明のチューブ容器によって、エンボス加工時の内面における亀裂の発生を抑止し得ることが証明された。
【0039】
実施例2
実施例1と同様に、φ28.5×180mmのエンボス加工を施したチューブ容器を製造した。内面液として、2種類(分子量40,000~50,000のエポキシ樹脂を主成分とするアミノ変性エポキシフェノール、分子量5,000のエポキシ樹脂を主成分とするアミノ変性エポキシフェノール)塗布し、内容物としてヘアカラー剤をそれぞれ充填した。
【0040】
下記表3~5において、中明度品とは、約pH8.0のヘアカラー剤である。一方、高明度品とは、約pH10.0のヘアカラー剤である。
また、密閉された空間内に内面液の異なる2種類のチューブ容器を静置した。この際、保存条件として、40℃75%RH(加湿条件)又は50℃DRY(乾燥条件)の環境下において、それぞれ30日間保存した後に、各条件において3本ずつ水素濃度を測定した。表3は40℃75%RHの環境下において、表4は50℃DRYの環境下において、それぞれ測定した結果得られた平均値を表3及び表4に示している。
また落下とは、個装箱(40×35×195mm)12個を一つの箱に詰め、その状態で約1mの高さから落下させたのち、それぞれの保存条件で30日間保管したのちの、水素濃度を測定する試験のことである。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
表5及び6に示す如く通常及び落下の条件下、全ての試験において、本実施例に係るチューブ容器の方が、従来のチューブ容器よりも、平均水素濃度(%)の値が低いことが分かった。平均水素濃度の値が低いということは、本発明に係るチューブ容器は、従来のチューブ容器よりも、二次加工性に優れており、耐衝撃性も高いことが実験の結果から明らかである。
その結果、チューブ容器の内容物とチューブ容器を形成する金属層が接触する危険性が低下していることが証明された。すなわち、本発明のチューブ容器によって、エンボス加工時の亀裂の発生を抑止することができ、又、チューブ容器を形成する金属層を保護し、内容物の変質を防止する効果が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0046】
4 凹状の溝
7、34 筒状胴部
6、32 肩部
8 抽出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8