(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】超音波溶接継手の強度を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/10 20060101AFI20240219BHJP
G01M 13/00 20190101ALI20240219BHJP
G01N 5/04 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B23K20/10
G01M13/00
G01N5/04 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017239683
(22)【出願日】2017-12-14
【審査請求日】2020-12-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-07
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518405522
【氏名又は名称】アプティブ・テクノロジーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カタジーナ・ボーレック
(72)【発明者】
【氏名】グジェゴシ・パレコ
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】田々井 正吾
【審判官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032819(JP,A)
【文献】特表2013-516029(JP,A)
【文献】特開2012-102444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
G01M 13/00 - 13/045
G01N 5/00 - 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーケーブル(10)の超音波溶接継手(22)の強度(20)を予測するための方法(100)であって、
有機汚染物質(18)を含有するワイヤーケーブル(10)のサンプルを提供するステップと、
前記
サンプルと前記
有機汚染物質(18)との合計重量(40)を測定するステップと、
溶媒(42)を用いて、前記
有機汚染物質(18)を前記
サンプルの表面(16)から除去するステップと、
前記溶媒(42)を前記
サンプルの前記表面(16)から除去するステップと、
前記
サンプルの重量(54)を測定するステップと、
式[(Mb-Ma)/Mb]×100に基づいて、前記
サンプルから除去された前記
有機汚染物質(18)の重量パーセント(56)を求めるステップであって、前記式において、Mbは、前記
サンプルと前記
有機汚染物質(18)との合計重量(40)であり、Maは前記
サンプルの前記重量(54)である、ステップと、
前記
有機汚染物質(18)の前記重量パーセント(56)が所定の閾値(24)未満であるかどうかを判定するステップであって、前記閾値(24)が前記超音波溶接継手(22)の前記強度(20)と相関する、ステップを含み、
前記閾値(24)が0.021重量パーセント(56)であることを特徴とする方法(100)。
【請求項2】
前記ワイヤーケーブル(10)が撚り線心(12)である、請求項1に記載の方法(100)。
【請求項3】
前記ワイヤーケーブル(10)が、アルミニウム系材料(26)及び銅系材料(28)の中から選択された材料から形成される、請求項1又は2に記載の方法(100)。
【請求項4】
前記ワイヤーケーブル(10)が、スズ(30)でメッキされる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項5】
前記溶媒(42)が、ジエチルエーテル(46)、トリクロロメタン(48)、及び2-プロパノン(50)の中から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項6】
前記溶媒(42)を沸点(44)まで加熱するステップをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項7】
前記サンプルをソックスレー抽出器(38A)の中に設置するステップと、
前記サンプルを前記ソックスレー抽出器(38A)内において前記溶媒(42)で濯ぐステップと、
をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記溶媒(42)を前記
サンプルの前記表面(16)から除去する前記ステップは、デシケータデバイス(52)を用いて行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記
サンプルが、前記デシケータデバイス(52)内に12時間以上保持される、請求項8に記載の方法(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、超音波溶接継手の分野に関するものであり、特に、超音波溶接継手の強度を予測するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム及び銅のワイヤーケーブルの表面上の過剰な汚染は、超音波溶接継手の強度に悪影響を及ぼすおそれがあることが知られている。国際基準は、最上の商慣行と一致して利用を損なわないための清潔さの定性的仕様を提供するだけである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
1つの実施形態によれば、ワイヤーケーブルの超音波溶接継手の強度を予測するのに用いられる方法が提供される。方法には、ワイヤーケーブルを提供するステップと、合計重量を測定するステップと、汚染物質を除去するステップと、溶媒を除去するステップと、重量を測定するステップと、汚染物質の重量パーセントを求めるステップと、汚染物質の重量パーセントが閾値よりも小さいかどうかを判定するステップと、が含まれる。ワイヤーケーブルを提供するステップは、有機汚染物質を含有するワイヤーケーブルのサンプルを提供すること含んでもよい。合計重量を測定するステップは、ワイヤーケーブルと汚染物質との合計重量を測定することを含んでもよい。汚染物質を除去するステップは、溶媒を用いて汚染物質をワイヤーケーブルの表面から除去することを含んでもよい。溶媒を除去するステップは、溶媒をワイヤーケーブルの表面から除去することを含んでもよい。重量を測定するステップは、ワイヤーケーブルの重量を測定することを含んでもよい。汚染物質の重量パーセントを求めるステップは、式[(Mb-Ma)/Mb]×100に基づいて、ワイヤーケーブルから除去された汚染物質の重量パーセントを求めることを含んでもよい。ここで、Mbは、ワイヤーケーブルと汚染物質との合計重量であり、Maは、ワイヤーケーブルの重量である。汚染物質の重量パーセントが閾値よりも小さいかどうかを判定するステップは、汚染物質の重量パーセントが所定の閾値よりも小さいかどうかを判定することを含んでもよく、ここで、前記閾値は超音波溶接継手の強度と相関する。
【0004】
更なる特徴及び利点は、単なる非限定的な実施例によって、添付図面を参照して提供された下記の好適な実施形態の詳細な説明を読むことで、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0005】
ここで、本発明は、下記の添付図面を参照した実施例によって説明される。
【0006】
【
図1A】
図1Aは、1つの実施形態に係る超音波溶接継手の上面図である。
【
図2】
図2は、1つの実施形態に係る撚り線心の断面図である。
【
図3】
図3は、1つの実施形態に係る洗浄装置の図である。
【
図4】
図4は、1つの実施形態に係る撚り線心の断面図である。
【
図5】
図5は、1つの実施形態に係る、汚染の重量パーセントに対する溶接継手の強度のグラフである。
【
図6】
図6は、1つの実施形態に係る、溶接継手の強度を予測する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
超音波溶接(USW)は、ワイヤーケーブル10を終端させるための公知のプロセスである。ワイヤーケーブル10、及び、典型的には撚り線心12は、自動車用途に用いられ、例えばバッテリケーブルが挙げられる(ただし、それに限定されない)。USWは、クランプ力によって一緒に保持されたワイヤーケーブル10及び相手側端子14の中に高周波振動を加えることで、ワイヤーケーブル10の外部表面16と端子14との間に摩擦を生じさせる。摩擦は、十分に高い温度を生み出すことで、溶融金属池を生み出すことなく、ワイヤーケーブル10と端子14とを一緒に冶金的に結合する。汚染物質18、典型的にはワイヤー製造の過程で用いられる例えばバニッシングオイルやその他の有機化合物は、十分に多い量の汚染物質18がワイヤーケーブル10の表面16上にあると、超音波溶接継手22(以下、溶接継手22と称する)の強度20に悪影響を及ぼす場合がある。本明細書で説明された発明は、溶接継手22の強度20を予測するための汚染物質18の閾値24を定量化する。
【0008】
ワイヤーケーブル10は、アルミニウム系材料26又は銅系材料28から形成されてもよく、これらの材料は両方とも、導電材料でメッキされてもよく、導電材料としてはスズ30が挙げられる(ただし、これに限定されない)。
【0009】
図1Aは、撚り線心12が端子14に溶接されている溶接継手22の上面図の非限定的な実施例を図示している。
図1Bは、撚り線心12が端子14に溶接されている
図1Aの溶接継手22の側面図の非限定的な実施例を図示している。なお、撚り線心12の切り口32は、当業者によって認識されるようにUSWプロセスによって変形されている。
【0010】
図2は、個々の撚り線36の表面16上の汚染物質18を含有する撚り線心12の断面34の非限定的な実施例を図示している。汚染物質18は、ワイヤー製造プロセス中に潤滑剤として使用することのできるバニッシングオイルやその他の有機化合物でもよい。
【0011】
図3は、汚染物質18をワイヤーケーブル10の表面16から除去するのに使用することのできるソックスレー抽出器38Aなどの洗浄装置38を図示している。汚染物質18を含有するワイヤーケーブル10のサンプルは、任意の絶縁体を除去した後に、はかりを用いて重さが図られ、それによって、ワイヤーケーブル10から汚染物質18を除去する前に、ワイヤーケーブル10と汚染物質18との合計重量40(
図2)を測定する。ワイヤーケーブル10のサンプルは、洗浄装置38の内部に設置されてもよく、サンプルは、溶媒42によって濯がれ、当業者によって認識されるように、この溶媒42を溶媒42の沸点44まで加熱して、溶媒42を還流させる。汚染物質18の除去を確実にするために、多数の還流サイクルが行われてもよい。発明者らによる実験は、5回の還流サイクルが汚染物質18をワイヤーケーブル10から十分に除去することを見出した。洗浄装置38で使用される溶媒42は、ワイヤーケーブル10の材料と相性の良い任意の溶媒42であってもよく、溶媒42としては、ジエチルエーテル46、トリクロロメタン48、及び2-プロパノン50を挙げることができる。列挙しないが、使用され得るその他の溶媒42が想定される。
【0012】
汚染物質18をワイヤーケーブル10から除去する際、当業者によって認識されるように、乾燥剤を含有するデシケータなどのデシケータデバイス52内にワイヤーケーブル10を設置することによって、溶媒42は、ワイヤーケーブル10の表面16から除去される。発明者らによる実験は、ワイヤーケーブル10は、15°Cから30°Cの間の温度で、かつ、50キロパスカル(kPa)から150kPaの間の圧力で、デシケータデバイス52内に最短でも12時間(12hours)留めた方がよいことを見出した。次に、ワイヤーケーブル10は、はかりを使って重さが量られ、それによって、
図4に図示されているように汚染物質18が無いワイヤーケーブル10の重量54を測定する。
【0013】
ワイヤーケーブル10から除去された汚染物質18の重量パーセント56は、式[(Mb-Ma)/Mb]×100に基づいて求めることができる。ここで、Mbは、ワイヤーケーブル10と汚染物質18との合計重量40(
図2)と定義され、Maは、汚染物質18が除去された状態のワイヤーケーブル10の重量54(
図4)と定義される。
【0014】
図5は、ワイヤーケーブル10から除去された汚染物質18の重量パーセント56と溶接継手22の強度20との関係を示しているグラフ58である。発明者らによる実験は、超音波溶接されたワイヤーケーブル10上の汚染物質18の重量パーセント56と溶接継手22の強度20との間に相関性があることを見出した。溶接継手22の強度20は、引張力によって特徴付けられてもよい。引張力は、ワイヤーケーブル10と端子14との間の結合を切り離すのに必要な張力と定義される。溶接継手22の強度20を特徴付けるのに用いられるその他のメトリックスは、図示しないが考えられ、それらは当業者にとって明らかであろう。発明者らによる実験は、1200ニュートン(1200N)よりも大きい引張力が、耐久性のある溶接継手22を提供するのに十分であることを見出した。また、
図5は、ワイヤーケーブル10から除去された汚染物質18の重量パーセント56の閾値24を図示しており、それ未満であると判定されると、自動車用途に適用可能である十分な強度20の溶接継手22を提供する。また、閾値24は、制御可能なUSWプロセスを提供するために十分に低く設定されている。
図5に図示されているように、発明者らは、汚染物質18の重量パーセント56が0.0143%より大きくなると強度20の大幅な低減が起こることを発見した。強度20と重量パーセント56との間の線形関係を値のこの範囲で推測することによって、0.021%未満の閾値24が耐久性のある溶接継手22を示しているだろう。閾値24は、
図5にも示されているように、溶接継手22の強度20をさらに増大させるために、0.0055%未満までさらに低減されてもよい。
【0015】
図6は、ワイヤーケーブル10の超音波溶接継手22の強度20を予測するのに用いられる方法100の非限定的な実施例を図示している。
【0016】
ステップ120(ワイヤーケーブルを提供する)は、有機汚染物質18を含有するワイヤーケーブル10のサンプルを提供するステップを含んでもよい。1本のワイヤーケーブル10がスプールから切り取られ、任意の絶縁体が、サンプルをはかりに載せる前に、ワイヤーケーブル10から除去される。発明者らによる実験は、50グラム(50g)から310gの間の対応する質量を有する1本のワイヤーケーブル10が、検出可能な量の汚染物質18を提供することを見出した。
【0017】
ステップ140(合計重量を測定する)は、はかりを使ってサンプルの重さを量ることによって、ワイヤーケーブル10のサンプルと汚染物質18との合計重量40を測定するステップを含んでもよい。サンプルの質量に対する十分な容量と0.1ミリグラム(0.1mg)の分解能とを有する任意のはかり、好適には、ポーランドのラドムのRADWAG Balances and Scales社によって製造されたModel AS 310.R2などの分析天秤が使用されることができる。
【0018】
ステップ160(汚染物質を除去する)は、溶媒42を用いて、汚染物質18をワイヤーケーブル10の表面16から除去するステップを含んでもよい。
【0019】
ステップ180(溶媒を除去する)は、溶媒42を表面16のワイヤーケーブル10から除去するステップを含んでもよい。
【0020】
ステップ200(重量を測定する)は、汚染物質18が除去されて且つ溶媒42が除去された状態のワイヤーケーブル10の重量54を測定するステップを含んでもよい。
【0021】
ステップ220(汚染物質のパーセンテージを求める)は、式[(Mb-Ma)/Mb]×100に基づいて、ワイヤーケーブル10から除去された汚染物質18の重量パーセント56を求めるステップを含んでもよい。ここで、Mbは、ワイヤーケーブル10と汚染物質18との合計重量40であり、Maは、ワイヤーケーブル10の重量54である。
【0022】
ステップ240(汚染物質のパーセンテージが閾値未満かどうかを判定する)は、汚染物質18の重量パーセント56が所定の閾値24未満であるかどうかを判定するステップを含んでもよく、ここで、閾値24は超音波溶接継手22の強度20と相関する。
【0023】
ステップ260(ワイヤーケーブルを超音波溶接作業から除外する)は、汚染物質18の重量パーセント56が所定の閾値24未満ではない場合に、一束のワイヤーケーブル10をUSWプロセスから除外するステップを含んでもよい。
【0024】
ステップ280(ワイヤーケーブルの超音波溶接作業を許可する)は、汚染物質18の重量パーセント56が所定の閾値24未満である場合に、一束のワイヤーケーブル10のUSWプロセスを許可するステップを含んでもよい。
【0025】
したがって、ワイヤーケーブル10の超音波溶接継手22の強度20を予測するのに用いられる方法100が提供される。発明者らによる実験は、超音波溶接されたワイヤーケーブル10上の汚染物質18の重量パーセント56と溶接継手22の強度20との間に相関性があることを見出した。汚染物質18の重量パーセント56の閾値24のレベルは、USWプロセスの安定性にも影響する。
【0026】
この発明は、その好適な実施形態の観点から説明されたが、そのように限定する意図ではなく、下記の特許請求の範囲の記載に限りのみ限定される。また、第1、第2、上方、下方などの用語の使用は、重要性の順番、位置、又は方向を意味するものではなく、第1、第2などの用語は、1つの構成要素を別のものと区別するのに使用されている。さらに、a、anなどの用語の使用は、量の限定を意味するものではなく、言及されたものの少なくとも1つの存在を意味している。
【符号の説明】
【0027】
10 ワイヤーケーブル
12 撚り線心
14 相手側端子(端子)
16 外部表面(表面)
18 有機汚染物質(汚染物質)
20 強度
22 超音波溶接継手(溶接継手)
24 閾値
26 アルミニウム系材料
28 銅系材料
30 スズ
32 切り口
34 断面
36 撚り線
38 洗浄装置
38A ソックスレー抽出器
40 合計重量
42 溶媒
44 沸点
46 ジエチルエーテル
48 トリクロロメタン
50 プロパノン
52 デシケータデバイス
54 重量
56 重量パーセント