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特許7438660搬送システム、搬送方法、および物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】搬送システム、搬送方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 13/03 20060101AFI20240219BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20240219BHJP
   B61B 13/06 20060101ALI20240219BHJP
   B61B 13/00 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B60L13/03 F
B65G54/02
B61B13/06 N
B61B13/00 V
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018207506
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2019103387
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2017230997
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】中村 卓
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】楢原 秀忠
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-007132(JP,A)
【文献】特開平08-006640(JP,A)
【文献】特開2015-050831(JP,A)
【文献】特開2000-185855(JP,A)
【文献】特開2015-202793(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172657(WO,A1)
【文献】特開2015-184214(JP,A)
【文献】特開昭62-257851(JP,A)
【文献】特開昭63-148803(JP,A)
【文献】特許第3249620(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 58/40
B65G 54/00 - 54/02
B61B 13/00 - 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御ゾーンを有する搬送路と、
前記搬送路に沿って移動する台車と、
前記台車の位置及び/又は速度を制御する、複数の制御部と、
前記搬送路に設けられた第一のセンサと、を有し、
前記制御ゾーンの各々には、前記台車の位置及び/又は速度を制御可能な前記制御部が備えられ、
前記制御部は、前記第一のセンサと前記搬送路の所定の位置との距離に基づいて、前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
前記搬送路は、第二の搬送モジュールと、前記第二の搬送モジュールの川上側に位置する第一の搬送モジュールと、を含み、
前記第一のセンサは、前記第一の搬送モジュール及び前記第二の搬送モジュールの一方に設けられ、
前記所定の位置は、前記第一の搬送モジュール及び前記第二の搬送モジュールの他方の位置であることを特徴とする請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記搬送路に設けられた第二のセンサをさらに有し、
前記第一のセンサは、前記第一の搬送モジュールに設けられ、
前記所定の位置は、前記第二の搬送モジュールに設けられた前記第二のセンサの位置であることを特徴とする請求項2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記第一の搬送モジュールは、前記第二の搬送モジュールに隣接していることを特徴とする請求項2又は3に記載の搬送システム。
【請求項5】
記複数の制御部は、前記第一の搬送モジュール及び前記第二の搬送モジュールの各々に設けられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記台車を移動させて取得した前記第一のセンサと所定の位置との距離に基づいて、前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項7】
前記台車はスケールを有し、
前記制御部は、前記スケールを前記第一のセンサ及び前記第二のセンサを読み取ることが可能な位置で取得した前記第一のセンサと前記第二のセンサとの距離に基づいて、前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする請求項3に記載の搬送システム。
【請求項8】
前記台車は、永久磁石を備え、
前記搬送路は、コイル群を備え、
前記制御部は、前記コイル群に流れる電流を制御することにより前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記第一のセンサ及び前記搬送路の所定の位置を含む区間において、前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の搬送システム。
【請求項10】
複数の制御ゾーンを有する搬送路と、複数の制御部と、を有し、前記制御ゾーンの各々には、台車の位置及び/又は速度を制御可能な前記制御部が備えられた搬送システムにおいて、
前記制御部が、前記搬送路に沿って台車を移動させる工程と、
前記制御部が、前記台車を用いて、前記搬送路に設けられた第一のセンサと、前記搬送路の所定の位置との距離を取得する工程と、を含むことを特徴とする搬送方法。
【請求項11】
前記制御部が、搬送路に沿って前記台車を移動させ、前記台車を停止させた後に、
前記制御部が、前記第一のセンサと前記所定の位置との距離を取得する工程を行うことを特徴とする請求項10に記載の搬送方法。
【請求項12】
前記制御部が、搬送路に沿って前記台車を停止させるときに、前記台車を前記第一のセンサと前記所定の位置を跨ぐ位置に停止させることを特徴とする請求項11に記載の搬送方法。
【請求項13】
前記制御部が、取得した前記第一のセンサと前記所定の位置との距離に基づいて、前記台車の位置及び/または速度を制御することを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の搬送方法。
【請求項14】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の搬送システムと、少なくとも1つの工程装置を用いた物品の製造方法であって、
前記搬送システムによって前記台車を前記工程装置に搬送する工程と、
前記工程装置が、前記台車の上のワークに対して所定の工程を行うことにより、前記物品を製造する工程と、を具備することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車の搬送に関し、より具体的にはムービングマグネット型リニアモータ(MM型リニアモータ)技術を用いた搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にファクトリーオートメーション化された工業製品を組み立てる為の製造現場では、複数のステーションの間で部品などを搬送する搬送システムが用いられている。
【0003】
近年、この搬送システムとして搬送路を複数の制御ゾーンに分割し、制御ゾーン毎に制御装置を配置し台車を制御ゾーン間で走行させる搬送システムが生産効率の上で優れており多用されている。
【0004】
このような搬送システムは、一般的に、各制御ゾーンを制御する複数の下位制御部と、その複数の下位制御部との間を結ぶ通信システムで接続される上位制御部とから構成される。
【0005】
特許文献1の搬送システムでは、上位制御部が生成した駆動指令を下位制御部にあらかじめ送っておき、上位制御部から下位制御部に一斉に搬送指令を送ることで、下位制御部に送られた駆動指令を実行する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-202793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、搬送モジュールどうしの間隔が所定の値からずれてしまい2つの搬送モジュールの境界を台車が通過する場合に、速度が変動し台車が振動してしまうことがある。また、2つの搬送モジュールの境界をまたぐ位置に台車を停止させる場合に、所望の停止位置精度を満たさない、あるいは所望の時間内に完全停止できないことがあった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、台車を高精度に搬送することを可能にする搬送手段を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の搬送システムは、複数の制御ゾーンを有する搬送路と、前記搬送路に沿って移動する台車と、前記台車の位置及び/又は速度を制御する、複数の制御部と、前記搬送路に設けられた第一のセンサと、を有し、前記制御ゾーンの各々には、前記台車の位置及び/又は速度を制御可能な前記制御部が備えられ、前記制御部は、前記第一のセンサと前記搬送路の所定の位置との距離に基づいて、前記台車の位置及び/又は速度を制御することを特徴とする。
【0010】
本発明の搬送方法は、複数の制御ゾーンを有する搬送路と、複数の制御部と、を有し、前記制御ゾーンの各々には、台車の位置及び/又は速度を制御可能な前記制御部が備えられた搬送システムにおいて、前記制御部が、前記搬送路に沿って台車を移動させる工程と、前記制御部が、前記台車を用いて、前記搬送路に設けられた第一のセンサと、前記搬送路の所定の位置との距離を取得する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の物品の製造方法は、上記の搬送システムと、少なくとも1つの工程装置を用いた物品の製造方法であって、前記搬送システムによって前記台車を前記工程装置に搬送する工程と、前記工程装置が、前記台車の上のワークに対して所定の工程を行うことにより、前記物品を製造する工程と、を具備することを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、隣り合う2つの搬送モジュールをそれぞれ制御する制御部による電流制御が競合してしまうことによる、振動や、台車の位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の搬送制御システムの概略構成図である。
図2】第1実施形態の搬送モジュール及び台車の構成の概略構成図である。
図3】第1実施形態の一つの台車の搬送プロファイルである。
図4】第1実施形態の複数の台車に関する搬送プロファイルである。
図5】第1実施形態のサイクル動作のフロー図である。
図6】第2実施形態の製造システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
図1は、搬送路、台車、下位制御部(制御部あるいは第一制御部と称する場合がある)及び上位制御部(第二制御部と称する場合がある)等を備えた台車搬送システム1の一部の概略図である。ここで、図1乃至3において、台車の搬送方向に沿ってX軸をとり、搬送モジュールを載せる架台に対して鉛直方向をZ軸とし、X軸及びZ軸と直交する軸をY軸とする。本明細書において、この座標系をグローバル座標系と称する場合がある。また、下位制御部(制御部あるいは第一制御部と称する場合がある)と上位制御部(第二制御部と称する場合がある)は、一つの制御部であってもよい。
【0015】
台車搬送システム1は、架台上に互いに連結して配置された複数の搬送モジュール101からなる搬送路100と、複数の搬送モジュール101それぞれに接続され、接続先の搬送モジュール101を制御する複数の下位制御部102とを有する。また、台車搬送システム1は、ネットワーク103を介して複数の下位制御部102を制御する上位制御部104と、搬送路100上でワーク109を運ぶ複数の台車105とを有する。
【0016】
複数の下位制御部102は、ネットワーク103を介して上位制御部104と通信可能に接続され、それぞれ上位制御部104から送られてきた駆動指令を格納するメモリ110を備えている。下位制御部102は、それぞれ接続先の搬送モジュール101の制御を担当し、メモリ110に格納されている駆動指令に基づき、担当する搬送モジュール101上の又は進入してきた台車105順に駆動制御を行う。
【0017】
台車搬送システム1は、複数の工程装置からなる工程装置群106とともに用いられ、複数の台車105が、搬送モジュール101から動力を受けて搬送路100に沿って移動し、処理対象物(ワーク)109を各工程装置に運ぶ。ここで、工程装置群106の各工程装置は、工程装置用のネットワーク107で互いに接続され、工程制御部108により制御される。また、工程制御部108は、上位制御部104と接続され、互いに情報のやりとりを行う。
【0018】
なお、図1に示す搬送路100は、全体の搬送路の一部であり、説明を簡単にするために5つの搬送モジュール101a~101e及び下位制御部102a~102e、並びに3つの台車105a~105cのみを抜き出して説明している。搬送モジュール、下位制御部及び台車の数は、何らこれに限定されるものではない。
【0019】
詳細には後述するが、搬送モジュール101に進入してきた台車105を下位制御部102により制御するための駆動指令は、順番をともない下位制御部102のメモリ110に格納される。例えば、図1において、最初に台車105cが搬送モジュール101c上に停止しており、その後台車105bが搬送モジュール101c上を通過し、そして台車105aが搬送モジュール101c上で停止するとする。また、下位制御部102cのメモリ110cが順に「1:排出」、「2:通過」、「3:停止」との駆動指令を格納しているとする。下位制御部102cは、搬送モジュール101c上の台車105cに「1:排出」の駆動指令を適用して台車105cを排出し、次に搬送モジュール101cに進入してきた台車105bに「2:通過」の駆動指令を適用して台車105bを通過させる。そして、下位制御部102cは、次に搬送モジュール101cに進入してきた台車105cに「3:停止」の駆動指令を適用して台車105cを停止させる。
【0020】
図2は、2つの搬送モジュール101a、101b及び1つの台車105を示し、詳細に説明する。
【0021】
図2(A)は、台車105及び搬送モジュール101a、101bをY軸方向から見た図であり、図2(B)は、台車105だけをY軸方向から見た図である。また、図2(C)は、搬送モジュール101a及び台車105をX軸方向から見た図である。
【0022】
図2(A)及び(C)に示すように、架台212上に配置された搬送モジュール101aは、モジュール筺体201a、エンコーダ202aa~202ac、コイル群203a、及びガイドレール204aを備え、下位制御部102aに接続されている。また、搬送モジュール101bは、モジュール筺体201b、エンコーダ202ba~202bc、コイル群203b、及びガイドレール204b(不図示)を備え、下位制御部102bに接続されている。本実施形態において、エンコーダ202aa~202bcを用いる例を示すが、これに限るものではない。台車105の位置を検出できれば公知のセンサを用いることができる。本明細書において、エンコーダ202aa~202bcをセンサ202aa~202bcと称する場合がある。下位制御部102aには図示しない電源が接続されている。搬送モジュール101aにおけるセンサ202aa~202acの数及び取り付け位置は、台車105や搬送モジュール101aの大きさや、台車105の位置検出の精度等に応じて適宜調節される。なお、他の搬送モジュール101の構成についても同様である。具体的には、搬送路100全体にわたり、任意の隣り合うセンサの間隔がスケール206の長さより短くなるように、各センサは取り付けられている。
【0023】
図2(B)及び(C)に示すように、台車105は、天板205、スケール206、複数の永久磁石207(磁石列と称する場合がある)、永久磁石ブラケット208、ワーク把持機構209、スケールブラケット210、及びガイドブロック211を備える。
【0024】
永久磁石ブラケット208、ワーク把持機構209、スケールブラケット210及びガイドブロック211は、天板205に取り付けられ、複数の永久磁石207は、永久磁石ブラケット208の片面又は両面に取り付けられている。また、スケール206は、スケールブラケット210に取り付けられ、ワーク把持機構209は、天板205上でワーク109を把持する。
【0025】
台車105のガイドブロック211は、搬送モジュール101のガイドレール204に案内され、台車105は、モジュール筺体201に取り付けられたコイル群203との間に発生する電磁力により駆動され、搬送路100(X軸)に沿って搬送される。
【0026】
例えば、搬送モジュール101aのセンサ202aa~202acは、台車105のスケール206との間のギャップが一定となるようにモジュール筺体201aの複数の位置に取り付けられている。センサ202aa~202acは、台車105が搬送モジュール101a中のどこに位置していても台車105を検出できるように適当な間隔をあけて取り付けられている。
【0027】
センサ202aa~202acは、台車105のスケール206のパターンを読み取り、台車105のX方向の位置(X位置)をセンサ202aa~202acからの相対位置として検出する。そして、センサ202aa~202acは、台車105aの位置に関する情報を下位制御部102aに出力し、下位制御部102aはこの情報を基に担当する搬送モジュール101a上のどこに台車105が位置しているかを知ることができる。なお、下位制御部102aは、この情報を上位制御部104に送信してもよい。
【0028】
本実施形態において、センサ202aa~202bcは、アブソリュート型であり、スケール206は、アブソリュート型のセンサで読み取り可能なものを設置している例を示すが、これに限るものではない。
【0029】
図2(b)に示すWは駆動幅であり、磁石列207の台車の搬送方向(X方向)の幅である。
【0030】
台車105は、例えば、台車の搬送方向(X方向)の幅の中心C1を基準位置と定め、台車105の位置は、基準位置C1の座標として定義されている。
【0031】
上位制御部104は、台車105の制御において、搬送システム全体を一つの座標系(前述したグローバル座標系)を用いて制御している。
【0032】
それに対し、下位制御部102a~102eは、それぞれに設定された個別の座標系(ローカル座標系と称する)を用いて制御を行なう。
【0033】
各下位制御部に信号を送る各搬送モジュールに設けられるセンサのうち、例えばもっとも左に位置するセンサの位置202aa、202baを、対応する搬送モジュールのローカル座標系の原点と定める。
【0034】
上位制御部104は、例えば各搬送モジュールのもっとも左に位置するセンサがあるべき位置(設計値)をローカル座標系の原点位置を保持している。
【0035】
下位制御部102は、自己のメモリ110に格納されている駆動指令に基づき、担当する搬送モジュール101のコイル群203に電流を印加し、その電流量を制御する。それにより、下位制御部102は、担当する搬送モジュール101上において台車105を所定の位置に所定の速度で搬送し、又は停止させる。
【0036】
また、下位制御部102は、台車105が隣接する搬送モジュール101から担当する搬送モジュール101に進入したことを、担当する搬送モジュール101のセンサ202aa~202bcによって検知することができる。そして、進入した台車105が担当する搬送モジュール101の所定の位置に到達した時から、下位制御部102は、メモリ110a~110e内の制御指令を基に台車105a~105eの搬送制御を行う。該所定の位置は、搬送モジュール101間の境界であってもよい。また、下位制御部102は、担当する搬送モジュール101のセンサ202が台車105のスケール206を読み取った時に該台車105に対する制御を行うようにしてもよい。
【0037】
例えば、図2(A)で紙面左から右に台車105が動くとし、搬送モジュール101aのセンサ202aaが台車105のスケール206を読み取ると、下位制御部102aが、搬送モジュール101a上の台車105に対する制御を行う。また、台車105が搬送モジュール101bに進入し、搬送モジュール101bのセンサ202baが台車105のスケール206を読み取ると、下位制御部102bが、搬送モジュール101b上の台車105の制御を行う。
【0038】
ここで、「一群搬送指令」について説明する。一群搬送指令は、上位制御部104から、複数の台車105からなる台車群のうちの全部又は一部を制御する複数の下位制御部102の全部又は一群に対して同じタイミングで一斉に送られる駆動指令である。言い換えると、一群搬送指令は、それを受信した複数の下位制御部102の稼働(台車の駆動制御)を一斉に開始させるための合図である。
【0039】
複数の下位制御部102は、上位制御部104から一群搬送指令を受信すると、担当する搬送モジュール101上の又は進入してきた台車105に対して、順にメモリ110に格納されている駆動指令を適用し、台車105の駆動制御を開始する。
【0040】
次に、図3を用いて、1つの台車105を複数の搬送モジュール101の間で搬送する方法について説明する。図3(A)は、1つの台車105が2つの搬送モジュール101a~101bにわたり搬送されることを示す概略構成図である。また、図3(B)は、縦軸に台車105のX位置、横軸に時間tをとった台車105の搬送プロファイルであり、図3(C)は、縦軸に台車105の速度v、横軸に時間tをとった台車105の速度プロファイルである。
【0041】
搬送プロファイルP0は、台車105を出発位置S1から到着位置A1まで、最高速度v1、所要時間t5で台形駆動201により移動させるための駆動プロファイルであり、座標値はグローバル座標系X上で定義されている。
【0042】
上位制御部104は、搬送プロファイルP0を生成し、そこから部分プロファイル(駆動指令)P1とP2を切り出す。
【0043】
この構成では、台車105の搬送の制御には、2つの搬送モジュール101a~101bに接続された下位制御部102a~102bが関与しているので、部分プロファイル(駆動指令)P1を下位制御部102aへ送る。そして、部分プロファイルP2を下位制御部102bへ送る。これにより、下位制御部102aのメモリ110aには、部分プロファイルP1である「1:排出」という駆動指令があらかじめ格納される。そして、下位制御部102bのメモリ110bには、部分プロファイルP2である、「1:停止」という駆動指令が予め格納される。
【0044】
台車105は最初に搬送モジュール101a上で停止しており、下位制御部102a~102bは、上位制御部104から一群搬送指令を受信し、台車105の搬送制御を開始する。
【0045】
下位制御部102aは、メモリ110aに格納されている「1:排出」の駆動指令を台車105に適用し、台車105を隣の搬送モジュール101bに向けて搬送する。なお、この時点では下位制御部102bは一群搬送指令を受信しているが、担当する搬送モジュール101b上に台車105が進入してきていないため、動作を起こしていない。
【0046】
その後、台車105が搬送モジュール101a、101b間の境界にくると、又は搬送モジュール101bのセンサ202baが台車105のスケール206を読み取ると、台車105の制御は下位制御部102aから下位制御部102bに移る。
【0047】
その後、下位制御部102bは、メモリ110bに格納されている「1:停止」の駆動指令を台車105に適用し、台車105を所定の位置で停止させる。このようにして、台車105は搬送モジュール101a~101bにわたり搬送される。
【0048】
次に、1つの台車105に関する搬送プロファイル301について説明する。搬送プロファイル301は、1つの台車105が停止した状態から移動を開始して再び停止するまでの1つ又は複数の下位制御部102a~102bによる駆動制御に関するプロファイルである。
【0049】
例として、図3(B)に1つの台車105に関する搬送プロファイルP0を示す。
【0050】
R1はセンサ202aaのあるべき位置(設計上位置)をグローバル座標系における位置で示した値が上位制御部に保持されている。実際のセンサ202aaの位置は、搬送モジュール101aの原点となる。
【0051】
同様に、R2はセンサ202baのあるべき位置(設計上の位置)をグローバル座標系における位置で示した値が上位制御部に保持されている。そして、このセンサ202baのあるべき位置(設計上の位置)は、搬送モジュール101bの原点となる。
【0052】
Q1とQ2はそれぞれ搬送モジュール101aと101bのローカル座標系における原点を示す。
【0053】
ローカル座標系における原点は、時刻については台車105の駆動開始時点とし、位置については各搬送モジュールの川上側のセンサ202aa、202baの設置位置としている。
【0054】
Q1はこうして定めた搬送モジュール101aのローカル座標系における原点であり、Q2は搬送モジュール101bのローカル座標系における原点である。
【0055】
本実施例においては、最も川上に位置する搬送モジュール101aのローカル座標系における原点をグローバル座標系の原点としているがこれに限るものではない。
【0056】
なお、台車の動作を表す表現の形式としては、時間対位置、時間対速度、位置対速度があり、これらは相互に変換可能である。したがってこれらのうちいずれの表現形式を部分プロファイルである駆動指令P1およびP2の表現に用いてもかまわないが本実施形態においては、位置対速度の例を示す。
【0057】
台車105は、最初に搬送モジュール101a上で停止しており、その後搬送モジュール101bに搬送されて停止する。図3(B)に示すように、搬送プロファイルP0は、点301aから始まり、点301fで終了する。
【0058】
まず、台車105は、時刻t0において停止した状態から、搬送モジュール101aのコイル群203aに通電を開始する。これにより台車105は、速度v0で移動を開始し、時刻t1に速度v1(>v0)に到達し、そして時刻t2に2つの搬送モジュール101a、101b間の境界に達する。
【0059】
台車105は、時刻t2に搬送モジュール101bのコイル群203bに通電を開始し搬送モジュール101bに進入すると、速度v1で時刻t4まで速度v1を維持し、その後減速し時刻t5に搬送モジュール101b上において速度v0で停止する。その間、時刻t3で搬送モジュール101aのコイル群203aへの通電を終了する。
【0060】
図3(B)において点301aは時刻t0、点301bは時刻t1、点301cは時刻t2、点301dは時刻t3、点301dは時刻t4、点301eは時刻t4、点301fは時刻t5における搬送プロファイルP0上の点である。
【0061】
ここで、図3(B)において、Xは、搬送モジュール101a~101bで一つの共通の座標系で見た場合の位置の座標系(グローバル座標系)である。また、Xa及びXbは、それぞれ搬送モジュール101a、101b内部における位置の座標系である個別の座標系(ローカル座標系)である。そして、vは、台車105の速度を表す。
【0062】
X、Xa、Xb、vは、それぞれ搬送プロファイルP0上の点を引数としてその属性を表すことができる。例えば、「X(301a)」は搬送プロファイル301上の点301aにおける台車105のX座標を、「Xa(301a)」は搬送プロファイル301上の点301aにおける台車105のXa座標を表す。同様に、「V(301a)」は、搬送プロファイル301上の点301aにおける台車105の速度を表す。
【0063】
次に、台形駆動プロファイルについて説明する。「台形駆動プロファイル」は、各搬送モジュール101内に台車105が進入して以降の各搬送モジュール101内における台車105の駆動制御を、1つ又は複数の台形駆動要素で表したものである。
【0064】
ここで、「台形駆動要素」とは、台車105の搬送状態を開始位置、終了位置、開始位置速度及び終了位置速度の組み合わせで表したものである。1つの台形駆動要素は、簡略化して記述するために丸括弧()で括り、(開始位置,終了位置,開始位置速度,終了位置速度)で表される。また、1つの台車105に関する台形駆動要素を時間順に並べて波括弧{}で括ったものを該台車105に対する台形駆動プロファイルとする。
【0065】
さらに、上位制御部104から1つの一群搬送指令が送信されると、1つの搬送モジュール101上を1つ又は複数の台車105が通過したり停止したりする。そのため、1つの搬送モジュール101に対する1つ又は複数の台形駆動プロファイルを角括弧[]で括り、該搬送モジュール101に対する「モジュール駆動指令」又は単純に「駆動指令」とする。
【0066】
各搬送モジュールへの駆動指令は、上位制御部104から下位制御部102に送信され、メモリ110内に格納される。その後、下位制御部102は、上位制御部104から一群搬送指令を受信すると、メモリに格納されている駆動指令の台形駆動プロファイルに従って、台車の駆動制御を行う。
【0067】
例えば、図3(B)で、一群搬送指令が送信される前に、上位制御部104から搬送モジュール101aの下位制御部102aに送られる駆動指令P1は、以下の式1のように記述される。
[{(Xa(301a), Xa(301b), v0, v1), (Xa(301b), Xa(301c), v1, v1) , (Xa(301c), Xa(301d), v1, v1)}] …式1
下位制御部102aはこの駆動指令P1を受信すると、メモリ110aに格納する。
【0068】
同様に搬送モジュール101bの下位制御部102bに送られる駆動指令P2は、以下の式2のように記述される。
[{(Xb(301c), Xb(301d), v1, v1), (Xb(301d), Xb(301e), v1, v1) , (Xb(301e), Xb(301f), v1, v0)}] …式2
下位制御部102bはこの駆動指令P2を受信すると、メモリ110bに格納する。
【0069】
下位制御部102a~102bが上位制御部104から一群搬送指令を受信すると、台車105の搬送が開始され、台車105は、搬送モジュール101a上を出発して搬送モジュール101b上で停止する。
【0070】
ここで、搬送プロファイルP0上の点301cと301dは、搬送モジュール101aに対しては、搬送モジュール101aの個別の座標系(ローカル座標系)、Xa(301c),Xa(301d)であらわされた駆動指令が下位制御部102aに送られる。また、搬送モジュール101bに対しては、搬送モジュール101bの個別の座標系(ローカル座標系)、Xb(301c),Xb(301d)であらわされた駆動指令が下位制御部102bに送られる。つまり、搬送プロファイルP0上の点301cと301dの間は、2つの搬送モジュールの双方のコイルによって、それぞれのローカル座標系であらわされる位置情報に基づいて駆動されることになる。
【0071】
台車105が搬送モジュール101aと101bの境界にまたがる位置、すなわち座標Xb-W/2~Xb+W/2の位置にある間、搬送モジュール101aのコイル群203aと搬送モジュール101bのコイル群203bの双方に通電され制御される。
【0072】
しかし、架台上に互いに連結して配置される複数の搬送モジュール101からなる搬送路を連結する、それぞれの搬送モジュール間(例えば、101aと101b間)の距離が所定の値からずれて取り付けられてしまう場合がある。搬送モジュール101aと101b間の距離が、設計値(所定の値)からずれてしまうと、搬送モジュール101a上のセンサに対する搬送モジュール101bのセンサの位置(センサの間の距離)が、所定の位置からずれてしまう。つまり、隣接する搬送モジュールの間の距離(センサの間の距離)が所定の値からずれると、特に、搬送モジュール101aと101bの境界に一番近い2つのセンサ202acと202baから位置情報を得ている2つの制御部の台車の位置にずれが生じる。その結果、隣接する2つの搬送モジュールをそれぞれ担当する2つの下位制御部による電流制御が競合してしまい、振動が生じたり、台車の位置ずれが起こってしまう。この振動や台車の位置ずれを抑制するために、部分プロファイル(駆動指令)P2の位置を補正する。
【0073】
本実施形態によれば、隣り合う2つの搬送モジュールをそれぞれ制御する制御部による電流制御が競合してしまうことによる、振動や、台車の位置ずれを抑制することができる。
【0074】
次に、この部分プロファイル(駆動指令)P2の補正の方法を説明する。本実施形態においては、搬送モジュール101aと101bを例として挙げるがこれに限るものではない。
【0075】
まず、複数の搬送モジュールを架台上に互いに連結して配置した後、あらかじめ複数の搬送モジュールのセンサ間(例えば、センサ202acから202baまでの距離)D12を測定しておく。
【0076】
測定方法はいろいろ考えられるが、一例として、搬送モジュール101aと101bの境界に一番近い2つのセンサ202acと202baを用いる方法がある。具体的には、台車105を搬送モジュール101aと101bをまたぐ位置に停止させる。下位制御部102aと102bによって、ぞれぞれ、センサ202acと202baによってスケール206を読み取り、それぞれの位置情報を得る。こうして得られた2つの位置情報の差を計算することで、センサ202acと202baの間の距離D12を測定することができる。なお、この測定は、搬送システムの運用開始前に行っても良いし、運用中の任意のタイミングで、上記の位置に台車105を停止させて行っても良い。また、スケール206として、たとえばガラス製のスケールを用いれば、スケールの個体差をほとんど無視することができ、1台の台車で測定した値をすべての台車について適用することができる。つまり、上記の測定を台車105で行った後、この位置を通る次の台車の前記の補正に用いることができる。
【0077】
このように求めた搬送モジュール101aと101bとの間の距離D12は、上位制御部に記憶させておき、この値を用いて、上位制御部104において、搬送プロファイルから生成される部分プロファイル(駆動指令)P2の切り出し時に補正を行う。
【0078】
具体的には、例えば、隣接する搬送モジュールの境界を挟む2つのセンサ202acと202baの距離の設計値をD0とすると、センサ202acと202baの間の距離の設計値D0からのずれ量は、ΔD12 = D12-D0として求めることができる。なお、搬送モジュール101aの原点であるセンサ202aaの位置は真の位置であるとする。ΔD12は、D12がD0よりも大きい場合は0よりも大きくなり(+の値になり)、ΔD12は、D12がD0よりも小さい場合は0よりも小さくなる(-の値になる)。
【0079】
具体的には、グローバル座標系におけるセンサ202baの真の位置R2aは、R2a= R2+ΔD12として求めることができる。センサ202baの真の位置がわかれば、搬送モジュール101bのローカル座標系Xbの真の原点Q2aを、元の位置Q2から距離ΔD12だけずらした位置に定めることができる。
【0080】
上位制御部104は、部分プロファイル(駆動指令)P2を切り出し、ローカル座標に変換する際に、こうして定めた補正されたローカル座標系を用いる。これにより、2つの制御部が認識する台車の位置のずれを補正することができる。
【0081】
具体的には、原点Q2が距離ΔD12だけずれているので、補正前の部分プロファイル(駆動指令)の位置の値からΔD12を差し引けばよい。つまり、例えばローカル座標系Xbにおける位置Aは、Xb(A-ΔD12)という補正値になる。ここで、ΔD12は、前述したように、+の値である場合と、-の値である場合とがある。よって、部分プロファイル(駆動指令)の位置の値からΔD12を差し引くということは、ΔD12の値が例えば+2の場合は、2をAから差し引くことになる。しかし、ΔD12の値が例えば-2の場合は、2をAに加えることになる。
【0082】
上述した駆動指令P2は以下の式2のように記述される。
[{(Xb(301c), Xb(301d), v1, v1), (Xb(301d), Xb(301e), v1, v1) , (Xb(301e), Xb(301f), v1, v0)}] …式2
【0083】
P2は、上位制御部104から下位制御部102bに送られる前に、上位制御部において、以下の式3のように記述される駆動指令P2´に補正された後、下位制御部102bに送られる。
[{(Xb(301c-ΔD12), Xb(301d-ΔD12), v1, v1), (Xb(301d-ΔD12), Xb(301e-ΔD12), v1, v1), (Xb(301e-ΔD12), Xb(301f-ΔD12), v1, v0)}] …式3
下位制御部102bは、この駆動指令P2´を受信すると、メモリ110bに格納する。
【0084】
上記の説明においては、1個の搬送モジュールから隣りの搬送モジュールに台車を搬送する例を説明した。
【0085】
3個以上の搬送モジュールを移動する台車に対して制御を行う場合には、隣接する搬送モジュールの境界を挟む2個のセンサの距離のずれを加算していくことで補正することができる。
【0086】
搬送モジュール101aを出発し、搬送モジュール101bを通過し、搬送モジュール101cに到着する搬送においては、前述した部分プロファイル(駆動指令)P2の補正に加えて、部分プロファイル(駆動指令)P3(不図示)の補正を行なう。センサ202bcと202caとの距離の設計値からのずれΔD23(不図示)を求める。
【0087】
次いでセンサ202caの真の位置R3a(不図示)を、R3a = R3 + ΔD23として求め、以下前記の補正と同様に、部分プロファイル(駆動指令)の切り出しと補正を行えばよい。この時、センサ202bcは前述したようにΔD12だけずれているので、駆動指令の補正は、(ΔD12+ΔD23)をそれぞれの位置から差し引く。つまり、例えばローカル座標系Xcにおける位置Aは、Xc(A-(ΔD12+ΔD23))という補正値になる。
【0088】
搬送システム全体に本発明を適用するためには、搬送路100を構成するすべての搬送モジュールの境界で前記の測定を行う必要がある。
【0089】
これを実施するための一つの方法は、台車105をすべての搬送モジュールの境界に順次停止させ、前記の測定を行うことである。
【0090】
しかし、このような搬送システム全体にわたる測定を1台の台車105を用いて行うことは時間を要し、搬送効率を低下させるという問題がある。
【0091】
一方、先に述べたようにたとえばガラス製のスケールを用いれば、製造による個体差が小さく熱膨張率が小さいため、台車の個体差をほとんど無視することができる。したがって複数の台車を並行して動作させ、複数の搬送モジュールの境界における前記の測定を並行して実施することにより、すべての搬送モジュールの境界での測定に要する時間を短縮することができる。
【0092】
次に、図4を用いて、複数の台車105a~105cを搬送する際のモジュール駆動指令及び一群搬送指令について説明する。
【0093】
図4(A)は、図1と同様に、搬送モジュール101a~101eのうち搬送モジュール101a~101c上にそれぞれ台車105a~105cが最初停止しており、搬送モジュール101d、101eには台車が無い状態を表す。
【0094】
その後、下位制御部102a~102eは、上位制御部104から送信された一群搬送指令に応じて、台車105a~105cの搬送が行われる。ここでは最終的に、台車105a~105cは、それぞれ搬送モジュール101c~101e上に搬送され停止する。
【0095】
図4(B)は、台車105a~105cの搬送プロファイル401~403であり、横軸は時刻t、縦軸は台車105a~105cのX位置である。図4(B)において、時刻t0は、後述する一群搬送指令が上位制御部104から各搬送モジュール101a~101eの下位制御部102a~102eに対して送出された時刻である。
【0096】
搬送プロファイル401は、搬送モジュール101aにある台車105aが位置P(a)から搬送モジュール101cの位置P(c)まで搬送される搬送プロファイルである。同様に、搬送プロファイル402は、搬送モジュール101bにある台車105bが位置P(b)から搬送モジュール101dの位置P(d)まで搬送される搬送プロファイルである。また、搬送プロファイル403は、搬送モジュール101cにある台車105cが位置P(c)から搬送モジュール101eの位置P(e)まで搬送される搬送プロファイルである。
【0097】
この場合、搬送モジュール101aの下位制御部102aに送られる駆動指令は、式4のように記述される。
[{(Xa(401a), Xa(401b), V(401a), V(401b)), (Xa(401b), Xa(401c), V(401b), V(401c))}] …式4
【0098】
また、搬送モジュール101bの下位制御部102bに送られる駆動指令は、搬送モジュールの101aの101b側のセンサに対する搬送モジュール101bの101a側のセンサの距離(ずれ量)をΔDbとすると、以下の式5のように記述される。
[{(Xb(402a-ΔDb), Xb(402b-ΔDb), V(402a), V(402b)), (Xb(402b), Xb(402c), V(402b), V(402c))}, {(Xb(401c-ΔDb), Xb(401d-ΔDb),V(401c), V(401d)), (Xb(401d-ΔDb), Xb(401e-ΔDb), V(401d), V(401e))}] …式5
【0099】
また、搬送モジュール101cの下位制御部102cに送られる駆動指令は、搬送モジュールの101bの101c側のセンサに対する搬送モジュール101cの101b側のセンサの距離(ずれ量)をΔDcとすると、以下の式6のように記述される。
[{(Xc(403a-(ΔDb+ΔDc)), Xc(403b-(ΔDb+ΔDc)), V(403a), V(403b))}, {(Xc(402c-(ΔDb+ΔDc)), Xc(402d-(ΔDb+ΔDc)), V(402c), V(402d))}, {(Xc(401e-(ΔDb+ΔDc)), Xc(401f-(ΔDb+ΔDc)), V(401e), V(401f)}] …式6
【0100】
また、搬送モジュール101dの下位制御部102dに送られる駆動指令は、搬送モジュールの101cの101d側のセンサに対する搬送モジュール101dの101c側のセンサの距離(ずれ量)をΔDdとすると、以下の式7のように記述される。
[{(Xd(403b-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), Xc(403c-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), V(403b), V(403c)), (Xd(403c-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), Xb(403d-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), V(403c), V(403d))}, {(Xd(402d-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), Xd(402e-(ΔDb+ΔDc+ΔDd)), V(402d), V(402e)}] …式7
【0101】
そして、搬送モジュール101eの下位制御部102eに送られる駆動指令は、搬送モジュールの101dの101e側のセンサに対する搬送モジュール101eの101d側のセンサの距離(ずれ量)をΔDeとすると、以下の式8のように記述される。
[{(Xe(403d-(ΔDb+ΔDc+ΔDd+ΔDe)), Xe(403e-(ΔDb+ΔDc+ΔDd+ΔDe)), V(403d), V(403d)), (Xe(403e-(ΔDb+ΔDc+ΔDd+ΔDe)), Xe(403f-(ΔDb+ΔDc+ΔDd+ΔDe)), V(403e), V(403f))}] …式8
【0102】
このような駆動指令が下位制御部102a~102eのメモリ110a~110e内に格納された上で、時刻t0に上位制御部104から一群搬送指令が送信される。すると、下位制御部102a~102eは、それぞれの駆動指令に応じて台車105a~105cを駆動制御し、それぞれ目標位置P(c)、P(d)、P(e)まで搬送する。
【0103】
その後、下位制御部102aは、駆動指令中の全ての台形駆動プロファイルを処理した時刻t11に、駆動終了信号を上位制御部104に送信する。同様に下位制御部102bは時刻t12に、下位制御部102cはt13に、下位制御部102dは時刻t32に、下位制御部102eは時刻t33にそれぞれ駆動終了信号を上位制御部104に送信する。
【0104】
ここで、図1及び図4(A)において、下位制御部102aのメモリ110aの1番目に「1:排出」指令が格納されているが、その実体は式4の波括弧{}の項である。また、下位制御部102bのメモリ110bの1番目に「1:排出」、2番目に「2:通過」が格納されているが、その実体は、それぞれ式5の第1の波括弧{}の項及び第2の波括弧{}の項である。また、下位制御部102cのメモリ110cの1番目に「1:排出」、2番目に「2:通過」、3番目に「3:停止」が格納されており、その実体は、それぞれ式6の第1の波括弧{}の項、第2の波括弧{}の項、及び第3の波括弧{}の項である。また、下位制御部102dのメモリ110dの1番目に「1:通過」、2番目に「2:停止」が格納されており、その実体は、それぞれ式7の第1の波括弧{}の項及び第2の波括弧{}の項である。そして、下位制御部102eのメモリ110eの1番目に「1:停止」が格納されており、その実体は式8の波括弧{}の項である。
【0105】
このように、複数の下位制御部のうちのある下位制御部に対して送信されたモジュール駆動指令は、該ある下位制御部が担当する搬送モジュール上にある又は進入してくる台車順に台形駆動プロファイルを並べたものである。また、該台形駆動プロファイルは、該ある下位制御部が担当する搬送モジュール上にある又は進入してくる台車に対する台形駆動要素を時間順に並べたものである。
【0106】
図5は、工程制御部108、上位制御部104及び下位制御部102間の動作のフロー図である。
【0107】
一般に、工業製品の製造工程は、複数のワーク109を搬送路100上で搬送すると同時に、搬送路100に沿って工程順に並べられた複数の工程装置群106がワーク109に対して順次加工を行う形態をとる。
【0108】
ここで、ワーク109の搬送及び工程装置による加工の作業単位を「サイクル動作」と呼び、そのサイクル動作を繰り返し行う事で製品を生産する。
【0109】
まず、ステップS502で、工程制御部108は、各台車105上のワーク109及び工程装置群106の状態に関する工程情報の収集を行う。ステップS503で、工程制御部108は、収集した工程情報に応じて台車の搬送方法を生成する。例えば、複数の台車105からなる台車群上のワークに加工が不十分なものがあれば、追加的に加工を行う工程にワークを搬送したり、回収を目的とした工程に搬送したり等があるため、1サイクル動作ごとに台車105の搬送方法を見直している。ステップS504で、工程制御部108は、上位制御部104に複数の台車105からなる台車群の搬送方法を送信する。
【0110】
ステップS505で、上位制御部104は、台車群の搬送方法を受信する。ステップS506で、上位制御部104は、台車群の搬送方法を基に、台車105ごとに台形駆動プロファイルを生成する。ステップS507で、上位制御部104は、台車ごとの駆動プロファイルをモジュールごとにまとめて、駆動指令を生成する。この時、搬送モジュールの間の距離(センサ間の距離)によって駆動指令を補正する。ステップS508で、上位制御部104は、各下位制御部102に台形駆動プロファイルを有する補正された駆動指令を送信する。
【0111】
ステップS509で、下位制御部102は、駆動指令を受信し、メモリに格納する。下位制御部102は、上位制御部104からの一群搬送指令を待つ状態になる。ステップS510で、上位制御部104は、各下位制御部102に一群搬送指令を送信する。ステップS511で、各下位制御部102は、一群搬送指令を受信すると、一斉に台車の駆動制御を開始する。下位制御部102は、担当する搬送モジュール101上にある台車105の搬送を開始したり、進入してきた台車105に対して台形駆動プロファイルを適用して台車105を搬送したり停止させたりする。
【0112】
ステップS512で、下位制御部102は、各自、上位制御部104から送信された駆動指令の全ての台形駆動プロファイルの適用を完了すると、上位制御部104に駆動終了信号を送信する。上位制御部104は、ステップS513で各下位制御部102から駆動終了信号を受信すると、ステップS514で一群搬送完了の通知を工程制御部108に送信する。
【0113】
ステップS515で、工程制御部108は、上位制御部104から一群搬送完了の通知を受信する。ステップS516で、工程制御部108は、工程装置群106の対応する工程装置に対して制御指令を送信し、ワーク109の処理を行わせる。このようにして、一回のサイクル動作が完了する(S517)。一度のサイクル動作が完了すると工程制御部108は、次のサイクル動作を開始する(S501~S517)。
【0114】
以上のように、駆動指令を補正することで、隣り合う2つの搬送モジュールをそれぞれ担当する2つの下位制御部による電流制御が競合してしまうことによる、振動や、台車の位置ずれを抑制することができる。
【0115】
本実施形態においては、上位制御部104が部分プロファイル(駆動指令)を補正して下位制御部102に送っている例を示したが、これに限るものではない。
【0116】
例えば、上位制御部104は、搬送モジュールの間の距離の設計値D0からのずれΔD12を求め、この値を下位制御部102に送り、下位制御部102はこの値を保持しておく。
【0117】
他の下位制御部も同様に搬送モジュールの間の距離のずれ量を計測し保持する。
【0118】
以後、上位制御部は、補正を行っていない部分プロファイル(駆動指令)を各下位制御部に送信し、搬送開始を指示する。
【0119】
各下位制御部は、受け取った部分プロファイル(駆動指令)を記憶しているずれ量で補正し、電流制御を行う。
【0120】
また、本実施形態では、台車105は、モジュール筺体201に取り付けられたコイル群203との間に発生する電磁力により駆動され、搬送路100(X軸)に沿って搬送される例を示したが、これに限るものではない。モジュール筐体201に永久磁石、台車105にコイルを設ける形態であってもよいし、台車をレールに沿って駆動させることができる搬送手段で有ればどのような形態であってもよい。
【0121】
以上に説明した実施形態においては、搬送路100が複数の搬送モジュールに物理的に分割されており、それぞれの搬送モジュールが制御ゾーンに対応していた。
【0122】
しかし本発明の適用範囲はこのような構成の搬送システムに限定されるものではなく、たとえば長尺の1本のモジュール筐体に複数のコイル群が設置され、これらの複数のコイル群それぞれが制御ゾーンに対応するものであってもよい。
【0123】
以上説明した実施形態においては、隣り合うセンサをまたぐ位置に台車105を停止させてから前記の測定を行っていた。このように台車105を搬送路100の途中で止めることは、たとえ短時間であっても当該搬送システム全体の搬送効率を落とすことになるから、頻繁に行うことはできない。
【0124】
一方、搬送システムの稼働開始直後には主として熱膨張に起因する搬送モジュールの間隔のずれが進行する。そのため、搬送システムの稼働開始直後に繰り返し前記の計測を行いたいという要求がある。
【0125】
以下に、台車105を停止させずに前記の測定を行う方法を図3を用いて説明する。
【0126】
搬送モジュール101aと101bの境界を台車105が通過中にセンサ202acと202baの距離を測定する例を説明する。
【0127】
台車105がセンサ202acと202baの両者に対向した状態にあるときに、上位制御部104は、下位制御部102aに対してはセンサ202acによる位置情報の読み取りを指示する。それと同時に、下位制御部102bに対してはセンサ202baによる位置情報の読み取りを指示する。
【0128】
こうしてひとつのスケール206を2つのセンサ202acと202baで読み取ることで得られた位置情報の差を求めることで、前記の実施形態で説明したのと同様にして、搬送モジュール101aと101bに関して前記の測定を行うことができる。
【0129】
なお、上に説明した測定方法においては、上位制御部104と下位制御部102aおよび102bの間の通信時間の差が考慮されていない。そのためこの方法は、台車105の速度が十分低速でありかつ搬送に要求される精度が低い場合のみ適用可能である。
【0130】
この通信時間の差による問題を解決する方法を以下に説明する。
【0131】
下位制御部102aおよび102bはそれぞれ内蔵時計(不図示)を備えている。通信システムに接続されている複数のコンピュータの内蔵時計を合わせるための公知の方法により、前記の内蔵時計は合わせられている。
【0132】
台車105が搬送モジュール101aと101bの境界に到達すると、上位制御部104は、下位制御部102aに対してはセンサ202acによる所定時間の位置情報の読み取りを指示する。それと同時に、下位制御部102bに対してはセンサ202baによる所定時間の位置情報の読み取りを指示する。
【0133】
下位制御部102aおよび102bはそれぞれが所定時間読み取った位置情報をタイムスタンプ付きで、それぞれの持つ位置テーブル(不図示)に保持する。
【0134】
前記の所定時間は、使用している通信システムの通信遅延時間と同程度あればよく、一般には数ミリ秒あれば十分である。
【0135】
上位制御部104は、前記所定時間以上の時間が経過した後、下位制御部102aおよび102bそれぞれの位置テーブルを参照し、前記タイムスタンプの値が一致する部分について位置情報の差を計算する。これによって先に説明した実施形態と同様にして、搬送モジュール101aと101bに関して前記の測定を行うことができる。
【0136】
なお、下位制御部102aおよび102bそれぞれの内蔵時計を合わせたとしても、しだいに両者の間にずれが生じることは避けがたい。
【0137】
上記で述べた2つの問題、すなわち通信の遅延時間と内蔵時計のずれの問題を解決可能で商業的に利用可能な技術としてディストリビュートクロックあるいは分散クロックと呼ばれる技術がある。
【0138】
上位制御部104と下位制御部102aおよび102bを接続する通信システムとして、ディストリビュートクロックの機能を備えるEtherCAT(登録商標)を用いる。そして、上位制御部104がマスター、下位制御部102aおよび102bをスレーブに設定しているとする。
【0139】
こうして構成した搬送システムにおいて、前記の説明と同様に上位制御部104は、下位制御部102aに対してはセンサ202acによる位置情報の読み取りを、下位制御部102bに対してはセンサ202baによる位置情報の読み取りを同時に指示する。
【0140】
前記の場合と異なり、通信システムが通信遅延時間を考慮した信号伝達を行う結果、下位制御部102aおよび102bそれぞれが同時刻に読み取ったスケール106の2つの位置情報を得ることができる。
【0141】
上位制御部104は前記の2つの位置情報の差を計算する。これにより搬送モジュール101aと101bに関して前記の測定を精度よく行うことができる。
【0142】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る物品の製造システム800について図6を用いて説明する。物品の製造システム800は、第1又は第2実施形態に係る台車搬送システム1と工程装置810、811とを有し、台車搬送システム1は、工程装置810、811間のワーク801の搬送を行う。ここで、物品とは、例えばインクジェットプリンタやコピー機用のトナーカートリッジ、カメラ用の部品、半導体製品等である。なお、工程装置810、811の数はこれに限定されない。
【0143】
製造システム800による物品の製造方法について説明する。上位制御部104は、同じタイミングで一斉に一群搬送指令を複数の下位制御部102に送信し、下位制御部102は、該一群搬送指令を受信する。それに応じて、下位制御部102は、担当する搬送モジュールにある又は進入してきた台車105に、上位制御部104から予め受信しておいた駆動指令を適用し、台車105を第1及び第2の工程装置810、811に向けて搬送する。台車105上にはワーク801が把持されており、台車105が搬送されてきた工程装置810、811は、ワーク801に対して所定の工程を行う。
【0144】
例えば、製造されるべき物品が、インクジェットプリンタのトナーカートリッジである場合、ワーク801は、トナー粉末を入れるためのカートリッジである。そして、工程装置810は、カラーインク用のトナー粉末をワーク801に投入する工程を行い、工程装置811は、ブラックインク用のトナー粉末をワーク801に投入する工程を行う。最終的に、物品802としてインクカートリッジ製品が製造される。
【0145】
このように、本実施形態に係る物品の製造システムは、第1及び第2の実施形態に係る搬送システムの利点を伴って物品を製造することができ、その結果、物品の製造効率の向上ひいては製造コストの低減につながる。
【符号の説明】
【0146】
1 台車搬送システム
100 搬送路
101 搬送モジュール
102 下位制御部((第一)制御部)
104 上位制御部(第二制御部)
105 台車
106 工程装置群
108 工程制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6