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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】建材
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/10 20060101AFI20240219BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240219BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240219BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240219BHJP
【FI】
E04F15/10 104A
E04F13/08 A
B32B5/18
B32B7/027
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019064515
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165125
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】金森 博之
(72)【発明者】
【氏名】樹神 真
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-087451(JP,A)
【文献】特開2007-039872(JP,A)
【文献】特開2009-133074(JP,A)
【文献】特表2014-529524(JP,A)
【文献】特開2011-052511(JP,A)
【文献】材料の熱定数表,試して学ぶ熱負荷HASPEE,日本,空気調和衛生工学会,2012年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00-15/22
E04F 13/00-13/30
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層上に形成される多孔質層と、の2層構造の成形体を有する建材であって、
前記多孔質層は、厚さが1mm以上に構成され、樹脂を有して構成される発泡層であり、発泡倍率が1.2~2.0倍であり、熱浸透率が192J/(m・s1/2・K)以上308J/(m・s1/2・K)以下である、建材。
【請求項2】
前記多孔質層は、ポリスチレンを有して構成される、請求項1に記載の建材。
【請求項3】
前記多孔質層は、ゴム系充填剤を有して構成される、請求項2に記載の建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材に関する。
【背景技術】
【0002】
居住空間等を構成する建材は、夏場の日照を長時間受けると表面が高温となり、あるいは冬場に冷たい空気にさらされることで低温になる。このような場合には建材に手足等肌で触れた際に熱くて直接肌で触れていられないために何らかの衣類等を身に着けて触れる必要がある等、不便性を感じるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、基材の表層に多孔質構造の断熱層を設けることで、接触温熱感を改善した建材が開示されている。しかしながらこのような建材においては、多孔質構造中の空隙比率を高くするほど断熱性能が向上する代わりに建材としての硬度が低下するという問題があるが、建材として有用な断熱性能と硬度の両方を満たす空隙比率の範囲は明確にされていない。
【0004】
特許文献2には、化学発泡剤を用いて多孔質構造を構成する技術が開示されている。特許文献2では、化学発泡剤の発泡倍率を特定することで、好ましい熱伝導率と硬度を両立させる材料および空隙比率を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-133074号公報
【文献】特開2014-129511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで本発明者らは、高温となった建材と人肌との接触時に皮膚温度が43℃を超えるまで伝熱すると、人体は熱さに伴って痛みを感じ、不快感を覚えるという知見を得た。さらに、建材の表層部分1mm以上の厚さの部分において熱浸透率が一定値以下であれば、接触しても皮膚温度は43℃まで上昇せず、痛みを伴う熱さを感じにくいことがわかった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、人体接触時の温熱感を低減できる建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、基材層(例えば、後述の基材層2)と、前記基材層上に形成される多孔質層(例えば、後述の多孔質層3)と、を有する建材(例えば、後述の建材1)であって、前記多孔質層は、厚さが1mm以上に構成され、熱浸透率が308J/(m・s1/2・K)以下である、建材を提供する。
【0009】
(2) (1)の発明において、前記多孔質層は、化学発泡剤を用いて形成され、発泡倍率が1.2~2.0倍であることが好ましい。
【0010】
(3) (1)または(2)の発明において、前記多孔質層は、ポリスチレンを含んで構成されることが好ましい。
【0011】
(4) (3)の発明において、前記多孔質層は、ゴム系充填剤を含んで構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建材が日照によって高温となった場合でも接触温熱感を低減することができ、熱さで痛み等を感じることなく、建材に接触することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る建材を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る建材の断面の層構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1および2は、本発明の実施形態に係る建材1の構成を示す図である。
本実施形態の建材1は、角筒状の中空部を有する基材層2と、基材層2上に形成される多孔質層3と、の二層から構成される。基材層2は建材1に必要な曲げ強度を担保するための層である。多孔質層3は多孔質構造の層であり、建材1に断熱性能を付与する。なお、基材層2の形状は角筒状の中空部を有する形状に限定されるわけではなく、建材1を使用する箇所や必要な強度に応じて成形すればよい。
【0016】
基材層2を構成する材料としては特に限定されるものではなく、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ASA樹脂等を用いることができ、建材1が用途に応じて適切な曲げ強度を有するように選択することが好ましい。基材層2は化学発泡剤や中空充填剤を含むことで、軽量化およびコスト削減を行うこともできる。
【0017】
多孔質層3は、多孔質構造を有する層として構成される。多孔質層3を構成する材料としては、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ASA樹脂等を用いることができるが、特にポリスチレンを用いることが好ましい。ポリスチレンは熱伝導率や比熱が小さいため、接触温熱感の低減に特に優れる(後述)。ポリスチレンを用いる際は、さらにブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合ゴム等のゴム系充填剤を添加することが好ましい。ポリスチレンは耐溶剤性が低く、溶剤の付着により表面にクラックが発生および進展しやすいところ、ゴム系充填剤を併用することでクラックの進展を防止することができる。ゴム系充填剤の多孔質層に対する好ましい添加量は、好ましくは2~10重量部、より好ましくは5~8重量部である。
【0018】
多孔質層3は、化学発泡剤を用いて形成されてもよいし、中空充填剤を層中に含有することによって形成されてもよい。化学発泡剤としては特に限定されず、従来の発泡樹脂成形に用いられるものを使用することができる。例えば、重炭酸ナトリウムや炭酸アンモニウム等の無機発泡剤や、ニトロソ化合物やアジド化合物等の有機発泡剤を用いてもよい。中空の充填剤も同様に特に限定されるものではなく、例えばセラミックスバルーンやシリカバルーン等を用いることができる。
【0019】
多孔質層3は、厚さが1mm以上、熱浸透率が308J/(m・s1/2・K)以下となるように構成される。これにより、例えば建材が夏場の日照により70℃近い高温となっていても、皮膚温度は43℃以上にならないため、痛み等を感じることなく建材に接触することができる。
【0020】
ここで、熱浸透率は(熱伝導率×密度×比熱)1/2で表される物性値であり、熱浸透率が大きいほど接触した際に伝熱が早く進行する。すなわち、金属のような物質は熱浸透率が大きく、接触した際に熱さや冷たさを瞬時に感じるが、熱浸透率が小さい物質では接触してから熱さや冷たさが伝わるまでに時間がかかる。
【0021】
したがって、多孔質層3の発泡倍率を大きくして密度を低下させることや、ポリスチレンのように熱伝導率および比熱が小さいものを用いることで、熱浸透率を低下させて、建材1への接触時の温熱感を低減することができる。
【0022】
また多孔質層3は、化学発泡剤を用いて形成され、発泡倍率が1.2~2.0倍であることが好ましい。発泡倍率が大きく1.2倍以上であれば熱浸透率が小さくなり接触温熱感を低減することができる。また2.0倍を超えると多孔質層3が脆くなり建材として十分な表面硬度が得られない恐れがある。なお、本発明における成形体の発泡倍率は、体積充填率の逆数に等しい。したがって、多孔質層3が中空充填剤を層中に含有することによって形成される場合には、発泡倍率[倍]=1/(体積充填率[倍])の対応関係から、相当する発泡倍率を算出すればよい。
【0023】
基材層2および多孔質層3のいずれにおいても上記の物質以外に添加剤が含まれていてもよく、例えば木粉や無機充填剤を配合して構成されることができる。
【0024】
<建材の製造方法>
次に、本実施形態の建材1の製造方法について説明する。本実施形態の建材1の製造方法としては特に限定されるものではないが、生産性や操作の簡単さの観点から、例えば共押出成形することによって製造されることが好ましい。
【0025】
共押出成形では、基材層2と多孔質層3の各層を構成する熱可塑性材料を2つの押出機あるいは共押出機中でそれぞれ溶融混錬したのち、各層の成形体が押し出される。2つの混錬体は押出工程途中で合流し、積層状態となって押出される。これを冷却して、2層構造の成形体を得ることができる。なお、多孔質層3は溶融混錬時に化学発泡剤を投入または原料(樹脂、木粉等)混合時に予め添加することで発泡押出成形され、多孔質構造の成形体層が得られる。あるいは中空充填剤を層中に含むことで、多孔質層3が空孔31を有することができる。
【0026】
押出成形した建材1の表面は研磨されることが好ましく、意匠性が向上するほか、例えば床材や壁材に使用する場合には肌で触れた際の触れ心地が改善するため効果的である。また、多孔質層3の表面に凹凸構造32を備えていてもよい。これにより、意匠性が向上するほか、加工の形態により人体接触時に接点を少なくすることができ、さらに接触温熱感が低減される上、防滑性も向上させることもできる。
【0027】
また、建材1の表面に加飾シートを貼り付けることで、表面に意匠性を付与することができる。表面に加飾シートを貼り付ける際には、シートの材質・物性等が建材1の熱浸透率に与える影響について留意する。
【0028】
本実施形態の建材1は、例えばウッドデッキに用いられることが好ましい。日照を長時間受けて高温になりやすく、またデッキ上を歩行して接触する機会が多いため、接触温熱感の低減によって歩行を妨げないようにすることで、ウッドデッキの利便性が大きく向上する。
【0029】
以上、本実施形態の建材1の構成について説明した。以下に、実施例および比較例を用いて、本発明の建材についてより詳細に説明する。
【実施例
【0030】
上述の共押出成形法によって、実施例1~5および比較例1~4に係る建材の試験体を作製した。作製した試験体について、接触温熱感試験および耐溶剤性試験を行い、さらに表面硬度、熱浸透率および発泡倍率の測定を行った。各例の組成と評価試験結果は、後述の表1に示す。
【0031】
接触温熱感試験は、官能評価と接触後の肌の表面温度測定によって行った。まず予め70℃の恒温機にて24時間以上放置した試験体に、右手の手のひらを10秒間試験体に接触させた。手のひらを試験体から離した後にサーモグラフィーに手のひらを向けて測温し、手のひらの最高温度を計測値として用いた。
その後、サーモグラフィーによる手のひら温度を測定した治験者から下記凡例に基づいてアンケートをとり官能試験結果とした。判定基準1~3の試験体は熱刺激を感じているため不合格品とした。
(凡例)
1 熱くて3秒以上触れない
2 熱くて10秒以上触れない
3 10秒以上触れられるが、熱刺激(痛み)がある
4 熱刺激は感じないが、やや熱い
5 暖かい
6 少し暖かい
【0032】
耐溶剤性試験は、試験体に石油ベンジンを付着させて1時間放置したのち水洗いにより除去し、水洗い直後と24時間後の状態を目視で外観観察することで行った(A:劣化なし B:軽微な劣化あり)。
【0033】
表面硬度は、ロックウェル硬度試験機(仲井精機製作所製)によって試験体表面のロックウェル硬度を測定し、ロックウェル硬度が100以上を示すものを合格品とした。圧子は球Φ12.7mm(Rスケール、硬さ記号:HRR)を用いた。なお分銅は3.3kgのものを使用した。
【0034】
発泡層の熱浸透率は(熱伝導率×密度×比熱)1/2の式により算出される。熱伝導率、比熱、密度は成形した試験体から発泡層を切り出して、それぞれ次の方法により測定した。
【0035】
熱伝導率λは、発泡体をΦ50mm、厚み約1mmで切り出し、定常法により算出した。すなわち、測定熱流(q)を試料に流した状態で定常状態になるまで放置し、その際の試料両端面の温度差(ΔΘ)を測定した。その後、q、ΔΘおよび試料厚さ(Δx)をフーリエの法則に適用してλ=(q/ΔΘ)×Δxの式によって算出した。
【0036】
密度ρは、上で切り出した発泡体の重量Wを測定し、さらに発泡体の5点平均厚みを測定して上記Φから体積Vを求め、ρ=W/Vの式によって算出した。
【0037】
比熱は、示差走査熱量計(DSC、NETZSCH製 DSC3500 Sirius)によりアルゴンガス雰囲気下で測定を行った。
【0038】
また、多孔質層の発泡倍率は次式より算出した。
発泡倍率=(発泡状態での多孔質層の密度)/(非発泡状態での多孔質層の密度)
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1~5に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてポリスチレン(PS)で構成され、発泡倍率が1.2~2.0倍である。これらの建材の熱浸透率は308J/(m・s1/2・K)以下であった。これらの建材は、接触温熱感試験における10秒間接触後の皮膚温度が43℃未満であり、官能試験によっても痛みを感じずに触れることができた。また、多孔質層表面のロックウェル硬度も十分に大きく、建材として十分な硬度を有していた。
【0041】
実施例6に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてポリプロピレン(PP)で構成される。発泡倍率1.5倍の条件において熱浸透率は307J/(m・s1/2・K)であり、実施例1~5と同様に良好な接触温熱感低減効果と十分な硬度を有していた。また、ポリスチレンで構成される実施例1~3および5に対して、高い耐溶剤性を示していた。
【0042】
比較例1および2に係る建材の試験体は、多孔質層の発泡倍率が1倍(発泡しない)および1.1倍である。これらの建材の多孔質層の熱浸透率は334J/(m・s1/2・K)以上であった。これらの建材は、接触温熱感試験における10秒間接触後の皮膚温度が43℃を超え、官能試験によっても痛みを感じる結果となった。
【0043】
比較例3に係る建材の試験体は、多孔質層の発泡倍率が2.2倍である。この建材は、熱浸透率は178J/(m・s1/2・K)と小さく接触温熱感試験の結果は良好であるものの、ロックウェル硬度が小さく建材としては不十分であった。
【0044】
比較例4に係る建材の試験体は、多孔質層が主としてポリエチレン(PE)で構成され、発泡倍率が1.5倍である。この建材は、熱浸透率は616J/(m・s1/2・K)と大きく、良好な接触温熱感低減効果が得られない結果となった。ポリエチレンを主成分に用いたこの建材の多孔質層は熱伝導率および比熱が大きいため、ポリスチレンを用いた場合と比べて熱浸透率が大きくなっている。
【0045】
実施例5に係る建材の試験体は、多孔質層中に化学発泡剤でなく中空充填剤を使用して構成されている。多孔質層中に化学発泡剤を使用し、ほぼ同程度の発泡倍率および熱浸透率を有する実施例1および4と比較すると、接触温熱感試験の結果に大きな差はみられない。したがって、多孔質層は中空充填剤を使用して構成されてもよい。
【0046】
また、実施例4に係る建材の試験体は、多孔質層中にゴム系充填剤が配合されている。実施例1~3、5および比較例1~3を見ると、ポリスチレンを用いて構成される多孔質層は小さい熱伝導率および比熱を有し、小さな熱浸透率を実現することに適しているが、耐溶剤性試験において表面に劣化が見られる。しかしながらゴム系充填剤を配合した実施例4においてはクラックの進展が防止され、溶剤付着後も表面が劣化しにくい。
【0047】
以上、実施例および比較例に基づいて、本発明の建材について詳細に説明した。本発明によれば、人体接触時の温熱感を低減できる建材を提供することができる。
【0048】
また本発明の建材は、夏場の日照等で高温となった場合の接触熱感の低減だけでなく、冬場の冷気等で低温となった場合に接触冷感を低減する目的で使用されることができる。
【0049】
なお本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、上記の実施形態を変形・改良したものについても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 建材
2 基材層
3 多孔質層
31 空孔
4 凹凸構造
図1
図2