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  • 特許-ゴム又は樹脂用添加剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ゴム又は樹脂用添加剤
(51)【国際特許分類】
   C08K 3/04 20060101AFI20240219BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240219BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240219BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C08K3/04
C08K5/13
C08L71/02
C08L101/00
C08L21/00
C08J3/20 B CEQ
C08J3/20 B CER
C08J3/20 B CEZ
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019066121
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164638
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083721(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159566(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/090343(WO,A1)
【文献】特開2013-173843(JP,A)
【文献】特表2002-508422(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027039(WO,A1)
【文献】特開2018-083724(JP,A)
【文献】特開2015-199647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 71/00-71/14
C08L 101/00-101/16
C08L 7/00-21/02
C08J 3/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び疎水基を有する有機化合物とを含有する、ゴム又は樹脂用添加剤であって、
前記親水基が、フェノール性水酸基及び/又はポリオキシエチレン基であり、
前記疎水基が、2個以上の芳香環を有するアリール基であり、
前記薄片状カーボンの含有量は、前記ゴム又は樹脂用添加剤の総量を100質量%として、50~99.5質量%である、
ゴム又は樹脂用添加剤。
【請求項2】
前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び疎水基を有する有機化合物を0.01~0.9質量部含有する、請求項1に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
【請求項3】
前記親水基が、ポリオキシエチレン基である、請求項1又は2に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
【請求項4】
前記親水基が、フェノール性水酸基である、請求項1又は2に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤の製造方法であって、
(1)前記薄片状カーボンと、前記親水基及び疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有する分散体から溶媒を除去する工程を備える、製造方法。
【請求項6】
前記溶媒を除去する工程が、前記分散体を濃縮する工程である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が水である、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤と、熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する、ゴム又は樹脂強化組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーが、芳香族高分子化合物である、請求項8に記載のゴム又は樹脂強化組成物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のゴム又は樹脂強化組成物の製造方法であって、(2)前記ゴム又は樹脂用添加剤と、熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種とを混合する工程を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム又は樹脂用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費向上やスポーツのパフォーマンス向上のために、複合樹脂及びゴムの強度向上と軽量化の両立が望まれている。樹脂及びゴムに添加剤を入れるほど弾性率は向上する(例えば、特許文献1参照)が、柔軟性が損なわれて強度が向上しなかったり、比重が増したりする問題がある。
【0003】
一方、グラフェンシートは、炭素原子がハニカム格子状に並んだ2次元単層シートであり、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等の構成単位でもある。このグラフェンシートが厚み100nm以下程度に積層された薄片状カーボン(本発明において、グラフェンシートも含む概念である)は、その特異な諸物性を有していることから、様々な材料に使用される新たな材料として注目を浴びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-183132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄片状カーボンのようなナノカーボン材料は微細な構造のものほど凝集しやすく、そのポテンシャルをいかんなく発揮することが難しく、十分に強度を向上させることはできなかった。
【0006】
本発明は、ゴム又は熱可塑性樹脂中に分散しやすく、且つゴム又は熱可塑性樹脂の引張強度を向上させることができるゴム又は樹脂用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有することで、ゴム又は熱可塑性樹脂中に分散しやすく、且つゴム又は熱可塑性樹脂の引張強度を向上させることができるゴム又は樹脂用添加剤が得られることを見出した。本発明者らは、当該知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の構成を包含する。
項1.厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有する、ゴム又は樹脂用添加剤。
項2.前記薄片状カーボン1質量部に対して、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を0.01~0.9質量部含有する、項1に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
項3.前記親水基が、一般式(1)~(4):
【0008】
【化1】
【0009】
[式中、-OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。Rは2価の有機基を示す。Xは水素原子、アルカリ金属、NH又は有機アンモニウムを示す。Xは水素原子、アルカリ金属、NH、有機アンモニウム又はアルキル基を示す。一般式(2)の酸素原子はエーテル結合である。]
で表される少なくとも1種である、項1又は2に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
項4.前記親水基が、フェノール性水酸基及び/又はポリオキシエチレン基である、項1~3のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
項5.前記疎水基が、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、及び炭素数3以上のポリオキシアルキレン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~4のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
項6.前記疎水基が、2個以上の芳香環を有するアリール基である、項1~5のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤。
項7.項1~6のいずれか1項に記載のゴム又は樹脂用添加剤の製造方法であって、
(1)前記薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有する分散体から溶媒を除去する工程を備える、製造方法。
項8.前記溶媒を除去する工程が、前記分散体を濃縮する工程である、項7に記載の製造方法。
項9.前記溶媒が水である、項7又は8に記載の製造方法。
項10.項1~6のいずれか1項に記載の熱伝導材料と、熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する、ゴム又は樹脂強化組成物。
項11.前記熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーが、芳香族高分子化合物である、項10に記載のゴム又は樹脂強化組成物。
項12.項10又は11に記載のゴム又は樹脂強化組成物の製造方法であって、
(2)前記ゴム又は樹脂用添加剤、並びに溶媒を含む分散体と、熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種とを混合する工程
を備える、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゴム又は熱可塑性樹脂中に分散しやすく、且つゴム又は熱可塑性樹脂の引張強度を向上させることができるゴム又は樹脂用添加剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が少ない場合(薄片状カーボンの表面に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が被覆されている場合)の本発明のゴム又は樹脂用添加剤の構成を示す。
図2】親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が多い場合(炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物中に薄片状カーボンが分散している場合)の本発明のゴム又は樹脂用添加剤の構成を示す。
図3】実施例2で得られた薄片状カーボンの断面の透過型電子顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明するが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【0014】
1.ゴム又は樹脂用添加剤
本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、厚みが1~100nmである薄片状カーボンと、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含有する。
【0015】
(1-1)薄片状カーボン
薄片状カーボンとしては、薄いほうがゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性に優れるため好ましいが、その厚みは1~100nm、好ましくは1~20nmである。また、同様に、厚みが1~10nmである薄片状カーボンの含有割合は、薄片状カーボンの総数を100%として、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。つまり、厚みが大きい薄片状カーボンが含まれてもよいが、多数の薄片状カーボンの厚みは10nm以下であることが好ましい。なお、薄片状カーボンの厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0016】
薄片状カーボンは、薄いほうがゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性に優れるため好ましいが、300層以下(つまり1~300層)のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンが好ましく、1~60層のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンがより好ましい。また、同様に、積層数が1~30層である薄片状カーボンの含有割合は、薄片状カーボンの総数を100%として、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。つまり、厚みが大きい薄片状カーボンが含まれてもよいが、多数の薄片状カーボンの厚みは30層以下であることが好ましい。なお、薄片状カーボンの積層は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定した厚みにより算出する。
【0017】
薄片状カーボンは、通常、多くの凸角と凹角を有する平面形状をしているため、厚み以外のサイズは一概には規定しにくい。本明細書では、一枚の薄片状カーボンにおいて最も離れている凸角間の距離をその薄片状カーボンの大きさとする。
【0018】
このような薄片状カーボンの大きさは、20nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、200nm以上がさらに好ましい。このような大きさの薄片状カーボンを使用することにより、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性をさらに向上させやすい。なお、薄片状カーボンの大きさは、大きい方がゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性に優れており好ましいため、大きさの上限は限定されないが、通常100μmである。また、薄片状カーボンの大きさは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定する。
【0019】
本発明のゴム又は樹脂用添加剤において、薄片状カーボンの含有量は、特に制限されないが、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点から、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の総量を100質量%として、50~99.5質量%が好ましく、60~99.2質量%がより好ましい。
【0020】
(1-2)親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物
本発明においては、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、本発明のゴム又は樹脂用添加剤中の薄片状カーボンを均一分散した状態で維持することができる。なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
【0021】
このような親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、特に制限されるわけではなく、薄片状カーボンの分散剤として機能し得る種々多様な有機化合物(特に水溶性化合物)を使用し得る。
【0022】
なかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が有する疎水基としては、特に制限はないが、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、炭素数3以上のポリオキシアルキレン基等が好ましい。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、このような疎水基を、1種又は2種以上含むことができる。また、複数の疎水基を使用する場合には、同じ疎水基を複数用いてもよいし、同じ疎水基を複数用いてもよいし、異なる疎水基を複数用いてもよい。
【0023】
アルキル基としては、鎖状アルキル基でも分岐鎖状アルキル基でもよいが、炭素との親和性の観点から、鎖状アルキル基が好ましい。また、アルキル基の炭素数は、炭素との親和性の観点から、2以上が好ましく、3~22がより好ましく、4~18がさらに好ましい。このようなアルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(又はラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(又はミリスチル基)、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(又はセチル基)、オクタデシル基等が挙げられる。
【0024】
このアルキル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。なお、シクロアルキル基及びアリール基としては、後述のものが例示される。
【0025】
アルキル基の置換基としてのアラルキル基としては、後述のアリール基と炭素数1~6のアルキル基を有する炭素数7~14のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。
【0026】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0027】
アルケニル基としては、炭素との親和性と水溶性の観点から、炭素数は2以上が好ましく、3~100がより好ましく、4~30がさらに好ましい。このようなアルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、オレイル基、リノレイル基等が挙げられる。
【0028】
このアルケニル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。なお、アラルキル基としては前記したものが例示され、シクロアルキル基及びアリール基としては、後述のものが例示される。
【0029】
アルケニル基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0030】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0031】
シクロアルキル基としては、炭素数5~10(好ましくは5~8、特に5~6)のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が好ましい。
【0032】
このシクロアルキル基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0033】
シクロアルキル基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0034】
シクロアルキル基の置換基としてのアリール基及びアラルキル基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0035】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0036】
アリール基としては、炭素数6~22(特に6~18)のアリール基が好ましく、単環アリール基、縮環アリール基及び多環アリール基のいずれも採用でき、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、テトラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、アセナフチレニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基等が挙げられる。なお、炭素との親和性の観点から、2個以上の芳香環を有するアリール基(縮環アリール基及び多環アリール基)が好ましい。
【0037】
このアリール基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基等が挙げられる。
【0038】
アリール基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0039】
アリール基の置換基としてのシクロアルキル基及びアラルキル基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0040】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。
【0041】
ポリオキシエチレン基は通常親水性であるが、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等、炭素数3以上のポリオキシアルキレン基は重合度が上がるほど疎水性が増し、疎水基として機能する。特に重合度4以上のポリオキシプロピレン基、重合度3以上のポリオキシブチレン基が好ましい。ただし、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点では、重合度は1000以下が好ましい。例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンやポリオキシエチレン-ポリオキシブチレンを親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物として使用した場合には、ポリオキシプロピレン基及びポリオキシブチレン基も疎水基として機能し得る。
【0042】
この炭素数3以上のポリオキシアルキレン基は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0043】
炭素数3以上のポリオキシアルキレン基の置換基としてのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
【0044】
炭素数3以上のポリオキシアルキレン基の置換基としてのシクロアルキル基、アラルキル基及びアリール基としては、前記例示したものが挙げられる。
【0045】
なお、置換基としては、上記のみに制限されず、フルオレン構造由来の基(フルオレニル基等)を有していてもよい。特に、水溶性を重視する場合は置換基としてフェニル基等が好ましく、薄片状カーボンとの相溶性を重視する場合は置換基としてナフチル基、フルオレニル基等が好ましい。
【0046】
このような疎水基としては、炭素との親和性や、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、アリール基及び炭素数3以上のポリオキシアルキレン基が好ましく、アリール基がより好ましく、2個以上の芳香環を有するアリール基(縮環アリール基及び多環アリール基)がさらに好ましい。具体的には、ナフチル基、アントラセニル基、テトラセニル基、フェナントレニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、アセナフチレニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、重合度4以上のポリオキシプロピレン基、重合度3以上のポリオキシブチレン基等が好ましい。
【0047】
また、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が有する親水基としては、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水に対する溶解度を上昇させることができるものであれば特に制限はないが、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、一般式(1)~(4):
【0048】
【化2】
【0049】
[式中、-OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基を示す。Rは2価の有機基を示す。Xは水素原子、アルカリ金属、NH又は有機アンモニウムを示す。Xは水素原子、アルカリ金属、NH、有機アンモニウム又はアルキル基を示す。一般式(2)の酸素原子はエーテル結合である。]
で表される親水基が好ましい。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、このような親水基を、1種又は2種以上含むことができる。また、複数の親水基を使用する場合には、同じ親水基を複数用いてもよいし、同じ一般式で表される親水基を複数種用いてもよいし、異なる一般式で表される親水基を複数種用いてもよい。
【0050】
一般式(1)において、-OHはアルコール性水酸基及びフェノール性水酸基のいずれも採用し得る。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点からは、アルコール性水酸基が好ましいものの、フェノール性水酸基を含む場合(特に、複数のフェノール性水酸基を含む場合)は、必然的に疎水性に優れたベンゼン環も含むこととなり、全体としてゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等に優れるため好ましい。
【0051】
特に、ベンゼントリオール構造(ピロガロール構造、ヒドロキシキノール構造、フロログルシノール構造等)、ベンゼンジオール構造(カテコール構造、レゾルシノール構造、ヒドロキノン構造)等を有する場合(特に2個以上有する場合)には、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性に特に優れ、スチレン・ブタジエンゴム等のゴムに対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化に特に有効である。このような構造を有する親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、人工的に合成した化合物のみならず、天然由来のポリフェノールを使用することもできる。
【0052】
ポリフェノールは、多価フェノールとも呼ばれる化合物の総称であり、芳香族炭化水素の2個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物、又はそれらの混合物の総称を意味する。このようなポリフェノールとしては、特に制限はなく、例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、クエルセチン、ヘスペリジン、タンニン酸、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン等が挙げられる。これらのなかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、片状カーボンの分散性、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、タンニン酸、カテキン等が好ましい。
【0053】
これらのポリフェノールは、多くの植物中に存在しているため、植物をそのまま使用してもよいし、植物抽出物を使用してもよい。一方、ポリフェノールを常法により精製して使用してもよい。特に、安定した親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の効果が得られることから、精製物(アルコール精製物等)を使用することが好ましい。
【0054】
一般式(2)において、Rで示される2価の有機基としては、特に制限されず、2価の炭化水素基が好ましい。2価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(アルキレン基(又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基、アルキレン(又はアルキリデン)-シクロアルキレン基、ビ又はトリシクロアルキレン基等)、芳香族炭化水素基(アリーレン基、アルキレン(又はアルキリデン)-アリーレン基等)等が挙げられる。
【0055】
一般式(2)において、基Rで示されるアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、アルキレン基が好ましく、C1-8アルキレン基がより好ましく、C1-4アルキレン基がさらに好ましく、C2-4アルキレン基が特に好ましく、C2-3アルキレン基が最も好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン-2-イリデン基、1,2-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン-2,3-ジイル基等が例示できる。
【0056】
一般式(2)において、基Rで示されるシクロアルキレン基としては、C5-10シクロアルキレン基が好ましく、C5-8シクロアルキレン基がより好ましい。具体的には、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が例示できる。
【0057】
一般式(2)において、基Rで示されるアルキレン(又はアルキリデン)-シクロアルキレン基としては、アルキレン-シクロアルキレン基が好ましく、C1-6アルキレン-C5-10シクロアルキレン基がより好ましく、C1-4アルキレン-C5-8シクロアルキレン基がさらに好ましい。具体的には、メチレン-シクロへキシレン基、エチレン-シクロへキシレン基、エチレン-メチルシクロへキシレン基、エチリデン-シクロへキシレン基等が例示できる。
【0058】
一般式(2)において、基Rで示されるビ又はトリシクロアルキレン基としては、具体的には、ノルボルナン-ジイル基等が例示できる。
【0059】
一般式(2)において、基Rで示されるアリーレン基としては、C6-10アリーレン基が好ましい。具体的には、フェニレン基、ナフタレンジイル基等が例示できる。
【0060】
一般式(2)において、基Rで示されるアルキレン(又はアルキリデン)-アリーレン基としては、アルキレン-アリーレン基が好ましく、C1-6アルキレン-C6-20アリーレン基がより好ましく、C1-4アルキレン-C6-10アリーレン基がさらに好ましく、C1-2アルキレン-フェニレン基が特に好ましい。具体的には、メチレン-フェニレン基、エチレン-フェニレン基、エチレン-メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基等が例示できる。
【0061】
これらのうち、2価の脂肪族炭化水素基、特に、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基等のC1-4アルキレン基等)が好ましい。
【0062】
なお、アルキレン(若しくはアルキリデン)-シクロアルキレン基並びにアルキレン(アルキリデン)-アリーレン基とは、-Ra-Rb-(式中、Raは、一般式(2)において、それぞれ別個の酸素原子に結合したアルキレン基又はアルキリデン基、Rbはシクロアルキレン基又はアリーレン基を示す)で表される基を示す。
【0063】
このような一般式(2)で表される親水基としては、特に制限されず、例えば、-OCO-、-OCO-、-OCHO-等が使用され得る。これらを複数(好ましくは3~100個)有するものも好ましく使用することができ、例えば、トリオキシエチレン基、テトラオキシエチレン基、ポリオキシメチレン基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等を使用することができる。特に一般式(2)で表される親水基が3つ以上重合した構造を有する場合は、Rの炭素が多いほど(例えば炭素数3以上)親水性が下がり疎水性を増すため、重合度が増しても親水性を保持できる-OCO-、-OCHO-が好ましい。
【0064】
このような一般式(2)で表される親水基、特にポリオキシアルキレン基、さらにはポリオキシエチレン基を有する場合は、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性に特に優れ、ポリプロピレン等の樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化に特に有効である。
【0065】
一般式(3)において、Xで示されるアルカリ金属としては、特に制限されず、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
【0066】
一般式(3)において、Xで示される有機アンモニウムとしては、第四級アンモニウムが好適であり、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が好適に使用され得る。
【0067】
このような一般式(3)で表される親水基としては、特に制限されないが、例えば、-SO 、-SO Na、-SO 、-SO Li、-SO NH 、-SO N(CH 、-SO N(C 、-SO N(C 、-SO N(C 等が挙げられる。
【0068】
一般式(4)において、Xで示されるアルカリ金属及び有機アンモニウムとしては、上記例示したものが挙げられる。
【0069】
一般式(4)において、Xで示されるアルキル基としては、鎖状アルキル基でも分岐鎖状アルキル基でもよいが、炭素との親和性や、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点から、鎖状アルキル基が好ましい。また、アルキル基の炭素数は、炭素との親和性や、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点から、1~2が好ましい。
【0070】
このような一般式(4)で表される親水基としては、特に制限されないが、例えば、-COOH、-COONa、-COOK、-COOLi、-COONH、-COON(CH、-COON(C、-COON(C 、-COON(C 等が挙げられる。
【0071】
これら親水基のなかでも、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、pHによらない安定性、薄片状カーボンの分散性、や、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、一般式(1)又は(2)で表される親水基が好ましい。
【0072】
ただし、一般式(2)で表される同じ親水基を複数有する、つまり重合した構造を有する場合、炭素数2以下は重合度が増すほど水溶性化合物の親水性は高くなるが、炭素数3以上の場合は重合度が増すほど疎水性が増す可能性がある。
【0073】
また、本発明において、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物として、非イオン系材料(ノニオン界面活性剤等)を使用する場合には、そのHLB値は、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水溶性、薄片状カーボンの分散性、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、12以上が好ましく、13~19がより好ましい。なお、疎水基を同じとした場合(薄片状カーボンとの親和性が同程度の場合)には、HLB値は高いほど好ましい。
【0074】
上記のような条件を満たす親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、特に制限はないが、芳香族水溶性化合物を使用してもよいし、非芳香族水溶性化合物を使用してもよいが、芳香族水溶性化合物が好ましい。親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシプロピレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンウンデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンウンデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレントリデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンペンタデシルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンペンタデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル、コール酸ナトリウム、コール酸カリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸カリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンカリウム、デカグリセリンラウリン酸エステル、n-デシルアルコール、カテキン(緑茶由来ポリフェノール等)、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、クエルセチン、ヘスペリジン、タンニン酸、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン等が挙げられる。
【0075】
このような親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、例えば、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン130K、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン210P、エマルゲン220(以上、花王(株)製ポリオキシエチレンアルキルエーテル類)、トリトンX-100、トリトンX-114、トリトンX-305、トリトンX-405(ダウケミカル社製ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類)、ノイゲンEN、ノイゲンEN-10(第一工業製薬(株)製ポリオキシエチレンナフチルエーテル)、タンニン酸、カテキン類(エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート。エピガロカテキンガレート、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等、ポリフェノール類を含む)、没食子酸、没食子酸エステル、柿渋(タンニン類を含む)等を使用できる。
【0076】
本発明のゴム又は樹脂用添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点から、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の総量を100質量%として、0.5~50質量%が好ましく、0.8~40質量%がより好ましい。また、本発明のゴム又は樹脂用添加剤中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性の観点から、薄片状カーボン1質量部に対して、0.01~0.9質量部が好ましく、0.02~0.8質量部がより好ましい。なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が少ない場合には、本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、薄片状カーボンの表面に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が被覆されている構成を有する(図1)。一方、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が多い場合には、本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物中に薄片状カーボンが分散している構成を有する(図2)。いずれの場合も、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が薄片状カーボンの周囲に介在することで、薄片状カーボンの凝集を抑制し、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率に優れた材料を得ることができる。
【0077】
(1-3)他の成分
本発明のゴム又は樹脂用添加剤において、薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物以外にも、他の成分を含ませてもよい。このような他の成分としては、例えば、カーボンファイバー(特に繊維径500nm以下のカーボンナノファイバー)、活性炭、カーボンブラック(アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等;特に導電性が高く、比表面積が大きいケッチェンブラック)、ガラス状カーボン、カーボンマイクロコイル、フラーレン、バイオマス系炭素材料(バガス、ソルガム、木くず、おがくず、竹、木皮、稲ワラ、籾殻、コーヒーかす、茶殻、おからかす、米糠、パルプくず等を原料としたもの;リグニンから製造したカーボンファイバー等)、セルロースナノファイバー、窒化ホウ素、モリブデン化合物(二硫化モリブデン、有機モリブデン等)、二硫化タングステン、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等)、メラミンシアヌレート、フタロシアニン、酸化鉛、フッ化カルシウム、層状鉱物(マイカ、タルク等)等を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することもできる。
【0078】
ただし、ゴム又は樹脂中に分散させやすく、塗布する際の塗膜の均一性、密着性等をさらに向上させ、ゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性をさらに向上させる観点からは、他の成分の含有量は少ないことが好ましく、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の総量を100質量%として、0.01~10質量%が好ましく、0.02~5質量%がより好ましい。
【0079】
このような本発明のゴム又は樹脂用添加剤の形状としては、特に制限はなく、塗膜、シート、塊状体等を挙げることができる。
【0080】
このような本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、上記のとおり、ゴム又は熱可塑性樹脂中に分散しやすく、且つ樹脂又はゴムの引張強度、引張伸び、弾性率等を強化することができる材料であり、従来の添加剤においては、弾性率は向上するものの引張強度や引張伸びが低下していたのと比較すると、ゴム又は樹脂の強化に有利な材料である。
【0081】
このような本発明のゴム用添加剤は、タイヤ、靴底、運動用品、床タイル、ベルト、ホース、耐衝撃容器、防振ゴム、ロール、電線被覆、塗料、シール材、パッキン、ガスケット、窓やドアの枠、ウェザーストリップ、帯電防止シート、ダイヤフラム、コーキング材、手すり、熱可塑性エラストマー添加剤等、樹脂用添加剤は、各種射出成形品、押出成形品、シート成形品、ブロー成形品、圧縮成形品等の用途に用いることができる。
【0082】
2.ゴム又は樹脂用添加剤の製造方法
本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、例えば、
(1)前記薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有する分散体から溶媒を除去する工程
により製造することができる。
【0083】
(2-1)分散体(薄片状カーボン分散体)
薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物と、溶媒とを含有する分散体(薄片状カーボン分散体)において、薄片状カーボンと、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物については、上記した説明を採用することができる。また、薄片状カーボン分散体には、必要に応じて、上記した他の成分を含ませることもできる。
【0084】
この薄片状カーボン分散体は、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。この際、薄片状カーボン分散体(薄片状カーボン分散液又は薄片状カーボン塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、薄片状カーボンの分散性、得られるゴム又は樹脂用添加剤におけるゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。
【0085】
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボンの分散性、得られるゴム又は樹脂用添加剤におけるゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、溶媒の総量を100質量%として、70質量%以上(70~100質量%)が好ましく、75~100質量%がより好ましい。
【0086】
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の水への溶解性をより向上させるために、メタノール、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2-メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
【0087】
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の溶解度、得られるゴム又は樹脂用添加剤におけるゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の観点から、溶媒の総量を100質量%として、30質量%以下(0~30質量%)が好ましく、5~25質量%がより好ましい。
【0088】
上記薄片状カーボン分散体において、薄片状カーボンの含有量は、特に制限されないが、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の組成としやすい観点から、薄片状カーボン分散体の総量を100質量%として、20質量%以下が好ましく、0.0001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。また、同様に、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の組成としやすい観点から、薄片状カーボン分散体の総量を100質量%として、0.000001~30質量%が好ましく、0.00001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。同様に、上記薄片状カーボン分散体中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の組成としやすい観点から、薄片状カーボン1質量部に対して、0.01~0.9質量部が好ましく、0.02~0.8質量部がより好ましい。さらに、溶媒の含有量は、特に制限されないが、本発明のゴム又は樹脂用添加剤の組成としやすい観点から、薄片状カーボン分散体の総量を100質量%として、40~99.9998質量%が好ましく、63~99.998質量%がより好ましく、85~99.98質量%がさらに好ましい。
【0089】
(2-2)薄片状カーボン分散体の製造方法
本発明において、上記薄片状カーボン分散体の製造方法は、特に制限されず、溶媒に対して薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入することもできる。具体的には、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の分散体に薄片状カーボンを投入することもできるし、薄片状カーボンの分散体に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入することもできる。また、溶媒中に、薄片状カーボン及び親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を同時に投入することもできる。
【0090】
ただし、薄片状カーボンの分散性をより向上させて凝集しにくくし、得られる本発明のゴム又は樹脂用添加剤のゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性をさらに高める観点からは、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の炭素質材料に対してせん断を加えることが好ましい(磨砕法)。
【0091】
また、薄片状カーボン分散体は、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物に対して、30MPa以上の加圧処理を行うことによっても好ましく製造することができる(高圧分散法)。
【0092】
従来は、湿式法にて薄片状カーボンを作製する場合、薄片状カーボンの酸化物及び水性溶媒を含む水分散体に還元処理を施していたが、この方法ではグラフェン構造を維持することが困難であるとともに、得られる薄片状カーボンが激しく凝集してしまうため、薄片状カーボン水分散体を得ることは困難であった。また、安全性の観点でも問題があった。一方、本発明においては、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、均一分散した状態(薄片状カーボン分散体)で薄片状カーボンを得ることができ、得られる薄片状カーボンも破壊されにくく、短時間で薄片状カーボンを得ることもできるうえに剥離し損ねた塊も残存しにくい。この際、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
【0093】
また、せん断方法によれば、力のかかる方向が層状構造を有する炭素質材料の面方向と平行であり、且つ、狭い空間で処理するため、従来の高速攪拌、超音波処理等による製造方法と比較して、破壊が少なく、大きめのサイズの薄片状カーボン(例えば、大きさが1μm以上の薄片状カーボン)を得ることができ、剥離の効率がよく短時間(少ないパス回数)で処理を行うことができるとともに、剥離し損ねた厚みのある塊が残りにくい。
【0094】
層状構造を有する炭素質材料
層状構造を有する炭素質材料としては、特に制限はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛、酸化黒鉛等が挙げられる。酸化黒鉛とは、例えば、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素等の1種以上の酸化剤により酸化された黒鉛が使用され得る。例えば、ハマーズ法により酸化黒鉛を得る場合には、黒鉛を濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて黒鉛を酸化させた後、反応物を希硫酸及び/又は過酸化水素でクエンチし、その後、蒸留水で洗浄すること等により、炭素原子に酸素原子が結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化黒鉛を得ることができる。
【0095】
なかでも、酸素等の異種原子を含まない純度の高い薄片状カーボンを得ようとする場合には、黒鉛を原料として用いることが好ましく、天然黒鉛及び膨張黒鉛がより好ましい。なお、膨張黒鉛を使用する場合は、グラフェン構造の酸化が少ない膨張黒鉛を採用することが好ましい。また、膨張黒鉛を使用する場合は、300~1000℃程度で10秒~5時間程度加熱処理を加えてから用いてもよい。これにより、適度に膨張させた膨張黒鉛とすることも可能である。
【0096】
また、製造の容易さを重視する場合には、酸化黒鉛を使用してもよい。酸化黒鉛を使用することにより、層間に溶媒分子が挿入されやすく、層方向にのみ剥離させることが容易であり、薄片化効率及び分散性が向上するため、処理時間をより短くすることが可能である。ただし、酸化黒鉛を使用する場合には、後に還元処理が必要となり、グラフェン構造、導電性及び強度をより維持する観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛)が好ましい。
【0097】
一方、分散性をより向上させるために、土状黒鉛を採用することも可能である。ただし、結晶性、純度及び構造維持の観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、酸化黒鉛)が好ましい。
【0098】
また、得られる薄片状カーボンの結晶性、強度、構造維持等を重視する場合には、人造黒鉛を使用することもできる。
【0099】
本発明において、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物における層状構造を有する炭素質材料の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物の総量を100質量%として、20質量%以下が好ましく、0.0001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。なお、層状構造を有する炭素質材料の含有量は、薄いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られ、処理回数をより少なくできる傾向があるとともに、粘度を適切に維持してせん断処理等を行いやすい傾向がある。一方、層状構造を有する炭素質材料の含有量が濃いほうがより生産性に優れている。このため、薄片化の効率、粘度、生産性等のバランスの観点から、層状構造を有する炭素質材料の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該薄片状カーボン分散体中の層状構造を有する炭素質材料の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0100】
親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物
親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物としては、上記したものを採用できる。
【0101】
本発明において、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、特に制限されないが、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物の総量を100質量%として、0.000001~30質量%が好ましく、0.0001~15質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましい。一方、本発明において、薄片状カーボン分散体を製造するために用いられる組成物中における親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、層状構造を有する炭素質材料1質量部に対して、0.01~0.9質量部が好ましく、0.02~0.8質量部がより好ましい。なお、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量は、薄いほうが相対的に層状構造を有する炭素質材料の含有量が大きくなりゴム又は樹脂に対する引張強度、引張伸び、弾性率等の強化特性等の強化特性が向上しやすいとともに、安価に処理しやすい。一方、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量が濃いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られる傾向があるが、粘度が高くなると逆に薄片化効率が下がる可能性もある。このため、引張強度、引張伸び、弾性率、コスト、薄片化の効率等のバランスの観点から、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、この製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該炭素質材料分散体中の親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0102】
溶媒
上記した薄片状カーボン分散体の製造方法においては、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を用いて、特定の処理を行うことが好ましいが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られるゴム又は樹脂用添加剤の引張強度、引張伸び、弾性率等の観点から、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む炭素質材料分散体に対して、特定の処理を行うことが好ましい。
【0103】
この炭素質材料分散体としては、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。
【0104】
この際、炭素質材料分散体(炭素質材料分散液又は炭素質材料塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、上記したものを採用できる。
【0105】
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体中の溶媒の総量は、特に制限されないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の溶解度等の観点から、炭素質材料分散体の総量を100質量%として、40~99.9998質量%が好ましく、63~99.998質量%がより好ましく、85~99.98質量%がさらに好ましい。
【0106】
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物分散体に層状構造を有する炭素質材料を投入してもよいし、層状構造を有する炭素質材料分散体に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を投入してもよい。また、溶媒中に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを同時に投入してもよい。
【0107】
他の成分
本発明において、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物(例えば、炭素質材料分散体等)には、他の成分を含ませてもよい。これにより、最終的に得られる薄片状カーボン分散体やゴム又は樹脂用添加剤中にも、これら他の成分を含ませることができる。このような他の成分としては、上記したものを採用でき、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。ただし、樹脂中に分散させやすく、塗布する際の塗膜の均一性、密着性、引張強度、引張伸び、弾性率等をさらに向上させるゴム又は樹脂用添加剤を得やすい観点からは、他の成分の含有量は少ないことが好ましく、炭素質材料分散体の総量を100質量%として、0.00001~5質量%が好ましく、0.0001~2質量%がより好ましい。
【0108】
せん断処理(摩砕法)
本発明では、磨砕法を採用する場合、上記のとおり、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記組成物中の炭素質材料に対してせん断を加える処理を行うことが好ましい。なお、炭素質材料分散体を使用する場合には、回転する回転盤と、前記回転盤と略平行に設置された盤との間に、炭素質材料分散体を設置し、前記回転盤と前記盤との最短距離が200μm以下となるように調整しながら、前記炭素質材料分散体中の炭素質材料に対してせん断を加える処理を行うことが好ましい。
【0109】
せん断処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このようなせん断処理を施す際の前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、厳密に平行でなくてもよい。具体的には、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とのなす角は10°以下が好ましく、5°以下がより好ましい。なお、前記回転盤に垂直な軸と、前記盤に垂直な軸とが厳密に平行であることが最も好ましい。このようなせん断処理を施す際の二面間の最短距離は、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はないが、200μm以下が好ましく、1~50μmがより好ましく、2~30μmがさらに好ましい。なお、前記回転盤と前記盤とは略平行に設置されているが、前記回転盤と前記盤との距離は場所によって異なることもある。この場合、前記回転盤と前記盤との最短距離は、前記回転盤と前記盤との間の距離のうち、最も短い箇所の距離を意味する。また、必ずしもあらかじめ前記回転盤と前記盤とを空ける必要はなく、前記回転盤と前記盤との間に処理する材料を挟んでもよく、また、前記回転盤と前記盤とを接触させておき、層状構造を有する炭素質材料が挟まることにより前記回転盤と前記盤との間が広がる状態になってもよい。このようなせん断処理は、盤状のものを回転させる機構があればよく、石臼、振動式ミキサー、スピンコーター、グラインダー等を用いて行い得る。
【0110】
この際使用できる前記回転盤と前記盤の大きさは特に制限はなく、5~500mmが好ましく、10~200mmがより好ましい。また、せん断処理を行う際の回転盤の回転数は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる範囲とすることが好ましく、例えば、1000~10000ppmが好ましく、2000~5000ppmがより好ましい。
【0111】
このようなせん断処理をすることにより、盤と層状構造を有する炭素質材料、層状構造を有する炭素質材料と層状構造を有する炭素質材料を接触させて層状構造を有する炭素質材料に対して層状構造を有する炭素質材料のグラフェン層と平行方向にせん断をかけることができる。
【0112】
せん断処理における前記回転盤と前記盤との間の最短距離を小さくし、回転盤の回転速度を早くすることにより、条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。このせん断操作は、1回以上、好ましくは3回以上行い得る。
【0113】
せん断処理を行う温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0℃以上、さらに0~100℃、特に20~95℃とし得る。なお、せん断処理を行う温度は、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物の溶解度が高い条件がよく、温度が高いほうが溶解度が増す場合は高温のほうが好ましく、曇点を有する水溶性化合物を使用する場合は曇点以下の温度に保持することが好ましい。
【0114】
上記のせん断処理を行う前に、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とをよく接触させるため、撹拌装置、超音波分散装置等を用いて組成物を作製する前にあらかじめ撹拌し、層状構造を有する炭素質材料表面に、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物をなじませておいてもよい。
【0115】
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記せん断処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物1質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、60~120℃がさらに好ましい。還元時間は10分~64時間が好ましく、30分~48時間がより好ましく、1~24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
【0116】
上記した製造方法によれば、薄片状カーボンは、上記した薄片状カーボン分散体として得られ得る。この製造方法では、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を含んでいるため、薄片状カーボン分散体においても、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が含まれている。この親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボン表面に吸着して溶媒中で薄片状カーボンを高濃度に孤立分散させることも可能であるため、薄片状カーボン分散体においては分散剤としても機能する。また、前記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は市販品を用いることができ、コスト及び分散性の両方で従来品より優位性がある。さらに、この親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、薄片状カーボン表面に残存することによって、十分な引張強度、引張伸び、弾性率等を発揮することができる。
【0117】
また、従来の酸化処理及び還元処理を行う方法においては、還元処理の際にプラスチック基板が加水分解されること、還元処理を施すと薄片状カーボンが凝集するため分散体として存在し得ないこと等から、プラスチック基板上に薄片状カーボン分散体を形成することは不可能であったが、本発明においては、上記親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を含ませつつ特定の処理を行うことで、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板が加水分解を受けることなく、薄片状カーボン分散体を基板上に形成することも可能である。
【0118】
加圧処理(高圧分散法)
本発明では、高圧分散法を採用する場合、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料と、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物とを含む組成物に対して、30MPa以上の加圧処理を行うことが好ましい。
【0119】
加圧処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このような加圧処理を施す際の加圧レベルは、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はないが、30MPa以上が好ましく、50~400MPaがより好ましく、100~300MPaがさらに好ましい。このような加圧処理は、高圧分散装置や超臨界水作製装置等を用いて行い得る。高圧分散装置は力学的な圧力をかけることにより分散することができ、超臨界水作製装置においては、水を加熱することにより系の圧力を上げることができる。
【0120】
このような加圧により、例えば、
(i)2個以上の前記炭素質材料分散体同士を衝突させること、
(ii)前記炭素質材料分散体と金属又はセラミックス材料(炭化ケイ素、アルミナ等高硬度の材料)とを衝突させること、
(iii)前記炭素質材料分散体を断面積1cm以下の空間を通過させること
等の処理を行い得る。
【0121】
上記(i)及び(ii)によれば、加圧条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。また、上記(iii)によれば、グラフェン構造をより維持しつつ、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより適切に行うことができる。この加圧操作を1回以上、好ましくは10回以上行うことができる。
【0122】
加圧温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、上記(i)及び(ii)の場合は0~100℃、特に20~95℃とし得る。また、上記(iii)の場合、力学的に圧力をかける場合は、0~100℃が好ましく、水の超臨界状態により圧力を生み出す場合は、373~700℃が好ましく、380~450℃がより好ましい。
【0123】
なお、前記加圧処理を行う際には、予備処理(前処理)として、超音波分散処理を行い、層状構造を有する炭素質材料の微粒化を行っておくことが好ましい。これにより、目詰まり防止等の効果を有し得る。
【0124】
超音波分散処理を施す際の出力は特に制限はないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化の観点から、通常行われる超音波分散処理(40~50W程度)よりも強力なものとすることが好ましい。具体的には、超音波分散処理の出力は、100W以上が好ましく、300~20000Wがより好ましく、400~18000Wがさらに好ましい。
【0125】
超音波分散温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0~80℃、特に10~70℃とし得る。超音波分散時間は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる時間とすればよく、1~600分、特に3~120分とし得る。
【0126】
また、これらの処理の前処理又は後処理として、通常の機械的撹拌、乳化装置による分散処理、ビーズミルによる分散処理等の他の分散装置による分散処理を併用してもよい。
【0127】
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記加圧処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物1質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40~200℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、60~120℃がさらに好ましい。還元時間は10分~64時間が好ましく、30分~48時間がより好ましく、1~24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
【0128】
(2-3)本発明のゴム又は樹脂用添加剤の製造方法
本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、上記の薄片状カーボン分散体から溶媒を除去することで得ることができる。
【0129】
溶媒を除去するためには、薄片状カーボン分散体を濃縮する方法が挙げられ、薄片状カーボン分散体の乾燥の他、基板上に薄片状カーボン分散体をスピンコートや塗布後に乾燥する方法、通常の固液分離により本発明の熱伝導材料を回収する方法等により実施することができる。固液分離を行う方法としては、例えば、通常の固液分離に使用されている方法、例えば、濾紙、ガラスフィルター等を用いて濾過する方法;遠心分離後に濾過する方法;減圧濾過器を使用する方法を例示できる。次に、乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50~200℃程度で1~24時間程度乾燥させる方法を例示できる。
【0130】
3.薄片状カーボン材料
本発明のゴム又は樹脂用添加剤は、薄片状カーボン表面に親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物で覆われていたり、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物中に薄片状カーボンが分散している構成を有していたりしても、十分な引張強度、引張伸び、弾性率等を有しているが、必要に応じて、当該親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を除去することができる。具体的には、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は、400~600℃、好ましくは450~550℃の熱処理により除去し、本発明の薄片状カーボン材料を得ることができる。
【0131】
従来の分散剤は、分散剤分子と薄片状カーボンとの疎水性相互作用を利用して吸着していると考えられ、また分子量が比較的大きいため、その吸着力も大きいと考えられる。他方、本発明で用いる親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は薄片状カーボンと化学結合はしておらず、また分子量が小さいため従来品と比べて吸着力も弱い。よって、本発明で用いる親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物は従来品よりも本発明のゴム又は樹脂用添加剤から除去し易いという利点がある。
【0132】
このようにして、薄片状カーボン材料を得ることができるが、この際得られる薄片状カーボンは、分散剤としての親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が除去された後であっても凝集を抑制することができ、その引張強度、引張伸び、弾性率等を十分に発揮することができる。この点、上記した薄片状カーボン分散体及び本発明のゴム又は樹脂用添加剤を経由するからこそ得られる特性であり、市販の薄片状カーボン等では凝集が避けられない。
【0133】
4.ゴム又は樹脂強化組成物
本発明のゴム又は樹脂強化組成物は、上記した本発明のゴム又は樹脂用添加剤又は本発明の薄片状カーボン材料と、熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種とを含有する。
【0134】
本発明のゴム又は樹脂用添加剤や薄片状カーボン材料は、薄片状カーボンの凝集を抑制しており、他材料(例えばゴム、樹脂等)中に分散しやすい材料であるため、他材料と混合等することにより、薄片状カーボンを含むナノコンポジット等へ適用することが可能である。
【0135】
このような他材料としては、より具体的には、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられ、ゴムとしては、ジエン系ゴム(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等)、オレフィン系ゴム(エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム等)、アクリル系ゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーン系ゴム(シリコーンゴム等)、多硫化ゴム、フッ素ゴム等が挙げられ、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエチレン構造を有する熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン構造を有する熱可塑性エラストマー、ブタジエン構造を有する熱可塑性エラストマー(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体等)、ポリエチレンテレフタレート構造を有する熱可塑性エラストマー、ポリアミド6構造を有する熱可塑性エラストマー、ポリアミド66構造を有する熱可塑性エラストマー、ポリアミド11構造を有する熱可塑性エラストマー、ポリアミド12構造を有する熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これら他材料は、公知又は市販品を用いることができる。
【0136】
これらの熱可塑性樹脂、ゴム及び熱可塑性エラストマーとしては、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物が有する疎水基と相互作用(例えばπ電子相互作用等)することによって本発明のゴム又は樹脂用添加剤との相溶性をさらに向上させる観点からは、芳香族高分子化合物が好ましい。具体的には、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体等が好ましい。また、炭素材料との親和性の観点から、ポリアミド系の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーも好ましい。
【0137】
本発明のゴム又は樹脂強化組成物において、上記した他材料の含有量は、特に制限はなく、引張強度、引張伸び、弾性率等の観点から、本発明のゴム又は樹脂用添加剤や薄片状カーボン材料1質量部に対して、0.05~99質量部が好ましく、0.1~97質量部がより好ましい。
【実施例
【0138】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0139】
実施例1:薄片状カーボン+ポリオキシエチレンナフチルエーテル+ポリプロピレン
500gの人造黒鉛(昭和電工(株)製)、ポリオキシエチレンナフチルエーテル(HLB値18)250g及び水10000gを混合し、600Wの超音波分散装置を用いて5分間分散処理を加え、高圧分散装置を用いて245MPaで分散処理(2個以上の炭素質材料分散液同士を衝突させる)を100回行った。
【0140】
得られた分散液を220℃でスプレードライを行い、直径約50μmのパウダーを得た。
【0141】
このパウダーを走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、積層数は平均で4層であり、厚みは平均で1.5nmであった。
【0142】
また、このパウダーを15g(このうち薄片状カーボンが10g)とポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C;以下「PP」と言うこともある)185gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、150gのペレットを得た。
【0143】
比較例1:ポリプロピレンのみ
ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)200gを、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、170gのペレットを得た。
【0144】
比較例2:黒鉛+ポリプロピレン
鱗片状黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)10gとポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)190gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、160gのペレットを得た。
【0145】
比較例3:カーボンナノファイバー+ポリプロピレン
カーボンナノファイバー(昭和電工(株)製)10gとポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)190gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、150gのペレットを得た。
【0146】
比較例4:黒鉛+ポリプロピレン
実施例1で用いた人造黒鉛(昭和電工(株)製)10gとポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)190gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、170gのペレットを得た。
【0147】
比較例5:黒鉛+ポリプロピレン
球状黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)10gとポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)190gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、170gのペレットを得た。
【0148】
比較例6:市販グラフェン+ポリプロピレン
COを原料にして製造されたグラフェン(グラフェンテクノロジー社製)10gとポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製BC6C)190gとを混合した後、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて210℃で混練を行い、170gのペレットを得た。
【0149】
試験例1:引張試験(その1)
実施例1及び比較例1~6で得られたペレットは80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機((株)新興セルビック製C,MOBILE-0813)を用いて、230℃で長さ75mm×平行部幅5mm×平行部長さ35mm×厚さ2mmのダンベル型試験片に成形し、JIS K7161-1:2014に準拠して、引張試験を行った。結果を表1に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
比較例2~6は比較例1(PP単体)に対して、引張弾性率は向上するものの、引張強度及び引張伸びは低下していた。つまり、硬くはなるが、脆くなっていると考えられる。これは、カーボン成分とPPとの親和性が悪く、界面からの破断が起こっていると推定される。
【0152】
一方、実施例1は比較例1に対して、引張弾性率、引張強度及び引張伸びの全てが向上しており、柔軟性を損なわずに強靭になっていた。これは親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を表面に吸着した状態で混練したため、PP中に薄片状カーボンが分散し、且つ、界面の親和性が向上したためと推測できる。
【0153】
実施例2:薄片状カーボン+ポリオキシエチレンナフチルエーテル+スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、ポリオキシエチレンナフチルエーテル(HLB値18)125g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。
【0154】
この混合液を半径300mmのセラミックグラインダーを用いて、1500rpmで30分間のせん断処理を1回施した。なお、セラミックグラインダーの最短距離は、約10μmであった。
【0155】
得られた分散液を90℃減圧下で乾燥し、黒色のフレーク状固体を得た。得られた薄片状カーボンの断面を透過型電子顕微鏡で観察した。結果を図3に示す。
【0156】
この固体10gとスチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(熱可塑性エラストマー;旭化成ケミカルズ(株)製タフプレンA)190gとを混合し、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて200℃で混練を行い、150gのペレットを得た。
【0157】
実施例3:薄片状カーボン+ポリオキシエチレンナフチルエーテル+スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、ポリオキシエチレンナフチルエーテル(HLB値13)125g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。この混合液を用いて、以下は実施例2と同様に操作を行い、実施例3のペレットを150g得た。
【0158】
実施例4:薄片状カーボン+ポリオキシエチレンナフチルエーテル+スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、ポリオキシエチレンナフチルエーテル(HLB値13)250g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。
【0159】
この混合液を半径300mmのセラミックグラインダーを用いて、1500rpmで30分間のせん断処理を1回施した。なお、セラミックグラインダーの最短距離は、約10μmであった。
【0160】
得られた分散液を90℃減圧下で乾燥し、黒色のフレーク状固体を得た。
【0161】
この固体12gとスチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(熱可塑性エラストマー;旭化成ケミカルズ(株)製タフプレンA)188gとを混合し、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて200℃で混練を行い、150gのペレットを得た。
【0162】
実施例5:薄片状カーボン+タンニン酸+スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、タンニン酸(キシダ化学(株)製)250g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。この混合液を用いて、以下は実施例4と同様に操作を行い、実施例5のペレットを150g得た。
【0163】
実施例6:薄片状カーボン+緑茶由来ポリフェノール+スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体
500gの天然黒鉛(伊藤黒鉛工業(株)製)、緑茶由来ポリフェノール((株)ファーマフーズ製)250g及び水10000gを混合して攪拌することで、混合液を得た。この混合液を用いて、以下は実施例4と同様に操作を行い、実施例6のペレットを150g得た。
【0164】
比較例7:スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体のみ
スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(熱可塑性エラストマー;旭化成ケミカルズ(株)製タフプレンA)200gのみを、二軸押出機((株)テクノベル製KZW15TW-30MG-NH、直径15mm、L/D=30)を用いて200℃で混練を行い、170gのペレットを得た。
【0165】
試験例2:引張試験(その2)
実施例2~6及び比較例7で得られたペレットは80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機((株)新興セルビック製C,MOBILE-0813)を用いて、210℃で長さ75mm×平行部幅5mm×平行部長さ35mm×厚さ2mmのダンベル型試験片に成形し、JIS K7161-1:2014に準拠して、引張試験を行った。結果を表2に示す。
【0166】
【表2】
【0167】
実施例2~6はカーボン成分を4質量%と多量に添加しているにもかかわらず、比較例7と比較して、引張強度が向上していた。また、実施例2~6においては、比較例7と比較して、弾性率も向上していた。このことは、添加剤を添加すると、通常引張強度が低下することからは想定外の結果である。また、実施例3に対して、同じ有機化合物の量を増やした実施例4は引張強度が相対的に低下しているが、実施例4と同じ有機化合物の量でも実施例5及び6は強度が高かった。実施例5及び6に用いた有機化合物は、ポリフェノールであり、実施例2~4に用いた有機化合物と比較して多い3つ以上のベンゼン環を有する。このベンゼン環とエラストマーのスチレン構造のベンゼン環とπ電子相互作用が発生し、強度が向上したと考えられる。
【0168】
このように、従来はカーボン材料をゴム又は樹脂に複合した場合、弾性率は向上するが、柔軟性が低下するため引張伸びが低下し、その結果引張強度も低下する傾向がみられたが、本発明では、親水基及び炭素と親和性の高い疎水基を有する有機化合物を薄片状カーボンと共存させてゴム又は樹脂への分散を行うことで、ゴム又は樹脂の弾性率及び引張伸びを同時に向上し、その結果引張強度も向上させることができた。
図1
図2
図3