(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】炭素材料複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/23 20170101AFI20240219BHJP
C01B 32/225 20170101ALI20240219BHJP
【FI】
C01B32/23
C01B32/225
(21)【出願番号】P 2019082888
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018086823
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018123224
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】鴻巣 修
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/074125(WO,A1)
【文献】特開2014-118563(JP,A)
【文献】特表2014-529319(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102012216828(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0044646(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0056819(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0055458(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0022649(US,A1)
【文献】特開2017-088451(JP,A)
【文献】特開2017-178770(JP,A)
【文献】特開2017-171523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体を製造する方法であって、
該製造方法は、
黒鉛に対する硫酸の質量比(硫酸/黒鉛)が25~60となる量で硫酸を用いて黒鉛を酸化する工程、
該酸化工程で得られた
、酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と
、該水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して10~1000質量%の量の、疎水性基が炭化水素基であり、親水性基が陽イオン電離基を含む陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、
炭素材料複合体を
、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により精製する工程、並びに、
該精製工程で精製された炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛の層間を剥離する工程を含むことを特徴とする炭素材料複合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、更に、
前記水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して10~1000質量%の量の非イオン性界面活性剤を混合することを特徴とする請求項
1に記載の炭素材料複合体の製造方法。
【請求項3】
前記水系分散液は、水系分散液100質量%に対して硫酸イオンを1質量%以上含有することを特徴とする請求項1
又は2に記載の炭素材料複合体の製造方法。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される
炭素材料複合体であって、
該酸化黒鉛は、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が5.5以下であることを特徴とする炭素材料複合体。
【請求項5】
請求項
4に記載の炭素材料複合体が分散媒中に分散してなることを特徴とする分散体。
【請求項6】
酸化黒鉛を製造する方法であって、
該製造方法は、
黒鉛に対する硫酸の質量比(硫酸/黒鉛)が25~60となる量で硫酸を用いて黒鉛を酸化する工程、
該酸化工程で得られた
、酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と
、該水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して10~1000質量%の量の、疎水性基が炭化水素基であり、親水性基が陽イオン電離基を含む陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、
酸化黒鉛を
、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により精製する工程、並びに、
該精製工程で精製された酸化黒鉛の層間を剥離する工程
を含むことを特徴とする酸化黒鉛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料複合体の製造方法に関する。より詳しくは、触媒、電池やキャパシタの電極活物質、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑油用添加剤、高分子(樹脂)用添加剤、透過膜材料、抗菌材料、撥水材料、吸着材料等として好適に用いることができる炭素材料複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、硬度等の特性に優れ、半導体、電池、自動車、情報通信、産業機器等の分野で種々用いられている。
炭素材料の1種である酸化黒鉛は、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ層状構造をもつ黒鉛を酸化し、酸素含有官能基を付与したものであり、その特異な構造や物性のために数多くの研究がなされている。酸化黒鉛は、触媒、電池やキャパシタの電極活物質、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑油用添加剤、高分子用添加剤、透過膜材料、抗菌材料、撥水材料、吸着材料等の種々の用途に用いることが期待されている。
【0003】
酸化黒鉛の製造方法としては、黒鉛を酸溶媒中で強力な酸化剤と作用させることで酸化黒鉛を合成する方法が一般的であり、酸化剤として硫酸と過マンガン酸カリウムを用いるHummers法が知られている(非特許文献1参照)。またその他の方法として、硝酸と塩素酸カリウムを用いるBrodie法、酸化剤として硫酸、硝酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法等が知られている。
【0004】
例えば、酸化黒鉛誘導体の製造方法として、黒鉛を酸化する工程と、酸化黒鉛誘導体を得る工程との間に、酸化工程で得られる酸化黒鉛を含む反応液に、水に対する溶解度が0.01%以上であって、かつ、水と任意には混和しない溶媒を添加した後、酸化黒鉛含有組成物を分離することが開示されている(特許文献1参照)。
ところで、精製済みの酸化グラフェン(酸化黒鉛)とカチオン性脂質とから得られる複合体が凝集してなる凝集物が開示されている(特許文献2参照)。また、酸化黒鉛がよく分散した酸化黒鉛分散体を得るために、精製・乾燥済みの酸化黒鉛粉末を脱イオン水に分散させた分散体に低分子量のポリエチレングリコールを添加し、超音波処理を行ったことが開示されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/082263号
【文献】特開2012-153590号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】William S. Hummers, et.al, J. Am. Chem. Soc, 1958, 80, 1339.
【文献】Vineet Dua, et.al, Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、炭素材料の1種である酸化黒鉛の製造方法として種々の方法が知られているが、酸化工程で酸化黒鉛を得た後、酸化黒鉛を反応溶液中から精製することが一般的であり、通常は遠心分離を繰り返して行ったり、反応液をろ過したりする。前者の場合、工程が煩雑になるとともに廃液の量が多くなるといった課題があり、後者の場合、フィルターが目詰まりしやすいという課題があった。いずれの場合も、精製に手間がかかるため、高コスト化し、酸化黒鉛を製造する場合に効率的な生産の面から改善の余地があった。特に特許文献2では精製済みの酸化黒鉛にカチオン性脂質を作用させ複合体を得ることが想定されており、複合体を作製するためには精製が必要であり、工業的に実施する場合高コストとなる。これに対して、特許文献1に記載の方法は、水層・有機層の液/液分離により酸化黒鉛の分離を効率的に行うことが可能となり、高品質な酸化黒鉛を簡便に得ることができるものである。一方、酸化黒鉛を工業的に製造するうえで、酸化黒鉛の分離工程、特にろ過工程を更に効率的に行い、高品質な酸化黒鉛をより簡便に製造することが強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものでもあり、高品質な酸化黒鉛を簡便に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高品質な酸化黒鉛をより簡便に製造することができる方法について種々検討し、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液からの酸化黒鉛の精製の際に、少なくとも水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、並びに、陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体を精製する工程により、水系分散液中に酸が残留していても陽イオン性界面活性剤の作用によって炭素材料複合体が凝集し、分散性の低い大きな凝集体となり、水系分散液をろ過してもフィルターの目詰まりが起こりにくい等、精製に要する時間が非常に短くなるとともに、酸を充分に除去することができ、炭素材料複合体を極めて効率的に精製できることを見出した。この理由は、以下の通りであると考えられる。先ず、酸が残留していても陽イオン性界面活性剤の作用によって炭素材料複合体が凝集する作用について、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と、陽イオン性界面活性剤とを混合すると、酸化黒鉛と陽イオン性界面活性剤とが相互作用し、具体的には酸化黒鉛とカチオン交換反応が起こることで酸化黒鉛が疎水化され、陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体として凝集し、その結果、炭素材料複合体を酸や塩などの水溶性の不純物から容易に分離することができる。このカチオン交換反応は硫酸等の強酸が存在する系でも効果的に発現することがわかった。すなわち特許文献2に記載の発明と異なり、酸化工程後の水系分散液(反応液)に陽イオン性界面活性剤を混合することで、簡便に不純物を除去することが可能である。本発明者らは、このような製造方法により、高品質な炭素材料複合体を低コストかつ簡便に製造することが可能となり、この方法を特に炭素材料複合体の工業的製造に適用した場合に当該効果が顕著なものとなることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
また本発明者らは、上記酸化工程、上記混合工程、及び、上記精製工程を経て得られる炭素材料複合体は、分散媒中でその層間を好適に剥離できることを見出した。この理由は、酸化黒鉛の表面を陽イオン性界面活性剤で修飾することで、酸化黒鉛の表面側が疎水性となり、疎水部をもつ有機分散媒との相互作用が高まることで陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体が有機分散媒中で分散するようになり、酸化黒鉛の層間剥離が可能となるためであると考えられる。本発明者らは、このような方法により、高品質な炭素材料複合体を低コストかつ簡便に製造することが可能となり、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
また本発明者らは、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液に、陽イオン性界面活性剤に加えて非イオン性界面活性剤を混合する工程、並びに、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体を精製する工程により、水系分散液中に酸が残留していても非イオン性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤の作用によって炭素材料複合体が凝集し、分散性の低い大きな凝集体となり、水系分散液をろ過してもフィルターの目詰まりが起こりにくい等、精製に要する時間が非常に短くなるとともに、酸を充分に除去することができ、炭素材料複合体を極めて効率的に精製できることを見出した。また陽イオン性界面活性剤のみを加えた酸化黒鉛では疎水性が強く有機分散媒中でその層間を好適に剥離できるのに対し、非イオン性界面活性剤を同時に混合したものでは、疎水性を制御可能であり、水を含む高極性分散媒中での層間剥離が特に好適であることを見出した。この理由は、凝集力の弱い非イオン性界面活性剤による炭素材料複合体の凝集はあまり強固ではないので、高極性分散媒中でも剥離工程を経ることで容易に凝集を解き、再度分散媒に分散させることができるためと考えられる。すなわち、陽イオン性界面活性剤だけでなく、非イオン性界面活性剤を併用することで、分散性を制御可能である。更に、本発明者らは、陽イオン性界面活性剤が、第4級アンモニウム塩基のような高極性親水性基(陽イオン電離基)の他、ポリオキシアルキレン基等の比較的極性が低い低極性親水性基を有することで、親水性や極性の程度を調整でき、陽イオン性界面活性剤のみによって前述のような陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを併用した場合と同様の効果を発揮することが出来うることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体を製造する方法であって、該製造方法は、黒鉛を酸化する工程、該酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、並びに、炭素材料複合体を精製する工程を含むことを特徴とする炭素材料複合体の製造方法である。
本発明の炭素材料複合体の製造方法は、上記混合工程が、更に、非イオン性界面活性剤を混合することが好ましい。
本発明の炭素材料複合体の製造方法は、上記陽イオン性界面活性剤が、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有することが好ましい。
【0013】
本発明はまた、酸化黒鉛を製造する方法であって、該製造方法は、黒鉛を酸化する工程、該酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、並びに、酸化黒鉛を精製する工程を含むことを特徴とする酸化黒鉛の製造方法でもある。
【0014】
なお、本発明の炭素材料複合体の製造方法又は本発明の酸化黒鉛の製造方法の好ましい一実施形態では、上記精製工程は、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により炭素材料複合体又は酸化黒鉛を精製する工程である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭素材料複合体の製造方法により、高品質な炭素材料複合体を低コストで簡便に得ることができる。また得られた炭素材料複合体は、分散媒に非常によく分散できる。また、必要な場合は、本発明に係る界面活性剤を適宜組み合わせることで、炭素材料複合体の極性、疎水性を調整でき、炭素材料複合体を、用途に応じた適切な分散媒中で分散させたり層間剥離させたりするのに好適なものとすることができる。例えば、更に非イオン性界面活性剤を用いて得られる、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体や、陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体であって、陽イオン性界面活性剤が、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有する炭素材料複合体は、水を含む高極性分散媒中に分散させた場合であってもその層間を好適に剥離することができる。また得られた炭素材料複合体は樹脂系の分散媒に非常に良く分散できる。上述のとおりの効果により一般的な水系溶媒や有機溶媒だけでなく、樹脂前駆体であるモノマー等の樹脂系の分散媒に対しても非常に良く分散することが出来る。同様に必要な場合は、本発明に係る界面活性剤を適宜組み合わせることで、炭素材料複合体の極性、疎水性を調整でき、炭素材料複合体を、用途に応じた適切な樹脂系の分散媒中で分散させるのに好適なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において段落に分けて記載される個々の本発明の好ましい特徴を2つ以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態である。
【0017】
<炭素材料複合体の製造方法>
本発明の炭素材料複合体の製造方法における、上記酸化工程以降の各工程の順序については特に限定されないが、必要に応じて後述する酸化反応停止(クエンチ)工程を行った後、上記混合工程、上記精製工程をこの順で行うことが特に好ましい。また、上記混合工程前に更に酸化黒鉛の精製工程を適宜行ってもよく、例えば、必要に応じて酸化反応停止工程を行った後、酸化黒鉛の精製工程、上記混合工程、上記精製工程(炭素材料複合体の精製工程)をこの順で行ってもよい。更に、後述するように上記精製工程を混合工程の途中で行ってもよく(例えば、界面活性剤の一部を混合する工程を第1混合工程とし、残りの界面活性剤を混合する工程を第2混合工程とした場合に、上記精製工程を第1混合工程と第2混合工程との間で行ってもよく)、必要に応じて酸化反応停止工程を行った後、上記第1混合工程、上記精製工程、上記第2混合工程をこの順で行ってもよい。
【0018】
本発明の炭素材料複合体の製造方法により得られる炭素材料複合体は、陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成され、更に、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
中でも、本発明の炭素材料複合体の製造方法により得られる炭素材料複合体の好ましい一実施形態では、炭素材料複合体が陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤と酸化黒鉛とを含んで構成される。
例えば、本発明の炭素材料複合体の製造方法により得られる炭素材料複合体は、陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成され、更に、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。
上記酸化黒鉛は、グラフェン、黒鉛(グラファイト)等の黒鉛質の炭素材料を酸化することにより酸素が結合したもの(該炭素材料に酸素が結合したもの)であり、該酸素は黒鉛質の炭素材料に対しカルボキシル基、カルボニル基、水酸基、エポキシ基等の置換基として存在している。
上記酸化黒鉛は、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェンであることが好ましい。
なお、一般的にグラフェンとは、sp2結合で結合した炭素原子が平面的に並んだ1層からなるシートをいい、グラフェンシートが多数積層されたものはグラファイトといわれるが、本発明における酸化グラフェンには、炭素原子1層のみからなるシートだけではなく、2層~100層程度積層した構造を有するものも含まれる。該酸化グラフェンは、炭素原子1層のみからなるシートであるか、又は、2層~20層程度積層した構造を有するものであることが好ましい。
上記酸化黒鉛は、更に、硫黄含有基、窒素含有基等の官能基を有していてもよいが、全構成元素に対する炭素、水素、及び、酸素の構成元素としての含有率が97モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、酸化黒鉛が炭素、水素、及び、酸素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
【0019】
以下では、先ず、本発明の炭素材料複合体の製造方法における、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と、陽イオン性界面活性剤、又は、陽イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤とを混合する混合工程、炭素材料複合体を精製する精製工程について順に説明するが、後述するように精製工程を混合工程の途中で行ってもよい(例えば、界面活性剤の一部を混合する工程を第1混合工程とし、残りの界面活性剤を混合する工程を第2混合工程とした場合に、精製工程を第1混合工程と第2混合工程との間で行ってもよい)ことから、混合工程の説明中に精製工程についても説明する。次いで、精製工程で精製された炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛の層間を剥離する工程、精製工程前の黒鉛を酸化する工程について説明する。
【0020】
(混合工程)
本発明の製造方法は、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と、陽イオン性界面活性剤とを混合する混合工程を含む。
該混合工程では、水系分散液に陽イオン性界面活性剤を添加してもよく、陽イオン性界面活性剤に水系分散液を添加してもよく、容器に対して水系分散液と陽イオン性界面活性剤を同時に添加してもよい。また、本明細書中、混合方法は、特に限定されず、公知の方法で適宜行うことが可能であるが、例えば、撹拌や超音波処理を行ったり、公知の分散機を用いたりして固形分を均一に分散させることが好ましい。
【0021】
上記酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液は、酸化工程直後の反応組成物であってもよく、その後の濃縮工程で反応組成物から硫酸を除去したり、酸化反応停止(クエンチ)工程で反応組成物に水及び/又は過酸化水素水を添加したりした液であってもよいが、例えば酸化反応停止工程で反応組成物に水及び/又は過酸化水素水を添加した液であることが好ましい。
なお、水系分散液は、分散媒として水を含有していれば良く、その他に水と混和する有機分散媒を更に含有していてもよいが、炭素材料複合体の凝集し易さの観点から、有機分散媒を含有しないことが好ましい。
【0022】
本明細書中、陽イオン性界面活性剤は、一般的に界面活性剤と称される疎水性基と親水性基とを有する化合物のうち、親水性基として陽イオン電離基を有し、かつ陰イオン電離基を有しないものであり、言い換えれば、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液中で実質的に陽イオンに電離するものである。
酸化黒鉛は、このような陽イオン性界面活性剤と相互作用する。これにより、酸化黒鉛の表面が疎水性となり、有機分散媒との相互作用を高め層間剥離を可能とする。
【0023】
上記陽イオン性界面活性剤の疎水性基としては、例えば脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基が好ましいものとして挙げられる。炭化水素基の炭素数は、3以上であることがより好ましく、4以上であることが更に好ましく、5以上であることが一層好ましく、6以上であることがより一層好ましく、9以上であることが特に好ましい。炭化水素基の炭素数は、例えば24以下であることが好ましい。また、陽イオン性界面活性剤の親水性基は、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液中で実質的に陽イオンに電離する基(本明細書中、陽イオン電離基とも言う。)を含むことが好ましい。陽イオン電離基としては、例えば第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、アミン基等が好ましいものとして挙げられる。さらに疎水性基、親水性基は各一種類ずつである必要はない。例えば陽イオン性界面活性剤は、親水性基として、上記第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム塩基、アミン基のような陽イオン電離基(高極性親水性基)の他に同分子内にポリオキシアルキレン基(例えばポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基)、エーテル基、エステル基、水酸基等の比較的小さな極性をもつ官能基(低極性親水性基)を有していてもよい。陽イオン性界面活性剤が、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有することで、親水性や極性の程度を調整でき、一分子(陽イオン性界面活性剤のみ)により前述のような陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを混合した場合と同様の効果を発揮することが出来うる。すなわち、陽イオン性界面活性剤は、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有することが好ましい。陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基は、好ましくは、アルキレン基の炭素数が2~3であるポリオキシアルキレン基である。
【0024】
上記陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、ジメチルジステアリルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、トリス(ポリオキシアルキレン)ドデシルアンモニウム塩(例えば、テクスノールL7〔日本乳化剤株式会社製〕)などの第4級アンモニウム塩;ラウリル(ドデシル)ピリジニウム塩、セチルピリジニウム塩等のピリジニウム塩;ステアラミドプロピルジメチルアミン、ステアラミドエチルジエチルアミン等の脂肪酸アミドアミン;ステアロキシプロピルジメチルアミン等のアルキルエーテルアミン;ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルイミダゾリン等が好ましいものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、陽イオン性界面活性剤は、第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩であることが好ましい。第4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩の塩としては、好ましくはハロゲン化物及びヒドロキシドが挙げられ、ハロゲン化物の中でも塩化物が好ましい。
【0025】
上記精製工程において酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と混合する陽イオン性界面活性剤の量は適宜設定すればよいが、酸化黒鉛が分散してなる水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して10~1000質量%であることが好ましい。陽イオン性界面活性剤の量は、より好ましくは、酸化黒鉛が分散してなる水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して20~700質量%であり、更に好ましくは25~600質量%であり、特に好ましくは30~500質量%である。
【0026】
本発明の製造方法において、上記混合工程は、更に、非イオン性界面活性剤を混合することが好ましい。これにより、上述したように、後の精製工程において、精製に要する時間がより短くなるとともに、酸をより充分に除去することができ、炭素材料複合体を極めて効率的に精製できる。また、水系分散媒中でも炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛の層間剥離が可能となる。
上記混合工程が更に非イオン性界面活性剤を混合する場合、混合の順序は特に限定されないが、例えば上記混合工程が、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と非イオン性界面活性剤とを混合する第1混合工程、及び、非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する第2混合工程を含むものであってもよく、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液に、非イオン性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤を同時に混合するものであってもよい。
【0027】
上記混合工程の途中で、精製工程を行ってもよい。すなわち、界面活性剤の一部を混合する工程を第1混合工程とし、残りの界面活性剤を混合する工程を第2混合工程とした場合に、精製工程を第1混合工程と第2混合工程との間で行ってもよい。例えば、上記混合工程が、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と非イオン性界面活性剤とを混合する第1混合工程、及び、非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する第2混合工程を含む場合、第1混合工程と第2混合工程との間に、第1混合工程で得られた混合液から、非イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体を精製する工程を含んでいてもよい。なお、精製工程は特に限定されず、従来公知の方法を適宜用いることができるが、例えばろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法より精製する工程であることが好ましい。このように、第1混合工程と第2混合工程との間で予め硫酸を充分に洗い除いてもよく、これにより、続く第2混合工程において、酸化黒鉛の酸基が電離し、陽イオン性界面活性剤との相互作用がより強くなり、その結果、有機分散媒中で酸化黒鉛の層間を剥離する効果が顕著なものとなる。また、第1混合工程と第2混合工程との間に、例えばろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により、炭素材料複合体を精製した後、必要に応じて更に水洗を行ってもよい。精製工程については、混合工程の説明の後に詳しく説明する。
【0028】
なお、上記第1混合工程は、水系分散液に非イオン性界面活性剤を添加するものであってもよく、非イオン性界面活性剤に水系分散液を添加するものであってもよく、容器に対して水系分散液と非イオン性界面活性剤を同時に添加するものであってもよい。第2混合工程についても同様であり、水系分散液に陽イオン性界面活性剤を添加するものであってもよく、陽イオン性界面活性剤に水系分散液を添加するものであってもよく、容器に対して水系分散液と陽イオン性界面活性剤を同時に添加するものであってもよい。
【0029】
上記酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液に、非イオン性界面活性剤及び陽イオン性界面活性剤を同時に混合する場合、例えば、水系分散液に非イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤とをそれぞれ同時に添加してもよく、容器に対して水系分散液と非イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤とをそれぞれ同時に添加してもよい。
【0030】
本明細書中、非イオン性界面活性剤は、一般的に界面活性剤と称される疎水性基と親水性基とを有する化合物のうち、酸化工程で得られる酸化黒鉛が分散してなる水系分散液中で実質的にイオンに電離しないものである。
酸化黒鉛は、このような非イオン性界面活性剤と疎水的相互作用し、凝集する。これにより、ろ過等の精製工程を効率的に行うことができ、炭素材料複合体の製造を低コスト化できる。
【0031】
上記非イオン性界面活性剤の疎水性基としては、例えば脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等の炭化水素基が好ましいものとして挙げられる。炭化水素基の炭素数は、3以上であることがより好ましく、4以上であることが更に好ましく、5以上であることが一層好ましく、6以上であることがより一層好ましく、9以上であることが特に好ましい。炭化水素基の炭素数は、例えば24以下であることが好ましい。また、非イオン性界面活性剤の親水性基としては、例えばアルキレンオキシド基、エーテル基、エステル基、アミド基、水酸基等が好ましいものとして挙げられる。アルキレンオキシド基は、エチレンオキシド基であることがより好ましい。
【0032】
上記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルコールエトキシレート、ソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類、又は、これらの誘導体等が好ましいものとして挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。例えば、非イオン性界面活性剤は、アルコールエトキシレートがもつ(ポリ)エチレングリコール鎖の末端に水酸基(-OH)を有するもの(例えば、ソフタノール50、ソフタノール120〔株式会社日本触媒製〕)、ポリオキシエチレンソルビタンエステル類(例えば、ニューコール85〔日本乳化剤株式会社製〕)であることが特に好ましい。
【0033】
上記混合工程において水系分散液と混合する非イオン性界面活性剤の量は適宜設定すればよいが、水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して10~1000質量%であることが好ましい。非イオン性界面活性剤の量は、より好ましくは、酸化黒鉛を含む水系分散液中の酸化黒鉛100質量%に対して20~700質量%であり、更に好ましくは30~600質量%であり、特に好ましくは40~500質量%である。
【0034】
本発明の炭素材料複合体の製造方法において、少なくとも陽イオン性界面活性剤と混合される上記水系分散液は、水系分散液100質量%に対して硫酸イオンを1質量%以上含有することが好ましい。
上記硫酸イオンの含有量は、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。また、該硫酸イオンの含有量は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
上記硫酸イオンの含有量は、硫酸由来の硫酸イオンと、硫酸塩由来の硫酸イオンとの合計含有量である。
更に、上記水系分散液は、pHが2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。pHは、その下限値は特に限定されないが、通常-1以上である。
本発明の炭素材料複合体の製造方法では、混合工程で更に非イオン性界面活性剤を混合した場合、酸化工程等で用いた硫酸等の強酸存在下で、非イオン性界面活性剤が酸化黒鉛と相互作用して凝集するという意外な作用が発現し、本発明の効果をより顕著に発揮できる。
【0035】
本発明の炭素材料複合体の製造方法において、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液(界面活性剤との混合前の水系分散液)は、水系分散液100質量%に対して水濃度が20質量%以上であることが好ましい。
上記水濃度は、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。
このような水濃度の範囲内とすることで、酸化工程等で用いた硫酸存在下であっても、陽イオン性界面活性剤が酸化黒鉛と相互作用して凝集するという意外な作用がより充分に発現し、本発明の効果がより優れたものとなる。
また上記水濃度は、例えば、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明の炭素材料複合体の製造方法では、上述したように、混合工程で更に非イオン性界面活性剤を混合した場合、酸化工程等で用いた硫酸等の強酸存在下で、非イオン性界面活性剤が酸化黒鉛と相互作用して凝集するという意外な作用がより一層充分に発現し、本発明の効果がより一層優れたものとなり、顕著なものとなる。
【0037】
上述したように、精製工程を混合工程の途中で行ってもよく、例えば、本発明の製造方法が、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と非イオン性界面活性剤とを混合する第1混合工程、及び、非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する第2混合工程を含む場合、上述したように第1混合工程と第2混合工程との間で、第1混合工程で得られた混合液を精製してもよい。これにより、続く第2混合工程において、酸化黒鉛と陽イオン性界面活性剤との相互作用がより強いものとなる。例えば、非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液は、水系分散液100質量%に対して硫酸イオンを10質量%以下含有することが好ましい。該硫酸イオンの含有量は、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。また、該硫酸イオンの含有量は、その下限値は特に限定されず、0質量%であってもよい。
また非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液は、pHが2~10であることが好ましく、9以下であることがより好ましく、8以下であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の炭素材料複合体の製造方法において、非イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛が分散してなる水系分散液は、水系分散液100質量%に対して水濃度が20質量%以上であることが好ましい。
上記水濃度は、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。
また上記水濃度は、例えば、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
なお、上記混合工程は、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを先ず混合し、次いで、非イオン性界面活性剤を混合するものであってもよい。その場合も各種好ましい態様は、上記混合工程が、酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と非イオン性界面活性剤とを先ず混合し、次いで、陽イオン性界面活性剤を混合する場合と同様である。
【0040】
(炭素材料複合体の精製工程)
本発明の炭素材料複合体の製造方法において、上記混合工程において少なくとも酸化黒鉛を含む水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合した後、又は、上述したように上記混合工程が上記第1混合工程及び上記第2混合工程を含む場合に第1混合工程と第2混合工程との間に、炭素材料複合体を精製する工程が行われる。なお、精製工程は特に限定されず、従来公知の方法を適宜用いることができるが、例えばろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法より精製する工程であることが好ましい。
また、中でも、上記水系分散液と上記界面活性剤との混合工程を完了した後、精製工程を行うことが好ましい。なお、第1混合工程と第2混合工程との間で精製工程を行う場合、精製工程により得られる炭素材料複合体に対して更に残りの界面活性剤が混合されるため、精製工程により精製される炭素材料複合体は、当該残りの界面活性剤を含んでいない点で、本発明の製造方法により最終的に得られる炭素材料複合体とは異なるものである。
これらの方法を用いることで、水系分散液中の硫酸を効率的かつ充分に除去することができ、炭素材料複合体を短時間で精製することができる。その結果、炭素材料複合体の精製の際に、炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛が有する反応性の酸素含有官能基が還元及び/又は不活化されてしまうことを充分に防止でき、高品質な炭素材料複合体を得ることができる。なお、本明細書中、精製工程とは、水系分散液から固形不純物(例えば、過マンガン酸塩等の酸化剤等)及び/又は酸化反応時の溶媒(硫酸等の強酸等)を除く工程を言う。
これらの方法の中でも、より好ましくはろ過、分液抽出であり、更に好ましくはろ過である。上記精製工程によれば、陽イオン性界面活性剤の作用により水系分散液中で炭素材料複合体粒子の凝集が促進され、炭素材料複合体粒子が大きな凝集体となり、その結果、水系分散液をろ過してもフィルターの目詰まりが起こりにくく、ろ過に要する時間が非常に短い。また、混合工程で更に非イオン性界面活性剤を混合した場合は、凝集力の弱い非イオン性界面活性剤による炭素材料複合体の凝集はあまり強固ではないので、凝集塊中に水が入って硫酸を充分に洗い除くことができる。そして、混合工程で陽イオン性界面活性剤を混合しているので、酸化黒鉛が陽イオン性界面活性剤の陽イオン電離基と相互作用することで、陽イオン性界面活性剤の疎水性基が外側を向いて、酸化黒鉛の表面側が疎水性となるところ、その疎水性を利用し、極性の高い硫酸を追い出すことが出来る。このため、炭素材料複合体を精製する方法としてろ過を用いることで、高品質な炭素材料複合体を非常に簡便に得ることができる。
【0041】
なお、精製される炭素材料複合体は、少なくとも陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含むものであってもよく、精製工程前の混合工程で更に非イオン性界面活性剤を混合した場合は、更に非イオン性界面活性剤を含むものであってもよい。
【0042】
本発明の炭素材料複合体の製造方法において、炭素材料複合体をより簡便に得る観点からは、上記精製工程は、上述したうちの2種以下の方法により行われることが好ましく、1種の方法により行われることがより好ましい。また、上記方法を繰り返すことなく1工程で完了することが本発明の製造方法における好ましい形態の1つである。
またより充分に炭素材料複合体を精製する観点からは、上記方法は繰り返すことが好ましい。中でも、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法を繰り返して行うことが本発明の製造方法における好ましい形態の1つである。
上記精製工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよい。
【0043】
本発明の製造方法は、例えば、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により炭素材料複合体を精製した後、水洗等のその他の精製工程を含んでいてもよい。なお、上記精製工程の後、水洗を繰り返して行う場合、水洗の回数は、硫酸をより充分に除去し、後述する剥離工程において酸化黒鉛の層をより好適に剥離する観点からは、例えば1回以上であることが好ましく、2回以上であることがより好ましい。また、本発明の製造方法により得られる炭素材料複合体から使用した界面活性剤を除き過ぎない観点からは、水洗の回数は、例えば10回以下であることが好ましく、7回以下であることがより好ましい。なお、使用した界面活性剤を除き過ぎない観点から、水の代わりに水と使用した界面活性剤との混合液で洗浄してもよい。さらに最終的に得られる炭素材料複合体中の酸化黒鉛と各種界面活性剤との比率を任意に調整することもこの洗浄液を調製することで可能となる。
【0044】
(剥離工程)
また本発明の製造方法は、更に、上記精製工程で精製された炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛の層間を剥離する工程を含むことが好ましい。剥離工程は、上述したように酸化黒鉛の層間を剥離する工程であり、超音波処理やホモジナイザー処理等によって行うことができ、通常、剥離工程によりその層間が剥離された酸化黒鉛を含む炭素材料複合体は、分散媒に分散する。剥離工程は、精製工程で精製された、陽イオン性界面活性剤のみ、又は、陽イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤と、酸化黒鉛とを含んで構成される複合体を、分散媒と混合したうえで行うことができる。
なお、第1混合工程と第2混合工程との間で精製工程を行う場合は、精製工程の後、第2混合工程の前に剥離工程を行ってもよいが、第2混合工程の後に(混合工程が完了した後に)剥離工程を行うことが好ましい。
【0045】
本発明の炭素材料複合体の製造方法における、剥離工程で用いる分散媒について説明する。陽イオン性界面活性剤のみと酸化黒鉛との複合体では、分散媒として有機分散媒(水を含んでいてもよい)を使用でき、有機分散媒は、例えばプロピレンカーボネート、N-メチル-1-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール等が好ましく、特にプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトンであることが好ましい。これらの1種又は2種以上の混合分散媒を使用できる。さらにこれらの1種又は2種以上の混合分散媒を含む場合は上記好ましい分散媒以外の例えばトルエン、ヘキサンのような非極性分散媒であっても適宜混合することが可能であり、これは本発明の好ましい形態でもある。また、陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤と酸化黒鉛との複合体では、分散媒は、水を含有する水系分散媒、有機分散媒のいずれであってもよく、プロピレンカーボネート、N-メチル-1-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、水等が好ましく、特にプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、水であることが好ましい。これらの1種又は2種以上の混合分散媒を使用できる。さらにこれらの1種又は2種以上の混合分散媒を含む場合は上記好ましい分散媒以外の例えばトルエン、ヘキサンのような非極性分散媒であっても適宜混合することが可能であり、これは本発明の好ましい形態でもある。
上記精製工程により硫酸を充分に除去できることと、陽イオン性界面活性剤が表面に結合した酸化黒鉛が有機分散媒と好適に相互作用すること、陽イオン性界面活性剤に加えて非イオン性界面活性剤も表面に結合した酸化黒鉛は水系分散媒、有機分散媒のいずれにも好適に相互作用することから、剥離工程において酸化黒鉛の層を非常に好適に剥離し、その結果、炭素材料複合体を分散媒に分散させることができる。
【0046】
また上記分散媒としては、液状高分子化合物もまた好ましい。該液状高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シリコーンオイル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0047】
更に、上記分散媒としては、樹脂前駆体(モノマー)もまた好ましい。樹脂前駆体としては、親水性(水系)樹脂前駆体であっても親油性(有機系)樹脂前駆体であってもよく、従来公知の熱可塑性樹脂の前駆体、熱硬化性樹脂の前駆体、光硬化性樹脂の前駆体等を適宜使用できる。
【0048】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-オレフィン共重合体(エチレン-プロピレン共重合体等)、ポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン-アクリロニトリル-スチレン樹脂)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン-スチレン樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル樹脂;脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド等のアミド樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂等のその他のビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;PPE樹脂(ポリフェニレンエーテル樹脂)、変性PPE樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド等のフェニレン基含有樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリル等のポリエーテル樹脂;ポリカーボネート;シリコーン樹脂;ポリスルホン樹脂;液晶ポリマー;これら樹脂を得るために用いられるモノマーを適宜組み合わせて得られる共重合体等が挙げられる。
【0049】
上記熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ユリア樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0050】
上記光硬化性樹脂としては、例えばウレタン(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ(メタ)アクリル系樹脂等の光硬化性(メタ)アクリル系樹脂;ポリビニルアセテート樹脂等のポリビニルカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0051】
上記樹脂前駆体としては、上述した樹脂(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂)を得るために用いられるモノマーを使用でき、中でも、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(ビニルモノマー)、エポキシ化合物(エポキシモノマー)が好ましい。
上記エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとしては、単官能であってもよく、多官能であってもよく、例えば(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリル系モノマー:スチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルエーテル、ブタジエン等のその他のビニルモノマー等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
また上記エポキシ化合物としては、例えば脂環式エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0052】
また上記分散媒は、水、有機分散媒、液状高分子化合物、及び、樹脂前駆体からなる群より選択される少なくとも2種を組み合わせた混合分散媒であってもよい。
例えば、水系分散媒又は有機分散媒に、上述した液状高分子化合物や、樹脂前駆体が溶解又は分散しているものであってもよい。
【0053】
また上記分散媒は、樹脂を含むものであってもよく、例えば、上記分散媒が水及び/又は有機分散媒を含んでいて、該水及び/又は有機分散媒に、上述した樹脂が溶解又は分散しているものであってもよい。樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。例えば、水に水溶性樹脂が溶解しているものや、水にエマルション粒子が分散しているもの、有機分散媒にビニル樹脂等のポリマーが溶解しているものを分散媒として好適に使用できる。
なお、有機分散媒として、上述した剥離工程における好ましい有機分散媒を用いることが好ましい。
【0054】
以上を纏めると、上記分散媒は、水、有機分散媒、液状高分子化合物、樹脂、及び、樹脂前駆体からなる群より選択される1種であってもよく、少なくとも2種を適宜組み合わせた混合分散媒であってもよい。
【0055】
なお、上述したように、上記分散媒のうち、樹脂及び/又は樹脂前駆体を含む樹脂分散媒としては、例えば、エポキシ化合物(エポキシモノマー)、エポキシ樹脂、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(ビニルモノマー)、ビニル樹脂、これらモノマーを2種以上組み合わせて得られる共重合体、これらの2種以上の混合分散媒が好ましいものとして挙げられる。また、該樹脂分散媒が、更に、有機分散媒及び/又は水を含むものであっても構わない。
【0056】
なお、上記剥離工程における分散媒中の硫酸含有量は、例えば、分散媒100質量%に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
【0057】
上記剥離工程は、例えば空気中、又は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、上記剥離工程は、その温度条件は特に限定されないが、例えば10~50℃の範囲内で行うことが好ましい。また、また、上記剥離工程は、その圧力条件は特に限定されず、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよいが、例えば常圧条件下で行うことが好ましい。
上記剥離工程の時間は、炭素材料複合体分散液の総量、剥離装置のサイズにより適宜調整すればよいが、例えば、1分~120時間とすることができる。また、1~100分とすることが好ましく、2~80分とすることがより好ましい。
【0058】
(黒鉛を酸化する工程)
上記黒鉛を酸化する工程は、黒鉛が酸化されることになる限り、その方法は特に制限されず、上述したHummers法、Brodie法、Staudenmaier法等のいずれの方法における黒鉛の酸化方法を用いてもよく、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程であってもよい。
【0059】
上述した黒鉛を酸化する方法では、上記酸化工程は、通常、酸を用いて黒鉛を酸化する。
本発明の製造方法は、精製工程に供される水系分散液中に酸が残留するが、該酸が残留していても、陽イオン性界面活性剤が酸化黒鉛と相互作用して凝集し、酸等の不純物を容易に除くことが可能になるという意外な作用が発現する。その結果、高品質な炭素材料複合体を簡便に製造することができる。
【0060】
中でも、上記酸化工程が、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
また上記酸化工程において、硫酸の使用量は、黒鉛に対する硫酸の質量比(硫酸/黒鉛)が25~60となる量であることが好ましい。該質量比が25以上であることにより、酸化反応中に反応組成物(混合液)の高粘度化を充分に防止して酸化黒鉛を効率的に製造することができる。また、該質量比が60以下であることにより、廃液量を充分に少なくすることができる。
【0061】
上記酸化工程に用いる黒鉛は、平均粒子径が3μm以上、80μm以下であることが好ましい。このような平均粒子径のものを用いることで、酸化反応をより効率的に進めることができる。黒鉛の平均粒子径は、より好ましくは3.2μm以上、70μm以下である。
上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の平均粒子径を採用することが好ましい。
【0062】
上記酸化工程に用いる黒鉛の形状は特に制限されず、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、鱗片状、多面体状、ロッド状、曲面含有状等が挙げられる。なお、平均粒子径が上述のような範囲の粒子は、例えば、粒子を粉砕機等により粉砕する方法や、粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法、これら方法の組み合わせのほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒子径の粒子を得る方法等により製造することが可能である。
【0063】
上記黒鉛と硫酸とを含む混合液中における黒鉛の含有量は、混合液100質量%に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが特に好ましい。該黒鉛の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、6質量%以下であることが特に好ましい。
本発明の製造方法における酸化工程に用いる黒鉛は、1種のみであってもよく、上記平均粒子径、形状等のいずれかにおいて異なる2種以上のものを用いてもよい。
【0064】
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程で添加する過マンガン酸塩としては、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸バリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できるが、中でも過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムが好ましく、過マンガン酸カリウムがより好ましい。
【0065】
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程における上記過マンガン酸塩の全添加量は、上記混合液中の黒鉛量100質量%に対し、50~500質量%であることが好ましい。これにより、酸化黒鉛を安全かつ効率的に製造することができる。なお、酸化剤の全添加量を変化させることで、酸化黒鉛に導入される酸素原子の量を調節することができる。
【0066】
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程では、過マンガン酸塩を一括で添加してもよく、複数回に分けて添加してもよく、また連続的に添加しても良いが、複数回に分けて添加するか連続的に添加することが好ましい。これにより、酸化反応が急激に進行することを抑えて反応の制御をよりしやすくすることができる。
上記過マンガン酸塩を複数回に分けて添加する場合、1回当たりの添加量は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程では、上記混合液の温度を10~50℃の範囲内に維持しながら過マンガン酸塩を添加することが好ましい。このような温度範囲に維持することで、酸化反応を制御しながら充分に進行させることができる。
また上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程は、上記混合液の温度変化を30℃以下に維持しながら過マンガン酸塩を添加する工程であることが好ましい。これにより、より安定的に酸化工程を行うことができる。
【0068】
上記酸化工程が黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程である場合、上記酸化工程では、安定的に酸化工程を行う観点から、過マンガン酸塩を10分~10時間の間にわたって添加することが好ましい。
【0069】
上記酸化工程は、公知の撹拌機等を用いて撹拌しながら行うことが好ましい。
上記酸化工程は、例えば空気中、又は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、上記酸化工程は、その圧力条件は特に限定されず、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれであってもよいが、例えば常圧条件下で行うことが好ましい。
上記酸化工程は、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
【0070】
上記混合液は、黒鉛、硫酸、及び、必要に応じてその他の成分を混合して得ることができる。上記混合は、公知の方法で適宜行うことが可能であるが、例えば、超音波処理を行ったり、公知の分散機を用いたりして黒鉛を均一に分散させることが好ましい。
【0071】
本発明の炭素材料複合体の製造方法は、上述した黒鉛を酸化する工程と、上記精製工程との間に、熟成工程、酸化反応停止工程、濃縮工程等のその他の工程を含んでいてもよい。上述したように、例えば、酸化反応停止工程で反応組成物に水及び/又は過酸化水素水を添加した液を精製工程で水系分散液として用いることが好ましい。
【0072】
上記熟成工程において、酸化工程で得られた反応組成物を熟成させる温度及び時間は適宜選択すればよいが、反応組成物を0~90℃の温度に維持することが好ましい。
また熟成させる時間は、0.1~24時間であることが好ましい。
【0073】
上記酸化反応停止工程は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また真空中で行ってもよい。
上記酸化反応停止工程は、例えば、反応組成物の温度を5~15℃に設定し、反応組成物に水を添加し、次いで還元剤として過酸化水素水を添加したり、過酸化水素水のみを添加したりして行うことができる。また、反応組成物を、5~25℃に設定した、水又は過酸化水素水に添加して行ってもよい。
上記酸化反応停止工程の時間は、例えば0.01~5時間とすることができる。
【0074】
上記濃縮工程により反応組成物から酸や水を適度に除去することで、酸や水の量を好適な範囲内に調節することができる。この工程は、遠心分離、水等を加え再分散、ろ過、減圧濃縮等の方法を使用して行うことができる。また、これらの工程は繰り返してもよいが、繰り返すことなく1工程で完了することが好ましい。
【0075】
本発明の製造方法は、上記精製工程の後、該精製工程で精製される炭素材料複合体に含まれる酸化黒鉛と、酸化黒鉛の酸素含有官能基と反応する化合物とを反応させて酸化黒鉛誘導体を得る工程を含んでいてもよい。
上記酸化黒鉛の酸素含有官能基と反応する化合物は、例えば、アルコール、シラン化合物、脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、イソシアネート化合物、及び、アミンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、シラン化合物は、酸化黒鉛の酸素含有官能基との反応性を良好なものとする観点から、珪素原子と直接結合したシロキシ基及び/又はアルコキシ基を有することが好ましい。
【0076】
<炭素材料複合体>
本発明は、少なくとも陽イオン性界面活性剤及び酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体である。本発明の炭素材料複合体は、有機分散媒中で好適に分散することができる。本発明の炭素材料複合体の好ましい形態は、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体である。また、本発明の炭素材料複合体の別の好ましい形態は、陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体であって、該陽イオン性界面活性剤は、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有する炭素材料複合体でもある。これらの炭素材料複合体は、水系分散媒、有機分散媒のいずれにも好適に分散することができる。
上記酸化黒鉛は、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が5.5以下であることが好ましい。該比は、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。また、1以上であることが好ましい。
酸素原子数に対する炭素原子数の比は、XPS測定で得られるO1s領域の全ピーク面積とC1s領域の全ピーク面積との比率により確認することができる。
本発明の炭素材料複合体は、本発明の炭素材料複合体の製造方法により得ることができる。
【0077】
<分散体>
本発明は、本発明の炭素材料複合体が分散媒中に分散してなる分散体でもある。本発明の炭素材料複合体(陽イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤と酸化黒鉛との複合体)を分散する分散媒は、水系分散媒、有機分散媒のいずれでもよく、プロピレンカーボネート、N-メチル-1-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、水等が好ましく、特にプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、水であることが好ましい。また、陽イオン性界面活性剤のみと酸化黒鉛との複合体を分散するための分散媒は、有機分散媒(水を含んでいてもよい)であり、有機分散媒としては、例えばプロピレンカーボネート、N-メチル-1-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、ジアセトンアルコール等が好ましく、特にプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトンであることが好ましい。
なお、これら分散媒の1種又は2種以上の混合分散媒を使用できる。
【0078】
また上記分散媒として、水、有機分散媒の他、上述した液状高分子化合物、樹脂、又は、樹脂前駆体を好適に使用できる。液状高分子化合物、樹脂、樹脂前駆体としては剥離工程の説明で示したものを用いることができ、その好ましいものは、それぞれ、剥離工程の説明で上述したものと同様である。
液状高分子化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好適なものとして挙げられる。
樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂等のビニル樹脂、エポキシ樹脂が好適なものとして挙げられる。
樹脂前駆体としては、例えば、(メタ)アクリルモノマー等のビニルモノマー、エポキシモノマーが好適なものとして挙げられる。
上記分散媒は、水、有機分散媒、液状高分子化合物、樹脂、及び、樹脂前駆体からなる群より選択される少なくとも2種を適宜組み合わせた混合分散媒であってもよい。好ましい組み合わせは、剥離工程において上述した通りである。
なお、上記有機分散媒としては、上述した剥離工程における好ましい有機分散媒を用いることが好ましい。
本発明の分散体中の本発明の炭素材料複合体の含有割合は、適宜調整することができる。
【0079】
上述したように、本発明の分散体は、本発明の炭素材料複合体が樹脂及び/又は樹脂前駆体中に分散してなるもの(樹脂分散体)であってもよい。なお、樹脂分散体は、更に、分散媒として水、有機分散媒、及び、液状高分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであっても構わない。
【0080】
上記樹脂分散体の形態は、液体状又はゲル状の組成物であってもよく、固形状のもの(例えば、成形体)であってもよい。
上記樹脂分散体は、例えば、本発明の炭素材料複合体を水系分散媒又は有機分散媒中に分散してなる分散体、又は、本発明の炭素材料複合体そのもの(粉体)と、上述した樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は、光硬化性樹脂)とを混錬(好ましくは、樹脂を溶融させたうえで混錬)する工程を経て得ることができる。
また上記成形体は、例えば、本発明の樹脂分散体であって、液体状又はゲル状の組成物であるものを用いて得ることができ、例えば、該組成物を塗布・成膜したり、成形したり、該組成物中の樹脂前駆体等を重合・硬化したりして得ることができる。
本発明の樹脂分散体としては、例えば、液体状又はゲル状の組成物;膜(フィルム)、シート、繊維、ペレット、粒子等の固形状のもの等が挙げられる。
上記膜としては、塗膜、自立膜等が挙げられる。
【0081】
<酸化黒鉛の製造方法>
本発明は、酸化黒鉛を製造する方法であって、該製造方法は、黒鉛を酸化する工程、該酸化工程で得られた酸化黒鉛が分散してなる水系分散液と陽イオン性界面活性剤とを混合する工程、並びに、酸化黒鉛を精製する工程を含む酸化黒鉛の製造方法でもある。
本発明の酸化黒鉛の製造方法の好ましい一実施形態では、上記精製工程は、ろ過、デカンテーション、遠心分離、及び、分液抽出からなる群より選択される少なくとも1種の方法により炭素材料複合体を精製する工程である。
本発明の酸化黒鉛の製造方法は、上述した本発明の炭素材料複合体の製造方法と同様の方法により行うことができるが、例えば、上述した特定の精製工程を繰り返し行ったり、該精製工程の後、水洗を繰り返し行ったりすることで、炭素材料複合体から不純物とともに使用した界面活性剤を除くことで酸化黒鉛を得ることができる。なお、界面活性剤を除く観点からは、界面活性剤を含まない水による洗浄(上記水洗)が好ましい。本発明の酸化黒鉛の製造方法は、高品質な酸化黒鉛を簡便に得ることができるものである。
例えば、上記酸化黒鉛を精製する工程は、界面活性剤が実質的に残存しないように界面活性剤を除く工程と言い換えることができる。
界面活性剤が実質的に残存しないとは、例えば界面活性剤の質量割合が1000ppm以下であることをいう。
【0082】
本発明の炭素材料複合体の製造方法で得られる炭素材料複合体、本発明の炭素材料複合体、本発明の分散体、本発明の酸化黒鉛の製造方法で得られる酸化黒鉛のいずれも、触媒、電池やキャパシタの電極活物質、熱電変換材料、導電性材料、発光材料、潤滑用添加剤、高分子用添加剤、透過膜材料、抗菌材料、撥水材料、吸着材料等として好適に用いることができる。本発明の製造方法で得られる炭素材料複合体や酸化黒鉛は有機分散媒中で好適に分散することから、上記の中でも、水や湿気の存在が望ましくない用途に特に好適に用いることができる。
なお、上記電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、固体高分子型燃料電池、金属-空気電池等が挙げられる。
上記熱電変換材料が用いられる熱電変換装置としては、例えば、地熱・温泉熱発電機、太陽熱発電機、工場や自動車等の廃熱発電機、体温発電機等の発電機や、該発電機を電源の少なくとも一つとして用いた各種電気製品、電動機、人工衛星等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0084】
<酸化黒鉛含有水系分散液の合成>
(合成例)
酸化黒鉛を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(和光純薬工業株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製)42mlを加え反応停止させ、酸化黒鉛含有水系分散液(水総質量1812g、原料黒鉛換算濃度0.83%、水濃度61%、硫酸イオン濃度36%)を得た。
【0085】
<精製効率の評価>
(実施例1)
上記合成例で得られた酸化黒鉛含有水系分散液(100g)に原料黒鉛に対し0.75質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)を投入し凝集させた。撹拌の後、ろ過したところ、ろ過性は非常に良好(10分以内にろ過が完了)であった。またろ過ウェットケーキ(酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキ)に水を投入した後ろ過を行い水洗したところ、良好なろ過性を維持(10分以内にろ過が完了)していた。水洗は2回行い、2回とも良好なろ過性を維持していた。
【0086】
(実施例2)
陽イオン性界面活性剤として原料黒鉛に対し0.75質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)の代わりに同当量のトリメチルステアリルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は良好であった。
【0087】
(実施例3)
陽イオン性界面活性剤として原料黒鉛に対し0.75質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)の代わりに7.5質量当量の10%塩化ベンザルコニウム溶液(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は良好であった。
【0088】
(実施例4)
上記合成例で得られた酸化黒鉛含有水系分散液(100g)に原料黒鉛に対し0.45質量当量のソフタノール120(株式会社日本触媒製)と0.30質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)を投入し凝集させた。撹拌の後、ろ過したところ、ろ過性は非常に良好(10分以内にろ過が完了)であった。またろ過ウェットケーキに水を投入した後ろ過を行い水洗したところ、良好なろ過性を維持(10分以内にろ過が完了)していた。水洗は2回行い、2回とも良好なろ過性を維持していた。
【0089】
(実施例5)
陽イオン性界面活性剤として原料黒鉛に対し0.30質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)の代わりに同当量のトリメチルステアリルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は実施例4に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は良好であった。
【0090】
(実施例6)
非イオン性界面活性剤として原料黒鉛に対し0.45質量当量のソフタノール120(株式会社日本触媒製)の代わりに同当量のニューコール85(日本乳化剤株式会社製)を用いた以外は実施例4に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は良好であった。
【0091】
(比較例1)
凝集剤を用いないものとして、陽イオン性界面活性剤を添加しなかった以外は実施例1に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は非常に悪く、ろ紙が詰まり、ろ過が不可能であった。
【0092】
(比較例2)
陽イオン性界面活性剤の代わりに陰イオン性界面活性剤を使用したものとして、原料黒鉛に対し0.75質量当量の1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)の代わりに同当量の直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は非常に悪く、ろ紙が詰まり、ろ過不可能であった。
【0093】
<酸化黒鉛複合体の分散>
(実施例7)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキ(原料黒鉛1g相当分)にジアセトンアルコール100gを加え、撹拌した後、30分超音波を印加し、酸化黒鉛複合体の分散体を作製した。分散体を24時間静置したところ、相分離は起きず均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0094】
(実施例8)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例2で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0095】
(実施例9)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例3で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0096】
(実施例10)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例4で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0097】
(実施例11)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例5で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0098】
(実施例12)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例6で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを用いた以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0099】
(実施例13)
分散媒としてジアセトンアルコールの代わりにγ-ブチロラクトンを使用した以外は実施例7に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0100】
(実施例14)
分散媒としてジアセトンアルコールの代わりにγ-ブチロラクトンを使用した以外は実施例10に記載の方法と同様にして分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0101】
(実施例15)
分散媒としてジアセトンアルコールの代わりに水を使用した以外は実施例10に記載の方法と同様にして酸化黒鉛複合体の水分散体を作製し、24時間静置したところ、水分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0102】
(実施例16)
分散媒としてジアセトンアルコールの代わりにプロピレンカーボネートを使用した以外は実施例10に記載の方法と同様にして酸化黒鉛複合体の分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0103】
(実施例17)
1-ドデシルピリジニウムクロリド(東京化成工業株式会社製)の代わりに同当量のテクスノールL7(日本乳化剤株式会社製)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様にろ過性を確認したところ、ろ過性は良好であった。
【0104】
(実施例18)
実施例1で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキの代わりに実施例17で得られた酸化黒鉛複合体含有ウェットケーキを、ジアセトンアルコールの代わりにプロピレンカーボネートを使用した以外は実施例7に記載の方法と同様にして酸化黒鉛複合体の水分散体を作製し、24時間静置したところ、分散体は均一な外観を維持しており、非常に良好な分散性を示していた。
【0105】
(実施例19)
実施例16で得られた分散体を液状エポキシjER828US(三菱ケミカル株式会社製)で10倍に希釈したところ、得られた分散体も非常に良好な分散性を示した。またその後の硬化特性にも影響はなかった。このことから本発明の炭素材料複合体はモノマーに対しても良好に分散することがわかる。
【0106】
実施例1~6、17及び比較例1、2の結果から、精製工程前に少なくとも陽イオン性界面活性剤を添加することで、良好な精製効率を示した。また実施例7~16、18、19の結果から上記精製法で得られた炭素材料複合体(酸化黒鉛複合体)は各種有機分散媒、樹脂前駆体(モノマー)に良好な分散性を示した。中でも、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体や、陽イオン電離基、及び、該陽イオン電離基よりも極性が低い親水性基を有する陽イオン性界面活性剤、及び、酸化黒鉛を含んで構成される炭素材料複合体は、水系分散媒にも非常によく分散できる。本発明の製造方法により、高品質な炭素材料複合体を低コストで簡便に得ることができる。