(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】位置判定システム及び位置判定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20240219BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20240219BHJP
E05B 49/00 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
B60R25/24
E05B49/00 K
(21)【出願番号】P 2019109542
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018215503
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小杉 正則
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛士
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-002031(JP,A)
【文献】特開2016-084589(JP,A)
【文献】特開2017-079430(JP,A)
【文献】特開2015-202750(JP,A)
【文献】米国特許第09894492(US,B1)
【文献】特開2012-172334(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159118(WO,A1)
【文献】特開2015-214316(JP,A)
【文献】特開2015-218501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 7/00- 7/42
G01S13/00-13/95
E05B49/00
B60R25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末とその通信相手とが無線により通信する場合に、前記通信相手に対する前記携帯端末の位置を判定する位置判定部を備え、
前記位置判定部は、前記通信相手に複数設けられたアンテナと前記携帯端末との間の前記通信において異なる周波数で送信された複数の電波について、各周波数の前記電波毎に測定された受信強度から求まる特性値を前記アンテナごとに算出し、これらアンテナごとの前記特性値の大小を比較することにより、前記携帯端末の位置を判定する位置判定システムであって、
前記アンテナは、前記通信相手の室外に設けられる室外アンテナと前記通信相手の室内に設けられる室内アンテナとを含み、
前記特性値は、前記室外アンテナにおいて複数測定された前記受信強度の平均値、及び前記室内アンテナにおいて複数測定された前記受信強度の平均値を含み、
前記位置判定部は、前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値と前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値との大小を比較することにより、前記携帯端末が前記通信相手の室内外のどちらに位置するかを判定するものであって、
前記携帯端末が前記通信相手の室外に位置する場合に前記室外アンテナの前記受信強度の平均値から前記室内アンテナの前記受信強度の平均値を引いた差を第1の差とし、前記携帯端末が前記通信相手の室内に位置する場合に前記室内アンテナの前記受信強度の平均値から前記室外アンテナの前記受信強度の平均値を引いた差を第2の差としたとき、前記第2の差は前記第1の差よりも大きくなり、
前記位置判定部が算出した前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値と前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値とのうち前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値の値を補正によって大きくなるように予め設定されたオフセット値により補正する補正部を備え、
前記補正部による補正によって前記室外アンテナの前記受信強度の平均値の値が大きくなり、
前記携帯端末が前記通信相手の室内外のどちらに位置するかに拘わらず、前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値に対する前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値の比が、補正前より補正後の方が大きくなる
とともに、前記補正部による補正によって前記第1の差は大きくなり前記第2の差は小さくなる位置判定システム。
【請求項2】
携帯端末とその通信相手とが無線により通信する場合に、前記通信相手に複数設けられたアンテナと前記携帯端末との間の前記通信において異なる周波数で送信された複数の電波について、各周波数の前記電波毎に測定された受信強度から求まる特性値を前記アンテナごとに算出し、これらアンテナごとの前記特性値の大小を比較することにより、前記通信相手に対する前記携帯端末の位置を判定する
判定ステップを備える位置判定方法であって、
前記アンテナは、前記通信相手の室外に設けられる室外アンテナと前記通信相手の室内に設けられる室内アンテナとを含み、
前記特性値は、前記室外アンテナにおいて複数測定された前記受信強度の平均値、及び前記室内アンテナにおいて複数測定された前記受信強度の平均値を含み、
前記
判定ステップでは、前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値と前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値との大小を比較することにより、前記携帯端末が前記通信相手の室内外のどちらに位置するかを判定し、
前記携帯端末が前記通信相手の室外に位置する場合に前記室外アンテナの前記受信強度の平均値から前記室内アンテナの前記受信強度の平均値を引いた差を第1の差とし、前記携帯端末が前記通信相手の室内に位置する場合に前記室内アンテナの前記受信強度の平均値から前記室外アンテナの前記受信強度の平均値を引いた差を第2の差としたとき、前記第2の差は前記第1の差よりも大きくなり、
前記判定ステップで算出した前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値と前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値とのうち前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値の値を補正によって大きくなるように予め設定されたオフセット値により補正する
補正ステップを備え、
前記補正ステップでの補正により前記室外アンテナの前記受信強度の平均値の値が大きくなり、
前記携帯端末が前記通信相手の室内外のどちらに位置するかに拘わらず、前記室内アンテナの前記
受信強度の平均値に対する前記室外アンテナの前記
受信強度の平均値の比が、補正前より補正後の方が大きくなる
とともに、前記補正ステップでの補正により前記第1の差は大きくなり前記第2の差は小さくなる位置判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末が通信相手と通信する際の通信相手に対する携帯端末の位置を判定する位置判定システム及び位置判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両において、ユーザに所持される携帯端末と車両に搭載される車載機との間の無線通信を通じて車両の制御を行う認証システムが知られている。認証システムとしては、車載機からの送信電波に携帯端末が自動で応答して無線通信によりID照合(スマート照合)を行うスマート照合システムが周知である。
【0003】
特許文献1には、車両に対する携帯端末の位置を判定する位置判定システムを備えたスマート照合システムが開示されている。この位置判定システムでは、車両から送信された電波を携帯端末が受信したときの受信強度を測定し、この受信強度が整合する位置を、携帯端末の位置として判定する。ID照合に加えて、位置判定システムによる携帯端末の位置判定を認証に課す態様とした場合、スマート照合システムのセキュリティ性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、携帯端末が同じ位置にあっても、例えば送信された電波が障害物によって遮蔽されたり、他の電波の干渉を受けたりすると受信強度が変化することがある。受信強度が変化すると、携帯端末の位置を正確に判定できないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、携帯端末の位置判定の精度を向上可能にした位置判定システム及び位置判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための位置判定システムは、携帯端末とその通信相手とが無線により通信する場合に、前記通信相手に対する前記携帯端末の位置を判定する位置判定部を備え、前記位置判定部は、前記通信相手に複数設けられたアンテナと前記携帯端末との間の前記通信において異なる周波数で送信された複数の電波について、各周波数の前記電波毎に測定された受信強度から求まる特性値を前記アンテナごとに算出し、これらアンテナごとの前記特性値の大小を比較することにより、前記携帯端末の位置を判定する。
【0008】
上記課題を解決するための位置判定方法は、携帯端末とその通信相手とが無線により通信する場合に、前記通信相手に複数設けられたアンテナと前記携帯端末との間の前記通信において異なる周波数で送信された複数の電波について、各周波数の前記電波毎に測定された受信強度から求まる特性値を前記アンテナごとに算出し、これらアンテナごとの前記特性値の大小を比較することにより、前記通信相手に対する前記携帯端末の位置を判定するステップを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の位置判定システム及び位置判定方法は、携帯端末の位置判定の精度を向上可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の認証システムに設けられた位置判定システムの構成を示すブロック図。
【
図2】認証システムにおける車両と携帯端末との認証の流れを示すフロー図。
【
図3】車両の室外に携帯端末が位置する場合の電波伝搬経路を示す図。
【
図4】車両の室外に携帯端末が位置する場合の(a)室外アンテナから送信された位置検出信号の受信強度を示すグラフ、(b)室内アンテナから送信された位置検出信号の受信強度を示すグラフ。
【
図5】車両の室内に携帯端末が位置する場合の電波伝搬経路を示す図。
【
図6】車両の室内に携帯端末が位置する場合の(a)室外アンテナから送信された位置検出信号の受信強度を示すグラフ、(b)室内アンテナから送信された位置検出信号の受信強度を示すグラフ。
【
図7】第2実施形態の認証システムに設けられた位置判定システムの構成を示すブロック図。
【
図8】車両の室外に携帯端末が位置する場合の各アンテナからの受信強度を示すグラフ。
【
図9】車両の室内に携帯端末が位置する場合の各アンテナからの受信強度を示すグラフ。
【
図10】第4実施形態において車両に設けられたアンテナを示す図。
【
図11】第5実施形態において、室外判定をしている場合の平均値Pr1´の補正を示すグラフ。
【
図12】第5実施形態において、室内判定をしている場合の平均値Pr1´の補正を示すグラフ。
【
図13】第5実施形態において、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の差の変化の一例を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、位置判定システム及び位置判定方法の第1実施形態を、
図1~
図6に従って説明する。
【0012】
図1に示すように、通信相手としての車両1は、無線通信を通じて携帯端末2の正否を認証する認証システム3を備える。携帯端末2は、電話機能を有し、近距離無線通信を用いて車両1と通信可能な高機能携帯電話であることが好ましい。本例の認証システム3は、車両1からの通信を契機に近距離無線通信によってID照合を実行する近距離無線照合システムである。近距離無線通信は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)通信であることが好ましい。
【0013】
車両1は、ID照合を行う照合ECU(Electronic Control Unit)4と、車載電装品の電源を管理するボディECU5、エンジン6を制御するエンジンECU7とを備えている。これらECUは、車内の通信線8を通じて接続されている。通信線8は、例えばCAN(Controller Area network)やLIN(Local Interconnect network)からなる。
【0014】
照合ECU4のメモリ9には、車両1に登録された携帯端末2の電子キーID及びキー固有鍵が書き込み保存されている。認証システム3においては、照合ECU4と携帯端末2との間で自動的に相互通信による一連のID照合が実行され、そのID照合が成立したことを一条件としてドアロックの施解錠及びエンジンの始動が許可される。
【0015】
ボディECU5は、車両ドア10を施解錠するメカ部分としてのドアロック機構11の作動を制御する。車両ドア10には、車両ドア10の開閉を操作するための車外ドアハンドル12が設けられている。車外ドアハンドル12には、例えばドア解錠するときのトリガとして車外ドアハンドル12に対するユーザのタッチ操作を検出するタッチセンサ13が設けられている。また、車外ドアハンドル12には、例えばドア施錠するときに操作するロックボタン14が設けられている。ボディECU5は、ID照合が成立し、かつ車両1の室外に携帯端末2が位置しているときに、タッチセンサ13及びロックボタン14の検出信号を基に、ドアロック機構11の作動を制御する。
【0016】
エンジンECU7は、車両1のエンジン6の作動を制御する。車両1には、エンジン6の電源遷移を操作するためのエンジンスイッチ15が設けられている。エンジンスイッチ15は、例えばプッシュ式のスイッチであることが好ましい。エンジンECU7は、所定の条件下でエンジンスイッチ15が操作されることでエンジン6の遷移を制御する。なお、ここでいう所定の条件とは、ID照合が成立していること、車両1の室内に携帯端末2が位置していること、車両1のブレーキペダル(図示略)が踏まれていること、車両1のトランスミッションがパーキングレンジに入っていること、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0017】
車両1は、携帯端末2と近距離無線通信を行なうための室外アンテナ16と室内アンテナ17とを備えている。室外アンテナ16は、車両1の室外側に設けられている。室内アンテナ17は、車両1の室内側に設けられている。本例の室外アンテナ16及び室内アンテナ17は、携帯端末2とBLE(Bluetooth Low Energy)通信を行う。また、室外アンテナ16及び室内アンテナ17は、それぞれに固有のアンテナIDを有している。本例のBLE通信において、携帯端末2がマスタであり、車両1がスレーブである。なお、マスタとスレーブの関係はこの限りではなく、車両1がマスタで、携帯端末2がスレーブでもよい。室外アンテナ16及び室内アンテナ17は、車両1の近傍エリアに定期的にアドバタイズメッセージを予め決められた順序(順番)で送信する。
【0018】
携帯端末2は、携帯端末2の作動を制御する端末制御部20と、携帯端末2においてネットワーク通信を行なうネットワーク通信モジュール21と、携帯端末2において近距離無線通信(BLE通信)を行う端末通信部22とを備える。
【0019】
携帯端末2を車両1の電子キーとして使用するにあたり、携帯端末2は、車両1に携帯端末2の電子キーID及びキー固有鍵を登録(電子キー登録)する。例えば、携帯端末2は、ネットワーク通信を通じてサーバ(図示略)から電子キーID及びキー固有鍵を取得し、メモリ24に書き込み保存する。さらに、携帯端末2は、BLE通信を通じて車両1に接続(ログイン)し、携帯端末2の電子キーID及びキー固有鍵を登録する。
【0020】
携帯端末2は、車両1からのアドバタイズメッセージを受信して車両1とのBLE通信接続を確立すると、車両1とBLE通信を通じた相互通信により自動的にID照合を実行する。例えば、携帯端末2の電子キー登録が完了し、かつ車両1と携帯端末2との間でBLE通信接続が確立している場合、照合ECU4及び端末制御部20間で電子キーIDを送受信して電子キーIDの照合を行うとともに、キー固有鍵を用いたチャレンジレスポンス認証等の暗号認証を行う。照合ECU4は、これら照合や認証が成立することを確認すると、ID照合を成立と判定する。なお、これら一連のID照合は、ユーザによる携帯端末2の操作をすることなく、また、車両1の操作をすることなく自動的に処理が実行される。
【0021】
認証システム3は、車両1と携帯端末2とが通信を行うとき、車両1に対する携帯端末2の位置を判定する位置判定システム30を備える。本例の位置判定システム30は、車両1と携帯端末2とがID照合を行うとき、携帯端末2が車両1の室内外のどちらにあるかを判定する。また、この位置判定は、ID照合の通信時のどのタイミングで実施されてもよい。すなわち、位置判定は、ID照合前、ID照合後、ID照合途中のいずれで実施されてもよい。
【0022】
位置判定システム30は、車両1に対する携帯端末2の位置を判定する位置判定部31を備える。本例の位置判定部31は、車両1の照合ECU4に設けられている。位置判定部31は、室外アンテナ16及び室内アンテナ17からアンテナIDを含んだ位置検出信号SdをBLE送信させる。なお、一連の位置判定の過程において、位置検出信号Sdの送信は、室外アンテナ16及び室内アンテナ17のそれぞれから複数回、実行される。また、室外アンテナ16及び室内アンテナ17からの位置検出信号Sdの送信電力は、同じである。
【0023】
位置判定システム30は、室外アンテナ16及び室内アンテナ17と携帯端末2との間の電波の受信強度を、各周波数(各チャネル)の電波毎に測定する測定部32を備える。本例の測定部32は、携帯端末2の端末制御部20に設けられている。測定部32は、室外アンテナ16及び室内アンテナ17からの位置検出信号Sdを、端末通信部22を介して受信すると、この位置検出信号Sdの受信強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を測定する。なお、ここでは、室外アンテナ16から送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr1、室内アンテナ17から送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr2とする。測定部32は、受信した位置検出信号Sdごとに受信信号強度を測定し、その測定した位置検出信号Sdの受信強度(受信強度データ)を照合ECU4へ送信する。
【0024】
位置判定部31は、測定部32から受信強度(受信強度データ)を受信すると、室外アンテナ16及び室内アンテナ17のそれぞれについて複数測定された受信強度から、特性値を計算する。本例の場合、特性値は、受信強度の平均値であり、例えば、直近の所定の期間に受信した受信強度データから算出される移動平均である。位置判定システム30は、受信した受信強度Pr1及び受信強度Pr2を照合ECU4のメモリ9に一時的に記憶する。位置判定部31は、記憶した複数の受信強度Pr1から、受信強度Pr1の平均値Pr1´を計算する。また、位置判定部31は、記憶した複数の受信強度Pr2から、受信強度Pr2の平均値Pr2´を計算する。
【0025】
位置判定部31は、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小を比較することにより、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置するかを判定する。位置判定部31は、平均値Pr1´が平均値Pr2´以上であった場合、携帯端末2が車両1の室外に位置すると判定(室外判定)する。一方、位置判定部31は、平均値Pr1´が平均値Pr2´未満であった場合、携帯端末2が車両1の室内に位置すると判定(室内判定)する。
【0026】
次に、
図2~
図6を用いて位置判定システム30の作用及び効果を、説明する。
図2に示すように、ステップS101では、車両1(照合ECU4)は、携帯端末2とのBLE通信接続を確立するために、室外アンテナ16及び室内アンテナ17からアドバタイズメッセージを車両1の近傍エリアに順に繰り返し送信する。携帯端末2(端末制御部20)は、車両1の近傍エリアに進入し、アドバタイズメッセージを受信すると、通信が確立したアンテナとの間で車両1とのBLE通信接続を開始する。
【0027】
ステップS102では、車両1及び携帯端末2は、アドバタイズメッセージに連なる一連の通信接続の処理に従い、機器認証(例えばアドレス認証等)が成立すると、自動で通信接続する。両者の通信接続は、携帯端末2が車両1との近距離無線通信の範囲外へ移動するまで継続される。
【0028】
ステップS103では、車両1及び携帯端末2が通信接続されると、車両1及び携帯端末2は、ID照合を開始する。ID照合には、電子キーIDの送受信及びキー固有鍵を用いた暗号認証が含まれる。照合ECU4は、電子キーIDの照合及びキー固有鍵を用いた暗号認証のいずれかが不成立の場合、ID照合が不成立したと判定する。ID照合が不成立した場合、車両1の作動は禁止される。一方、照合ECU4は、ID照合が成立すれば、処理を継続する。
【0029】
ステップS104では、位置判定部31は、室外アンテナ16及び室内アンテナ17から位置検出信号Sdを送信し、これら電波の受信強度を携帯端末2の測定部32で測定させるとともに、その測定結果を車両1に返信(通知)させる。位置検出信号Sdには、各々のアンテナIDが含まれ、受信側の携帯端末2では、室外アンテナ16及び室内アンテナ17のどちらからの電波なのかを識別可能としてもよい。また、室外アンテナ16及び室内アンテナ17の各位置検出信号Sdは、携帯端末2が両方を受け取ることができるように、タイミング又は周波数をずらして送信されるとよい。測定部32は、位置検出信号Sdを受信すると、位置検出信号Sdの受信強度(受信強度Pr1及び受信強度Pr2)を測定し、測定した受信強度データを、室外アンテナ16及び室内アンテナ17に返信して通知する。
【0030】
本例の場合、位置判定部31は、位置検出信号送信、受信強度測定、及び受信強度データ通知の一連の処理を、室外アンテナ16及び室内アンテナ17のそれぞれにおいて、周波数(チャネル)を変えて繰り返し実行する(
図2では1回だけを図示)。これにより、室外アンテナ16及び室内アンテナ17の各々において、携帯端末2との通信時に測定された受信強度Pr1及び受信強度Pr2のデータ群が取得される。
【0031】
図3に示すように、本例の場合、室外アンテナ16及び室内アンテナ17は、車両1にそれぞれ一つずつ設けられている。携帯端末2が車両1の室外に位置する場合、車両1と携帯端末2との間には、室外アンテナ16と携帯端末2との間の電波の伝搬経路L1と、室内アンテナ17と携帯端末2との間の電波の伝搬経路L2とが存在する。なお、伝搬経路L1及び伝搬経路L2には、送信された位置検出信号Sdが直接波、回折波、反射波として通る種々の伝搬経路を含む。
【0032】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、伝搬経路L1を通ったときの受信強度Pr1及び伝搬経路L2を通ったときの受信強度Pr2は、複数の測定の間でばらつきを有している。例えば、BLE通信では、複数のチャネル(周波数)の間を切り替える周波数ホッピング方式をとり、チャネル間で受信強度にばらつきが発生する。そのため、仮に受信強度Pr1及び受信強度Pr2の一点の受信強度(瞬時値)同士の比較をした場合、携帯端末2が車両1の室外に位置しているときにも、受信強度Pr1よりも受信強度Pr2の方が大きいことがある。したがって、単なる受信強度の瞬時値の比較では、携帯端末2が車両1の室外に位置していると判定できない。
【0033】
一方、本例の場合、位置の判定には、平均値Pr1´及び平均値Pr2´を用いる。携帯端末2が車両1の室外に位置する場合、通常、平均値Pr1´は、平均値Pr2´より大きい。すなわち、「Pr1´≧Pr2´」の関係が成り立つ。平均値Pr1´及び平均値Pr2´は、例えば
図4(a)及び
図4(b)に破線及び一点鎖線で示したとおりである。そのため、携帯端末2の位置の判定には、平均値を用いる方が瞬時値を用いるよりも判定精度が向上することが分かる。
【0034】
また、位置検出信号Sdは、電波を遮る障害物や、他の電波の干渉などにより受信強度が変化する。例えば、携帯端末2を覆うような障害物(ユーザの鞄など)が存在すると、受信強度は低下する。そのため、仮に、受信強度が閾値を超えるか否かによって携帯端末2の位置を判定する方法をとった場合、携帯端末2が同じ位置にあっても、受信強度が変化することで、判定結果が変わる可能性がある。一方、本例の場合、受信強度の平均値同士の大小を比較することにより位置の判定を行う。例えば携帯端末2を覆うような障害物(ユーザの鞄など)が存在している場合、伝搬経路L1及び伝搬経路L2の両方が遮られるため、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の両方が低下する。そのため、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小関係は、逆転しない。したがって、アンテナ間の平均値の大小を比較することにより位置判定の精度を向上可能になる。
【0035】
図5に示すように、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合、車両1と携帯端末2との間には、室外アンテナ16と携帯端末2との間の電波の伝搬経路L3と、室内アンテナ17と携帯端末2との間の電波の伝搬経路L4とが存在する。
【0036】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、伝搬経路L3を通ったときの受信強度Pr1及び伝搬経路L4を通ったときの受信強度Pr2にも、複数の測定の間にばらつきがある。また、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合、通常、平均値Pr1´は、平均値Pr2´より小さい。すなわち、「Pr1´<Pr2´」の関係が成り立つ。平均値Pr1´及び平均値Pr2´は、例えば
図6(a)及び
図6(b)に破線及び一点鎖線で示したとおりである。そのため、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合でも、受信強度の平均値の大小を比較することで、携帯端末2の位置を精度よく判定できることが分かる。
【0037】
図2に戻り、ステップS105では、位置判定部31は、記憶した複数の受信強度Pr1及び受信強度Pr2から、平均値Pr1´及び平均値Pr2´を計算する。そして、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小を比較することにより、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置するかを判定する。位置判定部31は、平均値Pr1´が平均値Pr2´以上(Pr1´≧Pr2´)であった場合、携帯端末2が車両1の室外に位置すると判定(室外判定)する。一方、位置判定部31は、平均値Pr1´が平均値Pr2´未満(Pr1´<Pr2´)であった場合、携帯端末2が車両1の室内に位置すると判定(室内判定)する。例えば、ボディECU5は、ID照合が成立し、かつ室外判定されているときに、タッチセンサ13及びロックボタン14の検出信号を基に、ドアロック機構11の作動を制御する。また、エンジンECU7は、ID照合が成立し、かつ室内判定されていることを一条件に、エンジンスイッチ15が操作されることでエンジン6の遷移を制御する。このように、位置判定システム30により、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置するかを判定することで、携帯端末2の位置に応じた制御が可能になる。
【0038】
さて、本例では、位置判定システム30は、アンテナごとに複数測定された受信強度から算出された特性値の大小を比較することにより、車両1に対する携帯端末2の位置を判定する位置判定部31を備えた。この構成によれば、複数のデータを基に算出された特性値を用いることで受信強度のばらつきによる位置判定への影響を抑えることができる。また、携帯端末2が同じ位置にある場合、アンテナ間の特性値の大小関係は、例えば電波が障害物により遮蔽されたとしても変化しにくい。そのため、大小関係の比較によって位置判定することで、障害物の有無により判定結果が変化するという事態の発生を抑制できる。したがって、携帯端末2の位置判定の精度が向上する。
【0039】
本例では、特性値としてアンテナごとに複数測定された受信強度の平均値を用いた。この構成によれば、受信強度の平均を算出して位置判定するという簡素な処理を通じて、過度な処理負荷をかけることなく、高い位置判定の精度が確保される。
【0040】
本例では、室外アンテナ16と室内アンテナ17とを含み、位置判定部31は、平均値Pr1´及び平均値Pr2´を比較することにより携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置するかを判定する構成とした。この構成によれば、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置しているのかを精度よく判定することが可能となる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、位置判定システム及び位置判定方法の第2実施形態を、
図7~
図9に従って説明する。第2実施形態は、特性値の補正を行う点で主に第1実施形態と異なる。従って、第1実施形態と同一の部材構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略し、異なる部分のみ詳述する。
【0042】
平均値Pr1´及び平均値Pr2´を位置判定に用いた場合、受信強度のばらつきを抑えることができるものの、ばらつきの影響を完全に打ち消すことはできない。これら平均値には、受信強度のばらつきに起因して誤差が発生することがある。平均値Pr1´及び平均値Pr2´の値に誤差があると、これらの大小関係が逆転し、位置判定が正確にできないおそれがあった。本例は、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の誤差の影響を抑制するための対処案である。
【0043】
図7に示すように、認証システム3は、特性値を補正する補正部40を備える。本例の場合、補正部40は、照合ECU4に設けられている。本例の補正部40は、携帯端末2が室外に位置するときの平均値Pr1´及び平均値Pr2´の差が大きくなるように、平均値Pr2´に対する平均値Pr1´の比、すなわち「Pr1´/Pr2´」の値が補正前よりも補正後の方が大きくなるように補正を行う。本例の補正部40は、算出した平均値Pr1´の値を補正によって大きくするように予め設定されたオフセット値によって補正する。なお、補正部40は、平均値Pr2´を小さくするように補正を行ってもよい。位置判定部31は、補正部40によって補正された平均値Pr1´と平均値Pr2´との大小を比較することにより、携帯端末2の位置を判定する。
【0044】
次に、
図8及び
図9を用いて本実施形態の認証システム3(補正部40)の作用及び効果について、補正の考え方とともに説明する。
図8に示すように、携帯端末2が車両1の室外に位置する場合に、平均値Pr1´から平均値Pr2´を引いた差を、差D1とする。したがって、携帯端末2が車両1の室外に位置するとき、通常、平均値Pr1´は、差D1の分だけ平均値Pr2´よりも大きい。
【0045】
図9に示すように、携帯端末2が車両1の室内に位置するときの、平均値Pr2´から平均値Pr1´を引いた差を、差D2とする。したがって、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合、通常、平均値Pr2´は、差D2の分だけ平均値Pr1´よりも大きい。
【0046】
差D1及び差D2は、大きければ大きいほど、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小関係が逆転し難い。すなわち、差D1及び差D2は、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の誤差に対する許容量に相当する。ここで、本発明者等が行った実験結果から、差D2が差D1よりも大きい(D2>D1)ことがわかっている。携帯端末2の位置に拘わらず平均値Pr1´の値を大きくする補正を行った場合、差D1の値は大きくなるものの、背反として差D2の値は小さくなる。しかし、差D2が予め十分に大きいため、差D1を大きくしても、必要とする差D2は確保されることを前提に、本例の補正部40による補正処理を行う。これにより、携帯端末2が車両1の室内外のどちらにあっても平均値Pr1´及び平均値Pr2´の誤差に対して十分な許容量を確保することができる。
【0047】
本例の場合、上記の考え方に沿って、平均値Pr1´を補正する。補正部40は、位置判定部31が算出した平均値Pr1´を補正によって大きくなるように予め設定されたオフセット値により補正する。この補正は、補正部40(コントローラ)の演算処理によって実現されている。そして、位置判定部31は、補正された平均値Pr1´と平均値Pr2´との大小を比較することにより、携帯端末2の車両1の位置を判定する。これにより、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置する場合にも、十分な許容量をもって判定を行うことができる。
【0048】
本例では、平均値Pr1´の値が大きくなるように補正を行う補正部40を備えた。この構成によれば、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小関係に応じて補正を行うことができる。これにより、例えば平均値Pr1´及び平均値Pr2´に誤差が生じる場合に、携帯端末2の位置を判定する際に、これら平均値の誤差に対する十分な許容量を確保することができる。これは、携帯端末2の位置判定の精度向上に寄与する。
【0049】
<第3実施形態>
次に、位置判定システム及び位置判定方法の第3実施形態について、
図8及び
図9に従って説明する。第3実施形態は、第2実施形態と、補正部40の補正の方法の点でのみ異なる。従って、本例も、第2実施形態に対して異なる部分のみ詳述する。
【0050】
本例の位置判定部31は、特性値として、位置検出信号Sdの受信強度の平均値とともに標準偏差を算出する。ここでは、受信強度Pr1より算出された標準偏差を標準偏差Dv1、受信強度Pr2より算出された標準偏差を標準偏差Dv2とする。補正部40は、標準偏差Dv1の値に応じたオフセット値によって、平均値Pr1´を補正する。また、補正部40は、標準偏差Dv2の値に応じたオフセット値によって、平均値Pr2´を補正する。補正部40は、標準偏差が小さいほど大きいオフセット値を用いて、平均値を補正する。
【0051】
次に、
図8及び
図9を用いて、本実施形態の認証システム3(補正部40)の作用及び効果について説明する。
位置検出信号Sdの受信強度の標準偏差は、位置検出信号Sdの伝搬経路に依存する。すなわち、直接波、回折波、反射波などの伝搬モード、障害物の有無、及び他の電波の干渉などによって、標準偏差は変化する。
【0052】
図8及び
図9に示すように、本発明者等は、伝搬経路L1を通る位置検出信号Sdの受信強度のばらつきが、他の伝搬経路(L2~L4)を通るときと比較して小さくなることを見出した。すなわち、伝搬経路L1では、標準偏差が小さく、また、伝搬経路L2、伝搬経路L3、及び伝搬経路L4の間では、標準偏差に大きな違いがないことがわかっている。すなわち、同じ室外アンテナ16から送信された位置検出信号Sdであっても、伝搬経路L1と伝搬経路L3とでは、受信強度の標準偏差において違いがある。この違いを、差D1を大きくするための補正に応用できる期待があった。
【0053】
本例の場合、上記の考え方に基づき、補正部40は、標準偏差に応じて変化するオフセット値によって平均値Pr1´及び平均値Pr2´の補正を行う。携帯端末2が車両1の室外に位置する場合、伝搬経路L1を通る方が伝搬経路L2よりも標準偏差が小さいため、平均値Pr1´の方が平均値Pr2´よりも大きく補正を受ける。その結果、差D1が大きくなるため、平均値の誤差に対する許容量が大きくなる。また、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合、伝搬経路L3及び伝搬経路L4の間では標準偏差に大きな差がないため、平均値Pr1´と平均値Pr2´とは同程度の補正を受ける。その結果、差D2は補正前のままで維持される。これにより、携帯端末2が車両1の室外に位置する場合の平均値の誤差に対する許容量を大きくしつつ、携帯端末2が車両1の室内に位置する場合の平均値の誤差に対する許容量を維持することができる。
【0054】
さて、本例では、補正部40は、位置検出信号Sdの受信強度の標準偏差に基づいて変化するオフセット値によって平均値を補正する構成とした。この構成によれば、各アンテナと携帯端末2との間の電波伝搬経路によって標準偏差に特徴がある場合に、標準偏差に基づき平均値の補正をすれば、個々の電波伝搬経路に応じた補正を行うことができる。これは、携帯端末2の位置判定の精度向上に一層寄与する。
【0055】
<第4実施形態>
次に、位置判定システム及び位置判定方法の第4実施形態について、
図10に従って説明する。第4実施形態は、第1実施形態と、アンテナの個数に違いがある。従って、本例も、第1実施形態に対して異なる部分のみ詳述する。
【0056】
図10に示すように、本例の室外アンテナ16は、車両1の運転席側に設けられた室外アンテナ16aと、車両1の助手席側に設けられた室外アンテナ16bとを含んでいる。また、室内アンテナ17は、車両1の運転席側に設けられた室内アンテナ17aと、車両1の助手席側に設けられた室内アンテナ17bとを含んでいる。したがって、本例では、車両1にアンテナが4個設けられている。室外アンテナ16aから送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr1a、室外アンテナ16bから送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr1b、室内アンテナ17aから送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr2a、室内アンテナ17bから送信された位置検出信号Sdの受信強度を受信強度Pr2bとする。また、これらの平均値を平均値Pr1a´、平均値Pr1b´、平均値Pr2a´、平均値Pr2b´とする。
【0057】
位置判定部31は、各平均値の大小を比較することにより、携帯端末2の位置を判定する。位置判定部31は、「Pr1a´≧Pr2a´,Pr2b´≧Pr1b´、又はPr1b´≧Pr2a´,Pr2b´≧Pr1a´」の関係が成り立つ場合、室外判定する。なお、「Pr2a´,Pr2b´」とは、平均値Pr2a´と平均値Pr2b´との大小がどちらでもよいことを示している(以下同じ)。すなわち、受信強度の大小関係において平均値Pr1a´と平均値Pr1b´との間に、平均値Pr2a´及び平均値Pr2b´がある場合に、室外判定する。一方、位置判定部31は、「Pr1a´,Pr1b´<Pr2a´,Pr2b´」の関係が成り立つ場合、室内判定する。すなわち、平均値Pr1a´及び平均値Pr1b´の両方が、平均値Pr2a´及び平均値Pr2b´の両方よりも小さい場合に、室内判定する。また、位置判定部31は、受信強度の大小関係が上記の二つの関係のどちらにも当てはまらない場合は、位置判定が異常であるとして、エラーを出す。照合ECU4は、位置判定部31のエラーが出た場合、車両1の室内又は室外に携帯端末2が位置することを条件とする車両1の作動を許可しない。
【0058】
このように、アンテナの個数を増やすことで、位置検出信号Sdが到達する範囲を拡げたり、冗長化したりできる。また、各アンテナからの受信強度の組み合わせ(順序)が多くなり、より複雑で高度な位置判定に応用できる可能性がある。なお、アンテナの個数は少なくとも2個以上であれば、いくつでもよい。
【0059】
<第5実施形態>
次に、位置判定システム及び位置判定方法の第5実施形態について、
図11~
図13に従って説明する。第5実施形態は、第2実施形態及び第3実施形態と、補正部40の補正の方法の点でのみ異なる。従って、本例も、第2実施形態に対して異なる部分のみ詳述する。
【0060】
補正部40は、位置判定部31の現状の判定結果に応じた値に平均値Pr1´を補正する。本例の補正部40は、位置判定部31の判定結果に応じた補正量としてのオフセット値を用いて平均値Pr1´を補正する。オフセット値には、位置判定部31が室外判定を判定した場合に用いられる第1オフセット値αと、位置判定部31が室内判定をした場合に用いられる第2オフセット値βとが含まれている。本例の場合、補正部40は、第1オフセット値α及び第2オフセット値βによって、平均値Pr1´の値を大きくするように、正のオフセットを行う。また、第1オフセット値αは、第2オフセット値βよりも大きい。
【0061】
位置判定部31は、補正された平均値Pr1´及び平均値Pr2´との大小関係を比較し、携帯端末2の位置判定を行う。位置判定部31は、一度位置判定を行った後、継続して平均値Pr1´及び平均値Pr2´を監視することで、位置判定の切り替えを行う。
【0062】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
図11に示すように、補正部40が、平均値Pr1´を、第1オフセット値αによって補正(以下、第1補正と記載)すると、平均値Pr1´は、第1オフセット値αの分だけ大きくなる。すなわち、平均値Pr2´に対する平均値Pr1´の比が大きくなるように補正する。第1補正により、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の差D1の値は、大きくなる。
【0063】
図12に示すように、補正部40が、平均値Pr1´を、第2オフセット値βによって補正(以下、第2補正と記載)すると、平均値Pr1´は、第2オフセット値βの分だけ大きくなる。すなわち、平均値Pr2´に対する平均値Pr1´の比が大きくなるように補正する。第2補正により、平均値Pr2´及び平均値Pr1´の差D2の値は、小さくなる。
【0064】
次に、位置判定部31による位置判定の切り替えを説明する。
図13に示すように、位置判定部31は、一度、位置判定をした後、携帯端末2の移動等で経時的に変化する平均値Pr1´及び平均値Pr2´を監視し、判定の切り替えを行う。同図において、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の差の変化の一例を、曲線Cで示す。曲線Cが「0」を境に、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小関係が逆転する。
【0065】
ところで、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大きさが拮抗する場合、曲線Cが「0」付近で推移することが考えられる。この場合、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の大小関係が頻繁に逆転し、判定が安定しないという事態が発生し得る。
【0066】
上記を踏まえ、本例では、以下のように判定の切り替えを行う。ここでは、位置判定部31が室内判定をしたとして、説明する。位置判定部31は、室内判定をしている場合、第2補正された平均値Pr1´と平均値Pr2´との大小関係を比較することにより、位置判定の切り替えを行う。第2補正した平均値Pr1´と平均値Pr2´との差の変化を、曲線Cβで示す。位置判定部31は、第2補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´以上になった場合、すなわち、曲線Cβが「0」以上になった場合、室内判定から室外判定へと判定を切り替える。一方、位置判定部31は、第2補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´よりも小さい場合、すなわち、曲線Cβが「0」よりも小さい場合、室内判定を維持する。
【0067】
本例の場合、時刻t1において、第2補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´以上になり、曲線Cβが「0」以上になる。位置判定部31は、時刻t1で室内判定から室外判定へ切り替える。
【0068】
位置判定部31は、室外判定をしている場合、第1補正された平均値Pr1´と平均値Pr2´との大小関係を比較することにより、位置判定の切り替えを行う。第1補正された平均値Pr1´と平均値Pr2´との差の変化を、曲線Cαで示す。位置判定部31は、第1補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´よりも小さくなった場合、すなわち、曲線Cαが「0」よりも小さくなった場合、室外判定から室内判定へと判定を切り替える。一方、位置判定部31は、第1補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´以上の場合、すなわち、曲線Cαが「0」以上の場合、室外判定を維持する。
【0069】
本例の場合、時刻t2において、第1補正された平均値Pr1´が平均値Pr2´より小さくなり、曲線Cαが「0」より小さくなる。位置判定部31は、時刻t2で室外判定から室内判定へ切り替える。
【0070】
このように、室内判定から室外判定へと切り替えるときと、室外判定から室内判定へと切り替えるときとの間で、曲線Cの値には、ヒステリシスΔCが設けられている。これにより、頻繁に判定が切り替わることを抑制できる。
【0071】
なお、室外判定から判定を切り替える際、曲線Cの値は、時刻t2以前に「0」よりも小さくなる。よって、第1補正することによって、位置判定部31は、室外判定から室内判定へと判定を切り替えにくくなっている。これにより、仮に、車両1の室外において、平均値Pr1´及び平均値Pr2´が拮抗するエリアが存在する場合に、携帯端末2が当該エリアを通るように移動しても、室外判定から室内判定へ誤って判定が切り替わることを抑制できる。
【0072】
また、室内判定から判定を切り替える際、時刻t1において、曲線Cの値は、まだ「0」よりも小さい。よって、第2補正することによって、位置判定部31は、室内判定から室外判定へと判定を切り替えやすくなっている。これは、携帯端末2が室内にある状態では、差D2が予め十分に大きいことに基づき、例えば、十分な許容量を確保しつつ、判定を切り替えやすくすることで、利便性の向上に繋がる。
【0073】
さて、本例では、位置判定部31の現状の判定結果に応じた値に平均値Pr1´を補正する補正部40を備えた。また、位置判定部31は、補正された平均値Pr1´、及び平均値Pr2´に基づいて、携帯端末の位置の判定を切り替える。この構成によれば、それぞれの判定結果に応じた補正によって、正しく判定の切り替えを行うことができる。
【0074】
本例では、位置判定部31が車両1の室内外を判定する構成において、補正部40は、平均値Pr1´を大きくするように補正する。また、室外判定から室内判定への切り替わりと、室内判定から室外判定への切り替わりとで、値の異なる第1オフセット値α及び第2オフセット値βをそれぞれ用いる。この構成によれば、室内外を判定するシステムにおいて、判定を室外判定で安定させることができる。これは、正しい判定の切り替えに有利となる。
【0075】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第5実施形態において、第1オフセット値αによって、平均値Pr1´を大きくするように補正したが、これに限定されず、平均値Pr1´を小さくするように補正してもよい。すなわち、室外判定から室内判定へ判定を切り替え易くしてもよい。
【0076】
・第5実施形態において、第2オフセット値βによって、平均値Pr1´を大きくするように補正したが、これに限定されず、平均値Pr1´を小さくするように補正してもよい。すなわち、平均値Pr2´に対する平均値Pr1´の比が、補正前より補正後の方が小さくなるように補正してもよい。これにより、室内判定から室外判定へ判定を切り替え難くできる。
【0077】
・第5実施形態において、第1オフセット値α及び第2オフセット値βの大小は、どちらでもよい。
・第5実施形態において、補正部40は、平均値Pr1´を補正したが、これに限定されず、平均値Pr2´を補正してもよいし、平均値Pr1´及び平均値Pr2´の両方を補正してもよい。また、オフセットに限らず、係数や比率などによって補正してもよい。
【0078】
・第5実施形態において、位置判定部31は、大小関係の判定に閾値を設けてもよく、例えば平均値Pr1´及び平均値Pr2´の差が閾値以上か否かによって判定を切り替えてもよい。この場合、補正部40は、特性値を補正してもよいし、閾値を補正してもよい。
【0079】
・第3実施形態において、位置検出信号Sdの受信強度の標準偏差を、位置判定部31の位置判定にそのまま用いてもよい。例えば、伝搬経路L1のみが標準偏差の値が小さいことを前提に、2つの標準偏差Dv1,Dv2の大小を比較し、標準偏差Dv1が標準偏差Dv2より小さく、かつ、これら標準偏差Dv1,Dv2の差が規定値以上であった場合に、室外判定をしてもよい。また、平均値Pr1´,Pr2´の比較とともに、標準偏差Dv1,Dv2の比較を行うことで判定を行ってもよい。この構成によれば、例えば、受信強度の標準偏差に、各アンテナと携帯端末2との間の電波伝搬経路に起因した特徴がある場合、標準偏差を基に携帯端末2の位置を判定することができる。これは、携帯端末2の位置判定の精度の向上に寄与する。
【0080】
・第3実施形態において、補正部40は、ある伝搬経路のみ標準偏差が大きいことに特徴がある場合、標準偏差が大きいほどオフセット値を大きくするようにしてもよい。例えば、仮に伝搬経路L1のみ標準偏差が大きいことに特徴がある場合、オフセット値を大きくすることで、差D1を大きくすることができる。
【0081】
・第3実施形態において、補正部40は、標準偏差が大きいほど、平均値を小さくするようにマイナスのオフセット値で補正を行ってもよい。
・第2実施形態において、補正部40は、平均値Pr2´の値が小さくなるように補正を行ってもよいし、平均値Pr1´を大きくしつつ、平均値Pr2´を小さくするように補正を行ってもよい。この場合も、差D1を大きくし、差D2が小さくなるという同様の効果を得ることができる。
【0082】
・第2実施形態において、予め設定されたオフセット値は、適宜変更可能である。例えば、実験により測定した差D1及び差D2の値に基づいて設定することができる。
・第3実施形態において、標準偏差の値とオフセット値との間の関係は、適宜変更可能である。
【0083】
・第2実施形態及び第3実施形態において、補正部40は、測定部32より受信した受信強度を補正して、その後で平均値を算出してもよい。すなわち、補正の結果として平均値の値が補正できればよい。
【0084】
・各実施形態において、測定部32は、車両1側に設けられてもよい。例えば、携帯端末2から送信された位置検出信号Sdを、車両1側の複数のアンテナで受信してその受信強度から算出した特性値の大小関係に基づいて携帯端末2の位置を判定してもよい。
【0085】
・各実施形態において、位置判定部31は、携帯端末2側に設けられてもよい。
・第2実施形態及び第3実施形態において、補正部40は、携帯端末2側に設けられてもよい。
【0086】
・各実施形態において、平均値は、移動平均であることに限定されず、その他の算術平均であってもよいし、幾何平均や調和平均でもよい。また、重み付きの加重移動平均などを用いてもよい。
【0087】
・各実施形態において、特性値は、平均値に限定されず、中央値、最頻値であってもよい。これらは、受信強度の分布(ばらつき)に応じて適宜変更可能である。ただし、少ないデータ数での信頼性や、全てのデータを考慮に入れる点で、平均値を使用することが好ましい。
【0088】
・各実施形態において、位置判定部31は、携帯端末2が車両1の室内外のどちらに位置するかを判定することに限定されず、携帯端末2が車両1の運転席側及び助手席側のどちらにあるか、前側及び後側のどちらにあるか、又は車両1に対する携帯端末2の座標を判定するようにしてもよい。
【0089】
・各実施形態において、アンテナから送信される位置検出信号Sdの送信間隔は、特に限定されず、位置判定システム30の仕様に応じて適宜変更してもよい。
・各実施形態において、アンテナの配置は特に限定されず、仕様に応じて適宜変更可能である。例えば、車両1の室内外の区別なく、車両1の運転席側及び助手席側に配置されていてもよい。
【0090】
・各実施形態において、位置検出信号Sdには、電波送信元のアンテナIDが含まれていなくてもよい。例えば、位置判定部31は、位置検出信号Sdの送信タイミングを制御して、受信強度データを受信したタイミングからどのアンテナの受信強度なのかを識別してもよいし、位置検出信号Sdを送信したアンテナにより受信強度データを受信することで識別してもよい。
【0091】
・各実施形態において、室外アンテナ16及び室内アンテナ17の各々で、チャネルが異なる位置検出信号Sdの群を一度に送信する態様でもよい。
・各実施形態において、測定部32は、複数の位置検出信号Sdの群からその平均値を算出し、車両1側へ返信(通知)する態様でもよい。すなわち、特性値の計算は、車両1側及び携帯端末2側のどちらで行われてもよい。
【0092】
・各実施形態において、複数送信される位置検出信号Sd(電波)の各周波数は、BLE通信の周波数ホッピングから決まるチャネルに限定されない。
・各実施形態において、位置判定の基準となる大小関係は、本実施形態に限定されず、例えば車両1に位置判定システム30が実装された状態で実験されたデータを基に、適宜変更可能である。
【0093】
・各実施形態において、認証システム3及び位置判定システム30の通信規格や帯域は、実施例に限定されず、例えばWi-Fiを用いてもよい。またこれらシステムの間で異なる帯域を使用してもよい。
【0094】
・各実施形態において、車両1と携帯端末2との近距離無線通信の通信接続(ペアリング)を行う方法は、特に限定されない。例えば、どちらか片方の機器の操作のみでペアリングを行なってもよい。また、ペアリング時に車両1側で操作を行う場合、車両1に搭載されたカーナビゲーションシステムなどの機器を入出力機器として適用することができる。すなわち、ペアリングに際して、操作機器、操作方法及び認証方法などは適宜変更可能である。
【0095】
・各実施形態において、携帯端末2が電子キーID及びキー固有鍵を取得する方法は、インターネット通信を通じてサーバから取得することとしたが、これに限定されない。例えば、BLE通信を用いて車両1にログイン(ユーザID及びパスワード認証)し、予め車両1に登録されている電子キーID及びキー固有鍵を携帯端末2に付与する態様としてもよい。
【0096】
・各実施形態において、認証システム3で行うID照合は、電子キーID照合やキー固有鍵の暗号認証に限らず、携帯端末2の正否を確認できるものであればよい。
・各実施形態において、一連の認証において、ID照合と携帯端末2の位置検出の順番は特に限定されない。例えば、位置検出の後にID照合を行ってもいいし、ID照合と位置検出との実行期間が重なるように行ってもよい。
【0097】
・各実施形態において、携帯端末2は、高機能携帯電話に限定されず、車両1に紐付けられた電子キーであってもよい。
・各実施形態において、認証システム3及び位置判定システム30は、車両1に搭載されることに限定されず、種々の機器や装置に変更可能である。
【符号の説明】
【0098】
1…車両、2…携帯端末、3…認証システム、4…照合ECU、16…室外アンテナ、17…室内アンテナ、20…端末制御部、22…端末通信部、30…位置判定システム、31…位置判定部、32…測定部、40…補正部。