(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】触覚提示装置
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20240219BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G06F3/041 480
G06F3/01 560
(21)【出願番号】P 2019125790
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018165436
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520272868
【氏名又は名称】武漢天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅井 卓也
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 浩史
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0307789(US,A1)
【文献】特開2004-319255(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002404(WO,A1)
【文献】特開2018-055659(JP,A)
【文献】特開2016-110163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
G06F 3/041
G06F 3/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数電極を含む触覚提示領域を含むパネルと、
前記パネルを制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記触覚提示領域における第1領域に、一又は複数の周波数成分項を含む第1三角級数信号と第2三角級数信号とを同時に与え、
前記第1三角級数信号と前記第2三角級数信号とは前記第1領域内の異なる電極に与えられ、
前記第1三角級数信号及び前記第2三角級数信号は、同一周波数成分項及び異なる位相を有し、
前記第1三角級数信号と前記第2三角級数信号は、所定の時刻において共に絶対値がゼロではない電圧信号であり、
前記第1領域に与えられる信号は、前記第1三角級数信号と前記第2三角級数信号で構成され、
前記制御部は、前記第1領域の隣接領域
内の全ての電極に、
一定電位の基準信号を与える、
触覚提示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記触覚提示領域は、同一期間内に空間的に分離した複数の前記第1領域を含み、
前記制御部は、前記複数の前記第1領域に、前記第1三角級数信号と第2三角級数信号を同時に与える、
触覚提示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記異なる位相の位相差が180度である、
触覚提示装置。
【請求項4】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記第1三角級数信号と前記第2三角級数信号を供給する回路が移相器または反転回路を含む、
触覚提示装置。
【請求項5】
請求項1に記載の触覚提示装置であって、
前記第1三角級数信号は第1正弦波信号であり、前記第2三角級数信号は第2正弦波信号である、
触覚提示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記触覚提示領域は、同一期間内に空間的に分離した複数の前記第1領域を含み、
前記制御部は、前記複数の前記第1領域に、前記第1正弦波信号と第2正弦波信号を同時に与える、
触覚提示装置。
【請求項7】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記異なる位相の位相差が180度である、
触覚提示装置。
【請求項8】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記第1正弦波信号と前記第2正弦波信号を供給する回路が移相器または反転回路を含む、
触覚提示装置。
【請求項9】
請求項5に記載の触覚提示装置であって、
前記触覚提示領域における第2領域に、第3正弦波信号と第4正弦波信号とを同時に与え、前記第3正弦波信号と前記第4正弦波信号とは前記第2領域内の異なる電極に与えられ、
前記第3正弦波信号及び前記第4正弦波信号は、同一周波数及び異なる位相を有し、
前記第3正弦波信号と前記第4正弦波信号は、所定の時刻において共に絶対値がゼロではない電圧信号であり、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号の間の位相差と、前記第3正弦波信号及び前記第4正弦波信号の間の位相差とは、異なる、
触覚提示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の触覚提示装置であって、
前記第1領域と前記第2領域とは分離された領域である、
触覚提示装置。
【請求項11】
請求項9に記載の触覚提示装置であって、
前記第2領域の少なくとも一部は、前記第1領域に含まれ、
前記制御部は、前記第3正弦波信号及び前記第4正弦波信号を、前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号と異なる期間に前記第2領域に与える、
触覚提示装置。
【請求項12】
請求項9に記載の触覚提示装置であって、
前記第1正弦波信号、前記第2正弦波信号、前記第3正弦波信号及び前記第4正弦波信号は、同一の振幅を有する、
触覚提示装置。
【請求項13】
請求項9に記載の触覚提示装置であって、
前記第1正弦波信号及び前記第2正弦波信号の位相差は、第1範囲内であり、
前記第3正弦波信号及び前記第4正弦波信号の位相差は、前記第1範囲と分離された第2範囲内であり、
前記第1範囲は、40度から60度であり、
前記第2範囲は、110度から180度である、
触覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、静電気力により人体に触覚を提示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本開示の背景技術は、静電気力により人体に触覚を提示する技術である。例えば、特許文献1は、電極群に差動電圧を与えることで、触覚を提示する技術を開示する。具体的には、特許文献1は、+側電極及び-側電極に差動電圧を与えることで、+側電極及び-側電極と指先との容量結合を引き起こすことで触覚を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2013/0063381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触覚提示装置の利用においてユーザに与える触覚強度を変化させることができる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の触覚提示装置は、複数電極を含む触覚提示領域を含むパネルと、前記パネルを制御する制御部とを含む。前記制御部は、前記触覚提示領域における第1領域に、一又は複数の周波数成分項を含む第1三角級数信号と第2三角級数信号とを同時に与る。前記第1三角級数信号と前記第2三角級数信号とは前記第1領域内の異なる電極に与えられる。前記第1三角級数信号及び前記第2三角級数信号は、同一周波数成分項及び異なる位相を有する。前記制御部は、前記第1領域の隣接領域に、前記第1三角級数信号及び前記第2三角級数信号よりも各周波数成分項の係数が小さい基準信号を与える。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、触覚提示装置がユーザに与える触覚強度を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2A】触覚提示パネルの電極のレイアウト例を示す。
【
図2B】触覚提示パネルの電極のレイアウト例を示す。
【
図2C】触覚提示パネルの電極のレイアウト例を示す。
【
図3】触覚提示パネルの電極の一部及びそれらに与えられている信号の例を示す。
【
図4】触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする指との関係を模式的に示す。
【
図5】触覚提示パネルの対象領域(特定電極)のみが触覚を提示するように電極に信号を与える方法を示す。
【
図6】
図5の複数電極に与える信号のパターン例において、触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする指との関係を模式的に示す。
【
図7】触覚提示パネルが触覚を提示可能な領域において、制御部が電極に与える信号の例を示す。
【
図8】触覚提示パネルが触覚を提示可能な領域において、制御部が電極に与える信号の例を示す。
【
図9A】触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする指との関係を模式的に示す。
【
図9C】触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする他の指との関係を模式的に示す。
【
図11】触覚提示パネルが触覚を提示可能な領域において、制御部が電極に与える信号の例を示す。
【
図12】表示装置上に表示される画像及び触覚を提示する対象領域の一例を示す。
【
図13】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図14】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図15】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図16】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図17】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図18】対象領域における信号のパターン例を示す。
【
図23A】触覚提示装置の異なる状態の期間を示す。
【
図23B】触覚提示期間での電極駆動回路の状態を示す。
【
図23C】放電期間での電極駆動回路の状態を示す。
【
図23D】センサ期間での電極駆動回路の状態を示す。
【
図24】正弦波信号ペアの位相差と、触覚を与えることができた最低電圧振幅(検出閾値)との関係の主観評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。本実施形態は本開示の特徴を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。
【0009】
以下に開示する触覚提示装置は、触覚提示パネルの隣接電極に、同一周波数及び異なる位相の正弦波信号を与える。これにより、指やタッチペン等の擦過物で触覚提示装置の表面を擦るユーザに触覚を与える。さらに、触覚提示装置は、正弦波信号の位相差を変化させる。これにより、ユーザに与える触覚強度を変化させることができる。
【0010】
<触覚提示装置の構成>
図1は、触覚提示装置の構成例を模式的に示す。触覚提示装置100は、触覚提示パネル105、電極駆動回路106、及び制御部107を含む。触覚提示パネル105は、支持基板101、支持基板101上に配置されている、複数の配線151及び複数の電極(不図示)を含む。
図1においては、一つの配線のみが、例として、符号151で指示されている。触覚提示パネル105の表面は、絶縁膜で覆われている。
【0011】
触覚提示パネル105は、視覚ディスプレイと重ね合わせて用いることができる。例えば、支持基板101はガラス又は樹脂で形成され、電極はITO(Indium Tin Oxide)で形成される。触覚提示装置100は、視覚ディスプレイで表示した画像に対応した触覚を提示する。触覚提示装置100は、視覚ディスプレイと組み合わせていない形態であってもよい。例えば、触覚提示装置100は、画像を表示することなく触覚を提示するタブレット装置であってもよい。
【0012】
配線151は、電極駆動回路106に接続されている。配線151は、触覚(触感)を提示する電極への信号を伝送する。
図1の例において、配線151はY軸に沿って延び、X軸に沿って配列されている。配線151のレイアウトは設計依存する。例えば、触覚提示装置100は、配線151に代えて又は加えて、X軸に沿って延び、Y軸に沿って配列された配線を含んでもよい。
【0013】
電極駆動回路106は、配線151に、特定の電圧信号を与える。電極駆動回路106は、制御信号線を介して制御部107に接続されている。制御部107は、触覚を提示しようとする対象領域についての情報に基づいて、電極駆動回路106を制御する。
【0014】
制御部107は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、及び外部とのインタフェースを含んで構成されている。これら構成要素は、内部配線によって相互接続される。プロセッサは、メモリ格納されているプログラムに従って動作することによって所定の機能を実現する。プロセッサが実行するプログラム及び参照するデータは、例えば、ストレージからメモリにロードされる。制御部107は、プロセッサに加え又は代えて、所定機能を実現する論理回路を含んで構成されてもよい。この構成によって、触覚提示装置100は、選択した対象領域において、触覚を提示することができる。
【0015】
以下において、触覚提示パネル105の電極及び配線のレイアウト例を説明する。これらは例に過ぎず、配線の配列と電極の配列の組み合わせは、設計によって最適に組み合わせられる。
図2Aは、触覚提示パネル105の電極及び配線のレイアウト例を示す。
図2Aにおいて、一つの電極及び配線が、例として符号155及び151で指示されている。電極155は正方形である。電極155は互いに離間しており、それぞれに電極駆動回路106からの異なる配線151が接続されている。
【0016】
電極155と配線151とは異なる層に形成されており、配線151と電極とはコンタクトホールを介して接続される。制御部107は、電極155それぞれを個別に制御可能である。つまり、制御部107は、全ての電極155に異なる信号(電位)を与えることができる。電極155は、例えば、ITOからなる透明電極である。
【0017】
電極155の形状は任意であって、正方形と異なっていてよい。また、電極155の一部が他の一部と異なる形状を有していてよい。
図2Aのレイアウト例において、電極155は、X軸及びY軸に沿ってマトリックス状に配置されている。電極155のレイアウトは任意であって、マトリックスレイアウトと異なっていてよい。
【0018】
図2Bは、触覚提示パネル105の電極及び配線の他のレイアウト例を示す。
図2Bは、電極及び配線の一部を示す。
図2Bの例において、一つの電極及び配線が、例として符号155及び151で指示されている。電極155は正方形である。電極155はマトリックス状に配置されている。配線151及び電極155は同層に例えばITOで形成されている。Y軸に沿って配列された電極155は、一つの配線151に接続されている。X軸に沿った方向において、電極155は離間している。
【0019】
各配線151は、Y軸に沿って配列された電極155の端の電極155と電極駆動回路106のピンとを接続すると共に、隣接する電極155を接続している。各配線151の一部と各電極155の一部は共有されている。Y軸に沿った電極155は、同一の信号が与えられる。本構成は、電極155を駆動するチャネル数を低減できる。
【0020】
図2Cは、触覚提示パネル105の電極及び配線の他のレイアウト例を示す。本構成は、電極155を駆動するチャネル数を低減できる。
図2Cは、電極及び配線の一部を示す。触覚提示パネル105は、X軸に沿って延びる複数の配線151Hと、Y軸に沿って延びる複数の配線151Vとを含む。X軸に沿って延びる一つの配線が、例として符号151Hで指示され、Y軸に沿って延びる一つの配線が、例として符号151Vで指示されている。
【0021】
触覚提示パネル105は、各配線151Hに接続された、X軸に沿って配列された複数の電極155Hを含む。触覚提示パネル105は、各配線151Vに接続された、Y軸に沿って配列された複数の電極155Vを含む。異なる配線に接続されている電極は、互いに離間している。配線151Hに接続された一つの電極が例として符号155Hで指示され、配線151Vに接続された一つの電極が例として符号155Vで指示されている。配線151H及び電極155Hは同層に例えばITOで形成されている。配線151V及び電極155Vは同層に例えばITOで形成されている。なお、配線151Hと配線151Vとは絶縁膜を介して交差しており、両者の電気的な絶縁が保たれている。
【0022】
電極155H、155Vは、X軸又はY軸に沿ってみて菱形である。電極155H、155Vのレイアウトは、デルタ配列である。隣接する電極155H間に電極155Vが配置され、隣接する電極155V間に電極155Hが配置されている。また、隣接する配線151Hの間に電極155Vが配置されており、隣接する配線151Vの間に電極155Hが配置されている。
【0023】
各配線151Hは、X軸に沿って配列された電極155Hの端の電極155Hと電極駆動回路106のピンとを接続すると共に、隣接する電極155Hを接続している。各配線151Hの一部と各電極155Hの一部は共有されている。配線151Hに接続されている電極155Hは、同一の信号が与えられる。
【0024】
各配線151Vは、Y軸に沿って配列された電極155Vの端の電極155Vと電極駆動回路106のピンとを接続すると共に、隣接する電極155Vを接続している。各配線151Vの一部と各電極155Vの一部は共有されている。配線151Vに接続されている電極155Vは、同一の信号が与えられる。
【0025】
<電極へ与える信号>
図3は、触覚提示パネル105の電極155の一部及びそれらに与えられている信号の例を示す。以下において、明示のない場合、触覚提示パネル105は、
図2Aに示す電極及び配線のレイアウトを有する。
図3において、電極155P1のそれぞれには信号P1が与えられ、電極155P2のそれぞれには信号P2が与えられている。信号P1及びP2は同時に与えられる。
図3においては、例として、信号P1が与えられる一つの電極のみが符号155P1で指示され、信号P2が与えられる一つの電極のみが符号155P2で指示されている。
【0026】
信号P1及びP2は正弦波であり、同一の周波数及び振幅を有し、異なる位相を有する。例えば、信号P1はAsin(ωt)で表わされ、信号P2はAsin(ωt+φ)で表わされる。振幅は、異なっていてもよい。ただし、信号生成の容易性の観点から、振幅は同じである方が望ましい。
図3の例においては、信号P1を与えられる電極155P1及び信号P2を与えられる電極155P2は市松模様を構成している。つまり、電極155P1の上下左右に隣接する電極は電極155P2であり、電極155P2の上下左右に隣接する電極は電極155P1である。ここで、上下方向はY軸に沿った方向であり、左右方向はX軸に沿った方向である。
【0027】
図4は、触覚提示パネル105の一部構成の断面及び触覚提示パネル105をタッチする指300との関係を模式的に示す。指300は、触覚提示パネル105の表面を擦る擦過物の例である。電極155P1及び電極155P2の前面は絶縁膜156で覆われている。指300と電極155P1及び155P2との間に絶縁膜156が存在する。ここで、擦過物が触覚提示パネル105を擦る面を前面と呼び、その反対面を後面と呼ぶ。
【0028】
指300と絶縁膜156との接触面は、電極155P1及び電極155P2と対向している。指300は、絶縁膜156を介して、電極155P1及び電極155P2と容量結合する。指300と電極155P1との間の振動する静電気力及び指300と電極155P2との間の振動する静電気力によって、擦過時に触覚が発現する。信号P1及び信号P2の間の位相差φを変化させることで、触覚の強度を変化させることができる。
【0029】
図5は、触覚提示パネル105の対象領域(特定電極)のみが触覚を提示するように電極に信号を与える方法を示す。
図5において、触覚提示パネル105が触覚を与えることができる全領域の一部の対象領域501(特定の電極)が触覚を与え、その周囲の領域(電極)が触覚を与えない。
【0030】
制御部107は、対象領域501の電極155P1及び155P2に、それぞれ、信号P1及び信号P2を与える。
図3を参照して説明した例と同様に、電極155P1及び155P2は、市松模様を構成している。対象領域501の周囲の電極155Cに対して、制御部107は基準信号を与える。基準信号P0は、信号P1及びP2よりも振幅が小さい交流信号又は一定電位である。一定電位の振幅は0である。基準信号は、例えば、グランド電位である。なお、
図5において、対象領域501の周囲の一つの電極のみが、例として、符号155Cで指示されている。
【0031】
また基準信号は後述のセンサ回路における基準交流信号でも構わない。基準交流信号の振幅は触覚信号の振幅より小さい振幅が望ましい。具体的には、20V以下の振幅が望ましい。
【0032】
図6は、
図5の複数電極に与える信号P0、P1、P2のパターン例において、触覚提示パネル105の一部構成の断面及び触覚提示パネル105をタッチする指300との関係を模式的に示す。ユーザは、対象領域501外から対象領域501に指300を擦る。つまり、指300は、信号P0が与えられている電極155Cと対向する領域から、信号P1及びP2が与えられている電極155P1及び155P2と対向する領域に移動する。
【0033】
図6の例において、指300は、対象領域501の境界上、電極155C及び電極155P2と対向し、これらと容量結合している。位置によっては、指300は、対象領域501の境界上、電極155C及び電極155P1と対向し、これらと容量結合する。指300と基準信号が与えられている電極155Cとの容量結合により、対象領域501の境界の触覚が鮮明になる。また、電極155Cには基準信号が与えられているため、例えば、対象領域501外において他の指の意図しない誤タッチがあっても、触覚を与えることがない。
【0034】
図7及び
図8は、触覚提示パネル105が触覚を提示可能な領域(触覚提示領域)において、制御部107が電極155に与える信号の例を示す。
図7の例において、一つの対象領域501に対して、位相が異なる正弦波信号P1及びP2が与えられている。指300Rは、対象領域501においてテクスチャを感じることができる。対象領域501における信号P1及びP2のパターンは、
図3と同様である。
【0035】
図8に示すように、対象領域501外の領域に対して電位一定の基準信号P0が与えられている。指300Lは、対象領域501外の領域502をタッチしている。領域502の電極155Cには電位一定の基準信号P0が与えられているので、指300Lがテクスチャを感じることはない。
【0036】
図7、8の例において正弦波信号P1及びP2の位相差(Φ)を180度とすることができる。
図9Aは、触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする指との関係を模式的に示す。
図9Bは、信号P1及びP2の変化を示す。
図9Cは、触覚提示パネルの一部構成の断面及び触覚提示パネルをタッチする他の指との関係を模式的に示す。
【0037】
図9Aから9Cに示すように、信号P1の電位及び信号P2の電位の平均電位は常に略一定であるから、対象領域501にタッチしている指300Rは対象領域501からの電位変動の影響をほとんど受けない。従って指300R及び指300Lが同一人であっても、指300Lは指300Rの電位変動の影響をほとんど受けることがないため、対象領域501と対象領域外の領域502のテクスチャの違いをより鮮明に感知することができる。
【0038】
さらに、対象領域501に触れた指から人体内部へ電流が流れる。正弦波信号P1とP2の位相差(Φ)によって人体内部への電流量は変動する。例えば、位相差(Φ)が0度のときは電極から一定の静電容量を持つ人体内部に電流が流れ、人はしびれ感を感じる。一方、例えば位相差(Φ)が180度のときはP1及びP2の間で電流が流れるため、人体内部にはほとんど電流は流れない。従って、位相差180度の場合は人はしびれ感を感じないため、より強いテクスチャを感じることができる。
【0039】
触覚提示パネル105は、空間的に分離した複数の対象領域501を提示することができる。
図10は、対象領域501と指との関係例を示す。複数の対象領域501にはそれぞれ正弦波信号P1及びP2が与えられている。対象領域501にタッチしている指300R1及び指300Lはテクスチャを感じることができ、対象領域外の領域502にタッチしている指300R2はテクスチャを感じない。対象領域501における信号P1及びP2のパターンは、
図3と同様である。
【0040】
図11は、触覚提示パネル105が触覚を提示可能な領域において、制御部107が電極155に与える信号の例を示す。制御部107は、対象領域501及び対象領域503の電極155に対して、それぞれ、指300R及び300Lに触覚を提示するための信号ペアを与える。対象領域501及び対象領域503は分離しており、全く重なっていない。対象領域501及び対象領域503の外の領域の電極155に対しては、基準信号P0が与えられる。
【0041】
具体的には、制御部107は、対象領域501の電極155に対して、正弦波信号P1及び正弦波信号P2からなる信号ペアを与える。信号P1と信号P2とは同一周波数ω1を有し、異なる位相(位相差φ1)を有する。信号P1と信号P2が与えられる電極の配置は、例えば、
図3を参照して説明した配置と同様である。
【0042】
制御部107は、対象領域503の電極155に対して、正弦波信号P3及び正弦波信号P4からなる信号ペアを与える。信号P3と信号P4とは同一周波数ω2を有し、異なる位相(位相差φ2)を有する。信号P3と信号P4が与えられる電極の配置は、例えば、
図3を参照して説明した配置と同様である。
【0043】
信号P3及びP4の周波数ω2は、信号P1及びP2の周波数ω1と同一又は異なる。信号P1からP4の周波数が同一であることは、触覚提示パネル105の制御をより容易なものとする。信号P3及びP4の位相差φ2と、信号P1及びP2の位相差φ1とは、異なる。異なる位相差は、対象領域501及び503が異なる強度の触覚を提示することを可能とする。
【0044】
対象領域501及び503以外の領域において、電極155に対して電位一定の基準信号P0が与えられている。そのため、上述のように、対象領域501及び503の境界の触覚が鮮明になる。また、対象領域501及び503外において、他の指の意図しない誤タッチがあっても、触覚を与えることがない。
【0045】
図11の例は、同一期間内に、分離した(共有する電極がない)対象領域501及び503に、位相差が異なる正弦波信号ペアを与える。これにより、対象領域501及び503において、異なる強度の触覚をユーザに与えることができる。
【0046】
他の例において、制御部107は、同一領域又は一部が重なる二つの領域に対して、分離された期間(重複がない期間)に、位相差が異なる正弦波信号ペアを与えてよい。例えば、制御部107は、第1期間において、信号P1及びP2を対象領域501の電極に与え、第1期間に続く第2期間において、信号P3及びP4を対象領域501の電極に与える。
【0047】
制御部107は、正弦波信号ペアを与える領域(電極)を変更することで、実際に触覚を提示する対象領域の位置及び形状を変化させることができる。例えば、制御部107は、動画のように、連続的に対象領域を移動させてもよい。
【0048】
図12は、表示装置上に表示される画像及び触覚を提示する対象領域の一例を示す。画像701は時間とともに表示装置の表示領域710上を移動する。画像701の移動に伴い、触覚を提示する対象領域711も移動する。具体的には、触覚を提示する対象領域は、領域711から領域712を介して領域713へ移動する。画像701は、領域711から領域712を通って領域713に至る。
【0049】
波形
図720は、領域715の電極に与える信号を示す。制御部107は、期間722において、領域715の電極に信号P1及び信号P2が与える。信号P1及び信号P2の位相差は、例えば、180°である。制御部107は、期間722において、領域715の電極に基準信号を与える。制御部107は、期間723において、領域715の電極に信号P1及び信号P2が与える。
【0050】
期間721の最後に、領域715の電極に所定の電位が蓄積される。しかし、期間721に領域715の電極は基準信号が与えられるため、期間723における信号は、期間721において蓄積された電位の影響を受けることはない。上述のように、基準信号は一定電位又は触覚信号振幅に比較して百分の一程度の低電圧振動電位であってよい。触覚信号の周波数は、例えば、神経の振動検出閾値から数十~数百Hzである。
【0051】
触覚信号は単一の正弦波信号だけでなく複数の周波数成分を含む三角級数信号であってもよい。互いに隣接する電極の触覚信号の周波数の同一性とは、一方の三角級数信号が有する複数の項と同一の周波数成分項を他方の三角級数信号が過不足なく有するということである。さらに振幅の同一性とは、互い三角級数信号の同一の周波数成分項の係数が同一ということである。触覚信号は例えば矩形波信号や三角波信号やその他の三角級数信号も本開示に含まれる。
【0052】
以下において、触覚を与える対象領域における信号P1及びP2(を与えらえる電極)のパターンのいくつかの例を説明する。
図13は、対象領域における信号P1及びP2のパターン例を示す。上下左右に隣接する4つの電極からなる電極ユニットに同一の信号P1又はP2が与えられる。
【0053】
信号P1が与えられる電極155P1からなる電極ユニットに上下左右において隣接する電極ユニットは、信号P2が与えられる電極155P2からなる電極ユニットである。つまり、信号P1及びP2を与えられる複数の電極ユニットが、市松模様を構成する。
【0054】
擦過物が接触する領域350は、信号P1が与えられる電極155P1及び信号P2が与えられる電極155P2を含む。つまり、擦過物は、電極155P1及び電極155P2と同時に容量結合し、電極155P1及び電極155P2から振動する静電気力を同時に受けることができる。
【0055】
制御部107は、擦過物の接触面積に応じて、対象領域に与える信号P1及びP2のパターンを変化させてもよい。例えば、制御部107は、擦過物の接触面積が狭い場合に
図3に示すパターンの信号P1及びP2を与え、擦過物の接触面積が広い場合に
図13に示すパターンの信号P1及びP2を与える。
【0056】
電極ユニットを構成する同一信号が与えられる電極の数は、擦過物の接触面積に応じて任意に設定できる。例えば、電極ユニットは、3×3の電極で構成されていてもよい。いずれの構成においても、触覚を与える対象領域は、位相が異なる信号が与えられる隣接電極を含む。
【0057】
図14は、対象領域における信号P1及びP2の他のパターン例を示す。Y軸に沿って配列されている各列の電極に対して同一の信号が与えられている。X軸沿って隣接する電極列には、異なる信号が与えられている。
【0058】
具体的には、信号P1が与えられており、Y軸に沿って配列された電極155P1で構成されている電極列と、信号P2が与えられており、Y軸に沿って配列された電極155P2で構成されている電極列とが、X軸に沿って交互に配列されている。Y軸に沿って隣接する電極に対しては同一の信号が与えられているが、X軸に沿って隣接する電極に対しては位相が異なる信号P1及びP2が与えられている。
【0059】
擦過物の接触領域350は、Y軸に沿った長さよりもX軸に沿った長さが長く、その移動方向351はY軸に沿った方向である。接触領域350は、いずれの位置においても、電極155P1及び電極155P2を含む。つまり、擦過物は、電極155P1及び電極155P2と同時に容量結合し、電極155P1及び電極155P2から振動する静電気力を同時に受けることができる。
【0060】
図15は、対象領域における信号P1及びP2のパターン例を示す。X軸に沿って配列されている各行の電極に対して同一の信号が与えられている。Y軸沿って隣接する電極行には、異なる信号が与えられている。
【0061】
具体的には、信号P1が与えられており、X軸に沿って配列された電極155P1で構成されている電極行と、信号P2が与えられており、X軸に沿って配列された電極155P2で構成されている電極行とが、Y軸に沿って交互に配列されている。X軸に沿って隣接する電極に対しては同一の信号が与えられているが、Y軸に沿って隣接する電極に対しては位相が異なる信号P1及びP2が与えられている。
【0062】
擦過物の接触領域350は、X軸に沿った長さよりもY軸に沿った長さが長く、その移動方向351はX軸に沿った方向である。接触領域350は、いずれの位置においても、電極155P1及び電極155P2を含む。つまり、擦過物は、電極155P1及び電極155P2と同時に容量結合し、電極155P1及び電極155P2から振動する静電気力を同時に受けることができる。
【0063】
図14及び15に示すストライプパターンは、電極155の電位制御がより容易である。このように、擦過物の動かす方向、接触面積などにより適切なパターンを選択することができる。なお、
図14の例において、連続する2列以上に同一信号が与えられてもよく、
図15の例において、連続する2行以上に同一信号が与えられてもよい。
【0064】
図16は、対象領域における信号P1及びP2のパターン例を示す。触覚提示パネル105は、
図2Cに示す電極及び配線のレイアウトを有する。配線151H及びそれらに接続された電極に対して信号P1が与えられている。配線151V及びそれらに接続された電極に対して信号P2が与えられている。信号P1が与えられている電極155P1及び信号P2が与えられている電極155P2は、市松模様を構成している。
【0065】
図17は、対象領域における信号P1及びP2のパターン例を示す。触覚提示パネル105は、
図2Cに示す電極及び配線のレイアウトを有する。配線151H及びそれらに接続された電極に対して、信号P1及び信号P2が交互に与えられている。また、配線151V及びそれらに接続された電極に対して、信号P1及び信号P2が交互に与えられている。
【0066】
信号P1が与えられている隣接する四つの電極155P1からなる電極ユニットと、信号P2が与えられている隣接する四つの電極155P2からなる電極ユニットとが、市松模様を構成している。
図16のパターンと比較して、市松模様のピッチが大きい。
【0067】
図18は、対象領域における信号P1及びP2のパターン例を示す。触覚提示パネル105は、
図2Bに示す電極及び配線のレイアウトを有する。配線151及びそれらに接続された電極に対して、信号P1及び信号P2が交互に与えられている。信号P1及びP2のパターンは、
図14に示すパターンと同様である。
【0068】
上述のように、配線と電極のレイアウト及び電極駆動回路からの信号により、信号のパターンを変えることができる。
【0069】
<電極駆動回路>
以下において、電極駆動回路106の回路構成例を説明する。電極駆動回路106は、配線線と信号供給部との間の切り替えスイッチを含む。信号供給部は、基準電位供給部及び触覚信号供給部を含む。触覚信号供給部は、信号P1又は信号P2を供給する。
【0070】
図19は、電極駆動回路106の回路構成例を示す。電極駆動回路106は、信号P1を与えるための回路810及び信号P2を与えるための回路820を含む。各配線に、回路810又は回路820が接続されている。つまり、各電極には、触覚提示のために信号P1又は信号P2の一方のみが与えられる。これにより、電極駆動回路106の構成が簡便にできる。
【0071】
回路810は、スイッチ811及び812を含む。スイッチ811は、電極155とグランドとを接続する。スイッチ812は、電極155と信号P1の信号源813とを接続する。制御部107は、スイッチ811及び812を制御することで、電極155に対して、グランド電位(基準信号)又は触覚提示のための信号P1を与える。
【0072】
回路820は、スイッチ821及び822を含む。スイッチ821は、電極155と基グランドとを接続する。スイッチ822は、電極155と信号P2の信号源823とを接続する。制御部107は、スイッチ821及び822を制御することで、電極155に対して、グランド電位(基準信号)又は触覚提示のための信号P2を与える。
【0073】
図20は、電極駆動回路106の回路構成の他の例を示す。電極駆動回路106は、信号P1、信号P2及び基準信号から選択信号を与えるための回路830を含む。各配線に、回路830が接続されている。
【0074】
回路830は、スイッチ831、832及び833を含む。スイッチ831は、電極155と基グランドとを接続する。スイッチ832は、電極155と信号P1の信号源834とを接続する。スイッチ833は、電極155と信号P2の信号源835とを接続する。制御部107は、スイッチ831、832及び833を制御することで、電極155に対して、グランド電位(基準信号)、信号P1、又は信号P2を与える。この構成により、様々な信号P1及びP2のパターンを実現できる。
【0075】
図21は、電極駆動回路106の回路構成の他の例を示す。電極駆動回路106は、信号P1、信号P2、基準信号から選択信号を与えると共に、センサ機能を実現するための回路840を含む。各配線に、回路840が接続されている。
【0076】
回路840は、スイッチ841、842、843及び844を含む。スイッチ841は、電極155と基グランドとを接続する。スイッチ842は、電極155と信号P1の信号源845とを接続する。スイッチ843は、電極155と信号P2の信号源846とを接続する。スイッチ844は、電極155とセンサ(不図示)とを接続する。
【0077】
制御部107は、スイッチ841、842、843及び844を制御することで、電極155に対して、グランド電位(基準信号)、信号P1、若しくは信号P2を与える、又はセンサに電極155からの信号を与える。この構成により電極に触覚提示の機能だけでなく、センサ機能を付加することができる。
【0078】
図22は、電極駆動回路106の回路構成の他の例を示す。電極駆動回路106は、信号P1、信号P2、基準信号から選択信号を与えると共に、センサ機能を実現するための回路850を含む。各配線に、回路850が接続されている。
【0079】
回路850は、スイッチ851、852、853及び854を含む。スイッチ851は、電極155と基準信号857とを接続する。スイッチ852は、電極155と信号P1の信号源855とを接続する。スイッチ853は、電極155とP1の信号源855と接続した移相器856とを接続する。スイッチ854は、電極155とセンサ(不図示)とを接続する。基準信号857は例えばセンサ回路の基準交流信号と同等の信号で構わない。移相器856は信号P1と位相の異なる信号P2を生成する。信号P1と信号P2の位相差が180度の場合には、移相器856は例えば反転回路でも構わない。
【0080】
図23Aから23Dを参照して、触覚提示装置にセンサ機能を付与する一例を説明する。
図23Aは、触覚提示装置100の異なる状態の期間を示す。
図23Bから23Dは、それぞれ、異なる状態期間での電極駆動回路の状態を示す。触覚提示装置100は、電極155に接続したスイッチを順次切り替えることにより、触覚提示期間231、放電期間232、センサ期間233を示す。
【0081】
触覚提示期間231では、電極155はスイッチS2により信号P1に接続される。放電期間232では、電極155はスイッチS1により基準電位P0に接続される。センサ期間233では、電極155はスイッチS3によりセンサ回路に接続される。基準電位P0は、例えば、基準電位電源やグランドや交流電源であってよい。
【0082】
本構成により、触覚提示期間231に電極155に蓄積された電圧は、放電期間232で放電されるため、センサ期間233でセンサ回路は電極電圧の影響を受けず、安定したセンサ検出が可能である。
【0083】
<位相差と触覚強度との関係>
以下において位相差と触覚強度との関係について説明する。以下において、擦過物は指であるとする。上述のように、制御部107は、互いに位相が異なり、かつ周波数が同一である2つの正弦波信号を、パネル上に配置された互いに隣り合う2つの電極に入力する。しかし、触覚提示装置100とユーザとは、電気的に独立した系であるため、ユーザの身体電位(指の電位)は、ユーザの状態(周囲環境を含む)によって変化する。
【0084】
例えば、身体が接地されているとき、指の電位はグランド電位である。一方、身体が非接地のとき、指の電位は、2つの信号P1及びP2の平均((P1+P2)/2)である。そのため、ユーザの状態によって、指と触覚提示装置100の電極との間に発生する静電気力(触覚強度)が変化してしまう。したがって、触覚提示装置100は、ユーザの状態による静電気力(触覚強度)の変化を小さくすることが望まれる。
【0085】
本開示の触覚提示装置100は、二つの正弦波信号の位相差を特定の範囲内に含めることで、ユーザの状態に起因する静電気力(触覚強度)の変化を小さくする。以下において、具体的に説明する。
【0086】
図24は、正弦波信号ペアの位相差と、触覚を与えることができた最低電圧振幅(検出閾値)との関係の主観評価を示す。
図24のグラフにおいて、横軸は正弦波信号ペアの位相差(角度)を示し、縦軸はテクスチャが感じられた電圧(検出閾値)を示す。白丸は、身体接地状態における評価結果を示し、黒丸は身体非接地状態における評価結果を示す。10度毎の位相差の検出閾値が評価された。
【0087】
評価に使用された触覚提示装置は、
図3を参照して説明したように、市松状に配置された2つの電極群に位相差の異なる2つの信号を入力した。入力された信号の周波数は150Hzであった。
【0088】
図24のグラフから理解されるように、位相差によって、身体接地状態の検出閾値と身体非接地状態における検出閾値との差が大きく変化している。
図24のグラフにおいて、位相差40から60度の範囲401において、身体接地状態の検出閾値と身体非接地状態における検出閾値との差が小さい。また、位相差110から180度の範囲402において、身体接地状態の検出閾値と身体非接地状態における検出閾値との差が小さい。
【0089】
ここで、検出閾値と触覚強度とは、触覚提示のための電圧振幅が同じ場合、検出閾値が低い方が触覚強度は強くなり、検出閾値が高い方が触覚強度は弱くなる関係にある。
図24によれば、触覚提示装置は、範囲401及び402において、身体接地状態及び身体非接地状態における検出閾値の差が小さいことから、身体の接地と非接地に関わらず、略同様の触覚強度を提示することができた。また、範囲401の検出閾値は範囲402検出閾値より高くなっている。触覚提示装置は、位相差によって触覚強度が変化し、範囲401における触覚強度は、範囲402における触覚強度よりも小さかった。
【0090】
触覚提示装置と擦過物が電気的に独立な系であれば、各種デバイスへ適用が比較的容易となる。しかし、擦過物の電位が周囲環境及び擦過物に近接する電極電位によって変動するため、一定の触覚強度(静電気力)を安定的に提示することが困難となる。
図24の評価から、正弦波信号ペアの位相差を範囲401及び範囲402に設定することにより、一定の触覚強度を安定的に提示することができる。
【0091】
位相差範囲401と402との間に、触覚強度の差異が存在する。具体的には、位相差範囲401の触覚強度が位相差範囲402の触覚強度に比べて弱い。触覚提示装置100は、異なる位相差の正弦波信号ペアを分離した領域又は期間において使用する場合、一方の正弦波信号ペアの位相差を一つの位相差範囲から選択し、他方の正弦波信号ペアの位相差を他方の位相差範囲から選択してもよい。これにより、触覚強度の違いを大きくすることができる。触覚提示装置100は、双方の正弦波信号ペアの位相差を、一つの位相差範囲から選択してもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
100 触覚提示装置、101 支持基板、105 触覚提示パネル、106 電極駆動回路、107 制御部、151 Xライン、152 Yライン、155、155P1-155C 電極、156 絶縁膜、300、300L、300R 指、350 接触領域、351、352 移動方向、401、402、451、452、631、632、635、636 位相差範囲、421 身体接地状態における静電気力振幅、422 身体非接地状態における静電気力振幅、441 異なる位相差における、身体接地状態と身体非接地状態との間の検出閾値の差の規格化絶対値、442 静電気力振幅差、454 触覚差
不検出範囲、501、502、503 触覚提示対象領域、601 静電気力振幅の平均値の変化、602 静電気力振幅のばらつき幅の変化、603 静電気力振幅のばらつき幅及び静電気力振幅のばらつき幅の静電気力振幅の平均値に対する比率の変化、Cb 人体容量、Cp1、Cp2 容量、EP1、EP2 電極、P0 基準信号、P1-P4 正弦波信号