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特許7438685熱電モジュール及び熱電モジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】熱電モジュール及び熱電モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/817 20230101AFI20240219BHJP
   H10N 10/852 20230101ALI20240219BHJP
   H10N 10/851 20230101ALI20240219BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20240219BHJP
【FI】
H10N10/817
H10N10/852
H10N10/851
H10N10/01
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019140282
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021022712
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 鎔勲
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-124707(JP,A)
【文献】特開2017-130596(JP,A)
【文献】特開2018-160560(JP,A)
【文献】特表2017-535939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0189887(US,A1)
【文献】特開平10-041553(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0082366(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107681044(CN,A)
【文献】特開2007-227793(JP,A)
【文献】特表2007-535803(JP,A)
【文献】特開2001-068746(JP,A)
【文献】特開2017-204550(JP,A)
【文献】特開2013-089719(JP,A)
【文献】特開2016-119450(JP,A)
【文献】特開2003-197981(JP,A)
【文献】特開平08-330638(JP,A)
【文献】特開平07-321378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/817
H10N 10/852
H10N 10/851
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の間に配置される熱電素子と、
前記電極と前記熱電素子との間に配置され前記熱電素子に接続されるアンカ層と、
前記アンカ層と前記電極との間に配置される応力緩和層と、
前記応力緩和層と前記電極との間に配置される共晶層と、を備え
前記アンカ層は、前記熱電素子に接触する一方の面と、前記応力緩和層に接触する他方の面と、を有し、
前記アンカ層の一方の面に前記熱電素子に食い込む第1の凹凸部が設けられ、
前記アンカ層の他方の面に前記応力緩和層に食い込む第2の凹凸部が設けられ、
前記アンカ層は、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)からなる、
熱電モジュール。
【請求項2】
前記熱電素子は、マンガンケイ化物系化合物(Mn-Si)、マグネシウムケイ化物系化合物(Mg-Si-Sn)、スクッテルダイト系化合物(Co-Sb)、ハーフホイスラ系化合物(Zr-Ni-Sn)、及びビスマステルル系化合物(Bi-Te)の少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の熱電モジュール。
【請求項3】
前記電極は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層とを含む、
請求項1又は請求項2に記載の熱電モジュール。
【請求項4】
前記熱電素子と前記アンカ層との引張強度は、60[kgf/cm]以上である、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の熱電モジュール。
【請求項5】
前記応力緩和層は、前記アンカ層よりも軟らかい、
請求項に記載の熱電モジュール。
【請求項6】
前記応力緩和層は、銅(Cu)、銅を含む合金、アルミニウム(Al)、アルミニウムを含む合金、ニッケル(Ni)、又はニッケルを含む合金からなる、
請求項に記載の熱電モジュール。
【請求項7】
前記アンカ層と前記応力緩和層との引張強度は、60[kgf/cm]以上である、
請求項に記載の熱電モジュール。
【請求項8】
前記応力緩和層と前記電極との引張強度は、60[kgf/cm]以上である、
請求項に記載の熱電モジュール。
【請求項9】
酸素フリー雰囲気において、溶射により熱電素子にアンカ層を形成する工程と、
前記アンカ層に応力緩和層を形成する工程と、
前記応力緩和層に電極を形成する工程と、
前記応力緩和層と前記電極とを加熱した状態で圧接して前記応力緩和層と前記電極との間に共晶層を形成する工程と、を含
前記熱電素子に接触する前記アンカ層の一方の面に前記熱電素子に食い込む第1の凹凸部が設けられ、
前記応力緩和層に接触する前記アンカ層の他方の面に前記応力緩和層に食い込む第2の凹凸部が設けられ、
前記アンカ層は、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)からなる、
熱電モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電モジュール及び熱電モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電モジュールは、熱電素子と電極とを接合層を介して接合することにより製造される。接合層の材料として半田及びろう材が知られている。ろう材として、銀(Ag)を主成分とする銀ろう材、銅(Cu)を主成分とする銅ろう材、及びアルミニウム(Al)を主成分とするアルミろう材が知られている。半田は、低い接合温度(例えば450℃未満)の材料の接合に使用される。ろう材は、高い接合温度(例えば450℃以上)の材料の接合に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-160560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱電素子と電極とを接合層を介して接合した場合、接合層の成分が熱電素子に拡散したり、接合層との反応により電極が腐食したりして、熱電モジュールの性能が低下する可能性がある。例えば、熱電素子と接合層との接合強度又は電極と接合層との接合強度が低下したり、熱電素子と電極との間の電気抵抗又は熱抵抗が高くなったりする可能性がある。
【0005】
本発明の態様は、熱電モジュールの性能の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、一対の電極の間に配置される熱電素子と、前記電極と前記熱電素子との間に配置され前記熱電素子に接続されるアンカ層と、を備える、熱電モジュールが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、熱電モジュールの性能の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る熱電モジュールを示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る熱電モジュールの一部を示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る熱電モジュールの一部を拡大した断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係る電極を模式的に示す図である。
図5図5は、第1実施形態に係る熱電モジュールの製造方法を示すフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態に係る熱電モジュールの一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する複数の実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。
【0010】
[第1実施形態]
<熱電モジュール>
図1は、本実施形態に係る熱電モジュール1を示す斜視図である。図1に示すように、熱電モジュール1は、一対の基板71及び基板72と、一対の電極11及び電極12と、電極11と電極12との間に配置される熱電素子21及び熱電素子22とを備える。
【0011】
基板71及び基板72のそれぞれは、電気絶縁材料によって形成される。基板71の下面と基板72の上面とは、間隙を介して対向する。本実施形態において、基板71及び基板72のそれぞれは、セラミック基板である。基板71及び基板72のそれぞれは、酸化物セラミック又は窒化物セラミックによって形成される。酸化物セラミックとして、酸化アルミニウム(Al)又は酸化ジルコニウム(ZrO)が例示される。窒化物セラミックとして、窒化珪素(Si)又は窒化アルミニウム(AlN)が例示される。
【0012】
電極11は、基板71の下面に設けられる。電極12は、基板72の上面に設けられる。電極11は、基板71の下面と平行な所定面内において複数設けられる。電極12は、基板72の上面と平行な所定面内において複数設けられる。
【0013】
熱電素子21及び熱電素子22のそれぞれは、熱電材料によって形成される。熱電素子21は、p型熱電半導体素子である。熱電素子22は、n型熱電半導体素子である。熱電素子21及び熱電素子22のそれぞれは、所定面内に複数配置される。所定面内の第1軸方向において、熱電素子21と熱電素子22とは交互に配置される。第1軸方向と直交する所定面内の第2軸方向において、熱電素子21と熱電素子22とは交互に配置される。
【0014】
電極11は、隣接する一対の熱電素子21及び熱電素子22のそれぞれに接続される。電極12は、隣接する一対の熱電素子21及び熱電素子22のそれぞれに接続される。
【0015】
熱電素子21及び熱電素子22が電極11又は電極12を介して電気的に接続されることにより、pn素子対が構成される。複数のpn素子対が電極12又は電極11を介して直列に接続されることにより、直列回路が構成される。直列回路の一端部の熱電素子22に電極12を介してリード線61が接続される。直列回路の他端部の熱電素子21に電極12を介してリード線62が接続される。
【0016】
熱電素子21及び熱電素子22に電流が供給されることにより、熱電モジュール1は、ペルチェ効果により吸熱又は発熱する。基板71と基板72との間に温度差が与えられることにより、熱電モジュール1は、ゼーベック効果により発電する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る熱電モジュール1の一部を示す断面図である。図2に示すように、熱電モジュール1は、一対の電極11と電極12との間に配置される熱電素子21と、電極11と熱電素子21との間に配置され熱電素子21に接続されるアンカ層30と、アンカ層30と電極11との間に配置される応力緩和層40と、応力緩和層40と電極11との間に配置され電極11に接続される共晶層50とを備える。
【0018】
アンカ層30、応力緩和層40、及び共晶層50は、電極11と熱電素子21との間、電極11と熱電素子22との間、電極12と熱電素子21との間、及び電極12と熱電素子22との間のそれぞれに配置される。複数のアンカ層30の材料及び構造は同一である。複数の応力緩和層40の材料及び構造は同一である。複数の共晶層50の材料及び構造は同一である。また、電極11の材料と電極12の材料とは同一である。熱電素子21の材料と熱電素子22の材料とは同一である。以下の説明においては、電極11と熱電素子21との間に配置されるアンカ層30、応力緩和層40、及び共晶層50について主に説明する。
【0019】
図3は、本実施形態に係る熱電モジュール1の一部を拡大した断面図である。図2及び図3に示すように、熱電素子21よりも上側(電極11側)にアンカ層30が配置される。アンカ層30よりも上側(電極11側)に応力緩和層40が配置される。応力緩和層40よりも上側(電極11側)に共晶層50が配置される。共晶層50よりも上側(電極11側)に電極11が配置される。
【0020】
熱電素子21は、熱電材料からなる。熱電素子21を形成する熱電材料として、マンガンケイ化物系化合物(Mn-Si)、マグネシウムケイ化物系化合物(Mg-Si-Sn)、スクッテルダイト系化合物(Co-Sb)、ハーフホイスラ系化合物(Zr-Ni-Sn)、及びビスマステルル系化合物(Bi-Te)が例示される。熱電素子21は、マンガンケイ化物系化合物、マグネシウムケイ化物系化合物、スクッテルダイト系化合物、ハーフホイスラ系化合物、又はビスマステルル系化合物から選択される1つの化合物により構成されてもよいし、少なくとも2つの化合物の組み合わせにより構成されてもよい。
【0021】
アンカ層30は、アンカ効果により、熱電素子21と電極11(応力緩和層40)とを高い接合強度で接合する。
【0022】
アンカ層30は、モリブデン(Mo)からなる。なお、アンカ層30は、ニッケル(Ni)からなってもよいし、チタン(Ti)からなってもよい。アンカ層30は、モリブデン、ニッケル、及びチタンから選択される少なくとも2つの材料の組み合わせにより構成されてもよい。
【0023】
アンカ層30の一方の面は、熱電素子21に接触する。アンカ層30の一方の面は、凹凸部を有する。アンカ層30の一方の面の凹凸部は、熱電素子21に食い込む。アンカ層30の一方の面の凹凸部のアンカ効果により、アンカ層30と熱電素子21との接着力は向上する。本実施形態において、熱電素子21とアンカ層30との引張強度は、60[kgf/cm]以上である。
【0024】
応力緩和層40は、熱電素子21又は電極11に作用する応力を緩和する。応力緩和層40は、アンカ層30よりも軟らかい。熱電素子21、アンカ層30、又は電極11に熱応力が作用しても、応力緩和層40の少なくとも一部が変形して、熱電素子21、アンカ層30、又は電極11に作用する熱応力を緩和する。
【0025】
応力緩和層40は、銅(Cu)からなる。なお、応力緩和層40は、銅を含む合金からなってもよいし、アルミニウム(Al)からなってもよいし、アルミニウムを含む合金からなってもよいし、ニッケル(Ni)からなってもよいし、ニッケルを含む合金からなってもよい。なお、アンカ層30がニッケルからなる場合、応力緩和層40は、ニッケル以外の材料からなることが好ましい。なお、応力緩和層40は、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも2つの材料の組み合わせにより構成されてもよい。
【0026】
アンカ層30の他方の面は、応力緩和層40の一方の面に接触する。アンカ層30の他方の面は、凹凸部を有する。アンカ層30の他方の面の凹凸部は、応力緩和層40に食い込む。アンカ層30の他方の面の凹凸部のアンカ効果により、アンカ層30と応力緩和層40との接着力は向上する。本実施形態において、アンカ層30と応力緩和層40との引張強度は、60[kgf/cm]以上である。
【0027】
共晶層50は、応力緩和層40と電極11との共晶反応により生成される。共晶層50は、応力緩和層40と電極11との結晶を含む。共晶層50は、応力緩和層40の他方の面と電極11の一方の面との間に配置される。共晶層50は、応力緩和層40と電極11とを加熱した状態で圧接することにより生成される。共晶層50により、応力緩和層40と電極11との接着力は向上する。本実施形態において、応力緩和層40と電極11との引張強度は、60[kgf/cm]以上である。
【0028】
電極11は、単一の材料からなる。本実施形態において、電極11は、アルミニウム(Al)からなる。なお、電極11は、アルミニウムを含む合金からなってもよい。電極11は、銅(Cu)からなってもよいし、銅を含む合金からなってもよいし、ニッケル(Ni)からなってもよいし、ニッケルを含む合金からなってもよい。
【0029】
<電極>
図4は、本実施形態に係る電極11を模式的に示す図である。図4に示すように、電極11は、異なる材料により構成されてもよい。
【0030】
図4(A)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層とにより構成されてもよい。図4(A)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第2電極層が基板71に接続される。
【0031】
図4(B)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第3電極層とにより構成されてもよい。図4(B)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第3電極層が基板71に接続される。
【0032】
図4(C)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第2電極層とにより構成されてもよい。図4(C)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第2電極層が基板71に接続される。
【0033】
図4(D)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第2電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第3電極層とにより構成されてもよい。図4(D)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第3電極層が基板71に接続される。
【0034】
図4(E)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第3電極層とにより構成されてもよい。図4(E)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第3電極層が基板71に接続される。
【0035】
図4(F)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第3電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第4電極層とにより構成されてもよい。図4(F)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第4電極層が基板71に接続される。
【0036】
図4(G)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第2電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第3電極層とにより構成されてもよい。図4(G)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第3電極層が基板71に接続される。
【0037】
図4(H)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第2電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第3電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第4電極層とにより構成されてもよい。図4(H)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第4電極層が基板71に接続される。
【0038】
図4(I)に示すように、電極11は、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第3電極層とにより構成されてもよい。図4(I)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第3電極層が基板71に接続される。
【0039】
図4(J)に示すように、電極11は、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第1電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第2電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第3電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第4電極層とにより構成されてもよい。図4(J)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第4電極層が基板71に接続される。
【0040】
図4(K)に示すように、電極11は、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第1電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第2電極層と、銅(Cu)又は銅を含む合金からなる第3電極層と、ニッケル(Ni)又はニッケルを含む合金からなる第4電極層と、アルミニウム(Al)又はアルミニウムを含む合金からなる第5電極層とにより構成されてもよい。図4(K)に示す例において、第1電極層が共晶層50を介して応力緩和層40に接続され、第5電極層が基板71に接続される。
【0041】
<製造方法>
図5は、本実施形態に係る熱電モジュール1の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態において、熱電モジュール1は、酸素濃度が十分に低減された酸素フリー雰囲気において溶射により製造される。
【0042】
溶射とは、溶融状態又は半溶融状態の溶射材を基材に吹き付けることにより、基材の表面に膜を形成する加工方法をいう。溶射材は、滴の状態で基材に吹き付けられる。
【0043】
熱電素子21が配置されるチャンバの内部空間が一定圧力に制御される(ステップS1)。
【0044】
すなわち、チャンバの内部空間に熱電素子21が配置された状態で、チャンバの内部空間が真空引きされる。
【0045】
チャンバの内部空間が一定圧力に制御された後、チャンバの内部空間に不活性ガスが供給される(ステップS2)。
【0046】
不活性ガスとして、窒素ガス又はアルゴンガスが例示される。
【0047】
ステップS1及びステップS2の処理により、チャンバの内部区間は酸素フリー雰囲気に調整される。
【0048】
酸素フリー雰囲気において、溶射により熱電素子21にアンカ層30が形成される(ステップS3)。
【0049】
溶射によるアンカ層30の形成において、熱電素子21が基材として機能し、アンカ層30を形成する材料が溶射材として機能する。本実施形態においては、モリブデン(Mo)からなる溶射材が熱電素子21に吹き付けられる。溶射によりアンカ層30が形成されることにより、図3を参照して説明したように、アンカ層30の一部が熱電素子21に食い込むようにアンカ層30が形成される。また、溶射によりアンカ層30が形成されることにより、アンカ層30の他方の面には凹凸部が形成される。
【0050】
熱電素子21の表面粗さは1.1μm±0.2μmである。熱電素子21の表面に形成されたアンカ層30の表面粗さはRa≧3μm(Sa≧3μm)である。なお、表面粗さRaとは、断面におけるアンカ層30の算術平均粗さをいう。すなわち、表面粗さRaは、アンカ層30の表面を線で表わしたときの算術平均粗さである。表面粗さSaとは、表面粗さRaを面に拡張したときの算術平均粗さをいう。
【0051】
図1に示したように、熱電モジュール1は、複数の熱電素子21が基板71と基板72の間に配置される構造である。複数の熱電素子21の高さが不均一であると、歩留まりが低下する可能性がある。複数の熱電素子21の高さの不一致に起因する歩留まりの低下を抑制するため、アンカ層30の表面粗さの上限値は12μmである。
【0052】
本実施形態において、アンカ層30の厚さは、約50μmである。
【0053】
熱電素子21にアンカ層30が形成された後、アンカ層30に応力緩和層40が形成される(ステップS4)。応力緩和層40は、酸素フリー雰囲気において、溶射によりアンカ層30に形成される。なお、応力緩和層40は、例えばスパッタ法又は蒸着法により形成されてもよい。アンカ層30の他方の面には凹凸部が形成されているので、図3を参照して説明したように、応力緩和層40は、アンカ層30の一部に食い込まれるように形成される。応力緩和層40の表面粗さはRa≧3μm(Sa≧3μm)である。
【0054】
本実施形態において、応力緩和層40の厚さは、約50μmである。
【0055】
アンカ層30に応力緩和層40が形成された後、応力緩和層40に電極11が形成される(ステップS5)。
【0056】
電極11を溶射にて形成した場合、電極11の表面粗さはRa≧3μm(Sa≧3μm)である。
【0057】
電極11は、酸素フリー雰囲気において、溶射により応力緩和層40に形成される。なお、電極11は、例えばスパッタ法又は蒸着法により形成されてもよい。電極11が形成された後、応力緩和層40と電極11とが加熱された状態で圧接されることにより、共晶層50が生成される。圧接の大きさは1MPa以上である。また、共晶層50はアンカ層30と応力緩和層40との界面の少なくとも一部、あるいはアンカ層30と電極11との界面の少なくとも一部に形成されてもよい。
【0058】
<効果>
以上説明したように、本実施形態によれば、半田又はろう材からなる接合層が省略される。熱電素子21と電極11とは、アンカ層30及び応力緩和層40を介して接合される。接合層が省略されるので、接合層の成分が熱電素子21に拡散したり、接合層に起因して電極11が腐食したりすることが発生しない。そのため、熱電モジュール1の性能の低下が抑制される。
【0059】
また、接合層が省略され、接合層の成分が熱電素子21に拡散したり、接合層に起因して電極11が腐食したりすることが発生しないので、接合層がある場合に比べて、熱電素子21と電極11との間の電気抵抗及び熱抵抗は低減される。これにより、ゼーベック効果による熱電モジュール1の発電量は大きくなり、ペルチェ効果による熱電モジュール1の吸熱量又は発熱量は大きくなる。すなわち、熱電モジュール1の性能は向上する。
【0060】
また、接合層が省略されるので、接合層の形成工程が省略される。そのため、接合層を用いる接合装置は不要になり、熱電モジュール1の製造工程は簡略化される。また、接合層が省略されるので、製造コストが低減される。
【0061】
熱電素子21に接触するアンカ層30の一方の面に凹凸部が設けられる。これにより、熱電素子21とアンカ層30とは、アンカ効果により強固に接続される。また、アンカ層30は、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)からなる。これらの材料の融点は高く、反応性が低い。そのため、アンカ層30の成分が熱電素子21に拡散したり、アンカ層30が熱電素子21の特性を変化させたりすることは抑制される。
【0062】
例えば、高温度(例えば450℃以上)で最良の熱電効果を発生する熱電材料により熱電素子21が形成される場合、アンカ層30の材料によっては、アンカ層30が高温度で使用されると、アンカ層30の成分が熱電素子21に拡散する可能性がある。本実施形態において、アンカ層30は、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、又はチタン(Ti)からなるので、アンカ層30が高温度で使用されても、アンカ層30の成分が熱電素子21に拡散することが抑制される。
【0063】
応力緩和層40に接触するアンカ層30の他方の面に凹凸部が設けられる。これにより、応力緩和層40とアンカ層30とは、アンカ効果により強固に接続される。
【0064】
アンカ層30よりも軟らかい応力緩和層40が設けられることにより、熱電素子21、アンカ層30、又は電極11に熱応力が作用しても、応力緩和層40の少なくとも一部が変形することにより、熱電素子21、アンカ層30、又は電極11に作用する熱応力は緩和される。
【0065】
応力緩和層40は、銅(Cu)、銅を含む合金、アルミニウム(Al)、アルミニウムを含む合金、ニッケル(Ni)、又はニッケルを含む合金からなる。これらの材料は、電気抵抗及び熱抵抗が低い。そのため、熱電素子21と電極11との間の電気抵抗及び熱抵抗の増大が抑制される。したがって、熱電モジュール1の性能の低下が抑制される。
【0066】
応力緩和層40と電極11との間に共晶層50が設けられる。共晶層50により、応力緩和層40と電極11との接着力は向上する。また、共晶層50により、応力緩和層40と電極11との間に界面が形成されることが抑制されるので、応力緩和層40と電極11との間の電気抵抗及び熱抵抗の増大が抑制される。
【0067】
[第2実施形態]
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0068】
図6は、本実施形態に係る熱電モジュール1の一部を拡大した断面図である。図6に示すように、熱電モジュール1は、電極11と熱電素子21との間に配置され、熱電素子21に接続されるアンカ層30を備える。本実施形態において、応力緩和層40及び共晶層50は省略されている。
【0069】
アンカ層30の一方の面は、熱電素子21に接触する。アンカ層30の一方の面に凹凸部が設けられる。アンカ層30の一部は、熱電素子21に食い込む。アンカ層30と熱電素子21とは、アンカ層30の一方の面に設けられた凹凸部のアンカ効果により、強固に接続される。熱電素子21とアンカ層30との引張強度は、60[kgf/cm]以上である。
【0070】
アンカ層30の他方の面は、電極11に接触する。アンカ層30の他方の面に凹凸部が設けられる。アンカ層30の一部は、電極11に食い込む。アンカ層30と電極11とは、アンカ層30の他方の面に設けられた凹凸部のアンカ効果により、強固に接続される。電極11とアンカ層30との引張強度は、60[kgf/cm]以上である。
【0071】
アンカ層30は、酸素フリー雰囲気において、溶射により熱電素子21に形成される。溶射によりアンカ層30が形成されることにより、アンカ層30の一部が熱電素子21に食い込むようにアンカ層30が形成される。また、溶射によりアンカ層30が形成されることにより、アンカ層30の他方の面には凹凸部が形成される。
【0072】
熱電素子21にアンカ層30が形成された後、アンカ層30に電極11が形成される。電極11は、酸素フリー雰囲気において、溶射によりアンカ層30に形成される。なお、電極11は、例えばスパッタ法又は蒸着法により形成されてもよい。アンカ層30の他方の面には凹凸部が形成されているので、電極11は、アンカ層30の一部に食い込まれるように形成される。
【0073】
なお、上述の実施形態で説明したように、電極11は単一の材料により形成されてもよいし、図4を参照して説明したように、複数の電極層により構成されてもよい。
【0074】
以上説明したように、本実施形態においては、接合層が省略された状態で、熱電素子21と電極11とが、アンカ層30を介して接合される。接合層が省略されるので、熱電モジュール1の性能の低下が抑制される。
【0075】
本実施形態においては、接合層のみならず、応力緩和層40も省略されるので、熱電モジュール1の製造工程はより簡略化され、製造コストはより低減される。
【0076】
熱電素子21に接触するアンカ層30の一方の面に凹凸部が設けられる。これにより、熱電素子21とアンカ層30とは、アンカ効果により強固に接続される。また、電極11に接触するアンカ層30の他方の面に凹凸部が設けられる。これにより、電極11とアンカ層30とは、アンカ効果により強固に接続される。
【符号の説明】
【0077】
1…熱電モジュール、11…電極、12…電極、21…熱電素子、22…熱電素子、30…アンカ層、40…応力緩和層、50…共晶層、61…リード線、62…リード線、71…基板、72…基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6