(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】ガドリニウム-ガリウムを含有してなるガーネット結晶シンチレータを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20240219BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20240219BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240219BHJP
G01T 1/161 20060101ALN20240219BHJP
G01T 1/202 20060101ALN20240219BHJP
G21K 4/00 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/00 E
C09K11/80
G01T1/161 A
G01T1/161 B
G01T1/202
G21K4/00 A
(21)【出願番号】P 2019146899
(22)【出願日】2019-08-09
(62)【分割の表示】P 2016227829の分割
【原出願日】2016-11-24
【審査請求日】2019-11-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-18
(32)【優先日】2015-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593063105
【氏名又は名称】シーメンス メディカル ソリューションズ ユーエスエー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Siemens Medical Solutions USA,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】マーク エス. アンドレアコ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー アンドリュー キャレイ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター カール コーエン
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】塩見 篤史
【審判官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/068130(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/171985(WO,A2)
【文献】特開2001-72968(JP,A)
【文献】特開平4-292421(JP,A)
【文献】特開2013-227575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム、酸化ガドリニウム
、並びに
、(酸化アルミニウム、
酸化ホウ素
及び酸化セリウム
)からなる群から選ばれる少なくとも1つ
の酸化物の、それぞれ所望の化学量論量を塩酸、硝酸若しくは硫酸又はこれらの2つ以上の混合物に溶解して溶液を形成する酸化物溶解工程;
前記溶液に、セリウ
ムのハロゲン化
物であるドーパントを添加するドーパント添加工程;
前記ドーパント添加工程で得られた溶液を、
水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム又はこれらの組合せから選ばれる過剰の塩基に添加して該溶液からガーネットを沈殿させて沈殿物を形成す
る工程;
前記沈殿物を分離プロセスにより前記溶液から分離して、下記式(1)の組成を有し、5ナノメートル~500マイクロメートルの平均粒径を有する粉末化形態のガーネットを製造する工程;
M
1
aM
2
bM
3
cM
4
dO
12 (1)
(式中、Oは、酸素を表わし、
M
1、M
2、M
3及びM
4は、互いに異なる第一、第二、第三及び第四の金属を表わし、
a+b+c+dの合計は、8であり、
aは、2~3.5の値を有し、
bは、2~
3の値を有し、
cは、
2~
3の値を有し、
dは、0.001~1の値を有し、
M
1は、ガドリニウムであり、
M
2は、アルミニウム又はホウ素であり、
M
3は、ガリウムであり、
M
4は、ドーパントであって、セリウ
ムである。)
前記粉末
化形態のガーネットを500℃~2,000℃の温度に加熱して融解して結晶ブールを製造する結晶ブール製造工程;及び
前記結晶ブール製造工程に引き続
いて前記結晶ブールを
溶融し、酸素含有雰囲気中で
チョクラルスキー法によって800~1,700℃の温度に加熱して
単結晶シンチレータを製造するシンチレータ製造工程
を含む結晶シンチレータを製造する方法。
【請求項2】
M
2がアルミニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
aが、2.4~3.2の値を有し、
bが、2~3の値を有し、
cが、
2~
3の値を有し、
dが、0.001~0.5の値を有する
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
aが、3の値を有し、
bが、2.1~2.5の値を有し、
cが、
2.1~
2.5の値を有し、
dが、0.003~0.3の値を有する
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸が塩酸であり、この塩酸が水中に25~50モル%の量で存在する請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記
粉末化形態のガーネットを洗浄してこれを更に粉砕する粉末洗浄・粉砕工程を更に含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニウム及びガリウムを含有してなるガーネット結晶シンチレータを製造する方法に関する。特に、本発明は、ガリウム含有量が制御されたガドリニウム-ガリウム ガーネット結晶シンチレータを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガドリニウム アルミニウム ガリウム ガーネット(一般に、GAGGとして知られている。)は、立方センチメートル当たり6.63グラム(g/cc)という高密度、65,000フォトン/MeV(ミリオンエレクトロンボルト又はメガエレクトロンボルト)より大きい高光出力並びに88ナノ秒/91%及び258ナノ秒/9%という相対的に短い崩壊時間の故に、飛行時間(TOF)陽電子放出断層撮影(PET)におけるシンチレータとして使用するのに有望な候補である。
【0003】
GAGGは、二酸化セリウム(CeO2)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化ガリウム(Ga2O3)及びアルミナ(Al2O3)等の酸化物から、チョクラルスキー法を用いて、99.99%以上の純度を有する直径3インチ(約7.5センチメートル)までの大きな結晶ブールの形で成長させることができる。ブールは、合成法に依って製造される単結晶インゴットである。
【0004】
チョクラルスキー法に伴う欠点の1つは、結晶ブールの製造に用いられる(1,300℃を超える)高温度の結果、下記の反応により、酸化ガリウムがGa
2O蒸気に分解することである。
【化1】
これは、平衡反応であって、反応室に追加の酸素を存在させることにより、酸化ガリウムの分解速度を抑制することができる。換言すれば、反応室における酸素の存在量を増加することにより、Ga
2O蒸気の生成よりも、むしろ、酸化ガリウムを生成する逆反応が推進される。
【0005】
結晶ブールの製造は、一般に、イリジウム金属の価格故に非常に高価なイリジウムルツボ中で行なわれる。反応室における大量の酸素の使用は、イリジウム金属の酸化イリジウム(このものは、蒸発する。)への転換を引き起こすが、このことは、イリジウム金属の損失に伴って高コストになるので、望ましくない。
【0006】
妥協策を見出し、イリジウム金属を何ら損失することなしにGAGG結晶ブールを得るために、酸化ガリウムを3重量%過剰に含有する原料酸化物の非化学量論的混合物を使用して、2容量%過剰の酸素を含有する雰囲気中で、製造プロセスを実施する。過剰の酸化ガリウムの存在により、高められたプロセス温度におけるガリウムの蒸発による損失を補償する。
【0007】
しかしながら、この方法も、また、欠点を有する。ガリウムの蒸発による損失は、実際的に制御が困難であり、GAG結晶の品質は顕著に変化し得る。化学量論比の破壊は、GAGG結晶のシンチレーション特性におけるかなりの非均一性、例えば、光出力の変動、シンチレーション崩壊時間の制御不能、高水準の残光等、を引き起こすが、これらは、全て望ましくないものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、同時に酸化ガリウム又はイリジウム金属の損失を減少させながら、正確な化学量論を有する結晶ブールを製造する方法の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式(1)の組成を有する粉末を製造し、この粉末を酸素含有雰囲気中で800~1,700℃の温度に加熱して結晶シンチレータを製造することを含む方法に関する。
M1
aM2
bM3
cM4
dO12 (1)
式中、Oは、酸素を表わし、M1、M2、M3及びM4は、互いに異なる第一、第二、第三及び第四の金属を表わし、a+b+c+dの合計は、約8であり、aは、約2~約3.5の値を有し、bは、0~約5の値を有し、cは、0~約5の値を有し、dは、0~約1の値を有し、ここで、「約」とは、所望の値から±10%の乖離と定義され、bとc、bとd、又は、cとdとは、同時に0であることはできず、M1は、ガドリニウム、イットリウム、ルテチウム、スカンジウムを始めとする(但し、これらに限られない)希土類元素又はこれらの組合せであり、M2は、アルミニウム又はホウ素であり、M3は、ガリウムであり、M4は、共ドーパントであって、タリウム、銅、銀、鉛、ビスマス、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、セリウム、イットリウム、スカンジウム、ランタン、ルテチウム、プラセオジム、テルビウム、イッテルビウム、サマリウム、ユーロピウム、ホルミウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム又はネオジムのうちの1つ又はこれらの任意の組合せを含有する。
【0010】
本発明は、また、下記式(1)の組成を有する粉末を製造し、この粉末を酸素含有雰囲気中で800~1,700℃の温度に加熱して結晶シンチレータを製造することを含む方法によって製造される物品に関する。
M1
aM2
bM3
cM4
dO12 (1)
式中、Oは、酸素を表わし、M1、M2、M3及びM4は、互いに異なる第一、第二、第三及び第四の金属を表わし、a+b+c+dの合計は、約8であり、aは、約2~約3.5の値を有し、bは、0~約5の値を有し、cは、0~約5の値を有し、dは、0~約1の値を有し、ここで、「約」とは、所望の値から±10%の乖離と定義され、bとc、bとd、又は、cとdは、同時に0であることはできず、M1は、ガドリニウム、イットリウム、ルテチウム、スカンジウムを始めとする(但し、これらに限られない)希土類元素又はこれらの組合せであり、M2は、アルミニウム又はホウ素であり、M3は、ガリウムであり、M4は、共ドーパントであって、タリウム、銅、銀、鉛、ビスマス、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、セリウム、イットリウム、スカンジウム、ランタン、ルテチウム、プラセオジム、テルビウム、イッテルビウム、サマリウム、ユーロピウム、ホルミウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム又はネオジムのうちの1つ又はこれらの任意の組合せを含有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、ガドリニウム及びガリウムを含有し、出発原料として酸化ガリウムを使用する多結晶又は単結晶ガーネット(以後、「ガーネット」という。)を製造する方法が提供される。この組成物は、ガーネット中に、ガドリニウム及びガリウムのほかに、1以上の元素を含有する。言い換えれば、ガーネットは、最も単純な形態において、3以上の元素を含有してなる。
【0012】
1つの実施態様において、ガーネットは、下記の式を有する。
M1
aM2
bM3
cM4
dO12 (1)
式中、Oは、酸素を表わし、M1、M2、M3及びM4は、互いに異なる第一、第二、第三及び第四の金属を表わし、a+b+c+dの合計は、約8であり、ここで、「約」とは、所望の値から±10%の乖離と定義され、aは、約2~約3.5、好ましくは約2.4~約3.2、更に好ましくは約3.0の値を有し、bは、0~約5、好ましくは約2~約3、更に好ましくは約2.1~約2.5の値を有し、bとc、bとd、又は、cとdは、同時に0であることはできず、cは、0~約5、好ましくは約1~約4、より好ましくは約2~約3、特に好適には約2.1~約2.5の値を有し、dは、0~約1、好ましくは約0.001~約0.5、より好ましくは約0.003~約0.3、の値を有する。
【0013】
式(1)において、M1は、ガドリニウム、イットリウム、ルテチウム、スカンジウムを始めとする(但し、これらに限られない)希土類元素又はこれらの任意の組合せである。M1は、好ましくはガドリニウムである。1つの実施態様において、M2は、アルミニウム又はホウ素であり、M3は、ガリウムであり、M4は、共ドーパントであって、タリウム、銅、銀、鉛、ビスマス、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、ストロンチウム、バリウム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、セリウム、イットリウム、スカンジウム、ランタン、ルテチウム、プラセオジム、テルビウム、イッテルビウム、サマリウム、ユーロピウム、ホルミウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム又はネオジムのうちの1つ以上を含有してなる。
【0014】
M1に関し、ガドリニウムの幾つかは、イットリウム、ルテチウム、ランタン、テルビウム、プラセオジム、ネオジム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、イッテルビウム、又はこれらの組み合わせで置換してもよい。或る実施態様において、ガドリニリウムの幾つかは、イットリウムで置換することができる。M
2
は、好適にはアルミニウムである。
【0015】
或る実施態様では、共ドーパントM4には、Tl+、Cu+、Ag+、Au+、Pb2+、Bi3+、In+、Sn2+、Sb3+、Ce3+、Pr3+、Eu2+、Yb2+、Nb5+、Ta5+、W6+、Sr2+、B3+、Ba2+、Mg2+、Ca2+、又はこれらの組合せが含まれる。
【0016】
本発明の方法は、ナノメートル及びマイクロメートルサイズのガーネットの粉末を製造し、この粉末を1,850℃未満の温度に加熱して、チョクラルスキー法で単結晶を製造することからなる。幾つかの実施態様において、ナノメートル及びマイクロメートルサイズの粉末を、酸素含有雰囲気中で500~1,700℃の温度に加熱して、蒸発による酸化ガリウムの損失なしに、所望の化学量論を有する多結晶又は単結晶ガーネットを生成させる。粉末は、所望により、酸素含有雰囲気中で1,700℃の温度まで加熱して多結晶又は単結晶ガーネットを生成させる前に、2,000℃まで加熱して溶融させることができる。ガーネットは、多結晶材料と単結晶材料との合一物を含有していてもよい。
【0017】
理論に縛られるわけではないが、式(1)の組成物のそれぞれにおけるガリウムイオンは、組成物中の他の元素に強力に結合しており、従って、そのような分子を分解するためのエネルギは、酸化ガリウムを分解するよりも遥かに大きい。
【0018】
ガドリニウム-ガリウム ガーネットのナノメートル及びマイクロメートルサイズのガーネットの粉末を製造する方法は、所望の化学量論比の所望の金属酸化物を強酸中に溶解する工程を含む。前記酸及び前記溶解した金属酸化物を含有する溶液に、過剰量の強塩基を添加する。塩基の添加により、沈殿物形成が促進される。沈殿物を分離プロセスにより溶液から分離して、粉末化形態のガーネット及び付随する未反応の酸化物を製造する。この粉末を500℃~2,000℃未満、好ましくは850~1,900℃、更に好ましくは900~1,800℃の温度に加熱して、粉末を溶融させて結晶ブールを製造することができる。溶融に続いて、溶融材料を、酸素含有雰囲気中で、800~1,700℃、好ましくは900~1,100℃、更に好適には950~1,050℃の温度に加熱して、シンチレータとして使用できる多結晶又は単結晶を製造することができる。
【0019】
ガーネットの製造に用いられる原料は、一般に、酸化ガリウム(Ga2O3)及び酸化ガドリニウム(Gd2O3)を含有し、これらの材料が所望の化学量論量で反応容器に添加される。酸化ガリウム(Ga2O3)及び酸化ガドリニウム(Gd2O3)は、一般に、1:0.5~0.5:1、好ましくは1:0.75~0.75:1、より好ましくは0.9:1~1:0.9のモル比で、反応容器に添加される。典型的実施態様では、酸化ガリウム(Ga2O3)及び酸化ガドリニウム(Gd2O3)は、一般に1:1のモル比で反応容器に添加される。酸化ガリウムの好適な形態は、β-酸化ガリウム(III)である。酸化アルミニウムの好適な形態は、α-アルミナ(α-Al2O3)である。
【0020】
セリウム、アルミニウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ルテチウム、プラセオジム、テルビウム、クロム、イッテルビウム、ネオジムの酸化物又はこれらの組合せのような追加の「金属酸化物」も、また、所望の化学量論量で、反応容器に添加することができる。典型的な追加の「金属酸化物」は、酸化セリウム(CeO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ルテチウム(III)(Lu2O3)、酸化スカンジウム(III)(Sc2O3)又はこれらの組合せである。ガーネットの製造に用いる金属酸化物は、99.99%以上の純度を有することが望ましい。
【0021】
幾つかの実施態様において、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ルテチウム(III)(Lu2O3)及び酸化スカンジウム(III)(Sc2O3)の1つ以上が、酸化アルミニウム(Al2O3)に加えて、ガーネット中に存在していてもよい。その他の金属酸化物は、酸化ガリウム(Ga2O3)に対して、0.1:1~1:0.1、好ましくは0.2:1~1:0.2、より好ましくは0.5:1~1:0.5のモル比で存在していてもよい。
【0022】
典型的な実施態様においては、ガーネットは、追加の「金属酸化物」成分として酸化アルミニウムのみを含有する。これらの実施態様においては、ガーネットは、酸化ガリウムのモル数に対して、2:3~3:2のモル比で酸化アルミニウムを含有する。他の実施態様においては、ガーネットが酸化アルミニウムをも含有するとき、ガーネットは、酸化ガリウムのモル数に対して、0.01:3~3:1、好ましくは0.05:3~2:1のモル比で酸化セリウムを含有していてもよい。
【0023】
原料(例えば、酸化ガリウム、酸化ガドリニウム、酸化アルミニウム及び/又は酸化セリウムを含有する混合物)を、次いで、強酸に溶解して溶液を形成する。強酸の例は、塩酸、硝酸又はこれらの組合せである。典型的実施態様では、強酸は、水中に、25~50モル%、好ましくは30~40モル%の量で存在する塩酸である。
【0024】
溶液は、塩酸中で原料の撹拌により調製される。撹拌は、かき混ぜ、散布、超音波処理、物理的振動又はこれらの組合せによって実行することができる。溶液は、如何なる温度で製造してもよいが、室温が好ましい。
【0025】
酸化物が溶解した後、溶液にドーパントを添加してもよい。適切なドーパントは、セリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ルテチウム、プラセオジム、テルビウム、イッテルビウム、ネオジム又はこれらの組合せである。これらのドーパントは、それぞれの金属ハロゲン化物の形態で溶液に添加することができる。好ましいハロゲン化物は、塩化物、臭化物又はこれらの組合せである。これらのドーパントは、溶液が、金属酸化物の形で既に添加された一定量のそのドーパントを、含有していても、溶液に添加することができることを指摘しておく。
【0026】
例えば、溶液が、上述のように、酸化セリウムの形態で既に添加されたセリウムを含有していても、セリウムを、塩化セリウム、臭化セリウム又はこれらの組合せの形態で溶液に添加することができる。
【0027】
金属ハロゲン化物は、ドーパントとして、酸化ガリウム(Ga2O3)のモル数に対して、0.01:1~1:0.1、好ましくは0.02:1~1:0.2、より好ましくは0.05:1~1:0.5のモル比で、ガーネットの溶液に添加することができる。
【0028】
溶液は、次いで、反応容器中で、過剰の強塩基で処理され、溶解した金属酸化物の沈殿が促進される。溶液は、強撹拌下に反応容器中の塩基に添加される。強塩基の例は、水酸化アンモニウム、重炭酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等又はこれらの組合せである。
強塩基は、水に、15~50モル%、好ましくは20~40モル%の量で、溶解される。
【0029】
溶液中に存在する酸の塩基に対するモル比は、1:1.10より大きく、好ましくは1:1.20より大きく、より好ましくは1:1.50より大きい。
【0030】
溶液の塩基への添加により、ガーネットの沈殿が起きる。沈殿を分離プロセスに処して溶液の残りからガーネットを抽出する。分離プロセスは、遠心分離、ろ過、デカンテーション又はこれらの組合せを含む。ろ過が好ましい。
【0031】
濾液を水で追加洗浄して痕跡の酸、塩及び塩基を沈殿から除去する。粉末化形態の沈殿は、ガーネット(1以上の追加元素を伴っている。)並びに反応容器中で用いた原料金属の酸化物及び水酸化物を含有している。ガーネットの分離後に得られた沈殿は、ナノメートル範囲及びマイクロメートル範囲の粒径を有する粒子の形態を有している。粒子は、5ナノメートル~500マイクロメートル、好ましくは10ナノメートル~50マイクロメートル、より好ましくは1~20マイクロメートルの範囲の平均粒径を有している。粒子の回転半径を測定して平均粒径を決定する。粒径の測定には、光散乱又は電子鏡検法をも用いることができる。
【0032】
所望により、粉末は、更に、ボールミル、ロールミル又は他の微粉砕装置を用いて微粉砕してもよい。特定の粒径の粒子を使用することが望ましいならば、微粉砕した粉末を、次いで、所望により、篩分けプロセスに供してもよい。
【0033】
ガーネットの粉末を、次いで、酸素含有雰囲気中で、800~1,700℃、好ましくは900~1,100℃、更に好ましくは950~1,050℃の温度で処理して、シンチレータとして使用できる多結晶又は単結晶を製造することができる。
【0034】
単結晶は、チョクラルスキー法、ブリッジマン法、キロプロス法及びベルヌーイ法で製造することができる。
【0035】
チョクラルスキー法では、成長させるべき粉末を、適切な非反応性の容器中、制御された雰囲気下で、溶融させる。炉温を1,700℃以下に制御することにより、材料を溶融する。種結晶を降ろして、溶融バッチに接触させる。(適切な水冷装置により)種の温度を溶融物の温度に比べて非常に低く保つと、種に接触している溶融バッチが種の上に固化する。その後、種を制御された速度で引き上げる。結晶の大半は、溶融物から引き上げることにより製造される。3~40センチメートルの寸法の結晶をこの方法で成長させることができる。
【0036】
ブリッジマン法(引き上げ法)では、材料が(アンプルと呼ばれる)円錐形に先細りしてそこの尖った鉛直円筒形容器中で溶融される。容器が1,700℃までの温度を有する炉の高温域から低温域に徐々に下げられる。このようなプロセスの移動速度は、毎時約1~30mmである。結晶化は、先端から開始し、最初に形成された核からの成長により継続する。指向され制御された鋳造物の冷却プロセスにより、整列された結晶格子の帯域が創られる。換言すれば、単結晶が創られる。
【0037】
キロプロス法では、上述の2つの方法より大きい直径を有する結晶が成長させられる。チョクラルスキー法のように、ここでも、種が溶融物と接触させられるが、成長中は、それほど引き上げられない。即ち、種の一部は、溶融され、短く細い部分が成長する。この後、種の垂直運動が停止され、成長は、出力の減少により、溶融物の中へ進行する。
【0038】
ベルヌーイ法(火炎溶融)では、成長させるべき材料の1~20マイクロメートルサイズの微細乾燥粉末を振とうして金網を通し、酸水素炎中を落下させる。粉末が融解し、液膜が種結晶の頂に形成される。これが、種結晶が徐々に低下されるにつれて、次第に凍結する。この方法のこつは、不変の成長速度と直径とを維持するための供給速度と種の低下速度とのバランスである。この方法により、ルビー結晶は、直径で90ミリメートルまで成長させられる。この技法は、人工宝石の成長及び種々の高融点酸化物に、広く用いられる。
【0039】
この方法で成長させられる多結晶又は単結晶の例は、以下の式を有している。Gd3Al2Ga3O12(GAGG:ガドリニウム-アルミニウム-ガリウム ガーネット)、Gd3Ga2.5Al2.5O12(GGAG:ガドリニウム-ガリウム-アルミニウム
ガーネット)、Gd1.5Y1.5Ga2.5Al2.5O12(GYGAG:ガドリニウム-イットリウム-ガリウム-アルミニウム ガーネット)、Gd3Sc2Ga3O12(GSGG:ガドリニウム-スカンジウム-ガリウム ガーネット)、又はGd1.5Lu1.5Al1.5Ga1.5O12。上記式で表わされる多結晶又は単結晶のいずれも、所望ならば、セリウムでドープすることができる。
【0040】
ナノメートルサイズ及びマイクロメートルサイズの粉末を用いて製造された多結晶又は単結晶は、溶融酸化物化合物を用いて製造された材料に比べて、よりムラのない化学量論を有している。この方法で製造されたシンチレータ材料は、例えば、陽電子放出断層撮影装置、コンピュータ断層撮影装置又は単一光子放出コンピュータ断層撮影装置等の、撮像装置で用いることができる。
【0041】
ここで言及しておくが、本明細書に列挙した全ての範囲は、終点を含む。異なる範囲からの数値は、組み合わせることができる。
【0042】
組成物、方法及び物品は、明細書中に開示したあらゆる妥当な要素又は工程を、代替的に、含有し、それらからなり、又はそれらから本質的になることができる。組成物、方法及び物品は、追加的に又は代替的に、組成物、方法及び物品の機能及び/又は目的を達成するのに必要ではない任意の工程、要素、材料、成分、助剤又は種を、それらなしで済ませ、それらを実質的に含まないように、表わすことができる。「組成物」には、配合物、混合物、合金、反応生成物等が含まれる。用語「a」、「an」及び「the」は、量の限定を意味せず、明細書中にそれに反する指示がされているか又は文脈に明確に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を含むと解されるべきである。「又は」は、それに反する指示が明確に記載されていない限り、「及び/又は」を示す。全明細書を通じて、「幾つかの実施態様」、「1つの実施態様」等々は、その実施態様に関して述べられている特定の要素が、本明細書中で述べられている少なくとも1つの実施態様に含まれており、他の実施態様中に存在してもしなくてもよいことを意味する。これに加えて、記述された要素は、種々の実施態様において、任意の適切なやり方で結合されてもよいと、理解されるべきである。
【0043】
本発明を、これまで、幾つかの実施態様を参照して記述してきたが、当業者には、本発明の範囲から離れることなく、種々の変形がなされ得ること及び等価物でその要素を置換し得ることが理解されるであろう。更に、特定の状況又は材料に適合させるために、本発明の基本的な範囲から離れることなく、本発明の教示に多くの修飾がなされ得る。従って、本発明は、この発明を実施するために想定されるベストモードで開示された特別な実施態様に限定されるものではなく、本発明は付属する特許請求の範囲の範囲内に入る全ての実施態様を包含することを意図している。