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特許7438696乳酸菌含有無糖飲料およびその製造方法、並びに、乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】乳酸菌含有無糖飲料およびその製造方法、並びに、乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20240219BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240219BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240219BHJP
   A23L 2/54 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/38 A
A23L2/38 G
A23L2/52
A23L2/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019162240
(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公開番号】P2021036842
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年5月27日にウェブサイト(https://www.chichiyasu.com/及びhttps://www.chichiyasu.com/products/juice/juice_038.html)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年5月27日に全国で販売
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年6月3日にニュースリリースにて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(73)【特許権者】
【識別番号】506108789
【氏名又は名称】チチヤス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福島 武
(72)【発明者】
【氏名】石橋 信宏
(72)【発明者】
【氏名】夢川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】原田 温子
(72)【発明者】
【氏名】太田 志穂
(72)【発明者】
【氏名】竹本 正治
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209090(JP,A)
【文献】特開2013-094154(JP,A)
【文献】特開2019-000027(JP,A)
【文献】「甘くない 乳酸菌の白い炭酸水」4月9日(月)より販売開始,伊藤園 ニュースリリース [online],2018年03月29日, <URL:https://www.itoen.co.jp/news/article/14053/>,[令和5年8月29日検索]
【文献】あのキュートな乳酸菌飲料がしゅわしゅわ炭酸水に!『チチヤス 乳酸菌の白い炭酸水』を飲んでみた。,Hatena Blog [online],2015年11月17日,<https://lyricstravel.hatenablog.com/entry/2015/11/17/073000>,[令和5年8月29日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
A23F
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の乳酸菌と水と炭酸ガスとを含む乳酸菌含有無糖飲料であり、前記水と前記乳酸菌含有無糖飲料の硬度が各々10mg/L~300mg/Lの範囲にあり、前記乳酸菌含有無糖飲料1L中に含まれる前記炭酸ガスのガスボリュームが1.0~4.5の範囲にある乳酸菌含有無糖飲料
【請求項2】
前記水が天然水である、請求項1に記載の乳酸菌含有無糖飲料。
【請求項3】
人工添加物を含有しない、請求項1又は2に記載の乳酸菌含有無糖飲料。
【請求項4】
1種又は2種以上の乳酸菌と水と炭酸ガスとを含み、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある乳酸菌含有無糖飲料の製造方法であって、
硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を準備すること、
1種又は2種以上の乳酸菌と前記水を含む混合液を調製すること、および
前記乳酸菌含有無糖飲料1L中に含まれる前記炭酸ガスのガスボリュームが1.0~4.5の範囲となるよう前記混合液に炭酸ガスを溶解すること
を含む製造方法。
【請求項5】
前記水が天然水である、請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
1種又は2種以上の乳酸菌と水と炭酸ガスとを含む乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法であって、
前記水として硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を使用し、前記乳酸菌含有無糖飲料の硬度を10mg/L~300mg/Lの範囲とすること、および
1種又は2種以上の前記乳酸菌と前記水とを含有する飲料原液に、前記乳酸菌含有無糖飲料1L中に含まれる前記炭酸ガスのガスボリュームが1.0~4.5の範囲となるよう前記炭酸ガスを溶解すること
を含む異味抑制方法。
【請求項7】
前記水が天然水である、請求項に記載の異味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌含有無糖飲料およびその製造方法、並びに、乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌の機能性については、近年整腸効果以外にも様々な効果が検証されており、近年における消費者の健康への関心が高まるにつれ、乳酸菌含有飲食品に対する注目度が高まっている。
【0003】
乳酸菌を大量に摂取する方法としては、サプリメントとして菌体自体を単独で摂取する方法と、飲料等で摂取する方法とが挙げられる。中でも、乳酸菌を含有する飲料は、手軽に乳酸菌を摂取することができるため、特に注目されており、種々の飲料が存在する(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
従来の乳酸菌含有飲料は、一般的に乳成分や大豆成分(植物性乳酸菌飲料等)の乳酸菌発酵物(発酵乳など)を原料としており、そのため残存する乳成分や大豆成分が含まれていることから、止渇飲料のような清涼感を有し、すっきりとした後味でゴクゴク飲めるものは存在しなかった。
【0005】
これに対し、乳成分や大豆成分を含まない飲料(例えば、ニアウォーター系の飲料)に、乳酸菌を含有させた様々な乳酸菌含有飲料が提案されている。これら飲料に関しては、乳酸菌をそのまま添加した場合、濃度感が出て飲み応えは感じられるものの、乳酸菌由来の異味が生じる問題があることから、乳酸菌由来の異味を抑制するための技術が開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平05-049397号公報
【文献】特開平10-099018号公報
【文献】特開2017-209090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、乳成分や大豆成分を含まない乳酸菌含有飲料の中でも、糖類や甘味料等の甘味付与剤を含まない乳酸菌含有飲料(以下において、「乳酸菌含有無糖飲料」という。)に着目した。甘味付与剤を含有しない乳酸菌含有無糖飲料においては、甘味によるマスキング効果がないため、乳酸菌由来のえぐみや異臭を一層感じやすくなるだけでなく、他の成分由来の異味も一層感じやすくなるという問題が生じ得るため、更なる鋭意研究が必要とされる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み開発されたものであり、乳酸菌由来のえぐみや異臭を含む異味が抑制された乳酸菌含有無糖飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、乳酸菌含有無糖飲料における乳酸菌由来のえぐみや異臭を含む異味を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る発明(以下において、「本実施形態」という。)は、以下の通りである。
[1] 1種又は2種以上の乳酸菌と、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水と、炭酸ガスとを含む乳酸菌含有無糖飲料。
【0010】
[2] 前記水が天然水である、[1]に記載の乳酸菌含有無糖飲料。
【0011】
[3] 前記乳酸菌含有無糖飲料1L中に含まれる前記炭酸ガスのガスボリュームが1.0~4.5である、[1]又は[2]に記載の乳酸菌含有無糖飲料。
【0012】
[4] 人工添加物を含有しない、[1]~[3]の何れか1項に記載の乳酸菌含有無糖飲料。
【0013】
[5] 乳酸菌含有無糖飲料の製造方法であって、
硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を準備すること、
1種又は2種以上の乳酸菌と前記水を含む混合液を調製すること、および
前記混合液に炭酸ガスを溶解すること
を含む製造方法。
【0014】
[6] 前記水が天然水である、[5]に記載の製造方法。
【0015】
[7] 前記乳酸菌含有無糖飲料に含まれる前記炭酸ガスの含有量が容量比で1.0~4.5である、[5]又は[6]に記載の製造方法。
【0016】
[8] 前記乳酸菌含有無糖飲料が人工添加物を含有しない、[5]~[7]の何れか1項に記載の製造方法。
【0017】
[9] 乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法であって、
硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を使用すること、および
1種又は2種以上の乳酸菌と前記水とを含有する飲料原液に炭酸ガスを溶解すること
を含む異味抑制方法。
【0018】
[10] 前記水が天然水である、[9]に記載の異味抑制方法。
【0019】
[11] 前記乳酸菌含有無糖飲料1L中に含まれる前記炭酸ガスのガスボリュームが1.0~4.5となるよう前記炭酸ガスを溶解する、[9]又は[10]に記載の異味抑制方法。
【0020】
[12] 前記乳酸菌含有無糖飲料が人工添加物を含有しない、[9]~[11]の何れか1項に記載の異味抑制方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、乳酸菌由来のえぐみや異臭を含む異味が抑制された乳酸菌含有無糖飲料およびその製造方法を提供することが可能となった。また、本発明により、乳酸菌含有無糖飲料における、乳酸菌由来のえぐみや異臭を含む異味を抑制する方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態について説明する。
<乳酸菌含有無糖飲料>
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、乳酸菌と、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水と、炭酸ガスとを含有してなる。本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、硬度が特定範囲の水を使用した乳酸菌含有水溶液に炭酸ガスを封入することが、乳酸菌由来の異味の抑制に極めて有効であるとの知見に基づき開発されたものであり、水の硬度と炭酸ガスとの組み合わせに第一の特徴を有する。本実施形態における、特定範囲の硬度を有する水を使用することと、炭酸ガスを封入することとの組み合わせからなる乳酸菌含有無糖飲料の異味抑制技術によれば、無糖でありながら、乳酸菌由来のえぐみや異臭を含む異味が抑制された乳酸菌含有無糖飲料の提供が可能となる。
【0023】
本明細書において、乳酸菌由来の異味とは、乳酸菌に由来するえぐみや臭いをいう。また、乳酸菌含有無糖飲料における異味とは、乳酸菌由来の異味だけでなく、他の成分由来の異味を含む概念であり、例えば、炭酸ガスや水の硬度に起因する苦味を含む。
【0024】
また、本明細書において、無糖とは、飲料に甘味を付与するために添加される糖類や甘味料等の甘味付与剤を含有しないことを意味する。具体的には、糖類としては、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、還元麦芽糖等が挙げられる。甘味料としては、例えば、砂糖、グラニュー糖、異性化糖、キシリトール、パラチノース、エリスリトール等のほか、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア抽出物、サッカリン、スクラロース等の高甘味度甘味料が挙げられる。「甘味付与剤を含有しない」とは、甘味付与剤をまったく含有しないこと、および、甘味付与剤を実質的に含有しないことを意味する。すなわち、甘味を付与するのとは別の目的で、上掲で例示した成分が極めて僅かな量において添加された形態までも除くものではないことを意味する。具体的に、「甘味付与剤を含有しない」とは、乳酸菌含有無糖飲料の全質量に対する甘味付与剤の含有率が、0.1質量%以下であること、あるいは0.01質量%以下であること、あるいは0質量%であることを意味する。
【0025】
(乳酸菌)
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料に含有される乳酸菌は、一般的に食品に用いられるものであれば、特に制限されず、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ビフィドバクテリウム(Biffidobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌を例示することができ、複数の乳酸菌を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
一実施形態において、エンテロコッカス属に属する乳酸菌を好適に用いることができ、中でも、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)であることが好ましい。乳酸菌としてエンテロコッカス・フェカリスを用いることで、乳酸菌に由来する異味が抑制されやすくなり、本実施形態による効果がより優れたものとなる。なお、エンテロコッカス・フェカリスを用いた場合、乳酸菌含有無糖飲料において乳酸菌による白濁や沈殿が生じ難くなるという効果も合わせて奏される。エンテロコッカス・フェカリスによるこれらの効果の作用機序の詳細は明らかでないが、特に外観( 白濁や沈殿の抑制)に関しては、桿菌やY 字型菌である他の乳酸菌と異なり、エンテロコッカス・フェカリスが球菌である点に起因している可能性が考えられる。
【0027】
他の実施形態において、ストレプトコッカス属に属する乳酸菌を好適に用いることができ、中でも、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)であることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、乳酸菌の含有率は、特に制限されるものではないが、一実施形態において、飲料の全質量に対し、0.0005質量%~0.025質量%であってよく、0.001質量%~0.01質量%であってよく、0.002質量%~0.0025質量%であってよい。本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料が2種以上の乳酸菌を含有する場合、上記含有率は、全乳酸菌の合計である。
【0029】
本実施形態においては、乳酸菌であれば生菌を用いてもよく、また加熱殺菌した死菌を用いてもよいが、品質管理を容易にする観点から、死菌を用いることが好ましい。なお、エンテロコッカス・フェカリス及びストレプトコッカス・サーモフィラスは、死菌であっても、整腸作用、免疫力向上作用、アレルギー抑制作用といった好ましい生理活性を発揮することが知られているため、特に好適である。
【0030】
(水)
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を含有する。ここで硬度とは、カルシウムおよびマグネシウムの含有量を炭酸カルシウムに換算した値であり、具体的には下記式により算出される。
硬度(mg/L)=カルシウム含有率(mg/L)×2.497+マグネシウム含有率(mg/L)×4.118
【0031】
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、上述の通り、水の硬度と炭酸ガスとの組み合わせに乳酸菌由来の異味の抑制効果を見出し開発されたものであり、炭酸ガスを単に封入するのみでは、乳酸菌含有無糖飲料における所望とする異味の抑制効果は得られず、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を使用することにより初めて所望とする異味の抑制効果を得ることが可能となる。ここで乳酸菌含有無糖飲料における所望とする異味の抑制効果とは、甘味付与剤が添加されていない乳酸菌含有無糖飲料において、乳酸菌由来のえぐみや臭いを含む異味を抑制することができる効果をいう。
【0032】
本実施形態において、水の硬度は、好ましくは10mg/L~300mg/Lであり、より好ましくは30mg/L~70mg/Lである。
【0033】
水の硬度を上記範囲に調整する方法は特に限定されず、例えば、硬度が10mg/L~300mg/Lの天然水を原料水としてそのまま用いてもよいし、あるいは、カルシウムおよびマグネシウムを含有しない水(例えば、イオン交換水等)を用いて天然水等を希釈してもよいし、あるいは、カルシウムおよびマグネシウムを含有しない水にカルシウムおよび/またはマグネシウムを含む無機塩を添加してもよい。
【0034】
なお、本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料としての硬度も、10mg/L~300mg/Lの範囲であることが好ましい。乳酸菌含有無糖飲料としての硬度は、飲料に含有されるカルシウム含有率(mg/100mg)およびマグネシウム含有率(mg/100mg)を測定し、飲料の比重を1.0としてそれぞれの含有率をmg/Lに換算して算出する。原料水として硬度が10mg/L~300mg/Lの水を使用した場合、本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料の硬度も概ね10mg/L~300mg/Lの範囲となる。
【0035】
また、使用される水の硬度が300mg/L以下であることは、乳酸菌由来の異味の抑制効果に加え、硬度に由来する苦みを適度に抑えて呈味のよい乳酸菌含有無糖飲料を得る観点からも好ましい。
【0036】
(炭酸ガス)
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、炭酸ガスを含有する。本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、上述の通り、水性媒体として硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を使用するのみでは、乳酸菌含有無糖飲料における所望とする異味の抑制効果は得られず、炭酸ガスを封入することにより初めて所望とする異味の抑制効果を得ることが可能となる。
【0037】
一実施形態において、乳酸菌含有無糖飲料に含まれる炭酸ガスの溶解量であるガスボリューム(以下において、「炭酸ガスボリューム」、又は単に「ガスボリューム」という。)は、1.0~4.5が好ましく、1.5~4.0がより好ましく、2.0~3.0が更に好ましい。ここで、ガスボリュームは、20℃、1気圧において、乳酸菌含有無糖飲料1L中に溶解している炭酸ガスの体積と定義される。例えば、ガスボリュームが1とは、20℃、1気圧で、1Lの乳酸菌含有無糖飲料に溶解している炭酸ガスが1Lであることを意味する。炭酸ガスボリュームの具体的な測定方法については、後述する実施例に示す。
【0038】
なお、炭酸ガスボリュームが4.5以下であることは、乳酸菌由来の異味の抑制効果に加え、炭酸ガスに由来する苦みを適度に抑えて呈味のよい乳酸菌含有無糖飲料を得る観点からも好ましい。
【0039】
(任意成分等)
・乳由来成分および大豆由来成分について
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、乳由来成分および大豆由来成分を含有しないことが好ましい。従来の乳酸菌含有飲料は、乳や大豆を発酵させて得られる乳酸菌を使用することが多いため、乳酸菌含有飲料においても乳由来成分や大豆由来成分を含むものであった。乳由来成分や大豆由来成分は、乳酸菌による異味を抑制する効果を有する一方で、乳酸菌含有飲料が止渇飲料のような清涼感を有しにくい一因となっていた。
【0040】
これに対し、本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料における、特定範囲の硬度を有する水と炭酸ガスとの組み合わせからなる異味抑制技術によれば、乳由来成分および大豆由来成分を含有させる必要がない。このため、乳酸菌含有無糖飲料を、乳由来成分および大豆由来成分フリーにすることができ、止渇飲料のような清涼感を付与することが容易となる。
【0041】
ここで、本実施形態において「乳由来成分および大豆由来成分を含有しない」とは、乳由来成分および大豆由来成分をまったく含有しないこと、および、実質的に含有しないことを意味する。すなわち、乳由来成分および大豆由来成分の存在が乳酸菌含有無糖飲料の清涼感に悪影響を与えないわずかな量を含む場合まで除外するものではないことを意味する。具体的に、「乳由来成分を含有しない」とは、乳酸菌含有無糖飲料の全質量に対し、乳由来成分としての乳糖含有率が0.025質量%以下であること、あるいは0.005質量% 以下であること、あるいは0.0005質量%以下であること、あるいは0質量%であることを意味する。また、「大豆由来成分を含有しない」とは、乳酸菌含有無糖飲料の全質量に対し、大豆由来成分としての大豆たん白質含有率が0.025質量%以下であること、あるいは0.01質量%以下であること、あるいは0.001質量%であること、あるいは0質量%であることを意味する。なお、乳糖含有量は、公知の方法、例えば高速液体クロマトグラフ法により測定することができる。また、大豆たん白質含有量は、例えば、ELISA法に従って測定することができる。
【0042】
また、乳由来成分や大豆由来成分を含む従来の乳酸菌含有飲料は、乳成分又は大豆成分に対するアレルギーの患者や、乳糖不耐症の患者にとって摂取できない飲料であったが、本実施形態においては、乳酸菌含有飲料を、これらの患者にも摂取可能とすることができる。この場合、乳由来成分については、消費者庁通知(平成22年9月10日消食表第286号「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」)に収載のELISA法にて測定される乳由来たん白質が0.0001質量% 以下であることが好ましい。また、大豆由来成分については、ELISA法にて測定される大豆由来たん白質が0.0001質量%以下であることが好ましい。
【0043】
実質的に乳由来成分および大豆由来成分を含有しない乳酸菌含有無糖飲料とするためには、例えば、乳製品や大豆製品を製造原料として用いずに乳酸菌含有無糖飲料を製造すればよい。さらに、乳酸菌として、乳由来成分および大豆由来成分を用いずに培養した乳酸菌を用いると、乳由来成分および大豆由来成分を確実に含有しない乳酸菌含有無糖飲料とすることができ、特に好ましい。なお、エンテロコッカス・フェカリスやストレプトコッカス・サーモフィラスであればこのような培養が容易であり、本実施形態で用いる乳酸菌として特に好ましい。
【0044】
・人工添加物について
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料における、特定範囲の硬度を有する水と炭酸ガスとの組み合わせからなる乳酸菌由来の異味抑制技術によれば、例えば糖類や甘味料等の甘味付与剤や人工添加物などで乳酸菌由来の異味をマスキングする必要がない。したがって、一実施形態により、人工添加物を含有しない乳酸菌含有無糖飲料が提供される。但し、本実施形態の効果を損なわない範囲であれば、例えば後掲で説明する人工香料等の人工添加物を配合することは可能である。
【0045】
・酸味料
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、さらに酸味料を含有することが好ましい。一実施形態において、酸味料の含有率は、飲料の全質量を基準として0.001~0.075質量%であってよく、0.005~0.06質量%であってよく、0.01~0.05質量%であってよい。
【0046】
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、硬度が10mg/L~300mg/Lの水と、炭酸ガスを含有するため、これらに起因して苦味が感じられることがある。ここでいう「苦味」は、先味(飲料を口に入れた瞬間の味覚)において感じられる苦味をいう。乳酸菌含有無糖飲料が0.001質量%以上の酸味料を含有すると、上記特定硬度の水及び/又は炭酸ガスに起因する先味の苦味が抑制され、呈味の好ましいものとなる。一方、酸味料の含有率が0.075質量%以下であることで、酸味料に起因する刺激的な酸味が抑制される。
【0047】
本実施形態において使用し得る酸味料は、飲料に使用できるものであれば特に限定されず、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられ、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。なかでも、清涼感付与の観点、刺激的な酸味を抑制する観点から、クエン酸および乳酸が好ましく、クエン酸が特に好ましい。
【0048】
・香料
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、本実施形態の効果を損なわない範囲で香料を配合することができる。本実施形態において使用し得る香料としては、例えば、柑橘その他果実から抽出した香料、植物の種実、根茎、木皮、葉等またはこれらの抽出物、乳または乳製品から得られる香料、合成香料等が挙げられる。これらの香料は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0049】
・その他の添加物等
本実施形態にあっては、前述した原料の他、本実施形態の効果を損なわない範囲において、ビタミン類、ミネラル分、糊料、機能性成分、酸化防止剤等を含有してもよい。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンC 、ビタミンE 、ビタミンD 、ビタミンK 及びビタミンB 群等が挙げられる。
【0050】
ミネラル分としては、例えば、カリウム、クロム、銅、フッ素、ヨウ素、鉄、マンガン、リン、セレン、ケイ素、モリブデン、亜鉛等が挙げられる。これらは、無機塩として配合されてもよく、他の原料(例えば、前述した植物汁や植物抽出液等の水素接触原料)の含有成分として配合されてもよい。
【0051】
糊料としては、例えば、ペクチン、セルロース、ゼラチン、コラーゲン、寒天、アルギン酸ナトリウム、大豆多糖類、ガラクトマンナン類、アラビアガム、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドシードガム等が挙げられる。
【0052】
機能性成分としては、例えば、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、グルコサミン、ヒアルロン酸、プラセンタ、牡蠣エキス、キトサン、プロポリス、ローヤルゼリー、トコフェロール、ポリフェノール、梅エキス、アロエ、霊芝、アガリクス等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤としては、例えば、アスコルビン酸またはその塩、エリソルビン酸またはその塩等が挙げられるが、このうちアスコルビン酸又はその塩等が特に好ましい。
これらの添加物は、1 種を単独でまたは2 種以上を混合して使用することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る乳酸菌飲料は、その他、各種エステル類、乳化剤、保存料、調味料、着色料(色素)、油、pH調整剤、品質安定剤等を含有してもよい。
【0055】
(pH)
一実施形態において、乳酸菌含有無糖飲料のpHは、2.0~6.0であってよく、2.5~5.5であってよく、3.0~4.5であってよい。乳酸菌含有無糖飲料のpHがこの範囲にあると、乳酸菌含有無糖飲料の刺激的酸味が抑制されつつも、清涼感がより優れたものとなる。本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料のpHは、乳酸菌の含有量や使用する水によっても影響されるが、酸味料を含有する場合は主として酸味料の含有量に影響される。なお、乳酸菌含有無糖飲料のpHは、常法に従ってpHメーターにて測定することができる。
【0056】
(容器)
本実施形態に係る乳酸菌含有無糖飲料は、容器に充填された形で提供されること、すなわち容器詰飲料であることが好ましい。この場合において、使用される容器は特に限定されず、通常用いられる飲料用容器であればよい。一実施形態において、炭酸ガスのガス圧を考慮すると、金属缶、PETボトル等のプラスチック製ボトル、瓶などの所定の強度を有する容器であるのが好ましい。また、開栓後も炭酸ガスを効果的に保持するために、当該容器は再栓可能な蓋を備えていることが好ましい。
【0057】
<乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法および乳酸菌含有無糖飲料の製造方法>
本実施形態の別の側面によれば、乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制方法、および、乳酸菌含有無糖飲料の製造方法が提供される。ここで、乳酸菌含有無糖飲料の製造方法は、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を使用すること、および、1種又は2種以上の乳酸菌と上記特定範囲の硬度を有する水とを含有する飲料原液に炭酸ガスを溶解することを組み合わせてなる乳酸菌含有無糖飲料における異味抑制技術を取り込んだことを第一の特徴とするものであり、個々の工程は従来公知の方法により実施することができる。
【0058】
例えば、まず、原料水として硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある水を準備する。この水は、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある天然水をそのまま原料水として用いてもよいし、または、天然水をイオン交換水で希釈することにより、もしくはカルシウムおよびマグネシウムを含有しない水にカルシウムおよび/またはマグネシウムを含む無機塩を添加することにより、硬度を調整した水を原料水として使用してもよい。
【0059】
次いで、硬度が10mg/L~300mg/Lの範囲にある上記原料水に、1種又は2種以上の乳酸菌と、所望により酸味料と、さらに必要に応じて前述した他の成分とを添加して撹拌し、必要に応じてpHの調整を行い、飲料原液を調製する。なお、各原料の添加の順序は特に制限されない。
【0060】
ここで、乳酸菌含有無糖飲料の製造原料として、乳製品や大豆製品を用いずに乳酸菌含有無糖飲料を製造すると、実質的に乳由来成分および大豆由来成分を含有しない乳酸菌含有無糖飲料とすることができ、好ましい。さらに好適には、乳酸菌として、乳由来成分および大豆由来成分を用いずに培養した乳酸菌を用いることが特に好ましい。
【0061】
前述で調製した飲料原液を加熱殺菌し、冷却した後、炭酸ガスを封入(カーボネーション)し、次いで所定の容器に充填することにより、所定の炭酸ガスボリュームを有する容器詰乳酸菌含有無糖飲料を得ることができる。なお、炭酸飲料の製法には、プレミックス法とポストミックス法とがあるが、いずれを採用してもよい。
【実施例
【0062】
以下、製造例、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明する。
<乳酸菌含有無糖飲料の製造例>
実施例1
天然水(福岡県産、硬度54)1Lに、乳酸菌粉末ST-9618(ストレプトコッカス・サーモフィラス;チチヤス社製)を0.002質量%、乳酸菌FK-23(エンテロコッカス・フェカリス;ニチニチ製薬社製)を0.0005質量%、クエン酸を0.008質量%となるよう溶解することにより、飲料原液を得た。次いで、得られた飲料原液に対して、100℃で30秒殺菌を行った後、4℃まで冷却した。冷却後の飲料原液に対して、カーボネータによって炭酸ガスを封入(カーボネーション)した後、洗浄殺菌済みのPETボトル(200mL)に充填し、容器詰乳酸菌含有無糖飲料(試料1)を得た。得られた容器詰乳酸菌含有無糖飲料(試料1)について、後掲の測定方法に従い炭酸ガスボリュームを測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例2~、比較例1~10、参考例1及び2
使用する天然水の硬度、乳酸菌の種類及び含有率、炭酸ガスボリュームを、表1に記載の各々に変更した以外は、実施例1と同様の条件及び方法により容器詰乳酸菌含有無糖飲料(試料2~21)を製造し、得られた各試料について、実施例1と同様の条件及び方法により炭酸ガスボリュームを測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<硬度及び炭酸ガスボリュームの測定>
・硬度の測定方法
ICP発光分光分析法により、天然水に含まれるカルシウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)含有量を測定し、以下の計算式を用いて天然水の硬度を測定した。
硬度(mg/L)=Ca(mg/L)×2.497+Mg(mg/L)×4.118
【0065】
・炭酸ガスボリュームの測定方法
JAS法に基づく検査方法に準拠し、以下のようにして炭酸ガスボリュームを測定した。上掲で得られた各容器詰乳酸菌含有無糖飲料(試料1~20)を恒温水槽に30分以上入れて静置し、液温を2 0℃に調整した。次いで、サンプルを静かに取り出し、ガス内圧計を取り付けて、針先でキャップを穿孔し、一度活栓を開いてガス抜き(以下「スニフト」という。)し、直ちに活栓を閉じてから激しく振とうし、ゲージの指針が一定の位置に達したときの値(MPa)を読み取り、これをガス内圧力として記録した。
【0066】
スニフトした後、ガス内圧計を取り外し、開栓して温度計で液温を測定し記録した。測定して得たガス内圧力と液温を炭酸ガス吸収係数表に当てはめ、必要なガス内圧力の温度補正を行い、炭酸ガスボリュームを導いた。結果を表1に示す。
【0067】
<試験例:官能評価>
試料1~20の各容器詰乳酸菌含有無糖飲料について、官能評価試験を行った。この官能評価試験は、飲料の開発を担当する訓練された5人のパネラーに委託して行った。各試料を殺菌後に直ちに4℃まで冷却し、<苦味>、<乳酸菌由来のえぐみ>および<乳酸菌由来の臭い>の3項目について、以下の評価基準に基づき5人のパネラーの協議により評価点が決定された。
【0068】
評価は、陽性対照および陰性対照との対比により行われた。ここで、陽性対照として、乳酸菌を添加せずに、ガスボリューム2.6とした硬度54のコントロールを採用した。陰性対照として、<苦味>の評価では、乳酸菌を添加せずに、ガスボリューム4.7とした硬度310のコントロール(陰性対照1)を採用し、<乳酸菌由来のえぐみ>及び<乳酸菌由来の臭い>の評価では、乳酸菌0.0025質量%(ST-9618:0.002質量%、FK-23:0.0005質量%)を、イオン交換水(硬度1mg/L)に添加し、炭酸ガスを封入しなかったコントロール(陰性対照2)を採用した。各試料について、3種の評価点の合計を算出し、総合評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
<炭酸ガス及び硬度に由来する苦味>
4:陽性対照と同様にほとんど感じない、非常に良好。
3:陽性対照よりもわずかに感じるが、良好。
2:陰性対照1よりはわずかに弱く感じるだけで、あまり良くない。
1:陰性対照1と同等に強く感じる、非常に良くない。
【0070】
<乳酸菌由来のえぐみ>
4:陽性対照と同様にほとんど感じない、非常に良好。
3:陰性対照2よりも明らかに弱く感じる、良好。
2:陰性対照2よりはわずかに弱く感じるだけで、あまり良くない。
1:陰性対照2と同等に強く感じる、非常に良くない。
【0071】
<乳酸菌由来の臭い>
4:陽性対照と同様にほとんど感じない、非常に良好。
3:陰性対照2よりも明らかに弱く感じる、良好。
2:陰性対照2よりはわずかに弱く感じるだけで、あまり良くない。
1:陰性対照2と同等に強く感じる、非常に良くない。
【0072】
<総合評価>
A:合計点数が12であり、非常に良好。
B:合計点数が10~11であり、且つ1が無く、良好。
C:合計点数が8~9であり、且つ1が無い。
D:合計点数が6~7であり、且つ1が無いが、やや問題あり。
E:合計点数が5以下である、又は1があり、問題あり。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
本実施形態により提供される乳酸菌含有無糖飲料は、無糖でありながら、乳酸菌に由来するえぐみや臭いが抑制され、且つ苦味も抑制されており、異味のない呈味に優れた乳酸菌含有飲料であることがわかる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。