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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、真空ポンプシステム
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019165839
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042722
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】市原 孝一
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-019740(JP,A)
【文献】特開2014-037809(JP,A)
【文献】特開2010-138741(JP,A)
【文献】特開平01-247794(JP,A)
【文献】特開2013-119798(JP,A)
【文献】特開2016-167513(JP,A)
【文献】特開2006-017089(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0238334(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを有するポンプ機構と、
前記ポンプ機構を内包するケーシングと、
前記ロータを回転させるための回転駆動手段と、
温度上昇が可能な温度上昇手段と、
前記温度上昇手段を保持する昇温保持手段と、
前記温度上昇手段を、通常動作モードとクリーニング動作モードとの間で動作モードの切替えを行って制御することが可能な制御手段と、
前記温度上昇手段に係る設定温度の情報を記憶する温度情報記憶手段と、を備え、
前記温度情報記憶手段には、少なくとも、前記通常動作モードのための第1温度情報と、前記クリーニング動作モードのための第2温度情報とが記憶され、
前記第2温度情報により表される第2温度が、前記第1温度情報により表される第1温度より高く、
前記第2温度は、前記第1温度で析出した副反応生成物をガス化する温度であり、
前記制御手段は、
前記回転駆動手段を、前記通常動作モードと前記クリーニング動作モードとの間で動作モードの切替えを行って制御することが可能であり、
前記回転駆動手段に係る設定回転数の情報を記憶する回転数情報記憶手段を備え、
前記回転数情報記憶手段には、少なくとも、前記通常動作モードのための第1回転数情報と、前記クリーニング動作モードのための第2回転数情報とが記憶され、
前記第2回転数情報により表される回転数が、前記第1回転数情報により表される回転数よりも低いことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記クリーニング動作モードで発生した被処理ガスの排気を促進するガスを導入する排気促進ガス導入ポートを有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記排気促進ガス導入ポートとして、パージポートを兼用することを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記温度上昇手段が、シースヒータ、及び、カートリッジヒータのうちの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記温度上昇手段が、電磁誘導ヒータであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記温度上昇手段が、面状ヒータであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記昇温保持手段の材質が、少なくともアルミニウム合金、ステンレス合金、及び、チタン合金のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記ロータは、前記通常動作モードと前記クリーニング動作モードとで兼用されることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記ロータの材質が、少なくともアルミニウム合金、及び、ステンレス合金のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記クリーニング動作モードで発生した被処理ガスの排気をアシストする補助ポンプと請求項1~9のいずれかに記載の真空ポンプとを備えた真空ポンプシステム。
【請求項11】
前記制御手段は、前記クリーニング動作モードに移行してからクリーニングを完了させるために定められた一定時間が経過したかを判定し、前記一定時間が経過していれば前記通常動作モードへの移行を可能とすることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の真空ポンプ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプ、及び、真空ポンプを備えた真空ポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電によりロータ翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-80407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、移送されるガス内の物質が析出する場合がある。例えば、半導体製造装置のエッチングプロセスに使用されるガスが、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセス)を圧縮し、徐々に圧力を上げる過程で、排気流路の温度が昇華温度を下回る条件により、真空ポンプや配管内部に副反応生成物を析出させ、排気流路を閉塞してしまうことがある。そして、析出した副反応生成物の除去のために真空ポンプや配管を清掃する必要がある。また、状況によっては、真空ポンプや配管の修理や、新品への交換を行う必要もある。そして、これらのオーバーホールの作業のために、半導体製造装置を一時停止させてしまう場合があった。さらに、オーバーホールの期間が、状況によっては数週間以上に及ぶ場合もあった。
【0005】
また、従来の真空ポンプにおいては、副反応生成物が内部に付着するのを防止するため、通常動作としての排気動作中に、ヒータによって内部の排気経路の温度を上げる機能を備えたものがある。そして、このような加熱の際には、真空ポンプの構成部品に熱による膨張や変形などが生じ、部品同士が接触するのを回避するため、その上昇温度(加熱の目標温度)に制限を設けて、温度が設定値以上に上昇しないよう温度管理が行われる。そして、ポンプが不具合なく使用できる許容温度内に温度管理し、かつ、副反応生成物の析出を防止できる温度まで加熱できるように様々な工夫が考案されている。しかし、副反応生成物の種類によっては、完全に析出を防止できる温度条件で真空ポンプを稼働させることが困難となる場合があった。そして、結局は、副反応生成物が析出してしまい、半導体製造装置を停止させて真空ポンプの清掃や修理などを行うこととなっていた。
【0006】
このように、ポンプの温度管理方法について様々な工夫が考案されている一方で、真空ポンプの清掃や修理などを効率的に行う方法については、ほとんど目が向けられていない。本発明の目的とするところは、オーバーホールせずに副反応生成物を除去することが可能な真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために本発明は、ロータを有するポンプ機構と、
前記ポンプ機構を内包するケーシングと、
前記ロータを回転させるための回転駆動手段と、
温度上昇が可能な温度上昇手段と、
前記温度上昇手段を保持する昇温保持手段と、
前記温度上昇手段を、通常動作モードとクリーニング動作モードとの間で動作モードの切替えを行って制御することが可能な制御手段と、
前記温度上昇手段に係る設定温度の情報を記憶する温度情報記憶手段と、を備え、
前記温度情報記憶手段には、少なくとも、前記通常動作モードのための第1温度情報と、前記クリーニング動作モードのための第2温度情報とが記憶され、
前記第2温度情報により表される第2温度が、前記第1温度情報により表される第1温度より高く、
前記第2温度は、前記第1温度で析出した副反応生成物をガス化する温度であり、
前記制御手段は、
前記回転駆動手段を、前記通常動作モードと前記クリーニング動作モードとの間で動作モードの切替えを行って制御することが可能であり、
前記回転駆動手段に係る設定回転数の情報を記憶する回転数情報記憶手段を備え、
前記回転数情報記憶手段には、少なくとも、前記通常動作モードのための第1回転数情報と、前記クリーニング動作モードのための第2回転数情報とが記憶され、
前記第2回転数情報により表される回転数が、前記第1回転数情報により表される回転数よりも低いことを特徴とする真空ポンプにある。
(2)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニング動作モードで発生した被処理ガスの排気を促進するガスを導入する排気促進ガス導入ポートを有することを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
(3)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記排気促進ガス導入ポートとして、パージポートを兼用することを特徴とする(2)に記載の真空ポンプにある。
(4)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記温度上昇手段が、シースヒータ、及び、カートリッジヒータのうちの少なくともいずれかであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(5)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記温度上昇手段が、電磁誘導ヒータであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(6)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記温度上昇手段が、面状ヒータであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(7)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記昇温保持手段の材質が、少なくともアルミニウム合金、ステンレス合金、及び、チタン合金のうちのいずれかであることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(8)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記ロータは、前記通常動作モードと前記クリーニング動作モードとで兼用されることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(9)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記ロータの材質が、少なくともアルミニウム合金、及び、ステンレス合金のうちのいずれかであることを特徴とする(1)~(8)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
(10)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記クリーニング動作モードで発生した被処理ガスの排気をアシストする補助ポンプと(1)~(9)のいずれかに記載の真空ポンプとを備えた真空ポンプシステムにある。
(11)
また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記制御手段は、前記クリーニング動作モードに移行してからクリーニングを完了させるために定められた一定時間が経過したかを判定し、前記一定時間が経過していれば前記通常動作モードへの移行を可能とすることを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の真空ポンプにある。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、オーバーホールせずに副反応生成物を除去することが可能な真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図2】(a)は本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの一部を示す拡大図、(b)は位相を変えて他の部位を示す拡大図である。
図3】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの制御のための構成を概略的に示すブロック図である。
図4】通常動作モードとクリーニング動作モードとの関係を昇華曲線を用いて概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ10を縦断して概略的に示している。このターボ分子ポンプ10は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0011】
ターボ分子ポンプ10は、円筒状のポンプ本体11と、箱状の電装ケース(図示略)とを一体に備えている。これらのうちのポンプ本体11は、図1中の上側が対象機器の側に繋がる吸気部12となっており、下側が補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部13となっている。そして、ターボ分子ポンプ10は、図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0012】
電装ケース(図示略)には、ポンプ本体11に電力供給を行うための電源回路部(図2に符号61で示す)や、ポンプ本体11を制御するための制御回路部(図3に符号62で示す)が収容されている。そして、制御回路部62は、後述するモータ16、磁気軸受(符号省略)、及び、ヒータ48等の各種の機器の制御を行うようになっているが、制御回路部62の機能については後述する。
【0013】
ポンプ本体11は、略円筒状の筐体となる本体ケーシング14を備えている。本体ケーシング14は、図1中の上部に位置する吸気側部品としての吸気側ケーシング14aと、図1中の下側に位置する排気側部品としての排気側ケーシング14bとを軸方向に直列に繋げて構成されている。ここで、吸気側ケーシング14aを例えばケーシングなどと称し、排気側ケーシング14bを例えばベースなどと称することも可能である。
【0014】
吸気側ケーシング14aと排気側ケーシング14bは、径方向(図1中の左右方向)に重ねられている。さらに、吸気側ケーシング14aは、軸方向一端部(図1中の下端部)における内周面を、排気側ケーシング14bの上端部29aにおける外周面に対向させている。そして、吸気側ケーシング14aと排気側ケーシング14bは、溝部に収容されたOリング(シール部材41)を挟んで、複数の六角穴付きボルト(図示略)により、互いに気密的に結合されている。
【0015】
排気側ケーシング14bは、大きくは、筒状のベーススペーサ42(真空ポンプ構成部品)と、ベーススペーサ42の軸方向一端部(図1中の下端部)を塞ぐベース体43との2分割の構造を有している。ここで、ベーススペーサ42とベース体43は、それぞれ上ベース、下ベースなどと称することも可能なものである。なお、ベーススペーサ42は、TMS(Temperature Management System)のためのヒータ48や水冷管49を支持する加熱スペーサ部46や水冷スペーサ部47を有しているが、ベーススペーサ42の詳細については後述する。
【0016】
ポンプ本体11は、略円筒状の本体ケーシング14を備えている。本体ケーシング14内には、排気機構部15と回転駆動部(以下では「モータ」と称する)16とが設けられている。これらのうち、排気機構部15は、ポンプ機構としてのターボ分子ポンプ機構部17と、ネジ溝排気機構であるネジ溝ポンプ機構部18とにより構成された複合型のものとなっている。
【0017】
ターボ分子ポンプ機構部17とネジ溝ポンプ機構部18は、ポンプ本体11の軸方向に連続するよう配置されており、図1においては、図1中の上側にターボ分子ポンプ機構部17が配置され、図1中の下側にネジ溝ポンプ機構部18が配置されている。以下に、ターボ分子ポンプ機構部17やネジ溝ポンプ機構部18の基本構造について概略的に説明する。
【0018】
図1中の上側に配置されたターボ分子ポンプ機構部17は、多数のタービンブレードによりガスの移送を行うものであり、所定の傾斜や曲面を有し放射状に形成された固定翼(以下では「ステータ翼」と称する)19と回転翼(以下では「ロータ翼」と称する)20とを備えている。ターボ分子ポンプ機構部17において、ステータ翼19とロータ翼20は十段程度に亘って交互に並ぶよう配置されている。
【0019】
ステータ翼19は、本体ケーシング14に一体的に設けられており、上下のステータ翼19の間に、ロータ翼20が入り込んでいる。ロータ翼20は、筒状のロータ28に一体化されており、ロータ28はロータ軸21に、ロータ軸21の外側を覆うよう同心的に固定されている。ロータ軸21の回転に伴い、ロータ軸21及びロータ28と同じ方向に回転する。
【0020】
ここで、ポンプ本体11は、主だった部品の材質としてアルミニウム合金が採用されているものであり、排気側ケーシング14b、ステータ翼19、ロータ28などの材質もアルミニウム合金である。また、図1では、図面が煩雑になるのを避けるため、ポンプ本体11における部品の断面を示すハッチングの記載を省略している。
【0021】
ロータ軸21は、段付きの円柱状に加工されており、ターボ分子ポンプ機構部17から下側のネジ溝ポンプ機構部18に達している。さらに、ロータ軸21における軸方向の中央部には、モータ16が配置されている。このモータ16については後述する。
【0022】
ネジ溝ポンプ機構部18は、ロータ円筒部23とネジステータ24を備えている。 このネジステータ24は「ソトネジ」などとも呼ばれているものであり、ネジステータ24の材質として、アルミニウム合金が採用されている。ネジ溝ポンプ機構部18の後段には排気パイプに接続する為の排気口25が配置されており、排気口25の内部とネジ溝ポンプ機構部18が空間的に繋がっている。ここで、ネジ溝ポンプ機構部18としては、例えば、ロータ円筒部23のドラッグ効果による排気機構を構成するホルベック型ドラッグポンプを採用することが可能である。
【0023】
また、ターボ分子ポンプ10においては、本体ケーシング14内にパージガス(保護ガス)が供給されるようになっている。このパージガスは、後述する軸受部分や、前述のロータ翼20等の保護のために使用され、プロセスガスに因る腐食の防止や、ロータ翼20の冷却等を行うものである。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0024】
例えば、図示は省略するが、排気側ケーシング14bの所定の部位(排気口25に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガス流路を設ける。そして、このパージガス流路(より具体的にはガスの入り口となるパージポート)に対し、排気側ケーシング14bの外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。そして、軸受部分等を流れたパージガスは、排気口25を通って、本体ケーシング14の外へ排出される。
【0025】
前述のモータ16は、ロータ軸21の外周に固定された回転子(符号省略)と、回転子を取り囲むように配置された固定子(符号省略)とを有している。モータ16を作動させるための電力の供給は、前述の電装ケース(図示略)に収容された電源回路部(図3の符号61)や制御回路部(図3の符号62)により行われる。
【0026】
ロータ軸21の支持には、詳細な図示や符号は省略するが、磁気浮上による非接触式の軸受(磁気軸受)が用いられている。このため、ポンプ本体11においては、高速回転を行うにあたって摩耗がなく、寿命が長く、且つ、潤滑油を不要とした環境が実現されている。なお、磁気軸受として、ラジアル磁気軸受とスラスト軸受を組み合せたものを採用できる。
【0027】
さらに、ロータ軸21の上部及び下部の周囲には、所定間隔をおいて半径方向の保護ベアリング(「保護軸受」、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などともいう)32、33が配置されている。これらの保護ベアリング32、33により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸21の位置や姿勢を大きく変化させず、ロータ翼20やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0028】
このような構造のターボ分子ポンプ10の運転時には、前述のモータ16が駆動され、ロータ翼20が回転する。そして、ロータ翼20の回転に伴い、図1中の上側に示す吸気部12からガスが吸引され、ステータ翼19とロータ翼20とに気体分子を衝突させながら、ネジ溝ポンプ機構部18の側へガスの移送が行われる。さらに、ネジ溝ポンプ機構部18においてガスが圧縮され、圧縮されたガスが排気部13から排気口25へ進入し、排気口25を介してポンプ本体11から排出される。
【0029】
なお、ロータ軸21や、ロータ軸21と一体的に回転するロータ翼20、ロータ円筒部23、及び、モータ16の回転子(符号省略)等を、例えば「ロータ部」、或は「回転部」等と総称することが可能である。
【0030】
次に、前述したベーススペーサ42や、その周辺部品により構成される加熱冷却構造について説明する。ベーススペーサ42は、図1及び図2(a)、(b)に示すように、前述のベース体43に同心的に組み合わされ、本体ケーシング14の排気側の部位を構成している。ベース体43は、モータ16やロータ軸21等の支持を担ったステータコラム44を有しており、ベーススペーサ42は、ステータコラム44の基端側の周囲を、径方向に所定の間隔を空けて囲っている。
【0031】
ベーススペーサ42は、図2(a)に一部を拡大して示すように、加熱スペーサ部46と水冷スペーサ部47とを有している。ベーススペーサ42は、アルミ鋳造品に所定の加工や処理を行って形成された一体成型品であり、加熱スペーサ部46と水冷スペーサ部47は互いに一体化されている。そして、ベーススペーサ42は、加熱スペーサ部46の側を向けてベース体43に組み合せられており、Oリング(シール部材45)を挟み、図示を省略する六角穴付きボルトを介して、ベース体43に連結されている。
【0032】
ここで、ベーススペーサ42とベース体43を、アルミ鋳造物或いはステンレスにより一体成型することも可能である。しかし、本実施形態のように別部品とすることで、部品外形が小さくなり、部品の加工、管理、運搬、組み立ての際の取り扱いなどといった各種の点で容易性が増し、関連するコストを抑えることができる。
【0033】
続いて、加熱スペーサ部46は、全体として環状に形成されており、矩形状の断面を有している。また、加熱スペーサ部46には、前述のネジステータ24が、熱の伝達が可能な状態で組み合されて固定されている。
【0034】
加熱スペーサ部46には、加熱を行う温度上昇手段としてのヒータ48や、図2(b)に示すような温度センサ51が装着されている。これらのうちのヒータ48は、カートリッジタイプのものである。このヒータ48は、加熱スペーサ部46に外側から差込まれ、板材50aや六角穴付きボルト50b等を有するヒータ装着具50を介して、加熱スペーサ部46に固定されている。ヒータ48は、通電制御により発熱量を変化させる。そして、ヒータ48は、発生した熱を加熱スペーサ部46に伝達し、加熱スペーサ部46の温度を上昇させる。ここで、ヒータ48の配置は、ヒータ48がネジステータ24に近づき、ネジステータ24を効率よく加熱できるよう考慮されている。
【0035】
また、本実施形態では、ヒータ48の数は2個となっており、これらのヒータ48は、加熱スペーサ部46にほぼ180度間隔で配置されている。しかし、これに限定されるものではなく、ヒータ48の数を増減することが可能である。ただし、ヒータ48の数を例えば4個に増やし、これらのヒータ48を90度間隔で配置したような場合には、より効率よく加熱を行うことが可能になる。
【0036】
図2(b)に示す前述の温度センサ51は、加熱スペーサ部46に外側から差込まれ、温度センサ装着具53を介して固定されている。温度センサ装着具53は、前述のヒータ装着具50と同様な構造を有しており、板材53aや六角穴付きボルト53b等を有している。
【0037】
本実施形態では、温度センサ51の数は2個となっており、これらの温度センサ51は、加熱スペーサ部46にほぼ180度間隔で配置されている。そして、温度センサ51は、ヒータ48の配置に係る位相のほぼ中央(2つのヒータ48のほぼ中間)に配置され、ヒータ48と併せて90度間隔で周方向に一列に並んでいる。また、温度センサ51は、可能な限りネジステータ24に近付くよう配置されており、ヒータ48により加熱された加熱スペーサ部46の温度を、ネジステータ24に近い位置において検出できるようになっている。ここで、温度センサ51としては、例えばサーミスタ等のように一般的な種々のものを採用することが可能である。
【0038】
水冷スペーサ部47には、ステンレス管である水冷管49が、周方向に沿って延びるよう埋め込まれ(鋳込まれ)ている。水冷管49は、境界部52に近付くよう配置されている。水冷管49内には、図示を省略する管用継手を介して冷却水が供給され、冷却水は、水冷管49内を流れて水冷スペーサ部47の熱を奪い、本体ケーシング14の外に導出される。このような冷却水の循環により、水冷スペーサ部47が冷却される。また、図示は省略するが、水冷管49における冷却水の流量は、電磁弁の開閉(ON/OFF)により制御されるようになっている。
【0039】
前述のヒータ48は、図3に概略的に示すように、制御回路部62のコントローラ63により制御される。制御回路部62には、ROMやRAMなどにより構成される記憶部64が備えられている。この記憶部64は、一部又は全部が、コントローラ63に内蔵されていてもよい。
【0040】
コントローラ63は、CPU(中央処理装置)を有しており、記憶部64に記憶された制御プログラムに従い、同じく記憶部64に記憶された各種の制御データ(後述する)を参照して、ヒータ48の温度制御を行えるようになっている。また、コントローラ63は、前述したモータ16や磁気軸受(符号省略)等の各種機器の制御も行えるようになっている。さらに、コントローラ63には、温度センサ51からの信号が入力される。そして、コントローラ63は、モータ16を所定の回転数で回転させたり、ヒータ48を所定の温度まで温度上昇させたりすることが可能である。
【0041】
また、コントローラ63には、動作モード切替えスイッチ(動作モード切替えスイッチともいう)66の操作信号が入力される。この動作モード切替えスイッチ66は、通常動作モード(通常運転モードともいう)とクリーニング動作モード(クリーニング運転モードともいう)との切替えの際に、作業者により操作される。動作モード切替えスイッチ66としては、一般的な種々のタイプのスイッチ機器を採用することが可能である。
【0042】
上述の通常動作モードは、詳細は後述するが、ターボ分子ポンプ10が接続された対象機器(ここでは半導体製造装置)を所定の真空度に保ったり、対象機器のガス(ここでは半導体製造装置のプロセスガス)を移送したりするための通常動作を行う動作モード(動作状態)である。これに対して、クリーニング動作モードは、通常動作モードでの運転中にターボ分子ポンプ10内に析出した副反応生成物を除去するクリーニング作業を行う非通常の動作モードである。
【0043】
これらの動作モードに関して、前述の記憶部64には、動作モードに応じた温度情報や回転数情報が記憶されている。通常動作モードに関しては、第1温度情報と第1回転数情報が記憶部64に記憶されている。これらのうち第1温度情報は、ガスの流路の温度環境を適正なものとするために予め決められた温度である第1温度を示す情報である。また、第1回転数情報は、ガスの移送に適するよう予め決められた回転数である第1回転数を示す情報である。
【0044】
クリーニング動作モードに関しては、第2温度情報と第2回転数情報が記憶部64に記憶されている。これらのうち第2温度情報は、副反応生成物を再気化するのに適した温度である第2温度を示す情報である。この第2温度情報が示す第2温度は、通常動作モードに係る第1温度よりも高い値となっている。また、第2回転数情報は、通常動作モードに係る第1回転数よりも低い回転数である第2回転数を示す情報である。
【0045】
続いて、通常動作モードとクリーニング動作モードにおけるターボ分子ポンプ10の動作について、より詳しく説明する。先ず、通常動作モードにおいて、ターボ分子ポンプ10は、コントローラ63からの指令信号である回転動作開始信号を受けて、モータ16を回転させる。モータ16の回転に伴い、ロータ翼20が回転し、ガスの排気及び圧縮が開始される。
【0046】
ロータ翼20の回転数が、前述した第1回転数に達すると、ロータ翼20の回転数の調節が完了する。回転数の調節を完了させるにあたっては、ロータ翼20の回転数が、本体ケーシング14内の所定の部位に配置された回転数センサ(図3の符号67)により検出される。さらに、回転数センサ67の検出結果がコントローラ63に入力され、コントローラ63が、ロータ翼20の回転数が第1回転数に達したことを判定して、回転数が一定に保たれるようモータ16を制御する。
【0047】
このような回転数制御と並行して、加熱温度調節が行われる。この加熱温度調節にあたっては、ヒータ48が通電されて温度上昇し、ヒータ48周辺の部位が徐々に加熱される。そして、温度センサ51により検出される温度が前述の第1温度に達すると、コントローラ63が温度の調整が完了したと判定し、温度が一定に保たれるようヒータ48を制御する。
【0048】
コントローラ63は、回転数及び温度の両方がそれぞれの目的の値(第1回転数及び第1温度)に達したことを判定すると、ターボ分子ポンプ10が通常動作(定常動作)の状態に移行した旨の通知を、表示部68を介して行う。そして、このような通常動作モードでは、ヒータ48によって、ガスの流路の温度が一定な程度に高められて維持され、第1温度によって可能となる範囲内で、副反応生成物の析出が予防される。
【0049】
また、第1温度は、加熱される各種の構成部品(内部構成部品)が、過度な熱膨張や変形などを生じないように定められた温度であり、定常動作においてポンプが不具合なく使用できる許容温度である。さらに、第1温度は、各種の内部構成部品の材質や強度、及び、上流に存在する対象機器の真空チャンバなどからターボ分子ポンプ10へ流れ込むガスの流量、等を考慮して決定されている。
【0050】
そして、前述したように、排気側ケーシング14b、ステータ翼19、ネジステータ24、ロータ28、及び、ベーススペーサ42等の主だった内部構成部品の材質として、アルミニウム合金を採用し、更に、経験上比較的よくある所定のガス流量を前提とした場合には、定常動作時温度である第1温度を例えば100℃とすることが考えられる。
【0051】
ただし、このような第1温度は、あくまでもポンプが不具合なく使用できる許容温度に過ぎないため、副反応生成物が析出してしまうこともあり得る。例えば副反応生成物がフッ化アンモニウムの場合、昇華温度が150℃のため、100℃で保持していても副反応生成物が析出する。このため、本実施形態では、析出した副反応生成物に対しては、以下に説明するようにクリーニング動作モードでのガス化(再ガス化)を行い、副反応生成物を除去できるようにしている。
【0052】
クリーニング動作モードにおいては、副反応生成物の除去のため、ヒータ48が、その周辺部の温度を、通常動作モードに係る第1温度よりも高い第2温度に高めるよう制御される。第2温度は、通常動作モード中に発生した副反応生成物を、再びガス化することが可能な温度である。本実施形態では、クリーニング動作時温度である第2温度は200℃とされている。このようなガス化(再ガス化)による再生成を行うことで、通常動作モードでの運転中に発生した副反応生成物の除去が可能となる。ここで、析出した副反応性生成物の再ガス化により生じたガスや、対象機器(ここでは半導体製造装置)からのガス(ここではプロセスガス)等を包括的に「被処理ガス」などと称することが可能である。
【0053】
また、クリーニング動作モードにおいては、モータ16が、第2回転数で回転するよう制御される。この第2回転数は、第1回転数の50%程度の回転数となっている。このように第1回転数よりも十分に低い第2回転数でモータ16を駆動することで、第1回転数でモータ16を駆動した時と比べ、ガスの排出時に発生する圧縮熱や摩擦熱を低減できる。また、ロータ翼20にかかる遠心力などの負荷も低減できるので、通常動作モードの場合より、許容温度を引き上げることが出来る。一方、ロータ翼20の分子搬送力により、再生成されたガスは、ヒータ48で加熱されないために温度が低いステータ翼19に向かって逆流することなく、排気口25から本体ケーシング14の外部へ排出される。そして、ロータ翼20を回転させ始めてから一定時間で、再ガス化された副反応生成物の排出が完了する。ここでいう「一定時間」は、副反応生成物の組成などの条件により決まる。
【0054】
このように、ロータ翼20が、クリーニング動作モードでも用いられ、通常動作モードよりも低い速度で回転しながら、ガスを移送し、ガス化した副反応生成物を、効率良く円滑に排除することで、ガス化した副反応生成物の滞留による圧力上昇を防止できる。このため、第2温度でのガス化と、第2回転数でのガスの排気とを併せて行うことにより、第2温度でのガス化のみを行った場合に比べて、副反応生成物のガス化が促進される。なお、副反応生成物のガス化については、固相(固体)、液相(液体)、及び、気相(気体)の関係を示した状態図における昇華曲線f(図4)によって表すことができる。そして、昇華曲線fの気相領域(気体側)では副反応生成物をガス化できるが、ガス化に必要な熱量を供給するため、昇華温度より高い温度に設定するのが望ましい。また、ガス化した副反応生成物がステータ翼19へ向かって逆流するのを防止するために、本体ケーシング14に排気促進ガス(N2ガスなど)を導入するポート(排気促進ガス導入ポート)を設け、副反応生成物を押し流すようにすると良い。そして、この排気促進ガス導入ポートとして、前述のパージポートを兼用するようにしてもよい。
【0055】
また、通常動作モードからクリーニング動作モードへの移行は、例えば、通常動作モード時に前述の動作モード切替えスイッチ66を作業者が操作し、コントローラ63がモード切替えの制御を行って、実行することが可能である。
【0056】
さらに、この逆に、クリーニング動作モードから通常動作モードへの移行についても、例えば、クリーニング動作モード時に前述の動作モード切替えスイッチ66を作業者が操作し、コントローラ63がモード切替えの制御を行って、実行することが可能である。
【0057】
ここで、再生成されたガスの排気に要する前述の「一定時間」内には、動作モード切替えスイッチ66を有効とせず、通常動作モードへの移行の操作を受け付けないことが望ましい。そして、コントローラ63が、前述の「一定時間」が経過したか否かを判定し、経過していれば、動作モード切替えスイッチ66の操作を受け付けるようにすることが考えられる。また、前述の「一定時間」が経過すれば、動作モード切替えスイッチ66の操作がなくても自動的に通常動作モードに移行する、といった制御を行うことも可能である。
【0058】
さらに、クリーニング中におけるロータ翼20の回転による排気の他に、ターボ分子ポンプ10とは別に設けられた排気ポンプによって、再生成されたガスの排気を行うことが考えられる。このように他の排気ポンプを利用するクリーニング中の排気を、例えば「排気アシスト」と称することが可能である。
【0059】
この排気アシストを行うにあたっては、ターボ分子ポンプ10の下流側に設置される補助ポンプとしてのバックポンプ(図示略)を利用することが可能である。つまり、一般に、ターボ分子ポンプ10が組み込まれる排気系においては、ターボ分子ポンプ10よりも下流側にバックポンプ(図示略)が設けられることがある。そして、このバックポンプにより、ターボ分子ポンプ10による排気の前段(前段階)において、ターボ分子ポンプ10よりも低真空度での排気が行われる。このため、バックポンプを利用してクリーニング動作モード中の排気を行うことが考えられる。
【0060】
さらに、上述のようなバックポンプを排気アシストに使用する場合には、クリーニング動作モードにおいてバックポンプを作動させ、所定の程度の真空度が得られた状況で、ターボ分子ポンプ10のモータ16を回転(回転開始)させて、第2回転数での排気動作を行うようにすることが可能である。このようなバックポンプによる排気アシストを行うことで、再生成されたガスを更に効率よく排気できるようになる。
【0061】
また、バックポンプによる排気によって十分に、再生成ガスを排気できることも考えられる。そして、このような場合には、クリーニング動作モード中にモータ16の回転駆動のための制御を行わないようにしてもよい。このようにした場合には、クリーニングにおけるターボ分子ポンプ10の消費電力をより削減することが可能である。ただし、前述のようにモータ16の回転駆動のための制御を併せて行うことで、ガス化をより確実且つ迅速に行うことができる
【0062】
また、クリーニング動作モード中におけるモータ16の回転数を、第2回転よりも更に低い回転数(第3回転数)で行うようにしてもよい。このようにした場合にも、クリーニングにおけるターボ分子ポンプ10の消費電力を削減することが可能である。
【0063】
さらに、バックポンプの有無に関わらず排気アシストを行えるようにすることも考えられる。この場合には、例えば、排気アシスト用のポンプ(排気アシストポンプ)をターボ分子ポンプ10の付加機器として組合せて、ターボ分子ポンプ10の販売等を行うことが可能である。
【0064】
なお、クリーニング動作モードの終了にあたっては、コントローラ63が、温度センサ51により検出される温度が所定の温度以下に下がったことを判定すると、通常動作モードに移行できることを表示部68に表示したり、所定のLEDを所定の態様で駆動したり、所定の音を発したりする制御を行うことが考えられる。
【0065】
また、クリーニング動作モードにおいて過度な加熱を行うと、ターボ分子ポンプ10や対象機器(ここでは半導体製造装置)が設置されたクリーンルーム内の温度を上昇させてしまうことも考えられる。したがって、過度な加熱を防止するため、クリーニング中も温度センサ51の出力を監視し、第2温度を超えないようにヒータ48の出力を調節することが考えられる。また、過度な加熱を防止するため、例えば本体ケーシング14の外側等に、温度環境を検知するための温度センサを別途設け、温度環境の変化を監視しながらクリーニングを行う、といったことも可能である。
【0066】
また、析出し得る副反応生成物の種類は、使用されるガスの種類によって異なる。そして、副反応生成物の種類が異なれば、第2温度の値を変更しなければならない場合も考えられる。このため、ターボ分子ポンプ10の需要者(納入予定先の関係者など)から、使用するガスの種類や、発生し得る副反応生成物の種類、副反応生成物に適した第2温度などの情報を事前に収集しておき、第2温度を記憶部64に記憶させる際に、需要者の用途にとって最適な第2温度を決定する、といったことも考えられる。
【0067】
さらに、ターボ分子ポンプ10の納入後、ターボ分子ポンプ10をある程度の期間に亘り使用してから、作業者が第2設定温度を変更できるようにすることも考えられる。この場合には、例えば、ターボ分子ポンプ10の使用開始当初に用いられていたガスの種類が、その後他のガスに変更される場合に、新たに使用されるガスの種類に応じて、作業者が第2温度を変更する、といった用途を考えることができる。また、第2温度の変更を可能とするために、ガスの種類とそれらに対応する複数の第2温度の関係を記憶部64にテーブル化して格納しておいてもよい。
【0068】
以上説明したようなターボ分子ポンプ10によれば、通常動作モードにおいて副反応生成物が析出して堆積したとしても、クリーニング動作モードでの運転により、副反応生成物を除去することが可能である。したがって、対象機器を停止させるオーバーホールを不要としたり、オーバーホールの頻度を下げたりすることが可能となる。そして、副反応生成物による対象機器の稼働への影響を最小限に抑え、例えば半導体の生産効率の向上に寄与することが可能となる。
【0069】
また、クリーニング動作モードにおいては、加熱が行われるだけでなく、相対的に低速な第2回転数でモータ16が駆動されている。このため、通常動作モードで用いられるロータ28をクリーニング動作モードでも兼用し、ロータ翼20を回転させて、クリーニングにより発生したガス(再生成ガス)を効率よく排気できる。そして、この排気によって、ガス化を促進でき、より効率よくクリーニングを進行させることが可能である。
【0070】
さらに、 再生成ガスを効率よく排出ができるので、半導体製造装置等の対象機器に対して、再生成ガスの排出を待つための待ち時間を少なく抑えることができる。この結果、半導体等の生産効率の向上が見込めるようになる。
【0071】
また、ヒータの選択を最適化し、加熱の効率のより良いヒータを適用することで、副反応生成物のガス化に必要な昇温時間を短縮することができる。このため、半導体製造装置等の対象機器に対して、昇温を待つための待ち時間を少なく抑えることができる。この結果、半導体等の生産効率の向上が見込めるようになる。
【0072】
また、本実施形態では、ヒータ48としてカートリッジタイプのものが用いられている。このカートリッジタイプのヒータ(カートリッジヒータ)は、一般にターボ分子ポンプにおける温度制御のためのヒータとして多く用いられているものである。したがって、カートリッジタイプのヒータ48を用いることにより、機械構造上は既存のターボ分子ポンプの大部分を活用することができ、大きな設計変更を伴うことなくクリーニングのための加熱を行うことが可能となる。
【0073】
ここで、一般に、ターボ分子ポンプにおいては、カートリッジヒータ以外に、シースヒータも多く用いられている。このシースヒータを使用したターボ分子ポンプに関しても同様に、大きな設計変更を伴うことなくクリーニングのための加熱を行うことが可能である。
【0074】
さらに、カートリッジヒータやシースヒータに代えて、その他の一般的な種々のヒータを適用することが可能である。そして、一般的な種々のヒータとしては、電磁誘導ヒータとしてのIHヒータなどを例示できる。例えば、IHヒータを用いた場合には、相対的に短時間で所定の温度に到達させることができ、再ガス化やクリーニングに要する時間を一層短縮することが可能となる。
【0075】
また、 面状ヒータを採用した場合には、温度分布の均一化が可能となり、広範囲において一様な(均一な)加熱や再ガス化を行えるようになる。そして、副反応生成物が部分的に残ることを防ぎ、結果として、オーバーホール等の頻度を低下させることが可能となる。さらに、半導体等の生産効率を向上できるほか、オーバーホール等に要する分のコストの削減も可能となる。
【0076】
また、本実施形態では、ヒータを保持する昇温保持手段(ここでは加熱スペーサ部46を有するベーススペーサ42)の材質として、アルミニウム(アルミニウム合金)のように熱伝導率や、熱に対する強度(熱強度)の高い材質を採用しているため、効率のよい昇温や、再ガス化が可能である。
【0077】
また、通常動作モード、及び、クリーニング動作モードの両方で、ロータ翼20により排気を行えるようにしているため、ロータ翼20を両動作モードで共用できる。したがって、クリーニング用の排気機構を別途設けることは必須でなく、低コストでクリーニング用の排気を行うことが可能である。
【0078】
また、高温度の昇華物質で構成される副反応生成物のガス化が可能となるように、ターボ分子ポンプ10の構成部品を選択することで、ターボ分子ポンプ10の対応可能な温度が従来のものよりも高まることとなる。そして、例えば半導体製造装置のプロセスが途中から変更され、使用されるガスの種類が変化しても、ターボ分子ポンプ10を交換せずに済む状況が増え得る。この結果、ターボ分子ポンプに係るコストの削減が可能となる。
【0079】
ターボ分子ポンプ10の構成部品とその材質との組合せとしては、ロータ翼20をアルミニウム合金製とすることのほか、例えば、ロータ翼20をステンレス合金製とすることが可能である。また、ロータ翼20以外の部品をステンレス合金製とすることも可能である。さらに、例えば、高い熱伝導性、軽量化、加工の容易性等の特性が強く求められる構成部品の材質にはアルミニウム合金を用い、高い剛性や強度等の特性が強く求められる構成部品の材質にはステンレス合金を用いる、といったことが可能である。また、アルミニウム合金やステンレス合金のほかに、例えばチタン合金を採用することも可能である。
【0080】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能なものである。例えば、上述の実施形態では、ヒータ48や温度センサ51を加熱スペーサ部46に設けている。しかし、これに限らず、例えば、ヒータ48や温度センサ51を加熱スペーサ部46だけでなく水冷スペーサ部47や、或はベーススペーサ42以外の部位に設けることが可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
14 ケーシング本体(ケーシング)
16 モータ(回転駆動手段)
17 ターボ分子ポンプ機構部(ポンプ機構部)
28 ロータ
42 ベーススペーサ(昇温保持手段)
48 ヒータ(温度上昇手段)
63 コントローラ(制御手段)
64 記憶部(温度情報記憶手段、回転数情報記憶手段)
図1
図2
図3
図4