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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】エマルション組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20240219BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20240219BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240219BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240219BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/68 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20240219BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240219BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K9/107
A61K47/44
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/10
A61K8/67
A61K8/86
A61K8/73
A61K8/68
A61K8/44
A61Q19/00
A61K8/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019179692
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054746
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000135324
【氏名又は名称】株式会社ノエビア
(72)【発明者】
【氏名】丹後 弘隆
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019077(JP,A)
【文献】特開2003-006394(JP,A)
【文献】Intensive Serum AA,ID 4159853,Mintel GNPD[online],2016年7月,[検索日2023.05.26],URL,https://www.portal.mintel.com
【文献】Nano Lotion,ID 6218801,Mintel GNPD[online],2018年12月,[検索日2023.05.26],URL,https://www.portal.mintel.com
【文献】Dounyu Essence Special,ID 4543905,Mintel GNPD[online],2017年1月,[検索日2023.05.26],URL,https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L33/00
A61K9/00
Mintel GNPD
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~()を含有するエマルション組成物。
(A)ルミチン酸レチノール及びd-トコフェロー
(B)酸化エチレンが60モル付加した硬化ヒマシ油
(C)スフィンゴ糖脂質から選択される1種又は2種以上及びジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム
(D)グリセリン
(E)水
【請求項2】
平均粒子径が1~40nmのナノエマルション組成物である請求項1に記載のエマルション組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション組成物、特に平均粒子径が1~40nmのナノエマルション組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医薬、化粧品、食品などの分野において、エマルション製剤は非常によく用いられており、外観、使用性等により、より微細なエマルション組成物が求められている。しかしながら微細なエマルション組成物を得るためには、高圧乳化機、高せん断分散機、コロイドミル等といった機械的手法を要する(特許文献1)。機械的手法を要する製造工程は複雑であり、より簡易な製造方法を用いて微細なエマルションを得ることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-168702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粒子径が小さく、安定性が良好なエマルション組成物、特に平均粒子径が1~40nmのナノエマルション組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]下記(A)~(C)を含有するエマルション組成物。
(A)ビタミンA類及びその誘導体又はビタミンE類及びその誘導体から選択される1種又は2種以上
(B)酸化エチレンが40~100モル付加した硬化ヒマシ油
(C)スフィンゴ糖脂質及びジアシルグルタミン酸リシン塩から選択される1種又は2種以上
[2]平均粒子径が1~40nmのナノエマルション組成物である[1]に記載のエマルション組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、粒子径が小さく、安定性が良好なエマルション組成物、特に平均粒子径が1~40nmのナノエマルション組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<成分(A)>
本発明で用いるビタミンA類としては、レチノール、レチナール、レチノレイン酸及びこれらの誘導体等のレチール系(ビタミンA系)化合物、デヒドロレチノール、デヒドロレチナール、デヒドロレチノレイン酸およびこれらの誘導体等のデヒドロレチノール系(ビタミンA系)化合物、β-カロチン、α-カロチン、γ-カロチン及びこれらの誘導体等のプロビタミンA系化合物、及びこれらの化合物の立体異性体が包含される。これらビタミンA類の中でも、パルミチン酸レチノールを用いることが、エマルションの安定性の点から最も好ましい。
【0008】
本発明で用いるビタミンE類としては特に限定されず、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、d-トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL-α-トコフェロール、コハク酸DL-α-トコフェロール等が例示される。dl-α-トコフェロール、d-δ-トコフェロールを用いることが特に好ましい。
【0009】
本発明で用いるビタミンA類及びその誘導体、又はビタミンE類及びその誘導体は単体又は併用して用いることができる。本発明においてはビタミンA類及びその誘導体、ビタミンE類及びその誘導体を併用することが好ましい。
【0010】
本発明における成分(A)の配合量はエマルション組成物全量中、0.01~5質量%が好ましい。0.01質量%未満では、成分(A)の生理効果が発揮され得ず、5質量%を超えて配合すると、安定なエマルション組成物を得ることができない場合がある。
【0011】
<成分(B)>
本発明で用いる酸化エチレン付加硬化ヒマシ油としては、ヒマシ油の二重結合に水素を添加した硬化ヒマシ油に、酸化エチレンを40~100モル付加重合したものである。効果の点から酸化エチレンを40~80モル付加重合した硬化ヒマシ油を用いることが好ましい。
【0012】
本発明における成分(B)の配合量はエマルション組成物全量中、0.1~10質量%であり、0.1~5質量%が好ましい。
【0013】
<成分(C)>
本発明で用いるスフィンゴ糖脂質は、糖と長鎖脂肪酸とスフィンゴイド塩基を含む糖脂質であり、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ガラクトシルフィトセラミド、グルコシルフィトセラミドなどが含まれる。スフィンゴ糖脂質は、動物、微生物、藻類、又は植物から得ることができ、或いは合成することもできる。微生物由来のスフィンゴ糖脂質としては、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属又はスフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属の細菌によって生産されるスフィンゴ糖脂質を構成する糖の種類が変わる。微生物由来のスフィンゴ糖脂質の中では、スフィンゴモナス属の細菌によって生産されるスフィンゴ糖脂質がより好ましい。本発明の組成物では、種々の由来のスフィンゴ糖脂質の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、特に微生物由来のスフィンゴ糖脂質を用いることが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
式(1)におけるRは、ウロン酸、グルコサミン、ガラクトース、マンノースからなる群より選択される4個のヘキソースまたは1個のウロン酸で構成される糖部分である。4個のヘキソースについては、ウロン酸、グルコサミン、ガラクトースおよびマンノースの中から1~4個を組み合わせたものであれば、各ヘキソースの数や結合順序、結合形式、光学異性はとくに限定されない。Rの組み合わせの例として、ウロン酸を唯一のヘキソースとするもの、ウロン酸、グルコサミン、ガラクトースおよびマンノースで構成される4個のヘキソースからなるものを挙げることができる。Rの具体例として以下の構造A、Bを例示することができる。
【0016】
【化2】
【0017】
式(1)におけるRは、シクロアルキル基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基である。Rの炭素数はとくに限定されないが、15~25の範囲内であるのが好ましい。Rのアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は直鎖であっても分枝鎖であってもよく、また、水酸基などで置換されていてもいなくてもよい。とくに、アルキル基の鎖中にシクロプロピル基などのシクロアルキル基が存在していてもよい。アルケニル基の二重結合の位置や、アルキニル基の三重結合の位置はとくに限定されない。
【0018】
の具体例として以下の構造a~cを例示することができる。
【0019】
【化3】
【0020】
式(1)におけるRはアルキル基である。Rがとりうるアルキル基は直鎖であっても分枝鎖であってもよく、水酸基などで置換されていてもいなくてもよい。アルキル基の炭素数は、通常1~50の範囲内であり、12~25の範囲内であることが好ましい。Rの具体例として、炭素数12の直鎖アルキル基を例示することができる。
【0021】
本発明の組成物に使用することが好ましいスフィンゴ糖脂質群として、式(1)のRが構造A、Bで表される糖部分であって、Rが炭素数12の直鎖アルキル基であるスフィンゴ糖脂質群を挙げることができる。また、別の好ましいスフィンゴ糖脂質群として、式(1)のRが構造a、bまたはcで表され、Rが炭素数12の直鎖アルキル基であるスフィンゴ糖脂質群を挙げることができる。特に好ましいスフィンゴ糖脂質群として、式(1)のRが構造A、Bで表される糖部分であって、Rが構造a、bまたはcで表され、Rが炭素数12の直鎖アルキル基であるスフィンゴ糖脂質群を挙げることができる。
【0022】
スフィンゴ糖脂質は市販品を用いることもでき、バイオスフィンゴ(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)等がある。
【0023】
本発明で用いるジアシルグルタミン酸リシン塩は、L-リシン塩酸塩とN-脂肪酸アシル-L-グルタミン酸無水物を反応させて得られる塩であり、疎水基と親水基とを分子内に2個ずつ有する界面活性剤である。アシル基の炭素数が10~18であることが好ましく、12~18がより好ましい。また、これらの塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、トリエタノールアミン塩等の有機アミン塩、アルギニン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられ、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩を用いることがより好ましい。
【0024】
本発明におけるジアシルグルタミン酸リシン塩としてはジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジミリストイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジステアロイルグルタミン酸リシンナトリウム、ジリノレオイルグルタミン酸リシンナトリウム等が好ましく、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムがより好ましい。
【0025】
本発明において成分(C)の配合量は、エマルション組成物全量中、0.001~2質量%であり、0.005~1.5質量%が好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0026】
本発明のエマルション組成物の調製方法は、特に限定されない。通常の撹拌機、ホモミキサー等を用いて調製することができる。具体的には、成分(B)に、成分(A)、成分(C)、水性成分を順次投入し、撹拌・混合、均質化することによって調製することができる。本発明においては、高圧乳化機、高せん断分散機、コロイドミル等の特殊な機械的手法は必須ではない。
【0027】
本発明においてナノエマルションとは、エマルション粒子の平均粒子径が1~40nmであるものをいう。平均粒子径は、エマルション組成物を調製後室温で保管し、翌日測定した、動的光散乱法により得られる値を平均粒子径とする。
【0028】
本発明にて得られたエマルション組成物は、そのまま医薬品、医薬部外品、化粧料等に用いることができるが、油性成分、界面活性剤、保湿剤、顔料、紫外線吸収剤、抗炎症剤、香料、防菌防黴剤等の一般的な医薬品及び化粧料用原料や、皮膚細胞賦活剤、美白剤等の生理活性成分を含有させることもできる。また、本発明に係るエマルション組成物を他の医薬品、医薬部外品、化粧料等に添加することもできる。
【実施例
【0029】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。なお、配合量は、特に断りのない限り質量%である。
【0030】
表1及び表2に示した処方にて、ナノエマルション組成物を調製した。ナノエマルション組成物は、加熱融解した(1)に(2)~(5)を混合・溶解し、次に混合・溶解した(1)~(5)に(6)~(9)を順次投入し、均一になるまで混合・溶解した。
【0031】
下記の方法で粒子径の測定及び安定性の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0032】
安定性
ナノエマルション組成物を調製し、40℃で30日間保存後、試料の状態(白濁が生じているか)を目視にて確認し、安定性の評価を行った。なお、評価基準は以下のとおりである。
<判定基準>
○:白濁なし
×:白濁あり
【0033】
粒子径
ナノエマルション組成物を調製後、翌日に粒子径分布測定装置(ナノトラックUPA150:マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて粒子径を測定した。かかる平均粒子径は、動的光散乱法により得られる値を採用する。
【0034】
【表1】
注1:ニッコール HCO-60 日光ケミカルズ株式会社
注2:理研Aパルミテート 1000 理研ビタミン株式会社
注3:d-δ-トコフェロール タマ生化学株式会社
注4:ペリセア L-30 旭化成株式会社
注5:バイオスフィンゴ キッコーマンバイオケミファ株式会社
【0035】
【表2】
【0036】
表1及び表2に示すように、スフィンゴ糖脂質及びジアシルグルタミン酸リシン塩を1種又は2種以上含有する実施例は、比較例と比較して、粒子径が小さく、安定性も良好なナノエマルション組成物を得ることができることが分かった。