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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240219BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 303
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/165 101
B41J2/165 301
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019204057
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074979
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】祖家 健児
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020461(JP,A)
【文献】特開2015-000489(JP,A)
【文献】特開2002-248793(JP,A)
【文献】特開2013-123822(JP,A)
【文献】特開2003-326818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を第1方向に搬送する搬送ローラーと、
前記搬送ローラーを駆動するモーターと、
記録ヘッドを搭載して前記第1方向と交差する第2方向に移動可能なキャリッジと、
前記キャリッジへのアクセスを可能にする開放状態と、前記キャリッジを被覆する被覆状態と、に開閉するカバーと、
前記キャリッジが所定領域に進入すると前記モーターからの駆動力を他のユニットに伝達可能な駆動切替機構と、
前記カバーが前記開放状態のときに前記キャリッジが前記所定領域に進入することを規制する規制部材と、
を有することを特徴とする、記録装置。
【請求項2】
前記規制部材は、前記カバーが前記開放状態のときに前記キャリッジの移動経路に突出することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記所定領域は、前記記録ヘッドから前記記録媒体に記録を行う記録領域の外側であることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記規制部材は、前記カバーが前記被覆状態のとき前記キャリッジの移動経路から退避することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記カバーの開閉と連動するカム部と、
前記カム部と係合可能に設けられ前記カバーが前記被覆状態のときに前記規制部材を前記移動経路から退避する方向に動かすカムフォロワー部と、
を有することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記カバーの開閉状態を検知する検知手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記検知手段が前記カバーの前記開放状態を検知した場合に前記キャリッジの移動経路に対して前記規制部材を突出させる駆動部を有することを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記他のユニットは、給紙ユニットから前記搬送ローラーへ前記記録媒体を給紙する給紙ローラーであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記他のユニットは、前記記録ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンスユニットであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記メンテナンスユニットは、前記記録ヘッドの吐出面をワイピングするワイパを含むことを特徴とする請求項9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記メンテナンスユニットは、前記記録ヘッドの吐出面をキャッピングするキャップを含むことを特徴とする請求項9または10に記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドを備えて紙などの記録媒体に記録を行う記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙などの記録媒体に記録を行う記録装置では、記録媒体を搬送するための駆動機構を備えるとともに、記録媒体に対して記録を行う記録ヘッドをキャリッジに搭載し、記録媒体に対してキャリッジを相対的に移動させながら記録を実行する。そのような記録装置には、キャリッジの位置に応じて駆動機構からの駆動力を選択的に他の駆動先に伝達可能な駆動切替機構を備えるものがある。例えば特許文献1に記載された記録装置は、キャップやワイパー機構などを備えたサービスステーションと、記録ヘッドを搭載したキャリッジの位置によって選択的にサービスステーションへ駆動伝達が可能な駆動切替機構と、を備えている。この記録装置では、駆動切替機構を介して駆動が連結した後は、記録ヘッドの表面に対してキャップが昇降したり、記録ヘッドの表面を払拭するワイパー機構が動作する。特許文献2に開示された記録装置は、キャリッジを特定の位置に移動させることによってストッパーが押し込まれてスイングアーム規制部との係合が解除され、これによって選択的に駆動伝達先が変更されて給紙ユニットが動作するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第9539815号明細書
【文献】特開2010-37086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載された発明は、いずれも、キャリッジが特定の位置にあるときに駆動切替機構によって選択的に駆動伝達先を変えようとするものである。したがって、意図せずにキャリッジをその特定の位置に動かしてしまうと、意図しない部材に駆動力が伝達されることとなる。例えば、特許文献1に記載された記録装置では、記録装置の内部で紙詰まりが起きたときにユーザーが詰まった紙を取り除こうとして手でキャリッジを移動させた場合、キャリッジが駆動切替機構を作動させる位置まで移動することがある。その結果、サービスステーションが意図せずに駆動されることがある。同様に特許文献2に記載された記録装置でも、詰まった紙を除去するためなどにユーザーがキャリッジを移動させた場合、給紙ユニットに駆動伝達先が切り替わって給紙ユニットが意図せず駆動されることがある。
【0005】
本発明の目的は、紙詰まりなどの解消のためにユーザーがキャリッジを動かす場合に、駆動切替機構を動作させる位置までキャリッジが移動して駆動伝達先が意図せずに切り替わることを防ぐことができる記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録装置は、記録媒体を第1方向に搬送する搬送ローラーと、搬送ローラーを駆動するモーターと、記録ヘッドを搭載して第1方向と交差する第2方向に移動可能なキャリッジと、キャリッジへのアクセスを可能にする開放状態と、キャリッジを被覆する被覆状態と、に開閉するカバーと、キャリッジが所定領域に進入するとモーターからの駆動力を他のユニットに伝達可能な駆動切替機構と、カバーが開放状態のときにキャリッジが所定領域に進入することを規制する規制部材と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、記録装置のカバーが開いた状態では、駆動切替機構を動作させる位置までキャリッジが移動することが規制部材によって規制されるので、ユーザーによってキャリッジが動かされた場合であっても駆動伝達先が意図せずに切り替わることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明を適用可能な記録装置の一例を示す外観斜視図である。
図2】記録装置の内部を示す斜視図である。
図3】記録ヘッドを示す底面図である。
図4】キャップ部材を示す斜視図である。
図5】ワイパー部材を示す斜視図である。
図6】駆動切替機構の動作を説明する図である。
図7】第1の実施形態の記録装置での進入規制部材を示す模式断面図である。
図8】開閉カバーと進入規制部材との関係を示す図である。
図9】キャリッジと進入規制部材との関係を示す図である。
図10】直動カムを説明する側面図である。
図11】第2の実施形態の記録装置での進入規制部材を示す模式断面図である。
図12】第3の実施形態の記録装置での駆動切替機構を説明する図である。
図13】駆動切替機構と進入規制部材との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の記録装置を示す図であって、(A)は記録装置1の全体を示す斜視図であり、(B)は開閉カバー2を開けた状態での記録装置1を示す斜視図である。図示される記録装置1は、略直方体の形状を有して紙などの記録媒体に対して記録を行うインクジェット記録装置として構成されており、開閉カバー2は、記録装置1の本体上面に設けられている。開閉カバー2はその一端が記録装置1の本体に対してヒンジを介して接続しており、開閉カバー2を開けることで、記録装置1の本体内部にアクセスできるようになっている。すなわち、図1(A)は開閉カバー2が閉じることで記録装置1の本体内部が被覆された被覆状態を示す。記録装置1の前面すなわち正面には、記録装置1に対するユーザーからの操作を受け付けるとともに、記録装置1の状態をユーザーに対して知らせるための表示パネル3が設けられている。記録装置1の上面であって背面に接する位置には、記録装置1の内部に記録媒体を供給する第1の給紙口15が設けられている。また、記録装置1の正面の下部には、第2の給紙口16が形成されている。記録装置1によって記録がなされた記録媒体は、記録装置1の正面の下部であって第2の給紙口16の上方の位置に設けられた排紙口17から排出される。
【0010】
図1(B)に示されるように、記録装置1の本体内部では、図3を用いて後述する記録ヘッド41と記録ヘッド41に供給されるインクを収納したインクタンク10とがキャリッジ11に搭載されている。この例ではそれぞれインクの種類が異なる複数のインクタンク10がキャリッジ11に搭載されている。開閉カバー2を開放した状態では、開閉カバー2と記録装置1の本体部分との間に開口部12が形成され、ユーザーはこの開口部12を介してインクタンク10にアクセスすることができる。インクタンク10内のインク残量がゼロとなった際には、ユーザーは、開閉カバー2を開けて開口部12を介してキャリッジ11上のインクタンク10を交換することができる。また第1の給紙口15または第2の給紙口16から給送された記録媒体が記録装置1の内部で紙詰まりを起こした場合には、ユーザーは、開閉カバー2を開けることにより、開口部12を介してその紙詰まりを起こした記録媒体を除去することができる。
【0011】
図2は、開閉カバー2や記録装置1の外装を取り除くことにより、記録装置1の内部構成を示した斜視図である。記録装置1の高さ方向をZ方向とする。記録媒体に対して記録ヘッド41により記録を行う位置での記録媒体の搬送方向が図示矢印20で示されており、この方向をY方向とする。キャリッジ11はY方向とZ方向の両方に直交する方向に沿って図示矢印20で示すように往復移動すなわち走査可能であるので、この方向をX方向とする。キャリッジ11に搭載された記録ヘッド41(図3参照)は、X方向に走査しながら記録媒体に対して記録を行う。図1に示した第1の給紙口15に載置された記録媒体は、第1の給紙ユニット37により搬送ローラー対34の位置まで給送される。第2の給紙口16に載置された記録媒体は、第2の給紙ユニット38により搬送ローラー対34の位置まで給送される。搬送ローラー対34は、駆動側の搬送ローラー34aと従動側の搬送ローラー34bで構成されている。搬送ローラー対34の位置まで給送された記録媒体は、搬送ローラー34a,34bに挟持された状態で支持部材(プラテン)30の上に搬送される。この状態で記録ヘッド41からインクを吐出させながらキャリッジ11がX方向に沿って走査することにより、記録媒体に画像が形成される。
【0012】
駆動側の搬送ローラー34aには、不図示のモーターから駆動力を伝達可能な入力ギア39が接続しており、入力ギア39を介して伝達された駆動力により搬送ローラー対34は回転し記録媒体を搬送する。記録装置1の本体の内部には、X方向に延びるようにキャリッジレール35が設けられるとともに、X方向に沿って配置されたベルト駆動機構(不図示)が設けられている。キャリッジ11は、その挟持部42(図3参照)によってキャリッジレール35を挟持するともに、ベルト駆動機構に接続しており、それにより、X方向に走査可能となっている。この実施形態では、搬送ローラー対34の駆動にギア駆動機構、キャリッジ11のX方向への駆動にベルト駆動機構を用いているが、それぞれ、ギア駆動機構やベルト駆動機構以外の駆動機構を用いてもよい。
【0013】
キャリッジレール35に沿ってX方向に移動し走査するときにキャリッジ11が移動できる範囲は、記録媒体の幅に対応した印字領域50と、印字領域50を挟む一方の側である駆動切替領域(所定領域)51と、印字領域50を挟む他方の側の領域53と、に分けられる。図示したものでは、キャリッジ11の移動範囲において+X方向の下流側が駆動切替領域51となっている。すなわち、駆動切替領域51と領域53は、印字領域50の外側に配される。印字領域50は、この領域をキャリッジ11が走査しつつ記録ヘッド41からインクを吐出することにより記録媒体に対して記録が行われる領域である。さらに、記録装置1の本体において、+X方向の下流側には、記録ヘッド41のインク吐出性能を維持し回復するための機構であるメンテナンスユニット31が設けられている。メンテナンスユニット31は、キャップ部材32とワイパー部材33とを備えている。メンテナンスユニット31は、キャップ部材32を記録ヘッド41に被せた上でキャップ部材32内を減圧して記録ヘッド41からインクを吸引する動作と、ワイパー部材33により記録ヘッド41のインク吐出面を拭き取る動作とを実施可能である。インク吐出面を拭き取る動作はワイピングとも呼ばれる。メンテナンスユニット31は駆動力を伝達されて動作するが、キャリッジ11が印字領域50にあって記録動作を行っているときはメンテナンスユニット31への駆動力の伝達が切断される。したがって、キャリッジ11が印字領域50にあるときは、メンテナンスユニット31は動作しない。これに対しキャリッジ11が駆動切替領域51へ移動することにより、後述するように、メンテナンスユニット31に対して駆動力が伝達可能となる。
【0014】
図3はキャリッジ11に搭載された記録ヘッド41を-Z方向から見た底面図である。また図4はキャップ部材32を示す斜視図であり、図5はワイパー部材33を示す斜視図である。記録ヘッド41は、インクジェット記録ヘッドとして構成されたものであって、そのインクを吐出するインク吐出面が-Z方向を向き、記録媒体に対してインクを吐出できるようにキャリッジ11に搭載される。図示した例では、記録ヘッド41には、インクを吐出する複数の吐出口がY方向に1列に配列した第1の吐出口列40aと、複数の吐出口がY方向に配列したものがX方向に複数列配置している第2の吐出口列40bとが設けられている。キャップ部材32は、第1の吐出口列40a及び第2の吐出口列40bに対応した形状をそれぞれ有し、第1の吐出口列40aを被覆可能な第1のキャップ32aと第2の吐出口列40bを被覆可能な第2のキャップ32bとを一体のものとしたものである。そしてキャップ部材32は、不図示の昇降機構によってZ方向に昇降可能となっており、待機時には第1のキャップ32aと第2のキャップ32bがキャリッジ11と干渉しないように-Z方向に下がった位置にある。これに対し記録ヘッド41を保護するときや記録ヘッド41からインクを吸引するときには、インク吐出面とキャップ部材32とが対向するようにX方向にキャリッジ11を移動させ、次に、キャップ部材32を+Z方向に移動させる。その結果、キャップ部材32の第1のキャップ32a及び第2のキャップ32bが上昇して記録ヘッド41のインク吐出面に当接し、第1の吐出口列40a及び第2の吐出口列40bをそれぞれ封止する。記録ヘッド41内のインクを吸引するときは、不図示のポンプにより第1のキャップ32a及び第2のキャップ32b内を減圧すればよい。
【0015】
ワイパー部材33は、不図示の移動機構によってY方向に移動可能な部材であって、第1の吐出口列40a及び第2の吐出口列40bにそれぞれ対応する第1のワイパー33a及び第2のワイパー33bを備えている。第1のワイパー33a及び第2のワイパー33bは、いずれもゴムなどの可撓性を有する材料である。第1のワイパー33aのX方向の長さは、第1の吐出口列40aとその周囲とを拭うことができる長さに設定されている。また、第2のワイパー33bのX方向の長さは、第2の吐出口列40bとその周囲とを拭うことができる長さに設定されている。ワイパー部材33はさらに、記録ヘッド41のインク吐出面の全体を拭くことができ、ゴムなどの可撓性を有する材料で形成された第3のワイパー33cも備える。ワイパー部材33は、待機時には、図2に示すように、キャリッジ11と干渉しないようにその移動範囲の中でY方向の上流側に位置する。そして、記録ヘッド41のインク吐出面の拭き取りを行うときは、インク吐出面とワイパー部材33とが対向するようにX方向にキャリッジ11を移動させ、その後、ワイパー部材33を+Y方向に移動させる。その結果、第3のワイパー33cがインク吐出面に当接しながら+Y方向に移動することにより、インク吐出面に付着しているインクが拭き取られる。また、第1のワイパー33a及び第2のワイパー33bがそれぞれ第1の吐出口列40a及び第2の吐出口列40bに当接しながら+Y方向に移動することとなり、各吐出口列に付着しているインクなどが拭き取られる。
【0016】
キャップ部材32及びワイパー部材33を備える上述したメンテナンスユニット31は、キャリッジ11が駆動切替領域51に位置するときに、駆動切替機構60を介して駆動力が伝達され、伝達された駆動力によって動作する。以下、駆動切替機構60について説明する。図6は、駆動切替機構60を説明する図であり、記録装置1の背面側(-Y方向側)から見た図である。図6(A)はキャリッジ11が印字領域50の+X方向下流側における端部に位置するときの状態を示しており、図6(B)はキャリッジ11がさらに+X方向に移動して駆動切替領域51にあるときの状態を示している。メンテナンスユニット31は直動カム61を備えており、直動カム61がY方向に移動することにより不図示の駆動機構によってキャップ部材32の昇降やワイパー部材33によるワイピング動作が行われるように構成されている。駆動側の搬送ローラー34aには出力ギア69が取り付けられており、不図示のモーターによって搬送ローラー34aが駆動されているときは、出力ギア69も搬送ローラー34aとともに回転する。このように出力ギア69まで伝達された駆動力は、X方向に移動可能な可動ギア63まで伝達されている。すなわち、可動ギア63は、X方向におけるその移動可能範囲内のどこにあるときであっても、出力ギア69から駆動力が伝達されている連結ギア69aと噛み合うように構成されている。この可動ギア63は、+X方向に付勢されているともに、駆動切替部64の一端であるレバー64bの先端によって押圧されると-X方向に移動するように構成されている。駆動切替部64は、レバー64bとは反対側の他端に当接部64cを備えており、当接部64cが+X方向に変位することでレバー64bの先端が-X方向に変位する。また、可動ギア63の回転軸の延長上に回転軸を有する待機ギア62も設けられている。待機ギア62、可動ギア63、駆動切替部64、出力ギア69及び連結ギア69aによって、クラッチ構造を有する駆動切替機構60が構成されている。
【0017】
キャリッジ11が印字領域50にあるときは、図6(A)にあるようにキャリッジ11の当接部65と駆動切替部64の当接部64cとが当接することはなく、レバー64bも可動ギア63を押圧しない。これに対し、キャリッジ11が駆動切替領域51に移動してくると、図6(B)に示すようにキャリッジ11の当接部65が駆動切替部64の当接部64cに当接してこれを押圧し、その結果、レバー64bが可動ギア63を押圧する。可動ギア63は-X方向に移動して待機ギア62と係合し、待機ギア62は、可動ギア63と一緒に回転を開始する。待機ギア62は直動カム61と連結しているので、不図示のモーターから駆動側の搬送ローラー34aに伝達された駆動力が直動カム61まで伝達することととなり、メンテナンスユニット31が駆動可能となる。
【0018】
上述したように、本実施形態の記録装置1では、キャリッジ11が駆動切替領域51まで進入することにより、駆動切替機構60を介してメンテナンスユニット31が駆動可能とされる。しかしながら、メンテナンスユニット31を動作させることを意図しない場合であっても、キャリッジ11が駆動切替領域51まで移動することによって、メンテナンスユニット31が動作してしまうことがある。例えば、記録媒体が記録装置1の内部で紙詰まりを起こしたときに、詰まった記録媒体を除去しようとしてユーザーが手でキャリッジ11を駆動切替領域51まで移動させてしまい、その結果、メンテナンスユニット31が動作してしまうことがある。そこで本実施形態の記録装置1では、メンテナンスユニット31の動作を意図しないときにキャリッジ11が駆動切替領域51に進入することを防止するために、図7に示す進入規制部材100が設けられている。以下、進入規制部材100について説明する。図7は記録装置1における進入規制部材100とその周辺を示す図である。図7において、(A)は、進入規制部材100の突出部101がキャリッジ11の移動経路に対して突出している状態を示し、(B)は、突出部101がキャリッジ11の移動経路から後退(退避)している状態を示している。
【0019】
上述したように、キャリッジ11は、その挟持部42によってキャリッジレール35を挟持しながらX方向に往復移動可能となっている。キャリッジレール35は、断面がC字形状となっており、キャリッジ11は、その挟持部42から-Y方向にキャリッジレール35の中まで延びる延設部分(11a)を備えている。すなわち、キャリッジ11の延設部分11aは、Y方向においてキャリッジレールとオーバーラップするように-Y方向に延びる。進入規制部材100は、キャリッジレール35に接して設けられるとともに、Y方向に移動可能な突出部101を備えている。突出部101は、ばねなどの付勢部材103によって+Y方向に付勢されており、図7(A)に示すように、キャリッジレール35の内部に突出する。この状態を突出部101の突出状態とも言い、突出状態では、ユーザーがキャリッジ11を+X方向(図7では手前方向)に駆動切替領域51まで移動させようとすると、キャリッジ11の延設部分11aが突出部101と衝突する。その結果、ユーザーはキャリッジ11をさらに+X方向に移動させることができないため、キャリッジ11の駆動切替領域51への移動が防止される。また、突出部101にはカムフォロワー部102が接続している。カム部110に設けられた切欠き部に係合可能なカムフォロワー部102を-Y方向に動かすことで突出部101も-Y方向に動き、これによって、図7(B)に示すように、突出部101はキャリッジレール35内から退避した退避状態となる。突出部101がキャリッジレール35内に突出しない状態、すなわちキャリッジ11の移動経路から退避(後退)している状態では、キャリッジ11は駆動切替領域51まで移動して駆動切替領域51に進入することが可能である。
【0020】
進入規制部材100の突出部101が突出状態となるか、或いは退避状態となるかは、カムフォロワー部102の位置によって決まる。そこで本実施形態では、記録装置1の開閉カバー2の開閉に応じてカムフォロワー部102の位置が変化するようにし、これにより、ユーザーが開閉カバー2を開けたときに意図せずにキャリッジ11が駆動切替領域51に移動することを防止する。図8(A)~(C)には、ユーザーが開閉カバー2を開閉したときの進入規制部材100の動作を表している。開閉カバー2には、カムフォロワー部102を開閉カバー2の開閉に連動させるためのカム部110が設けられている。カム部110は、開閉カバー2と一緒に、開閉カバー2を記録装置1の本体に取り付ける軸の周りを回動可能である。開閉カバー2が閉じられている状態では、図8(A)に示すように、カム部110に設けられた切欠き部にカムフォロワー部102が係合し、それにより、カムフォロワー部102は進入規制部材100の突出部101を後退させて退避状態とする。このとき、キャリッジレール35内には突出部101が突出していないので、記録装置1における通常の制御シーケンスに従って、キャリッジ11は駆動切替領域51に進入することが可能である。
【0021】
開閉カバー2を開くと、図8に示すようにカム部110も開閉カバー2とともに回動する。カム部110は、開閉カバー2が開いたときにカムフォロワー部102が+Y方向に移動可能なように構成されている。このため、付勢部材103によって付勢されている突出部101は、開閉カバー2が開くにつれて図8(B)に示すようにキャリッジレール35の内部に突出して突出状態となる。この状態で開閉カバー2を閉じた場合、カム部110がカムフォロワー部102を-Y方向に動かし、その結果、図8(A)に示す状態、すなわち進入規制部材100の突出部101が退避状態に戻る。すなわち、キャリッジ11が印字領域50にある状態で開閉カバー2が開けられれば、進入規制部材100の突出部101が突出していることにより、キャリッジ11が駆動切替領域51に進入することが阻止される。また、開閉カバー2を閉じられれば、キャリッジ11が駆動切替領域51に進入可能な状態となる。
【0022】
図8(C)は、既にキャリッジ11が駆動切替領域51に存在するときに開閉カバー2を開けた状態を示している。例えば記録装置1に対して記録指令が出力されていない状態では記録装置1は待機状態となるが、待機状態では、キャリッジ11を駆動切替領域51に移動させて保護のためにキャップ部材32が記録ヘッド41を覆うように制御がなされる。このような待機状態で開閉カバー2を開けた場合、最初は開閉カバー2を開くに連れてカムフォロワー部102はカム部110に沿って移動して突出部101も+Y方向に移動するが、図8(B)に示す突出状態になる前に突出部101がキャリッジ11に当接する。さらに開閉カバー2を開くとカムフォロワー部102はカム部110から離れ、これにより、キャリッジ11が駆動切替領域51に既に位置している状態でもユーザーは開閉カバー2を開閉することが可能になる。以上の説明では、進入規制部材100の突出部101が付勢される方向がY方向であるとしたが、突出部101が付勢される方向は、キャリッジ11の移動方向と直交または交差する方向であればよく、例えばZ方向であってもよい。またキャリッジ11の移動方向自体も、記録媒体の搬送方向に交差する方向であればよい。
【0023】
図9は、駆動切替機構60と進入規制部材100との周辺を+Z方向から見た断面模式図であり、(A)は、キャリッジ11が印字領域50から駆動切替領域51に進入した直後の状態を表しており、(B)は、突出部101が突出状態の様子を表している。図9(A)に示すように、キャリッジ11が印字領域50から駆動切替領域51に進入すると、キャリッジ11の当接部65が駆動切替部64の当接部64cに当接する。この状態からキャリッジ11が図示矢印で示すようにさらに-X方向へと移動することにより、図6を用いて説明したようにメンテナンスユニット31が駆動可能となる。進入規制部材100の突出部101がキャリッジレール35内に突出した突出状態では、図9(B)に示すように、駆動切替領域51に入る前の位置で突出部101がキャリッジ11に衝突するので、キャリッジ11は駆動切替領域51に進入することができない。したがって、キャリッジ11の当接部65が駆動切替部64の当接部64cに当接しないため、メンテナンスユニット31が駆動されることはない。
【0024】
図10はメンテナンスユニット31に備えられる直動カム61の動作を説明する側面図であり、(A)は直動カム61の前面突き当て状態を示し、(B)は直動カム61の背面突き当て状態を示している。直動カム61は、記録装置1内においてY方向の全域にわたって移動可能であり、それによりカム面の長さを最大化している。また、直動カム61のY方向の位置は、前面突き当て部70または背面突き当て部71のいずれかと突き当たる突き当て位置からの駆動量で管理されており、これにより、センサーを用いずとも精度よく直動カム61を停止することができる。搬送ローラー対34と直動カム61とが機械的に連結している状態において、紙詰まりを解消するためにユーザーが記録媒体を引き抜く際に搬送ローラー対34が伴って回転することがある。この搬送ローラー対34の回転によって、直動カム61は前面突き当て部70、あるいは背面突き当て部71に突き当たることになる。直動カム61は前面突き当て部70、あるいは背面突き当て部71に突き当たるとそれ以上は動けないため、搬送ローラー対34もそれ以上の回転が不能となる。この状態でユーザーが無理に記録媒体を引き抜くと記録媒体が破れ、紙片などの残片が記録装置1内に残存する可能性がある。これに対して本実施形態では、キャリッジ11が駆動切替領域51に移動するのを抑制するので搬送ローラー対34と直動カム61が機械的に連結することがなく、その結果、記録媒体を引き抜いても直動カム61は動かないので、残片の残留を防止できる。
【0025】
本実施形態の記録装置1では、その構成に応じて、キャリッジ11の移動範囲内のどこを駆動切替領域51に設定するかを適宜に選択することができる。しかしながら、開閉カバー2の開閉動作に伴い進入規制部材100の突出部101を突出及び後退させることができるので、本実施形態のように印字領域50の範囲外に駆動切替領域51を設定することが好ましい。また、本実施形態のような構成は、駆動切替領域51の全域にわたってキャリッジ11の進入を防止できる点でも好ましい。なお、以上の説明では、記録装置1の本体の+X方向の端部側に駆動切替領域51があるものとしているが、-X方向の端部側(すなわち図2における領域53)に駆動切替領域51を設定するようにしてもよい。
【0026】
本実施形態の記録装置1では、搬送ローラー対34が記録媒体を挟持した状態で紙詰まりが起き、ユーザーが開閉カバー2を開け開口部12から紙詰まりを除去しようとした場合に、開閉カバー2を開けた時点で進入規制部材100の突出部101が突出する。このため、印字領域50にあるキャリッジ11をユーザーが駆動切替領域51の方へ寄せたとしても、キャリッジ11が駆動切替領域51に進入することを防止できる。紙詰まりを解消するために詰まっている記録媒体をユーザーが引き出そうとする場合、記録媒体とともに搬送ローラー対34も回転する。ここで搬送ローラー対34とメンテナンスユニット31などの別の機構とが機械的に連結していると当該別の機構も動作することになるが、本実施形態では、キャリッジ11が駆動切替領域51に進入できないので、当該別の機構も動作することもない。
【0027】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の記録装置を説明する。第1の実施形態の記録装置では、付勢部材103とカム部110とによって進入規制部材100の突出部101の突出と後退とを行わせていたが、第2の実施形態では駆動力を伝達して突出及び後退を実行する。なお、記録装置1の全体の構成は第1の実施形態と同様であるので、以下では、第1の実施形態の記録装置1との相違点のみを説明する。
【0028】
図11は、第2の実施形態における進入規制部材100を説明する図である。第2の実施形態においても進入規制部材100は、キャリッジレール35の内部に突出可能な突出部101を備えている。第1の実施形態での進入規制部材100との違いは、カムフォロワー部102の代わりに、突出部101をY方向に動かすラック部150と、ラック部150と噛み合うトルクリミットギア151と、駆動発生部152とが設けられていることである。駆動発生部152は、トルクリミットギア151を介してラック部150を駆動するものであり、駆動発生部152を駆動することによって進入規制部材100の突出部101はY方向に移動可能となっている。開閉カバー2の開閉状態を検知する不図示の検知手段が設けられており、検知手段が開閉カバー2の開放状態を検知した場合に駆動発生部152がトルクリミットギア151を介してラック部150を駆動する。これによって突出部101がキャリッジレール35内に突出する。開閉カバー2が閉じられたことを検知手段が検知した場合には、駆動発生部152はトルクリミットギア151を逆方向に回転させて突出部101を後退させる。さらに、開閉カバー2が開放状態となったまま所定時間が経過したときに、駆動発生部152によって突出部101を後退させ、キャップ部材32によってインク吐出面を覆うためにキャリッジ11を駆動切替領域51に移動させる制御を行ってもよい。このような制御を行うことにより、記録ヘッド41に設けられた第1の吐出口列40a及び第2の吐出口列40bが長時間大気に曝されることによる目詰まりを防止できる。
【0029】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態の記録装置について説明する。第3の実施形態は、第1の実施形態の記録装置とは異なる駆動切替機構と駆動の連結先とを有する記録装置に対して本発明を適用したものである。第3の実施形態の記録装置の全体構成と進入規制部材100の構成は第1の実施形態の場合と同様であり、それらについての説明は省略する。
【0030】
図12は、第3の実施形態の記録装置における駆動切替機構と給紙ユニットとを示す断面図であり、(A)は、記録装置が記録指令を待機している状態を示しており、(B)は、キャリッジ211の当接部265が駆動切替部264に当接した状態を示している。給紙ユニット237にセットされた記録媒体は、給紙ローラーギア301の同軸上に設けられた給紙ローラー(不図示)によって、出力ギア240の同軸上にある搬送ローラー(不図示)まで給紙されるようになっている。記録ヘッド(不図示)はキャリッジ211に搭載される。キャリッジ211はX方向すなわち図において紙面に垂直に往復移動できるように構成されている。搬送ローラーによってキャリッジ211の直下へ搬送された記録媒体に対し、記録ヘッドによって記録が行われる。給紙ローラーギア301は、カムギア300と連結しており、カムギア300が一周回転することで、給紙ユニット237からの1枚の記録媒体の分離及び給紙の動作と、次の記録媒体の給紙のための準備動作とが行われる。カムギア300の外周の一部には欠け歯部305が形成されている。欠け歯部305が設けられているので、給紙ローラーが記録媒体を搬送ローラーまで給紙した後に駆動が切断されることとなる、これにより、搬送ローラーが記録のために記録媒体を搬送する際に、給紙ローラーが負荷なく連れ回ることになる。不図示のモーターによって出力ギア240は駆動されており、出力ギア240からカムギア300に駆動力を伝達するために、太陽ギア310と遊星ギア311が設けられている。太陽ギア310は常時、出力ギア240に噛み合っている。
【0031】
出力ギア240から伝達される駆動力は太陽ギア310を介して遊星ギア311まで伝達される。記録装置が上位装置からの記録指令を待機している状態では、図12(A)に示すように、遊星ギア311の公転は駆動切替部264のロック部312によって規制されており、遊星ギア311は、太陽ギア310以外とはつながっていない。駆動切替部264は、支点264aの周りを回転するレバー状の部材であり、駆動切替部264において支点264aを挟む一方の側が当接部264bであり他方の側がロック部312となっている。太陽ギア310、遊星ギア311及び駆動切替部264により駆動切替機構が構成されている。図12(B)は、キャリッジ211が駆動切替領域に移動し、キャリッジ211の当接部265が駆動切替部264の当接部264bに当接した状態を示している。キャリッジ211の当接部265が駆動切替部264の当接部264bに当接して押圧することにより、駆動切替部264が図示反時計回りに回転し、これにより、ロック部312による遊星ギア311の公転の規制が解除される。その結果、遊星ギア311はカムギア300に噛み合う位置まで移動できてカムギア300と接続し、出力ギア240から伝達された駆動力が遊星ギア311を介してカムギア300まで伝達され、カムギア300が回転する。カムギア300が回転することで給紙ローラーギア301も再び回転し、給紙が開始されることとなる。
【0032】
図13は、不図示の開閉カバーを開けた状態での第3の実施形態の記録装置における駆動切替機構265と進入規制部材100との周辺を上方から見た断面模式図である。進入規制部材100は、上述の各実施形態と同様に、キャリッジ211が移動する経路に対して、付勢部材103によって付勢された突出部101を開閉カバーの開閉に応じて突出させるものである。図13に示されるように、突出部101がキャリッジ211の移動経路内に突出しているときは、キャリッジ211の当接部265が駆動切替機構264の当接部264bに対して当接することはない。したがって、カムギア300まで駆動力が伝達されることが防止される。この状態では、図13には不図示の搬送ローラー対に記録媒体が挟持された状態で紙詰まりを起こした際にユーザーが紙詰まりを除去しようとした場合でも、キャリッジ211が駆動切替領域に寄せられることを防止できる。そのため、紙詰まりを解消するためユーザーが記録媒体を引っ張ったときに、記録媒体とともに搬送ローラー対も連れ回って給紙ユニット237にセットされていた次の記録媒体が意図せず給紙されることを防止できる。
【符号の説明】
【0033】
1 記録装置
2 開閉カバー
11,211 キャリッジ
41 記録ヘッド
35 キャリッジレール
100 進入規制部材
101 突出部
103 付勢部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13