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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】光電変換装置、撮像システム及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H04N 25/40 20230101AFI20240219BHJP
   H04N 25/772 20230101ALI20240219BHJP
   H04N 25/60 20230101ALI20240219BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240219BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
H04N25/40
H04N25/772
H04N25/60
H01L31/10 G
H01L31/10 B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019217293
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2020099046
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2018236388
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】乾 文洋
(72)【発明者】
【氏名】岩田 旬史
【審査官】三沢 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044923(JP,A)
【文献】特開2018-157387(JP,A)
【文献】特開2014-077658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0209846(US,A1)
【文献】特開平05-064083(JP,A)
【文献】特開2018-064086(JP,A)
【文献】特開平11-046010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 25/40
H04N 25/772
H04N 25/60
H01L 31/10
H01L 31/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアバランシェダイオード各々が含む複数の画素と、
前記複数の画素の前記複数のアバランシェダイオードの各々を、アバランシェ増倍が生じうる動作状態又はアバランシェ増倍が生じない非動作状態に制御する選択部と、
を有し、
前記複数の画素の各々の前記複数のアバランシェダイオードは、第1のアバランシェダイオード及び第2のアバランシェダイオードを有し、
前記選択部は、前記複数の画素の各々を、前記第1群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第2群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第1の状態及び、前記第2群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第1群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第2の状態、のいずれかに制御し、
前記複数の画素の各々は、前記第1の状態と前記第2の状態に制御された場合に、ともに前記動作状態にあるアバランシェダイオードを有しない
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記複数の画素の各々において、前記第1群のアバランシェダイオードの数と前記第2群のアバランシェダイオードの数とが同じである
ことを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードのいずれか一方においてアバランシェ増倍が生じるように、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードの少なくとも一方に供給されるバイアス電圧を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記選択部は、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードの一方に逆バイアス電圧が供給されるように前記バイアス電圧を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記選択部は、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードの他方をフローティング又はゼロバイアスとするように前記バイアス電圧を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の光電変換装置。
【請求項6】
前記画素は、素子分離領域により囲われたウェル領域を含み、
前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードは、前記ウェル領域に形成される
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項7】
前記選択部は、選択回路及びクエンチ回路を含み、
前記選択回路は、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2群のアバランシェダイオードの少なくとも一方と、前記クエンチ回路との間に配されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項8】
前記選択部は、可変抵抗素子を含み、
前記可変抵抗素子は、前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードの少なくとも一方と、所定の電位を与える電位線との間に配されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項9】
前記第1のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が生じた場合の出力値を記憶する第1のフレームメモリと、
前記第2のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が生じた場合の出力値を記憶する第2のフレームメモリと、
を更に有し、
前記第1のフレームメモリに記憶されている値と前記第2のフレームメモリに記憶されている値のうちの小さい方を前記画素の出力値として出力する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項10】
前記第1のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が生じた場合の出力値を記憶する第1のフレームメモリと、
前記第2のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が生じた場合の出力値を記憶する第2のフレームメモリと、
前記第1のフレームメモリに記憶されている値と前記第2のフレームメモリに記憶されている値のうちの小さい方を記憶する第3のフレームメモリと、
を更に有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項11】
前記第1のアバランシェダイオード及び前記第2のアバランシェダイオードのうちのいずれかの出力値が所定値を超えているかを示す制御信号を出力する判定部を更に有し、
前記選択部は、前記判定部の出力に基づいてアバランシェ増倍が生じるアバランシェダイオードを選択するように制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項12】
前記判定部は、前記画素に光が入射されない条件で取得された前記第1のアバランシェダイオード又は前記第2のアバランシェダイオードの出力値に基づいて、前記制御信号を生成する
ことを特徴とする請求項11に記載の光電変換装置。
【請求項13】
前記光電変換装置は、複数のマイクロレンズを有し、
前記複数の画素に対し前記複数のマイクロレンズが、1つの画素に対し、1つのマイクロレンズが対応するように配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項14】
複数のアバランシェダイオード各々が含む複数の画素と、
前記複数の画素の前記複数のアバランシェダイオードの各々を、アバランシェ増倍が生じうる動作状態又はアバランシェ増倍が生じない非動作状態に制御する選択部と、
を有し、
前記複数の画素の各々の前記複数のアバランシェダイオードは、第1のアバランシェダイオード及び第2のアバランシェダイオードを有し、
前記選択部は、前記複数の画素の各々について、前記第1群のアバランシェダイオードから出力された信号に含まれるノイズが所定値を超えている場合に、前記第1群のアバランシェダイオードを前記非動作状態に制御し、前記第2群のアバランシェダイオードを前記動作状態に制御し、前記第2群のアバランシェダイオードから出力された信号に含まれるノイズが所定値を超えている場合には、前記第2群のアバランシェダイオードを前記非動作状態に制御し、前記第1群のアバランシェダイオードを前記動作状態に制御する、
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項15】
複数のアバランシェダイオード各々が含む複数の画素と、
前記複数の画素の前記複数のアバランシェダイオードの各々を、アバランシェ増倍が生じうる動作状態又はアバランシェ増倍が生じない非動作状態に制御する選択部と、
を有し、
前記複数の画素の各々の前記複数のアバランシェダイオードは、第1のアバランシェダイオード及び第2のアバランシェダイオードを有し、
前記選択部は、前記複数の画素の各々を、前記第1群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第2群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第1の状態及び、前記第2群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第1群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第2の状態、のいずれかに制御し、
前記複数の画素の各々は、前記第1の状態と前記第2の状態に制御された場合に、ともに前記動作状態にあるアバランシェダイオードの数が等しい
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項16】
前記選択部は、前記複数のアバランシェダイオードによって共有されるクエンチ回路と、前記複数のアバランシェダイオードと前記クエンチ回路との間に配された選択回路と、を有する
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の光電変換装置。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置から出力される信号を処理する信号処理部と
を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項18】
移動体であって、
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置からの信号に基づく視差画像から、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段と、
前記距離情報に基づいて前記移動体を制御する制御手段と
を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置、撮像システム及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
アバランシェ(電子なだれ)増倍を利用することにより、単一光子レベルの微弱光を検出することが可能な光検出装置として単一光子アバランシェダイオード(SPAD:Single Photon Avalanche Diode)が知られている。特許文献1には、光検出部を構成する半導体領域の強電界領域において、単一光子に起因する光電荷がアバランシェ増倍を起こすSPADが開示されている。
【0003】
また、特許文献1のSPADは、半導体基板の表面の一部に高い不純物濃度の半導体領域が配される構成となっており、この半導体領域に強電界を生じさせるとともに入射光により生じた光電荷が流れ込むようにポテンシャルが調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-64086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アバランシェダイオードを用いた光電変換装置において、強電界領域の近傍にキャリア捕獲準位が存在することによりノイズ電流が生じる場合がある。このノイズ電流は信号品質の劣化の原因となり得る。
【0006】
そこで本発明は、ノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、複数のアバランシェダイオード各々が含む複数の画素と、前記複数の画素の前記複数のアバランシェダイオードの各々を、アバランシェ増倍が生じうる動作状態又はアバランシェ増倍が生じない非動作状態に制御する選択部と、を有し、前記複数の画素の各々の前記複数のアバランシェダイオードは、第1のアバランシェダイオード及び第2のアバランシェダイオードを有し、前記選択部は、前記複数の画素の各々を、前記第1群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第2群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第1の状態及び、前記第2群のアバランシェダイオードが前記動作状態であり前記第1群のアバランシェダイオードが前記非動作状態である第2の状態、のいずれかに制御し、前記複数の画素の各々は、前記第1の状態と前記第2の状態に制御された場合に、ともに前記動作状態にあるアバランシェダイオードを有しない光電変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るアバランシェダイオードの断面模式図である。
図2】第1実施形態に係るアバランシェダイオードの平面模式図である。
図3】第1実施形態に係るアバランシェダイオードのポテンシャル図である。
図4】第2実施形態に係る光電変換装置のブロック図である。
図5】第2実施形態に係る画素のブロック図である。
図6】第2実施形態に係る光電変換装置の制御及び信号処理方法を説明するフローチャートである。
図7】ノイズ電流の少ない画像信号が得られるメカニズムをより詳細に説明する模式図である。
図8】第2実施形態におけるノイズ電流の累積相対度数を示すグラフである。
図9】第3実施形態に係る光電変換装置の制御及び信号処理方法を説明するフローチャートである。
図10】第3実施形態に係る画素のブロック図である。
図11】第3実施形態に係る出力判定回路のブロック図である。
図12】第4実施形態に係る画素のブロック図である。
図13】第4実施形態に係る可変抵抗回路の等価回路図である。
図14】第5実施形態に係る撮像システムのブロック図である。
図15】第6実施形態に係る撮像システム及び移動体のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1乃至図3を用いて第1実施形態に係る光電変換装置について説明する。本実施形態の光電変換装置は、1又は複数の画素を有しており、各画素は、複数のアバランシェダイオードを含む。アバランシェダイオードで生じる電荷対のうち信号電荷として用いられる電荷の導電型を第1導電型と呼ぶ。また、第1導電型と反対の導電型を第2導電型と呼ぶ。
【0011】
図1は、本実施形態に係るアバランシェダイオードの断面模式図である。本実施形態のアバランシェダイオードは、半導体基板15に配される。半導体基板15は、第1面と、第1面に対向する第2面とを有する。例えば、第1面は半導体基板15の表面であり、第2面は半導体基板15の裏面である。本明細書において、第1面から第2面へ向かう方向を深さ方向と呼ぶ。半導体基板15の表面側には、トランジスタのゲート電極、多層配線構造等が配される。
【0012】
図1に示されているように、半導体基板15には、素子分離領域として機能する分離部16によって囲われたウェル領域が形成されている。このウェル領域は画素の感度領域を画定する。ウェル領域には、第1導電型の第1半導体領域71A、71Bと、第2半導体領域76と、第3半導体領域74A、74Bと、第2導電型の第4半導体領域72と、第5半導体領域75とが配されている。また、半導体基板15の第1面の上には、第1半導体領域71Aに接するように配されたコンタクトプラグ77Aと、第1半導体領域71Bに接するように配されたコンタクトプラグ77Bとが設けられている。コンタクトプラグ77Aは第1のアバランシェダイオードの端子として機能し、コンタクトプラグ77Bは第2のアバランシェダイオードの端子として機能する。
【0013】
第1半導体領域71A、71B及び第2半導体領域76は、第1の深さXに配される。第1半導体領域71Aと第2半導体領域76とは、深さ方向に対して垂直な方向(図1中の横方向)に接している。また、第1半導体領域71Bと第2半導体領域76も深さ方向に対して垂直な方向に接している。第2半導体領域76は、第1半導体領域71Aと分離部16との間、第1半導体領域71Bと分離部16の間及び第1半導体領域71Aと第1半導体領域71Bの間に配される。
【0014】
ここで、第1半導体領域71A、71B及び第2半導体領域76が第1の深さXに配されるとは、例えば、半導体基板15内に注入された不純物濃度が最も高い領域(ピーク)が第1の深さXであることをいう。しかしながら、これはピークが第1の深さXに厳密に一致していることを意味するものではなく、ピークが第1の深さXから設計誤差、製造誤差等によりずれている場合もピークが第1の深さXに配されている状態に含まれるものとする。
【0015】
第3半導体領域74A、74B及び第4半導体領域72は、第1面に対して第1の深さXよりも深い第2の深さYに配される。第3半導体領域74Aと第4半導体領域72とは深さ方向に対して垂直な方向に接している。また、第3半導体領域74Bと第4半導体領域72も深さ方向に対して垂直な方向に接している。第4半導体領域72は、第2の深さYにおいて、第3半導体領域74Aと分離部16との間、第3半導体領域74Bと分離部16との間及び第3半導体領域74Aと第3半導体領域74Bとの間にそれぞれ配される。第5半導体領域75は、第1面に対して第2の深さYよりも深い第3の深さZに配される。
【0016】
図2(a)及び図2(b)は、本実施形態に係るアバランシェダイオードの平面模式図である。図2(a)は、第1の深さXにおけるアバランシェダイオードの平面模式図であり、図2(b)は、第2の深さYにおけるアバランシェダイオードの平面模式図である。
【0017】
図2(a)に示されるように、第1の深さXにおいて、第1半導体領域71A、71Bは、第2半導体領域76に内包される。また、第1半導体領域71Aと第1半導体領域71Bとは互いに重ならない。また、第2半導体領域76は、分離部16に内包される。
【0018】
図2(b)に示されるように、第2の深さYにおいて、第3半導体領域74A、74Bは、第4半導体領域72に内包される。また、第3半導体領域74Aと第3半導体領域74Bとは互いに重ならない。また、第4半導体領域72は、分離部16に内包される。図1図2(a)及び図2(b)に示されるように、平面視において、第1半導体領域71Aは、第3半導体領域74Aの少なくとも一部と重なる。また、平面視において、第1半導体領域71Bは、第3半導体領域74Bの少なくとも一部と重なる。また、平面視において、第3半導体領域74A、74B及び第4半導体領域72は、第5半導体領域75と重なる。また、平面視において、第2半導体領域76は、第4半導体領域72の少なくとも一部と重なる。
【0019】
図3は、本実施形態に係るアバランシェダイオードのポテンシャルの一例を示すグラフである。図3は、図1に示される断面図の線分JK、線分GH及び線分LMにおけるポテンシャルの分布を示している。半導体領域内のポテンシャルは、コンタクトプラグ77A、77Bに印加される電位により変化する。図3に示すポテンシャルは、コンタクトプラグ77Aに対応する第1のアバランシェダイオードにのみ逆バイアス電圧が印加されるように電位が供給されている場合のものである。この電位は、アバランシェダイオードの外部に設けられた電源電圧線から、クエンチ回路等の回路を介して供給される。また、電位のレベルは、第1のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が生じるように設定されている。これに対し、コンタクトプラグ77Bに対応する第2のアバランシェダイオードには、フローティング状態であるか又はゼロバイアス近傍のバイアス電圧となるような電位が供給されている。
【0020】
破線20は、線分GHにおけるポテンシャル分布を示しており、実線21は、線分JKにおけるポテンシャル分布を示しており、一点鎖線22は、線分LMにおけるポテンシャル分布を示している。これらのポテンシャルは、信号電荷である電子についてのポテンシャルを示している。なお、信号電荷が正孔である場合にはポテンシャルの高低の関係が逆になる。深さX、Y、Z、Wは、図1に示されている対応する符号が付された位置の深さに対応している。すなわち、深さX、Y、Zはそれぞれ、上述の第1の深さX、第2の深さY、第3の深さZである。また、深さWは第2の深さYと第3の深さZとの間の深さである。
【0021】
図3のポテンシャルの各レベルについて説明する。XHレベルは、第4半導体領域72のポテンシャルを示している。Hレベルは、第3半導体領域74Aのポテンシャルを示している。Mレベルは、第2半導体領域76のポテンシャルを示している。Lレベルは、第1半導体領域71Aのポテンシャルを示している。なお、第3半導体領域74Aのポテンシャルよりも第2半導体領域76のポテンシャルの方が低いものとしているが逆であってもよい。
【0022】
第3半導体領域74Bのポテンシャルは、XHレベルとHレベルの間である。第1半導体領域71Bのポテンシャルは、MレベルとLレベルの間である。なお、第4半導体領域72のポテンシャルよりも第3半導体領域74Bのポテンシャルの方が低いものとしているが同一であってもよい。また、第2半導体領域76のポテンシャルよりも第1半導体領域71Bのポテンシャルの方が低いものとしているが同一であってもよい。
【0023】
破線20により示されている線分GHにおけるポテンシャルについて説明する。深さZにおいて、ポテンシャルは、XHレベルとHレベルの間である。深さZから深さWに向かうにつれて徐々にポテンシャルは低下する。そして、深さWから深さYに向かうにつれて徐々にポテンシャルが上昇し、深さYにおいてXHレベルとなる。更に、深さYから深さXに向かうにつれて徐々にポテンシャルが低下する。深さX近傍において、ポテンシャルはMレベルとなる。
【0024】
第1のアバランシェダイオードを通過する実線21により示されている線分JKにおけるポテンシャルについて説明する。深さZにおいて、ポテンシャルは、XHレベルとHレベルの間である。深さZから深さYに向かうにつれて徐々にポテンシャルは低下し、深さYの近傍でポテンシャルの傾きが、大きくなる。ポテンシャルは、深さYにおいて、Hレベルである。深さYから深さXに向かうにつれて、ポテンシャルは急激に低下する。すなわち、深さYから深さXの間に急峻なポテンシャル勾配が形成されている。深さXにおいて、ポテンシャルはLレベルとなる。
【0025】
第2のアバランシェダイオードを通過する一点鎖線22により示されている線分LMのポテンシャルについて説明する。深さZにおいて、ポテンシャルは、XHレベルとHレベルの間である。深さZから深さWに向かうにつれて徐々にポテンシャルが低下する。そして、深さWから深さYに向かうにつれて徐々にポテンシャルが上昇し、深さYにおいてXHレベルとHレベルの間のレベルとなる。更に、深さYから深さXに向かうにつれて徐々にポテンシャルが低下する。深さXにおいて、ポテンシャルは、MレベルとLレベルの間のレベルとなる。これらの各線分の位置におけるポテンシャル分布の相違は、2つのアバランシェダイオードに印加される電位の差により生じている。
【0026】
深さZにおいて、線分GH、線分JK及び線分LMにおけるポテンシャルはほぼ同一となっている。また、深さZの近傍において、線分GH、線分JK及び線分LMの位置では、半導体基板15の第1面の側に向かって緩やかに低下するポテンシャル勾配が形成されている。そのため、入射光により画素内の半導体領域で生成された電荷は、このポテンシャル勾配によって第1面の側に向かって移動する。
【0027】
線分JKにおいて、深さWから深さYに近づくにつれて半導体基板15の第1面の側に向かって緩やかに低下するポテンシャル勾配が形成されている。これにより、電荷は第1面の側に向かって移動する。一方、線分GH及び線分LMにおいては、深さWから深さYに近づくにつれて、半導体基板15の第1面の側に向かって緩やかに上昇するポテンシャル勾配が形成されている。このポテンシャル勾配は、第1面に向かう電荷に対するポテンシャル障壁となる。すなわち、第4半導体領域72及び第3半導体領域74Bは、第5半導体領域75から第2半導体領域76に電荷が移動することを抑制するポテンシャル障壁として機能する。これに対し、線分GH及び線分LMの位置から線分JKへの横方向のポテンシャル勾配は小さいため、深さWから深さYの範囲において、線分GH及び線分LMの近傍に存在する電荷は、第1面に向かって移動する過程で線分JKの付近に移動しやすくなる。
【0028】
線分JKで示した領域の近傍に移動した電荷は、深さYから深さXの範囲にかけて形成されている急峻なポテンシャル勾配、すなわち強電界によって加速される。強電界によって加速された電荷は、第1半導体領域71Aに到達する。このようにして、線分JKの近傍の深さYから深さXの領域においてアバランシェ増倍が起こる。これに対し、線分GH及び線分LMに示した領域においては、線分JKの深さYから深さXの領域よりもアバランシェ増倍が起きにくいポテンシャル分布となっている。つまり、一方のアバランシェダイオードがアバランシェ増倍を起こすように制御されている期間に、他方のアバランシェダイオードがアバランシェ増倍を起こしくいように制御される。
【0029】
このような構造を実現する一例は、以下のとおりである。第1半導体領域71Aのポテンシャルと第3半導体領域74Aのポテンシャルとの差を、第2半導体領域76のポテンシャルと第4半導体領域72のポテンシャルとの差よりも大きくする。そして、第1半導体領域71Aのポテンシャルと第3半導体領域74Aのポテンシャルとの差を、第1半導体領域71Bのポテンシャルと第3半導体領域74Bのポテンシャルとの差よりも大きくする。このようなポテンシャル構造とすることにより、画素に2つ配置されたアバランシェダイオードのうちの1つのみのアバランシェダイオードにおいてアバランシェ増倍が起こる構成が実現される。これにより、もう1つのアバランシェダイオードではアバランシェ増倍が起こらないことになるが、これによる感度低下は、以下の構成により軽減されている。
【0030】
本実施形態では、2つのアバランシェダイオードが素子分離領域に囲われた同一のウェル領域に形成されている。そして、第3半導体領域74Aのポテンシャルが、第4半導体領域72及び第3半導体領域74Bのポテンシャルよりも低い。そのため、第4半導体領域72及び第3半導体領域74Bは、第5半導体領域75に存在する信号電荷に対するポテンシャル障壁として機能する。これにより、第5半導体領域75のうちの第4半導体領域72又は第3半導体領域74Bに重なる領域に存在する信号電荷が、第3半導体領域74Aを介して第1半導体領域71Aに移動しやすくなる。したがって、アバランシェ増倍が起こる側のアバランシェダイオードに電荷が集められるので、上述の感度低下が軽減される。
【0031】
図3には、第3半導体領域74A、74BがP型半導体領域である場合のポテンシャル構造が示されている。しかしながら、第3半導体領域74A,74BがN型半導体領域である場合であっても、線分GH、線分JK、線分LMのそれぞれについて深さYにおけるポテンシャルの大小関係は変わらない。すなわち、深さYにおいて、線分GH及び線分LMにおけるポテンシャルは、線分JKにおけるポテンシャルよりも高い。
【0032】
また、図3では、第2半導体領域76がN型半導体領域である場合のポテンシャル構造が示されているが、P型半導体領域であっても、線分GH、線分JK、線分LMのそれぞれについて深さYにおけるポテンシャルの大小関係は変わらない。すなわち、深さYにおいて、線分GH及び線分LMにおけるポテンシャルは、線分JKにおけるポテンシャルよりも高い。
【0033】
なお、平面視において、第1半導体領域71Aのすべての領域が、第3半導体領域74Aに重なることが望ましい。また、平面視において、第1半導体領域71Bのすべての領域が、第3半導体領域74Bに重なることが望ましい。言い換えると、平面視において、第1半導体領域71A、71Bと第4半導体領域72とが重ならないことが望ましい。このような構成によれば、第1半導体領域71A、71Bと第4半導体領域72との間にPN接合が形成されない。第1半導体領域71A、71Bと第4半導体領域72との間にPN接合が存在すると、そのPN接合においてアバランシェ増倍が生じ、トンネル効果によってノイズが生じる場合がある。第1半導体領域71A、71Bと第4半導体領域72とが重ならない構造を採用することにより、上述のメカニズムに起因するノイズを抑制することが可能となる。
【0034】
上述の説明では、コンタクトプラグ77Aに対応する第1のアバランシェダイオードにのみ逆バイアスの電位が印加されるよう電位が供給されるものとしている。また、コンタクトプラグ77Bに対応する第2のアバランシェダイオードはゼロバイアス近傍の電位が供給されるか、又はフローティング状態とするものとしている。しかしながら、供給される電位の関係は、コンタクトプラグ77Aとコンタクトプラグ77Bとの間で入れ替わっていてもよい。すなわち、アバランシェ増倍を生じさせるアバランシェダイオードを選択可能とするように供給電位を切り替える選択部を備えていてもよい。
【0035】
この場合、図3において、破線20は、線分GHにおけるポテンシャル分布を示し、実線21は、線分LMにおけるポテンシャル分布を示し、一点鎖線22は、線分JKにおけるポテンシャル分布を示す。すなわち、線分LMのポテンシャル分布と線分JKのポテンシャル分布とが入れ替わる。したがって、コンタクトプラグ77A、77Bに印加する電位を変えることにより、アバランシェ増倍が生じる領域を第1半導体領域71Aから第1半導体領域71Bに切り替えることができる。
【0036】
続いて、強電界領域で生じることがあるノイズ電流について説明する。重金属等によるキャリア捕獲準位によるノイズ電流は、近傍の電子キャリア密度n及び正孔キャリア密度pの双方が真性キャリア密度niに比して小さい(すなわち、n<niかつp<ni)場合に大きくなることが知られている。この電子キャリア密度n及び正孔キャリア密度pがともに小さい状態は強電界等によりキャリアが排斥された空乏層においてみられる状態である。また、強電界領域においては近傍のポテンシャル変位が大きいため、見かけ上のバンドギャップが小さくなり、トンネル効果によるノイズ電流が大きくなることも知られている。
【0037】
上述の理由により、第1半導体領域71A又は71Bの強電界領域の近傍に重金属等によるキャリア捕獲準位が存在している場合、比較的大きなノイズ電流が生じることがある。この重金属等によるキャリア捕獲準位は、光電変換装置の製造時にある確率でランダムに発生し得る。
【0038】
本実施形態の光電変換装置は、上述の要因により生じるノイズ電流の発生確率を低減することができる。まず、本実施形態の光電変換装置を製造した後に第1のアバランシェダイオードと第2のアバランシェダイオードのうちのノイズ電流の少ないアバランシェダイオードを確認する。その後、画素内のノイズ電流が少ない側のアバランシェダイオードでアバランシェ増倍が起こるようにコンタクトプラグ77A又はコンタクトプラグ77Bに供給する電位を設定して逆バイアス電圧を供給する。また、ノイズ電流が大きい側のアバランシェダイオードではアバランシェ増倍が起こらないようにフローティング又はゼロバイアスになるように電位を制御する。これにより、ノイズ電流に起因する性能劣化を低減することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態の光電変換装置は、複数のアバランシェダイオードを有しており、ノイズ電流の少ないアバランシェダイオードを選択可能である。これにより、ノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することができる。
【0040】
なお、光電変換装置が複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズアレイをさらに備える場合には、1つの画素に対し、1つのマイクロレンズが配される。別の見方をすれば、1つのマイクロレンズに対応する領域が、1つの画素の領域であるともいえる。このマイクロレンズを透過した光が、1つの画素に設けられた複数のアバランシェダイオードに入射することとなる。なお、本実施形態の光電変換装置は、マイクロレンズが図1の半導体基板15の第1面側に設けられた、いわゆる表面照射型の構成と、マイクロレンズが第2面側に設けられた、いわゆる裏面照射型の構成のいずれであってもよい。
【0041】
また、画素と画素の間に、画素同士を電気的に分離する素子分離領域を備えることを説明した。このような素子分離領域は、LOCOS(Local Oxidation Of Silicon)、STI(Shallow Trench Isolation)、DTI(Deep Trench Isolation)等による絶縁分離領域とすることができる。また、素子分離領域は、P型半導体領域とN型半導体領域とのPN接合によるPN分離領域としてもよい。
【0042】
[第2実施形態]
図4乃至図8を用いて第2実施形態に係る光電変換装置について説明する。第1実施形態と同様の機能を有する部分には同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。図4は、本実施形態に係る光電変換装置1010のブロック図である。光電変換装置1010は、画素部106、制御パルス生成部109、水平走査回路104、列回路105、信号線107、出力回路108及び垂直走査回路103を有している。
【0043】
画素部106は、複数の行及び複数の列をなすように配された複数の画素100を有している。各々の画素100は、光電変換素子101及び画素信号処理部102を含む。光電変換素子101は、光電変換装置1010に入射された光を電気信号に変換する。画素信号処理部102は、変換された電気信号を信号線107を介して列回路105に出力する。
【0044】
垂直走査回路103は、制御パルス生成部109から供給された制御パルスに基づいて各画素100を画素行ごとに駆動するための制御パルスを供給する。垂直走査回路103には、シフトレジスタ、アドレスデコーダ等の論理回路が用いられ得る。信号線107は、画素部106の列ごとに配されている。信号線107は、垂直走査回路103により選択された画素100から出力された信号を列回路105に伝送する。
【0045】
列回路105には、信号線107を介して各画素100からの信号が画素部106の列ごとに入力され、所定の処理を行う。所定の処理とは、入力された信号のノイズ除去、増幅等の処理と、処理後の信号を外部に出力できる形に変換する処理を含み得る。この機能を実現するため、例えば、列回路105は、パラレル-シリアル変換回路を有する。
【0046】
水平走査回路104は、列回路105で処理された後の信号を出力回路108に列ごとに順次出力するための制御パルスを列回路105に供給する。
【0047】
出力回路108は、バッファアンプ、差動増幅器等により構成される。出力回路108は、列回路105から出力された信号を光電変換装置1010の外部の装置の記憶部又は信号処理部に出力する。
【0048】
図4において、画素部106における画素100の配列は、2次元行列状であるがこれに限定されるものではない。例えば、画素部106は、複数の画素100が1次元状に配されるものであってもよい。また、画素部106に含まれる画素100は単一であってもよい。また、垂直走査回路103、水平走査回路104及び列回路105は、複数のブロックに分割されていてもよい。また、画素部106の複数の画素100も複数のブロックに分割されていてもよく、画素部106のブロックが上述の垂直走査回路103、水平走査回路104及び列回路105のブロックと対応するように配置されていてもよい。また、水平走査回路104及び列回路105は、各画素列に対応するブロックに分割されていてもよい。
【0049】
画素信号処理部102の機能が画素部106内のすべての画素100に1つずつ設けられることは必須ではなく、例えば、複数の画素100によって1つの画素信号処理部102が共有されていてもよい。この場合、画素信号処理部102は、複数の画素100から出力される信号に対して順次処理を行う。
【0050】
また、画素信号処理部102は、光電変換素子101が形成される半導体基板15とは異なる半導体基板に設けられていてもよい。これにより、チップ面積に対する光電変換素子101の面積の割合を高くすることができ、光電変換素子101の感度が向上する。この場合、光電変換素子101と画素信号処理部102とは、画素100ごとに設けられた接続配線を介して互いに電気的に接続される。垂直走査回路103、水平走査回路104、信号線107及び列回路105も同様に光電変換素子101とは異なる半導体基板に設けられていてもよく、同様の効果が得られる。
【0051】
図5は、本実施形態における画素100のブロック図の一例である。図5において、1つの画素100は光電変換素子101及び画素信号処理部102を有する。光電変換素子101は、2つの光電変換部201A、201B、制御部202及び選択回路210を有する。
【0052】
光電変換部201A及び201Bは、光電変換により入射光に応じた電荷対を生成する。光電変換部201A及び201Bは、第1実施形態で述べた第1のアバランシェダイオード及び第2のアバランシェダイオードにそれぞれ対応する。光電変換部201A、201Bのアノードには、電位VLを供給する電位線に接続される。光電変換部201A、201Bのカソードは、選択回路210に接続される。
【0053】
選択回路210には垂直走査回路103から駆動線209を介して制御パルスpSWが入力される。選択回路210は、制御パルスpSWに基づいて、光電変換部201A、201Bのいずれか一方を選択して、制御部202に接続する。選択回路210は、例えば制御パルスpSWの信号レベルに応じて接続状態が変化するスイッチ回路であり得る。一例として、制御パルスpSWが0又は1の値にそれぞれ対応するハイレベル又はローレベルの信号であり、0が光電変換部201Aを選択する信号であり、1が光電変換部201Bを選択する信号であるものとする。制御パルスpSWが0である場合には、選択回路210は、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを接続し、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを接続しない。一方、制御パルスpSWが1である場合には、選択回路210は、光電変換部201Bと制御部202とを接続し、光電変換部201Aと制御部202とを接続しない。
【0054】
選択回路210により選択された光電変換部(光電変換部201A又は光電変換部201B)のカソードには電位VLよりも高い電位VHに基づく電位が供給される。選択回路210により選択された光電変換部のアノードとカソードには、アバランシェ増倍が生じ得るように逆バイアスが印加される。このような逆バイアスの電位が印加された状態で入射光による光電変換が行われると、生成された電荷がアバランシェ増倍を起こしアバランシェ電流が発生する。
【0055】
なお、光電変換部に逆バイアスの電位が供給される場合において、アノードとカソードの電位差が降伏電圧より大きいときには、アバランシェダイオードはガイガーモード動作となる。ガイガーモード動作を用いて単一光子レベルの微弱信号を高速検出するフォトダイオードがSPADである。
【0056】
また、光電変換部のアノードとカソードの電位差が、光電変換部に生じた電荷がアバランシェ増倍を起こす電位差以上であって、かつ降伏電圧以下の電位差である場合には、アバランシェダイオードは線形モードで動作する。線形モードにおいて光検出を行うアバランシェダイオードをアバランシェフォトダイオード(APD)と呼ぶ。本実施形態において、光電変換部はどちらのアバランシェダイオードとして動作してもよい。なお、アバランシェ増倍を起こす電位差はおよそ6V以上である。
【0057】
選択回路210により選択されなかった光電変換部のカソードには電位が供給されない。選択されなかった光電変換部のアノードとカソードの電位差は十分に小さくなり、入射光によって生じた電荷は光電変換部に流入しないため、アバランシェ増倍が起こらない。
【0058】
制御部202は、電位VLよりも高い電位VHを供給する電源電圧線と光電変換部201A及び201Bのいずれか一方とに接続される。制御部202は、光電変換部で生じたアバランシェ電流の変化を電圧信号に置き換える機能を有する。更に、制御部202は、アバランシェ増倍による信号増幅時に負荷回路(クエンチ回路)として機能する。この負荷回路は、光電変換部に供給する電圧を変化させて、アバランシェ増倍を抑制する。この動作はクエンチ動作と呼ばれる。制御部202は、例えば、抵抗素子又は能動クエンチ回路を含み得る。能動クエンチ回路は、アバランシェ電流の増加を検出してフィードバック制御を行うことによりアバランシェ増倍を能動的に抑制する回路である。以上のように、制御部202及び選択回路210は、2つのアバランシェダイオードのいずれか一方においてアバランシェ増倍が生じるように制御する選択部として機能する。
【0059】
画素信号処理部102は、波形整形部203、カウンタ回路204及び選択回路206を有する。波形整形部203は、単一光子レベルの信号による電圧変化を整形して、パルス信号を出力する。このパルス信号は、光子の入射を示すものである。波形整形部203には、例えば、図5に示されているようにインバータ回路が用いられ得る。波形整形部203は、複数のインバータを直列接続した回路であってもよく、波形を整形する効果がある回路であればその他の回路を用いてもよい。
【0060】
波形整形部203から出力されたパルス信号は、カウンタ回路204によってカウントされる。カウンタ回路204には、例えば、N-bitカウンタ(N:正の整数)が備えられており、N-bitカウンタは、入力されたパルス信号を最大で約2のN乗個までカウントしてその値を保持することが可能である。カウントにより得られた信号は、入射光の検出結果を示す信号としてカウンタ回路204に保持される。また、カウンタ回路204には、垂直走査回路103から駆動線207を介して制御パルスpRESが供給される。カウンタ回路204は、制御パルスpRESが入力されると保持している信号をリセットする。
【0061】
選択回路206には、垂直走査回路103から駆動線208を介して制御パルスpSELが供給される。選択回路206は、制御パルスpSELに基づいてカウンタ回路204と信号線107との電気的な接続又は非接続を切り替える。選択回路206には、例えばトランジスタ、画素外に信号を出力するためのバッファ回路等が用いられ得る。
【0062】
画素部106が複数の画素100が行列状に配された構成である場合において、撮像動作は、ローリングシャッタ動作及びグローバル電子シャッタ動作のいずれであってもよい。例えば、カウンタ回路204によるカウントを行ごとに順次リセットし、カウンタ回路204に保持された信号を行ごとに順次出力することによりローリングシャッタ動作が実現される。
【0063】
また、すべての画素行のカウンタ回路204によるカウントを同時にリセットし、カウンタ回路204に保持された信号を行ごとに順次出力することにより、グローバル電子シャッタ動作が実現される。なお、グローバル電子シャッタ動作を適用する場合には、カウンタ回路204によるカウントを行うか否かを切り替えることができるように、スイッチ等による切替手段を設けることが望ましい。
【0064】
図6は本実施形態に係る光電変換装置1010の制御方法及び信号処理方法を示すフローチャートである。図6の処理の全部又は一部は、光電変換装置1010を搭載する撮像システム等の外部装置に設けられた制御装置による制御に基づくものであってもよく、光電変換装置1010の内部に設けられた制御装置による制御に基づくものであってもよい。図6に沿って、光電変換装置1010の制御方法及び信号処理方法を説明する。
【0065】
ステップS101において、選択回路210は、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを接続状態とし、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを非接続状態とする。これにより、光電変換部201Aは、アバランシェ増倍が起こる状態となる。
【0066】
ステップS102において、光電変換装置1010は、画素部106への入射光に基づく撮像を行う。この撮影により、画素部106の各画素100から入射光に応じたカウント値が出力される。ここで、ステップS102における撮影条件は、画素部106に外部からの光が入射されるような通常撮影用の撮影条件であるものとする。この通常撮影用の撮影条件とは、例えば、光電変換装置1010がデジタルスチルカメラに搭載されている場合には、シャッタを開放して、入射光が画素部106に取り入れられるような条件である。すなわち、通常撮影用の撮影条件とは、シャッタを閉じた状態で撮影する等の入射光が取り込まれないような撮影条件ではないものとする。
【0067】
その後、各画素のカウント値は、複数のフレームメモリのうちの第1のフレームメモリに保持される。ここで、複数のフレームメモリとは、複数の画像データを記憶することができるメモリであり、光電変換装置1010内に設けられる記憶装置であってもよく、光電変換装置1010の外部の撮像システム等に設けられる記憶装置であってもよい。この記憶装置は、記憶装置が設けられる光電変換装置1010、撮像システム等に設けられるプロセッサによって制御される。
【0068】
ステップS103において、選択回路210は、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを接続状態とし、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを非接続状態とする。これにより、光電変換部201Bは、アバランシェ増倍が起こる状態となる。
【0069】
ステップS104において、光電変換装置1010は、画素部106への入射光の撮像を行う。このときの撮影条件は、ステップS102と同様に通常撮影用の撮影条件である。その後、各画素のカウント値は、複数のフレームメモリのうちの第2のフレームメモリに保持される。
【0070】
ステップS105からステップS109のループ処理は、画素部106の画素100ごとに対応するデータを読み出して順次行われる処理である。すなわち、画素100の個数がNである場合には、1番目の画素100からN番目の画素100まで、合計N回の処理が実行される。これらの処理は、複数のフレームメモリを構成する記憶装置を制御するプロセッサによって実行される。このプロセッサは、光電変換装置1010の内部又は光電変換装置1010の外部の撮像システム等に設けられ得る。なお、プロセッサにおいて平行処理が可能な場合には、このN回の処理の一部又は全部が同時に実行されてもよい。
【0071】
ステップS106において、プロセッサは、第1のフレームメモリに保持された値と第2のフレームメモリに保持された値とを比較する。第1のフレームメモリに保持された値が第2のフレームメモリに保持された値以下である場合(ステップS106におけるYES)、処理はステップS107に移行する。第1のフレームメモリに保持された値が第2のフレームメモリに保持された値より大きい場合(ステップS106におけるNO)、処理はステップS108に移行する。
【0072】
ステップS107において、プロセッサは、第1のフレームメモリに保持された値を複数のフレームメモリのうちの第3のフレームメモリに記憶させる。ステップS108において、第2のフレームメモリに保持された値を複数のフレームメモリのうちの第3のフレームメモリに記憶させる。このように、ステップS106からステップS108の処理は、第1のフレームメモリに保持された値と第2のフレームメモリに保持された値のうちの小さい方を外部出力用の第3のフレームメモリに記憶させる処理である。
【0073】
ステップS110において、プロセッサは、第3のフレームメモリの値を撮像により得られた画像信号として外部に出力する。なお、複数のフレームメモリが光電変換装置1010の外部の記憶装置である場合には、この処理は必須ではない。
【0074】
以上により、光電変換部201Aで得られた信号と201Bで得られた信号のうちの値が小さい方に基づく画像信号を取得することができる。これによりノイズ電流による影響が少ない信号を選択した画像信号を得ることができ、良好な画質の画像を得ることができる。
【0075】
なお、ステップS106からステップS108の処理は、第1のフレームメモリに保持された値が第2のフレームメモリに保持された値よりも大きい場合に第2のフレームメモリに保持された値を第1のフレームメモリに上書きするものであってもよい。この場合、第3のフレームメモリが不要になる。
【0076】
図7(a)乃至図7(d)は図6に示した処理によりノイズ電流による影響の少ない画像信号が得られるメカニズムをより詳細に説明する模式図である。図7(a)乃至図7(d)は、16個の画素100が4行4列に配置されている場合の、第1の深さXにおけるアバランシェダイオードの平面模式図である。
【0077】
図2(a)と同様に、各画素100には、第1導電型の第1半導体領域71A、71Bと第2半導体領域76とが含まれる。第1半導体領域71Aと71Bに付されたハッチングは、これらの近傍に重金属が含まれており、ノイズ電流が大きいアバランシェダイオードであることを示しているものとする。図7(a)は、第1半導体領域71Aの近傍に重金属を含む画素100の第1半導体領域71Aにハッチングを付して示したものである。図7(b)は、第1半導体領域71Bの近傍に重金属を含む画素100の第1半導体領域71Bにハッチングを付して示したものである。図7(c)は、第1半導体領域71A、71Bの少なくとも一方の近傍に重金属を含む画素100の第1半導体領域71A、71Bにハッチングを付して示したものである。図7(d)は、第1半導体領域71A、71Bの両方の近傍に重金属を含む画素100のみについて第1半導体領域71A、71Bにハッチングを付して示したものである。なお、図7(a)乃至図7(d)の重金属が含まれる画素100の個数及び配置は、本実施形態の効果をわかりやすく説明するための例示的なものであり、実際の製造工程で生じる重金属の混入分布を説明するものではない。
【0078】
図7(c)を参照すると、16個の画素100の内、近傍に重金属が含まれるアバランシェダイオードを少なくとも1つ含む画素100は7個である。すなわち、16個の画素のうち7個の画素100が画像信号の品質を低下させる要因となり得る。
【0079】
第1のフレームメモリに保持される値は、第1半導体領域71Aに対応する第1のアバランシェダイオードから出力された信号に基づくものである。したがって、図7(a)に示されるように、第1のフレームメモリに保持される値については、16個の画素のうち4個の画素が画像信号の品質を低下させる要因となり得る。
【0080】
また、第2のフレームメモリに保持される値は、第1半導体領域71Bに対応する第2のアバランシェダイオードから出力された信号に基づくものである。したがって、図7(b)に示されるように、第2のフレームメモリに保持される値については、16個の画素のうち4個の画素が画像信号の品質を低下させる要因となり得る。
【0081】
第1半導体領域71Aと第1半導体領域71Bの配置及びレイアウトは同等であるため、半導体基板15中の重金属の分布が一様である場合には、2つのアバランシェダイオードが大きなノイズ電流を発生させるものである確率は同等である。
【0082】
図6に示す処理により第3のフレームメモリには、第1のフレームメモリと第2のフレームメモリのうちの小さい方のカウント値が選択されている。したがって、第3のフレームメモリに保持される値については、図7(d)に示されるように16個の画素のうち1個の画素のみが画像信号の品質を低下させる要因となり得る。すなわち、第3のフレームメモリに保持される値は、第1のフレームメモリと第2のフレームメモリのうちの小さい方のカウント値を選択したことにより、重金属に起因する画素信号の品質低下の発生頻度が低減されている。
【0083】
図8は、本実施形態に係るアバランシェダイオードを含む多数の画素100から出力された信号について、ノイズ電流値の累積相対度数を示すグラフである。本グラフにおける累積相対度数は、取得した複数の信号の度数をノイズ電流の値が大きい方から順に累積し、全信号数で除算した正規化したものである。図8では、第1、第2及び第3のフレームメモリに保持された値のグラフが重ねて表示されている。また、図8においてレベルP以下の値のノイズ電流は、拡散電流に起因するものである。また、レベルQ近傍のノイズ電流は重金属等によるノイズ電流に起因するものである。
【0084】
図7を参照して説明したように、第3のフレームメモリに保持されている値は、第1のフレームメモリと第2のフレームメモリのうちの小さい方のカウント値を選択したものである。第1のフレームメモリと第2のフレームメモリの両方に重金属によるノイズ電流の影響を受けた値が保持されている確率は、各フレームメモリにおける当該確率の積である。したがって、レベルQにおける第3のフレームメモリの累積相対度数は、第1及び第2のフレームメモリの累積相対度数の積となる。したがって、2つのアバランシェダイオードでの重金属によるノイズ電流の発生確率が同一であれば、第3のフレームメモリの累積相対度数は、第1のフレームメモリの累積相対度数の2乗となる。したがって、本実施形態によれば、画像信号にノイズ電流の影響を受けた信号が含まれる確率を大幅に低減することができる。
【0085】
なお、1つの画素100に含まれるアバランシェダイオードの個数が3個以上であってもよい。その個数をn個とすると、ノイズ電流の発生確率は1個の場合のn乗となり、更にノイズ電流の影響を低減させることができる。
【0086】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態と同様にノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することができる。
【0087】
[第3実施形態]
図9乃至図11を用いて、第3実施形態に係る光電変換装置について説明する。第1又は第2実施形態と同様の機能を有する部分には同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0088】
図9は本実施形態に係る光電変換装置1010の制御方法及び信号処理方法を示すフローチャートである。図9の処理の全部又は一部は、光電変換装置1010内に設けられた回路により実現されるものであり得る。また、図9の処理の全部又は一部は、光電変換装置1010を搭載する撮像システム等の外部装置に設けられた制御装置による制御に基づくものであってもよく、光電変換装置1010の内部に設けられた制御装置による制御に基づくものであってもよい。図9に沿って、光電変換装置1010の制御方法及び信号処理方法を説明する。
【0089】
ステップS201において、光電変換装置1010は、プリ設定用の撮影条件の設定を行う。ここで、プリ設定用の撮影条件とは、画素部106に外部からの光が入射されないような撮影条件であるものとする。このプリ設定は、ノイズ電流に対応する信号を取得するための設定である。具体例としては、光電変換装置1010がデジタルスチルカメラに搭載されている場合には、シャッタを閉じて、入射光が画素部106に導入されないようにすることでプリ設定用の撮影条件が実現される。
【0090】
ステップS202において、選択回路210は、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを接続状態とし、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを非接続状態とする。これにより、光電変換部201Aは、アバランシェ増倍が起こる状態となる。
【0091】
ステップS203において、光電変換装置1010は、画素部106への入射光に基づく撮像を行う。この撮影により、画素部106の各画素100から入射光に応じたカウント値がカウンタ回路204から出力される。この処理において、入射光の蓄積時間は、通常撮影用の撮影時と比べて長い時間に設定される。プリ設定用の撮影は、ノイズ電流に相当する信号を取得するためのものであり、外乱による誤判定を防ぐため、十分に長い時間をかけて取得することが望ましいためである。この蓄積時間は例えば1秒程度であり得る。
【0092】
ステップS204からステップS208のループ処理は、画素部106の画素100ごとに行われる処理である。ステップS204からステップS208の処理は一部又は全部が同時に実行されてもよく、画素100ごとに順次実行されてもよい。例えば後述のSRラッチ回路を用いた処理では、ステップS204からステップS208の処理は各画素100について並行して行われ得る。
【0093】
ステップS205において、光電変換装置1010は、カウンタ回路204から出力されたカウント値と設定値とを比較する。カウント値が設定値以下である場合(ステップS205におけるYES)、処理はステップS206に移行する。カウント値が設定値より大きい場合(ステップS205におけるNO)、処理はステップS207に移行する。
【0094】
ステップS206において、光電変換装置1010内のメモリ装置は、対応する画素100の設定値を0に設定する。ステップS207において、光電変換装置1010内のメモリ装置は、対応する画素100の設定値を1に設定する。ここで、メモリ装置とは、画素100ごとに1ビットの情報を記憶できるものであればよい。このメモリ装置は、保持期間によらず安定して論理値が保持されることが望ましく、後述のSRラッチ回路が一例として挙げられる。また、メモリ装置には、電源を遮断した場合にも情報が失われないように、不揮発性メモリが用いられてもよい。
【0095】
ステップS209において、選択回路210は、設定値が0の画素100に対して、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを接続状態とし、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを非接続状態とする。これにより、光電変換部201Aは、アバランシェ増倍が起こる状態となる。
【0096】
ステップS210において、選択回路210は、設定値が1の画素100に対して、光電変換部201Bのカソードと制御部202とを接続状態とし、光電変換部201Aのカソードと制御部202とを非接続状態とする。これにより、光電変換部201Bは、アバランシェ増倍が起こる状態となる。
【0097】
ステップS211において、光電変換装置1010は、通常撮影用の撮影条件の設定を行う。通常撮影用の撮影条件とは、第2実施形態で述べたものと同様である。ステップS212において、光電変換装置1010は、通常撮影用の撮影条件により、通常値の蓄積時間の設定で撮影を行い、画像信号として用いられるカウント値を取得する。なお、通常値の撮影時間は、プリ設定用の長時間の撮影時間よりも短い。
【0098】
以上により、第2実施形態と同様にノイズ電流による影響が少ない信号を選択した画像信号を得ることができ、良好な画質の画像を得ることができる。
【0099】
なお、本処理のステップS202では、光電変換部201Aではなく、光電変換部201Bをアバランシェ増倍が起こる状態としてもよい。この場合、ステップS209とステップS210における設定値と光電変換部の対応関係が逆になる。
【0100】
次に、図9の処理を実現し得る回路の例を図10及び図11を参照して説明する。なお、図10及び図11の回路は本実施形態の処理を実現し得る手段の一例に過ぎず、図9の処理を実現可能であれば、これ以外の態様であってもよい。図10は、本実施形態に係る画素100のブロック図である。画素100の画素信号処理部102は、第2実施形態で述べた要素に加えて出力判定回路212を更に有している。
【0101】
出力判定回路212は、プリ設定時にカウント値が所定値を超えたか否かの判定結果を設定値として記憶し、選択回路210に出力する判定部として機能する回路である。出力判定回路212には、カウンタ回路204からの出力信号と、垂直走査回路103から出力された制御パルスpRES、pENBとが入力される。制御パルスpRESは駆動線207を介して出力判定回路212に入力され、制御パルスpENBは駆動線209を介して出力判定回路212に入力される。出力判定回路212の出力信号である制御パルスpSWは選択回路210に入力される。なお、出力判定回路212に入力されるカウンタ回路204からの出力信号は、カウント値を構成するデジタル値の一部のビットの値であり得る。
【0102】
制御パルスpENBは、出力判定回路212を有効にするためのイネーブル信号である。出力判定回路212は、制御パルスpENBの値が1である場合にのみカウンタ回路204からの信号入力を有効に受け付ける。制御パルスpENBの値が0である場合にはカウンタ回路204からの信号によらず、出力判定回路212は直前の状態を保持し続ける。例えば、図9の例では、プリ設定時には、制御パルスpENBの値を1に設定して設定を変更可能にし、通常撮影時には、制御パルスpENBの値を0に設定して設定を変更不能にすることで、出力判定回路212の状態を適切に制御することができる。
【0103】
制御パルスpRESは、出力判定回路212をリセットする信号である。出力判定回路212のリセットはプリ設定の前に行われることが望ましく、例えば、ステップS202の処理の前に行われ得る。図10に示す例では、カウンタ回路204のリセットに用いられる制御パルスpRESは出力判定回路212にも共通に用いられており、これによりリセットのタイミングを一致させることができる。しかしながら、これは必須ではなく、カウンタ回路204と出力判定回路212が互いに異なる制御パルスによりリセットされてもよい。
【0104】
図11は、本実施形態に係る出力判定回路212のブロック図である。出力判定回路212は、AND回路212A、212BとSRラッチ回路212Cとを有する。AND回路212Aには制御パルスpENBとカウンタ回路204からの出力信号とが入力される。AND回路212Aは、制御パルスpENBとカウンタ回路204からの出力信号の論理積を出力する。SRラッチ回路212Cのセット端子Sには、AND回路212Aの出力信号が入力される。AND回路212Bには制御パルスpENBと制御パルスpRESとが入力される。AND回路212Bは、制御パルスpENBと制御パルスpRESの論理積を出力する。SRラッチ回路212Cのリセット端子Rには、AND回路212Bの出力信号が入力される。SRラッチ回路212Cの出力端子Qからは、制御パルスpSWが出力される。
【0105】
カウンタ回路204から出力判定回路212に出力される信号は、例えば、カウンタ回路204の中間ビットの値であり得る。中間ビットの値は、ステップS205における設定値として機能する。カウンタ回路204が16ビットのカウンタである場合には、カウンタ回路204の8ビット目の値が中間ビットの値であり得る。この場合、128LSB(Least Significant Bit)に相当する値(2進数における10000000)をステップS205における設定値とすることができる。
【0106】
プリ設定の処理(制御パルスpENBの値が1)において、光電荷に基づく128個のパルスがカウンタ回路204によりカウントされたときに、カウンタ回路204の出力値は1になり、SRラッチ回路212Cのセット端子Sに1が入力される。これにより、SRラッチ回路212Cの出力信号が0から1に変化する。SRラッチ回路212Cの出力信号は、制御パルスpSWであり、選択回路210によって接続されるアバランシェダイオードの選択に用いられる。以上のようにして、プリ設定用の撮影条件において設定値よりも大きいノイズ電流が検出された場合に接続するアバランシェダイオードを切り替える処理が実現される。
【0107】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態及び第2実施形態と同様にノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することができる。
【0108】
[第4実施形態]
図12及び図13を用いて、第4実施形態に係る光電変換装置について説明する。第1乃至第3実施形態と同様の機能を有する部分には同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0109】
図12は、本実施形態に係る画素100のブロック図である。本実施形態の光電変換素子101は、図5の制御部202及び選択回路210に代えて可変抵抗回路211を備える。また、本実施形態の画素信号処理部102においては、図5のインバータにより構成された波形整形部203に代えてNOR回路により構成された波形整形部213を備える。
【0110】
可変抵抗回路211は、電位VHを供給する電源電圧線と光電変換部201A、201Bのカソードとの間に設けられる。可変抵抗回路211には垂直走査回路103から駆動線209を介して制御パルスpSWが入力される。可変抵抗回路211は、制御パルスpSWの信号レベルに応じて電源電圧線と光電変換部201Aの間の抵抗値及び電源電圧線と光電変換部201Bの間の抵抗値を変化させる。
【0111】
この2つの抵抗値のうちの一方は、アノードとカソードの間の電位差がゼロに近くなるように大きな抵抗値(第1の抵抗値)に設定される。これにより、アバランシェダイオードでアバランシェ増倍が起こらないようにすることができる。2つの抵抗値のうちの他方は、アバランシェダイオードでアバランシェ増倍が起こり、かつ、アバランシェ増倍により生じた電流による電位変化が波形整形部213での論理反転を引き起こすように調整された抵抗値(第2の抵抗値)に設定される。
【0112】
電源電圧線と光電変換部201Aの間の抵抗値を第2の抵抗値に設定し、電源電圧線と光電変換部201Bの間の抵抗値を第1の抵抗値に設定することで、光電変換部201Aのみでアバランシェ増倍が生じるように光電変換素子101を制御可能である。また、電源電圧線と光電変換部201Aの間の抵抗値を第1の抵抗値に設定し、電源電圧線と光電変換部201Bの間の抵抗値を第2の抵抗値に設定することで、光電変換部201Bのみでアバランシェ増倍が生じるように光電変換素子101を制御可能である。以上のように、可変抵抗回路211は、2つのアバランシェダイオードのいずれか一方においてアバランシェ増倍が生じるように制御する選択部として機能する。
【0113】
可変抵抗回路211は、具体的にはNMOS又はPMOSにより構成され得る。NMOS又はPMOSは、ゲート電位に応じてソース-ドレイン間に反転層(チャネル)を形成するON状態と反転層を形成しないOFF状態を切り替え可能である。また、NMOS又はPMOSは、ゲート電位に応じて反転層の大きさ、すなわち抵抗値を変化させることもできる。したがって、NMOS又はPMOSは、上述の2つの抵抗値を切り替え可能な可変抵抗素子として機能し得る。
【0114】
図13は、本実施形態に係る可変抵抗回路211の等価回路図の一例である。可変抵抗回路211は、インバータ211Aと、入力レベル変換回路211B、211Cと、可変抵抗素子211D、211Eとを含む。可変抵抗素子211D、211Eは、例えばNMOSであるが、PMOSであってもよい。入力レベル変換回路211B、211Cは、入力される制御パルスpSWの電位のレベルをNMOSの抵抗値の制御に適したレベルに変換する回路である。具体的には、入力レベル変換回路211B、211Cは、制御パルスpSWがハイレベルのときに、可変抵抗素子211Dがオン状態、かつ第2の抵抗値になり、可変抵抗素子211Eがオフ状態、かつ、第1の抵抗値になるように電位のレベルを変換する。
【0115】
入力レベル変換回路211Bには、制御パルスpSWがそのまま入力される。入力レベル変換回路211Bから出力される信号は、可変抵抗素子211Dのゲートに入力される。入力レベル変換回路211Cには、インバータ211Aにより反転された制御パルスpSWが入力される。入力レベル変換回路211Cから出力される信号は、可変抵抗素子211Eのゲートに入力される。
【0116】
可変抵抗素子211D、211Eのドレインは、電位VHを供給する電源電圧線に接続される。可変抵抗素子211Dのソースは光電変換部201Aのカソードに接続され、可変抵抗素子211Eのソースは光電変換部201Bのカソードに接続される。以上の構成により、可変抵抗回路211は、2つのアバランシェダイオードのいずれか一方においてアバランシェ増倍が生じるように抵抗を変化させることができる。
【0117】
以上のように、本実施形態によれば、第1実施形態乃至第3実施形態と同様にノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができる光電変換装置を提供することができる。
【0118】
[第5実施形態]
図14を用いて第5実施形態に係る撮像システムについて説明する。本実施形態の撮像システムは、第1実施形態乃至第4実施形態の光電変換装置を有する。撮像システムとは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用デジタルカメラ等の静止画又は動画の撮影に用いられる装置である。
【0119】
図14は、第5実施形態に係る撮像システムのブロック図である。撮像システムは、レンズ部1401、レンズ駆動装置1402、シャッタ1403、シャッタ駆動装置1404、光電変換装置1405、撮像信号処理回路1406及びタイミング発生部1407を有する。撮像システムは、更に、メモリ部1408、全体制御・演算部1409、記録媒体制御I/F(Interface)部1410、記録媒体1411、外部I/F部1412及び測光装置1413を有する。
【0120】
レンズ部1401は、被写体の光学像を光電変換装置1405に結像させる部分である。レンズ駆動装置1402は、レンズ部1401を駆動する装置である。レンズ駆動装置1402は、レンズ部1401を駆動することにより、ズーム制御、フォーカス制御、絞り制御等を行う。シャッタ1403は、入射光の遮蔽を行う光学部材であり、例えば、メカニカルシャッタが用いられ得る。また、シャッタ1403は、絞りの機能を兼ねていてもよい。シャッタ駆動装置1404は、シャッタ1403の開閉等の制御を行う。
【0121】
光電変換装置1405は、第1実施形態乃至第4実施形態の光電変換装置であり、レンズ部1401によって結像された被写体の光学像を画像信号に変換して取得する。撮像信号処理回路1406は、光電変換装置1405から出力される画像信号に対して各種の補正、データ圧縮等を行う回路である。タイミング発生部1407は、光電変換装置1405、撮像信号処理回路1406に、各種タイミング信号を出力する回路である。
【0122】
全体制御・演算部1409は、各種演算と撮像システム全体の制御を行う制御回路である。メモリ部1408は、撮像信号処理回路1406から出力される画像データを一時的に記録するための記録装置である。記録媒体制御I/F部1410は、記録媒体1411に対して記録又は読み出しを行うためのインターフェースである。記録媒体1411は、半導体メモリ等の着脱可能な記録媒体であり、画像データの記録又は読み出しに用いられる。外部I/F部1412は、各種情報、撮影画像等を外部に提供するためのインターフェースであり、コンピュータ等の他の情報処理装置との通信インターフェースであってもよく、表示装置等のユーザインターフェースであってもよい。
【0123】
次に、撮像システムが測距機能を備えたデジタルスチルカメラである場合の撮影時の動作について説明する。撮像システムのメイン電源がオンになると、撮像システムの制御用の電源と撮像信号処理回路1406等に電力を供給する撮像用の電源が順次オンになる。
【0124】
ユーザが、不図示のレリーズボタンを押下すると、光電変換装置1405は、画像信号を取得し、全体制御・演算部1409は、画像信号のデータに基づいて測距演算を行い、その結果に基づいて被写体までの距離を算出する。その後、レンズ駆動装置1402は、算出された距離に基づいてレンズ部1401を駆動して合焦しているか否かを判断し、合焦していない場合には、再びレンズ部1401を駆動するという処理により焦点調節を行う。測距演算は、光電変換装置1405により取得された画像信号を用いるもの以外に、不図示の測距専用装置で行われるものであってもよい。
【0125】
合焦が確認されると、撮像システムは、撮影動作を開始する。撮影動作の終了後、光電変換装置1405から出力された画像信号は、撮像信号処理回路1406において処理され、全体制御・演算部1409の制御によりメモリ部1408に書き込まれる。撮像信号処理回路1406は、データの並べ替え、加算等を行う。メモリ部1408に記録されたデータは、全体制御・演算部1409の制御により記録媒体制御I/F部1410を介して記録媒体1411に記録される。また、このデータは、外部I/F部1412を介してコンピュータ等に入力されてもよい。コンピュータは、撮像システムから出力されたデータに対して画像の加工等の処理を行うことができる。
【0126】
本実施形態の撮像システムは、第1乃至第4実施形態の光電変換装置を備えている。第1乃至第4実施形態の光電変換装置は、ノイズ電流に起因する信号品質の劣化を低減することができるよう構成されている。したがって、本実施形態によれば、ノイズの少ない画像を取得し得る撮像システムが提供される。
【0127】
[第6実施形態]
本発明の第6実施形態に係る撮像システム及び移動体について、図15(a)及び図15(b)を用いて説明する。図15(a)及び図15(b)は、本実施形態による撮像システム300及び移動体の構成を示す図である。
【0128】
図15(a)は、車載カメラに関する撮像システム300の一例を示したものである。撮像システム300は、光電変換装置310を有する。本実施形態の光電変換装置310は、上述の第1乃至第4実施形態のいずれかに記載の光電変換装置である。撮像システム300は、光電変換装置310により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う画像処理部312と、光電変換装置310により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う視差算出部314を有する。また、撮像システム300は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する距離計測部316と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する衝突判定部318と、を有する。ここで、視差算出部314及び距離計測部316は、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部318はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。距離情報取得手段は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールによって実現されてもよい。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0129】
撮像システム300は、車両情報取得装置320と接続されており、車速、ヨーレート、舵角等の車両情報を取得することができる。また、撮像システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU330が接続されている。また、撮像システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置340とも接続されている。例えば、衝突判定部318の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU330はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置340は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0130】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を撮像システム300で撮像する。図15(b)に、車両前方(撮像範囲350)を撮像する場合の撮像システム300の配置例を示した。車両情報取得装置320は、撮像システム300又は光電変換装置310に指示を送る。このような構成により、測距の精度をより向上させることができる。
【0131】
他の車両と衝突しないように制御する例を説明したが、他の車両に追従して自動運転する制御や、車線からはみ出さないように自動運転する制御などにも適用可能である。更に、撮像システム300は、自車両等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(移動装置)に適用することができる。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【0132】
[変形実施形態]
本発明は、上述の実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例や、他の実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。
【0133】
また、第5及び第6実施形態に示した装置又はシステムは、本発明の光電変換装置を適用し得る装置又はシステムの構成例を示したものであり、本発明の光電変換装置を適用可能な装置又はシステムは図14又は図15に示した構成に限定されない。
【0134】
上述のいくつかの実施形態においては2個の光電変換部201A、201Bを含む画素100が例示されているが光電変換部の個数は2個よりも多くてもよい。すなわち、上述のいくつかの実施形態において、複数の光電変換部は、第1のアバランシェダイオードを含む第1群及び第2のアバランシェダイオードを含む第2群のみからなると言い換えることができる。第1群及び第2群の各々に含まれるアバランシェダイオードは、1個であってもよく2個以上であってもよい。このとき、選択部は、第1群の光電変換部と第2群の光電変換部との動作状態/非動作状態が排他的になるような制御を行う。すなわち、選択部は、第1群を動作状態に制御する第1の場合には前記第2群を非動作状態に制御し、第2群を動作状態に制御する第2の場合には第1群を非動作状態に制御する。第1の場合、第2の場合とで、ともに動作状態にある光電変換部(アバランシェダイオード)は無いように制御している。また、第1の場合と第2の場合とのそれぞれで、ともに動作状態にある光電変換部の個数が等しくなるように制御することができる。また、図9のようにノイズが所定値を超えているか否かに応じて動作状態/非動作状態を制御する例においては、選択部は、第1群から出力された信号に含まれるノイズが所定値を超えている場合に、第1群を非動作状態に制御し、第2群を動作状態に制御する。
【0135】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0136】
なお、上述の実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0137】
100 画素
101 光電変換素子
102 画素信号処理部
201A、201B 光電変換部(アバランシェダイオード)
202 制御部
210 選択回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15