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特許7438739MEMSセンサーピックオフ信号をセンサーの振動共振器から復調する方法、およびピックオフ信号処理システム
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  • 特許-MEMSセンサーピックオフ信号をセンサーの振動共振器から復調する方法、およびピックオフ信号処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】MEMSセンサーピックオフ信号をセンサーの振動共振器から復調する方法、およびピックオフ信号処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5776 20120101AFI20240219BHJP
【FI】
G01C19/5776
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019224144
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021025991
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】1911104.6
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508296554
【氏名又は名称】アトランティック・イナーシャル・システムズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atlantic Inertial Systems Limited
【住所又は居所原語表記】Clittaford Road,Southway,Plymouth,Devon PL6 6DE,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ジョン キース シェアド
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ウィリアムソン
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223659(JP,A)
【文献】特開2016-153745(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164052(WO,A1)
【文献】特開2016-217746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/00-19/72
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSセンサーピックオフ信号をセンサーの振動共振器から復調する方法であって、
前記振動共振器の共振周波数の少なくとも50倍のサンプリングレートで、前記ピックオフ信号を、MEMSセンサーの前記振動共振器と同期していない非同期ADCでサンプリングして、サンプルのストリームを生成することと、
選択された動作に従って、前記サンプルのストリームからのサンプルを結合することにより第1の値を生成することであって、前記動作が、前記振動共振器の共振周波数に同期している同期クロック信号に応じて選択されており、前記同期クロック信号が、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも2倍の周波数を有することと、
前記第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることと、
を備えた、方法。
【請求項2】
前記選択された動作が
i)前記サンプルを前記第1の値に加算することと、
ii)前記サンプルを無視することと、
iii)前記第1の値から前記サンプルを減算することと、
から選択されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記同期クロック信号が、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも4倍の周波数を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非同期ADCが、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも80倍の、任意選択的に前記振動共振器の共振周波数の少なくとも100倍の、任意選択的に前記振動共振器の共振周波数の少なくとも200倍のサンプリングレートを有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
選択された第2の動作に従って前記サンプルのストリームからのサンプルを結合することにより第2の値を生成することであって、前記第2の動作が前記同期クロック信号に応じて選択されていることと、
前記第2の値に寄与するサンプルの数をカウントすることと、
を更に含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記同期クロック信号が前記振動共振器の発振の単一サイクル内でπ/4、3π/4、5π/4、及び7π/4ラジアンでトリガーを提供する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記同期クロック信号が、前記振動共振器の発振の単一サイクル内で0、π/2、π、及び3π/2ラジアンでトリガーを提供する、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルのストリームからのサンプルを結合することが、前記サンプルのそれぞれに相関関数を乗算することを含み、前記相関関数の値は、前記同期クロック信号に応じて選択されて、前記乗算の結果を前記第1の値に加算しており、前記第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることが、前記相関関数が非ゼロであるサンプルの数をカウントすることを含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第1の値が、前記振動共振器の完全な発振ごとに1回生成されている、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記生成された第1の値にスケーリング係数を適用される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
振動共振器を有するMEMSセンサー用のピックオフ信号処理システムであって、
前記MEMSセンサーの前記振動共振器と同期せずに、前記振動共振器のピックオフ信号を前記振動共振器の共振周波数の少なくとも50倍のサンプリングレートでサンプリングしてサンプルのストリームを生成するように構成された非同期アナログデジタル変換器と、
選択された動作に従って、前記サンプルのストリームからのサンプルを結合することにより第1の値を生成することであって、前記動作が、前記振動共振器の共振周波数に同期している同期クロック信号に応じて選択されており、前記同期クロック信号が、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも2倍の周波数を有する、前記第1の値を生成すること及び
前記第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすること、を行うように構成されたプロセッサと、
を含む、システム。
【請求項12】
前記プロセッサが、フィールドプログラマブルゲートアレイである、請求項11に記載のピックオフ信号処理システム。
【請求項13】
前記選択された動作が
i)前記サンプルを前記第1の値に加算することと、
ii)前記サンプルを無視することと、
iii)前記第1の値から前記サンプルを減算することとから選択されている、請求項11または12に記載のピックオフ信号処理システム。
【請求項14】
前記同期クロック信号が、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも4倍の周波数を有する、請求項11~13のいずれかに記載のピックオフ信号処理システム。
【請求項15】
前記非同期アナログデジタル変換器が、前記振動共振器の共振周波数の少なくとも80倍の、任意選択的に前記振動共振器の共振周波数の少なくとも100倍の、任意選択的に前記振動共振器の共振周波数の少なくとも200倍のサンプリングレートを有する、請求項11~14のいずれかに記載のピックオフ信号処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、MEMSジャイロスコープ、特に振動リング型ジャイロスコープからのピックオフ信号の実部及び直交部の復調のための信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
振動構造ジャイロスコープ及び他のセンサーは、半導体、例えばシリコン基板からの微小電気機械システム(MEMS)技術を用いて製造され得る。MEMS製造プロセスは、多くの場合、小型機械構造を(従来の製造方法と比較して)低コストで作製するために使用されている。低コスト、小型、及び本質的に堅牢な性質により、MEMSジャイロスコープを誘導、ナビゲーション、プラットフォーム安定化用途の範囲で利用することに大きな関心がある。MEMSジャイロスコープは、電子システムによって励起及び制御される機械構造を使用して動作する。これらの検出構造は一般に、14KHzの領域の搬送周波数FCで振動する。MEMS構造は一般に非常に小型であり、関心対象の信号も一般に非常に小さく、低いノイズ回路であり、十分な忠実度で情報を復元するために信号処理が必要とされる。振動リング構造ジャイロスコープは、様々な技術を使用して設計されることができ、例えば、誘導型、静電容量型、及び圧電型が(つまり、リングに加えられる力、及びリングから検出された信号が誘導電極、静電容量電極、または圧電電極を使用して生成/検出される場合)存在する。開ループシステムと閉ループシステムの両方が使用され得る。開ループシステムでは、信号はピックオフ電極から直接測定される。閉ループシステムでは、2次(コリオリ誘導)運動は2次駆動電極によって無効にされ、この2次駆動の大きさがシステム出力として使用される。
【0003】
振動構造ジャイロスコープのいくつかの例は、英国特許2322196、米国特許5,932,804及び米国特許6,282,958において確認できる。
【0004】
図1は、MEMSジャイロスコープとその関連する回路のブロック図を示している。環状機械式共振器1は、1次駆動電極PDによりその共振周波数(通常は14kHz)で振動する。共振は、1次ピックオフ電極PPで振動の振幅を検出することによって維持される。1次ピックオフ電極PPからの信号は、1次ピックオフ増幅器2によって増幅され、共振周波数にロックする電圧制御発振器/位相同期回路(VCO/PLL)モジュール3を駆動するために使用される。VCO/PLLモジュール3は、次いで1次駆動電極PDを駆動するために使用され、共振器1の共振を維持する。1次駆動信号の振幅はまた、1次駆動増幅器5を制御する自動利得制御(AGC)モジュール4を介しても制御される。VCO/PLLモジュール3の周波数(図1においてFRQと記載)は、VCO/PLLモジュール3から出力され、共振器1と同期した基準クロックとして2次処理ループに提供されている。
【0005】
環状共振器1は通常、cos2θ共振モードに励起される。完全に対称な共振器の場合、このモードは実際には、45度の相互角度で1次及び2次振動モードの縮退対として存在する。1次モードは、駆動信号によって搬送モードとして励起される。環状共振器がその平面に垂直な軸を中心に回転すると、コリオリ効果により直交方向に2次振動が発生し、エネルギーを2次モードに引き寄せる。2次モードの運動振幅は、適用された角速度に比例し、ピックオフ信号によって測定される。
【0006】
このようなコリオリ型ジャイロスコープでは、cos2θ振動モード対の1次周波数と2次周波数の不完全なマッチングにより、直交バイアスが発生し得る。直交バイアスは、大きな搬送周波数として現れるが、予想される機械的振動に対して90度の位相(位相直交)で現れる重大な誤差を表す。この直交バイアス信号は、実際の関心対象のピックオフ信号よりも数桁大きくなることがある。そのため、ピックオフ信号の処理システムには、同相成分と直交成分を正確に区別できるように、広いダイナミックレンジ、優れた直線性、及び非常に優れた位相精度が必要とされる。
【0007】
図1の2次処理ループは、共振器1の2次振動モードの振幅を測定するように配置された2次ピックオフ電極SPを含む。この振動の大きさは、検知軸を中心とする回転速度に比例している。前述のように、理想的なシステムでは、2次ピックオフ信号にはレート信号のみが含まれる。しかし、実際のシステム製造では、不完全性は、駆動モードの共振周波数と共振器の振動の検知モードとの間に不一致があることを意味する。この周波数の不一致により、所望のレート信号の上に直交信号が発生する。従って、2次ピックオフ電極からの信号には実部と直交部の2つの成分が含まれ、直交部は実部と位相が90度ずれている。信号の実部は、回転速度に比例する部分である。このレート信号を抽出するために、2次ピックオフ電極SPからの信号は復調モジュール6によって復調される。復調モジュール6は増幅器7を含み、直交信号9から実信号8を分離する。実信号8は、次いで、更なる増幅器10を介してジャイロスコープの出力として出力される。
【0008】
図1の例では、ジャイロスコープは、2次モード振動が2次駆動電極SDによってゼロになる閉ループジャイロスコープである。2次駆動電極SDは、再結合された実信号と直交信号(11で結合)によって駆動され、2次駆動増幅器12によって増幅される。
【0009】
2次ピックオフ信号は以下のように表される:
sp=Rcosωt+Qsinωt+b
式中、
Rは実(同相)振幅、
Qは直交振幅(位相のπ/2)、
ω/2πは共振周波数、
tは時間、
bは電圧オフセットである。
【0010】
信号のこれらの成分に加えて、例えば、測定回路からの電磁ノイズなどのノイズも存在する。
【0011】
復調モジュール6の目的は、ノイズを可能な限り除去しながら、実成分Rと直交成分Qを測定することである。現在の実装の1つが図2に示されている。2次ピックオフ増幅器7の出力は、アナログデジタル変換器(ADC)13によってデジタル化される。ADC13は、共振器1と同期するサンプルクロック14によって駆動され、共振器1の4倍の周波数でサンプリングするようになっており、タイムポイントωt=π/4、3π/4、5π/4、7π/4において、具体的にサンプリングする(例えば、サンプルクロック14は、図1に示されるFRQ信号から取得され得る)。ADC13は共振器1に同期されるため、サンプルは共振器の振動の特定のポイントに対応することが知られている。振動の1サイクル内で、これら4つのサンプル(図2のS1~S4)は、4つの対応する象限Q1~Q4に対応するように取得されることができる。図2では、第1象限Q1(サンプルS1が取得されている)では、信号の実部が正であり、直交部もまた正である。第2象限Q2(サンプルS2が取得されている)では、実部分は負であるが、一方で直交部は正である。第3象限Q3(サンプルS3が取得されている)では、実部は負であり、直交部もまた負である。第4象限Q4(サンプルS4が取得されている)では、実部は正であり、直交部は負である。これが以下の表にまとめられている。これが以下の表にまとめられている。
【0012】
【表1】
【0013】
S1はωt=π/4で取得され、S2はωt=3π/4で取得され、S3はωt=5π/4で取得され、S4はωt=7π/4で取得されている(但し、図2では、S3及びS4は、便宜的に時間軸の負側、つまり、それぞれ-3π/4及び-π/4の対応するポイントに表されている)。従って、ADCからの4つのサンプルを適切な方法で結合することにより、実成分と直交成分は、所望により、追加または相殺され得る。従って:
実部(Real)=S1-S2-S3+S4
直交部(Quad)=S1+S2-S3-S4
第1の合計では、サンプルの実部が加算され、一方で直交部が相殺される。第2の合計では、サンプルの直交部が加算され、一方で実部が相殺される。従って、2次ピックオフ信号の実成分と直交成分が復調される。サンプルクロックは共振器1と同期していることから、サンプルが共振サイクルの既知のポイントで取得され、サンプルが正しく加算及び減算され得るようになっており、この処理のみが機能することが理解される。
【0014】
サンプルS1~S4の処理は、上記の計算を実行するSPO復調器16で実行される。サンプルS1~S4は、ADC13とSPO復調器16との間に配置された記憶ユニット17に一時的に記憶されることができる。記憶ユニット17は、SPO復調器16の使用準備ができるまでADC13からのデータを保持するのに十分な記憶(例えば、レジスタまたはメモリの形態で)を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明は、改善された信号処理方法およびシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
MEMSセンサーピックオフ信号をセンサーの振動共振器から復調する方法が本明細書にて開示されており、本方法は、ピックオフ信号を共振器の共振周波数の少なくとも50倍のサンプリングレートで、非同期ADCでサンプリングしてサンプルのストリームを生成することと、選択された動作に従って、サンプルのストリームからのサンプルを結合することにより第1の値を生成することであって、動作は、共振器の共振周波数に同期している同期クロック信号に応じて選択されており、同期クロック信号が、共振器の共振周波数の少なくとも2倍の周波数を有することと、第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることとを含んでいる。
【0017】
ピックオフ信号から実成分及び/または直交成分を抽出する既存方法の欠点の1つは、信号内のノイズ量であり、従って、出力信号内の信号対ノイズ比である。ピックオフ信号自体のレベルは非常に低くなることがあり(例えば、数ミリボルト)、従って、センサーから適切な感度の信号を取得する際にノイズレベルが大きな問題になることがある。より多くのサンプルを平均化することがノイズを低減する良い方法であるが、これにはデータを収集に時間を要する、またはサンプリングレートを上げる必要のいずれかがある。長期間にわたるデータ収集は、システム出力の時間分解能を低下させ(例えば、秒あたりでの少ない読取り値)、また、データが経時変化するという事実によって制限され、そのため長時間にわたるデータ収集は出力を望ましくない形で平滑化する。しかし、共振器に同期した高速クロックを生成することは困難であり、単にサンプリングレートを上げることも問題である。典型的なMEMSセンサー用共振器周波数の4倍のサンプリングレート(すなわち、10kHz~20kHzの範囲の典型的な共振器周波数)で十分正確に同期を維持することには、既に難点がある。毎秒4サンプルのレートでピックオフ信号の実成分及び直交成分を正確に復調するには、これらサンプルが共振器サイクルにわたり非常に正確に間隔を空けてタイミングをとられる必要があり、(以下に説明するように)適切に組み合わせられると、各サンプルの実成分または直交成分が正確に相殺されることができ、それにより、実信号と直交信号の正確な測定値が取得できるようになっている。
【0018】
本開示の方法によれば、ピックオフ信号のサンプリングレートが増加するため、より多くのサンプルを考慮に入れることができ、それによりノイズが減少する。しかし、本開示による方法では、ADCは同期クロックによって駆動されない。代わりに、ADCは非同期で動作し、つまり、MEMSセンサーの共振器とは同期していない。これにより、はるかに高速のクロックを使用できるようになり、サンプリングレートが大幅に向上するが、各サンプルのタイミングが共振器サイクルの特定のポイントに関連付けられないという問題を引き起こす。その問題に対処するために、より低い周波数の同期クロック(つまり、MEMSセンサーの共振器と同期する)が使用され、どのサンプルが共振器サイクルの特定のセクター(例えば、同期クロックの隣接トリガーによって規定されたセクター)に入るかを追跡する。次いで、サンプルを結合する適切な方法を選択するためにこの情報が使用されることができる。従って、本開示の方法は、それらサンプルを結合する動作が依然としてより遅い同期クロックに依存している限り、より高速の非同期サンプルが取得され得るという事実を認めている。これにより、わずかなハードウェア、例えば、より高速な非同期ADCの更新だけで、信号対ノイズ比において大きな利得が実現されることを可能にしている。
【0019】
選択した動作は、i)サンプルを第1の値に加算することと、ii)サンプルを無視することと、iii)第1の値からサンプルを減算することとの中から選択されることができる。ピックオフ信号が完全なサイクルを通って移動すると、その信号の実成分と直交成分(互いに位相が90度異なる)は、(上記の表で説明したように)両方が正か、両方が負のいずれか、もしくは1つが正で1つが負である一連の象限を通過する。1つの成分(例えば、直交成分)が平均化されゼロになり、他の成分(例えば、実成分)が平均化され非ゼロ値になるピックオフ信号の適切なセクターを選択することにより、2つの成分が分離されること、つまり復調されることができる。そのようなセクターは、共振器の共振周波数の少なくとも2倍の周波数で動作する同期クロック信号によって識別され得る。
【0020】
例えば、同期クロックが共振器サイクル内でπ/2及び3π/2ラジアンでトリガーを提供し、信号の実成分のゼロ交差と整列すると、共振器サイクルは2つのセクターに分割され、そのうち一方では実信号は正(直交信号が対称で平均がゼロになる)であり、他方では、実信号が負(直交信号が対称で平均がゼロになる)である。第1のセクターからのすべての(正の)サンプルを加算し、第2のセクターからのすべての(負の)サンプルを減算することにより、合計値は直交成分が相殺された、実成分の平均値を表すことになる。値は、信号の形状(正弦波)及びサイクル全体で取得されたサンプル数(つまり、値に寄与したサンプル数)に依存するスケーリング係数を含むため、平均値の「代表値」である。動作の変化は、同期クロックのトリガーにおいてサイクルごとに2回のみ発生すること、つまり、π/2ラジアンで加算から減算に変化し、3π/2ラジアンで減算から加算に再度変化することに留意されたい。これらのポイント間に取り込まれたサンプルは非同期で取り込まれるが、それらのサンプル数がカウントされるため、終了値は適切にスケーリングされることができる。
【0021】
サンプルはメモリ内に記憶され、後の処理のために保持され得る。そのような場合、現在選択されている動作、つまり同期クロックの現在の期間、を表す値とともに各サンプルが記憶されることができ、各サンプルと共振器サイクルの関連セクターとの関連性を保持するようになっている。いくつかの例では、サンプルは必要になるまで例えば、メモリまたはレジスタのアレイなどの記憶ブロックに記憶されることができ、その結果として、それらはアクセスされ処理されることができる。しかし、すべてのサンプルをメモリに保存するには、かなりの量のメモリを準備する必要があり、メモリにアクセスして、後に適切な結合動作を実行するために、より複雑なロジックが必要とされる。これにはいくつかの利点があり得るが、代替的な簡単なセットアップは、各サンプルが生成されるとそれらを処理、つまり、現在選択された動作(例えば、加算、減算、またはアクションなし)による値のために、それぞれの新たなサンプルを現在実行されている合計値と結合することであり、その後現在のサンプルは簡単に破棄され得る。従って、メモリは、現在のサンプル、現在の実行されている合計、及び考慮されるサンプル数のカウントにのみ必要とされている。このような方法では、サンプルのフルサイクルが結合された後、生成された値がサイクルごとに1回出力され得る。保存された値(実行中の合計値及び考慮されたサンプル数)は、次いでリセットされることができ、プロセスが最初からやり直され、次の共振器サイクルで繰り返されるようになっている。
【0022】
上記の動作には、共振器の共振周波数の2倍の同期クロック信号で十分であるが、いくつかの例では、同期クロック信号は、共振器の共振周波数の少なくとも4倍の周波数を有する。このことが共振器サイクルをセクターに細かく分割することを可能とし、前述のように、現在、共振周波数の4倍で動作している特定の既存ハードウェアと整合している。従って、既存の設計を本開示の新たな改善された設計に更新するには、最小限の修正が必要とされている。サイクル内でより多くのセクターを画定することの更なる利点は、信号の実成分と直交成分の両方を同時に抽出するためにシステムが使用され得ることである。
【0023】
例えば、上記の表1で規定した4象限配置では、Q1及びQ4からサンプルS1及びS4を加算し(S1及びS4で直交成分を加算し、それらを相殺する)、一方でサンプルS2及びS3をQ2及びQ3から減算(再度、直交成分を相殺する)することで、実成分が抽出され得る。同時に、Q1及びQ2からサンプルS1及びS2を加算し(S1及びS2において実成分を加算することでそれらを相殺)、一方でQ3及びQ4からサンプルS3及びS4を減算(再度、実成分を相殺)することで直交成分が抽出され得る。従って、共振周波数の4倍で動作する同期クロックでは、π/4、3π/4、5π/4、7π/4のクロックトリガー間に4つのセクターを画定でき、実成分と直交成分の両方が抽出され得る。
【0024】
理想的には、ADCは可能な限り高速で動作し、考慮に入れることができるサンプル数を最大化するようになる(それにより、ノイズの平均化が向上する)。しかし、ADCが高速になるほどコストが高くなり、より高速で高価なクロックが必要とされる。特定の例では、ADCは、共振器の共振周波数の少なくとも80倍の、任意選択で共振器の共振周波数の少なくとも100倍の、任意選択で共振器の共振周波数の少なくとも200倍のサンプリングレートを有する。サンプリングレートの50倍を下回ると、他のエラーソースが支配的になるため、本方法の利点はそれほど顕著でなくなる。ADCは簡単に入手でき、ADCは、20kHzで共振するMEMS共振器の共振周波数の200倍(つまり、毎秒400万サンプルのサンプリングレート)で過剰なコストをかけることなく動作できる。
【0025】
上述のように、いくつかの例では、複数の信号成分が抽出され得る(例えば、実成分と直交成分が同時に抽出され得る)。従って、いくつかの例では、本方法は、選択された動作に従ってサンプルのストリームからサンプルを結合することにより第2の値を生成することであって、動作が同期クロック信号に応じて選択されていること、及び第2の値に寄与するサンプルの数をカウントすることを更に含む。
【0026】
第2の値の抽出プロセスは、第1の値のためのものと同じ種類の動作(加算、無視、減算など)を使用することができるが、これら動作を異なるタイミングで適用(例えば、共振器サイクルの異なるセクターに適用)することができる。
【0027】
前述のように、いくつかの例では、同期クロックは、共振器の発振の単一サイクル内でπ/4、3π/4、5π/4、及び7π/4ラジアンでトリガーを提供することができる。この装置の特別な利点の1つは、4つのサンプルポイントで取得されたサイクルあたり4つのサンプルで動作する既存センサーのハードウェア設計を再利用できることであり、これにより再設計及び更新のコストが最小限に抑えられることである。
【0028】
代替例では、同期クロックは、前述のように共振器の発振の単一サイクル内で0、π/2、π、及び3π/2ラジアンでトリガーを提供することができる。
【0029】
同期クロックは、好ましくは、完全結合信号(すなわち、実成分と直交成分を加算したもの)ではなく、ピックオフ信号の実成分または直交成分と同期することが理解されるであろう。このことが、(セクターは、実成分と直交成分のピーク及びゼロ交差に対して対称に配置され得るため)共振サイクルのセクターが適切に結合または相殺されることを確実にする。これは、共振器の1次駆動回路から同期クロックを導出することで実現でき、同期クロックは、誘導された直交信号を含まず、従って信号の実部と同期する(一方で、2次ピックオフ信号は、直交成分があることにより位相シフトされている)。
【0030】
サンプルを結合するための適切な動作を選択できる様々な方法がある。例えば、特定のセクターに関連する適切な動作を保存するためにルックアップテーブルが使用され得る。同期クロックがセクターの変更を示すたびに、今後使用する適切な動作を見つけるためにルックアップテーブルが参照され得る。
【0031】
しかし、いくつかの例では、サンプルのストリームからのサンプルを結合することが、各サンプルに相関関数を乗算することを含み、ここで相関関数の値は、同期クロック信号に応じて選択されて、乗算の結果を第1の値に加算しており、第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることは、相関関数が非ゼロであるサンプルの数をカウントすることを含んでいる。従って、加算と減算との間で変更するために相関関数の符号が使用されることができ、または、特定のサンプルを使用しない(つまり無視する)ことが望ましい場合は、ゼロに設定されることができる。次いで、積(相関関数で乗算されたサンプル)は、所望の値を生成するために常に現在の合計に単純に加算される。相関関数は、0、1、及び-1の正規化された値を単純にとることができ、つまり、それぞれ無視、加算、減算のプロセスを単純に識別する。しかし、相関は代替的に組み込まれたスケーリング係数を有する場合がある。いくつかの例では、処理能力がより容易に利用可能であり、リソースがそれほど制約されていない処理の以降にスケーリング係数を適用することが有益となり得る。従って、より単純な正規化された値は、より単純なハードウェアでより高速な処理を可能にし得る。
【0032】
前述のように、いくつかの例では、共振器の完全な振動ごとに第1の値が1回生成される。このような値はサイクル全体を通して蓄積されることができ、各値が生成された後、対応するレジスタは次のサイクルに備えてリセットされることができる。
【0033】
この手法の代替として、常に少なくとも1つの共振器サイクルの保存値が利用できるようにするために十分なサンプル値をメモリに記憶することがある。前のサイクルのサンプル値に基づいて、その後、より頻繁に値(実成分値と直交成分値)が生成されることができる。これらの値は、共振器の位置と明確に一致する時間のポイントであるため、同期クロックがトリガーするたびに簡単に出力されることができる。フルサイクルのサンプル値には、データのすべての関連セクターが含まれることになる。各サンプル値が(そのサンプルが取得されたセクターによって規定されるように)使用される演算子(複数可)に関連付けられて記憶されている限り、適切なサンプル値の組み合わせが、所望の値(複数可)を生成するために作成され得る。
【0034】
より頻繁に出力を生成することさえ可能となり得、例えば、新しいサンプル値が取得されるたびに更新する。しかし、このような手法には問題がある。まず、必要な処理能力が大幅に向上するが、より重要なことは、共振器サイクルごとのサンプル数が明確に規定されていないことである。例えば、温度やその他の環境の影響により、共振器の周波数とADCクロックの両方がドリフトすることがあり、このことがサイクルごとのサンプル数を変化させることがある。このような変更が比較的遅い場合、より定期的な更新のスライディングウィンドウを規定するために、定期的に更新される平均サイクル数が使用されることができる、または、各同期クロックトリガーの後に各サンプルのために推定相対サイクルタイムポイントが計算(及び記憶)されることができる。しかし、このような処理は複雑になる可能性が高く、ほとんどの場合、正当化されることがない。
【0035】
上述のように、スケーリング係数が生成された第1の値に適用され得る。同様に、使用される場合、スケーリング係数が第2の値に適用され得る。このような値は、ピックオフ信号の形状に依存し(例えば、正弦波はノコギリ波または方形波とは異なるスケーリング係数を有することになる)、同様に、得たサンプル数にも依存する。例えば、生成された値を、その値で考慮されるサイクル数で除算することが望ましくなり得る。考慮されるサンプル数は、意図的に除外されたサンプル、例えば、それらのサンプルを意図的に無視するか、相関値をゼロに設定することによって、除外する必要があることに留意されたい。そのようなスケーリングは、ダウンストリーム処理で直接使用できる復調された成分の平均値(例えば、実成分の平均値及び/または直交成分の平均値)を表すために最終値を正規化するために使用され得る。
【0036】
振動共振器を有するMEMSセンサー用のピックオフ信号処理システムが本明細書において更に開示されており、本システムは、
共振器のピックオフ信号を共振器の共振周波数の少なくとも50倍のサンプリングレートでサンプリングしてサンプルのストリームを生成するように構成された非同期アナログデジタル変換器と、
プロセッサであって、
選択された動作に従って、サンプルのストリームからのサンプルを結合することにより第1の値を生成することであって、動作が、共振器の共振周波数に同期している同期クロック信号に応じて選択されており、同期クロック信号が、共振器の共振周波数の少なくとも2倍の周波数を有する、第1の値を生成することと、
第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることと、
を行うように構成された、前記プロセッサと、を含んでいる。
【0037】
プロセッサは、任意の適切なプロセッサ、例えば、メモリに記憶された命令を実行するように構成されたプロセッサであり得る。しかし、いくつかの例では、プロセッサはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)である。FPGAは、単純な論理演算を非常に高速かつ効率的に実行するように構成されることができる。本明細書で説明する復調方法の処理は、より複雑な処理を必要とせずに単純な加算及び減算に大きく基づくことができるため、そのようなロジックに特に適している。スケーリング係数の適用など、より複雑な処理は、他のより計算的に集約的処理とともにダウンストリームに適用できる。
【0038】
方法に関連して上記で説明された任意選択機能のすべては、当然、任意選択でピックオフ信号処理システムに適用され得る。従って、選択された操作は、i)サンプルを第1の値に加算する、ii)サンプルを無視する、iii)第1の値からサンプルを減算することの中から選択され得る。同期クロック信号は、共振器の共振周波数の少なくとも4倍の周波数を有し得る。ADCは、共振器の共振周波数の少なくとも80倍、任意選択的に共振器の共振周波数の少なくとも100倍、任意選択的に共振器の共振周波数の少なくとも200倍のサンプリングレートを有し得る。
【0039】
システムは更に、選択された動作に従ってサンプルのストリームからサンプルを結合することにより第2の値を生成することであって、動作が同期クロック信号に応じて選択されていること、及び第2の値に寄与するサンプルの数をカウントすることを行うように構成され得る。
【0040】
同期クロックは、共振器の発振の単一サイクル内で、π/4、3π/4、5π/4、及び7π/4ラジアンでトリガーを提供することができる。代替的または追加的に、同期クロックは、共振器の発振の単一サイクル内で、0、π/2、π、及び3π/2ラジアンでトリガーを提供することができる。サンプルのストリームからのサンプルを結合することが、各サンプルに相関関数を乗算することを含むことができ、ここで相関関数の値は、同期クロック信号に応じて選択されて、乗算の結果を第1の値に加算しており、第1の値に寄与するサンプルの数をカウントすることは、相関関数が非ゼロであるサンプルの数をカウントすることを含んでいる。
【0041】
第1の値は、共振器の完全な振動ごとに1回生成され得る。スケーリング係数は、生成された第1の値に適用され得る。
【0042】
本開示の特定の例を、添付の図面を参照して本明細書で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】MEMSジャイロスコープ及び関連回路のブロック図を示す。
図2】既存のジャイロスコープのピックオフ復調プロセスを示す。
図3】本開示の一例によるピックオフ復調プロセスを示す。
図4】様々な信号成分の抽出に使用するサンプル分割の一例を示す。
図5】実際の信号に関連する相関関数を示す。
図6a】ノイズ低減を実証するいくつかのシミュレーション結果を示す。
図6b】ノイズ低減を実証するいくつかのシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1図2は上記で説明した。
【0045】
図3図2に類似しているが、本開示の一例によるピックオフ復調プロセスを示している。
【0046】
本実施例で使用するジャイロスコープは、図1に示したものとほぼ同じコンポーネントを有するが、復調処理は既存の機構から変更されており、図3に関連して説明する。
【0047】
2次ピックオフ信号SPOは、以前のように、環状機械式共振器(例えば、リングジャイロスコープのリング)1から取得され、増幅器7を通過する。増幅器7の出力は、次いでADC13に渡される。しかし、(図2のように)同期クロック14で駆動される代わりに、図3のADC13は、はるかに高いクロック周波数で非同期クロック15によって駆動される非同期ADCである。非同期クロック15は、共振器1の共振周波数の約100倍(またはそれ以上)で動作することができる。
【0048】
記憶ブロック17は、ADC13から出力されたサンプルを受け入れ、SPO復調器16がそれらを使用する準備ができるまでサンプルを記憶するように構成されている。記憶ブロック17は、メモリまたはレジスタのアレイまたは任意の他の記憶機構であり得る。記憶ブロック17は、本質的に、共振器1の共振周波数の大きな倍数で非同期クロック15のもとで動作する高速ADC13と、共振器1の共振周波数の小さな倍数で同期クロック14のもとで動作する低速SPO復調器16との間のバッファとして機能する。記憶ブロック17は、個別のサンプルを格納することができ、またはいくつかの例では、SPO復調器16による処理のために読み出されるまでサンプルを加算するアキュムレータとすることができる。
【0049】
SPO復調器16は、(記憶ブロック17を介した)ADC13からのサンプルを処理し、共振器サイクルのどのセクターから取得したかに依存する相関関数で各サンプルを乗算する。このセクター(従って相関関数)は、共振器1と同期する同期クロック14によって決定される。従って、相関関数は、ADC13のサンプリングレートよりもはるかに遅いレートで変化する。取得した各サンプルは相関関数で乗算され、SPO復調器16に格納されている現在合計に加算される(または同等にサンプルのストリームが最初に加算され、次いで、この合計値が現在合計値に加算される前に相関関数で乗算される)。完全な共振器サイクルの過程で、相関関数(共振器1と同期して変化する)が、SPO信号の特定の成分のみが継続的に現在合計値に追加され、一方で他の成分が相殺されることを確実にする。例えば、相関関数を適切に選択することにより、信号の実成分が累積され得、一方で直交成分を平均化され得る。同様に、相関関数の代替的な選択をすることにより、直交成分が蓄積される一方で、信号の実成分が平均化され得る。これらの値は両方ともSPO復調器16で同時に処理されることができ、従って、SPO復調器16は、(適切な相関関数で乗算された累積サンプルの現在合計である)QとRの両方の値をサイクル中に取得されたサンプルの数を示すサンプルカウントNとともに出力する。図3の特定の例では、RとQに考慮されるサンプルの数は同一であり、従って両方の値には単一のカウント値Nで十分であるが、他の例では、復調器16はRのためのサンプルカウント、及びQのための別個のサンプルカウントを出力できる。
【0050】
コンピューティングモジュール17は、SPO復調器16から現在合計R、Q及びサンプルカウントNを受信し、これらを、サンプルカウントN、及びSPO信号の波形の既知の形状を考慮したスケーリング係数に従ってスケーリングされた実際の出力値「Quad(直交)」及び「Real(実)」に変換して、適切にスケーリングされた値を出力する。本実施例では、共振器サイクルごとにRealとQuadの値を出力するだけでよいことから(他の実施例では望まれる場合、より定期的に出力するように構成され得るが)、コンピューティングモジュール17は他のコンポーネントよりもはるかに低い周波数で動作できる。
【0051】
本システムのハードウェアコンポーネントは、特に効率的な操作を可能にする様々な形態を取ることができる。共振器1、増幅器7、及びADC13は、高速(非同期クロック速度など)で動作する個別ハードウェアコンポーネントである。SPO復調器16は、いくつかの計算を実行する必要があるが、それらは単純であり、安価で電力効率の良いFPGAに実装されることができる。より複雑な計算は、コンピューティングモジュール17ではるかに低速で実行できるため、コストと消費電力が更に低減される。
【0052】
図4は、SPO信号から取得したサンプルが、どのように分割されることができ、信号のReal成分とQuad成分の値を計算するためにどのように使用できるかの例を示している。左側のグラフには、Real成分に使用されるサンプルが表示されている。これらは、-π/4からπ/4の間及び3π/4から5π/4の間のサンプルに対応する。-π/4からπ/4の範囲全体にわたり、信号のReal成分(cosωt)は正であり、従って、合計されて正の寄与になる。同じ範囲内で、Quad成分(sinωt)は対称的であり、従って平均化されゼロの寄与になっている。同様に、3π/4から5π/4の範囲では、信号のReal成分(cosωt)は負であり、従って合計されて負の寄与になる。同じ範囲内で、Quad成分(sinωt)は対称的であり、従って平均化されゼロの寄与になっている。相関関数を適用して、3π/4から5π/4の負の寄与を反転することにより、-π/4からπ/4の範囲の正の寄与が加算され、全体的なReal寄与が高度に正になり、Quad成分の寄与がゼロに平均化されるようになっている。
【0053】
異なるサンプルを使用して同様の処理が適用されることができ、Real寄与をゼロに平均化する一方でQuad寄与(正の寄与、及び反転した負の寄与の両方)を合計して、SPO信号のQuad成分の値を取得する。これらのサンプルは、図4の右側のグラフに示されており、π/4から3π/4の範囲及び5π/4から7π/4の範囲で取得される。
【0054】
相関関数が図5に示されており、SPO信号のサンプルにどのように一致するかを示している。一番上のグラフは、Real成分によって支配されているノイズのあるSPO信号を示しているが、抽出されるべきQuad寄与も有している。中央のグラフは、Real成分の相関関数を示している。この相関関数は、-π/4からπ/4の範囲内の値「1」(それにより正のReal寄与を加算)、及び3π/4から5π/4の範囲内の値「-1」(それにより全体の正の寄与のために負のReal寄与を減算)を有する。それらのサンプルが、この例のReal計算では考慮されないため、相関関数はその他の範囲に値「0」を有する。一番下のグラフは、Quad成分の相関関数を示している。この相関関数は、π/4から3π/4の範囲内の値「1」(それにより正のQuad寄与を加算)、及び5π/4から7π/4内の範囲の値「-1」(それにより全体の正の寄与のために負のQuad寄与を減算)を有する。相関関数は、これらのサンプルはこの例のQuad計算では考慮されていないことから、他の範囲では値「0」を有する。
【0055】
サンプルと相関関数の結果は、SR(Real成分)及びSQ(Quad成分)のための次の式で表され得る。
【0056】
【数1】
【0057】
【数2】
【0058】
ADCvnは、ADCからのサンプルの値である。サンプルレートは1/Δtである。
【0059】
従って、合計が非同期サンプルレート(高クロックレート)で行われる一方で、オペレーション間の切り替え、例えば、「加算」(第1の合計項)から「アクションなし」(合計項の間)及び「減算」(第2の合計項)までは、はるかに低い同期クロックレート(共振器サイクルごとに4回)でのみ発生する。これらの計算は、復調器16で行われる。
【0060】
この復調方式は、4つの象限(またはセクション)Q1(-π/4からπ/4)、Q2(π/4から3π/4)、Q3(3π/4から5π/4)、Q4(5π/4から7π/4)を規定している。
【0061】
Real及びQuadの値は、スケーリング係数を適用して曲線の形状を考慮することにより、計算モジュール17で計算できる。リングジャイロスコープから予想される正弦波信号の場合、この係数はサンプル数Nに2√2/πを乗算して計算され得る。従って:
【0062】
【数3】
【0063】
【数4】
【0064】
この復調方式で考慮することができるサンプル数の増加は、ノイズ低減、及びこれによる信号対ノイズ比に大きな利点をもたらす。
【0065】
一例では、5MHz(つまり、毎秒500万サンプル)で動作するADCと、14kHzの共振周波数を有するMEMSジャイロスコープ(つまり、共振周波数の約360倍で動作する非同期ADC)で、信号対ノイズ比は10倍以上改善された。これは2つの部分で計算できる。第1に、考慮されるサンプルの数は180であり、1/√180=0.07の減衰につながる。第2に、余分なサンプルはいくらか余分な利得をもたらすため、象限上の平均ゲインは(2√2)/π=1.1である。従って、全体の信号対ノイズの弁別は1:0.08である。
【0066】
別の例では、各サンプルをReal計算またはQuad計算(各合計は1/4の波長を超えている)のいずれかに割り当てる代わりに、サンプルはReal計算及びQuad計算(各合計は半分の波長を超えている)の両方に使用されることができる。これにはサンプルごとに2つの計算が必要であるが、各計算でより多くのサンプルが考慮されることができる。この例では、サンプルと相関関数の結果は、SR(Real成分)及びSQ(Quad成分)について、次の式で表されることができる。
【0067】
【数5】
【0068】
【数6】
【0069】
これらの方程式では、単に定義の便宜上、合計制限がt=0のタイムポイントにわたり行送りできること、及び-π/2からπ/2の範囲は当然3π/2から5π/2の範囲と同等であることが当然理解され得るであろう。また、サンプルに蓄積された波形が異なるため、この例では異なるスケーリング係数が適用されることになることも理解されるであろう。この例では、同期クロックトリガーは0、π/2、π、及び3π/2にある。
【0070】
この復調方式は、4つの重複するセクターP1(-π/2~π/2)、P2(0~π)、P3(π/2~3π/2)、及びP4(π~2π)を規定する。
【0071】
最後に、図6a及び6bは、上記の4分の1波長の例(つまり、π/4、3π/4、5π/4、及び7π/4でのクロックトリガー)でのノイズの改善を実証するいくつかのシミュレーションの結果を示している。図6aのグラフは、シミュレーションのためのReal及びQuad出力を示しており、Real信号が1ボルトの振幅を有し、Quad信号が(ランダムノイズを加えられた)0.1ボルトの振幅を有している。各グラフは、図2の復調方式(「オリジナル」とラベル付けされた線)と図3の、本開示による復調方式(「改善後」とラベル付けされた線)の両方についての計算出力を示す。各グラフから分かるように、両方式の平均値は期待値(Realで1ボルト、Quadで0.1ボルト)であるが、「改善後」ラインの分散は、「オリジナル」ラインの分散よりもはるかに低くなっており、本開示による方式でのノイズの大幅な低減を実証している。図6bのグラフのペアは、同じシミュレーションを示しているが、0ボルトのReal信号(プラスノイズ)と0ボルトのQuad信号(プラスノイズ)を使用したものである。「改善後」ラインの分散が「オリジナル」ラインよりもはるかに低いという点で、同じ効果が明らかになっている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b