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特許7438748植物性香料を含有するポリスチレン系発泡性樹脂粒子とその予備発泡粒子及び発泡成形体、青果物収納容器、並びにポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】植物性香料を含有するポリスチレン系発泡性樹脂粒子とその予備発泡粒子及び発泡成形体、青果物収納容器、並びにポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20240219BHJP
   C08J 9/22 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C08J9/18 CET
C08J9/22 CET
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019235495
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021102740
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基理人
(72)【発明者】
【氏名】木口 太郎
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309968(JP,A)
【文献】特開平08-208877(JP,A)
【文献】特開2013-139396(JP,A)
【文献】特開2010-248452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体単位を含む基材樹脂100重量部に対し、植物性香料を0.1重量部超0.7重量部以下含有する、青果物収納容器を製造するためのポリスチレン系発泡性樹脂粒子。
【請求項2】
前記植物性香料がL-メントール成分、及び/又は、シンナムアルデヒド成分を含むことを特徴とする請求項1記載のポリスチレン系発泡性樹脂粒子。
【請求項3】
樹脂粒子の表面が基材樹脂100重量部に対し、脂肪酸トリグリセライド0.05重量部以上0.2重量部未満で被覆されていることを特徴とする請求項1又は2記載のポリスチレン系発泡性樹脂粒子。
【請求項4】
スチレン系単量体単位を含む基材樹脂100重量部に対し、植物性香料を0.1重量部超0.7重量部以下含有し、
樹脂粒子の表面が基材樹脂100重量部に対し、脂肪酸トリグリセライド0.05重量部以上0.2重量部未満で被覆されている、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡させてなることを特徴とする予備発泡粒子。
【請求項6】
請求項に記載の予備発泡粒子を型内成形して得られる発泡成形体。
【請求項7】
請求項に記載の発泡成形体から構成される青果物収納容器。
【請求項8】
スチレン系単量体単位を含む基材樹脂100重量部に対し、植物性香料を0.1重量部超0.7重量部以下含有するポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡させてなる予備発泡粒子を型内成形して得られる発泡成形体から構成される青果物収納容器。
【請求項9】
スチレン系単量体を含む単量体及び植物性香料を、懸濁剤、重合開始剤とともに水性媒体中で懸濁重合して重合体を得る工程を含み、
前記植物性香料の使用量が、前記重合体100重量部に対して0.1重量部超0.7重量部以下である、青果物収納容器を製造するためのポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性香料を含有するポリスチレン系発泡性樹脂粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系発泡性樹脂粒子は比較的安価で、特殊な方法を用いずに蒸気等で発泡成形ができ、高い緩衝・断熱の効果が得られる為、幅広く使用されている。中でもその断熱性能を生かして、魚介類や野菜、果物などを保管、輸送する保冷容器に好適に使用される。
【0003】
これら魚介類、野菜、果物向けに使用される発泡容器に対して抗菌性能を付与する試みがなされている。例えば、特許文献1には、発泡性樹脂粒子に光触媒である酸化チタニウムを被覆することで抗菌性能を持たせる方法が記載されている。特許文献2では、銀及び/又は銀化合物を表面に付着させることで抗菌性能を持たせたスチレン系発泡性樹脂成形品について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-166070号公報
【文献】特開平11-209500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、発泡容器に対して収納する内容物自体の鮮度を維持する能力を持たせたいという要望がある。
本発明の目的は、鮮度維持能力を有する発泡成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、植物性香料には青果物の糖度の低減を抑制する効果があることを見出し、青果物の糖度の低減を抑制し、かつ青果物自体へのにおい移りの少ない発泡成形体を得るために鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。なお、植物性香料に青果物の糖度低減を抑制する効果があることは、今回初めて得られた知見である。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、スチレン系単量体単位を含む基材樹脂100重量部に対し、植物性香料を0.1重量部超0.7重量部以下含有するポリスチレン系発泡性樹脂粒子に関する。
本発明の第2は、前記植物性香料がL-メントール成分、及び/又は、シンナムアルデヒド成分を含むことを特徴とする第1の発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子に関する。
【0008】
本発明の第3は、樹脂粒子の表面が基材樹脂100重量部に対し、脂肪酸トリグリセライド0.05重量部以上0.2重量部未満被覆されていることを特徴とする第1~第2の発明いずれかのポリスチレン系発泡性樹脂粒子に関する。
本発明の第4は、第1~第3の発明いずれかに記載のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡させてなることを特徴とする予備発泡粒子に関する。
本発明の第5は、第4に記載の予備発泡粒子を型内成形して得られる発泡成形体に関する。
本発明の第6は、請求項5に記載の発泡成形体から構成される青果物収納容器に関する。
本発明の第7は、スチレン系単量体を含む単量体及び植物性香料を、懸濁剤、重合開始剤とともに水性媒体中で懸濁重合して重合体を得る工程を含み、
前記植物性香料の使用量が、前記重合体100重量部に対して0.1重量部以上0.7重量部未満であることを特徴とするポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、青果物の糖度の低減を抑制し、かつ青果物自体へのにおい移りの少ない発泡成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るポリスチレン系発泡性樹脂粒子は、スチレン系単量体単位を含む基材樹脂100重量部に対し、植物性香料を0.1重量部以上0.7重量部以下含有する。
【0011】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を構成する基材樹脂は、スチレン系単量体を主成分とした重合により得られるものである。成形性改善のため、スチレン系単量体との総量100重量%に対して10重量%程度までアクリル酸エステル系単量体を共重合してもよい。
【0012】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を構成するスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系誘導体が挙げられる。これらスチレン系単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。共重合できるアクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、などのアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。これらアクリル酸エステル系単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本明細書において、「スチレン系単量体単位」とは、スチレン系単量体に由来する構成単位である。
【0013】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子中に含有される植物性香料は0.1重量部超0.7重量部以下である必要がある。0.1重量部未満であると発泡成形体にした際に植物性香料の放散量が十分でないため青果物の糖度低下を抑制する効果が小さく、0.7重量部を超えると植物性香料の放散量が多く青果物へのにおい移りが発生しやすく食用に不適となりやすい。。十分に糖度低下抑制効果を得つつ青果物へのにおい移りを抑制するためには、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子中に含有される植物性香料は0.2重量部以上0.5重量部以下或いは0.5重量部未満であることが好ましい。本発明におけるポリスチレン系発泡性樹脂粒子中の植物性香料の含有量は、基材樹脂成分を100重量部とした際の植物性香料の仕込み量(使用量)である。
また、本発明者らは、植物性香料には樹脂の可塑効果があることを初めて見出した。ポリスチレン系発泡性樹脂粒子中に含有される植物性香料が0.1重量部未満であると樹脂の可塑効果も得られにくいため発泡性に劣る傾向にある。本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子中に含有される植物性香料は0.1重量部を超えるものであるため、植物性香料による樹脂の可塑効果を得ることができ、優れた発泡性を有するものとなる。
植物性香料としては常温で固体または液体の植物性香料が使用できる。また、保冷容器として使用する際には抗菌性能付与も求められることがあるため、植物性香料としては、抗菌性能を有するものが好ましく、例えば、メントール(L-メントール成分を含む)、ベイオイル、スペアミント、ペパーミント、シナモン(シンナムアルデヒド成分を含む)、ユーカリオイル、クミン、リモネンなどが挙げられる。中でも、植物性香料としては、L-メントール成分、及び/又は、シンナムアルデヒド成分が含まれることが好ましく、L-メントール成分がスチレン系樹脂粒子と相溶性が良いためスチレン系樹脂粒子への導入率が良く、発泡成形体にした際の徐放性が良く、さらに青果物の糖度低下効果とにおい移りとのバランスが良いことからより好ましい。
【0014】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子中に含有される単量体成分は、0.3重量%未満であることが好ましい。含有される単量体成分は、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡して得られる発泡成形体から揮発する傾向があり、特に含有される単量体成分が0.3重量%以上では、直接食品に接触する包装材料分野に好ましくない。
【0015】
含有単量体成分量は、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を重合する際の開始剤の使用量と重合温度の組み合わせにより、制御することができる。例えば、開始剤の使用量を多くする、重合温度を高くすることにより、含有単量体成分を下げることができる。
【0016】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子中には発泡性や成形性の調整のために必要に応じて、溶剤及び可塑剤を使用することができ、へキサン、ヘプタン等のC6以上の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロオクタン等のC6以上の脂環族炭化水素、ジイソブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、グリセリントリステアレート、グリセリントリカプリレート、ヤシ油、パーム油、菜種油、などが挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリスチレン系発泡性樹脂粒子における発泡剤の含有量は、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子100重量%に対して、3.0重量%以上10.0重量%以下であり、4.0重量%以上9.0重量%以下が好ましく、5.0重量%以上8.0重量%以下がより好ましい。
【0018】
発泡剤の含有量が3重量%未満では、予備発泡時間が長くなると共に、成形時の融着率が低下する傾向があり、製造コストが高くなり、経済的に不利である。発泡剤の含有量が10重量%を超えると、成形体が収縮し、成形体の外観を損なう傾向がある。
【0019】
本発明にて用いられる発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素、メチルクロライド、ジクロルジフルオロメタン、ジクロルテトラフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。これら発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これら発泡剤のうちでも、ブタンが発泡力が良好である点から好ましく、シクロヘキサンとブタンを併用することが発泡性樹脂粒子の発泡力を長期的に維持する点から特に好ましい。
【0020】
本発明におけるポリスチレン系発泡性樹脂粒子の重量平均分子量Mwとしては、22万以上31万未満が好ましく、22万以上28万未満がより好ましい。ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の重量平均分子量Mwが22万未満では、発泡成形体とした際の強度が低くなるばかりか、成形体表面が溶融しやすく、外観を損なう傾向があり、また、31万以上では、発泡性が低くなり、成形性が悪化する傾向がある。
【0021】
重量平均分子量Mwは、ポリスチレン系樹脂粒子を重合する際の開始剤の使用量と重合温度の組み合わせにより、制御することができる。例えば、開始剤の使用量を多くする、および/または、重合温度を高くすることにより、重量平均分子量Mwを低くすることができる。
【0022】
ここで、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミェーションクロマトグラフ(以下、「GPC」と略す場合がある)を用いて測定することができる。
【0023】
本発明における予備発泡粒子における発泡剤の含有量は、予備発泡粒子100重量%に対して、2.5重量%以上5.5重量%以下が好ましく、3重量%以上4.5重量%以下がより好ましい。
【0024】
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子は、該ポリスチレン系発泡性樹脂粒子から得られる発泡成形体の切断面の気泡の平均弦長が70μm以上120μm未満であることが好ましく。より好ましくは80μm以上110μm未満である。
【0025】
平均弦長が70μm未満では、発泡体を構成するセルの膜厚みが薄くなり、内部融着及び表面性が低下する傾向がある。平均弦長が120μm以上では、破壊強度(例えば、JIS A9511の曲げ強度や箱状成形体底割強度など)の破断点変位が短くなり、脆い成形体となる傾向がある。
【0026】
発泡体の切断面の気泡の平均弦長は、造核剤量によって制御することができる。例えば、造核剤を多くすると平均弦長は小さくなり、造核剤を少なくすると平均弦長は大きくなる。
【0027】
本発明において用いられる造核剤としては、例えば、メタクリル酸メチル系共重合体、ポリエチレンワックス、タルク、脂肪酸ビスアマイド、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、等が挙げられる。脂肪酸ビスアマイドの具体的例としては、メチレンビスステアリルアマイド、エチレンビスステアリルアマイド、ヘキサメチレンビスパルミチン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド等である。造核剤の好ましい量としてはポリスチレン系発泡性樹脂粒子100重量部に対して0.03重量部以上0.10重量部以下である。0.03重量部以下では気泡の平均弦長が120μmを超えやすい上に気泡径が不均一になりやすく、0.10重量部以上であると気泡の平均弦長が70μm以下となりやすい。
【0028】
ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法としては、水性媒体中にて懸濁重合法により得られる粒子に発泡剤を含浸する方法、水性媒体中にて塊状重合等により製造されたペレットに発泡剤を含浸する方法、のいずれの方法によっても得ることができる。
【0029】
これらの中でも、真球状の樹脂粒子を得ることができ、さらに、重合工程と、発泡剤を含浸する発泡剤含浸工程を一貫して行ってポリスチレン系発泡性樹脂粒子が得られる点から、工業生産性も良い懸濁重合法により製造することが好ましい。
本発明の一実施形態に係るポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法は、スチレン系単量体を含む単量体及び植物性香料を、懸濁剤、重合開始剤とともに水性媒体中で懸濁重合して重合体を得る工程を含み、前記植物性香料の使用量(仕込み量)が、前記重合体100重量部に対して0.1重量部超0.7重量部以下であることを特徴とする。すなわち、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法は、スチレン系単量体(および必要に応じてアクリル酸エステル系単量体)を懸濁剤、重合開始剤および、必要に応じて、その他の添加剤の存在下で重合反応を開始し、懸濁重合中に発泡剤を添加する、または、重合後に発泡剤を含浸させるものである。0.1部以下であると糖度低減の抑制効果が低く、また植物性香料による樹脂の可塑効果も得られにくいため発泡性に劣る。0.7重量部を超えると植物性香料のにおいが内容物に移りやすく、食用に不適となりやすい。
本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法は、上記構成を有するため、上述したポリスチレン系発泡性樹脂粒子を提供できる、という利点を有する。すなわち、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法は、上述したポリスチレン系発泡性樹脂粒子を製造するために好適に用いられる。なお、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法における「重合体」は、上述したポリスチレン系発泡性樹脂粒子が含む「基材樹脂」に相当する。
【0030】
本発明における植物性香料は懸濁重合の開始前にスチレン系単量体、懸濁剤とともに導入することが好ましい。懸濁重合前に導入することによりポリスチレン系発泡性樹脂粒子の内部まで均一に植物性香料を導入することができ、発泡成形体にした際に長期に渡って植物性香料が徐放されるため長期に渡って糖度低下抑制効果得られることが期待できる。また、発泡成形体に直接植物性香料を塗布ないし吹きかけた場合と比較して、短期的な多量の植物性香料の放散を防ぐことができるため、内容物へのにおい移りを起こしにくい。
【0031】
本発明における懸濁重合法において用いられる懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や第三燐酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質、等が挙げられる。難溶性無機物質を用いる場合は、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のア二オン界面活性剤を併用することにより、懸濁安定効果は増大させることができる。また、水溶性高分子と難溶性無機物質の併用も効果的である。
【0032】
本発明における懸濁重合法において用いられる重合開始剤としては、一般に熱可塑性重合体の製造に用いられるラジカル発生型重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の代表的なものとしては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオーキサイド-t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルへキシルカーボネートなどの過酸化物があげられる。これら重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
本発明の懸濁重合法における重合開始剤の使用量は、単量体全重量100重量部に対して、0.01重量部以上3重量部以下が好ましい。重合開始剤の使用量が0.01重量部未満では重合速度が遅くなる傾向があり、逆に、3重量部を超えると、重合反応が早く制御が困難になる傾向がある。
【0034】
本発明の懸濁重合時に添加可能な添加物として難燃剤、難燃助剤、等を本発明の効果を阻害しない範囲で使用してもよい。
【0035】
本発明において用いることができる難燃剤および難燃助剤としては、公知慣用のものが使用できる。難燃剤の具体例としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモブタン、ヘキサブロモシクロヘキサン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールF、2,4,6-トリブロモフェノール等の臭素化フェノール類、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、2,2-ビス[4'(2”,3”-ジブロモアルコキシ)-3',5'-ジブロモフェニル]-プロパン等の臭素化フェノール誘導体、臭素化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、臭素化ランダムスチレン・ブタジエン共重合体、臭素化スチレン・ブタジエングラフと共重合体などの臭素化ブタジエン・ビニル芳香族炭化水素共重合体(例えば、Chemtura社製EMERALD3000、若しくは、特表2009-516019号公報に開示されている)などが挙げられる。これら難燃剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
難燃助剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチルー2,3-ジフェニルブタン等の開始剤を使用してもよい。
【0037】
難燃剤及び難燃助剤については、懸濁重合の開始前にスチレン系単量体、懸濁剤とともに添加してもよいし、懸濁重合後に発泡剤を添加する前に添加してもよい。
【0038】
本発明において樹脂粒子表面に添付できる添付剤としては、公知慣用のものが使用できる。
【0039】
添付剤の具体例としては、例えば、ラウリン酸トリグリセライド、ステアリン酸トリグリセライド、リノール酸トリグリセライドなどの脂肪酸トリグリセライド、ラウリン酸ジグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、リノール酸ジグリセライドなどの脂肪酸ジグリセライド、ラウリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、リノール酸モノグリセライドなどの脂肪酸モノグリセライド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレエート等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これら添付剤は単独で用いても良いし、2種以上を混合しても良い。
また、これら添付剤は、発泡剤含浸工程を経たポリスチレン系発泡性樹脂粒子の脱水後に若しくは乾燥後に添加し被覆してもよい。被覆方法は特に限定されるものではないが、好ましい被覆方法としては、乾燥後に添付し、混合撹拌することにより被覆する方法が挙げられる。特に脂肪酸トリグリセライドを添付剤として使用すると、発泡粒子の気泡表面を可塑化ないし破泡させて植物性香料の放出を加速させることで効果を高めることができるため、好ましい。脂肪酸トリグリセライドの添加量(使用量)としては、基材樹脂成分100重量部に対し、0.05重量部以上0.2重量部未満以下が好ましい。脂肪酸トリグリセライドの添加量が基材樹脂成分100重量部に対して0.05重量部未満だと気泡表面を可塑化ないし破泡させる効果が十分でなく、0.2重量部以上だと破泡が促進されすぎることにより十分な発泡性が得られにくくなる。高い発泡性を維持するためには、より好ましくは0.05重量部以上0.1重量部以下である。すなわち、本発明の一実施形態に係るポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造方法としてより好ましくは、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の表面に脂肪酸トリグリセライドを被覆する工程が含まれ、脂肪酸トリグリセライドの使用量は、基材樹脂成分100重量部に対して0.05重量部以上0.2重量部以下である。
【0040】
本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡させてなる。すなわち、本発明の一実施形態に係る予備発泡粒子は、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を用いて公知の方法により発泡させる(予備発泡させる)ことで得ることができる。
【0041】
予備発泡方法としては、例えば、円筒形の予備発泡装置を用いて、蒸気等で加熱して発泡させる等の、通常の方法を採用することができる。
【0042】
予備発泡時の発泡温度(缶内温度)は、吹き込み蒸気圧及びエアー量により適宜調整されるものであるが、通常97~105℃程度が好ましい。
【0043】
本発明の一実施形態に係る発泡成形体は、本発明の予備発泡粒子を型内成形させてなる。すなわち、本発明の一実施形態に係る発泡成形体は、本発明のポリスチレン系発泡性樹脂粒子を発泡させて予備発泡粒子を製造し、かかる予備発泡粒子を用いて公知の方法により発泡成形を行うことにより得ることができる。
【0044】
予備発泡粒子を発泡成形させる方法としては、例えば、金型内に予備発泡粒子を充填し、蒸気等を吹き込んで加熱する方法により発泡成形体を得る、いわゆる型内発泡成形法、等の通常の方法を採用することができる。
【0045】
型内成形時の吹き込み蒸気圧としては、通常0.3~0.9kgf/cm程度で、型内温度としては105℃~130℃で成形することが好ましい。
【0046】
本発明の発泡成形体は、青果物収納容器として使用できる。本明細書における青果物とは、鮮度維持が求められる野菜及び果物を意味する。本発明の発泡成形体は青果物の中でも収穫後に呼吸により鮮度が悪化するものに対して特に有効であり、例えば、とうもろこし、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、りんご、メロンなどが挙げられる。
【実施例
【0047】
以下に、実施例及び比較例を挙げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0048】
実施例及び比較例中の発泡性、成形性及び糖度保持性能については、以下の方法で測定した。なお、「部」及び「%」は特に断りがない限り重量基準である。
【0049】
<発泡性評価>
ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を予備発泡機[大開工業製、CH-100]に投入し、吹き込み蒸気圧0.1kgf/cmにて65倍の発泡倍率となるまで発泡を行い、以下の基準にて発泡性を評価した。
○:蒸気吹込み時間120秒以内に65倍に到達
△:蒸気吹込み時間120以上180秒以内で65倍に到達
×:蒸気吹込み時間180秒以内に65倍に到達しない
【0050】
<とうもろこしの常温8日保管後の糖度保持率>
後述する<発泡成形体の製造方法>で得られた発泡成形体の箱の中にとうもろこし(品種:メグミゴールド、播種後88日の熟期の中早生イエロー種)を10個設置して5℃の冷蔵庫に入れて7日間保管後、23℃±3℃、湿度50%±5%の恒温室に移して保管し、恒温室保管1日目の糖度と保管8日目の時点で測定用のとうもろこしを無作為に3個ずつ取得した。
【0051】
取得したとうもろこしをラップで包み、電子レンジで500Wにて5分加熱したのち、とうもこし1本につき3列の粒を回収した。回収したトウモロコシの粒から40~50gを計量して乳鉢ですり潰した後にろ過したろ液を回収することで、搾汁液を得た。搾汁液を糖度計(ATAGO,PAL-1)で測定することにより糖度ともとめ、下記の式により常温8日保管後糖度の保持率を計算した。
常温8日保管後糖度の保持率=
恒温室保管8日目の糖度/恒温室保管1日目の糖度×100(%)
【0052】
<とうもろこしの食味検査時の臭気>
上記、糖度測定と同様に保管したとうもろこしの恒温室保管3日目のとうもろこしを採取し、電子レンジで500Wにて5分加熱した後に10人のパネラーで味見し、その際に感じた植物性香料の強さによって下記のように判定した。
〇・・・10人とも植物性香料の臭気を感じない
△・・・植物性香料の臭気を感じる人数が10人中、1~3名
×・・・3名以上が植物性香料の臭気を感じる
【0053】
(実施例1) <ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>
撹拌機付属の6Lのオートクレーブに、純水100重量部、リン酸三カルシウム0.15重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.007重量部および、開始剤としてベンゾイルパーオキサイド0.26重量部および1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.16重量部及び、造核剤としてポリエチレンワックス0.04重量部を仕込んだ。続いて、250回転/分で撹拌しながら、スチレン単量体100重量部、ヤシ油0.5重量部、L-メントール0.5重量部を仕込んだ後、98℃まで昇温させた。引き続き、98℃にて1.5時間保持した後にリン酸カルシウム0.05重量部を追加し、更に2.25時間保持して、ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0054】
次いで、発泡剤として、シクロヘキサン1.0重量部、ブタン7重量部をオートクレーブ中に圧入し、再び120℃まで昇温させた。その後、120℃にて2時間保温した後、室温まで冷却して、オートクレーブから重合スラリーを取り出した。取り出した重合スラリーを洗浄、脱水・乾燥することにより、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を得た。得られたポリスチレン系発泡性樹脂粒子を篩分けして、粒子径0.6mm~1.4mmのポリスチレン系発泡性樹脂粒子本体を分取した(以下より、便宜上、分取したポリスチレン系発泡性樹脂粒子をポリスチレン系発泡性樹脂粒子本体という)。ポリスチレン系発泡性樹脂粒子100重量部に対し、ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレートGF-200、日油株式会社製)0.15重量部、カスターワックス(カスターワックスAパウダー、日油株式会社製)0.05重量部、脂肪酸トリグリセライド0.1重量部(リケマールVT、理研ビタミン株式会社製)を、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子本体とともに混合攪拌させることでポリスチレン系発泡性樹脂粒子本体表面に塗布し、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を得た。
【0055】
<予備発泡粒子の製造>
ポリスチレン系発泡性樹脂粒子を、予備発泡機[大開工業製、CH-100]を用いて、吹き込み蒸気圧1.0kgf/cmの条件にて嵩倍率65倍に予備発泡を実施した。この際、吹き込み蒸気にはエアーを切り込ませて、吹き込み蒸気温度を調節した。その後、常温下で1日放置して、養生乾燥を行った。養生乾燥を行って得られた発泡粒子を予備発泡粒子として、以下の発泡成形体の製造に用いた。
【0056】
<発泡成形体の製造>
得られた予備発泡粒子を、成形機[ダイセン製、FH-300]を用いて、底面厚み30mm、側面厚み25mmで長さ400mm×幅240mm×高さ350mmサイズの箱形形状の金型内に充填し、吹き込み蒸気圧0.5kgf/cmの成型条件にて型内成形を行い、箱型の発泡成形体を得た。
【0057】
得られたポリスチレン系発泡性樹脂粒子および発泡成形体を用いて評価を行い、その結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.25重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0059】
(実施例3)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.25重量部に変更し、脂肪酸トリグリセライド(リケマールVT、理研ビタミン株式会社製)を0重量部とした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0060】
(実施例4)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.25重量部に変更し、脂肪酸トリグリセライド(リケマールVT、理研ビタミン株式会社製)を0.2重量部とした以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0061】
(実施例5)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.65重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0062】
(実施例6)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールをシンナムアルデヒド0.3重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0063】
(比較例1)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0重量部とした以外は実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0064】
(比較例2)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0065】
(比較例3)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールを0.8重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0066】
(比較例4)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールをシンナムアルデヒド0.1重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0067】
(比較例5)
<ポリスチレン系発泡性樹脂粒子の製造>において、L-メントールをシンナムアルデヒド0.8重量部に変更した以外は、実施例1と同様の操作により、ポリスチレン系発泡性樹脂粒子、予備発泡粒子、発泡成形体を得た。評価結果を、表1に示す。
【0068】
【表1】