(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240219BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20240219BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240219BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240219BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240219BHJP
B60L 7/24 20060101ALN20240219BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60W40/107
B60L9/18 J
B60T7/12 B
B60T8/17 C
B60L7/24 D
(21)【出願番号】P 2019238843
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】中田 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】小池上 貴
(72)【発明者】
【氏名】三本松 功
(72)【発明者】
【氏名】向山 浩司
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000935(JP,A)
【文献】特開2002-333365(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185848(WO,A1)
【文献】特開2000-118369(JP,A)
【文献】特開2003-250202(JP,A)
【文献】特開2006-175944(JP,A)
【文献】特開2018-161953(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0359219(US,A1)
【文献】特開2016-090343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60W 40/107
B60T 7/12
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標速度に従って車両の走行を制御する制御装置であって、
前記車両の速度を検出する車速検出部と、
前記車速検出部で検出された車速に基づいて加速度を算出する加速度算出部と、
前記加速度算出部の出力信号より所定の周波数信号成分を除去するノッチフィルタと、
前記加速度算出部の出力信号より一定周波数以上の信号成分を低減するローパスフィルタと、
前記ノッチフィルタおよび前記ローパスフィルタによるフィルタ処理後の加速度をもとに目標加速度を設定する手段と、
を備え、
前記車両の減速時における前記目標速度を、前記目標加速度を使用して算出する制御装置。
【請求項2】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、前記ノッチフィルタのノッチ周波数よりも高い請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタは、一次ローパスフィルタである請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記カットオフ周波数を、前記車速検出部を含むセンサ群より発生するノイズの周波数に応じて決める請求項2または3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記ノッチ周波数を、前記車両のメカ共振周波数に応じて決める請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記メカ共振周波数を前記ノッチ周波数とする請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記ノッチフィルタは、ノッチ周波数をω
0、半値幅を与える周波数をω
1,ω
2(ω
1<ω
0<ω
2)とすると、Q=ω
0/(ω
2-ω
1)で表されるQ値が0.7~0.8である請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記車速検出部で検出された車速信号に対して前記ノッチフィルタでフィルタ処理を行った信号をもとに前記加速度算出部で加速度を算出し、該算出された加速度信号に対して前記ローパスフィルタによるフィルタ処理を行う請求項1~7のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
電動モータを駆動するインバータ装置であって、
請求項1~8のいずれか1項に記載の制御装置により生成された目標速度に追従するように前記電動モータのトルク指令信号を生成する手段と、
前記トルク指令信号によって前記電動モータを駆動制御する手段と、
を備えるインバータ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のインバータ装置を備えた自動車。
【請求項11】
目標速度に従って車両の走行を制御する制御方法であって、
前記車両の速度を検出する工程と、
前記検出工程で検出された車速に基づいて加速度を算出する工程と、
前記算出工程で算出された加速度信号よりノッチフィルタによって所定の周波数成分を除去する第1のフィルタ処理工程と、
前記第1のフィルタ処理工程におけるフィルタ処理後の加速度信号よりローパスフィルタによって一定周波数以上の信号成分を低減する第2のフィルタ処理工程と、
前記第2のフィルタ処理工程によるフィルタ処理後の加速度をもとに目標加速度を設定する工程と、
前記設定工程で決定した目標加速度を使用して前記車両の減速時における前記目標速度を算出する工程と、
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車、ハイブリッド車等の車両では、種々のセンサからの検出信号、車載装置からの信号をECU(Electronic Control Unit)に入力して、車両の走行状態、運転者による運転操作状態等を判定している。
【0003】
特許文献1は、車速センサで検出された車速を時間微分して得た波形が振動的になり、その波形を車両の加速度として車両制御にそのまま適用すると、制御上の不具合が生じるという課題に鑑みて、車速の時間微分値に対してローパスフィルタ処理を施して高周波ノイズを低減し、高周波ノイズ低減値に対して勾配制限処理を施すことで定常振動を低減する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両で発生するノイズは、上述した各種センサからのノイズのみならず、車両の機械的な構造に起因するノイズ(メカ共振周波数によるノイズ成分)がある。このようなメカ共振によるノイズの振動成分は、センサ起因のノイズとは周波数帯域が異なるため、ローパスフィルタ処理では除去できないという問題がある。
【0006】
また、速度の瞬時値から得られた加速度データはメカ共振ノイズを含むので、そのままの加速度データを用いると次段の制御部は加速度の誤認識を引き起こすことがある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の減速時の速度制御において正確に加速度を算出できる制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本願の例示的な第1の発明は、目標速度に従って車両の走行を制御する制御装置であって、前記車両の速度を検出する車速検出部と、前記車速検出部で検出された車速に基づいて加速度を算出する加速度算出部と、前記加速度算出部の出力信号より所定の周波数信号成分を除去するノッチフィルタと、前記加速度算出部の出力信号より一定周波数以上の信号成分を低減するローパスフィルタと、前記ノッチフィルタおよび前記ローパスフィルタによるフィルタ処理後の加速度をもとに目標加速度を設定する手段とを備え、前記車両の減速時における前記目標速度を、前記目標加速度を使用して算出することを特徴とする。
【0009】
本願の例示的な第2の発明は、電動モータを駆動するインバータ装置であって、上記例示的な第1の発明に係る制御装置により生成された目標速度に追従するように前記電動モータのトルク指令信号を生成する手段と、前記トルク指令信号によって前記電動モータを駆動制御する手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本願の例示的な第3の発明は、自動車であって、上記例示的な第2の発明に係るインバータ装置を備えることを特徴とする。
【0011】
本願の例示的な第4の発明は、目標速度に従って車両の走行を制御する制御方法であって、前記車両の速度を検出する工程と、前記検出工程で検出された車速に基づいて加速度を算出する工程と、前記算出工程で算出された加速度信号よりノッチフィルタによって所定の周波数成分を除去する第1のフィルタ処理工程と、前記第1のフィルタ処理工程におけるフィルタ処理後の加速度信号よりローパスフィルタによって一定周波数以上の信号成分を低減する第2のフィルタ処理工程と、前記第2のフィルタ処理工程によるフィルタ処理後の加速度をもとに目標加速度を設定する工程と、前記設定工程で決定した目標加速度を使用して前記車両の減速時における前記目標速度を算出する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御装置において車両の機械的構造等に起因するメカ共振周波数成分とセンサノイズ成分の双方を除去した加速度信号をもとに速度制御を行うことで、車両の減速時および停止時において良好な乗り心地を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用電子制御装置が搭載された車両の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、ECUの加速度演算部の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ノッチフィルタとローパスフィルタの周波数特性の一例である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る制御装置における車両の停止処理を時系列で示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ECUの加速度演算部の他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用電子制御装置(以下、単に制御装置ともいう)が搭載された車両の全体構成を示すブロック図である。
【0015】
図1において車両1は、モータ制御装置である電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)3、ECU3の上位の制御装置(上位コントローラ)である車両制御装置(VCU:Vehicle Control Unit)2、ECU3からの制御信号に従って電動モータ15を駆動するモータ制御部(MCU:Motor Control Unit)9、電動モータ15に連結され、その回転駆動力を車輪13a,13bに伝達する変速機11等を備える。
【0016】
車両1は、例えば電気自動車(EV)であり、電動モータ15へ駆動電源を供給する不図示のバッテリを備える。また、車両1は、一つのペダル操作で加速、減速、および停車を自動速度制御することが可能な車両である。
【0017】
ここでの自動速度制御とは、例えば、一つのペダルにアクセルペダルとブレーキペダルの双方の機能を持たせ、運転者のペダル操作によるペダルストロークが所定位置から踏み込んだ状態にある場合には車両を加速し、所定位置から踏み戻した状態にある場合、車両を減速する制御である。
【0018】
ECU3は、種々の信号を受けてECU3全体の制御を司る、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。ECU3は、車両1への加速要求、減速要求、および停止要求に応じた出力信号をMCU9に送信して、電動モータ15を駆動制御する。
【0019】
なお、ECU3は、種々の制御プログラム等があらかじめ記憶された不図示の読み出し専用メモリ(ROM)、制御結果、演算結果を記憶する不図示の記憶部を備える。
【0020】
MCU9は、電動モータ15に駆動電流を供給するインバータ回路10を備える。インバータ回路10は、複数の半導体スイッチング素子(FET)からなり、外部バッテリよりモータ駆動用の電源が供給される。
【0021】
なお、スイッチング素子(FET)はパワー素子とも呼ばれ、例えば、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子を用いる。
【0022】
電動モータ15は、例えば3相ブラシレスDCモータであり、3相(U相、V相、W相)のインバータ回路10を構成する半導体スイッチング素子は、電動モータ15の各相に対応している。電動モータ15は、回転駆動する電動機としての力行作動と、ロータが駆動輪等から回転エネルギーを受けて発電機として動作する回生作動を行なう。
【0023】
速度演算部8は、電動モータ15の近傍に配置した位置検出器17からの信号をもとに電動モータ15の回転角度を求め、その回転角度をもとにモータ回転速度を演算する。位置検出器17として、例えばレゾルバを用いた場合、ホール素子等に比べて回転位置の検出精度および高温下での耐久性を高めることができる。一方、ホール素子17を用いた場合には、レゾルバ、エンコーダ等に比べて安価な構成にできる。
【0024】
車両1において運転者によってアクセルペダル21が操作されると、その操作量(アクセル開度)が不図示のアクセル開度センサで検出される。VCU2は、そのアクセル開度センサからのアクセル開度情報に基づいて、車両1の加速、減速等を制御する信号を生成する。
【0025】
VCU2は、自動速度制御中においてブレーキペダル23が操作された場合には、不図示のブレーキストロークセンサからのブレーキ操作量に応じた信号をブレーキ制御部25へ送信する。ブレーキ制御部25は、ブレーキパッド、油圧機構等で構成されるブレーキ機構27を制御して、車両1を停止させる。
【0026】
なお、ブレーキ制御については、電動モータ15の回生量による制動力を発生させる回生ブレーキ制御も含んだ構成としてもよい。
【0027】
VCU2は、車両1の走行時、電動モータ15の実際の駆動トルクに応じた目標トルクを演算し、電動モータ15のトルクがトルク指令値に追従するように制御するトルク制御(トルクコントロール)と、電動モータ15の実際の回転速度が目標回転速度となるように制御(保持)する速度制御(速度コントロール)を切り替える。
【0028】
VCU2は、トルク制御時において、例えばアクセルペダル21の踏み込み量と車速に基づいて、電動モータ15に対する要求駆動力(加速要求、減速要求)を実現するためのトルク指令値を演算し、それを指令トルクTrq*としてECU3へ入力する。ECU3は、指令トルクTrq*に応じたモータ駆動信号(PWM(Pulse Width Modulation)信号)を生成する。
【0029】
ECU3で生成されたモータ駆動信号は、FET駆動回路(モータ駆動回路)として機能する、MCU9内のインバータ回路10へ入力される。インバータ回路10を構成する半導体スイッチング素子は、モータ駆動信号によってON/OFF制御され、インバータ回路10から電動モータ15に所定の駆動電流が供給されて電動モータ15が駆動制御される。
【0030】
一方、速度制御時において、ECU3の加速度演算部5は、後述するようにVCU2より入力された速度データより目標加速度を演算する。演算された目標加速度は目標速度設定部7に入力される。MCU9は、目標速度設定部7からの目標速度に基づいて電動モータ15の回転速度を制御する。
【0031】
図2は、ECUの加速度演算部の構成を示すブロック図である。
図2において加速度算出部31は、上述した速度制御時に角度情報を微分して得た速度データより加速度データを得る。
【0032】
加速度算出部31からの出力信号は、帯域除去フィルタであるノッチフィルタ33に入力され、加速度信号より所定の周波数信号成分を低減する。具体的には、ノッチフィルタ33によって、車両1の機械的な構造等に起因して発生する、不要なメカ共振周波数成分を除去あるいは低減する。
【0033】
メカ共振周波数は、車両1の構造、あるいは車両1への積載重量の変動等により複数存在する場合があるが、ノッチフィルタ33のノッチ周波数を、車両1のメカ共振周波数に応じて決めることで、加速度データに含まれる不要なメカ共振周波数成分をピンポイントで効率的に低減できる。
【0034】
ノッチフィルタ33からの出力信号は、さらにローパスフィルタ35へ入力される。ローパスフィルタ35によって、ノッチフィルタ33からの出力信号より一定周波数以上の信号成分(各種センサからのノイズ)を低減する。
【0035】
図3は、ノッチフィルタ33とローパスフィルタ35の周波数特性の一例を示す。ノッチフィルタ33は、例えばデジタルフィルタであり、上述したメカ共振周波数(例えば、10Hz付近の周波数)をノッチ周波数(ω
0とする)とする減衰特性を有する。
【0036】
ノッチフィルタ33は、
図3において実線で示すようにノッチ周波数ω
0で振幅ゲインが最小となることで、ノッチ周波数成分とその近傍の周波数成分を入力信号から低減して出力する。
【0037】
ノッチ周波数ω0は、入力信号に減衰を与える中心周波数であり、ノッチフィルタ33の周波数特性は、下記の式(1)で示すように、ノッチ幅を示すパラメータであるQ値で表すことができる。
【0038】
Q=ω0/(ω2-ω1) … (1)
【0039】
式(1)のω
2-ω
1は半値幅と呼ばれる。半値幅を与える周波数ω
1は、
図3に示すようにω
0よりも周波数が低く、振幅が共振ピークの半値となる周波数(阻止帯域の振幅ゲインが通過帯域のゲインの-3dBとなる周波数)である。同じく半値幅を与える周波数ω
2はω
0よりも周波数が高く、振幅が共振ピークの半値となる周波数(阻止帯域の振幅ゲインが通過帯域のゲインの-3dBとなる周波数)である。
【0040】
ノッチフィルタ33は、Q値が大きいほどノッチ幅は狭くなる。
図3に示す特性を有するノッチフィルタ33のQ値は、例えば0.7~0.8である。
【0041】
ローパスフィルタ35は、例えばデジタルフィルタであり、ノッチフィルタ33より出力された信号より、上述した各種センサで生じた一定周波数以上のノイズ信号成分を低減する特性を有する。ここでは、
図3において一点鎖線で示すように、ローパスフィルタ35のカットオフ周波数ωcは、ノッチフィルタ33のノッチ周波数ω
0よりも高く設定されている。カットオフ周波数ωcは、例えば数100Hz、より詳細には300Hz付近の周波数である。
【0042】
ローパスフィルタ35のカットオフ周波数ωcは、車両1に搭載した各種センサより発生するノイズの周波数に応じて決める。ローパスフィルタ35は、例えば、一次ローパスフィルタとすることで、-20dB/decのフィルタ性能(減衰率)を実現できる。なお、ローパスフィルタ35の次数は、一次に限定されない。
【0043】
さらには、ローパスフィルタを使用することで、フィルタ処理における位相遅れを抑制でき、処理(計算)負荷を抑えて、加速度データに含まれる不要なセンサノイズを低減できる。
【0044】
仮に、上記のように周波数帯域の異なる、メカ共振周波数成分とセンサに起因するノイズ信号成分の双方をローパスフィルタのみで低減とすると、必要な周波数成分までも低減することになる。そこで、加速度演算部5において、周波数特性の異なるノッチフィルタ33とローパスフィルタ35を併用することで、加速度算出部31から出力される加速度データに含まれる不要なノイズ信号成分を低減し、必要な信号成分より正確な目標加速度を算出できる。
【0045】
次に、本実施形態に係る制御装置における車両の停止処理について説明する。
図4は、本実施形態に係る制御装置における車両の停止処理を時系列で示すフローチャートである。
【0046】
電子制御ユニット(ECU)3は、アクセルペダル21のストローク量に基づいて駆動力を制御して車両1を加速し、アクセルペダル21の踏み戻し(例えば、基準点からのアクセルペダルの戻り量)に基づいて制動力を制御することにより車両1を減速する制御を行う。
【0047】
車両1を減速する制動力は、アクセルペダル21のアクセル開度が0に近いほど大きくなり、アクセル開度が0のとき最大となる。そこで、上記のような自動速度制御時に運転者がアクセルペダル21を操作して、車両1が一定速度以下に減速され、かつ、アクセルペダル21の操作状態を示すアクセル開度が0となった場合、車両制御装置(VCU)2はECU3に停止指令を出力する。
【0048】
ECU3は、
図4のステップS11において、VCU2より停止指令を受信したか否かを判定する。停止指令を受信した場合、ECU3は、車両1が上述したトルク制御から速度制御へ移行したと判断して、以降において、停止に向けた処理を実行する。
【0049】
すなわちECU3は、ステップS13において、速度演算部8より車両1の速度を取得する。車両1の速度は、例えば電動モータ15の回転速度、あるいは車輪13a,13bの回転速度より求める。
【0050】
ECU3は、続くステップS15において、加速度演算部5の加速度算出部31によって、ステップS13で取得した車速を時間微分して加速度データを得る。そして、続くステップS17で、加速度算出部31より出力された加速度信号に対して、ノッチフィルタ33により、車両1のメカ共振周波数に対応する周波数成分を低減する(フィルタ処理1)。
【0051】
さらにECU3は、ステップS19で、ノッチフィルタ33からの出力信号より、ローパスフィルタ35によって一定周波数以上の信号成分を低減して(フィルタ処理2)、加速度データを得る。
【0052】
ECU3は、ステップS21において、上記ステップS15~S19における演算および処理によって得た目標加速度を目標速度設定部7に入力し、その目標加速度を逆算(積分)して目標速度を算出する。
【0053】
続くステップS23においてECU3は、ステップS21で算出された目標速度を電動モータ15の制御信号としてMCU9に送信し、電動モータ15が目標速度に従って回転するように速度制御(速度コントロール)をする。
【0054】
ECU3は、ステップS25において、目標速度に従って回転駆動されている電動モータ15を搭載した車両1が停止したか否か(速度が0となった)を判断する。そして、車両1が停止するまで(ステップS25の判断がYES)、目標速度に従った電動モータ15の制御を実行する。
【0055】
このように、自動速度制御を行っている車両において、踏み込まれていたアクセルペダルが踏み戻されることで車両を停車する場合、速度制御が開始された際の速度計算において、目標加速度をもとに目標速度を計算することによって運転者に違和感が生じるのを防止する。
【0056】
これは、ブレーキを踏まずに車両を減速してきた状態でトルク制御から速度制御へ移行したとき、ブレーキを踏んだ状態の加速度で目標速度を計算すると、運転者において違和感を感じることになるからである。
【0057】
すなわち、トルク制御から速度制御へ移行する際の切り替えタイミングで、処理する信号にメカ的な変動があると、連続的なつながりを持った減速ができない。そのため、車両停止時に運転者は違和感を感じ、良好な運転フィーリングを得ることができないからである。
【0058】
そこで、本実施形態に係る車両用電子制御装置では、周波数特性が相違するノッチフィルタとローパスフィルタを使用して、加速度算出部からの加速度データより不要なノイズ信号成分を低減して、速度制御が開始されたとき(すなわち、アクセルペダルから運転者の足が離れたとき)の目標加速度を決める制御をする。これは、減速したときの加速度情報がないと、その時点から停止に至る制御において、目標とする速度が分からないという事態が生じるのを避けるためである。
【0059】
なお、上記の実施形態では、加速度算出部31からの出力信号をノッチフィルタ33に入力してメカ共振周波数を低減し、ローパスフィルタ35によって、ノッチフィルタ33からの出力信号よりセンサノイズを低減する構成としたが、これに限定されない。
【0060】
例えば、
図5に示すように、車速信号(速度データ)に対してノッチフィルタ33でフィルタ処理を行った信号をもとに加速度算出部31で加速度を算出し、算出された加速度信号に対してローパスフィルタ35によるフィルタ処理を行ってもよい。
【0061】
このように速度データを、ノッチフィルタ処理→加速度算出→ローパスフィルタ処理の順で信号処理することによっても、不要なメカ共振周波数成分を低減した信号をもとに、加速度の算出精度を上げることができる。
【0062】
以上説明したように本実施形態に係る車両用電子制御装置は、加速度信号より、ノッチフィルタによって一定の周波数帯域内の信号、すなわち車両の機械的な構造等に起因して発生する不要なメカ共振周波数成分を低減し、さらに、ローパスフィルタによって、ノッチフィルタの出力信号より一定周波数以上の信号成分、すなわち各種センサからのノイズを低減した加速度データを得る構成を有する。
【0063】
したがって、自動速度制御を行っているときの車両の減速時において、ノッチフィルタとローパスフィルタを併用して、速度データを時間微分して得た加速度データから車両の走行制御の妨げとなるノイズ信号が低減されるので、それぞれのフィルタの特性を有効に使用して、より適切な目標加速度を算出し、目標とする速度に従った車両の制御および円滑な停止ができる。
【0064】
このとき、ローパスフィルタのカットオフ周波数を、ノッチフィルタのノッチ周波数よりも高く設定することで、加速度データに含まれるセンサノイズの周波数に対応する不要信号成分を効率的に低減できる。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 車両制御装置(VCU)
3 電子制御ユニット(ECU)
5 加速度演算部
7 目標速度設定部
8 速度演算部
9 モータ制御部(MCU)
10 インバータ回路
11 変速機
13a,13b 車輪
15 電動モータ
17 位置検出器
21 アクセルペダル
23 ブレーキペダル
25 ブレーキ制御部
31 加速度算出部
33 ノッチフィルタ
35 ローパスフィルタ