(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】接着剤付きポリイミドフィルムおよびフラットケーブル
(51)【国際特許分類】
C09J 7/25 20180101AFI20240219BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240219BHJP
H01B 7/08 20060101ALI20240219BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240219BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240219BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C09J7/25
C09J163/00
H01B7/08
B32B27/34
B32B7/025
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020036532
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】山下 伸介
(72)【発明者】
【氏名】日高 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】新美 公康
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059060(JP,A)
【文献】特開2018-165346(JP,A)
【文献】特開2018-150544(JP,A)
【文献】特開2012-041372(JP,A)
【文献】特表2020-506277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00-7/50
B32B 27/34
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5.8GHzでの誘電率が3.5以下、誘電正接が0.006以下であ
り、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とし、テトラカルボン酸成分として、ピロメリット酸二無水物の割合が25~65モル%であり、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合が35~75モル%であるポリイミドフィルムと接着剤層を有する接着剤付きポリイミドフィルム
【請求項2】
前記ポリイミドフィルムの吸水率が1.2%以下である、請求項1に記載の接着剤付きポリイミドフィルム
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムの湿度膨張係数が10ppm/%RH以下である、請求項1または2に記載の接着剤付きポリイミドフィルム
【請求項4】
前記接着剤層が、エポキシ樹脂を含む接着成分と、他の樹脂を含む添加剤とを含む、請求項1~
3のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルム。
【請求項5】
フラットケーブルの製造に用いるための請求項1~
4のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルム。
【請求項6】
導体を、一対の請求項1~
5のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルムで挟持したフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体を接着剤層と絶縁体層を有する基材2枚の間に挟持して製造されるフラットケーブルの製造等に有用な接着剤付きポリイミドフィルム、及びこの接着剤付きポリイミドフィルムで構成されたフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、テレビ、携帯電話やタブレット、パーソナルコンピュータのハードディスクなど、広く電気機器に使用されている。フラットケーブルは、配線状に形成した銅箔などの導体を、絶縁体層と接着剤層を有する基材(又は、単に「フラットケーブル用基材」ということがある。)間に並べ、基材の接着剤層で挟みこむことによって製造される。
近年は、これらに加えて無線インターネットや通信機器の高速化が進み、高周波数で動作することが多くなり、高い伝送速度を実現できるフラットケーブルが求められている。
【0003】
信号伝送の遅延を低減するためには誘電特性に優れた接着剤層、絶縁層を用いることが必要である。例えば、特許文献1には、低誘電性ポリエステル樹脂、難燃性接着剤層を用いたフレキシブルフラットケーブル用絶縁フィルムが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、難燃層と接着剤層を分けたフレキシブルフラットケーブル用多層樹脂シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-31273号公報
【文献】特開2015-201312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、ポリエステル樹脂は難燃性に不足があり、接着剤層が難燃剤を含むため十分に誘電特性を向上できないという課題があった。特許文献2では、構造が複雑になるためコスト高になり、また、使用している樹脂シートはポリエステルやポリフェニレンサルファイドであり、難燃性に課題があった。
【0007】
本発明の目的は、誘電特性に優れた接着剤付きポリイミドフィルム(基材)及びこのポリイミドフィルムで構成されたフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フラットケーブルに使用する基材フィルムの中でも、難燃性、耐熱性に優れるポリイミドフィルムに着目し、接着剤層を備えたポリイミドフィルムにおいて、さらなる誘電特性の向上を検討し、鋭意研究を重ねた結果、ポリイミドの原料やフィルムの前駆体であるゲルフィルムの態様を選択するなどにより、安価な材料を用いて、ポリイミドの単層フィルムで上記のような特性を充足しうることを見出し、さらなる検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の接着剤付きポリイミドフィルム等に関する。
[1]5.8GHzでの誘電率が3.5以下、誘電正接が0.006以下であるポリイミドフィルムと接着剤層を有する接着剤付きポリイミドフィルム
[2]前記ポリイミドフィルムの吸水率が1.2%以下である、[1]に記載の接着剤付きポリイミドフィルム
[3]前記ポリイミドフィルムの湿度膨張係数が10ppm/%RH以下である、[1]または[2]に記載の接着剤付きポリイミドフィルム
[4]前記ポリイミドフィルムが、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とする、[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルム。
[5]前記接着剤層が、エポキシ樹脂を含む接着成分と、他の樹脂を含む添加剤とを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルム。
[6]フラットケーブルの製造に用いるための[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルム。
[7]導体を、一対の[1]~[6]のいずれかに記載の接着剤付きポリイミドフィルムで挟持したフラットケーブル。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、誘電特性に優れた接着剤付きポリイミドフィルムを提供できる。
【0011】
このような接着剤付きポリイミドフィルムは、誘電特性に優れるため高周波対応基板用に好適に使用することができる。
【0012】
このように、本発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、上記のような優れた特性を有しており、特に、フラットケーブル(フラットケーブル用基材)に用いれば、高周波に対応した高性能のフラットケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ポリイミドフィルム]
本発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、接着剤層を備えたポリイミドフィルムであり、このような接着剤付きポリイミドフィルムは、通常、ポリイミドフィルムの片面に接着剤層を有する。なお、接着剤付きポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルム面(ポリイミドフィルムの面のうち、接着剤層が設けられていない面)側に、さらに他の層を備えていてもよい。
【0014】
まず、ポリイミドフィルムについて説明する。
【0015】
本発明に用いるポリイミドフィルムは、誘電特性において特定の範囲を充足する。
【0016】
本発明のポリイミドフィルムの誘電正接は、0.006以下である。好ましくは0.0055以下、より好ましくは0.005以下、さらに好ましくは0.0045以下である。誘電正接が0.006を超えるとフレキシブルフラットケーブルにしたときの伝送損失が大きくなるので好ましくない。
【0017】
本発明のポリイミドフィルムの誘電率は、3.5以下である。3.4以下が好ましい。誘電率が3.5を超えると基板にしたときの伝送速度が低下するので好ましくない。
【0018】
なお、誘電正接及び誘電率の測定方法は、後述する実施例に記載された通りの方法で行い、測定周波数は5.8GHzで行う。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムの吸水率は、1.2%以下が好ましい。さらに1.1%以下が好ましい。水分を含むと誘電率や誘電正接を上げてしまう可能性があり、吸水率が1.2%を超えることは好ましくない場合がある。
【0020】
なお、吸水率は、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0021】
ポリイミドフィルムの湿度膨張係数は吸湿時の寸法変化を表し、10ppm/%RH以下が好ましい。より好ましくは9ppm/%RH以下、さらに好ましくは8ppm/%RH以下である。湿度膨張係数が10ppm/%RHを超えると吸湿時の寸法変化が大きくなり、銅配線の配線間距離が変わってしまう可能性があるため好ましくない場合がある。
【0022】
なお湿度膨張係数は後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0023】
なお、ポリイミドフィルムは、複数のポリイミドフィルムの積層体であってもよく、通常、単一のポリイミドフィルムであってもよい。
【0024】
ポリイミドフィルムは、延伸フィルムであってもよい。このような延伸フィルムにおいて、延伸条件(例えば、TD方向及び/又はMD方向の延伸倍率等)は、後述の条件であってもよい。
【0025】
本発明では、延伸フィルムにおいても、上記のような物性・特性を効率よく実現しやすい。
【0026】
[ポリイミド及びポリイミドフィルムの製造方法]
ポリイミドフィルム(又はポリイミドフィルムを構成するポリイミド、又はポリアミック酸)は、ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを重合成分とする。
【0027】
具体的には、ポリイミド(又はポリイミドフィルム)を製造するに際して、まず、ジアミン成分(ジアミン成分(A))とテトラカルボン酸成分(テトラカルボン酸成分(B))とを有機溶媒中で重合させることにより、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を得る。
【0028】
なお、ポリアミック酸は環化反応に供されるが、本発明では後述のように化学閉環法により環化するのが好ましい。そのため、ポリアミック酸(ジアミン成分(A)及びテトラカルボン酸成分(B))は、化学閉環法を適用可能(化学閉環可能)な成分(又は化学閉環法により効率よく環化できる成分)であるのが好ましい。
【0029】
ジアミン成分(A)は、通常、少なくとも芳香族ジアミン成分を含む。また、テトラカルボン酸成分(B)は、通常、芳香族テトラカルボン酸成分を含む。
【0030】
具体的なジアミン成分(A)としては、パラフェニレンジアミンと1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンが挙げられ、具体的なテトラカルボン酸成分(B)としては、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、これらで構成される重合成分が全重合成分の60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上を占めるものとする。すなわち、本発明のポリイミドフィルムは、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主たる重合成分とする。
【0031】
このようなジアミン成分(A)において、パラフェニレンジアミンの割合は、25~50モル%が好ましく、より好ましくは28~47モル%、さらに好ましくは30~45モル%である。この範囲よりも割合が下回ると線膨張係数が大きくなり金属との貼り合わせにおいて寸法変化が大きくなるので好ましくない場合があり、またこの範囲よりも割合が上回ると作成したフィルムが脆くなり製膜困難となるので好ましくない場合がある。
【0032】
ジアミン成分(A)のもう1つに挙げられている1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンの割合は、50~75モル%が好ましく、より好ましくは53~72モル%、さらに好ましくは55~70モル%である。この範囲よりも割合が下回ると誘電率、誘電正接が高くなり、基板にしたときの伝送損失等に悪影響を及ぼすので好ましくない場合がある。またこの範囲よりも割合が上回ると、耐熱性が低下するので好ましくない場合がある。
【0033】
ジアミン成分(A)としては、上記の他に、例えばメタフェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、ジアミノビアリール[又はビス(アミノアリール)、例えば、ベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン]、ジ(アミノアルキル)アレーン(例えば、パラキシリレンジアミンなど)、ジ(アミノアリール)エーテル(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルなど)、ジ(アミノアリール)アルカン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン)、ジ(アミノアリール)スルホン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン)、ジ(アミノアリール)アレーン[例えば、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼンなど]、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ジ[(アミノアリールオキシ)アリール]アルカン{例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなど}などが挙げられる。
【0034】
テトラカルボン酸成分(B)において、ピロメリット酸二無水物の割合は、25~65モル%が好ましく、より好ましくは30~60モル%、さらに好ましくは35~55モル%である。この範囲よりも割合が下回ると耐熱性が低くなる場合があり、またこの範囲よりも割合が上回ると吸水率が高くなるので好ましくない場合がある。
【0035】
テトラカルボン酸成分(B)のもう1つに挙げられている3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の割合は、35~75モル%が好ましく、より好ましくは40~70モル%、さらに好ましくは45~65モル%である。この範囲よりも割合が下回ると誘電率、誘電正接が高くなり、基板にしたときの伝送損失等に悪影響を及ぼすので好ましくない場合がある。またこの範囲よりも割合が上回ると耐熱性が低くなるので好ましくない場合がある。
【0036】
テトラカルボン酸成分(B)としては、上記の他に、例えばアレーンテトラカルボン酸成分[例えば、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、これらの酸無水物など]、ビス(ジカルボキシアリール)エーテル成分(例えば、4,4’-オキシジフタル酸、4,4’-オキシジフタル酸無水物など)、ビアリールテトラカルボン酸成分[例えば、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、これらの酸無水物など]、ジアリールケトンテトラカルボン酸成分(例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びその無水物など)、ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]アルカン成分{例えば、5,5’-[1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)ビスオキシ]ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)など}などが挙げられる。
【0037】
ポリアミック酸溶液の形成に使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒、フェノール、o-,m-,又はp-クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒又はヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を使用した混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエン等の芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0038】
重合方法は、公知のいずれの方法で行ってもよく、例えば以下(1)~(5)が一般的な方法として挙げられる。
【0039】
(1)先にジアミン成分全量を溶媒中に入れ、その後、テトラカルボン酸成分をジアミン成分全量と当量(等モル)になるように加えて重合する方法。
【0040】
(2)先にテトラカルボン酸成分全量を溶媒中に入れ、その後、ジアミン成分をテトラカルボン酸成分と当量になるように加えて重合する方法。
【0041】
(3)一方のジアミン成分(a1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方のテトラカルボン酸成分(b1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方のジアミン成分(a2)を添加し、続いて、もう一方のテトラカルボン酸成分(b2)を全ジアミン成分と全テトラカルボン酸成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
【0042】
(4)一方のテトラカルボン酸成分(b1)を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方のジアミン成分(a1)が95~105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方のテトラカルボン酸成分(b2)を添加し、続いてもう一方のジアミン成分(a2)を全ジアミン成分と全テトラカルボン酸成分とがほぼ当量になるように添加して重合する方法。
【0043】
(5)溶媒中で一方のジアミン成分とテトラカルボン酸成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(A)を調整し、別の溶媒中でもう一方のジアミン成分とテトラカルボン酸成分をどちらかが過剰になるよう反応させてポリアミック酸溶液(B)を調整する。こうして得られた各ポリアミック酸溶液(A)とポリアミック酸溶液(B)を混合し、重合を完結する方法。
重合方法はこれらに限定されることはなく、その他公知の方法を用いてもよいが、線膨張係数を低く、かつ誘電正接を低くでき、さらに引張弾性率の高いフィルム特性を得るのに効果的な方法として以下を挙げておく。
【0044】
(6)ポリイミドのブロック成分を形成させるために、重合の第1段階として、パラフェニレンジアミンに対してピロメリット酸二無水物が90モル%以上、100モル%未満となる比率で、溶媒中で1時間以上混合し、次いで共重合ポリイミドのランダム成分を形成させるために、重合の第2段階として、1,3-ビス(4―アミノフェノキシ)ベンゼンを添加した後、芳香族テトラカルボン酸成分(b1)を添加して1時間以上攪拌し、さらに(b1)と異なる芳香族テトラカルボン酸成分(b2)を全芳香族テトラカルボン酸成分と全芳香族ジアミン成分とがほぼ等モルとなる量添加して1時間以上攪拌する。この重合では第1段階と第2段階はアミン成分過剰下で連続して行われるため、それぞれで形成されるブロック重合成分とランダム共重合成分とが分子結合して形成されることになる。こうして得られたブロック重合成分には低線膨張係数化の効果、ランダム共重合成分には低誘電正接化の効果があり、両者併せ持つ特性を得ることができる。
【0045】
ポリアミック酸溶液は、通常、5~40重量%程度の固形分を含有し、好ましくは10~30重量%程度の固形分を含有してもよい。また、ポリアミック酸溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計による測定値で通常10~2000Pa・s程度であってもよく、安定した送液のために、好ましくは100~1000Pa・s程度であってもよい。また、有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0046】
次に、ポリイミドフィルムの製造方法について説明する。ポリイミドフィルムの製膜(製造)は、例えば、ポリアミック酸溶液を環化反応させてゲルフィルムを得る(ポリアミックス酸又はポリアミック酸溶液をゲルフィルムに転化する)工程(1)、得られたゲルフィルムを乾燥(及び脱溶媒)処理し、熱処理する工程(2)を経て得ることができる。なお、乾燥及び熱処理により、乾燥及びイミド化が進行する。
【0047】
工程(1)において、ポリアミック酸溶液を環化反応させる方法は、特に限定されないが、具体的には、(i)ポリアミック酸溶液をフィルム状にキャストし、熱的に脱水環化させてゲルフィルムを得る方法(熱閉環法)、又は(ii)ポリアミック酸溶液に触媒(環化触媒)及び脱水剤(転化剤)を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作製し、加熱により、ゲルフィルムを得る方法(化学閉環法)等が挙げられ、特に後者の方法(化学閉環法)が好ましい。
【0048】
化学閉環法(さらには、前記のような特定のジアミン成分及び/又はテトラカルボン酸成分を選択しつつ、化学閉環法を選択すること)によれば、意外にも、本発明のポリイミドフィルムに要求される物性・特性(誘電特性、吸水率、CTEなど)を効率よく得やすいようである。また、量産性の観点からも、化学閉環法は好適である。
【0049】
なお、上記ポリアミック酸溶液は、ゲル化遅延剤等を含有してもよい。ゲル化遅延剤としては、特に限定されず、アセチルアセトン等を使用することができる。
【0050】
環化触媒としては、アミン類、例えば、脂肪族第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなど)、芳香族第3級アミン(ジメチルアニリンなど)、複素環第3級アミン(例えば、イソキノリン、ピリジン、β-ピコリンなど)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、β-ピコリンなどの複素環式第3級アミンが好ましい。
【0051】
脱水剤としては、酸無水物、例えば、脂肪族カルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸など)、芳香族カルボン酸無水物(例えば、無水安息香酸など)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、無水酢酸及び/又は無水安息香酸が好ましく、特に無水酢酸が好ましい。
【0052】
環化触媒及び脱水剤の使用量は、特に限定されないが、それぞれ、ポリアミック酸(又はポリアミド酸)のアミド基(又はカルボキシル基)1モルに対して、例えば、1モル以上(例えば、1.5~10モル)程度であってもよい。
【0053】
ゲルフィルムは、通常、ポリアミック酸溶液(特に環化触媒及び転化剤を混合したポリアミック酸溶液)を、支持体上に流延(塗布)して部分的に乾燥及び硬化(イミド化)させることで得ることができる。
【0054】
より具体的には、ポリアミック酸溶液を、スリット付き口金から支持体上に流延してフィルム状に成型し、支持体からの受熱、熱風又は電気ヒーター等の熱源からの受熱により、加熱して閉環反応させ、遊離した有機溶媒等の揮発分を乾燥させることによりゲルフィルムとした後、支持体から剥離することにより得てもよい。
【0055】
ここで、ゲルフィルムは剥離するために自己支持性を備える必要があるが、通常、化学閉環法で得られたゲルフィルムと、熱閉環法で得られたゲルフィルムとでは、その態様が大きく異なる。すなわち、化学閉環法では、触媒によりゲル化(転化)できるため、溶媒を多く含む自己支持性のゲルフィルム(柔軟又はウェットなゲルフィルム)が得られる一方、熱閉環法では、ゲル化の(自己支持性を持たせる)ために多大な熱処理が必要となり、結果として比較的硬い(残存溶媒の少ない)ゲルフィルムが得られる。
【0056】
本発明では、意外にも、化学閉環法を経たゲルフィルムを用いることで、所望の特性(低誘電正接、低誘電率、低吸水性、低CTEなど)を有するポリイミドフィルムを効率よく形成できる。
【0057】
支持体としては、特に限定されないが、金属(例えばステンレス)製の回転ドラム、エンドレスベルト等が例として挙げられる。支持体の温度は、特に限定されず、例えば、30~200℃、好ましくは40~150℃、さらに好ましくは50~120℃であってもよい。
【0058】
なお、支持体の温度は、(i)液体又は気体の熱媒体、(ii)電気ヒーター等の輻射熱等により制御できる。
【0059】
工程(2)では、ゲルフィルムを乾燥(脱溶媒)後、熱処理する。通常、工程(2)は、ゲルフィルムの幅方向両端を把持しつつ加熱炉(テンター加熱炉など)を通過させて、乾燥し、その後、熱処理を行う工程を含んでいてもよい。
【0060】
具体的には、支持体から剥離されたゲルフィルムは、特に限定されないが、通常、回転ロールにより走行速度を規制しながら搬送方向に延伸されてもよい。搬送方向への延伸は、所定の温度(例えば、140℃以下の温度)で実施されてもよい。その延伸倍率(MDX)は、通常1.05~1.9倍であり、好ましくは1.1~1.6倍であり、さらに好ましくは1.1~1.5倍(例えば、1.15~1.4倍)である。
【0061】
乾燥において、乾燥温度は、例えば、210℃以上(例えば、213~500℃)、好ましくは215℃以上(例えば、218~400℃)、さらに好ましくは220℃以上(例えば、220~300℃)で行ってもよい。
【0062】
また、乾燥は、フィルム幅方向における乾燥ムラ(バラツキ)を抑えつつ行ってもよい。例えば、フィルム幅方向の乾燥温度ムラは、例えば、25℃未満(例えば、0~24℃)、好ましくは22℃以下(例えば、1~21℃)、さらに好ましくは20℃以下(例えば、2~19℃)、特に18℃以下(例えば、3~18℃)であってもよい。
【0063】
なお、乾燥温度ムラは、例えば、フィルム幅方向に沿って所定の間隔(例えば、200mm)で複数点をとり、測定した乾燥温度の最大値と最小値との差(幅)を乾燥温度ムラとして測定できる。
【0064】
ゲルフィルム(特に、搬送方向に延伸されたゲルフィルム)は、乾燥後、熱処理される。熱処理温度は、特に限定されず、例えば、200℃以上(例えば、250~600℃)、好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上であってもよい。
【0065】
また、乾燥後、さらに、幅方向へ延伸されてもよい。幅方向への延伸は、熱処理と共に行ってもよい。
【0066】
幅方向への延伸において、延伸倍率(TDX)は、例えば、1.05~1.9倍であり、好ましくは1.1~1.6倍であり、さらに好ましくは1.1~1.5倍(例えば、1.15~1.4倍)であってもよい。
【0067】
なお、このような延伸により、誘電正接、比誘電率、CTE、吸水率などをより小さくしやすい(又は調整しやすい)場合がある。
【0068】
このようにしてポリイミドフィルムが得られる。得られたポリイミドフィルムに対しては、さらにアニール処理や、易接着処理(例えば、コロナ処理、プラズマ処理のような電気処理又はブラスト処理)を行ってもよい。
【0069】
[接着剤付きポリイミドフィルム]
次に、接着剤層について説明する。本発明の接着剤層は、接着成分を含んでいればよい。
【0070】
接着成分としては、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド樹脂など)、熱硬化性樹脂(例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂など)などが挙げられ、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0071】
接着剤層は、接着性を損なわない範囲で、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、難燃剤、酸化防止剤、架橋剤、接着成分の範疇に含まれない樹脂{以下、単に「他の樹脂」ともいう。例えば、エラストマー(例えば、スチレン系エラストマーなど)}などが挙げられる。特に接着剤層の柔軟性を維持するために添加剤を含んでいることが好ましい。
【0072】
また、接着剤層は、溶剤(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、ジメチルケトンなどのケトン系溶剤など)を含んでいてもよい。
【0073】
接着剤層において、添加剤は、接着成分1重量部に対して、例えば、1.5~200重量部(例えば、2~170重量部)、好ましくは2~150重量部(例えば、3~140重量部)、より好ましくは3~120重量部(例えば、5~100重量部)程度であってよい。
【0074】
接着剤付きポリイミドフィルムにおいて、ポリイミドフィルムの厚さ(平均厚さ)は、例えば1~150μm(例えば、3~125μm)、好ましくは5~120μm(例えば、7~100μm)、より好ましくは10~80μm(例えば、15~50μm)程度であってもよい。
【0075】
接着剤付きポリイミドフィルムにおいて、接着剤層の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されないが、例えば、300μm以下(例えば、1~250μm)、好ましくは200μm以下(例えば、2~180μm)、さらに好ましくは150μm以下(例えば、3~120μm)、特に100μm以下(例えば、5~80μm)であってもよく、通常1~50μm(例えば、3~40μm、好ましくは5~35μm、さらに好ましくは10~30μm)であってもよい。
【0076】
特に、接着剤層の厚さ(平均厚さ)は、接着剤付きポリイミドフィルムの全体厚さに対してあまり大きくなりすぎないのが好ましく、例えば、ポリイミドフィルム(接着剤層を設けていないポリイミドフィルム)の厚さ(平均厚さ)に対して、3倍以下(例えば、0.01~2.8倍)の範囲から選択でき、例えば、2.5倍以下(例えば、0.05~2.4倍)、好ましくは2.3倍以下(例えば、0.1~2.2倍)、さらに好ましくは2倍以下(例えば、0.15~1.8倍)、特に1.5倍以下(例えば、0.2~1.2倍)であってもよく、通常0.25~2.3倍であってもよい。
【0077】
接着剤層の厚さを上記のように調整することで、難燃性などに優れた接着剤付きポリイミドフィルムを得やすい。
【0078】
また、接着剤層の厚さ(平均厚さ)は、導体の埋め込み性を考慮し、導体の厚さの1/2以上であってもよい。この場合、導体の埋め込みが十分となり、導体間に空隙が発生しにくい等の観点から好ましい。
【0079】
本発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、難燃性に優れている。
【0080】
例えば、本発明の接着剤付きポリイミドフィルムの酸素指数は、25%以上(例えば、27~90%)の範囲から選択でき、例えば、30%以上(例えば、32~80%)、好ましくは35%以上(例えば、37~75%)、さらに好ましくは40%以上(例えば、42~70%)、特に45%以上(例えば、46~65%)であってもよい。
【0081】
なお、酸素指数は、例えば、JIS K7201-2に準拠して測定できる。
【0082】
接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層は、TMA針入りモード測定における針入り侵入量を特定の範囲に調整してもよい。
【0083】
例えば、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層は、TMA針入りモード測定における接着剤層の厚さに対する、100℃における針入り侵入量(侵入割合)が、10%以下(例えば、0~8%)、好ましくは7%以下(例えば、0.1~6%)、さらに好ましくは6%以下(例えば、0.3~5.5%)、特に5%以下(例えば、0.5~5%)を充足してもよい。
【0084】
なお、接着剤層の厚みに対する針入り侵入量(侵入割合)は、接着剤層の厚みをA(μm)、針入り量をB(μm)とするとき、(B/A)×100(%)で表すことができる。
【0085】
また、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層は、TMA針入りモード測定における接着剤層の厚さに対する、140℃における針入り侵入量(侵入割合)が、5%以上(例えば、7~90%)の範囲から選択でき、例えば、10%以上(例えば、15~88%)、好ましくは20%以上(例えば、20~85%)、さらに好ましくは25%以上(例えば、26~80%)を充足してもよい。
【0086】
接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層は、TMA針入りモード測定における接着剤層の厚さに対する、180℃における針入り侵入量(侵入割合)が、20%以上(例えば、22~95%)の範囲から選択でき、例えば、25%以上(例えば、27~92%)、好ましくは30%以上(例えば、35~90%)、さらに好ましくは40%以上(例えば、42~88%)、特に45%以上(例えば、50~85%)を充足してもよい。
【0087】
上記のように各温度における針入り侵入を調整することで、難燃性、耐熱性、寸法安定性、導体間の気泡の発生量などを効率よく調整しやすい。
【0088】
なお、TMA針入りモード測定の各温度(100℃、140℃、180℃)における針入り侵入量は、TMA測定装置を用い、針入りモードの測定を昇温速度10℃/分で200℃まで行い、各温度(100℃、140℃、180℃)まで圧子の侵入深さ(針入量、単位:μm)を読み取り、接着剤層の厚みに対する各温度(100℃、140℃、180℃)まで圧子の侵入深さの比率によって、求めることができる。TMA測定装置としては、島津製作所製熱分析機(TMA-60)を用いてよい。
【0089】
接着剤付きポリイミドフィルムは、例えば、ポリイミドフィルムの片面又は両面に接着剤を塗布し、乾燥させることによって得ることができる。塗布及び乾燥方法は、特に限定されない。
【0090】
[フラットケーブル]
本発明の接着剤付きポリイミドフィルムは、特に、フラットケーブルの製造に使用することが好ましい。
【0091】
フラットケーブルの製造方法は、特に限定されないが、導体を、2枚の(一対の)接着剤付きポリイミドフィルムで挟みこむ(挟持する)方法があげられる。フラットケーブルは、通常、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層同士で、導体が挟みこまれている。フラットケーブルは、例えば、複数の導体を同一平面内で配列した導体列を、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層同士で挟みこむことによって、製造することができる。尚、接着剤付きポリイミドフィルム間に導体を挟みこむ際に、加熱、加圧などを行ってもよい。
【0092】
導体としては、特に限定されないが、例えば、導電性金属の扁平箔や丸線、長方形の断面を持つ平角導体、有機導電体などが挙げられる。導電性金属としては、特に限定されないが、銅、銀、錫、インジウム、アルミニウム、モリブデン、これらの合金などを使用してよい。また、導体の幅や厚さは、特に限定されない。
【0093】
フラットケーブルは、さらに補強板を有していてもよい。
【0094】
補強板としては、例えば、ポリイミドフィルム単体、もしくはポリイミドフィルムを複数枚(例えば、2~3枚)積層したもの等である。ポリイミドフィルムを複数枚積層する方法に指定はないが、ポリイミドフィルムのみを積層する方法やポリイミドフィルムの間に他の層(例えば、接着剤層など)を介して積層する方法等がある。この場合のポリイミドフィルムの構成、物性は、特に限定されない。
【0095】
補強板の厚みは、例えば、50~500μm(例えば、75~300μmなど)程度であってよい。
【0096】
また、補強板は、フラットケーブルの片面に積層されていてもよいし、両面に積層されていてもよい。
【0097】
本発明のフラットケーブルは、熱による寸法安定性に優れ、180℃で10分加熱後の熱収縮率(寸法変化率)が、例えば0.20%以下(例えば、0.01~0.15%)、好ましくは0.15%以下(例えば、0.01~0.13%)である。
【0098】
フラットケーブルとしては、例えば、各種電気機器(例えば、テレビ、携帯電話、タブレット、パーソナルコンピュータ)用などとして用いられ、特に、FPD(フラットパネルディスプレイ)用に用いてもよい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。実施例、比較例に記載したPPDはパラフェニレンジアミン、RODAは1,3―ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ODAは4,4‘-ジアミノジフェニルエーテル、PMDAはピロメリット酸二無水物、BPDAは3,3’-4,4‘-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、DMAcはN,N-ジメチルアセトアミドを表す。
【0100】
実施例及び比較例で作製したポリイミドフィルムについて、以下の特性を測定した。
【0101】
[誘電特性の評価]
測定サンプルは、23±1℃/50±5%RHに調整された温調室で3日以上調整した。同じ温調室内に設置されたアジレント・テクノロジー株式会社/株式会社関東電子応用開発製の摂動法誘電率測定装置CP521(5.8GHz用)を同軸ケーブルでネットワークアナライザ8722A/C/Dに接続して誘電特性を測定した。フィルム厚みは、[フィルム厚み]記載の方法で測定した。
【0102】
[吸水率]
蒸留水中に1日間静置し、乾燥時重量に対しての増加重量%で評価した。具体的には6cm径の円形にフィルムを切り取り、200℃1時間熱処理した後の重量(W0)を乾燥時の重量として測定し、蒸留水中に1日間静置し吸水させたフィルムの重量(W1)を測定し、下記計算式により吸水率を求めた。
吸水率(%)=(W1-W0)/W0×100。
【0103】
[フィルム厚み]
Mitutoyo製ライトマチック(Series318)厚み計を使用して、フィルム前面から任意に15箇所を選び、この15箇所について厚みを測定し、その平均を算出し、フィルム厚みとした。
【0104】
[湿度膨張係数]
アルバック理工製TM9400熱機械分析装置を使用し、荷重25g、測定温度25℃、湿度範囲:25~70%RHの条件で測定した。
【0105】
[ポリイミドフィルムAの製膜]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中にDMAc239.1gを入れ、ここにPPD3.91g(0.036モル)とPMDA7.66g(0.035モル)を投入し、常温常圧中で1時間反応させた。次にここにRODA24.69g(0.084モル)を投入し均一になるまで攪拌した後、BPDA23.08g(0.078モル)を添加し。1時間反応させた。続いてここにPMDA1.55g(0.007モル)を添加してさらに1時間反応させて粘度3000ポイズのポリアミック酸溶液を得た。
【0106】
冷却した上記ポリアミック酸溶液100gにβ-ピコリン18gと無水酢酸20g、DMAc10gを添加し、アプリケーターを用いてガラス板状に流延し、自己支持性のゲルフィルムを得た。得られたゲルフィルム(無延伸フィルム)を、クリップ付きの二軸延伸機にセットし、縦方向(搬送方向)に1.1倍、その後横方向(幅方向)に1.1倍の倍率になるように段階的に延伸処理を行い、延伸したゲルフィルムを10cm角針付きの金枠にピンニングし、200℃30分、300℃20分、360℃5分の条件で熱処理を行うことにより、厚さ25μmのポリイミドフィルム(逐次二軸延伸フィルム)を得た。このフィルムの各特性の評価を行い、表1にその結果を示した。
【0107】
[ポリイミドフィルムB~Eの製膜]
ポリイミドフィルムAと同様の手順で、ジアミン成分およびテトラカルボン酸成分を表1に示す割合でそれぞれポリアミック酸溶液を得た後、ポリイミドフィルムAと同じ操作で得られたポリイミドフィルムの各特性評価を行い、表1にその結果を示した。
【0108】
[ポリイミドフィルムFの製膜]
RODAをODAに置きかえ、原料の添加量を表1に示す割合で行った他は、ポリイミドフィルムAと同様に操作を行い、ポリアミック酸溶液を得た後、ポリイミドフィルムAと同じ操作で得られたポリイミドフィルムの各特性評価を行い、表1にその結果を示した。
【0109】
[実施例1]
[接着剤]
EPICLON HP-7200(DIC株式会社製、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂)10重量部、タフテックM1913(旭化成ケミカルズ株式会社、マレイン酸変性スチレンエチレンブロック共重合体)100重量部、キュアゾールC11-Z(四国化成株式会社製)0.3重量部及びトルエン420重量部を混合し、接着剤を作成した。
【0110】
[接着剤付きポリイミドフィルム]
上記で得られたポリイミドフィルムAの片面に、上記接着剤を塗布し、90℃で3分乾燥させて接着剤付きポリイミドフィルムを得た。接着剤付きポリイミドフィルムにおいて、接着剤層の厚みは25μmであった。
【0111】
[フラットケーブルサンプルの作製]
幅0.30mm、厚さ0.035mmの導体14本を0.50mmの導体間ピッチで、接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層側に配置し、さらにその上からもう1枚の接着剤付きポリイミドフィルムの接着剤層側を重ねる構造とし、熱ロールで180℃、0.5MPaで加圧することによりフラットケーブルを作製した。
【0112】
[実施例2~5、比較例1]
実施例1と同様の手順でポリイミドフィルムを表1のとおり変更して作成した。
【0113】
実施例1~5の接着剤付きポリイミドフィルムはポリイミドフィルムの誘電特性にすぐれ、吸水率も低く高周波用フラットケーブルに適したものであった。
【0114】
一方、比較例1の接着剤付きポリイミドフィルムは、使用したポリイミドフィルムの誘電特性がすぐれず、吸水率も高いものであった。
【0115】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明では、フラットケーブルに好適に使用できる接着剤付きポリイミドフィルムを提供できる。