IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

特許7438791不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム
<>
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図1
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図2
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図3
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図4
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図5
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図6
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図7
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図8
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図9
  • 特許-不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】不安感評価装置、及び、不安感評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   G09B 29/00 20060101AFI20240219BHJP
   G06T 11/60 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G09B29/00 A
G09B29/00 F
G06T11/60 300
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020037505
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021140022
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼瀬 大樹
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 岳
(72)【発明者】
【氏名】秋本 大輔
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-070246(JP,A)
【文献】特開2009-025650(JP,A)
【文献】特開2015-010783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0260401(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131115(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00-10
G06T 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象となる領域の環境情報に基づいて、複数の環境要因が不安感に与える影響の程度をそれぞれ示す複数の環境指標値の分布を算出する環境指標値算出部と、
前記複数の環境指標値の分布を合成することにより、前記不安感を示す不安感評価値の分布を算出する不安感評価値算出部とを備える、
ことを特徴とする不安感評価装置。
【請求項2】
前記環境指標値算出部は、
前記複数の環境指標値を、前記領域を単位領域に区分した前記単位領域毎に算出することにより、前記複数の環境指標値の分布を算出し、
前記不安感評価値算出部は、
前記複数の環境指標値に、前記環境要因別に設定された複数の補正係数をそれぞれ積算して前記単位領域毎に合算することにより、前記不安感評価値の分布を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の不安感評価装置。
【請求項3】
前記複数の補正係数は、
前記複数の環境要因別に設定されるとともに、前記領域に含まれる複数の評価領域別又は複数の時間帯別に設定された、
ことを特徴とする請求項2に記載の不安感評価装置。
【請求項4】
前記複数の環境指標値に対するサンプルデータと、当該サンプルデータに対する前記不安感のユーザデータとを一組の評価データとして、複数組の前記評価データを含むデータセットに基づいて、前記複数の補正係数を決定する補正パラメータ決定部をさらに備える、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の不安感評価装置。
【請求項5】
前記補正パラメータ決定部は、
前記データセットに対して重回帰分析を行うことにより、前記複数の補正係数を決定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の不安感評価装置。
【請求項6】
前記環境指標値算出部により算出された前記複数の環境指標値を前記環境要因毎に標準化することにより、前記複数の環境指標値の分布を、複数の標準化変数の分布にそれぞれ変換する変換部をさらに備え、
前記不安感評価値算出部は、
前記変換部により変換された前記複数の標準化変数の分布を、前記複数の環境指標値の分布として合成することにより、前記不安感評価値の分布を算出する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の不安感評価装置。
【請求項7】
前記複数の環境要因は、
明暗、見通し、及び、人通りのうち少なくとも2つを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の不安感評価装置。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の不安感評価装置が備える各部として機能させる、
ことを特徴とする不安感評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不安感評価装置、及び、不安感評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人が周囲の環境から感じる不安感を評価するための様々な手法が開発されている。例えば、特許文献1には、街路に面して配置された建物の窓の数や寸法に応じて、街路の領域毎に防犯性評価値を算出された防犯マップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-36745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された防犯マップにおける防犯性評価値は、建物の窓の数や寸法に応じて算出されたものである。ここで、不安感に影響を与える環境要因としては、建物の窓の数や寸法だけでなく、例えば、防犯灯の有無、見通しの良し悪し、人通りの多さなど、様々な環境要因が挙げられる。しかしながら、特許文献1に開示された防犯性評価値には、建物の窓の数や寸法以外の様々な環境要因が反映されていないため、不安感を示す総合的な評価値を算出することができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、複数の環境要因に応じた不安感を総合的に評価することができる不安感評価装置、及び、不安感評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一実施形態に係る不安感評価装置は、
評価対象となる領域の環境情報(施設設置情報、施設取得情報等)に基づいて、複数の環境要因が不安感に与える影響の程度をそれぞれ示す複数の環境指標値の分布を算出する環境指標値算出部と、
前記複数の環境指標値の分布を合成することにより、前記不安感を示す不安感評価値の分布を算出する不安感評価値算出部とを備える。
【0007】
また、本発明の一実施形態に係る不安感評価プログラムは、
コンピュータを、上記不安感評価装置が備える各部として機能させるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係る不安感評価装置、及び、不安感評価プログラムによれば、環境指標値算出部が、領域の環境情報に基づいて、複数の環境要因毎に環境指標値の分布をそれぞれ算出し、不安感評価値算出部が、複数の環境指標値の分布を合成することにより、不安感評価値の分布を算出する。これにより、不安感評価装置1は、複数の環境要因に応じた不安感を総合的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る不安感評価システム100の一例を示す全体構成図である。
図2】第1の実施形態に係る環境情報管理装置3のデータベース30の一例を示すデータ構成図である。
図3】第1の実施形態に係る不安感評価装置1の一例を示すブロック図である。
図4】第1の実施形態に係る不安感評価装置1による不安感評価値の算出処理を示す機能フロー図である。
図5】複数の環境指標値pの分布Pを示し、(a)は水平面照度pの分布P、(b)は空間開放度pの分布P、(c)は人流密度pの分布Pを示す図である。
図6】第1の実施形態に係る不安感評価装置1による表示情報生成処理により生成された表情情報に基づく表示画面6の一例を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る不安感評価装置1による補正パラメータの決定処理を示す機能フロー図である。
図8】補正パラメータの一例を示し、(a)は複数の評価領域別に設定された例、(b)は複数の時間帯別に設定された例を示す図である。
図9】第2の実施形態に係る不安感評価装置1による不安感評価値の算出処理を示す機能フロー図である。
図10】第2の実施形態に係る不安感評価装置1による補正パラメータの決定処理を示す機能フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る不安感評価システム100の一例を示す全体構成図である。不安感評価システム100は、評価対象となる領域2の環境情報21に基づいて、領域2の不安感を評価する不安感評価装置1を備える。
【0012】
また、不安感評価システム100は、領域2の環境情報21を取得・管理する環境情報管理装置3と、領域2の管理者が使用する管理者端末4と、不安感評価装置1、環境情報管理装置3及び管理者端末4の間を相互に通信可能に接続するネットワーク5とを備える。
【0013】
不安感とは、人が周囲の環境から、例えば、犯罪の被害を受けるかもしれないと不安に感じる感情である。そのため、不安感は、領域2における複数の環境要因から影響を受けるとともに、環境要因が場所や時間の違いによって変化することに応じて変動する。不安感に影響を与える複数の環境要因としては、例えば、見通し、明暗、人通りに代表されるような空間の属性(建物、塀、フェンス、植栽、看板、道路構造物等により視界を遮るような物陰の有無や、その量や範囲等でもよい)、建物の属性(窓の大きさや位置、住宅か店舗か、築年数等)、道路の属性(道路幅、道路種別、車両交通量、路上駐車の有無等)、土地の属性(繁華街、宅地、農地、空地等)等が挙げられる。
【0014】
領域2は、屋外又は屋内の任意の領域である。領域2は、例えば、市町村等の行政区画単位の領域でもよいし、駅、空港等のランドマークを中心とする所定圏内の領域でもよいし、学校、工場、商業施設、公共施設等の敷地でもよい。また、領域2は、例えば、地続きの土地のように、連続的に存在するものでもよいし、離散的に存在する領域(例えば、A学校とB学校が隣接していない場合のA学校の敷地とB学校の敷地、複数階の建物の各フロア)でもよい。
【0015】
本実施形態では、領域2は、大学の敷地であり、領域2には、図1に示すように、建物200、外灯201、防犯カメラ202、入退出管理装置203等の複数の施設20が設置されているものとして説明する。
【0016】
不安感評価装置1は、サーバやクラウドとして機能する汎用のコンピュータ等で構成されている。なお、不安感評価装置1の機能及び不安感の評価方法の詳細は後述する。
【0017】
環境情報管理装置3は、不安感評価装置1と同様に汎用のコンピュータ等で構成されており、領域2の環境情報21を記憶するデータベース30を備える。
【0018】
管理者端末4は、例えば、管理者が作業する管理室に設置された汎用のコンピュータや、管理者が携帯可能なタブレット、スマートフォン等の携帯端末機器で構成されている。管理者端末4は、入力画面を介して管理者から各種の入力を受け付けるとともに、表示画面や音声を介して管理者に各種の情報を提示する。
【0019】
なお、図1では、不安感評価装置1、環境情報管理装置3及び管理者端末4の数は、それぞれ1つであるが、複数であってもよい。また、ネットワーク5は、有線でも無線でもよい。
【0020】
図2は、第1の実施形態に係る環境情報管理装置3のデータベース30の一例を示すデータ構成図である。データベース30は、領域2の環境情報21を記憶しており、環境情報21の追加、更新、削除等が随時行われる。
【0021】
環境情報21は、施設20の位置、形状、仕様等を示す施設設置情報22と、施設20の機能により取得される施設取得情報23とに分類される。
【0022】
施設設置情報22には、例えば、建物設置情報220、外灯設置情報221、防犯カメラ設置情報222、入退出管理装置設置情報223等が含まれる。
【0023】
建物設置情報220は、建物200の位置、高さ、形状等を含む情報であり、例えば、建物200の設計図データでもよい。外灯設置情報221は、外灯201の位置、高さ、仕様(光束、光色、配向角等)、外灯201が点灯される時間帯等を含む情報である。防犯カメラ設置情報222は、防犯カメラ202の位置、高さ、設置方向、仕様(視野角、解像度等)等を含む情報である。入退出管理装置設置情報223は、入退出管理装置203が設置された門、ゲート、ドアの位置等を含む情報である。
【0024】
施設取得情報23には、例えば、防犯カメラ取得情報230、入退出管理装置取得情報231等が含まれる。
【0025】
防犯カメラ取得情報230は、防犯カメラ202により静止画又は動画として撮影された画像を、その画像が撮影された時刻や位置と関連付けて記録した情報である。入退出管理装置取得情報231は、入退出管理装置203により検出された入退出を、その入退出が検出された時刻や位置と関連付けて記録した情報である。
【0026】
(不安感評価装置1の構成及び動作)
図3は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1の一例を示すブロック図である。
【0027】
不安感評価装置1は、キーボード、タッチパネル等により構成される入力部10と、HDD、メモリ等により構成される記憶部11と、CPU等のプロセッサにより構成される制御部12と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部13と、ディスプレイ、スピーカ等により構成される出力部14とを備える。なお、入力部10や出力部14は省略してもよく、その場合には、管理者端末4を、入力部10や出力部14として機能させればよい。
【0028】
記憶部11には、不安感評価装置1の動作を制御する不安感評価プログラム110と、データセット111(詳細は後述する)とが記憶されている。
【0029】
制御部12は、不安感評価プログラム110を実行することにより、取得部120、環境指標値算出部121、変換部122A、不安感評価値算出部123A、表示情報生成部124、及び、補正パラメータ決定部125Aとして機能する。
【0030】
(不安感評価値の算出処理)
図4は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1による不安感評価値の算出処理を示す機能フロー図である。
【0031】
取得部120は、環境情報管理装置3からネットワーク5を介して環境情報21を取得する。なお、取得部120は、特定の時刻における環境情報21を取得してもよいし、特定の期間に含まれる所定の周期毎の複数の時刻における環境情報21を取得してもよい。
【0032】
環境指標値算出部121は、環境情報21に基づいて、複数の環境要因が不安感に与える影響の程度をそれぞれ示す複数の環境指標値pの分布Pを算出する。
【0033】
環境指標値pは、領域2を、例えば、3メートル四方の単位領域Mとしてメッシュ状に区分したとき、単位領域Mを特定する座標x及び座標yを変数として、単位領域M(x,y)(i=i,i,…,I,j=j,j,…,J)毎に算出されるパラメータである。また、環境情報21が、時々刻々と変化するような情報である場合には、環境指標値pは、時間tを変数として、単位時間t(k=k,k,…,K)毎(例えば、10分毎)に算出されるパラメータである。
【0034】
したがって、環境指標値pは、座標x(i=i,i,…,I)、座標y(j=j,j,…,J)、及び、時間t(k=k,k,…,K)を変数として、環境指標値p(x,y,t)と表される。また、分布Pは、所定の時間tにおいて単位領域M毎に算出された環境指標値pを集合として取り扱うものであるから、時間t(k=k,k,…,K)を変数として、分布P(t)と表される。
【0035】
本実施形態では、複数の環境要因は、明暗、見通し、及び、人通りの3つ(n=3)であり、複数の環境指標値p(x,y,t)は、図4に示すように、水平面照度p(x,y,t)、空間開放度p(x,y,t)、及び、人流密度p(x,y,t)の3つであるものとして、具体的な算出方法を説明する。
【0036】
環境指標値算出部121は、環境情報21のうち、例えば、外灯設置情報221を参照することにより、外灯201の位置、高さ、仕様等に基づいて、水平面照度p(x,y,t)の分布P(t)を算出する。
【0037】
例えば、外灯201が点灯される夜間の時間tにおいて、特定の単位領域M(x,y)に対する水平面照度p(x,y,t)は、外灯201の位置、高さと、外灯201の光束とから算出される。なお、外灯201が点灯される夜間の時間tは、例えば、外灯201が自動点灯した時間、季節に応じた時間、領域2の管理者が外灯201を手動で点灯した時間等に基づいて決定されるようにすればよい。また、外灯201が点灯されない昼間の時間tでは、水平面照度p(x,y,t)は、一定の値としてもよいし、例えば、日射量(例えば、天候、太陽の方角や高さを考慮)や建物による日陰の位置等に基づいて算出されるようにしてもよい。
【0038】
環境指標値算出部121は、環境情報21のうち、例えば、建物設置情報220を参照することにより、建物200の位置、高さ、形状等に基づいて、空間開放度p(x,y,t)の分布P(t)を算出する。
【0039】
例えば、特定の単位領域M(x,y)に対する空間開放度p(x,y,t)は、当該単位領域Mを中心として所定の角度(例えば、5度)毎に、当該単位領域Mから建物200の壁面までの距離Dを、建物200の高さHで除算した値D/H(ただし、上限値は6とする)を求め、当該単位領域Mの周囲全体、すなわち、360度分の値D/Hの平均値として算出される。なお、空間開放度p(x,y,t)は、建物200が新設されたり取り壊されたりしない限り、時間tによって変動しないものとして取り扱われる。
【0040】
環境指標値算出部121は、環境情報21のうち、例えば、防犯カメラ取得情報230、入退出管理装置取得情報231を参照することにより、防犯カメラ202により撮影された画像や入退出管理装置203により検出された入退出の記録等に基づいて、人流密度p(x,y,t)の分布P(t)を算出する。
【0041】
例えば、特定の単位領域M(x,y)及び特定の時間tに対する人流密度p(x,y,t)は、当該単位領域M及び当該時間tにおいて防犯カメラ202により撮影された画像を解析して、通行人の人数、進行方向、進行経路等を取得することにより、当該単位領域M及び当該時間tkにおける単位時間当たりの通行量として算出される。なお、人流密度p(x,y,t)は、さらに入退出管理装置取得情報231を加味して算出されるようにしてもよいし、過去の同じ時間帯や曜日の履歴等を参考にして算出されるようにしてもよい。
【0042】
図5は、複数の環境指標値pの分布Pを示し、(a)は水平面照度pの分布P、(b)は空間開放度pの分布P、(c)は人流密度pの分布Pを示す図である。図5では、環境指標値pの大小に応じて、各単位領域M(x,y)の濃淡を段階的に変化させることで、各分布P~Pがグレースケールで表されている。
【0043】
図5(a)では、単位領域Mの色が薄いほど、水平面照度pが高い(明るい)ことを示す。図5(b)では、単位領域Mの色が薄いほど、空間開放度pが高い(見通しが良い)ことを示す。図5(c)では、単位領域Mの色が薄いほど、人流密度pが高い(人通りが多い)ことを示す。
【0044】
変換部122Aは、図4に示すように、複数の環境指標値p(p~p)を環境要因毎に段階的な評価(例えば、1~9までの9段階)で表すことにより、複数の環境指標値p(p~p)の分布P(P~P)を、複数の環境指標レベルq(q~q)の分布Q(Q~Q)にそれぞれ変換する。
【0045】
水平面照度pでは、水平面照度pが取り得る範囲を9段階(1(明るい)~9(暗い))に分類することで、水平面照度レベルqの分布Qに変換する。空間開放度pでは、空間開放度pが取り得る範囲を9段階(1(見通しが良い)~9(見通しが悪い))に分類することで、空間開放度レベルqの分布Qに変換する。人流密度pでは、人流密度pが取り得る範囲を9段階(1(人通りが多い)~9(人通りが少ない))に分類することで、人流密度レベルqの分布Qに変換する。
【0046】
不安感評価値算出部123Aは、複数の環境指標レベルq(q~q)の分布Q(Q~Q)を合成することにより、不安感を示す不安感評価値r(x,y,t)の分布R(t)を算出する。不安感評価値r(x,y,t)は、不安感を数値化又はレベル化(段階的な数値化)したものであり、本実施形態では、不安感評価値r(x,y,t)の数値が高いほど、不安感が大きいものとして取り扱う。
【0047】
具体的には、不安感評価値算出部123Aは、複数の環境指標レベルq(q~q)に、環境要因別に設定された複数の補正係数a(a~a)をそれぞれ積算して単位領域M毎に合算するとともに、補正値bをさらに加算することにより、不安感評価値r(x,y,t)の分布R(t)を算出する。
【0048】
すなわち、特定の単位領域M(x,y)及び特定の時間tkに対する不安感評価値r(x,y,t)は、補正係数a(a~a)及び補正値bを用いて、以下の(1)式により算出される。
【0049】
【数1】
【0050】
表示情報生成部124は、管理者端末4から受信した表示情報生成要求に応じて各種の表示情報を生成し、管理者端末4に通信部13を介して送信する。管理者端末4は、表示情報に基づいて各種の表示画面(詳細は後述する)を表示する。
【0051】
図6は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1による表示情報生成処理により生成された表情情報に基づく表示画面6の一例を示す図である。
【0052】
表示画面6は、画面左上側に配置された時間選択部60と、画面左下側に配置された要素選択部61と、画面右側に配置されて、領域2を示す平面図に重畳して各種データを表示するデータ表示部62とを備える。なお、各部60~62の配置やサイズは適宜変更してもよい。
【0053】
時間選択部60は、表示対象とする時間を、現在の時刻(現況)と、過去の時刻(時系列変化)とから選択可能に構成されている。さらに、時間選択部60は、時系列変化が選択された場合には、表示対象とする時間を、スライダーバーや、停止ボタン、再生ボタン及び一時停止ボタンで選択可能に構成されている。
【0054】
要素選択部61は、表示対象とする要素を、例えば、ラジオボタン等による複数の選択肢から選択可能に構成されている。複数の選択肢としては、水平面照度pの分布P、空間開放度pの分布P、人流密度pの分布P、及び、不安感評価値rの分布Rが選択可能に構成されている。なお、複数の選択肢として、環境指標レベルq(q~q)の分布Q(Q~Q)や、防犯カメラ202の撮像領域が選択可能であってもよい。
【0055】
データ表示部62は、領域2を示す平面図に対して、時間選択部60で選択された表示対象の時間、及び、要素選択部61で選択された表示対処の要素に対応するデータを重畳して表示するように構成されている。図6では、不安感評価値rの分布Rが重畳して表示されており、単位領域Mの色が濃いほど、不安感評価値rが高い(不安感が大きい)ことを示す。なお、データ表示部62には、当該データの他に、例えば、平均値、最大値、最小値等の各種統計値が表示されてもよい。
【0056】
また、データ表示部62は、領域2の表示範囲や縮尺率を変更可能に構成されている。なお、データ表示部62に表示された不安感評価値rの分布Rは、グレースケール及びカラースケールのいずれで表示されてもよいし、コンター図(等値線図)のように表示されてもよい。
【0057】
管理者は、管理者端末4に表示された表示画面6において、時間選択部60及び要素選択部61を操作し、データ表示部62を視認することにより、領域2の状況を確認することができる。また、管理者が、外灯201や防犯カメラ202等の施設20の追加を検討する際、表示画面6において、施設20の追加前後での領域2の状況を確認することにより、管理者は、施設20を追加したときの効果(安心感の向上)を事前に確認することができる。
【0058】
(補正パラメータの決定処理)
図7は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1による補正パラメータの決定処理を示す機能フロー図である。
【0059】
補正パラメータ決定部125Aは、データセット111に基づいて、補正パラメータとして、補正係数a(a~a)及び補正値bを決定する。なお、不安感評価値算出部123Aが、不安感評価値r(xi,yj,tk)の分布R(tk)を算出する前に、補正パラメータ決定部125Aが、補正パラメータを決定するのが好ましい。また、補正パラメータ決定部125Aが、補正パラメータを決定する前の段階では、補正パラメータには、デフォルト値が設定されていてもよい。
【0060】
データセット111は、複数の環境指標値p(p~p)に対するサンプルデータ1120と、当該サンプルデータ1120に対する不安感のユーザデータ1121とを一組の評価データ112として、複数組の評価データ112を含む。
【0061】
一組の評価データ112は、例えば、領域2の任意の計測地点において、被験者が実際に感じた不安感をアンケート調査したものである。本実施形態では、サンプルデータ1120は、計測地点において複数の環境指標値p(p~p)を計測し、それらを環境指標レベルq(q~q)で表したものである。ユーザデータ1121は、その計測地点において被験者が実際に感じた不安感をアンケート調査した結果である。そして、データセット111は、様々な条件の計測地点による複数組の評価データ112により構成されている。
【0062】
なお、一組の評価データ112は、例えば、複数の環境指標レベルq(q~q)を設定値として再現可能な空間シミュレータ装置を使用して、被験者の不安感をアンケート調査したものでもよい。その場合には、サンプルデータ1120は、空間シミュレータ装置の設定値であり、ユーザデータ1121は、その設定値を再現した空間シミュレータ装置において被験者が実際に感じた不安感をアンケート調査した結果とすればよい。そして、データセット111は、様々な設定値の組み合わせによる複数組の評価データ112により構成するようにすればよい。
【0063】
補正パラメータ決定部125Aは、上記のデータセット111に対して重回帰分析を行うことにより、補正パラメータとして、補正係数a(a~a)及び補正値bを決定する。補正パラメータ決定部125Aにより決定された補正パラメータは、不安感評価値算出部123Aが上記の(1)式により不安感評価値r(x,y,t)を算出する際に用いられる。
【0064】
これにより、複数の環境指標レベルqnが、各環境要因が不安感に与える影響の程度に応じて、不安感評価値r(x,y,t)に反映されるので、不安感評価装置1は、複数の環境要因に応じた不安感を精度良く評価することができる。
【0065】
なお、補正パラメータ決定部125Aは、新たな評価データ112がデータセット111に追加されたり、一部の評価データ112がデータセット111から削除されたりすることでデータセット111が更新された場合には、更新後のデータセット111に基づいて、補正パラメータを更新するようにしてもよい。また、補正パラメータ決定部125Aが、データセット111を解析する際、重回帰分析を用いる代わりに、他の統計分析手法を用いるようにしてもよいし、データセット111を教師データとして、機械学習を用いるようにしてもよい。
【0066】
図8は、補正パラメータの一例を示し、(a)は複数の評価領域別に設定された例、(b)は複数の時間帯別に設定された例を示す図である。
【0067】
補正パラメータ(補正係数a(a~a)及び補正値b)は、複数の環境要因別に設定されるだけでなく、図8(a)に示すように、領域2に含まれる複数の評価領域E1~E3別に設定されてもよいし、図8(b)に示すように、複数の時間帯別(例えば、昼間と夜間)に設定されてもよいし、さらに、両者を組み合わせてもよい。
【0068】
図8(a)に示すように、補正パラメータを評価領域E1~E3別に設定する場合には、補正パラメータ決定部125Aは、例えば、評価領域E1にて計測されたデータセット111に基づいて、当該評価領域E1に対する補正パラメータを決定するようにしてもよい。また、図8(b)に示すように、補正パラメータを時間帯別に設定する場合には、補正パラメータ決定部125Aは、例えば、夜間の時間帯にて計測されたデータセット111に基づいて、当該夜間の時間帯に対する補正パラメータを決定するようにしてもよい。
【0069】
これにより、環境要因が不安感に与える影響の程度が、評価領域E1~E3や時間帯に応じて変動するような状況であっても、不安感評価装置1は、当該状況を反映した状態で不安感評価値rの分布Rを算出することができる。
【0070】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る不安感評価装置1は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1に対して、変換部122B、不安感評価値算出部123B及び補正パラメータ決定部125Bの機能を変更したものである。なお、その他の基本的な構成及び動作は、第1の実施形態に係る不安感評価装置1と同様であるため、以下では、変更点を中心に説明する。
【0071】
図9は、第2の実施形態に係る不安感評価装置1による不安感評価値の算出処理を示す機能フロー図である。
【0072】
変換部122Bは、複数の環境指標値pn(p1~p3)を環境要因毎にそれぞれ標準化することにより、複数の環境指標値p(p~p)の分布P(P~P)を、複数の標準化変数s(q~q)の分布S(S~S)にそれぞれ変換する。
【0073】
例えば、特定の単位領域M(x,y)及び特定の時間tに対する標準化変数s(x,y,t)は、環境指標値p(x,y,t)の平均値をPn_avg(t)、環境指標値p(x,y,t)の標準偏差をPn_σ(t)としたとき、これらを用いて、以下の(2)式により算出される。
【0074】
【数2】
【0075】
なお、変換部122Bは、環境指標値pが正規分布であると想定し、標準化変数sに変換したものであるが、他の確率分布(例えば、ポアソン分布や指数分布等)を想定するようにしてもよく、また、環境指標値p毎に異なる確率分布を想定するようにしてもよい。
【0076】
不安感評価値算出部123Bは、複数の標準化変数s(q~q)の分布S(S~S)を、第1の実施形態に係る複数の環境指標レベルq(q~q)の分布Q(Q~Q)の分布と同様に、以下の(3)式により合成することにより、不安感評価値rの分布Rを算出する。
算出される。
【0077】
【数3】
【0078】
これにより、複数の環境指標値pの単位がそれぞれ異なる場合であっても、不安感評価装置1は、複数の標準化変数sを用いることで簡単な計算で不安感評価値rの分布Rを算出することができる。
【0079】
図10は、第2の実施形態に係る不安感評価装置1による補正パラメータの決定処理を示す機能フロー図である。
【0080】
補正パラメータ決定部125Bは、データセット111のうち、評価領域Eに含まれる3点e1~e3に対応する3組の評価データ112A~112Cを選択し、当該3組の評価データ112A~112Cを、上記の(3)式に代入することにより、連立方程式を作成する。そして、補正パラメータ決定部125Bは、その連立方程式を解くことにより、3組の評価データ112A~112Cを含む評価領域Eに対する補正パラメータ(補正係数a(a~a)及び補正値b)を決定する。なお、3組の評価データ112A~112Cは、第1の実施形態と同様に、例えば、3点e1~e3における被験者の不安感をアンケート調査したものを用いればよい。
【0081】
これにより、複数の標準化変数snが、評価領域Eにおける各環境要因が不安感に与える影響の程度に応じて、不安感評価値r(x,y,t)に反映されるので、不安感評価装置1は、複数の環境要因に応じた不安感を精度良く評価することができる。
【0082】
なお、上記のように、補正パラメータ決定部125Bにより決定された補正パラメータは、領域2の全体に対して設定されてもよいし、図8に示すように、評価領域別又は時間帯別に設定されてもよい。特に、補正パラメータを評価領域別又は時間帯別に設定する場合には、補正パラメータ決定部125Bは、評価領域毎又は時間帯毎に3組の評価データを選択し、連立方程式を解くようにすればよい。
【0083】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0084】
例えば、上記実施形態では、不安感評価装置1は、変換部122A、122Bを備えるものとして説明したが、変換部122A、122Bを省略してもよい。その場合には、不安感評価値算出部123A、123Bは、環境指標値算出部121により算出された複数の環境指標値pの分布Pを合成することにより、不安感評価値rの分布Rを算出すればよい。
【0085】
また、上記実施形態では、不安感評価装置1及び環境情報管理装置3は、別々の装置として説明したが、1つの装置で構成されていてもよい。また、不安感評価装置1は、複数の装置で構成されていてもよく、例えば、不安感評価装置1とは別の装置が、補正パラメータ決定部125A、125Bを備えるようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、複数の環境要因(これらに対応する複数の環境指標値)は、明暗、見通し及び人通り(水平面照度、空間開放度及び人流密度)の3つであるものとして説明したが、複数の環境要因(これらに対応する複数の環境指標値)は、3つに限られず、2つ又は4つ以上でもよいし、明暗、見通し及び人通り(水平面照度、空間開放度及び人流密度)以外の他の環境要因(他の環境指標値)を含むものでもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、不安感評価プログラム110は、記憶部11に記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、不安感評価プログラム110は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【0088】
以上のように、上記実施形態に係る不安感評価装置1によれば、環境指標値算出部121が、領域2の環境情報21に基づいて、複数の環境要因毎に環境指標値pの分布Pをそれぞれ算出し、不安感評価値算出部123A、123Bが、複数の環境指標値pの分布P(複数の環境指標レベルqの分布Q、又は、複数の標準化変数sの分布Sでもよい)を合成することにより、不安感評価値rの分布Rを算出する。これにより、不安感評価装置1は、複数の環境要因に応じた不安感を総合的に評価することができる。
【0089】
また、環境指標値算出部121が、複数の環境指標値Pnを単位領域M毎に算出することにより、複数の環境指標値pの分布Pを算出し、不安感評価値算出部123A、123Bが、複数の環境指標値p(環境指標レベルq、又は、標準化変数sでもよい)に複数の補正係数aをそれぞれ積算して単位領域M毎に合算することにより、不安感評価値rの分布Rを算出する。これにより、複数の環境指標値pの単位がそれぞれ異なる場合であっても、不安感評価装置1は、簡単な計算で不安感評価値rの分布Rを算出することができる。
【0090】
また、補正パラメータ決定部125A、125Bが、複数の環境指標値pnに対するサンプルデータ1120と、当該サンプルデータ1120に対する不安感のユーザデータ1121とを一組の評価データ112として、複数組の評価データ112を含むデータセット111に基づいて、複数の補正係数aを決定する。これにより、例えば、データセット111に含まれるアンケート調査の結果が、不安感評価値rに反映されるので、不安感評価装置1は、複数の環境要因に応じた不安感を精度良く評価することができる。
【符号の説明】
【0091】
1…不安感評価装置、2…領域、
20…施設、21…環境情報、22…施設設置情報、23…施設取得情報、
3…環境情報管理装置、30…データベース、4…管理者端末、5…ネットワーク、
6…表示画面、60…時間選択部、61…要素選択部、62…データ表示部、
10…入力部、11…記憶部、12…制御部、13…通信部、14…出力部、
100…不安感評価システム、110…不安感評価プログラム、
111…データセット、112、112A~112C…評価データ
1120…サンプルデータ、1121…ユーザデータ
120…取得部、121…環境指標値算出部、122A、122B…変換部、
123A、123B…不安感評価値算出部、124…表示情報生成部、
125A、125B…補正パラメータ決定部、
200…建物、201…外灯、202…防犯カメラ、203…入退出管理装置、
220…建物設置情報、221…外灯設置情報、222…防犯カメラ設置情報、
223…入退出管理装置設置情報、230…防犯カメラ取得情報、
231…入退出管理装置取得情報
M…単位領域、E、E1~E3…評価領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10