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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20240219BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240219BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C11/03 300B
B60C11/12 A
B60C11/12 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020055521
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021154806
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 剛史
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-153405(JP,A)
【文献】国際公開第00/006398(WO,A1)
【文献】特開2019-098981(JP,A)
【文献】特開2015-016853(JP,A)
【文献】特開2009-012671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ幅方向に並ぶ複数の陸を備え、
前記複数の陸の少なくとも1つの陸は、第1スリットと、前記第1スリットにより区分されタイヤ周方向に並ぶ複数のブロックと、を備え、
前記第1スリットは、スリット幅狭部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第1側に配置される第1スリット幅広部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第2側に配置される第2スリット幅広部と、を有し、
前記スリット幅狭部と前記第1スリット幅広部とは、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜しており、
前記複数の陸は、N列あり、
前記Nは、2以上の自然数であり、
前記複数の陸の各々は、第2スリットと、前記第2スリットによりタイヤ周方向に区分されタイヤ周方向に並ぶ複数のブロックと、を備え、
各々の前記陸の前記第2スリットは、他の少なくとも1つの前記陸の前記第2スリットと、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっておらず、
前記第2スリットの各々をタイヤ赤道面に平行な投影面に対してタイヤ幅方向に沿って投影した場合に、前記投影面上に投影された少なくともN個の前記第2スリットがタイヤ周方向に連なる、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ幅方向に並ぶ複数の陸を備え、
前記複数の陸の少なくとも1つの陸は、第1スリットと、前記第1スリットにより区分されタイヤ周方向に並ぶ複数のブロックと、を備え、
前記第1スリットは、スリット幅狭部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第1側に配置される第1スリット幅広部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第2側に配置される第2スリット幅広部と、を有し、
前記スリット幅狭部と前記第1スリット幅広部とは、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜しており、
前記複数のブロックの少なくとも1つのブロックは、第1サイプと、第2サイプと、第3サイプと、を備え、
前記第1サイプは、前記ブロックのタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向に延びて前記ブロックをタイヤ幅方向に分割し、
前記第2サイプは、タイヤ幅方向に延び且つ前記ブロック内にて閉塞し、
前記第3サイプは、前記ブロックのタイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向に延び、前記ブロック内にて閉塞する第1端および前記ブロックのタイヤ幅方向端に開口する第2端を有する、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1サイプの幅は、前記第3サイプの幅よりも厚く、前記第3サイプの幅は、前記第2サイプの幅よりも厚い、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦係数が低い氷路での走行性能(アイス性能)を確保したスタッドレスタイヤが知られている。例えば、特許文献1では、主溝及びスリットで区画されるトレッド陸としての複数のブロックと、各ブロックに設けられるサイプとを有する。サイプのエッジ効果及び除水効果によってアイス性能が高められ、更にスリットのトラクション効果によってアイス性能が高められる。
【0003】
しかしながら、上記トレッド陸としてのブロックは、動きやすいために偏摩耗が招来しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-250610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、偏摩耗を抑制する空気入りタイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に並ぶ複数の陸を備え、前記複数の陸の少なくとも1つの陸は、第1スリットと、前記第1スリットにより区分されタイヤ周方向に並ぶ複数のブロックと、を備え、前記第1スリットは、スリット幅狭部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第1側に配置される第1スリット幅広部と、前記スリット幅狭部のタイヤ幅方向の第2側に配置される第2スリット幅広部と、を有し、前記スリット幅狭部と前記第1スリット幅広部とは、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す展開図。
図2】クオーター陸及びセンター陸を示す拡大展開図。
図3】フルオープンスリット及びセミオープンスリットの位置関係を示す展開図。
図4】フルオープンスリットの位置関係を示す展開図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤPT(以下、単に「タイヤPT」ともいう)が備えるトレッド面Trの展開図である。図1の上下方向がタイヤ周方向CDに相当し、図1の左右方向がタイヤ幅方向WDに相当する。図1に示すように、トレッド面Trに形成されているトレッドパターンは、スリットによって区画された複数のブロックがタイヤ周方向に並ぶブロック形状のパターンである。本実施形態のタイヤPTは、トラック又はバスに装着される重荷重用タイヤである。
【0010】
タイヤPTのトレッド面Trには、タイヤ周方向CDに連続して延在する4本の主溝61,61,62,62が設けられている。本実施形態では、主溝が4本であるが、これに限定されない。主溝は3本以上にすることが可能である。本実施形態では、タイヤ幅方向WDの最も外側にあるショルダー主溝62と、ショルダー主溝62のタイヤ幅方向WDの内側に配置されるセンター主溝61と、を有する。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、接地端CE,CE間の距離(タイヤ幅方向WDの寸法)の3%以上の溝幅を有している、という構成でもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、7.0mm以上の溝幅を有している、という構成でもよい。また、主溝は、特に限定されないが、例えば、タイヤ周方向CDに連続し、トレッド面Tr内で溝深さが一番深く、溝内には、摩耗による使用限界を示すTWI(トレッドウェアインジケータ)が設けられている、という構成でもよい。
【0011】
本明細書において、スリットは、主溝よりも幅が狭く、サイプよりも幅が広い溝を意味する。サイプは、幅が1.5mm未満の溝を意味する。副溝は、タイヤ幅方向WDに延び、タイヤ幅方向の第1側の陸端及びタイヤ幅方向の第2側の陸端に開口し、陸をタイヤ周方向CDに区分する溝を意味する。副溝は、スリット及びサイプを含む。
【0012】
接地端CEは、タイヤPTを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤPTを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面のタイヤ幅方向の最外位置である。
【0013】
正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」となる。正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとし、さらに、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤである場合には220kPaとする。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧の対応荷重の88%とする。
【0014】
<ショルダー陸1>
図1及び図2に示すように、タイヤPTは、トレッド面Trのタイヤ幅方向両端部においてタイヤ周方向CDに延びるショルダー陸1を有する。ショルダー陸1は、タイヤ幅方向WDにおける最も外側の主溝62よりも外側に配置されている。ショルダー陸1は、タイヤ幅方向WDにおいて最も外側の主溝62と、接地端CEとに区画される。ショルダー陸1は、複数のフルオープンスリット16と、タイヤ周方向CDに並ぶ複数のショルダーブロック17と、を有する。ショルダー陸1はブロック列を構成している。フルオープンスリット16は、主溝62と接地端CEとに開口しており、タイヤ周方向CDにショルダーブロック17を区分する。ショルダーブロック17は、少なくとも1つのセミオープンスリット18を有する。セミオープンスリット18は、第1端及び第2端を有し、第1端がタイヤ幅方向WDのいずれかのブロック端に開口し、第2端がショルダーブロック17内で閉塞する。本実施形態において、セミオープンスリット18は、タイヤ幅方向WDの内側のブロック端1aに開口するロングセミオープンスリット18aと、タイヤ幅方向WDの内側のブロック端1a又は接地端CEに開口するショートセミオープンスリット18b(ノッチとも呼ばれる)と、を含む。ロングセミオープンスリット18aは、ショルダーブロック17のタイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向WDに延びている。
【0015】
<センター陸2>
タイヤPTは、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向CDに延びるセンター陸2を有する。センター陸2は、タイヤ赤道TEに最も近い陸である。センター陸2は、一対の主溝61,61に区画される。センター陸2は、複数のフルオープンスリット26と、タイヤ周方向CDに並ぶ複数のセンターブロック27と、を有する。センター陸2はブロック列を構成している。フルオープンスリット26は、主溝61に開口しており、タイヤ周方向CDにセンターブロック27を区分する。センターブロック27は、少なくとも1つのセミオープンスリット28を有する。セミオープンスリット28は、第1端及び第2端を有し、第1端がタイヤ幅方向WDのいずれかのブロック端に開口し、第2端がセンターブロック27内で閉塞する。
【0016】
<クオーター陸3におけるスリット>
タイヤPTは、ショルダー陸1とセンター陸2との間にタイヤ周方向CDに延びるクオーター陸3を有する。クオーター陸3は、一対の主溝61,62に区画される。クオーター陸3は、複数のフルオープンスリット36と、タイヤ周方向CDに並ぶ複数のクオーターブロック37と、を有する。クオーター陸3はブロック列を構成している。フルオープンスリット36は、主溝61,62に開口しており、タイヤ周方向CDにクオーターブロック37を区分する。クオーターブロック37は、少なくとも1つのセミオープンスリット38を有する。セミオープンスリット38は、第1端及び第2端を有し、第1端がタイヤ幅方向WDのいずれかのブロック端に開口し、第2端がクオーターブロック37内で閉塞する。
【0017】
<スリット幅狭部>
図2に示すように、センター陸2及びクオーター陸3のフルオープンスリット26,36の各々は、スリット幅狭部26a,36aと、スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの第1側WD1に配置される第1スリット幅広部26b,36bと、スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの第2側WD2に配置される第2スリット幅広部26c,36cと、を有する。スリット幅狭部26a,36aは、第1スリット幅広部26b,36b及び第2スリット幅広部26c,36cに比して相対的にスリットの幅が狭い。このようなスリット幅狭部26a,36aによってタイヤ周方向CDに隣接するブロック27,27(37,37)同士が支えられ、ブロックの動きが抑制されるので、偏摩耗が抑制可能となる。本実施形態では、スリット幅狭部26a,36a、第1スリット幅広部26b,36b及び第2スリット幅広部26c,36cがいずれもタイヤ幅方向WDに対して傾斜している。第1スリット幅広部26b,36b及び第2スリット幅広部26c,36cは、タイヤ幅方向WDに対して同方向に傾斜している。スリット幅狭部26a,36aと、第1スリット幅広部26b,36bとは、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜している。このように互いにタイヤ幅方向WDに隣接するスリットの傾斜方向を逆方向にすることで、スリット幅狭部のブロック部分が動きにくい方向と、スリット幅広部のブロック部分が動きにくい方向とが異なり、いずれの方向に対してもスリット幅狭部で支持可能となり、偏摩耗を抑制可能となる。
【0018】
図2に示すように、スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの長さL26,L36は、各々の陸2,3のタイヤ幅方向WDの最大幅W21,W31の10%以上且つ60%以下であることが好ましい。図2に示す符号で説明すれば、W21×10%≦L26≦W21×60%、W31×10%≦L36≦W31×60%である。偏摩耗の抑制と、雪柱せん断力による雪路での走行安定性(スノー性能)の確保との両立のためである。
更に、スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの長さL26,L36は、各々の陸2,3のタイヤ幅方向WDの最大幅W21,W31の20%以上且つ40%以下であることが好ましい。
スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの長さが各々の陸2,3のタイヤ幅方向WDの最大幅W21,W31の10%未満であれば、タイヤ周方向CDに隣り合うブロック同士を支え合う効果が弱くなり十分なブロック剛性を確保できずに偏摩耗を招来する要因となる。
スリット幅狭部26a,36aのタイヤ幅方向WDの長さが各々の陸2,3のタイヤ幅方向WDの最大幅W21,W31の60%を超えれば、フルオープンスリット26,36の溝容積が小さくなることで、雪柱せん断力による雪路での走行性能(スノー性能)の悪化の要因となる。
【0019】
<スリットがタイヤ全周に連続するパターン>
図3に示すように、フルオープンスリット16,26,36はそれぞれ副溝である。セミオープンスリット18及び分断サイプ51は副溝を構成する。
図3に示すように、タイヤPTは、タイヤ幅方向WDに並ぶ複数(本実施形態では5列)の陸(1,3,2,3,1)を備える。同図は、副溝(フルオープンスリット16,26,36、セミオープンスリット18,28,38、分断サイプ51)をタイヤ赤道面TEに平行な投影面PSに対して投影した様子を示す。図示の都合上、全てのスリットではなく一部のスリットを投影面PSに投影した様子を示す。省略したスリットとしては、18bの一部,28,36,38が挙げられる。また、理解を容易にするために、投影面PSに投影したスリットの空間を斜線で塗りつぶしている。同図に示すように、投影面PS上に投影されたフルオープンスリット16,26,36及びセミオープンスリット18,28,38がタイヤ周方向CDにタイヤ全周に亘って連なっている。具体的には、同図に示すように、紙面では下方から上方に向かって、フルオープンスリット26、ロングセミオープンスリット18a、ショートセミオープンスリット18b、フルオープンスリット36、フルオープンスリット16、フルオープンスリット26、フルオープンスリット16、フルオープンスリット36、ショートセミオープンスリット18b、ロングセミオープンスリット18a、フルオープンスリット26の順でタイヤ周方向CDに連なっている。
この構成によれば、転動時に、フルオープンスリット16,26,36及びセミオープンスリット18,28,38の少なくともいずれかのスリットが接地面のタイヤ周方向端に連続して出現することになる。なお、本実施形態では、陸の数が5列であるが、4列以上であればよい。
タイヤ周方向CDに隣接する副溝(16,18,51,26,36)は、タイヤ幅方向WDで見て、互いに部分的に重なり合っている。
【0020】
<フルオープンスリットがタイヤ周方向に列数分連続するパターン>
図4に示すように、タイヤPTは、タイヤ幅方向WDに並ぶN列(本実施形態では5列)の陸(1,3,2,3,1)を備える。Nは2以上の自然数である。同図は、フルオープンスリット16,26,36をタイヤ赤道面TEに平行な投影面PSに対して投影した様子を示す。図示の都合上、全てのスリットではなく一部のスリットを投影面PSに投影した様子を示す。例えば、フルオープンスリット26,36の一部を省略している。また、理解を容易にするために、投影面PSに投影したスリットの空間を斜線で塗りつぶしている。
【0021】
同図に示すように、各々の陸のフルオープンスリットは、他の少なくとも1つの陸のフルオープンスリットと、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっていない。具体的には、タイヤ幅方向第1側WD1からタイヤ幅方向第2側WD2に向かって、第1陸(ショルダー陸1)、第2陸(クオーター陸3)、第3陸(センター陸2)、第4陸(クオーター陸3)、第5陸(ショルダー陸1)と呼ぶ場合、ショルダー陸1(第1陸)のフルオープンスリット16は、反対側のショルダー陸1(第5陸)のフルオープンスリット16及び隣接するクオーター陸3(第2陸)のフルオープンスリット36と、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっていない。センター陸2(第3陸)のフルオープンスリット26は、隣接するクオーター陸3(第2陸、第4陸)のフルオープンスリット36と、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっていない。これにより、全ての陸(1,2,3)のフルオープンスリット16,26,36が同時に接地を開始することを回避できる。
【0022】
さらに、同図に示すように、投影面PS上に投影された少なくとも5個のフルオープンスリット16,26,36がタイヤ周方向CDに連なっている。同図では、図にて明示しているのは5個のフルオープンスリット16,26,36であるが、実際は、斜線で塗りつぶしていない2個のフルオープンスリット36を含めると、7個のフルオープンスリット16,26,36がタイヤ周方向CDに連なっている。これにより、N個のフルオープンスリット16,26,36、すなわち1つの陸あたり少なくとも1個のフルオープンスリット16,26,36がタイヤ周方向の接地端上に連続して出現することになる。少なくともN個のフルオープンスリット16,26,36分、転動時に接地端上に出現するフルオープンスリット16,26,36の面積変動を抑制可能となる。なお、本実施形態では、陸の数が5つであるが、4以上にすることも可能である。
【0023】
<サイプ>
図1及び図2に示すように、ショルダー陸1、センター陸2及びクオーター陸3の各々の陸は、複数のサイプが形成されている。サイプは、幅1.5mm未満の切りこみにより形成されている。各々の陸1,2,3は、周方向サイプ52と、クローズドサイプ53と、セミオープンサイプ54と、を有する。図1に示すショルダー陸1は、ロングセミオープンスリット18aとショートセミオープンスリット18bとに開口する分断サイプ51を有する。
【0024】
図1及び図2に示すように、周方向サイプ52は、踏面形状が波状のサイプであり、各々の陸1,2,3のタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向CDに延びてフルオープンスリット16,26,36に開口し、陸1,2,3をタイヤ幅方向WDの左右に分断する。それゆえ、本実施形態では、分断したブロックの動きを抑制して偏摩耗を低減する観点から、周方向サイプ52は、踏面形状が波状サイプであり、且つ、深さ方向に沿って形状が変化する部分を含む三次元サイプである。しかし、これに限定されず、周方向サイプ52を、深さ方向に沿って形状が変化しない二次元サイプにしてもよい。なお、図2に示すように、スリット幅狭部26a,36aは、タイヤ周方向CD及びタイヤ幅方向WDに対して傾斜している。スリット幅狭部26a,36aに開口する周方向サイプ52は、タイヤ周方向CD及びタイヤ幅方向WDに対して傾斜している。周方向サイプ52とスリット幅狭部26a,36aとは、タイヤ周方向CD及びタイヤ幅方向WDに対して逆方向に傾斜している。スリット幅狭部26a,36aと周方向サイプ52とで形成されるブロックの角部を鋭角にせずに直角又は略直角にして偏摩耗を抑制するためである。ここでいう略直角は60度以上且つ90度未満を意味する。具体的には、図2に示すように、スリット幅狭部26a,36aは、タイヤ周方向第1側CD1及びタイヤ幅方向第2側WD2からタイヤ周方向第2側CD2及びタイヤ幅方向第1側WD1に向かう。センター陸2及びクオーター陸3に形成される周方向サイプ52は、タイヤ周方向第1側CD1及びタイヤ幅方向第1側WD1からタイヤ周方向第2側CD2及び第2側WD2へ向かう。
クローズドサイプ53は、踏面形状が波状のサイプであり、タイヤ幅方向WDに延びて、各々の陸1,2,3内で閉塞する。
セミオープンサイプ54は、踏面形状が波状のサイプであり、タイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向WDに延びる。セミオープンサイプ54は、各々の陸1,2,3内で閉塞する第1端54aと、各々の陸1,2,3の陸端に開口する第2端54bと、を有する。
【0025】
なお、クローズドサイプ53及びセミオープンサイプ54は、踏面形状が波状のサイプであるが、これに限定されず、踏面形状が直線にしてもよい。また、クローズドサイプ53及びセミオープンサイプ54は、深さ方向に沿って形状が変化しない二次元サイプであるが、深さ方向に沿って形状が変化する部分を含む三次元サイプであってもよい。
【0026】
図1に示すように、ショルダー陸1の分断サイプ51によってショルダー陸1がタイヤ周方向CDに疑似的な小ブロックに分割される。
図1及び図2に示すように、周方向サイプ52によって各々の陸2,3がタイヤ幅方向WDの左右に小ブロックとして分割され、セミオープンサイプ54によって小ブロックが更にタイヤ周方向CDに疑似的に分割される。これにより、1つのブロック27,37にタイヤ周方向CDに区分された複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の疑似的な小ブロックが形成されることになる。これにより、陸よりも小さい疑似的な小ブロックによってトラクション要素又は耐横滑り要素を増大でき、アイス性能を向上させることが可能となる。それでいて、クローズドサイプ53が設けられ、セミオープンサイプ54がブロック27,37のタイヤ周方向中央部に設けられているので、複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の小ブロック内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
特に限定されないが、周方向サイプ52は踏面形状が波形状であることが好ましい。周方向サイプ52の壁面同士が互いに接触しあい、小ブロックの過剰な動きを抑制可能となる。
【0027】
なお、図1に示すように、周方向サイプ52によって分割された、最も接地端CEに近い小ブロックは、横力の影響を受けやすいために、全てのサイプをクローズドサイプ53のみとしている。
【0028】
アイス性能の向上と偏摩耗の発生を抑止する観点から、分断サイプ51及び周方向サイプ52の幅Woは、セミオープンサイプ54の幅Wsよりも厚く、セミオープンサイプ54の幅Wsは、クローズドサイプ53の幅Wcよりも厚いことが好ましい。Wo>Ws>Wcである。オープンサイプ(分断サイプ51、周方向サイプ52)の幅Woを相対的に厚くすることで、溝で構成されるブロックパターンに比べて陸の剛性を確保しながらアイス性能を向上させることが可能となる。クローズドサイプ53の幅Wcを相対的に薄くすることで、ブロックの動きを抑制して摩耗又は偏摩耗の要因を低減させることが可能となる。セミオープンサイプ54の幅はオープンサイプ(分断サイプ51、周方向サイプ52)とクローズドサイプ53の中間の幅にすることでブロック剛性とアイス性能のバランスをとることが可能となる。勿論、これらの観点を問題としない場合には、全てのサイプの幅が同一であってもよいし、幅の大小関係を種々変更可能である。
【0029】
なお、本明細書におけるサイプの深さは、主溝の深さの50%以上且つ80%以下であることが好ましい。サイプの深さが主溝の深さの50%よりも浅ければ、冬用タイヤとしてのアイス性能が不十分となる。サイプの深さが主溝の深さの80%よりも深ければ、陸の剛性が低下して偏摩耗発生の要因となる。
【0030】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ幅方向WDに並ぶ複数の陸1,2,3を備え、複数の陸1,2,3の少なくとも1つの陸2(3)は、フルオープンスリット26,36(第1スリット)と、フルオープンスリット26,36(第1スリット)により区分されタイヤ周方向CDに並ぶ複数のブロック27(37)と、を備え、フルオープンスリット26,36(第1スリット)は、スリット幅狭部26a(36a)と、スリット幅狭部26a(36a)のタイヤ幅方向WDの第1側WD1に配置される第1スリット幅広部26b(36b)と、スリット幅狭部26a(36a)のタイヤ幅方向WDの第2側WD2に配置される第2スリット幅広部26c(36c)と、を有し、スリット幅狭部26a(36a)と第1スリット幅広部26b(36b)とは、タイヤ幅方向WDに対して逆方向に傾斜していることが好ましい。
このようなスリットのタイヤ幅方向中央部に配置されるスリット幅狭部26a(36a)によってタイヤ周方向CDに隣接するブロック27,27(37,37)同士が支えられ、ブロックの動きが抑制されるので、偏摩耗が抑制可能となる。さらに、スリット幅狭部26a(36a)は、タイヤ幅方向に隣接する少なくとも1つのスリット幅広部26b(36b)と傾斜方向が逆方向であるので、スリット幅狭部26a(36a)のブロック部分が動きにくい方向と、スリット幅広部26b(36b)のブロック部分が動きにくい方向とが異なり、スリット幅狭部26a(36a)部分で支持可能となり、偏摩耗を抑制可能となる。
【0031】
本実施形態のように、第2スリット幅広部26c(36c)とスリット幅狭部26a(36a)とは、タイヤ幅方向WDに対して逆方向に傾斜していることが好ましい。これにより、第1スリット幅広部26b(36b)及び第2スリット幅広部26c(36c)のブロック部分が、スリット幅狭部26a(36a)のブロック部分と、動きにくい方向が異なるので、ブロック27(37)がいずれの方向に動いても、スリット幅狭部26a(36a)部分で支持可能となり、偏摩耗を抑制可能となる。
【0032】
本実施形態のように、スリット幅狭部26a(36a)のタイヤ幅方向WDの長さL26(L36)は、陸2(3)のタイヤ幅方向WDの最大幅W21(W31)の10%以上且つ60%以下であることが好ましい。これにより、偏摩耗の抑制と、雪柱せん断力による雪路での走行安定性(スノー性能)の確保との両立可能となる。
【0033】
図3に示す実施形態のように、複数の陸1,2,3の各々は、副溝(16,26,36,18,51)と、副溝(16,26,36,18,51)によりタイヤ周方向CDに区分されタイヤ周方向CDに並ぶ複数のブロック17(27;37)と、を備え、副溝(16,26,36,18,51)をタイヤ赤道面TEに平行な投影面PSに対してタイヤ幅方向WDに沿って投影した場合に、投影面PS上に投影された副溝(16,26,36,18,51)がタイヤ周方向CDにタイヤ全周に亘って連なることが好ましい。
この構成によれば、転動時に、副溝(16,26,36,18,51)の少なくともいずれかが接地面のタイヤ周方向端に連続して出現することになり、ブロックの同時接地が抑制されて偏摩耗を抑制可能となる。また、タイヤ周方向CDの全周に亘って転動時に接地端上に出現する副溝の面積変動を抑制でき、転動時のパターン剛性が均一化して偏摩耗を抑制可能となる。
【0034】
図4に示す実施形態のように、複数の陸(1,3,2,3,1)がN列あり、Nは、2以上の自然数であり、複数の陸の各々1(2;3)は、フルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)と、フルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)によりタイヤ周方向に区分されタイヤ周方向CDに並ぶ複数のブロック17(27;37)と、を備え、各々の陸1(2;3)のフルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)は、他の少なくとも1つの陸のフルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)と、タイヤ幅方向に見て、互いに重なっておらず、フルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)の各々をタイヤ赤道面TEに平行な投影面PSに対してタイヤ幅方向WDに沿って投影した場合に、投影面PS上に投影された少なくともN個のフルオープンスリット16(26;36)(第2スリット)がタイヤ周方向に連なることが好ましい。
このように、各陸の第2スリット(フルオープンスリット16,26,36)は、他の少なくとも1つの陸の第2スリット(フルオープンスリット16,26,36)と、タイヤ幅方向に見て、互いに重なってないので、全ての陸の第2スリット(フルオープンスリット16,26,36)が同時に接地を開始することを回避でき、ブロックの同時接地が抑制されて偏摩耗を抑制可能となる。
それでいて、N個の第2スリット(フルオープンスリット16,26,36)、すなわち1つの陸あたり少なくとも1つの(フルオープンスリット16,26,36)が、接地面のタイヤ周方向端に連続して出現することになり、少なくともN個の第2スリット(フルオープンスリット16,26,36)分、転動時に接地端上に出現するスリットの面積変動を抑制でき、転動時のパターン剛性が均一化して偏摩耗を抑制可能となる。
【0035】
本実施形態のように、複数のブロックの少なくとも1つのブロック27(37)は、周方向サイプ52(第1サイプ)と、クローズドサイプ53(第2サイプ)と、セミオープンサイプ54(第3サイプ)と、を備え、周方向サイプ52(第1サイプ)は、ブロック27(37)のタイヤ幅方向中央部においてタイヤ周方向に延びてブロック27(37)をタイヤ幅方向に分割し、クローズドサイプ53(第2サイプ)は、タイヤ幅方向に延び且つブロック内にて閉塞し、セミオープンサイプ54(第3サイプ)は、ブロック27(37)のタイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向に延び、ブロック27(37)内にて閉塞する第1端およびブロック27(37)の端に開口する第2端を有することが好ましい。
これにより、周方向サイプ52によって各々のブロック27(37)がタイヤ幅方向WDの左右に小ブロックとして分割され、セミオープンサイプ54によって小ブロックが更にタイヤ周方向CDに疑似的に分割される。これにより、1つのブロック27,37にタイヤ周方向CDに区分された複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の疑似的な小ブロックが形成されることになる。これにより、ブロック27(37)よりも小さい疑似的な小ブロックによってトラクション要素又は耐横滑り要素を増大でき、アイス性能を向上させることが可能となる。それでいて、クローズドサイプ53が設けられ、セミオープンサイプ54がブロック27,37のタイヤ周方向中央部に設けられているので、複数(センター陸2,クオーター陸3では4つ)の小ブロック内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
特に限定されないが、周方向サイプ52は踏面形状が波形状であることが好ましい。周方向サイプ52の壁面同士が互いに接触しあい、小ブロックの過剰な動きを抑制可能となる。
【0036】
上記では、1つのブロックに、周方向サイプ52、クローズドサイプ53およびセミオープンサイプ54が組み合わされて適用されているが、これに限定されない。例えば、各々のサイプを単独で、又は他の任意のサイプと組み合わせて陸に適用可能である。例えば、周方向サイプ52を採用した場合には、ブロックをタイヤ幅方向の左右に分割して疑似的な小ブロック化が可能となる。セミオープンサイプ54を採用した場合には、タイヤ周方向CDに隣接する2つの小ブロックに分割しながら、これらの小ブロック内の剛性バランスを保ちながらトラクション要素を増やすことができ、偏摩耗の発生を抑制しながらアイス性能を向上させることが可能となる。
【0037】
本実施形態のように、分断サイプ51及び周方向サイプ52(第1サイプ)の幅Woは、セミオープンサイプ54(第3サイプ)の幅Wsよりも厚く、セミオープンサイプ54(第3サイプ)の幅Wsは、クローズドサイプ53(第2サイプ)の幅Wcよりも厚いことが好ましい。これにより、アイス性能の向上と偏摩耗の発生を抑止可能となる。
【0038】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0039】
<変形例>
(1)図1に示す実施形態では、センター陸2は、タイヤ赤道TE上に設けられているが、これに限定されない。例えば、主溝が3本であり、真ん中の主溝がタイヤ赤道TE上に配置されている場合には、互いに隣接する一対のセンター陸が真ん中の主溝を挟む位置に配置される。
【0040】
(2)第1スリット幅広部26b,36b及び第2スリット幅広部26c,36cのいずれかがタイヤ幅方向に平行であってもよい。
【0041】
(3)図1及び図2に示す実施形態では、第1スリット幅広部26b,36b及び第2スリット幅広部26c,36cのいずれもが、スリット幅狭部26a,36aと、タイヤ幅方向に対して逆方向に傾斜するが、これに限定されない。例えば、第2スリット幅広部26c,36cと、スリット幅狭部26a,36aとは、タイヤ幅方向に対して同方向に傾斜していてもよい。
【0042】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0043】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…ショルダー陸(陸)、2…センター陸(陸)、3…クオーター陸(陸)、17,27,37…ブロック、26,36…フルオープンスリット(第1スリット)、26a,36a…スリット幅狭部、26b,36b…第1スリット幅広部、26c,36c…第2スリット幅広部、16,26,36…フルオープンスリット(第2スリット,副溝)、18,28,38…セミオープンスリット(副溝)、52…周方向サイプ(第1サイプ)、53…クローズドサイプ(第2サイプ)、54…セミオープンサイプ(第3サイプ)
図1
図2
図3
図4