(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】光学系および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240219BHJP
G02B 17/08 20060101ALI20240219BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B17/08
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020055913
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】東原 正和
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮史
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/178817(WO,A2)
【文献】特開2019-148627(JP,A)
【文献】特開2012-190533(JP,A)
【文献】特開平11-237584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163035(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0227770(US,A1)
【文献】特開平10-010465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01-02、27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示素子の表示面の拡大像を形成する光学系であって、
前記表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第一のレンズ、半透過反射面、
第二のレンズ、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有し、
前記第一のレンズ
、および前記第二のレンズは樹脂レンズ
であり、
前記第一の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、前記偏光板を透過する光の偏光方向に対する前記第一の位相板の遅相軸方向の第一の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下であ
り、
前記第一のレンズで生じる位相差は、前記第二のレンズで生じる位相差よりも大きいことを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記表示面からの光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第一の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一のレンズを透過した後に円偏光、または前記第一の位相板の遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光となることを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第一の角度の前記絶対値は、30°以上40°以下または50°以上60°以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
【請求項4】
前記第一のレンズまたは前記第二のレンズの温度に基づいて前記第一の角度を変更する角度変更手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
画像表示素子の表示面の拡大像を形成する光学系であって、
前記表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第一のレンズ、半透過反射面、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有し、
前記第一のレンズは樹脂レンズであり、
前記第一の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、前記偏光板を透過する光の偏光方向に対する前記第一の位相板の遅相軸方向の第一の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下であり、
前記光学系は、前記樹脂レンズの温度に基づいて前記第一の角度を変更する角度変更手段を有することを特徴とする光学系。
【請求項6】
画像表示素子の表示面の拡大像を形成する光学系であって、
前記表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、半透過反射面、第二のレンズ、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有し、
前記第二のレンズは樹脂レンズ
であり、
前記第二の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、前記偏光板を透過する光の偏光方向に対する前記第二の位相板の遅相軸方向の第二の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下であ
り、
前記光学系は、前記樹脂レンズの温度に基づいて前記第二の角度を変更する角度変更手段を有することを特徴とする光学系。
【請求項7】
前記表示面からの光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第一の位相板を透過した後に円偏光となり、前記第二のレンズを透過した後に楕円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に前記反射透過偏光板で反射する方向の直線偏光となることを特徴とする請求項
6に記載の光学系。
【請求項8】
前記第二の角度の前記絶対値は、30°以上40°以下または50°以上60°以下であることを特徴とする請求項
6または
7に記載の光学系。
【請求項9】
前記第二の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、前記偏光板を透過する光の偏光方向に対する前記第二の位相板の遅相軸方向の第二の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下であり、
前記第一の角度の符号と前記第二の角度の符号は互いに逆であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項10】
前記表示面からの光は、前記偏光板を透過した後に直線偏光となり、前記第一の位相板を透過した後に楕円偏光となり、前記第一のレンズを透過した後に円偏光、または前記第一の位相板の前記遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光となり、前記第二のレンズを透過した後に楕円偏光となり、前記第二の位相板を透過した後に前記反射透過偏光板で反射する方向の直線偏光となることを特徴とする請求項9に記載の光学系。
【請求項11】
前記第二のレン
ズは、前記表示面に凸面を向けた平凸レンズであることを特徴とする請求項
1乃至1
0のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項12】
前記表示面からの光の波長をλとするとき、前記樹脂レンズで生じる位相差は、λ/200以上であることを特徴とする請求項1乃至1
1のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項13】
前記表示面からの光の波長をλとするとき、前記樹脂レンズで生じる位相差は、λ/100以上であることを特徴とする請求項1
2に記載の光学系。
【請求項14】
前記樹脂レンズで生じる位相差の軸方向は、前記第一の位相板の前記遅相軸方向もしくは進相軸方向、または、前記第二の位相板の前記遅相軸方向もしくは進相軸方向と異なることを特徴とする請求項1乃至1
3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項15】
前記樹脂レンズの光学有効領域における偏肉比は、1.5以上かつ4.0以下であることを特徴とする請求項1乃至1
4のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項16】
前記光学系のアイレリーフをE(mm)とするとき、
15≦E≦25
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至1
5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項17】
前記光学系の最も拡大側のレンズ面から前記表示面までの距離をL、前記光学系のアイレリーフをEとするとき、
0.6≦L/E≦1.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至1
6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項18】
前記反射透過偏光板よりも拡大側に配置され、第二の直線偏光を透過する第二の偏光板を有することを特徴とする請求項1乃至1
7のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項19】
請求項1乃至1
8のいずれか一項に記載の光学系と、前記画像表示素子とを備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項20】
前記光学系のアイレリーフをE(mm)、最大半画角をθとするとき、
8≦E×tanθ≦20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項
19に記載の画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示素子上の画像を拡大して表示するヘッドマウントディスプレイ(HMD)等の画像表示装置に好適な光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏光を利用して光路を折り畳む広画角の接眼光学系に関し、半透過型偏光板の透過軸の方向を眼の並ぶ方向として輝度ムラを低減する接眼光学系が開示されている。特許文献2には、偏光を利用して光路を折り畳む広画角の接眼光学系に関し、曲面上の偏光素子を利用して広画角を実現した接眼光学系が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-053152号公報
【文献】特表2018-508800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2には、レンズの複屈折により発生したゴーストを低減する方法について開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、偏光を利用する、広画角でありながらゴーストを低減することが可能な光学系および画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学系は、画像表示素子の表示面の拡大像を形成する光学系であって、前記表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第一のレンズ、半透過反射面、第二のレンズ、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有し、前記第一のレンズ、および前記第二のレンズは樹脂レンズであり、前記第一の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、前記偏光板を透過する光の偏光方向に対する前記第一の位相板の遅相軸方向の第一の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下であり、前記第一のレンズで生じる位相差は、前記第二のレンズで生じる位相差よりも大きい。
【0007】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施形態において説明される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏光を利用する、広画角でありながらゴーストを低減することが可能な光学系および画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一の実施形態における画像表示装置の説明図である。
【
図2】第一の実施形態における接眼光学系の詳細説明図である。
【
図3】第一の実施形態における接眼光学系のゴースト光路の説明図である。
【
図4】第一の実施形態における接眼光学系の直接ゴースト光の強度の説明図である。
【
図5】第一の実施形態における接眼光学系の直接ゴースト光の強度の説明図である。
【
図6】第一の実施形態における接眼光学系の詳細説明図である。
【
図7】第二の実施形態における画像表示装置の説明図である。
【
図8】第二の実施形態における接眼光学系の詳細説明図である。
【
図9】第二の実施形態における接眼光学系の直接ゴースト光の強度の説明図である。
【
図10】第二の実施形態における接眼光学系の直接ゴースト光の強度の説明図である。
【
図11】第三の実施形態における画像表示装置の説明図である。
【
図12】第三の実施形態における接眼光学系の詳細説明図である。
【
図13】第一の実施形態における接眼光学系のレンズの外形の説明図である。
【
図14】第一の実施形態における接眼光学系のレンズの複屈折の説明図である。
【
図15】第二の実施形態における接眼光学系のレンズの複屈折の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
本発明の各実施形態を説明するにあたり、光の偏光状態や位相差についての記述を行うが、直線偏光、円偏光、楕円偏光、λ/4の位相差などの概念が表す状態は、一般的にある一定の範囲を持つ広い状態を意味する。このため、それらの誤差によって本発明の本質的な効果が妨げられるものではない。また、各光学素子で生じる位相差は、波長λの光に関する位相差であり、波長λとしては可視光域の任意の波長を選択することができ、例えばλ=580nmであるが、これに限定されるものではない。
【0012】
(第一の実施形態)
まず、
図1を参照して、本発明の第一の実施形態における画像表示装置について説明する。
図1は、本実施形態における画像表示装置101の構成図である。
図1において、101は画像表示装置であり、不図示の装着機構などと合わせて頭部などに装着して使用され得る。画像表示装置101は、頭部に装着される場合にはヘッドマウントディスプレイ(HMD)とも称される。102は観察者の右眼、103は観察者の左眼である。第二のレンズ104および第一のレンズ105は、右眼用接眼光学系を構成する。第二のレンズ106および第一のレンズ107は、左眼用接眼光学系を構成する。108は画像表示素子(右眼用画像表示素子)、109は画像表示素子(左眼用画像表示素子)であり、例えば有機ELディスプレイであるが、これに限定されるものではない。
【0013】
右眼用接眼光学系は、画像表示素子108に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の右眼102に導く。左眼用接眼光学系は、画像表示素子109に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の左眼103に導く。右眼用接眼光学系と左眼用接眼光学系の焦点距離F1は12mm、水平表示画角は45°、垂直表示画角は34°、対角表示画角54°であり、画像表示装置101と観察者の眼球との距離(アイレリーフE1)は18mmである。
【0014】
本実施形態の接眼光学系は偏光を利用して光路を折り畳む光学系である。次に、
図2を参照して、画像表示装置101の光学系(接眼光学系)の光路について説明する。
図2は、接眼光学系(右眼用接眼光学系)の詳細説明図である。なお、
図2は右眼用接眼光学系の構成を説明しているが、左眼用接眼光学系の構成も同様であるため、その説明を省略する。まず、画像表示素子108と第一のレンズ105との間に、画像表示素子108側から観察者の右眼102に向かって順に偏光板110と第一の位相板111とが配置されている。
【0015】
第二のレンズ104と第一のレンズ105との間には半透過反射膜(半透過反射面)112が存在している。半透過反射膜112は、金属膜または誘電体膜等により構成することができ、必要に応じて第二のレンズ104内の光学面もしくは第一のレンズ105内の光学面上、または単独の基材上に成膜されうる。また、第二のレンズ104と観察者の右眼102との間に、画像表示素子108側から順に、第二の位相板113とPBS(反射透過偏光板)114とが配置される。第二の位相板113とPBS114はそれぞれ平面形状である。第一のレンズ105および第二のレンズ104の構成は、光学設計により適宜選択され、それぞれ単レンズまたは複数のレンズで構成される。なお本実施形態において、第一のレンズ105と第二のレンズ104の両方が存在しているが、設計例によっては第一のレンズ105または第二のレンズ104のいずれか一方のみが存在する構成であってもよい。
【0016】
まず、第一のレンズ105および第二のレンズ104に複屈折特性がない理想状態について説明する。この場合、偏光板110を透過する光の偏光方向と第一の位相板111の遅相軸は45°傾いており、偏光板110を透過する光の偏光方向と第二の位相板113の遅相軸は-45°傾いている。また、偏光板110を透過する光の偏光方向とPBS114を透過する光の偏光方向は直交している。
【0017】
このような構成の場合、画像表示素子108から出射した光は偏光板110を透過して直線偏光となり、第一の位相板111を透過して円偏光となる。この円偏光は、第一のレンズ105を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112を透過した後に第二のレンズ104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。この直線偏光は、偏光方向がPBS114で透過する偏光方向と直交しているため、PBS114で反射され、再度、第二の位相板113を透過して円偏光となる。この円偏光は、第二のレンズ104を円偏光のまま透過し、半透過反射膜112で反射し、再び、第二のレンズ104を円偏光のまま透過し、第二の位相板113を透過して直線偏光になる。ただし、この直線偏光の偏光方向は、前述と異なり、PBS114で透過する偏光方向と一致するため、PBS114を透過して観察者の右眼102に導かれる。
【0018】
第一のレンズ105および第二のレンズ104に複屈折特性がない場合の光の偏光状態は、原理的な理想偏光状態であるといえる。なお、第二の位相板113の遅相軸方向が45°でPBS114の偏光特性方向を90°傾けるという構成もあり得るが、これらの構成は適宜選択可能であるため、その詳細な説明については省略する。以上のように偏光を利用して光路を折り畳む光学系は、薄型でありながら接眼光学系の焦点距離を短くすることが可能であり、広画角な画像観察を実現することができる。
【0019】
画像表示装置101は、頭部に装着されることがあるため、軽量であることが望ましい。軽量化の手法としては、接眼光学系を構成するレンズを硝子よりも比重の小さい樹脂で製作することが考えられる。このため、本実施形態の第一のレンズ105は樹脂レンズである。
【0020】
樹脂レンズは、熱可塑性樹脂を用いた成形により作成可能であり、収差補正に有利な非球面形状を実現しつつ低コストで大量生産が可能である。このため、樹脂レンズとしては、成形レンズが一般的に用いられている。しかし、このような成形樹脂レンズには成型時の残留応力等に起因した複屈折特性が残りやすく、複屈折のあるレンズを本実施形態の第一のレンズ105や第二のレンズ104に使用すると、光が通過した際に位相差が付与され、意図した偏光状態を維持できない。その結果、
図1のような正規の光路ではなく、
図3のようにPBS114で反射することなく観察者の眼に導かれる直接ゴースト光が発生する。
【0021】
また、PBS114で反射した後の正規光路においても不要な位相差が付与されることにより、最終的にPBS114で透過されるはずの光の一部が反射され、結果観察する際に映像が暗くなる(減光)こともある。樹脂レンズの複屈折を低減するため、レンズの材料や成形条件、成形後アニール等による対策が知られているが、これらの手法だけで偏光を利用して光路を折り畳む光学系における直接ゴースト光や減光といった問題を十分に減らすことは困難である。
【0022】
本実施形態の第二のレンズ104および第一のレンズ105は、表示画角のアスペクト比に合わせて、
図13(a)、(b)のように円形状ではなく上下をカットした形状となっている。このような構成により、光学有効領域以外の不要なレンズをカットして軽量化することができる。このときに第一のレンズ105の複屈折量と軸方向の分布を
図14に示す。
図14から分かるように、直接ゴーストの光路であるレンズ105の中央付近の複屈折量は10nm程度で軸方向は概ね一方向に揃っており、軸方向の平均的な向きは第一の位相板111の遅相軸または進相軸と異なる方向である。このとき、第一の位相板111を透過した円偏光は、第一のレンズ105を透過すると、第一の位相板111の遅相軸または進相軸と異なる方向に楕円方位角を有する楕円偏光になる。このため、第二の位相板を透過すると、PBS114で反射する偏光軸以外の直接ゴースト光が増加する。
【0023】
そこで本実施形態では、第一のレンズ105の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減するため、第一の位相板111の遅相軸の角度を45°からずらす。具体的には、第一の位相板111の遅相軸と偏光板110を透過する光の偏光方向とのなす角(偏光板110を透過する光の偏光方向に対する第一の位相板111の遅相軸方向の第一の角度)を47°としている。これにより、第一の位相板111を透過した光は、円偏光ではなく楕円偏光となる。この楕円偏光が複屈折を有する第一のレンズ105を透過すると、複屈折による位相差で楕円偏光が円偏光または第一の位相板111の遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光になる。このため、第一のレンズ105を透過した光が第二の位相板113を透過すると、PBS114で反射する偏光軸に近い偏光状態となり、第一のレンズ105の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減することができる。
【0024】
ここで、第一の位相板111の遅相軸と偏光板110を透過する光の偏光方向とのなす角(第一の位相板111の遅相軸の角度)と直接ゴースト光の強度との関係を
図4に示す。
図4において、横軸は第一の位相板111の遅相軸の角度、縦軸は直接ゴースト光の強度をそれぞれ示す。
図4から分かるように、理想的な遅相軸の角度45°に対して、47°にすることで直接ゴースト光の強度を約半分に低減することができる。
【0025】
以上のように、本実施形態では、第一のレンズ105に複屈折特性があるにも関わらず、第一の位相板111の遅相軸の角度を理想的な状態からずらすだけの簡便な構成で、直接ゴースト光の発生を低減することができる。また、第一の位相板111の位相特性や第一のレンズ105の位相特性は、PBS114を反射した後の正規光路においては影響しないため、本実施形態のように第一の位相板111の特性が理想状態からずれていても減光などの影響も少ない。
【0026】
なお本実施形態は、樹脂レンズで付与される位相差が大きく、直接ゴースト光が弊害となる場合に特に効果的である。より具体的には、第一のレンズ105に使用される樹脂レンズで付与される光学有効領域における位相差の絶対値がλ/200以上であればより効果的であり、また、位相差の絶対値がλ/100以上である場合にはさらに効果的である。
【0027】
また、樹脂レンズの複屈折特性が温度とともに変化する場合、画像表示装置101が使用される際の樹脂レンズの温度範囲のうち実際に使用される頻度が高い温度において、直接ゴースト光の強度が小さくなるように構成してもよい。このような構成は、例えば、樹脂レンズの温度に基づいて第一の位相板111の遅相軸の角度(第一の角度)を変更(選択)する角度変更手段を設けることで、実現可能である。
【0028】
図5は、常温時の直接ゴースト光の強度と実際に使用される頻度が高い昇温時の直接ゴースト光の強度を示す。
図5において、横軸は第一の位相板111の遅相軸の角度、縦軸は直接ゴースト光の強度をそれぞれ示す。
図5から分かるように、常温時には第一の位相板111の遅相軸と偏光板110を透過する光の偏光方向とのなす角を47°とすることで、直接ゴースト光の強度を小さくすることができる。一方、昇温時には第一の位相板111の遅相軸と偏光板110を透過する光の偏光方向とのなす角を52°とすることで、直接ゴースト光の強度を小さくすることができる。このため、昇温後を考慮して第一の位相板111の遅相軸と偏光板110を透過する光の偏光方向とのなす角を52°としてもよい。または、樹脂レンズの温度に基づいて第一の位相板111の遅相軸の方向を変化させてもよい。具体的には、常温時には第一の位相板111の遅相軸の向きを47°として、温度の上昇に応じて45°からのずらし量を増やしていき昇温後には52°になるようにしてもよい。この方法によれば、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が小さいため、実用上は直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。また、レンズの複屈折の軸方位に分布がある場合、その分布に応じて第一の位相板111の遅相軸の向きを場所ごとに変化させてもよい。
【0029】
本実施形態の接眼光学系の射出瞳は、
図6のようにアイレリーフEの18mmに眼球の回転半径10mmを加えた28mmの位置とし、射出瞳径は6mmとしている。このようにすることで、上下左右を観察するために眼球が回転した際にも、その方向の光が眼球に入射するようにしている。HMDは頭部装着型の画像表示装置であり、眼鏡をかけている観察者もかぶれるようにアイレリーフEは15mm以上であることが好ましい。また、アイレリーフEが長くなると、レンズの外形が大きくなりHMDも大型化するため、アイレリーフEは25mm以下であることが好ましい。すなわち、接眼光学系のアイレリーフE(mm)は、15≦E≦25なる条件式を満足することが好ましい。
【0030】
レンズの複屈折は、樹脂材料を金型成形でレンズを製造した際に発生し、レンズの偏肉比が大きいほど金型成形後の冷却時にレンズの薄い部分と厚い部分の冷え方の差が大きくなり複屈折が大きくなる。
【0031】
本実施形態のように広画角で薄型の光学系の場合、最も光学的パワーが大きい反射面を有する第2のレンズ104の偏肉比は大きくなる。第2のレンズ104の光学有効領域における偏肉比は例えば2.0である。本実施形態において、偏肉比は1.5以上、4以下であることが好ましい。偏肉比が1.5未満の場合、光学的パワーを小さくしてレンズの曲率半径を大きくするか、レンズを厚くすることが必要である。光学的パワーを小さくすると、広画角を実現できなくなるか、または光学的パワーが大きいレンズを追加する必要があるため光学系が厚くなる。レンズを厚くすると、光学系が厚くなり薄型化を実現することができない。偏肉比が4より大きい場合、レンズの複屈折が大きくなり過ぎ、ゴースト光の強度が増して自然な観察を行うことができない。
【0032】
右眼用接眼光学系の全長L1を右眼用接眼光学系のPBS114の観察者の右眼102側の面から画像表示素子108の表示面までの距離(接眼光学系の最も拡大側のレンズ面から表示面までの距離)とする。このとき、全長L(L1)は13mmであり、全長L1とアイレリーフE(E1)の比L/E(L1/E1)は0.72である。本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の薄型化を両立するため、0.6≦L/E≦1.0なる条件式を満足することが好ましい。比L1/E1が0.6よりも小さい場合、アイレリーフが長くレンズの外形が大きくなりHMDも大型化してしまう。また、外形が大きいほどレンズの複屈折の特性は低下するため、ゴースト光の強度が増して自然な観察ができない。一方、比L1/E1が1よりも大きい場合、接眼光学系が厚くなりHMDが大型化し、アイレリーフが短くなり観察者に圧迫感を与え、眼鏡をかけている観察者がかぶれなくなってしまう。
【0033】
本実施形態の接眼光学系のアイレリーフE(E1)は18mmであり、最大半画角θ(θ1)は27°である。このとき、E×tanθ(E1×tanθ1)=9.2mmであり、本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の広画角を両立するため、8≦E×tanθ≦20なる条件式を満足することが好ましい。E1×tanθ1が8mmよりも小さい場合、アイレリーフが短くなり観察者に圧迫感を与え、眼鏡をかけている観察者がかぶれなくなってしまうか、接眼光学系の画角が狭く臨場感のある自然な観察ができない。一方、E1×tanθ1が20mmよりも大きい場合、アイレリーフが長くレンズの外形が大きくなりHMDも大型化してしまう。また、外形が大きいほどレンズの複屈折の特性は低下するため、ゴースト光の強度が増して自然な観察ができない。
【0034】
本実施形態では、第二のレンズ104、106は樹脂レンズであるが、これに限定されるものではなく、ガラスレンズでもよい。ガラスレンズの複屈折は小さいため、高品位な画像観察が可能となる。また、外光のゴースト光を低減して観察画像のコントラストを高めるため、PBSと観察者の眼球との間に偏光板を配置してもよい。第二の位相板(λ/4板)113とPBS114が形成されている第二のレンズ104の観察者の眼球側の面は平面である。これは、アイレリーフを長くすることと、光学系を薄型化することを両立するためである。この面が観察者の眼球に向かって凹形状の場合、周辺部でのアイレリーフを確保するためにレンズが厚くなる。一方、この面が凸形状の場合、レンズコバ部の全長を確保するためにレンズが厚くなる。なお本実施形態において、画像表示素子は有機ELとして無偏光の光が放射される画像表示素子であるが、これに限定されるものではない。画像表示素子を液晶ディスプレイとして直線偏光の光が放射されるように構成してもよい。この場合、画像表示素子側の偏光板110が必要なくなり、薄型化とコスト低減を実現することができる。
【0035】
(第二の実施形態)
次に、
図7を参照して、本発明の第二の実施形態における画像表示装置について説明する。
図7は、本実施形態における画像表示装置201の構成図である。
図7において、201は画像表示装置(HMD)、202は観察者の右眼、203は観察者の左眼である。第二のレンズ204と第一のレンズ205は接合されており、右眼用接眼光学系を構成する。第二のレンズ206と第一のレンズ207は接合されており、左眼用接眼光学系を構成する。208は画像表示素子(右眼用画像表示素子)、209は画像表示素子(左眼用画像表示素子)であり、例えば有機ELディスプレイであるが、これに限定されるものではない。
【0036】
右眼用接眼光学系は右眼用画像表示素子208に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の右眼202に導き、左眼用接眼光学系は左眼用画像表示素子209に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の左眼203に導く。右眼用接眼光学系と左眼用接眼光学系の焦点距離F2は13mm、水平表示画角は60°、垂直表示画角は60°、対角表示画角78°であり、アイレリーフE2は20mmである。
【0037】
本実施形態の接眼光学系は偏光を利用して光路を折り畳む光学系である。次に、
図8を参照して、画像表示装置201の接眼光学系の光路について説明する。
図8は、接眼光学系(右眼用接眼光学系)の詳細説明図である。なお、
図8は右眼用接眼光学系の構成を説明しているが、左眼用接眼光学系の構成も同様であるため、その説明を省略する。まず、右眼用画像表示素子208と第一のレンズ205との間に、右眼用画像表示素子208側から観察者の右眼202に向かって順に偏光板210と第一の位相板211とが配置されている。
【0038】
第二のレンズ204と第一のレンズ205との間には半透過反射膜(半透過反射面)212が存在している。半透過反射膜212は、金属膜または誘電体膜等により構成することができ、必要に応じて第二のレンズ204内の光学面もしくは第一のレンズ205内の光学面上、または単独の基材上に成膜されうる。また、第二のレンズ204と観察者の右眼202との間に、右眼用画像表示素子208側から順に、第二の位相板213とPBS(反射透過偏光板)214とが配置される。第二の位相板213とPBS214はそれぞれ平面形状である。第一のレンズ205および第二のレンズ204の構成は、光学設計により適宜選択され、それぞれ単レンズまたは複数レンズで構成される。なお本実施形態において、第一のレンズ205と第二のレンズ204の両方が存在しているが、設計例によっては第一のレンズ205または第二のレンズ204のいずれか一方のみが存在する構成であってもよい。
【0039】
本実施形態では、軽量化のために第二のレンズ204の一部に複屈折がある樹脂レンズを使用している。
図15は、第二のレンズ204の複屈折量と軸方向の分布図である。
図15から分かるように、直接ゴーストの光路である第二のレンズ204の中央付近の複屈折量は5nm程度で、軸方向は概ね一方向に揃っており、軸方向の平均的な向きは第二の位相板213の遅相軸または進相軸と異なる方向である。このとき、第二のレンズ204に入射した円偏光は、第二のレンズ204を透過すると第二の位相板213の遅相軸または進相軸と異なる方向に楕円方位角を有する楕円偏光になる。このため、第二の位相板213を透過すると、PBS114で反射する偏光軸以外の直接ゴースト光が増加する。
【0040】
そこで本実施形態では、第二のレンズ204の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減するため、第二の位相板213の遅相軸の角度を-45°からずらす。具体的には、第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角(偏光板210を透過する光の偏光方向に対する第二の位相板213の遅相軸方向の第二の角度)を-47°とする。これにより、第一の位相板211、第一のレンズ205、および半透過反射膜212を透過した円偏光は、複屈折を有する第二のレンズ205を透過すると、複屈折による位相差で円偏光が楕円偏光に変わる。この楕円偏光が第二の位相板213を透過すると、PBS114で反射する偏光軸に近い偏光状態に変わりPBS214で反射される。このため、第二のレンズ204の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減することができる。
【0041】
ここで、第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角(第二の位相板213の遅相軸の角度)と直接ゴースト光の強度との関係を
図9に示す。
図9において、横軸は第二の位相板213の遅相軸の角度、縦軸は直接ゴースト光の強度をそれぞれ示す。
図9から分かるように、理想的な遅相軸の角度-45°に対して、遅相軸の角度を-47°にすることで、直接ゴースト光の強度を約半分に低減できる。
【0042】
以上のように本実施形態では、第二のレンズ204に複屈折特性があるにも関わらず、第二の位相板213の遅相軸の角度を理想的な状態からずらすだけの簡便な構成で、直接ゴースト光の発生を低減することができる。なお本実施形態は、樹脂レンズで付与される位相差が大きく、直接ゴースト光が弊害となる場合に特に効果的である。より具体的には、第二のレンズ204に使用される樹脂レンズで付与される光学有効領域における位相差の絶対値がλ/200以上であればより効果的であり、位相差の絶対値がλ/100以上である場合にはさらに効果的である。
【0043】
また、樹脂レンズの複屈折特性が温度とともに変化する場合、画像表示装置が使用される際の樹脂レンズの温度範囲内のうち実際に使用される頻度が高い温度において、直接ゴースト光の強度が小さくなるように構成してもよい。このような構成は、例えば、樹脂レンズの温度に基づいて第二の位相板213の遅相軸の角度(第二の角度)を変更(選択)する角度変更手段を設けることで、実現可能である。
【0044】
図10は、常温時の直接ゴースト光の強度と実際に使用される頻度が高い昇温時の直接ゴースト光の強度を示す。
図10において、横軸は第二の位相板213の遅相軸の角度、縦軸は直接ゴースト光の強度をそれぞれ示す。
図10から分かるように、常温時には第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角を-47°とすることで、直接ゴースト光の強度を小さくすることができる。一方、昇温時には第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角を-38°とすることで、直接ゴースト光の強度を小さくすることができる。このため、昇温後を考慮して第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角を-38°としてもよい。また、常温時と昇温時のバランスをとるために第二の位相板213の遅相軸と偏光板210を透過する光の偏光方向とのなす角を-42°としてもよい。この方法によれば、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が小さいため、実用上は直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。
【0045】
本実施形態の接眼光学系の射出瞳はアイレリーフ20mmに眼球の回転半径10mmを加えた30mmの位置とし、射出瞳径は6mmとしている。このようにすることで、上下左右を観察するために眼球が回転した際にも、その方向の光が眼球に入射するようにしている。HMDは頭部装着型の画像表示装置であり、眼鏡をかけている観察者もかぶれるようにアイレリーフは15mm以上であることが望ましい。また、アイレリーフが長くなると、レンズの外形が大きくなりHMDも大型化するため、アイレリーフは25mm以下であることが望ましい。
【0046】
本実施形態のように広画角で薄型の光学系の場合、最も光学的パワーが大きい反射面を有する第二のレンズ204の偏肉比は大きくなる。また、第二のレンズ204と第一のレンズ205を接合しているため、第一のレンズ205の第二のレンズ204側の面の曲率半径が短く、第二のレンズ204と同様に、第一のレンズ205の偏肉比は大きい。第二のレンズ204の光学有効領域における偏肉比は3.6であり、第一のレンズ205の光学有効領域における偏肉比は2.8である。本実施形態において、偏肉比は1.5以上、4以下であることが好ましい。
【0047】
右眼用接眼光学系の全長L(L2)をPBS214の観察者の右眼202側の面から右眼用画像表示素子208までの距離とすると、全長Lは13.5mmであり、全長L2とアイレリーフE(E2)との比L/E(L2/E2)は0.68である。本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の薄型化を両立するため、0.6≦L/E≦1.0なる条件式を満足することが好ましい。本実施形態の接眼光学系のアイレリーフE(E2)は20mmであり、最大半画角θ(θ2)は39°である。このとき、E×tanθ(E2×tanθ2)=16.2mmである。本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の広画角を両立するため、8≦E×tanθ≦20なる条件式を満足することが好ましい。
【0048】
本実施形態において、第二のレンズ204と第一のレンズ205は接合レンズである。第二のレンズ204と第一のレンズ205とを接合レンズとすることで、レンズを保持する際に保持しやすくなる。また、外光のゴースト光を低減して観察画像のコントラストを高めるため、PBSと観察者の眼球との間に偏光板を配置してもよい。第二の位相板(λ/4板)213とPBS214が形成されている第二のレンズ204の観察者の眼球側の面は平面としている。これは、アイレリーフを長くすることと、光学系を薄型化することを両立するためである。
【0049】
(第三の実施形態)
次に、
図11を参照して、本発明の第三の実施形態における画像表示装置について説明する。
図11は、本実施形態における画像表示装置301の構成図である。
図11において、301は画像表示装置(HMD)、302は観察者の右眼、303は観察者の左眼である。レンズ304、305により第一のレンズ(第一のレンズ群)が構成される。レンズ306は、第二のレンズを構成する。レンズ304、305、306は、右眼用接眼光学系を構成する。レンズ307、308、309は、左眼用接眼光学系を構成する。310は画像表示素子(右眼用画像表示素子)、311は画像表示素子(左眼用画像表示素子)であり、例えば有機ELディスプレイであるが、これに限定されるものではない。
【0050】
右眼用接眼光学系は、画像表示素子310に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の右眼302に導く。同様に、左眼用接眼光学系は、左眼用画像表示素子311に表示された原画像を虚像として拡大投影して観察者の左眼303に導く。右眼用接眼光学系と左眼用接眼光学系の焦点距離F3は10.7mm、水平表示画角は50°、垂直表示画角は38°、対角表示画角60°であり、アイレリーフE3は15mmである。
【0051】
本実施形態の接眼光学系は偏光を利用して光路を折り畳む光学系である。次に、
図12を参照して、画像表示装置301の接眼光学系の光路について説明する。
図12は、接眼光学系(右眼用接眼光学系)の詳細説明図である。なお、
図12は右眼用接眼光学系の構成を説明しているが、左眼用接眼光学系の構成も同様であるため、その説明を省略する。
【0052】
まず、画像表示素子310と第一のレンズ305との間に、画像表示素子310側から観察者の右眼302に向かって順に偏光板316と第一の位相板317が配置されている。第一のレンズ群の内部(すなわち第一のレンズ304と第一のレンズ305との間)には、半透過反射膜(半透過反射面)313が存在している。半透過反射膜313は、金属膜もしくは誘電体膜等により構成することができ、必要に応じてレンズ304内の光学面もしくはレンズ304内の光学面上、または単独の基材上に成膜されうる。また、レンズ304と観察者の右眼302との間には、画像表示素子310側から順に第二の位相板314とPBS(反射透過偏光板)315が配置される。第二の位相板314とPBS315は平面形状である。第一のレンズおよび第二のレンズの構成は、光学設計により適宜選択され、それぞれ単レンズまたは複数レンズで構成される。
【0053】
本実施形態では、軽量化のためレンズ305とレンズ304に複屈折がある樹脂レンズを使用している。本実施形態のレンズ304、305は、表示画角のアスペクト比に合わせて円形状ではなく上下をカットした形状となっている。これにより、光学有効領域以外の不要なレンズをカットして軽量化することができる。このとき、第一の位相板317を透過した円偏光は、レンズ305を透過すると第一の位相板317の遅相軸または進相軸と異なる方向に楕円方位角を有する楕円偏光になる。この楕円偏光がレンズ304を透過すると、第二の位相板314の遅相軸または進相軸と異なる方向に楕円方位角を有する楕円偏光になる。このため、第二の位相板314を透過すると、PBS315で反射する偏光軸以外の直接ゴースト光が増加する。
【0054】
そこで本実施形態の接眼光学系は、レンズ304、305の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減するように構成される。すなわち、第一の位相板317の遅相軸と偏光板316を透過する光の偏光方向とのなす角を40°、第二の位相板314の遅相軸と偏光板316を透過する光の偏光方向とのなす角を-50°としている。これにより、第一の位相板317を透過した光は、円偏光ではなく楕円偏光となる。この楕円偏光が複屈折を有するレンズ305を透過すると、複屈折による位相差で、楕円偏光が円偏光、または第一の位相板317の遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光に変わる。このため、レンズ305の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減することができる。
【0055】
また、第一の位相板317、レンズ305、および半透過反射膜313を透過した光は、複屈折を有するレンズ304を透過すると、複屈折による位相差で楕円偏光に変わる。この楕円偏光が第二の位相板314を透過すると、PBS315で反射する偏光軸に近い偏光状態に変わり、PBS315で反射される。このため、レンズ304の複屈折による位相差により発生する直接ゴースト光を低減することができる。
【0056】
以上のように本実施形態では、第一のレンズと第二のレンズに複屈折特性があるにも関わらず、第一の位相板317と第二の位相板314の遅相軸の角度を理想的な状態からずらすだけの簡便な構成で直接ゴースト光の発生を低減することができる。なお本実施形態は、樹脂レンズで付与される位相差が大きく、直接ゴースト光が弊害となる場合に特に効果的である。より具体的には、レンズ304、305に使用される樹脂レンズで付与される光学有効領域における位相差の絶対値がλ/200以上であればより効果的であり、位相差の絶対値がλ/100以上である場合にはさらに効果的である。
【0057】
レンズ304は正規光路においてレンズ内を3回透過するため、複屈折の影響を受けやすい。このため、レンズ304の位相差はレンズ305の位相差よりも小さいことが好ましく、また、低複屈折の材料を用いることが好ましい。
【0058】
本実施形態において、樹脂レンズの複屈折特性が温度とともに変化する場合を考慮することが好ましい。この場合、角度変更手段により、画像表示装置が使用される際の樹脂レンズの温度範囲内のうち実際に使用される頻度が高い温度において直接ゴースト光の強度が小さくなるように第一の位相板317と第二の位相板314の遅相軸の角度を変更(選択)すればよい。この方法によれば、実際に使用される際の温度域においては直接ゴースト光が小さいため、実用上は直接ゴースト光の少ない良好な画像観察が可能になる。
【0059】
本実施形態の接眼光学系の射出瞳は、アイレリーフEの15mmに眼球の回転半径10mmを加えた25mmの位置とし、射出瞳径は4mmとしている。これにより、上下左右を観察するために眼球が回転した際にも、その方向の光が眼球に入射するようにしている。HMDは頭部装着型の画像表示装置であり、眼鏡をかけている観察者もかぶれるようにアイレリーフEは15mm以上であることが好ましい。また、アイレリーフEが長くなると、レンズの外形が大きくなりHMDも大型化するため、アイレリーフEは25mm以下であることが好ましい。
【0060】
本実施形態のように広画角で薄型の光学系の場合、最も光学的パワーが大きい反射面を有するレンズ305の偏肉比は大きくなる。レンズ305の光学有効領域における偏肉比は1.6であり、偏肉比は1.5以上かつ4.0以下であることが好ましい。
【0061】
右眼用接眼光学系の全長L(L3)をPBS315の観察者の右眼302側の面から画像表示素子310までの距離とすると、全長L3は13.5mmであり、全長L3とアイレリーフE(E3)との比L/E(L3/E3)は0.9である。本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の薄型化を両立するため、0.6≦L/E≦1.0なる条件式を満足することが好ましい。
【0062】
本実施形態の接眼光学系のアイレリーフE(E3)は15mmであり、最大半画角θ(θ3)は30°である。このとき、E×tanθ(E3×tanθ3)=8.7mmである。本実施形態において、アイレリーフの長さと接眼光学系の広画角を両立するため、8≦E×tanθ≦20なる条件式を満足することが好ましい。また、外光のゴースト光を低減して観察画像のコントラストを高めるために、反射透過偏光板(PBS)と観察者の眼球との間に(反射透過偏光板よりも拡大側に)、直線偏光(第二の直線偏光)を透過する偏光板(第二の偏光板)を配置してもよい。第二の位相板(λ/4板)314とPBS315が形成されているレンズ304の観察者の眼球側の面は平面としている。これは、アイレリーフを長くすることと、光学系を薄型化することを両立するためである。
【0063】
以上のように各実施形態において、光学系(接眼光学系)は、画像表示素子と、画像表示素子の表示面の拡大像を形成する(表示面(縮小面)からの光を集光する、すなわち表示面を拡大結像する)光学系である。光学系は、表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、第一のレンズ、半透過反射面、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有する。第一のレンズは樹脂レンズを含む。第一の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、偏光板を透過する光の偏光方向に対する第一の位相板の遅相軸方向の第一の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下である。
【0064】
好ましくは、第一の角度の絶対値は、30°以上40°以下または50°以上60°以下である。また好ましくは、表示面からの光は、偏光板を透過した後に直線偏光となり、第一の位相板を透過した後に楕円偏光となり、第一のレンズを透過した後に円偏光、または第一の位相板の遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光となる。また好ましくは、光学系は、樹脂レンズの温度に基づいて第一の角度を変更する角度変更手段を有する。
【0065】
好ましくは、画像表示装置は、第二の位相板と半透過反射膜との間に配置された樹脂レンズを有する第二のレンズを有する。第二の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、偏光板を透過する光の偏光方向に対する第二の位相板の遅相軸方向の第二の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下である。また、第一の角度の符号と第二の角度の符号は互いに逆である。また好ましくは、表示面からの光は、偏光板の透過後に直線偏光となり、第一の位相板を透過した後に楕円偏光となり、第一のレンズの透過後に円偏光、または第一の位相板の前記遅相軸もしくは進相軸と同じ方向に楕円方位角を有する楕円偏光となる。そして、第二のレンズを透過した後に楕円偏光となり、第二の位相板を透過した後に反射透過偏光板で反射する方向の直線偏光となる。より好ましくは、第一のレンズの樹脂レンズで生じる位相差は、第二のレンズの樹脂レンズで生じる位相差よりも大きい。また好ましくは、第二のレンズのうち最も拡大側(観察側)のレンズは、表示面(縮小側、すなわち表示側)に凸面を向けた平凸レンズである。また好ましくは、樹脂レンズで生じる位相差の軸方向は、第一の位相板の遅相軸方向もしくは進相軸方向、または、第二の位相板の遅相軸方向もしくは進相軸方向と異なる。
【0066】
また各実施形態において、光学系は、表示面の側から順に配置された、偏光板、第一の位相板、半透過反射面、第二のレンズ、第二の位相板、および、反射透過偏光板を有する。第二のレンズは樹脂レンズを含む。第二の位相板の遅相軸方向の右回りを正とするとき、偏光板を透過する光の偏光方向に対する第二の位相板の遅相軸方向の第二の角度の絶対値は、30°以上44°以下または46°以上60°以下である。
【0067】
好ましくは、第二の角度の絶対値は、30°以上40°以下または50°以上60°以下である。また好ましくは、表示面からの光は、偏光板を透過した後に直線偏光となり、第一の位相板を透過した後に円偏光となり、第二のレンズを透過した後に楕円偏光となり、第二の位相板を透過した後に反射透過偏光板で反射する方向の直線偏光となる。また好ましくは、光学系は、樹脂レンズの温度に基づいて第二の角度を変更する角度変更手段を有する。
【0068】
各実施形態によれば、偏光を利用する、広画角でありながらゴーストを低減することが可能な光学系および画像表示装置を提供することができる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
101 画像表示装置
105 第一のレンズ
108 画像表示素子
110 偏光板
111 第一の位相板
112 半透過反射膜(半透過反射面)
113 第二の位相板
114 PBS(反射透過偏光板)