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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】壁
(51)【国際特許分類】
   E01F 8/00 20060101AFI20240219BHJP
【FI】
E01F8/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020082528
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177044
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】栗林 健一
(72)【発明者】
【氏名】明見 正雄
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059337(JP,A)
【文献】実開昭52-138650(JP,U)
【文献】特開平09-003834(JP,A)
【文献】特開2011-080330(JP,A)
【文献】特開2012-207401(JP,A)
【文献】特開2012-067518(JP,A)
【文献】特開2007-255054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延び水平方向に所定の間隔をおいて立設される2つの支柱と、
前記2つの支柱に取り付けられる壁構造体と、
前記壁構造体に固定される弾性部材である挿入片と、を備え、
前記2つの支柱のそれぞれは、
2つのフランジ部を備え、
前記壁構造体は、
前記2つのフランジ部の間に挿入され、
前記挿入片の一方の端部である押圧部は、
前記2つのフランジ部と前記壁構造体との間に形成される隙間に挿入され、前記2つのフランジ部の一方を押すことにより前記壁構造体を前記2つのフランジ部の他方に押し付けるものであり
前記壁構造体は、
前記2つのフランジ部の間に少なくとも一部が挿入される縦枠を備え、
前記挿入片は、
板状の弾性部材であり、他方の端部に前記壁構造体に固定される固定部が設けられ、
前記固定部は、
前記縦枠の前記2つのフランジ部の一方が位置する側を向いた固定面に固定される、壁。
【請求項2】
前記挿入片は、
前記壁構造体に当接する当接部を備え、
前記当接部は、
前記固定部と前記押圧部との間に位置する、請求項に記載の壁。
【請求項3】
前記当接部は、
前記壁構造体の側に突出しており、
前記壁構造体は、
前記当接部が嵌る溝を備える、請求項に記載の壁。
【請求項4】
前記当接部と前記押圧部とを結ぶ仮想直線を規定したときに、
前記仮想直線と前記挿入片が自然状態における前記固定部とがなす角度θ1は、
前記仮想直線と前記壁構造体の前記固定部とがなす角度θ2よりも小さい、請求項又はに記載の壁。
【請求項5】
前記挿入片の前記固定部は、
ボルトにより前記固定面に締結固定され、
前記固定面は、
前記ボルトを挿通する挿通穴を備える、請求項の何れか1項に記載の壁。
【請求項6】
前記ボルトが締結される前の状態において、前記挿入片の前記当接部が前記溝に嵌り、前記挿入片の前記押圧部が前記2つのフランジ部の一方に当接したときに、
前記ボルトの首下長さは、
前記壁構造体の前記固定面から前記挿入片の前記固定部までの距離よりも長い、請求項3に従属する請求項に記載の壁。
【請求項7】
前記固定部は、
前記ボルトが挿通される穴又は切り欠きである挿通部が形成され、
前記挿通部は、
前記上下方向の幅に対し前記押圧部から前記固定部に向かう方向の幅が大きく形成されている、請求項又はに記載の壁。
【請求項8】
前記壁構造体は、
透明な材料で構成された透光パネルを備え、
前記縦枠は、
前記壁構造体の中央側を向いた面に凹部が形成され、
前記透光パネルの水平方向の縁部は、
前記凹部に嵌り保持され、
前記ボルトは、
前記透光パネルの縁部を避けて配置される、請求項の何れか1項に記載の壁。
【請求項9】
前記縦枠の前記固定面は、
前記上下方向の視点において、前記壁構造体の中央側に傾斜している、請求項の何れか1項に記載の壁。
【請求項10】
前記2つの支柱は、
前記上下方向に垂直な断面形状がH形である、請求項1~の何れか1項に記載の壁。
【請求項11】
前記挿入片は、
弾性力を増加させるための凸形状が形成されている、請求項1~10の何れか1項に記載の壁。
【請求項12】
上下方向に延び水平方向に所定の間隔をおいて立設される2つの支柱と、
前記2つの支柱に取り付けられる壁構造体と、
前記壁構造体に固定される弾性部材である挿入片と、を備え、
前記2つの支柱のそれぞれは、
2つのフランジ部を備え、
前記壁構造体は、
前記2つのフランジ部の間に挿入され、
前記挿入片の一方の端部である押圧部は、
前記2つのフランジ部と前記壁構造体との間に形成される隙間に挿入され、前記2つのフランジ部の一方を押すことにより前記壁構造体を前記2つのフランジ部の他方に押し付けるものであり
前記挿入片は、
前記壁構造体に仮固定するための係止部を備える、
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路又は鉄道に設置される壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道の軌道や道路を走行する車両による騒音の抑制のために鉄道や道路などに沿って壁が設置されている。壁は、例えば鉄道においては、軌道の側方に設けられており、軌道を走行する車両の騒音が軌道の外部に漏れるのを抑制するものである。
【0003】
鉄道の軌道に沿って設置されている壁は、軌道の側方に立設されている2つのH形支柱のそれぞれのフランジ部の間に壁構造体を挿入して構成されている。壁構造体の厚さは、H形支柱のフランジ部の間の寸法よりも薄い。壁構造体とフランジ部との間に生じる隙間には弾性を有する挿入片が挿入され、挿入片の弾性による反発力により壁構造体をフランジ部に押し付けて位置が固定される。挿入片は、H形支柱のフランジ部にボルト及びナットを用いて固定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3357633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている壁は、H形支柱のフランジ部と壁構造体との間の隙間に挿入片を配置し、固定するため、H形支柱のフランジ部にボルトを挿通する穴を形成する必要があった。例えば、鉄道の軌道に沿って壁を設置する場合、壁を設置する作業は、夜間などの鉄道が運行していない時間に実施する必要がある。そのため、壁を設置するにあたり作業時間に制限がある。特に、既設の壁の壁構造体を新しいものに交換する場合は、既設のH形支柱に挿入されていた既設の壁構造体を取り外した上で、H形支柱のフランジ部にボルトを挿通する孔を形成する。そして、2つのH形支柱の間に新たな壁構造体を挿入し、挿入片をH形支柱のフランジに固定する。このように、壁を設置する現場における作業が多いため、壁設置作業に時間が掛かってしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、壁を設置する現場における作業を低減させ、現場での作業時間を短縮できる壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、本発明に係る壁は、上下方向に延び水平方向に所定の間隔をおいて立設される2つの支柱と、前記2つの支柱に取り付けられる壁構造体と、前記壁構造体に固定される挿入片と、を備え、前記2つの支柱のそれぞれは、2つのフランジ部を備え、前記壁構造体は、前記2つのフランジ部の間に挿入され、前記挿入片の一方の端部である押圧部は、前記2つのフランジ部と前記壁構造体との間に形成される隙間に挿入され、前記2つのフランジ部の一方を押すことにより前記壁構造体を前記2つのフランジ部の他方に押し付けるものであり、前記壁構造体は、前記2つのフランジ部の間に少なくとも一部が挿入される縦枠を備え、前記挿入片は、板状の弾性部材であり、他方の端部に前記壁構造体に固定される固定部が設けられ、前記固定部は、前記縦枠の前記2つのフランジ部の一方が位置する側を向いた固定面に固定される
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、挿入片が壁構造体に固定されるため、壁を設置する現場以外の場所で挿入片を固定する構造を壁構造体に形成することができる。これにより、壁を設置する現場における作業が低減し、壁の設置作業時間も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る壁100の正面図及び上面図である。
図2】実施の形態1に係る壁100の壁構造体10を支柱30に固定する構造の周辺の拡大斜視図である。
図3】実施の形態1に係る壁100の壁構造体10及び支柱30の断面構造の説明図である。
図4】実施の形態1に係る挿入片20の平面図及び上面図である。
図5】実施の形態1に係る壁100が鉄道の軌道94の側壁として設置された一例を示す断面図である。
図6】実施の形態1に係る壁100において挿入片20周辺の断面構造の模式図である。
図7】実施の形態1に係る挿入片20の変形例の平面図及び上面図である。
図8】実施の形態1に係る挿入片20の変形例を用いた壁100の断面構造の説明図である。
図9】実施の形態1に係る壁100の比較例である壁1100の壁構造体1010の固定構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化する。また、各図に記載の構成について、その形状、大きさ、及び配置等は、本発明の範囲内で適宜変更することができる。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る壁100の正面図及び上面図である。図2は、実施の形態1に係る壁100の壁構造体10を支柱30に固定する構造の周辺の拡大斜視図である。壁100は、例えば鉄道や高速道路などにおいて車両80が走行する部分の側方に立設されるものであり、例えば鉄道においては、車両80(図5参照)が走行する軌道94(図5参照)の側方に設けられている。壁100は、軌道94に沿って壁面が配置され、主に車両80の走行により発生する騒音の音波が外部に直接拡散するのを抑制するものである。以下の説明においては、一例として高架鉄道の軌道94に沿って設置される透光型の壁について説明する。
【0012】
壁100は、床版90の上に立設された2本の支柱30の間に壁構造体10を取り付けて構成される。実施の形態1においては、壁構造体10は、中央部に、例えば透明なポリカーボネート製又はアクリル製の透光パネル11を備える。透光パネル11は、枠体12に周縁11a(図3参照)が嵌って支持されるものである。透光パネル11は、例えば鉄道において車両80の走行による騒音を外部に直接拡散しないように抑制すると共に、車両80に乗っている人が鉄道が走行している周辺の環境を視認できるようにしたものである。また、壁構造体10は、強風時に車両80の走行への影響を低減させる効果もある。ただし、壁構造体10は、実施の形態1に示される透光型の壁構造体10のみに限定されるものではない。例えば、壁構造体10は、透光パネル11を有さない遮音板、防音板、又は防護柵等であっても良い。
【0013】
支柱30は、所定の間隔を置いて立設されている。支柱30は、例えば鉄道においては軌道94(図5参照)に沿って側方に設置されている。壁構造体10は、隣合って設置されている2本の支柱30の間に上方から挿入されて設置される。支柱30は、軌道94に沿って複数設置されており、隣合う2本の支柱30の間のそれぞれに壁構造体10が設置される。
【0014】
(支柱30)
図1(a)に示される様に、支柱30は、例えば断面がH形の鋼材により構成される。支柱30は、長手方向を上下方向に向けて床版90から立設されている。図1(b)に示される様に、支柱30は、上方から見たときに2つのフランジ部31の間にウェブ部32が渡されている形状になっている。ウェブ部32は、上方から見たときに壁100の壁面垂直方向に沿って延びる。フランジ部31は、上方から見たときにウェブ部32に対し垂直方向、即ち壁100の壁面に沿った方向に延びる。壁構造体10は、1つの支柱30が備える2つのフランジ部31の間に上方から挿入されて支柱30に取り付けられる。つまり、壁構造体10の水平方向の両端部は、支柱30の2つのフランジ部31の間に隙間を持って挿入される。このように構成されることにより、壁構造体10は、2つのフランジ部31により壁100の壁面垂直方向に支持され、2つの支柱30の間から水平方向に外れることがない。なお、支柱30の断面形状は、H形に限定されるものではない。壁構造体10の水平方向の端部が挿入され、壁構造体10を壁面垂直方向に支持することができれば、例えばコの字形の断面形状であっても良い。
【0015】
(壁構造体10)
図2に示される様に、壁構造体10は、透光パネル11の周縁11aを保持する枠体12を備える。枠体12は、上端及び下端に位置し水平方向に延びる2つの横枠13と、2つの横枠13のそれぞれの水平方向の両端を接続する2つの縦枠14と、を備える。縦枠14は、壁構造体10の水平方向の両端縁を形成している。透光パネル11は、例えば透明のポリカーボネート製の板又はアクリル製の板であり、壁100の壁面を構成する。
【0016】
図3は、実施の形態1に係る壁100の壁構造体10及び支柱30の断面構造の説明図である。2つの横枠13及び2つの縦枠14は、それぞれが矩形の透光パネル11の4辺に位置しており、透光パネル11の周縁11aを保持する。図3に示されている縦枠14の断面構造のように、縦枠14は、壁構造体10の中央側を向いた内側端面19に凹部19aが形成されている。透光パネル11の周縁11aは、凹部19aの内部に挿入されている。凹部19aには2つのパッキン62及び63が配置されている。2つのパッキン62及び63は、透光パネル11の板面垂直方向の両側から挟み込み、透光パネル11を保持する。
【0017】
縦枠14と同様に、横枠13にも壁構造体10の中央側を向いた内側端面19に凹部19aが形成されており、2つのパッキン62及び63を介して透光パネル11の周縁11aを保持している。つまり、枠体12は、透光パネル11の周縁11aを全周に亘ってパッキン62及び63を介して保持している。パッキン62及び63は、例えばゴムにより構成されており、弾性を有する。そのため、比較的薄い透光パネル11に荷重が掛かった際又は透光パネル11が振動した際においても、透光パネル11は、比較的硬度の高い枠体12に直接接触することなく、破損を防止することができる。
【0018】
実施の形態1において横枠13及び縦枠14は、例えばアルミニウム合金により構成されている。このように構成されることにより、壁構造体10を軽量にすることができる。横枠13及び縦枠14は、例えばアルミニウム合金を押出成形等により形成され、所定の断面形状を有する長尺部材である。なお、横枠13及び縦枠14を構成する材料は、アルミニウム合金のみに限定されるものでは無く、例えば鋼、樹脂等、必要とされる強度に応じて適宜変更することができる。また、各部材の成形方法も限定されるものではなく、一部又は全部をプレス成形、鋳造等の他の成形方法により成形しても良い。
【0019】
縦枠14は、透光パネル11を保持する側の部材である主構造部65と、壁構造体10の水平方向の端面に位置する端面部材60と、を備える。主構造部65は、壁構造体10の水平方向の端面側が開放されており、内部にボルト40と螺合するナット41、及び縦枠14と横枠13とを接合するためのネジ66が配置される。主構造部65は、ナット41及びネジ66が組み付けられた後に、端面部材60により内部構造に蓋がされる。主構造部65と端面部材60とは、リベット61などの接合手段により接合される。
【0020】
(壁構造体10を支柱30に固定する構造)
図1図3に示される様に、壁構造体10は、2つの支柱30の間に設置される。壁構造体10の水平方向の両端部のそれぞれは、支柱30が有する2つのフランジ部31の間に挿入される。壁構造体10の水平方向の両端部は、縦枠14が配置されている。縦枠14は、支柱30の延びる方向に沿った長尺部材であり、その一部が支柱30のフランジ部31の間に挿入されている。縦枠14は、壁構造体10の面方向の両側が2つのフランジ部31に挟まれて位置する。2つのフランジ部31の間の寸法は、壁構造体10の面方向における縦枠14の幅寸法よりも大きく形成されている。即ち、縦枠14は、2つのフランジ部31の間に隙間を持って挿入されている。
【0021】
縦枠14と2つのフランジ部31との間には、隙間があるため、このままの状態では、壁構造体10は、その隙間の分だけ面方向に移動することができる。しかし、壁構造体10は、軌道94を走行する車両80による風圧及び振動、自然環境の風、並びに地震等により力を受ける場合があり、力を受けても容易に移動しないように保持する必要がある。保持しない場合、壁構造体10は、2つのフランジ部31の間を面方向に移動できるため、例えば車両80の走行による風圧により縦枠14がフランジ部31に衝突し、破損するおそれがあるだけでなく、騒音などの不具合が発生する。
【0022】
図3に示される様に、実施の形態1においては、縦枠14と2つのフランジ部31の一方との間の隙間に、挿入片20が挿入されている。挿入片20は、弾性材料で構成されており、その弾性力でフランジ部31の裏面33と縦枠14とを押す。挿入片20は、一方の端部に縦枠14に固定される固定部21と、他方の端部にフランジ部31の裏面33に当接する押圧部22とを備える。固定部21は、縦枠14の固定面15にボルト40により固定される。固定部21を縦枠14の固定面15に固定するため、縦枠14は、挿通穴64が設けられ、その奥にはナット41が配置されている。ボルト40は、ナット41に螺合し、固定部21を固定面15に締結固定できる。
【0023】
押圧部22は、縦枠14が挿入されている支柱30の2つのフランジ部31の一方の裏面33に当接する。壁構造体10に固定された弾性を有する挿入片20が2つのフランジ部31のうちの一方の裏面33を押すことにより、壁構造体10は、2つのフランジ部31のうちの他方に押し付けられる。つまり、壁構造体10に固定された挿入片20の弾性力により、壁構造体10は、2つのフランジ部31の間の片側に寄せられて位置が決まる。
【0024】
図1(a)に示される様に、挿入片20は、縦枠14に複数固定されている。設置される挿入片20の数量は、挿入片20の弾性力、及び壁構造体10に加わる面方向の力に応じて適宜設定されるものである。実施の形態1においては、挿入片20は、縦枠14の水平方向の両端部に配置された2つの縦枠14のそれぞれに3箇所ずつ設置されている。壁構造体10の面積が小さい場合には、挿入片20を設置する数量を減少させても良い。
【0025】
(挿入片20)
図4は、実施の形態1に係る挿入片20の平面図及び上面図である。挿入片20は、板状の弾性部材であり、例えばバネ材により構成される。挿入片20は、例えば平板状のバネ材をプレス加工等により折り曲げて成形されたものである。図4(b)に示される様に、挿入片20の一方の端部は、上面視において円弧形状に曲げられた押圧部22である。また、挿入片20の他方の端部は、表面が平坦な固定部21である。押圧部22と固定部21との間には、挿入片20の面方向に突出し、外形が円弧形状に形成された当接部23が設けられている。さらに、当接部23と押圧部22との間は、接続部25で繋がれている。接続部25は、平坦に形成されている。固定部21と接続部25とは、実施の形態1においては、平行ではなく交差するような角度を成して当接部23から延びている。
【0026】
固定部21は、ボルト40が挿通されるボルト挿通部24を有する。実施の形態1において、ボルト挿通部24は、縦枠14が延びる方向に沿って並べて2箇所設けられ、押圧部22から固定部21に向かう方向に長軸方向を向けた長穴形状を有する。
【0027】
(挿入片20の取付方法)
次に、図3を用いて挿入片20の壁構造体10への取付方法を説明する。まず、壁構造体10は、2つの支柱30の間に上方から挿入される。縦枠14は、それぞれの支柱30の2つのフランジ部31の間に隙間を持って位置している。この工程を、壁構造体設置工程と呼ぶ。
【0028】
壁構造体10は、一方のフランジ部31との間に隙間を形成するように他方のフランジ部31側に寄せられる。そして、一方のフランジ部31と縦枠14との間に挿入片20の押圧部22が挿入される。押圧部22は、一方のフランジ部31の裏面33に当接される。このとき、挿入片20の当接部23は、縦枠14の一方のフランジ部31側の面に形成された溝16に嵌る様に配置される。また、固定部21は、縦枠14の固定面15に対し所定の角度を成して離れて位置している。このとき挿入片20は、押圧部22がフランジ部31の裏面33に当接し、当接部23が溝16に嵌っているが、図3中に破線矢印Fで示されるバネ力を作用させていない。つまり、板バネである挿入片20は、自然状態になっている。この工程を、挿入工程と呼ぶ。
【0029】
挿入片20が自然状態のときに、ボルト40が挿入片20のボルト挿通部24に通される。そして、ボルト40の先端は、壁構造体10の固定面15に形成された挿通穴64に挿通され、縦枠14内部に設置されたナット41に螺合する。このとき、ボルト40の首下長さLは、挿入片20の固定部21と壁構造体10の固定面15との距離Hよりも長く設定されている。固定部21と固定面15との距離Hは、図3に示される様に、ボルト40が固定面15に締め込まれたときのボルト40の頭の位置のうち最も溝16から遠い部分における、固定面15に対し垂直方向の固定面15と固定部21との距離Hである。このように構成されることにより、ボルト40を手作業で容易にナット41に螺合させることができる。そして、作業者が手作業で可能な範囲でボルト40を軽く締め込むことにより、挿入片20の固定部21が固定面15側に移動し、挿入片20は、図3中の破線矢印Fの方向にバネ力を作用させる。これにより、挿入片20は、縦枠14とフランジ部31との間に仮固定される。この工程を、仮固定工程と呼ぶ。なお、ボルト40の首下長さLは、距離Hよりも短くすることもできるが、この場合は、仮固定工程において作業者がボルト40をナット41に螺合させるときに挿入片20を大きく変位させる必要があり、作業に力を要することになる。
【0030】
次に、ボルト40を固定部21が固定面15に当接するまで締め込む。このとき、挿入片20の固定部21は、図3に破線で示されている位置まで変形するため、破線矢印Fで示されるバネ力が増加する。つまり、一方のフランジ部31の裏面33と縦枠14の溝16との間に反発する力が加わり、縦枠14は、他方のフランジ部31に押し付けられる。ボルト40の締め込みは、例えばインパクトレンチなどの工具で行われる。この工程を、ボルト締め込み工程と呼ぶ。
【0031】
ボルト締め込み工程が完了した状態において、挿入片20は、押圧部22がフランジ部31の裏面33に当接し、当接部23が溝16を構成する面に当接している。ボルト40を締め込むことにより、固定部21が固定面15側に移動することにより、当接部23を支点として押圧部22からフランジ部31の裏面33に作用する力が増加する。挿入片20は、当接部23が支点、押圧部22が作用点、固定部21が力点となっているてこのように作用し、壁構造体10と2つのフランジ部31の一方とが反発するように力を作用させるものである。なお、実施の形態1において、当接部23は、縦枠14側に凸形状になっており、縦枠14には当接部23の凸形状に対応するように溝16が形成されているが、この形態に限定されるものではない。例えば、当接部23が平坦な面であっても良く、この場合、当接部23は、縦枠14の前面17と固定面15とが交わる部分に形成された角部に当接し、てこの支点となる。
【0032】
(効果)
実施の形態1に係る壁100の様に鉄道に用いられる透光型の壁100は、車両80の走行による風圧などを受けるため、容易に壁構造体10が移動しないように、挿入片20は、高い荷重で壁構造体10を押し付ける必要がある。また、壁構造体10が受ける荷重により、ボルト40が緩むおそれがある。そのため、ボルト40の締め込みは、比較的高いトルクで行うことになり、限られた作業時間内で締め込みトルクも精度良く管理する必要がある。
【0033】
壁構造体10の固定面15は、壁構造体10の中央側に傾斜している。また、固定面15は、透光パネル11の面及びフランジ部31の面に対して傾斜している。従って、ボルト締め込み工程において、ボルト40は、壁構造体10の面方向に対し傾斜した方向からボルト挿通部24に挿し込まれる。このように構成されることにより、ボルト締め込み工程において、工具を使用してボルト40を締め込む際に透光パネル11及びフランジ部31に工具が接触することがないため、締め込み作業が容易になり、ボルト40は適切なトルクで締結される。また、ボルト40が締め込まれた状態において、ボルト40の頭が縦枠14の厚さの範囲内に納めることができる。
【0034】
図5は、実施の形態1に係る壁100が鉄道の軌道94の側壁として設置された一例を示す断面図である。図5は、鉄道の軌道94が延びる方向に対し垂直な断面を示している。図5においては、吸音板91の上に透光型の壁構造体10が設置されている。吸音板91も、上記において説明した壁構造体10と同様に断面形状がH形の支柱30の2つのフランジ部31の間に挿入されて設置されている。また、壁構造体10の上方には、騒音低減装置92が設置されている。支柱30、吸音板91、壁構造体10、及び騒音低減装置92は、床版90の上に立設されている。床版90の上には車両80が走行する軌道94が設置され、軌道94と壁100との間には点検通路93が設けられている。点検通路93は、鉄道に設けられている設備を作業者が点検又は修理するために設けられた通路である。
【0035】
実施の形態1に係る壁100は、図3に示される様に挿入片20が縦枠14と支柱30のフランジ部31との間に形成される隙間に挿入される。また、挿入片20は、壁構造体10の縦枠14に固定される。壁100は、このような構造を備えるため、図5の点検通路93側に壁構造体10を固定するための挿入片20が突出することがない。従って、壁100が備える壁構造体10の固定構造は、狭い点検通路93を通行する作業者を阻害することがない。
【0036】
また、壁100は、縦枠14の固定面15が上下方向の視点において、壁構造体10の中央側に傾斜している。そのため、図3に示される様に、挿入片20を縦枠14の固定面15に固定するボルト40は、支柱30側に寄った位置に配置されることになる。従って、壁構造体10の透光パネル11が設置される範囲は、支柱30に近い位置まで広げることができる。これにより、透光型の壁100は、品質が向上する。また、図3に示される様に、ボルト40は、縦枠14に斜めに挿し込まれるため、縦枠14の内部で透光パネル11を避けて設置することができる。また、ボルト40は、縦枠14の断面において一方のフランジ部31側から他方のフランジ部31方向に向かって挿し込まれ、かつ壁構造体10の中央側から水平方向の端面側に向かって挿し込まれている。よって、壁100は、ボルト40の首下長さLを長く設定することができる。
【0037】
一方、壁100の挿入片20を固定する固定面15は、図3に示される内側端面19に平行に設けることもできる。また、固定面15は、支柱30のフランジ部31に平行に設けることもできる。ただし、この場合は、挿入片20を固定する作業時に工具が透光パネル11又はフランジ部31に干渉しボルト締め付け作業が困難になる場合がある。また、固定面15が支柱30のフランジ部31に平行な場合、ボルト40の位置をフランジ部31の先端から離れた位置に配置する必要があるため、固定面15を傾斜させた場合よりも透光パネル11の範囲が小さくなる。または、ボルト40を壁構造体10の面方向に挿し込む場合は、ボルト40の首下長さLは、透光パネル11に当たらない程度に短く設定される。
【0038】
図6は、実施の形態1に係る壁100において挿入片20周辺の断面構造の模式図である。壁100の壁構造体10を固定する際に、挿入片20は、接続部25と固定部21との位置関係が自然状態の角度θ1から作動状態の角度θ2に変化する。自然状態の角度θ1は、作動状態の角度θ2よりも小さく、挿入片20は、固定部21が角度θ1から角度θ2に移動する分の弾性力を壁構造体10と支柱30とに伝達することにより、壁構造体10を支柱30のフランジ部31に押しつける。このように構成されることにより、挿入片20の固定部21は、押圧部22に対し水平方向にずれた位置に配置される。そして、固定部21は、図6に示される様に、支柱30の2つのフランジ部31の間から壁構造体10の中央側にずれた位置に配置されているため、固定部21を固定面15に固定する作業が容易である。なお、図6において、接続部25は断面において直線状に表されているが、この形態に限定されるものではない。例えば接続部25は、曲線状であっても良く、この場合、角度θ1は、押圧部22と当接部23とを結ぶ仮想直線と固定部21とがなす角度により表される。また、角度θ2は、押圧部22と当接部23とを結ぶ仮想直線と固定面15とがなす角度により表される。
【0039】
(挿入片20の変形例)
図7は、実施の形態1に係る挿入片20の変形例の平面図及び上面図である。図8は、実施の形態1に係る挿入片20の変形例を用いた壁100の断面構造の説明図である。図8は、壁構造体10を模式的に表している。図7に示される変形例の挿入片120のように、挿入片120の固定部21と接続部25とを平行にしても良い。図8に示される様に、挿入片120は、支柱30の2つフランジ部31の間の寸法が小さく、縦枠14とフランジ部31との間の隙間が小さい場合に都合が良い。縦枠14とフランジ部31との間の隙間が小さい場合に挿入片20のように、固定部21と接続部25とが交差するような角度を成していると、挿入片20が自然状態において固定部21と固定面15との距離Hが大きくなり、ボルト40の仮固定が困難になる場合がある。よって、挿入片120の様に固定部21と接続部25及び押圧部22の位置関係を適宜変更することにより、ボルト40の仮固定作業を容易にし、挿入片120のバネ力も適切に設定することが出来る。また、挿入片20及び120は、板面にバネ力を増加させるために凸形状、凹形状等が形成されていても良い。また、挿入片20及び120は、板面に穴又は切り欠き等を設けることにより、バネ力を調整しても良い。
【0040】
また、図7に示される様に、挿入片120の固定部21に設けられたボルト挿通部24は、切り欠き形状であっても良い。ボルト挿通部24が切り欠き形状の場合は、ボルト40を壁構造体10に螺合させた状態でボルト40をボルト挿通部24内に挿入することができる。
【0041】
図8に破線で示されるように、挿入片20及び120は、壁構造体10に係止するための係止部27が設けられていても良い。図8の破線で示した係止部27は、押圧部22とは別に設けられた部分であり、挿入片20及び120の当接部23から縦枠14の前面17に沿って延び、先端部27aが縦枠14の端面部材60に当接して引っ掛かるように構成されている。係止部27の先端部27aと当接部23とは、例えば溝16と縦枠14の端面部材60とを挟むようにして挿入片20又は120を壁構造体10に係止する。係止部27は、挿入片20又は120を固定するためのボルト40を締め込んだときには、縦枠14から外れるように構成されていても良い。
【0042】
このように構成することにより、係止部27は、ボルト40により挿入片20又は120を縦枠14に固定する前の状態、即ち弾性部材である挿入片20及び120が自然状態において、縦枠14に仮留めする。そのため、例えば、壁構造体10を支柱30に取り付ける前に、挿入片20及び120を壁構造体10に仮留めし、壁構造体10を設置する現場での作業を低減させることができる。また、壁構造体10を支柱30に取り付ける前に、ボルト40も挿通穴64に螺合させることができる。なお、係止部27は、ボルト40を締め込み、フランジ部31と壁構造体10との間において挿入片20のバネ力を作用させることができれば、その他の形態であっても良い。また、押圧部22が係止部27の機能を兼ねる様に構成しても良い。
【0043】
図9は、実施の形態1に係る壁100の比較例である壁1100の壁構造体1010の固定構造の模式図である。比較例に係る壁1100は、一方のフランジ部31に挿入片1020をボルト40及びナット41により固定し、挿入片1020のバネ力により壁構造体1010を他方のフランジ部31に押し付けている。そのため、ボルト40の先端部は、支柱30の一方のフランジ部31の表面から突出している。従って、比較例に係る壁1100によれば、図5に示される点検通路93にボルト40の先端部が突出し、点検通路93を通行する作業者に引っ掛かる場合があり得る。また、壁1100によれば、フランジ部31の裏面33側から表面にボルト40を挿通させてから挿入片1020をボルト40に通し、ナット41を締め込む。これにより、ボルト40の設置作業を、壁1100を設置する現場で実施する必要があり、現場での作業量が多くなる。
【0044】
既設の支柱30が設置されており、既設の壁構造体から壁構造体1010に交換を行う場合においては、既設の支柱30にボルト40を挿通する穴を加工する必要がある。比較例に係る壁1100は、支柱30に挿入片1020が固定される。挿入片1020は、壁構造体1010の適切な位置に押圧部1022を当接させるように、既設の支柱30上の正確な位置にボルト40を挿通する穴を加工する必要がある。また、ボルト40を挿通する穴の位置は、2つの支柱30と壁構造体1010との寸法関係に応じて加工する必要がある。そのため、壁1100を設置するに当たっては、現場においてボルト40を挿通する穴の位置の墨出しが必要である。そのため、比較例の壁1100の設置は、現場での作業量が更に多くなる。
【0045】
一方、実施の形態1に係る壁100によれば、挿入片20は、壁構造体10に直接固定されるものであり、挿入片20を固定するためのボルト40の挿通穴64が壁構造体10に設けられている。従って、壁100は、壁100を設置する現場でボルト40の挿通穴64を加工する必要がない。また、挿入片20は、壁構造体10に位置決めされるため、比較例の壁1100を設置する場合の様に、設置現場での墨出しが必要なく、壁100の設置にあたり現場での作業量を低減できる。また、設置された壁100を撤去する際には、少なくともボルト40を緩めて弾性部材である挿入片20を自然状態に近い状態にすれば、壁構造体10は、支柱30から容易に取り外せる。
【0046】
以上に本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施の形態の構成のみに限定されるものではない。例えば、挿入片20の形状は、必要なバネ力に応じて板厚及び形状を適宜変更することができる。また、壁100において挿入片20の設置箇所も変更することができる。また、壁構造体10は、透光型の壁構造体10だけでなく、遮音板又は防音板等に変更しても良い。要するに、いわゆる当業者が必要に応じてなす種々なる変更、応用、利用の範囲をも本発明の要旨(技術的範囲)に含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0047】
10 壁構造体、11 透光パネル、11a 周縁、12 枠体、13 横枠、14 縦枠、15 固定面、16 溝、19 内側端面、19a 凹部、20 挿入片、21 固定部、22 押圧部、23 当接部、24 ボルト挿通部、25 接続部、27 係止片、27a 先端部、30 支柱、31 フランジ部、32 ウェブ部、33 裏面、40 ボルト、41 ナット、60 端面、62 パッキン、64 挿通穴、80 車両、90 床版、91 吸音板、92 騒音低減装置、93 点検通路、94 軌道、100 壁、120 挿入片、1010 壁構造体、1020 挿入片、1022 押圧部、1100 壁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9