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特許7438860水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
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  • 特許-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図1
  • 特許-水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240219BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240219BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020105518
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021008604
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019122711
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】岸 宏光
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大二
(72)【発明者】
【氏名】宮町 尚利
(72)【発明者】
【氏名】乾 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 洋彦
(72)【発明者】
【氏名】下村 直史
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160931(JP,A)
【文献】特開2008-088427(JP,A)
【文献】特開2017-025303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037750(US,A1)
【文献】特開2011-235615(JP,A)
【文献】特開2004-359960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用の水性インクであって、
前記樹脂粒子が、シアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部と、を有し、
前記水溶性有機溶剤が、環状アミド類を含むことを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記樹脂粒子のガラス転移温度が、95℃以上であり、
最低造膜温度が、30℃以下である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記樹脂粒子のガラス転移温度が、150℃以下である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記樹脂粒子の最低造膜温度が、0℃以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
前記コア部に占める、前記シアノ基含有ユニットの割合(質量%)が、10質量%以上60質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
前記シアノ基含有ユニットが、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの少なくとも一方に由来するユニットである請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
前記架橋剤に由来するユニットが、2以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物及びグリシジル基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種に由来するユニットである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記樹脂粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
前記環状アミド類が、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)-5,5-ジメチルヒダントインからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項10】
前記環状アミド類の含有量(質量%)が、前記樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上2.5倍以下である請求項1乃至のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項11】
前記環状アミド類の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項12】
さらに、その酸価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である水溶性樹脂を含有する請求項1乃至11のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項13】
前記水溶性樹脂が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項12に記載の水性インク。
【請求項14】
前記水溶性樹脂の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下である請求項12又は13に記載の水性インク。
【請求項15】
前記樹脂粒子が、色材を内包しない請求項1乃至14のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項16】
さらに、色材を含有する請求項1乃至15のいずれか1項に記載の水性インク。
【請求項17】
前記色材の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下である請求項16に記載の水性インク。
【請求項18】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項19】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進歩により、銀塩写真やオフセット印刷で実現されているような高精細で光沢性に優れた画像を、インクジェット記録方法によって容易かつ安価に記録することが可能になってきている。インクジェット用のインクに用いられる色材には染料と顔料があり、耐ガス性、耐光性、及び耐水性などの画像の堅牢性の観点から、近年では顔料が広く使用されている。
【0003】
光沢紙などの表面に光沢を持つ記録媒体に顔料を色材として含有するインク(顔料インク)を付与すると、記録媒体の表面上に顔料が定着することで画像が記録される。このため、顔料インクで記録した画像は、擦れることで表面に傷がついたり、光沢感が変化したりしやすいため、いわゆる耐擦過性を高めることが課題となっている。なかでも、写真印刷やグラフィックアート印刷などの用途で光沢紙などの記録媒体が使用される場合には、画像の表面が擦れても光沢変化がほとんど生じないレベルの高度な耐擦過性が要求される。
【0004】
また、顔料インクは堅牢性の良好な画像を記録可能であることから、掲示用の記録物を作製する際にも採用されており、フィルムなどの非吸収性の記録媒体に画像を記録する機会も増加している。そして、屋外掲示用の記録物は、掲示の際にスキージなどで擦られる場合も多いため、強固な耐擦過性を有する必要がある。
【0005】
このような要求に対して、例えば、特定の単量体を重合して得られる共重合体を含有する、フィルムへの付着性や耐擦過性に優れた画像を記録しうる水性インクが提案されている(特許文献1)。また、特定の水溶性有機溶剤を用いることで最低造膜温度を低下させた、非吸収性媒体への付着性や耐擦過性が向上した画像を記録しうるインク組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-031276号公報
【文献】国際公開第2018/143957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1及び2で提案されたインクについて検討した。その結果、これらのインクを用いて光沢紙などの記録媒体に記録した画像においては、耐擦過性が向上する一方で、画像の写像性が損なわれやすいといった課題が生ずることが判明した。写像性とは、画像に像を映したときの像の鮮鋭度を示す指標となる性質を指し、写像性が低い場合は像がぼやけて見え、写像性が高い場合は像がくっきり見える。
【0008】
したがって、本発明の目的は、耐擦過性及び写像性に優れた画像を記録することが可能な水性インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、樹脂粒子及び水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用の水性インクであって、前記樹脂粒子が、シアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部と、を有し、前記水溶性有機溶剤が、環状アミド類を含むことを特徴とする水性インクが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐擦過性及び写像性に優れた画像を記録することが可能な水性インクを提供することができる。また、本発明によれば、この水性インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明において、樹脂を構成する「ユニット」とは、1の単量体に由来する繰り返し単位を意味する。
【0013】
本発明者らは、樹脂粒子を含有するインクで記録した画像の耐擦過性について検討する過程で、樹脂粒子を形成する樹脂に含まれるユニットと、インクに含有させる水溶性有機溶剤との組み合わせについて検討した。その結果、シアノ基含有ユニットを含む樹脂で形成された樹脂粒子と、環状アミド系の水溶性有機溶剤とを組み合わせた場合に、記録される画像の耐擦過性が向上することを見出した。さらに詳細に検討したところ、上記の組み合わせの場合、樹脂粒子のガラス転移温度が100℃を超えるような、通常では膜化のために加熱が必要である場合であっても、常温での膜化が特異的に進行していることがわかった。
【0014】
環状アミド系の水溶性有機溶剤などの環状アミド類は、造膜助剤として機能する成分であることが知られている。しかし、環状アミド類を、シアノ基含有ユニットを含まない樹脂で形成された樹脂粒子と組み合わせた場合には、上記のような画像の耐擦過性が向上する現象は観察されなかった。また、同様に造膜助剤として機能することが知られているグリコールエーテル系の水溶性有機溶剤と、シアノ基含有ユニットを含む樹脂で形成された樹脂粒子とを組み合わせた場合にも、上記のような画像の耐擦過性が向上する現象は観察されなかった。シアノ基含有ユニットを含む樹脂で形成された樹脂粒子と、環状アミド系の水溶性有機溶剤とを組み合わせた場合にのみ、上記のような特異的な現象が起こるのは、以下のような理由によるものと推測される。すなわち、高極性のシアノ基と、同じく高極性のアミド基とが強く相互作用することで、樹脂鎖の運動が促進され、画像の耐擦過性が向上したと考えられる。
【0015】
しかし、シアノ基含有ユニットを含む樹脂で形成された樹脂粒子と、環状アミド類とを含有するインクを光沢紙などの記録媒体に付与した場合、記録される画像の写像性が不十分であることが判明した。詳細に検討したところ、樹脂粒子が常温で特異的に膜化する上記のインクの場合、急速な膜化に伴ってインク中の水溶性有機溶剤や水分の浸透が部分的に抑制されて、インクが溢れるような状態となって画像にムラが生ずる、いわゆるビーディングのような現象が生じやすくなる。その結果、画像表面に凹凸が形成されやすくなり、画像の写像性が低下することがわかった。このような現象は、非吸収性の記録媒体に画像を記録した場合には観察されない。
【0016】
さらに検討した結果、コア部にのみにシアノ基含有ユニット含むコアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることで、耐擦過性を高めながら良好な写像性を有する画像を記録できることが判明した。急速な膜化を進行させる主要因であるシアノ基含有ユニットが樹脂粒子の表面に露出するのをシェル部で被覆して抑制する。これにより、膜化を遅らせることが可能となり、インク中の水溶性有機溶剤や水分が記録媒体に浸透する時間的猶予を確保しながら膜化を進行させることができると考えられる。
【0017】
コア部を被覆するように配置されるシェル部は、樹脂粒子の分散状態を安定に保つことによって、インクの吐出特性を担保するため、親水性ユニットであるアニオン性基含有ユニットを含む。しかし、シェル部にアニオン性基含有ユニットが含まれていると樹脂粒子を形成する樹脂の親水性が高まるので、シェル部によるコア部の被覆状態が不十分になりやすい。このため、コア部のシアノ基含有ユニットが樹脂粒子の表面に露出しやすくなり、写像性の向上効果が不十分になることがわかった。
【0018】
本発明者らは、シェル部によってコア部をより強固に被覆するための構成について検討した。その結果、芳香族基含有ユニットと架橋剤に由来するユニットを含むシェル部とすることが重要であることを見出した。芳香族基含有ユニット同士の疎水性相互作用及びπ-π相互作用によって、シェル部の水溶性が過度に高まるのを抑制することができる。さらに、架橋構造を有するシェル部とすることで、シェル部を形成する樹脂鎖の運動を抑制することができ、記録される画像の写像性を向上させることができると考えられる。
【0019】
<水性インク>
本発明のインクは、樹脂粒子及び環状アミド系の水溶性有機溶剤を含有するインクジェット用の水性インクである。樹脂粒子は、シアノ基含有ユニットを含むコア部と、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを含まないシェル部とを有する。以下、インクを構成する各成分について、それぞれ説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載によって限定されるものではない。以下「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」、「アクリロイル、メタクリロイル」を示すものとする。本発明のインクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。また、本発明のインクは、可視領域以外の光の照射により発光するものである必要もない。
【0020】
(樹脂粒子)
本明細書における「樹脂粒子」とは、水性媒体中に分散し、粒径を有する状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。このため、樹脂粒子はインクに分散した状態、すなわち、樹脂エマルションの状態で存在する。また、この樹脂粒子は色材(染料、顔料、蛍光などにより発色する不可視の色材など)を内包するものである必要はない。
【0021】
ある樹脂が「樹脂粒子」であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒径を動的光散乱法により測定した場合に、粒径を有する粒子が測定された場合に、その樹脂は「樹脂粒子」であると判断することができる。動的光散乱法による粒度分布測定装置としては粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59、とすることができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。中和した樹脂を用いて粒子径を測定するのは、十分に中和されて粒子をより形成しにくい状態となっても、粒子が形成されていることを確認するためである。このような条件であっても粒子の形状を持つ樹脂は、水性インク中でも粒子の状態で存在する。
【0022】
樹脂粒子としては、コア部と、このコア部を被覆するシェル部とを有する、いわゆるコアシェル構造を有する樹脂粒子を用いる。コア部は、シアノ基含有ユニットを含む。コア部がシアノ基含有ユニットを含むことで、シアノ基と、後述する環状アミド類との間に生ずる強い相互作用により、常温における膜化が特異的に進行する。
【0023】
シェル部は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含む。また、シェル部は、シアノ基含有ユニットを実質的に含まない。シェル部がシアノ基含有ユニットを含まないため、樹脂粒子の表面にシアノ基が実質的に存在せず、画像の写像性を向上させることができる。
【0024】
また、シェル部が芳香族基含有ユニットを含むと、コア部との間で疎水性相互作用が生ずる。これにより、シェル部がコア部から剥がれにくくなり、コア部のシアノ基が樹脂粒子の表面に露出しにくくなるので、画像の写像性が向上する。
【0025】
重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、2-シアノエチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりシアノ基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基や芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、画像の耐擦過性に優れ、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。
【0026】
重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、p-フルオロスチレン、p-クロロスチレン、α-メチルスチレン、2-ビニルナフタレン、9-ビニルアントラセン、9-ビニルカルバゾール、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4-ジアミノ-6-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-1,3,5-トリアジン、2-ナフチル(メタ)アクリレート、9-アントリル(メタ)アクリレート、(1-ピレニル)メチル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合により芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしては、アニオン性基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、重合の際の反応性が良好であるとともに、得られる樹脂粒子の安定性が優れることから、スチレンやその誘導体がさらに好ましく、スチレン、ビニルトルエンが特に好ましい。
【0027】
アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基としては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましい。具体的には、カルボン酸基、フェノール性ヒドロキシ基、リン酸エステル基などを挙げることができる。なかでも、インク中での樹脂粒子の安定性が良好であるため、カルボン酸基が好ましい。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、p-ビニル安息香酸、4-ビニルフェノール、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸(メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル)エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。重合によりアニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしては、芳香族基やシアノ基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。また、アニオン性基含有ユニットにおけるアニオン性基は、カルボン酸基のみであることが好ましい。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。
【0028】
重合により架橋剤に由来するユニットとなる架橋剤としては、エチレン性不飽和結合などの重合性官能基を分子内に2以上有する化合物を挙げることができる。このような架橋剤としては、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物;1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(モノ-、ジ-、トリ-、ポリ-)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、プロポシキ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス(4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートなどの2官能性(メタ)アクリレート;トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能性(メタ)アクリレート;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能性(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0029】
架橋剤としては、分子量が200超のものが好ましく、分子量が300超のものがさらに好ましく、分子量が400以上のものが特に好ましい。また、架橋剤としては、エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物が好ましい。エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物を架橋剤として用いることで、過度の架橋によって生じる樹脂粒子の凝集が抑制され、より均一な粒子径の樹脂粒子を得ることができる。エチレン性不飽和結合を分子内に2つ有する化合物のなかでも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0030】
グリシジル基を有する架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0031】
樹脂粒子を製造する際には界面活性剤を用いることができる。界面活性剤の存在下で樹脂粒子を製造すると、得られる樹脂粒子の粒径や形状が安定しやすいために好ましい。但し、非反応性の界面活性剤は樹脂粒子から剥がれやすいことがある。インク中で界面活性剤が剥がれると、インクの物性に影響を及ぼして吐出特性などが低下しやすくなる場合がある。このため、樹脂粒子を製造する際に用いる界面活性剤としては、反応性界面活性剤が好ましい。
【0032】
反応性界面活性剤としては、親水部及び疎水部で構成される分子の内部又は末端に、(メタ)アクリロイル基、マレイル基、ビニル基、アリル基などの重合性官能基が結合している化合物を用いることが好ましい。親水部としては、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖などのポリオキシアルキレン鎖を挙げることができる。また、疎水部としては、アルキル、アリール、これらの組み合わせなどの構造を挙げることができる。親水部と疎水部とは、エーテル基などの連結基を介して結合していてもよい。反応性界面活性剤としては、分子量が200超のものが好ましく、分子量が300超のものがさらに好ましく、分子量が400以上のものが特に好ましい。
【0033】
反応性界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム、α-ヒドロ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル))、α-[1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル]-ω-ヒドロキシポリオキシエチレン、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩、2-ソジウムスルホエチルメタクリレート、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩、アルコキシポリエチレングリコールメタクリレート、アルコキシポリエチレングリコールマレイン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、ビニルエーテルアルコキシレート、アルキルアリルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレンメタクリレート硫酸エステル塩、不飽和リン酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、α-スルホ-ω-(1-アルコキシメチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ)-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)アンモニウム塩(アデカ製の商品名「アデカリアソープ」SR-10S、SR-10、SR-20、SR-3025、SE-10N、SE-20Nなど)が好ましい。
【0034】
樹脂粒子のコア部及びシェル部は、本発明の効果が損なわれない限り、上記のユニット以外のユニットをそれぞれ含んでいてもよい。上記のユニット以外のユニットとしては、重合性官能基を分子内に1つ有するものが好ましく、具体的には、エチレン性不飽和モノマーに由来するユニットなどを挙げることができる。
【0035】
エチレン性不飽和モノマーとしては、エチレンやプロピレンなどのアルケン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレートなどの単環式(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレートなどの2環式(メタ)アクリレート類;アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの3環式(メタ)アクリレート類;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートなどの非イオン性親水性基含有(メタ)アクリレート類;を挙げることができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、アニオン性基、シアノ基、芳香族基を有しないものや、分子量が300以下のものが好ましく、分子量が200以下のものがさらに好ましい。なかでも、炭素数が1以上22以下のアルケン;アルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキル(メタ)アクリレートなどが好ましい。また、樹脂粒子の物性を調整しやすく、重合安定性に優れた樹脂粒子を得ることができるため、アルキル基の炭素数が1以上12以下のアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0036】
上述の通り、コア部は、シアノ基含有ユニットを含む。コア部に占める、シアノ基含有ユニットの割合(質量%)は、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。コア部に占めるシアノ基含有ユニットの割合が10質量%未満であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。一方、コア部に占めるシアノ基含有ユニットの割合が60質量%超であると、コア部のシアノ基の一部が樹脂粒子の表面に露出しやすくなり、画像の写像性がやや低下する場合がある。コア部に占める、その他のユニットの割合(質量%)は、70質量%以下であることが好ましい。コア部における「その他のユニット」は、シアノ基含有ユニット以外のユニットであるものとする。コア部の「その他のユニット」は、芳香族基含有ユニット、アニオン性ユニット、及び反応性界面活性剤に由来するユニットを含んで構成されることが好ましい。また、コア部は架橋されていないことが好ましい。すなわち、コア部の「その他のユニット」には、架橋剤に由来するユニットが含まれないことが好ましい。
【0037】
また、上述の通り、シェル部は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニットを含み、シアノ基含有ユニットを実質的に含まない。シェル部に占める、芳香族基含有ユニットの割合(質量%)は、1質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
シェル部に占める、アニオン性基含有ユニットの割合(質量%)は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。シェル部に占めるアニオン性基含有ユニットの割合が5質量%未満であると、インクの吐出特性がやや低下する場合がある。一方、シェル部に占めるアニオン性基含有ユニットの割合が30質量%超であると、シェル部の親水性が高くなりすぎることがある。このため、コア部からシェル部が剥がれやすくなることがあり、コア部のシアノ基が樹脂粒子の表面に露出しやすく、画像の写像性がやや低下する場合がある。
【0039】
シェル部に占める、架橋剤に由来するユニットの割合(質量%)は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。シェル部に占める架橋剤に由来するユニットの割合が30質量%未満であると、水溶性樹脂との併用によりシェル部の親水性が過剰に高まるような状況下でコア部のシアノ基が露出しやすくなり、画像の写像性がやや低下する場合がある。一方、シェル部に占める架橋剤に由来するユニットの割合が80質量%超であると、インクの吐出特性がやや低下する場合がある。
【0040】
シェル部に占める、その他のユニットの割合(質量%)は、10質量%以下であることが好ましい。シェル部における「その他のユニット」は、芳香族基含有ユニット、アニオン性基含有ユニット、及び架橋剤に由来するユニット以外のユニットである。シェル部の「その他のユニット」は、反応性界面活性剤に由来するユニットを含んで構成されることが好ましい。
【0041】
樹脂粒子のコア部とシェル部の質量比率は、合計を100とした質量比率で、コア部:シェル部が、50:50~95:5であることが好ましく、60:40~90:10であることがさらに好ましい。また、樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、50nm以上120nm以下であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、前述の樹脂粒子であるか否かの判断方法と同様の方法で測定することができる。
【0042】
インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。樹脂粒子の含有量が1.0質量%未満であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。一方、樹脂粒子の含有量が10.0質量%超であると、画像の写像性がやや低下する場合がある。
【0043】
樹脂粒子のガラス転移温度は、95℃以上であることが好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度が95℃未満であると、樹脂粒子の膜化が急速に進行しやすくなり、画像の写像性がやや低下する場合がある。また、インクの吐出特性もやや低下する場合がある。樹脂粒子のガラス転移温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置(例えば、商品名「DSC Q1000」、TA instruments製など)を使用して測定することができる。
【0044】
ガラス転移温度が上記の範囲内にある樹脂粒子を含有するインクの最低造膜温度は、好ましくは30℃以下である。最低造膜温度が30℃超であると、画像の耐擦過性を発現させるために加熱などの手段が別途必要になることがある。インクの最低造膜温度は、0℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがさらに好ましい。インクの最低造膜温度は、最低造膜温度計(例えば、商品名「MFFT-90」、Rhopoint Instruments製)を使用し、ASTM標準D2354に準拠した方法によって測定することができる。
【0045】
[樹脂粒子の製造方法]
樹脂粒子は、例えば、乳化重合法、ミニエマルション重合法、シード重合法、転相乳化法などの従来公知の方法にしたがって製造することができる。
【0046】
[樹脂粒子の検証方法]
樹脂粒子の構成については、以下の(i)~(iii)に示す方法にしたがって検証することができる。以下、インクから樹脂粒子を抽出して分析及び検証する方法について説明するが、水分散液などから抽出した樹脂粒子についても同様に分析及び検証することができる。
【0047】
(i)樹脂粒子の抽出
密度勾配遠心分離法により、樹脂粒子を含有するインクから樹脂粒子を分離・抽出することができる。密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降速度法では、成分の沈降係数の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。また、密度勾配遠心分離法のうち、密度勾配沈降平衡法では、成分の密度の差によって樹脂粒子を分離・抽出する。
【0048】
(ii)層構造の確認と分離
まず、樹脂粒子を四酸化ルテニウムで染色及び固定化した後、エポキシ樹脂に埋め込んで安定に保持する。次いで、エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子をウルトラミクロトームで切断し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を使用して断面を観察する。樹脂粒子の重心を通って切断した断面を観察することで、樹脂粒子の層構造を確認することができる。エポキシ樹脂に埋め込んだ樹脂粒子を分析試料とし、エネルギー分散型X線分光法(EDX)が併置されたSTEM-EDXにより、樹脂粒子を構成する層(コア部、シェル部)の含有元素を定量分析することができる。
【0049】
(iii)各層の樹脂を構成するユニット(モノマー)の分析
各層の樹脂を分離するための試料とする樹脂粒子は、分散液の状態でもよい。また、樹脂粒子を乾燥して膜化した状態のものを試料としてもよい。試料とする樹脂粒子を有機溶媒に溶解させた後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により各層を分離し、各層を構成する樹脂を分取する。そして、分取した樹脂を燃焼法により元素分析する。これとは別に、酸分解(フッ化水素酸添加)法又はアルカリ融解法により分取した樹脂を前処理した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法により無機成分を定量分析する。元素分析及び無機成分の定量分析の結果と、上記(ii)で得たSTEM-EDXによる元素の定量分析の結果とを比較することで、分取した樹脂が構成していた樹脂粒子の層を知ることができる。
【0050】
また、核磁気共鳴(NMR)分光法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)により、分取した樹脂を分析する。これにより、樹脂を構成するユニット(モノマー)及び架橋性成分の種類や割合を知ることができる。さらに、熱分解ガスクロマトグラフィーによって分取した樹脂を分析することで、解重合で生じたモノマーを直接検出することもできる。
【0051】
(環状アミド類)
インクに含有させる水溶性有機溶剤は、環状アミド類を含む。環状アミド類を含有することで、樹脂粒子を構成するコア部のシアノ基と、環状アミド類との間に生ずる強い相互作用により、常温における膜化を特異的に進行させることができる。
【0052】
環状アミド類としては、ピロリドン類、イミダゾリジノン類、ヒダントイン類を挙げることができる。なかでも、膜化促進作用が高く、画像の耐擦過性に優れるとともに、取り扱いしやすさなどの観点から、以下の化合物が好ましい。すなわち、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、及び1,3-ビス(2-ヒドロキシエチル)-5,5-ジメチルヒダントインからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0053】
インク中の環状アミド類の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。環状アミド類の含有量が1.0質量%未満であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。一方、環状アミド類の含有量が20.0質量%超であると、インクの吐出特性がやや低下する場合がある。
【0054】
インク中の環状アミド類の含有量(質量%)は、樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上2.5倍以下であることが好ましい。上記の質量比率が0.5倍未満であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。一方、上記の質量比率が2.5倍超であると、画像の写像性がやや低下する場合がある。
【0055】
(水溶性樹脂)
インクは、さらに、水溶性樹脂を含有することが好ましい。水溶性樹脂は、アクリル樹脂又はウレタン樹脂であることが好ましく、アクリル樹脂であることがさらに好ましい。また、水溶性樹脂は、芳香族基含有ユニットを含むことが好ましい。芳香族基含有ユニットを有する水溶性樹脂が存在すると、水溶性樹脂の芳香族基と樹脂粒子の芳香族基との間で、疎水性相互作用及びπ-π相互作用が生ずる。その結果、記録媒体に形成される樹脂膜の強度が高まり、画像の耐擦過性がさらに向上する。また、樹脂粒子に水溶性樹脂が吸着し、水溶性樹脂が樹脂粒子の分散を補助するため、インクの吐出特性も向上しやすい。
【0056】
水溶性のアクリル樹脂における芳香族含有ユニットとしては、上述した芳香族含有ユニットを用いることができる。水溶性のアクリル樹脂は、芳香族基含有ユニットに加えて、アニオン性基含有ユニットを有することが好ましい。水溶性のアクリル樹脂におけるアニオン性基含有ユニットとしては、上述したアニオン性基含有ユニットを用いることができる。
【0057】
水溶性のアクリル樹脂は、芳香族基含有ユニット及びアニオン性基含有ユニット以外のユニット(その他のユニット)をさらに有してもよい。その他のユニットを構成するモノマーとしては、アルコキシ基、ヒドロキシ基などの置換基を有するものを含めると、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;メトキシ(モノ、ジ、トリ、ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレンなどのアルケン;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレートなどの単環式(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレートなどの2環式(メタ)アクリレート類;アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの3環式(メタ)アクリレート類;などを挙げることができる。水溶性のアクリル樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0058】
水溶性のウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(酸基を有するポリオール、酸基を有しないポリオール、ポリアミンなど)とを反応させて得られたものを用いることができる。また、鎖延長剤や架橋剤をさらに反応させたものであってもよい。これらの成分の少なくともいずれかとして、芳香族基を有するものを用いる。
【0059】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることが好ましい。水溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g未満であると、画像の耐擦過性がやや低下する場合がある。一方、水溶性樹脂の酸価が180mgKOH/g超であると、水溶性樹脂のアニオン性基に由来するイオンによって、樹脂粒子のシェル部のアニオン性基が中和され、水溶化が促されてコア部への包含状態が緩む。これにより、シアノ基を有するコア部が露出しやすくなり、画像の写像性がやや低下する場合がある。
【0060】
インク中の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性樹脂の含有量(質量%)は、樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。
【0061】
水溶性樹脂の組成、重量平均分子量、及び酸価などの物性値については、従来公知の方法にしたがって測定することができる。具体的には、インクを遠心分離して得られる沈降物及び上澄み液を解析することで、水溶性樹脂の物性値を測定することができる。インクの状態でも水溶性樹脂を解析することはできるが、インクから抽出した水溶性樹脂を解析すると、測定精度を高めることができるために好ましい。具体的には、インクを75,000rpmで遠心分離して得た上澄み液に過剰の酸(塩酸など)を添加した後、析出した樹脂を乾燥したものを解析することが好ましい。
【0062】
インクから分離した樹脂を高温ガスクロマトグラフィー/質量分析計(高温GC/MS)を使用して分析することで、水溶性樹脂を構成するユニットの種類などを確認することができる。また、核磁気共鳴法(13C-NMR)やフーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)によって定量的に分析することで、各ユニットを構成するモノマーの分子量や種類などを確認することができる。
【0063】
水溶性樹脂の酸価は、滴定法により測定することができる。具体的には、水溶性樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定用試料を調製する。そして、調製した測定用試料につき、電位差自動滴定装置を使用し、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いて電位差滴定することにより、水溶性樹脂の酸価を測定することができる。電位差自動滴定装置としては、例えば、商品名「AT510」(京都電子工業製)などを使用することができる。
【0064】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。GPCの測定条件は以下に示す通りである。
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF-806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS-1及びPS-2(Polymer Laboratories製、分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。
【0065】
(色材)
インクは、さらに、色材を含有することが好ましい。なお、色材を含有しないインクとする場合は、色材を含有する別のインクと併用することができる。色材としては、顔料や染料を用いることができる。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。色材としては、顔料を用いることが好ましい。
【0066】
顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。
【0067】
顔料としては、分散方式で分類すると、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、樹脂結合型顔料やマイクロカプセル顔料ではなく、分散剤としての樹脂を顔料の粒子表面に物理吸着させた樹脂分散顔料を用いることが好ましい。
【0068】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散さるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0069】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0070】
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、アントラピリドンなどの染料を挙げることができる。インクに含有させる色材は、顔料であることが好ましく、樹脂分散顔料であることがさらに好ましい。
【0071】
(水性媒体)
インクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性インクである。インクには、水性媒体としてさらに水溶性有機溶剤を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、インクに一般的に用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、前述の環状アミド類以外の含窒素化合物類、含硫黄化合物類などを挙げることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。この水溶性有機溶剤の含有量は、環状アミド類を含む値である。
【0072】
(その他の添加剤)
インクは、上記した成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体などの、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。さらに、インクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及びその他の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0073】
(インクの物性)
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクであるので、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、プレート法により測定される、25℃におけるインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上45mN/m以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクのpHは、7.0以上10.0以下であることが好ましい。
【0074】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、このインク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明の水性インクである。図1は、本発明のインクカートリッジの一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示すように、インクカートリッジの底面には、記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給口12が設けられている。インクカートリッジの内部はインクを収容するためのインク収容部となっている。インク収容部は、インク収容室14と、吸収体収容室16とで構成されており、これらは連通口18を介して連通している。また、吸収体収容室16はインク供給口12に連通している。インク収容室14には液体のインク20が収容されており、吸収体収容室16には、インクを含浸状態で保持する吸収体22及び24が収容されている。インク収容部は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容されるインク全量を吸収体により保持する形態であってもよい。また、インク収容部は、吸収体を持たず、インクの全量を液体の状態で収容する形態であってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0075】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明の水性インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0076】
図2は、本発明のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置の一例を模式的に示す図であり、(a)はインクジェット記録装置の主要部の斜視図、(b)はヘッドカートリッジの斜視図である。インクジェット記録装置には、記録媒体32を搬送する搬送手段(不図示)、及びキャリッジシャフト34が設けられている。キャリッジシャフト34にはヘッドカートリッジ36が搭載可能となっている。ヘッドカートリッジ36は記録ヘッド38及び40を具備しており、インクカートリッジ42がセットされるように構成されている。ヘッドカートリッジ36がキャリッジシャフト34に沿って主走査方向に搬送される間に、記録ヘッド38及び40から記録媒体32に向かってインク(不図示)が吐出される。そして、記録媒体32が搬送手段(不図示)により副走査方向に搬送されることによって、記録媒体32に画像が記録される。記録媒体32としては、特に制限はないが、普通紙などのコート層を有しない記録媒体、光沢紙やマット紙などのコート層を有する記録媒体などの、紙を基材とした記録媒体(インクの浸透性を有する記録媒体)を用いることが好ましい。この記録媒体は、転写用途である必要はない。
【実施例
【0077】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0078】
<顔料分散液の調製>
水110gに濃塩酸100gを溶かした溶液を5℃に冷却した状態とし、この状態で4-アミノフタル酸30gを加えた。この溶液の入った容器をアイスバスに入れ、撹拌して溶液の温度を10℃以下に保持しながら、5℃のイオン交換水180gに亜硝酸ナトリウム36を溶かして得た溶液を加えた。15分間撹拌後、カーボンブラック(商品名「モナク1000」、キャボット製)を撹拌下で加え、さらに15分間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させて自己分散顔料を得た。適量の水を添加して顔料の含有量を調整し、顔料の含有量が15.0%である顔料分散液を得た。
【0079】
<樹脂粒子の水分散液の調製>
(樹脂粒子1~16)
撹拌装置を取り付けた反応容器を温水槽にセットした。反応容器中に水1,178部を入れ、内温を70℃に保持した。シアノ基含有ユニットとなるモノマー、芳香族基含有ユニットとなるモノマー(対照例としてのモノマーも含む)、アニオン性基含有ユニットとなるモノマー、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤を用意した。これらの成分を表1-1に示す仕込み量(部)及び内訳(%)で混合した。これにより、コア部用のモノマー混合液を調製した。反応性界面活性剤としては、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製)を用いた。また、過硫酸カリウム1.9部及び水659部を混合して重合開始剤の水溶液1を調製した。コア部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液1を、60分かけながら並行して反応容器内に滴下した。滴下終了後、撹拌を継続してさらに30分間反応させて、樹脂粒子のコア部となる粒子を合成した。但し、樹脂粒子10についてはコア部を合成しなかった。
【0080】
次いで、芳香族基含有ユニットとなるモノマー(対照例としてのモノマーも含む)、アニオン性基含有ユニットとなるモノマー、架橋剤ユニットとなる架橋剤、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤を用意した。用意したこれらのモノマーを表1-2に示す仕込み量(部)及び内訳(%)で混合して、シェル部用のモノマー混合液を調製した。反応性界面活性剤としては、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製)を用いた。また、過硫酸カリウム0.1部及び水133部を混合して重合開始剤の水溶液2を調製した。コア部となる粒子が入った反応容器内に、シェル部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液2を10分かけながら並行して滴下した。滴下終了後、80℃で10分間撹拌して反応を継続させてシェル部を合成し、コア部となる粒子がシェル部となる樹脂で被覆された、コアシェル構造を有する樹脂粒子を合成した。但し、樹脂粒子11についてはシェル部を合成しなかった。
【0081】
その後、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpH8.5に調整した。適量の水をさらに添加して、樹脂粒子の含有量が20%であり、粒子径(体積基準の累積50%粒子径)が80nmである各樹脂粒子の水分散液を得た。樹脂粒子の粒子径は、動的光散乱方式の粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を使用し、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:真球形、屈折率:1.59の条件で測定した。表1-2には、得られた樹脂粒子のガラス転移温度を示した。樹脂粒子のガラス転移温度は、以下の手順にしたがって測定した。まず、樹脂粒子の水分散液を60℃に加温して乾固させたものをアルミ容器に封管してサンプルとした。次いで、示差走査熱量測定装置(商品名「DSC Q1000」、TAインスツルメンツ製)を使用し、サンプルを、200℃まで10℃/分で昇温、-50℃まで5℃/分で降温、及び200℃まで10℃/分で昇温させて、ガラス転移温度(℃)を測定した。
【0082】
表1-1及び1-2中の略号の意味を以下に示す。
・AN:アクリロニトリル
・MAN:メタクリロニトリル
・CAN:2-クロロアクリロニトリル
・St:スチレン
・EMA:エチルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・MAA:メタクリル酸
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
【0083】
【0084】
【0085】
(樹脂粒子17)
エチルアクリレート67部、メタクリロニトリル30部、メタクリル酸3部、アニオン性界面活性剤0.5部、及びイオン交換水63部を混合・撹拌して、単量体混合物のエマルションを調製した。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名「ラテムルE-118B」、花王製、平均重合度500)を用いた。
【0086】
別の撹拌機付き反応器(重合器)に、イオン交換水82.5部、アニオン性界面活性剤0.3部、及びノニオン性界面活性剤2.0部を入れた。アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名「ラテムルE-118B」、花王製)を用いた。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンセチルエーテル(商品名「エマルゲン120」、花王製)を用いた。80℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.5部を水10.6部に溶解して得た水溶液を添加した。単量体混合物のエマルションを2時間かけて連続的に添加して重合させた。エマルションの添加後、80℃で90分間反応を継続して、樹脂粒子の含有量が40%である樹脂粒子17の水分散液を得た。
【0087】
(樹脂粒子18)
反応容器に水169gを入れ、撹拌して77℃まで昇温させた。また、水13.7g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩0.7g、スチレン17.7g、及びブチルアクリレート37.5gを混合して水性エマルションを調製した。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、商品名「ハイテノールBC-10」(第一工業製薬製)を用いた。調製した水性エマルション2gを反応容器に投入した後、最低限の水に溶解させた過硫酸カリウム0.37gを投入した。15分後、水性エマルションンの残部を72分以上かけて反応容器に投入し、1段階目の重合を完了した。
【0088】
水34.9g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩1.6g、スチレン21.1g、メチルメタクリレート99.0g、ブチルアクリレート6.1g、及びメタクリル酸2.6gを混合してエマルションを得た。得られたエマルションを168分以上かけて反応容器に投入し、2段目の重合を行った。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、商品名「ハイテノールBC-10」(第一工業製薬製)を用いた。アスコルビン酸及びt-ブチルヒドロペルオキシドを用いて、常法にしたがってモノマーの残部を低減した後、25℃まで冷却した。水酸化カリウム水溶液を添加してpH8に調整した後、インクジェット適性を有する水性防黴剤を添加し、樹脂粒子の含有量が40%である樹脂粒子18の水分散液を得た。
【0089】
<水溶性樹脂の合成>
常法によりモノマーを重合して、表2に示す組成及び特性を有するランダム共重合体である、水溶性のアクリル樹脂を合成した。酸価と等モルの水酸化カリウムを含む水を添加してアニオン性基を中和した後、適量の水をさらに添加して、樹脂の含有量が10.0%である水溶性樹脂の水溶液を得た。水溶性樹脂をテトラヒドロフランに溶解して測定用試料を調製し、電位差自動滴定装置(商品名「AT510」、京都電子工業製)を使用し、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いて電位差滴定することにより、水溶性樹脂の酸価を測定した。GPCにより測定したポリスチレン換算の水溶性樹脂の重量平均分子量は、いずれも10,000であった。
【0090】
表2中の略号の意味を以下に示す。
・St:スチレン
・BzMA:ベンジルメタクリレート
・BA:n-ブチルアクリレート
・AA:アクリル酸
【0091】
【0092】
<インクの調製>
表3-1~3-4の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。表3-1~3-4中、「アセチレノールE100」は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。表3-1~3-4の下段にはインクの特性を示した。調製したインクのpHは、いずれも8.5~9.0の範囲内であった。
【0093】
インクの最低造膜温度は、最低造膜温度計(商品名「MFFT-90」、ローポイントインスツルメンツ製)を使用して測定した。実施例26、比較例9、及び比較例10のインクについては、色材を含有しないインクであるため、インクそのものを測定用サンプルとして用いた。また、実施例26、比較例9、及び比較例10以外のインクについては、顔料分散液を水に置き換えた組成の評価用インクを調製し、これを測定用サンプルとして用いた。ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上にアプリケーターを使用して測定用サンプルを塗布した後、温度勾配を設けた最低造膜温度計にセットした。2時間後に被膜を観察し、白部と透明部の境界に対応する温度を最低造膜温度として読み取った。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
<顔料インクの調製>
以下に示す各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過して、顔料インクを調製した。調製した顔料インクは、色材を含有しない実施例26、比較例9、及び比較例10のインクを評価するために用いた。
・顔料分散液:20.0%
・アセチレノールE100:0.5%
・純水:79.5%
【0099】
<評価>
調製した各インクをインクカートリッジに充填し、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro-10」、キヤノン製)にセットした。このインクジェット記録装置では、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.8ng±10%のインクを8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。記録環境は、温度25℃、相対湿度55%とした。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表4に示す。比較例5のインクは吐出することができなかったため、以下の評価を実施しなかった。
【0100】
(耐擦過性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]」、キヤノン製)に、以下の画像を記録して、耐擦過性の評価を行った。実施例26、比較例9、及び比較例10のインクについては、先に調製した顔料インクを用いて、記録デューティが100%であるベタ画像を記録し、1日乾燥させた。その後、顔料インクのベタ画像に重なるように、各インクを用いて記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。また、実施例26、比較例9、及び比較例10以外のインクについては、記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。そして、記録した画像を1日乾燥させた後、爪の表面で数回擦った。画像のキズの状態を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐擦過性を評価した。
A:キズがついていなかった。
B:キズはついていたが、記録媒体は露出していなかった。
C:キズがつき、記録媒体が露出していた。
【0101】
(写像性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録媒体(光沢紙、商品名「キヤノン写真用紙・光沢 プロ[プラチナグレード]」、キヤノン製)に、以下の画像を記録して、耐擦過性の評価を行った。実施例26、比較例9、及び比較例10のインクについては、先に調製した顔料インクを用いて、記録デューティが100%であるベタ画像を記録し、1日乾燥させた。その後、顔料インクのベタ画像に重なるように、各インクを用いて記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。また、実施例26、比較例9、及び比較例10以外のインクについては、記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。そして、記録した画像を1日乾燥させた後、10cm間隔で配置した2本の蛍光灯を観察光源として使用し、2m離れた位置から画像に対して蛍光灯を投影した。画像に投影された蛍光灯の形状を、照明角度45度、観察角度45度の条件下、目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像の写像性を評価した。
A:投影された2本の蛍光灯の境目がわかり、エッジ部分にぼやけが認められなかった。
B:投影された2本の蛍光灯の境目がわかったが、エッジ部分が若干ぼやけていた。
C:投影された2本の蛍光灯の境目がわからなかった。
【0102】

図1
図2